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特許7555908半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法
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  • 特許-半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法 図1
  • 特許-半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法 図2
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  • 特許-半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法 図3B
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  • 特許-半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240917BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240917BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240917BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01L21/304 631
C09J7/38
C09J201/00
B32B27/00 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021511490
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020012876
(87)【国際公開番号】W WO2020203438
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019068715
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 紗英
(72)【発明者】
【氏名】中西 勇人
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-244206(JP,A)
【文献】特許第5117629(JP,B1)
【文献】特開2004-107644(JP,A)
【文献】特開2010-287819(JP,A)
【文献】特開2007-70432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09J 7/38
C09J 201/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に中間層と粘着剤層とをこの順で有する半導体加工用保護シートであって、
前記中間層を形成するための中間層用組成物がウレタン(メタ)アクリレートを含み、
前記基材の引張貯蔵弾性率と前記基材の厚みとの積が8.0×105N/m以下であり、
65℃で300秒保持後の前記中間層の残留応力が10000Pa以下であり、
65℃における前記中間層の損失正接が1.0以上である半導体加工用保護シート。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体加工用保護シートを、残留応力が生じた半導体ウエハに貼付する工程と、
前記半導体加工用保護シートが貼付された半導体ウエハの剛性を低下させる工程と、を有する半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工用保護シートおよび半導体装置の製造方法に関する。特に、半導体ウエハの反りを抑制するために好適に使用される半導体加工用保護シート、および、当該半導体加工用保護シートを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器には、回路が形成された半導体ウエハを個片化することにより得られる半導体チップが実装された半導体装置が多数搭載されている。回路が形成された半導体ウエハには、外部環境から回路を保護するためのパッシベーション膜、バンプ形成用パッシベーション膜等の回路保護層が形成されることがある。このような回路保護層により、半導体ウエハに形成された回路が機械的および化学的に保護される。
【0003】
また、電子機器は、小型化、多機能化が急速に進んでおり、半導体チップにも小型化、低背化、高密度化が求められている。チップを小型化および低背化するには、半導体ウエハの表面に回路を形成した後、半導体ウエハの裏面を研削して、チップの厚さ調整を行うことが一般的である。
【0004】
半導体ウエハの裏面研削時には、研削時のウエハ表面の汚染を防止し、かつ、半導体ウエハを保持するために、ウエハ表面にバックグラインドテープと呼ばれる保護シートが貼付される。このような保護シートの貼付により、研削品質は向上するものの、保護シートの貼付に起因して保護シート中に残留応力が生じる。
【0005】
裏面研削前の半導体ウエハは剛性が高いので、保護シート中の残留応力は打ち消される。しかしながら、裏面研削により半導体ウエハが薄くなると、半導体ウエハの剛性が低下するため、保護シート中の残留応力が顕在化し、保護シートとともに剛性が低下した半導体ウエハが反ってしまう。
【0006】
さらに、回路保護層が形成された半導体ウエハは、回路保護層形成時に半導体ウエハに残留応力が生じるため、裏面研削後には、保護シート中の残留応力と、半導体ウエハ中の残留応力とにより半導体ウエハの反りが大きくなる傾向にある。半導体ウエハが反ると、半導体ウエハが破損しやすくなる、次工程への搬送が困難になる等の問題が生じる。
【0007】
このような問題に対して、たとえば、特許文献1には、半導体ウエハの反りを抑制するために、基材に高い応力緩和特性を付与した表面保護シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/063827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、基材に応力緩和特性を付与して、基材に生じる残留応力を解消することにより、半導体ウエハの反りを抑制している。しかしながら、特許文献1に記載の保護シートでは、回路保護層が形成された半導体ウエハのような半導体ウエハ自体に生じている残留応力は解消できない。その結果、半導体ウエハ自体に残留応力が生じている場合には、半導体ウエハの反りを抑制できないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、残留応力が生じている半導体ウエハに貼付した場合に、半導体ウエハの反りを抑制できる半導体加工用保護シート、および、当該半導体加工用保護シートを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、
[1]基材と、基材上に中間層と粘着剤層とをこの順で有する半導体加工用保護シートであって、
基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積が8.0×10N/m以下であり、
65℃で300秒保持後の中間層の残留応力が10000Pa以下である半導体加工用保護シートである。
【0012】
[2]65℃における中間層の損失正接が0.6以上である[1]に記載の半導体加工用保護シートである。
【0013】
[3][1]または[2]に記載の半導体加工用保護シートを、残留応力が生じた半導体ウエハに貼付する工程と、
半導体加工用保護シートが貼付された半導体ウエハの剛性を低下させる工程と、を有する半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、残留応力が生じている半導体ウエハに貼付した場合に、従来の保護シートよりも半導体ウエハの反りを抑制できる半導体加工用保護シート、および、当該半導体加工用保護シートを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態に係る半導体加工用保護シートの一例を示す断面模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る半導体加工用保護シートが半導体ウエハの回路面に貼付された様子を示す断面模式図である。
図3A図3Aは、半導体加工用保護シートが貼付されていない、裏面研削後の半導体ウエハを示す断面模式図である。
図3B図3Bは、従来の半導体加工用保護シートが貼付された、裏面研削後の半導体ウエハを示す断面模式図である。
図3C図3Cは、本実施形態に係る半導体加工用保護シートが貼付された、裏面研削後の半導体ウエハを示す断面模式図である。
図3D図3Dは、本実施形態に係る半導体加工用保護シートが貼付された、裏面研削後の半導体ウエハを示す断面模式図である。
図4図4は、本実施形態に係る半導体加工用保護シートにおいて、中間層の残留応力が低いことを説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
【0017】
(1.半導体加工用保護シート)
本実施形態に係る半導体加工用保護シート1は、図1に示すように、基材10上に中間層20および粘着剤層30がこの順に積層された構成を有している。半導体加工用保護シートは、図1に記載の構成に限定されず、本発明の効果が得られる限りにおいて、他の層を有していてもよい。たとえば、粘着剤層30を被着体に貼り付けするまで粘着剤層30を保護するために、粘着剤層30の主面30aに剥離シートが形成されていてもよい。
【0018】
本実施形態に係る半導体加工用保護シートは、半導体加工用保護シートの貼付前に残留応力が生じている半導体ウエハに好適に使用される。このような半導体ウエハとしては、たとえば、各種パッシベーション膜のような回路保護層が形成された半導体ウエハが例示される。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に係る半導体加工用保護シート1は、半導体ウエハ50の回路面50aに形成されている回路保護層51の主面51aに粘着剤層30の主面30aが貼付されて使用される。
【0020】
回路保護層を有する半導体ウエハでは、塗布された回路保護層用組成物の熱硬化時に半導体ウエハに残留応力が生じる。しかしながら、裏面研削前の半導体ウエハの剛性は高いため、この残留応力は半導体ウエハ自体の剛性により打ち消されている。
【0021】
しかしながら、半導体ウエハの研削後には、半導体ウエハの厚みが薄くなるため、半導体ウエハの剛性が低下する。したがって、半導体ウエハに、半導体加工用保護シートを貼付せずに研削した場合には、図3Aに示すように、半導体ウエハに生じた残留応力にのみ起因する反りWaが生じる。
【0022】
半導体ウエハの裏面研削では、研削の均一性の確保、研削くず等による回路面の汚染の防止等のために、上記のように、半導体加工用保護シートを回路面に貼付して、研削が回路面に与える影響から回路面を一時的に保護する。したがって、半導体ウエハの裏面研削時に、半導体加工用保護シートを回路面に貼付する利点は大きい。
【0023】
半導体加工用保護シート1が半導体ウエハ50に貼付される際には、半導体加工用保護シート1に張力を加えながら(半導体加工用保護シート1を引き延ばしながら)貼付する。その結果、貼付された半導体加工用保護シート1には残留応力RSが生じる。基材は、通常、基材以外の構成要素よりも剛性が高く、張力に抵抗するため、主に、基材に残留応力が生じる。
【0024】
すなわち、半導体加工用保護シート貼付後の半導体ウエハには、半導体ウエハに生じた残留応力に加えて、半導体加工用保護シートの基材にも残留応力が生じている。基材に生じた残留応力は、半導体ウエハに生じた残留応力と同様に、半導体ウエハの剛性により打ち消されている。
【0025】
しかしながら、従来の半導体加工用保護シート100が貼付され、かつ残留応力が生じた半導体ウエハの研削後には、図3Bに示すように、基材に生じた残留応力と半導体ウエハに生じた残留応力との両方が顕在化するので、半導体ウエハ50に生じる反りWbは、図3Aに示す反りWaよりも大きくなる。
【0026】
半導体ウエハ50に生じる反りが大きいと、搬送時における半導体ウエハのハンドリング性に影響を与える。したがって、図3Bに示す反りWbは、半導体ウエハに生じた残留応力に起因する反りと、基材に生じた残留応力に起因する反りとの合成反りであるため、半導体ウエハのハンドリング性に影響を与える可能性が高い。すなわち、半導体ウエハのハンドリング性に影響しない反りをWとすると、Wb>Wである。
【0027】
本実施形態に係る半導体加工用保護シート1は後述する特性を有しているので、当該半導体加工用保護シート1が貼付された半導体ウエハ50は、半導体加工用保護シート貼付による上述した利点を享受しつつ、研削により厚みが薄くなっても、図3Cに示すように、合成反りWcを半導体ウエハのハンドリング性に影響しない程度にまで低減できる。すなわち、半導体ウエハのハンドリング性に影響しない反りをWとすると、Wc<Wである。
【0028】
好ましくは、基材に生じた残留応力を解消し、さらに半導体ウエハに生じた残留応力の一部を解消することにより、半導体加工用保護シート1が貼付された半導体ウエハ50は、半導体加工用保護シート貼付による上述した利点を享受しつつ、図3Dに示すように、半導体加工用保護シートを貼付しない場合の反りWaよりも、半導体ウエハの反りが低減される。すなわち、Wd<Waとなる。以下、半導体加工用保護シート1の構成要素について詳細に説明する。
【0029】
(2.基材)
基材としては、半導体ウエハを支持できる材料で構成されていれば制限されない。たとえば、バックグラインドテープの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが例示される。基材は、1つの樹脂フィルムからなる単層フィルムから構成されていてもよいし、複数の樹脂フィルムが積層された複層フィルムから構成されていてもよい。
【0030】
(2.1 基材の物性)
本実施形態では、基材の剛性が所定の値以下であることが好ましい。基材の剛性が高すぎると、後述する中間層において、基材に生じた残留応力を緩和しきれず中間層の残留応力が上述した範囲を超える傾向にある。その結果、半導体ウエハ自体に生じている残留応力に起因する反りに加えて、中間層の残留応力に起因する反りが生じる。したがって、半導体ウエハの破損が生じやすくなる、半導体ウエハの搬送時のハンドリング性が悪化する等の不具合が生じる。
【0031】
本実施形態では、基材の剛性は、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積により評価する。基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積は、8.0×10N/m以下である。また、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積は、7.5×10N/m以下であることがより好ましい。
【0032】
一方、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積は、5.0×10N/m以上であることが好ましく、1.2×10N/m以上であることがより好ましい。基材の剛性が所定の値以上である場合には、基材の残留応力を中間層により解消しつつ、半導体ウエハに生じた残留応力に起因する反りを、基材の剛性により抑制することができる。
【0033】
すなわち、中間層が有する応力緩和能力と、基材の剛性が発揮する応力対抗能力とを制御することにより、半導体ウエハに残留応力が生じている場合であっても、裏面研削後の半導体ウエハの反りを抑制することができる。
【0034】
基材の厚みは、基材の引張貯蔵弾性率により好ましい範囲が異なるが、本実施形態では、15μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0035】
(2.2 基材の材質)
基材の材質としては、基材の厚みが上記の範囲内である場合に、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積が上記の範囲内となる材料が好ましい。本実施形態では、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0036】
(3.中間層)
中間層は、基材と粘着剤層との間に配置される層である。本実施形態では、中間層は、基材の残留応力を引き受けて、その残留応力を中間層内で緩和可能な応力緩和性の高い層である。図4に示すように、半導体加工用保護シート1貼付後の基材10は残留応力により収縮するが、中間層においてその残留応力の大部分は緩和されるので、半導体ウエハ50の反りが抑制される。中間層は1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。
【0037】
中間層20の厚みは、本発明の効果が得られる範囲内において任意に設定される。本実施形態では、中間層20の厚みは50μm以上500μm以下であることが好ましい。なお、中間層の厚さは、中間層全体の厚さを意味する。たとえば、複数層から構成される中間層の厚さは、中間層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0038】
本実施形態では、中間層は以下の物性を有している。
【0039】
(3.1 65℃で300秒保持後の残留応力)
本実施形態では、65℃で300秒保持後の中間層の残留応力が10000Pa以下である。基材から引き受けた残留応力は、中間層内で急激に緩和され、300秒後にはほぼ安定する。また、半導体加工用保護シートは、通常、65℃近傍の温度で、半導体ウエハに貼付される。
【0040】
したがって、65℃で300秒保持後に中間層内に残留する応力が上記の範囲内であることにより、貼付された基材から引き受けた残留応力が中間層内で十分に緩和される。なお、「65℃で300秒保持後の中間層の残留応力」は、中間層の温度が65℃で300秒間維持された後に測定される中間層の残留応力を意味する。
【0041】
65℃で300秒保持後の中間層の残留応力は6000Pa以下であることが好ましく、5000Pa以下であることがより好ましい。また、65℃で300秒保持後の中間層の残留応力は1Pa以上であることが好ましい。
【0042】
本実施形態では、65℃で300秒保持後の中間層の残留応力は以下のようにして測定することができる。中間層を構成する材料を所定の大きさの試料とし、動的粘弾性測定装置により、温度が65℃である試料を捻って試料にせん断ひずみを与える。ひずみを与えてから300秒後のせん断応力を測定し、測定されたせん断応力を65℃で300秒保持後の中間層の残留応力とする。
【0043】
(3.2 65℃における損失正接)
本実施形態では、65℃における中間層の損失正接(tanδ)は0.6以上であることが好ましい。損失正接は、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で定義され、動的粘弾性測定装置により対象物に与えた応力に対する応答によって測定される値である。65℃における中間層の損失正接が上記の範囲内であることにより、基材から引き受けた残留応力が熱として消費されるので、半導体ウエハの反りを抑制することができる。
【0044】
65℃における中間層の損失正接は0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。また、65℃における中間層の損失正接は3.0以下であることが好ましい。
【0045】
65℃における中間層の損失正接は、公知の方法により測定すればよい。たとえば、中間層を所定の大きさの試料とし、動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲において、所定の周波数で試料にひずみを与えて、弾性率を測定し、測定された弾性率から、損失正接を算出することができる。
【0046】
(3.3 中間層用組成物)
中間層は上記の物性を有していれば、中間層の組成は特に限定されないが、本実施形態では、中間層は樹脂を有する組成物(中間層用組成物)から構成されていることが好ましい。中間層用組成物は、以下に示す成分を含有していることが好ましい。
【0047】
(3.3.1 ウレタン(メタ)アクリレート)
ウレタン(メタ)アクリレートは、少なくとも(メタ)アクリロイル基およびウレタン結合を有する化合物であり、エネルギー線照射により重合する性質を有している。本実施形態では、ウレタン(メタ)アクリレートは、中間層に柔軟性を与え、残留応力を低減する特性を与えるために用いられる成分である。なお、本明細書においては、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0048】
ウレタン(メタ)アクリレートは、単官能型であってもよいし、多官能型であってもよい。本実施形態では、多官能型ウレタン(メタ)アクリレートが好ましく、中間層の残留応力を上記の範囲内とする観点から、2官能型ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0049】
ウレタン(メタ)アクリレートは、オリゴマーであってもよいし、ポリマーであってもよいし、これらの混合物であってもよい。本実施形態では、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレートは、たとえば、ポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることができる。なお、ウレタン(メタ)アクリレートは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
中間層用組成物中のウレタン(メタ)アクリレートの含有割合は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、中間層用組成物中のウレタン(メタ)アクリレートの含有割合は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
(3.3.2 重合性単量体)
重合性単量体は、上記のウレタン(メタ)アクリレート以外の重合性化合物であって、エネルギー線の照射により他の成分と重合可能な化合物であることが好ましい。具体的には、重合性単量体は、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましい。
【0053】
重合性単量体としては、たとえば、炭素数が1~30であるアルキル基を有する(メタ)アクリレート;水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリレート;脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;芳香族構造を有する(メタ)アクリレート;複素環式構造を有する(メタ)アクリレート;スチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のビニル化合物が挙げられる。
【0054】
炭素数が1~30であるアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0055】
官能基を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有化合物;第1級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第2級アミノ基含有(メタ)アクリレート、第3級アミノ基含有(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0056】
脂環式構造を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
芳香族構造を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、フェニルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0058】
複素環式構造を有する(メタ)アクリレートとしては、たとえば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
本実施形態では、重合性単量体には、炭素数が1~30であるアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび脂環式構造を有する(メタ)アクリレートが含まれることが好ましい。中間層の残留応力を上記の範囲内とする観点から、炭素数が4~14であるアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、脂環式構造を有する(メタ)アクリレートとして、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0060】
なお、中間層用組成物に架橋剤が含まれる場合、架橋剤と反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートは好ましくない。架橋反応により形成される架橋構造が、中間層の残留応力を高める可能性があるからである。たとえば、ポリイソシアネート系架橋剤と、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを含む中間層用組成物は好ましくない。
【0061】
中間層用組成物中の重合性単量体の含有割合は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、中間層用組成物中の重合性単量体の含有割合は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
また、ウレタン(メタ)アクリレートと重合性単量体との合計100質量部におけるウレタン(メタ)アクリレートと重合性単量体との質量比(ウレタン(メタ)アクリレート/重合性単量体)は、20/80から80/20であることが好ましく、30/70から70/30であることがより好ましい。
【0063】
(3.3.3 光重合開始剤)
中間層用組成物が上記のウレタン(メタ)アクリレートおよび重合性単量体を含む場合、中間層用組成物は光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤を含むことにより、重合が確実に進行し、上述した特性を有する中間層を容易に得ることができる。
【0064】
光重合開始剤としては、たとえば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光重合開始剤、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられる。具体的には、たとえば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
光重合開始剤の配合量は、ウレタン(メタ)アクリレートおよび重合性単量体の合計100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
【0066】
(3.3.4 連鎖移動剤)
中間層用組成物は連鎖移動剤を含有することが好ましい。連鎖移動剤は、連鎖移動反応を起こすことができ、中間層用組成物の硬化反応の進行を調整することができる。連鎖移動剤を含有することにより、硬化後においても、分子鎖の短い成分が比較的残存することが可能となるので、硬化後の重合体が比較的柔軟性を有する構造を有する。その結果、中間層に掛かる残留応力を十分緩和することができ、中間層の残留応力を上記の範囲内とすることが容易となる。
【0067】
連鎖移動剤としては、たとえば、チオール基含有化合物が挙げられる。チオール基含有化合物としては、ノニルメルカプタン、1-ドデカンチオール、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、トリアジンチオール、トリアジンジチオール、トリアジントリチオール、1,2,3-プロパントリチオール、テトラエチレングリコール-ビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグルコレート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオンが挙げられる。連鎖移動剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
連鎖移動剤の配合量は、ウレタン(メタ)アクリレートおよび重合性単量体の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0069】
(4.粘着剤層)
粘着剤層は、半導体ウエハの回路面に貼付され、回路面から剥離されるまで、回路面を保護し、半導体ウエハを支持する。粘着剤層は1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。粘着剤層が複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0070】
粘着剤層の厚さは、特に制限されないが、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上30μm以下である。なお、粘着剤層の厚さは、粘着剤層全体の厚さを意味する。たとえば、複数層から構成される粘着剤層の厚さは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0071】
粘着剤層の組成は、半導体ウエハの回路面を保護できる程度の粘着性を有していれば限定されない。本実施形態では、粘着剤層は、たとえば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等から構成されることが好ましい。
【0072】
また、粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることが好ましい。半導体加工用保護シートの粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成されることにより、半導体ウエハに貼付する際には高い粘着力で半導体ウエハに貼り付き、半導体ウエハから剥離される際には、エネルギー線を照射することで粘着力を低下させることができる。そのため、半導体ウエハの回路等を適切に保護しつつ、半導体加工用保護シートを剥離する際、半導体ウエハ表面の回路を破壊したり、粘着剤を半導体ウエハ上に転着したりすることが防止される。
【0073】
本実施形態では、エネルギー線硬化性粘着剤は、アクリル系粘着剤を含む粘着剤組成物から構成されることが好ましい。アクリル系粘着剤としては、アクリル系重合体を用いることが好ましい。
【0074】
アクリル系重合体としては、公知のアクリル系重合体であればよいが、本実施形態では、官能基含有アクリル系重合体が好ましい。官能基含有アクリル系重合体は、1種類のアクリル系モノマーから形成された単独重合体であってもよいし、複数種類のアクリル系モノマーから形成された共重合体であってもよいし、1種類または複数種類のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外のモノマーとから形成された共重合体であってもよい。
【0075】
本実施形態では、官能基含有アクリル系重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと官能基含有モノマーとを共重合したアクリル系共重合体であることが好ましい。
【0076】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
官能基含有モノマーは、反応性官能基を含有するモノマーである。反応性官能基は、後述する架橋剤等の他の化合物と反応することが可能な官能基である。官能基含有モノマー中の官能基としては、たとえば、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基が挙げられ、水酸基が好ましい。
【0078】
水酸基含有モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;ビニルアルコール、アリルアルコール等の非(メタ)アクリル系不飽和アルコール((メタ)アクリロイル骨格を有しない不飽和アルコール)が挙げられる。
【0079】
粘着剤組成物は、さらに、エネルギー線硬化性基を有するエネルギー線硬化性化合物を含むことが好ましい。エネルギー線硬化性基を有するエネルギー線硬化性化合物としては、イソシアネート基、エポキシ基及びカルボキシ基から選ばれる1種または2種以上を有する化合物が好ましく、イソシアネート基を有する化合物がより好ましい。
【0080】
イソシアネート基を有する化合物としては、たとえば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物又はポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物又はポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物等が挙げられる。イソシアネート基は官能基含有アクリル系重合体の水酸基に付加反応する。
【0081】
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、たとえば、官能基と反応して、官能基含有アクリル系重合体に含まれる樹脂同士を架橋する。
【0082】
架橋剤としては、たとえば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤(イソシアネート基を有する架橋剤);エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤(グリシジル基を有する架橋剤);ヘキサ[1-(2-メチル)-アジリジニル]トリフォスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤(アジリジニル基を有する架橋剤);アルミニウムキレート等の金属キレート系架橋剤(金属キレート構造を有する架橋剤);イソシアヌレート系架橋剤(イソシアヌル酸骨格を有する架橋剤)等が挙げられる。
【0083】
粘着剤の凝集力を向上させて粘着剤層の粘着力を向上させる点、及び入手が容易である等の点から、架橋剤はイソシアネート系架橋剤であることが好ましい。
【0084】
粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有していてもよい。粘着剤組成物が光重合開始剤を含有することにより、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線を照射しても、十分に硬化反応が進行する。
【0085】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられる。具体的には、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示される。
【0086】
(5.半導体加工用保護シートの製造方法)
本実施形態に係る半導体加工用保護シートを製造する方法は、基材の一方の面に中間層および粘着剤層を積層して形成できる方法であれば特に制限されず、公知の方法を用いればよい。
【0087】
まず、中間層を形成するための組成物として、たとえば、上述した成分を含有する中間層用組成物、または、当該中間層用組成物を溶媒等により希釈した組成物を調製する。同様に、粘着剤層を形成するための粘着性組成物として、たとえば、上述した成分を含有する粘着性組成物、または、当該粘着性組成物を溶媒等により希釈した組成物を調製する。
【0088】
溶媒としては、たとえば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等の有機溶剤が挙げられる。
【0089】
そして、中間層用組成物等を、基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の公知の方法により塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を硬化させて基材上に中間層を形成する。本実施形態では、塗布膜の硬化は、エネルギー線の照射により行うことが好ましい。エネルギー線としては、たとえば、紫外線、電子線が挙げられ、紫外線が好ましい。
【0090】
さらに、本実施形態では、エネルギー線の照射を複数回行って塗布膜を硬化させることが好ましい。このようにすることにより、中間層の硬化度合いを制御することができ、中間層の残留応力を上記の範囲内とすることが容易となる。
【0091】
具体的には、塗布膜を酸素から遮断した状態で、エネルギー線の照射を複数回行うことが好ましい。
【0092】
また、エネルギー線が紫外線である場合、1回目に行う紫外線の照射条件は、紫外線の照度が好ましくは30~500mW/cm、より好ましくは50~340mW/cmであり、紫外線の照射量が好ましくは100~2500mJ/cm、より好ましくは150~2000mJ/cmである。
【0093】
2回目に行う紫外線の照射条件は、照度および照射量が、1回目の照射における照度および照射量よりも大きいことが好ましい。
【0094】
このようにして硬化形成した中間層の上に、粘着性組成物等を公知の方法により塗布し、加熱し乾燥させて、基材上に中間層および粘着剤層がこの順で形成された半導体加工用保護シートを製造する。
【0095】
また、以下のようにして、半導体加工用保護シートを製造してもよい。すなわち、一方の剥離シートの剥離処理面に、中間層用組成物等を塗布して形成される塗布膜を上記のように硬化させて剥離シート上に中間層を形成する。
【0096】
他方の剥離シートの剥離処理面に、粘着性組成物等を塗布し、加熱し乾燥させて剥離シート上に粘着剤層を形成する。その後、一方の剥離シート上の中間層と基材とを貼り合わせて、剥離シートを除去する。続いて、中間層と、他方の剥離シート上の粘着剤層とを貼り合わせて、基材上に、中間層、粘着剤層および剥離シートがこの順に設けられた半導体加工用保護シートを製造してもよい。剥離シートは、半導体加工用保護シートの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
【0097】
(6.半導体装置の製造方法)
本実施形態に係る半導体加工用保護シートを用いた半導体装置の製造方法としては、本実施形態に係る半導体加工用保護シートを、残留応力が生じた半導体ウエハに貼付する工程と、当該半導体加工用保護シートが貼付された半導体ウエハの剛性を低下させる工程と、を有していれば特に制限されない。
【0098】
本実施形態に係る半導体加工用保護シートを半導体ウエハに貼付する工程としては、たとえば、半導体ウエハにおいて、回路が形成された面に本実施形態に係る半導体加工用保護シートを貼付する工程が好ましい。
【0099】
また、半導体ウエハの剛性を低下させる工程としては、たとえば、半導体ウエハを研削して、半導体ウエハの厚みを薄くする工程が例示される。
【0100】
以下に、本実施形態に係る半導体加工用保護シートを用いた半導体装置の製造方法の一例として、残留応力が生じた半導体ウエハから半導体装置を製造する方法を図2から図4を用いて説明する。
【0101】
まず、半導体ウエハを準備する。半導体ウエハとしては、公知のウエハであればよい。また、半導体ウエハの研削前の厚みは、通常、500~1000μm程度である。また、半導体ウエハの研削後の厚みは、100~300μmであることが好ましい。
【0102】
本実施形態では、残留応力が生じた半導体ウエハとしては、上述した回路保護層が形成された半導体ウエハである。回路保護層は、通常、回路保護層を構成する組成物を塗布し熱硬化して形成される。熱硬化時には、当該組成物が収縮するので、回路面側に半導体ウエハを曲げようとする力、すなわち、残留応力が作用する。したがって、図2に示すように、回路保護層形成後の半導体ウエハには、回路保護層51に残留応力RS1が生じている。なお、本実施形態に係る半導体加工用保護シートが貼付される回路面には、バンプ、ピラー電極等の凸状電極が形成されていてもよい。
【0103】
続いて、半導体ウエハの裏面研削前に、図2に示すように、回路保護層51が形成された半導体ウエハ50の回路側の面、すなわち、回路保護層51の表面51aに、半導体加工用保護シート1を貼付して、研削に起因する悪影響から回路面を保護する。このとき、半導体加工用保護シート1を引張りながら回路面に貼付する。したがって、貼付後の半導体加工用保護シート1、特に、剛性の高い基材に、当該基材が収縮する方向に作用する残留応力RS2が生じる。
【0104】
図4に示すように、この残留応力RS2により基材10は収縮し、基材10に生じた残留応力は解消されるが、基材10の変形により、基材上に形成されている中間層20に残留応力RS2が生じる。しかしながら、本実施形態では、中間層は上述した特性を有しているので、中間層においてその残留応力の大部分は緩和され、上述した値以下となる。また、回路面に凸状電極が形成されている場合、中間層が残留応力を緩和しつつ、回路面の段差に十分追従して凸状電極を保護することができる。
【0105】
その後、半導体加工用保護シート1が貼付された半導体ウエハの裏面研削を行う。半導体ウエハが薄くなって半導体ウエハの剛性が低下すると、半導体ウエハの残留応力に起因する反りが生じる。基材の剛性が低い場合には、図3Cに示すように、半導体ウエハのハンドリング性に影響しない程度にまで反りを低減できる。基材の剛性が高い場合には、図3Dに示すように、半導体ウエハに生じた残留応力に起因する反りの一部をも抑え込むことができる。したがって、次工程への搬送が容易となり、半導体ウエハの破損が防止される。
【0106】
裏面研削後の半導体ウエハは公知の方法により個片化され、複数の半導体チップとなる。得られた半導体チップは所定の方法により基板上に実装され、半導体装置が得られる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例
【0108】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
本実施例における測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0110】
(中間層の残留応力)
後述の中間層用組成物をナイフ方式により、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET382150、厚み38μm)の上に厚みが400μmになるように塗工して中間層用組成物層を形成した。次に、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET381130、厚み38μm)により、形成した中間層用組成物層をラミネートして中間層用組成物層を酸素から遮断した。続いて、高圧水銀ランプを用いて、照度80mW/cm、照射量200mJ/cmの条件で紫外線照射を行った後、メタルハライドランプを用いて、照度330mW/cm、照射量1260mJ/cmの条件で紫外線照射を行うことにより中間層用組成物層を硬化させ、厚さ400μmの中間層を得た。この中間層を積層して、約0.8mm厚の測定用試料を作製した。残留応力測定は、Anton Paar社製レオメーターMCR302を用いて行った。測定条件は以下の通りである。パラレルプレートにより上下から試料を挟み込み、測定温度65℃、ギャップ1mm、歪み100%の条件で、試料にせん断応力を加えて、所定の時間保持した。緩和時間300秒後における中間層のせん断応力値を残留応力値とした。
【0111】
(中間層の損失正接)
残留応力測定用試料と同様にして、損失正接測定用試料を作製した。損失正接(tanδ)は、Anton Paar社製レオメーターMCR302を用いて行った。測定条件は以下の通りである。パラレルプレートにより上下から試料を挟み込み、測定温度0~100℃、ギャップ1mm、歪み0.05~0.5%、角周波数1Hzの条件で、試料にせん断応力を加えて測定し、それらの値から65℃における損失正接(tanδ)を算出した。
【0112】
(ウエハ反り評価)
12インチのシリコンウエハに、擬似的な回路保護層として、リンテック社製、LC2850(厚み25μm)を2枚貼付し、180℃で3時間加熱したのち、室温まで徐冷した。このシリコンウエハを擬似回路保護層が形成されたシリコンウエハとした。この回路保護層が形成されたシリコンウエハに汎用的なバックグラインドテープを保護層側に貼付して、厚みが250μmになるまで研削した。研削後、テープを剥離すると、約9.0mm反ることが確認された。
【0113】
擬似回路保護層が形成されたシリコンウエハの擬似回路保護層の面に、実施例および比較例で作製した半導体加工用保護シートを65℃において貼付し、厚みが250μmになるまで半導体加工用保護シートを貼付した面の反対側の面を研削した。すなわち、研削後のシリコンウエハの厚みは200μmであった。
【0114】
半導体加工用保護シート貼付面(擬似回路保護層面)を上にして平板上に置き、シリコンウエハの裏面と平板との最大距離を測定し、シリコンウエハの反りを評価した。本実施例では、バックグラインドテープ剥離後の反り量(9.0mm)との差分を算出し、反り量差が5.0mm以下である試料を良好であると判断し、反りが5.0mm超である試料を不良であると判断した。
【0115】
(実施例1)
ウレタンアクリレート系オリゴマー(CN9021 NS、アルケマ株式会社製)65質量部と、イソボルニルアクリレート25質量部と、ドデシルアクリレート10質量部との合計100質量部に対して、光重合開始剤(イルガキュア1173、BASF社製)3.4質量部と、連鎖移動剤(カレンズMT PE1、昭和電工株式会社製)1.0質量部とを配合して中間層用組成物を得た。
【0116】
得られた中間層用組成物をナイフ方式により、基材であるPETフィルム(東レ株式会社製、厚み75μm)の上に厚みが400μmになるように塗工して中間層用組成物層を形成した。次に、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET752150、厚み75μm)により形成した中間層用組成物層をラミネートして中間層用組成物層を酸素から遮断した。続いて、高圧水銀ランプを用いて、照度80mW/cm、照射量200mJ/cmの条件で紫外線照射を行った後、メタルハライドランプを用いて、照度330mW/cm、照射量1260mJ/cmの条件で紫外線照射を行うことにより中間層用組成物層を硬化させ、基材であるPETフィルム上に厚さ400μmの中間層を形成した。
【0117】
なお、基材であるPETフィルムの引張貯蔵弾性率は4.0×10N/mであった。したがって、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚み(75μm)との積は、3.0×10(N/m)であった。
【0118】
次に、アクリル系共重合体(日本合成化学工業株式会社製、組成:2EHA/EA/MMA//HEA-MOI%=60/15/5/20//60%, Mw=800,000)100質量部に対して、架橋剤としてのトリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネート(東ソー社製,コロネートL)を1.1質量部、光重合開始剤としての2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製,Irgacure651)を2.2質量部添加し、さらにトルエンを加えて固形分濃度が30%となるように調整し、30分間撹拌を行って粘着剤組成物を調製した。
【0119】
次いで、調製した粘着剤組成物の溶液を、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET382150、厚み38μm)に塗布し、乾燥させて厚さ10μmの粘着剤層を形成し、粘着シートを作製した。
【0120】
上記で得られた中間層を有する基材上の剥離フィルムを除去し、中間層と粘着シートの粘着層とを貼り合せて、半導体加工用保護シートを作製した。
【0121】
(実施例2)
中間層用組成物として、ウレタンアクリレート系オリゴマー(CN9021 NS、アルケマ株式会社製)65質量部と、イソボルニルアクリレート35質量部との合計100質量部に対して、光重合開始剤(イルガキュア1173、BASF社製)3.4質量部と、連鎖移動剤(カレンズMT PE1、昭和電工株式会社製)1.0質量部とを配合した組成物を使用した以外は実施例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0122】
(実施例3)
中間層用組成物として、ウレタンアクリレート系オリゴマー(CN9021 NS、アルケマ株式会社製)65質量部と、イソボルニルアクリレート35質量部との合計100質量部に対して、光重合開始剤(イルガキュア1173、BASF社製)3.4質量部と、連鎖移動剤(カレンズMT PE1、昭和電工株式会社製)0.9質量部とを配合した組成物を使用した以外は実施例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0123】
(実施例4)
中間層用組成物として、ウレタンアクリレート系オリゴマー(CN9021 NS、アルケマ株式会社製)65質量部と、イソボルニルアクリレート25質量部と、ドデシルアクリレート10質量部との合計100質量部に対して、光重合開始剤(イルガキュア1173、BASF社製)3.4質量部を配合した組成物を使用した以外は実施例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0124】
(実施例5、6)
基材の厚みを表1に示す厚みとした以外は、実施例4と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0125】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で得られた中間層用組成物をナイフ方式により、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET382150、厚み38μm)の上に厚みが400μmになるように塗工して中間層用組成物層を形成した。次に、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET381130、厚み38μm)により、形成した中間層用組成物層をラミネートして中間層用組成物層を酸素から遮断した。続いて、高圧水銀ランプを用いて、照度80mW/cm、照射量200mJ/cmの条件で紫外線照射を行った後、メタルハライドランプを用いて、照度330mW/cm、照射量1260mJ/cmの条件で紫外線照射を行うことにより中間層用組成物層を硬化させた。さらに、PET系剥離フィルム(リンテック社製、SP-PET381130、厚み38μm)を中間層から剥離し、中間層表面と基材であるPETフィルム(東レ株式会社製、厚み2μm)を貼り合せることで、PETフィルム上に厚さ400μmの中間層が積層された構成を得た。以降の操作は実施例1と同様の方法にて、半導体加工用保護シートを作製した。
【0126】
(実施例8)
実施例4と同様の方法で得られた中間層用組成物を使用した以外は、実施例7と同様の方法にて、半導体加工用保護シートを作製した。
【0127】
(比較例1)
中間層用組成物として、ウレタンアクリレート系オリゴマー(CN9021 NS、アルケマ株式会社製)65質量部と、イソボルニルアクリレート25質量部と、ドデシルアクリレート10質量部との合計100質量部に対して、光重合開始剤(イルガキュア1173、BASF社製)3.4質量部を配合した組成物を使用した以外は実施例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0128】
(比較例2および3)
基材の厚みを表1に示す厚みとした以外は、比較例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0129】
(比較例4)
基材の厚みを表1に示す厚みとした以外は、実施例1と同様の方法にて半導体加工用保護シートを作製した。
【0130】
得られた試料(実施例1~8および比較例1~4)に対して、上記の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1より、基材の引張貯蔵弾性率と基材の厚みとの積が上述した範囲内であり、かつ65℃で300秒保持後の中間層の残留応力が上述した範囲内である場合には、残留応力が生じたウエハの反りを抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0133】
1…半導体加工用保護シート
10…基材
20…中間層
30…粘着剤層
50…半導体ウエハ
51…回路面保護層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4