(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】複合表面処理無機粉体及びその製造方法、その無機粉体を配合した油性分散体及び化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/25 20060101AFI20240917BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20240917BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/896 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/27 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20240917BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K8/25
A61Q1/12
A61Q17/04
A61K8/896
A61K8/41
A61K8/29
A61K8/27
A61K8/26
A61K8/19
(21)【出願番号】P 2021519372
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018283
(87)【国際公開番号】W WO2020230650
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019089877
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】神田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】亀井 優一
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/077673(WO,A1)
【文献】特開2002-173611(JP,A)
【文献】国際公開第2014/102862(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C09C 3/12
C01B 33/149
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を主体とする基材粉体が、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理されて
おり、
前記基材粉体はシリカであり、
前記カチオン界面活性剤は、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム及び塩化ベンザルコニウムからなる群から選択される1種又は2種以上を含み、
前記カチオン界面活性剤の表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.1~5.0質量部であり、
前記アミノ変性シリコーンの表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.5~5.0質量部である、化粧料に配合される複合表面処理無機粉体。
【請求項2】
前記基材粉体の平均粒子径が1~15μmである請求項1に記載の複合表面処理無機粉体。
【請求項3】
前記カチオン界面活性剤の表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.1~2.0質量部である、請求項1または請求項2に記載の複合表面処理無機粉体。
【請求項4】
平均粒子変形率が20%以上である請求項1
から請求項3までのいずれか1項に記載の複合表面処理無機粉体。
【請求項5】
前記カチオン界面活性剤が、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムである請求項
1から請求項4までのいずれか1項に記載の複合表面処理無機粉体。
【請求項6】
請求項1から
請求項5までのいずれか1項に記載の複合表面処理無機粉体が配合されている油性分散体。
【請求項7】
請求項1から
請求項5までのいずれか1項に記載の複合表面処理無機粉体が配合されている化粧料。
【請求項8】
無機材料を主体とする基材粉体の表面の少なくとも一部を、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理することを
含み、
前記基材粉体はシリカであり、
前記カチオン界面活性剤は、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム及び塩化ベンザルコニウムからなる群から選択される1種又は2種以上を含み、
前記カチオン界面活性剤の表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.1~5.0質量部であり、
前記アミノ変性シリコーンの表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.5~5.0質量部である、化粧料に配合される複合表面処理無機粉体の製造方法。
【請求項9】
前記基材粉体の平均粒子径が1~15μmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記カチオン界面活性剤の表面処理量は、前記基材粉体100質量部に対して0.1~2.0質量部である、請求項8または請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料を主体とする基材粉体を特定の化合物で表面処理して得られる複合表面処理無機粉体に関し、特に基材粉体をカチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理することにより、樹脂ビーズと同等の柔らかさを備え、肌への付着性に優れた複合表面処理無機粉体及びその製造方法、その無機粉体が配合されている油性分散体及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの化粧料には、柔らかさ、しっとり感やさらさら感といった感触を与えることにより、使用時の感触を向上させる目的で、ナイロンパウダーやシリコーンビーズなどの樹脂ビーズ(マイクロプラスチックの一種)が配合されている。しかしながら、近年、マイクロプラスチックによる海洋環境の汚染が問題視されるようになっていることから、マイクロプラスチックを含有しない化粧料が求められている。
【0003】
このため、使用感を向上させる目的で化粧料に配合する樹脂ビーズ以外の粉体材料としては、例えば特開2004-182729号公報(特許文献1)、特開2009-062324号公報(特許文献2)に記載されているように、アミノ変性シリコーンで表面処理した粉体が開発されている。また同様に、例えば特開2008-291026号公報(特許文献3)に記載されているように、カチオン界面活性剤を吸着させた粉体も開発されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載された化粧料配合用の粉体は、上述した樹脂ビーズに比べると、柔らかさ、しっとり感やさらさら感といった使用感において十分に満足のいくものではなく、特に樹脂ビーズ特有の柔らかさを得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-182729号公報
【文献】特開2009-062324号公報
【文献】特開2008-291026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の感触を化粧料に付与することが可能な化粧料用粉体及びその製造方法を提供すること、若しくは当該材料を油性分散体又は化粧料に配合することにより、樹脂ビーズを配合することなく使用時の感触に優れる油性分散体又は化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の感触を化粧料に付与することができる代替材料及びその表面処理材料などについて鋭意研究を重ねた結果、無機材料を主体とする基材粉体にカチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンを表面処理すれば、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の性能を有する複合表面処理無機粉体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、無機材料を主体とする基材粉体の表面の少なくとも一部を、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理することにより、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理された無機材料を主体とする基材粉体からなる複合表面処理無機粉体が提供される。
【0009】
本発明により得られた複合表面処理無機粉体は、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の肌への付着性と、使用時の肌への優れた感触を有しており、さらに化粧料に配合した場合は樹脂ビーズと同等又はそれ以上の感触を化粧料に付与することができる。
【0010】
本発明の複合表面処理無機粉体は、基材として無機材料を主体とする基材粉体に特殊な複合表面処理を施しているので、そのような表面処理を施さない無機粉体に比べて平均粒子変形率が20%以上、より好ましくは23%以上という極めて柔らかな特性を有している。また、そのような平均粒子変形率を達成する基材粉体としては、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ及び酸化鉄からなる群から選択される1種又は2種以上を含むものが挙げられる。
【0011】
本発明の複合表面処理無機粉体は、表面処理剤の1つとしてカチオン界面活性剤を使用することにより、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の肌への付着性と、使用時の肌への優れた感触特性を得ることができる。
【0012】
表面処理剤として使用できるカチオン界面活性剤の種類は特に限定されないが、上記特性を得るためには、炭素数が8から26の長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩を使用することが好ましい。この中でも、長鎖アルキル基を2つ有するものがより好ましい。
【0013】
使用できるカチオン界面活性剤の具体例としては、例えば塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどを挙げることができ、この中でも、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムを使用することが特に好ましい。
【0014】
カチオン界面活性剤の表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.1~2.0質量部であることがより好ましい。このような範囲の処理量で表面処理を施すことによって、さらに使用時の感触が良好な複合表面処理無機粉体を得ることができる。また、表面処理量が少な過ぎる場合は、肌への付着性が良好でなく、塗布後の化粧料が落ち易くなる場合がある。一方、表面処理量が多過ぎる場合は、肌に塗布した際にべたつく等、感触面での不都合を生じる場合がある。なお、本願明細書において「~」を用いて示された数値(比率)範囲は、「~」の前後に記載される数値(比率)をそれぞれ最小値(比率)及び最大値(比率)として含む範囲を示している。
【0015】
本発明の複合表面処理無機粉体は、表面処理剤の他の1つとしてアミノ変性シリコーンを使用することにより、樹脂ビーズと同等又はそれ以上の柔らかい感触を得ることができる。
【0016】
アミノ変性シリコーンの表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.5~5.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。このような範囲の処理量で表面処理を施すことによって、複合表面処理無機粉体の感触を非常に良好なものにすることができる。表面処理量が少な過ぎる場合は、肌への塗布時に基材である無機材料特有の固さを感じ易く、感触が劣る場合がある。一方、表面処理量が多過ぎる場合は、肌への塗布時にべたつきを感じるなど、やはり感触が劣る場合がある。
【0017】
また、本発明の複合表面処理無機粉体を配合すれば、樹脂ビーズを配合したのと同等又はそれ以上の柔らかさ、しっとり感やさらさら感といった使用感を発現する油性分散体や化粧料を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無機材料を主体とする基材粉体の表面の少なくとも一部を、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理することにより、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンで表面処理された無機材料を主体とする基材粉体からなる複合表面処理無機粉体が提供される。
【0019】
その結果、本発明によれば、シリカなどの無機材料を基材としながら、有機物質である樹脂ビーズと同等又はそれ以上の柔らかさを有しており、かつ肌への付着性に優れた複合表面処理無機粉体を得ることができる。
【0020】
また、本発明によれば、本発明の複合表面処理無機粉体を配合することにより、樹脂ビーズを配合したのと同等又はそれ以上の柔らかさ、しっとり感やさらさら感といった使用感を発現する油性分散体や化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の複合表面処理無機粉体及びその製造方法、その無機粉体が配合されている油性分散体及び化粧料について具体例を交えながら詳細に説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0022】
(基材粉体)
本発明の複合表面処理無機粉体の基材として使用可能な無機材料は特に制限されず、例えばシリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化鉄などを使用することができる。この中でも、特にシリカが好ましい。
【0023】
また、基材粉体は、レーザー回折光散乱法で測定される平均粒子径が、0.1~50μmの範囲であるものが好ましく、0.3~30μmの範囲のものがより好ましく、1~15μmの範囲ものが更に好ましい。平均粒子径が0.1μmより小さいと、粒子同士が凝集し易いことによって均一な表面処理がなされず、感触が向上し難い場合があり、50μmより大きいと物理的なざらつき感が強くなる場合がある。なお、後述の実施例では、基材粉体をメタノールに添加し、1分間超音波照射して分散させたのち、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製:マイクロトラックHRA)を用いて、平均粒子径を測定した。
【0024】
さらに、基材粉体の粒子形状は、通常化粧料に用いられるものであれば、球状、略球状、半球状、紡錘状、針状、板状、多面体状、星型状などいずれの形状でも良いが、球状、略球状、半球状などの丸みのある形状が好ましい。また、基材粉体の粒子は、無孔質、多孔質のいずれでもよい。
【0025】
(カチオン界面活性剤)
本発明の複合表面処理無機粉体において、表面処理剤としてカチオン界面活性剤を使用することで、肌への付着性が良好な、使用時の感触に優れる複合表面処理無機粉体を得ることができる。
【0026】
表面処理剤として使用できるカチオン界面活性剤の種類は特に限定されないが、炭素数が8から26の長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩を使用することが好ましい。この中でも、長鎖アルキル基を2つ有するものがより好ましい。
【0027】
使用できるカチオン界面活性剤の具体例として、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシロキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどが挙げられる。この中でも、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムを使用することが特に好ましい。
【0028】
カチオン界面活性剤の表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.1~2.0質量部であることがより好ましい。このような範囲の処理量で表面処理を施すことによって、さらに使用時の感触が良好な複合表面処理無機粉体を得ることができる。また、表面処理量が少な過ぎる場合は、肌への付着性が良好でなく、塗布後の化粧料が落ち易くなる場合がある。一方、表面処理量が多過ぎる場合は、肌に塗布した際にべたつく等、感触面での不都合を生じる場合がある。
【0029】
(アミノ変性シリコーン)
本発明の複合表面処理無機粉体において、表面処理剤としてアミノ変性シリコーンを使用することで、複合表面処理無機粉体に柔らかい感触を付与することができる。
【0030】
表面処理剤として使用できるアミノ変性シリコーンの市販品の例として、信越化学工業社製のKF-8004、KF-8005S、KF-8015、KF-867S、X-52-2265、X-52-2328、ダウ・東レ社のDOWSIL(登録商標) SM8904Cosmetic Emulsion、SF8452C、SS-3551、ワッカー・ケミー社製のBELSIL(登録商標) ADM1370、ADM1650、ADM8103E、ADM8104E、ADM8105E、ADM9700E、ADM6300E、ADM6057E、ADM8301E、ADM6102E、ADM9000E、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社のXF42-B1989、XF42-B8922、XF42-C0330、SF1708、XF49-C1109、Silsoft(登録商標) AX、Silsoft A+などが挙げられる。
【0031】
アミノ変性シリコーンの表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.5~5.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。このような範囲の処理量で表面処理を施すことによって、複合表面処理無機粉体の感触を非常に良好なものにすることができる。表面処理量が少な過ぎる場合は、肌への塗布時に基材である無機材料特有の固さを感じ易く、感触が劣る場合がある。一方、表面処理量が多過ぎる場合は、肌への塗布時にべたつきを感じるなど、やはり感触が劣る場合がある。
【0032】
(表面処理方法)
本発明の複合表面処理無機粉体を得るための表面処理方法は、基材粉体や表面処理剤の物性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、基材粉体を分散媒に分散させ、表面処理剤を添加して撹拌したのち、ろ過、乾燥する方法でもよいし、乾燥状態の粉体に表面処理剤を添加して混合する方法でもよく、これらに限定されない。なお、カチオン界面活性剤で表面処理を行う際には、水を含む分散媒を用いることが好ましい。
【0033】
(平均粒子変形率)
本発明の複合表面処理無機粉体は、以下の方法で得られる平均粒子変形率が20%以上、より好ましくは23%以上であることが好ましい。このような平均粒子変形率を付与することで、表面処理を施さない無機粉体に比べて極めて柔らかな特性を備え、そして優れた感触を有する複合表面処理無機粉体とすることができる。
【0034】
(平均粒子変形率の算出方法)
平均粒子変形率を算出するための測定は、JIS Z8844(微小粒子の破壊強度及び変形強度の測定方法)に記載された方法に準じて行う。
まず、複合表面処理無機粉体から粒子をランダムにサンプリングし、試料台にセットする。
次に、圧子の先端を試料粒子に接触させた状態で、試料台と圧子の間の距離を測定し、これを試料粒子の粒子径D(μm)とする。
次に、試験力(粒子を圧子で圧縮するときに加える力)を5mNとして試料粒子を圧縮し、そのときの変位X(μm)を測定する。
変位X(μm)と、試料粒子の粒子径D(μm)から、以下の式に基づいて、試料粒子の粒子変形率を算出する。
式:粒子変形率(%)=変位X(μm)/試料粒子の粒子径D(μm)×100
この測定を5個の試料粒子に対して行い、得られる粒子変形率の平均値を平均粒子変形率とする。
【0035】
(化粧料)
本発明の複合表面処理無機粉体をファンデーションなどの化粧料に配合することにより、或いは本発明の複合表面処理無機粉体を油性分散体に配合し、前記油性分散体をファンデーションなどの化粧料に配合することにより、使用時の感触が優れた化粧料を得ることができる。
【実施例】
【0036】
1.化粧料用粉体の作製
(実施例1)
<工程1:カチオン界面活性剤での表面処理>
平均粒子径が5μmであるシリカ粉体(AGCエスアイテック社製:サンスフェアNP-30)100gをイオン交換水1000gに分散し、80℃に加熱後、濃度75質量%の塩化ジステアリルジメチルアンモニウム(日光ケミカルズ社製:NIKKOL CA-3475V)1.3gを投入して60分間撹拌し、ろ過、水洗後、乾燥機に入れて85℃で20時間乾燥させた。なお、日光ケミカルズ社製:NIKKOL CA-3475Vは、濃度75質量%の塩化ジステアリルジメチルアンモニウムである。
<工程2:アミノ変性シリコーンでの表面処理>
工程1で得られた粉体を卓上ブレンダーに入れ、そこにアミノ変性シリコーン(信越化学工業社製:KF-8004)2.0gを投入して20分間撹拌し、乾燥機に入れて120℃で3時間乾燥したのち、粉砕を行うことで、実施例1の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0037】
(実施例2)
塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの投入量を0.13gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例2の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0038】
(実施例3)
塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの投入量を0.65gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例3の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0039】
(実施例4)
塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの投入量を2.6gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例4の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0040】
(実施例5)
アミノ変性シリコーンの投入量を0.5gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例5の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0041】
(実施例6)
アミノ変性シリコーンの投入量を1.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例6の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0042】
(実施例7)
アミノ変性シリコーンの投入量を5.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例7の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0043】
(実施例8)
平均粒子径が3μmであるシリカ粉体(鈴木油脂工業社製:ゴッドボールG-6C)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例8の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0044】
(実施例9)
平均粒子径が10μmであるシリカ粉体(AGCエスアイテック社製:サンスフェアNP-100)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例9の複合表面処理無機粉体を作製した。
【0045】
(比較例1)
実施例1の複合表面処理無機粉体の基材であるシリカ粉体(AGCエスアイテック社製:サンスフェアNP-30)を、比較例1の粉体とした。
【0046】
(比較例2)
平均粒子径が5μmであるシリカ粉体(AGCエスアイテック社製:サンスフェアNP-30)100gを卓上ブレンダーに入れ、そこにジメチコン(信越化学工業社製:KF-96-1000CS)2.0gを投入して20分間撹拌し、乾燥機に入れて120℃で3時間乾燥したのち、粉砕を行うことで、比較例2の粉体を作製した。
【0047】
(比較例3)
実施例1の工程1のみを行うことにより得られた粉体を、比較例3の粉体とした。
【0048】
(比較例4)
実施例1の工程1で得られた粉体の代わりに、実施例1の複合表面処理無機粉体の基材であるシリカ粉体(AGCエスアイテック社製:サンスフェアNP-30)を使用して、実施例1の工程2のみを行うことにより、比較例4の粉体を作製した。
【0049】
(参考例1)
シリコーン樹脂ビーズ(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製:トスパール(登録商標)145A)を、参考例1の粉体とした。
【0050】
(平均粒子変形率の算出)
実施例、比較例、参考例の各粉体からランダムでサンプリングした5個の試料粒子について、微小粒子圧壊力測定装置(ナノシーズ社製:NS-A100)を使用して、粒子径D(μm)と、試験力5mNで圧縮したときの変位X(μm)を測定し、以下の式から得られる粒子変形率を平均することによって、各粉体の平均粒子変形率を算出した。
粒子変形率(%)=変位X(μm)/試料粒子の粒子径D(μm)×100
【0051】
(各粉体の肌への付着性及び感触の評価)
実施例、比較例、参考例の各粉体について、モニター5人の官能試験によって、肌への付着性及び感触の評価を行った。具体的には、各粉体を少量取って手の甲に指で塗布した際の、肌への付着性及び感触を、以下の基準で評価してもらい、その平均値を算出することにより行った。
<評価点の基準>
5点:非常に優れている
4点:優れている
3点:普通
2点:劣る
1点:非常に劣る
【0052】
実施例、比較例、参考例の各粉体の作製条件及び評価結果(平均粒子変形率、肌への付着性、感触)を表1に示す。
【表1】
【0053】
表1より、実施例1~9の複合表面処理無機粉体は、樹脂ビーズである参考例1の粉体(シリコーン樹脂)と同等又はそれ以上の肌への付着性と、使用時の肌への優れた感触特性を得ることができることが判った。一方、比較例1~4の粉体は、少なくとも肌への付着性又は感触のいずれかが劣る結果であった。
【0054】
また、実施例1~9の複合表面処理無機粉体は、表面処理を施さなかった比較例1の無機粉体、カチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーン以外の表面処理剤(ジメチコン)による表面処理を施した比較例2の無機粉体、カチオン界面活性剤による表面処理のみ施した比較例3の無機粉体及びアミノ変性シリコーンによる表面処理のみ施した比較例3の無機粉体よりも優れた肌への付着性と、使用時の肌への優れた感触特性を得られるのみならず、平均粒子変形率においても20%以上、より好ましくは23%以上という極めて柔らかな特性を有していることが判った。このため、一般的に硬いとされるシリカなどの無機粉体において、上述のような特性を得るためには、表面処理剤として塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどのカチオン界面活性剤及びアミノ変性シリコーンを用いることが極めて有効であることが判った。
【0055】
また、実施例1~9の複合表面処理無機粉体と比較例1~4の粉体との比較により、カチオン界面活性剤の表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.1~5.0質量部、更には0.1~2.0質量部であることが好ましく、アミノ変性シリコーンの表面処理量は、基材粉体100質量部に対して0.5~5.0質量部、更には0.5~2.0質量部であることが好ましいことが判った。
【0056】
また、実施例1~9の複合表面処理無機粉体は、レーザー回折光散乱法で測定される平均粒子径が好ましくは0.1~50μmの範囲、より好ましくは0.3~30μmの範囲、更に好ましくは1~15μmの範囲以内であると、粒子同士の凝集によって均一な表面処理が阻害されず、感触が向上し、物理的なざらつき感も抑制されることが判った。
【0057】
2.化粧料の作製
次に、表2に示す配合組成(質量部)で実施例10、比較例5、参考例2の化粧料(W/Oサンスクリーンミルク:SPF50+、PA++++)を作製した。具体的には、化粧料の油相を構成する各材料を混合した油性組成物(油性分散体)と、化粧料の水相を構成する各材料を混合した水性組成物を作製したのち、これらを混合することにより作製した。
【0058】
(各化粧料の感触の評価)
得られた各化粧料について、モニター10人の官能試験によって使用感の評価を行った。具体的には、各化粧料の塗布量が2mg/cm2となるように前腕の内側に塗布した際の、柔らかさ、滑らかさ、きしみの無さを、以下の基準で評価してもらい、その平均値を算出することにより行った。
<評価点の基準>
5点:非常に優れている
4点:優れている
3点:普通
2点:劣る
1点:非常に劣る
【0059】
実施例10、比較例5、参考例2の化粧料の配合組成及び評価結果(柔らかさ、滑らかさ、きしみの無さ)を表2に示す。
【表2】
【0060】
表2より、実施例10の化粧料は、実施例1の複合表面処理無機粉体を配合したことにより、樹脂ビーズである参考例1の粉体(シリコーン樹脂)を配合した参考例2の化粧料よりも優れた使用感(柔らかさ、滑らかさ、きしみの無さ)を得ることができることが判った。一方、比較例1の粉体を配合した比較例5の化粧料は、特に柔らかさやきしみの無さにおいて、実施例10の化粧料よりも使用感が劣る結果であった。
【0061】
次に、表3に示す配合組成(質量部)で実施例11、比較例6、参考例3の粉体化粧料(フェイスパウダー)を作製し、前述の化粧料(W/Oサンスクリーンミルク)の方法と同様にして、使用感の評価を行った。
【0062】
実施例11、比較例6、参考例3の粉体化粧料の配合及び評価結果(柔らかさ、滑らかさ、きしみの無さ)を表3に示す。
【表3】
【0063】
表3より、実施例11の粉体化粧料は、実施例1の複合表面処理無機粉体を配合したことにより、樹脂ビーズである参考例1の粉体(シリコーン樹脂)を配合した参考例3の化粧料と同等以上の使用感(柔らかさ、滑らかさ、きしみの無さ)を得ることができることが判った。一方、比較例6の化粧料は、特に柔らかさにおいて、実施例11の化粧料よりも使用感が大きく劣る結果であった。