(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】ろ過可能なデュオカルマイシン含有抗体薬物複合体組成物及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20240917BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240917BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240917BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20240917BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/12
A61K47/16
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021524477
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019080084
(87)【国際公開番号】W WO2020094561
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-21
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516205959
【氏名又は名称】ビョンディス・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Byondis B.V.
【住所又は居所原語表記】Microweg 22, NL-6545 CM Nijmegen, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デン・フーフ、カロルス・ヨハネス・エドガー
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】Analytical Cheistry,2017年,Vol.89,p.5476-5483
【文献】Molecular Cancer Therapeutics,2014年,Vol.13, No.11,p.2618-2629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 式(I):
Ab-(L-D)
m (I)
(式中、AbはIgG抗体であり、L-Dは
式:
【化1】
で示されるデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均DARを表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、場合によっては
式:
【化2】
で示される複合体を形成していな
いデュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む水溶液又は凍結乾燥物と、
(ii) 水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体を組み合わせて、組成物を形成することを含む方法であって、
前記組成物は、前記アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含み
、
前記組成物を分子量カットオフが3kDa~50kDaのフィルターでろ過し、前記抗体薬物複合体を実質的に含まないろ液を形成することを含む、
方法。
【請求項2】
前記組成物は、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体薬物複合体の濃度は、0.1~100mg/ml、好ましくは0.5~50mg/ml、より好ましくは1.0~10mg/mlである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸の濃度は、0.01%~5%(v/v)、好ましくは0.05%~2%、より好ましくは0.05%~1.5%、最も好ましくは0.1%~1%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸は、トリフルオロ酢酸、ギ酸及び塩酸からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ろ過は遠心ろ過である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フィルターは、修飾ポリエーテルスルホン、好ましくはナノセップ(登録商標)オメガフィルターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ろ液中に前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物が存在するのであれば、さらに、前記ろ液に対して、前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を単離してその量を測定するのに適したクロマトグラフィー分離を行うことを含む、請求項1、6及び7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュオカルマイシン含有抗体薬物複合体(ADC)及び場合によっては複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む組成物に関する。特に、この組成物は、ADCの容易なろ過、及び(存在する場合)複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物からの分離を可能にする。
【0002】
さらに、本発明は、組成物の製造方法及びデュオカルマイシン含有ADCのバッチを承認する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体(mAb)は、製薬業界において最も重要な薬剤の1つである。また、mAbは、さまざまな細胞毒性薬物と結合し、抗体薬物複合体又は「ADC」を形成する。一般に、リンカーは細胞毒性薬物とmAbを連結する。したがって、ADCは、モノクローナル抗体、リンカー及び細胞毒性薬物を含む。リンカー-薬物と抗体は、表面に露出したリジンの側鎖(P. M. LoRusso et al., Clinical Cancer Research, 2011, 17 (20), 6437-6447)又は鎖間ジスルフィド結合の還元によって生じた遊離システイン(J. Katz et al., Clinical Cancer Research, 2011, 17 (20), 6428-6436; P. D Senter et al., Nature Biotechnology 2012, 30 (7), 631-637)を使用して結合することができる。あるいは、変異させたmAbの適切な位置にある修飾システイン残基の側鎖を介した部位特異的結合による複合体形成であってもよい(C. R. Behrens and B. Liu, MAbs, 2014, 6(1), 46-53)。
【0004】
デュオカルマイシン類は、ADCの細胞毒性薬物として使用されている(国際公開第2008/083312号、第2010/062171号、第2011/133039号、第2015/177360号)。最初にストレプトマイセス種の培養液から単離されたデュオカルマイシン類は、デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA及びCC-1065を含む抗腫瘍抗生物質の一種である。デュオカルマイシン類はDNAの副溝に結合し、次いでDNAの不可逆的なアルキル化を引き起こす。これは核酸の構造を破壊し、最終的に腫瘍細胞死につながる。
【0005】
近年、トラスツズマブ デュオカルマジン(SYD985、トラスツズマブvc-seco-DUBA)などのデュオカルマイシン含有ADCの前臨床及び臨床開発が行われている(M.M.C. van der Lee et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2015, 14(3), 692-703;J. Black et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2016, 15 (8), 1900-1909;ClinicalTrials.gov NCT02277717)。その潜在的な抗腫瘍活性に基づき、デュオカルマイシン含有ADCのさらなる研究が期待されている。
【0006】
ADCの工業的製造では、mAbとリンカー-薬物の結合の後に、さまざまな精製工程が行われる。これらのバイオ医薬品のバッチ間の再現性を確保するために、品質管理が行われる。遊離のリンカー-薬物、すなわち、複合体を形成していないリンカー-薬物は、その毒性のため、ADC組成物において厳密に管理しなければならない不純物の1つである。
【0007】
遊離のリンカー-薬物の含有量を求めるために、最初に遊離のリンカー-薬物に対するADCの濃度を減少させ、次いで、遊離のリンカー-薬物の量を測定することがしばしば行われてきた。なぜなら、高濃度のADCが、含有量が非常に少ないリンカー-薬物の量を求めることを困難にするためである。実際に、ADCの量は約10mg/mlであるのに対して、遊離のリンカー-薬物の量は通常10μg/ml未満、多くの場合0.2μg/ml又は0.1μg/mlと、はるかに少ない。通常のクロマトグラフィーによる分析では、大過剰のADCは、(存在する場合)非常に少量の遊離のリンカー-薬物を隠すことがよくあり、例えば、遊離のリンカー-薬物の濃度が非常に低いと、他の成分によって目立たなくなり、及び/又は検出限界以下となる。
【0008】
したがって、通常、水性の試料からADCを分離し、試料中の(遊離の)リンカー-薬物の存在を分析することにより、遊離のリンカー-薬物の量を求めることができる。例えば、分子量カットオフが約30kDaのフィルターを用いた遠心ろ過による水性試料の直接ろ過により、多くの場合、ADCをフィルター上に残し、遊離のリンカー-薬物を含むろ液を得ることができる(国際公開第2015/095953号の194ページ、カテプシンBリンカー切断アッセイを参照)。あるいは、試料を冷メタノールで処理し、遠心分離してADCを沈殿させ、複合体を形成していないリンカー-薬物は上澄み液に残すことにより、ADCと遊離のリンカー-薬物を分離してきた(L. Chen et al., MAbs, 2016, 8 (7), 1210-1223参照)。
【0009】
しかし、デュオカルマイシン リンカー-薬物の場合、困難であることが判明した。当該技術分野における通常のろ過法又は直接沈殿では、デュオカルマイシン含有ADCと遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物を適切に分離することができなかった。例えば、ろ過法では、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、フィルターを通過してろ液に移行するのではなく、デュオカルマイシン含有ADCと共にフィルター上に残る傾向がある。これにより、ろ液中の遊離のリンカー-薬物の量が不十分となり、遊離のリンカー-薬物の量の測定が不正確になる。したがって、デュオカルマイシン含有ADCと遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物を分離する方法が必要である。同様に、デュオカルマイシン含有ADC及び(存在する場合)デュオカルマイシン リンカー-薬物を含む試料中のデュオカルマイシン リンカー-薬物を検出し定量する方法が必要である。
【発明の開示】
【0010】
本発明の一部は、デュオカルマイシン含有ADCと複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物のろ過による分離において、アセトニトリルがその分離を促進するという発見に基づく。
【0011】
したがって、本発明のある側面は、(a) 水及びアセトニトリルを含む溶媒; (b) 酸;(c) 式(I):
Ab-(L-D)m (I)
(式中、Abは抗体又はその抗原結合断片であり、L-Dはデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均DARを表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、場合によっては、(d) 複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む組成物であって、
前記組成物は、30%~60%(v/v)のアセトニトリル、好ましくは35%~55%のアセトニトリルを含む、組成物に関する。
【0012】
本発明の別の側面は、(i) 式(I):
Ab-(L-D)m (I)
(式中、Abは抗体又はその抗原結合断片であり、L-Dはデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均DARを表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、場合によって複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む水溶液又は凍結乾燥物と、(ii) 水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体を組み合わせて組成物を形成することを含む方法であって、前記組成物は、アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含む、方法に関する。
【0013】
本発明のさらに別の側面は、抗体薬物複合体のバッチを販売許可/承認する方法であって、
1) 抗体薬物複合体のバッチから試料を得ること、ここで、前記バッチは、デュオカルマイシン リンカー-薬物と複合体を形成した抗体、及び、場合によっては複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含み;
2) 前記試料を、水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体と組み合わせて、アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%を含むろ過可能な組成物を形成すること;
3) 前記ろ過可能な組成物をろ過し、前記抗体薬物複合体を実質的に含まないろ液を得ること;
4) 前記ろ液を分析し、前記ろ液中の前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の量が前もって定めた値を下回るかどうかを確認すること;そして
5) 前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物が前記前もって定めた値を下回る場合、前記抗体薬物複合体のバッチを販売許可/承認すること
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物であるvc-seco-DUBAのクロマトグラムを示す。
【
図2】
図2は、トラスツズマブ デュオカルマジンのバッチから得た試料の分析の結果、検出可能な遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物を含まないことが判明し、したがって、バッチは販売許可/承認の条件を満たした、実施例2のクロマトグラムを示す。
【
図3】
図3で、上のクロマトグラムは30%のアセトニトリルを、中央は40%のアセトニトリルを、下は55%のアセトニトリルを使用して得られた、実施例3の3つのクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、(a) 水及びアセトニトリルを含む溶媒、(b) 酸、(c) 式(I):
Ab-(L-D)m (I)
(式中、Abは抗体又はその抗原結合断片であり、L-Dはデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均薬物抗体比(DAR)を表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、場合によっては、(d) 複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む組成物であって、前記組成物は、アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含む組成物に関する。
【0016】
本発明で使用する溶媒は、水及びアセトニトリルを含む。本明細書において用語「溶媒」は、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を溶解することが可能な溶媒の混合物を指す。溶媒は、通常、水及びアセトニトリルからなるが、いくつかの態様では別の溶媒を追加してもよい。例えば、C1~C6アルコール(例.メタノール又はエタノール)又はポリオールといった他の水混和性有機溶媒を追加してもよい。一般に、追加する溶媒は組成物の20%(v/v)未満、通常10%未満、そして、多くの場合は5%未満である。通常、溶媒は水及びアセトニトリルからなる。水の品質は特に限定されないが、実用的な理由から、DI水、より好ましくはミリQ水といった比較的純度の高い水が有利である。
【0017】
アセトニトリルは30%~60%(v/v)の濃度で使用する。濃度が60%を超えると、フィルターからのデュオカルマイシン含有ADCの漏出が多くなる傾向がある。このような漏出は、ろ液中の遊離のリンカー-薬物が低濃度であることと比較して、ADCの濃度が高くなる原因となり、したがって、例えばマスキングにより、遊離のリンカー-薬物の量を正確に決定することを妨げる。一般に、試料中のADCの1.0%以上がろ液に移行する場合、そのような漏出は多過ぎ、通常、0.5%以下であれば許容可能できる。漏出があるとしても、ろ液に移行するADCは、多くの場合0.3%以下、より多くの場合0.2%以下、通常は0.1%以下である。一方、アセトニトリルの濃度が30%未満では、分離が不十分になる傾向があり;すなわち、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物は(ほとんどの場合)フィルターを通過せず、分離に失敗する。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、デュオカルマイシン リンカー-薬物(複合体を形成していない形態)とデュオカルマイシン含有ADCとの間の疎水性相互作用が分離を妨げ、又は遅らせると想定している。十分な量のアセトニトリルを溶媒に加えることにより、これらの力に十分に打ち勝つことができ、ろ過による分離が容易となる。アセトニトリルを過剰に添加しないことにより、フィルターの損傷が回避され、デュオカルマイシン含有ADCの漏出が最小限となるか、防止される。さらに、30%~60%(v/v)のアセトニトリルは、ADC、抗体又はデュオカルマイシン リンカー-薬物の安定性に影響を与えない。したがって、本発明者らは、驚くべきことに、水、酸及び30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%、最も好ましくは40%のアセトニトリルを含む組成物中の遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、容易かつ効率的にろ過できることを見いだした。
【0018】
本発明での使用に適した酸は、有機酸又は無機鉱酸である。本発明で使用する酸は、通常、トリフルオロ酢酸、ギ酸及び塩酸からなる群から選択される。酸の量は重要ではなく、組成物がわずかに酸性であればよい。通常、酸は、組成物のpHを7未満とするように用いる。組成物中の酸の濃度は、0.01%~5%(v/v)、0.05%~2%、0.05%~1.5%又は0.1%~1%であってもよい。
【0019】
本発明の組成物において、ADCの量は特に限定されない。組成物は、典型的には0.1~100mg/ml、より典型的には0.5~50mg/ml、通常1.0~10mg/mlのADCを含む。複合体を形成していない(遊離の)デュオカルマイシン リンカー-薬物の量は、典型的には0~100μg/ml、より典型的には0~10μg/ml、しばしは0~1μg/mlである。多くの態様において、ADCの濃度は遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の濃度と比較して少なくとも1,000倍高い。
【0020】
組成物は追加の成分を含んでいてもよい。例えば、カラムクロマトグラフィー若しくはUF/DFで一般に使用される緩衝剤及び/若しくは塩、マンニトールなどの糖、並びに/又は製剤中に存在してもよい他の賦形剤がある。
【0021】
式(I)で示されるADCにおいて、Abは、抗体、又は、例えばF(ab’)2若しくはFab’断片、単鎖(sc)抗体、scFv、単一ドメイン(sd)抗体、ダイアボディ若しくはミニボディのようなその抗原結合断片とすることができる。一般に、抗体又はその抗原結合断片は治療活性を有するものであるが、ADCの分野において知られているように、抗体単独での有効性は必ずしも必要ではない。抗体は、IgG、IgA又はIgM抗体のような任意のアイソタイプであってもよい。好ましくは、抗体はIgG抗体であり、より好ましくはIgG1又はIgG2抗体である。抗体は、キメラ、ヒト化又はヒト抗体であってもよい。好ましくは、抗体はヒト化されている。さらにより好ましくは、抗体はヒト化又はヒトIgG抗体であり、最も好ましくはヒト化又はヒトIgG1モノクローナル抗体(mAb)である。好ましくは、前記抗体はκ軽鎖、すなわちヒト化又はヒトIgG1-κ抗体である。
【0022】
明確にするために述べると、「ヒト化」抗体は、非ヒト種、通常はマウス、ラット又はウサギの抗体に由来する抗原結合相補性決定領域(CDR)を有し、少なくとも部分的にヒトのフレームワークを有する抗体を指す。例えば、非ヒトCDRは、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の可変領域のヒトフレームワーク(フレームワーク領域(FR)FR1、FR2、FR3及びFR4)、すなわち、ヒト以外のCDRを支える完全にヒトのフレームワーク内に配置することができる。しかし、ヒトFR中の選択されたアミノ酸は、対応する非ヒトフレームワークのアミノ酸と交換し、例えば、低い免疫原性を維持しながら結合親和性を改善することができる。さらに、非ヒトフレームワークの大部分を保持し、非ヒトFRの選択されたアミノ酸のみを対応するヒトアミノ酸と交換して、抗体の結合親和性を維持しながら免疫原性を減少させることができる。これらの選択肢は全て、本発明の目的のための「ヒト化」可変領域であるとみなされる。このヒト化可変領域は、ヒトの定常領域と結合してヒト化抗体を形成する。
【0023】
これらの抗体は、組換えによって、合成によって、又は当該技術分野における他の適切な方法によって製造される。
【0024】
抗体は単一特異性(すなわち、1つの抗原に特異的;そのような抗原は種間で共通するか、類似したアミノ酸配列を有する可能性がある)又は二重特異性(すなわち、2つの異なる抗原に特異的)であり、アネキシンAl、B7H4、CA6、CA9、CA15-3、CA19-9、CA27-29、CA125、CA242(がん抗原242)、CCR2、CCR5、CD2、CD19、CD20、CD22、CD30(腫瘍壊死因子8)、CD33、CD37、CD38(サイクリックADPリボースヒドロラーゼ)、CD40、CD44、CD47(インテグリン関連タンパク質)、CD56(神経細胞接着分子)、CD70、CD74、CD79、CD115(コロニー刺激因子1受容体)、CD123(インターロイキン3受容体)、CD138(シンデカン1)、CD203c(ENPP3)、CD303、CD333、CEA、CEACAM、CLCA-1(C型レクチン様分子1)、CLL-1、c-MET(肝細胞増殖因子受容体)、Cripto、DLL3、EGFL、EGFR、EPCAM、EPh(例.EphA2又はEPhB3)、ETBR(エンドセリンB型受容体)、FAP、FcRL5(Fc受容体様タンパク質5、CD307)、FGFR(例.FGFR3)、FOLR1(葉酸受容体α)、GCC(グアニリルシクラーゼC)、GPNMB、HER2、HMW-MAA(高分子量メラノーマ関連抗原)、インテグリンα(例.αvβ3及びαvβ5)、IGF1R、TM4SF1(又はL6抗原)、ルイスA様糖鎖、ルイスX、ルイスY(CD174)、LIV1、メソテリン(MSLN)、MN(CA9)、MUC1、MUC16、NaPi2b、ネクチン4、PD-1、PD-L1、PSMA、PTK7、SLC44A4、STEAP-1、5T4抗原(又はTPBG、栄養芽細胞糖タンパク質)、TF(組織因子、トロンボプラスチン、CD142)、TF-Ag、Tag72、TNFR、TROP2(腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質2)、VEGFR及びVLAからなる群から選択される標的に結合する少なくとも1つのHC及びLC可変領域を含む。
【0025】
適切な抗体の例には、ブリナツモマブ(CD19)、エプラツズマブ(CD22)、イラツムマブ及びブレンツキシマブ(CD30)、バダスツキシマブ(CD33)、テツルマブ(CD37)、イサツキシマブ(CD38)、ビバツズマブ(CD44)、ロルボツズマブ(CD56)、ボルセツズマブ(CD70)、ミラツズマブ(CD74)、ポラツズマブ(CD79)、ロバルピツズマブ(DLL3)、フツキシマブ(EGFR)、オポルツズマブ(EPCAM)、ファルレツズマブ(FOLR1)、グレンバツムマブ(GPNMB)、トラスツズマブ及びペルツズマブ(HER2)、エタラシズマブ(インテグリン)、アネツマブ(メソテリン)、パンコマブ(MUC1)、エンホルツマブ(ネクチン-4)並びにH8、A1及びA3(5T4抗原)が含まれる。
【0026】
好ましい態様では、式(I)で示される化合物におけるAbは抗HER2抗体であり、さらにより好ましいAbは抗HER2抗体トラスツズマブである。
【0027】
本発明では、式(I)で示される化合物におけるL-Dは、デュオカルマイシン リンカー-薬物の一部分あってもよい。デュオカルマイシンの一部分は、以下の式:
【0028】
【0029】
(式中、
R1、R2及びR3は独立して、H、OH、SH、NH2、N3、NO2、NO、CF3、CN、C(O)NH2、C(O)H、C(O)OH、ハロゲン、Ra、SRa、S(O)Ra、S(O)2Ra、S(O)ORa、S(O)2ORa、OS(O)Ra、OS(O)2Ra、OS(O)ORa、OS(O)2ORa、ORa、NHRa、N(Ra)Rb、+N(Ra)(Rb)Rc、P(O)(ORa)(ORb)、OP(O)(ORa)(ORb)、SiRaRbRc、C(O)Ra、C(O)ORa、C(O)N(Ra)Rb、OC(O)Ra、OC(O)ORa、OC(O)N(Ra)Rb、N(Ra)C(O)Rb、N(Ra)C(O)ORb、N(Ra)C(O)N(Rb)Rc及び水溶性基からなる群から選択され、
Ra、Rb及びRcは独立して、H及び任意に置換された(CH2CH2O)aaCH2CH2X1Ra1、C1-15アルキル、C1-15ヘテロアルキル、C3-15シクロアルキル、C1-15ヘテロシクロアルキル、C5-15アリール又はC1-15ヘテロアリールからなる群から選択され、
aaは1~1000であり、X1は、O、S及びNRb1から選択され、Rb1及びRa1は独立して、H及びC1-3アルキルから選択され、
Ra、Rb及び/又はRcの1つ以上の置換基は、水溶性基であってもよく、Ra、Rb及びRcの2つ以上は結合して、1つ以上の置換された炭素環及び/又は複素環を形成してもよい)
のいずれかで示されることが好ましい。
【0030】
リンカー部分(-L-)は、薬物と抗体又はその抗原結合断片を連結させるための既知又は適切な部分とすることができる。一般に、当該技術分野において知られているように、抗体から薬物を切り離すために、リンカーは特定の条件で切断可能である。
【0031】
抗体(又はその断片)に結合するリンカーの末端は、通常、比較的温和な条件で、Abの天然又は非天然アミノ酸と反応できる官能基を含む。この官能基は、本明細書では反応性部分(RM)という。反応性部分の例には、カルバモイルハライド、アシルハライド、活性エステル、無水物、α-ハロアセチル、α-ハロアセトアミド、マレイミド、イソシアネート、イソチオシアネート、ジスルフィド、チオール、ヒドラジン、ヒドラジド、塩化スルホニル、アルデヒド、メチルケトン、ビニルスルホン、ハロメチル及びメチルスルホネートが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の好ましい態様では、RMは、
【0033】
【0034】
(式中、
X5は、-Cl、-Br、-I、-F、-OH、-O-N-スクシンイミド、-O-(4-ニトロフェニル)、-O-ペンタフルオロフェニル、-O-テトラフルオロフェニル、-O-C(O)-R4及び-O-C(O)-OR4から選択され、
X6は、-Cl、-Br、-I、-O-メシル、-O-トリフリル及び-O-トシルから選択され、
R4は、分岐又は非分岐のC1~C10アルキル又はアリールである)
である。
【0035】
デュオカルマイシン リンカー-薬物は、複合体を形成した形態(-L-D)、又は「遊離」のリンカー-薬物と呼ばれる複合体を形成していない形態(L-D)で表すことができる。したがって、以下の式(II)で示される部分及び式(IV)で示される化合物は、それぞれ、好ましいデュオカルマイシン リンカー-薬物の複合体を形成した形態及び複合体を形成していない形態を表す。同様に、式(III)で示される部分及び式(V)で示される化合物は、それぞれ、別の好ましいデュオカルマイシン リンカー-薬物の複合体を形成した形態及び複合体を形成していない形態を表す。
【0036】
【0037】
(式中、
nは0~3であり、
R5は
【0038】
【0039】
から選択され、
yは1~16であり
R6は
【0040】
【0041】
から選択される)
【0042】
別のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、複合体を形成した形態については式(III)で示され、複合体を形成していない形態については式(V)で示される。
【0043】
【0044】
(式中、
V1は、条件付きで切断可能であるか又は条件付きで変換可能な部分であって、化学的、光化学的、物理的、生物学的又は酵素的な方法で切断又は変換することができ、Zはデュオカルマイシン誘導体であり、nは0、1、2又は3であり、pは0又は1である)
【0045】
好ましくは、Zは上述のとおりの式:
【0046】
【0047】
で示されるデュオカルマイシン部分である。本発明で使用するデュオカルマイシン部分(例.Z)の具体例には、
【0048】
【0049】
【0050】
が含まれる。
【0051】
デュオカルマイシン リンカー-薬物の特に好ましいものは、複合体を形成した形態で、以下に示すもの:
【0052】
【0053】
対応する複合体を形成していない形態(すなわち、vc-seco-DUBA)で以下に示すもの:
【0054】
【0055】
である。
【0056】
デュオカルマイシン リンカー-薬物の以下のもの:
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
は、簡潔にするために、複合体を形成した形態でのみ示しているが、当業者であれば理解できるように、対応する複合体を形成していない形態も考えられることを理解されたい。
【0061】
本発明の組成物は、デュオカルマイシン含有ADCと遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の、単なるろ過による分離の促進に有用である。このような分離により、大量のADCに負担をかけることなく、ろ液中の非常に少量の遊離のリンカー-薬物の分析が可能となる。より広い意味で、本発明の組成物は、ADC組成物中の遊離のリンカー-薬物の存在及び/又は量の確認をより正確に、便利に、及び実用的にする。
【0062】
遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の量の検出及び/又は定量は、いくつかの応用例を示すと、ADCのゆるぎない精製方法の開発、ADCの原薬又は医薬品の品質管理、原薬又は医薬品の安定性試験など、さまざまな用途で役に立つ。ADCのほとんどの医薬としての用途では、遊離のリンカー-薬物がほとんど又はまったく存在しないことを意図している点を理解する必要がある。デュオカルマイシンは強力である。抗体又はその抗原結合断片と複合体を形成した場合、デュオカルマイシンは細胞傷害性の弾頭として抗体が標的とした部位に送達される。しかし、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物により、健康な細胞がランダムに破壊される可能性があり、したがって、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の量を厳密に低レベルに制御する必要がある。デュオカルマイシン含有ADCに遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物が存在した場合、患者に許容できない危険性が生じる可能性がある。したがって、精製処理により全ての遊離のリンカー-薬物の除去が期待されるので、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、本発明のろ過可能な組成物中に存在するとしても、ごく微量である。存在するかどうかにかかわらず、ADC組成物中の遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の非存在を確認し、及び/又は、(存在する場合)検出されたとしてもその量が非常に少ないことを確認する方法があることが重要である。
【0063】
本発明の組成物は、溶媒、酸及びADCを組み合わせる方法により製造することができる。成分の添加の順序、及び逐次に添加するか、又は同時に添加するかは限定されない。しかし、多くの場合、水溶液又は凍結乾燥物の形態のADCは、本発明のろ過可能な組成物を形成するために、水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体と組み合わせる。
【0064】
したがって、本発明の別の側面は、
(i) 式(I):
Ab-(L-D)m (I)
で示されるADC、及び、場合によっては対応する複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む水溶液(又は凍結乾燥物)を、(ii) 水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体と組み合わせて、30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%のアセトニトリルを含む本発明のろ過可能な組成物を形成することを含む方法に関する。
【0065】
ADCの水溶液は、さまざまな供給源から生じる可能性がある。例えば、ADC水溶液は、リンカー-薬物と抗体(又はその抗原結合断片)を結合させた反応液から、又は、引き続き精製若しくは単離した反応生成物、すなわち、例えば凍結乾燥物のような精製された形態のデュオカルマイシンADCから得てもよい。
【0066】
これらのADC水溶液中の遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、通常、未反応のリンカー-薬物である。結合反応では、しばしば、モル過剰のリンカー-薬物が使用されるので、多くの場合、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の除去を確実にする精製が行われる。したがって、これらの供給源からの水溶液は、結合反応の程度を監視し、精製方法を評価することが予定されている可能性がある。
【0067】
ADC水溶液の別の供給源は、最終的なADC原薬又は医薬品からの試料である。通常、ADCは注射可能な組成物の形態で送達されるので、多くの場合、原薬及び製剤は水溶液の形態である。そのような水溶液中の遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物は、もし存在すれば、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の精製中の不完全な除去、及び/又はADCからのデュオカルマイシン リンカー-薬物の意図しない切断から生じ得る。これらの供給源は、ADC組成物の経時的な安定性を測定又は監視し、例えば、保存中に遊離のリンカー-薬物が形成/切断されていないことを確認するための、安定性試験及び/又は参照試料からのものであるかもしれない。
【0068】
あるいは、原薬又は医薬品は凍結乾燥の形態(「凍結乾燥物」)であってもよい。凍結乾燥物は、通常、水で再構成しADC水溶液を形成する。この再構成された液体組成物の全部又は一部が、ADC水溶液として機能することができる。別の選択肢は、中間の水性再構成溶液を調製することなく、直接、凍結乾燥物と本発明の希釈媒体を組み合わせる方法である。
【0069】
当業者であれば理解できるように、ADC水溶液は、溶液のさまざまな供給源を考慮し、緩衝液、塩、糖類(マンニトールなど)、凍結乾燥固化剤などの成分を含む可能性がある。同様に、凍結乾燥物には、緩衝剤、凍結保護剤、界面活性剤、安定剤などの成分が含まれている可能性がある。
【0070】
ADC水溶液又は凍結乾燥物で共通する希釈媒体を添加することは、本発明のろ過可能な組成物を形成する便利な方法である。希釈媒体は、30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%、最も好ましくは40%といった所望の濃度のアセトニトリルを形成するのに十分な量の、水、アセトニトリル及び酸を含む。所望の濃度のアセトニトリルを形成するのに十分な量の希釈媒体を添加することにより、一工程で、本発明のろ過可能な組成物が形成される。
【0071】
本発明の組成物は、フィルターを通過させて、ADCを実質的に含まないろ液を形成することができる。本発明において使用される用語「実質的に含まない」は、本発明の組成物中に存在するADCの量が1%以下のろ液を指す。その量は、典型的には0.5%以下、より典型的には0.2%以下、しばしば0.1%以下である。明確にするために述べると、本発明の組成物が2.5mg/mlのADCを含む場合、ろ液中には1%又は0.025mg/ml以下のADCが存在してもよい。
【0072】
当業者であれば理解できるように、フィルターの分子量カットオフ値は、抗体又は抗原結合断片の分子量の1/3~1/6である。実際には、フィルターの分子量カットオフは、1~100kDa、より好ましくは3~50kDa、さらにより好ましくは10~30kDaである。式(I)で示されるADCでは、分子量カットオフが10kDaのフィルターが特に好ましい。
【0073】
一般に、遠心ろ過が最も便利であると考えられているが、ろ過の方法は特に限定されない。重力ろ過も可能であるが、これは終了するまでに時間がかかる。さまざまな遠心ろ過装置が市販されており、利用できる。例えば、ポール社はナノセップ(登録商標)(オメガメンブレン)及びマイクロセップ(登録商標)遠心ろ過デバイスを製造している。これらのデバイスは、ろ過する試料の体積が異なる。本発明の場合、しばしばより小さなナノセップ(登録商標)(例.容量0.5mL)が好ましい。通常、遠心分離の時間は10分~30分、速度は12,000g~15,000gである。
【0074】
本発明では、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物とADCの分離を可能にする適切なフィルター材料を使用することができ、当業者はそのようなフィルター材料を決定することができる。有機溶媒(アセトニトリル)がフィルターを損傷する可能性があるため、一部のフィルターの材料は他の素材より強靭である。この損傷では、例えば、フィルターからのADCの漏出を多くする穴が生じ、フィルターを分離に不適切とする可能性がある。市販のフィルターは、通常、修飾ナイロン、親水性ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン又は修飾ポリエーテルスルホン製の膜を有する。本発明の目的において好ましいフィルター材料には、ポール社から販売されているナノセップ(登録商標)オメガフィルターのような、修飾されたポリエーテルスルホン材料が含まれる。
【0075】
ろ過の前に、組成物を均質化することが有用であるかもしれない。均質化は、組成物内でのアセトニトリルが均一に分布することを可能にする適切な装置を用いて行ってもよい。均質化は、デュオカルマイシン含有ADCと遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の単なるろ過による分離をさらに促進する可能性がある。
【0076】
本発明の組成物を分離装置に導入後、フィルターを通過する液体、すなわち「ろ液」は、式(I)で示されるADCを実質的に含まない。次いで、ろ液を分析し、もしデュオカルマイシン リンカー-薬物が存在する場合には、場合によってはろ液中の濃度を測定することができる。任意の適切な技法を使用することができる。通常、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)などの(液体)クロマトグラフィーを使用する。使用するクロマトグラフィーは、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、又はより好ましくは、逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP-UPLC)のような逆相クロマトグラフィーである。クロマトグラフィーの条件、例えば、カラム充填剤、移動相、用いる勾配、並びに一般的な注入/結合条件及び溶出条件の適切な選択は、当業者が行う通常の技法である。本発明では、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の検出に、適切な検出器を使用することができる。通常、UV検出器を使用する。UV検出器を備えたUPLCは、有利なことに、少量の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む試料の分析に優れた結果を提供する。
【0077】
前記ろ液中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物(存在する場合)の量の測定(定量)は、通常、水溶液に含まれる遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の量と相関する。ADCを実質的に含まないろ液を得るためのろ過方法において本発明の組成物を使用する場合、クロマトグラフィーによる分離及び検出における遊離のリンカー-薬物の定量限界は、ADC 1mgあたり0.2μg又はそれ以下になる可能性がある。すなわち、定量測定を元のADC水溶液、例えば原薬と相関させることにより、ADC 1mgあたり、少なくとも0.2μgの遊離のリンカー-薬物は測定することができる。実際、定量限界を、ADC 1mgあたり0.1μgや0.01μgなどと、低く設定することができる。
【0078】
本発明の特別な応用は、ADCのバッチを販売許可/承認する方法であって、
1) ADCのバッチから試料を得ること、ここで、前記バッチは、デュオカルマイシン リンカー-薬物と複合体を形成した抗体、及び、場合によっては複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含み;
2) 前記試料を、水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体と組み合わせて、アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくはアセトニトリルを35%~55%含むろ過可能な組成物を形成すること;
3) 前記ろ過可能な組成物をろ過し、前記ADCを実質的に含まないろ液を得ること;
4) 前記ろ液を分析し、前記ろ液中の前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の量が前もって定めた値を下回るかどうかを確認すること;そして
5) 前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物が前記前もって定めた値を下回る場合、前記ADCのバッチを販売許可/承認すること
を含む方法に関する。
【0079】
本明細書において、用語「抗体薬物複合体のバッチ」又は「ADCのバッチ」は、精製された形態であり、場合によっては非経口製剤又は凍結乾燥物に適した賦形剤を含む、全ての処理段階を完了したADCの商業規模での生産物を指す。実際、ADCのバッチの規模は、通常、少なくとも30Lである。EMAやFDAといった規制当局は、医薬品のこのようなバッチがさまざまな純度及び品質についての基準を満たすことを要求している。ADCの場合、それらの純度に関する基準の1つは遊離のリンカー-薬物の量である。上記の方法は、デュオカルマイシンADCと遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の分離における本発明の組成物とその有利な使用が含まれており、そのような遊離のリンカー-薬物が存在するのであれば、それを良く検出する。したがって、ろ液を一般にRP-UPLCで分析し、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の量が規制値(つまり、「前もって定めた値」)を下回っているかどうかを判断する。一般に前もって定めた値は非常に低く、多くの場合、ADC 1mgに対する遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の最大量は0.2μg、好ましくは0.1μg、より好ましくは0.02μgである。前もって定めた値の決定は、数値により、又は検出限界(LOD)試験で行うことができる。後者では、検出限界は前もって定めた値以下である可能性があり、したがって、否定的な結果(遊離のリンカー-薬物なし)は前もって定めた値を満たす(所定のレベル未満である)と見なされる。定量限界(LOQ)を使用して同様の戦略が採用でき、この場合、遊離のリンカー-薬物は存在するが定量限界を下回る。定量限界は前もって定めた値以下であることから、定量限界未満の検出量は前もって定めた値を下回るとみなされる。いずれの場合も、数量が所定の限度を下回っているので、数値が決まらなくてもバッチが承認される可能性がある。
【0080】
試料中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の量が前もって定めた値を下回ることが示されると、販売、出荷、患者による使用などのために、ADCのバッチを許可又は承認することができる。本発明において、用語「販売許可/承認」は、ADCのバッチが少なくとも遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物についての要件を満たしたことを指す。遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物が前もって定めた値を超える試料は、臨床試験での使用に適していないか、市販の医薬品として承認されない(販売又は使用することができない)。このようなバッチは販売許可又は承認されない。通常、医薬品はその品質に関する多く試験に合格する必要があり、これに失敗すると、最終的に販売許可又は承認されない。したがって、本発明における販売許可/承認は、遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の含有量に関するADC製品のバッチの販売許可又は承認が得られたことを指し、必ずしも当該バッチについての最終的な販売許可及び/又は承認ではない。
【0081】
この発明は、ろ液が複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含むかどうかを決定する目的で詳細に説明しているが、他の不純物の測定に類似の方法を適用できることは、当業者には容易に明らかである。特に、その組成物とそのろ過は、デュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物を測定することができる試料を提供するために有用である。本発明における用語「デュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物」は、デュオカルマイシン含有ADC原薬及び医薬品の合成、精製及び保存中のデュオカルマイシン リンカー-薬物の分解で生じる可能性のある不純物を指す。通常は、分子量が2,000Da(典型的なリンカー-薬物の分子)未満の低分子である、これらの不純物は、毒性を引き起こす可能性があるため、規制当局はそのような不純物の1つ以上に対して最大のしきい値(又は前もって定めた値)を設定する可能性がある。本発明の方法により、これらの不純物の存在及び定量が確立される。
【0082】
以下の実施例は、本発明を説明するためのもので、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0083】
材料と方法
トラスツズマブ デュオカルマジン(SYD985)及びリンカー-薬物であるvc-seco-DUBA(SYD980)は、国際公開第2011/133039号に記載されている材料及び方法を使用して得た。試薬、溶媒及び緩衝液は、市販のものを使用した。
【0084】
試料及びブランクは、以下のように準備した。
【0085】
試料及びブランクの調製
デュオカルマイシン含有ADC(10mg/mL)及びおそらく複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む試料100μLをピペットで採取し、10Kフィルター(ナノセップ(登録商標)オメガ遠心ろ過デバイス)を備えた容器に入れた。0.13%のギ酸とミリQ水中の53%のアセトニトリルの溶液を含む希釈媒体300μLを前記容器に加えた。試料と希釈媒体をフィルター上で(例えばボルテックスを使用して)均質化し、14,000gで15分間遠心分離し、ろ液を(例えばボルテックスを使用して)均質化し、HPLC用バイアルに移した。
【0086】
ブランクの調製は、上記と同じ手順に従ったが、デュオカルマイシン含有ADC及び複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含む試料の代わりに100μLのミリQ水を使用した。
【0087】
外部標準試料の調製
試料中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の濃度の計算に外部標準試料を使用した。外部標準試料は複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物0.25μg/mLを使用して調製した。
【0088】
RP-UPLC
分析のために、10μLのHPLC用バイアル中の試料又はブランクを、イソブチル側鎖を有しTMSエンドキャッピングを備えたオクタデシル(C18)誘導シリカの逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP-UPLC)カラム(Kinetex 1.7μm、XB-C18 100Å、100×2.1mm、Phenomenex)に、流速0.5mL/分、カラム温度45℃で注入した。溶出方法を以下の表1に示す。移動相Aの組成はミリQ水中の0.1%ギ酸で、移動相Bの組成はアセトニトリル/メタノール 50/50v/v中の0.1%ギ酸である。10mmの分析セル付きUV検出器を備えた逆相超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)を使用した。325nmの吸光度を測定した。Waters Empowerソフトウェアで、ピーク面積を決定した。数式(VI):
【0089】
【0090】
を使用して、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を定量した。
【0091】
CL-Dは試料中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の濃度、AL-Dは試料中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物のピーク面積、Cstdは外部標準中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の濃度、Nは試料の希釈倍率、Astdは外部標準中の複合体を形成していないデュオカルマイシン含有リンカー-薬物の平均(少なくとも3回の平均)ピーク面積である。
【0092】
数式(VII):
【0093】
【0094】
により、デュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物の量を計算した。
【0095】
Ciは試料中のデュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物の濃度、Aiは試料中のデュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物のピーク面積、Cstd外部標準中の複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の濃度、Nは試料の希釈倍率、Astdは上述のとおり、RRFiはデュオカルマイシン リンカー-薬物に関連する不純物の相対応答係数である。
【0096】
【0097】
実施例1 外部標準試料
複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物であるvc-seco-DUBA(SYD980)(0.25μg/mL)をRP-UPLC法で分析した。そのクロマトグラムを
図1に示す。
図1は、6.205分に複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物(vc-seco-DUBA)の明確なピークを示す。
【0098】
実施例2 ADCの分析
トラスツズマブ デュオカルマジンのバッチから得た試料を上述の試料調製法に従って処理し、RP-UPLC法で分析した。得られたクロマトグラムは、複合体を形成していないリンカー-薬物であるvc-seco-DUBAの存在を示さなかった。得られたクロマトグラムを
図2に示すが、6.2分付近にピークは存在しない。分析の結果は、試料中の遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の量は検出限界を下回り、したがって前もって定めた値(すなわち、合格/不合格検出試験)を下回ったことを示した。したがって、バッチの販売許可/承認は適切であった。
【0099】
実施例3 組成物の比較
トラスツズマブ デュオカルマジン(10mg/mL)及びvc-seco-DUBA(0.25μg/mL)を含む試料100μLを10Kフィルター(ナノセップ(登録商標)オメガ遠心ろ過デバイス)を備えた容器に入れた。異なる比率の水、アセトニトリル(ACN)又はメタノール(MeOH)と、さまざまな割合の酸(ギ酸、トリフルオロ酢酸(TFA)又は塩酸)を含む希釈媒体(300μL)を前記容器に加えた。試料と希釈媒体をフィルター上で均質化し、14,000gで15分間遠心分離した。ろ液を均質化し、HPLC用バイアルに移した。ろ液中のvc-seco-DUBA(SYD980、すなわち、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物)の量を、表1に示すグラジエントプログラムを使用してRP-UPLC-UVで検出し、数式(VI)を使用して定量した。結果を表2にまとめる。
【0100】
【0101】
最初の実験は、トラスツズマブ デュオカルマジンと複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物であるvc-seco-DUBAのろ過による分離を、アセトニトリルが促進することを示す。40%のアセトニトリルとギ酸又はトリフルオロ酢酸を組み合わせて使用した場合に、vc-seco-DUBAが最適に回収された。アセトニトリルに代えてメタノールを使用した場合、vc-seco-DUBAを回収することはできなかった。
【0102】
第2の実験は、アセトニトリルを25%から50%に変化させることにより、回収率が12%から90%となり、アセトニトリルの量の増加がvc-seco-DUBAの回収に有益であることを示す。アセトニトリルの量が30%以上であれば、得られた回収率は許容できる。
図3は、実験5(30%ACN)、実験1(40%ACN)及び実験10(55%ACN)のクロマトグラムを示す。グラフから理解できるように、6.2分付近のピークは、回収された遊離のデュオカルマイシン リンカー-薬物の量に対応し、ACNの割合が増加するにつれて増加する。
【0103】
第3の実験では、さらに、酸の種類又は量の影響を検討した。結果は、酸の種類や量は重要ではなく、組成物のpHが7未満であれば十分であることを示す。
以下に、本願の出願当初の請求項を実施の態様として付記する。
[1] (a) 水及びアセトニトリルを含む溶媒、
(b) 酸、
(c) 式(I):
Ab-(L-D)
m
(I)
(式中、Abは抗体又はその抗原結合断片であり、L-Dはデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均DARを表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、
場合によっては、(d) 複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物
を含む組成物であって、
前記組成物は、前記アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含む、組成物。
[2] 前記組成物は、複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む、[1]に記載の組成物。
[3] 前記抗体薬物複合体の濃度は、0.1~100mg/ml、好ましくは0.5~50mg/ml、より好ましくは1.0~10mg/mlである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 前記酸の濃度は、0.01%~5%(v/v)、好ましくは0.05%~2%、より好ましくは0.05%~1.5%、最も好ましくは0.1%~1%である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記酸は、トリフルオロ酢酸、ギ酸及び塩酸からなる群から選択される、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物は式(IV):
【化12】
(式中、nは0~3であり、R
5
は
【化13】
から選択され、yは1~16であり、R
6
は
【化14】
から選択される)
で示される、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物は、式:
【化15】
で示される、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記AbはIgG抗体又はその抗原結合断片である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] (i) 式(I):
Ab-(L-D)
m
(I)
(式中、Abは抗体又はその抗原結合断片であり、L-Dはデュオカルマイシン リンカー-薬物であり、mは1~12の平均DARを表す)
で示される抗体薬物複合体、及び、場合によって複合体を形成していない前記デュオカルマイシン リンカー-薬物をさらに含む水溶液又は凍結乾燥物と、(ii) 水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体を組み合わせて、組成物を形成することを含む方法であって、
前記組成物は、前記アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含む、方法。
[10] さらに、前記組成物を分子量カットオフが3kDa~50kDaのフィルターでろ過し、前記抗体薬物複合体を実質的に含まないろ液を形成することを含む、[9]に記載の方法。
[11] 前記ろ過は遠心ろ過である、[10]に記載の方法。
[12] 前記フィルターは、修飾ポリエーテルスルホン、好ましくはナノセップ(登録商標)オメガフィルターを含む、[11]に記載の方法。
[13] 前記ろ液中に前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物が存在するのであれば、さらに、前記ろ液に対して、前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を単離してその量を測定するのに適したクロマトグラフィー分離を行うことを含む、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 抗体薬物複合体のバッチを販売許可/承認する方法であって、
1) 抗体薬物複合体のバッチから試料を得ること、ここで、前記バッチは、デュオカルマイシン リンカー-薬物と複合体を形成した抗体、及び、場合によっては複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物を含み;
2) 前記試料を、水、アセトニトリル及び酸を含む希釈媒体と組み合わせて、前記アセトニトリルを30%~60%(v/v)、好ましくは35%~55%含むろ過可能な組成物を形成すること;
3) 前記ろ過可能な組成物をろ過し、前記抗体薬物複合体を実質的に含まないろ液を得ること;
4) 前記ろ液を分析し、前記ろ液中の前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物の量が前もって定めた値を下回るかどうかを確認すること;そして
5) 前記複合体を形成していないデュオカルマイシン リンカー-薬物が前記前もって定めた値を下回る場合、前記抗体薬物複合体のバッチを販売許可/承認すること
を含む方法。
[15] 前記前もって定めた値が、前記試料中、抗体薬物複合体1mgに対してデュオカルマイシン リンカー-薬物0.2μg以下に相当する、[14]に記載の方法。