(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム粒子とその製造方法、チタン酸バリウム粒子の分散液
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20240917BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240917BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C09D17/00
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
(21)【出願番号】P 2021551421
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037304
(87)【国際公開番号】W WO2021066070
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2019180798
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019180808
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和馬
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 光章
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026542(JP,A)
【文献】特開2018-172242(JP,A)
【文献】特開2012-240904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
C09D 17/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子
と、沸点が200~300℃である有機溶媒とを含み、
前記チタン酸バリウム粒子のバリウムとチタンの原子比Ba/Tiが0.9~1.1であり、
前記ペロブスカイト構造の軸率c/aが1.005以下であり、
前記チタン酸バリウム粒子の結晶子径が5~25nmであ
り、
水分量が3重量%未満であり、
前記有機溶媒がOH基を有するとともに、
当該分散液を200℃で3時間乾燥することにより得られた固形分が25℃、90RH%の条件に1時間暴露された際に、前記固形分に吸着する水分量が前記固形分100質量部に対し5質量部以上であることを特徴とするチタン酸バリウム粒子
の分散液。
【請求項2】
前記有機溶媒が、環状構造、または末端から2個以上の炭素原子が連続で炭素-炭素結合した鎖状構造を有することを特徴とする請求項
1に記載の分散液。
【請求項3】
前記有機溶媒がエーテル結合を有
することを特徴とする請求項
1または2に記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト構造を持つチタン酸バリウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム粒子は、電子部品用の誘電体材料や高屈折率で透明性に優れた光学材料等に用いられている。チタン酸バリウム粒子は、高い誘電率を持つため、積層セラミックコンデンサ(MLCC)に利用されている。MLCCは電極層と誘電体層が交互に重なった構造をしている。電極層には、80~300nmのNi粒子と、共材としてチタン酸バリウム粒子が含まれている。電極層では、チタン酸バリウム粒子がNi粒子の周りに充填されている。そのため、Ni粒子同士が焼結する温度が高くなる。すなわち、Ni粒子の焼結遅延効果が得られる。そのため、Ni粒子同士が焼結する温度と、誘電体層が焼結する温度とが近くなる。これにより、焼成時に電極層と誘電体層の収縮率の差が小さくなり、クラックの少ないMLCCが得られる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方で、チタン酸バリウム粒子の誘電率を向上させるために、チタン酸バリウム粒子をペロブスカイト構造とし、さらにその結晶格子のc軸の軸長をa軸の軸長より長くすること、すなわち、チタン酸バリウム粒子を正方晶系とすることが知られている。(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-63707号公報
【文献】特開2004-300027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のチタン酸バリウム粒子では、ペロブスカイト構造のc軸長がa軸長より長いため、誘電率が高い。しかし、チタン酸バリウム粒子は、粉末化された後に焼成されているため、粒子径や結晶子径が大きくなりやすい。そのため、Ni粒子の周りに充填されるチタン酸バリウム粒子の密度が低くなりやすく、焼結遅延効果が得られにくい。誘電体層が焼結する温度と、Ni粒子が焼結する温度との差が大きくなる程、MLCCにクラックが発生しやすくなる。
本発明の目的は、焼結遅延効果の高いチタン酸バリウム粒子とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明では、ペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子において、バリウムとチタンの原子比Ba/Tiを0.9~1.1とし、結晶子径を5~25nmとした。バリウムとチタンの原子比Ba/Tiは0.95~1.05でもよい。
さらに、ペロブスカイト構造における結晶格子のc軸とa軸の長さの比c/aは1.005以下が好ましい。
このようなチタン酸バリウム粒子と、有機溶媒とを含むチタン酸バリウム粒子の分散液では、水分量は3重量%未満が好ましい。
また、チタン酸バリウム粒子の製造方法は、バリウム水酸化物とアルキルセロソルブを混合する工程と、バリウムとチタンの原子比Ba/Tiが0.9~1.1の範囲となるようにチタンアルコキシドを添加する工程と、水を添加する工程と、加熱する工程を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明によるペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子は、バリウムとチタンの原子比Ba/Tiが0.9~1.1の範囲である。これにより、ペロブスカイト構造以外の結晶等の不純物が生成されにくい。また、チタン酸バリウム粒子の結晶子径は5~25nmである。そのため、チタン酸バリウム粒子の結晶性が高くなり、また、粒子径が小さくなる。このようなチタン酸バリウム粒子が電極層中のNi粒子の隙間に入るため、Ni粒子の周りにチタン酸バリウム粒子が高密度で存在する。そのため、Niの焼結遅延効果が高くなる。なお、結晶子径が25nmより大きいと、後述のチタン酸バリウム粒子の分散液の粘度が高くなる。結晶子径が5~25nmのとき、透過型電子顕微鏡で測定される粒子径も5~25nmである。
また、バリウムとチタンの原子比Ba/Tiは0.95~1.05でもよい。
さらに、ペロブスカイト構造における結晶格子のc軸とa軸の長さの比(軸率)c/aは1.005以下が好ましい。これにより、チタン酸バリウム粒子が立方晶に近くなる。そのため、Niの焼結遅延効果が高くなる。
【0009】
結晶構造と結晶子径は、X線回折測定装置であるRigaku製RINT-Ultimaを用いて測定できる。結晶構造は、解析ソフトであるPDXLを用いて同定できる。結晶子径は、2θ=31.5°付近のミラー指数(110)での半価幅を測定し、半価幅β(rad)からScherrerの式「D=Kλ/βcosθ」により算出できる。ここで、Dは結晶子径(Å)、KはScherrer定数、λはX線波長(1.7889Å)、θは反射角を表す。
PDXLを用いたX線回折測定の結果から、ペロブスカイト構造のa軸とc軸の長さが特定できる。軸率c/aは1.003以下が好ましい。1.001以下がより好ましい。軸率c/aが小さいほどNiの焼結遅延効果が高くなる。
【0010】
チタン酸バリウム粒子には2族、3族、ランタノイド系、アクチノイド系、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、および、14族から選ばれる少なくとも一種の元素(以下、添加元素と称す)が含まれていることが好ましい。これにより、焼結遅延効果が高くなる。添加元素は、チタン酸バリウムの組成式BaTiO3を100mol%とした場合に、0.1~10mol%含まれることがより好ましい。これにより、Niの焼結遅延効果が得られやすい。また、添加元素がこの範囲で含まれていても、ペロブスカイト構造以外のピークは観測されない。
【0011】
チタン酸バリウム粒子の分散液を用いて、電極層を印刷するためのペーストが作製できる。チタン酸バリウム粒子の分散液は、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒を含んでいる。分散液の水分量は、3重量%未満が好ましい。水分量が少ないと、エチルセルロース等のバインダーを分散液に添加しても、ペーストの粘度が高くなりにくい。ペーストの粘度が高いと、ペーストが均一に塗りにくいため、焼成時に電極層にクラックが発生しやすい。また、分散液の水分量が3重量%以下であると、分散液が凝集しにくくなる。
【0012】
分散液の固形分に吸着する水分量(吸着水分量)は、固形分100質量部に対し5質量部以上であることが好ましい。吸着水分量がこの範囲であれば、分散液中のチタン酸バリウム粒子は表面の水酸基が多い。固形分は、分散液を200℃で3時間乾燥することにより得られる。吸着水分量は、固形分を25℃で90RH%の条件に1時間暴露させた際に、固形分に吸着する水分量である。
【0013】
チタン酸バリウム粒子は、表面処理されていないことが好ましい。これにより、ペーストの粘度が低くなりやすい。特に、分散液の水分量が3%以下であると、さらにペーストの粘度が低くなりやすい。リノール酸やオレイン酸等の有機酸系の表面処理剤でチタン酸バリウムが表面処理されると、ペーストの粘度が高くなる場合がある。ただし、ペーストの粘度が高くならないならば、チタン酸バリウム粒子が表面処理剤で表面処理されても構わない。
【0014】
有機溶媒は、OH基を有することが好ましい。すなわち、有機溶媒の親水性が高いことが好ましい。これにより、分散液やペーストの粘度が低くなりやすい。有機溶媒がOH基を有するとき、吸着水分量が固形分100質量部に対し5質量部以上であると、分散液の粘度が低くなりやすい。
【0015】
有機溶媒は、OH基とともに、エステル結合及びエーテル結合、並びにケトン基の少なくとも1つを有することが好ましい。これにより、有機溶媒の親水性がより高くなる。特に、エーテル結合を有することにより、高い親水性が得られる。
【0016】
あるいは、有機溶媒は、OH基とともに疎水構造を有することが好ましい。ここで、疎水構造とは、環状構造、または末端から2個以上の炭素原子が連続で炭素-炭素結合した鎖状構造を表している。環状構造として、シクロアルカン・シクロアルケン(シクロオレフィン)・芳香環等の任意の炭素原子から、水素原子を除去した一価の置換基である環状炭化水素基(R
6)が挙げられる。R
6は、三員環、四員環、五員環、六員環、七員環等のいずれでもよい。六員環のR
6の構造を
図1に例示する。
図1中、(a)は六員環の芳香環、(b)は六員環のシクロアルケン、(c)は六員環のシクロアルカンである。R
6の構造では、炭素原子の一部が酸素や窒素、硫黄原子等のヘテロ原子に置換されていても良い。このとき、ヘテロ原子が結合可能である結合数に応じて、ヘテロ原子に結合する水素原子の数が増減しても構わない。また、R
6の構造では、R
1~R
5は水素基、OH基、カルボキシ基等の親水基や、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の疎水基等が選択できる。R
1~R
5は同一であっても異なっていても良い。R
1~R
5は4つの水素基と1つのメチル基であることが好ましい。これにより、有機溶媒とバインダーの相溶性が高くなる。環状構造を有する有機溶媒は、R
6-R
7で表すことができる(ただし、R
7は炭素、水素、窒素、酸素等の元素を含む構造を有する。)。OH基はR
7に含まれることが好ましい。これにより、有機溶媒がバインダーとチタン酸バリウム粒子との相溶性を高める。
【0017】
鎖状構造として、アルキル基等の直鎖状構造やイソプロピル基、tert-ブチル基等の分岐構造等が挙げられる。鎖状構造を有する有機溶媒は示性式で、R3-CR4R5-CH3と表せる。この示性式では、メチル基(-CH3)が末端である。末端のメチル基に結合している炭素原子が末端から2個目の炭素原子である。すなわち、メチル基の炭素原子と、メチル基に結合している炭素原子が末端から連続で炭素-炭素結合していることになる。ここで、R3、R4及びR5は炭素、水素、窒素、酸素等の元素を含む構造を有する。R3、R4及びR5がそれぞれ結合して環状構造になってもよい。有機溶媒が疎水構造を有すると、有機溶媒とバインダーとの相溶性が高くなると考えられる。有機溶媒が疎水構造とOH基を有すると、有機溶媒がバインダーとチタン酸バリウム粒子との相溶性を高める。そのため、ペーストが凝集しにくくなる。鎖状構造の末端から連続で炭素-炭素結合する炭素原子の数は、5個以下であることが好ましい。これにより、有機溶媒の親水性が高くなる。炭素-炭素結合する炭素原子の数は4個以下であることがより好ましい。有機溶媒がエーテル結合を有するとき、アルキル基がエーテル結合の酸素原子に結合していることが好ましい。このアルキル基の炭素原子は3~5個であることが好ましい。
【0018】
有機溶媒の溶解度パラメータ(SP値)は、8.5以上が好ましい。8.5以上であると、有機溶媒の親水性が高くなる。
【0019】
有機溶媒の大気圧下での沸点は、300℃以下であることが好ましい。これにより、300℃より高い沸点の有機溶媒よりも、有機溶媒の炭素鎖が短くなる。そのため、分散液の粘度が下がる。また、印刷用のペーストの粘度も下がるため、印刷の際に、印刷用のペーストが均一に塗工されやすい。有機溶媒の大気圧下での沸点は、200~300℃であることが好ましい。これにより、ペーストを塗工し乾燥する際に、Ni粒子とチタン酸バリウム粒子が分散した状態で、均一にペーストが乾燥されやすくなる。そのため、Ni粒子の焼結遅延効果が高くなる。また、MLCCにクラックが発生しにくくなる。沸点が200~300℃の有機溶媒がOH基を有すると、分散液とNi粒子とを混合しやすくなる。そのため、ペーストが凝集しにくくなる。ペーストが凝集しにくいと、ペーストが均一に乾燥されやすくなるため、印刷性が上がる。沸点や疎水構造の観点から、有機溶媒はブチルカルビトールが好ましい。
有機溶媒の粘度は、大気圧下25℃において100mPa・s以下であることが好ましい。これにより、分散液の粘度が下がり、印刷用のペーストの粘度も下がる。
【0020】
次に、チタン酸バリウム粒子とその分散液の製造方法について説明する。
【0021】
まず、バリウムの水酸化物と溶媒としてアルキルセロソルブとを混合し、混合液Aを調製する(第一工程)。バリウムの水酸化物を用いることにより、電極層を焼成する際に、対イオンが誘電体層へ拡散しない。そのため、MLCCの性能が高くなりやすい。溶媒がアルキルセロソルブであるため、分散液の粘度が下がる。また、ペーストの粘度が上がりにくくなる。混合液Aの水分量は、5質量%以下が好ましい。これにより、後述するチタンアルコキシドを添加する際に、チタンアルコキシドが加水分解しにくくなる。そのため、粒子径が小さくなりやすい。後述の第二工程の前に混合液Aを減圧または加熱し、混合液Aの水分量を5質量%以下にしてもよい。
【0022】
次に、混合液Aにチタンアルコキシドを添加し、混合液Bを調製する(第二工程)。混合液Bは、バリウムとチタンの原子比Ba/Tiが、0.95~1.05であることが好ましい。この範囲であると、ペロブスカイト構造以外の結晶が生成しにくくなる。バリウムとチタンの原子比は0.9~1.1でも構わない。チタンアルコキシドは、窒素雰囲気下で添加されることが好ましい。これにより、チタンアルコキシドの反応速度が下がる。そのため、粒子径や結晶子径の小さいチタン酸バリウム粒子が得られやすい。
【0023】
チタンアルコキシドの構造は「Ti(OR)4」であることが好ましい。ここで、Rは炭素数1~4の炭化水素基、またはこれらの1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換された置換炭化水素基である。また、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。このような構造であれば、チタン酸バリウム粒子の結晶性が高くなりやすい。具体的には、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラnプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラnブトキシド、チタンテトライソブトキシド等が挙げられる。
【0024】
次に、混合液Bに水を添加し、混合液Cを調製する(第三工程)。水の添加量は、チタンアルコキシドに対して当量以上のモル数であることが好ましい。これにより、加水分解せずに混合液Cに残存するチタンアルコキシドが少なくなる。そのため、チタン酸バリウム粒子の結晶性が高くなる。
【0025】
次に、混合液Cを加熱する(第四工程)。40℃以上で、2~200時間加熱することが好ましい。この工程により熟成が進み、熟成物中にチタン酸バリウム粒子が生成される。加熱温度が40℃以上であると、ゲルの濃度によっても異なるが、粒子径分布が均一になりやすい。さらに、結晶性が良くなる。また、120℃以下の加熱温度が、工業的に扱いやすい。2時間以上加熱すると、粒子径分布が均一になりやすい。さらに、結晶性が良くなりやすい。加熱時間が200時間以下だと、粒子径や結晶子径が小さくなりやすい。5時間以上100時間以下がより好ましい。
【0026】
第四工程で得られた熟成物を限外濾過または蒸留する(第五工程)。限外濾過または蒸留するとき、分散液の水分量を3重量%未満に調整する。限外濾過または蒸留する前に有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒の沸点がアルキルセロソルブより低い場合は、限外濾過が好ましい。アルキルセロソルブより高い場合は、蒸留が好ましい。有機溶媒は、前述の分散液の説明に記載されている有機溶媒の特徴を有することが好ましい。
【0027】
このような製造方法により調製された分散液は、水分量が少ない。そのため、ペーストの粘度が上がりにくくなる。また、分散液中のチタン酸バリウム粒子の粒子径や結晶子径が小さく、結晶性が高い。さらに、チタン酸バリウム粒子の晶系が立方晶系に近いため、電極層に用いた際に、Niの焼結遅延効果が高くなる。
【0028】
また、第四工程よりも前に、2族、3族、ランタノイド系、アクチノイド系、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、および、14族から選ばれる少なくとも一種を含む金属塩を添加することが好ましい。このような金属塩を添加することにより、焼結遅延効果が高くなる。また、金属塩であることにより、ペロブスカイト構造以外の結晶が生成しにくくなる。さらに、第四工程よりも前に、金属塩を添加することにより、金属塩がチタン酸バリウムのゲルに分散される。そのため、焼結遅延効果が高くなりやすい。
【0029】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。各実施例及び比較例の調製条件を表1に記載する。
【0030】
[実施例1]
<分散液の調製>
水酸化バリウム・八水和物(富士フィルム和光純薬社製)50gと2-メトキシエタノール(メチルセロソルブ)315gをビーカーに入れ、30℃で20分間かけて溶解させた。この溶液のBa濃度は6.0重量%、水分含有量が6.2重量%であった。この溶液を1dm3のナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで蒸留し、混合液Aを得た。蒸留の条件は、温度70℃、減圧度0.015MPaで1時間とした。混合液AのBa濃度は16.0重量%、水分含有量は0.5重量%であった。
【0031】
窒素ガス雰囲気下のグローブボックス内で、混合液A170gに、テトライソプロポキシチタン(マツモトファインケミカル社製:オルガチックス(登録商標)TA-10、Ti濃度16.88重量%)56.18gを混合し、混合液Bを調製した。
【0032】
さらに、水57.1gとメタノール171.2gの混合液を、1分間かけて添加した。添加中、25℃に保ちながら、撹拌した。これにより、得られた水和物ゲルを80℃に昇温し、96時間熟成した。この熟成物を限外濾過し、チタン酸バリウムを40質量%含む分散液を得た。
【0033】
分散液を下記のように測定した。各実施例及び比較例の測定結果を表2に記載する。
【0034】
≪水分量の測定≫
卓上型電量法水分計 CA-200型(三菱ケミカルアナリテック社製)を使用して測定した。
【0035】
≪吸着水分量の測定≫
分散液30gを200℃,3時間乾燥し、デシケーター内で冷却することにより、乾燥粉末を得た。25℃、90RH%に調整した恒温恒湿機(エスペック社製PL-3J)に乾燥粉末を1時間静置した。その前後の重量変化から吸着水分量を算出した。
【0036】
≪X線回折測定≫
分散液を400℃で乾燥し、チタン酸バリウム粒子の粉末を得た。この粉末をRigaku社製RINT-Ultimaを用いて、X線回折測定を行った。後述の実施例・比較例においても同様にX線回折測定を行った。X線回折測定では、比較例1以外はペロブスカイト構造以外のX線回折のピークは観測されなかった。
【0037】
≪粘度の測定≫
エチルセルロース粉末3gをターピネオール(ヤスハラケミカル社製)74gに分散させることにより、バインダー液を調製した。このバインダー液4.5gと分散液3gを混合し、粘度測定用のペーストを得た。レオメーターRS3000(HAAKE社)を用いて、dγ/dt=0.1~1000s-1の範囲で動的粘度測定を行い、dr/dt=40s-1のときの値を粘度とした。
【0038】
≪印刷性の評価≫
粘度測定用のペーストをガラス板に塗布し、200℃で乾燥した。乾燥した膜中の凝集物と平滑性を目視で確認し、印刷性を評価した。
◎:凝集物がなく、平滑性に優れている
○:凝集物がほとんどなく、平滑性に優れている
△:凝集物がほとんどなく、平滑性に若干の難がある
×:凝集物が多くみられるまたは平滑性に難がある
【0039】
<電極用ペーストの調製>
分散液50g(分散液中のチタン酸バリウムの量は10g)、粒子径200nmのNiナノ粒子(JFEミネラル社製:NFP301SD)40g、およびエチルセルロース粉末10gを混合し、シンキー社製の泡取練太郎(登録商標)AR-250を用いて一次分散させた。さらに、三本ロール(井上製作所製:HHCタイプ)を用いて二次分散させることにより、電極用ペーストを調製した。電極用ペーストの濃度は60重量%であった。後述の実施例や比較例についても同様に電極用ペーストを調製し、測定・評価した。
【0040】
<誘電体層用ペーストの調製>
チタン酸バリウム(堺化学社製:BT-01、平均粒子径=300nm)90gとエチルセルロース系粉末10gをターピネオール系溶剤56.5gに添加し、泡取練太郎を用いて一次分散させた。さらに、三本ロールを用いて二次分散させることにより、誘電体層用ペーストを調製した。
【0041】
<積層セラミックコンデンサ(MLCC)の調製>
電極用ペーストをチタン酸バリウムセラミックシート(厚さ=4.0μm)上にスクリーン印刷した。これを600℃で1時間乾燥した。この上に誘電体層用ペーストをスクリーン印刷した。これを600℃で1時間乾燥した。これらの工程を繰り返し、合計20層を積層した。この積層体を、H2を3%含む窒素ガス雰囲気の下、1200℃、2時間で還元処理した。その後、窒素ガス雰囲気の下、1000℃で3時間加熱した。
【0042】
≪クラック数≫
MLCCを垂直に100μm角で切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10万倍で断面写真を撮影した。100μm角のMLCCにおいて、各層に存在するクラックを断面写真で確認し、計数した。
【0043】
≪凝集の評価≫
電極用ペーストをガラス板状に滴下して凝集物の有無を目視判定した。
【0044】
以下の実施例や比較例でも、実施例1と同様に各試料を調製し、測定及び評価した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の混合液を水71.3gおよびメタノール214.0gの混合液に変更した以外は実施例1と同様に分散液を得た。
【0046】
[実施例3]
実施例1の混合液を酢酸ニッケル・四水和物(富士フィルム和光純薬社製)2.46gと水57.1gおよびメタノール171.3gの混合液に変更した以外は実施例1と同様に分散液を得た。
【0047】
[実施例4]
実施例1の混合液を酢酸マグネシウム・四水和物(富士フィルム和光純薬社製)0.85gと水57.1gおよびメタノール171.3gの混合液に変更した以外は実施例1と同様に分散液を得た。
【0048】
[実施例5]
実施例1の水酸化バリウム・八水和物を2-メトキシエタノールに溶解させる際に、スズメトキシド(Alfa Aesar社製)を1.79g添加した。それ以外は、実施例1と同様に分散液を調製した。
【0049】
[実施例6]
実施例1の水酸化バリウム・八水和物を2-メトキシエタノールに溶解させる際に、カルシウムメトキシド(Strem Chemicals社製)を2.02g添加した。この溶液を178g使用した以外は、実施例1と同様に分散液を得た。
【0050】
[実施例7]
実施例1の水酸化バリウム・八水和物を2-メトキシエタノールに溶解させる際に、タンタルメトキシド(Strem Chemicals社製)を0.67g添加した。それ以外は、実施例1と同様に分散液を得た。
【0051】
[実施例8]
実施例1の混合液を水酸化ニッケル・水和物(富士フィルム和光純薬社製)0.92gと水57.1gおよびメタノール171.2gの混合液に変更した以外は実施例1と同様に分散液を得た。
【0052】
[実施例9]
実施例1の水酸化バリウム・八水和物を2-メトキシエタノールに溶解させる際に、ジスプロシウムイソプロポキシド(富士フィルム和光ケミカル社製)を0.67g添加した。それ以外は、実施例1と同様に分散液を得た。
【0053】
[実施例10]
実施例1で得た混合液Bに、水57.1gおよびメタノール171.3gを混ぜた加水分解用の溶液を、撹拌下で、温度を25℃に保ちながら、1分間かけて添加した。これにより、水和物ゲルが得られた。この水和物ゲルを80℃に昇温し、96時間熟成した。この熟成物にエタノールを混合し、限外濾過を行うことにより、チタン酸バリウムを40質量%含む分散液を得た。
【0054】
[実施例11]
混合液Aの重量を178gに変更した以外は実施例1と同様に混合液Bを調製した。熟成物にブチルカルビトール(関東化学社製)70gを混合し、限界ろ過の代わりにロータリーエバポレーターを用い溶媒置換を行ったこと以外は、実施例1と同様に分散液を得た。溶媒置換の条件は、温度70℃、減圧度0.015MPa、1時間の条件で行った。
【0055】
[実施例12]
混合液Aの重量を170gに変更した以外は実施例11と同様に分散液を得た。
【0056】
[実施例13]
加水分解用の溶液を、酢酸ニッケル・四水和物(富士フィルム和光純薬社製)2.46g、水57.1gおよびメタノール171.3gの溶液に変更した以外は、実施例12と同様に分散液を得た。
【0057】
[実施例14]
混合液Aの重量を168gに変更し、ブチルカルビトールの代わりに熟成物にターピネオール70gとリノール酸(富士フィルム和光純薬社製)3.5gを混合した以外は、実施例12と同様に分散液を得た。
【0058】
[実施例15]
実施例11で得られた熟成物にリノール酸3.5gを添加して50℃にて15時間攪拌した。これにブチルカルビトール70gを添加しロータリーエバポレーターで蒸留し、分散液を得た。蒸留の条件は、温度70℃、減圧度0.015MPa、1時間とした。
【0059】
[実施例16]
実施例10で得られた熟成物に、ターピネオール70gを添加した。ロータリーエバポレーターを用いて、温度70℃、減圧度0.015MPa、1時間の条件で蒸留した。
【0060】
[実施例17]
実施例10で得られた熟成物に、トリエタノールアミン70gを添加した。ロータリーエバポレーターを用いて、温度70℃、減圧度0.015MPa、1時間の条件で蒸留した。
【0061】
[比較例1]
水酸化バリウム溶液の重量を204gに変更した以外は、実施例1と同様に分散液を得た。
【0062】
[比較例2]
炭酸バリウム(富士フィルム和光純薬社製)と酸化チタン粉末(石原産業社製)をBa/Tiモル比1.01となるように計量し、ボールミルを用いて混合した。混合粉を大気中900℃で焼成し、さらに乳鉢を用いて焼成粉の解砕を行った。
【0063】
【0064】