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特許7555958薬物送達デポの術中調製のための生体適合性オルガノゲルマトリックス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】薬物送達デポの術中調製のための生体適合性オルガノゲルマトリックス
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20240917BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240917BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240917BHJP
   A61K 38/14 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240917BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240917BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/44
A61K38/14
A61K47/10
A61K31/7048
A61M37/00 550
A61L31/16
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021561704
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 IB2020053680
(87)【国際公開番号】W WO2020212946
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】62/835,556
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513069064
【氏名又は名称】デピュイ・シンセス・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham MA 02767-0350 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】フロレク・チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】アームブラスター・デビッド・エイ
(72)【発明者】
【氏名】カー・ショーン・ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】ジャイン・サンジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ビクラム-ライルズ・マラボスクリシュ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510955(JP,A)
【文献】特表2009-510048(JP,A)
【文献】特表2003-506397(JP,A)
【文献】AAPS PharmSciTech,2015年,Vol.16,No.2,pp.293-305
【文献】European Journal of Pharmaceutical Sciences,2014年,Vol.60,pp.40-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61L 15/00-33/18
A61M 37/00
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出した軟組織、硬組織、又はその両方を含む非滅菌開放創部位に活性剤を送達する方法で使用される、オルガノゲル化剤と生体適合性有機溶媒とを含む生体適合性オルガノゲルマトリックス内に前記活性剤の固体粒子を含むオルガノゲル薬物デポであって、前記方法は、
前記オルガノゲル薬物デポを形成するために、前記生体適合性オルガノゲルマトリックス内に前記活性剤の前記固体粒子を配合する工程と、
前記オルガノゲル薬物デポを前記非滅菌開放創部位に送達する工程であって、送達時に前記非滅菌開放創部位は、非滅菌環境に曝露される、工程と、を含み、
前記配合する工程及び前記送達する工程は同時に行われ、
同時に行われる前記配合する工程及び前記送達する工程は、互いに2時間以内であり、
前記オルガノゲル化剤は、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、又はソルビタンモノステアレートであり、
前記オルガノゲル薬物デポは、前記送達する工程中に固体状態又は半固体状態である、オルガノゲル薬物デポ。
【請求項2】
配合することは、前記生体適合性オルガノゲルマトリックスを加熱して前記生体適合性オルガノゲルマトリックスを溶融させ、前記固体粒子を溶融した前記生体適合性オルガノゲルマトリックスに組み込むことを含む、請求項1に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項3】
前記方法は、前記固体粒子を組み込んだ後に、溶融した前記生体適合性オルガノゲルマトリックスを冷却して前記オルガノゲル薬物デポを形成することを更に含む、請求項2に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項4】
溶融した前記生体適合性オルガノゲルマトリックスを冷却することは、約10分以内である、請求項3に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項5】
配合することは、固体状態又は半固体状態の前記生体適合性オルガノゲルマトリックスと前記固体粒子との間での物理的混合を含む、請求項1に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項6】
前記生体適合性オルガノゲルマトリックスは、37℃を上回る融点を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項7】
記生体適合性有機溶媒は、20℃を下回る融点を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項8】
記固体粒子は、前記生体適合性有機溶媒内に配置される、請求項1~のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項9】
前記生体適合性オルガノゲルマトリックスは、水に対して1g/L未満の溶解度を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項10】
記生体適合性有機溶媒は、植物若しくは動物由来の油である、請求項1~9のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項11】
前記油は1つ以上の脂肪酸を含む、請求項10に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項12】
前記1つ以上の脂肪酸はトリグリセリドを含むか、又は、前記1つ以上の脂肪酸はリノール酸を含む、請求項11に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項13】
前記活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは局所麻酔薬、又はこれらの組み合わせである、請求項1~12のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項14】
前記活性剤は、
i)抗菌剤であるか、又は、
ii)ゲンタマイシン、バンコマイシン、エルタペネム、若しくはトブラマイシンであるか、又は、
iii)局所麻酔薬である、請求項13に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項15】
1部の前記活性剤は、10~30部の水に溶けるか、1~10部の水に溶けるか、若しくは1部未満の水に溶けるか、又は、
1部の前記活性剤は、30~100部の水に溶けるか、100~1,000部の水に溶けるか、1,000~10,000部の水に溶けるか、若しくは10,000部以下の水に溶けない、請求項1~14のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項16】
前記固体粒子は、1μm~約1mmの範囲のD(50)中央粒径を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項17】
前記生体適合性オルガノゲルマトリックス中のオルガノゲル化剤の生体適合性有機溶媒に対する重量比は、約5:95~約70:30の範囲である、請求項1~16のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項18】
前記生体適合性オルガノゲルマトリックスは1つ以上の賦形剤を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項19】
前記1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤若しくは生体適合性親水性小分子、又はこれらの組み合わせを含むか、或いは、前記1つ以上の賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含む、請求項18に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【請求項20】
同時に行われる前記配合する工程及び前記送達する工程は、互いに1.5時間以内、1.0時間以内、又は0.5時間以内である、請求項1~19のいずれか一項に記載のオルガノゲル薬物デポ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年4月18日に出願された米国特許仮出願第62/835,556号の利益を主張するものであり、当該特許の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、手術部位又は外傷性創傷に活性剤を局所的に送達するための、オルガノゲルマトリックス薬物送達デポの手術前後及び術中の調製及び送達を目的とする。より具体的には、本開示の実施形態は、抗菌薬デポ又は麻酔薬デポの調製、及び埋め込み可能な整形外科用医療装置など1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含む手術部位への抗菌薬デポ又は麻酔薬デポの局所送達を目的とする。本開示は更に、非滅菌環境でのオルガノゲルマトリックスから形成された局所薬物デポの調製、及び非滅菌開放創へのその適用を目的とする。
【背景技術】
【0003】
整形外科用埋め込み物など異物は、術後感染のリスク因子である。文献では、抗生物質及び抗菌性溶出装置についての多くの言及がなされているが、市販の装置は希少である。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)など骨セメント及び石膏セメントは、抗生物質を整形外科手術部位に送達するために、オンラベル又はオフラベルで使用される。
【0004】
PMMAセメントは非吸収性であり、使用する場合には除去術が必要である。更に、抗感染療法に必要なPMMAの量は、使用可能な軟組織が限定的である(すなわち、配置容積が限定的である)ために、整形外科用途では特に不利である。PMMAからの抗生物質の不完全な溶出により、用量が不確実になる。更に、長期的な低用量送達は、抗生物質耐性を発現させ得る。更に、埋め込まれたPMMA材料(例えば、ビーズ)は、細菌の定着及び増殖にとって別の異物を示す。
【0005】
石膏セメントは、骨欠損部で、又は整形外科手術部位を取り囲む軟組織で抗生物質送達リザーバとして使用され得る。米国では、石膏系抗生物質療法が、3日を超える抗生物質の制御放出を提供できないことを研究が示している。
【0006】
使用される別の既存の感染症治療の選択肢は、粉末抗生物質を手術部位に直接送達する外科医である。脊椎手術におけるバンコマイシン粉末の直接適用は、症例シリーズにおいて有効であり、高リスク外傷手術における深刻な手術部位感染(SSI)でのバンコマイシンの局所送達の効果を測定するために、1000の患者臨床試験が行われてきた。それにもかかわらず、抗生物質粉末の適用は、維持された又は制御された局所組織濃度のいずれも提供しない。更に、その使用は、切開外科手術に限定され、したがって、経皮的又は低侵襲外科手術から治療の可能性を排除している。
【0007】
ヒドロゲルはまた、送達ビヒクルと見なされる。しかしながら、それらの溶出プロファイルは、典型的には、バースト放出が大部分を占めており、制御された持続放出は限定的である。いくつかの例としては、NovagenitのDefensive Antibacterial Coating(DAC)ヒドロゲル、Dr.Reddy’s laboratoriesのDFA-02、及びPoloxamer 407熱可逆性ヒドロゲルが挙げられる。NovagenitのDACヒアルロナン-ポリ-D,L-ラクチドヒドロゲルの1つの研究は、60%超のバンコマイシンが最初の4時間以内に放出され、80%超が24時間以内に放出されたことを示した(Giavaresi G,Meani E,Sartori M,Ferrari,A,Bellini D,Sacchetta AC,Meraner J,Sambri A,Vocale C,Sambri V,Fini M,Romano CL,International Orthopaedics(SCIOT)2014;38:1505-1512)。Dr.Reddy’s DFA-02ゲルの研究は、24時間以内の抗生物質溶出の大部分を伴う結果を示した(Penn-Barwell JG,Murray CK,and Wenke JC,J Orthop Trauma 2014;28:370-375)。Poloxamer 407熱可逆性ヒドロゲルの研究は、インビトロでの長期のバンコマイシン放出を示した。しかしながら、ラットモデルにおける24時間及び48時間時点の局所的なバンコマイシン濃度は、4時間の時点でわずか6%及び0.6%の濃度であり、初期放出速度からの著しい低下を示す(Veyries ML,Couarraze G,Geiger S,Agnely F,Massias L,Kunzli B,Faurisson F,Rouveix B,International Journal of Pharmaceutics 1999;192:183-193)。
【0008】
装置を除去せずに抗生物質を持続的に局所放出することは、医療用装置での生体再吸収性抗菌コーティングによって達成することができる。しかしながら、整形外科用セグメント内の抗生物質でコーティングされた装置には、固有の課題がある。患者の解剖学的構造に適合するために多くの品番が必要であり、結果として、満了前に各サイズの十分なストックをコーティングし、保管し、送達する際にロジスティック上の課題が生じる。抗菌性埋め込み物は、類似の非抗菌装置の在庫を重複させることを要するであろう。更に、グラフィックケースを何度も滅菌することは、生分解性抗菌コーティングに対して禁止されるため、代替的なロジスティックが必要とされる。
【0009】
コーティングされた医療装置に関連するいくつかの難題としては、規制当局の認可当たりの限定的な市場規模、在庫重複の必要性、及び広範な種類の解剖学的埋め込み物の形状をコーティングするという技術的課題が挙げられる。コーティングされた医療用装置では、外科医が所望の抗生物質又は抗生物質の組み合わせを選択することができない。患者固有のリスク因子、又は患者組織から回収される細菌の種及び感度の評価は、所望の抗菌剤及び用量を選択する際の重要な基準である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、手術前後又は術中に調製され、例えば、整形外科用医療装置など1つ以上の埋め込み可能な医療用装置を含む手術部位に術中に送達され得る薬物デポを提供することは有益であろう。この場合、薬物デポは、灌注に耐性を示し、手術部位からの移動に耐性を示し、抗菌剤、抗生物質、若しくは局所麻酔薬、又はこれらの組み合わせなど活性剤の制御放出を提供することができる。換言すれば、薬物デポは、活性剤の所望の放出に必要な期間にわたって手術部位に留まり得る。
【0011】
更なる実施形態では、非手術的状況(すなわち、非滅菌環境)での調製及び非滅菌開放創部位への送達が同時に行われ得る薬物デポを提供することが有益であろう。この場合、薬物デポは耐移動性であり、抗菌剤又は局所麻酔薬など活性剤の制御放出を提供することができる。調製及び送達が同時に行われ得るこのような薬物デポは、緊急医療技師又は戦闘要員による使用のためなど、著しい軟組織損傷及び硬組織損傷を含む非滅菌開放創を伴う緊急事態の治療状況における使用に特別な利点を有し得、薬物デポでは、調製及び非滅菌開放創部位への送達が同時に行われる。このような利点としては、患者の特定の創傷部位に必要な抗感染症治療及び鎮痛治療を即座に送達する能力が挙げられ、薬物デポは送達部位に留まるように構成されている。
【0012】
したがって、本開示は、特定の態様において、活性剤を手術部位に送達する方法を記載し、この方法は、
制御放出用に構成されたオルガノゲル薬物デポを形成するように、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を手術前後に配合する工程と、
オルガノゲル薬物デポを整形外科用埋め込み部位に術中に送達する工程と、を含み、
オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含み、オルガノゲル薬物デポは、術中送達の工程中に固体状態又は半固体状態である。
【0013】
特定の実施形態によると、手術部位は、例えば、埋め込み可能な整形外科用装置など1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含み得る。
【0014】
本開示の更なる態様によると、手術部位に送達するために活性剤を有する局所薬物デポを調製する方法は、
制御放出用に構成されたオルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を手術前後に配合することを含み、
オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含み、オルガノゲル薬物デポは、オルガノゲル薬物デポの送達前に固体状態又は半固体状態である。
【0015】
特定の実施形態によると、手術部位は、例えば、埋め込み可能な整形外科用装置など1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含み得る。
【0016】
特定の実施形態によると、配合することは、オルガノゲルマトリックスを加熱してマトリックスを溶融させ、固体粒子を溶融したマトリックスに組み込むことを含み得る。本方法は、固体粒子を組み込んだ後に、オルガノゲル薬物デポを形成するために溶融したマトリックスを冷却することを更に含み得、薬物デポは固体状態又は半固体状態である。いくつかの実施形態では、溶融したマトリックスを冷却することは、約10分以内、例えば5分以内で行われる。別の実施形態では、配合することは、オルガノゲル薬物デポを形成するための、固体状態又は半固体状態のオルガノゲルマトリックスと、活性剤固体粒子との間での物理的混合(例えば、機械的混合)を含み得、薬物デポは固体状態又は半固体状態であり得る。また更なる実施形態では、配合することは、加熱と、物理的混合又は機械的混合との組み合わせを含み得る。
【0017】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、水に対して1g/L未満の溶解度を有する。
【0018】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは37℃を上回る融点を有する。特定の実施形態では、オルガノゲル化剤は、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、若しくはソルビタンモノステアレートなど1つ以上の脂肪酸、又は脂肪酸の塩若しくはエステル、並びにこれらの混合物を含む。
【0019】
特定の実施形態によると、生体適合性有機溶媒は20℃を下回る融点を有する。更なる実施形態によると、生体適合性有機溶媒は、植物若しくは動物由来の生体適合性油、又はそれらの合成誘導体を含み得る。また更なる実施形態では、生体適合性油は、1つ以上の脂肪酸を含む。また更なる実施形態では、1つ以上の脂肪酸は、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、又はこれらの組み合わせ若しくは混合物を含み得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の脂肪酸は、遊離脂肪酸を含み得る、又はトリグリセリドの形態の脂肪酸、又はこれらの組み合わせ若しくは混合物を含み得る。一実施形態では、1つ以上の脂肪酸はリノール酸を含む。リノール酸は、多数の植物油の周知の成分である。
【0020】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスのオルガノゲル化剤と生体適合性有機溶媒との重量比は、約5:95~約60:40、例えば約25:75~約50:50の範囲である。
【0021】
特定の実施形態によると、活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは局所麻酔薬、又は前述の活性剤の組み合わせを含む。特定の実施形態によると、活性剤は、米国薬局方(USP)によって定義されるように、水に対してやや溶けやすいか、溶けやすいか、又は極めて溶けやすい(すなわち、水と活性剤との比率は約30:1以下である)。別の実施形態によると、活性剤は、USPによって定義されるように、水に対してやや溶けにくいか、溶けにくいか、極めて溶けにくいか、又はほとんど溶けない(すなわち、水と活性剤との比率は約30:1以上である)。
【0022】
特定の実施形態によると、活性剤の固体粒子は、オルガノゲルマトリックスの有機溶媒内に配置される。また更なる実施形態では、固体粒子は、約1μm~約1mm(1000マイクロメートル)の範囲、例えば、約1μm~約10μm、又は10μm~約50μmの範囲などのD(50)中央粒径(体積分布による)を有し得る。
【0023】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、1つ以上の賦形剤を更に含み得る。更なる実施形態によると、1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤又は生体適合性親水性小分子を含む。特定の実施形態では、1つ以上の賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含み得る。
【0024】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、水性環境において金属表面に付着するように構成されている。これは、例えば、インビボ水性環境をシミュレートする条件を含む。
【0025】
特定の実施形態によると、手術部位は、例えば、埋め込み可能な整形外科用装置など1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含む埋め込み部位である。特定の実施形態では、埋め込み可能な医療装置は、金属表面を含み、オルガノゲルマトリックスは、インビボで金属表面に付着するように構成されている。特定の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、経皮的注射器注入を介して、例えば、経皮的固定手術におけるネジ配置用切開部を通して手術部位に送達される。更なる実施形態では、手術部位(埋め込み可能な医療装置を有する又は有さない)は手術的に切開され、薬物デポは、手術部位にある軟組織又は硬組織に術中に送達され、手術部位に埋め込み可能な医療用装置を含む手術では、埋め込み可能な医療装置、例えば、金属表面又は整形外科用埋め込み物など埋め込み可能な医療用装置の外側表面に隣接して、又はその上に直接送達され得る。典型的には、整形外科用埋め込み物は、金属、ポリマー、又はセラミックの外側表面を含む。特定の追加の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、手術部位外の埋め込み可能な装置に術中に適用され、次いで、埋め込み可能な医療装置と共に手術部位へと術中に送達される。
【0026】
本開示によると、手術部位に局所送達するためのオルガノゲル薬物デポを調製するためのシステムも記載される。このシステムは、オルガノゲル化剤及び生体適合性有機溶媒を含むオルガノゲルマトリックスと、活性剤の固体粒子と、外側表面を有する少なくとも1つの壁を含む容器であって、オルガノゲルマトリックス及び活性剤の固体粒子を収容することができる容積を画定する、容器と、外側表面に接触し、容器にある量の熱を供給するように構成された加熱構成要素と、を含む。
【0027】
特定の実施形態によると、手術部位は、例えば、埋め込み可能な整形外科用装置など1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含む埋め込み部位である。
【0028】
システムの特定の実施形態では、容器は注射器である。別の実施形態では、容器はバイアルである。
【0029】
また更なる実施形態では、システムは、容器が第1の容器であり、追加の容器が第2の容器であるように、複数の容器を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の容器は第1の開口部を有し、第2の容器は第2の開口部を有し、第1の開口部は、第2の開口部に接続するように適合される。
【0030】
更なる実施形態では、加熱構成要素は、内壁を画定する。加えて、いくつかの実施形態では、内壁は、少なくとも1つの加熱要素を含み得、更に、内壁は、少なくとも1つの加熱要素がオルガノゲルマトリックスに熱を供給するように、容器の外側表面に接触するように構成されている。
【0031】
特定の実施形態では、内壁は、その長さに沿ってほぼ円筒形の形状を画定する。また更なる実施形態では、内壁は、第1の領域で第1の断面径を画定し、第2の領域において第2の断面径を画定し、第1の断面径は、第2の断面径より大きくてよい。
【0032】
特定の実施形態では、加熱要素は、加熱構成要素が少なくとも第1の加熱プロファイルと、第2の加熱プロファイルと、を含むように、内壁に沿って1つ以上の加熱プロファイルを提供するように構成されている。
【0033】
本開示のまた更なる実施形態によると、非滅菌開放創部位に活性剤を送達する方法が記載され、本方法は、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合する工程と、
オルガノゲル薬物デポを非滅菌開放創部位に送達する工程であって、送達時に開放創部位は、非滅菌環境に曝露された軟組織、硬組織、又はその両方を含む、工程と、を含み、
配合する工程及び送達する工程は同時に行われ、
オルガノゲルは、送達する工程中に固体状態又は半固体状態である。
【0034】
本開示の更なる態様によると、非滅菌開放創部位に活性剤を送達するために非滅菌環境で局所薬物デポを調製する方法が存在し、本方法は、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合することを含み、
配合する工程は、送達と同時に行われ、
オルガノゲルは、配合中に固体状態又は半固体状態である。
【0035】
特定の実施形態によると、同時に行われる配合及び送達は、互いに2時間以内、例えば、1.5時間以内、1.0時間、又は0.5時間以内である。
【0036】
特定の実施形態によると、配合することは、オルガノゲルマトリックスを加熱してマトリックスを溶融させ、固体粒子を溶融したマトリックスに組み込むことを含む。更なる実施形態では、本方法は、固体粒子を組み込んだ後に、溶融したマトリックスを冷却してオルガノゲル薬物デポを形成することを更に含む。特定の追加の実施形態では、溶融したマトリックスを冷却することは、約10分以下である。
【0037】
特定の実施形態によると、配合することは、固体状態又は半固体状態のオルガノゲルマトリックスと固体粒子との間での物理的混合を含む。
【0038】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、水に対して1g/L未満の溶解度を有する。
【0039】
特定の実施形態では、オルガノゲルマトリックスは、実質的に水性の環境において軟組織、硬組織、又はその両方に付着するように構成されている。
【0040】
特定の実施形態によると、活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは麻酔薬、又はこれらの組み合わせである。好ましい実施形態では、活性剤は、セファロスポリン、アミノグリコシド、グリコペプチド、フルオロキノロン、リポペプチド、カルバペネム、リファマイシン、及び抗真菌薬、並びにこれらの組み合わせから選択される。好適な例示的な活性剤としては、セファゾリン、セフロキシム、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、ダプトマイシン、メロペネム、エルタペネム、リファンピン、アンホテリシンB、及びフルコナゾールを挙げることができる。
【0041】
更なる実施形態では、活性剤は、水に対してやや溶けやすいか、溶けやすいか、又は極めて溶けやすい。別の実施形態によると、活性剤は、水に対してやや溶けにくいか、溶けにくいか、極めて溶けにくいか、又はほとんど溶けない。なお更なる実施形態では、活性剤固体粒子は、1μm~約1mmの範囲のD(50)中央粒径分布を有する。
【0042】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、1つ以上の賦形剤を更に含む。特定の実施形態では、1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤若しくは生体適合性親水性小分子、又はこれらの組み合わせを含む。また更なる実施形態では、1つ以上の賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含む。
【0043】
特定の実施形態によると、同時に行われる配合及び送達は、互いに1.5時間以内である。また更なる実施形態では、同時に行われる配合及び送達は、1.0時間以内であり、0.5時間以内であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の面は、例として、ただし限定としてではなく、本開示で検討される様々な実施形態を一般的に示したものである。上記の概要、及び本出願の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより理解が深まるであろう。
図1】Cクリップ構成を有する一実施形態による加熱構成要素の正面斜視図である。
図2A】エラストマー階段状テーパ構成を含む別の実施形態による加熱構成要素の正面斜視図である。
図2B図2Aの加熱構成要素の断面側面図である。
図3】ヒンジ形状構成を有する加熱構成要素の別の実施形態の斜視図である。
図4A】直立構成にある、2つの接続された注射器と、薬物充填用漏斗と、を備えるクレードル形状ベースユニットを含む、加熱構成要素の斜視図である。
図4B】ベースユニット内に配設され、注射器のうちの1つを保持する図3の加熱構成要素を含む、異なる構成の図6Aのクレードル形状加熱装置の斜視図である。
図4C図4Aのクレードル形状ベースユニットの断面図である。
図5】ルアーロックアダプタキャップを含むバイアルと共に使用するための加熱装置の正面図である。
図6A】注射器及びスタンドと共に使用するための加熱装置の正面斜視図であり、このスタンドは、薬剤充填用漏斗を備えるベースユニットに着脱可能に連結するように構成された加熱構成要素を含む。
図6B】加熱及び溶融混合のために組み立てられた図6Aの加熱装置の正面斜視図である。
図7】ベースユニットに着脱可能に連結するように構成された加熱構成要素を含む加熱装置の斜視図である。
図8A】リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で充填された金属秤量ボートの底部に適用され、付着したオルガノゲルマトリックスの写真である。
図8B】脱イオン水の噴霧への曝露後に金属秤量ボートの底部に付着した3つのオルガノゲルマトリックス製剤の写真である。
図9A】金属骨プレート及び鶏大腿部の周囲組織に適用された、トルイジンブルーO染料を含むオルガノゲルマトリックスの適用を示す写真である。
図9B】灌注し、プレートの上方で皮膚が縫合された状態の骨プレートを手で擦った後の、図9Aの適用されたオルガノゲルマトリックスを示す写真である。
図10A】鶏大腿部の皮膚切開を通して適用された、トルイジンブルーO染料を含むオルガノゲルマトリックスの経皮注射を示す写真である。
図10B】経皮注射後の、図10Aの鶏大腿部の露出した筋肉及び筋膜へのオルガノゲルマトリックスの分布を示す写真である。
図10C】オルガノゲルの皮下注射後に回復した筋組織の断面図である。
図10D】鶏の筋肉及び皮下組織上のトルイジンブルーO染料を含有するオルガノゲルマトリックスの写真である。
図11】5分間にわたる、溶融状態からの半固体オルガノゲルマトリックスの再構成を示す写真である。
図12A】オルガノゲルマトリックスの温度及び熱値を示す示差走査熱量計グラフである。
図12B】賦形剤の添加を含む、図12Aのオルガノゲルマトリックス製剤の温度及び熱値を示す示差走査熱量計グラフである。
図13】およそ2分で6グラムのオルガノゲルマトリックスを溶融する、電池駆動式加熱装置の写真である。
図14A】室温で混合された3つのオルガノゲル薬物デポ製剤からの硫酸ゲンタマイシンの14日累積放出プロファイルを示すグラフである。
図14B】3つの溶融混合オルガノゲル薬物デポ製剤からの硫酸ゲンタマイシンの14日累積放出プロファイルを示すグラフである。
図14C】2つの公開されたヒドロゲル系からの放出プロファイルに対して、図14Bの3つのオルガノゲル薬物デポ製剤の放出プロファイルを比較するグラフである。
図15】4つの溶融混合オルガノゲル薬物デポ製剤の7日累積放出プロファイルを示すグラフである。
図16】オルガノゲルから送達されたゲンタマイシンに対する、合成レベルのゲンタマイシンから整形外科用埋め込み物上で増殖させた、3日黄色ブドウ球菌バイオフィルムのコロニー形成単位(CFU)の対数減少のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本文書において、「a」又は「an」なる語は、1つ又は1つよりも多くのものを含むために用いられ、「又は」なる語は、特に断らないかぎりは非限定的な「又は」のことを指して用いられる。更に、本明細書で用いられ、他の意味で定義されていない語法又は用語法は、あくまで説明を目的としたものであって限定を目的としたものではない点を理解されたい。値の範囲が表されている場合、別の実施形態においては、ある特定の値から、及び/又は他の特定の値までが含まれる。同様に、先行する「約」によって値が近似の形式で表現された場合、その特定値により別の実施形態が形成されることが理解されるであろう。範囲はいずれも包括的であり、組み合わせが可能である。更に、範囲で記述される値への言及は、その範囲内のあらゆる値が含まれる。明確にするために別々の実施形態として本明細書に述べられる本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて示される場合もある点も認識されるであろう。逆に、簡潔のために単一の実施形態として記載される本発明の様々な特徴はまた、別個に、又は任意の下位の組み合わせで提示されてもよい。
【0046】
所与の溶媒における所与の溶質の溶解度に関する記述用語は、米国薬局方(USP)によって理解され、使用されるような用語の使用を参照する。
【0047】
本明細書で使用するとき、「極めて溶けやすい」とは、1部の溶質に対して1部未満の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「溶けやすい」とは、1部の溶質に対して約1~約10部の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「やや溶けやすい」とは、1部の溶質に対して約10~約30部の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「やや溶けにくい」とは、1部の溶質に対して約30~約100部の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「溶けにくい」とは、1部の溶質に対して約100~約1,000部の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「極めて溶けにくい」とは、1部の溶質に対して約1,000~約10,000部の溶媒が必要であることを意味する。本明細書で使用するとき、「ほぼほとんど溶けない」又は「ほとんど溶けない」とは、1部の溶質に対して約10,000部以上の溶媒が必要であることを意味する。
【0048】
本明細書で使用するとき、オルガノゲルの特性を説明する際に使用する「半固体」は、オルガノゲルマトリックス又はオルガノゲル薬物デポは、力が外因的に印加されなければ流動しないが、材料は、例えば、注射器から分注される、又は手術部位内の組織全体に手動で広げられる際には流動することを意味する。この定義には、ビンガム塑性体が挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
本明細書で使用するとき、「溶融」は、固体又は半固体のオルガノゲルマトリックス又はオルガノゲル薬物デポの液体状態への状態変化である。
【0050】
本明細書で使用するとき、「オルガノゲル化剤」は、その単量体サブユニットによって定義される固体又は半固体の有機化合物であり、油など生体適合性有機溶媒と接触して配置されると、有機溶媒を安定化させるネットワークを形成し、オルガノゲルを形成するように作用する。特定の実施形態では、ネットワークは、三次元線維ネットワークである。
【0051】
本明細書で使用するとき、「オルガノゲルマトリックス」は、少なくともオルガノゲル化剤、及び油など生体適合性有機溶媒で構成されるゲルである。本開示によるオルガノゲル化剤は、1つ以上の賦形剤を更に含み得る。典型的には、オルガノゲルマトリックスが生体適合性有機溶媒の大部分の重量パーセントを構成すると一般に理解されているが、本明細書に記載のオルガノゲルマトリックスは、いくつかの実施形態では、等量の各成分を含み得、更なる実施形態では、オルガノゲル化剤が大多数の重量成分であり得る。
【0052】
本明細書で使用するとき、「術中」とは、外科手術中の期間を意味する。
【0053】
本明細書で使用するとき、「手術前後」とは、外科手術中(すなわち、術中)の時間枠、並びに外科手術前の適当な期間を意味する。本開示の目的のために、適当な期間は、外科手術の6~8時間以内であると見なすことができる。
【0054】
本明細書で使用するとき、「同時に」とは、軟組織若しくは硬組織、又はその両方へのオルガノゲル薬物デポの送達が、オルガノゲル薬物デポの調製開始から2時間以内の任意の期間内、例えば、1.5時間、1.0時間、45分、30分、20分、若しくは10分、又は2時間未満以内の範囲の任意の範囲若しくは組み合わせであるように、2時間未満以内を意味する。
【0055】
本明細書で使用するとき、「非滅菌」は、ウイルス、細菌、異物、又は任意の他の潜在的に感染を生じさせる成分を含む環境、場所、又は表面を意味する。
【0056】
本明細書で使用するとき、「開放創」は、皮膚が損傷し、下層の筋膜、筋肉、骨、又は他の内部器管が外部環境に曝露されるように、皮膚が裂かれる、切断される、又は穿刺される外傷性損傷を意味する。このような開放創は、皮膚に対する裂傷、擦傷、剥離、穿刺、又は穿通の結果であり得、汚染の可能性を有し得る。
【0057】
本開示は、手術部位で局所薬物デポとして使用するために活性剤の固体粒子を含有するオルガノゲルマトリックスについて記載する。開示されるオルガノゲル薬物デポは、生体適合性、疎水性、組織付着性、埋め込み物付着性、及び耐移動性である制御放出マトリックスの利点を提供し、注射可能であるか、又は手動で適用され、手術部位における治癒を阻害しない。本開示の開示される送達プロセスは、予めコーティングされた、又は他のタイプの予め充填された、若しくは固定用量の医療用埋め込み物とは対照的に、医療専門家が、個々の患者の特定のニーズ及びリスク因子に基づいて活性剤及び放出速度を選択することができるという更なる利点を有する。
【0058】
開示されるオルガノゲル薬物デポ及び送達プロセスの更なる利点は、調製及び急性外傷性損傷部位(例えば、戦闘損傷又は機械事故)など非滅菌開放創への送達を同時に行うことができ、創傷部位の組織に所望どおり付着して、例えば感染予防又は疼痛緩和など必要な治療効果を達成することである。
【0059】
オルガノゲルマトリックスは、低温溶融、調整可能な放出、並びに医療専門家が、手術前後に、特に術中に抗菌薬、麻酔薬、又は他の薬物送達デポを製剤化できるようにする、活性剤粒子(例えば、医薬品有効成分(API)粉末)の室温又は溶融再構成のための様々な戦略という利点を有する。更に、オルガノゲルマトリックスは、インビボ条件など水性環境における、硬組織表面及び軟組織表面の両方、並びに金属表面に対する適用及び滞留を可能にする。これにより、埋め込み可能な整形外科用装置など埋め込み可能な医療装置を、内固定の完了後、かつ縫合前の最終灌注の前後にオルガノゲル薬物デポでコーティングすること、又は代替的に、医療用装置の埋め込み前にオルガノゲル薬物デポでコーティングすることができ、その結果、オルガノゲル薬物デポ及び埋め込み可能な医療装置が手術部位に同時に送達される。
【0060】
例えば、特定の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、15分以内に調製されてよく、手術部位への送達に最大で少なくとも6~8時間先立っての調製を可能にするのに十分に安定である。これにより、送達時又は送達前後に薬物分子及び送達期間を選択する際に利用可能な全ての患者データが含まれるように、オルガノゲル薬物デポの手術前後又は術中の調製が可能になる。当然のことながら、特定の他の実施形態では、オルガノゲルマトリックスは、手術前後の期間に先立つ期間に調製され得、例えば、オルガノゲルマトリックスの製造業者は、組成物を現地外の場所で調製し、組成物を手術場所に輸送することができ、この時点で、活性剤の固体粒子とのオルガノゲルマトリックスの手術前後の配合が生じ得る。
【0061】
本開示のオルガノゲル薬物デポは、細菌定着の局所的予防又は疼痛緩和に臨床的に関連する十分な期間(典型的には、約1~14日の範囲内)の活性剤送達を更に提供することができ、手術部位を取り囲む組織、及び適用可能な場合には、手術部位にある任意の埋め込み可能な医療用装置の両方を保護する(例えば、抗菌剤、抗生物質、又は局所麻酔薬が所望の目的の活性剤である場合など)のに十分な用量強度を有する。例えば、特定の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、例えば、6時間未満、又は12時間未満、又は1日未満~約1~3日など急性投与用に構成され得る。特定の他の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、例えば4~7日の範囲など中投与期間用に構成され得る。更なる実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、例えば、7~14日間など長投与期間用に構成され得る。また更なる実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、最大3~4週間の長放出投与期間用に構成され得る。当然のことながら、複数の活性剤がオルガノゲル薬物デポで用いられる実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、オルガノゲル薬物デポ内に配合された、選択された活性剤の放出プロファイルに基づいて、複数の投与プロファイル(例えば、急性及び長期)を有するように構成され得る。更に、本開示のオルガノゲル薬物デポは、前述のように抗生物質含有セメントを使用する場合と比較して、手術部位における標準的な外科的軟組織縫合術を可能にするのに十分低いバルク質量を有する。更に、オルガノゲルマトリックスは、分子量、logP値など異なる特性を有する複数の活性剤の制御放出を可能にし得、このことは、典型的にはインビボで異なる放出プロファイルをもたらす。
【0062】
本開示の更に別の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、外因性の力を加えることなく、オルガノゲル薬物デポが実質的に流動性を呈さないように十分に高い粘度範囲に対して、より低い下限を有する。更に、オルガノゲル薬物デポは、機械的力(例えば、手又は手術道具若しくは装置)をオルガノゲル薬物デポに加えることにより、軟組織若しくは硬組織など手術部位内若しくはその付近の必要な場所、又は手術部位にある任意の埋め込み可能な医療装置へのオルガノゲル薬物デポの均一な広がり又は分布(すなわち、剪断)が可能になるように、十分に低い粘土範囲に対する上限を有する。
【0063】
本開示によると、手術部位に活性剤を送達する方法が記載され、本方法は、
制御放出用に構成されたオルガノゲル薬物デポを形成するように、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を手術前後に配合する工程と、
オルガノゲル薬物デポを手術部位に術中に送達する工程と、を含み、
オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含み、
オルガノゲル薬物デポは、術中送達工程中に固体状態又は半固体状態である。
【0064】
本開示の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含む。特定の実施形態では、オルガノゲル化剤は、低分子量オルガノゲル化剤(LMOG)として既知のオルガノゲル化剤類からのものである。LMOGは、自己組織化ゲルネットワーク、例えば、線維ネットワークを形成する能力で特徴付けられる。自己組織化能力は、個々の単量体サブユニット間の非共有相互作用の形成から生じ得る。特定の実施形態によると、好適なオルガノゲル化剤は、脂肪酸及びその誘導体を含み得る。例えば、脂肪酸、例えばステアリン酸(steric acid)について考慮すると、好適な実施形態は、ステアリン酸(脂肪酸)、ステアリン酸ナトリウム(脂肪酸塩)、及びソルビタンモノステアレート(脂肪酸エステル)を含むであろう。好適なオルガノゲル化剤は、n-アルカンも含み得る。更なる実施形態では、好適なオルガノゲル化剤は、少なくとも約37℃の融点を有し、特定の実施形態では、約80℃の高さの融点を有し得るオルガノゲル薬物デポをもたらす。
【0065】
特定の実施形態によると、生体適合性有機溶媒は、米国食品医薬品局によりヒトでの使用が承認された有機溶媒である。特定の実施形態では、生体適合性有機溶媒は、植物系若しくは動物系の油、又はそれらの合成誘導体である。特定の実施形態では、油は、1つ以上の脂肪酸を含む。また更なる実施形態では、1つ以上の脂肪酸は、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、又はこれらの組み合わせ若しくは混合物を含み得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の脂肪酸は、遊離脂肪酸を含み得る、又はトリグリセリドの形態の脂肪酸、又はこれらの組み合わせ若しくは混合物を含み得る。一実施形態では、1つ以上の脂肪酸は、例えば、綿実油の主要成分であるリノール酸を含む。また更なる実施形態では、油は、20℃を下回る融点を有する。
【0066】
特定の実施形態によると、活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは麻酔薬、又はこれらの組み合わせである。好ましい実施形態では、活性剤は、セファロスポリン、アミノグリコシド、グリコペプチド、フルオロキノロン、リポペプチド、カルバペネム、リファマイシン、及び抗真菌薬、並びにこれらの組み合わせから選択される。好適な例示的な活性剤としては、セファゾリン、セフロキシム、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、ダプトマイシン、メロペネム、エルタペネム、リファンピン、アンホテリシンB、及びフルコナゾールを挙げることができる。好適な麻酔薬としては、例えば、ベンゾカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アルチカイン、ジブカイン、リドカイン、プリロカイン、プラモキシン、ジクロニン、及びブピバカインを挙げることができる。
【0067】
特定の実施形態によると、活性剤は、米国薬局方(USP)によって定義されるように、水に対してやや溶けやすいか、溶けやすいか、又は極めて溶けやすい。別の実施形態では、活性剤は、USPによって定義されるように、水に対してやや溶けにくいか、溶けにくいか、極めて溶けにくいか、又はほとんど溶けない。
【0068】
特定の実施形態によると、活性剤の固体粒子は、オルガノゲルマトリックスの有機溶媒成分内に配置される。また更なる実施形態では、固体粒子は、例えば、約1μm~約10μm、約1μm~約5μm、約5μm~約10μm、約10μm~約20μm、約10μm~約50μm、約1μm~約50μm、約50μm~約100、約1μm~約100μm、約100μm~約500μm、又は約100μm~約1000μmの範囲など約1~1000μmの範囲のD(50)粒径(体積分布による)を有し得る。
【0069】
特定の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、約1重量%~30%重量%の範囲の活性剤含有量を有する。特定の実施形態では、活性剤含有量は、例えば、1%~5%、1%~10%、5%~10%、10%~20%、5%~20%、10%~30%、20%~30%の範囲、約10%、約20%、若しくは約25%、又は上記に列挙した範囲の任意の組み合わせであり得る。
【0070】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、例えば、オルガノゲルマトリックスが水に対して1g/L未満の溶解度を有するように、極めて溶けにくい又はほとんど溶けない。更なる実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、約5:95~約70:30の範囲のオルガノゲル化剤の生体適合性有機溶媒に対する重量比を有し得る。また更なる実施形態では、重量比は、約30:70~約50:50の範囲であり得る。例えば、重量比は、10:90、25:75、30:70、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、又は70:30であり得る。
【0071】
本開示によると、また図1図2を参照すると、配合することは、オルガノゲルマトリックスを加熱してマトリックスを溶融させ、固体粒子を溶融したマトリックスに組み込む(例えば、懸濁する)ことを含み得る。本方法は、固体粒子を組み込んだ後に、オルガノゲル薬物デポを形成するために溶融したマトリックスを冷却することを更に含み得、薬物デポは固体状態又は半固体状態である。更なる実施形態では、手術前後の配合は、術中配合である。いくつかの実施形態では、溶融したマトリックスを冷却することは、約10分以内、例えば5分以内で行われる。別の実施形態では、配合することは、オルガノゲル薬物デポを形成するために、固体状態又は半固体状態のオルガノゲルマトリックスと、固体粒子との間での物理的混合を含み得、薬物デポは固体状態又は半固体状態である。また更なる実施形態では、配合することは、加熱と物理的混合との組み合わせを含み得る。
【0072】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、1つ以上の賦形剤を更に含み得る。特定の実施形態では、1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤若しくは生体適合性親水性小分子、又はこれらの組み合わせを含む。また更なる実施形態では、生体適合性親水性小分子は、マトリックスの水溶性を増加させ得る。更なる実施形態では、小分子は、約20,000ダルトン(20kD)以下の重量平均分子量を有する。特定の実施形態では、1つ以上の賦形剤は、PEG10k、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含み得る。
【0073】
特定の実施形態によると、オルガノゲル薬物デポは、術中に、カニューレを通じた経皮的注射器注入を介して手術部位に送達される。更なる実施形態では、手術部位(埋め込み可能な医療装置を有する又は有さない)は手術的に開放され、薬物デポは手術部位の軟組織又は硬組織へと術中に送達される。1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含む手術では、オルガノゲル薬物デポの術中送達は、例えば、金属表面又は整形外科用埋め込み物など埋め込み可能な医療用装置の外側表面に隣接して、又はその上に直接送達することを更に含み得る。特定の追加の実施形態では、オルガノゲル薬物デポは、まず手術部位外の埋め込み可能な装置に術中に適用され、次いで、埋め込み可能な医療装置を有する手術部位に術中に送達される。
【0074】
本開示によると、手術部位に、又は記載したように非滅菌開放創部位に局所送達するためのオルガノゲル薬物デポを調製するためのシステムも記載される。このシステムは、オルガノゲル化剤及び油を含むオルガノゲルマトリックスと、活性剤の固体粒子と、外側表面を有する少なくとも1つの壁を含む容器であって、オルガノゲル及び活性剤固体粒子を収容することができる容積を画定する、容器と、外側表面に接触し、容器にある量の熱を供給するように構成された加熱構成要素と、を含む。
【0075】
システムの特定の実施形態では、容器は注射器である。別の実施形態では、容器はバイアルである。特定の例では、容器は、具体的には加熱構成要素の形状を補完する(compliment)ように形成され得る。特定の他の例では、バイアルは、当初の薬物製造バイアルであってよい。
【0076】
また更なる実施形態では、システムは、容器が第1の容器であり、追加の容器が第2の容器であるように、複数の容器を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の容器は第1の開口部を有し、第2の容器は第2の開口部を有し、第1の開口部は、第2の開口部に接続するように適合される。
【0077】
図1図3を参照すると、加熱構成要素10が開示されており、加熱構成要素10は内壁17を画定する。いくつかの実施形態では、内壁17は、少なくとも1つの加熱要素19を含み得、更に、内壁17は、少なくとも1つの加熱要素19がオルガノゲルマトリックスに熱を供給するように、容器の外側表面(図示なし)に接触するように構成されている。
【0078】
図1及び図3などに示す特定の実施形態では、内壁17は、加熱構成要素10の長さに沿ってほぼ均一の円筒形の形状を画定する。図2A図2Bなどに示す、また更なる実施形態では、例えば、内壁17が第1の領域で第1の断面径dを画定し、第2の領域で第2の断面径dを画定し、第1の断面径は、第2の断面径より大きいように、内壁17は、非均一の断面積を画定し得る。
【0079】
特定の実施形態では、加熱要素19は、実質的に加熱構成要素10の長さに沿って均一の加熱プロファイルを提供するように構成されている。他の実施形態では、加熱要素19は、加熱装置10が少なくとも第1の加熱プロファイルと、第2の加熱プロファイルと、を含むように、内壁17に沿って1つ以上の加熱プロファイルを提供することができるように構成されている。
【0080】
図1を参照すると、Cクリップの形状に構成された加熱構成要素10と、ベースユニット12と、を含む加熱装置15が示されている。特定の実施形態によると、図1に示すように、加熱構成要素10及びベースユニット12は一体的にモノリシック加熱装置15に形成される。図7などに示す別の実施形態では、加熱構成要素10及びベースユニット12は、加熱構成要素10がベースユニット12に着脱可能に連結できるように構成されている。ベースユニット12は、特定の実施形態では、電源、及び加熱構成要素にエネルギーを供給し、加熱構成要素10の1つ以上の加熱プロファイルを構成するために必要な電子機器を収容し得る。特定の他の実施形態では、加熱装置15が加熱構成要素10のみからなるように、ベースユニット12は任意である。これらの実施形態では、加熱構成要素10は、自身の電力を提供して熱を発生させることができる。加熱構成要素10は、一実施形態によると、その長さに沿ってほぼ円筒形の形状の内壁17を画定し、内壁17は、その表面の長さに沿って配設された1つ以上の加熱要素19を含む。内壁17は、例えば、注射器又はバイアルなど容器(図示せず)を受容するように成形された空洞31を画定する。加熱構成要素10は、容器とのスナップ嵌め係合又は摩擦嵌め係合に依存し得るCクリップ構成を有するので、ある範囲の断面直径を有する容器を収容することができる。
【0081】
図2A図2Bを参照すると、加熱構成要素10は、階段状チャンバの形状で構成されて示されている。加熱構成要素10は内壁17を更に画定し、内壁17は、その長さに沿って1つ以上の加熱要素19を含む。内壁17は、その長さに沿って1つ以上の断面直径を有する空洞31を画定し、その結果、加熱構成要素10は、第1の領域における第1の断面直径dと、第2の領域における第2の断面直径dとを含み得、第1の断面直径は、第2の断面直径よりも大きい。したがって、加熱構成要素10は、特定の実施形態によると、より小さい断面直径を有する容器(図示せず)を第2領域で受容し、より大きい断面直径を有する容器を第1の領域で受容するように構成されている。加熱構成要素10は、特定の実施形態では、空洞領域31内へと延在する1つ以上のリップ23を更に含み得、その結果、例えばリップは、摩擦嵌め又は他の機械的拘束によって容器を固定するように適合される。
【0082】
図3を参照すると、加熱構成要素10は、リビングヒンジ(又はクラムシェル型ヒンジ)の形状で構成されて示されている。加熱構成要素10は、1つ以上の加熱要素19を含む内壁17を更に画定する。内壁17は、機械的摩擦嵌めによって容器(図示せず)を受容し、固定するように成形された空洞31を画定する。加熱構成要素10は、ヒンジの形状で構成されているため、断面直径の範囲を有する容器を収容することができる。
【0083】
図4A図4Cを参照すると、加熱装置15は、細長いクレードルの形状に構成されたベースユニット12を有して示されている。特定の実施形態によると、図4Aに示すように、加熱装置15は、加熱構成要素10及びベースユニット12が単一の一体型本体を形成するように、ベースユニット12と一体的に形成された加熱構成要素10を更に含む。加熱装置15は、1つ以上の加熱要素19を含む内壁17を更に画定する。内壁17は、容器35を受容するように成形された空洞31を画定する。更に、図4Aに示すように、装置本体15の内壁17は、容器35(ここでは注射器として示す)がオルガノゲルマトリックス、活性剤のいずれか、又はその両方で充填可能であるように、容器35を直立位置に固定することができる寸法である。
【0084】
特定の実施形態によると、図4Bに示すように、加熱装置15は、クレードルの形状に構成されたベースユニット12を含み得、ベースユニット12は、加熱構成要素10(ここに示されるように、図3のヒンジ付き加熱構成要素)がベースユニット12に着脱可能に連結することができる寸法である。加えて、図示のように、加熱構成要素10の内壁17は、容器35が加熱構成要素10の内壁17の加熱要素19と接触しているように、容器35を空洞31内に位置付けることができる寸法である。図4Cは、ベースユニット12及び加熱構成要素10が互いに動作可能に連結されると、電池4、及び加熱構成要素10にエネルギーを提供するために用いられる、対応する電子機器5を収容するベースユニット12の一実施形態を示す。
【0085】
図5を参照すると、ベース12内に一体的に形成された加熱構成要素(図示せず)を含む加熱装置15が示されている。内壁17は、容器(図示せず)を受容するために空洞(図示せず)を画定する。加えて、加熱装置15は、第1の容器(例えばバイアル)の第2の容器(例えば注射器)への接続を容易にするルアーロックアダプタキャップシステムを含み得る。当然のことながら、加熱構成要素10、例えば、所望に応じて対応する形状を有する容器を収容するために、基部12に摺動可能に挿入される、図1図2に示す加熱構成要素などは、ベース12に取り外し可能に連結され得る。
【0086】
図6A図6Bを参照すると、加熱構成要素10と、ベースユニット12と、を含む加熱装置15が示されている。図6Aに示すように、加熱構成要素10はベース12から取り外されている。加熱構成要素10は、空洞(ここに示すように、注射器として示す容器35に占められている)を画定する内壁17を含む。容器35は、内壁に沿って配設された加熱要素19(図示せず)と接触している。加熱構成要素10は、特定の実施形態によると、また本明細書に示すように、電力を供給するために電池4(図示しないが、内部に収容されている)を含む形状及び寸法であり得る。ベース12は、特定の実施形態では、オルガノゲル組成物を調製する際に使用者を支援するために、容器35用のスタンド又は取り付け補助具を含み得る。ベース12は、加熱要素19に1つ以上の加熱プロファイルを提供するために必要な電子機器5を更に含み得る。図6Bに示すように、ベース12及び加熱構成要素10は、加熱プロファイルが空洞31内に配設された容器35に送達され得るように接続される。
【0087】
図7を参照すると、加熱構成要素10と、着脱可能に連結され得るベースユニット12と、を含む加熱装置15が示されている。ベースユニット12は、電源、及び加熱構成要素10に1つ以上の加熱プロファイルを提供するために必要な電子機器を含み得る。加熱構成要素は、1つ以上の加熱要素19を含む内壁17を更に画定する。内壁17は、容器(図示せず)を受容し、固定するように成形された空洞31を画定する。加熱装置15は、動作可能に連結されると、ベースユニット12が加熱構成要素10に加熱プロファイルを提供するように構成され得る。あるいは、ベースユニット12は、加熱構成要素10がベースユニット12から取り外された場合に容器を加熱することができるように、加熱構成要素10を十分な電力で充電することができる。換言すれば、加熱構成要素10は可搬式であり、かつ、ベースユニット12から分離可能であり、それでもなお容器に熱を提供することができる。
【0088】
本開示によると、非滅菌開放創部位に活性剤を送達する方法が記載され、本方法は、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合することと、
オルガノゲル薬物デポを開放創部位に送達することであって、送達時に開放創部位は、非滅菌環境に曝露された軟組織、硬組織、又はその両方を含む、ことと、を含み、
配合する工程及び送達する工程は同時に行われ、
オルガノゲルは、送達する工程中に固体状態又は半固体状態である。
【0089】
本開示の他の実施形態によると、非滅菌開放創部位に活性剤を送達するために非滅菌環境で局所薬物デポを調製する方法は、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合することを含み、
配合する工程は、送達と同時に行われ、
オルガノゲルは、配合中に固体状態又は半固体状態である。
【0090】
特定の実施形態によると、配合及び送達は、例えば、1.5時間、1.0時間、45分、30分、20分、若しくは10分、又は2時間未満以内の範囲の任意の範囲若しくは組み合わせなど、オルガノゲル薬物デポの調製開始から2時間以内の任意の期間内に同時に実行される。
【0091】
特定の実施形態によると、開放創部位は、露出した軟組織、硬組織、及び筋膜、並びに他の下層の内部器管を含み得、その表面はそれぞれ、オルガノゲル薬物デポの送達に好適である。
【0092】
当然のことながら、オルガノゲル薬物デポの先に開示した成分、その特性は、活性剤を調製し、非滅菌開放創部位に送達するというこの治療法に等しく適用される。
【0093】
したがって、特定の実施形態によると、同時に行われる配合及び送達は、互いに2時間以内、例えば、1.5時間以内、1.0時間、又は0.5時間以内である。
【0094】
特定の実施形態によると、配合することは、オルガノゲルマトリックスを加熱してマトリックスを溶融させ、固体粒子を溶融したマトリックスに組み込むことを含む。更なる実施形態では、本方法は、固体粒子を組み込んだ後に、溶融したマトリックスを冷却してオルガノゲル薬物デポを形成することを更に含む。特定の追加の実施形態では、溶融したマトリックスを冷却することは、約10分以下である。
【0095】
特定の実施形態によると、配合することは、固体状態又は半固体状態のオルガノゲルマトリックスと固体粒子との間での物理的混合を含む。
【0096】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、水に対して1g/L未満の溶解度を有する。
【0097】
特定の実施形態では、オルガノゲルマトリックスは、実質的に水性の環境において軟組織、硬組織、又はその両方に付着するように構成されている。
【0098】
特定の実施形態によると、活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは麻酔薬、又はこれらの組み合わせである。特定の実施形態では、抗生物質はゲンタマイシン又はバンコマイシンである。更なる実施形態では、活性剤は、水に対してやや溶けやすいか、溶けやすいか、又は極めて溶けやすい。別の実施形態によると、活性剤は、水に対してやや溶けにくいか、溶けにくいか、極めて溶けにくいか、又はほとんど溶けない。なお更なる実施形態では、活性剤固体粒子は、1μm~約1mmの範囲のD(50)中央粒径分布を有する。
【0099】
特定の実施形態によると、オルガノゲルマトリックスは、1つ以上の賦形剤を更に含む。特定の実施形態では、1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤若しくは生体適合性親水性小分子、又はこれらの組み合わせを含む。また更なる実施形態では、1つ以上の賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含む。
【0100】
特定の実施形態によると、同時に行われる配合及び送達は、互いに1.5時間以内である。また更なる実施形態では、同時に行われる配合及び送達は、1.0時間以内であり、0.5時間以内であり得る。
【実施例
【0101】
金属の付着
図8Aに示すように、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の水性媒体を介して、50:50のソルビタンモノステアレート:リノール酸オルガノゲルマトリックスを金属秤量ボートの底面に適用した。オルガノゲルマトリックスは、PBSの水性媒体を介して、秤量ボートの金属表面に対して良好な付着を示した。
【0102】
別個の実験では、3つの異なるオルガノゲルマトリックス製剤を金属秤量ボートの底面に適用した。オルガノゲル製剤は、30:70、40:60、及び50:50のソルビタンモノステアレート:リノール酸からそれぞれ構成された。インビボで生じ得る水性条件及び流体流をシミュレートするために、スクワートボトルからの脱イオン水で各製剤をしっかりすすいだ。水流によって、40:60及び50:50のオルガノゲルマトリックス製剤は除去されず、30:70のソルビタンモノステアレート:リノール酸の一部は除去されたが、視覚的に明らかな量が残った(図8Bで見ることができる)。
【0103】
これらの結果は、湿潤環境において、本開示のオルガノゲルマトリックス製剤を金属表面、例えば、整形外科用埋め込み物など埋め込み可能な医療装置に適用可能であることを示す。したがって、本明細書に記載の方法は、オレガノゲル薬物デポが、内部固定の完了後に、並びに整形外科用埋め込み部位を縫合する前の最終灌注の前後に、インビボで埋め込み可能な医療装置に適用されることを可能にすることができる。送達時のオルガノゲルマトリックスの固体/半固体状態は、マトリックスが目的部位から離れて移動することを防止し、所望の表面への良好な付着を達成するのに十分に重要であることに更に留意されたい。
【0104】
シミュレートされた整形外科用埋め込み部位へのエクスビボ適用
45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸オルガノゲルマトリックスにトルイジンブルーO染料を充填し(親水性活性剤をシミュレートするため)、シミュレートされたオルガノゲル薬物デポとして、鶏大腿部の整形外科用埋め込み部位に適用した。図9A図9Bに示すように、1つの部位をステンレス鋼プレートと共に開放適用に使用した。図10A図10Bに示すように、第2の部位は、シミュレートされた整形外科用埋め込み部位でのオルガノゲル薬物デポの経皮注射に使用した。オルガノゲルの開放適用(図9A図9B)では、生理食塩水で灌注し、当該部位を手で擦った後であっても、オルガノゲルマトリックスは、皮下汚染されたステンレス鋼プレート、筋肉筋膜、及び皮下組織に付着していたことに留意されたい。シミュレートされた経皮的手術部位(図10A図10B)は、1回の切開で40cmの面積を被覆し、皮下組織及び筋肉筋膜の両方に付着する能力を実証した。
【0105】
オルガノゲルマトリックスの半固体の性質は、マトリックス全体を損なうことなく、大面積にわたる剪断を可能にすると考えられる。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、これは、半固体を安定化させる粒子又は自己組織化構造間の弱いつながりによって促進され得る。オルガノゲルマトリックスの半固体の性質は、図10Cに示すように、隣接する組織構造へのマトリックスの浸透を防止するが(オルガノゲルは筋肉の筋膜に付着するが、筋肉には浸透しないことに留意されたい)、溶出薬物がマトリックスから効果的に放出され、隣接する組織に浸透することは容認する。このような結果は、オルガノゲルマトリックス、また更にはオルガノゲル薬物デポの能力は、インビボ条件下でシミュレートされたときに灌注及び移動の両方に耐性を示すことを実証する。
【0106】
更なる実験では、鶏大腿部組織からのトルイジンブルーO染料(親水性活性剤粒子を表す)の放出について、オルガノゲル薬物デポで被覆した、数片の鶏大腿部組織(筋肉筋膜(図10Dの左上を参照)、皮下組織(図10Dの右上を参照)を調べた。コーティングされた、2つの鶏大腿部組織片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を保持する容器に浸漬した。PBSは、4時間にわたって1時間ごとに交換した。実験は、オルガノゲルマトリックスが、鶏大腿部組織に付着し続け、筋組織又は筋膜に浸透せず、物質の耐移動性を更に支援したことを示した。しかしながら、トルイジンブルーO染料は各時点で緩衝液に放出され、放出されたトルイジンブルーO染料は、筋肉及び皮膚組織の両方に浸透した(図10Dの下を参照)。
【0107】
溶融再構成
45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸のオルガノゲルマトリックス製剤を調製し、加熱して溶融状態を得た。溶融オルガノゲルマトリックスを注射器に充填し、室温に冷却した。マトリックスが視覚的に観察されて固体/半固体状態になるまで、その外観を1分間隔で観察した。図11に示すように、オルガノゲルマトリックスは、およそ5分以内に固体/半固体状態に戻った。
【0108】
熱エネルギー分析
オルガノゲルマトリックスを溶融状態に変換するために必要とされる総熱量を決定するために、2つのオルガノゲルマトリックス製剤を調製した。1つは、45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸である基本製剤、2つ目は、賦形剤(5% PEG10k、0.5% Pluronic F127)を添加した基本製剤などである。-20℃~80℃の各試料を示差走査熱量計(DSC)で測定した。結果として得られた走査のグラフを、図12A図12Bにそれぞれ示す。結果は、室温(およそ20℃)~溶融温度超(およそ70℃)では、約150J/gを要することを示す。この値は、市販の電池式加熱器による限度内に十分入っており、例えば、本明細書に図示し、記載する加熱装置で用いられ得る。
【0109】
一例として、図7に示す実施形態による電池式マイクロプロセッサ制御装置を用いて、5% PEG10k及び0.5% Pluronic F127を含む45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸6グラムを溶融させた。図13に見られるように、溶融チャンバの背後から光を照射して、溶融オルガノゲルマトリックスを保持する容器35を通過する光によって示されるように、溶融中の容器35を通した目視観察を可能にした。完全溶融は、およそ2分間で達成された。熱制御は、マイクロプロセッサ制御に限定されず、電気機械的サーモスタット、電子式サーモスタット、又は正の温度係数を有する加熱要素の使用を含むが、これらに限定されない様々な手段によって達成され得る。あるいは、加熱は、純鉄の酸化鉄への酸化を含むが、これらに限定されない発熱化学反応によって達成され得る。
【0110】
オルガノゲルゲンタマイシン製剤からのインビトロ溶出の方法
オルガノゲル製剤からの硫酸ゲンタマイシンのインビトロ放出を評価するために、およそ193mgの硫酸オルガノゲルゲンタマイシン製剤を、ステンレス鋼ディスク内の13mm径凹部に充填し、37℃のリン酸緩衝生理食塩水60mLを入れたジャーに入れた。緩衝液を、1時間、1日、2日、3日、4日、7日、10日、14日の時点で試料として採取した。1時間を除く全ての時点で、完全な緩衝液交換を行った。各溶出液試料を短時間ボルテックスして、試料が均質になるようにした。次いで、1mLの各溶出試料及び対応する空試料を、別個の15mL滅菌管に移した。次いで、等量の酢酸エチルを各管に添加し、次いで管をボルテックスした、又は手で約10秒間振盪させた。次いで、管を試験管ラックに置き、10~15分間そのままにして、層を分離させた。次いで、酢酸エチル層に溶解した、全てのオルガノゲル成分を含有する上層を、マイクロピペットチップで慎重に除去した。次いで、追加量の酢酸エチルを管に添加し、抽出を再度繰り返して、水性層から全ての追加のオルガノゲル又は賦形剤を除去した。次いで、硫酸ゲンタマイシンを含有する、抽出した水性下層を、UV吸光度により定量化するために誘導体化した。誘導体化反応は、塩基性条件下で、ゲンタマイシン上の3つの一級アミン基とo-フタルアルデヒド(OPA)との反応を伴って、UV吸収フルオロフォアを形成した。簡潔に述べると、空試料(通常1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS))又は抽出した試料のいずれか1mLを15mLの滅菌管に添加した。これに、500μLのイソプロピルアルコール(IPA)及び150μLの塩基性OPAを各管に添加し、次いでボルテックスして混合した。次いで、管を箔で15分間被覆して、室温で誘導体化反応を進行させた。次いで、各試料を使い捨てプラスチックキュベットに移し、試料及び空白試料の吸光度を332nmの分光光度計で測定した。次いで、ベールの法則を用いてゲンタマイシン標準を使用して構築された標準曲線からの補間によって硫酸ゲンタマイシンの定量を決定した。
【0111】
注射器-注射器混合オルガノゲル製剤からのインビトロ溶出
オルガノゲル製剤の3mL注射器に、およそ930mgのオルガノゲル製剤を充填し、第2の注射器に、オルガノゲルの20質量%に等しい微粉化硫酸ゲンタマイシン(およそ187mg)を充填した。室温での注射器-注射器混合によって、微紛化硫酸ゲンタマイシンをオルガノゲルにブレンドした。オルガノゲル製剤は、45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸基本製剤、及び基本製剤+賦形剤を含む2つの追加製剤からなった。1つの賦形剤製剤は、5% PEG10k及び0.5% Pluronic F-127賦形剤の添加を含み、第2の賦形剤製剤は、5% PEG10k及び0.2% Tween 80賦形剤の添加を含んだ。混合製剤は、16.7質量%の硫酸ゲンタマイシンを含有した。図14Aは、室温で注射器-注射器混合を行ったオルガノゲル製剤からの硫酸ゲンタマイシンのインビトロ放出を示す。1日目には、オルガノゲル-硫酸ゲンタマイシン製剤から4~5mgの硫酸ゲンタマイシン(12~17%)が放出され、3日間で8~9mg(26~29%)が放出された。4日目から14日目までは、より低い放出速度が観察され、緩衝液中で観察された累積硫酸ゲンタマイシンの合計パーセントはおよそ41%に達した。注目すべきことに、オルガノゲル製剤からの親水性硫酸ゲンタマイシンの放出は制御されており、バースト放出は認められず、1時間での硫酸ゲンタマイシンの放出は、0.4~1.1mg(1~3%)であった。
【0112】
溶融混合オルガノゲル製剤からのインビトロ溶出
オルガノゲル製剤の3mL注射器に、およそ947mgのグリース製剤を充填し、ガラスバイアルに、オルガノゲルの20質量%に等しい微粉化硫酸ゲンタマイシン(およそ189mg)を充填した。バイアルアダプタを使用して、ガラスバイアルにオルガノゲル製剤を注入した。バイアルを水浴させ、オルガノゲルを溶解させた。次いで、バイアルを振盪して、硫酸ゲンタマイシン粒子を溶融オルガノゲル中で懸濁させ、オルガノゲル+硫酸ゲンタマイシンを注射器に戻して冷却し、オルガノゲル+硫酸ゲンタマイシンの半固体製剤に形成した。溶融混合製剤は、16.7質量%の硫酸ゲンタマイシンを含有した。上記のように、オルガノゲル製剤は、45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸基本製剤及び同一の2つの賦形剤製剤(基本製剤+5% PEG10k及び0.5% Pluronic F-127、並びに基本製剤+5% PEG10k及び0.2% Tween 80)からなった。
【0113】
図14Bは、溶融混合オルガノゲル製剤からの硫酸ゲンタマイシンのインビトロ放出を示す。溶融混合を用いることにより、オルガノゲル製剤からの様々な硫酸ゲンタマイシン放出速度が可能になる。1日目に、基本製剤は、3.3mg(10%)の硫酸ゲンタマイシンを放出し、賦形剤製剤は、1日で8.2mg(25%)及び20.8mg(65%)の硫酸ゲンタマイシンを放出した。上記のように、顕著なバーストは観察されず、1時間で3~7%の硫酸ゲンタマイシンを放出した。基本製剤は、充填された硫酸ゲンタマイシンの32%を2週間にわたって線形に放出した。5% PEG+0.5% F-127製剤は、ゲンタマイシンの53%を4日間で、81%を10日以内に放出した。5% PEG+0.2% Tween 80製剤は、1日目に硫酸ゲンタマイシンの65%を放出し、4日までに79%を放出した。図14Bの放出曲線は、マトリックスへの水浸透及び治療用分子及びマトリックスの溶解を増加させる賦形剤とブレンドすることによって、オルガノゲルマトリックスを「調整」する能力を実証する。溶融混合製剤は、より広範囲の放出速度を提供し、溶融混合形態の基本製剤からの硫酸ゲンタマイシンの累積放出は、室温混合例と比較して低く、その一方では、溶融混合例の賦形剤製剤からの硫酸ゲンタマイシの放出は、室温混合例と比較して速いことを同時に実証した。
【0114】
インビトロ抗生物質溶出におけるオルガノゲル対ヒドロゲル
上記の3つの、図14Bに示した溶融混合オルガノゲル製剤からの硫酸ゲンタマイシン放出を、いくつかのヒドロゲル薬物デポについての公開文献の値と比較した。放出データは、以下のヒドロゲル薬物デポ、つまり1.68%ゲンタマイシン+1.88%バンコマイシンを配合した、Dr.Reddy’s DFA-02(Penn-Barwell JG,Murray CK,and Wenke JC,J Orthop Trauma 2014;28:370-375)、及び1.61%ゲンタマイシン又は3.14%ゲンタマイシンのいずれかを配合したSonoran Biosciences PNDJ(Overstreet D,McLaren A,Calara F,Vernon B,and McLemore R,Clin Orthop Relat Res 2015;473:337-347)について入手可能であった。図14Cのグラフに示すように、Dr.Reddy’s DFA-02からのゲンタマイシン及びバンコマイシンの放出は、1日目に88%を完了し、2日目までに98%を完了した。SonoranのPNDJ製剤は、ほぼ100%の放出に達するまでに5~7日を要し、2日目までに59%又は81%を放出した。対照的に、基本オルガノゲル製剤は、2日目までに11%のみ、第1週に22%を放出した。賦形剤の添加によって、2日間の放出を36%又は68%のいずれかにすることができた。この比較は、オルガノゲルがヒドロゲルで達成されるよりも長期間の薬物放出を達成してよく、放出速度は、適切な賦形剤を選択することにより調整可能であることを実証する。
【0115】
インビトロ溶出プロファイルでの疎水性対親水性
45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸組成物を有する2つのオルガノゲルマトリックス基本製剤は、半固体状態での室温の物理的な注射器-注射器混合によって調製した。1つのオルガノゲルマトリックス製剤は、親水性活性剤をシミュレートするために、トルイジンブルーO染料の10重量%添加を含んだ。他のオルガノゲルマトリックス製剤は、比較的より疎水性の活性剤であるリファンピンを10重量%含んだ。前述の基本製剤を使用し、5% PEG10k及び0.5% Pluronic F-127を添加した、2つの追加のオルガノゲルマトリックス賦形剤製剤を調製した。次いで、これらの製剤をステンレス鋼ディスク内の13mm径凹部に入れ、そして37℃の60mLのPBS+20%ウシ胎児血清を含むジャーに入れ、それぞれの活性剤溶出プロファイルを測定した。各時点で、溶出剤の色を、PBS+20%ウシ胎児血清中0、1、2.5、3.75、5、7.5、10、15、20、30、40、及び50ppmのリファンピン又はトルイジンブルーO染料で調製した視覚基準と比較した。図15のグラフに示すように、オルガノゲル薬物デポの各対(すなわち、基本製剤及び賦形剤製剤)は、類似の速度で活性剤を放出した。賦形剤含有製剤は、最初の3日間で活性剤のおよそ45%を溶出したが、基本製剤は、活性剤のおよそ25%を溶出した。7日目には、両賦形剤製剤は、活性剤のおよそ53%を溶出したが、基本製剤では、3日目~7日目のリファンピンの放出とトルイジンブルーOの放出との間に偏差があった。リファンピン試料は44%に達したが、トルイジンブルーO試料は23%に留まった。したがって、オルガノゲルマトリックス製剤は、2つの異種活性剤を、1週間の期間にわたって類似の速度で血清含有緩衝液に溶出させ得ることが分かる。
【0116】
更に、本開示のオルガノゲルマトリックスは、その組成物の疎水性の性質に起因して控え目な水溶解度を有するため、活性剤粒子の溶出は、(親水性又は疎水性活性剤のいずれかに関係なく)溶解に利用可能な水によって制限され、続いて疎水性マトリックスを通じて拡散する。上述したように、著しい欠点は、DAC-Gel、Dr.Reddy’s DFA-02、Sonoran PNDJ、及びPoloxamer 407熱可逆ヒドロゲルなどヒドロゲル薬物デポに関連する。これらの例示的な親水性薬物デポは、薬物が水溶性である、水分の豊富な環境であり、放出は、水分の豊富なネットワークを通じた拡散によってのみ制限される。結果として、ヒドロゲルマトリックスは、本明細書に記載のオルガノゲルマトリックスの長期放出期間及び高薬物充填率を達成することができない。オルガノゲルマトリックス内で利用可能な水量が限定されていることの更なる利点は、デポ内での活性剤の相対的安定性である。活性剤が粒子状の場合、分解に伴う化学反応に対して、限定的な感受性を有する。更に、溶解が制限されたアプローチは、疎水性分子及び親水性分子の両方の類似速度での放出を可能にする。
【0117】
抗菌効果対黄色ブドウ球菌バイオフィルム
15mL管内の0.3%トリプチケースソイブロス(tryptic soy borth)(TSB)中10 CFU/mLの接種材料内で4時間にわたって転動させて、4組の標準的なステンレス鋼外傷プレートに黄色ブドウ球菌を定着させた。植菌したプレートを、供給間に流れのない、4時間ごとに間欠的な0.3% TSB培地補給を用いて、横流動型セル内に配置した。0.3% TSB培地でのバイオフィルム成長を、37℃で3日間進行させて、成熟バイオフィルムを作製した。各プレートをPBS中で2回すすぎ、次いで、1日間の処理のために滅菌横流動型セルに戻した。1組のプレートは対照群としての役割を果たし、0.3% TSB成長培地が与えられた。第2の組は、0.3% TSB+1μg/ml硫酸ゲンタマイシンで処理した。第3の組は、0.3% TSB+10μg/ml硫酸ゲンタマイシンで処理した。これらの濃度は、硫酸ゲンタマイシンの全身投与の臨床的に関連する血中濃度の範囲を表し、ここでは、0.3% TSB培地への補給として提供される。第4の群は、外傷プレートを付着した細菌バイオフィルムと接触させることなく成長室内に配置された、590mgのオルガノゲル薬物デポからなる。オルガノゲル薬物デポは、45:55のソルビタンモノステアレート:リノール酸と溶融混合された、16.7重量%の硫酸ゲンタマイシンを含有し(重量比1:5の薬物:オルガノゲルマトリックスに対応する)、5% PEG10k及び0.5% Pluronic F-127を賦形剤として添加した。この群に、抗生物質を含まない0.3% TSB成長培地を与えた。全4組において、4分間の横流動によって培養培地を4時間ごとに1回交換した。成長室内のオルガノゲル製剤から放出された硫酸ゲンタマイシンを4時間ごとに洗い流したため、抗菌活性を維持するためには、製剤から追加の硫酸ゲンタマイシンを溶出させる必要があったことに留意されたい。図16に示すように、オルガノゲル薬物デポから放出された硫酸ゲンタマイシンは、外傷プレートでの3日間の黄色ブドウ球菌バイオフィルムの成長に対して硫酸ゲンタマイシンの全身送達よりも効果的であった。重要なことには、埋め込み物の第2の組及び第3の組は、24時間にわたって臨床的に関連する濃度の硫酸ゲンタマイシンに連続的に曝露されたとしても、オルガノゲル薬物デポは、4時間ごとに硫酸ゲンタマイシンが洗い流されているにもかかわらず、バイオフィルム内での細菌の死滅においてより高い有効性を示した。
【0118】
〔実施の態様〕
(1) 活性剤を手術部位に送達する方法であって、
制御放出用に構成されたオルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を手術前後に配合することと、
前記オルガノゲル薬物デポを前記手術部位に術中に送達することと、を含み、
前記オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含み、前記オルガノゲル薬物デポは、前記術中送達の工程中に固体状態又は半固体状態である、方法。
(2) 手術部位に送達するために活性剤を有する局所薬物デポを調製する方法であって、
制御放出用に構成されたオルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を手術前後に配合することを含み、
前記オルガノゲルマトリックスは、オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含み、前記オルガノゲル薬物デポは、前記オルガノゲル薬物デポの送達前に固体状態又は半固体状態である、方法。
(3) 配合することは、前記オルガノゲルマトリックスを加熱して前記マトリックスを溶融させ、前記固体粒子を溶融した前記マトリックスに組み込むことを含む、実施態様1又は2に記載の方法。
(4) 前記方法は、前記固体粒子を組み込んだ後に、前記溶融したマトリックスを冷却して前記オルガノゲル薬物デポを形成することを更に含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記溶融したマトリックスを冷却することは、約10分以内である、実施態様4に記載の方法。
【0119】
(6) 配合することは、固体状態又は半固体状態の前記オルガノゲルマトリックスと前記固体粒子との間での物理的混合を含む、実施態様1又は2に記載の方法。
(7) 前記オルガノゲルマトリックスは、37℃を上回る融点を有する、実施態様1~6のいずれかに記載の方法。
(8) 前記生体適合性有機溶媒は、20℃を下回る融点を有する、実施態様1~7のいずれかに記載の方法。
(9) 前記固体粒子は、前記生体適合性有機溶媒内に配置される、実施態様1~8のいずれかに記載の方法。
(10) 前記オルガノゲルマトリックスは、水に対して1g/L未満の溶解度を有する、実施態様1~9のいずれかに記載の方法。
【0120】
(11) 前記オルガノゲル化剤は、1つ以上の脂肪酸、又は脂肪酸の塩若しくはエステル、及びこれらの混合物を含む、実施態様1~10のいずれかに記載の方法。
(12) 前記脂肪酸エステルはソルビタンモノステアレートである、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記生体適合性有機溶媒は、植物若しくは動物由来の油、又はそれらの合成誘導体である、実施態様1~12のいずれかに記載の方法。
(14) 前記油は1つ以上の脂肪酸を含む、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記1つ以上の脂肪酸はトリグリセリドを含む、実施態様14に記載の方法。
【0121】
(16) 前記1つ以上の脂肪酸はリノール酸を含む、実施態様14に記載の方法。
(17) 前記活性剤は、抗菌剤、抗生物質、若しくは局所麻酔薬、又はこれらの組み合わせである、実施態様1~16のいずれかに記載の方法。
(18) 前記活性剤は抗菌剤である、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記活性剤はゲンタマイシン、バンコマイシン、エルタペネム、又はトブラマイシンである、実施態様17に記載の方法。
(20) 前記活性剤は局所麻酔薬である、実施態様17に記載の方法。
【0122】
(21) 前記活性剤は、水に対してやや溶けやすいか、溶けやすいか、又は極めて溶けやすい、実施態様1~20のいずれかに記載の方法。
(22) 前記活性剤は、水に対してやや溶けにくいか、溶けにくいか、極めて溶けにくいか、又はほとんど溶けない、実施態様1~20のいずれかに記載の方法。
(23) 前記固体粒子は、1μm~約1mmの範囲のD(50)中央粒径を有する、実施態様1~22のいずれかに記載の方法。
(24) 前記オルガノゲルマトリックス中のオルガノゲル化剤の生体適合性有機溶媒に対する重量比は、約5:95~約70:30の範囲である、実施態様1~23のいずれかに記載の方法。
(25) 前記オルガノゲルマトリックスは1つ以上の賦形剤を更に含む、実施態様1~24のいずれかに記載の方法。
【0123】
(26) 前記1つ以上の賦形剤は、生体適合性界面活性剤若しくは生体適合性親水性小分子、又はこれらの組み合わせを含む、実施態様25に記載の方法。
(27) 前記1つ以上の賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、Pluronic F127、Tween 80、又はこれらの任意の組み合わせの混合物を含む、実施態様25に記載の方法。
(28) 前記手術部位は1つ以上の埋め込み可能な医療装置を含む、実施態様1、又は実施態様1に従属するときの実施態様3~27のいずれかに記載の方法。
(29) 前記1つ以上の埋め込み可能な医療装置は、埋め込み可能な整形外科用装置を含む、実施態様28に記載の方法。
(30) 前記1つ以上の埋め込み可能な医療装置は、金属表面を有する、少なくとも1つの埋め込み物を含む、実施態様28に記載の方法。
【0124】
(31) 前記手術部位は手術的に開放され、前記オルガノゲル薬物デポは、前記金属表面へと術中に送達される、実施態様30に記載の方法。
(32) 前記オルガノゲル薬物デポは、前記手術部位外の1つ以上の埋め込み可能な医療装置に適用され、前記オルガノゲル薬物デポは、前記1つ以上の埋め込み可能な医療装置と同時に前記手術部位へと術中に送達される、実施態様1、又は実施態様1に従属するときの実施態様3~27のいずれかに記載の方法。
(33) 前記オルガノゲル薬物デポは、経皮的針又はカニューレを通じて注射器から注入することによって前記手術部位に術中に送達される、実施態様1、又は実施態様1に従属するときの実施態様3~31のいずれかに記載の方法。
(34) 前記オルガノゲルマトリックスは、実質的に水性の環境において金属表面に付着するように構成されている、実施態様1~33のいずれかに記載の方法。
(35) 手術部位に局所送達するためのオルガノゲル薬物デポを調製するためのシステムであって、
オルガノゲル化剤と、生体適合性有機溶媒と、を含む、オルガノゲルマトリックスと、
固体粒子を含む活性剤と、
外側表面を有する、少なくとも1つの壁を含む容器であって、前記容器は、前記オルガノゲルマトリックス及び前記活性剤の固体粒子を収容することができる容積を画定する、容器と、
前記外側表面に接触し、前記容器にある量の熱を供給するように構成された加熱構成要素と、を備える、システム。
【0125】
(36) 非滅菌開放創部位に活性剤を送達する方法であって、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合することと、
前記オルガノゲル薬物デポを非滅菌開放創部位に送達することであって、送達時に前記開放創部位は、非滅菌環境に曝露された軟組織、硬組織、又はその両方を含む、ことと、を含み、
前記配合する工程及び前記送達する工程は同時に行われ、
前記オルガノゲルは、前記送達する工程中に固体状態又は半固体状態である、方法。
(37) 非滅菌開放創部位に活性剤を送達するために非滅菌環境で局所薬物デポを調製する方法であって、
オルガノゲル薬物デポを形成するために、生体適合性オルガノゲルマトリックス内に活性剤の固体粒子を配合することを含み、
前記配合する工程は送達と同時に行われ、
前記オルガノゲルは、配合中に固体状態又は半固体状態である、方法。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16