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特許7555871R-T-B系永久磁石、および、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240917BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240917BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240917BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240917BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20240917BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240917BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240917BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C28/00 A
C22C33/02 K
C22C38/00 303D
H01F1/057 170
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021055189
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152420
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】粉川 育也
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-176140(JP,A)
【文献】特開2012-039100(JP,A)
【文献】特開2020-136343(JP,A)
【文献】特開2021-174818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 28/00
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系合金を含む磁石基材を準備する工程と、
少なくとも1種の軽希土類元素を含む第1拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の表面に付着させ、前記第1拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第1拡散工程と、
前記第1拡散工程の後に、少なくとも1種の重希土類元素を含む第2拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の前記表面に付着させ、前記第2拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第2拡散工程と、を有するR-T-B系永久磁石の製造方法であって、
前記磁石基材に含まれる前記R-T-B系合金は、RとしてNdを必須とする1種以上の希土類元素と、TとしてFeを必須とする1種以上の鉄族元素と、ホウ素と、Cuと、を含み、
前記R-T-B系合金において、
Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であり、
Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であり、
Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下であり、
前記第1拡散材は、前記軽希土類元素として、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素を含み、
前記第2拡散材が前記重希土類元素とMとを含むRH-M合金であり、
前記Mが、前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下となる元素であり、
前記第2拡散材に含まれ、かつ、前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下となる元素がMg,Co,Ni,Cu,Clから選択される1種以上であり、
前記RH-M合金に含まれる前記軽希土類元素の含有率が0質量%以上22.5質量%以下であるR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第2拡散材は、前記重希土類元素として、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第1拡散材は、前記軽希土類元素と前記Mとを含有するRL-M合金を含み、
前記RL-M合金において、
RLが、前記軽希土類元素である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
R-T-B系合金を含む磁石基材を準備する工程と、
少なくとも1種の軽希土類元素を含む第1拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の表面に付着させ、前記第1拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第1拡散工程と、
前記第1拡散工程の後に、少なくとも1種の重希土類元素を含む第2拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の前記表面に付着させ、前記第2拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第2拡散工程と、を有するR-T-B系永久磁石の製造方法であって、
前記磁石基材に含まれる前記R-T-B系合金は、RとしてNdを必須とする1種以上の希土類元素と、TとしてFeを必須とする1種以上の鉄族元素と、ホウ素と、Cuと、を含み、
前記R-T-B系合金において、
Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であり、
Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であり、
Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下であり、
前記第1拡散材は、前記軽希土類元素とMとを含有するRL-M合金を含み、
前記RL-M合金において、
RLが、前記軽希土類元素であり、
前記Mが、前記RLとの共晶温度が800℃以下の元素であり、
前記第1拡散材は、前記軽希土類元素として、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素を含み、
前記第2拡散材がTbH2、Tbの純金属、または、Dyの純金属であるR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記第1拡散材には、重希土類元素が実質的に含有されていない請求項1~のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項6】
RがNdを必須とする1種以上の軽希土類元素および1種以上の重希土類元素であり、TがFeを必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bがホウ素であるR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石には、複数のコアシェル粒子が含まれ、
複数の前記コアシェル粒子は、それぞれ、R214B結晶を含むコア部と、前記コア部を被覆しており前記コア部よりも前記重希土類元素の含有比が高いシェル部と、を有し、
前記R-T-B系永久磁石の表面から深さ100μmの位置における断面では、前記シェル部の最大厚みが、平均で、0.5μm以下であり、
前記R-T-B系永久磁石の前記表面から深さ方向に向かって、前記軽希土類元素の含有率、および、前記重希土類元素の含有率が、いずれも低下する濃度分布を有し、
残留磁束密度が1450mT以上で、かつ、保磁力が1800kA/m以上であるR-T-B系永久磁石。
【請求項7】
前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下であるMが含まれ、
前記R-T-B系永久磁石の前記表面から深さ方向に向かって、前記Mの含有率が低下する濃度分布を有する請求項に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項8】
前記R-T-B系永久磁石には、さらに、Cuが含まれ、
Rの合計含有率が、28.4質量%以上、32.0質量%以下、
Cuの含有率が、0.2質量%以上、0.7質量%以下、
Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下である請求項6または7に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項9】
前記重希土類元素が、Tbまたは/およびDyである請求項6~8のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項10】
前記軽希土類元素として、さらにPrが含まれる請求項6~9のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項11】
請求項6~10のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石を有するモータ。
【請求項12】
請求項11に記載のモータを有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒界拡散工程を経てR-T-B系永久磁石を製造する方法、および、当該方法で製造されたR-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系の組成を有する希土類磁石は、他の永久磁石よりも優れた磁気特性を有しており、近年、その磁気特性のさらなる向上を目指して様々な検討がなされている。たとえば、特許文献1では、R-T-B系永久磁石を作製した後に、表面に重希土類元素を付着させて加熱することにより、粒界を通じて重希土類元素を拡散させる方法(粒界拡散法)を開示している。当該方法を用いることにより、磁気特性、特に保磁力を向上させることができる。
【0003】
ただし、現在では、多くの磁性部品(モータなど)でより一層の小型化、軽量化、高性能化、高効率化が求められており、これらの要求に応えるためには、R-T-B系永久磁石の残留磁束密度と保磁力とを両立してさらに向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/121790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石、および、当該R-T-B系永久磁石を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系永久磁石の製造方法は、
R-T-B系合金を含む磁石基材を準備する工程と、
少なくとも1種の軽希土類元素を含む第1拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の表面に付着させ、前記第1拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第1拡散工程と、
前記第1拡散工程の後に、少なくとも1種の重希土類元素を含む第2拡散材を、前記磁石基材の少なくとも一部の前記表面に付着させ、前記第2拡散材が付着した前記磁石基材を加熱する第2拡散工程と、を有する。
【0007】
上記のとおり、軽希土類元素を拡散させた後に重希土類元素を拡散させる二段階の粒界拡散を実施することにより、高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石が得られる。
【0008】
好ましくは、前記第1拡散材は、前記軽希土類元素として、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素を含む。
【0009】
また、好ましくは、前記第1拡散材は、前記軽希土類元素とMとを含有するRL-M合金を含み、前記RL-M合金において、RLが、前記軽希土類元素であり、Mが、RLとの共晶温度が800℃以下の元素である。
【0010】
また、好ましくは、前記第1拡散材における重希土類元素の含有率が10質量%以下であり、より好ましくは、重希土類元素が前記第1拡散材に実質的に含有されていない。
【0011】
一方、前記第2拡散材については、好ましくは、前記重希土類元素として、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素を含む。
【0012】
好ましくは、前記磁石基材に含まれる前記R-T-B系合金は、RとしてNdを必須とする1種以上の希土類元素と、TとしてFeを必須とする1種以上の鉄族元素と、ホウ素と、Cuと、を含む。そして、好ましくは、前記R-T-B系合金において、Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であり、Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であり、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下である。
磁石基材が上記の組成を満たすことで、残留磁束密度および保磁力の向上効果がより顕著となる。
【0013】
本発明に係るR-T-B系永久磁石は、たとえば、上述した製造方法で得ることが可能であり、
RがNdを必須とする1種以上の軽希土類元素および1種以上の重希土類元素であり、TがFeを必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bがホウ素であるR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石には、複数のコアシェル粒子が含まれ、
複数の前記コアシェル粒子は、それぞれ、R14B結晶を含むコア部と、前記コア部を被覆しており前記コア部よりも前記重希土類元素の含有比が高いシェル部と、を有し、
前記R-T-B系永久磁石の表面から深さ100μmの位置における断面では、前記シェル部の最大厚みが、平均で、0.5μm以下であり、
前記R-T-B系永久磁石の前記表面から深さ方向に向かって、前記軽希土類元素の含有率、および、前記重希土類元素の含有率が、いずれも、低下する濃度分布を有するR-T-B系永久磁石。
【0014】
R-T-B系永久磁石が上記の特徴を有することで、残留磁束密度および保磁力を両立して向上させることができる。
【0015】
好ましくは、本発明のR-T-B系永久磁石には、前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下であるM元素が含まれ、
前記R-T-B系永久磁石の前記表面から深さ方向に向かって、前記M元素の含有率が低下する濃度分布を有する。
【0016】
また、好ましくは、前記R-T-B系永久磁石には、さらに、Cuが含まれ、Rの合計含有率が、28.4質量%以上、32.0質量%以下、Cuの含有率が、0.2質量%以上、0.7質量%以下、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下である。
R-T-B系永久磁石が上記の組成を満たすことで、磁気特性(特に保磁力)がより向上する。
【0017】
好ましくは、前記R-T-B系永久磁石に含まれる前記重希土類元素が、Tbまたは/およびDyである。また、好ましくは、前記R-T-B系永久磁石には、前記軽希土類元素として、さらにPrが含まれる。
【0018】
また、前記R-T-B系永久磁石は、残留磁束密度が1450mT以上で、かつ、保磁力が1800kA/m以上であることが好ましい。
【0019】
本発明のR-T-B系永久磁石は、モータ、発電機、コンプレッサ、アクチュエータ、磁気センサ、スピーカなどの構成部材として利用することができ、特にモータの構成部材として好適である。また、本発明のR-T-B系永久磁石を含むモータは、様々な電子機器や産業機器等に搭載することができ、特に自動車用モータ(EV,HV,PHVなど)としての利用が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、磁石基材の一例を示す斜視図である。
図2図2は、第1および第2拡散工程の流れを概略的に示す模式図である。
図3A図3Aは、磁石基材の断面を拡大して示す断面模式図である。
図3B図3Bは、第2拡散工程後のR-T-B系永久磁石の断面を拡大して示す断面模式図である。
図4A図4Aは、R-T-B系永久磁石の一例を示す斜視図である。
図4B図4Bは、図4Aに示すVB-VB線に沿う断面図である。
図5図5は、コアシェル粒子の断面を示す概略図である。
図6図6は、実施例(試料1)に係るR-T-B系永久磁石のSEM断面写真である。
図7図7は、比較例1に係るR-T-B系永久磁石のSEM断面写真である。
図8図8は、本発明のR-T-B系永久磁石を利用したIPMモータの概略図である。
図9図9は、図8に示すIPMモータを利用した自動車を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
本実施形態では、まず、R-T-B系永久磁石の製造方法について説明し、その後、当該製造方法で得られたR-T-B系永久磁石の特徴について説明する。本実施形態のR-T-B系永久磁石の製造方法は、磁石基材を準備する工程と、磁石基材に軽希土類元素を拡散させる第1拡散工程と、第1拡散工程後の磁石基材にさらに重希土類元素を拡散させる第2拡散工程と、を有する。以下、各工程について、順を追って説明する。
【0023】
(磁石基材の準備工程)
本工程では、図1に示す磁石基材20を製造する。まず、磁石基材20の特徴について詳述する。磁石基材20は、R-T-B系合金の焼結体であり、後述する拡散工程を実施する前の素材である。図1において、当該磁石基材20は、Z軸と垂直な2つの主面20aと、X軸またはY軸と垂直な4つの側面20bとを有する直方体である。ただし、磁石基材20の形状は特に限定されず、たとえば、多角形状、円筒状、中空円筒状、もしくは、主面が円弧状に湾曲したアークセグメント形状であってもよい。なお、図面においてX軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直である。
【0024】
本実施形態では、磁石基材20の2つの主面20aを磁極面にする。磁極面とは、磁束が主として通過する面であって、永久磁石における正極(N極)または負極(S極)である。製造するR-T-B系永久磁石を異方性磁石とする場合、磁極面は、後述する成形工程で印可する磁場の向きにより決定することができる。なお、磁石基材20のいずれの面を磁極面とするかは、特に限定されず、1つの主面20aと1つの側面20bとを磁極面としてもよいし、対向する2つの側面20bを磁極面としてもよい。
【0025】
磁石基材20を構成するR-T-B系合金において、Rは、Nd(ネオジウム)を必須とする1種以上の希土類元素であり、Tは、Fe(鉄)を必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bはホウ素である。ここで、希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素を意味し、希土類元素のうち、Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを重希土類元素(RH)と称し、RH以外の希土類元素を軽希土類元素(RL)と称する。また、鉄族元素とは、Fe,Co,およびNiを指す。
【0026】
磁石基材20に含まれるRの合計含有率は、25質量%~35質量%とすることができ、27.5質量%以上、30.8質量%以下とすることが好ましい。Rの合計含有率が上記の組成範囲を満たすことで、軟磁性を示すα-Feなどの析出が抑制され、R14B結晶がより生成されやすくなる。ここで、本実施形態において、「磁石基材20に含まれる所定元素の含有率」とは、磁石基材20の単位質量あたりの含有率であって、磁石基材100質量%に対する所定元素の比率を意味する。すなわち、上記のRの合計含有率は、磁石基材100質量%に対する希土類元素の合計質量の比として算出する。なお、後述する永久磁石2における所定元素の含有率も、上記と同様の方法で表記することとする。
【0027】
Rとして複数の希土類元素が含まれる場合、磁石基材20に含まれるNdの含有率は、特に限定されないが、22質量%以上とすることが好ましい。また、この場合、Nd以外の希土類元素として、Pr,Tb,Dyが磁石基材20に含まれることが好ましい。Nd以外のRとして、TbやDyなどの重希土類元素(RH)を添加する場合には、磁石基材20に含まれるRHの合計含有率は、2.5質量%以下であることが好ましい。
【0028】
磁石基材20に含まれるBの含有率は、0.5質量%~1.5質量%とすることができ、0.92質量%~1.03質量%とすることが好ましい。
【0029】
一方、磁石基材20に含まれるTの含有率については、残部として表記され、他の元素の含有率に応じて適宜決定すればよい。Tは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。この場合、Coの含有率は、特に限定されず、たとえば、4質量%以下とすることができ、1質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
また、磁石基材20には、上述したR,T,B以外に、Cu,Ga,Al,Zrからなる群から選択される1種以上のm元素が含まれていることが好ましい。m元素としては、上記のなかでも特にCuが含まれていることがより好ましい。
【0031】
磁石基材20に含まれるCuの含有率は、0.05質量%以上、0.50質量%以下であることが好ましい。また、m元素としてGa,Al,Zrが含まれる場合、これら元素の含有率は、特に限定されず、たとえば、Gaの含有率は0.08質量%以上0.30質量%以下、Alの含有率は0.10質量%以上0.30質量%以下、Zrの含有率は0.10質量%以上0.30質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、磁石基材20には、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)も含まれ得る。磁石基材20における炭素の含有率は、1100質量ppm以下であることが好ましく、900質量ppm以下であることがより好ましい。磁石基材20における窒素の含有率は、1000質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましい。磁石基材20における酸素の含有率は、1200ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。
【0033】
さらに、磁石基材20には、上述した元素の他に、Mn,Ca,Cl,S,Fなどの不可避不純物が含まれていてもよく、不可避不純物の合計含有率は、たとえば、0.001質量%~1.0質量%程度である。
【0034】
なお、磁石基材20の組成は、従来から一般的に知られている方法により分析することができる。たとえば、R,T,Bなどの各種元素の含有率については、蛍光X線分析(XRF)または誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)などにより測定できる。また、たとえば、酸素の含有率は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定でき、炭素の含有率は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定でき、窒素の含有率は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定できる。
【0035】
図3Aに示すように、磁石基材20は、R14B結晶からなる主相粒子4と、当該主相粒子4の間に位置する粒界6と、を含み、その他、磁気特性を害さない程度に副相が存在していてもよい。
【0036】
主相粒子4の平均粒径は、特に限定されず、たとえば、円相当径換算で、1.0μm~10μmとすることができ、2.5μm~6.0μmとすることが好ましい。なお、主相粒子4の平均粒径は、各種電子顕微鏡(SEM,STEM、TEM)で図3Aに示すような磁石基材20の断面を観察し、当該断面に含まれる少なくとも20個の主相粒子4の円相当径を計測することで測定できる。
【0037】
なお、主相粒子4を構成しているR14B結晶では、鉄族元素であるTの一部が、m元素などの遷移金属元素で置換されていてもよい。
【0038】
粒界6としては、隣り合う2つの主相粒子4の間に位置する二粒子粒界6aと、3つ以上の主相粒子4に囲まれた粒界多重点6bと、が存在する。また、粒界6は、主相粒子4以外のその他の相(すなわちR14B結晶相以外の相)で構成してあり、粒界6を構成する相の種類や割合は、特に限定されない。粒界6を構成するその他の相としては、たとえば、Rの濃度が主相粒子4よりも高い相(Rリッチ層)、T(鉄族元素)やGaなどの遷移金属元素の濃度が高い相、希土類元素の酸化物層、R-O-C相などが挙げられる。
【0039】
上述した特徴を有する磁石基材20は、原料合金の製造工程と、原料合金を粉砕する工程(粉砕工程)と、原料合金粉末を成形する工程(成形工程)と、成形体を焼結する工程(焼結工程)と、を経て製造することができる。
【0040】
まず、上述したR-T-B系合金の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を鋳造することによって、原料合金を得る。
【0041】
この際、原料金属の種類には特に制限はなく、たとえば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、純コバルト、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。また、原料金属を鋳造する方法についても、特に制限はなく、たとえば、インゴット鋳造法、ストリップキャスト法、ブックモールド法、もしくは、遠心鋳造法などが挙げられる。また、鋳造後の原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。
【0042】
次に、上記工程で得られた原料合金を粉砕する。なお、粉砕工程から焼結工程までの各工程の雰囲気は、高い磁気特性を得る観点から、低酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。低酸素濃度の雰囲気とは、たとえば、酸素の濃度が200ppm以下の雰囲気である。各工程の酸素濃度を制御することで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる酸素量を制御することができる。
【0043】
粉砕工程は、粗粉砕と、微粉砕の2段階で実施する。ただし、微粉砕工程のみの1段階で原料合金を粉砕してもよい。
【0044】
粗粉砕工程では、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕し、粗粉砕粉末を得る。粗粉砕の方法は、特に限定されず、たとえば、水素吸蔵粉砕を行う方法や粗粉砕機を用いる方法などを採用することができる。水素吸蔵粉砕を行う場合、脱水素処理時の雰囲気中窒素ガス濃度の制御を行うことで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる窒素量を制御することができる。
【0045】
次に、得られた粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕し、微粉砕粉末(原料合金粉末)を得る。前記微粉砕粉末の平均粒径は、特に限定されないが、たとえば、1μm以上10μm以下とすることができ、2μm以上6μm以下とすることが好ましい。微粉砕工程において、雰囲気中窒素ガス濃度の制御を行うことで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる窒素量を制御することができる。
【0046】
微粉砕の方法は、特に限定されず、各種微粉砕機を用いることができる。また、微粉砕の際には、粉砕助剤を添加することが好ましく、粉砕助剤としては、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等が挙げられる。粉砕助剤を使用することで、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。なお、粉砕助剤の添加量を変化させることにより、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる炭素量を制御することができる。
【0047】
なお、上記の工程(原料合金の準備工程~粉砕工程)では、1合金法で原料合金粉末を得たが、第1合金と第2合金との2合金を混合して原料合金粉末を作製する2合金法を採用してもよい。
【0048】
次に、得られた原料合金粉末を、所定の形状に成形する。成形の方法は、特に限定されず、乾式成形であっても湿式成形であってもよい。本実施形態では、原料合金粉末を金型内に充填し、磁場中において加圧する(乾式成形)。
【0049】
成形時の圧力は、たとえば、20MPa~300MPaとすることができ、印加する磁場は、950kA/m~1600kA/mとすることができる。印加する磁場は静磁場に制限されず、パルス状磁場とすることもでき、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。なお、湿式成形を採用する場合は、原料合金粉末を油等の溶媒に分散させスラリーとし、当該スラリーを用いて、上記と同様の方法でプレス成形すればよい。
【0050】
次に、上記の成形体を、真空または不活性ガス中で焼結し、焼結体を得る。焼結の条件は、組成、粉砕方法、原料合金粉末の粒度など、諸条件に応じて適宜決定すればよい。たとえば、成形体を、真空中または不活性ガス中において、1000℃~1200℃の温度で、1時間~10時間保持することで、成形体を焼結できる。
【0051】
なお、焼結工程の後には、必要に応じて、焼結体に脱炭素処理を施してもよい。脱炭素処理の方法は、特に限定されず公知の方法を採用すればよい。たとえば、焼結体に所定の金属Sを付着させて熱処理することで焼結体中の炭素含有量を低減できる。上記において、所定の金属Sとは、金属から金属炭化物を生成するための標準生成ギブスエネルギーが、焼結体中の希土類元素(特にNd)よりも低い金属である。当該金属Sを焼結体に付着させて熱処理することで、焼結体中の炭素が金属Sと反応して炭化物となる。なお、付着させた金属Sは、焼結体中にはほとんど侵入せずに焼結体表面に留まる。上記のように脱炭素処理を実施することで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる炭素量を低減することができる。
【0052】
さらに、焼結体には、必要に応じて、切断や研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などを施してもよい。これらの加工は、後述する拡散工程の前に実施する。
【0053】
上記の方法により、図1および図3Aに示す磁石基材20が得られる。
【0054】
(粒界拡散工程)
続いて、粒界拡散処理(第1拡散工程および第2拡散工程)について説明する。本実施形態では、前述したように、主に軽希土類元素を磁石基材20に拡散させる第1拡散工程と、主に重希土類元素を磁石基材20に拡散させる第2拡散工程とを実施する(図2参照)。
【0055】
拡散材の準備
まず、第1拡散工程で使用する第1拡散材11と、第2拡散工程で使用する第2拡散材12と、を準備する。
【0056】
第1拡散材11には、少なくとも1種の軽希土類元素(RL)が含まれており、添加するRLとしては、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。当該第1拡散材11は、純金属、合金、もしくは、水素化物などのRLを含む化合物とすることができ、特に、RLと所定のM元素とを含むRL-M合金であることが好ましい。
【0057】
上記において、M元素は、MとRLとの共晶温度が800℃以下となる元素であり、具体的に、Al,Mg,Fe,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Ru,Rh,Pd,Ag,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Bi,Si,Clからなる群から選択される1種以上の元素とすることができる。好ましくは、M元素は、MとRLとの共晶温度が700℃以下となる元素であり、具体的に、Al,Mg,Fe,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ag,Au,Hg,Si,Clからなる群から選択される1種以上の元素である。より好ましくは、M元素は、MとRLとの共晶温度が600℃以下となる元素であり、具体的に、Mg,Co,Ni,Cu,Clである。さらに好ましくは、M元素は、CuまたはCoである。
【0058】
また、第1拡散材11に含まれる希土類元素RとM元素との含有量の和(すなわちR+MもしくはRH+RL+M)を100質量%とすると、第1拡散材11(RL-M合金)におけるM元素の合計含有率は、選択するM元素の種類にもよるが、たとえば、5質量%~20質量%とすることが好ましい。特にM元素としてCuを添加する場合、第1拡散材11(RL-M合金)におけるCuの含有率は、10質量%~15質量%であることが好ましい。なお、上記の含有率は、第1拡散材100質量%に対するM元素の比率である。第1拡散材11に上記のM元素が含まれることで、第1拡散材11の融点が低下し、磁石基材20にRLが拡散しやすくなる。
【0059】
なお、第1拡散材11には、重希土類元素(RH)が含まれていてもよいが、第1拡散材におけるRとM元素との含有量の和100質量%に対して、RHの含有率は、10質量%以下であることが好ましい。ただし、第1拡散材11には、RHが実質的に含まれないことがより好ましい。「RHが実質的に含まれない」とは、より具体的に、RHの含有率が0.5質量%未満であることを意味する。
【0060】
一方、第2拡散材12には、少なくとも1種の重希土類元素RHが含まれており、添加するRHとしては、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。当該第2拡散材12は、純金属、合金、またはTbHなどのRHを含む化合物とすることができ、特に、RHとM元素とを含むRH-M合金であることが好ましい。なお、第2拡散材12におけるM元素としては、第1拡散材11におけるM元素と同様であり、M元素の添加量も第1拡散材11と同様とすることができる。なお、第1拡散材11と第2拡散材12とで、選択するM元素の種類は異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0061】
また、第2拡散材12には、RH、M元素以外に、RLが含まれていてもよく、この場合、第2拡散材に含まれるRとM元素との含有量の和(すなわちR+MもしくはRH+RL+M)100質量%に対して、RLの含有率が22.5質量%以下であることが好ましい。また、第2拡散材12では、RHの含有率が60質量%以上となるように、RLおよびM元素の添加量を調整することが好ましい。
【0062】
第1拡散工程
第1拡散工程では、上述した第1拡散材11を磁石基材20の少なくとも一部の表面に付着させた後、磁石基材20を所定の条件で熱処理することで、第1拡散材11中のRLやM元素を磁石基材20の内部に拡散させる。
【0063】
第1拡散材11を付着させる磁石基材20の表面は、磁極面とする主面20aの少なくとも一部であることが好ましい。この場合、一対の主面20aのうち一方の主面20aのみに第1拡散材11を付着させてもよいし、両方の主面20aに第1拡散材11を付着させてもよい。磁石基材20のZ軸方向の厚み(磁極面間の距離)が2mm以下と薄い場合は、一方の主面20aにのみ第1拡散材11を付着させることが好ましい。また、非磁極面となる側面20bの少なくとも一部に第1拡散材11を付着させてもよい。第1拡散材11を付着させる面の数やその付着面積は、磁石基材20の寸法や目的物であるR-T-B系永久磁石2の用途に応じて適宜決定すればよい。本実施形態では、例示として、Z軸上方の主面20aの全面に第1拡散材11を付着させたこととする。
【0064】
また、磁石基材20の表面に第1拡散材11を付着させる方法は、特に限定されず、たとえば、蒸着法、スパッタリング法、電着法、塗布法、印刷法(スクリーン印刷やスキージ印刷など)、シート工法などを用いることができる。
【0065】
シート工法を採用する場合、粉末状の第1拡散材11とバインダとを混ぜ合わせて、図2に示すような第1拡散材のシート11aを作製し、当該シート11aを磁石基材20の表面に密着させる。シート11aを磁石基材20に密着させる際には、アルコール、アルデヒド、またはケトンなどの有機溶剤を、シート11aの表面または磁石基材20の表面に塗布してもよい。
【0066】
また、塗布法を採用する場合は、粉末状の第1拡散材11をアルコール、アルデヒド、またはケトンなどの有機溶剤に分散させたスラリーを作製する。そして、当該スラリーをスプレー、刷毛、ジェットディスペンサ、ノズルなどを利用して磁石基材20の表面に塗布する。なお、スラリーには、第1拡散材11が磁石基材20の表面に付着し易いように、バインダを添加してもよい。また、第1拡散材11を用いてスラリーよりも高い粘性を有するペーストを作製し、当該ペーストを磁石基材20の表面に塗布してもよい。各種印刷法では、上記のペーストを磁石基材20の表面に印刷すればよい。
【0067】
上述のとおり、第1拡散材11は、複数の方法で磁石基材20に付着させることができるが、いずれの方法を採用する場合においても、第1拡散材11の付着量が所定の条件を満たすように制御してあることが好ましい。すなわち、付着させるRLの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.1質量部~2.0質量部(より好ましくは、0.4質量部~1.5質量部)となるように、第1拡散材11の付着量を制御することが好ましい。
【0068】
第1拡散工程における熱処理の条件は、熱処理雰囲気を真空中または不活性ガス中とし、保持温度を700℃超過1000℃以下とすることが好ましく、温度保持時間を1時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、所定の保持時間が経過した後は、磁石基材20を急冷することが好ましく、たとえば、急冷時の冷却速度は、50℃/min以上であることが好ましい。上記の条件で熱処理することで、第1拡散材11に含まれるRL(M元素を含む場合はRLとM元素)が磁石基材20の粒界6に拡散する。
【0069】
第1拡散工程でRLを磁石基材20の内部に拡散させることで、粒界6(特に二粒子粒界6a)が拡がり、後述する第2拡散工程でRHが磁石基材20の内部中央付近まで拡散しやすくなると考えられる。なお、磁石基材20にRとしてNdのみが含まれ、かつ、第1拡散材11にPrなどのNd以外のRLが含まれている場合は、第1拡散工程により、主相粒子4の外周縁にNd以外のRLを含むシェルが形成されることがある。当該シェルはR14B結晶におけるR(Nd)の一部が、Nd以外のRLで置換されたことにより生成すると考えられる。
【0070】
なお、第1拡散工程後、磁石基材20の表面には、酸化被膜などの残渣が存在している場合がある。そのため、第1拡散工程の後には、当該残渣を除去する加工工程を実施することが好ましい。残渣の除去方法としては、特に限定されず、たとえば、エッチングなどの化学的な除去、物理的な切断、研削などの形状加工、もしくは、バレル研磨などの面取り加工を実施すればよい。
【0071】
第2拡散工程
次に、前述した第2拡散材12を用いて第2拡散工程を実施する。第2拡散工程では、第2拡散材12を磁石基材20の少なくとも一部の表面に付着させた後、磁石基材20を所定の条件で熱処理することで、第2拡散材12中のRHやM元素を磁石基材20の内部に拡散させる。
【0072】
第2拡散材12は、磁石基材20の表面(主面20aおよび側面20b)のうち、第1拡散工程で第1拡散材11を付着させた表面に、付着させることが好ましい。たとえば、図2に示すように、Z軸上方の主面20a(磁極面)に第1拡散材11を付着させた場合には、第2拡散材12も第1拡散材11と同様にZ軸上方の主面20aに付着させることが好ましい。第2拡散材12の付着面積は、第1拡散材11の付着面積よりも、大きくともよいし、小さくともよいが、同程度であることが好ましい。なお、第2拡散材12の付着面積を小さくする場合、第2拡散材12は、得られる永久磁石において特に保磁力HcJを向上させたい箇所に付着させることが好ましい。
【0073】
また、第2拡散材12を付着させる方法は、特に限定されず、第1拡散工程と同様に、蒸着法、スパッタリング法、電着法、塗布法、印刷法(スクリーン印刷やスキージ印刷など)、シート工法などを用いることができる。図2では、例示として、第2拡散材のシート12aを用いる様子を示しており、当該シート12aは、粉末状の第2拡散材12とバインダとを混ぜ合わせてシート化することで得られる。
【0074】
また、第2拡散材の付着量は、所定の条件を満たすように制御してあることが好ましい。すなわち、付着させるRHの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.3質量部~2.0質量部(より好ましくは、0.4質量部~1.0質量部)となるように、第2拡散材12の付着量を制御することが好ましい。
【0075】
第2拡散工程における熱処理の条件は、熱処理雰囲気を真空中または不活性ガス中とし、保持温度を700℃超過1000℃以下とすることが好ましく、温度保持時間を1時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、所定の保持時間が経過した後は、磁石基材20を急冷することが好ましく、たとえば、急冷時の冷却速度は、50℃/min以上であることが好ましい。上記の条件で熱処理することで、第2拡散材12に含まれるRH(M元素を含む場合はRHとM元素)が磁石基材20の粒界6に拡散する。なお、第2拡散工程では、時効工程を含んでいてもよい。当該時効工程は、上記の急冷後に、真空中または不活性ガス中で、磁石基材20を450℃~700℃の温度で0.2時間~3時間保持することで実施することが好ましく、保持時間経過後は、急冷することが好ましい。
【0076】
第2拡散工程で粒界6に拡散したRHは、主相粒子4の外周縁で、R14B結晶の一部と反応し、濃化する。すなわち、第2拡散工程の後では、図3Bに示すように、RHが拡散した領域の主相粒子4に、RHの含有率が高いシェル部42が形成され、当該主相粒子4が、コアシェル粒子4aとなる。なお、コアシェル粒子4aについては、後段のR-T-B系永久磁石2の説明の中で、詳述する。
【0077】
なお、第2拡散工程の後においても、第1拡散工程後と同様に、残渣を除去する処理を施すことが好ましい。残渣の除去方法としては、特に限定されず、たとえば、エッチングなどの化学的な除去、物理的な切断、研削などの形状加工、もしくは、バレル研磨などの面取り加工を実施すればよい。
【0078】
以上の方法により、高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石2(図4A)が得られる。以下、本実施形態の製造方法で得られたR-T-B系永久磁石2の特徴について説明する。
【0079】
(R-T-B系永久磁石2)
図4Aに示す本実施形態のR-T-B系永久磁石2(以下、永久磁石2と称する)では、一対の主面2aが磁極面となっており、この一対の主面2aのうちZ軸上方の主面2aが、第1拡散材11および第2拡散材12を付着させた面である。なお、図4Aでは、図1の磁石基材20の形状に合わせて、永久磁石2が直方体状の形状を有している。ただし、永久磁石2の形状および寸法は、特に限定されず、たとえば、多角形状、円筒状、中空円筒状、もしくは、主面が円弧状に湾曲したアークセグメント形状であってもよい。
【0080】
永久磁石2は、製造過程でRLとRHとをこの順で粒界拡散させたことにより、製造時に使用した磁石基材20の組成とは若干異なる組成を有する。
【0081】
具体的に、永久磁石2では、Rとして、Ndを必須とする1種以上の軽希土類元素(RL)と、1種以上の重希土類元素(RH)とが含まれる。Nd以外のRLとしては、Prが含まれることが好ましく、RHとしては、Tbまたは/およびDyが含まれることが好ましい。
【0082】
そして、永久磁石100質量%に対するRの合計含有率は、25質量%~35質量%とすることができ、28.4質量%以上32.0質量%以下であることが好ましい。また、永久磁石100質量%に対して、RLの合計含有率は、26.0質量%以上、31.5質量%以下であることが好ましく、RHの合計含有率は、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。加えて、永久磁石100質量%に対するNdの含有率は、22.4質量%以上31.5質量%以下とすることが好ましい。
【0083】
上記のとおり永久磁石2では、拡散材(11,12)によるRLおよびRHの拡散量に応じて、Rの含有率が、磁石基材20におけるRの含有率よりも増加する。一方で、永久磁石2におけるBの含有率は、磁石基材20におけるBの含有率と同程度とすることができる。すなわち、永久磁石100質量%に対するBの含有率は、0.5質量%~1.5質量%とすることができ、0.92質量%~1.03質量%とすることが好ましい。Bの含有率が上記の組成範囲を満たすことで、永久磁石2の磁気特性(Br,HcJ,角型比Hk/HcJなど)がより向上する傾向となる。
【0084】
また、永久磁石2には、第1拡散材11または/および第2拡散材12に添加したM元素が含まれていることが好ましい。拡散材(11,12)に起因するM元素の含有率Cは、永久磁石100質量%に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。たとえば、拡散材に添加するM元素として、磁石基材20に実質的に含有されていない元素MNO(Ag,Auなど)を選択した場合、上記の含有率Cが、永久磁石2における元素MNOの含有率となる。一方で、拡散材に添加するM元素として、元々磁石基材20に含まれていた元素MINを選択した場合、永久磁石2における元素MINの含有率は、磁石基材20における含有量に、上記の含有率Cが加算された範囲となる。
【0085】
たとえば、第1拡散材11または/および第2拡散材12に、Fe、Co、またはNiを添加した場合、永久磁石2におけるTの含有率が、製造過程における磁石基材20よりも若干増加する(上記の含有率Cが加算される)。なお、永久磁石2におけるTの含有率は、残部として表記される。永久磁石2のTは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。この場合、Coの含有率は、特に限定されず、たとえば、4質量%以下とすることができ、1質量%以下とすることが好ましい。Coが含まれることで、永久磁石2の耐食性が向上する。
【0086】
また、永久磁石2には、Cu,Ga,Al,Zrからなる群から選択される1種以上のm元素が含まれていることが好ましく、特にm元素としてCuが含まれていることがより好ましい。このm元素は、磁石基材20または/および拡散材(11,12)を起因として永久磁石2に添加される。永久磁石100質量%に対するm元素の合計含有率は、0.05質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0087】
より具体的に、永久磁石100質量%に対するCuの含有率は、0.05質量%以上0.70質量%以下とすることができ、0.20質量%以上0.70質量であることが好ましい。Cuが上記の比率で含有してあることで、永久磁石2の磁気特性や耐食性がより向上する。また、m元素としてGa,Al,Zrが含まれる場合、これら元素の含有率は、特に限定されない。たとえば、Gaの含有率は、0.08質量%以上0.50質量%以下とすることができ、0.08質量%以上0.3質量%以下とすることが好ましい。Alの含有率およびZrの含有率は、いずれも、0.10質量%以上0.50質量%以下とすることができ、0.10質量%以上0.30質量%以下とすることが好ましい。Ga,Al,Zrなどが上記の所定量含まれることで、磁気特性(Br,HcJ,Hk/HcJなど)の更なる向上や、特性のばらつき低減や、製造安定性の向上などが図れる。
【0088】
また、永久磁石2には、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)も含まれ得る。永久磁石2における炭素の含有率は、1100質量ppm以下であることが好ましく、900質量ppm以下であることがより好ましい。永久磁石2における窒素の含有率は、1000質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましい。炭素の含有率や窒素の含有率が少ないほど、保磁力HcJが向上する傾向となる。永久磁石2における酸素の含有率は、1200ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。酸素の含有率が少ないほど、耐食性が向上する傾向となる。
【0089】
さらに、永久磁石2には、上述した元素の他に、Mn,Ca,Cl,S,Fなどの不可避不純物が含まれていてもよく、不可避不純物の合計含有率は、たとえば、0.001質量%~1.0質量%程度である。
【0090】
なお、永久磁石2の組成は、磁石基材20の組成分析と同様に、XRF、ICP、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法、不活性ガス融解-熱伝導度法などにより測定できる。
【0091】
本実施形態における永久磁石2の内部では、所定元素の濃度分布が生じている。具体的に、RLの合計含有率が、主面2a(磁極面)から深さ方向に向かって(すなわち永久磁石2の表面から内部に向かって)連続的に減少している。このようなRLの濃度分布は、第1拡散工程でRLが粒界拡散することにより生じる。また、永久磁石2では、RHの合計含有率が、主面2a(磁極面)から深さ方向に向かって連続的に減少している。このRHの濃度分布は、第2拡散工程でRHが粒界拡散することにより生じる。
【0092】
さらに、永久磁石2では、M元素(好ましくはCu,Al,Fe,Coから選択される1種以上)の含有率が、主面2a(磁極面)から深さ方向に向かって連続的に減少していることが好ましい。このようなM元素の濃度分布は、第1拡散工程または/および第2拡散工程で、拡散材(11,12)中のM元素が粒界拡散することで生じる。なお、拡散材(11,12)において、M元素として、鉄族元素(Fe,Co,またはNi)を添加した場合、上述したM元素の濃度分布は、すなわちTの濃度分布となる。したがって、拡散材のM元素として鉄族元素を選択した場合は、Tの含有率が、主面2a(磁極面)から深さ方向に向かって連続的に減少していることが好ましい。
【0093】
なお、上述した各元素(RL,RH,M元素)の濃度分布は、図4Bに示す複数のサンプルβを用いて確認することができる。具体的に、所定幅Tβ(Z軸方向の幅)のサンプルβを、主面2aから深さ方向(永久磁石2の内側方向)に沿って連続的に採取していき、採取した複数のサンプルβを、それぞれ、ICPを用いて成分分析する。この際、所定幅Tβは、1mm以下とすることが好ましく、もしくは、Tβ<(1/10)×T0とすることが好ましい。
【0094】
本実施形態の永久磁石2では、上記の分析の結果、サンプルβの採取箇所が深くなるにつれてRLの合計含有率、RHの合計含有率、Mの含有率が連続的に徐々に低下していく傾向が確認できる。特に、最表面側のサンプルβ1と、中央部のサンプルβcenter(主面2aから深さ1/2T0で採取したサンプルβ)とで、所定元素の含有率の差(β1-βcenter)を測定した場合、RLの合計含有率の差が、0.1質量%~0.5質量%程度であることが好ましく、RHの合計含有率の差が、0.1質量%~0.5質量%程度であることが好ましく、M元素の含有率の差が、0.1質量%~0.3質量%程度であることが好ましい。
【0095】
なお、各元素(RL,RH,M元素)の濃度分布は、上記の測定方法の他に、図4Bに示すような断面で、EDXやEPMAによるライン分析やマッピング分析、またはレーザーアブレーション-ICP質量分析(LA-ICP-MS)を実施することによっても確認することができる。
【0096】
図3Bは、本実施形態における永久磁石2の断面を拡大した模式図である。前述したように、永久磁石2では、RHが拡散した領域において主相粒子4がコアシェル粒子4aとなっている。このコアシェル粒子4aは、R14B結晶からなるコア部41と、コア部41を被覆しておりコア部41よりも重希土類元素の含有比が高いシェル部42とを有する。コアシェル粒子4aの平均粒径は、特に限定されず、たとえば、円相当径換算で、1.0μm~10μmとすることができ、2.5μm~6.0μmとすることが好ましい。
【0097】
なお、シェル部42は、コア部41の全周を覆っている必要はなく、コア部41の少なくとも一部を覆っていればよい。シェル部42によるコア部41の被覆率は、特に限定されないが、たとえば、コア部41の外周縁のうち50%以上をシェル部42が覆っていることが好ましい。また、図3Bに示すような断面において、全ての主相粒子4がコアシェル粒子4aである必要はなく、コアシェル構造を有していない主相粒子4が存在していてもよい。
【0098】
上記のように、主相粒子4の外周にRHが濃化したシェル部42が形成されることにより、粒界近傍に磁化反転の核が生じることが抑制され、保磁力HcJを向上させることができる。
【0099】
また、本実施形態の永久磁石2では、1段階のみの粒界拡散処理でRHを拡散させた従来の永久磁石と比べて、RHを拡散させた表面近傍(本実施形態では、主面2aの近傍)におけるコアシェル粒子4aのシェル厚みを薄くすることができる。実際に、図6は、2段階の粒界拡散処理を実施した本実施形態の永久磁石2の断面写真であり、図7は、1段階のみの粒界拡散処理を実施した従来の永久磁石の断面写真である。なお、図6および図7は、いずれも、拡散材を付着させた表面(主面2a)と垂直な断面であり、かつ、当該表面から所定の深さまでの範囲を観察した断面である。また、図6および図7において、最もコントラストが明るい箇所は、粒界相であり、コントラストが暗い箇所がコア部41(主相粒子4)であり、コア部41を囲っている灰色のコントラストがシェル部42である。
【0100】
図7に示す従来の永久磁石では、コア部の周囲に灰色のシェル部が存在していることがはっきりと認識でき、表面近傍(深さ100μmまでの範囲)においてサブミクロンオーダーからミクロンオーダーの厚いシェル部が形成されていることが確認できる。一方、図6に示す本実施形態の永久磁石2の断面では、表面近傍におけるシェル部42の厚みが、図7の従来の永久磁石と比べて、明らかに薄くなっていることがわかる。
【0101】
より具体的に、本実施形態の永久磁石2では、表面(主面2a)から深さ100μmの断面Aにおいて、シェル部42の最大厚みt1が、平均で、0.5μm以下であり、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。永久磁石2の表面近傍において、シェル部42の最大厚みt1を上記の範囲内に制御することで、図7に示すような従来の永久磁石よりも、高い残留磁束密度Brと高い保磁力HcJとが得られる。このように磁気特性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、シェル部42におけるRH濃度が関係していると考えられる。具体的に、シェル部42の厚みを薄くすることで、シェル部42におけるRH濃度が従来の永久磁石(図7)よりも高くなると考えられる。その結果、本実施形態の永久磁石2では、Brを低下させることなく、より効率的にHcJの向上が図れていると考えられる。
【0102】
また、本実施形態の永久磁石2では、上記のように表面近傍でシェル部42の厚みが薄くなると共に、RHが、永久磁石2の内部まで、より深く拡散している。具体的に、永久磁石2では、片側の主面2aにのみ拡散材(11,12)を付着させた場合であっても、当該主面2aから深さ3.5mmの範囲まで、コアシェル粒子4aが存在していることが確認でき、深さ3.5mmの範囲までHcJの向上効果が期待できる。
【0103】
なお、シェル部42の最大厚みt1は、たとえば、STEM-EDSによる解析に基づいて算出する。まず、拡散材(11,12)を付着させた主面2aから深さ100μmの位置において、断面A(たとえば、図4Bにおいて一点鎖線で示すX-Y面)を露出させ、当該断面からSTEM用の観察試料を採取する。試料採取の方法は、FIB加工によるマイクロサンプリング法などを採用すればよい。
【0104】
そして、採取した観察試料(観察断面)中に含まれる主相粒子4(コアシェル粒子4a)を、STEM-EDSにより分析する。本実施形態では、コア部41とシェル部42とを、重希土類元素の濃度差Dc、および、重希土類元素の濃化度Eに基づいて判別する。具体的に、断面解析に際して、測定対象である主相粒子4を内包しつつ主相粒子4に対して面積が最小となる仮想の長方形VR(図5参照)を拵え、当該長方形VRの対角線の交点を粒子中心41cとする。そして、EDSにより、主相粒子4におけるRHの濃度分布およびRLの濃度分布を得たうえで、所定箇所のRH濃度(Ch)と粒子中心41cのRH濃度(Chcenter)との差(Ch-Chcenter)を、RHの濃度差Dc(単位:wt%)とする。また、所定箇所におけるRLに対するRHのモル比をMH/L とし、粒子中心41cにおけるRLに対するRHのモル比をMH/L centerとし、MH/L centerに対するMH/L の比を、RHの濃化度E(単位:なし)とする。
【0105】
本実施形態では、シェル部42は、上記の濃度差Dcが0.7wt%以上であって、かつ、上記の濃化度Eが1.25以上である。すなわち、断面解析において、当該2つの要件を満足する領域をシェル部42と認定し、主相粒子4のシェル部42以外の領域をコア部41と認定する。ただし、粒子中心41cで検出されるRH濃度が0.2wt%未満である場合があり得る。この場合は、測定ノイズを鑑みて粒子中心41cでは実質的にRHが検出されていないこととみなし(すなわちChcenter≒0)、RH濃度が0.7wt%以上(すなわち濃度差Dcが0.7wt%以上)である領域をシェル部42と識別すればよい。なお、断面試料をHAADF像などで観察した場合は、コントラストの違いにより、簡易的にコア部41とシェル部42とを識別することも可能である。
【0106】
上述した方法でコア部41とシェル部42との境界を規定した後、図5に示すように、単位粒子内でシェル部42が最も厚い箇所の厚みを測定する。当該測定を少なくとも20個のコアシェル粒子4aに対して実施し、その平均値を上述した最大厚みt1とする。なお、シェル厚みは、三次元アトムプローブ(3DAP)を用いて解析することも可能である。
【0107】
また、RHの拡散深さについては、永久磁石2の表面(主面2a)から深さ方向に沿って連続的に採取したサンプルβ(図4B)を分析することで測定できる。たとえば、複数のサンプルβの断面をSTEMで観察し、コアシェル粒子4aの存在有無を確認することで、どの程度の深さまでRHが拡散したかを測定できる。また、採取した複数のサンプルβの磁気特性を各種BHトレーサなどで測定することで、どの程度の深さまでHcJの増加が認められるかを測定できる。
【0108】
なお、永久磁石2の磁気特性は、具体的に、Brが1450mT以上であり、かつ、HcJが1800kA/m以上であることが好ましい。永久磁石2が当該磁気特性を満たすことで、永久磁石2を有するモータの高性能化や高効率化を図ることができる。
【0109】
(R-T-B系永久磁石2の利用分野)
本実施形態のR-T-B系永久磁石2は、モータ、発電機、コンプレッサ、アクチュエータ、磁気センサ、スピーカなどの構成部材として利用することができ、特にモータの構成部材として好適である。
【0110】
永久磁石2を利用したモータとしては、たとえば、図8に示すようなIPMモータ50が挙げられる。IPMモータ50は、回転子51と、ステータコア52とを有しており、本実施形態の永久磁石2は、回転子51に埋め込んである。そして、回転子51中の永久磁石2は、ギャップ53を介してステータに存在するコイル54と向き合っている。なお、本実施形態の永久磁石2は、図8のIPMモータに限定されず、SPMモータなどの各種モータに適用できる。
【0111】
また、本実施形態の永久磁石2を含むモータは、様々な電子機器や産業機器等に搭載することができ、特に図9に示すような自動車用モータ50(EV,HV,PHVなど)としての利用が好適である。図9では、一般的なEV車101とHV102とを簡単な模式図で示しているが、永久磁石2を含むモータの用途は、図9に示す様態に何ら限定されない。なお、図9において、符号60がインバータ、符号70がバッテリ、符号80がエンジン、符号90が発電機である。
【0112】
(実施形態のまとめ)
本実施形態におけるR-T-B系永久磁石2の製造方法では、軽希土類元素(RL)を含む第1拡散材11で第1拡散工程を実施した後、重希土類元素(RH)を含む第2拡散材12で第2拡散工程を実施する。すなわち、RLを拡散させた後にRHを拡散させる二段階の粒界拡散を実施する。
【0113】
当該方法で得られたR-T-B系永久磁石2では、磁石の表面から深さ100μmの箇所におけるシェル部42の最大厚みt1が薄く、t1≦0.5μm、好ましくはt1≦0.2、より好ましくはt1≦0.1である。このように、表面近傍におけるシェル部42の厚みを薄くすることで、シェル部42におけるRH濃度をより高めることができるとともに、RHが磁石の内部まで好適に拡散すると考えられる。その結果、R-T-B系永久磁石2では、BrとHcJとが従来よりも両立して向上する。換言すると、本実施形態の2段階の粒界拡散処理では、従来の1段階の粒界拡散処理を実施する場合に比べて、より高い残留磁束密度Brとより高い保磁力HcJとを兼ね備えた永久磁石2が得られる。
【0114】
2段階の粒界拡散処理で上記の効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば、以下に示す事由が考えられる。
【0115】
まず、RHによるR14B結晶(主相)の分解抑制が関係していると考えられる。粒界拡散処理において、RHが粒界に沿って浸透し、加熱状態でR14B結晶と接すると、R14B結晶(特にNdFe14B結晶)の外周縁がRHと反応し、主相とは異なる結晶相や液相(たとえば、RFe相やRFe相など)に分解されると考えられる。そして、この分解によって生じた異なる結晶相や液相が再結晶化することで、RHが濃化したシェル部が形成されると考えられる。
【0116】
従来のように、1段階の拡散工程で、RHを粒界拡散させた場合には、磁石の表面近傍で、高濃度のRHが、R14B結晶と接することとなり、上述したR14B結晶の分解反応が活発に起こると考えられる。その結果、従来の粒界拡散処理では、磁石の表面近傍に厚みのあるシェルが形成される。RHが濃化したシェル部は、HcJを向上させる効果があるものの、HcJの向上に必要なシェルの厚みは数ナノメートル程度あればよく、過剰な厚みのシェルは、反ってBrの低下を招くと考えられる。また、従来の各段工程では、磁石の表面近傍で、付着させたRHが多く消費され、磁石の内部まで十分に拡散し難くなり、HcJの向上効果が弱まると考えられる。
【0117】
一方、本実施形態における2段階の粒界拡散処理では、RHを拡散させる前に、RLを拡散させている。RLとR14B結晶との間(具体的に、NdFe14B結晶とNdやPrとの間)では、R14B以外の金属化合物相が生じないため、本実施形態の第1拡散工程では、RHとR14B結晶との間で生じるような主相の分解反応が発生しないと考えられる。そのため、第1拡散工程の後では、粒界6においてRLが濃化され、RLの濃度が第1拡散工程の前よりも高い状態となっていると考えられる。この状態で、RHを拡散させると(第2拡散工程)、粒界6における全希土類元素に対するRHの比率を相対的に低減できると考えられる。
【0118】
つまり、本実施形態における2段階の粒界拡散処理では、従来の1段階拡散に比べて、低濃度の状態でRHがR14B結晶に接することとなり、主相の分解反応が抑制されると考えられる。これにより、本実施形態では、従来の1段階拡散に比べて、シェル部42の厚みを薄くでき、厚みが薄くなった分シェル部42におけるRH濃度を高めることができると考えられ、高いBrを維持できる。また、本実施形態では、主相の分解反応が抑制されたことで、磁石の表面近傍におけるRHの消費が抑制され、RHが磁石の内部まで拡散されやすくなると考えられる。その結果、RHの拡散によるHcJの向上効果が高まり、高いHcJと高いBrとを両立できると考えられる。
【0119】
また、RHが内部まで拡散し易くなる理由としては、第1拡散工程によるRLの拡散により、二粒子粒界6aが拡張したことが考えられる。RLによる粒界6の拡張により、第2拡散工程でRHが磁石内部まで浸透し易くなり、従来工法よりも高いHcJが得られると考えられる。さらに、本実施形態の製造方法では、RHの拡散前にRLを拡散させたことにより、第2拡散工程における主相粒子4の粒成長が抑制されると考えられ、当該粒成長の抑制効果が磁気特性の向上に寄与したと考えられる。
【0120】
なお、上記の粒界6の改質(分解反応の抑制、および、拡張)に関する原理は、あくまでも、推論であって、本願発明の効果は上記に限定されない。また、本実施形態の製造方法(2段階の粒界拡散処理)では、従来の永久磁石と同程度の磁気特性(特にHcJ)を得るために必要なRHの使用量を、削減することができる。前述したように、本実施形態の2段階の粒界拡散処理では、表面近傍のシェル厚みを薄くできると共に、RHを磁石内部のより深くまで拡散することができるためである。
【0121】
なお、製造時に使用する磁石基材20が所定の組成を有する場合、上述したBrやHcJの向上効果がより顕著となる。すなわち、磁石基材20(R-T-B系合金)において、Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であり、Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であり、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下である。当該組成では、一般的なR-T-B系合金の組成範囲に比べて、Rの合計含有率が低くなっている。このように、Rの含有率が低い磁石基材20を使用することで、2段階の粒界拡散処理によるBrやHcJの向上効果がより高くなる。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0123】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
実験1
実験1では、磁石基材20の組成を振ると共に2段階の粒界拡散処理を実施して試料1~21に係るR-T-B系永久磁石を製造し、これら試料の磁気特性を評価した。
【0125】
(試料1~試料21)
まず、原料として、Nd,Pr,Tb,DyFe,電解鉄,低炭素フェロボロン合金を準備した。また、Al,Ga,Cu,Co,Zrを、純金属またはFeとの合金の形で準備した。そして、磁石基材20の組成が表2に示す組成となるように、上記の原料を秤量し、ストリップキャスト法により、原料合金を作製した。ここで得られた原料合金の厚みは、0.2mm~0.6mmであった。
【0126】
次いで、前記原料合金に対して室温で1時間、水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。その後、雰囲気を水素ガスからArガスに切り替え、450℃で1時間、脱水素処理を行い、原料合金を水素粉砕した。粉砕後の原料合金については、冷却後にふるいを用いて分級し、400μm以下の粒度の粉末(粗粉砕材)とした。なお、試料20を除く他の試料の製造では、この水素吸蔵粉砕から後述する焼結工程までは、常に酸素濃度が200ppm以下の低酸素雰囲気とした。一方、試料20については、磁石基材20の酸素含有量が所定の量となるように各工程における酸素濃度を調整した。
【0127】
次いで、前記粗粉砕材に対して、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを添加して混合した。そして、この粗粉砕材を衝突板式のジェットミル装置を用いて窒素気流中で微粉砕し、平均粒径が3.9μm~4.2μm程度の微粉(原料合金粉末)を得た。当該微粉砕工程において、オレイン酸アミドの添加量は、磁石基材20中の炭素含有量が所望の範囲内となるように調整した。なお、上記の平均粒径は、レーザ回折式の粒度分布計で測定した平均粒径D50である。
【0128】
次いで、前記原料合金粉末を磁界中で成形して成形体を作製した。この際、印加磁場は1200kA/mの静磁界とし、成形時の加圧力は120MPaとして、磁界印加方向と加圧方向とを直交させるようにした。なお、この成形工程で得られた成形体の密度を測定したところ、全ての成形体の密度が4.10Mg/m以上4.25Mg/m以下の範囲内であった。
【0129】
次に、前記成形体を焼結し、R-T-B系合金からなる焼結体を得た。焼結条件は、組成により若干異なるが、真空中の雰囲気で、1040℃~1100℃の温度で4時間保持した。この焼結工程で得られた焼結密度は、すべての試料において、7.45Mg/m~7.55Mg/m以下の範囲であった。その後、前記焼結体をバーチカルにより15mm×10mm×5mm(磁化容易軸方向の厚み5mm)に加工して、磁石基材20を得た。
【0130】
ここで、各試料における磁石基材20の平均組成を測定した。分析用のサンプルは、各試料をスタンプミルにより平均粒子径1mm程度の大きさに粉砕し、当該粉砕物を無作為に抽出することで得た。各種金属元素の含有率については、XRFおよびICPを用いて測定した。また、酸素の含有率は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定し、炭素の含有率は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定し、窒素の含有率は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定した。各試料の測定結果を表2に示す。なお、Feの含有率を残部としているのは、表2には記載していない元素の含有量をFeの含有量に含めてR,T,Bおよびmの合計を100質量%としているという意味である。
【0131】
続いて、前記磁石基材20に対して、以下に示す流れで2段階の粒界拡散処理を施した。まず、表1に示す組成で、Nd(RL)を含む第1拡散材1Aと、Tb(RH)を含む第2拡散材2Kを作製した。これら拡散材は、いずれも、合金粉末とした。
【0132】
次に、粒界拡散を行う前処理として、磁石基材20にエッチング処理を施した。具体的に、エタノール100質量%に対し硝酸3質量%とした混合溶液を準備し、磁石基材20を当該混合溶液に3分間浸漬させてエッチングした後、エタノールに1分間浸漬させて洗浄した。なお、上記のエッチングは、各試料につき2回実施した。
【0133】
次に、Ndを含む第1拡散材1A:75質量部と、アルコール:23質量部と、アクリル樹脂:2質量部と、を混錬し、第1ペーストを得た。この際使用したアルコールは溶媒であり、アクリル樹脂はバインダである。そして、当該第1ペーストを、磁石基材20の一対の磁極面の両方に塗布した。この際、第1ペーストの塗布量は、磁石基材20に付着するNdの総量が、磁石基材100質量部に対して、1.0質量部となるように調整した。第1拡散材1Aの塗布後、磁石基材20を、大気圧のAr雰囲気において、900℃で、10時間保持し、その後、急冷した(第1拡散工程)。なお、当該第1拡散工程の後には、1200番の研磨紙を用いて、磁石基材20の表面に存在する残渣が除去されるまで研磨した。
【0134】
次に、Tbを含む第2拡散材2K:75質量部と、アルコール(溶媒):23質量部と、アクリル樹脂(バインダ):2質量部と、を混錬し、第2ペーストを得た。そして、当該第2ペーストを、磁石基材20の一対の磁極面の両方に塗布した。この際、第2ペーストの塗布量は、磁石基材20に付着するTbの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。第2拡散材2Kの塗布後、磁石基材20を、大気圧のAr雰囲気において、900℃で、10時間保持し、その後、急冷した(第2拡散工程)。そして、上記熱処理の後、磁石基材20を、大気圧のAr雰囲気中において、600℃で1時間熱処理し、その後、急冷した(時効工程)。なお、当該時効工程の後には、1200番の研磨紙を用いて、磁石基材20の表面に存在する残渣が除去されるまで研磨した。
【0135】
以上の工程により試料1~21に係るR-T-B系永久磁石2を得た。当該R-T-B系永久磁石2の平均組成は、上述した磁石基材20の平均組成と同様の方法で測定した。測定した結果を表4に示す。
【0136】
また、実施形態で述べた方法により、磁極面から深さ100μmの断面におけるシェル部42の最大厚みt1(20個粒子を計測した結果の平均値)を測定した。測定結果を表4に示す。
【0137】
さらに、得られたR-T-B系永久磁石2については、4000kA/mのパルス磁場により着磁し、その後、BHトレーサを用いて各試料の残留磁束密度Br(mT)と、保磁力HcJ(kA/m)と、角型比Hk/HcJ(%)とを測定した。なお、本実施例において、Hk/HcJは、磁化JがBrの90%となったときの磁場の大きさをHk(kA/m)として測定した。Brは、1450mT以上を特に良好と判断し、HcJは、1800以上を特に良好と判断し、Hk/HcJは、95%以上を特に良好と判断した。各試料1~21の測定結果を表4に示す。
【0138】
なお、表4には、記載していないが、各試料の内部におけるRH(Tb)、RL(Nd)、M(Cu)の濃度分布の有無を調査した。その結果、すべての試料1~21において、Ndの含有率、Tbの含有率、Cuの含有率が、磁極面から深さ方向に向かって漸減していることが確認できた。
【0139】
(比較例)
実験1では、表3,表4に示すように、比較例1,2,6,7,10,11,14,16,17,20,21,22に係るR-T-B系永久磁石を製造した。具体的に、比較例1,2,6,7,10,11,14,16,17,20,21では、それぞれ、上記の試料1,2,6,7,10,11,14,16,17,20,21と同様の組成で磁石基材を作製し、当該磁石基材に対して、Tbを含む拡散材2Kのみを用いて1段階のみの粒界拡散処理を施した。なお、比較例1~21と試料1~21とで、番号が対応しており、同じ番号の試料と比較例とは、磁石基材の組成が同程度となっている。
【0140】
また、比較例22では、試料1と同じ組成Aの磁石基材を作製した後、第1拡散工程でTb(RH)を含む拡散材2Kを拡散させ、第2工程でNd(RL)を含む拡散材1Aを拡散させた。すなわち、比較例22では、RHとRLの拡散の順序が試料1とは逆である。
【0141】
上記の比較例において、上述した以外の実験条件は、試料1~21と共通しており、試料1~21と同様の評価を行った。比較例の評価結果を表3および表5に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
【表5】
【0147】
表4と表5の結果に示すように、対応する番号の試料1~21と比較例1~21とを対比すると、2段階の粒界拡散処理を実施した試料1~21では、対応する番号の比較例よりも磁気特性が向上していることが確認でき、特にBrを維持しつつHcJが向上していることが確認できる。この結果から、2段階の粒界拡散処理により、高いBrと高いHcJとが得られることが確認できた。
【0148】
また、1段階の粒界拡散処理のみを実施した比較例1~21では、表面近傍のシェル部の最大厚みt1が0.5μmを超過しており、2段階の粒界拡散処理をした試料1~21では、t1が0.5μm以下となっていることが確認できた。実際に図6が、試料1で得られたR-T-B系永久磁石2のSEM写真であり、図7が比較例1で得られたR-T-B系永久磁石のSEM写真である。
【0149】
図7の比較例1のSEM写真では、図6のSEM写真よりも厚いシェルが形成されていることが確認でき、特に表面側でシェルが厚くなっていることがわかる。これに対して、図6に示す試料1のSEM写真では、比較例1よりも明らかにシェル部42の厚みが薄くなっていることが確認できた。この結果から、2段階の粒界拡散処理により、RHが濃化しているシェル部42の厚みを薄くすることができ、表面近傍のシェル部42の厚みを所定の厚み以下(t1≦0.5μm)とすることで、高いBrと高いHcJとを両立して実現できることがわかった。
【0150】
なお、試料1~21の評価結果を対比すると、磁石基材20およびR-T-B系永久磁石2が所定の組成範囲にある場合に、1450mT≦Brで、かつ、1800kA/m≦HcJを満足しており、よりBrおよびHcJが向上する傾向となった。
【0151】
すなわち、磁石基材20の平均組成としては、Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であることが好ましく、Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であることが好ましく、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下であることが好ましいことがわかった。
【0152】
また、粒界拡散後のR-T-B系永久磁石2の平均組成としては、Rの合計含有率が、28.4質量%以上、31.9質量%以下であることが好ましく、Cuの含有率が、0.2質量%以上、0.7質量%以下であることが好ましく、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下であることが好ましいことがわかった。
【0153】
なお、比較例22では、表層近傍におけるシェル部の最大厚みが、0.5μm超過であり、磁気特性が十分に向上していない結果となった。この結果から、2段階でRHとRLとを粒界拡散させたとしても、RHを粒界拡散させた後に、RLを粒界拡散させた場合には、厚いシェル部の生成を抑制できず、十分な磁気特性が得られないことがわかった。
【0154】
比較例22のようにRLよりも前にRHを拡散させた場合に十分な磁気特性の向上が得られなかった理由は、必ずしも明らかではないが、以下の事由が考えられる。まず、1段階のみの粒界拡散(比較例1)と同様に、RLの拡散の前にRHを拡散させた際に、高濃度のRHが、R14B結晶と接し、R14B結晶の分解反応が活発に起こったと考えられる。これにより表面近傍に厚いシェル部が形成され、Brの低下を招いたと考えられる。また、RHの拡散後にRLを拡散させたことで、1段階目の拡散工程で形成されたRHを含むシェル部が部分的に破壊され、HcJの向上効果が弱まったと考えられる。さらに、RLを拡散させたことにより、RHを含むシェル部の厚みが増すとともに、シェル部におけるRH濃度が低下し、HcJの向上効果が弱まったと考えられる。
【0155】
以上のとおり、RHを先に拡散させる2段階拡散(比較例22)では、シェル部の厚みが増すと共に、シェル部におけるRH濃度が低下すると考えられる。その結果、Brが低下すると共に、十分なHcJの向上が図れなかったと考えられる。
【0156】
(実験2)
実験2では、表6に示す複数種の拡散材を作製し、表7に示す拡散材の組み合わせで2段階の粒界拡散処理を実施した。実験2では、磁石基材20の組成を実験1における試料1の組成Aと共通としており、拡散材の組成を変更した以外は、実験1と同様の条件でR-T-B系永久磁石2を作製した。実験2における各試料25~36の評価結果を表7に示す。
【0157】
【表6】
【0158】
【表7】
【0159】
表7に示すように実験2の試料25~36では、いずれも、シェル部42の最大厚みt1が0.2μm以下と薄くなり、1450mT≦Brで、かつ、1800kA/m≦HcJであった。この結果から、拡散材(11,12)が表6に示す組成の範囲にある場合、BrとHcJとを両立して向上できることがわかった。なお、表7には記していないが、実験2の全ての試料25~36において、RLの含有率、RHの含有率、M元素の含有率が、磁極面から深さ方向に向かって漸減していることが確認できた。
【0160】
また、試料35と試料36とを対比すると、拡散させるRHとしては、DyよりもTbがより効果的であることがわかった。なお、Dyを拡散させた試料36では、Tbを拡散させた他の試料(25~35)に比べてHcJが低いが、1段階のみの粒界拡散処理でDyを拡散させた場合よりも高いHcJが得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0161】
2 … R-T-B系永久磁石
2a … 主面(磁極面)
2b … 側面
4 … 主相粒子
4a … コアシェル粒子
41 … コア部
42 … シェル部
6 … 粒界
6a … 二粒子粒界
6b … 粒界多重点
20 … 磁石基材
20a … 主面
20b … 側面
50 … IPMモータ
51 … 回転子
52 … ステータコア
53 … ギャップ
54 … コイル
101 … EV車
102 … HV車
60 … インバータ
70 … バッテリ
80 … エンジン
90 … 発電機
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9