(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】アンダーカットを有する針カバー
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20240917BHJP
A61M 5/28 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61M5/32 500
A61M5/28
(21)【出願番号】P 2021559824
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2020061485
(87)【国際公開番号】W WO2020216918
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-16
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】フアン,ロンシャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ボ
(72)【発明者】
【氏名】ズッケーリ,ジェレミー
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04986818(US,A)
【文献】特表2014-502889(JP,A)
【文献】特開2008-307369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
A61M 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用注射装置(10)のバレル(18)の先端部(35)に取付けられた針(14)
を保護するための針カバー(100)であって、該先端部(35)が、該バレル(18)
の遠位端(34)から延在し、
該針カバー(100)が、
前記バレル(18)の前記先端部(35)に密封して接触するように構成された内側近
位接続要素(140、142)を備え、長手方向軸(Z)に沿って延在している内側シー
ルド(30)と、
前記内側シールド(30)を少なくとも部分的に包囲し、および前記内側シールド(3
0)に固定されている外側シールド(101)と、を備え、
前記外側シールド(101)が、
第一の開口端部(104)と、第二の端部(106)と、該第一の開口端部(104
)と該第二の端部(106)との間に延在している側壁とを含む本体(102)であって
、該本体が、前記内側シールド(30)をその中に収容するためのキャビティ(108)
を画定する本体と、
前記本体(102)の前記第一の開口端部(104)に隣接して画定されている第一
のアンダーカット(120)と、
前記本体(102)の前記第一の開口端部(104)に隣接して画定されている第二
のアンダーカット(122)と、を備え、
前記第一の開口端部(104)から前記第一のアンダーカット(120)の近位縁部(
124)までの距離は、該第一の開口端部(104)から前記第二のアンダーカット(1
22)の近位縁部(128)までの距離よりも大きいことを特徴とする、
針カバー。
【請求項2】
前記第一の開口端部(104)から前記第二の端部(106)に向かって延在している
前記第一のアンダーカット(120)の長手方向の長さは、該第一の開口端部(104)
から前記第二の端部(106)に向かって延在している前記第二のアンダーカット(12
2)の長手方向の長さよりも小さい、請求項1に記載の針カバー。
【請求項3】
前記本体(102)の前記第一のアンダーカット(120)に近接する内側面から延在
する第一のラッチングタブ(132)と、
前記本体(102)の前記第二のアンダーカット(122)に近接する内側面から延在
する第二のラッチングタブ(134)と、
をさらに備える、請求項1または2に記載の針カバー。
【請求項4】
前記第一のラッチングタブ(132)は、前記第二のラッチングタブ(134)の周方
向幅よりも大きい周方向幅を有する、請求項3に記載の針カバー。
【請求項5】
前記第一および第二のラッチングタブ(132、134)は、前記外側シールド(10
1)の長手方向軸(Y)に対して角度の付いた
近位側の傾斜面(136)を備える、請求項3または4に記載の針カバー。
【請求項6】
前記第一の開口端部(104)から前記第一のアンダーカット(120)の近位縁部(
124)までの距離と、該第一の開口端部(104)から前記第二のアンダーカット(1
22)の近位縁部(128)までの距離の差は、少なくとも1ミリメートルである、請求
項1から5のいずれか一項に記載の針カバー。
【請求項7】
前記第一および第二のアンダーカット(120、122)は、互いに直径方向に対向し
ている、請求項1から6のいずれか一項に記載の針カバー。
【請求項8】
前記第一および第二のアンダーカット(120、122)は、形状が矩形状である、請
求項1から7のいずれか一項に記載の針カバー。
【請求項9】
前記本体(102)は、その外側面に、少なくとも一つのU字状溝(116)を画定す
る、請求項1から8のいずれか一項に記載の針カバー。
【請求項10】
前記U字状溝(116)は、前記本体(102)から径方向に延在している遠位壁部(
118)および近位壁部(119)を備える、請求項9に記載の針カバー。
【請求項11】
前記第一の開口端部(104)から前記第一のアンダーカット(120)の遠位縁部(
126)までの距離は、該第一の開口端部(104)から前記第二のアンダーカット(1
22)の遠位縁部(130)までの距離と等しい、請求項1から10のいずれか一項に記
載の針カバー。
【請求項12】
前記外側シールド(101)は、スナップフィット式の接続によって前記内側シールド
(30)に固定され、該内側シールドの前記内側近位接続要素(140、142)の内側
近位接続部(140)は、該スナップフィット式の接続を形成するように、該外側シール
ドの前記第一および第二のアンダーカットに挿入され、その結果、引き抜き力が、遠位方
向において該外側シールドに印加された場合に、該内側シールドは、前記第一のアンダー
カット(120)の端面との第一の接触を形成し、その後、前記第二のアンダーカット(
122)の端面との接触を形成し、それによって、前記先端部(35)からの該内側シー
ルドの離脱を補助するように、前記内側シールド(30)を径方向に撓ませる、請求項1
から11のいずれか一項に記載の針カバー。
【請求項13】
医療用組成物を収容するように適合されたリザーバ(20)を画定するバレル(18)
と、
前記バレル(18)の遠位面(34)から延在し、前記先端部(35)を通って延在す
る流路を画定し、および前記リザーバと流体的に連通する先端部(35)と、
前記リザーバ(20)と連通する針(14)と、
前記針(14)を覆うように適合された、請求項1から12のいずれか一項に記載の針
カバー(100)と、
を備える医療用注射装置(10)を備えている医療用アセンブリ。
【請求項14】
前記医療用注射装置(10)の前記バレル(18)および前記先端部(35)はガラス
で形成される、請求項13に記載の医療用アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、流体または液体の薬剤の吐出のための医療用注射装置に関する。より具体的には、本開示は、医療用注射装置に装着された針を覆うために、装置の先端に取付けられるように適合された針カバーに関する。また、本開示は、医療用注射装置と、医療用注射装置の針を包囲するための針カバーとを含む医療用アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジ等の医療用注射装置は、当技術分野において周知されている。それらの装置は、典型的には、液体の薬剤等の医療用組成物を収容する容器を含む。容器は、通常、医療用溶液がそこを通って放出される流体経路を画定する長手方向先端部の形態の末端部を含む。針は、患者の皮膚を穿刺するために、および医療用組成物の注入を実行するために、先端に装着することができる。
【0003】
使用前の無菌状態を維持するために、および不測の針刺しを招くリスクを低減するために、針の保護が重要である。そのため、針カバーを、針を包囲するように、バレルの先端に取付けることができる。このことは、装置の周囲の人が針に物理的に近づけないようにする。針カバーは、エラストマー特性を有する材質の内側シールドを含むことができ、および内側シールドを取り囲む、堅いプラスチックの外側シールドをさらに含んでもよい。内側シールドは、医療用注射装置の密封を確実にする。その目的のために、内側針シールドは、シリンジの先端の外側面に密封接触して密封をもたらすシーリング部を含む。内側針シールドは、医療用組成物の外部環境からの汚染を防ぎ、それによって、容器完全性を確保する。内側針シールドはさらに、針の出口から外部環境への組成物のどのような漏出も阻止する。この目的のために、針は、好ましくは、内側針シールドに穿刺される。
【0004】
ユーザは、使用直前に、医療用注射装置から保護針カバーを取り外さなければならない。針カバーを取り外すのに必要な力は、(「POF」とも呼ばれる)「引き抜き力(pull out force)」と呼ばれる物理的パラメータによって測定される。シリンジ等の注射装置から公知の針カバーを取り外すのに必要な引き抜き力は、極めて大きく、および特に、結果として、内側針シールドと先端部との間に摩擦を生じる、内側針シールドによって先端部に及ぼされる圧力に起因する。
【0005】
その結果として、例えば、病気によって弱って体力が低下したユーザは、針シールドを取外して、治療のために注射装置を使用することができない可能性がある。
【0006】
さらに、注射装置を頻繁に使用する看護師等の医療従事者は、注射装置から針カバーを引き抜くために作用させる力を制御することができない可能性があり、それによって、制御できない、かつ危険な動きを生じる可能性があるため、彼ら自身を傷つけてしまうとい高いリスクを有する。そして、シリンジ用の針は、この大きく要求される引き抜き力のため、針シールドの取外し中に曲げられる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記で明らかにされた問題を考慮すると、針カバーを医療用注射装置から取り外すのに必要な引き抜き力の低減を可能にし、および(針カバーの非漏えい性を損なわずに)医療用注射装置の先端部に対する針カバーの密封性を低下させない針カバーに対する現在のニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つの実施例において、医療用注射装置のバレルの先端部に取付けられた針を保護するための針カバーであって、先端部が、バレルの遠位端から延在している針カバーは、バレルの先端部に密封して接触するように構成された内側近位接続要素を含み、長手方向軸に沿って延在している内側シールドと、内側シールドを少なくとも部分的に包囲し、および内側シールドに固定されている外側シールドとを含んでもよく、針カバーの外側シールドは、第一の開口端部と、第二の端部と、第一の端部と第二の端部との間に延在している側壁とを含み、内側シールドをその中に収容するためのキャビティを画定する本体と、本体の第一の開口端部に隣接して画定されているアンダーカットとを含んでもよい。
【0009】
本開示の別の実施例において、針カバーの外側シールドは、本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第二のアンダーカットをさらに備え、第一の開口端部から第二の端部に向かって延在している第一のアンダーカットの長手方向の長さは、第一の開口端部から第二の端部に向かって延在している第二のアンダーカットの長手方向の長さよりも小さい。
【0010】
本開示の別の実施例において、外側シールドの第一の開口端部から、外側シールドの本体上に存在する第一のアンダーカットの近位縁部までの距離は、外側シールドの第一の開口端部から、外側シールドの本体上に存在する第二のアンダーカットの近位縁部までの距離よりも大きい。第一のラッチングタブは、第一のアンダーカットに近接して、外側シールドの本体の内側面から延在していてもよく、および第二のラッチングタブは、第二のアンダーカットに近接して、外側シールドの本体の内側面から延在していてもよい。第一のラッチングタブは、第二のラッチングタブの周方向幅よりも大きい周方向幅を有していてもよい。第一および第二のラッチングタブは、近位の角度の付いた面を含んでもよい。外側シールドの第一の開口端部から第一のアンダーカットの近位縁部までの距離と、外側シールドの第一の開口端部から第二のアンダーカットの近位縁部までの距離の差は、少なくとも1ミリメートルである。第一および第二のアンダーカットは、互いに直径方向に対向していてもよい。第一および第二のアンダーカットは、形状が矩形状であってもよい。
【0011】
また、本体は、その外側面に、少なくとも一つのU字状溝を画定してもよい。U字状溝は、本体から径方向に延在している遠位壁部および近位壁部を含んでもよい。外側シールドの第一の開口端部から、第一のアンダーカットの遠位縁部までの距離は、外側シールドの第一の開口端部から、第二のアンダーカットの遠位縁部までの距離と等しくてもよい。
【0012】
本開示の別の実施例において、医療用組成物を収容するように適合されたリザーバを画定するバレルと、バレルの遠位面から延在し、先端部を通って延在する流路を画定し、およびリザーバと流体的に連通する先端部と、リザーバと連通する針と、針を覆うように適合された針カバーとを備える医療用注射装置を備えている医療用アセンブリであって、針カバーは、長手方向軸に沿って延在し、バレルの先端部を密封して接触するように構成された内側近位接続要素を備える内側シールドと、内側シールドの少なくとも一部を覆う外側シールドを備え、外側シールドが、第一の開口端部と、第二の端部と、第一の端部と第二の端部との間に延在する側壁とを含み、内側シールドをその中に収容するためのキャビティを画定する本体と、本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第一のアンダーカットとを備えている。
【0013】
有利には、医療用アセンブリの外側シールドは、第一のアンダーカットとは異なり、および本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第二のアンダーカットをさらに備え、外側シールドの第一の開口端部から、外側シールドの第二の端部に向かって延在する第一のアンダーカットの長手方向の長さは、外側シールドの第一の開口端部から、外側シールドの第二の端部に向かって延在する第二のアンダーカットの長手方向の長さよりも小さい。
【0014】
また、以下の項目も本発明および開示を対象にしている。
【0015】
項目1:医療用注射装置のバレルの先端部に取付けられた針を保護するための針カバーであって、先端部が、バレルの遠位端から延在し、針カバーは、バレルの先端部に密封して接触するように構成された内側近位接続要素を備え、長手方向軸に沿って延在している内側シールドと、内側シールドを少なくとも部分的に包囲し、および内側シールドに固定されている外側シールドとを備え、外側シールドは、第一の開口端部と、第二の端部と、第一の端部と第二の端部との間に延在している側壁とを含み、内側シールドをその中に収容するためのキャビティを画定する本体と、本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第一のアンダーカットとを含む本体を備えている、針カバー。
【0016】
項目2:外側シールドの本体が、本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第二のアンダーカットをさらに備え、外側シールドの第一の開口端部から第二の端部に向かって延在している第一のアンダーカットの長手方向の長さは、外側シールドの第一の開口端部から第二の端部に向かって延在している第二のアンダーカットの長手方向の長さよりも小さい、項目1の針カバー。
【0017】
項目3:第一の開口端部から、第一のアンダーカットの近位縁部までの距離は、第一の開口端部から、第二のアンダーカットの近位縁部までの距離よりも大きい、項目2の針カバー。
【0018】
項目4:第一のアンダーカットに近接して、本体の内側面から延在する第一のラッチングタブと、第二のアンダーカットに近接して、本体の内側面から延在する第二のラッチングタブとをさらに備える、項目2の針カバー。
【0019】
項目5:第一のラッチングタブは、第二のラッチングタブの周方向幅よりも大きい周方向幅を有する、項目4の針カバー。
【0020】
項目6:第一および第二のラッチングタブは、近位の角度の付いた面を備えている、項目4の針カバー。
【0021】
項目7:第一の開口端部から、第一のアンダーカットの近位縁部までの距離と、第一の開口端部から、第二のアンダーカットの近位縁部までの距離の差は、少なくとも1ミリメートルである、項目2の針カバー。
【0022】
項目8:第一および第二のアンダーカットは、互いに直径方向に対向している、項目2の針カバー。
【0023】
項目9:第一および第二のアンダーカットは、形状が矩形状である、項目2の針カバー。
【0024】
項目10:本体は、その外側面に、少なくとも一つのU字状溝を画定している、項目1の針カバー。
【0025】
項目11:U字状溝は、本体から径方向に延在している遠位壁部および近位壁部を備えている、項目10の針カバー。
【0026】
項目12:第一の開口端部から、第一のアンダーカットの遠位縁部までの距離は、第一の開口端部から、第二のアンダーカットの遠位縁部までの距離と等しい、項目2の針カバー。
【0027】
項目13:外側シールドがスナップフィット(snap-fit)式の接続によって内側シールドに固定され、内側シールドの内側近位接続要素は、スナップフィット式の接続を形成するように、外側シールドの第一および第二のアンダーカットに挿入され、その結果、引き抜き力が、遠位方向において外側シールドに印加された場合に、内側シールドは、第一のアンダーカットの端面との第一の接触を形成し、その後、第二のアンダーカットの端面との接触を形成し、それによって、先端部からの内側シールドの離脱を補助するように内側シールドを径方向に撓ませる、項目2の針カバー。
【0028】
項目14:医療用組成物を収容するように適合されたリザーバを画定するバレルを備える医療用注射装置と、バレルの遠位面から延在し、先端部を通って延在する流路を画定し、およびリザーバと流体的に連通する先端部と、リザーバと連通する針と、針を覆うように適合された、項目1乃至項目12のいずれかの針カバーとを備えている医療用アセンブリであって、針カバーは、長手方向軸に沿って延在し、バレルの先端部を密封して接触するように構成された内側近位接続要素を備える内側シールドと、内側シールドの少なくとも一部を覆う外側シールドであって、外側シールドが、第一の開口端部と、第二の端部と、第一の端部と第二の端部との間に延在する側壁とを含み、内側シールドをその中に収容するためのキャビティを画定する本体と、本体の第一の開口端部に隣接して画定されている第一のアンダーカットとを備えることを特徴とする医療用アセンブリ。
【0029】
項目15:医療用注射装置のバレルおよび先端部がガラスで形成されている、項目14の医療用アセンブリ。
【図面の簡単な説明】
【0030】
この開示の上述したことおよび他の形状構成および利点、およびそれらを得る方法は、より明白になるであろうし、また、本開示自体は、添付図面とともに解釈すれば、本開示の実施形態に関する以下の記載に対する参照によって、より良く理解されるであろう。
【
図1】本発明の一つの実施形態による医療用注射装置の斜視図である。
【
図2】本発明の一つの実施形態による針カバーを備えた、
図1の医療用注射装置の斜視図である。
【
図3】本発明の一つの実施形態による針カバーの正面図である。
【
図6】
図3の針カバーの近位部分の分離した斜視図である。
【
図7】本発明の一つの実施形態による内側シールドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の説明は、当業者が、本発明を実行するために企図された、記載されている実施形態を実行および利用することを可能にするために記載されている。しかし、当業者に対しては、さまざまな変更例、等価物、変形例および代替例が依然として容易に明白であろう。任意のおよびすべてのこのような変更例、変形例、等価物および代替例は、本発明の趣旨および範囲内に入ることが意図されている。
【0032】
以下においては、説明の目的のために、「上方」、「下方」、「右」、「左」、「垂直」、「水平」、「上部」、「底部」、「横方向」、「長手方向」という用語およびこれらの派生語は、図面において方向付けられているように本発明に関連しているものとする。しかし、本発明は、明確に断りのない限り、さまざまな代替的変形例を想定することができることを理解すべきである。また、添付図面に図示されている、および以下の明細書に記載されている特定の装置は、本発明の例示的な実施形態にすぎないことを理解すべきである。そのため、本願明細書に開示されている実施形態に関する具体的な寸法や他の物理的特徴は、限定するものとして考えるべきではない。
【0033】
以下の考察において、「遠位」は、患者の皮膚との接触に適合された医療用注射装置の端部に概して向かう方向を指し、「近位」は、遠位の反対方向、すなわち、医療用注射装置の該端部から離れる方向を指す。換言すると、「遠位方向」は、注射の方向を意味するものと理解すべきである。遠位方向は、当初、バレル内に収容されていた医療用組成物がバレルから吐出される注射中に、プランジャの進行方向に相当する。「近位方向」は、注射の方向と反対の方向を意味するものとして理解すべきである。この開示の目的のために、上述した基準は、本開示による医療用注射装置の構成要素に関する説明において用いられる。
【0034】
図1を参照すると、医療用注射装置10は、液状薬剤等の医療用組成物のためのリザーバ20を画定し、近位面36から遠位面34まで長手方向軸Xに沿って延在しているバレル18を含む。また、医療用注射装置10は、ストッパー(図示せず)と、フランジ68を有し、および組成物を注入するために、バレル18の内部で近位位置から遠位位置まで並進移動可能なプランジャロッド26とを含むことができる。
【0035】
医療用注射装置10は、バレル18の遠位面34から軸Xに沿って延在している遠位先端部35をさらに含む。遠位先端部35は、バレル18と流体的に連通している流路を形成するように、少なくとも部分的に中空になっている。針14は、注射装置10の遠位先端部35に取付けることができ、および流路と流体的に連通している。本願明細書においては、バレル18の遠位面34は、医療用注射装置の肩部に近接していることに留意されたい。
【0036】
医療用注射装置10は、好ましくは、ガラスで形成され、より好ましくは、ガラスシリンジである。このようなガラスシリンジは、主に病院環境で使用され、および容易に滅菌可能である。医療用注射装置10は、好ましくは、プレフィルドシリンジである。医療用注射装置10は、より好ましくは、固定針(staked needle)を備えたシリンジである。
【0037】
図2を参照すると、医療用注射装置は、針カバー100をさらに含む。針カバー100は、針14を保護して覆っている。針カバー100は、外側シールド101と、針14を覆って、外側シールド101によって覆われている内側シールド30とを含むことができる。
【0038】
図3を参照すると、本発明の実施形態による外側シールド101が詳細に記載されている。外側シールド101は、好ましくは、硬い材料、例えば、硬質プラスチックで形成されている。外側シールド101は、医療用プラスチックで形成してもよい。硬い材料は、外側シールド101に剛性を与え、このことは、外側シールド101が、針カバー100を衝撃からより良好に保護することを可能にする。それにより、針カバー100の構造的完全性が向上される。
【0039】
外側シールド101は、近位端104および遠位端106を有する本体102を含む。本体102は、長手方向軸Yに沿って延在する。軸Yは、針カバー100が医療用注射装置10の先端部15に取付けられている場合に、軸Xと一致している。
【0040】
一つの実施例において、本体102は、形状が実質的に円筒形であってもよい。本体102は、医療用注射装置10の内側シールド30を少なくとも部分的に収容する内側キャビティ108(
図6を参照)を画定することができる。カラー110を、外側シールド101の近位端104に形成することができる。カラー110は、本体102の残部よりも大きい直径を有していてもよい。一つの実施例においては、複数のリブおよび溝112、114を、外側シールド101の本体102上に画定することができる。リブおよび溝112、114は、外側シールド101の遠位端106に隣接して設けることができる。リブおよび溝112、114は、外側シールド101を医療用注射装置10から引き離すときにユーザが利用するための掴み面を形成している。
【0041】
図3および
図4に示す別の実施例においては、ユーザの外側シールド101を医療用注射装置10から引き離すことを補助するために、U字状溝116を、本体102の側面に形成して別の形状構成を作ってもよい。U字状溝116は、遠位壁部118および近位壁部119を含む。U字状溝116の遠位壁部118は、ユーザが、外側シールド101に圧力を印加して、外側シールド101を医療用注射装置10から引き離すための引張力を生じさせることを可能にする。複数のリブおよび溝112、114は、U字状溝116に沿って設けてもよい。
【0042】
図5を参照すると、外側シールド101の本体102のカラー110は、少なくとも一つのアンダーカット(undercut)を、好ましくは、少なくとも一組のアンダーカット120、122を画定することができる。一つの実施例において、アンダーカット120、122は、外側シールド101を貫通して延在している開口部である。アンダーカット120、122の存在は、本願明細書において考察されているように、ユーザが、医療用注射装置10から外側シールド101を取り外すのに必要とされる引き抜き力の低減を可能にする。また、アンダーカット120、122は、カラー110を貫通して延在している「ウィンドウ」と呼ぶこともできる。実際に、ユーザは、それらのウィンドウのおかげで、内側シールド30が外側シールド101内に少なくとも部分的に包囲されていることを視覚的に確保することができる。
【0043】
一つの実施例において、アンダーカット120、122の少なくとも一方、好ましくは、両方のアンダーカット120、122は、形状が実質的に矩形状であってもよい。一つの実施例において、アンダーカット120、122は、カラー110上で直径方向に互いに対向していてもよい。第一のアンダーカット120の長手方向の長さAは、第二のアンダーカット122の長手方向の長さBよりも小さくてもよい。長手方向の長さAは、第一のアンダーカット120の近位面124から、第一のアンダーカット120の遠位面126までで測定することができる。長手方向の長さBは、第二のアンダーカット122の近位面128から、第二のアンダーカット122の遠位面130までで測定することができる。別の実施例において、本体102の近位端104から、第一のアンダーカット120の遠位面126までの距離は、本体102の近位端104から、第二のアンダーカット122の遠位面130までの距離と実質的に等しい。アンダーカット120、122の長手方向の長さA、Bが互いに異なる場合、アンダーカット120、122は、互いに非対称的であると考えられる。別の実施例では、本体102の近位端104から、第一のアンダーカット120の近位面124までの距離は、本体102の近位端104から、第二のアンダーカット122の近位面128までの距離よりも大きい。一つの実施例において、アンダーカット120、122は、本体102のカラー110から押し出される(extruded)。また、カラー110内にアンダーカット120、122を画定するのに、他の任意の製造方法を用いてもよいことも企図されている。有利には、二つのアンダーカット120、122は互いに異なっており、およびカラー110内に二つの異なる開口部を画定する。
【0044】
図6を参照すると、外側シールド101の別の形状構成が詳細に記載されている。具体的には、二つのラッチングタブ(latching tabs)132、134は、本体102の近位端104の近傍の、カラー110の内側面から、内側に延在することができる。ラッチングタブ132、134は、外側シールド101の長手方向軸Yに対して角度が付けられている傾斜面136と、外側シールド101の長手方向軸Yに対して平行に延在している実質的に平坦な面138とを含むことができる。ラッチングタブ132、134は、外側シールド101の内側キャビティ108内への内側シールド30の挿入を補助することができる。一つの実施例において、一方のラッチングタブ134の周方向幅は、他方のラッチングタブ132の周方向幅よりも大きくなっている。
【0045】
図7を参照すると、本発明で用いることのできる内側シールド30が示されている。内側シールド30は、長手方向軸Zに沿って延在している。軸Zは、内側シールド30が外側シールド101内に少なくとも部分的に包囲されている場合、軸Yと一致している。内側シールド30は、好ましくは、円筒形状および円形断面を有している。有利には、内側シールド30は、
図1に示すように、注射装置10の先端部35に密封して係合するように構成された内側近位接続部140を含む。好ましくは、内側近位接続部140は、内側シールド30の残部よりも大きな直径を有している。内側近位接続部140は、周方向フランジとして形成することができる。したがって、内側近位接続部140は、本体の残部と見分けるのが容易であり、また、外側シールド101への内側シールド30の取付けは、以下に記載されているように改善されている。
【0046】
内側シールド30は、好ましくは、エラストマー特性を有する材料で形成される。このようにして、内側近位接続部140は、内側シールド30を注射装置10に接続したときに、先端部35の形状に一致するようにわずかに変形することができる。その間、針の先端、または、針14の遠位部は、内側シールド30を貫通(penetrate)していてもよい。このことは、針14を介した医療用組成物の外部環境への漏えいのリスクをさらに低下させる。エラストマー特性を有する材料は、好ましくは、熱可塑性エラストマー、エラストマーまたはゴムである。好ましくは、エラストマー特性を有する材料は、滅菌可能である。
【0047】
一つの実施形態において、外側シールド101は、内側シールド30を少なくとも部分的に取り囲んでいる。外側針シールド101は、内側針シールド30に固定されている。この目的のために、内側シールド30の内側近位接続部140が、スナップフィット式の接続で二つのアンダーカット120、122に部分的に挿入されている。内側シールド30の内側近位接続部140は、アンダーカット120、122の両方の、近位面124、128、および遠位面126、130の両方に当接し、それにより、外側シールド101に対する軸Yに沿った内側シールド30の何らかの並進動作が阻止される。有利には、内側近位接続部140は、アンダーカット120、122の側面にも当接し、それにより、外側針シールド101に対する軸Y周りの内側シールド30の何らかの回転運動が阻止される。
【0048】
内側シールド30と外側シールド101は、アンダーカット120、122および内側近位接続部140のスナップフィット式の接続以外の、または前記スナップフィット式の接続に加えて、他の固定手段によって一緒に固定してもよい。針カバー100が注射装置10に取付けられると、内側シールド30は、バレル18の先端部35の少なくとも一部を取り囲み、および近位接続部140は、先端部35の近位部分に堅固に接触する。その結果、針カバー100は、きつくかつ密封的に先端部35に接続される。
【0049】
針カバー100をシリンジに取付けるために、外側シールド101は、まず、内側シールド30を覆って配置され、その後、針カバー100全体がシリンジに取付けられる。前述したように、内側シールド30と外側シールド101が一緒に固定されると、内側シールド30の近位接続部140は、外側シールド101のカラー110内に画定されているアンダーカット120、122内にロックされる。一旦、アンダーカット120、122内にロックされると、近位接続部140は、アンダーカット120、122の遠位面126、130により、遠位方向に動くことが阻止され、およびアンダーカット120、122の近位面124、128により、近位方向に動くことが阻止される。
【0050】
針カバー100が医療用注射装置10に配置された後、針カバー100は、遠位方向に動かして、それを医療用注射装置10から取り外すことができる。引張力がユーザによって外側シールド101に印加される際、外側シールド101は、内側シールド30とともに遠位方向に移動される。外側シールド101が遠位方向に動かされる際、第一のアンダーカット120の近位面124が、内側シールド30の近位接続部140に接触し始めて当接することになる。一旦、アンダーカット120の近位面124が近位接続部140に接触すると、近位面124は、近位接続部140を遠位方向に押し始める。近位接続部140が遠位方向に押される際、近位接続部140は、内側シールド30のカラー142が、医療用注射装置10から径方向に引き離されるように撓み始める。
【0051】
近位接続部140が、第一のアンダーカット120の近位面124との接触により、径方向に引き離される際、近位接続部140の反対側は、第二のアンダーカット122の近位面128に向かって撓む。近位接続部140の反対側と、近位面128との間の係合により、第二のアンダーカット122は、内側シールド30を、医療用注射装置10のシリンジ先端部35から引き離すのを補助し始める。一旦、外側シールド101が十分な距離だけ引っ張られると、内側シールド30は、医療用注射装置10のシリンジ先端部35から引き離される。
【0052】
医療用注射装置10のすべての構成要素は、任意の公知の材料で構成することができ、および望ましくは、医療用ポリマーで構成される。
【0053】
この開示を、例示的なデザインを有するものとして説明してきたが、本開示は、この開示の趣旨および範囲内でさらに変更することができる。したがって、この出願は、その一般的原理を用いて、本開示の任意の変形、利用または適合をカバーすることが意図されている。さらに、この出願は、この開示が属する、および添付クレームの制限の範囲に含まれる、および当技術分野において慣行または慣習の範囲内にあるように、本開示からのそのような逸脱をカバーすることが意図されている。
【0054】
本出願を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0055】
引き抜き力の測定例
【0056】
引き抜き力の測定
【0057】
ともにガラスシリンジの先端部に予め取付けられている、内側シールドと、(外側シールドがアンダーカットを少しも含まない)従来技術の外側シールドまたは本発明の外側シールドと、を含む針カバーを、本願明細書において比較した。ガラスシリンジは、従来技術の針カバーと、本発明の針カバーの両方に対して同一のものである。
【0058】
これらの分析においては、従来技術の5つの外側シールドと、本発明において記載されているような二つのアンダーカットが設けられている本発明の5つの外側シールドとを用意した。
【0059】
針カバーをシリンジから取り外すのに必要な力の測定を実行した。試験は、牽引ベンチ(500mm/分)を用いて実行した。方法は、シリンジをホルダ上に配置するステップと、針カバーを空気圧ジョーによって保持するステップと、針カバーを一定の移動速度で引っ張って、それを取り外すステップとを含む。針カバーを先端部から取り外すために、針カバーを引っ張るのに必要な力を記録した。ここで、その結果を以下に示す。
【表1】
【0060】
記録した力は、時間の関数で記録した針カバーを取り外すのに必要な力の最大値である。力は、「POF値」という引き抜き力である。表1を見て分かるように、従来技術の針カバーの場合に記録したPOFの平均値は、17.48Nであり、本発明の針カバーの場合に記録したPOFの平均値は、12.49である。引き抜き力のこれらの値は、本発明の針カバーが、公知の針カバーと比較して、引き抜き力の大幅な減少をもたらしていることを明確に示している。引き抜き力の低減は、約29%である。