(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】低屈折率膜、積層体、光学素子、防風材、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20240917BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20240917BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240917BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240917BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B1/10
B32B5/18
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2022503194
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003525
(87)【国際公開番号】W WO2021171912
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020033841
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】日下 哲
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 寿雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-108320(JP,A)
【文献】特開2006-145709(JP,A)
【文献】特開2009-211078(JP,A)
【文献】特開2012-185413(JP,A)
【文献】特開平11-269657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
G02B 1/10
B32B 5/18
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一層と、前記第一層に隣接する第二層と、を有する低屈折率膜であって、
1.01以上1.30以下の屈折率を有し、
前記第一層及び前記第二層のそれぞれは、中空粒子及びバインダーを含有しており、
前記第一層は、当該低屈折率膜の厚さの半分以下、かつ、200nm以下の厚みを有し、
前記第一層は、下記(I)及び(II)の少なくとも1つの条件を満たすボイドを有する、低屈折率膜。
(I)前記第一層の断面において1000nm
2以上の断面積を有する前記ボイドの数密度が
13/μm
2以上100/μm
2以下であ
り、前記第一層の前記断面において1000nm
2
以上の断面積を有する前記ボイドの前記数密度は、前記第二層の断面において1000nm
2
以上の断面積を有する前記ボイドの数密度より多い。
(II)前記第一層の前記断面の面積に対する、前記断面における前記ボイドの断面積の比は、
26%以上70%以下であ
り、前記第一層の前記断面の面積に対する前記第一層の前記断面における前記ボイドの断面積の前記比は、前記第二層の断面の面積に対する前記第二層の前記断面における前記ボイドの断面積の比よりも高い。
【請求項2】
前記第一層は、前記(I)の条件を満たし、
前記第一層の前記断面において1000nm
2以上の断面積を有する前記ボイドの前記数密度は、前記第二層の断面において1000nm
2以上の断面積を有する前記ボイドの数密度より多い、請求項1に記載の低屈折率膜。
【請求項3】
前記第一層は、前記(II)の条件を満たし、
前記第一層の前記断面の面積に対する前記第一層の前記断面における前記ボイドの断面積の前記比は、前記第二層の断面の面積に対する前記第二層の前記断面における前記ボイドの断面積の比よりも高い、請求項1又は2に記載の低屈折率膜。
【請求項4】
当該低屈折率膜は、70nm以上の厚さdtを有し、
前記第一層の厚さd1は、70nm≦dt≦400nmであるときにdt/2に等しく、400nm<dtであるときに200nmに等しい、請求項1~3のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項5】
前記中空粒子の平均粒子径は、20nm以上100nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項6】
前記中空粒子の含有量に対する前記バインダーの含有量の比は、質量基準で0.2以上20以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項7】
順に基材と、請求項1~6のいずれか1項に記載の低屈折率膜を含み、
前記第一層が、前記第二層より基材に近い、積層体。
【請求項8】
日本産業規格(JIS) B 0601-1994に従って決定される、前記基材の表面の算術平均粗さは、0.3nm以上140nm以下である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材の表面における水滴の接触角は、5°以上140°以下である、請求項7又は8に記載の積層体。
【請求項10】
前記基材は、前記基材の表面を形成する下地層を有する、請求項7~9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記下地層は、シリカ及びシルセスキオキサンの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記下地層は、5~50nmの厚みを有する、請求項10又は11に記載の積層体。
【請求項13】
基材と、
前記基材上に形成された、防曇膜、撥水性膜、撥油性膜、及び親水性膜の少なくとも一つと、
請求項1~6のいずれか1項に記載の低屈折率膜と、を備えた、
積層体。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載の低屈折率膜によって形成された表面を有する、光学素子。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載の低屈折率膜を備えた、防風材。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか1項に記載の低屈折率膜を備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率膜、積層体、光学素子、防風材、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の屈折率を有する材料を、対象となる透明な物品や基材にコーティングすることによって、それらの表面からの光の反射を抑制する反射防止膜が知られている。特に、レンズやフィルタなどの光学素子や、建築物などに使用される窓や構造材料、自動車用のウィンドシールド、ヘルメットやゴーグル等のシールドなどの分野や用途において、それらの表面からの反射光を抑制するとともに、それらの物品や基材を透過した光の光量を増大する目的において、表面に反射防止膜を形成することは重要である。例えば、ガラスの一つの表面の反射率は通常4~5%程度である。このため、板状ガラスからなる物品では、表面における反射及び裏面における反射を考慮した全体の反射率は8~10%となりうる。カメラ等の撮像装置とともに用いられるガラス製のレンズ表面からの反射光は、装置内又は他のレンズ表面によって反射又は屈折を繰り返し、ゴースト又はフレアといった好ましくない現象を引き起こしうる。したがって、光の透過又は屈折などの機能を果たす物品又は基材の表面に反射防止膜を形成し、表面における反射を抑制することが肝要である。
【0003】
光の反射の理論によれば、反射防止膜を構成する材料の屈折率が被膜される基材の屈折率(理想的には被膜される物品の屈折率の平方根)より小さいことにより、反射光が低減されやすいと期待される。しかし、単一の物質からなる材料では十分に屈折率の低いものがなく、異なる屈折率を有する複数の層を積層させた多層膜の構成や、中空粒子などの屈折率を低減させる効果を生じさせる物質を含有させて、膜全体の屈折率を低減する低屈折率膜と称される膜を含む構成が従来から存在する。
【0004】
例えば、特許文献1には、中空粒子をバインダーで結合した反射防止膜が記載されている。バインダーには、断面面積が1000nm2未満のボイド及び断面面積が1000nm2以上のボイドが含有されている。バインダーに含有されている断面面積が1000nm2以上のボイドの個数は、バインダーの断面面積1μm2に対して10個/μm2以下である。実施例において、ガラス基板BK7の上に反射防止膜が形成されており、反射防止膜の屈折率は1.27である。
【0005】
また、特許文献2には、基材上に反射防止膜が形成された光学素子が記載されている。この反射防止膜は、内部が空孔である中空微粒子をバインダーで相互に結合させることによって形成された低屈折率層を含んでいる。低屈折率層は、最表層としての第1層と、第1層に隣接して基材の側に位置する第2層とからなる。第1層でのバインダーの充填率は、第2層でのバインダーの充填率よりも低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-108320号公報
【文献】特開2013-033124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、反射防止膜においてガラス基板BK7の近くに位置する部分のボイドの定量的な状態は定かではない。一方、特許文献2によれば、第2層でのバインダーの充填率が高く、第2層においてボイドが存在することは記載されていない。このため、第2層の屈折率は比較的高くなりやすい。
【0008】
このような事情を踏まえると、特許文献1及び2に記載の技術は、反射防止性能を高める観点から再検討の余地を有する。そこで、本発明は、高い反射防止性能を発揮する観点から有利な新たな低屈折率膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
少なくとも第一層と、前記第一層に隣接する第二層と、を有する低屈折率膜であって、
1.01以上1.30以下の屈折率を有し、
前記第一層及び前記第二層のそれぞれは、中空粒子及びバインダーを含有しており、
前記第一層は、当該低屈折率膜の厚さの半分以下、かつ、200nm以下の厚みを有し、
前記第一層は、下記(I)及び(II)の少なくとも1つの条件を満たすボイドを有する、低屈折率膜を提供する。
(I)前記第一層の断面において1000nm2以上の断面積を有する前記ボイドの数密度が5/μm2以上100/μm2以下である。
(II)前記第一層の前記断面の面積に対する、前記断面における前記ボイドの断面積の比は、5%以上70%以下である。
【0010】
また、本発明は、
順に基材と、上記の低屈折率膜を含み、
前記第一層が、前記第二層より基材に近い、積層体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記の低屈折率膜は、高い反射防止性能を発揮する観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る積層体の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明に係る積層体の別の一例を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明に係る積層体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明に係る積層体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは、本発明に係る積層体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係る積層体の断面を示す走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る積層体の断面を示すSTEM写真においてボイドが黒く着色された図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の例示に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、「反射防止」とは表面からの光の反射を防止する役割、もしくは反射がなくならない場合でも反射防止のための構成が存在しない場合と比較して反射を低減させる役割を備えるものであり、「膜」とは、フィルム、コーティング、及び層と同義なものとして理解されうる。
【0014】
図1に示す通り、低屈折率膜10は、基材20の表面に沿って形成される膜である。低屈折率膜10は、第一層11と、第二層12とを備えている。第一層11は、低屈折率膜10の厚み方向において基材20に対し近位に位置している。第二層12は、低屈折率膜10の厚み方向において第一層11に隣接しており、基材20に対し遠位に位置している。低屈折率膜10は、1.01以上1.30以下の屈折率を有する。本明細書において「屈折率」は、絶対屈折率を意味し、例えば、ナトリウムのD線を用いた25℃における測定値に相当する。低屈折率膜10の屈折率は、例えば、反射率分光法に従った測定によって決定できる。
【0015】
「基材」とは、低屈折率膜又は反射防止膜によって被膜される物品又は物品の一部である。「基材」は、これらに限られないが、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、ディフューザ、平板マイクロレンズアレイ、偏光子、回折格子、ホログラム、光変調素子、光偏向素子、及びフィルタ等の光学素子(音響光学素子も含む)、固体撮像デバイス、建築物又は自動車の窓若しくはウィンドシールド、ヘルメット及びゴーグル等の光透過性のシールド、又はディスプレイ及びスクリーン等の表示装置である。「基材」の被膜面は、平面であってもよいし、曲面であってもよいし、凹凸面であってもよい。
【0016】
図1に示す通り、第一層11及び第二層12のそれぞれは、中空粒子13及びバインダー14を含有している。第一層11は、低屈折率膜10の厚さの半分以下、かつ、200nm以下の厚みを有する。第一層11は、下記(I)及び(II)の少なくとも1つの条件を満たすようにボイド15を有する。なお、ボイド15は、低屈折率膜10の内部または界面に存在し、中空粒子13及びバインダー14によって占められていない空間である。例えば、中空粒子13の内部空間はボイド15には該当しない。ボイド15には、例えば空気が存在する。
(I)第一層11の断面S1において1000nm
2以上の断面積を有するボイド15の数密度ρv1が5/μm
2以上100/μm
2以下である。
(II)第一層11の断面S1の面積(At1)に対する、断面S1に存在するボイド15の断面積(Av1)の比(Av1/At1)は、5%以上70%以下である。
【0017】
第一層11が(I)及び(II)の少なくとも1つの条件を満たすことにより、第一層11におけるボイド15の定量的な状態が所望の状態となり、低屈折率膜10において第一層11が低い屈折率を有しやすい。その結果、低屈折率膜10が高い反射防止性能を発揮しやすい。ボイド15は、第一層11の内部又は低屈折率膜10と他の部材との界面に形成されうる。
【0018】
(I)の条件に関し、「1000nm2以上の断面積を有するボイド15」は、断面S1においてボイド15とボイド15の周囲の物質との境界によって決定された1つのボイド15の断面積が1000nm2以上であるものである。数密度ρv1を求める場合は、第一層11を含む積層体の断面において、基材20の表面に沿って1000nm(1μm)の長さ(幅)と、第一層11の厚みd1に対応する高さとを有する長方形によって囲まれた領域を断面S1とし、その内部に存在する1000nm2以上の断面積を有するボイド15の数をカウントする。その数を断面S1の面積At1で割ることによって、数密度ρv1が求まる。なお、数密度ρv1を求める場合、断面S1の領域内に完全に含まれるボイド、基材または下地層の表面の一部が境界の一部となっているボイド、断面S1に一部だけ含まれるボイドもカウントする。数密度ρv1が5/μm2以上であることにより、低屈折率膜10において第一層11が低い屈折率を有しやすい。加えて、基材20の膨張係数と低屈折率膜10の膨張係数との差が大きくても、温度変化により低屈折率膜10にクラック又は割裂が生じるリスクが低減されやすい。数密度ρv1は、望ましくは6/μm2以上であり、より望ましくは8/μm2以上であり、さらに望ましくは10/μm2以上である。数密度ρv1が100/μm2以下であることにより、低屈折率膜10が所望の機械的強度を有しやすい。加えて、可視光等の入射光の散乱が大きくなることが防止されやすく、低屈折率膜10を備えた物品のヘーズを低く保ちやすい。数密度ρv1は、望ましくは99/μm2以下であり、より望ましくは90/μm2以下であり、さらに望ましくは85/μm2以下である。数密度ρv1は、75/μm2以下であってもよく、50/μm2以下であってもよい。
【0019】
(II)の条件に関し、百分率で表した比(Av1/At1)をボイド率Vv1[%]とも呼ぶ。ボイド率Vv1を求める場合は、断面S1に存在する1000nm2以上の断面積を有するボイド15の面積の総和をAv1とする。なお、ボイド15の面積の総和Av1を求める場合、断面S1の領域内に完全に含まれるボイドの面積、断面S1の領域内に一部だけ含まれるボイドについては、断面S1の領域内に存在する部分の面積を考慮してAv1を求めるものとする。ボイド率Vv1が5%以上であることにより、低屈折率膜10において第一層11が低い屈折率を有しやすい。加えて、基材20の膨張係数と低屈折率膜10の膨張係数との差が大きくても、温度変化により低屈折率膜10にクラック又は割裂が生じるリスクが低減されやすい。ボイド率Vv1は、望ましくは5%より高く、より望ましくは9%以上であり、さらに望ましくは10%以上である。ボイド率Vv1が70%以下であることにより、低屈折率膜10が所望の機械的強度を有しやすい。ボイド率Vv1は、望ましくは70%より低く、より望ましくは65%以下である。ボイド率Vv1は、50%以下であってもよく、30%以下であってもよい。
【0020】
第一層11が上記(I)の条件を満たしているときに、数密度ρv1は、例えば、基材20の表面に沿って延びる第二層12の断面S2において1000nm2以上の断面積を有するボイド15の数密度ρv2より多い。これにより、低屈折率膜10において第一層11がより確実に低い屈折率を有しやすい。数密度ρv2を求める場合は、第二層12を含む積層体の断面において、基材20の表面に沿って1000nm(1μm)の長さ(幅)と、第二層12の厚みd2(=dt-d1)に対応する高さとを有する長方形によって囲まれた断面S2の内部に存在する1000nm2以上の断面積を有するボイド15の数をカウントする。その数を断面S2の面積At2で割ることにより数密度ρv2が求まる。なお、数密度ρv2を求める場合、断面S2の領域内に完全に含まれるボイドのほか、第二層12において第一層11に接している面と対向する面の一部が境界の一部となっているボイド、断面S2の領域内に一部だけ含まれるボイドもカウントする。断面S2に存在する1000nm2以上の断面積を有するボイド15の面積の総和をAv2とする。ボイド15の面積の総和Av2を求める場合、断面S2の領域内に完全に含まれるボイドの面積、断面S2の領域内に一部だけ含まれるボイドについては、断面S2の領域内に存在する部分の面積を考慮してAv2を求めるものとする。
【0021】
第一層11が上記(II)の条件を満たしているときに、比(Av1/At1)は、例えば、比(Av2/At2)よりも高い。比(Av2/At2)は、基材20の表面に沿って延びる1000nmの長さを有する第二層12の断面S2の全面積At2に対する第二層12の断面S2に存在するボイド15の断面積Av2の比を百分率で表したものである。これにより、低屈折率膜10において第一層11がより確実に低い屈折率を有しやすい。
【0022】
断面S1及び断面S2は、典型的には、基材20の表面の法線に平行な平面に沿って低屈折率膜10を切断して形成される断面である。添付の図面における断面図又は電子顕微鏡写真に示された断面は、このような断面に該当する。
【0023】
第一層11及び第二層12は、基材20の表面の法線に直交する境界面によって区別される。典型的には、低屈折率膜10の厚み方向において、その境界面よりも基材20に近い部分が第一層11に該当し、その境界面よりも基材20から遠い部分が第二層12に該当する。なお、その境界面は、実在的なものであってもよいし、仮想的なものであってもよい。例えば、バインダー14は、第一層11及び第二層12において連続相をなしていてもよい。
【0024】
低屈折率膜10は、例えば70nm以上の厚さdtを有する。第一層11の厚さd1は、例えば70nm≦dt≦400nmであるときにdt/2に等しい。また、第一層11の厚さd1は、例えば400nm<dtであるときに200nmに等しい。このような厚みを有する第一層11が(I)及び(II)の少なくとも1つの条件を満たすことにより、低屈折率膜10がより確実に高い反射防止性能を発揮しやすい。
【0025】
低屈折率膜10の屈折率は、望ましくは1.05以上1.28以下であり、より望ましくは1.10以上1.25以下である。
【0026】
バインダー14の材料は、特定の材料に限定されない。バインダー14の材料は、例えば、耐環境性、耐摩耗性、及び基材との密着性等の観点から所望の特性を満たす材料である。また、バインダー14の材料は、望ましくは、低屈折率膜10を備えた物品において使用される所定の波長の範囲の光に対し高い透明性を有する材料である。低屈折率膜10を備えた物品において使用される所定の波長の範囲は、可視光域又は近赤外線域に存在しうる。
【0027】
バインダー14は、例えば、シリカ、シルセスキオキサン、又はシリカとシルセスキオキサンとの混合物を含む。この場合、バインダー14において、可視光域で透明性を確保できる波長の範囲が広くなりやすい。加えて、バインダー14の屈折率をある程度低くすることも可能である。
【0028】
バインダー14は、例えば、基材20の種類又は低屈折率膜10を備えた物品に求められる性能に応じて所定の硬化性樹脂を含んでいてもよい。硬化性樹脂は、基材20の表面に塗布する場合は液状であるが、塗布後に加熱及び光エネルギー照射等の方法によって硬化するので、低屈折率膜10の製造が容易になりやすい。硬化性樹脂の例は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、及びシリコーン系樹脂である。
【0029】
バインダー14が、シリカ、シルセスキオキサン、又はシリカとシルセスキオキサンとの混合物を含む場合、例えば、1%≦WSi≦60%及び5%≦WSq≦90%の少なくとも1つの条件が満たされる。WSiは、低屈折率膜10の固形分の質量に対するバインダー14に含まれるシリカの質量の比である。WSqは、低屈折率膜10の固形分の質量に対するバインダー14に含まれるシルセスキオキサンの質量の比である。望ましくは、5%≦WSi≦60%及び8%≦WSq≦80%の少なくとも1つの条件が満たされ、より望ましくは、8%≦WSi≦30%及び10%≦WSq≦60%の少なくとも1つの条件が満たされる。
【0030】
バインダー14が、シリカ、シルセスキオキサン、又はシリカとシルセスキオキサンとの混合物を含む場合、例えば、5%≦Wb≦90%の条件が満たされる。Wbは、低屈折率膜10の固形分の質量に対する、バインダー14に含まれるシリカの質量とシルセスキオキサンの質量との和の比である。望ましくは10%≦Wb≦85%の条件が満たされ、より望ましくは20%≦Wb≦80%の条件が満たされる。バインダー14におけるシリカは、例えば、四官能性アルコキシシランの加水分解及び縮重合によって得られる。バインダー14におけるシルセスキオキサンは、例えば、三官能性アルコキシシランの加水分解及び縮重合によって得られる。
【0031】
中空粒子13は、典型的には、シェルによって区画された空孔を有する粒子である。低屈折率膜10が中空粒子13を含有していることにより、低屈折率膜10の屈折率が低くなりやすい。
【0032】
中空粒子13の平均粒子径deは、特定の値に限定されない。中空粒子13の平均粒子径deは、例えば、20nm以上100nm以下である。平均粒子径deが20nm以上であることにより、中空粒子13の内部の空孔が所望の容積を有しやすい。これにより、低屈折率膜10の屈折率が低くなりやすい。平均粒子径deが100nm以下であることにより、光の散乱が大きくなりにくい。中空粒子13の平均粒子径deは、例えば、個数基準の粒度分布における平均粒子径である。
【0033】
中空粒子13の平均粒子径deは、望ましくは25nm以上90nm以下であり、より望ましくは30nm以上80nm以下である。
【0034】
中空粒子13のシェルの材料は、特定の材料に限定されない。中空粒子13のシェルの材料の例は、SiO2、ZrO2、及びMgF2等の無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びテトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)等のフッ素系化合物、並びに樹脂をなすポリマーである。中空粒子13のシェルの材料は、望ましくは低い屈折率、例えばSiO2の屈折率以下の屈折率を有する。
【0035】
中空粒子13のシェルの厚みは、特定の値に限定されない。中空粒子13のシェルの厚みは、例えば5nm以上20nm以下であり、望ましくは10nm以上20nm以下である。
【0036】
低屈折率膜10の固形分の質量に対する中空粒子13の質量の比Whp[%]は、特定の値に限定されない。比Whpは、例えば5%以上90%以下であり、望ましくは10%以上85%以下であり、より望ましくは20%以下80%以下である。
【0037】
低屈折率膜10における中空粒子13の含有量とバインダー14の含有量との関係は、特定の関係に限定されない。低屈折率膜10は、例えば、0.2<Wb/Whp<20の条件を満たす。Wb/Whp<20の条件が満たされることにより、低屈折率膜10の屈折率が低くなりやすい。加えて、基材20の膨張係数と低屈折率膜10の膨張係数との差が大きくても、温度変化により低屈折率膜10にクラック又は割裂を生じさせにくい。0.2<Wb/Whpの条件が満たされることにより、低屈折率膜10が所望の機械的強度を有しやすく、低屈折率膜10の破壊又は低屈折率膜10の剥離を生じさせにくくすることが期待できる。
【0038】
低屈折率膜10は、望ましくは0.3<Wb/Whp<15の条件を満たし、より望ましくは0.4<Wb/Whp<12の条件を満たし、さらに望ましくは0.5<Wb/Whp<10の条件を満たす。
【0039】
低屈折率膜10は、必要に応じて、光吸収剤等の機能性成分を含有していてもよい。これにより、低屈折率膜10は機能性成分に対応した付加的な機能を発揮しうる。光吸収剤の例は、紫外線吸収剤及び赤外線吸収剤である。紫外線吸収剤は、特定の紫外線吸収剤に限定されない。紫外線吸収剤の例は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤である。赤外線吸収剤の例は、特定の赤外線吸収剤に限定されない。赤外線吸収剤の例は、スクアリリウム系赤外線吸収剤、ジインモニウム系赤外線吸収剤、シアニン系赤外線吸収剤、フタロシアニン系赤外線吸収剤、アゾ系赤外線吸収剤、並びにホスホン酸及びリン酸エステル等のリン酸誘導体と銅等の金属成分とを含むリン酸‐金属化合物である。
【0040】
図1に示す通り、例えば、低屈折率膜10を備えた積層体1aを提供できる。積層体1aは、基材20と、低屈折率膜10とを備えている。積層体1aにおいて、低屈折率膜10は、基材20の表面に沿って形成されている。
【0041】
低屈折率膜10は、例えば、基材20の表面に接触している。
【0042】
図1に示す通り、積層体1aにおいて、低屈折率膜10は、例えば、基材20の一方の主面に接して形成されている。低屈折率膜10は、例えば、基材20の両方の主面に接して形成されていてもよい。
【0043】
基材20は、平面の表面を有する板状の部材であってもよく、曲面の表面を有するレンズ等の部材であってもよく、凹凸を有する表面を含む回折格子等の部材であってもよく、微細な凹凸を有する表面を含むマイクロレンズアレイ及びディフューザ等の部材であってもよい。基材20は、それらの表面の組み合わせによって定義される表面を有する部材であってもよい。
【0044】
基材20は、低屈折率膜又は反射防止膜によって被膜される物品又は物品の一部であるが、特定の機能を有する物品に限定されない。基材20は、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、ディフューザ、平板マイクロレンズアレイ、偏光子、回折格子、ホログラム、光変調素子、光偏向素子、及びフィルタ等の光学素子(音響光学素子も含む)、固体撮像デバイス、建築物若しくは自動車の窓若しくはウィンドシールド、ヘルメット、及びゴーグル等の光透過性のシールド、ディスプレイ及びスクリーン等の表示装置であってもよい。低屈折率膜10を反射防止のために用いる場合、積層体1aにおいて光の透過性が高くなりやすい。
【0045】
図1に示す通り、基材20は、例えば互いに反対側を向いている2つの主面を有する板状の基板21を備えている。基板21の材料は、特定の材料に限定されない。基板21の材料は、例えば、ガラス、樹脂、又はシリコン等の半導体材料である。ガラスの例は、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、及び屈折率等の光学特性を高めた多成分系の光学ガラスである。樹脂の例は、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びシリコーン系樹脂である。
【0046】
日本産業規格(JIS) B 0601-1994に従って決定される、基材20の表面の算術平均粗さRaは、特定の値に限定されない。基材20の表面の算術平均粗さRaは、例えば0.3nm以上140nm以下である。基材20の表面の算術平均粗さRaが0.3nm以上であることにより、基材20と低屈折率膜10との密着性が良好になりやすい。このため、第一層11がボイド15を有していても、低屈折率膜10が基材20から剥がれにくい。基材20の表面の算術平均粗さRaが140nm以下であることにより、低屈折率膜10の膜厚が空間的にばらつきにくく、低屈折率膜10が発揮すべき機能が面内においてばらつきにくい。加えて、積層体1aにおいて光の散乱等の現象によって実効的な光の透過性能の低下を防ぐことができる。
【0047】
基材20の表面の算術平均粗さRaは、望ましくは0.4nm以上100nm以下であり、より望ましくは0.5nm以上50nm以下であり、さらに望ましくは0.5nm以上35nm以下である。
【0048】
基材20の表面の算術平均粗さRa及び積層体1aへの入射光の波長λi[nm]は、例えば、Ra≦λi/4の関係を満たしている。これにより、積層体1aにおいて光の散乱が起こりにくい。例えば、入射光が550nmの波長を有する可視光である場合、Ra≦550/4[nm]=137.5nmの関係が満たされていることにより、光の散乱による透過率の低下を防ぐことができる。
【0049】
基材20の表面の算術平均粗さRa及び中空粒子13の平均粒子径deは、例えば、Ra≦deの関係を満たす。これにより、低屈折率膜10において中空粒子13が均一に分散しやすい。例えば、中空粒子13の平均粒子径deが50nmである場合、望ましくはRa≦50nmの関係が満たされる。
【0050】
基材20の表面における水滴の接触角αは、特定の値に限定されない。一方、基材20の表面の濡れ性を調節することによって、低屈折率膜10において、低屈折率膜10と基材20との界面の近傍にボイド15が形成されやすい。
【0051】
基材20の表面における水滴の接触角αは、例えば5°以上140°以下である。接触角αが5°以上であることにより、基材20の表面において低屈折率膜10の前駆物質である液状組成物がはじかれて第一層11にボイド15を所望の状態で形成できる。接触角αが140°以下であることにより、基材20の表面において低屈折率膜10の前駆物質である液状組成物が過剰にはじかれることを防止でき、低屈折率膜10が所望の膜厚を有しやすい。加えて、低屈折率膜10において筋状の欠点及び膜厚のばらつきが発生しにくく、低屈折率膜10の面内において均一な特性が発揮されやすい。
【0052】
基材20の表面の算術平均粗さRa及び基材20の表面における水滴の接触角αは、例えば、基材20の表面に所定の表面処理を施すことによって調整される。表面処理の方法の例は、薬品による処理又はブラスト処理等を用いて化学的又は物理的に基材20の表面状態を変化させる方法である。例えば、基材20の表面に微細な凹凸を形成させる方法によれば、基材20の表面において低屈折率膜10の前駆物質である液状組成物がアンカー効果等の物理的な接着効果を奏しやすい。表面処理の方法の例は、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、及び火炎処理等の基材20の表面における官能基の化学的結合の状態を変化させる方法であってもよい。このような方法によっても、基材20の表面における低屈折率膜10の前駆物質である液状組成物の濡れ性を調節できる。また、プライマー又はシランカップリング剤等の表面処理剤の塗布により、基材20の表面における低屈折率膜10の前駆物質である液状組成物の濡れ性を調節してもよい。加えて、基材20の表面の算術平均粗さRa及び基材20の表面における水滴の接触角αは、機能層及び下地層等の所定の層によって基材20の表面を形成することによって調整してもよい。
【0053】
基材20は、所定の機能層を備えていてもよい。この場合、機能層は、例えば、反射防止膜、光吸収膜、及び光反射膜等の光の透過性及び反射性を調節する層、膜、又はフィルム状のものである。反射防止膜は、例えば、SiO2、MgF2、及びTiO2等の無機材料を含んでいる単層又は多層の誘電体膜である。光反射膜は、例えば、SiO2、MgF2、及びTiO2等の無機材料を含んでいる単層又は多層の誘電体膜である。光反射膜は金属膜であってもよい。光吸収膜は、例えば、赤外線吸収剤又は紫外線吸収剤を内包した樹脂を含む膜である。赤外線吸収剤の例は、スクアリリウム系色素、ジインモニウム系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、及びリン含有酸化物と銅等の金属とを含む錯体である。紫外線吸収剤の例は、ベンゾフェノン系色素、ベンゾトリアゾール系色素、及びトリアジン系色素である。機能層は、防曇膜、撥水性膜、撥油性膜、及び親水性膜等の環境に含まれる水分又は油分に対する挙動を調節する層、膜、又はフィルム状のものであってもよい。
【0054】
低屈折率膜10は、例えば、所定の液状組成物を基材20の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を硬化させることによって製造できる。液状組成物は、例えば、バインダー14の原料と中空粒子13とを混合することによって調整できる。液状組成物には、必要に応じて上記の機能性成分が添加される。
【0055】
液状組成物は、例えば、溶剤及び水を含んでいてもよい。これにより、液状組成物の粘度調整、液状組成物における機能性成分の分散性の向上、又はバインダー14の原料の溶解性の向上等の目的が実現されやすい。溶剤は、特定の溶剤に限定されない。溶剤の例は、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、アルコール類、フェノール類、水、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルエーテル、酢酸エチル、及びこれらの混合物であってもよい。
【0056】
液状組成物は、例えば酸を含んでいてもよい。バインダー14の原料がアルコキシシランを含む場合、酸は、アルコキシシランの加水分解等の反応の触媒として働く。酸は、特定の酸に限定されない。酸の例は、ギ酸及び塩酸である。
【0057】
積層体1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、積層体1aは、
図2Aに示す積層体1b、
図2Bに示す積層体1c、
図2Cに示す積層体1d、又は
図2Dに示す積層体1eのように形成されていてもよい。積層体1b、積層体1c、積層体1d、及び積層体1eのそれぞれは、特に説明する部分を除き、積層体1aと同様に構成されている。積層体1aの構成要素と同一又は対応する、積層体1b、積層体1c、積層体1d、又は積層体1eの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。積層体1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、積層体1b、積層体1c、積層体1d、及び積層体1eにも当てはまる。
【0058】
図2A及び
図2Bに示す通り、積層体1b及び1cの基材20は、下地層22をさらに備えている。下地層22によって基材20の一方の又は両方の主面の表面が形成されている。積層体1bにおいて、低屈折率膜10は、下地層22の上に形成されている。下地層22によって、低屈折率膜10を形成するのに適した状態に基材20の表面を調整しやすい。例えば、基材20の表面の算術平均粗さRa又は基材20の表面における水滴の接触角αが所望の範囲に調整されやすい。
【0059】
積層体1cにおいて、基材20の両方の主面の表面の上に一対の低屈折率膜10が形成されている。一対の低屈折率膜10の一方は、下地層22の上に形成されている。
【0060】
下地層22は、特定の層に限定されない。下地層22は、例えば、シリカ及びシルセスキオキサンの少なくとも1つを含む。下地層22は、シリカを含んでいてもよいし、シルセスキオキサンを含んでいてもよいし、これらの混合物を含んでいてもよい。下地層22は、SiO2、TiO2、及びMgF2等の無機材料を含んでいてもよい。下地層22は、それらの無機材料の複数の層を積層した多層膜であってもよい。下地層22は、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、及びシリコーン系樹脂等の樹脂を含む層であってもよい。
【0061】
図2A及び
図2Bに示す通り、下地層22によって基材20の一方の主面の表面が形成されている。一方、下地層22によって基材20の両方の主面の表面が形成されていてもよい。この場合、基材20の両方の主面の表面をなす下地層22の上に一対の低屈折率膜10が形成されていてもよい。
【0062】
下地層22の厚みは、特定の厚みに限定されない。下地層22は、例えば5~50nmの厚みを有する。
【0063】
図2C及び
図2Dに示す通り、積層体1d及び1eの基材20は、機能層23をさらに備えている。機能層23によって基材20の一方の主面の表面が形成されている。積層体1dにおいて、低屈折率膜10は、機能層23の上に形成されている。機能層23によって、積層体1d及び1eに所望の機能を付与できる。加えて、機能層23によって、低屈折率膜10を形成するのに適した状態に基材20の表面を調整することも可能である。例えば、機能層23によって、基材20の表面の算術平均粗さRa又は基材20の表面における水滴の接触角αが所望の範囲に調整されやすい。
【0064】
積層体1eにおいて、基材20の両方の主面の表面の上に一対の低屈折率膜10が形成されている。一対の低屈折率膜10の一方は、機能層23の上に形成されている。
【0065】
機能層23は、所定の機能を有する限り、特定の層に限定されない。機能層23は、例えば、反射防止膜、光吸収膜、及び光反射膜等の光の透過性及び反射性を調節する層、膜、又はフィルム状のものである。反射防止膜は、例えば、SiO2、MgF2、及びTiO2等の無機材料を含んでいる単層又は多層からなる膜である。光反射膜は、例えば、SiO2、MgF2、及びTiO2等の無機材料を含んでいる単層若しくは多層からなる膜、又は、金属から構成される金属膜を含んでいてもよい。光吸収膜は、例えば、赤外線吸収剤又は紫外線吸収剤を内包した樹脂を含む膜である。赤外線吸収剤の例は、スクアリリウム系色素、ジインモニウム系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、及びリン含有酸化物と銅等の金属とを含む錯体である。紫外線吸収剤の例は、ベンゾフェノン系色素、ベンゾトリアゾール系色素、及びトリアジン系色素である。光吸収膜は、金属から構成される金属膜を含んでいてもよい。
【0066】
機能層23は、防曇膜、撥水性膜、撥油性膜、及び親水性膜等の環境に含まれる水分又は油分に対する挙動を調節する層、膜、又はフィルム状のものであってもよい。換言すると、積層体1d及び1eは、基材20と、基材20上に形成された、防曇膜、撥水性膜、撥油性膜、及び親水性膜の少なくとも一つと、低屈折率膜10とを備えていてもよい。
【0067】
図2C及び
図2Dに示す通り、機能層23によって基材20の一方の主面の表面が形成されている。一方、機能層23によって基材20の両方の主面の表面が形成されていてもよい。この場合、基材20の両方の主面の表面をなす機能層23の上にそれぞれ低屈折率膜10が形成されていてもよい。
【0068】
低屈折率膜10を備えた様々な物品を提供できる。例えば、低屈折率膜10によって形成された表面を有する、光学素子を提供できる。また、低屈折率膜10を備えた、防風材を提供することもできる。防風材の例は、窓ガラス及びウィンドシールドである。さらに、低屈折率膜10を備えた、表示装置を提供することもできる。
【実施例】
【0069】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に関する評価方法を説明する。
【0070】
<成膜性の評価>
各実施例及び各比較例に係る低屈折率膜用液状組成物の各実施例及び各比較例に係る基材の表面に対する成膜性を評価した。低屈折率膜用液状組成物を基材の表面に塗布したときに塗れない部分があること、又は、低屈折率膜の厚みが不均一であることが確認された場合、成膜性を「F」と評価した。一方、これらが確認されなかった場合、成膜性を「A」と評価した。結果を表2に示す。
【0071】
<反射率、屈折率、及び膜厚>
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、製品名:U-4000)を用いて、入射角度を12°に調整して、各実施例及び各比較例に係る積層体の分光反射率を測定した。さらに、光学薄膜設計ソフトウェアFilmWizard(Scientific Computing International社製)を用いて、各実施例及び各比較例に係る低屈折率膜の屈折率及び膜厚を求めた。D線(波長589nm)における分光反射率、屈折率、及び膜厚を表2に示す。また、分光反射率の測定に係る積層体として、基材の一方の主面に低屈折率膜を形成した場合、低屈折率膜の形成されていない主面を、黒色でその全面を塗装する、粗面にする、又はマット面にする等の方法によって当該主面による反射等の影響を無視できる積層体を用いることができる。この場合、黒色の塗料は、特定の塗料に限定されないが、墨塗であってもよく、フレアカットと称される光学分野で用いられる塗料であってもよい。黒色の塗料として、例えば、キヤノン化成社製のGT-1000、GT-2000、GT-7、及びCS-37を使用できる。マット面は、例えば、#500(500番)以上の粒度を有する研削材を用いて形成した。マット面に加工された主面をその後黒色に塗装をしてもよい。積層体が下地層を含む場合、下地層の膜厚は低屈折率膜の形成の前に、フィルメトリクス社製の膜厚測定システムF20-UVを用いて、反射分光法により膜厚を測定した。
【0072】
<ヘーズ>
ヘーズメーター(スガ試験機社製、製品名:HZ-V3)を用いて、各実施例及び各比較例に係る積層体の互いに1cm離れた3点でヘーズを測定し、その平均値を求めて、その平均値を各実施例及び比較例のヘーズとした。結果を表2に示す。
【0073】
<ボイドの数Nv及びボイド率Vv1>
各実施例及び各比較例に係る積層体の低屈折率膜におけるボイドの状態を確認するために、まず、基材の表面における法線に平行な断面に沿って、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の収束イオンビーム装置SMI3200Fを用いて100nmの厚みで切り出した。最表面に、厚み400~500nmのカーボンを蒸着して試料を作製した。この試料の断面を、日立ハイテクノロジー社製の走査型透過電子顕微鏡(STEM)S-5500を用いて、250000倍の倍率の視野で明視野の透過観察を行い、低屈折率膜を含む積層体の透過撮影画像を取得した。加速電圧は200kVであった。積層体の透過撮影画像において、ボイドは白く強調されて観察された。取得した積層体の断面の透過撮影画像を0~255の階調で数値化したうえで、ヒストグラム平坦化処理を行って、一定のコントラストをもつ画像を取得した。そのうえで、229~255の階調をボイドとした。ボイドの数、数密度、及び断面積の算出は以下のようにした。まず、積層体の断面の透過撮影画像について、基材の表面に平行な方向に沿って1000nm(1μm)の画像を取得して上記の方法に基づいてボイドを特定した。
図4に積層体の断面の透過撮影画像と特定したボイドの図を示す。
図4において他の部分と区別しやすいようにボイドを黒く表した。次に、低屈折率膜の厚みdtを計測し第一層の厚みd1を求め、d1×1000の演算によって第一層の断面S1の面積At1を求めた。第一層の厚みd1は70nm≦dt≦400nmのときはd1=dt/2であり、400nm<dtのときはd1=200nmである。第一層の断面S1に含まれるボイドのうち、その断面積が1000nm
2以上のボイドの数Nv1をカウントし、断面積が1000nm
2以上のボイドの断面積の和Av1を算出した。同様にして第二層の断面S2の面積At2(=(dt-d1)×1000)を算出し、第二層の断面S2に含まれるボイドのうち、その断面積が1000nm
2以上のボイドの数Nv2をカウントし、断面積が1000nm
2以上のボイドの断面積の和Av2を算出した。ボイドの数Nv1を面積At1で除して数密度ρv1を求めた。加えて、ボイドの断面積の和Av1を面積At1で除してボイド率Vv1を決定した。各実施例等において、面内で10mm離間した3点について積層体の透過撮影画像を取得して、上記のパラメータをそれぞれ求めてそれらの平均値を採用した。ボイドの数Nv及びボイドの面積比Vv[%]の値は小数点以下を切り捨てた値を採用した。以上の演算等については、必要な場合は、アメリカ国立衛生研究所が提供する画像処理ソフトウェアであるImageJ バージョン1.51によって行った。
【0074】
<耐摩耗性試験>
旭化成ケミカルズ社製のコットン布クリントで50g/cm2の荷重を各実施例及び各比較例に係る積層体にかけた状態で積層体の表面を5回往復させた。その後、D線(波長=589nm)における反射率を測定し、耐摩耗性試験前後の反射率の差を比較した。反射率の差ΔRDが、ΔRD/(耐摩耗性試験前のD線における反射率RD)≦25%の場合を「A」と評価し、ΔRD/(耐摩耗性試験前のD線における反射率RD)>25%の場合を、「F」と評価した。
【0075】
<実施例1>
テトラエトキシシラン(TEOS)(東京化成工業社製)0.6g、メチルトリエトキシシラン(MTES)(東京化成工業社製)1.18g、0.3質量%のギ酸(キシダ化学社製)0.82g、中空シリカ粒子含有ゾル(日揮触媒化成社製、製品名:スルーリア4110)3g、及びエタノール(キシダ化学社製)22.4gを混ぜ、35℃で3時間反応させた。用いた中空シリカ粒子含有ゾルは、溶剤を含み、固形分として25質量%の中空シリカを含有するものであり、個数基準の粒度分布における中空シリカ粒子の平均粒子径は約50nmであった。中空シリカ粒子のシリカでできたシェルの厚みは10~20nmであった。中空シリカ粒子の内部空間の最大寸法は約10~30nmであった。中空粒子の屈折率は、1.25であった。このようにして、実施例1に係る低屈折率膜用液状組成物を得た。実施例1に係る低屈折率膜用液状組成物において、TEOSに由来する固形分の含有量は、シリカに換算して0.6質量%であり、MTESに由来する固形分であるメチルシルセスキオキサン(MeSq)の含有量が1.6質量%であり、中空シリカ粒子の含有量が2.6質量%であった。実施例1に係る低屈折率膜用液状組成物の固形分において、質量基準で、TEOS由来のシリカが13%、MTESに由来するMeSqが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。なお、中空シリカ粒子の含有量は、中空シリカ粒子含有ゾルのうち固形分が25質量%であり、その固形分が中空シリカ粒子であると仮定したうえで求めた。また、実施例1に係る低屈折率膜用液状組成物の調製において加えられたTEOSの物質量に対するMTESの物質量の比は、7/3であった。
【0076】
超音波洗浄機(日本エマソン社製、型番:Bransonic 5510-J-DTH、出力:135W)を用いて、ソーダライムガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、両面研磨品、屈折率:1.52)を超純水の中で15分間洗浄した。その後、そのガラス基板を、市販のアルカリ性洗浄液(セミクリーンL.G.Lの2%希釈液、横浜油脂工業社製)の中で15分間洗浄し、続いて超純水の中で15分間洗浄した。その後、コロナ表面処理装置(信光電気計装社製、型番:コロナマスターPS-1M)を用いて、14kVの出力でガラス基板の表面をコロナ処理した。コロナ処理後のガラス基板の表面における水滴の接触角は2°であった。そのガラス基板を、温度23~25℃及び相対湿度50~60%の条件に保たれたクラス100未満のクリーンベンチの中に12時間保存した。このようにして、実施例1に係る基材を作製した。表1に示す通り、実施例1に係る基材の表面における水滴の接触角は32°であり、実施例1に係る基材の表面の算術平均粗さRaは0.5nmであった。水滴の接触角は、あすみ技研社製の接触角計を用いて測定した。算術平均粗さRaは、セイコー電子社製の電子間力顕微鏡SPI3700をサイクリックコンタクトモードで用いた測定結果に基づき、JIS B 0601-1994に従って決定した。このことは、他の実施例及び比較例においても同様である。
【0077】
実施例1に係る基材の一方の主面に、実施例1に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブン内に塗膜が形成された基材を10分間設置し、塗膜を乾燥させて、実施例1に係る低屈折率膜を得た。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例1に係る積層体を得た。実施例1に係る低屈折率膜の外観を観察したところ、均一な厚みを有していた。実施例1に係る積層体の低屈折率膜が形成されていない基材の面を、研削してマット面としたのちに、分光反射率を測定した。実施例1に係る積層体のD線(波長589nm)における反射率は0.53%であり、実施例1に係る低屈折率膜の膜厚は121nmであり、屈折率は1.16と求めることができた。実施例1に係る低屈折率膜において、バインダーをなすシリカ及びシルセスキオキサン並びに中空シリカ粒子の各質量を、実施例1に係る液状組成物の固形分に含まれる対応する成分の各質量に等しいと仮定して求めた。結果を表2に示す。
【0078】
<実施例2>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る低屈折率膜用液状組成物を調製した。低屈折率膜用液状組成物の固形分全体の質量に対する各成分の質量の比が、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比に等しいと仮定したうえで、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比が表2に示す値になるように、TEOS、MTES、中空シリカ粒子含有ゾルの添加量を調整した。
【0079】
テトラエトキシシラン(TEOS)(東京化成工業社製)0.6g、メチルトリエトキシシラン(MTES)(東京化成工業社製)1.18g、0.3質量%のギ酸(キシダ化学社製)0.82g、及びエタノール(キシダ化学社製)22.4gを混ぜ、35℃で3時間反応させた。その後、この液にエタノールを加えて、TEOS由来のシリカとMTES由来のメチルシルセスキオキサン(MeSq)の固形分の合計を3質量%に調整し、下地層用液状組成物Bを得た。
【0080】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、下地層用液状組成物Bをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層B2を形成した。実施例2に係る基材を得た。下地層B2の厚みは13nmであった。下地層B2の表面における水滴の接触角は45°であり、下地層B2の表面の算術平均粗さRaは17nmであった。
【0081】
実施例2に係る基材の下地層B2の表面に、実施例2に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例2に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例2に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例2に係る積層体を得た。実施例2に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例2に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例2に係る積層体の低屈折率膜が形成されていない基材の面を研削してマット面とした後に、分光反射率を測定した。また、下地層B2の膜厚は10nm前後であり、屈折率は基材であるガラスとほとんど変わらないので、下地層B2は積層体の反射率にほとんど影響を与えないものと考えた。得られた分光反射率から積層体のD線における反射率は0.1%以下であり、実施例2に係る低屈折率膜の膜厚は121nmであり、屈折率は1.23と算出された。実施例2に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが23%、シルセスキオキサンが57%、中空シリカ粒子が20%含まれていた。
【0082】
<実施例3>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る低屈折率膜用液状組成物を調製した。低屈折率膜用液状組成物の固形分全体の質量に対する各成分の質量の比が、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比に等しいと仮定したうえで、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比が表2に示す値になるように、TEOS、MTES、中空シリカ粒子含有ゾルの添加量を調整した。
【0083】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の両主面に、実施例2に係るものと同一の下地層用液状組成物Bをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層B3を形成し、実施例3に係る基材を得た。下地層B3の厚みは13nmであった。下地層B3の表面における水滴の接触角は43°であり、下地層B3の表面の算術平均粗さRaは11nmであった。
【0084】
実施例3に係る基材の下地層B3の表面に、実施例3に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例3に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例3に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例3に係る積層体を得た。実施例3に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例3に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例3に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例3に係る積層体のD線における反射率は0.25%であり、実施例3に係る低屈折率膜の膜厚は120nmであり、屈折率は1.19であった。実施例3に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが19%、シルセスキオキサンが51%、中空シリカ粒子が30%含まれていた。
【0085】
<実施例4>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る低屈折率膜用液状組成物を調製した。低屈折率膜用液状組成物の固形分全体の質量に対する各成分の質量の比が、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比に等しいと仮定したうえで、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比が表2に示す値になるように、TEOS、MTES、中空シリカ粒子含有ゾルの添加量を調整した。
【0086】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、実施例2に係るものと同一の下地層用液状組成物Bをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層B4を形成し、実施例4に係る基材を得た。下地層B4の厚みは11nmであった。下地層B4の表面における水滴の接触角は42°であり、下地層B4の表面の算術平均粗さRaは13nmであった。
【0087】
実施例4に係る基材の下地層B4の表面に、実施例4に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例4に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例4に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例4に係る積層体を得た。実施例4に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例4に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例4に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例4に係る積層体のD線における反射率は0.62%であり、実施例4に係る低屈折率膜の膜厚は123nmであり、屈折率は1.15であった。実施例4に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが17%、シルセスキオキサンが43%、中空シリカ粒子が40%含まれていた。
【0088】
<実施例5>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る低屈折率膜用液状組成物を調製した。低屈折率膜用液状組成物の固形分全体の質量に対する各成分の質量の比が、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比に等しいと仮定したうえで、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比が表2に示す値になるように、TEOS、MTES、中空シリカ粒子含有ゾルの添加量を調整した。
【0089】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、実施例2に係るものと同一の下地層用液状組成物Bをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層B5を形成し、実施例5に係る基材を得た。下地層B5の厚みは11nmであった。下地層B5の表面における水滴の接触角は44°であり、下地層B5の表面の算術平均粗さRaは16nmであった。
【0090】
実施例5に係る基材の下地層B5の表面に、実施例5に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例5に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例5に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例5に係る積層体を得た。実施例5に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例5に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例5に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例5に係る積層体のD線における反射率は1.13%であり、実施例5に係る低屈折率膜の膜厚は121nmであり、屈折率は1.12であった。実施例5に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが14%、シルセスキオキサンが36%、中空シリカ粒子が50%含まれていた。
【0091】
<実施例6>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る低屈折率膜用液状組成物を調製した。低屈折率膜用液状組成物の固形分全体の質量に対する各成分の質量の比が、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比に等しいと仮定したうえで、低屈折率膜の質量に対する各成分の質量の比が表2に示す値になるように、TEOS、MTES、中空シリカ粒子含有ゾルの添加量を調整した。
【0092】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の両主面に、実施例2に係るものと同一の下地層用液状組成物Bをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層B6を形成し、実施例6に係る基材を得た。下地層B6の厚みは14nmであった。下地層B6の表面における水滴の接触角は41°であり、下地層B6の表面の算術平均粗さRaは12nmであった。
【0093】
実施例6に係る基材の下地層B6の表面に、実施例6に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例6に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例6に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例6に係る積層体を得た。実施例6に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例6に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例6に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例6に係る積層体のD線における反射率は1.50%であり、実施例6に係る低屈折率膜の膜厚は122nmであり、屈折率は1.10であった。実施例6に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが8%、シルセスキオキサンが22%、中空シリカ粒子が70%含まれていた。
【0094】
<実施例7>
n-オクチルトリクロロシラン(東京化成工業社製)3gに、エタノール97gを加えて、下地層用液状組成物Cを得た。
【0095】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、下地層用液状組成物Cをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層C7を形成し、実施例7に係る基材を得た。下地層C7の厚みは13nmであった。下地層C7の表面における水滴の接触角は64°であり、下地層C7の表面の算術平均粗さRaは23nmであった。
【0096】
実施例7に係る基材の下地層C7の表面に、実施例1に係るものと同一の低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例7に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例7に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例7に係る積層体を得た。実施例7に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例7に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例7に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例7に係る積層体のD線における反射率は0.45%であり、実施例7に係る低屈折率膜の膜厚は119nmであり、屈折率は1.17であった。実施例7に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが13%、シルセスキオキサンが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。
【0097】
<実施例8>
1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリクロロシラン(東京化成工業社製)3gに、エタノール97gを加えて、下地層用液状組成物Dを得た。
【0098】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、下地層用液状組成物Dをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層D8を形成し、実施例8に係る基材を得た。下地層D8の厚みは11nmであった。下地層D8の表面における水滴の接触角は118°であり、下地層D8の表面の算術平均粗さRaは35nmであった。
【0099】
実施例8に係る基材の下地層D8の表面に、実施例1に係るものと同一の低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例8に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例8に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例8に係る積層体を得た。実施例8に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例8に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例8に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例8に係る積層体のD線における反射率は0.55%であり、実施例8に係る低屈折率膜の膜厚は120nmであり、屈折率は1.16であった。実施例8に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが13%、シルセスキオキサンが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。
【0100】
<実施例9>
超音波洗浄機を用いて、ポリカーボネート(PC)製の基板(アズワン社製、品番:PCC0050503、サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.59)を超純水の中で15分間洗浄した。その後、PC製の基板を市販のアルカリ性洗浄液で15分間洗浄し、さらに超純水の中で15分間洗浄した。次に、実施例1のときと同様の方法及び条件でコロナ表面処理装置(信光電気計装社製、型番:コロナマスターPS-1M)を用いて、14kVの出力でPC製の基板の表面を10分間コロナ処理し、実施例9に係る基材を得た。コロナ処理後のPC製の基板の表面における水滴の接触角は19°であり、コロナ処理後のPC製の基板の表面の算術平均粗さRaは34nmであった。
【0101】
実施例9に係る基材の一方の主面に実施例1に係るものと同一の低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例9に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例9に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例9に係る積層体を得た。実施例9に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例9に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例9に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例9に係る積層体のD線における反射率は0.57%であり、実施例9に係る低屈折率膜の膜厚は122nmであり、屈折率は1.18であった。実施例9に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが13%、シルセスキオキサンが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。
【0102】
<実施例10>
超音波洗浄機を用いて、実施例9で使用したPC製の基板と同一種類の基板を超純水の中で15分間洗浄した。その後、PC製の基板を市販のアルカリ性洗浄液で15分間洗浄し、さらに超純水の中で15分間洗浄した。次に、処理時間を1分間に調整した以外は、実施例1のときと同様の方法及び条件によってコロナ処理し、実施例10に係る基材を得た。コロナ処理後のPC製の基板の表面における水滴の接触角は37°であり、コロナ処理後のPC製の基板の表面の算術平均粗さRaは27nmであった。
【0103】
実施例10に係る基材の一方の主面に実施例1に係るものと同一の低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例10に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例10に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例10に係る積層体を得た。実施例10に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例10に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例10に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例10に係る積層体のD線における反射率は0.73%であり、実施例10に係る低屈折率膜の膜厚は121nmであり、屈折率は1.17であった。表2に示す通り、実施例10に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが13%、シルセスキオキサンが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。
【0104】
<実施例11>
超音波洗浄機を用いて、実施例9で使用したPC製の基板と同一種類の基板を超純水の中で15分間洗浄した。その後、PC製の基板を市販のアルカリ性洗浄液で15分間洗浄し、さらに超純水の中で15分間洗浄し、実施例11に係る基材を得た。実施例11に係る基材の表面における水滴の接触角は71°であり、実施例11に係る基材の表面の算術平均粗さRaは21nmであった。
【0105】
実施例11に係る基材の一方の主面に実施例1に係るものと同一の低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布した。塗布直後の塗膜は良好で均一な外観を有していた。その後、200℃に保たれたオーブンの中に実施例11に係る基材を10分間設置して塗膜を乾燥させ、実施例11に係る低屈折率膜を形成した。これにより、基材と、基材上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例11に係る積層体を得た。実施例11に係る低屈折率膜の外観の観察によれば、実施例11に係る低屈折率膜は均一な厚みを有していた。実施例1の場合と同様にして、実施例11に係る積層体の分光反射率を測定した後、各パラメータを算出した。実施例11に係る積層体のD線における反射率は0.84%であり、実施例11に係る低屈折率膜の膜厚は123nmであり、屈折率は1.16であった。表2に示す通り、実施例11に係る低屈折率膜には、質量基準で、バインダーをなすシリカが13%、シルセスキオキサンが33%、中空シリカ粒子が54%含まれていた。
【0106】
<比較例1>
デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業社製、製品名KF-995)99.5gを撹拌しながら、信越化学工業社製のテトラクロロシラン(SiCl4)0.5gをデカメチルシクロペンタシロキサンに添加し、シリカを主成分とする下地層用組成物E1を調製した。加えて、デカメチルシクロペンタシロキサン98gに撹拌しながら、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン(CF3(CF2)7(CH2)2SiCl3)2gをデカメチルシクロペンタシロキサンに添加し、下地層用組成物E2を調製した。
【0107】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、下地層用組成物E1を温度25℃及び相対湿度30%の環境下でフローコート法によって塗布して塗膜を形成し、塗膜をウェットの状態で一分間静置した。次に、その塗膜の上に下地層用組成物E1を同様の条件でフローコート法にて塗布して、塗布物をウェットの状態で一分間静置した。次に、ガラス基板の表面上のウェットな下地層用組成物E1の塗膜の上から、下地層用組成物E2を上記の条件と同様の条件でフローコート法にて塗布し、塗布物をウェットの状態で一分間静置した。次に、エチルアルコールで表面の下地層用組成物の余剰な成分を完全に洗い流し、塗膜を自然乾燥させて下地層E14を形成し、比較例1に係る基材を得た。下地層E14は下地層用組成物E2の働きにより撥水性を有していた。加えて、下地層用組成物E1の働きにより下地層E14の表面に微粒子状突起物と柱状突起物とが形成されていることが確認された。下地層E14の厚みは14nmであった。下地層E14の表面における水滴の接触角は157°であり、下地層E14の表面の算術平均粗さRaは43nmであった。
【0108】
比較例1に係る基材の下地層E14の表面に、比較例1に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布した。しかし、比較例1に係る基材の表面の一面にわたって筋状の塗布ムラが生じ、均一な膜は得られなかった。
【0109】
<比較例2>
テトラエトキシシラン(TEOS)(東京化成工業社製)0.6g、メチルトリエトキシシラン(MTES)(東京化成工業社製)1.18g、0.3質量%のギ酸(キシダ化学社製)0.82g、シリカゾル(日産化学製、製品名:スノーテックスMP-2040、平均粒子径:200nm)3g、及びエタノール(キシダ化学社製)22.4gを混ぜ、35℃で3時間反応させた。この液にエタノールを加えて、テトラエトキシシラン由来のシリカとメチルトリエトキシシラン由来のメチルシルセスキオキサン(MeSq)の固形分の合計を5質量%に調整し、下地層用液状組成物Fを得た。
【0110】
アルカリ洗浄によって予め洗浄した、フロートガラスからなるガラス基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、下地層用液状組成物Fをスピンコート法により塗布し、塗膜を形成した。次に、オーブンの内部でこの塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて下地層F15を形成し、比較例2に係る基材を得た。下地層F15の厚みは170nmであった。下地層F15の表面における水滴の接触角は52°であり、下地層F15の表面の算術平均粗さRaは150nmであった。
【0111】
比較例2に係る基材の下地層F15の表面に比較例1に係る低屈折率膜用液状組成物をスピンコート法により塗布した。しかし、比較例2に係る基材の表面の一面にわたって筋状の塗布ムラが生じ、均一な膜は得られなかった。
【0112】
【0113】