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特許7555929B型肝炎を治療するための薬物製剤、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】B型肝炎を治療するための薬物製剤、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/29 20060101AFI20240917BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240917BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20240917BHJP
   C07K 14/02 20060101ALN20240917BHJP
【FI】
A61K39/29 ZNA
A61P31/20
A61K9/08
A61K47/34
A61K47/30
C07K14/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021536405
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 CN2019118778
(87)【国際公開番号】W WO2020134682
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】201811580470.4
(32)【優先日】2018-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521271680
【氏名又は名称】遠大賽威信生命科学(南京)有限公司
【氏名又は名称原語表記】GRAND THERAVAC LIFE SCIENCE (NANJING) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.16, Pangu Road, Jiangbei N w Area, Pukou District, Nanjing, Jiangsu 210032, China
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】李建強
(72)【発明者】
【氏名】葛君
(72)【発明者】
【氏名】任蘇林
(72)【発明者】
【氏名】黄紅穎
(72)【発明者】
【氏名】孫嬌嬌
(72)【発明者】
【氏名】孫洪林
(72)【発明者】
【氏名】周童
(72)【発明者】
【氏名】顧月
(72)【発明者】
【氏名】陳曉曉
(72)【発明者】
【氏名】周雪
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-028831(JP,A)
【文献】特表2016-512204(JP,A)
【文献】特表2014-506916(JP,A)
【文献】特表2009-503051(JP,A)
【文献】特表2013-530941(JP,A)
【文献】特表平06-503821(JP,A)
【文献】U.S. Food and Drug Administration,Summary Basis for Regulatory Action - HEPLISAV-B,[Online],[retrieved on 20-08-2023],2017年11月09日,https://www.fda.gov/media/109808/download?attachment
【文献】Dynavax Technologies Corporation,HEPLISAV-B - Hepatitis B Vaccine (Recombinant), Adjuvanted,2017年11月,FULL PRESCRIBING INFORMATION
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/29
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 8/00-8/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎を治療する薬物製剤であって、B型肝炎ウイルス表面抗原溶液を含み、B型肝炎ウイルス表面抗原溶液はB型肝炎ウイルス表面抗原又はその抗原性フラグメントと、ポリソルベート80と、リン酸塩緩衝剤と、水とからなり、前記ポリソルベート80の濃度は0.03g/100mL~0.1g/100mLであり、
前記リン酸塩緩衝剤は、Na 2 HPO 4 と、NaH 2 PO 4 と、NaClとを含み、Na 2 HPO 4 とNaH 2 PO 4 とNaClの重量比は2:2.4:6~18である薬物製剤。
【請求項2】
前記薬物製剤はB型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液をさらに含み、B型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液はB型肝炎ウイルスコア関連抗原又はその抗原性フラグメントと、リン酸塩緩衝剤と、ポリソルベート80とを含む請求項1に記載の薬物製剤。
【請求項3】
前記薬物製剤はオリゴデオキシヌクレオチド溶液をさらに含み、オリゴデオキシヌクレオチド溶液はオリゴデオキシヌクレオチドと、リン酸塩緩衝剤と、ポリソルベート80とを含む請求項1又は2に記載の薬物製剤。
【請求項4】
Na 2 HPO 4 とNaH2PO4とNaClの重量比が2:2.4:6~9であり、より好ましくは2:2.4:9である請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤。
【請求項5】
前記ポリソルベート80の濃度は0.05g/100mLである請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤。
【請求項6】
前記薬物製剤はスクロースなどの糖類を含まない請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤。
【請求項7】
前記B型肝炎ウイルス表面抗原のアミノ酸配列は配列番号1であり、好ましくは、前記B型肝炎ウイルスコア関連抗原のアミノ酸配列は配列番号2であり、好ましくは、前記オリゴデオキシヌクレオチドのヌクレオチド配列は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9から選ばれた1つ以上であり、好ましくは配列番号3である請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤。
【請求項8】
前記B型肝炎ウイルスコア関連抗原フラグメントは配列番号2の149~183個の連続的なアミノ酸から、好ましくは152~183個の連続的なアミノ酸から構成される請求項に記載の薬物製剤。
【請求項9】
注射液、凍結乾燥粉末注射剤又は無菌分注製剤から選ばれた注射剤である請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤。
【請求項10】
1)リン酸塩緩衝剤に水を加えて溶解してリン酸塩緩衝液を得、pH値を7.0~7.4に、好ましくは7.2に調整するステップと、
2)ステップ1)で調製したリン酸塩緩衝液でポリソルベート80を希釈して、ポリソルベート80溶液を調製するステップと、
3)ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液にB型肝炎ウイルス表面抗原原液を加えて、B型肝炎ウイルス表面抗原溶液を調製するステップと、
4)ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液にB型肝炎ウイルスコア関連抗原原液を加えて、B型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液を調製するステップと、
5)ステップ1)で調製したリン酸塩緩衝液でオリゴデオキシヌクレオチドを溶解しこれを希釈して原液を得、ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液を加えて、オリゴデオキシヌクレオチド溶液を調製するステップと、
6)ステップ3)で調製したB型肝炎ウイルス表面抗原溶液、ステップ4)で調製したB型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液及びステップ5)で調製したオリゴデオキシヌクレオチド溶液を混合して前記薬物製剤を得るステップとを含む請求項1~のいずれか1項に記載の薬物製剤の製造方法。
【請求項11】
B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患の治療薬物を製造するための、請求項1~のいずれか1項に記載のB型肝炎を治療する薬物製剤の使用であって、好ましくは、前記B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患はB型肝炎、肝硬変、肝がんから選ばれる薬物製剤の使用。
【請求項12】
対象にB型肝炎ウイルスに対する体液性免疫及び細胞性免疫応答を生じさせるための薬物を製造するための、請求項1~のいずれか1項に記載のB型肝炎を治療する薬物製剤の使用。
【請求項13】
対象におけるB型肝炎ウイルスコア抗体にサブタイプ変異を起こすための薬物を製造するための、請求項1~のいずれか1項に記載のB型肝炎を治療する薬物製剤の使用。
【請求項14】
前記薬物は治療用ワクチンである請求項1113のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2018年12月24日に提出された名称が「B型肝炎を治療する薬物製剤、その製造方法及び用途」で、出願番号が2018115804704である中国発明特許出願の優先権を主張する。
【0002】
本発明はバイオ医薬品の分野に属し、B型肝炎を治療する薬物製剤、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0003】
B型肝炎ウイルス(HBV)感染は世界で深刻な公衆衛生課題の1つである。HBV感染は慢性B型肝炎、肝硬変、肝細胞がんの重要な原因である(Fattovich G.J.Hepatol.2008;48:335-352)。慢性HBV感染の臨床治療によく使用される薬物には主にヌクレオシド類似体、インターフェロンがある。ヌクレオシド類似体は肝細胞内のcccDNAを完全に除去できず、長期に使用すると薬剤耐性変異体の発生や投与中止後のリバウンドが問題である(Kwon H,Lok AS.Nat Rev Gastroenterol Hepatol.2011;8:275-284)。インターフェロンは無症候性HBV保因者に適さず、慢性HBV患者で半年の使用後にHBeAg血清変換率が33%にとどまり、しかもその大きな副作用により使用も制限されている(Tang SX,Yu GL.Lancet 1990;335(8684):302)。
【0004】
現在、幅広く使用されるB型肝炎ワクチンは体液性免疫を誘導して、防御中和抗体を生じさせることで、予防目的を達成するものである。数多くの研究から分かるように、中和抗体が除去できるのは細胞外のウイルス粒子だけで、細胞内の感染ウイルスの除去は主に特異的な細胞免疫応答や、ヘルパーT細胞、CD4+T細胞が生じたIFN-γなどのTh1型サイトカイン、特にウイルス特異的細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte、略称CTL)に頼る(ChinR,Lacamini S.Rev Med Viorl.2003:13(4):255-72)。細胞性免疫応答の強さが直接的にB型肝炎の予後を決定している。したがって、治療用B型肝炎ワクチンとして理想的なのは特異的な体液性免疫と細胞性免疫を同時に誘導して、B型肝炎の免疫寛容を突破する必要があるものである。
【0005】
CN104043120BはB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)と、B型肝炎ウイルスコア関連抗原(HBcAg)と、オリゴデオキシヌクレオチド(CpG)とを含む治療用B型肝炎ワクチンを提供し、B型肝炎の免疫寛容を突破できるため、ウイルス性B型肝炎、とりわけ慢性B型肝炎の治療に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】CN104043120B
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fattovich G.J.Hepatol.2008;48:335-352
【文献】Kwon H,Lok AS.Nat Rev Gastroenterol Hepatol.2011;8:275-284
【文献】Tang SX,Yu GL.Lancet 1990;335(8684):302
【文献】ChinR,Lacamini S.Rev Med Viorl.2003:13(4):255-72
【0008】
従来のB型肝炎ワクチンは一般にアジュバントとして水酸化アルミニウムを含み、アルミニウムアジュバントは抗原をその上に吸着させて抗原分子間の相互作用を減らすことで、抗原の安定性を高められる。しかしアルミニウムアジュバントにもいくつかの欠点がある。例えば、アルミニウムアジュバントを含むワクチンの接種には、紅斑、皮下結節、接触過敏症、肉芽腫、筋膜炎などの不良事象が認められる。CpGアジュバントを用いると水酸化アルミニウムアジュバントの前記不良事象が避けられる。同時に、関連の実験では、スクロースなどの糖類を加えた場合、抗原の保護効果を得られないだけでなく、かえって抗原の安定性が低下するという予想外な事実が判明した。したがって、どのようにワクチンの抗原安定性を一層高めるかは解決すべき課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は従来技術を踏まえて、抗原安定性が向上したB型肝炎を治療するための薬物製剤をさらに提供することであり、当該薬物製剤は水酸化アルミニウムなどのアルミニウムアジュバント又は糖類を含まない場合でも、抗原安定性が高く、治療用B型肝炎ワクチンの大規模な生産及び使用に適する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記目的を達成するために、B型肝炎を治療するための薬物製剤を提供し、前記薬物製剤はB型肝炎ウイルス表面抗原溶液を含み、B型肝炎ウイルス表面抗原溶液はB型肝炎ウイルス表面抗原又はそのフラグメントと、ポリソルベート80とを含む。
【0011】
好ましくは、前記B型肝炎ウイルス表面抗原溶液はリン酸塩緩衝剤をさらに含む。
【0012】
好ましくは、前記薬物製剤はB型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液をさらに含み、B型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液はB型肝炎ウイルスコア関連抗原又はそのフラグメントと、リン酸塩緩衝剤と、ポリソルベート80とを含む。
【0013】
より好ましくは、前記薬物製剤はオリゴデオキシヌクレオチド溶液をさらに含み、オリゴデオキシヌクレオチド溶液はオリゴデオキシヌクレオチドと、リン酸塩緩衝剤と、ポリソルベート80とを含む。
【0014】
好ましくは、前記リン酸塩緩衝剤はNa2HPO4と、NaH2PO4とを含み、より好ましくは、前記リン酸塩緩衝剤はNa2HPO4と、NaH2PO4と、NaClとを含み、さらに好ましくは、Na2HPO4とNaH2PO4とNaClの重量比は2:2.4:6~18であり、好ましくは2:2.4:6~9であり、より好ましくは2:2.4:9である。
【0015】
好ましくは、前記ポリソルベート80の濃度は0.03%(0.03g/100mL)~0.1%(0.1g/100mL)であり、好ましくは0.05%(0.05g/100mL)である。
【0016】
さらに好ましくは、前記薬物製剤はスクロースなどの糖類を含まない。
【0017】
好ましくは、前記B型肝炎ウイルス表面抗原のアミノ酸配列は配列番号1であり、好ましくは、前記B型肝炎ウイルスコア関連抗原のアミノ酸配列は配列番号2であり、好ましくは、前記オリゴデオキシヌクレオチドのヌクレオチド配列は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9から選ばれた1つ以上であり、好ましくは配列番号3である。
【0018】
好ましくは、前記B型肝炎ウイルスコア関連抗原フラグメントは配列番号2の149~183個の連続的なアミノ酸から、好ましくは152~183個の連続的なアミノ酸から構成される。
【0019】
前記薬物製剤は、注射液、凍結乾燥粉末注射剤又は無菌分注製剤から選ばれた注射剤である。
【0020】
さらに本発明は、前記B型肝炎を治療するための薬物製剤の製造方法であって、
1)リン酸塩緩衝剤に水を加えて溶解してリン酸塩緩衝液を得、pH値を7.0~7.4に、好ましくは7.2に調整するステップと、
2)ステップ1)で調製したリン酸塩緩衝液でポリソルベート80を希釈して、ポリソルベート80溶液を調製するステップと、
3)ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液にB型肝炎ウイルス表面抗原原液を加えて、B型肝炎ウイルス表面抗原溶液を調製するステップと、
4)ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液にB型肝炎ウイルスコア関連抗原原液を加えて、B型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液を調製するステップと、
5)ステップ1)で調製したリン酸塩緩衝液でオリゴデオキシヌクレオチドを溶解しこれを希釈して原液を得、ステップ2)で調製したポリソルベート80溶液を加えて、オリゴデオキシヌクレオチド溶液を調製するステップと、
6)ステップ3)で調製したB型肝炎ウイルス表面抗原溶液、ステップ4)で調製したB型肝炎ウイルスコア関連抗原溶液及びステップ5)で調製したオリゴデオキシヌクレオチド溶液を混合して前記薬物製剤を得るステップとを含む前記方法を提供する。
【0021】
さらに本発明は、B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患の治療薬物を製造するための、前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤の用途であって、
前記B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患はB型肝炎、肝硬変、肝がんから選ばれる薬物製剤の用途を提供する。
【0022】
さらに本発明は、対象にB型肝炎ウイルスに対する体液性免疫及び細胞性免疫応答を生じさせる薬物を製造するための、前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤の用途を提供する。
【0023】
さらに本発明は、対象における抗B型肝炎ウイルスコア抗体にサブタイプ変異を起こす薬物を製造するための、前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤の用途を提供する。
【0024】
好ましくは、前記薬物は治療用ワクチンである。
【0025】
さらに本発明は、B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患の治療方法であって、治療有効量の前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤をこれを必要とする対象に投与することを含み、好ましくは、前記B型肝炎ウイルス感染及び/又はB型肝炎ウイルス媒介性疾患はB型肝炎、肝硬変、肝がんから選ばれる治療方法を提供する。
【0026】
さらに本発明は、対象にB型肝炎ウイルスに対する体液性免疫及び細胞性免疫応答を生じさせる方法であって、治療有効量の前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤をこれを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0027】
さらに本発明は、対象における抗B型肝炎ウイルスコア抗体にサブタイプ変異を起こす方法であって、治療有効量の前記B型肝炎を治療する薬物製剤又は前記製造方法で製造した薬物製剤をこれを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明者が研究やスクリーニングを重ねて、リン酸塩緩衝液及びポリソルベート80を成分とするとB型肝炎治療用ワクチン用の薬物製剤における抗原安定性が効果的に保持され、興味深いことに、関連の実験では抗原溶液にスクロースなどの糖類を加えると、糖類がタンパク質に保護効果を果たさないだけでなく、抗原の安定性を低下させることが判明した。したがって、本発明に係る薬物製剤は成分が簡単で、糖類を含まず、アルミニウムアジュバントを使用する必要がなく、抗原安定性が高く、長期安定性試験で良好な保存効果が認められ、ワクチンの生産、保存そして使用上のニーズが満たされ、治療用B型肝炎ワクチンの大規模な生産及び使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
次に、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1図1は異なるNaCl濃度のPBS緩衝液に、HBsAg製剤を2~8℃、25℃及び40℃で1ヶ月静置した安定性研究の結果を示す。
図2図2はHBsAg製剤を40℃で静置した安定性研究の結果を示す。
図3図3はHBsAg製剤を2~8℃で静置した安定性研究の結果を示す。
図4図4はHBsAg対照製剤、0.05%Tween80配合製剤を40℃で静置した後のHPLC測定結果を示す。
図5図5はHBcAg製剤を40℃で静置した安定性研究の結果を示す。
図6図6はHBcAg製剤を2~8℃で静置した安定性研究の結果を示す。
図7図7は各成分が独立して保存された薬物製剤を25℃で静置した後のHBsAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図8図8は各成分が独立して保存された薬物製剤を25℃で静置した後のHBcAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図9図9は各成分が独立して保存された薬物製剤を2~8℃で静置した後のHBsAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図10図10は各成分が独立して保存された薬物製剤を2~8℃で静置した後のHBcAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図11図11は各成分が混合して保存された薬物製剤を25℃で静置した後のHBsAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図12図12は各成分が混合して保存された薬物製剤を25℃で静置した後のHBcAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図13図13は各成分が混合して保存された薬物製剤を2~8℃で静置した後のHBsAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
図14図14は各成分が混合して保存された薬物製剤を2~8℃で静置した後のHBcAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に具体的な実施形態を用いて本発明を一層詳細に説明し、示される実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0031】
実施例1:治療用B型肝炎ワクチン製剤の各成分の調製
1.HBsAg原液の調製:
HBsAgタンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示すとおりである。
【0032】
HBsAgタンパク質はHBsAg遺伝子組換え酵母細胞から調製され、酵母細胞の種類はハンセヌラ属酵母、出芽酵母、ピキア酵母を含み、好ましくはハンセヌラ属酵母である。
【0033】
調製手順の詳細は中国特許出願CN108330145Aを参照し、HBsAg遺伝子組換えハンセヌラ属酵母細胞を発酵培養して、菌体を得た。破砕処理そしてシリカゲル吸着、カラムクロマトグラフィー及びTFFなどのステップで精製することにより、HBsAg原液を調製した。調製したHBsAg原液は純度が95%を超え、タンパク質含有量が200μg/mL以上であることが求められる。宿主DNA残留量、宿主タンパク質残留量及びその他の化学物質残留量はいずれも薬局方の規定に適合する。
【0034】
2.HBcAg原液の調製:
HBcAgタンパク質のアミノ酸配列は配列番号2に示すとおりである。
【0035】
HBcAgタンパク質はHBcAg遺伝子組換え酵母細胞から調製され、酵母細胞の種類はハンセヌラ属酵母、出芽酵母、ピキア酵母を含み、好ましくはハンセヌラ属酵母である。
【0036】
調製手順の詳細は中国特許出願CN108047316Aを参照し、HBcAg遺伝子組換えハンセヌラ属酵母細胞を発酵培養して、菌体を得た。破砕処理そして硫酸アンモニウム、カラムクロマトグラフィー及びTFFなどのステップで精製することにより、HBcAg原液を調製した。調製したHBcAg原液は純度が95%を超え、タンパク質含有量が200μg/mL以上であることが求められる。宿主DNA残留量、宿主タンパク質残留量及びその他の化学物質残留量はいずれも薬局方の規定に適合する。
【0037】
3.オリゴデオキシヌクレオチド(CpG)の調製:
オリゴデオキシヌクレオチドは合成して調製されたオリゴデオキシヌクレオチド配列フラグメントであり、1つ以上のCpGモチーフを含み、好ましくは18~25個のヌクレオチドを含み、完全にチオ化修飾された配列であり、TCG TTC GTT CGT TCG TTC GTT(配列番号3)、GTG CCA GCG TGC GCC ATG(配列番号4)、TCG TCG TTT TGT CGT TTT GTC GTT(配列番号5)、TGA CTG TGA ACG TTC GAG ATG A(配列番号6)、TCG TTC GTT CGT TCG TTC GTT CGT T(配列番号7)、TCG TCG TCG TCG TCG TCG TCG(配列番号8)、TCC ATG ACG TTC CTG ACG TT(配列番号9)などを含み、好ましくはTCG TTC GTT CGT TCG TTC GTT(配列番号3)である。
【0038】
調製手順の詳細は中国特許CN104043120Bの実施例1を参照し、合成したCpG(配列番号3)は凍結乾燥を行って粉末状のCpG原薬になり、純度が90%を超え、含水量が15%未満で、含有量が70%以上であることが求められる。重金属不純物、微生物限度試験は薬局方の規定に適合する。
【0039】
実施例2:治療用B型肝炎ワクチン製剤の製造
1.PBS緩衝液:2.0gのNa2HPO4・12H2O、2.4gのNaH2PO4・2H2O、9gのNaClに水を加えて溶解し、1000mLに希釈し、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH値を7.20に調整した。
【0040】
2.0.5%ポリソルベート80(Tween80)溶液:5.0gのTween80を秤量し、PBS緩衝液で1000mLに希釈した。
【0041】
3.HBsAg溶液:実施例1で調製したHBsAg原液に0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0042】
4.HBcAg溶液:実施例1で調製したHBcAg原液に0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0043】
5.CpG溶液:実施例1で調製したCpGをPBS緩衝液で溶解し希釈してCpG原液を得、0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0044】
6.ステップ3で調製したHBsAg溶液、ステップ4で調製したHBcAg溶液及びステップ5で調製したCpG溶液を混合して前記薬物製剤を得た。
【0045】
実施例3:治療用B型肝炎ワクチン製剤配合のスクリーニング試験
HBsAg、HBcAg及びCpGの3種の成分で、HBsAgが様々な要因から影響を受けやすく、安定性が最も低い。そのため、HBsAgを指標として製剤配合をスクリーニングした。
【0046】
HBsAgは主にウイルス様粒子(以下、VLPという)として存在し、HPLC検出で主ピークの面積は製剤中のVLPの数量を示す。そのため、主ピークの面積減少は製剤中のVLPとしてのHBsAgの量の減少を示す。
【0047】
1)緩衝系スクリーニング:
溶液調製:
1.0.5%ポリソルベート80(Tween80)溶液は実施例2で調製した。
【0048】
2.ヒスチジン緩衝液:1.55gのヒスチジン、2.095gの塩酸ヒスチジンに水を加えて溶解し、1000mLに希釈した。
【0049】
3.HBsAg溶液(PBS緩衝液):HBsAg原液に0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0050】
4.HBsAg溶液(ヒスチジン緩衝液):HBsAg原液を半透膜で一晩透析して、ヒスチジン緩衝液に移し、0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0051】
前記2種のHBsAg溶液を40℃で1ヶ月静置した後、HPLC検出を行い、結果は表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
HPLC検出結果に示すように、ヒスチジン緩衝液で調製したHBsAg溶液は40℃で1ヶ月静置した後、主ピークの面積が36.4%減少したが、PBS緩衝液で調製したHBsAg溶液は40℃で1ヶ月静置した後、主ピークの面積の減少はわずか6.1%であった。したがって、製剤の緩衝系としてPBS緩衝液を選択した。
【0054】
2)PBS緩衝液スクリーニング:
製剤配合にはPBS緩衝液が使用され、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH値を7.0~7.4に、好ましくは7.2に調整した。
【0055】
PBS緩衝液で、NaClは緩衝液の浸透圧を調整するために使用され、HBsAgタンパク質にも保護効果があり、そのため試験で適切なNaCl濃度をスクリーニングし、そのなか、PBはリン酸塩緩衝物質の組み合わせで、すなわちNa2HPO4・12H2OとNaH2PO4・2H2Oである。
【0056】
溶液調製:次の各リン酸塩緩衝剤の組み合わせ(表2)にそれぞれ水を加えて溶解し、1000mLに希釈して、PBS緩衝液を調製した。HBsAg原液を半透膜で一晩透析して、次の各PBS緩衝液に移した。
【0057】
【表2】
【0058】
前記5種のHBsAg溶液を2~8℃、25℃及び40℃で1ヶ月静置した後、HPLC検出を行い、結果は図1に示すとおりである。
【0059】
HPLC検出結果に示すように、緩衝液でNaCl濃度が0~18g/Lである時、NaCl濃度の増加に伴い、1ヶ月静置後のHBsAg溶液の主ピークの面積の減少幅は漸次低減した。2~8℃で1ヶ月静置した場合、5種のHBsAg溶液の主ピークの面積にいずれも明らかな減少は認められなかった。40℃で1ヶ月静置した場合、5種のHBsAg溶液の主ピークの面積にいずれも明らかな減少が認められ、減少幅は13.9%~25.4%であり、NaCl濃度の増加に伴い、主ピークの面積の減少幅は漸次低減した。25℃で1ヶ月静置した場合、NaCl濃度が0g/L及び3g/Lである時、主ピークの面積に明らかな減少が認められ、減少幅はそれぞれ14.8%、18.2%であり、NaCl濃度が6~18g/Lである時、主ピークの面積の減少幅は3.7%以下であった。したがって、製剤の緩衝液としてPB+6~18g/LのNaClを選択し、好ましくは6~9g/Lであり、より好ましくは9g/Lである。
【0060】
3)賦形剤スクリーニング
溶液調製:
1. 50%スクロース溶液:50gのスクロースを秤量し、PBS緩衝液で100mLに希釈した。
【0061】
2.HBsAg溶液(Tween80):HBsAg原液に0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でTween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0062】
3.HBsAg溶液(スクロース+Tween80):HBsAg原液に50%スクロース溶液及び0.5%Tween80溶液を加え、PBS緩衝液でスクロース溶液の濃度を5%に、Tween80の濃度を0.05%に希釈した。
【0063】
前記2種のHBsAg溶液を40℃で1ヶ月静置した後、HPLC検出を行い、結果は表3に示すとおりである。
【0064】
【表3】
【0065】
HPLC検出結果に示すように、スクロース+Tween80で調製したHBsAg製剤は40℃で1ヶ月静置した後、主ピークの面積は31.6%減少したが、賦形剤としてのTween80単独で調製したHBsAg製剤は40℃で1ヶ月静置した後、主ピークの面積の減少はわずか6.1%であった。つまり、スクロースが抗原に保護効果を果たさず、かえって抗原の安定性を低下させた。したがって製剤の賦形剤としてTween80を選択すると、抗原安定性が良好であるだけでなく、複雑な成分の潜在的な不良事象があるというリスクは低減された。
【0066】
実施例4:治療用B型肝炎ワクチン製剤の安定性試験
1.試験群は表4、表5、表6のとおり設定し、製造方法は実施例2と同じであった。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
2.安定性試験の設計
【0071】
【表7】
【0072】
各安定性研究サンプルに所定のサンプリング時点でサンプリングし、HPLC検出を行った。
【0073】
3.試験結果:
1)HBsAg製剤安定性結果分析:
異なる配合のHBsAg溶液及びHBsAg対照製剤を40℃で一緒に静置し、それぞれ7、15そして30日目にサンプリングして検出を行った。図2及び図3の結果に示すように、Tween80なしのHBsAg対照製剤のほうはHPLCで主ピークの面積減少は最も速く、40℃で30日静置すると、主ピークの面積が23.5%減少した。次は0.01%Tween80配合の溶液で、15.9%減少した。0.03%~0.1%Tween80配合の溶液は、三者の減少幅がほぼ同じで、約6%減少した。
【0074】
異なる配合のHBsAg溶液及びHBsAg対照製剤を2~8℃で一緒に6ヶ月静置した安定性データは40℃で静置した結果と一致した。6ヶ月後のサンプルは最初のサンプルと比べ、対照製剤(配合にTween80なし)と、0.01%、0.03%、0.05%及び0.1%Tween80配合の溶液の主ピークの面積はそれぞれ15.4%、15.8%、12.2%、6.5%、4.8%減少した。Tween80がHBsAg VLPに保護効果を果たしたことを示す。
【0075】
図4に示すように、HBsAg対照製剤を40℃で7日静置しただけで明らかな凝集ピークが認められ、静置時間の増加につれて、その凝集ピークの面積が漸次増えた。それに対し、0.05%Tween80配合の製剤は40℃で30日静置した後も明らかな凝集ピークが認められなかった。これはTween80がHBsAg VLPを保護し、いずれも単一のVLPとして保持させることで、凝集を避けた。また、0.05%Tween80配合と0.1%Tween80配合は効果が同等で、賦形剤の添加量を減らしても潜在的な不良事象を低減できる。
【0076】
2)HBcAg製剤安定性結果分析:
HBcAgは同様に主にVLPとして存在し、HPLC検出で主ピークの面積は製剤中のVLPの数量を示す。そのため、主ピークの面積減少は製剤中のVLPとしてのHBcAgの量の減少を示す。
【0077】
図5及び図6のHPLC結果に示すように、HBcAg VLPが比較的安定的で、2~8℃で6ヶ月静置した場合も40℃で30日静置した場合も、HPLCで主ピークの面積に明らかな変化は認められなかった。
【0078】
3)CpG製剤安定性結果分析:
各安定性研究サンプルに所定のサンプリング時点でサンプリングし、純度及び相対活性の検出を行った。
【0079】
純度はRP-UPLC法で検出し、相対活性はセルアッセイで検出し、CpG溶液とヒトTLR9受容体の結合活性を表現し、結果は参照品(発明者が調製したCpG原液に構造表現及び含有量較正を充分に行ったものを参照品とし、その相対活性値を100%と定義する)の活性に対するパーセンテージの値で示した。
【0080】
表8及び表9の純度結果及び相対活性結果に示すように、CpG溶液は比較的安定的で、2~8℃で6ヶ月静置した場合も40℃で30日静置した場合も、純度及び相対活性に明らかな変化は認められなかった。
【0081】
【表8】
【0082】
【表9】
【0083】
実施例5:治療用B型肝炎ワクチン製剤の各成分の独立保存に関する薬力学的検証
1.実験動物:雌で5週齢のC57BL/6マウス80匹で、8匹/群であり、提供元は上海霊暢生物科技有限公司であった。
【0084】
2.試験群の設定:実施例2のステップ1~5に記載の製造方法でそれぞれHBsAg溶液、HBcAg溶液及びCpG溶液を調製し、3種の成分を独立的に保存して静置し、表10に示すとおり所定のサンプリング時点にサンプリングし、サンプリング後、実施例2のステップ6に従ってHBsAg溶液、HBcAg溶液及びCpG溶液の3種の成分を混合して、前記薬物製剤を得、それはそれぞれ50μg/mLのHBsAg、25μg/mLのHBcAg及び25μg/mLのCpGを含み、Tween80の濃度が0.05%であった。当該薬物製剤に薬力学的検証を行った。
【0085】
【表10】
【0086】
3.動物免疫:0日目に脚からの筋肉注射でマウスの免疫接種を行い、免疫は1回であり、接種体積は200μL/匹であり、免疫後7日目に細胞性免疫レベルを評価し、免疫後28日目に体液性免疫レベルを評価した。
【0087】
4.細胞性免疫:
1)検出手順:免疫後7日目に脾臓を摘出し、従来の方法で脾臓リンパ細胞を調製し、手順は次のとおりである。滅菌鉗子とはさみを使って無菌操作で脾臓を摘出し、70μmセルストレーナーに入れて、2mLの予冷処理後の2%FBS(GIBCO社より購入)-PBSを含むシャーレに置いた。すりこぎで脾臓を研磨して、脾臓細胞が篩目からシャーレに入ると、細胞懸濁液を得、パスツールピペットで懸濁液を40μmセルストレーナー(BD社より購入)から加えて濾過し、50mL滅菌遠心管で500gと4℃で5分間遠心分離した。上清を捨て、2mLの1×赤血球破壊剤(BD社より購入)を加えて細胞を再懸濁させ、4℃の暗所で5分間静置して、赤血球を破砕させた。10mLの2%FBS-PBSを加えて赤血球破壊反応を停止した。500gと4℃で5分間遠心分離した。上清を捨て、5mLの2%FBS-PBSを加えて細胞を再懸濁させて使用に備えた。刺激物質としてそれぞれHBsAg特異的ペプチドライブラリーPS4及びHBcAg特異的ペプチドライブラリーPCPで脾臓細胞を刺激した。キットの取扱説明書に従い、ELISPOTキット(BD社)でHBsAg及びHBcAg抗原特異的IFN-γの分泌レベルを検出した。ImmunoSPOT Series 3酵素結合スポットアナライザーを用いてELISPOTキットで検出したスポット数を読み取った(操作手順の詳細は中国特許出願CN104043120Bの実施例7を参照した)。
【0088】
HBsAg特異的ペプチドライブラリーPS4は中国特許出願CN104043120Bの実施例7に、HBcAg特異的ペプチドライブラリーPCP配列は配列番号10~24に示した。
【0089】
2)評価指標:無血清培地ウェルのスポット数≦5SFC、サンプルウェルのスポット数≧10SFCである場合、陽性と判定する。5SFC<無血清培地ウェルのスポット数≦10SFC、サンプルウェルのスポット数/無血清培地ウェルのスポット数≧2である場合、陽性と判定する。無血清培地ウェルのスポット数>10SFC、サンプルウェルのスポット数/無血清培地ウェルのスポット数≧3である場合、陽性と判定する。
【0090】
5.体液性免疫:
1)検出手順:免疫後28日目に採血し、血清を分離し(全血を37℃恒温インキュベーターに40分間静置し、12000rpmと4℃で10分間遠心分離し、上清を吸って、-20℃で冷凍保存して使用に備えた)、キットの取扱説明書に従い、ELISAキット(上海科華)で生じたHBsAb及びHBcAb抗体陽性変換率(抗体陽転率)を検出した。検出にブランク対照、陰性対照及び被験サンプルを設け、各ウェルは2回繰り返し測定し、陰性対照は陰性マウス血清であった。ブランク対照の他に、各ウェルにそれぞれ陰性対照又は被験サンプルを加え、さらに酵素コンジュゲートを加え、均一に混合してカバーした後37℃で30分間インキュベートした。洗浄液で各ウェルを洗浄し、各ウェルに顕色剤のA剤及び顕色剤のB剤を加え、均一に混合してカバーした後37℃で15分間インキュベートした。各ウェルに停止液を加えて均一に混合した。マイクロプレートリーダーで波長450nm箇所の各ウェルのOD値を読み取った。
【0091】
2)評価指標:HBsAbの参照値であるカットオフ値(COV)=陰性対照の平均OD値×2.1。サンプルのOD値がCOV値より小さい場合、検出結果は陰性である。サンプルのOD値がCOV値より大きく又は等しい場合、検出結果は陽性である。
【0092】
HBcAbの参照値であるカットオフ値(COV)=陰性対照の平均OD値×0.3。サンプルのOD値がCOV値より小さい場合、検出結果は陽性である。サンプルのOD値がCOV値より大きく又は等しい場合、検出結果は陰性である。
【0093】
6.試験結果:
1)25℃安定性試験条件:
【0094】
【表11】
【0095】
結果分析:
細胞性免疫レベル検出結果:ELISPOTスポット結果は図7及び図8であり、結果を分析して分かるように、0~6ヶ月のHBsAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%で、HBcAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%であり、いずれも70%を超えたから、細胞性免疫の検出が合格であった。体液性免疫レベルの検出結果に示すように、HBsAb陽転率及びHBcAb陽転率はいずれも62.5%以上で、いずれも50%を超えたから、体液性免疫の検出結果が合格であった。
【0096】
2)2~8℃安定性試験条件:
【0097】
【表12】
【0098】
結果分析:
細胞性免疫レベル検出結果:ELISPOTスポット結果は図9及び図10であり、結果を分析して分かるように、0~12ヶ月のHBsAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%で、HBcAg特異的IFN-γ陽転率は87.5%を超えており、いずれも70%を超えたから、細胞性免疫の検出が合格であった。体液性免疫レベルの検出結果に示すように、HBsAb陽転率及びHBcAb陽転率はいずれも62.5%以上で、いずれも50%を超えたから、体液性免疫の検出結果が合格であった。
【0099】
実施例6:治療用B型肝炎ワクチン製剤の各成分の混合保存に関する薬力学的検証
1.実験動物:雌で5週齢のC57BL/6マウス64匹で、8匹/群であり、提供元は上海霊暢生物科技有限公司であった。
【0100】
2.試験群の設定:実施例2の製造方法で前記薬物製剤を製造し、それはそれぞれ50μg/mLのHBsAg、25μg/mLのHBcAg溶液及び200μg/mLのCpG溶液を含み、Tween80の濃度が0.05%であった。静置保存後、表13のとおり所定のサンプリング時点にサンプリングして、薬力学的検証を行った。
【0101】
【表13】
【0102】
3.動物免疫:0日目に脚からの筋肉注射でマウスの免疫接種を行い、免疫は1回であり、接種体積は200μL/匹であり、免疫後7日目に細胞性免疫レベルを評価し、免疫後28日目に体液性免疫レベルを評価した。
【0103】
4.細胞性免疫:検出手順と評価指標は実施例5と同じであった。
【0104】
5.体液性免疫:検出手順と評価指標は実施例5と同じであった。
【0105】
6.実験結果:
1)25℃安定性試験条件:
【0106】
【表14】
【0107】
結果分析:
細胞性免疫レベル検出結果:ELISPOTスポット結果は図11及び図12であり、結果を分析して分かるように、0~3ヶ月のHBsAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%で、HBcAg特異的IFN-γ陽転率は75%を超えており、いずれも70%を超えたから、細胞性免疫の検出が合格であった。体液性免疫レベルの検出結果に示すように、HBsAb陽転率及びHBcAb陽転率はいずれも62.5%以上で、いずれも50%を超えたから、体液性免疫の検出結果が合格であった。
【0108】
2)2~8℃安定性試験条件:
【0109】
【表15】
【0110】
結果分析:
細胞性免疫レベル検出結果:ELISPOTスポット結果は図13及び図14であり、結果を分析して分かるように、0~6ヶ月のHBsAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%で、HBcAg特異的IFN-γ陽転率はいずれも100%であり、いずれも70%を超えたから、細胞性免疫の検出が合格であった。体液性免疫レベルの検出結果に示すように、HBsAb陽転率及びHBcAb陽転率はいずれも62.5%以上で、いずれも50%を超えたから、体液性免疫の検出結果が合格であった。
【0111】
上述したように、本発明に係るB型肝炎を治療するための薬物製剤は糖類を含まず、CpGアジュバントを使用して水酸化アルミニウムアジュバントの不良事象を避けたと同時に、適量のポリソルベート80及びリン酸塩緩衝剤を加えることで、配合の成分が簡単で、抗原安定性が高く、長期安定性試験で良好な保存効果が認められ、ワクチンの生産、保存と使用上のニーズが満たされ、治療用B型肝炎ワクチンの大規模な生産及び使用に適し、市場に明るい将来性が見込まれる。
【0112】
上記の内容で本発明を詳細に説明したが、当業者であれば理解したように、本発明の趣旨と範囲を逸脱せず本発明に様々な修正や変更を行うことができる。本発明の特許請求の範囲は上記の詳細な説明に限定されず、前記修正や変更も特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
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図6
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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