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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】組織接着性シートを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/04 20060101AFI20240917BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240917BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61L24/04 100
A61L24/00 260
A61L24/10
A61L24/08
A61L24/04 200
A61L24/06
A61L31/04 100
A61L31/14 500
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L31/04 110
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021577637
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2020069445
(87)【国際公開番号】W WO2021009016
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】19186041.0
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517112672
【氏名又は名称】ガット テクノロジーズ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】GATT TECHNOLOGIES B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ペリカーン, フーベルト クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】ケーレヴェール, アブラハム ライニール
(72)【発明者】
【氏名】ベンダー, ヨハネス キャスパー マティアス エリザベス
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531488(JP,A)
【文献】特開2017-008315(JP,A)
【文献】特表2013-523296(JP,A)
【文献】特表2006-523113(JP,A)
【文献】特表2001-521834(JP,A)
【文献】Biomacromolecules,2017年,Vol.18,pp.2529-2538
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 24/00
A61L 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織接着性シートを調製する方法であって、前記方法が:
三次元の相互接続した間隙空間を含む繊維状シートを用意するステップと、
少なくとも3個の反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマーを含む反応性ポリマー粒子を用意するステップであって、前記反応性求電子性基は、血液中のアミン基と反応して、共有結合を形成することができる基である、ステップと、
前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子を2つの電極間に配置するステップと、
前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子を0.1~40kV/mmの電場に同時に供し、前記反応性ポリマー粒子を前記繊維状シートの前記相互接続した間隙空間に含浸させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記組織接着性シートが生体吸収性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維状シートの繊維が1~500μmの平均直径を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応性ポリマー粒子が10~100μmの体積加重平均直径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維状シートが、フェルト構造、織物構造又は編物構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維状シートが0.5~25mmの非圧縮平均厚さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維状シートが200mg/cm未満の非圧縮密度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維状シートが、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、変性セルロース、カルボキシメチルデキストラン、PLGA、ヒアルロン酸ナトリウム/カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キトサン又はこれらの組合せを含有する繊維を少なくとも50wt.%含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、5~90%の前記反応性ポリマー粒子を前記繊維状シートに含浸させるステップを含み、パーセンテージが前記繊維状シートの重量によって計算される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応性ポリマー粒子が、少なくとも10wt.%の前記水溶性求電子性ポリマーを含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性求電子性ポリマーが、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン及びこれらの組合せから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子を、誘電体によって互いに電気的に絶縁され、AC発電機のそれぞれの極に接続されている下電極と上電極の間に配置し、それにより前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子を前記電場に供す、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子が、前記繊維状シート及び前記反応性ポリマー粒子を前記電場に供す間に前記下電極と前記上電極の間に通される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記繊維状シートが少なくとも0.1秒間前記電場に供される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、組織接着性シートを調製する方法であって、前記方法が:
三次元の相互接続した間隙空間を含む繊維状シートを用意するステップと、
少なくとも3個の反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマーを含む反応性ポリマー粒子を用意するステップであり、反応性求電子性基が、共有結合の形成下で血液中のアミン基と反応することができる、ステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を2つの電極間に配置するステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を0.1~40kV/mmの電場に同時に供し、反応性ポリマー粒子を繊維状シートの相互接続した間隙空間に含浸させるステップ
を含む、方法に関する。
【0002】
本発明は、繊維状シート内の反応性ポリマー粒子の有効な分布、及び優れた接着特性を有する組織接着性シートの生成を可能にする。
【0003】
[発明の背景]
実質組織に対する外科手技中の主な課題の1つは、出血の制御を達成することである。縫合制御、電気焼灼及び超音波封止は、例えば肝臓又は腎臓の手術中に不十分であることが多い。結果として、肝臓切除又は腎部分切除などの手技には、出血を制御するための代替的手法が必要である。この目的のために、広範な局所的止血製品が開発されており、臨床的に入手可能である。
【0004】
Boermanら(Next Generation Hemostatic Materials Based on NHS-Ester Functionalized Poly(2-oxazoline)s、Biomacromolecules(2017)、18、2529~2538)は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)-官能性ポリ(2-オキサゾリン)(NHS-POx)をゼラチンパッチにコーティングすることによって得られる合成の非生物活性止血製品について記載しており、これはポリマー、宿主の血液タンパク質、ゼラチン、及び組織の間の共有結合性架橋の形成によって作用して創傷部位を封止し、外科手術中の失血を防止する。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0233246号は、2成分反応性ポリエチレングリコール粉末を含浸させたコラーゲンスポンジ又はシートを含む生体適合性ポリマーデバイスであって、前記反応性粉末が、求核性基を有する第1のポリエチレングリコール及び求電子性基を有する第2のポリエチレングリコールを含み、ポリエチレングリコール粉末が、乾燥状態で非反応性のままである生体適合性ポリマーデバイスについて記載している。
【0006】
米国特許出願公開第2011/0250257号は、無水繊維状シートであって、求電子性基又は求核性基を含有する繊維状ポリマーの第1の成分、及び前記シートが生物学的組織と接触している水性媒体に曝露される際、第1の成分と架橋し、生物学的組織に接着性の架橋ヒドロゲルを形成することができる第2の成分を含み、第2の成分が、第1の成分が求核性基を含有する場合、求電子性基を含有するか、若しくは第1の成分が求電子性基を含有する場合、求核性基を含有する繊維状ポリマーであるか、又は第2の成分が第1の成分の繊維状ポリマー上のコーティングであり、前記コーティングが、第1の成分が求核性基を含有する場合、求電子性基を含有するか、若しくは第1の成分が求電子性基を含有する場合、求核性基を含有するか、又は第2の成分が、第1の成分の繊維状ポリマーの間隙内に分散及び捕捉された乾燥粉末であり、前記粉末が、第1の成分が求核性基を含有する場合、求電子性基を含有するか、若しくは第1の成分が求電子性基を含有する場合、求核性基を含有する、無水繊維状シートについて記載している。
【0007】
国際公開第2011/124640号は、
a)乾燥形態の生体材料のマトリックスを含むスポンジを用意するステップ、
b)1種の反応性ポリマー材料を乾燥粉末の形態で用意するステップ、
c)b)の材料が前記スポンジの少なくとも1つの表面に存在するようにa)とb)とを接触させるステップ、及び
d)b)の材料をa)のスポンジに固着させるステップ
を含む、止血スポンジの製造方法について記載している。
固着は、十分に長時間溶融させることによって達成することができる。
【0008】
国際公開第2012/057628号は、求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL-POx)の乾燥物を少なくとも1重量%含む、組織接着性の医療製品であって、前記EL-POxが、少なくとも1個のペンダント求電子性基を含む少なくとも2個の反応性求電子性基を含む、組織接着性の医療製品について記載している。EL-POxの他に、医療製品は、求核的に活性化されたポリオキサゾリン(NU-POx)を含有してもよい。組織接着性製品の例として、接着性組織テープ、組織封止剤、止血多孔質材及びインプラントが挙げられる。
【0009】
国際公開第2016/056901号は、コーティングメッシュ、コーティングフォーム又はコーティング粉末から選択される接着性止血製品であって、前記止血製品が、
少なくとも5vol.%の多孔性を有し、反応性求核性基を含有する求核性ポリマーを含む外面を含む多孔質固体基材、及び
固体基材の少なくとも一部を覆う接着性コーティングであって、前記コーティングが、求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL-POx)を含み、前記EL-POxが、平均少なくとも1個の反応性求電子性基を含有するコーティング
を含む、接着性止血製品について記載している。
【0010】
接着性止血製品は、多孔質固体基材を用意するステップ、基材をEL-POx及び溶媒を含むコーティング液でコーティングするステップ、並びに溶媒を除去するステップを含む方法によって生成される。
【0011】
米国特許第6,733,845号は、繊維若しくはフィラメントのネットワークが密に接触している剛性若しくは可撓性マトリックスを含む複合材を生成するために、前記ネットワークに粉末を静電含浸するための方法であって、粉末及び前記繊維若しくはフィラメントのネットワークを、互いに電気的に分離絶縁されている2つの電極間に配置し、前記電極をAC電圧静電ジェネレータの反対に帯電した極にそれぞれ接続し、前記電極間にある前記粉末及び前記繊維若しくはフィラメントのネットワークを、AC電圧が少なくとも5kVである静電場に少なくとも2秒間にわたって同時に供す方法について記載している。
【0012】
[発明の概要]
本発明者らは、外科手技中に植込式止血構築物又は封止構築物として好適に適用することができる組織接着性シートを調製するための方法を開発した。本発明の方法は、
三次元の相互接続した間隙空間を含む繊維状シートを用意するステップと、
少なくとも3個の反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマーを含む反応性ポリマー粒子を用意するステップであり、反応性求電子性基が、共有結合の形成下で血液中のアミン基と反応することができる、ステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を2つの電極間に配置するステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を0.1~40kV/mmの電場に同時に供し、反応性ポリマー粒子を繊維状シートの相互接続した間隙空間に含浸させるステップ
を含む。
【0013】
血液が間隙空間に入る際に本発明の組織接着性シートによって吸収されると、シート内の反応性ポリマー粒子が血液によって「湿潤」されるとすぐに溶解し始め、それにより求電子性ポリマーが、血液及び組織中の反応性求核性基と反応することが可能になり、いずれも止血に寄与する血液凝固及び組織封止が生じる。反応性ポリマー粒子を含有する繊維状シートの止血特性は、繊維状シート内の反応性ポリマー粒子による「深い」含浸、及びその均質な分布から利益を得る。本発明の方法は、両方の望ましい特性の達成を可能にする。
【0014】
それに加え、本発明の方法は、液体による含浸とは異なり、繊維状シートの構造的一体性又は機械的特性に影響を及ぼさないという利点をもたらす。さらに、振盪又は振動を利用する機械的含浸方法に比べ、本発明の方法は機械的応力を課さず、特に非常に小さい(<100μm)反応性ポリマー粒子によってより有効な含浸を達成する。
【0015】
本発明の別の態様は、本発明の方法によって得られる組織接着性シートに関する。
【0016】
[発明の詳細な説明]
本発明の第1の態様は、組織接着性シートを調製する方法であって、前記方法が:
三次元の相互接続した間隙空間を含む繊維状シートを用意するステップと、
少なくとも3個の反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマーを含む反応性ポリマー粒子を用意するステップであり、反応性求電子性基が、共有結合の形成下で血液中のアミン基と反応することができる、ステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を2つの電極間に配置するステップと、
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を0.1~40kV/mmの電場に同時に供し、反応性ポリマー粒子を繊維状シートの相互接続した間隙空間に含浸させるステップ
を含む、方法に関する。
【0017】
本明細書で使用される「組織接着性」という用語は、シートと組織の間の共有結合の形成により、組織接着性シートが組織に密着する能力を指す。これらの共有結合の形成には、典型的に水の存在が必要である。
【0018】
本明細書で使用される「間隙空間」という用語は、繊維状シート内の空隙(「空の」)空間を指す。繊維状シート内の間隙空間は、反応性ポリマー粒子のシートへの導入を可能にする。血液及び他の体液も間隙空間に入ることができ、それにより反応性ポリマー粒子内の水溶性求電子性ポリマーの溶解が可能になる。
【0019】
本発明によって用いられる「反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマー」は、共有結合の形成下で、組織及び血液中のアミン基と反応できる少なくとも3個の反応性基を担持する。この水溶性求電子性ポリマーは、少なくとも1kDaの分子量、及び少なくとも50g/Lの20℃の蒸留水への溶解度を有する。
【0020】
本明細書で使用される「吸水能」という用語は、組織接着性シートが吸水する能力の尺度である。吸水能は、乾燥シートの試料を秤量し(重量=W)、その後試料を蒸留水(37℃)に45分間浸漬させることによって決定される。次に、試料を水から取り出し、基材の外側に密着した水を除去した後、試料を再び秤量する(重量=W)。吸水能=100%×(W-W)/Wである。吸水能は、基材の多孔性、及び基材が水の存在下で膨張する能力の指標である。
【0021】
本明細書で使用される「コラーゲン」という用語は、動物の身体における種々の結合組織の細胞外空間内の主な構造タンパク質を指す。コラーゲンは、特徴的な3本のポリペプチド鎖の三重らせんを形成する。石灰化の程度に応じて、コラーゲン組織は強固である(骨)か、又は柔軟である(腱)か、又は強固から柔軟までの勾配を有する(軟骨)かのいずれかでありうる。別段指示されない限り、「コラーゲン」という用語は、ゼラチン以外の変性コラーゲンも包含する。
【0022】
本明細書で使用される「ゼラチン」という用語は、家畜のウシ、ニワトリ、ブタ及び魚などの動物の皮膚、骨及び結合組織から抽出されるコラーゲンの部分加水分解によって生成される、ペプチドとタンパク質の混合物を指す。加水分解の間に、個々のコラーゲンストランド間の天然の分子結合が、より容易に再構成する形態へと分解される。
【0023】
本明細書で使用される「ポリオキサゾリン」という用語は、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)又はポリ(アロイルアルキレンイミン)を指し、さらにPOxと称される。POxの例は、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)である。「ポリオキサゾリン」という用語は、POxのコポリマーも包含する。
【0024】
反応性ポリマー粒子は、粒子密度がシート全体で実質的に同じであるという意味で、繊維状シートの間隙空間内に均質に分布される場合がある。反応性ポリマー粒子は、シートの厚さを通して不均一に分布される場合もある。特定の用途では、例えば反応性ポリマー粒子の密度が、出血創傷に貼り付けられることが意図されるシートの側面付近で最も低く、シートの反対側面付近で最も高いという点で、反応性ポリマー粒子の密度が勾配を示すと有利である場合がある。
【0025】
反応性ポリマー粒子の直径分布は、好適にはStainless Steel Sample Dispersion Unitとの組合せのMalvern Mastersizer 2000を使用するレーザー回折によって決定されてもよい。試料分散ユニットにおよそ120mlのシクロヘキサンを充填し、ユニットを1800rpmの撹拌速度で5~10分間安定させ、その後バックグラウンド測定(ブランク測定)を行う。試料管を振盪し、20回水平に回転させる。次に、シクロヘキサンを含有する試料分散ユニットに約50mgを分散させる。試料を分散ユニットに導入したら、すべての粒子が適正に分散されることを保証するために、試料を1800rpmで1分30秒撹拌し、その後測定を行う。分散された粒子に超音波処理は実施されない。平均粒径は、D[4,3]、体積加重平均直径(ΣniDi)/(ΣniDi)として表される。
【0026】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、5~90%、より好ましくは10~80%、さらにより好ましくは20~75%、最も好ましくは50~70%の反応性ポリマー粒子を繊維状シートに含浸させるステップを含み、前記パーセンテージは、繊維状シートの重量によって計算される。
【0027】
特に好ましい実施形態によると、本発明の組織接着性シートは生体吸収性である、つまりシート、反応性ポリマー粒子、及び組織接着性シートの任意の他の成分は、最終的に身体に吸収される。シート及び反応性ポリマー粒子の吸収には、典型的に、その中に含有されるポリマーの化学分解(例えば、加水分解)が必要である。ヒトの身体による組織接着性シートの完全な生体吸収は、典型的に1~10週間、好ましくは2~8週間で達成される。
【0028】
本発明の組織接着性シートは、好ましくは滅菌である。
【0029】
本発明の組織接着性シートは、典型的に0.5~25mmの非圧縮平均厚さを有する。より好ましくは、非圧縮平均厚さは、1~10mmの範囲、最も好ましくは1.5~5mmの範囲である。
【0030】
組織接着性シートは、好ましくは200mg/cm未満、より好ましくは150mg/cm未満、最も好ましくは10~100mg/cmの非圧縮密度を有する。
【0031】
本発明の組織接着性シートは、好ましくは本質的に無水である。典型的に、組織接着性シートは、5wt.%以下、より好ましくは2wt.%以下、最も好ましくは1wt.%以下の水分含有量を有する。
【0032】
組織接着性シートの吸水能は、好ましくは少なくとも50%であり、より好ましくは100%~800%の範囲、最も好ましくは200%~500%の範囲にある。
【0033】
本発明の方法で利用される繊維状シートは、好ましくは耐水性である、すなわちシートは水溶性でなく、且つ中性のpH条件(pH7)及び37℃の温度で水中で崩壊しない。
【0034】
繊維状シートの繊維は、好ましくは1~500μm、より好ましくは2~300μm、最も好ましくは5~200μmの平均直径を有する。繊維の平均直径は、好適には顕微鏡を使用して決定することができる。
【0035】
典型的に、繊維状シートの繊維の少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも80wt.%が、1~300μmの直径及び少なくとも1mmの長さを有する。
【0036】
好ましくは、繊維状シートの繊維の少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも80wt.%が、少なくとも1000のアスペクト比(長さの直径に対する比)を有する。
【0037】
繊維状シートは、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、変性セルロース、カルボキシメチルデキストラン、PLGA、ヒアルロン酸ナトリウム/カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キトサン又はこれらの組合せを含有する繊維を少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも80wt.%、最も好ましくは少なくとも90wt.%含む。
【0038】
本発明の実施形態では、繊維状担体構造体は、酸化再生セルロースを含まない。
【0039】
好ましい繊維状シートは、空気透過性が少なくとも0.1L/分×cm、より好ましくは少なくとも0.5L/分×cmである開気孔構造を有する。空気透過性は、EN ISO 9237:1995(繊維-布の空気透過性の決定)によって決定される。
【0040】
繊維状シート中の繊維は、エレクトロスピニング、エレクトロブローンスピニング、及び高速回転噴霧器スピニングなどの当技術分野で公知の方法によって生成されてもよい。高速回転噴霧器スピニングによる繊維状シートの生成は、米国特許出願公開第2015/0010612号に記載される。繊維状シートとして、市販の止血繊維状シートを使用することもできる。
【0041】
本発明の方法で利用される反応性ポリマー粒子は、好ましくは少なくとも10wt.%の水溶性求電子性ポリマーを含有する。より好ましくは、反応性ポリマー粒子は、少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも90wt.%の水溶性求電子性ポリマーを含有する。
【0042】
本発明の方法は、振盪又は振動を利用する含浸技術とは異なり、非常に小さい反応性ポリマー粒子を繊維状シートに有効に分布させることができるという利点をもたらす。これは、小さい粒子が、高い表面/体積比に起因してより大きな粒子より速く溶解するために有利である。したがって、非常に小さい反応性ポリマー粒子を含有する組織接着性シートの止血特性は、より大きな反応性ポリマー粒子を含有する組織接着性シートよりも一般的に優れている。したがって、非常に好ましい実施形態では、反応性ポリマー粒子は、10~100μmの範囲、より好ましくは15~80μmの範囲、最も好ましくは20~70μmの範囲の体積加重平均直径(D[4,3]、(Σn)/(Σn))を有する。
【0043】
特定の好ましい実施形態によると、反応性ポリマー粒子の少なくとも80vol.%は、5~200μmの範囲、より好ましくは10~120μmの範囲、最も好ましくは12~100μmの範囲の直径を有する。
【0044】
本発明の反応性ポリマー粒子は、種々の方法、例えば摩砕によって、ポリマー溶液を噴霧乾燥することによって、凍結乾燥によって、ポリマー溶融物を噴霧冷却することによって、粉末混合物を造粒することによって、又は流動床コーティングによって調製されてもよい。
【0045】
反応性ポリマー粒子に含有される水溶性求電子性ポリマーは、典型的に少なくとも2kDa、より好ましくは少なくとも5kDa、最も好ましくは10~100kDaの分子量を有する。
【0046】
水溶性求電子性ポリマーは、少なくとも100g/L、より好ましくは少なくとも200g/Lの20℃の蒸留水への溶解度を有する。
【0047】
本発明によって利用される水溶性求電子性ポリマーは、好ましくは少なくとも4個の反応性求電子性基、より好ましくは少なくとも8個の反応性求電子性基、さらにより好ましくは少なくとも16個の反応性求電子性基、最も好ましくは少なくとも32個の反応性求電子性基を含有する。
【0048】
反応性ポリマー粒子中に存在する水溶性求電子性ポリマーは、好ましくはポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン(例えば、国際公開第2017/171551号に記載される)及びこれらの組合せから選択される。さらにより好ましくは、求電子性ポリマーは、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール及びこれらの組合せから選択される。最も好ましくは、求電子性ポリマーはポリオキサゾリンである。
【0049】
反応性求電子性基を含むポリオキサゾリンは、繰り返し単位が以下の式(I):
(CHRNCOR
(式中、R及びRのそれぞれは、H、任意選択で置換されたC1~22アルキル、任意選択で置換されたシクロアルキル、任意選択で置換されたアラルキル、任意選択で置換されたアリールから独立的に選択され、mは2又は3である)
によって表されるポリオキサゾリンに由来することが好ましい。
【0050】
好ましくは、式(I)のR及びRは、H及びC1~8アルキル、さらにより好ましくはH及びC1~4アルキルから選択される。Rは、最も好ましくはHである。式(I)の整数mは、好ましくは2に等しい。
【0051】
好ましい実施形態によると、ポリオキサゾリンはポリマーであり、さらにより好ましくは2-アルキル-2-オキサゾリンのホモポリマーであり、前記2-アルキル-2-オキサゾリンは、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、2-ブチル-2-オキサゾリン及びこれらの組合せから選択される。好ましくは、ポリオキサゾリンは、2-プロピル-2-オキサゾリン又は2-エチル-オキサゾリンのホモポリマーである。最も好ましくは、ポリオキサゾリンは、2-エチル-オキサゾリンのホモポリマーである。
【0052】
特定の好ましい実施形態によると、水溶性求電子性ポリマーは、少なくとも20個のオキサゾリン単位、より好ましくは少なくとも30個のオキサゾリン単位、最も好ましくは少なくとも80個のオキサゾリン単位を含む。求電子性ポリマーは、好ましくはオキサゾリン残基あたり平均少なくとも0.05個の反応性求電子性基を含む。さらにより好ましくは、求電子性ポリマーは、オキサゾリン残基あたり平均少なくとも0.1個の反応性求電子性基を含む。最も好ましくは、求電子性ポリマーは、オキサゾリン残基あたり平均0.12~0.5個の反応性求電子性基を含む。
【0053】
水溶性求電子性ポリマーは、典型的に平均少なくとも10個、より好ましくは少なくとも20個の反応性求電子性基を担持する。
【0054】
ポリオキサゾリンは、その側鎖(ペンダント反応性求電子性基)、その末端又は両方に反応性求電子性基を担持してもよい。本発明によって利用されるポリオキサゾリンは、有利には1又は複数のペンダント反応性求電子性基を含有する。典型的に、ポリオキサゾリンは、モノマーあたり0.03~0.5個のペンダント反応性求電子性基、より好ましくはモノマーあたり0.04~0.35個のペンダント反応性求電子性基、さらにより好ましくはモノマー当たり0.05~0.25個のペンダント反応性求電子性基を含有する。
【0055】
本発明によって適用される反応性求電子性基を含むポリエチレングリコール(PEG)は、好ましくは少なくとも3つのアーム、より好ましくは少なくとも4つのアームを含む、反応性求電子性基で末端化されたマルチアームPEG又は星型PEGである。
【0056】
組織接着性シート中の反応性ポリマー粒子は、好ましくはカルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p-ニトロフェニルエステル、p-ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアネート、チオイソシアネート、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、マレイミド(マレイミジル)、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミド及びこれらの組合せから選択される反応性求電子性基を担持する水溶性求電子性ポリマーを含む。より好ましくは、反応性求電子性基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p-ニトロフェニルエステル、p-ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物(anhyinidrides)、ケトン、アルデヒド、イソシアネート、チオイソシアネート、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、イミドエステル、ジヒドロキシフェニル誘導体及びこれらの組合せから選択される。さらにより好ましくは、反応性求電子性基は、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミド、スクシンイミジルエステル及びこれらの組合せから選択される。最も好ましくは、反応性求電子性基は、マレイミド、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル及びこれらの組合せから選択される。
【0057】
利用されてもよいスクシンイミジルエステルの例として、スクシンイミジルグルタレート、スクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルスクシンアミド、スクシンイミジルカーボネート、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、ビス(2-スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホン、3、3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジル-プロピオネート)、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-l-カルボキシレート、ジチオビス-スルホスクシンイミジルプロピオネート、ジスルホ-スクシンイミジルタータレート;ビス[2-(スルホ-スクシンイミジルオキシカルボニルオキシエチルスルホン)]、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(sulfosuccinimiclylsuccinate)、ジチオビス-(スクシンイミジルプロピオネート)が挙げられる。
【0058】
利用されてもよいジヒドロキシフェニル誘導体の例として、ジヒドロキシフェニルアラニン、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ドパミン、3,4-ジヒドロキシヒドロケイ皮酸(dihydroxyhydroccinamic acid)(DOHA)、ノルエピネフリン、エピネフリン、及びカテコールが挙げられる。
【0059】
本発明の有利な実施形態では、水溶性求電子性ポリマーの他に、反応性ポリマー粒子は、共有結合の形成下で水溶性求電子性ポリマーの反応性求電子性基と反応できる少なくとも2個の反応性求核性基を含有する求核性架橋剤を追加的に含有する。求核性架橋剤を導入することにより、血液がシートに入る際に水溶性求電子性ポリマーが求核性架橋剤と反応するため、シートの止血及び接着特性が改善される場合があるという利点がもたらされる。この架橋反応は、血液の流れを固定するヒドロゲルの形成につながり、ヒドロゲル中の反応性求電子性基と組織中のアミン/チオール基との間に共有結合が形成されることにより、このヒドロゲルが組織に張り付く。水溶性求電子性ポリマーと求核性架橋剤を単一の粒子内で組み合わせることにより、これらの2種の反応性成分が止血シート全体に均質に分布できること、輸送及び取扱い時に分離が生じないこと、並びに粒子が血液と接触した際に、これらの成分が即座に互いに反応できることが保証される。
【0060】
反応性求電子性基を担持する水溶性ポリマーと求核性架橋剤の組合せを含有する反応性ポリマー粒子、すなわち反応性ハイブリッド粒子は、好ましくは減圧下の湿式造粒及びそれに続く乾燥によって生成されてもよい。造粒液体は、造粒中に、水溶性求電子性ポリマーと求核性架橋剤との間にあまり又は全く反応が生じないように選択されるべきである。これは、例えば、これら2種の成分のうちの少なくとも1種が不溶性である造粒液体を利用することによって達成することができる。最も好ましくは、反応性求電子性基を担持する水溶性ポリマーが造粒液体中で不溶性である。
【0061】
特に好ましい実施形態によると、反応性ポリマー粒子は、(i)水溶性求電子性ポリマーを含有する求電子性粒子、及び(ii)求核性架橋剤を含有する求核性粒子を含む粒子凝集物である。
【0062】
求電子性粒子は、好ましくは少なくとも30wt.%、より好ましくは少なくとも50wt.%、最も好ましくは少なくとも80wt.%の水溶性求電子性ポリマーを含有する。
【0063】
求核性粒子は、好ましくは少なくとも30wt.%、より好ましくは少なくとも50wt.%、最も好ましくは少なくとも80wt.%の求核性架橋剤を含有する。
【0064】
求核性架橋剤は、好ましくは少なくとも3個の反応性求核性基を含有する。求核性架橋剤の反応性求核性基は、好ましくはアミン基、チオール基及びこれらの組合せから選択される。より好ましくは、これらの反応性求核性基はアミン基である。好ましい実施形態によると、求核性架橋剤中に存在する反応性求核性基は、第一級アミン基である。
【0065】
好ましくは、求核性架橋剤は、タンパク質、キトサン、反応性求核性基を担持する合成ポリマー、反応性求核性基を担持する炭水化物ポリマー及びこれらの組合せから選択される。さらにより好ましくは、求核性架橋剤は、ゼラチン、コラーゲン、キトサン及びこれらの組合せから選択される。
【0066】
本発明の方法では、繊維状シート及び反応性ポリマー粒子は、好ましくは0.5~30kV/mmの電場、より好ましくは1~10kV/mmの電場に同時に供される。
【0067】
特に好ましい実施形態によると、繊維状シート及び反応性ポリマー粒子は、交番電場に同時に供される。好ましくは、電場は、少なくとも10s-1の周波数、より好ましくは少なくとも50s-1の周波数、最も好ましくは100s-1の周波数で交番する。
【0068】
繊維状シートの含浸は、本発明の方法において、繊維状シートに隣接する反応性ポリマー粒子の層を作成し、繊維状シート及び隣接する反応性ポリマー粒子の層を2つの電極間に配置することによって有効に達成されてもよい。含浸はまた、反応性ポリマー粒子の層によって分離される2つ以上の繊維状シートを含有する積層体を作成し、この積層体を2つの電極間に配置することによって達成されてもよい。
【0069】
本発明の方法の好ましい実施形態では、繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を、誘電体によって互いに電気的に絶縁され、AC発電機のそれぞれの極に接続されている下電極と上電極の間に配置し、それにより繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を電場に同時に供す。
【0070】
繊維状シート及び反応性ポリマー粒子は、繊維状シート及び反応性ポリマー粒子を電場に同時に供す間、好ましくは下電極と上電極の間に通される。したがって、一巻きの繊維状シートに、反応性ポリマー粒子を本発明の方法によって半連続的に好適に含浸させることができる。
【0071】
好ましい実施形態では、繊維状シート及び反応性ポリマー粒子は、少なくとも0.1秒間、より好ましくは少なくとも5秒間、最も好ましくは少なくとも30秒間にわたって電場に同時に曝露される。
【0072】
本発明の別の態様は、本明細書で以前に記載された方法によって得られる組織接着性シートに関する。
【0073】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに例示される。
【実施例
【0074】
概して、乾燥後の残留含水量(乾燥粉末、造粒物及び/又は繊維状シート中の)が明示されない場合は常に、レベルは2.0%w/w未満である。
【0075】
40μm以下のD[4,3」を有する粉末を、摩砕に続いて250メッシュふるい(Haver and Boecker、シリアル番号47181315)でふるい分けすることによって生成した。ふるいを通過しなかった粒子は、すべての粉末が250メッシュ未満になるまで再び摩砕し、再びふるい分けした。
【0076】
(水溶性求電子性ポリマー(NHS-POx)の調製)
20%NHSエステル基を含有するNHS側鎖活性化ポリ[2-(エチル/ヒドロキシ-エチル-アミド-エチル/NHS-エステル-エチル-エステル-エチル-アミド-エチル)-2-オキサゾリン]ターポリマー(=EL-POx、20%NHS)を、以下のように合成した:
ポリ[2-(エチル/メトキシ-カルボニル-エチル)-2-オキサゾリン]コポリマー(DP=+/-100)を、60% 2-エチル-2-オキサゾリン(EtOx)及び40% 2-メトキシカルボニル-エチル-2-オキサゾリン(MestOx)を使用してCROPによって合成した。40% 2-メトキシカルボニル-エチル基(H-NMR)を含有する統計的コポリマーが得られた。第二に、40% 2-メトキシカルボニル-エチル基を含有するポリマーをエタノールアミンと反応させ、40% 2-ヒドロキシ-エチル-アミド-エチル基(H-NMR)を有するコポリマーを得た。その後、2-ヒドロキシ-エチル-アミド-エチル基の半分を無水コハク酸と反応させ、H-NMRによって60% 2-エチル基、20% 2-ヒドロキシ-エチル-アミド-エチル基及び20% 2-カルボキシ-エチル-エステル-エチル-アミド-エチル基を有するターポリマーを得た。最後に、2-カルボキシ-エチル-エステル-エチル-アミド-エチル基を、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及びジイソプロピルカルボジイミド(DIC)によって活性化し、EL-POx、20%NHSを得た。H-NMRによると、NHS-POxは20%NHS-エステル基を含有していた。NHS-POxを2~8℃の間で水中に溶解し(300mL中60g)、マイナス80℃で30分間冷却して凍結乾燥した。そのようにして得られた凍結乾燥粉末を、Rotavap中40℃で、Karl Fischer滴定によって決定される水分含有量が0.8%w/w未満になるまで乾燥した。この乾燥(白色)粉末を、0.25mmの台形穴を有する間隔ふるいと組み合わされた、12歯押し込み型ローターを備えたRetsch Ultra Centrifugal Mill ZM200を使用し、平均粒径が35μm以下(D[4,3])になるまで、又は卓上コーヒーグラインダーを使用して平均粒径が約70μm(D[4,3])になるまでのいずれかで粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0077】
(NHS-POx粉末の染色)
20gのNHS-POx粉末を水に溶解し、高速分散装置(Ultra-Turrax、IKA)を使用して50mgのBrilliant Blue FCF(Sigma Aldrich)と混合した。混合(2分)直後、溶液を-78℃で凍結し、その後一晩凍結乾燥した。そのようにして得られた凍結乾燥粉末を、Rotavap中40℃で、Karl Fischer滴定によって決定される残留水分含有量が0.8%w/w未満になるまで乾燥した。次に、乾燥(青色)粉末を、Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM200を使用して、平均粒径が35μm以下(D[4,3])の青色染色NHS-POx粉末が得られるまで粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0078】
(求核性架橋剤(NU-POx)の調製)
アルキル側鎖にエチル及びアミン基を含有するポリオキサゾリンを、EtOx及びMestOxのCROP、並びにそれに続くエチレンジアミンでのメチルエステル側鎖のアミド化によって合成し、ポリ(2-エチル/アミノエチルアミドエチル-2-オキサゾリン)コポリマー(NU-POx)を得た。H-NMRによると、NU-POxは10%NHを含有していた。NU-POxを2~8℃の間で水中に溶解し(300mL中60g)、マイナス80℃で30分間冷却して凍結乾燥した。そのようにして得られた凍結乾燥粉末を、Rotavap中40℃で、Karl Fischer滴定によって決定される水分含有量が0.8%w/w未満になるまで乾燥した。この乾燥粉末を、Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM200を使用して平均粒径が35μm以下(D[4,3])になるまで粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0079】
(反応性ポリマー粒子(NHS-POx/NU-POx顆粒)の調製)
青色又は白色(非染色)NHS-POx粉末を、高せん断混合機中で約1~2%w/wのIPAを含有する均質な雪状粉末が得られるまで、イソプロピルアルコール(IPA)で湿潤させた。この後、NU-POx粉末を添加して混合した。湿潤された青色NHS-POx粉末を、1:1のモル比でNU-POx粉末と混合し、前記モル比は、NHS-POxによって提供されるNHS基の数のNU-POxによって提供されるアミン基の数に対する比を指す。
【0080】
混合後、H-NMRによって決定されるIPA含有量が0.1%w/w未満になるまで、湿潤造粒物を減圧下で乾燥した。乾燥した造粒物を、Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM200を使用して平均粒径が50μm又は35μm以下(D[4,3])になるまで粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0081】
H-NMR分光法を使用し、NHS-POX/NU-POx造粒物(1:1)を分析した。25mgの造粒物を、20分間超音波処理することによってトリフルオロ酢酸(0.20mL)に溶解した。造粒物の完全な溶解後、試料を、内部標準としてマレイン酸(2.5mg/mL)を含有する重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)(0.80mL)で希釈し、NMR管に移し、H-NMRスペクトルを記録した。得られたスペクトルから、造粒物中に存在するNHS及びアミン基のモル比とともに、NHS-POxに結合したNHSの量を計算することができる。造粒物中のNHS-POxに結合したNHSの量は、NHS-POx出発材料に結合したNHSの量と同等であり、造粒中に崩壊又は架橋が生じないことを示す。
【0082】
NMR試料における全ポリマー回収率、すなわち、NHS-POxとNU-POxの組合せを、既知の量の内部標準(マレイン酸)、並びに異なる濃度のNHS-POx及びNU-POxの記録されたH-NMRスペクトルから作成した検量線を使用して決定した。全ポリマー回収率は99パーセントと測定され、不溶性の架橋材料が形成されなかったことを示す。
【0083】
NHS-POX/NU-POx造粒物(1:1)を、サイズ排除クロマトグラフィーによってさらに分析した。20mgの造粒物を、無水酢酸(1.00mL)で50℃で1時間処理した。次に、メタノール(2.00mL)を添加し、混合物を50℃でさらに1時間撹拌した。アリコート(0.75mL)を取り、すべての揮発物を減圧下で除去した。試料を、SEC分析の溶離液である50mMの塩化リチウムを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(2.50mL)に溶解した。SECをポリ(メチルメタクリレート)標準に対して測定し、得られたサイズ排除クロマトグラムからM、M及びPDIを決定した。PDIは1.5以下であり、造粒中に架橋が生じなかったことを示す。このサイズ排除クロマトグラフィー方法の分析検証により、0.05mol%のレベルのNHS-POxとNU-POxの意図的な架橋によってPDIが2.5より高くまで増加したことが示された。
【0084】
(反応性ポリマー粒子(NHS-POx/NU-POx/P188顆粒)の調製)
反応性NHS-POx/NU-POx顆粒を前述の通り調製した。次に、NHS-POx/NU-POx造粒物を、P188粉末とともに高せん断混合機中65℃で10分間加熱し、その後周囲条件まで冷却することにより、1.5%、2.5%、3.5%、5%及び10%w/wのP188でコーティングされた反応性NHS-POx/NU-POx造粒物を調製した。コーティング造粒物を、Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM200を使用して平均粒径が40μm以下(D[4,3])になるまで粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0085】
そのようにして得られた造粒物の粒径分布は、およそ90vol.%<80μm、50vol.%<40μm及び10vol.%<10μmであった。
【0086】
H-NMR分光法を使用し、NHS-POx/NU-POx/P188造粒物を分析した。25mgの粉末を、20分間超音波処理することによってトリフルオロ酢酸(0.20mL)に溶解した。造粒物の完全な溶解後、試料を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)(0.80mL)で希釈し、NMR管に移し、H-NMRスペクトルを記録した。得られたスペクトルから、未反応NHSの量は、NHS-POxと比べて98パーセントと計算された。
【0087】
NHS-POx/NU-POx/P188造粒物を、サイズ排除クロマトグラフィーによってさらに分析した。20mgの造粒物を、無水酢酸(1.00mL)で50℃で1時間処理した。次に、メタノール(2.00mL)を添加し、混合物を50℃でさらに1時間撹拌した。アリコート(0.75mL)を取り、すべての揮発物を減圧下で除去した。試料を、SEC分析の溶離液である50mMの塩化リチウムを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(2.50mL)に溶解した。SECをポリ(メチルメタクリレート)標準に対して測定し、得られたサイズ排除クロマトグラムからM、M及びPDIを決定した。PDIは1.5以下であり、造粒中に架橋が生じなかったことを示す。
【0088】
(反応性ポリマー粒子(NHS-POx/ジェリータ Spon顆粒)の調製)
0.2%w/w未満の水分含有量を有する事前乾燥されたゼラチン粉末(ジェリータ-SPON(登録商標)、前Gelita Medical GmbH)7.01gを、20,000rpmで動作する高せん断混合機を使用してジクロロメタン(200mL)に20分間分散させた。次に、NHS-POx(7.02g)を添加し、5分間撹拌を続けた。NHS-POxは溶解しなかった。すべての揮発物を減圧下で懸濁液から除去した。得られた粉末を、平均粒径が95μm以下(D[4,3])になるまでコーヒーグラインダーを使用して摩砕し、alu-aluバッグで真空封止し、減圧下でさらに乾燥させ、alu-aluバッグで真空封止した。
【0089】
そのようにして得られた造粒物の粒径分布は、およそ90vol.%<190μm、50vol.%<80μm及び10vol.%<15μmであった。
【0090】
造粒物をH-NMR分光分析によって分析した。この目的のために、5%(v/v)酢酸を含有する重水素化クロロホルム(CDCl)(1.0mL)を25mgの造粒物に添加した。試料を20分間超音波処理することにより、NHS-POxを選択的に抽出した。分散液を0.22μmフィルターに通し、NMR管に移してH-NMRスペクトルを記録した。得られたスペクトルから、未反応NHSの量は、NHS-POxと比べて97パーセントと計算された。
【0091】
造粒物をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析によってさらに分析した。上述の濾過されたNHS-POx抽出物のアリコート(0.15mL)を、SEC分析の溶離液である50mMの塩化リチウムを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(1.00mL)で希釈した。試料をSECによってポリ(メチルメタクリレート)標準に対して分析したところ、PDIは1.45であり、架橋が生じなかったことを示す。
【0092】
(反応性ポリマー粒子(NHS-POx/NU-POx/PEG3000顆粒)の調製)
反応性NHS-POx/NU-POx顆粒を前述の通り調製した。次に、NHS-POx/NU-POx造粒物を、PEG(MW 3kDa)粉末とともに、高せん断混合機中65℃で10分間加熱し、その後周囲条件まで冷却することにより、5%及び10%w/wのPEG3000でコーティングされた反応性NHS-POx/NU-POx造粒物を調製した。Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM 200を使用してコーティング造粒物を粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0093】
H-NMR分光法を使用し、NHS-POx/NU-POx/PEG3000造粒物を分析した。25mgの粉末を、20分間超音波処理することによってトリフルオロ酢酸(0.20mL)に溶解した。造粒物の完全な溶解後、試料を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)(0.80mL)で希釈し、NMR管に移し、H-NMRスペクトルを記録した。得られたスペクトルから、未反応NHSの量は、NHS-POxと比べて96パーセントと計算された。
【0094】
NHS-POx/NU-POx/PEG造粒物を、サイズ排除クロマトグラフィーによってさらに分析した。20mgの造粒物を、無水酢酸(1.00mL)で50℃で1時間処理した。次に、メタノール(2.00mL)を添加し、混合物を50℃でさらに1時間撹拌した。アリコート(0.75mL)を取り、すべての揮発物を減圧下で除去した。試料を、SEC分析の溶離液である50mMの塩化リチウムを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(2.50mL)に溶解した。SECをポリ(メチルメタクリレート)標準に対して測定し、得られたサイズ排除クロマトグラムからM、M及びPDIを決定した。PDIは1.5以下であり、造粒中に架橋が生じなかったことを示す。
【0095】
(反応性ポリマー粒子(NHS-POx/NU-PEG)の調製)
NHS-POx(D[4,3]≦35μm)を、PEGジアミン(MW 10kDa)粉末とともに高せん断混合機中65℃で10分間加熱し、その後周囲条件まで冷却することにより、5%w/wのNU-PEGでコーティングされたNHS-POxを調製した。Retsch Ultra Centrifugal Mill ZM 200を使用してコーティング造粒物を粉砕し、alu-aluバッグで真空封止した。
【0096】
H-NMR分光法を使用し、NHS-POx/NU-PEG反応性ポリマー粒子を分析した。25mgの粉末を、20分間超音波処理することによってトリフルオロ酢酸(0.20mL)に溶解した。造粒物の完全な溶解後、試料を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)(0.80mL)で希釈し、NMR管に移し、H-NMRスペクトルを記録した。得られたスペクトルから、未反応NHSの量は、NHS-POxと比べて95パーセントと計算された。
【0097】
NHS-POx/NU-PEG反応性ポリマー粒子を、サイズ排除クロマトグラフィーによってさらに分析した。20mgの粉末を、無水酢酸(1.00mL)で50℃で1時間処理した。次に、メタノール(2.00mL)を添加し、混合物を50℃でさらに1時間撹拌した。アリコート(0.75mL)を取り、すべての揮発物を減圧下で除去した。試料を、SEC分析の溶離液である50mMの塩化リチウムを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(2.50mL)に溶解した。SECをポリ(メチルメタクリレート)標準に対して測定し、得られたサイズ排除クロマトグラムからM、M及びPDIを決定した。PDIは1.5以下であり、造粒中に架橋が生じなかったことを示す。
【0098】
(繊維状シート)
本発明による組織接着性シートの調製において繊維状シートして使用するために、以下の市販の止血製品を選択した:
ジェリータ タフト-It(登録商標):8層の還元架橋ゲルフォーム繊維からなる粘着性繊維状シート。それぞれ約2mm厚の8つの層は、寸法が50mm×75mmである。ジェリータ タフト-It(登録商標)の水分含有量は、15%以下である。製品を真空オーブン中40℃で数時間乾燥させ、水分含有量を2.0%w/w以下(重量測定によって決定される)まで低減させた後、凝集粒子を含浸させた。
サージセル(SURGICEL)(登録商標)SNoW(商標):再生セルロースの制御された酸化(ORC)によって調製された、吸収性不織布からなる粘着性繊維状シート。寸法は5.1cm×10.2cmであり、水分含有量は2.0%w/w以下であった
サージセル(登録商標)NU-ニット(NU-KNIT)(登録商標)/サージセル(登録商標)SNoW(商標)ハイブリッド:複数のサイズ(例えば、15.2cm×22.9cm)で入手可能な、再生セルロースの制御された酸化(ORC)によって調製された繊維の高密度の吸収性編地をサージセル(登録商標)SNoW(商標)に縫い付け、5.1cm×10.2cmの寸法に切断した。
PEM:酸化再生セルロース(ORC)、並びに寸法(長さ、幅)97.0~102.5mm、及び厚さ1.40~2.50mmのポリグラクチン910からなる粘着性繊維状シートを以下の通り調製した。ポリ(グリコリド-コ-ラクチド)(PGL、90/10mol/mol)を溶融紡糸し繊維にした。80デニールのマルチフィラメントヤーンを固め、800デニールの固められたヤーンにした。固められたヤーンをおよそ110℃で捲縮した。捲縮ヤーンを約1.25’’の長さを有する短繊維に切断した。捲縮短繊維20gを精密に秤量し、マルチローラーカード機のフィードコンベヤーベルト上に均一に広げた。環境条件(温度:21℃/55%RH)を制御した。次いで、短繊維をカーディングして不織バットを作成した。バットをピックアップローラーから取り外し、4つの均等な部分に切断した。これらを収集方向に垂直な梳毛機の中に再フィードした。この2回目の通過後、バットを秤量し(19.8g:布収率99%)、圧縮してフェルトにした。圧縮フェルトをORC布の上に正確に広げ、ニードルパンチ加工装置に2回通過させることによって堅固に付着させた。多層布を刈り込み、3台の別個のイソプロピルアルコール浴で洗い流し、スピン仕上げ剤及び機械油を取り除いた。洗い流した多層布を70℃のオーブンで30分間乾燥し、冷却して秤量した。水分含有量は2.0%w/w以下であった。
【0099】
(含浸方法)
機械
Fibroline SL-Preg実験室機械は、最大200Hzの周波数で最大40kVの電圧を最大60秒間印加することにより、電極間で粒子を動かす。2つの電極プレートは、約50×40cmのサイズである。上プレートを接地させる。
【0100】
以下の標準設定を使用した:40kV、100Hz、20~30秒。
【0101】
アレイ
3D印刷PMMAアレイを下電極プレートに取り付けた後、粉末を重力法によってアレイに注入した。掻取りカートン又は金属スパチュラを使用し、アレイに反応性ポリマー粉末を充填した。アレイは50×75×4mmであり、22×33=726個の正方形ウェル(各ウェルの内のり寸法:2×2×2mm)を含有していた。726個のウェルの合計体積は、およそ5.8mLであった。
【0102】
スペーサ
スペーサマスクをアレイの上に配置した。スペーサを使用すると、交番電界に供した際に粒子の上下移動が可能になる。スペーサが使用されない場合、担体への浸透及びそこを通る分布が制限される。
【0103】
異なる基材に対して異なるスペーサ高さが必要である。TUFT-IT及びSNoWの場合、高さは3mmのマスクであった。これにより、電極の距離は3+4mm=7mmになる。NU-ニット/SNoWハイブリッドの場合、高さは1.5mmのマスクであった。これにより、電極の距離は1.5+4mm=5.5mmになる。
【0104】
(出血実験)
標準化されたex-vivo及びin-vivoブタ出血モデルを使用して止血有効性を評価した。すべてのモデルは、ヘパリンを使用して凝血時間を延長させ、活性化凝固時間(ACT)を約2~3倍にした。
【0105】
ex-vivoモデル:
実際のin-vivo環境を可能な限り厳密に模倣するために、屠殺場からのヘパリン処置された新鮮な血液で灌流された新鮮な肝臓を有する、生きたex-vivoブタモデル。肝臓を灌流機に取り付け、灌流機によって酸素化、血液のpH、温度及び血圧を生体境界内に維持する。2つの肝臓及び10リットルのヘパリン処置された血液(5000単位/L)を屠殺場で収集する。肝臓は氷上で、血液は周囲温度で輸送する。収集後2時間以内に、肝臓を病変について検査し、これを手袋及びシアノアクリレート糊で閉じる。
灌流パラメータ:流量600ml/分、圧力10~12mmHg、温度37℃(+/-1℃)、カルボゲン 1分に0.25リットル
平坦な丸形回転擦過ツールを用いて肝臓表面に円形の出血創傷(直径8mm)を作成し、パンチされた出血部の深さが常に3mmになるようにゴムアンレーを用いる。
肝臓が適正に灌流されたら(色及び温度を点検する)、以下の手順に従って試料を試験する:試料を適切なサイズ(2.7×2.7cm)に切断する;カメラをオンにする;カメラで部位数を確認する;8mmの生検をパンチする;生検を切断除去する;ガーゼで血液を出血部から除去する(2x);事前に秤量されたガーゼで血液を30秒間収集する;出血をスコア付けする(2名の研究者によって);事前に湿潤されたガーゼ(食塩水)によって試料を出血部に置き、わずかな圧力で1分間抑える;5分間観察し(接着及び止血を点検し、スコア付けする)、30分後に繰り返す。
【0106】
ブタin-vivoモデル:
麻酔したブタ(家畜ブタ、雌、体重範囲:40kg、成体)で標準化組合せ貫通脾臓破裂を引き起こした。脾臓及び他の臓器にアクセスするため、正中線開腹術を行った。このモデルを使用する際、複数の種類の外科手技を行った:
円形生検パンチを使用し、肝臓及び/又は脾臓に被膜下標準化病変(直径0.8mm)を作製する。およそ2×2cmの試験品を使用して損傷を覆い、用手タンポナーデを適用する。
メスを使用し、肝臓及び/又は脾臓に被膜下標準化病変を作製する。標準的な技術を使用して所望の肝葉又は脾臓の端部を切除し、切断断面を露出したままにする。7.5×5cm又は10×5cmの試験品を使用して切除面を覆い、用手タンポナーデを適用する。
左右の腎臓を特定し、鈍的解剖と鋭的解剖の組合せを使用して単離する。左右の腎臓を片手で掴めるように解剖し、腎臓の尾極(およそ直径2.5±1cm×深さ1±0.5cm)をメスでギロチン式に切り取る。標的貼付部位を吸引して血液を払拭し、その直後に試験品を活動性出血部位に貼り付ける。7.5×5cm又は10×5cmの試験品を使用して切除面を覆い、用手タンポナーデを適用する。同じ手順を腎臓の頭極で繰り返す。
【0107】
ラットin-vivoモデル:
体重270~300グラムの範囲の100匹の雄Wistar(WU)ラットを使用する。すべてのラットを、手術の少なくとも15分前に0.02mg/kgの皮下ブプレノルフィン(buprenofine)によって処置する。誘導チャンバ内で、加圧空気と酸素の1:1混合物中5%のイソフルランを吸入させることにより、誘導麻酔を投与する。維持用量は、鼻口部マスクを通して投与する3.5%のイソフルランである(同様に加圧空気と酸素の1:1混合物中)。ラットを剪毛し、ヨウ素及び滅菌カバーを用いて皮膚消毒することによって準備する。ラットを、頭部を尾部より高くした状態で15度傾斜した台に固定する(murakimi 2008)。加熱パッド及びランプを用いて体温を38℃に維持し、厳密な無菌技術を使用して、4~5cmの正中線開腹術によって手術を行う。腹部正中線切開によって腹部を開き、左外側肝葉を単離する。葉を腰の強い紙片に置いて切除を行う。肝葉の遠位部を、メスを用いて端部からおよそ3mm切り取る。左外側肝葉の創傷付近に1枚のパッチ(15mm×25mm)を優しく貼り付け、その後湿潤したガーゼで1分間用手タンポナーデを適用する。次いで、肝正中葉の右部分を準備し、部分的切除を行い、同じ寸法の2枚目のパッチを同様に貼り付ける。
【0108】
ここに記載されるすべてのex-vivo及びin-vivo手順を通して、止血製品は事前に湿潤されたガーゼ(食塩水)によって穏やかな圧力で貼り付けられ、1分間保持される。製品の貼付後、凝固及び組織への接着をスコア付けする。
【0109】
パッチのスコア付けシステム:凝固
++++ タンポナーデ直後に達成
+++ タンポナーデ後<10秒で達成
++ タンポナーデ後<30秒で達成
+ タンポナーデ後3分以内に達成
+/- 3分後に達成、第2のタンポナーデを適用
- 達成されず
【0110】
パッチのスコア付けシステム:貼付の10分後
++++ 非常に強力な接着(除去時にパッチが破損する)
+++ 強力な接着(除去時にパッチが破損する)
++ 強力な接着(パッチは破損することなく除去可能)
+ 中等度の接着(パッチは破損することなく除去可能)
+/- 軽度の接着(パッチは破損することなく除去可能)
- 達成されず
【0111】
[実施例1]
〔タフト-ITへの70μmNHS-POx又は35μm染色NHS-POxの含浸〕
タフト-ITへの70μmNHS-POxの含浸(n=186)
非含浸タフト-Itの平均重量は0.74gであった
平均含浸は0.93gであり、これは約56%の全体的な含浸効率に相当する(含浸効率=
【数1】

34%のNHS-POxがアレイから回収され、含浸に再使用されたことを考慮すると、平均損失は8.9%w/wであった。
非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0112】
二重タフト-ITへの35μm青色NHS-POxの含浸(n=26)
非含浸タフト-Itの平均重量は1.55gであった
平均含浸は2.78gであり、これは約64%の全体的な含浸効率に相当する
平均損失は約10%であったが、NHS-POxをアレイから回収し、含浸に再使用する必要はなかった。
ここでも、非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0113】
[実施例2]
〔PEMへの50μm又は35μm反応性NHS-POx/NU-POxの含浸〕
PEMへの50μmNHS-POx/NU-POx造粒物の含浸(n=186)
非含浸PEMの平均重量は0.71gであった
平均含浸は1.65gであり、これは約70%の全体的な含浸効率に相当する
平均損失は約10%であったが、ポリマーをアレイから回収し、含浸に再使用する必要はなかった。
非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0114】
PEMへの35μmNHS-POx/NU-POx造粒物の含浸(n=20)
非含浸PEMの平均重量は0.72gであった
平均含浸は1.53gであり、これは約68%の全体的な含浸効率に相当する
平均損失は約5%であったが、ポリマーをアレイから回収し、含浸に再使用する必要はなかった。
非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0115】
[実施例3]
〔NU-ニット/SNoWハイブリッドへの50μm又は35μm反応性NHS-POx/NU-POxの含浸〕
NU-ニット/SNoWハイブリッドへの50μmNHS-POx/NU-POx造粒物の含浸(n=5)
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.56gであった
平均含浸は3.47gであり、これは約55%の全体的な含浸効率に相当する
平均損失は約10%であったが、ポリマーをアレイから回収し、含浸に再使用する必要はなかった。
非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0116】
NU-ニット/SNoWハイブリッドへの35μmNHS-POx/NU-POx造粒物の含浸(n=12)
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.52gであった
平均含浸は2.87gであり、これは約65%の全体的な含浸効率に相当する
平均損失は約5%であったが、ポリマーをアレイから回収し、含浸に再使用する必要はなかった。
非含浸シートの重量と含浸レベル(グラム単位)の間に相関は観察されなかった。
【0117】
[実施例4]
〔PEMへの40μmNHS-POx/NU-POx/P188(5及び10%)顆粒の含浸〕
5%P188:
非含浸PEMの平均重量は1.04gであった(n=11)
平均含浸は2.50gであり、これは約70%の全体的な含浸効率に相当する
【0118】
10%P188
非含浸PEMの平均重量は1.03gであった(n=6)
平均含浸は2.56gであり、これは約71%の全体的な含浸効率に相当する
【0119】
5%PEG3000:
非含浸PEMの重量は0.96gであった(n=1)
含浸は2.19gであり、これは約70%の全体的な含浸効率に相当する
【0120】
10%PEG3000:
非含浸PEMの重量は1.02gであった(n=1)
含浸は2.48gであり、これは約71%の全体的な含浸効率に相当する
【0121】
NHS-POx/NU-PEG:
非含浸PEMの重量は1.01gであった(n=1)
含浸は1.47gであり、これは約59%の全体的な含浸効率に相当する
【0122】
[実施例5]
〔NU-ニット/SNoWハイブリッドへの40μmNHS-POx/NU-POx/P188(1.5、2.5、3.5、5及び10%)顆粒の含浸〕
1.5%P188:
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.55gであった(n=1)
平均含浸は1.90gであり、これは約55%の全体的な含浸効率に相当する
【0123】
2.5%P188:
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.53gであった(n=1)
平均含浸は1.77gであり、これは約54%の全体的な含浸効率に相当する
【0124】
3.5%P188:
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.45gであった(n=1)
平均含浸は1.19gであり、これは約45%の全体的な含浸効率に相当する
【0125】
5%P188:
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.52gであった(n=12)
平均含浸は2.87gであり、これは約65%の全体的な含浸効率に相当する
【0126】
10%P188:
非含浸NU-ニット/SNoWハイブリッドの平均重量は1.52gであった
平均含浸は2.61gであり、これは約63%の全体的な含浸効率に相当する
【0127】
[実施例6]
〔PEMへの100μm反応性NHS-POx/ジェリータSpon顆粒の含浸〕
非含浸PEMの平均重量は0.79gであった(n=1)
2サイクル(1回は20秒、1回は30秒)後の平均含浸は1.15gであり、これは約60%の全体的な含浸効率に相当する
造粒物は膨らみがあったため、アレイに適用できる造粒物の量は限られていた。合理的な含浸効率(又は負荷%)を達成するために、2サイクルが必要であった。
【0128】
[実施例7]
タフト-Itは、0.75グラムのゼラチン繊維から作製され、最大1グラムのNHS-POxを保持することができる(実施例1を参照されたい)。1gのNHS-POxを超えて負荷容量を増加させるために、0.5グラムの標準的なジェリータSponをn=8層の間に均等に分散させることにより、いわゆる「タフト-It-プラス」を標準的なタフト-Itから作製した。
【0129】
タフト-Itの密度を増加させることにより、2つの主な結果が得られる:[1]バルク材料が増加し、より良好な止血が達成される+[2]より多くのNHS-POxを保持する能力が増大し、止血が改善する。
【0130】
タフト-It-プラスに70μmのNHS-POxを含浸させた。二重スペーサを使用して、NHS-POxの負荷を担体あたり1.5gまで増加させることができた(各3mmの二重マスクにより、粉末とアレイの厚さは3+3+4mm、電極間の全高は10mmになる)。
【0131】
[実施例8]
実施例1~7に記載の含浸シートを使用して出血実験を行った。
【0132】
試験した試料の概要を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
出血試験の結果を表2及び3に要約する(NT=試験せず)。
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
[実施例9]
実験を行い、止血パッチのin-vivoでの性能に対する反応性NHS-POx/NU-POx造粒物のNU-POx含有量の効果を決定した。
【0138】
(含浸方法)
止血パッチ(ジェリータ タフト-It(登録商標);50×75mm、およそ0.7g)に、1:0.10、1:0.20及び1:0.40のモル比でのアセトン造粒によって作製された反応性NHS-POx/NU-POx顆粒を含浸させ、前記モル比は、NHS-POxによって提供されるNHS基の数のNU-POxによって提供されるアミン基の数に対する比を指す。同じ止血パッチに、反応性NHS-POx粉末も含浸させた。
【0139】
Fibroline SL-Preg実験室機械を使用し、1グラムの造粒物/粉末をパッチ全体に分布させた。次に、止血パッチを固着させ、乾燥させ、1gのシリカを含有するalu-aluパウチに装填し、真空封止した。
【0140】
機械
Fibroline SL-Preg実験室機械は、最大200Hzの周波数で最大40kVの電圧を最大60秒間の期間印加することにより、電極間で粒子を動かす。2つの電極プレートは、約50×40cmのサイズである。上プレートを接地させる。
【0141】
以下の標準設定を使用した:40kV、100Hz、20秒。
【0142】
アレイ
3D印刷PMMAアレイを下電極プレートに取り付けた後、粉末を重力法によってアレイに注入した。掻取りカートン又は金属スパチュラを使用し、アレイに反応性ポリマー粉末を充填した。アレイは50×75×4mmであり、22×33=726個の正方形ウェル(各ウェルの内のり寸法:2×2×2mm)を含有していた。726個のウェルの合計体積は、およそ5.8mLであった。
【0143】
スペーサ
スペーサマスクをアレイの上に配置した。スペーサを使用すると、交番電界に供した際に粒子の上下移動が可能になる。スペーサが使用されない場合、担体への浸透及びそこを通る分布が制限される。タフト-ITの場合、これは3mmのマスクであった。これにより、電極の距離は3+4mm=7mmになる。
【0144】
NHS-POx:NU-POx造粒物(0、10、20及び40パーセントのNU-POxからのアミン基、パーセンテージはNHS-POxによって提供されるNHS基の数に基づいて計算される)又はNHS-POx粉末を含有する止血パッチのin vivoでの性能を、非ヘパリン処置in-vivoブタモデルで評価した。試験されたパッチの詳細を表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
(in vivo試験)
成体雌家畜ブタ(40~50kg)に試験を行った。抗凝固剤は適用しなかった。パッチ性能を脾臓と肝臓の両方で試験した。脾臓又は肝臓の位置を特定し、試験期間の経過とともに必要に応じて表出させ、食塩水で浸したスポンジで覆うことによりそれらの天然の湿度を維持した。
【0147】
異なる種類の損傷を作成した:
肝臓:擦傷、生検パンチ及び切除傷
脾臓:切除傷
【0148】
適切にサイズ調整された肝実質の部分を擦過/パンチし、中等度から重度の出血を引き起こした。外科用メス及び1×1cm2の鋳型によって肝臓の擦傷を作成し、8mmの円形生検パンチを使用して円形パンチを作成した。肝臓及び脾臓の切除傷は、外科用ナイフを使用して作成した。
【0149】
組織の切除又は乱切の直後にパッチを貼り付けた:
生検パンチ及び擦傷に対して2×2cm片
切除傷に対して完全な7.5×5cmのパッチ
【0150】
試験パッチを出血組織に貼り付け、食塩溶液で事前に湿潤されたガーゼを使用して圧迫することによって穏やかにプレスした。タンポナーデは、最初に10秒間の期間、次に30秒間の間隔をおき、合計5分間まで適用した。
【0151】
含浸されていないタフト-ITパッチを基準として使用した(タフト-ITと呼ぶ)。
【0152】
in vivo試験の結果を表5に要約する。
【0153】
【表5】
【0154】
パッチ1~4は非常に強力な組織接着を示した一方、タフト-ITパッチでは軽度の接着しか観察されなかった。
【0155】
パッチ1及び2は、貼付後にごくわずかな膨張しか示さなかった。パッチ3~4は、より大きな、しかし依然として許容可能な膨張を示した。
【0156】
[実施例10]
止血パッチ(ジェリータ タフト-It(登録商標);50×75mm、およそ0.7g)に、NHS-POxの溶液、NHS-POx粉末、又はNHS-POx/NU-POx造粒物のいずれかを含浸させた。使用したNHS-POx/NU-POx造粒物は、1:0.20のモル比でのアセトン造粒によって作製された(実施例9を参照されたい)。
【0157】
NHS-POxをイソプロピルアルコールとジクロロメタンの1:1混合物(200g/L)に溶解することにより、NHS-POxを含有する噴霧溶液を調製した。実験室ガラス噴霧器及び加圧空気を使用し、この噴霧溶液5mLを1回の噴霧サイクルでパッチに含浸させた。このようにして送達されたNHS-POxの全量は、パッチあたり1グラムであった。含浸後、パッチを40℃のオーブン内で2時間乾燥させ、その後乾燥器で2日間保管した後、1gのシリカを含有するalu-aluパウチに装填して真空封止した。
【0158】
さらに、実施例9に記載の手順を使用し、1グラムのNHS-POx粉末又は1グラムのNHS-POx/NU-POx造粒物をパッチに含浸させた。
【0159】
そのように調製されたパッチの性能を、ex vivo肝臓灌流モデルで、軽度(<20mL/分)及び重度の出血(>50mL/分)の条件下で三連で試験した。平坦な丸形回転擦過ツールを用いて肝臓表面に円形の出血創傷(直径8mm)を作成し、パンチされた出血部の深さが常に3mmになるようにゴムアンレーを用いた。結果を表6に示す。
【0160】
【表6】