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特許7555921リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス
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  • 特許-リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス 図1
  • 特許-リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス 図2
  • 特許-リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス 図3
  • 特許-リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス 図4A
  • 特許-リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス 図4B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池およびリチウム金属電池のアノードに対して安定である有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LIFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240917BHJP
【FI】
H01M10/0568
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021526413
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 IB2019059852
(87)【国際公開番号】W WO2020100115
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】62/768,447
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/840,949
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/883,177
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/883,178
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/570,262
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521203773
【氏名又は名称】エスイーエス ホールディングス プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シン、ラジェンドラ ピー.
(72)【発明者】
【氏名】フー、キーチャオ
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/090877(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/104675(WO,A1)
【文献】特開2016-171080(JP,A)
【文献】特表2017-503740(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106976849(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108373142(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0219260(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106241757(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105731399(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105523970(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
C01B 21/086
C01B 21/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性溶媒低減リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)生成物を生成する方法であって、
LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する第1の粗LiFSIを提供することと、
不活性条件下で、前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、前記第1の粗LiFSIおよび前記1種または複数の反応性溶媒を含有する溶液を生成することであって、前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒は、前記LiFSIを溶解し、前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中の前記LiFSIの溶解度が25℃未満で少なくとも35%であることと、
前記溶液を真空に供して、前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒および前記1種または複数の反応性溶媒を除去し、固体塊を得ることと、
前記LiFSIが不溶性である少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で前記固体塊を処理して、不溶性部分を生成することと、
不活性雰囲気中で不溶性部分を単離することと、
前記不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングして、微量の前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を除去することと、
前記フラッシングされた不溶性部分を100Torr未満の圧力に供して、前記反応性溶媒低減LiFSI生成物を得ることとを含み、
前記1種または複数の反応性溶媒は、プロトン性溶媒である、
方法。
【請求項2】
前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることが、前記第1の粗LiFSIを、前記溶液に対して30重量%~50重量%の範囲内にある量の前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、有機カルボナート、ニトリル、酢酸アルキルおよびプロピオン酸アルキルからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、有機カルボナート、ニトリル、酢酸アルキルおよびプロピオン酸アルキルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、ジクロロメタンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、ジクロロメタンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記乾燥不活性ガスが、アルゴンおよび窒素のうちの少なくとも1種を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を1Torr未満の真空に供することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を0.01Torr未満の真空に供することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記真空中の温度が35℃未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
不活性雰囲気中で前記不溶性部分を単離することが、前記不溶性部分を濾過することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記不活性雰囲気が、乾燥不活性ガスを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングすることが、前記不溶性部分をアルゴンガスおよび窒素ガスの少なくとも1種でフラッシングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記フラッシングされた不溶性部分を100Torr未満の圧力に供することが、前記フラッシングされた不溶性部分を1Torr未満の圧力に供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記圧力が、0.01Torr未満である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることが、前記第1の粗LiFSIを、前記溶液に対して30重量%~50重量%の範囲内にある量の前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を35℃未満の温度で0.01Torr未満の真空に供することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記フラッシングされた不溶性部分を100Torr未満の圧力に供することが、前記フラッシングされた不溶性部分を40℃未満の温度で0.01Torr未満の圧力に供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の粗LiFSI中の前記1種または複数の反応性溶媒が、少なくとも2000パーツ・パー・ミリオン(ppm)の濃度のアルコールを含み、前記反応性溶媒低減LiFSI生成物中の前記アルコールが、50ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の粗LiFSI中の前記1種または複数の反応性溶媒中に含まれる前記アルコールが、少なくとも3000ppmの濃度である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)からなる群から選択され、
前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される、
請求項1に記載の方法
【請求項30】
前記1種または複数の反応性溶媒は、水又はアルコールである、請求項29に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、2019年9月13日に出願され、「PURIFIED LITHIUM BIS(FLUOROSULFONYL)IMIDE(LiFSI)PRODUCTS,METHODS OF PURIFYING CRUDE LiFSI,AND USES OF PURIFIED LiFSI PRODUCTS」と題された米国非仮出願第16/570,262号の一部継続出願であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本出願はまた、以下の出願の優先権の利益を主張し、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
2019年8月6日に出願され、「PROCESS FOR PRODUCING ULTRAPURE LITHIUM BIS(FLUOROSULFONYL)IMIDE(LiFSI)FOR LITHIUM METAL ANODE BATTERIES APPLICATIONS」と題する米国仮特許出願第62/883,177号明細書;
2019年8月6日に出願され、「PROCESS FOR REMOVING REACTIVE SOLVENT FROM LITHIUM BIS(FLUOROSULFONYL)IMIDE(LIFSI)USING ORGANIC SOLVENTS THAT ARE STABLE TOWARD ANODES IN LITHIUM-ION AND LITHIUM-METAL BATTERIES」と題する米国仮特許出願第62/883,178号明細書;
2019年4月30日に出願され、「PROCESS FOR REMOVING PROTIC SOLVENTS FROM LITHIUM BIS(FLUORO-SULFONYL)IMIDE(LiFSI)」と題する米国仮特許出願第62/840,949号明細書;
2018年11月16日に出願され、「PROCESS FOR THE PURIFICATION OF LITHIUM BIS(FLUOROSULFONYL)IMIDE(LiFSI)」と題する米国仮特許出願第62/768,447号。
【0002】
本発明は、一般に、リチウム系電気化学デバイス用の電解質のためのリチウムスルホンイミド塩の分野に関する。特に、本発明は、リチウムイオンおよびリチウム金属電池のアノードに対して安定な有機溶媒を使用して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)から反応性溶媒を除去するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)は、その望ましい物理化学的および電気化学的特性のために、リチウム系電池の伝導性塩として報告されている。LiFSIは、融点が143℃であり、200℃まで熱的に安定である。LiFSIは、リチウムイオン電池の電解質に一般的に使用される塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF)と比較して、加水分解に対してはるかに優れた安定性を示す。LiFSIは、優れた溶解性、LiPF系電解質に匹敵するイオン伝導度、費用対効果、環境への優しさ、および良好な固体電解質界面(SEI)形成特性などの固有の特性のために、リチウムイオン電池の電解質/添加剤として大きな関心を集めている。電池電解質に使用されるLiFSIの純度レベルは、LiFSI系電解質を使用する電池の動作およびサイクル寿命にとって重要である可能性がある。しかし、LiFSIを合成するための多くの商業的プロセスは、合成プロセスによって生成される粗LiFSI中に残留する副生成物を生成する。LiFSI中の主な合成不純物は、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、硫酸リチウム(LiSO)、フルオロスルホン酸リチウム(LiFSO)、および酸型不純物、例えばフッ化水素(HF)である。これらの不純物は、電池にLiFSI塩を使用する前に、除去するか、または様々な許容レベルに低減しなければならない。しかし、それらを除去することは困難である可能性がある。
【0004】
粗LiFSIから上記の合成不純物などの不純物を除去するためのいくつかのプロセスは、リチウム金属に対して反応性である1種または複数の溶媒、例えばアルコール(1種または複数)および水などを利用する。また、粗LiFSIは、溶媒以外の手段により水を含んでいる可能性がある。したがって、そのようなLiFSIが、精製されたLiFSIがデバイスの電解質中に配置されたときに標的合成不純物のレベルが電気化学デバイスの機能を妨害しないほど十分に低い点まで精製されたとしても、この精製されたLiFSIは依然として二次リチウム金属電池での使用に適さない可能性がある。これは、精製LiFSIが、そうでなければ存在し得る標的不純物および/または水を除去するために使用される反応性溶媒の残留物を含有し、反応性溶媒残留物および/または水がデバイスのアノードのリチウム金属と反応し、それによってリチウム金属の完全性およびアノードが適切に機能する能力を破壊するためである。経時的には、電解質を製造するために使用されるLiFSI塩中の(1種または複数の)反応性溶媒の量が比較的少量であっても、二次リチウム金属電池の性能およびサイクル寿命に大きく影響する可能性がある。
【0005】
合成不純物のレベルが非常に低いだけでなく、反応性溶媒のレベルも非常に低い超高純度LiFSI塩が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
一実施態様では、本開示は、反応性溶媒低減リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)生成物(reduced-reactive-solvent lithium bis(fluorosulfonyl) imide (LiFSI) product)を生成する方法に関する。本方法は、LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する第1の粗LiFSIを提供すること、不活性条件下で、第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、第1の粗LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する溶液を生成することであって、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中のLiFSIの溶解度が25℃未満で少なくとも約35%であること、溶液を真空に供して、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒および1種または複数の反応性溶媒を除去し、固体塊(solid mass)を得ること、LiFSIが不溶性である少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で固体塊を処理して、不溶性部分を有する組み合わせを生成すること、不活性雰囲気中で不溶性部分を単離すること、不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングして、微量の少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を除去すること、およびフラッシングされた不溶性部分を約100Torr未満の圧力に供して、反応性溶媒低減LiFSI生成物を得ることを含む。
【0007】
本発明を説明する目的で、図面は、本発明の1つまたは複数の実施形態の態様を示す。しかし、本発明は、図面に示された正確な配置および手段に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の態様によるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)中の反応性溶媒を低減するマルチパス方法を示す流れ図である。
【0009】
図2】本開示の態様により作製された電気化学デバイスを示す高レベル図である。
【0010】
図3】本開示の態様によるLiFSIを精製するマルチパス方法を示す流れ図である。
【0011】
図4A】本開示の態様により合成されたLiFSI塩を利用する非水電解質(上の線)および市販のLiFSI塩を利用する同様の非水電解質(下の線)の放電容量対サイクル数のグラフである。
【0012】
図4B】本開示の態様により合成されたLiFSI塩を利用する非水電解質(上の線)および市販のLiFSI塩を利用する同様の非水電解質(下の線)の容量維持率対サイクル数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
いくつかの態様では、本開示は、粗リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)から1種または複数の反応性溶媒を除去する方法に関する。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、特に明記しない限り、「溶媒(solvent)」または「溶媒(solvents)」などを修飾するための「反応性」という用語の使用は、(1種または複数の)溶媒がリチウム系電池内のリチウム金属、例えばリチウム金属電池のアノード中のリチウム金属に対して反応性であることを意味するものとする。当業者が理解するように、この文脈における「反応性」は、(1種または複数の)溶媒に対するリチウム金属の還元電位の大きさを指す。反応性溶媒は、比較的低い還元電位を有するリチウム金属に対して比較的高い還元電位を有する反応性プロトンを有する。反応性溶媒の例としては、水などのプロトン性溶媒、およびアルコールなどの反応性有機溶媒が挙げられる。逆に、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、特に明記しない限り、「溶媒(solvent)」または「溶媒(solvents)」などを修飾するための「非反応性」という用語の使用は、(1種または複数の)溶媒がリチウム金属に対して非反応性であることを意味するものとする。また、(1種または複数の)反応性溶媒は、リチウム金属を不動態化するのに有効ではないが、(1種または複数の)非反応性溶媒は、リチウム金属に対して非反応性であるか、またはリチウム金属に対して効果的に不動態化する、すなわち、電解質/リチウムアノードシステムを動的に安定にする。非反応性溶媒の例としては、ジメチルカルボナート、エチルメチルカルボナート、ジエチルカルボナート、フッ素含有カルボナートおよびグリコールエーテルが挙げられる。
【0014】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、LiFSIを指す場合の「粗」という用語および同様の用語は、少なくともLiFSIと、LiFSIの合成および/または精製から生じるかまたはLiFSIに存在する反応性溶媒などの1種または複数の反応性溶媒を含む合成生成物を示す。リチウムイオン電池およびリチウム金属電池用の電解質に使用されるLiFSI塩中の(1種または複数の)反応性溶媒の存在は、そのような電池の放電容量および容量維持率などのサイクル性能に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、LiFSI塩中に存在する(1種または複数の)反応性溶媒を可能な限り多く除去することが望ましい。そのような反応性溶媒はまた、本明細書および添付の特許請求の範囲において「溶媒残留物(solvent residue)」または「溶媒残留物(solvent residues)」と呼ばれることもある。粗LiFSIは、セクションIIで後述する不純物などのさらなる不純物を含有し得る。
【0015】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「無水」という用語は、約1重量%以下の水、典型的には約0.5重量%以下の水、しばしば約0.1重量%以下の水、より頻繁には約0.01重量%以下の水、最も頻繁には約0.001重量%以下の水を有することを指す。この定義内で、「実質的に無水」という用語は、約0.1重量%以下の水、典型的には約0.01重量%以下の水、しばしば約0.001重量%以下の水を有することを指す。
【0016】
本開示を通して、「約」という用語は、対応する数値と共に使用される場合、数値の±20%、典型的には数値の±10%、しばしば数値の±5%、最も頻繁には数値の±2%を指す。いくつかの実施形態では、「約」という用語は、数値自体を意味することができる。
【0017】
本明細書に記載されるおよび/または添付の特許請求の範囲で対処される合成および精製反応のいずれかなどの化学反応を説明する場合、「処理する」、「接触させる」、および「反応させる」という用語は互換的に使用され、示されたおよび/または(1種または複数の)所望の生成物を生成するのに十分な条件下で2種以上の試薬を添加または混合することを指す。示されたおよび/または所望の生成物を生成する反応は、必ずしも最初に添加された(1種または複数の)試薬の組み合わせから直接生じるとは限らないことを理解されたい。すなわち、混合物中で生成され、最終的に、示されたおよび/または所望の生成物の形成をもたらす1種または複数の中間体が存在し得る。
【0018】
商業規模では、粗LiFSIは通常、LiFSIが合成または精製される溶媒源に由来するメタノール、エタノールまたは水などの1種または複数の反応性溶媒残留物を含む。これらの反応性溶媒残留物は、アルカリ金属塩と非常に強く溶媒和することが知られており、高温に加熱することなく真空下で吸引することによって除去することは困難である。しかし、LiFSIは、反応性溶媒の存在下では高温での加熱に対して不安定であり、高熱はLiFSIの脱フッ素化を引き起こし、腐食性であることが知られている強酸であるフッ化水素(HF)を生成する。以下のスキームは、加熱時のプロトン性溶媒を含むLiFSIの脱フッ素化を示す。
【化1】
【0019】
すべてのプロトン性溶媒はまた、プロトン還元を受けて水素ガスを生成する傾向があり、それらは一般に、プロトン還元が速度論的に遅い水銀または炭素などの電極を用いた還元電気化学にのみ使用される。プロトン性溶媒はまた、リチウム系電池中に存在するリチウム金属と反応し、特に、以下のスキームによりリチウム金属電池のリチウム金属アノードと反応して水素ガスを生成する。
【化2】
【0020】
上記の詳細はLiFSIに関するものであるが、粗リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、特に商業規模プロセスを使用して製造された粗LiTFSIについても、反応性溶媒に関する同じまたは同様の問題が存在することに留意されたい。その結果、粗LiFSIについて本明細書に記載の1種または複数の反応性溶媒のそれぞれの量を減少させる一般的な方法論も、粗LiTFSIに関連する。
【0021】
別の態様では、本開示は、LiFSIと、比較的低レベルの1種または複数の反応性溶媒、例えば粗LiFSIの合成および/または精製に使用される1種または複数の反応性溶媒とを含有する反応性溶媒低減(reduced-reactive-solvent)LiFSI生成物に関する。粗LiFSIまたはLiTFSI中に存在し得る反応性溶媒の例としては、とりわけ、単独または互いに様々な組み合わせでの、水、メタノール、エタノールおよびプロパノールが挙げられる。以下でより詳細に説明するように、そのような反応性溶媒低減LiFSI生成物は、開示された基本プロセスのうちの1種の単回パススルー、あるいは開示された基本プロセスのうちの1種または複数の複数回パススルーにおいて反応性溶媒低減LiFSI生成物を生成することができる本開示の反応性溶媒低減方法を使用して生成することができる。
【0022】
なおさらなる態様では、本開示は、本開示のLiFSI塩生成物の使用に関する。例えば、本開示のLiFSI塩生成物を使用して、電池またはスーパーキャパシタ、特に二次リチウムイオン電池および二次リチウム金属電池などの任意の適切な電気化学デバイスで使用することができる電解質を生成することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法を使用した(1種または複数の)反応性溶媒の除去および/または(1種または複数の)反応性溶媒の(1種または複数の)非反応性溶媒による置換は、LiFSI(またはLiTFSI)の特定の使用に十分であり得るが、他の場合では、本開示の反応性溶媒除去/置換方法を他の方法で利用可能なLiFSI生成物よりも高純度のLiFSI生成物に適用することが有益であり得る。以下に具体的に扱うそのような高純度LiFSIを提供する2つの経路は、粗LiFSIから非溶媒不純物を除去する方法、および水性中和プロセスを使用して粗LiFSIを合成する方法である。結果として、以下に述べるように、本開示の追加の態様は、これらの方法およびプロセス、ならびに本明細書に開示される2つ以上の方法の様々な組み合わせ、それらの付随する中間体および最終生成物ならびにそれらの使用を含み、これらは以下ですぐに述べる。
【0024】
いくつかの追加の態様では、本開示は、粗LiFSIから様々な非溶媒不純物のうちのいずれか1種または複数を除去するために粗LiFSIを精製する方法に関する。非溶媒不純物除去の文脈および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「粗LiFSI」という用語および同様の用語は、少なくともLiFSIと、LiFSIの合成から生じる非溶媒不純物などの1種または複数の非溶媒不純物とを含む合成生成物を示す。以下および添付の特許請求の範囲では、この種の不純物は、「合成不純物」と呼ばれる。開示された方法を使用してある程度または別の程度まで除去される標的となる不純物の各々は、本明細書および添付の特許請求の範囲において「標的不純物」と呼ばれる。一例では、標的不純物は、上記のようにLiFSIの合成の副生成物である合成不純物である可能性がある。
【0025】
商業規模では、粗LiFSIは、一般に、フッ化水素(HF)、フルオロ硫酸(FSOH)、塩化水素(HCl)、および硫酸(HSO)などの様々な濃度の合成不純物を含む水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を、炭酸リチウム(LiCO)または水酸化リチウム(LiOH)で中和することによって得られる。一例として、LiOHベースの合成を使用すると、粗LiFSIを生成するこのプロセス中に、以下のスキームによって、HFSIおよびHF、FSOH、HCl、およびHSOなどの不純物が対応するLi塩に変換されて、LiFSI、LiSO、FSOLi、LiF、およびLiClがそれぞれ生成される。
【化3】

この例では、LiSO、FSOLi、LiF、およびLiClは、粗LiFSIから除去されることが望ましい標的不純物(ここでは、合成不純物)である。いくつかの実施形態では、本開示の精製方法は、LiSO、FSOLi、LiF、およびLiClのうちの1種または複数などの1種または複数の合成不純物、および/または開示された方法による除去に適した分子構造および特性を有する任意の他の不純物を除去し、その各々は本開示の用語では「標的不純物」である。
【0026】
別の態様では、本開示は、LiFSIと、比較的低レベルの1種または複数の標的不純物、例えば1つまたは複数の合成不純物、例えば上述のLiSO、FSOLi、LiF、およびLiClとを含有する精製LiFSI生成物に関する。以下でより詳細に説明するように、そのような精製LiFSI生成物は、開示された基本プロセスのうちの1種の単回パススルー、あるいは開示された基本プロセスのうちの1種または複数の複数回パススルーにおいて精製LiFSI生成物を生成することができる本開示の精製方法を使用して生成することができる。
【0027】
なおさらなる態様では、本開示は、本開示のLiFSI塩生成物の使用に関する。例えば、本開示のLiFSI塩生成物を使用して、電池またはスーパーキャパシタなどの任意の適切な電気化学デバイスで使用することができる電解質を生成することができる。
【0028】
さらに別の態様では、本開示は、不純物の除去に続く水性中和法を使用してLiFSIを合成する方法に関する。以下により詳細に説明するように、1つの例示的なLiFSI合成方法は、水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)(例えば、精製HFSI)を脱イオン水中の1種または複数のリチウム塩基で中和して、LiFSIおよび1種または複数の合成不純物の水溶液を得ることを含む。追加のステップは、脱イオン水の少なくとも一部を除去して粗LiFSIを得ること、次いで粗LiFSIを精製して1種または複数の合成不純物の少なくとも一部を除去することを含んでもよい。
【0029】
またさらなる態様では、本開示は、本明細書に開示された様々な方法の様々な組み合わせのいずれか1つを実行することに関する。例えば、全体的なプロセスは、本開示の水性中和合成方法を使用してLiFSIを合成することと、この合成に続いて、合成されたLiFSIを使用して、本開示の非反応性溶媒精製プロセスもしくは本開示の反応性溶媒低減/置換方法、またはこれら2つの組み合わせのいずれかを実施することとを含むことができる。両方の追加の方法が使用される場合、特にいずれかの反応性溶媒が非反応性溶媒精製プロセスで使用される場合、反応性溶媒低減/置換方法を最後に行うことが一般に好ましい。別の例として、全体的なプロセスは、商業的に供給され、従来法で合成された粗LiFSIなどの既に合成された粗LiFSIから開始し、次いで、本開示の非反応性溶媒精製プロセスまたは本開示の反応性溶媒低減/置換方法の一方、他方または両方を行うことを含み得る。
【0030】
なおさらなる態様では、本開示は、直前の段落に記載された方法の組み合わせのいずれか1つを使用して生成されたLiFSIを含有する精製LiFSI生成物、直前の段落に記載された組み合わせのいずれか1つを使用して生成された精製LiFSI塩を使用して生成された電解質、およびそのような電解質の使用に関する。
【0031】
本開示の前述および他の態様の詳細を以下に説明する。
【0032】
I.反応性溶媒(1種または複数)の除去/置換
【0033】
このセクションは、リチウムスルホンイミド塩中の反応性溶媒を除去および/または置換する方法、それによって生成される反応性溶媒低減リチウムスルホンイミド塩、およびそのような反応性溶媒低減リチウムスルホンイミド塩の使用を扱う。
【0034】
I.A.粗LiFSI中の反応性溶媒(1種または複数)を除去/置換する例示的な方法
【0035】
上記のように、粗LiFSIは、例えば、LiFSIの合成および/または精製からの残留物として、1種または複数の反応性溶媒を含むことができる。本開示の反応性溶媒除去方法を使用して、粗LiFSI中の1種または複数の反応性溶媒を完全に除去することを含めて低減することができる。反応性溶媒(1種または複数)の除去は、1種または複数の非反応性溶媒を利用し、非反応性溶媒(1種または複数)の少なくとも一部は、反応性溶媒除去方法を完了した後に残留するので、いくつかの実施形態では、この方法は、また/あるいは、溶媒置換方法と考えられてもよく、望ましくない反応性溶媒(1種または複数)は、反応性溶媒(1種または複数)の電池性能に悪影響を及ぼさない非反応性溶媒(1種または複数)に置換される。以下に記載されるように、いくつかの実施形態では、残留する非反応性溶媒(1種または複数)は、約3000ppm以下、例えば約100ppm~約3000ppmの範囲であることが多い。
【0036】
いくつかの実施形態では、反応性溶媒除去方法は、不活性条件下で粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、粗LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する溶液を生成することを含む。一般に、このステップは、イオンに結合した配位反応性溶媒分子を所望の非反応性分子で置換することを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中のLiFSIの溶解度は、室温で少なくとも約35%~約65%である。いくつかの実施形態では、粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることは、粗LiFSIを、溶液全体の重量に対して約35重量%~約65重量%の範囲内にある量の少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることを含む。
【0037】
LiFSIと少なくとも1種の第1の無水有機溶媒との接触中の不活性条件は、とりわけ、アルゴンガスおよび/または窒素ガス、および/または他の不活性乾燥(すなわち、無水)ガスを使用するなど、任意の適切な技術を使用して生成することができる。精製方法は、1気圧など、任意の適切な圧力で実施することができる。
【0038】
少なくとも1種の第1の無水有機溶媒の各々が選択され得る無水有機溶媒の例としては、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、およびトランスブチレンカルボナートなどの有機カルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、およびアジポニトリルなどのニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、および酢酸ブチルなどの酢酸アルキル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)などのプロピオン酸アルキルが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。例えば、リチウムイオン電池またはリチウム金属電池用のLiFSI塩を生成するために、1種または複数の非反応性有機溶媒を使用して1種または複数の反応性溶媒を除去する場合、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒に対して選択された各無水有機溶媒は、リチウム金属と非反応性であることが望ましい。このような非反応性の無水有機溶媒としては、DMC、DEC、EMC、フルオロエチレンカルボナート、ジフルオロエチレンカルボナート、およびトリフルオロメチルエチルカルボナートが挙げられる。
【0039】
粗LiFSIまたはLiTFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させた後、溶液を真空に供して、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒および1種または複数の反応性溶媒、例えば存在し得るものの中でも特に水、メタノールまたはエタノールのうちの1種または複数を除去して、固体塊を得る。いくつかの実施形態では、真空の圧力は、約100Torr未満、約10Torr未満、または約1Torr未満、約0.1Torr未満、または約0.01Torr未満であってもよい。いくつかの実施形態では、真空は、約25℃~約40℃の範囲の温度などの制御された温度で行われる。
【0040】
次いで、固体塊を、固体塊中のLiFSIが不溶性である少なくとも100重量%の1種または複数の第2の無水有機溶媒で処理して、不溶性部分を有する組み合わせを生成することができる。この処理は、任意の配位溶媒または溶媒和溶媒を除去することができる。1種または複数の第2の無水有機溶媒の各々が選択され得る無水有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0041】
不溶性部分は、アルゴン、窒素、別の乾燥不活性ガス、またはそれらの任意の組み合わせなどの乾燥不活性ガスによって提供される不活性雰囲気中で組み合わせから単離される。不溶性部分は、1種または複数の濾過材、遠心分離、比重分離、ハイドロサイクロンなどの任意の適切な方法を使用して行われる濾過などの任意の適切な方法で単離され得る。当業者は、本開示のプロトン性溶媒低減方法の任意の特定の具体化に使用するための適切な濾過技術を理解するであろう。
【0042】
不溶性部分は、少なくとも1種の不活性ガス(例えば、乾燥不活性ガス、すなわち1ppm未満の水)でフラッシングし、微量の少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を除去することができる。少なくとも1種の乾燥不活性ガスの各々が選択され得る不活性ガスの例としては、アルゴンおよび窒素が挙げられる。
【0043】
フラッシングした不溶性部分を、約100Torr未満の圧力に供して、プロトン性溶媒が低減されたLiFSI生成物またはプロトン性溶媒が低減されたLiTFSI生成物を得ることができる。いくつかの実施形態では、圧力は、約10Torr未満、または約1Torr未満、約0.1Torr未満、または約0.01Torr未満であってもよい。一例では、真空中の圧力は約0.01Torr未満である。いくつかの実施形態では、真空は、約40℃未満(例えば、約20℃~約40℃の範囲内)の温度などの制御された温度で行われる。得られた反応性溶媒低減LiFSI生成物は、典型的には、白色の自由流動性粉末である。
【0044】
乾燥した反応性溶媒低減LiFSI生成物は、保管中のLiFSIの分解を抑制するために、乾燥ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)容器または遊離フッ化物に対して不活性なニッケル合金などの乾燥不活性容器に、約25℃以下などの低温で、アルゴンなどの不活性ガス内で保管することができる。
【0045】
一般的な例であり、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒としてDMCを使用し、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒としてジクロロメタンを使用する例において、典型的なプロセスでは、とりわけ水、メタノール、および/またはエタノールなどの様々なレベルの1種または複数の反応性溶媒を有する粗LiFSIを、LiFSIが可溶性である約30重量%~約50重量%の無水ジメチルカルボナートと接触させる。この例では、粗LiFSIをDMCと接触させた後、真空下(例えば、約0.01Torr未満)で水、メタノール、および/またはエタノールなどの反応性溶媒(1種または複数)を用いてDMCを除去する。DMCの除去により、固体塊が得られる。この方法は、得られた固体塊を、LiFSIが不溶性である無水ジクロロメタンで処理して、不溶性部分と無水ジクロロメタンと任意の他の非不溶性成分(1種または複数)との組み合わせを得ることをさらに含んでもよい。不溶性部分(例えば、粉末LiFSI)を濾過によって得ることができ、乾燥Arおよび/または乾燥Nでフラッシングすることによって微量のジクロロメタンを除去することができる。次いで、フラッシングされたLiFSIを約40℃未満の温度で真空(例えば、0.01Torr未満)に供して、乾燥反応性溶媒低減LiFSI生成物、ここでは遊離溶媒を含まないLiFSI生成物を得ることができる。反応性溶媒低減LiFSI生成物は、遊離溶媒を含まなくてもよいが、実際に言えば、LiFSI生成物は、典型的には、LiFSIと配位した少なくともいくらかの反応性および/または非反応性溶媒を含む。乾燥プロトン性溶媒を含まないLiFSI生成物は、不活性条件下、例えば、約25℃未満の温度でPTFE容器に保存されてもよい。
【0046】
上記方法のいずれか1つを使用して反応性溶媒(1種または複数)が除去される粗LiFSI中の反応性溶媒(1種または複数)の量および所望のLiFSI生成物中の反応性溶媒(1種または複数)の所望の最大量に応じて、各パスで1種または複数の反応性溶媒の量を順次減少させるためにマルチパス法を実施することが必要であり得る。そのようなマルチパス方法は、最初は粗LiFSI中にあり、その後、得られた反応性溶媒低減LiFSI生成物中に依然として残留している可能性のある、1種または複数の反応性溶媒の各々のレベルを連続的に低下させるために、前述の方法のうちのいずれか1つまたは複数を連続的に利用することができる。本開示の例示的なマルチパス反応性溶媒低減方法100を図1に示す。
【0047】
図1を参照すると、ブロック105において、特定のレベル(1または複数)で存在する1種または複数の反応性溶媒を含有する粗LiFSIが提供される。ブロック110において、粗LiFSIの反応性溶媒含有量が、上記の方法のいずれか1つを用いて低減される。ブロック110における反応性溶媒低減の最終成果は、各反応性溶媒のレベルが低下した反応性溶媒低減LiFSI生成物である。任意選択のブロック115において、反応性溶媒低減LiFSI生成物中の反応性溶媒のうちの1種または複数の各々のレベルを、適切な測定手順を用いて測定する。任意選択のブロック120において、測定されたレベルの各々は、反応性溶媒低減LiFSI生成物中に存在することが許容される反応性溶媒(1種または複数)の最大所望レベルと比較される。任意選択のブロック125において、測定されたレベルのうちの1または複数が、対応する所望の最大レベルを超えるかどうかが判定される。超えていない場合、すなわち、各測定されたレベルが対応する所望の最大レベルを下回る場合、反応性溶媒低減LiFSI生成物は、所望の反応性溶媒低減レベルの仕様を満たし、さらなる反応性溶媒低減を必要としない。したがって、マルチパス反応性溶媒低減方法100は、ブロック130で終了することができる。
【0048】
しかし、ブロック125において、測定されたレベルのうちのいずれか1または複数が対応する所望の最大レベル(1または複数)を超える場合、ブロック110における前のパススルー反応性溶媒低減で処理された反応性溶媒低減LiFSI生成物は、ブロック110においてループ135を介して処理することができる。このブロック110における反応性溶媒低減パススルーでは、溶液の生成および/または結晶化LiFSIの洗浄に使用される無水有機溶媒(1種または複数)は、ブロック110における前のパススルー反応性溶媒低減で使用されたものと同じであっても異なっていてもよい。ブロック110における反応性溶媒低減の最後に、任意選択のブロック115および120において、反応性溶媒レベル(1または複数)の一回または複数の測定、および測定されたレベル(1または複数)の1種または複数の対応する所望の最大レベルとの比較を行って、方法100がブロック130で終了することができる、または最新のパスの反応性溶媒低減LiFSI生成物中のLiFSIがループ135を介して再び反応性溶媒低減に供されるべきかを決定することができる。
【0049】
マルチパス反応性溶媒低減法が有用であり得る非限定的で例示的な例は、リチウム系電池用のLiFSIなどのリチウム系電解質である。粗LiFSIは、典型的には、LiFSIの結晶化プロセスからのメタノール、エタノール、および/またはプロパノールなどの反応性溶媒を有する。これらの反応性溶媒は、3000ppmを超えて存在することがある。しかし、このような反応性溶媒のレベルは、反応性溶媒がリチウム金属と反応して水素ガスおよびリチウムアルコキシドを生成するため、リチウム金属電池にとって有害である。その結果、リチウム金属電池用のLiFSI系電解質中の反応性溶媒レベルを低く、例えば約200ppm未満、約100ppm未満、約50ppm未満、または約10ppm未満に保つことが望ましい。電解質に使用されるLiFSI塩を合成するために使用される粗LiFSIについて、図1に示すマルチパス反応性溶媒低減方法100などの本開示のマルチパス精製方法を使用することは、そのような低い反応性溶媒レベルを達成する有用な方法であり得る。
【0050】
非限定的であるが例示的な例として、マルチパス反応性溶媒低減方法100を使用して、合成不純物として3000ppmのアルコールを含有する粗LiFSIから出発して、LiFSI生成物中の(標的反応性アルコールの形態の)反応性溶媒含有量を1ppm未満に低下させることができる。ブロック105において、所望の量の粗LiFSIが提供される。ブロック110において、粗LiFSIが精製される、すなわち、上記または下記に例示される方法のいずれかを使用して、望ましくないアルコールの量が低減される。
【0051】
任意選択のブロック115において、反応性溶媒低減LiFSI生成物中のアルコールのレベルは、1000ppmであると測定される。任意選択のブロック120において、1000ppmの測定されたレベルを、100ppm未満の必要条件と比較する。任意選択のブロック125では、1000ppmが100ppm未満の必要条件よりも大きいので、反応性溶媒低減LiFSI生成物は、ブロック110において、ループ135を介して、最初の粗LiFSI中の反応性溶媒レベルを低減するために使用されたものと同じまたは異なる反応性溶媒低減プロセスを使用して処理される。この第2のパスでは、出発アルコールレベルは1000ppmであり、2回反応性溶媒低減LiFSI生成物中の最終不純物レベルは、任意選択のブロック115で測定して、ここでは500ppmである。この500ppmレベルを任意選択のブロック120において100ppm未満の必要条件と比較した後、任意選択のブロック125において、2回反応性溶媒低減LiFSI生成物は、ブロック110において、ループ135を介して、前の2回のパスのいずれかで使用されたものと同じまたは異なる反応性溶媒低減方法で再度処理する必要があると決定される。
【0052】
この第3のパスでは、出発アルコールレベルは500ppmであり、3回反応性溶媒低減LiFSI生成物中の最終不純物レベルは、任意選択のブロック115で測定して、ここでは100ppm未満である。この100ppm未満のレベルを任意選択のブロック120で100ppm未満の必要条件と比較した後、任意選択のブロック125において、3回反応性溶媒低減LiFSI生成物は、マルチパス反応性溶媒低減方法100がブロック130で終了することができるような必要条件を満たすと判定される。
【0053】
I.B.例
【0054】
上記の方法は、以下の例によってさらに説明されるが、これらの例は単に例示の目的で含まれており、本開示の範囲を限定することを意図しないことが理解されよう。特に明記しない限り、これらの例で使用したすべての化学物質は高純度であり、信頼できる商業的供給源から得た。プロセスから水分を排除するために厳しい予防措置を講じ、十分に換気されたフードを使用して反応を行った。
【0055】
I.B.1.例1
【0056】
DMCおよびジクロロメタンを使用したLiFSIからのメタノールの除去:250mL乾燥フラスコ中で、4000ppmのメタノールおよび50ppmの水を含有するLiFSI(200g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水DMC(140g(約41重量%))を撹拌しながら少しずつ添加して、透明な溶液を得た。混合物を室温で0.5時間撹拌した。透明な溶液を0.01Torr未満の減圧で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(150g)で処理した。組み合わせを室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離した。微量のジクロロメタンを、乾燥Ar/Nガスでフラッシングすることによって除去した。単離したLiFSIを真空中(0.1Torr未満)、35℃で乾燥させて、0ppmのメタノールおよび15.0ppmの水を含む反応性溶媒低減LiFSI生成物を90%の収率で得た。
【0057】
I.B.2.例2
【0058】
DMCおよびジクロロメタンを使用したLiFSIからのエタノールの除去:250mL乾燥フラスコ中で、2900ppmのエタノールおよび15ppmの水を含有するLiFSI(178g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水DMC(140g(約44重量%))を撹拌しながら少しずつ添加して、透明な溶液を得た。混合物を室温で0.5時間撹拌した。透明な溶液を0.01Torr未満の減圧で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(150g)で処理した。組み合わせを室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離した。微量のジクロロメタンを、乾燥Ar/Nガスでフラッシングすることによって除去した。単離したLiFSIを真空中(0.1Torr未満)、35℃で乾燥させて、0ppmのエタノールおよび4ppmの水を含む反応性溶媒低減LiFSI生成物を90%の収率で得た。
【0059】
I.B.3.例3
【0060】
DMCおよびジクロロメタンを用いたLiFSIからのイソプロパノールの除去:250mL乾燥フラスコ中で、2000ppmのイソプロパノールおよび30ppmの水を含有するLiFSI(350g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水DMC(200g(約36重量%))を撹拌しながら少しずつ添加して、透明な溶液を得た。混合物を室温で0.5時間撹拌した。透明な溶液を0.01Torr未満の減圧で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(350g)で処理した。組み合わせを室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離した。微量のジクロロメタンを、乾燥Ar/Nガスでフラッシングすることによって除去した。単離したLiFSIを真空中(0.1Torr未満)、35℃で乾燥させて、0ppmのイソプロパノールおよび4ppmの水を含む反応性溶媒低減LiFSI生成物を92%の収率で得た。
【0061】
I.C.例示的な反応性溶媒低減LiFSI生成物
【0062】
上記に開示されたシングルパス反応性溶媒低減方法または図1のマルチパス方法100のいずれかなどの前述の反応性溶媒低減方法のいずれかを使用すると、得られた精製LiFSI生成物は、反応性溶媒(1種または複数)の標的反応性レベルが非常に低い可能性がある。例えば、リチウム金属電池での使用に特に適したいくつかの実施形態では、最終的な超高純度LiFSI塩生成物(すなわち、本明細書に開示される反応性溶媒低減の完了後)中に残留する反応性溶媒(1種または複数)の量は、好ましくは約100ppm未満、より好ましくは約50ppm未満、最も好ましくは約25ppm未満である。いくつかの実施形態では、最終的な超高純度LiFSI塩生成物中に残留する非反応性溶媒は、反応性溶媒よりも電池性能に悪影響を及ぼさないが、そのような実施形態では、最終的な超高純度LiFSI塩生成物中に残留する非反応性溶媒(1種または複数)の量は、典型的には約3000ppm未満、より典型的には約1000ppm未満である。すべての精製ステップについて非反応性溶媒のみを使用して精製を行う場合、最終的な超高純度LiFSI塩生成物は、典型的には、少なくとも約100ppmの非反応性溶媒(1種または複数)を有するが、典型的には、約100ppm以下の反応性溶媒(1種または複数)を有する。本開示による反応性溶媒低減前の粗LiFSI中の反応性溶媒(1種または複数)のレベルは、約500ppm以上、約1000ppm以上、または約2000ppm以上であってもよい。DMCが反応性溶媒除去/置換方法において使用される一例では、本開示の精製LiFSIは、約0.2%~約0.3%のDMCおよび100ppm未満の反応性溶媒としての水を有する。
【0063】
I.D.反応性溶媒低減LiFSI塩生成物の使用例
【0064】
上述のように、反応性溶媒低減LiFSI塩生成物を使用して、とりわけ、電気化学デバイス用の反応性溶媒低減LiFSI系電解質を生成することができる。ここで、反応性溶媒低減電解質の反応性溶媒低減は、反応性溶媒低減LiFSI塩生成物が本明細書に開示される方法のうちのいずれか1つまたは複数により処理されたという事実から生じる。そのような反応性溶媒低減電解質は、本開示の反応性低減溶媒LiFSI塩生成物(塩)を1種または複数の溶媒、1種または複数の希釈剤、および/または1種または複数の添加剤と混合することなどの様々な方法のいずれかを使用して生成することができ、溶媒、希釈剤、および添加剤は当技術分野で公知であり得る。
【0065】
電気化学デバイスが二次リチウムイオン電池または二次リチウム金属電池などのリチウム系デバイスである場合、反応性溶媒(1種または複数)が電池の性能に影響を与えないように、電解質を生成するために使用されるLiFSI塩中の反応性溶媒(1種または複数)の量を最小限にすることが望ましい。例えば、LiFSI塩中の反応性溶媒が多いほど、放電容量および容量維持率などのサイクル性能に対するその反応性溶媒の悪影響が大きくなる。したがって、リチウム系二次電池の場合、このような電池の電解質に使用されるLiFSI塩から可能な限り多くの反応性溶媒(1種または複数)を除去することが望ましい。典型的には、上記のように、これは、本明細書に開示される反応性溶媒低減プロセスにおいて1種または複数の非反応性溶媒を使用することを含む。したがって、最初の粗LiFSI中の反応性溶媒の大部分は、対応する反応性溶媒低減プロセスで使用される非反応性溶媒(1種または複数)で除去および/または置換される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される技術を使用して生成された反応性溶媒低減LiFSI生成物は、上記の「I.C.例示的なプロトン性溶媒低減LiFSI生成物」と題するセクションに示される反応性および/または非反応性溶媒レベルを有することができる。
【0066】
I.D.1.リチウム系電気化学デバイス用の電解質に使用するためのLiFSI塩の調製
【0067】
上記で言及したように、リチウム金属アノードを有する二次リチウム電池などのリチウム系電気化学デバイスで使用するための電解質を調製する際の重要なステップは、そのような残留物を含有するLiFSI塩から、例えば、LiFSI塩を合成および/または精製するプロセス(1または複数)から、反応性溶媒残留物をできる限り多く除去することである。いくつかの実施形態では、この除去プロセスは、1種または複数のアルコールおよび水などの1種または複数の反応性溶媒が1種または複数の非反応性溶媒によって少なくとも部分的に置き換えられる置換態様を含み得る。上記のように、リチウム系電気化学デバイス用の電解質を生成する前にLiFSI塩中の反応性溶媒残留物(1種または複数)を除去および/または置換することにより、LiFSI塩中に存在してデバイス内のリチウム金属と反応する反応性溶媒がはるかに少ない(場合によっては存在しない)という事実に起因して、電気化学デバイスのより良好な性能および/またはサイクル寿命の向上がもたらされる。置換/除去プロセスで使用される非反応性溶媒(1種または複数)は、リチウム系電気化学デバイスにとって有益であることに基づいて選択することができることに留意されたい。例えば、選択される非反応性溶媒は、電解質に所望の濃度を与えるようにLiFSI塩が溶解された溶媒として使用することができる種類のものであってもよい。この場合、本開示の反応性溶媒除去/置換方法を使用して反応性溶媒(1種または複数)を除去し、潜在的には、反応性溶媒を少量の最終溶媒で置き換えることも、最終電解質にとって有益になる。あるいは、反応性溶媒除去/置換プロセスのために選択される非反応性溶媒(1種または複数)は、任意の主要な塩溶解機能とは別に、とりわけリチウム金属アノード上の固体電解質界面(SEI)層の形成を促進するための添加剤など、電気化学デバイスに特に有益になるように添加される望ましい添加剤であってもよい。
【0068】
リチウム系電気化学デバイスで使用するためのLiFSI塩を調製する方法は、リチウム系デバイスのための電解質を調製するためにLiFSI塩を使用する前にそのような溶媒残留物が除去および/または置換されなかった場合、リチウム系デバイスの機能に有害であろう1種または複数の反応性溶媒残留物を含有するLiFSI塩を提供することを含む。LiFSI塩を提供することは、そのような塩の商業的供給者からLiFSI塩を購入すること、または粗LiFSI塩を社内で合成および/または精製することを含んでもよい。次いで、この反応性溶媒残留物含有LiFSI塩を、本明細書中に開示される方法のいずれかにより、例えば、「I.A.粗LiFSIから反応性溶媒(1種または複数)を除去する例示的な方法」と題されたセクションにおいて上に記載される方法により処理することができる。リチウム系電気化学デバイスで使用するためのLiFSI塩を調製する方法は、反応性溶媒除去/置換方法で使用するための1種または複数の非反応性溶媒を選択することを含み得る。「除去/置換」および同様の位置における前方スラッシュまたは斜線は、一般に理解されるように、「および/または」、すなわち一方、他方、または両方を意味することに留意されたい。いくつかの実施形態では、選択される非反応性溶媒の少なくとも1種は、リチウム金属に対して非反応性であるだけでなく、電解質添加剤のようにSEI層成長促進などのプラスの利益を提供することに基づいて選択される。LiFSI塩は、反応性溶媒の除去/置換処理に供されると、リチウム系電気化学デバイス用の電解質を生成するために使用され得る。
【0069】
I.D.2.本開示の方法を用いて生成されたLiFSI塩を利用する例示的な電気化学デバイス
【0070】
図2は、本開示の態様により作製された電気化学デバイス200を示す。当業者は、電気化学デバイス200が、例えば、電池またはスーパーキャパシタであってもよいことを容易に理解するであろう。さらに、当業者は、図2は電気化学デバイス200のいくつかの基本的な機能的構成要素のみを示すものであり、二次電池またはスーパーキャパシタなどの電気化学デバイスの実際の具体化が、典型的には、巻回構造または積層構造のいずれかを使用して具体化されることを容易に理解するであろう。さらに、当業者は、電気化学デバイス200が、例示を容易にするために図2には示されていない、とりわけ、電気端子、シール(1種または複数)、熱遮断層(1種または複数)、および/または通気口(1種または複数)などの他の構成要素を含むことを理解するであろう。
【0071】
この例では、電気化学デバイス200は、間隔を置いて配置された正極および負極204、208、ならびにそれぞれ対応する一対の集電体204A、208Aを含む。多孔質誘電体セパレータ212は、正極および負極204、208の間に配置され、正極および負極を電気的に分離するが、本開示により生成された反応性溶媒低減LiFSI系電解質216のイオンがそこを流れることを可能にする。多孔質誘電体セパレータ212および/または正極および負極204、208の一方、他方、または両方は、多孔質であるか否かに応じて、プロトン性溶媒低減LiFSI系電解質またはLiTFSI系電解質216が含浸されている。図2では、正極および負極204、208の両方は、反応性溶媒低減LiFSI系電解質216が内部に延在するように示されていることにより、多孔質であるように示されている。上述したように、反応性溶媒低減LiFSI系電解質216に本開示の反応性溶媒低減LiFSI系電解質を使用する利点は、合成または精製によるプロトン性溶媒などのLiFSI系電解質中に存在し得る反応性溶媒(1種または複数)を、電気化学デバイス200での使用に許容可能なレベル(例えば、1または複数のプロトン性溶媒レベルの仕様を満たす)まで低減できることである。反応性溶媒低減LiFSI生成物(塩)の例、および反応性溶媒低減LiFSI系電解質216を生成するために使用することができる反応性溶媒(1種または複数)の低レベルの例は、上述されている。電気化学デバイス200は、集電体204A、208A、正極および負極204、208、多孔質誘電体セパレータ212、ならびにプロトン性溶媒低減LiFSI系電解質またはLiTFSI系電解質216を収容する容器220を含む。
【0072】
当業者には理解されるように、電気化学デバイスの種類および設計に応じて、正極および負極204、208の各々は、精製LiFSI系電解質216中のアルカリ金属イオンおよび他の成分と適合する適切な材料を含む。集電体204A、208Aの各々は、銅またはアルミニウムあるいはそれらの任意の組み合わせなどの任意の適切な導電性材料で作成することができる。多孔質誘電体セパレータ212は、とりわけ、多孔質ポリマーなどの任意の適切な多孔質誘電材料で作成することができる。図2の電気化学デバイス200を構築するために使用することができる様々な電池およびスーパーキャパシタ構造が当技術分野で知られている。そのような既知の構造のいずれかが使用される場合、電気化学デバイス200の新規性は、LiFSI塩および対応する電解質を生成する従来の方法では達成されなかった高純度の反応性溶媒低減LiFSI系電解質216にある。
【0073】
一例では、電気化学デバイス200は、以下のように作製され得る。反応性溶媒低減LiFSI系電解質216は、粗LiFSIから出発して生成することができ、次いで、これを本明細書に記載の反応性溶媒低減方法のうちのいずれか1つまたは複数を使用して精製して、適切な低レベルの1種または複数の標的反応性溶媒を有する反応性溶媒低減LiFSI生成物を生成する。次いで、この反応性溶媒低減LiFSI生成物を使用して、例えば、電気化学デバイス200の性能を向上させる1種または複数の溶媒、1種または複数の希釈剤、および/または1種または複数の添加剤を添加することによって、反応性溶媒低減LiFSI系電解質216を生成することができる。次いで、反応性溶媒低減LiFSI系電解質216を電気化学デバイス200に添加することができ、その後、容器220を密封することができる。
【0074】
II.粗リチウムスルホンイミド塩からの非溶媒不純物の除去
【0075】
本セクションは、粗リチウムスルホンイミド塩から非溶媒不純物を除去する方法、それによって生成された精製リチウムスルホンイミド塩、およびそのような精製リチウムスルホンイミド塩の使用を扱う。
【0076】
II.A.粗LiFSIを精製する例示的な方法
【0077】
LiFSIを生成するためのいくつかのプロセスが知られているが、商業規模でLiFSIを合成するための既知の方法の各々は、合成不純物などの様々なレベルの不純物を含有する粗LiFSIを生成する。例えば、上記のように、LiFSIは、LiCOまたはLiOHと反応する粗HFSIを使用して商業的に生成されることが多く、粗HFSIは、そのように合成された粗LiFSI中に不純物を生じる様々な合成不純物を含有する。
【0078】
例えば、HFSIを合成する1つの方法は、尿素(NHCONH)およびフルオロスルホン酸(FSOH)を使用する。このプロセスの欠点は、HFSIの収率が低いこと、および不純物として大過剰のフルオロスルホン酸を有する単離されたHFSIである。フルオロスルホン酸の沸点(b.p.)(b.p.165.5℃)およびHFSIのb.p.(b.p.170℃)は互いに非常に近く、単純な分別蒸留によってそれらを互いに分離することは非常に困難である[1]。HFSIとフルオロスルホン酸の混合物を塩化ナトリウムで処理することによってフルオロスルホン酸を除去する試みがなされている。この場合、塩化ナトリウムがフルオロスルホン酸と選択的に反応してナトリウム塩およびHCl副生成物を生成する。このプロセスには、精製HFSIの収率が低く、また、HFSI生成物が不純物としていくらかの塩化物不純物(HClおよびNaCl)で汚染されるという難点がある。
【0079】
LiFSI合成に使用するためのHFSIを合成する別の方法は、三フッ化ヒ素(AsF)でビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)をフッ素化することを含む。この反応では、HCSIをAsFで処理する。三フッ化ヒ素は有毒であり、蒸気圧が高いため、工業的規模での取り扱いが特に困難である。典型的な反応は、HCSI対AsFが1:8.6の比を使用する。本方法によって生成されたHFSIはまた、AsFおよびAsCl合成不純物で汚染されていることが分かり、これらは塩化物およびフッ化物不純物の良好な供給源であることが分かった[2]。
【0080】
LiFSI合成に使用するためのHFSIは、三フッ化アンチモン(SbF)でHCSIをフッ素化することによって調製することもできる。この反応の三塩化アンチモン副生成物は、HFSIに高い溶解度を有し、本質的に昇華可能であり、所望の生成物から分離することは非常に困難である。この反応の生成物は、典型的には、塩化物不純物の良好な供給源である三塩化アンチモンで汚染されている[3]。
【0081】
LiFSI合成に使用するためのHFSIを生成するためのさらに別の方法は、高温でHCSIを過剰の無水HFと反応させることを含む[4]。この反応の収率は最大で60%であり、生成物はHCSIの分解から生成されるフルオロスルホン酸で汚染されている。沸点はHFSIの沸点に近いため、この副生成物は除去することが困難である。無水HFを使用してHSCIをフッ素化するこの反応は、95%超の収率[5]を達成したが、それでも生成物は合成不純物としてフルオロスルホン酸、フッ化水素、塩化水素、および硫酸で汚染されている。
【0082】
HCSIを三フッ化ビスマス(BiF)と反応させると、より清浄な反応生成物中にHFSIが生じることが報告されている。この反応では、BiClは昇華性ではないため、形成されたBiCl副生成物を分別蒸留によってHFSIから容易に分離することができる[6]。しかし、生成物は、合成不純物としていくらかの塩化物、フッ化物、およびフルオロスルホン酸を有する。
【0083】
HFSIを合成する別の方法では、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を過塩素酸と反応させる[7]。このプロセスでは、副生成物の過塩素酸カリウムは爆発性であると考えられる。また、単離されたHFSIは、KFSI中に存在する高レベルのカリウムカチオンおよびいくらかの塩化物不純物で汚染されている。
【0084】
式FSONH-OFを有するイミドビス(硫酸)ジフルオリドとしても知られる水素ビス(フルオロスルホン酸)は、融点(m.p.)が17℃であり、b.p.が170℃であり、密度が1.892g/cmである無色の液体である。これは、水および多数の有機溶媒に非常によく溶解する。水中での加水分解は比較的遅く、HF、HSO、およびアミド硫酸(HNSO)の形成をもたらす。HFSIは強酸であり、pKaは1.28である[8]。
【0085】
本開示の精製方法を使用して、粗LiFSI中に存在する合成不純物および/または他の不純物などの標的不純物、例えば、前述の合成方法のうちのいずれか1つまたは複数を使用して生成された粗HFSIを使用して合成された粗LiFSIを除去することができる。いくつかの実施形態では、精製方法は、不活性条件下で粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、粗LiFSIおよび1種または複数の標的不純物を含有する溶液を生成することを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中のLiFSIの溶解度は、室温で少なくとも約60%、典型的には約60%~約90%の範囲であり、1種または複数の標的不純物の各々の溶解度は、典型的には室温で約20パーツ・パー・ミリオン(ppm)以下、多くの場合、例えば約13ppm未満である。いくつかの実施形態では、粗LiFSIと少なくとも1種の第1の無水有機溶媒との接触は、最小量の少なくとも1種の第1の無水有機溶媒を使用して行われる。少なくとも1種の第1の無水有機溶媒の文脈における「最小量」とは、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、実質的に、LiFSIがもはや溶解し続けない量で提供されることを意味する。いくつかの実施形態では、最小量の少なくとも1種の無水無機溶媒は、溶液の約50重量%~約75重量%の範囲にある。
【0086】
いくつかの実施形態では、粗LiFSIと少なくとも1種の第1の無水有機溶媒との接触は、約15℃~約25℃の範囲内の温度よりも低い温度で行われる。粗LiFSIの少なくとも1つの第1の無水有機溶媒への溶解は発熱反応である。その結果、いくつかの実施形態では、冷却器、サーモスタット、サーキュレータなどの任意の適切な温度制御装置を使用して溶液の温度を制御することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の無水有機溶媒を粗LiFSIと接触させる際に、溶液の温度を約25℃未満に維持するように溶液の温度を制御する。最小量の少なくとも1種の第1の無水有機溶媒を達成するために、および/または少なくとも1種の第1の無水有機溶媒による粗LiFSIの接触中に溶液の温度を制御するために、少なくとも1種の無水有機溶媒を、適切な供給装置または投入装置を使用して、正確に制御された速度で、または正確に制御された量で連続的または継続的に添加することができる。
【0087】
LiFSIと少なくとも1種の第1の無水有機溶媒との接触中の不活性条件は、とりわけ、アルゴンガスおよび/または窒素ガス、および/または他の不活性乾燥(すなわち、無水)ガスを使用するなど、任意の適切な技術を使用して生成することができる。精製方法は、1気圧など、任意の適切な圧力で実施することができる。
【0088】
少なくとも1種の第1の無水有機溶媒の各々が選択され得る無水有機溶媒の例としては、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、メタノール、エタノール、プロパノールおよびイソプロパノールが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0089】
粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させた後、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を溶液に添加して、その少なくとも1種の標的不純物を沈殿させる。少なくとも1種の第2の無水有機溶媒は、LiFSIおよび1種または複数の標的不純物が、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒に実質的に不溶性(上記のように、標的不純物は20ppmを超えて可溶性であるべきではないことが一般に望ましい)であるように選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を最小量で添加する。少なくとも1種の第2の無水有機溶媒の文脈における「最小量」とは、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、実質的に、1種または複数の標的不純物がもはや溶液から析出し続けない量で提供されることを意味する。いくつかの実施形態において、最小量の少なくとも1種の無水無機溶媒は、溶液の0重量%超~10重量%以下の範囲にある。少なくとも1種の第2の無水有機溶媒は、粗LiFSIと少なくとも1種の第1の無水有機溶媒との接触中に存在するのと同じ温度、圧力および不活性条件下で添加することができる。
【0090】
少なくとも1種の第2の無水有機溶媒の各々が選択され得る無水有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0091】
少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を添加した後、1種または複数の標的不純物の各々の不溶性部分を、例えば濾過またはカニューレ挿入して溶液から分離し、溶液中にLiFSIを含有する濾液を生成する。濾過は、1種または複数の濾過材、遠心分離、重力分離、ハイドロサイクロンなどを使用するなど、任意の適切な方法を使用して実施することができる。当業者は、本開示の精製方法の任意の特定の具体化に使用するための適切な濾過技術(1種または複数)を理解するであろう。
【0092】
濾液を濾過から得た後、濾液中の溶媒を除去して、主にLiFSIおよびいくらか減少した量の1種または複数の標的不純物からなる固体塊を得る。除去される溶媒は、典型的には、前の処理からの1種または複数の第1の無水有機溶媒および1種または複数の第2の無水有機溶媒の各々である。溶媒は、任意の適切な技術を使用して、例えば適切な温度および減圧条件下で除去することができる。例えば、溶媒を除去することは、約0.5Torr以下または約0.1Torr以下の圧力で行ってもよい。除去時の温度は、例えば、約25℃~約40℃以下であってもよい。
【0093】
固体塊を得た後、固体塊を、LiFSIが実質的に不溶性である少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させて、第3の溶媒と溶媒和する1種または複数の標的不純物によって、より多くの1種または複数の標的不純物をさらに除去することができる。別の利点は、特に減圧および室温よりわずかに高い温度で溶媒を吸引することによって、プロセス中に形成された任意のppmレベルのHFを除去することである。いくつかの実施形態では、固体塊と接触するために使用される少なくとも1種の第3の無水有機溶媒の量は、固体塊の質量の少なくとも50重量%であってもよい。少なくとも1種の第3の無水有機溶媒の各々が選択され得る無水有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0094】
固体塊を少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させた後、LiFSIを少なくとも1種の第3の無水有機溶媒から単離して、低減された量の1種または複数の標的不純物の各々を含有する精製LiFSI生成物を得る。少なくとも1種の第3の無水有機溶媒からのLiFSIの単離は、固体形態のLiFSIの濾過および/または真空中などでの固体LiFSIの乾燥などの任意の1つまたは複数の適切な技術を使用して行うことができる。いくつかの実施形態では、真空中の圧力は、約0.1Torr未満または約0.01Torr未満である。得られた精製LiFSI生成物は、典型的には、白色の自由流動性粉末である。
【0095】
乾燥した精製LiFSI生成物は、保管中のLiFSIの分解を抑制するために、乾燥ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)容器または遊離フッ化物に対して不活性なニッケル合金などの乾燥不活性容器に、約25℃以下などの低温で、アルゴンなどの不活性ガス内で保管することができる。
【0096】
以下の表Iは、本開示のLiFSI精製方法のための第1、第2および第3の無水有機溶媒の各々の選択例を示す。表に見られるように、選択された第1の無水有機溶媒はジメチルカルボナートであり、選択された第2および第3の無水有機溶媒はジクロロメタンである。
【表1】
【0097】
上記の表Iに基づくと、ジメチルカルボナート中のLiFSIの溶解度は90%超であり、ジクロロメタンには不溶性である。一方、この例におけるLiF、LiClおよびLiSOなどの標的不純物の溶解度は、無水条件下でジメチルカルボナート中13ppm未満である。したがって、粗LiFSIを精製するこの例では、無水ジメチルカルボナートおよび無水ジクロロメタン溶媒を選択し、本開示による精製LiFSI生成物を得た。上記の方法の態様によれば、上記の表Iに報告された不純物を含有する粗LiFSIをジメチルカルボナート中で約40%~約75%の濃度で約25℃で混合し、室温で撹拌し、続いて約2%~約10%のジクロロメタンを添加して標的不純物を沈殿させることができる。次いで、標的不純物を例えば濾過によって除去し、濾液を濃縮乾固することができる。次いで、得られた固体を無水ジクロロメタンで処理して、ジクロロメタンに可溶性の任意の標的HF不純物を除去することができる。しかし、LiFSIはジクロロメタンに不溶である。
【0098】
精製LiFSIを濾過によって回収し、最後に減圧下(一例では、約0.1Torr未満)および約40℃未満で乾燥させて、白色の自由流動性粉末を得ることができる。この例では、白色粉末をPTFE容器内のアルゴン雰囲気下で保存した。
【0099】
上記の方法のいずれか1つを使用して精製される粗LiFSI中の標的不純物(1種または複数)の濃度および所望の精製LiFSI生成物中の標的不純物のうちの1種または複数の所望の最大濃度に応じて、各パスで1種または複数の標的不純物の量を順次減少させるためにマルチパス法を実施する必要があり得る。そのようなマルチパス方法は、最初に粗LiFSI中にあり、その後、得られた精製LiFSI生成物中に依然として残留している可能性のある、1種または複数の標的不純物の各々のレベルを連続的に低下させるために、前述の方法のいずれかのうちの1つまたは複数を連続的に利用することができる。本開示の例示的なマルチパス精製方法100を図1に示す。
【0100】
図3を参照すると、ブロック305において、特定のレベル(1または複数)で存在する1種または複数の標的不純物を含有する粗LiFSIが提供される。ブロック310において、粗LiFSIを上記の方法のいずれか1つを用いて精製する。ブロック310における精製の最終成果は、各標的不純物のレベルが低減された精製LiFSI生成物である。任意選択のブロック315において、精製LiFSI生成物中の標的不純物のうちの1または複数の各々のレベルを、適切な測定手順を用いて測定する。任意選択のブロック320において、測定されたレベルの各々は、精製LiFSI生成物中に存在することが許容される対応する標的不純物の最大所望レベルと比較される。任意選択のブロック325において、測定されたレベルのうちのいずれか1または複数が、対応する所望の最大レベルを超えるかどうかが判定される。超えていない場合、すなわち、各測定されたレベルが対応する所望の最大レベルを下回る場合、精製LiFSI生成物は、所望の不純物レベルの仕様を満たし、さらなる精製を必要としない。したがって、マルチパス精製方法300はブロック330で終了することができる。
【0101】
しかし、ブロック325において、測定されたレベルのいずれかのうちの1種または複数が対応する所望の最大レベル(1または複数)を超える場合、ブロック310における前のパススルー精製で精製された精製LiFSI生成物は、ブロック310においてループ335を介して精製することができる。ブロック310におけるこのパススルー精製では、溶液の生成および/または結晶化LiFSIの洗浄に使用される無水有機溶媒(1種または複数)は、ブロック310における前のパススルー精製で使用されたものと同じであっても異なっていてもよい。ブロック310における精製の最後に、任意選択のブロック315および320において、標的不純物レベル(1または複数)の1回または複数の測定、および測定されたレベル(1または複数)と1または複数の対応する所望の最大レベルとの1つまたは複数の比較を行って、方法300がブロック330で終了することができるかどうか、または最新のパスの精製LiFSI生成物中のLiFSIがループ335を介して再び精製に供されるべきかどうかを決定することができる。
【0102】
マルチパス精製方法が有用であり得る非限定的であるが例示的な例は、リチウム系電池用のLiFSIなどのリチウム系電解質である。粗LiFSIは、典型的には、塩化物不純物、例えば、LiFSIを生成するために使用される粗HFSI中のHCl合成不純物からのLiClを350ppm以上程度有する。しかし、そのような塩化物レベルは、リチウム金属電池に対して腐食性である。その結果、リチウム金属電池用のLiFSI系電解質中の塩化物レベルを低く、例えば約10ppm未満または1ppm未満に保つことが望ましい。電解質に使用されるLiFSI塩を合成するために使用される粗LiFSIについて、図3に示すマルチパス精製方法300などの本開示のマルチパス精製方法を使用することは、そのような低い塩化物レベルを達成する有用な方法であり得る。
【0103】
非限定的であるが例示的な例として、マルチパス精製方法300を使用して、合成不純物として200ppmのLiClを含有する粗LiFSIから出発して、LiFSI生成物中の(標的不純物LiClの形態の)塩素含有量を1ppm未満に低下させることができる。ブロック305において、所望の量の粗HFSIが提供される。ブロック310において、粗LiFSIを、上記または下記に例示される精製方法のいずれかを用いて精製する。
【0104】
任意選択のブロック315において、精製LiFSI生成物中のLiCl(または塩化物)のレベルは、100ppmであると測定される。任意選択のブロック320において、300ppmの測定されたレベルを、1ppm未満の必要条件と比較する。任意選択のブロック325では、100ppmが1ppm未満の必要条件よりも大きいので、精製LiFSI生成物は、ブロック310において、ループ335を介して、最初の粗LiFSIを精製するために使用されたものと同じまたは異なる精製プロセスを使用して処理される。この第2のパスでは、出発標的不純物レベルは100ppmであり、2回精製LiFSI生成物中の最終不純物レベルは、任意選択のブロック315で測定して、ここでは20ppmである。この20ppmレベルを任意選択のブロック320において1ppm未満の必要条件と比較した後、任意選択のブロック325において、2回精製LiFSI生成物は、ブロック310において、ループ335を介して、前の2回パスのいずれかで使用された同じまたは異なる精製方法で再度精製される必要があると決定される。
【0105】
この第3のパスでは、出発標的不純物レベルは20ppmであり、3回精製LiFSI生成物の最終不純物レベルは、任意選択のブロック315で測定して、ここでは1ppm未満である。この1ppm未満のレベルを任意選択のブロック320で1ppm未満の必要条件と比較した後、任意選択のブロック325において、3回精製LiFSI生成物は、マルチパス精製方法300がブロック330で終了することができるような必要条件を満たすと判定される。
【0106】
II.B.例
【0107】
上記の方法は、以下の例によってさらに説明されるが、これらの例は単に例示の目的で含まれており、本開示の範囲を限定することを意図しないことが理解されよう。特に明記しない限り、これらの例で使用したすべての化学物質は高純度であり、信頼できる商業的供給源から得た。プロセスから水分を排除するために厳しい予防措置を講じ、十分に換気されたフードを使用して反応を行った。
【0108】
II.B.1.例1
【0109】
ジメチルカルボナート(DMC)およびジクロロメタンを使用するLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =400ppm、Cl=50ppm、F=200ppm、SO 2-=200ppm、および水=200ppmを含有する粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水DMC(250g(50重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン20g(4重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって混合物から除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、次いで、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(200g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率95%で得た。この例では、精製LiFSI生成物は以下の不純物、FSO =100ppm、Cl=10ppm、F=50ppm、SO 2-=60ppm、および水=50ppmを有していた。
【0110】
II.B.2.例2
【0111】
エチルメチルカルボナート(EMC)およびジクロロメタンを使用するLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含む粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水EMC(200g(約44重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン25g(約5.6重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、次いで、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率92%で得た。この例では、精製LiFSIは以下の不純物、FSO =40ppm、Cl=1ppm、F=10ppm、SO 2-=20ppm、および水=30ppmを有していた。
【0112】
II.B.3.例3
【0113】
ジエチルカルボナート(DEC)およびジクロロメタンを使用したLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =400ppm、Cl=50ppm、F=200ppm、SO 2-=200ppm、および水=200ppmを含有する粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水DEC(250g(50重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン20g(4重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって混合物から除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、次いで、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(200g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率90%で得た。この例では、精製LiFSI生成物は以下の不純物、FSO =80ppm、Cl=5ppm、F=30ppm、SO 2-=50ppm、および水=45ppmを有する。
【0114】
II.B.4.例4
【0115】
ジプロピルカルボナート(DPC)およびジクロロメタンを使用するLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含有する粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水ジプロピルカルボナート(200g(約44重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン20g(約4.4重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって混合物から除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率90%で得た。この例では、精製LiFSI生成物は以下の不純物、FSO =30ppm、Cl=1ppm、F=11ppm、SO 2-=15ppm、および水=30ppmを有していた。
【0116】
II.B.5.例5
【0117】
メチルプロピルカルボナート(MPC)およびジクロロメタンを使用するLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含有する粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水メチルプロピルカルボナート(MPC)(200g(約44.4重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン20g(約4.4重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率91%で得た。この例では、精製LiFSI生成物は以下の不純物、FSO =32ppm、Cl=2ppm、F=12ppm、SO 2-=22ppm、および水=35ppmを有していた。
【0118】
II.B.6.例6
【0119】
酢酸エチルおよびクロロホルムを使用するLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含有する粗LiFSI(250g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水酢酸エチル(150g(37.5重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水クロロホルム20g(5重量%)を添加する。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水クロロホルム(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率88%で得た。この例では、精製LiFSIは以下の不純物、FSO =40ppm、Cl=2ppm、F=15ppm、SO 2-=20ppm、および水=40ppmを有していた。
【0120】
II.B.7.例7
【0121】
酢酸ブチルおよびジクロロメタンを使用したLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含有する粗LiFSI(200g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水酢酸ブチル(150g(約43重量%))を撹拌しながらフラスコに少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン30g(約8.6重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率89%で得た。この例では、精製されたLiFSI生成物は以下の不純物、FSO =38ppm、Cl=1ppm、F=15ppm、SO 2-=22ppm、および水=40ppmを有していた。
【0122】
II.B.8.例8
【0123】
アセトニトリルおよびジクロロメタンを使用したLiFSIの精製:500mL乾燥フラスコ中で、様々なレベルの不純物、ここでは、FSO =200ppm、Cl=10ppm、F=100ppm、SO 2-=100ppm、および水=100ppmを含有する粗LiFSI(200g)を窒素雰囲気下で採取し、水浴で10℃に冷却した。無水酢酸ブチル(150g(約43重量%))を撹拌しながら少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン30g(約8.6重量%)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(250g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、精製LiFSI生成物を収率90%で得た。この例では、精製LiFSIは以下の不純物、FSO =50ppm、Cl=5ppm、F=20ppm、SO 2-=22ppm、および水=38ppmを有していた。
【0124】
II.C.例示的な精製LiFSI生成物
【0125】
上記に開示されたシングルパス精製方法または図3のマルチパス方法300のいずれかなどの前述の精製方法のいずれかを使用して、得られた精製LiFSI生成物は、精製方法によって除去された例外的に低レベルの標的不純物を有することができる。例えば、標的不純物の少なくとも1種がLiClである本開示の精製LiFSI生成物は、10ppm以下または1ppm未満のLiCl(Cl)レベルを有することができる。別の例として、標的不純物の少なくとも1種がLiF(F)、FSOLi(FSO )、およびLiCl(Cl)を含む本開示の精製LiFSI生成物は、約80ppm以下のF、約100ppm以下のFSO 、および約100ppm未満のCl、約40ppm以下のF、約250ppm以下のFSO 、および約20ppm以下のCl、または約200ppm以下のF、約100ppm以下のFSO 、および約30ppm以下のClを有することができる。別の例では、約200ppm以上のF、約200ppm以上のFSO 、および/または約200ppm以上のClを有する粗LiFSIから出発して、前述のレベルの不純物およびそれらの組み合わせの各々を達成することができる。さらに別の例では、標的不純物の少なくとも1種がSO 2-である本開示の精製LiFSI生成物は、約280ppm以下、または約100ppm以下のSO 2-レベルを有することができる。さらなる例では、前述のSO 2-レベルの各々は、約500ppm以上のSO 2-を有する粗LiFSIから開始して達成することができる。本開示の精製方法の有用な特徴は、本方法の各(または唯一の)パススルーにおいて互いに異なる種類の標的不純物を同時に除去する能力である。
【0126】
II.D.精製LiFSI生成物の例示的な使用
【0127】
上述のように、精製LiFSI生成物を使用して、とりわけ、電気化学デバイス用の精製LiFSI系電解質を生成することができる。ここで、精製電解質の純度は、精製LiFSI生成物が本明細書に開示される方法のいずれかのうちの1つまたは複数により精製されたという事実からもたらされる。そのような精製電解質は、本開示の精製LiFSI生成物(塩)を1種または複数の溶媒、1種または複数の希釈剤、および/または1種または複数の添加剤と混合することなど、様々な方法のいずれかを使用して生成することができ、溶媒、希釈剤、および添加剤は当技術分野で公知であってもよい。
【0128】
セクションI.D.2で上述したように、図2は、本開示の態様により作製された電気化学デバイス200を示す。この例では、上述した反応性溶媒低減LiFSI系電解質216の代わりに、本開示により生成された精製LiFSI系電解質216Aを使用してもよい。上述したように、精製LiFSI系電解質216Aについて、非溶媒不純物を除去するために精製された本開示の精製LiFSI系電解質を使用する利点は、合成不純物などのLiFSI系電解質中に存在し得る不純物を、電気化学デバイス200での使用に許容可能なレベル(例えば、1種または複数の不純物レベル仕様を満たす)まで低減できることである。精製LiFSI生成物(塩)の例および精製LiFSI系電解質216Aを生成するために使用することができる低レベルのそれらの様々な不純物の例は、上述されている。
【0129】
一例では、精製LiFSI系電解質216Aは、粗LiFSIから出発して生成することができ、次いで、これを本明細書に記載の精製方法のうちのいずれか1つまたは複数を使用して精製して、適切な低レベルの1種または複数の標的不純物を有する精製LiFSI生成物を生成する。別の例では、粗HFSIを最初に、例えば上記の合成方法のいずれかによって合成することができ、この粗HFSIを使用して粗LiFSIを合成することができる。この粗LiFSIを、本明細書に記載の精製方法のいずれかのうちの1つまたは複数を使用して精製して、精製LiFSI生成物(塩)を生成することができる。次いで、この精製LiFSI生成物を使用して、例えば、電気化学デバイス200の性能を向上させる1種または複数の溶媒、1種または複数の希釈剤、および/または1種または複数の添加剤を添加することによって、精製LiFSI系電解質216Aを生成することができる。次いで、精製LiFSI系電解質216Aを電気化学デバイス200に添加することができ、その後、容器220を密封することができる。
【0130】
III.水性中和プロセスを用いたLiFSIの合成
【0131】
このセクションは、水性中和プロセスを使用してLiFSIを合成する方法、それによって生成されるLiFSI塩、およびそのようなLiFSI塩の使用を扱う。
【0132】
III.A.例示的な水性中和合成方法
【0133】
本開示では、LiFSI生成物(例えば、塩)は、最初に、精製水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を、炭酸リチウム(LiCO)または水酸化リチウム(LiOH)などの1種または複数のリチウム塩基で中和することによって得ることができ、LiFSIの水溶液を得るために脱イオン水中で行うことができる。上述したLiSO、LiCl、LiF、およびLiFSOなどの不溶性不純物は、濾過により除去することができる。水は、例えば真空中で除去することができる。このプロセスで使用するための精製HFSIは、例えば、HFSIの精製の教示について参照により本明細書に組み込まれる、2019年9月13日に出願され、「Purified Hydrogen Bis(fluorosulfonyl)imide(HFSI)Products,Methods of Purifying Crude HFSI,and Uses of Purified HFSI Products(精製水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)生成物、粗HFSIの精製方法、および精製HFSI生成物の使用)」と題する米国特許出願第16/570,131号に記載されているように、結晶化によってHFSIを精製することなどの任意の適切な方法で得ることができる。水性中和を使用してLiFSIを合成する実験例およびそれらの対応する結果として生じる不純物レベルは、それぞれセクションIII.C.1、III.C.4、およびIII.C.6の例1、4、および6に以下に記載されている。
【0134】
III.B.水性中和を用いて生成したLiFSI塩の例示的な精製
【0135】
上記のセクションIII.Aの水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSI生成物を精製して、合成LiFSI生成物から水を除去した後に残留する任意の合成不純物などの1種または複数の標的不純物を除去することができる。加えて、または代替的に、上記のセクションIII.Aの水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSI生成物を精製して、LiFSI生成物中に存在する水などの反応性溶媒(1種または複数)を除去および/または置換することができる。このセクションでは、水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSIの精製の例を簡単に説明する。
【0136】
III.B.1.非反応性溶媒不純物の除去
【0137】
セクションII.Aで上述したように、セクションIII.Aで上述した水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSI生成物を含む粗LiFSIを精製して、標的不純物を除去することができる。そのような標的不純物は、そのような不溶性塩の濾過および水の除去後に残留し得る任意の合成塩、例えば、セクションIII.Aで上述したLiSO、LiCl、LiFおよびLiFSOを含み得る。一例として、水性中和プロセスから水を除去した後、得られたLiFSI生成物(ここで、上記のセクションII.Aによる精製の文脈については「粗LiFSI」)をセクションII.Aで上述した精製に供することができる。得られた精製LiFSI生成物は、標的とされる不純物(1種または複数)のレベルが低下する。そのような精製および対応する標的不純物レベルの実験例は、それぞれIII.C.2、III.C.5およびIII.C.7のセクションの例2、5および7に以下に記載されている。精製LiFSI生成物を使用して電解液を調製する場合、精製プロセスで使用される溶媒(1種または複数)は、最終電解液で使用される溶媒(1種または複数)のうちの1種または複数であってもよいことに留意されたい。このようにして、精製プロセスから残留した溶媒(1種または複数)は、最終的な電解液溶媒(1種または複数)の一部となる。
【0138】
III.B.2.反応性溶媒(1種または複数)の除去/置換
【0139】
セクションI.Aで上述したように、セクションIII.Aで上述した水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSI生成物を含む粗LiFSIを精製して、1種または複数の反応性溶媒を除去/置換することができる。そのような反応性溶媒は、セクションIII.Aで上述した水除去ステップで除去されなかった任意の残留水を含み得る。さらに、除去および/または1種または複数の非反応性溶媒による置換の標的とされる1種または複数の反応性溶媒が、上記のセクションIII.B.1およびII.A.に記載されているように、非反応性溶媒不純物を除去するための精製後に存在し得る。一例として、水性中和プロセスから水を除去した後、得られたLiFSI生成物(ここで、上記のセクションI.Aによる精製の文脈については「粗LiFSI」)をセクションI.A.に記載の精製に供することができる。別の例として、セクションIII.Aの水性中和プロセスにより合成したLiFSIの精製(上記のセクションIII.B.1を参照されたい)後、得られた精製LiFSI生成物(ここで、上記のセクションI.Aによる精製の文脈については「粗LiFSI」)をセクションI.Aで上述した精製に供することができる。いずれの場合も、得られた精製LiFSI生成物は、標的とされる反応性溶媒(1種または複数)のレベルが低下する。そのような精製および対応する標的不純物レベルの実験例は、セクションIII.C.3の例3において以下に記載されている。精製LiFSI生成物を使用して電解液を調製する場合、反応性溶媒除去/置換プロセスで使用される溶媒(1種または複数)は、最終電解液で使用される溶媒(1種または複数)のうちの1種または複数であってもよいことに留意されたい。このようにして、除去/置換プロセスから残留した溶媒(1種または複数)は、最終的な電解液溶媒(1種または複数)の一部となる。
【0140】
そのようにして得られた粗LiFSIを精製して、粗LiFSI中に存在する合成不純物および/または他の不純物などの1種または複数の標的不純物を除去することができる。いくつかの実施形態では、粗LiFSIを、LiFSIが可溶性である1種または複数の第1の無水有機溶媒の最小量(例えば、約50重量%~約70重量%)と混合して、LiSO、LiCl、LiF、およびLiFSOなどの不純物をさらに不溶性にすることができる。このために使用することができる無水有機溶媒としては、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)が挙げられる。
【0141】
上記溶液に、LiFSIが不溶性である1種または複数の第2の無水有機溶媒を添加する(例えば、約2重量%~10重量%の量で)。このために使用することができる有機溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカンが挙げられる。
【0142】
いくつかの実施形態では、不純物は、1種または複数の第2の無水有機溶媒の添加後に沈殿したままであり、濾過によって除去することができる。濾液を回収し、そこから溶媒(1種または複数)を除去して固体を得ることができる。いくつかの例では、溶媒(1種または複数)を制御された温度(例えば、約40℃未満)で真空中(例えば、約0.1Torr未満)で除去して固体を得る。次いで、得られた固体を、LiFSIが不溶性である少なくとも1種の第3の無水有機溶媒で処理することができる。このために使用することができる有機溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが挙げられる。次いで、沈殿したLiFSI塩生成物を、不活性環境下(例えば、アルゴンガス)での濾過によって単離し、例えば、真空中(例えば、約0.1Torr未満)で約40℃未満で乾燥させることができる。
【0143】
例示するために、以下の表IIは、不純物ならびにジメチルカルボナートおよびジクロロメタン中のそれらの溶解度の詳細な例を提供する。
【表2】
【0144】
上記の表IIに見られるように、ジメチルカルボナート中のLiFSIの溶解度は90%超であり、ジクロロメタンには不溶性である。一方、LiF、LiCl、LiSOなどの不純物の溶解度は、無水条件下で炭酸ジメチル中で13ppm未満である。
【0145】
これらの溶解性/不溶性特性に基づいて、ジメチルカルボナートおよびジクロロメタン溶媒は、一例では、上記の水性中和プロセスを使用して生成された粗LiFSIを精製するプロセスのために選択される。この例では、上記の表IIに報告された不純物を含有する粗LiFSIをジメチルカルボナート中に50%~75%の濃度で約25℃(ここでは室温)で混合し、室温で撹拌し、続いて約2重量%~約10重量%のジクロロメタンを添加して不純物を沈殿させた。不純物を濾過により除去し、濾液を濃縮乾固した。得られた乾燥固体を無水ジクロロメタンで処理して、LiFSIがジクロロメタンに不溶性である一方でジクロロメタンに可溶性であるHF不純物を除去した。
【0146】
超高純度LiFSI塩生成物を濾過によって回収し、最後に減圧下(例えば、約0.1Torr未満)および約40℃未満の温度で乾燥させて、白色の自由流動性粉末を得た。これを場合により乾燥ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)容器に保存することができる。
【0147】
上記を考慮して、いくつかの態様では、本開示は、リチウム金属アノード電池用途のための超高純度リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を生成するプロセスを記載する。このプロセスは、約25℃未満の約40%未満の脱イオン水中で、精製水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を、炭酸リチウム(LiCO)または水酸化リチウム(LiOH)などのリチウム塩基で中和することを含む。LiSO、LiCl、LiF、およびLiFSOなどの不溶性不純物は、濾過によって除去することができる。水は、約35℃未満などの適切な温度で真空中(例えば、約0.1Torr未満)で除去することができる。
【0148】
得られた粗LiFSIを、LiFSIが可溶性である無水有機溶媒(例えば、ジメチルカルボナート(DMC)またはエチルメチルカルボナート(EMC)など)の最小量(例えば、50重量%~70重量%)と混合して、LiCl、LiF、LiSO4および/またはLiFSOなどの不純物をさらに不溶性にすることができる。いくつかの実施形態では、溶液の温度は、約25℃未満に維持される。次いで、溶液を不活性雰囲気中で濾過して不純物を除去することができる。
【0149】
このプロセスは、濾液から有機溶媒を除去して固体塊を得ること、およびリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドが不溶性である有機溶媒(例えば、ジクロロメタン)で固体を処理することをさらに含むことができる。不溶性LiFSIは、不活性雰囲気中で濾過し、微量の有機溶媒を乾燥アルゴンおよび/または窒素ガスでフラッシングすることによって単離することができる。得られたLiFSIを、適切な温度(例えば、約35℃未満)で適切な期間(例えば、少なくとも24時間)吸引して(例えば、約0.1Torr未満)、超高純度無水LiFSI塩生成物を白色の自由流動性粉末として得ることができ、これを場合により乾燥ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)容器に保存することができる。
【0150】
いくつかの実施形態では、開示された水性中和法によって合成され、精製して非反応性溶媒不純物を除去し、精製して反応性溶媒(1種または複数)を除去/置換したLiFSI塩生成物を、電解質溶液に生成し、リチウム金属電池、すなわちリチウム金属アノードを有する電池で使用することができる。以下のセクションIII.C.8の例8に示すように、この「超高純度」LiFSI塩生成物およびそれを用いて生成した電解質は、日本触媒株式会社(日本)、Shenzhen Capchem株式会社(中国)、Shang Hai Shengzhan Chemifish株式会社(中国)、およびオークウッド・プロダクツ社(米国)などの商業的供給源からのLiFSIと比較して、はるかに良好なサイクル寿命を示した。
【0151】
本開示では、超高純度LiFSIの生成プロセスは、中和の開始から超高純度LiFSI生成物の生成の終了までの連続プロセスであってもよい。
【0152】
III.C.例
【0153】
本開示の態様は、以下の例によってさらに説明されるが、これらの例は単に例示の目的で含まれており、本開示の範囲を限定することを意図しないことが理解されよう。特に明記しない限り、使用したすべての化学物質は高純度であり、商業的供給源から得た。プロセス中の水分を排除するために厳しい予防措置を講じ、十分に換気されたフード内で反応を行った。
【0154】
III.C.1.例1
【0155】
脱イオン水中の炭酸リチウムによる精製HFSIの中和:1000mLフラスコ中で、炭酸リチウム(LiCO)1モルを脱イオン水40gと混合した。懸濁液を氷水浴20℃未満で冷却する。水素ビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)2モルを滴下漏斗に取り、撹拌した炭酸リチウム懸濁液スラリー中に滴下した。HFSIの添加が完了した後、水浴を取り外し、溶液を室温で0.5時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。得られた透明な濾液を0.1Torr未満および35℃未満の真空中で濃縮して、粗LiFSIを定量的収率で得て、これを以下の例2で使用した。
【0156】
III.C.2.例2
【0157】
粗LiFSIの炭酸ジメチルを用いた処理:上記の例1で得られた粗LiFSIをこの例2で使用した。フラスコを窒素雰囲気下にし、水浴を用いて10℃に冷却した。無水ジメチルカルボナート(DMC)(300g)を撹拌しながら少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン50gを添加する。混合物を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(200g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃未満で乾燥させて、LiFSIを収率95%で得た。得られたLiFSI生成物は、不純物FSO =100ppm、Cl=1ppm、F=40ppm、SO 2-=40ppm、および水=50ppmを有していた。
【0158】
III.C.3.例3
【0159】
LiFSIの炭酸ジメチルを用いた処理:例2で得られたLiFSIをこの例3で使用した。上記の例2で得られた200gのLiFSIを、水分測定値1ppm未満を有するグローブボックスに入れ、1Lドライフラスコに移した。フラスコを取り出し、15℃未満の水浴で冷却した。LiFSIを、5ppm未満の水を含有する無水ジメチルカルボナート100gと混合した。不溶性不純物をアルゴン下で濾過によって除去し、濾液を1Lフラスコに回収した。濾液を0.1Torr未満の減圧下で濃縮して固体を得た。固体をアルゴン下で無水ジクロロメタン(150g)で処理し、溶液を室温で1時間撹拌した。所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、真空中(0.1Torr未満)、30℃で乾燥させて、白色の遊離流動性粉末LiFSIを収率95%で得た。得られたLiFSI生成物をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、不純物F-=1.3ppm、Cl=0.18ppm、SO 2-=4.4ppmであった。カールフィッシャーによって分析したところ、含水量は1.3ppmであった。プロトンNMRに基づくと、0.2%のジメチルカルボナートを有する。ジメチルカルボナートは電気化学デバイス内でリチウム金属と非反応性であるため、これを試験電解質配合物に使用した。この塩電解質配合物をリチウム金属電池試験に使用した。
【0160】
III.C.3.i.比較例
【0161】
Capchem(中国)から得られたLiFSI塩の比較例:目視検査により、Capchem LiFSI塩の色は、この例3で得られたLiFSIよりも白色が低かった。Capchem LiFSI塩は、以下の不純物、水=15ppm、F=1ppm、Cl=1ppm、およびSO 2-=5.98ppmを有していた。プロトンNMRに基づいて、Capchem LiFSI塩は0.3%のエタノールを含有し、これは、その反応性のためにリチウム金属と適合しない。エタノールは、以下の反応によってリチウム金属と反応し、望ましくない副生成物を形成する。
2Li+2CHCHOH=2CHCHOLi+H
【0162】
III.C.4 例4
【0163】
ジオン化(Dionized)水中での精製HFSIの水酸化リチウムを用いた中和:1Lフラスコ中で、水酸化リチウム(LiOH)(2モル)を脱イオン水40gに溶解した。懸濁液を氷水浴20℃未満で冷却した。HFSI、2モルを滴下漏斗に取り、撹拌した炭酸リチウム懸濁液スラリー中に滴下した。HFSIの添加が完了した後、水浴を取り外し、溶液を室温で0.5時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。得られた透明濾液を0.1Torr未満および温度35℃未満の真空中で濃縮して、粗LiFSIを定量的収率で得て、これを以下の例5で使用した。
【0164】
III.C.5 例5
【0165】
粗LiFSIの炭酸ジメチル(DMC)を用いた処理:上記の例4で得られた粗LiFSIをこの例5で使用した。フラスコを窒素雰囲気下にし、水浴を用いて10℃に冷却した。無水ジメチルカルボナート(DMC)(300g)を撹拌しながら少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン50gを添加した。溶液を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(200g)で処理した。混合物を室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃未満で乾燥させて、LiFSIを収率92%で得た。得られた精製LiFSIは、不純物FSO =100ppm、Cl=1ppm、F=45ppm、SO 2-=35ppm、水=60ppmを有していた。
【0166】
III.C.6.例6
【0167】
ジオン化(Dionized)水中の炭酸リチウムによる精製HFSIの中和:1Lフラスコ中で、炭酸リチウム(LiCO)0.5モルを脱イオン水20gと混合した。懸濁液を氷水浴20℃未満で冷却した。HFSI、1モルを滴下漏斗に取り、撹拌した炭酸リチウム懸濁液スラリー中に滴下した。HFSIの添加が完了した後、水浴を取り外し、溶液を室温で0.5時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。得られた透明濾液を0.1Torr未満および温度35℃未満の真空中で濃縮して、粗LiFSIを定量的収率で得て、これを以下の例7で使用した。
【0168】
III.C.7.例7
【0169】
粗LiFSIのエチルメチルカルボナートを用いた処理:例6で得られた粗LiFSIをこの例7で使用した。フラスコを窒素雰囲気下で冷却し、水浴を用いて10℃に冷却した。無水エチルメチルカルボナート(EMC)(100g)を撹拌しながら少しずつ添加し、続いて無水ジクロロメタン50gを添加した。溶液を室温で1時間撹拌した。不溶性不純物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮して固体を得て、これをアルゴン下で無水ジクロロメタン(200g)で処理した。これを室温で1時間撹拌し、所望の不溶性LiFSI生成物を濾過によって単離し、最後に真空中(0.1Torr未満)で35℃で乾燥させて、LiFSIを収率90%で得た。精製LiFSI生成物は、不純物FSO =100ppm、Cl=0.5ppm、F=20ppm、SO 2-=20ppm、水=46ppmを有していた。
【0170】
III.C.8.例8
【0171】
リチウム金属アノード電池における上記の例7の超高純度LiFSIの使用および結果と市販のLiFSIとの比較:電池グレードの電気化学的に安定な有機溶媒(ジメチルカルボナート、エチルメチルカルボナート、ジメトキシメタン、ジエトキシエタンなど)を使用して、本開示の得られたLiFSIの電解質を生成し、同様の条件下で、様々な市販のLiFSI塩および対応する電解質を使用して比較研究を行った。
【0172】
本開示により生成された超高純度LiFSI生成物は、Capchem、日本触媒、Chemfishおよびオークウッドから市販されているLiFSIと比較した場合、リチウム金属アノード電池において最大のサイクル数を与えた。本開示の超高純度LiFSI生成物のより良好な性能の例は、図4Aおよび図4Bで見られ、図4Aおよび図4Bは、それぞれ、電解質の一方は、本開示のセクションIIIの水性中和合成方法(図4Aおよび図4Bの各々の上側ライン、「SES LiFSI」)を使用して生成された超高純度LiFSI塩生成物を使用して生成され、もう一方の電解質は、Capchem(図4Aおよび図4Bの各々の下側ライン、「CapChem LiFSI」)から供給されたLiFSI塩を使用して生成されたことを除き、同じ濃度および同一の化学物質を有する2つの非水電解質についての放電容量対サイクル数および容量維持率対サイクル数を示す。
【0173】
図4Aおよび図4Bのグラフが得られた実験で使用した電池は、3層のカソードおよび4層のアノードを有するパウチセルであった。電解質はそれぞれ、溶媒混合物1リットル中2.0モルのLiFSIから構成されていた。LiFSI塩の供給源を除いて、他のすべての電池設計因子および試験条件は同じであった。電池を0.2Cレート充電および1.0Cレート放電下でサイクルした。図4Aおよび図4Bが示すように、両方の供給源からのLiFSIを有する電池は、初期サイクルで同じ容量を送達した。しかし、本開示の超高純度LiFSI塩を使用して生成した電解質を有する電池は、約100サイクル後にCapchem LiFSI塩を有する電池よりも良好な容量保持を示した。このデータは、リチウム金属アノード充電式電池を用いた長期サイクル条件下でのCapchem LiSFI塩に対する超高純度LiFSI塩の安定性の利点を示している。
【0174】
III.D.超高純度LiFSIの例示的な使用
【0175】
上述のように、上述のプロセスにより生成された超高純度LiFSI塩生成物は、リチウム金属アノードを有するリチウム金属電池に特に有益である可能性がある。これに関連して、少なくとも一部の溶媒が超高純度LiFSI生成物中に残留する可能性があり、リチウム金属に対して反応性である場合、超高純度LiFSI生成物が電解質として使用されるリチウム金属電池の性能を妨害し得るので、処理のために適切な無水有機溶媒を選択することが重要である。実際、上記の例3で報告されたエタノールなどのCapchem LiFSI塩中の残留溶媒は、上記の例8(セクションIII.C.8)で証明されるように、そのCapchem LiFSI塩の性能が超高純度LiFSI塩生成物の性能よりも劣っていた理由である可能性がある。前述の例3(セクションIII.C.3)で述べたように、エタノールは、リチウム金属電池のアノード上/中に存在するリチウム金属に対して反応性である。
【0176】
したがって、本開示によるリチウム金属電池用の超高純度LiFSI塩生成物を生成する場合、選択される溶媒は、リチウム金属に対して非反応性であることが知られている溶媒でなければならない。このようにして、(例えば、LiFSIとの配位によって、または他の方法によって)最終的な乾燥固体超高純度LiFSI塩生成物中に残留し得る任意の溶媒は、リチウム金属に対して非反応性であり、したがって、超高純度LiFSI塩生成物が使用されるリチウム金属電池の性能に悪影響を及ぼす可能性が低い。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、特に明記しない限り、「非反応性」という用語は、「溶媒(solvent)」または「溶媒(solvents)」を修飾するために使用される場合、溶媒(1種または複数)がリチウム金属に対して非反応性であることを意味するものとする。逆に、特に明記しない限り、「溶媒(solvent)」または「溶媒(solvents)」を修飾するために本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される「反応性」という用語は、溶媒(1種または複数)がリチウム金属に対して反応性であることを意味するものとする。当業者が理解するように、この文脈における「反応性」は、(1種または複数の)溶媒に対するリチウム金属の還元電位の大きさを指す。反応性溶媒はまた、リチウム金属を不動態化するのに有効ではないが、非反応性溶媒は、リチウム金属に対して非反応性であるか、またはリチウム金属を効果的に不動態化する、すなわち速度論的に安定である。
【0177】
リチウム金属電池での使用に特に適したいくつかの実施形態では、最終的な超高純度LiFSI塩生成物(すなわち、本明細書に開示されるプロセスおよび/または精製の完全な処理後)中に残留する反応性溶媒の量は、好ましくは約500ppm未満、より好ましくは約100ppm未満、最も好ましくは約50ppm未満である。いくつかの実施形態では、利用されるカソード-電解質-アノードシステム全体に応じて、最終的なLiFSI塩生成物中に残留する非反応性溶媒は、除去された反応性溶媒よりも電池性能に悪影響を与えない可能性がある。そのような実施形態では、最終LiFSI塩生成物中に残留する非反応性溶媒(1種または複数)の量は、好ましくは約3000ppm未満、より好ましくは約2000ppm未満、最も好ましくは約500ppm未満である。いくつかの実施形態では、また利用されるカソード-電解質-アノードシステム全体に応じて、使用される非反応性溶媒(1種または複数)が、電解質内のSEI形成の改善および/またはイオン利用可能性の改善など、カソード-電解質-アノードシステムに1つまたは複数の利点を提供するように意図的に選択される場合など、最終的なLiFSI塩生成物中に残留する非反応性溶媒が電池性能に有益である可能性がある。いくつかの実施形態では、必要に応じて、精製および/または反応性溶媒の除去/置換中に使用される追加量の非反応性溶媒(1種または複数)を添加して、最終電解質を生成することができる。LiFSIを処理するために使用される非反応性溶媒(1種または複数)が電池性能に有益である実施形態では、残留する非反応性溶媒の量は、2000ppm超または3000ppm超であってもよい。すべての精製ステップについて非反応性溶媒のみを使用して精製を行う場合、最終的なLiFSI塩生成物は、典型的には少なくとも約100ppmの非反応性溶媒(1種または複数)を有するが、典型的には約100ppm以下の反応性溶媒(1種または複数)を有する。本開示による反応性溶媒(1種または複数)の除去/置換後にLiFSI塩中に残留するのに適し得る非反応性溶媒の例としては、ヘキサン、炭化水素、トルエン、キシレン、芳香族溶媒、エステルおよびニトリルが挙げられる。
【0178】
セクションI.D.2で上述したように、図2は、本開示の態様により作製された電気化学デバイス200を示す。この例では、上述した反応性溶媒低減LiFSI系電解質216の代わりに、セクションIIIにより生成された超高純度LiFSI系電解質216Bを使用してもよい。上述したように、精製LiFSI系電解質216Bに本開示の超高純度LiFSI系電解質を使用する利点は、合成不純物および反応性溶媒(1種または複数)などのLiFSI系電解質中に存在し得る不純物を、電気化学デバイス200での使用に許容可能なレベル(例えば、1または複数の不純物レベル仕様を満たす)まで低減できることである。精製LiFSI系電解質216Bを生成するために使用することができる超高純度LiFSI生成物(塩)の例および低レベルのそれらの様々な不純物の例は、上述されている。次いで、この超高純度LiFSI生成物を使用して、例えば、電気化学デバイス200の性能を向上させる1種または複数の溶媒、1種または複数の希釈剤、および/または1種または複数の添加剤を添加することによって、超高純度LiFSI系電解質216Bを生成することができる。次いで、超高純度LiFSI系電解質216Bを電気化学デバイス200に添加することができ、その後、容器220を密封することができる。
【0179】
リチウム金属電池用途における最終的な超高純度LiFSI塩生成物から多くの反応性溶媒(1種または複数)を除去するという要望を考慮して、本明細書に開示される精製方法は、精製を実施するために使用される方法の適切なステップ(1または複数)のための、リチウム金属に対して非反応性であることが知られている1種または複数の溶媒の選択によって増強され得る。
【0180】
いくつかの態様では、本開示は、反応性溶媒低減リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)生成物を生成する方法に関し、本方法は、LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する第1の粗LiFSIを提供すること、不活性条件下で、第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、第1の粗LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する溶液を生成することであって、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中のLiFSIの溶解度が25℃未満で少なくとも約35%であること、溶液を真空に供して、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒および1種または複数の反応性溶媒を除去し、固体塊を得ること、LiFSIが不溶性である少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で固体塊を処理して、不溶性部分を有する組み合わせを生成すること、不活性雰囲気中で不溶性部分を単離すること、不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングして、微量の少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を除去すること、フラッシングされた不溶性部分を約100Torr未満の圧力に供して、反応性溶媒低減LiFSI生成物を得ることを含む。
【0181】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第1の粗LiFSIを提供することは、LiFSIおよび1種または複数の標的不純物を含有する第2の粗LiFSIを提供すること、不活性条件下で、第2の粗LiFSIを少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させて、LiFSIおよび1種または複数の標的不純物を含有する溶液を生成することであって、室温で少なくとも1種の第3の無水有機溶媒に対して、LiFSIが可溶性であり、1種または複数の標的不純物の各々が実質的に不溶性であること、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液に添加して、少なくとも1種の標的不純物を沈殿させることであって、LiFSIおよび1種または複数の標的不純物の各々が少なくとも1種の第4の無水有機溶媒に実質的に不溶性であること、1種または複数の標的不純物の各々の不溶性部分を溶液から濾過して、濾液を生成すること、濾液から溶媒を除去して、固体塊を得ること、固体塊を、LiFSIが実質的に不溶性である少なくとも1種の第5の無水有機溶媒と接触させること、および少なくとも1種の第5の無水有機溶媒からLiFSIを単離して、第1の粗LiFSIを得ることを含む。
【0182】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIは、少なくとも1種の第3の無水有機溶媒に対して室温で少なくとも約50%の溶解度を有し、1種または複数の標的不純物の各々は、少なくとも1種の第3の無水有機溶媒に対して室温で約20パーツ・パー・ミリオン(ppm)以下である溶解度を有する。
【0183】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIを少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させることは、第2の粗LiFSIを最小量の少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させることを含む。
【0184】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、最小量の少なくとも1種の第3の無水有機溶媒は、溶液の約40重量%~約75重量%である。
【0185】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液に添加することは、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液の約10重量%以下の量で添加することを含む。
【0186】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIと少なくとも1種の第3の無水有機溶媒との接触は、約25℃未満の温度で行われる。
【0187】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIと少なくとも1種の第3の無水有機溶媒との接触中に溶液の温度を制御して、温度を目標温度の約2℃以内に維持することを含む。
【0188】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、濾過は、不活性雰囲気中で行われる。
【0189】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、不活性雰囲気は、アルゴンガスを含む。
【0190】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、溶媒を除去することは、真空中で行われる。
【0191】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、溶媒を除去することは、約0.1Torr以下の圧力で行われる。
【0192】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、溶媒を除去することは、約40℃未満の温度で行われる。
【0193】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、LiFSIを単離することは、少なくとも1種の第5の無水有機溶媒から固体形態のLiFSIを濾過することを含む。
【0194】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、LiFSIを単離することは、固体LiFSIを真空中で乾燥させることを含む。
【0195】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、固体LiFSIを真空中で乾燥させることは、約0.1Torr以下の圧力で固体LiFSIを乾燥させることを含む。
【0196】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、1種または複数の標的不純物は、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、硫酸リチウム(LiSO)、フルオロ硫酸リチウム(LiSO)、フッ化水素(HF)、およびフルオロスルホン酸(FSOH)からなる群からの1種または複数の標的不純物を含む。
【0197】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、1種または複数の標的不純物は硫酸リチウム(LiSO)を含み、1種または複数の標的不純物の各々の不溶性部分を濾過することは、LiSOの不溶性部分を同時に濾過することを含む。
【0198】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第3の無水有機溶媒は、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0199】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIを少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させることは、第2の粗LiFSIを、溶液の約50重量%~約75重量%の量の少なくとも1種の第3の無水有機溶媒と接触させることを含む。
【0200】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液に添加することは、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液の約10重量%以下の量で添加することを含む。
【0201】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0202】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液に添加することは、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒を溶液の約10重量%以下の量で添加することを含む。
【0203】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第5の無水有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0204】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第4の無水有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0205】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第5の無水有機溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
【0206】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、遊離フッ素と実質的に反応しない容器内の乾燥雰囲気中に第1の粗LiFSIを配置すること、容器を約25℃未満の温度で保存することをさらに含む。
【0207】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、1種または複数の標的不純物は、第2の粗LiFSI中のLiFSIを合成するプロセスの副生成物である。
【0208】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第1の粗LiFSIは、10パーツ・パー・ミリオン(ppm)以下のLiClを含む。
【0209】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第1の粗LiFSIは、1ppm未満のLiClを含む。
【0210】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第1の粗LiFSIは、約500パーツ・パー・ミリオン(ppm)以下のFSOLi、約100ppm以下のLiCl、および約150ppm以下のLiFを含有する。
【0211】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第2の粗LiFSIを提供することは、水性中和プロセスを使用して第2の粗LiFSIを合成することを含む。
【0212】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、第1の粗LiFSIを提供することは、水性中和プロセスを使用して第1の粗LiFSIを合成することを含む。
【0213】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、反応性溶媒低減LiFSI生成物は、リチウム金属電池用の電解質の塩であり、本方法は、少なくとも1種の第1の無水有機溶媒の各々を選択して、リチウムイオン電池の性能を向上させることをさらに含む。
【0214】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1種の第2の無水有機溶媒の各々を選択して、リチウムイオン電池の性能を向上させることをさらに含む。
【0215】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、反応性溶媒低減LiFSI生成物は、添加剤溶媒を含有する電解質の塩であり、少なくとも1種の第1の無水溶媒の少なくとも1種は、添加剤溶媒と同じである。
【0216】
いくつかの態様では、本開示は、電気化学デバイスを作製する方法に関し、本方法は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)塩を本明細書に列挙した方法のいずれかを用いて処理し、精製LiFSI塩を生成すること、精製LiFSI塩を使用して電解質を配合すること、正極、正極から離間した負極、および正極と負極との間に延在するボリュームを含む電気化学デバイス構造を提供し、電解質が存在する場合は、電解質中のイオンが正極と負極との間を移動することを可能にすること、およびボリュームに電解質を添加することを含む。
【0217】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、電気化学デバイスは、電気化学電池であり、電気化学デバイス構造は、ボリューム内に配置されたセパレータをさらに含む。
【0218】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、電気化学電池は、リチウムイオン電池である。
【0219】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、電気化学電池は、リチウム金属電池である。
【0220】
本方法の1つまたは複数の実施形態では、電気化学デバイスは、スーパーキャパシタである。
【0221】
いくつかの態様では、本開示は、正極、正極から離間した負極、正極と負極との間に位置する多孔質誘電体セパレータ、および少なくとも多孔質誘電体セパレータ内に含まれる電解質を含み、電解質が本明細書に記載の方法のいずれか1つを使用して生成されたLiFSI塩を使用して生成される、電気化学デバイスに関する。
【0222】
電気化学デバイスの1つまたは複数の実施形態では、電気化学デバイスは、リチウム電池である。
【0223】
電気化学デバイスの1つまたは複数の実施形態では、電気化学デバイスは、リチウム金属二次電池である。
【0224】
電気化学デバイスの1つまたは複数の実施形態では、電気化学デバイスは、スーパーキャパシタである。
【0225】
上記は、本発明の例示的な実施形態の詳細な説明である。本明細書および本明細書に添付された特許請求の範囲において、特に明記または他に示されない限り、語句「X、YおよびZの少なくとも1つ」および「X、Y、およびZのうちの1つまたは複数」で使用されるような連言語は、連言リスト内の各項目が、リスト内の他のすべての項目を除く任意の数で、あるいは連言リスト内の任意のまたはすべての他の項目と組み合わせて任意の数で存在することができ、その各々が任意の数で存在してもよいことを意味すると解釈されることに留意されたい。この一般規則を適用して、連言リストがX、Y、およびZからなる前述の例における連言句は、Xのうちの1つまたは複数、Yのうちの1つまたは複数、Zのうちの1つまたは複数、Xのうちの1つまたは複数およびYのうちの1つまたは複数、Yのうちの1つまたは複数およびZのうちの1つまたは複数、Xのうちの1つまたは複数およびZのうちの1つまたは複数、ならびにXのうちの1つまたは複数、Yのうちの1つまたは複数およびZのうちの1つまたは複数を各々包含するものとする。
【0226】
本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な修正および追加を行うことができる。上述した様々な実施形態の各々の特徴は、関連する新規の実施形態において多数の特徴の組み合わせを提供するために、必要に応じて他の記載された実施形態の特徴と組み合わせることができる。さらに、上記はいくつかの別個の実施形態を説明しているが、本明細書に記載されているものは、本発明の原理の適用の単なる例示である。さらに、本明細書の特定の方法は、特定の順序で実行されるものとして図示および/または説明することができるが、順序は、本開示の態様を達成するために当業者内で高度に多様である。したがって、この説明は、例としてのみ解釈されることを意図しており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0227】
例示的な実施形態が上に開示され、添付の図面に示されている。当業者であれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に具体的に開示されているものに対して様々な変更、省略、および追加を行うことができることを理解するであろう。
【0228】
本願出願当初の特許請求の範囲に記載の請求項1から30に係る発明を以下に付記する。
[請求項1]
反応性溶媒低減リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)生成物を生成する方法であって、
LiFSIおよび1種または複数の反応性溶媒を含有する第1の粗LiFSIを提供することと、
不活性条件下で、前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させて、前記第1の粗LiFSIおよび前記1種または複数の反応性溶媒を含有する溶液を生成することであって、前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒中の前記LiFSIの溶解度が25℃未満で少なくとも約35%であることと、
前記溶液を真空に供して、前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒および前記1種または複数の反応性溶媒を除去し、固体塊を得ることと、
前記LiFSIが不溶性である少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で前記固体塊を処理して、不溶性部分を有する組み合わせを生成することと、
不活性雰囲気中で不溶性部分を単離することと、
前記不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングして、微量の前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒を除去することと、
前記フラッシングされた不溶性部分を約100Torr未満の圧力に供して、前記反応性溶媒低減LiFSI生成物を得ることとを含む、方法。
[請求項2]
前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることが、前記第1の粗LiFSIを、前記溶液に対して約30重量%~約50重量%の範囲内にある量の前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項3]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、有機カルボナート、ニトリル、酢酸アルキルおよびプロピオン酸アルキルからなる群から選択される、[請求項2]に記載の方法。
[請求項4]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)からなる群から選択される、[請求項2]に記載の方法。
[請求項5]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、[請求項4]に記載の方法。
[請求項6]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、有機カルボナート、ニトリル、酢酸アルキルおよびプロピオン酸アルキルからなる群から選択される、[請求項1]に記載の方法。
[請求項7]
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項8]
前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、ジクロロメタンを含む、[請求項7]に記載の方法。
[請求項9]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルボナート(DEC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、プロピルメチルカルボナート(PMC)、エチレンカルボナート(EC)、フルオロエチレンカルボナート(FEC)、トランスブチレンカルボナート、アセトニトリル、マロノニトリル、アジポニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(EP)からなる群から選択される、[請求項1]に記載の方法。
[請求項10]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、[請求項9]に記載の方法。
[請求項11]
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、[請求項9]に記載の方法。
[請求項12]
前記少なくとも1種の第2の無水有機溶媒が、ジクロロメタンを含む、[請求項11]に記載の方法。
[請求項13]
前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒が、DMCを含む、[請求項12]に記載の方法。
[請求項14]
前記乾燥不活性ガスが、アルゴンおよび窒素のうちの少なくとも1種を含む、[請求項9]に記載の方法。
[請求項15]
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を約1Torr未満の真空に供することを含む、[請求項9]に記載の方法。
[請求項16]
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を約0.01Torr未満の真空に供することを含む、[請求項15]に記載の方法。
[請求項17]
前記真空中の温度が35℃未満である、[請求項11]に記載の方法。
[請求項18]
前記固体塊を少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することが、前記固体塊をジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、およびドデカンからなる群から選択される少なくとも1種の第2の無水有機溶媒で処理することを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項19]
不活性雰囲気中で前記不溶性部分を単離することが、前記組み合わせから前記不溶性部分を濾過することを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項20]
前記不活性雰囲気が、乾燥不活性ガスを含む、[請求項15]に記載の方法。
[請求項21]
前記不溶性部分を少なくとも1種の乾燥不活性ガスでフラッシングすることが、前記不溶性部分をアルゴンガスおよび窒素ガスの少なくとも1種でフラッシングすることを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項22]
前記フラッシングされた不溶性部分を約100Torr未満の圧力に供することが、前記フラッシングされた不溶性部分を約1Torr未満の圧力に供することを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項23]
前記圧力が、約0.01Torr未満である、[請求項18]に記載の方法。
[請求項24]
前記第1の粗LiFSIを少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることが、前記第1の粗LiFSIを、前記溶液に対して約30重量%~約50重量%の範囲内にある量の前記少なくとも1種の第1の無水有機溶媒と接触させることを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項25]
前記溶液を真空に供することが、前記溶液を約35℃未満の温度で約0.01Torr未満の真空に供することを含む、[請求項24]に記載の方法。
[請求項26]
前記フラッシングされた不溶性部分を約100Torr未満の圧力に供することが、前記フラッシングされた不溶性部分を約40℃未満の温度で約0.01Torr未満の圧力に供することを含む、[請求項1]に記載の方法。
[請求項27]
前記第1の粗LiFSI中の前記1種または複数の反応性溶媒が、少なくとも2000パーツ・パー・ミリオン(ppm)の濃度のアルコールを含み、前記反応性溶媒低減LiFSI生成物中の前記アルコールが、約50ppm未満である、[請求項1]に記載の方法。
[請求項28]
前記アルコールが、少なくとも約3000ppmの濃度である、[請求項26]に記載の方法。
[請求項29]
前記第1の粗LiFSI中の前記1種または複数の反応性溶媒が、初期濃度の水を含み、前記反応性溶媒低減LiFSI生成物中の前記水が、前記初期量の約35%以下である、[請求項1]に記載の方法。
[請求項30]
前記反応性溶媒低減LiFSI生成物中の前記水が、前記初期濃度の約20%以下である、[請求項29]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4A
図4B