(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】バルブタイミング変更装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
F01L1/356 E
(21)【出願番号】P 2021047075
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 弘二
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-352302(JP,A)
【文献】特開2015-61975(JP,A)
【文献】特開2002-235512(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0045195(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトにより駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更する
バルブタイミング変更装置であって、
前記カムシャフトと一体的に回転するべく固定されるベーンロータと、
前記ベーンロータを収容すると共に前記カムシャフトの軸線回りに前記ベーンロータに対して所定角度範囲を相対的に回転可能なハウジングロータと、
前記ベーンロータを前記カムシャフトに固定するボルトを締め付ける際に、前記ベーンロータの端面と前記ボルトの頭部の間に介在させる座金と、を備え、
前記ハウジングロータは、
前記ボルトを通すべく前記軸線を中心とする円形状の開口部と、前記座金を前記ベーンロータの端面に隣接するように保持して脱落を規制する座金収容部を含
み、
前記ベーンロータは、前記軸線の方向において前記ハウジングロータの内壁面と接触する接触端面を含み、
前記座金収容部は、前記軸線の方向において前記ベーンロータの端面と対向するべく、前記開口部の周囲において円環状凹部として形成され、
前記座金が当接する前記ベーンロータの端面は、前記接触端面と同一の平面上に画定されている、
ことを特徴とするバルブタイミング変更装置。
【請求項2】
前記座金は、前記開口部よりも大きい外径をなす、
ことを特徴とする請求項
1に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項3】
前記ベーンロータは、前記ボルトを非接触にて通すべく、前記軸線を中心とする円形状の貫通孔を含み、
前記座金は、前記ボルトのネジ部を通す円孔を含み、
前記座金収容部は、前記軸線に垂直な方向において、前記座金の円孔が前記ベーンロータの貫通孔に臨む領域から逸脱しない範囲で前記座金を移動自在に収容する、
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項4】
前記座金収容部は、前記軸線の方向において、前記座金の板厚よりも小さい隙間の範囲で前記座金を移動自在に収容する、
ことを特徴とする請求項
3に記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項5】
前記ベーンロータは、アルミニウム材料により形成され、
前記座金は、鉄系材料により形成された平座金である、
ことを特徴とする請求項1ないし
4いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項6】
前記ハウジングロータは、前記開口部及び前記座金収容部を有する有底円筒状の前側ハウジングと、外周にスプロケットを有し前記前側ハウジングに結合される円板状の後側ハウジングを含む、
ことを特徴とする請求項1ないし
5いずれか一つに記載のバルブタイミング変更装置。
【請求項7】
前記前側ハウジングは、ダイカスト又は焼結体として形成されている、
ことを特徴とする請求項
6に記載のバルブタイミング変更装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期(バルブタイミング)を運転状況に応じて変更するバルブタイミング変更装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルブタイミング変更装置としては、カムシャフトの軸線上においてクランクシャフトと同期して回転するハウジング、カムシャフトと一体的に回転すると共にハウジングに対して所定の角度範囲を相対的に回転し得るベーンロータ、ベーンロータの凹状嵌合孔に嵌合される有底円筒状のブッシュ等を備え、ブッシュ及びベーンロータには、固定用のボルトを通すべく軸線を中心とする貫通孔が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
この装置においては、ボルトが、ハウジングの開口部とブッシュ及びベーンロータの貫通孔を通してカムシャフトに捩じ込まれることにより、ベーンロータがカムシャフトに固定される。
ここで、ベーンロータがボルトよりも軟質のアルミニウム材料等により形成される場合は、ブッシュを座金として機能させることができるものの、ベーンロータに凹状嵌合孔を設けているため、凹状嵌合孔を機械加工する分だけ高コスト化を招く。
【0004】
また、他のバルブタイミング変更装置としては、カムシャフトの軸線上においてクランクシャフトと同期して回転するハウジング、カムシャフトと一体的に回転すると共にハウジングに対して所定の角度範囲を相対的に回転し得るベーンロータ等を備え、ベーンロータには、固定用のボルトを通すべく軸線を中心とする貫通孔が形成されたものが知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【0005】
この装置においては、ボルトが、ハウジングの開口部を通して、ベーンロータの貫通孔に通され、ボルトの頭部がベーンロータの前端面に当接するようにカムシャフトに捩じ込まれることにより、ベーンロータがカムシャフトに固定される。ここで、ベーンロータがボルトよりも軟質の材料により形成される場合は、ベーンロータの座面(前端面の当接領域)のヘタリや変形等を抑制するべく座金を採用する必要がある。
しかしながら、この装置においては、座金を脱落しないように予め組み付けることができず、特に、ボルト及びカムシャフトを除いて、当該装置と座金を製品として提供する場合は、取り扱い上の利便性が悪く又管理コストの増加を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-232010号公報
【文献】特開2009-68448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、装置の低コスト化、取り扱い上の利便性の向上を図れる、バルブタイミング変更装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のバルブタイミング変更装置は、カムシャフトにより駆動される吸気バルブ又は排気バルブの開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更装置であって、カムシャフトと一体的に回転するべく固定されるベーンロータと、ベーンロータを収容すると共にカムシャフトの軸線回りにベーンロータに対して所定角度範囲を相対的に回転可能なハウジングロータと、ベーンロータをカムシャフトに固定するボルトを締め付ける際に、ベーンロータの端面とボルトの頭部の間に介在させる座金とを備え、ハウジングロータは、ボルトを通すべく軸線を中心とする円形状の開口部と、座金をベーンロータの端面に隣接するように保持して脱落を規制する座金収容部を含み、ベーンロータは、軸線の方向においてハウジングロータの内壁面と接触する接触端面を含み、座金収容部は、軸線の方向においてベーンロータの端面と対向するべく、開口部の周囲において円環状凹部として形成され、座金が当接するベーンロータの端面は、接触端面と同一の平面上に画定されている、構成となっている。
【0010】
上記バルブタイミング変更装置において、座金は、開口部よりも大きい外径をなす、構成を採用してもよい。
【0011】
上記バルブタイミング変更装置において、ベーンロータは、ボルトを非接触にて通すべく軸線を中心とする円形状の貫通孔を含み、座金は、ボルトのネジ部を通す円孔を含み、座金収容部は、軸線に垂直な方向において、座金の円孔がベーンロータの貫通孔に臨む領域から逸脱しない範囲で座金を移動自在に収容する、構成を採用してもよい。
【0012】
上記バルブタイミング変更装置において、座金収容部は、軸線の方向において、座金の板厚よりも小さい隙間の範囲で座金を移動自在に収容する、構成を採用してもよい。
【0013】
上記バルブタイミング変更装置において、ベーンロータは、アルミニウム材料により形成され、座金は、鉄系材料により形成された平座金である、構成を採用してもよい。
【0014】
上記バルブタイミング変更装置において、ハウジングロータは、開口部及び座金収容部を有する有底円筒状の前側ハウジングと、外周にスプロケットを有し前側ハウジングに結合される円板状の後側ハウジングを含む、構成を採用してもよい。
【0015】
上記バルブタイミング変更装置において、前側ハウジングは、ダイカスト又は焼結体として形成されている、構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成をなすバルブタイミング変更装置によれば、装置の低コスト化、取り扱い上の利便性の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を内燃エンジンのカムシャフトに装着した状態を示す外観斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るバルブタイミング変更装置をカムシャフトに装着する前の状態を示すものであり、前方斜めから視た分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るバルブタイミング変更装置をカムシャフトに装着する前の状態を示すものであり、後方斜めから視た分解斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を分解して前方斜めから視た分解斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を分解して後方斜めから視た分解斜視図である。
【
図6】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を内燃エンジンのカムシャフトに装着した状態を示す断面図である。
【
図7】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を内燃エンジンのカムシャフトに装着した状態を示す断面図である。
【
図8】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置を内燃エンジンのカムシャフトに装着した状態を示す断面図である。
【
図9】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置において、ハウジングロータ(前側ハウジング)、座金、ベーンロータの位置関係を示す部分断面図である。
【
図10】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置において、ハウジングロータ(前側ハウジング)と座金の位置関係を示すものであり、ハウジングの内側から視た背面図である。
【
図11】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置をカムシャフトに装着する作業を示すものである。
【
図12】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置をカムシャフトに装着する作業を示すものである。
【
図13】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置をカムシャフトに装着する作業を示すものである。
【
図14】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置において、ベーンロータが最遅角位置にある状態及び進角通路を示す断面図である。
【
図15】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置において、ベーンロータが最進角位置にある状態及び進角室に連通する進角通路を示す断面図である。
【
図16】一実施形態に係るバルブタイミング変更装置において、ベーンロータが最遅角位置にある状態及び遅角室に連通する遅角通路を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
一実施形態に係るバルブタイミング変更装置Mは、
図1に示すように、内燃エンジンEのカムシャフト1に装着されるものであり、
図4及び
図5に示すように、ベーンロータ10、ハウジングロータ20、座金30、ベーンロータ10をハウジングロータ20に対してロックするロック機構40を備えている。
【0019】
カムシャフト1は、内燃エンジンEのシリンダヘッドに形成された軸受により軸線S回りにおいて回転可能に支持され、矢印R方向に回転して吸気バルブ又は排気バルブをカム作用により開閉駆動する。また、カムシャフト1は、
図2及び
図3に示すように、ハウジングロータ20を回動自在に支持する円形状の軸部1a、作動油の供給及び排出を行う進角通路1b、作動油の供給及び排出を行う遅角通路1c、ボルトBを捩じ込む雌ネジ穴1d、位置決めピンPを嵌合する嵌合穴1eを備えている。
ボルトBは、硬質の鉄系金属材料により形成され、鍔付きの頭部B
1、ネジ部B
2、首下部B
3を備えている。
【0020】
そして、バルブタイミング変更装置Mは、ベーンロータ10がボルトBを用いてカムシャフト1に固定された状態で、ハウジングロータ20がチェーン等を介してクランクシャフトの回転に連動し、ベーンロータ10を介してクランクシャフトの回転駆動力をカムシャフト1に伝達する。また、作動油の流れを制御する油圧制御系2に接続されることにより、内燃エンジンEにおいてバルブタイミングを変更する機能を果たす。
油圧制御系2は、
図2及び
図3に示すように、ポンプから吐出される作動油の流れを制御する油圧制御弁2a、油圧制御弁2aと進角通路1bとを接続する進角側通路2b、油圧制御弁2aと遅角通路1cとを接続する遅角側通路2c、油圧制御弁2aの駆動を制御する制御手段(不図示)により構成されている。
ここでは、バルブタイミング変更装置Mにおいて、ボルトBを挿入する側を「前側」と称し、カムシャフト1を連結する側を「後側」と称する。
【0021】
ベーンロータ10は、鉄系材料よりも軟質のアルミニウム材料を用いて形成され、
図4及び
図5に示すように、端面としての前面10a及び後面10b、四つのベーン部11、円柱状のハブ部12、貫通孔13、ロック機構40を取り付ける取付け穴14、遅角通路15、進角通路16、カムシャフト1を嵌合する嵌合凹部17、ベーン部11の先端に形成された四つのシール挿入溝18、カムシャフト1の位置決めピンPを嵌合する位置決め穴19を備えている。
【0022】
前面10aは、軸線Sに垂直な平面であり、四つのベーン部11及びハブ部12の前側の端面を画定する。そして、ベーン部11の領域及びハブ部12の外側領域における前面10aが軸線Sの方向においてハウジングロータ20の内壁面21dと摺動自在に接触する接触端面として機能する。また、ハブ部12の内側領域における前面10aが座金30を当接させる座面として機能する。
すなわち、座金30が当接するベーンロータ10の端面は、ハウジングロータ20の内壁面21dと接触する接触端面と同一の平面上に画定されている。
後面10bは、軸線Sに垂直な平面であり、四つのベーン部11及びハブ部12の後側の端面を画定する。そして、後面10bは、軸線Sの方向においてハウジングロータ20の内壁面22dと摺動自在に接触する接触端面として機能する。
【0023】
四つのベーン部11は、ハブ部12に対して略等間隔で配置されている。一つのベーン部11には、ロック機構40を取り付ける取付け穴14が形成されている。
ハブ部12は、ボルトBにより押圧されてカムシャフト1に固定される領域であり、座金30を介してボルトBが締め付けられることにより、面圧が低減され、又、ボルトBの頭部B1の回転による擦り傷等の発生が抑制ないし防止される。
貫通孔13は、ボルトBのネジ部B2及び首下部B3を非接触にて通して首下部B3の周りに作動油の通路を画定するべく、軸線Sを中心とし前面10aから後面10bまで貫通する内径Hrの円形状に形成されている。
【0024】
取付け穴14は、後面10bに開口し、ロック機構40の円筒ホルダ41を嵌め込むように形成されている。また、取付け穴14には、圧力を調整する通路14a,14bが連通するように形成されている。通路14aは、開口部21aを通して外部に連通するべく前面10aに形成された長溝14a1に連通する。通路14bは、一つのベーン部11の側面に開口して遅角室RCに連通し、ロックピン42を埋没させる向きに作用する遅角室RC内の作動油を供給する。
【0025】
遅角通路15は、
図5、
図8、
図16に示すように、嵌合凹部17の底面に形成されカムシャフト1の遅角通路1cに連通する溝状の二つの通路15a、ハブ部12の外周面に開口する四つの通路15bにより形成されている。そして、遅角通路15は、貫通孔13内でボルトBの首下部B
3の周りに画定される通路を介して、遅角室RCに作動油を供給し又遅角室RCから作動油を排出する。
進角通路16は、
図5、
図7、
図15に示すように、カムシャフト1の進角通路1bに連通するべく嵌合凹部17の底面に開口して軸線Sの方向に伸長する二つの通路16a、ハブ部12の外周面に開口する四つの通路16bにより形成されている。そして、進角通路16は、進角室ACに作動油を供給し又進角室ACから作動油を排出する。
嵌合凹部17は、ベーンロータ10の後面10b側において、カムシャフト1の軸部1aの前端部を嵌合させるべく、円筒状の凹部として形成されている。
シール挿入溝18は、矩形断面をなすように形成され、ハウジングロータ20の内周面21fと摺動自在に接触するシール部材18aが嵌め込まれる。
【0026】
そして、ベーンロータ10は、ハウジングロータ20の収容室に、所定角度範囲において、すなわち、
図14に示す最遅角位置と
図15に示す最進角位置との間の角度範囲において相対的に回転可能に収容され、収容室を進角室AC及び遅角室RCに領域分けすると共に、座金30を介してボルトBによりカムシャフト1に固定され、カムシャフト1と一体的に回転する。
【0027】
ハウジングロータ20は、有底円筒状の前側ハウジング21と、前側ハウジング21にネジbにより結合される円板状の後側ハウジング22とからなる二分割構造をなす。
そして、ハウジングロータ20は、ベーンロータ10を所定角度範囲において相対的に回転可能に収容する。
【0028】
前側ハウジング21は、アルミニウム材料を用いたダイカストにより又は焼結体として、円筒壁及び前壁を有する有底円筒状に形成されている。
前側ハウジング21は、
図4ないし
図6、
図9及び
図10に示すように、開口部21a、ネジbを通す四つの円孔21b、四つのシュー部21c、内壁面21d、座金収容部21e、ベーンロータ10に取り付けられたシール部材18aが摺動自在に接触する内周面21fを備えている。
【0029】
開口部21aは、
図6ないし
図8に示すようにボルトBを通すべく、
図9に示すように、軸線Sを中心として頭部B
1の外径よりも大きい寸法の内径Hhをなす円形状に形成されている。
四つの円孔21bは、四つのシュー部21cの領域において、軸線Sの方向に貫通するように形成されている。
四つのシュー部21cは、円筒壁から中心(軸線S)に向かって突出すると共に周方向において等間隔に配置して形成されている。
内壁面21dは、
図9に示すように、軸線Sに垂直な平面をなし、軸線Sの方向においてベーンロータ10の端面である前面10aが摺動自在に接触する。
【0030】
座金収容部21eは、
図9及び
図10に示すように、軸線Sの方向においてベーンロータ10の端面(前面10a)と対向するべく、開口部21aの周囲において円環状凹部として形成されている。
そして、座金収容部21eは、バルブタイミング変更装置MがボルトBによりカムシャフト1に固定される前の状態において、座金30をベーンロータ10の端面(前面10a)に隣接するように保持して脱落を規制する。
【0031】
ここで、座金収容部21eは、
図9に示すように、軸線Sの方向において、座金30の板厚Tよりも小さい寸法の隙間Cの範囲で、座金30を移動自在に収容するように形成されている。これによれば、バルブタイミング変更装置Mを搬送する際に、座金30のガタツキを抑制することができ、又、当該装置Mがカムシャフト1に装着された状態において、座金30がハウジングロータ20と接触しないように隙間を確保することができる。
【0032】
また、座金収容部21eは、
図10に示すように、軸線Sに垂直な方向において、座金30の円孔31がベーンロータ10の貫通孔13に臨む領域から逸脱しない範囲で座金30を移動自在に収容するように形成されている。
具体的には、座金30が軸線Sを中心とする位置から最大に偏倚した状態であっても、座金30の円孔31の大部分が貫通孔13と対向するように移動範囲が規制される。
ここで、「貫通孔13に臨む」とは、円孔31の全体が貫通孔13と対向する状態は勿論のこと、円孔31の一部が貫通孔13と部分的に対向する状態も含む概念である。
【0033】
これによれば、座金30が貫通孔13に対して偏倚した状態で、ボルトBが挿入される際に、ネジ部B2の先端を円孔31に挿入して座金30を芯合わせしつつ、すなわち、円孔31の中心を貫通孔13の中心である軸線Sに合わせつつ、ボルトBを貫通孔13に挿入することができる。それ故に、バルブタイミング変更装置Mをカムシャフト1に装着する作業を容易に行うことができる。
ここでは、座金30が軸線Sを中心とする位置から最大に偏倚した状態であっても、座金30の大部分が貫通孔13と対向する形態を示したが、円孔31の全領域が貫通孔13と対向する領域から逸脱しない範囲に規制されてもよい。この場合は、ボルトBの挿入作業をより円滑に行うことができる。
また、前側ハウジング21は、ダイカスト又は焼結体として形成されているため、座金収容部21eを一体成形することができる。したがって、座金収容部を機械加工により形成する場合に比べて低コスト化を達成することができる。
【0034】
後側ハウジング22は、鉄系の金属材料を用いた焼結体として円板状に形成され、
図4ないし
図8に示すように、スプロケット22a、嵌合内周面22b、ネジbを捩じ込む四つのネジ孔22c、内壁面22d、溝状の通路22e、嵌合穴22fを備えている。
【0035】
スプロケット22aは、クランクシャフトの回転駆動力を伝達するチェーンが巻回されるようになっている。
嵌合内周面22bは、カムシャフト1の軸部1aに回動自在に嵌合される。
内壁面22dは、軸線Sに垂直な平面をなし、軸線Sの方向においてベーンロータ10の端面である後面10bが摺動自在に接触する。
通路22eは、嵌合穴22fに対する作動油の供給及び排出を行うべく、内壁面22dにおいて溝状にかつ進角通路16(通路16a)に連通するように形成されている。
嵌合穴22fは、内壁面22dにおいて、ロック機構40に含まれるロックピン42が嵌合し得るように形成されている。
【0036】
座金30は、ベーンロータ10の端面(前面10a)とボルトBの頭部B1の間に介在させるものであり、硬質の鉄系材料を用いて、外径Dwをなす円形状の平座金として形成され、内径Hwをなす円孔31を備えている。
そして、座金30は、ボルトBが締め付けられる前の状態で、ハウジングロータ20内の座金収容部21eに収容される。
【0037】
ここで、座金30の外径Dwは、
図9に示すように、ハウジングロータ20の開口部21aの内径Hhよりも大きい寸法に形成され、円孔31の内径Hwは、ベーンロータ10の貫通孔13の内径Hrよりも小さい寸法に形成されている。
これによれば、座金30がハウジングロータ20の座金収容部21eに収容された状態において、座金30が開口部21aを通り抜けて脱落するのを防止することができ、又、座金30が貫通孔13から最大に偏倚した状態であっても、円孔31を貫通孔13に臨む領域に留めるようにすることができる。
【0038】
ロック機構40は、
図6に示すように、円筒ホルダ41、ロックピン42、コイルバネ43を備えている。
円筒ホルダ41は、コイルバネ43により付勢されたロックピン42を往復動自在に保持するべく、ベーンロータ10の取付け穴14に嵌め込まれる。
ロックピン42は、軸線Sの方向に往復動自在であり、コイルバネ43の付勢力によりベーンロータ10の後面10bから突出して後側ハウジング22の嵌合穴22fに嵌合し、又、嵌合穴22fに導かれた作動油の油圧を受けて又は通路14bを通して導かれた作動油の油圧を受けてベーンロータ10内に埋没するように形成されている。
コイルバネ43は、ベーンロータ10の後面10bからロックピン42を突出させる向きに付勢力を及ぼす。
【0039】
上記構成をなすロック機構40においては、進角通路16及び通路22eを経て供給される作動油の油圧が低下しかつ通路14bを経て供給される作動油の油圧が低下すると、ロックピン42がコイルバネ43の付勢力によりハウジングロータ20の嵌合穴22fに嵌合し、ベーンロータ10がハウジングロータ20に対して最遅角位置にロックされる。
一方、進角通路16及び通路22eを経て導かれる作動油の油圧がコイルバネ43の付勢力よりも大きくなると、ロックピン42がベーンロータ10の後面10bから没入して、ベーンロータ10のロックが解除される。また、通路14bを経て供給される作動油の油圧がコイルバネ43の付勢力よりも大きくなると、ロックの解除状態が維持される。
【0040】
次に、上記バルブタイミング変更装置Mの組付け方法について説明する。
予め、ロック機構40が組み込まれたベーンロータ10、四つのシール部材18a、前側ハウジング21及び後側ハウジング22、座金30、四つのネジbを準備する。
先ず、前側ハウジング21の収容室が上向きになるように前側ハウジング21をセットする。そして、座金30を前側ハウジング21の座金収容部21eに配置する。この際に、座金収容部21eは円環状凹部として形成されているため、座金30を落し込むだけで容易に配置することができる。
続いて、前面10aが座金30と対向するように、ベーンロータ10を前側ハウジング21の収容室に挿入する。そして、ベーンロータ10の四つのシール挿入溝18に、それぞれシール部材18aを嵌め込む。
続いて、ベーンロータ10の後面10bを覆うように、前側ハウジング21に後側ハウジング22を対向させて接合し、四つのネジbを円孔21bに通してネジ孔22cに捩じ込み、後側ハウジング22を前側ハウジング21に結合する。
以上により、バルブタイミング変更装置Mの組付けが完了する。尚、組付け手順としては、上記の手順に限るものではなく、その他の手順で行ってもよい。
【0041】
このように、有底円筒状の前側ハウジング21に対して、座金30、ベーンロータ10、シール部材18aを順次に落し込んで、後側ハウジング22で覆い、ネジbで前側ハウジング21と後側ハウジング22とを結合するという簡単な段取りにより、バルブタイミング変更装置Mを容易に組付けることができる。
また、座金30を前側ハウジング21の座金収容部21eに配置することにより、座金30をベーンロータ10の端面(前面10a)に隣接するように保持してハウジングロータ20からの脱落を規制することができる。
したがって、バルブタイミング変更装置Mを内燃エンジンEの組立ラインに供給する際に、如何なる状態で搬送されても、座金30のガタツキを抑制し、又、座金30の脱落を防止することができる。それ故に、バルブタイミング変更装置Mを取り扱う際の利便性が向上する。
【0042】
次に、バルブタイミング変更装置Mを、内燃エンジンEの組立ラインにおいて、カムシャフト1に装着する作業について、
図11ないし
図13を参照しつつ説明する。
例えば、内燃エンジンEの組立ラインにおいて、カムシャフト1の軸線Sが水平となるようにセットされる場合、
図11に示すように、バルブタイミング変更装置Mは、水平方向からカムシャフト1に近づけられて、ハウジングロータ20の嵌合内周面22bにカムシャフト1の軸部1aが嵌め込まれ、又、位置決めピンPが位置決め穴19に嵌合されつつ、ベーンロータ10の嵌合凹部17にカムシャフト1の軸部1aの先端部分が嵌合される。
この状態において、座金30には重力が作用するため、座金収容部21eの範囲内で軸線Sより下側に偏倚した状態に保持される。
この状態において、座金30は、軸線Sに垂直な方向において、円孔31がベーンロータ10の貫通孔13に臨む領域から逸脱しないように保持されている。
【0043】
続いて、ボルトBをバルブタイミング変更装置Mの前方から開口部21aに向けて近づけ、
図12及び
図13に示すように、ボルトBのネジ部B
2の先端を円孔31に挿入して座金30を持ち上げ、そして、円孔31の中心を貫通孔13の中心に合わせつつ、ボルトBを貫通孔13に挿入する。
その後、ボルトBをカムシャフト1の雌ネジ穴1dに完全に捩じ込んで座金30及びベーンロータ10を締め付け、ベーンロータ10をカムシャフト1に固定する。
この装着作業においては、座金30を別途に準備する必要がなく、ボルトBを捩じ込むだけでよいため、装着作業を円滑にかつ容易に行うことができ、組立ラインにおける生産性が向上する。
特に、座金30が軸線Sを中心とする位置から最大に偏倚した状態であっても、円孔31が貫通孔13に臨む領域から逸脱しないように保持されているため、ボルトBの挿入作業を円滑に行うことができる。
【0044】
ここでは、カムシャフト1の軸線Sが水平となるようにセットされた状態でバルブタイミング変更装置Mが内燃エンジンEに装着される場合を示したが、カムシャフト1の軸線Sが斜めに傾斜した状態又は鉛直方向にセットされる場合であっても、座金30は、円孔31が貫通孔13に臨む領域から逸脱しないように保持されるため、同様にボルトBの挿入作業及び装着作業を容易に行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0045】
次に、バルブタイミング変更装置Mの動作について、
図14ないし
図16を参照しつつ説明する。
内燃エンジンEが停止した状態においては、進角室AC及び遅角室RC内の作動油が排出されて、
図14に示すように、ベーンロータ10は最遅角位置に位置付けられる。
また、ロック機構40のロックピン42が嵌合穴22fに嵌合して、ベーンロータ10がハウジングロータ20に対してロックされた状態にある。
これにより、内燃エンジンEの始動時には、ベーンロータ10のバタツキ等を防止しつつ、円滑に始動させることができる。
【0046】
続いて、内燃エンジンEの始動により、進角通路16及び通路22eを通して、作動油がロックピン42の先端に供給されると、ロックピン42が押圧されて嵌合穴22fから外れてロック状態が解除される。
そして、内燃エンジンEの始動後は、油圧制御弁2aが適宜切り替えられて、ベーンロータ10及びカムシャフト1が進角側へ又は遅角側へあるいは所定の角度位置に保持されるように位相制御が行われる。
【0047】
例えば、進角モードの場合は、遅角通路15及び遅角側通路2cを経て、遅角室RC内の作動油が排出されると共に、進角側通路2b及び進角通路16を経て、進角室AC内に作動油が供給される。
これにより、ベーンロータ10は、進角室AC内の作動油の油圧により、
図15に示すように、ハウジングロータ20に対して時計回りに、すなわち、進角側に回転する。
【0048】
一方、遅角モードの場合には、進角通路16及び進角側通路2bを経て、進角室AC内の作動油が排出されると共に、遅角側通路2c及び遅角通路15を経て、遅角室RC内に作動油が供給される。
これにより、ベーンロータ10は、遅角室RC内の作動油の油圧により、
図16に示すように、ハウジングロータ20に対して反時計回りに、すなわち、遅角側に回転する。
尚、ベーンロータ10が最遅角位置に移動した場合、ロックピン42は嵌合穴22fに対向するが、遅角室RC内の作動油が通路14bを通してロックピン42を埋没させる方向に作用しているため、ロックピン42は嵌合穴22fに嵌合することなくロックの解除状態が維持される。
【0049】
また、ベーンロータ10を最進角位置と最遅角位置との間の中間位置に保持する保持モードの場合には、油圧制御弁2aが切り替えられて、進角室AC及び遅角室RCに作動油が供給され、進角室AC及び遅角室RC内の作動油の油圧により、ベーンロータ10は所定の中間位置に保持される。
【0050】
上記実施形態に係るバルブタイミング変更装置Mによれば、ハウジングロータ20が、座金30をベーンロータ10の端面(前面10a)に隣接するように保持して脱落を規制する座金収容部21eを含むため、ボルトB及びカムシャフト1を除いて当該装置Mを提供する場合、取り扱い上の利便性が向上し、内燃エンジンEの組立ラインにおける生産性が向上する。
【0051】
座金30が当接するベーンロータ10の端面は、軸線Sの方向においてハウジングロータ20の内壁面21dと接触する接触端面(前面10a)と同一の平面上に画定されているため、ベーンロータ10に対して座面としての特別な加工を施す必要がなく、ベーンロータ10の低コスト化を達成することができる。
【0052】
座金収容部21eは、軸線Sの方向においてベーンロータ10の端面(前面10a)と対向するべく開口部21aの周囲において円環状凹部として形成され、座金30が開口部21aの内径寸法よりも大きい外径Dwをなすため、座金30がハウジングロータ20から脱落するのを確実に防止することができる。
また、座金収容部21eは、軸線Sに垂直な方向において、座金30の円孔31がベーンロータ10の貫通孔13に臨む領域から逸脱しない範囲で座金30を移動自在に収容するため、カムシャフト1に当該装置Mを装着する際に、ボルトBを容易に挿入して締め付けることができ、又、装着後において座金30がハウジングロータ20と接触しないように隙間を確保して固定することができる。
さらに、座金収容部21eは、軸線Sの方向において、座金30の板厚Tよりも小さい寸法の隙間Cの範囲で座金30を移動自在に収容するため、当該装置Mを搬送する際のガタツキを抑制することができ、又、装着後において座金30がハウジングロータ20と接触しないように隙間を確保して固定することができる。
【0053】
ベーンロータ10がアルミニウム材料により形成され、座金30が鉄系材料により形成された平座金であることにより、軽量化を達成しつつ、ボルトBの捩じ込み及び締付けによるベーンロータ10の擦り傷やヘタリ等を防止することができる。
また、ハウジングロータ20が、開口部21a及び座金収容部21eを有する有底円筒状の前側ハウジング21と、外周にスプロケット22aを有し前側ハウジング21に結合される円板状の後側ハウジング22を含む構成とすることにより、座金30をハウジングロータ20内に容易に配置することができ、又、当該装置Mの組付けを容易に行うことができる。
さらに、前側ハウジング21がダイカスト又は焼結体として形成されることにより、座金収容部21eを一体成形することができ、機械加工により形成する場合に比べて、低コスト化を達成することができる。
【0054】
上記実施形態においては、座金として平座金をなす座金30を示したが、これに限定されるものではなく、ばね座金、波形座金、皿形座金、その他の形態をなす座金を採用してもよい。
上記実施形態においては、座金収容部として円環状凹部をなす座金収容部21eを示したが、これに限定されるものではなく、座金30をベーンロータ10の端面(前面10a)に隣接するように保持して脱落を規制するものであれば、その他の形態をなす座金収容部を採用してもよい。
上記実施形態においては、ハウジングロータ20の開口部として円形状の開口部21aを示したが、これに限定されるものではなく、ボルトBの挿入が可能でかつ座金の脱落を防止できるものであれば、その他の形態をなす開口部を採用してもよい。
【0055】
上記実施形態においては、ハウジングロータとして、前側ハウジング21及び後側ハウジング22からなる二分割構造をなすハウジングロータ20を示したが、これに限定されるものではない。例えば、平板状の前側ハウジング、円筒状の外周ハウジング、平板状の後側ハウジングからなる三分割構造、あるいはその他の形態をなすハウジングロータを備えた構成において、本発明を採用してもよい。
【0056】
上記実施形態においては、クランクシャフトの回転力を伝達するスプロケット22aを備えたハウジングロータ20を示したが、これに限定されるものではない。例えば、クランクシャフトの回転駆動力を伝達する手段がその他の構造をなすもの、例えば、歯付きタイミングベルト等であれば、その構造に合った歯付きプーリ等を備えたハウジングロータを採用してもよい。
【0057】
上記実施形態においては、ロック機構として、円筒ホルダ41、ロックピン42、コイルバネ43を含むと共に最遅角位置にロックするロック機構40を示したが、これに限定されるものではない。例えば、ベーンロータ10をハウジングロータ20に対してロックし得る構成であれば、その他のロック機構を採用してもよく、又、ロック位置としては、最遅角位置に限らず、最進角位置あるいは必要に応じてその他の位置であってもよい。
【0058】
以上述べたように、本発明のバルブタイミング変更装置は、装置の低コスト化、取り扱い上の利便性の向上を達成することができるため、自動車等に搭載された内燃エンジンに適用できるのは勿論のこと、二輪車等に搭載された小型の内燃エンジン、その他の車両又は船舶等に搭載の内燃エンジンにおいても有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 カムシャフト
S 軸線
B ボルト
B1 頭部
M バルブタイミング変更装置
10 ベーンロータ
10a 前面(端面、接触端面)
13 貫通孔
20 ハウジングロータ
21 前側ハウジング(ハウジングロータ)
21a 開口部
21d 内壁面
21e 座金収容部
22 後側ハウジング(ハウジングロータ)
22a スプロケット
30 座金
31 円孔
40 ロック機構