(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータ用の圧縮コイルばね
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240917BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20240917BHJP
C22C 38/32 20060101ALI20240917BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20240917BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20240917BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C18/04
C22C38/32
B60J5/10 K
F16F1/06 A
C21D8/06 A
(21)【出願番号】P 2021549598
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2020052132
(87)【国際公開番号】W WO2020173647
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-10
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ キャルドン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン ヴェルメッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン ヴァン デ ヴェルデ
(72)【発明者】
【氏名】ピーテル ゲキエール
(72)【発明者】
【氏名】ヴィム ヴァン ハバー
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-140589(JP,A)
【文献】特開2015-017288(JP,A)
【文献】特開2012-077367(JP,A)
【文献】特開昭58-138513(JP,A)
【文献】国際公開第1997/042352(WO,A1)
【文献】特開2017-218659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 18/04
C22C 38/32
B60J 5/10
F16F 1/06
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータで使用するための圧縮コイルばねであって、
前記圧縮コイルばねは15~50mmの外径を有し、
前記圧縮コイルばねは、らせん状に巻かれた鋼線を含み、
前記鋼線の直径d(mm)は2~5mmであり、
前記鋼線は合金鋼を含み、前記合金鋼は、
0.8~0.95wt%のC;
0.2~0.9wt%のMn;
0.1~1.4wt%のSi;
0.15~0.4wt%のCr;
任意選択的に0.04~0.2wt%のV;
任意選択的に0.0005~0.008wt%のB;
任意選択的に0.02~0.06wt%のAl;
避けられない不純物;及び
残りの鉄;
からなり、
前記合金鋼は1を超える炭素当量を有し、
前記炭素当量は、C wt%+(Mn wt%/6)+(Si wt%/5)+(Cr wt%/5)+(V wt%/5)として定義され、
前記圧縮コイルばねの前記鋼線の微細構造は、
97体積%を超える引き伸ばされた層状パーライトである、
圧縮コイルばね。
【請求項2】
前記圧縮コイルばねをらせん状に巻くために使用される前記鋼線が、式2680-390.71*ln(d)によって計算される値よりも高い引張強度Rm(MPa)を有する、請求項1に記載の圧縮コイルばね。
【請求項3】
前記合金鋼が0.2~0.6wt%のMnを含み、又は前記合金鋼が0.6~0.9wt%のMnを含む、請求項1又は2に記載の圧縮コイルばね。
【請求項4】
前記圧縮コイルばねの前記鋼線の前記微細構造が、0.2~2体積%のベイナイトを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の圧縮コイルばね。
【請求項5】
前記らせん状に巻かれた鋼線がリン酸コーティングを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の圧縮コイルばね。
【請求項6】
前記らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含み、
前記金属コーティング層が、少なくとも84質量%の亜鉛、及
びアルミニウムを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の圧縮コイルばね。
【請求項7】
前記金属コーティング層が、少なくとも86質量%の亜鉛;及び4~14質量%のアルミニウム;及び任意選択的にマグネシウム及び/又はケイ素を含む、請求項
6に記載の圧縮コイルばね。
【請求項8】
前記金属コーティング層が、亜鉛、3~8wt%のアルミニウム、任意選択的に0.2~1wt%のMg、任意選択的に最大0.1wt%の希土類元素、及び避けられない不純物からなる、請求項
6に記載の圧縮コイルばね。
【請求項9】
前記合金鋼が0.15~0.35wt%のSiを含み、又は前記合金鋼が0.6~0.
8wt%のSiを含み、又は前記合金鋼が0.8~1.4wt%のSiを含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の圧縮コイルばね。
【請求項10】
前記合金鋼が、0.83~0.89wt%のC、0.55~0.7wt%のMn、0.
1~0.4wt%のSi、0.15~0.3wt%のCr、0.04~0.08wt%のV、任意選択的に0.02~0.06wt%のAl;避けられない不純物及び残りの鉄からなる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の圧縮コイルばね。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の圧縮コイルばねを作製するための方法であって、
-鋼線材を提供するステップ;
-パーライト微細構造を得るために、前記鋼線材又は前記鋼線材から引き伸ばされた鋼線をパテンティングするステップ;
-パーライト微細構造を有するパテンティング済み鋼線材又はパーライト微細構造を有するパテンティング済み鋼線を、75%を超える引き伸ばし低減で引き伸ばし;これにより、直径d(mm)が2~5mmの引き伸ばされたパーライト微細構造を有する鋼線を得るステップ;
-前記鋼線をらせん状に巻いてコイルばねにするステップ;
-任意選択的に、前記コイルばねに熱応力緩和を実行するステップを含み、
前記鋼線材が合金鋼を含み、前記合金鋼が、
0.8~0.95wt%のC;
0.2~0.9wt%のMn;
0.1~1.4wt%のSi;
0.15~0.4wt%のCr;
任意選択的に0.04~0.2wt%のV;
任意選択的に0.0005~0.008wt%のB;
任意選択的に0.02~0.06wt%のAl;
避けられない不純物;
及び残りの鉄からなり、
前記合金鋼が1を超える炭素当量を有し、
前記炭素当量は、C wt%+(Mn wt%/6)+(Si wt%/5)+(Cr wt%/5)+(V wt%/5)として定義される、
方法。
【請求項12】
前記引き伸ばし工程によって、直径d(mm)が2~5mmで、引張強度Rm(MPa)が式2680-390.71*ln(d)によって計算される値よりも高い鋼線が得られる、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記パテンティング工程後、及び引き伸ばし前又は引き伸ばしステップの間に、溶融めっき法によって前記鋼線に金属コーティングが適用され、前記金属コーティングが、少なくとも84質量%の亜鉛、及び任意選択的にアルミニウムを含む、請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータであって、
-請求項1~
10のいずれか一項に記載の圧縮コイルばねであって、前記圧縮コイルばねの圧縮力が解放されると車のドア又はテールゲートを開くための圧縮コイルばねと、
-前記車のドア又はテールゲートを閉じるために前記圧縮コイルばねを圧縮するためのモータと
を含むアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータ用の圧縮コイルばねに関する。本発明はさらに、車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
SUV(スポーツ用多目的車)の人気がますます高まっている。SUVは大型の(したがって重い)テールゲートを有する。このようなSUVのテールゲートを開閉するために、アクチュエータに圧縮コイル鋼ばねを使用することが知られている。
【0003】
電動テールゲート開閉アクチュエータを使用する傾向が高まっている。米国特許出願公開第2018/0216391A1号明細書及び米国特許出願公開第2017/0114580A1号明細書は、そのようなアクチュエータを開示している。
【0004】
このような典型的なアクチュエータでは、圧縮モードで動作するコイル鋼線ばねの力を解放することによってテールゲートが開かれる。テールゲートはモータの動作によって閉じられ;これにより、モータはコイル鋼線ばねを圧縮する。このような用途向けのコイル鋼線ばねは、非常に厳しい要件を満たす必要がある。第1の要件によれば、テールゲートの開閉システムを可能な限りコンパクトにするために、コイルばねの直径を小さくする必要がある。ばねは一貫した方法で高い圧縮力に耐えることができなければならない。ばねの応力緩和は所与の圧縮に対するばね力を変更するため、ばねの応力緩和は低くなければならず、これは、テールゲート開閉アクチュエータの動作に対してマイナスになる。さらに、ばねは、ばねの高負荷でテールゲートの必要な開閉サイクル数に耐えなければならないという点で、十分な耐疲労性を備えている必要がある。SUVのテールゲートのサイズのため、使用されるばねの長さは長い。
【0005】
車のテールゲート開閉アクチュエータ用のコイルばねを製造するためにマルテンサイト微細構造を有する鋼線を使用することが知られている。マルテンサイト微細構造を有する鋼線は、通常、硬化及び焼き戻し熱処理工程によって製造される。
【0006】
独国実用新案第202004015535U1号明細書は、車のテールゲート開閉システムについて記載している。このシステムはコイル鋼線ばねを備える。ばねは少なくとも1mmの直径を有する鋼線から作られる。鋼線が作られる合金鋼は、0.5~0.9重量%の炭素、1~2.5重量%のケイ素、0.3~1.5重量%のマンガン、0.5~1.5重量%のクロム、鉄、及び不純物を含む。合金鋼は、任意選択的に、0.05~0.3重量%のバナジウム及び/又は0.5~0.3重量%のニオブ及び/又はタンタルを含む。鋼線は、パテンティング工程とそれに続く線の引き伸ばしによって作られる。次に、鋼線を硬化及び焼き戻しして、マルテンサイト微細構造、2300N/mm2を超える引張強度、及び40%を超える破断時の断面積の減少を得る。得られた鋼線を冷間成形してコイルばねにし、次に200℃~400℃の温度で応力緩和する。ばねは耐久性を高めるためにショットピーニングすることができる。
【0007】
硬い引き伸ばされた鋼線で作られたコイルばねが存在する。欧州規格EN 10270-1:2011は、“Steel wire for mechanical springs-Part 1:Patented cold drawn unalloyed spring steel wire”と題されている。その表題は非合金ばね鋼線に言及しているが、規格のセクション6.1.2は、マイクロ合金元素の追加が製造業者と購入者の間で合意される可能性があることを示している。この規格は、2つの方法で鋼ばね線を区別している。第1の方法は、静的デューティ(S)又は動的デューティ(D)によるものである。第2の方法は、引張強度、低(L)、中(M)、又は高(H)によるものである。2つの方法を組み合わせると、5つのグレードのばね鋼線(SL、SM、DM、SH、及びDH)が提供され、その機械的特性(とりわけ引張強度Rm)及び品質要件が鋼線径の関数として規格EN 10270-1:2011の表3に示されている。例として、直径3.8~4mmの鋼線の場合、グレードDH(最も高い指定引張強度を有するグレード)の引張強度Rmは1740~1930MPaである必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、好ましくは車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータで使用するための圧縮コイルばねである。圧縮コイルばねは15~50mmの外径を有する。圧縮コイルばねは、らせん状に巻かれた鋼線を含む。鋼線の直径d(mm)は2~5mmである。鋼線は、0.8~0.95wt%のC;0.2~0.9wt%のMn;0.1~1.4wt%のSi;0.15~0.4wt%のCr;任意選択的に0.04~0.2wt%のV;任意選択的に0.0005~0.008wt%のB;任意選択的に0.02~0.06wt%のAl;避けられない不純物;及び残りの鉄からなる合金鋼を含む。合金鋼は1を超える炭素当量を有する。炭素当量は次のように定義される:C wt%+(Mn wt%/6)+(Si wt%/5)+(Cr wt%/5)+(V wt%/5)。圧縮コイルばねの鋼線の微細構造は、引き伸ばされた層状パーライトである。
【0009】
驚くべきことに、本発明の圧縮コイルばねは、車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータでの使用に理想的に適している。マルテンサイト鋼線は、テールゲートを開閉するためのアクチュエータ用の圧縮コイルばねでの使用について従来技術において記載されている。テールゲートを開閉するためのアクチュエータ用のコイルばねに必要な鋼線は、2~5mmの直径を有する必要があり、高強度及び十分な延性を有する必要がある。これらの直径の硬化及び焼き戻し鋼線(マルテンサイト微細構造を有する)は、最高の強度を有する。このような硬化及び焼き戻し鋼線で作られ、標準的な後処理(例えば、応力緩和及びショットピーニング)が施されたらせん状に巻かれたばねは、優れた疲労寿命とばね力の低い緩和の組み合わせを提供する。マルテンサイト鋼線の既知の特性と完全に一致するテールゲートを開閉するためのアクチュエータ用のばねに対する高い要求(高い圧縮力、低い緩和の許容、及び疲労寿命要件)のため、熟練者は、テールゲートを開閉するためのアクチュエータ用の圧縮コイルばねの製造に対してマルテンサイト鋼線を使用し、固い引き伸ばされた線(固い引き伸ばされた線は引き伸ばされたパーライト微細構造を有する)を使用しないことに技術的な先入観を有する。本発明で選択された合金鋼は、驚くべきことに、車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータで使用するための厳しい要件を満たす圧縮コイルばねを得るために必要な鋼線特性(強度、降伏強度、延性)の組み合わせを有する引き伸ばされたパーライト微細構造を有する鋼線を提供する。
【0010】
好ましくは、合金鋼の炭素含有量は、0.93wt%未満、より好ましくは0.9wt%未満である。
【0011】
好ましくは、合金鋼は、0.35wt%未満のCr、より好ましくは0.3wt%未満のCrを含む。
【0012】
合金鋼がVを含む場合、好ましくは合金鋼は0.15wt%未満のVを含む。
【0013】
好ましくは、合金鋼は、0.02~0.06wt%のAlを含む。圧縮コイルばねを製造するために使用される鋼線のより高い延性のおかげで、より良い圧縮コイルばねを得ることができることは、そのような実施形態の利点である。
【0014】
好ましくは、圧縮コイルばねは、40mm未満の外径を有する。
【0015】
好ましくは、圧縮コイルばねは、無荷重状態で40cmを超える長さを有する。より好ましくは60cmを超える長さを有する。
【0016】
好ましくは、無荷重状態でのばねの長さは1000mm未満である。
【0017】
好ましくは、圧縮コイルばねは、3~8のばね指数を有する。ばね指数は、ばねの鋼線の直径に対するばねの直径の比である(ここで、ばね指数を計算するためのばねの直径は、無荷重状態のばねの外径と内径の平均である)。
【0018】
好ましくは、合金鋼は1.05より高い;より好ましくは1.1より高い炭素当量を有する。
【0019】
好ましくは、合金鋼は、1.4未満、より好ましくは1.3未満の炭素当量を有する。
【0020】
好ましくは、鋼線の直径は2~4mm、より好ましくは2.5~3.8mmである。
【0021】
好ましくは、圧縮コイルばねは、5~10°のピッチ角を有する。このような圧縮コイルばねは、トランク閉鎖システムを備えた車のテールゲート開閉アクチュエータにおいて有益に使用することができる。
【0022】
好ましくは、圧縮コイルばねをらせん状に巻くために使用される鋼線は、式2680-390.71*ln(d)によって計算される値よりも高い引張強度Rm(MPa)を有する。より好ましくは、鋼線の引張強度Rm(MPa)は、式2720-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高く;より好ましくは、式2770-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高く;さらにより好ましくは、式2800-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高い。関数「ln(d)」は、鋼線の直径d(mm)の自然対数を意味する。鋼線の機械的特性を測定するための引張試験は、“Metallic materials--Tensile testing--Part 1:Method of test at room temperature”と題されたISO 6892-1:2009に従って実施される。
【0023】
好ましくは、圧縮コイルばねの製造に使用される鋼線の引張試験における破断点面積Zの減少率は40%を超える。面積Zの減少率は、Z=100*(So-Su)/Soとして計算され、Soは鋼線の元の断面であり、Suは引張試験での破断後の鋼線の最小断面である。
【0024】
好ましくは、合金鋼は、0.3~0.6wt%のMnを含み;又は合金鋼は0.6~0.9wt%のMnを含む。
【0025】
好ましくは、鋼線は、ばね中に、少なくとも95体積%、より好ましくは少なくとも97体積%の引き伸ばされた層状パーライトを含む。
【0026】
好ましい実施形態では、鋼線の微細構造中のベイナイトの体積パーセントは、0.2%~2%であり、より好ましくは、0.5%未満である。そのような実施形態は、驚くべきことに、本発明にとって特に有益であることが示された。微細構造がそのような量のベイナイトを含む場合、ベイナイトが悪影響を与えることなく、層状パーライトが非常に細かく、最適なばね形成及び優れた機械的ばね特性を達成するのに有利であることを示している。ベイナイトの量を制限することは、鋼線の延性にとって重要である。鋼線の製造プロセスでの適切なパテンティング工程により、ベイナイトの量を減らすことができる。線の微細構造中のベイナイトの体積パーセントは、光学顕微鏡又は適切なエッチャントを使用した走査型電子顕微鏡によって決定することができる。
【0027】
任意選択的に、線引き伸ばしプロセスの前にリン酸コーティングを鋼線に適用することができる。次に、鋼線をらせん状に巻いて圧縮コイルばねにするステップは、その表面にリン酸コーティングを含む鋼線を使用して実行することができる。そのような実施形態は、リン酸コーティングが線の引き伸ばし及びばね巻き工程を容易にするので、より良い圧縮コイルばねを提供する。したがって、好ましい実施形態では、らせん状に巻かれた鋼線は、リン酸コーティングを含む。より好ましい実施形態では、熱硬化性コーティング層又はバインダ(好ましくは無機バインダが使用される)中に亜鉛及び/又はアルミニウムフレークを含むコーティング層がリン酸コーティング層上に適用される。さらにより好ましい実施形態では、らせん状に巻かれた鋼線は、フロックの層を備えている。フロックとは、圧縮コイルばねに接着剤で接着された短いテキスタイル繊維、例えばポリアミド繊維の層を意味する。
【0028】
好ましい実施形態では、らせん状に巻かれた鋼線は、金属コーティング層を含む。金属コーティング層は、少なくとも84質量%の亜鉛;任意選択的にアルミニウム、任意選択的に0.2~1wt%のマグネシウム、及び任意選択的に最大0.6wt%のケイ素を含み、好ましくはそれらからなる。そのような実施形態は、ばねの製造が容易になるという利点を有する。さらに、ばねに耐食性を与えるために、圧縮コイルばねに追加の(すなわちポスト)コーティングを適用する必要はない。さらに、そのような金属コーティングは、らせん状に巻かれた圧縮ばねにフロック層を適用する必要性を回避する。このようなフロック層は、車を運転しているときに車のテールゲート又はドアを開閉するためのアクチュエータ内の騒音の発生を回避する機能を有する。らせん状に巻かれた鋼線の金属コーティングも、このような騒音の発生を防ぐ。好ましくは、金属コーティング層は、40g/m2を超え、より好ましくは、80g/m2を超える。より好ましくは、120g/m2未満である。金属コーティング層の質量は、鋼線の単位表面積あたりで表される。
【0029】
すでに巻かれた圧縮コイルばねにポリマーコーティングを適用して、ばねに耐食性を提供することが知られている。そのようなアプローチは、マルテンサイト微細構造を有する鋼線から作られた従来技術の圧縮コイルばねで行われる。そのようなコーティングは、例えば、熱硬化性ポリマーコーティング(例えば、エポキシ主鎖又はアクリル主鎖又はエポキシ/アクリル主鎖の組み合わせを含む)又はバインダ中に亜鉛フレークを含むコーティングであり得る。本発明に従って引き伸ばし工程の前又は間に鋼線に金属コーティング層を適用し、圧縮コイルばねをそのような鋼線で巻くことにより、熱硬化性ポリマーコーティング又はバインダ中に亜鉛又はアルミニウムフレークを含むコーティングを使用してばねをコーティングするステップを排除することができる。
【0030】
らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む実施形態では、好ましくは、金属コーティング層は圧縮コイルばねの表面を提供する。
【0031】
任意選択的に、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層は、それぞれが1重量%未満の個々の量で、他の活性元素を含む。
【0032】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティングは、少なくとも88wt%の亜鉛、より好ましくは少なくとも90wt%の亜鉛を含む。より好ましくは、金属コーティング層は、少なくとも93wt%の亜鉛を含む。
【0033】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティングは、亜鉛、少なくとも4重量%のアルミニウム、好ましくは14重量%未満のアルミニウム;任意選択的に0.2~2wt%のマグネシウム(好ましくは0.8wt%未満のMg);任意選択的に最大0.6wt%のケイ素;任意選択的に最大0.1wt%の希土類元素、及び避けられない不純物を含み、好ましくはそれらからなる。
【0034】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層は、86~92wt%のZn及び14~8wt%のAl;及び避けられない不純物を含み、好ましくはそれらからなる。好ましくは、そのような金属コーティング層は、35~60g/m2の質量を有する。
【0035】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層は、亜鉛、3~8wt%のアルミニウム;任意選択的に0.2~1wt%のマグネシウム;任意選択的に最大0.1wt%の希土類元素;及び避けられない不純物からなる。好ましくは、そのような金属コーティング層は、60~120g/m2の質量を有する。
【0036】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層は、亜鉛、3~8wt%のアルミニウム;0.2~2wt%(好ましくは0.8wt%未満)のMg;及び避けられない不純物からなる。そのような金属コーティング層を、良好な腐食保護特性を有する一方で薄くすることができることは、特別な利点である。より薄いコーティング層はまた、圧縮コイルばねの巻きを容易にする。そのような金属コーティング層は、例えば、60g/m2未満であり得る。好ましくは25~60g/m2であり得る。
【0037】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層の質量は120g/m2未満であり、より好ましくは、金属コーティング層の質量は20~80g/m2であり、より好ましくは、圧縮コイルばねの表面の60g/m2未満、さらにより好ましくは、圧縮コイルばねの表面の40g/m2未満である。
【0038】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、金属コーティング層は、球状化されたアルミニウムに富む相を含む。このような球状化されたアルミニウムに富む相は、鋼線が引き伸ばしエネルギーによって加熱されるときに引き伸ばしにおいて作られ;それを巻いた後に圧縮コイルばねに応力緩和熱処理を施すと、かなりの程度まで作られる。球状化されたアルミニウムに富む相は、金属コーティング層の耐食性を改善すると考えられ;その結果、より薄い金属コーティング層を使用することができる。
【0039】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、コーティングされた鋼線は、鋼線と金属コーティング層との間に提供される金属間コーティング層を含む。金属間コーティング層は、FexAly相を含む。より好ましくは、金属間コーティング層は、金属間コーティング層と金属コーティング層とを合計厚さの30~65%を提供する。金属間層は、金属コーティング層に損傷を与えることなく鋼線を巻いて圧縮コイルばねにすることを可能にするために、金属コーティング層の必要な接着性を作り出すので有益である。より薄い金属間コーティング層は、ばねを巻くときにフレーキングを提供するリスクがあり;より厚いコーティングは、コイル成形適性が良くないリスクがある。FexAly相を含む金属間コーティング層は、二重浸漬プロセスを使用して金属コーティング層を適用する場合に得られる。最初の浸漬は亜鉛浴で行われる。FexZny層が鋼の表面に形成される。2回目の浸漬は、ZnとAlを含む浴で行われる。第2の浴では、第1の浴で形成されたFexZny層が、FexAly相を含む金属間コーティング層に変換される。
【0040】
好ましくは、らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む場合、コーティングされた鋼線は抑制層を含む。抑制層は鋼線と金属コーティング層との間に設けられる。抑制層は、FexAly相によって提供される。好ましくは、抑制層は1μm未満の厚さである。このような抑制層を備えたコーティングされた鋼線は、金属コーティング層を適用するための単一浸漬プロセスを使用することによって得ることができる。鋼の表面が、例えばセンジミアプロセスを介して活性化され、鋼線は溶融ZnとAlを含む浴に浸される。鋼線は浴に浸した後拭き取られ、冷却される。
【0041】
らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティング層を含む好ましい実施形態では、金属コーティング層は、亜鉛及び避けられない不純物からなる。より好ましくは、そのような金属コーティング層の質量は、80g/m2を超え、より好ましくは100g/m2を超える。
【0042】
好ましい実施形態では、合金鋼は、0.15~0.35wt%のSiを含み、又は合金鋼は、0.6~0.8wt%のSiを含み、又は合金鋼は、0.8~1.4wt%のSiを含む。
【0043】
らせん状に巻かれた鋼線が金属コーティングを含むより好ましい実施形態では、合金鋼は、0.6~1.4wt%のSi;より好ましくは0.8~1.4wt%のSiを含む。このような実施形態は、線の引き伸ばしプロセスの中間ステップで金属コーティングを適用するときに、大量のSiが溶融めっきプロセスでの鋼線の強度の損失を防ぐので、高強度のコーティングされた鋼線を得ることができるので、特に有益である。
【0044】
好ましい圧縮コイルばねにおいて、合金鋼は、0.83~0.89wt%のC、0.55~0.7wt%のMn、0.1~0.4wt%のSi、0.15~0.3wt%のCr、0.04~0.08wt%のV、任意選択的に0.02~0.06wt%のAl;及び避けられない不純物及び残りの鉄からなる。
【0045】
好ましい圧縮コイルばねにおいて、合金鋼は、0.83~0.89wt%のC、0.55~0.7wt%のMn、0.55~0.85wt%のSi、0.15~0.3wt%のCr、0.04~0.08wt%のV、任意選択的に0.2~0.06wt%のAl;及び避けられない不純物及び残りの鉄からなる。
【0046】
好ましい圧縮コイルばねにおいて、合金鋼は、0.9~0.95wt%のC、0.2~0.5wt%のMn、1.1~1.3wt%のSi、0.15~0.3wt%のCr;及び避けられない不純物及び残りの鉄からなる。
【0047】
好ましい実施形態では、らせん状に巻かれた鋼線は、非円形の断面、好ましくは長方形又は正方形の断面を有する。らせん状に巻かれた鋼線の断面が非円形である実施形態の場合、この鋼線の直径は同等の直径である。同等の直径は、非円形断面の線と同じ断面積を有する円形断面の線の直径である。
【0048】
好ましくは、圧縮コイルばねの鋼線は、75%を超える引き伸ばし低減を有する。鋼線が引き伸ばされる線材、又は鋼線自体がパーライト微細構造を作り出すためにパテンティング工程にかけられ;続いて鋼線引き伸ばし工程にかけられる。引き伸ばし低減(%)は、100*(A0-A1)/A0として定義され、ここでA0は、パテンティング後及び引き伸ばし前の線材又は鋼線の断面積に等しく;A1はばねの製造に使用される引き伸ばされた鋼線の断面積に等しい。引き伸ばし変形中、パーライト粒子が鋼線の長手方向に配向される。パーライト粒子の配向レベルは、鋼線の引き伸ばし低減によって決定される。引き伸ばし低減は、例えば長手方向セクションにおける(すなわち、圧縮コイルばねの鋼線の長手方向に沿った)光学顕微鏡による、圧縮コイルばね内の鋼線の引き伸ばされた層状パーライト微細構造の評価から判断することができる。
【0049】
好ましい圧縮コイルばねでは、無荷重状態での長さの63%~37%のコイルばねの20000回の圧縮荷重サイクルの後、その長さの63%での荷重損失は、最初のサイクルでのその長さの63%での荷重と比較して、5%未満(好ましくは3%未満)である。
【0050】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態のような圧縮コイルばねを作製するための方法である。この方法は、以下のステップを含む:
-好ましくは7~14mmの直径を有する鋼線材を提供するステップ;
-パーライト微細構造を得るために、鋼線材又は鋼線材から引き伸ばされた鋼線をパテンティングするステップ;
-パーライト微細構造を有するパテンティング済み鋼線材又はパーライト微細構造を有するパテンティング済み鋼線を、75%を超える引き伸ばし低減で引き伸ばし;これにより、直径d(mm)が2~5mmの引き伸ばされたパーライト微細構造を有する鋼線を得るステップ;
-鋼線をらせん状に巻いてコイルばねにするステップ;
-任意選択的に、コイルばねに熱応力緩和を実行するステップ。
【0051】
鋼線材は、0.8~0.95wt%のC(好ましくは0.93wt%未満のC、より好ましくは0.9wt%未満のC);0.2~0.9wt%のMn;0.1~1.4wt%のSi;0.15~0.4wt%のCr(好ましくは0.35wt%未満のCr、より好ましくは0.3wt%未満のCr);任意選択的に、0.04~0.2wt%のV(好ましくは0.15wt%未満のV);任意選択的に、0.0005~0.008wt%のB;任意選択的に、0.02~0.06wt%のAl;避けられない不純物;及び残りの鉄からなる合金鋼を含む。合金鋼は1を超える炭素当量を有する。炭素当量は次のように定義される:C wt%+(Mn wt%/6)+(Si wt%/5)+(Cr wt%/5)+(V wt%/5)。
【0052】
好ましい方法では、引き伸ばし工程により、直径d(mm)が2~5mmで、引張強度Rm(MPa)が式2680-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高い鋼線が得られる。より好ましくは、引き伸ばしにより、式2720-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高い;より好ましくは式2770-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高い;さらにより好ましくは、式2800-390.71*ln(d)によって計算された値よりも高い引張強度Rm(MPa)を有する鋼線が得られる。関数「ln(d)」は、鋼線の直径d(mm)の自然対数を意味する。鋼線の機械的特性を測定するための引張試験は、“Metallic materials--Tensile testing--Part 1:Method of test at room temperature”と題されたISO 6892-1:2009に従って実施される。
【0053】
パーライト微細構造を得るためのパテンティングステップは、線材又は線材から引き伸ばされた鋼線で実行することができる。パテンティングステップは、例えば直接インラインパテンティングを介して、線材製造プロセスにおいてインラインステップとして実行することができる。パテンティングステップは、適切な溶融金属浴(Pbなど)又は流動床、溶融塩、及び水性ポリマーのような代替品のいずれかを使用して、既知のパテンティング技術を介して線材又は線材から引き伸ばされた鋼線で実行することもできる。線の引き伸ばしの前に、酸洗いと線コーティングステップを実行することができる。
【0054】
任意選択的に、線引き伸ばしプロセスの前にリン酸コーティングを鋼線に適用することができる。次に、鋼線をらせん状に巻いてコイルばねにするステップを、その表面にリン酸コーティングを含む鋼線を用いて実行することができる。そのような実施形態は、リン酸コーティングが線引き伸ばし及びばね巻き工程を容易にするので、より良い圧縮コイルばねを提供する。
【0055】
好ましくは、パテンティング工程後;及び引き伸ばし前又は引き伸ばしステップの間に、溶融めっき法によって鋼線に金属コーティングが適用される。金属コーティングは、少なくとも84質量%の亜鉛;及び任意選択的にアルミニウムを含む。
【0056】
好ましくは、圧縮コイルばねを作製する方法は、それを巻いた後、圧縮コイルばねを熱応力緩和するステップを含む。より好ましくは、熱応力を緩和する熱処理ステップは、その形成後、圧縮コイルばね上で450℃未満の温度で実行される。より好ましくは、応力を緩和する熱処理ステップは、300℃未満、より好ましくは250℃未満の温度で実施される。
【0057】
任意選択的に、応力緩和後に、他のプロセスステップ、例えば熱間硬化又はマルチプル低温硬化を、圧縮コイルばねに適用することができる。熱間硬化とは、ばねをしばらくの間高温で圧縮状態に維持することを意味する。低温硬化とは、ばねを室温で数サイクル圧縮することを意味する。このような硬化工程により、ばねはより厳密に制限されたばね緩和要件を達成することができる。
【0058】
本発明の第3の態様は、車のドア又はテールゲートを開閉するためのアクチュエータである。アクチュエータは、本発明の第1の態様のいずれかの実施形態の圧縮コイルばねであって、圧縮コイルばねの圧縮力が解放されると車のドア又はテールゲートを開くための圧縮コイルばねと;モータとを備える。モータは、車のドア又はテールゲートを閉じるために、圧縮コイルばねを圧縮するために提供される。好ましくは、アクチュエータは2つのコネクタを含み、1つはアクチュエータをドア又はテールゲートに接続するためのものであり;もう1つは、アクチュエータを車体に接続するためのものである。
【0059】
好ましいアクチュエータでは、らせん状に巻かれた鋼線は、少なくとも84重量%の亜鉛を含む金属コーティング層を含む。より好ましくは、金属コーティング層は、圧縮コイルばねの表面を提供する。そのような実施形態は、車を運転しているときにアクチュエータ内の騒音が防止されるという利点を有する。車のドア又はテールゲートを開閉するための従来技術のアクチュエータでは、圧縮コイルばねにフロック層を適用するのが一般的な方法であり:ばねを巻いた後に、短いテキスタイル繊維(例えば、ポリアミド繊維)の層が接着剤によって圧縮コイルばねに接着され;このようにして、アクチュエータ内の密に圧縮されたばねの騒音減衰として機能するベルベット層が形成される。金属コーティング層の使用は、圧縮コイルばねにフロック層を適用する必要性を排除することを示した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】テールゲートを開閉するためのアクチュエータを備えたSUVを示す。
【
図2】車のテールゲートを開閉するためのアクチュエータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
【0062】
図1は、テールゲート14と、テールゲートを開閉するためのアクチュエータ16とを備えたSUV 12を示している。アクチュエータ16(
図2は、車のテールゲートを開閉するためのアクチュエータ16を示す)は、圧縮コイルばね18及びモータ20を備える。アクチュエータは、2つのコネクタ22、23を備え、1つは、アクチュエータをドア又はテールゲートに接続するためのものであり;もう1つは、アクチュエータを車体に接続するためのものである。圧縮コイルばねの圧縮力が解放されたときにテールゲートを開くために、圧縮コイルばねが提供されている。モータは、テールゲートを閉じるために圧縮コイルばねを圧縮するために提供されている。使用できる圧縮コイルばねの例を
図3に示し、このようなばねは長さL及びピッチpを有する。
【0063】
圧縮コイルばねは、らせん状に巻かれた鋼線を含む。らせん状に巻かれたコーティングされた鋼線の直径d(mm)は2~5mmである。
【0064】
表Iは、本発明の鋼コアに使用できる合金鋼の特定の例を(合金鋼中の元素の最小及び最大wt%とともに)提供する。らせん状に巻かれた鋼線中の鋼線の微細構造は、引き伸ばされた層状パーライトである。
【0065】
このような圧縮コイルばねの特定の例は、引き伸ばされたパーライト微細構造及び3.4mmの直径を有する鋼線で巻かれている。圧縮コイルばねは、無荷重状態で0.8mの長さLを有する。例示的なコイルばねのばね指数は6.5である。ばねのピッチpは15.2mmである。圧縮コイルばねの外径は26.8mmである。しかしながら、本発明にとって必須ではないが、鋼線は、亜鉛及びアルミニウムを含む金属コーティング層を備えていた。
【0066】
圧縮コイルばねを巻くために使用される鋼線を製造するために、直径10mmの鋼線材が使用された。
【0067】
鋼線材は、0.86wt%のC、0.63wt%のMn、0.2wt%のSi、0.22wt%のCr、0.06wt%のV;0.04wt%のAl;避けられない不純物及び残りの鉄からなる合金鋼から作られた。これは、表Iの組成「A」の合金である。炭素当量は、0.86+(0.63/6)+(0.2/5)+(0.22/5)+(0.06/5)=1.169である。
【0068】
直径10mmの鋼線材は、それにパーライト微細構造を提供するためにパテンティングされ;そして、本発明に必須ではないが、その後、溶融めっき法を介して金属コーティングを提供された。使用した溶融めっきプロセスは、鋼線を最初に溶融亜鉛浴に浸漬し;続いて、10重量%のアルミニウムを含み、残りが亜鉛である浴に鋼線を浸漬する二重浸漬プロセスだった。溶融めっき鋼線の金属コーティング層は、10wt%のアルミニウム及び残りの亜鉛からなるものだった。
【0069】
直径10mmのパテンティング済みの溶融めっき線材を、直径3.4mmの鋼線に引き伸ばした。これは、88.4%の引き伸ばし低減が適用されたことを意味する。得られた鋼線は、引き伸ばされたパーライト微細構造を有する。鋼線の引張強度Rmは2354MPaであり;Rp0.2値は1990MPaであり、これはRm値の84.5%である。鋼線の引張試験における破断点面積Zの減少率は44.1%である。
【0070】
3.4mmの引き伸ばされた線の金属コーティングは45g/m2だった。
【0071】
このコーティングされた鋼線を圧縮コイルばねに巻いた後、例えば、圧縮コイルばねを250℃で30分間無荷重状態に保つことによって、熱応力緩和工程が実行された。
【0072】
コーティングされた鋼線は、鋼コアと金属コーティング層との間に金属間コーティング層を含んでいた。金属間コーティング層は、金属間コーティング層と金属コーティング層の合計厚さの45%を提供した。金属間コーティング層は、FexAly相を含む。金属コーティング層は、球状化されたアルミニウムに富む相を含むことが観察された。
【0073】
コイルばねの作製に使用した鋼線のサンプルを、250℃のオーブン温度で30分間オーブン内で熱処理した。この熱処理の後、鋼線サンプルの引張試験を行った。引張強度Rmは2426MPaであり;Rp0.2値は2366MPaであり、これは引張強度Rmの97.5%であり;破断点面積Zの減少率は42%だった。
【0074】
圧縮コイルばねの鋼線の分析は、鋼が引き伸ばされたパーライト微細構造を有し、97体積%を超える引き伸ばされたパーライト及び約1体積%のベイナイトを有することを示した。
【0075】
圧縮コイルばねは、車のテールゲート開閉アクチュエータのアクチュエータ内で使用された。コーティングされた鋼線の金属コーティングは、圧縮コイルばねの表面を提供した。