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特許7556081顎関節変性疾患の治療用の持続放出性組成物およびその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】顎関節変性疾患の治療用の持続放出性組成物およびその方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240917BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240917BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K47/61
A61P19/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023034379
(22)【出願日】2023-03-07
(62)【分割の表示】P 2020571508の分割
【原出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2023075952
(43)【公開日】2023-05-31
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】62/688,545
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508344512
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エンブリー,ミルドレッド
(72)【発明者】
【氏名】チェン,モー
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-500472(JP,A)
【文献】Nat. Commun.,2016年,7,Article.13073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎関節変性疾患を治療するための組成物であって、スクレロスチンにイオン結合したヒアルロン酸を含み、ここで、ヒアルロン酸の平均分子量は1500±150kDa~4000±400kDaである、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
前記スクレロスチンの濃度が組成物の5±0.5ng/100μl~1±0.1mg/100μlであり、前記ヒアルロン酸の濃度が0.1±0.01wt%~10±0.1wt%である、組成物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の組成物において、前記ヒアルロン酸の平均分子量が2000±200kDaである、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の主張]
本出願は、2018年6月22日に出願された米国特許仮出願第62/688,545号の優先権を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、顎関節の骨関節炎を含む、顎関節(TMJ)の変性疾患を治療するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明は、本開示を理解するために読者を助けるために提供され、先行技術を記載または構成することが認められるものではない。
【0004】
顎関節(TMJ)は、歯咬合、咀嚼、呼吸、および発語にとって重要な複関節システムである。TMJが筋肉、靭帯、ならびに線維軟骨円板および下顎関節頭のネットワークで構成されている。顎関節の骨関節炎(OA)を含むTMJ外傷および変性疾患は消耗性であり、生活の質を損なう。1,000万人以上のメリカ人がTMJ疾患で苦しみ、年間約40億ドル以上がかかるため、その研究は国立歯科および頭蓋顔面研究所の研究優先事項の一つである。現行のTMJ OAの治療法は、一般的に両極端なものである-疼痛緩和管理または侵襲性の外科手術。手術には、失敗率高い全関節置換術を含む。低侵襲かつ指向型TMJ療法を目標として病態機序および先天性組織再生を促進するが不足している。
【0005】
解剖学的に、TMJ下顎関節頭は側頭骨の関節窩に嵌め込まれている。関節空間は関節円板で下関節腔と上関節腔とに分割し、これで回転および並進それぞれ力学的に容易となる。関節包と呼ばれる線維膜はTMJ全体を囲って、両方の関節腔を完全に囲む。下顎関節頭と関節円板の関節面は、線維軟骨で構成される。硝子軟骨とは異なり、線維軟骨は線維組織および軟骨組織の両方からなる、これにより、それぞれ引張強度および圧縮強度を提供する。軟骨原基が再吸収され、骨に置換され、TMJ下顎関節頭に軟骨内骨化を起こす。下顎関節頭の成長は明確な定義された細胞の成熟帯によって特徴付けられ、この細胞の成熟帯に、線維軟骨幹細胞(FCSCs)を有する表層帯(SZ)、不均一細胞を含む多形帯(PM)、軟骨細胞を有する成熟帯(MZ)、末端分化肥大軟骨細胞を有する肥大帯(HZ)、および軟骨が吸収され骨が形成されるびらん帯(EZ)を含む。
【0006】
TMJ下顎関節頭において、線維軟骨幹細胞(FCSCs)を自己組織化させ、損傷組織に生着し、軟骨と血管柄付き骨の両方を再生する。Wnt/ カテニンシグナルはFCSCsの増殖を誘導し、分化を阻害するが、過剰活性Wnt/ カテニンシグナルはFCSCsを枯渇させ、さらにTMJ OAを起こす。
【0007】
ヒアルロン酸(HA)は、結合組織の細胞外マトリックス中に広く見出される非硫酸化グリコサミノグリカンである。HAは軟骨および関節滑液中に自然に存在し、関節の健康において複数の重要な機能を果たす。HAの長鎖は軟骨におけるプロテオグリカン凝集体を連結するために必須であり、関節力学のための構造支持を提供する。さらに、HAとラブリシンとの複合体を形成し、関節潤滑に寄与する。関節液中では、HAは抗侵害受容作用と抗炎症作用の両方を媒介する。さらに、HAヒドロゲルの関節内注射は、変形性膝関節症の治療にFDAの承認を得た。HAヒドロゲルは生分解性、非免疫原性であり、そして成長因子および分子をカプセル化により使用され、数週間の持続放出を提供する。
【0008】
ヒアルロン酸の注射はTMJ OAの可能な治療方法として探究されてきたが、結果は結論がついていない。
【0009】
乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)は、グリコール酸と乳酸との共重合(また、たまにそれぞれの環状ラクトングリコリドとラクチドとの共重合)によって形成されるポリエステルコポリマーである。PLGAはたまにポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)とも呼ばれる。PLGAは患者への活性剤を送達するために使用されている。例えば、マカテア(Makadia)らの「ポリマー(バーゼル)(Polymers(Basel))」2011年9月1日;3(3):1377-1397。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3347861/)、コダ(Koda)らの「眼科学会誌(Journal of Ophthalmology)」,2017巻、論文ID1598218(https://www.hindawi.com/journals/joph/2017/1598218/),およびウ(Wu)らの「ドラッグデリバリー(Drug Delivery)」第24巻、2017、第1号(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10717544.2017.1381200)、を参照されたその内容は参照のため全体的に本明細書に組み込まれている。PLGAは(例えば)シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から市販されている。
【0010】
レジデント幹細胞の再生能力によりTMJ組織の修復を利用し、低侵襲性幹細胞ベースでTMJ OAに対する治療を示す。TMJ線維軟骨幹細胞(FCSCs)がTMJ下顎関節頭の表層帯において存在する。移植されたFCSCsを自己組織化させ、軟骨および血管柄付き骨を再生し、損傷した宿主組織に生着する。ここに本明細書の一部を構成するものとして、エムブリ(Embree)らはネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Commun.)に掲載した論文「軟骨を再生しおよび関節損傷を修復するために内因性線維軟骨幹細胞の利用」(DOI:10.1038/ncomms13073(2016))を参照されたく、その内容は参照のため全体的に本明細書に組み込まれている。
【0011】
細胞数が限られており、血管供給が不足することを考えると、軟骨の再生特性が不良である。したがって、TMJ損傷およびTMJの骨関節炎(OA)を含む慢性の変性疾患は、疼痛、機能障害、および組織の不可逆的損失を起こす。緩和ケアまたはしばしば失敗するか、さらなる損傷を引き起こす侵襲的外科的介入方法を含み、TMJの外傷/変性疾患に対する臨床的治療は限られる。TMJの再生を促進する低侵襲性細胞ベースの治療法は、臨床的には利用できない。このような治療を医学界で利用できるようにすることは、TMJ OAのようなTMJ変性疾患を有する患者にとって有意な利益となるのであろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明において、1)スクレロスチンおよび高分子量ヒアルロン酸、または2)PLGAにカプセル化されたスクレロスチン、若しくは3)高分子量ヒアルロン酸にイオン結合したスクレロスチンを含む、TMJ変性疾患の治療のため持続放出性組成物を提供する。また、そのような治療を必要とする患者に、上記持続放出性組成物の一つを治療上有効な量で投入による治療方法を提供する。
【0013】
組成物は治療有効の濃度のスクレロスチンを含み、これは、5ng/100μl~約1mg/100μl範囲のスクレロスチンおよび約0.1~10重量%の高分子量ヒアルロン酸またはPLGAを含み、好ましくは50ng/100μl~約5μg/100μl範囲のスクレロスチンおよび約0.5~5重量%の高分子量ヒアルロン酸またはPLGAを含み、より好ましくは1μg/100μlのスクレロスチンおよび2重量%の高分子量ヒアルロン酸またはPLGAを含む。請求項に係る発明の組成物の一つによって送達されたスクレロスチンの治療有効量は10ng~10μgであることが好ましく、ただ、治療当業者によって理解されるように、他の量を投与してもよい。
【0014】
本発明の好ましい持続放出性組成物は1)スクレロスチンおよび高分子量ヒアルロン酸、または2)PLGA中にカプセル化されたスクレロスチン、または3)ヒアルロン酸にイオン結合したスクレロスチンを主として構成される。
【0015】
上述組成物は当技術分野で理解されるように、通常はTMJへの注射によって投与することができる。例えば、マンフレディーニ(Manfredini)らの「クレイニー(Cranio)」2010年6月;28(3):166-67(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20806734)を参照されたく、その内容は参照のため、全体的に本明細書に組み込まれている。
【0016】
上記の一般的な説明および以下の詳細な説明は例示的かつ説明的なものであり、本発明のさらなる説明を提供することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】スクレロスチン-ヒアルロン酸ヒドロゲルからのスクレロスチンの放出曲線である。
図2】PLGAカプセル化スクレロスチン製剤からのスクレロスチンの放出曲線である。
図3】ラットFCSCに対するヒアルロン酸-スクレロスチンヒドロゲル活性についての生体外評価を示す図である。
図4】HA-スクレロスチンの活性と組成物の個々の成分との比較の図である。
図5】ラビット損傷モデルにおけるHA-スクレロスチンヒドロゲルの活性を示す図である。
図6】共役スクレロスチン-HA複合物の合成式を示す図である。
図7】スクレロスチン-ヒアルロン酸ヒドロゲルから放出されたスクレロスチンのゲル染色を示す図である。
図8】共役スクレロスチン-HA複合物からスクレロスチンの放出曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、高分子量ヒアルロン酸およびスクレロスチンのヒドロゲルを含む、TMJ変性疾患、特にTMJ骨関節炎の治療のための組成物が提供される。前記組成物は、高分子量ヒアルロン酸およびスクレロスチンを主成分とすることが好ましい。治療を必要とする患者におけるTMJ変性疾患(特にTMJ骨関節炎)の治療有効量のスクレロスチン-ヒアルロン酸ヒドロゲルを顎関節に注射することを含む治療方法も提供される。組成物は、約5ng/100μl~1mg/100μlのスクレロスチンおよび約0.1~10重量%の高分子量ヒアルロン酸、好ましくは約50ng/100μl~5μg/100μlのスクレロスチンおよび約0.5~5重量%の高分子量ヒアルロン酸、およびより好ましくは約1μg/100μlのスクレロスチンおよび約2重量%の高分子量ヒアルロン酸、を含み得る(または主として構成される)。スクレロスチンおよび高分子量ヒアルロン酸を主として構成される組成物において、組成物の残りは、一つ以上の溶媒、キャリアなどである。
【0019】
本発明の別の実施形態では、PLGAカプセル化スクレロスチン製剤を含む、TMJ変性疾患、特にTMJ骨関節炎の治療のための組成物が提供される。本実施形態の組成物は、PLGAカプセル化スクレロスチンを主成分とすることが好ましい。治療を必要とする患者におけるTMJ変性疾患(特にTMJ骨関節炎)の治療有効量のPLGAカプセル化スクレロスチンを顎関節に注射することを含む治療方法も提供される。組成物は、約5ng/100μl~1mg/100μlのスクレロスチンおよび約0.1~10重量%のPLGA、好ましくは約50ng/100μl~5μg/100μlのスクレロスチンおよび約0.5~5重量%のPLGA、およびより好ましくは約1μg/100μlのスクレロスチンおよび約2重量%のPLGA、を含み得る(または主として構成される)。スクレロスチンおよびPLGA本質的にからなる組成物において、組成物の残りは、一つ以上の溶媒、キャリアなどである。
【0020】
請求項に係る発明の組成物使用されるPLGAは30,000~60,000Daの平均分子量を有する50:50コポリマーであることが好ましく、ただ、85:15、65:35、および75:25の比率、平均分子量約7000~240,000Daの乳酸/グリコール酸コポリマーを含む当技術分野で理解されるような他のモノマー比率および他の分子量範囲のコポリマーを使用することもできる。
【0021】
本発明の別の実施形態では、高分子量ヒアルロン酸とイオン結合したスクレロスチンで構成する組成物を含む、TMJ変性疾患、特にTMJ骨関節炎の治療のための組成物が提供される。前記組成物は、高分子量ヒアルロン酸とイオン結合したスクレロスチンを主成分とすることが好ましい。治療を必要とする患者におけるTMJ変性疾患(特にTMJ骨関節炎)の治療有効量の高分子量ヒアルロン酸とイオン結合したスクレロスチンを顎関節に注射することを含む治療方法も提供される。組成物は、約5ng/100μl~1mg/100μlのスクレロスチンおよび約0.1~10重量%の高分子量ヒアルロン酸、好ましくは約50ng/100μl~5μg/100μlのスクレロスチンおよび約0.5~5重量%の高分子量ヒアルロン酸、およびより好ましくは約1μg/100μlのスクレロスチンおよび約2重量%の高分子量ヒアルロン酸、を含み得る(または主として構成される)。スクレロスチンおよび高分子量ヒアルロン酸を主として構成される組成物において、組成物の残りは、一つ以上の溶媒、キャリアなどである。
【0022】
高分子量ヒアルロン酸とイオン結合したスクレロスチンを含む(または主として構成される)の実施形態の組成物において、化学技術分野でよく理解されているように、スクレロスチンのアミン基と高分子量ヒアルロン酸のカルボキシル基を適切な架橋剤の使用によって、スクレロスチンとヒアルロン酸との連結を達成し得る。例えば、遊離のアルデヒド基を有するアミンを含有する架橋剤とヒアルロン酸が反応し、ヒアルロン酸のカルボン酸基とアミド結合を形成し、続いてアセタール基を遊離カルボン酸基に水解し、次いで、シアノボロヒドリド塩を介してスクレロスチンを遊離カルボキシル基に連結することによって、連結を行うことができる。好ましい連結剤は4-アミノブチルアルデヒドージエチルアセタール(4-ABADA)であるが、当技術分野で公知のように、他の適切な連結剤を使用してもよい。例えば、ヅ(Du)らの「バイオマクロモレキュラス(Biomacromolecules)」2014,15,1097-1114に掲載した論文の内容を参照する。シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社のような科学的な供給会社から適切な架橋剤を容易に購入し得る。
【0023】
請求項に係る発明の組成物および方法は、記載される特定の実施形態に限定されず、したがって、変化し得ることが理解されるべきである。同様に、本明細書で使用する専門用語は特定な実施形態のみの説明を目的とし、限定的でないことも理解すべきである。本発明の技術的範囲は、添付した特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0024】
本明細書で使用するとき、特定の用語は下記定義された意味を有し得る。明細書および請求項においで使用により、単数形「a」、「an」及び「the」は文脈上明確に別段の指示がない限り、単数形及び複数形の参照を含む。例えば、「a cell」という用語は、単一の細胞並びにそれらの混合物を含む複数の細胞を含む。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「含み」は組成物および方法が列挙された要素を含むが、他の要素を排除しないことを意味することが意図される。用語「主として構成される」とは組成物または方法を定義する時に、任意必須の重要な他の要素を排除することをいう。「で構成される」とは請求項に係る発明の組成物および実質的な方法のステージに微量元素より多く他の成分を排除することをいう。前記繋がる用語(transition terms)のそれぞれによって定義される実施形態は、本開示の範囲内である。したがって、方法および組成物に付加的な段階および組成物(構成物)、または代替的な重要でない段階または組成物(主として構成される)を含むことができ、あるいは記載された方法のステージまたは組成物(構成する)のみを意図する。
【0026】
本明細書で使用するとき、「約」とは±10%をいう。
【0027】
本明細書で使用するとき、「選択の」または「選択に」とは後述の事件または状況が発生しても発生しなくてもよい事件または状況が発生する事例を意味し、また、その記述は前記事件または状況が発生する事例および発生しない事例を含む。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「個体」、「患者」または「被験体」は生物個体、脊椎動物、哺乳動物(例えば、ウシ、イヌ、ネコ、またはウマ)、またはヒトであり得る。好ましい実施形態において、個体、患者、または対象はヒトである。
【0029】
本明細書で使用するとき、用語「治療有効量」および「治療レベル」は、TMJ変性疾患を減少、改善、または排除するための治療を必要とする対象または患者において、物質が投与される特定の薬理学的効果を提供する、対象または患者における治療物質の用量または血漿濃度をいう。薬物の治療有効量または治療レベルは、例えそのような投薬量が当業者によって治療有効量であると見なされるとしても、TMJ変性疾患を処置する際に常に有効であるとは限らないことが強調される。治療有効量は、対象の年齢および体重、および/または対象の状態に基づいて変化し得る。被験体組成物の一つによって送達されるスクレロスチンの治療有効量は10ng~10μgであることが好ましいが、治療当業者によって理解されるように、他の量を投与してもよい。
【0030】
本明細書で使用するとき、用語「処置」または「処置する」とは、TMJ変性疾患または特にTMJ骨関節炎に関する一または複数症状あるいは状況を軽減させ、改善する、または除去させることをいう。例えば、カラドカ(Kalladka)らの「インド本補綴歯科学会学会誌(J. Indian Prosthodont. Soc)」(2014年1-3月) 14(1):6-15に掲載した論文を参照されたく、その内容は全体的に本明細書に組み込まれている。
【0031】
「治療反応」とは、少なくともTMJ変性疾患の一つの評価尺度における改良を意味する。
【0032】
本明細書で使用するとき、用語「高分子量ヒアルロン酸」まはた「HWM HA」とは約800kDa以上、好ましくは約800~8000kDa、より好ましくは約1000~6000kDa、より好ましくは約1500~4000kDa、最も好ましくは約2000kDaの平均分子量を有するヒアルロン酸を意味し、一方、用語「低分子量ヒアルロン酸」または「LWM HA」とは約800kDa未満、好ましくは約100~800kDa、最も好ましくは約500kDaの平均分子量を有するヒアルロン酸を意味する。
【0033】
下記略語を本明細書中で使用し得る:ウシ血清アルブミン(BSA)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、スクレロスチン(SOST)、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒアルロン酸(HA)、顎関節(TMJ)、高分子量ヒアルロン酸(HMHA)、骨関節炎(OA)、線維軟骨幹細胞(FCSC)、分(min),および秒(sec)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、4-アミノブチルアルデヒドージエチルアセタール(4-ABADA)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンザジン(TMB)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM),ウシ胎児血清(FBS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、相補的DNA(cDNA)。
【0034】
組成物は当技術分野で理解されているように、周知の担体を使用して注射投与用に製剤化することができる。
種々の投薬形態のための薬理学的に受容可能なキャリアは当技術分野において既知である。例えば、既知の固体調製物のための賦形剤、潤滑剤、バインダ、および崩壊剤;既知の液体調製物のための溶媒、可溶化剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、および鎮静剤。いくつかの実施形態では、医薬組成物が一つ以上の防腐剤、酸化防止剤、安定化剤などの一つ以上の追加成分を含む。レミントン(Remington)の「薬学の科学及び実践第21版(The Science and Practice of Pharmacy、21st ed)」、リピンコット(2006)(Lippincott(2006))を参照されたく、その内容は参照のため、全体的に本明細書に組み込まれている。
【0035】
本発明の一つ態様において必要とする患者における、治療有効量の本発明の組成物を前記患者に投与することでTMJ変性疾患(MJ骨関節炎)の治療方法が本明細書に開示される。
【0036】
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられる。しかし、本発明は、実施例に記載された特定の条件または詳細に限定されるものではないことを理解されたい。本明細書中で参照される全ての印刷された刊行物は、引用による補充する。
【実施例
【0037】
[実験]
1)高分子量ヒアルロン酸-スクレロスチンハイドロゲルの合成
以下の材料を合成に使用した:高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(HA)(平均分子量2000kDa)(ライフバイオメディカ(Life Biomedical)社製、カタログ番号:HA2M)、3%BSA PBS、スクレロスチン(SOST)(R&Dシステム(R&D system)社製、カタログ番号:1406-ST-025/CF)、1mlのシリンジ(BDツベルクリンシリンジ(BD Tuberculin Syringes)社製、14-826-87)、5mlのファルコン丸底プロピレンチューブ(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Fisher scientific)社製、カタログ番号:14-959-11A)、インスタント密封滅菌パウチ(フィッシャーブランド(FisherBrand)、#01-812-54)。
【0038】
3% BSA PBSの調製:1.5gのBSAを50mlの滅菌PBSに溶解し、TCフード中に0.45um孔径の滅菌シリンジフィルターで濾過し、3%BSAのPBS溶液を得た。
【0039】
2%スクレロスチンHMW HAヒドロゲルおよびコントロールの調製:、前記に調製した125ulの3%BSA/PBSに25ugのSOSTを加え、200ug/mlのSOST溶液を得たことにより、SOSTを再構成した。0.06gのHMW HAを3mLの前記調整したSOST溶液にボルテックスで溶解し、次いで、完全に溶解するまで4℃で放置した。HMW HAコントロールについて、0.06gのHMW HAを3mLの3%のBSA PBSにボルテックスで溶解し、完全に溶解するまで4℃で放置した。SOSTコントロールについて、22.5ul前記のステップ1)で調製した200ug/mlの再構成SOSTを3mlの3%BSA PBSに溶解した。低分子量HA組成物を同様に調製した。
【0040】
前記調製物は、以下に評価される下記試験群をもたらした:
媒介物:0.1mlの3%BSA PBS
SOST:0.1mlの1.5ug/mlSOST.22.5ul×(200ug/ml再構成したSOST)/3ml3%BSA PBS
HMW HA:0.1mlの2%HA(3mlの3%BSA PBS中に0.06gのHMW HAを含む)
HMW HA-SOST:HMW HA中に0.1mlの2ug/mlのSOST(3mlの2ug/mlのSOST中に0.06gのHMW HAを含む)を含む。
【0041】
2)PLGA微小球の合成(SOSTをカプセル化):250mgの50:50のPLGA(シグマ社製)を1mlのジクロロメタンに溶解した。2mlのイソプロパノールを98mlの蒸留水に溶解することによって、100mlの2%イソプロパノールを調製した。1mlの前記調製したPLGA溶液と、10ugのスクレロスチンを、50ulのPBS中に混合し、1分間高速度でボルテックスした。2mlの1%PVA水溶液を前記調製したPLGA/PBS溶液に混合し、1分間ボルテックスした、得られた混合物をフード中の100mlの0.1%PVAに450rpmで撹拌しながら添加した。得られた組成物を100mlの2%イソプロパノールに加え、2時間撹拌し、次いで、全体を濾過して微小球を収集し、前記微小球を蒸留水で3回洗浄し、50mlチューブに収集し、液体窒素中に30分間保存し、SOSTをカプセル化したPLGA微小球を得られた。最後に、微小球を凍結乾燥し、-20℃で保存した。
【0042】
3)共役HMW HA-SOSTの調製(図6に示す):50mgの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム塩(HA)(ライフバイオメディカ社製、カタログ番号:HA2M)を、4℃で20mLの蒸留水に溶解し、4℃で12時間保存した。前記HA溶液を小ビーカーに移し、攪拌しながら7.2mg1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、4.4mgN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、および6.56mg4-アミノブチルアルデヒドージエチルアセタール(4-ABADA)を加え、さらに18時間攪拌を続けた。得られた溶液を15mlのエッペンドルフコニカルチューブ(Eppendof Centrifuge)に移し、10mlの無水エタノールを添加した。3000rpmで10分間遠心した後、上澄みを廃棄し、ゲル状固体を75-25エタノール/水溶液で洗浄し、再度遠心分離し、残りの上澄みを十分注意して廃棄した。残った固体を50-50エタノール/水溶液で洗浄し、3回目遠心分離し、上澄みを廃棄した。得られた物質を凍結乾燥した。1mgの凍結乾燥したアルデヒド化HAを1mlの0.01Mリン酸に溶解し、得られた溶液を0.01Mリン酸で50倍希釈するにより、加水分解HAを得た。5mlの加水分解HAに撹拌しながら5μgスクレロスチンと1mgのNaBH3CNを加え、2MのNaOH水溶液でpHを6.0に調整し、24時間撹拌を続けた後、得られた物質を凍結乾燥した。
【0043】
評価
スクレロスチン-ヒアルロン酸ヒドロゲルおよびスクレロスチンの放出曲線。前述手順に従って、スクレロスチン(1μg、R&D 1406-ST/CF)を、2%高分子量ヒアルロン酸(HMW HA、2000kDa、ライフバイオメディカ社製)または2%および3%低分子量(LMW HA、500 KDa、ライフバイオメディカ社製)中に混合した。ヒドロゲルを0.4μm孔径のポリエステル膜の挿入物を有する12mmトランズウェル(Transwell(R)、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、07-200-161)上に入れ、37oCで12ウェルプレート中のPBSに培養した。累積放出曲線をプロットするため、製造業者の指示に従って、定量的サンドイッチ酵素結合免疫吸着技術を使用して、示された各時点でスクレロスチンの濃度を測定した。簡単に言うと、標準またはサンプル(100μL)を各ウェルに添加し、37℃で2時間培養し、続いてビオチン化抗ヒトスクレロスチン抗体のいずれかを用いて37℃で1時間一次抗体処理をした。抗体検出のために、100μLのHRP-アビジンを37℃で1時間置いた。洗浄後、TMB基質を各ウェルに添加し、37℃で15-30分間置き、続いて50μLの停止液を添加した。450nmでマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの光学濃度(OD)を測定した。スクレロスチン濃度は、各サンプルのODを標準曲線と比較することによって計算した。
【0044】
図1に示すように、高分子量ヒアルロン酸-スクレロスチンヒドロゲルは42日間の試験期間にわたってスクレロスチンの持続放出性を示した、一方、低分子量ヒアルロン酸を含む組成物はわずか数日間にわたってすべてのスクレロスチンを迅速に実質的に放出した。図7に示すように、高分子量ヒアルロン酸-スクレロスチンヒドロゲルから放出されたスクレロスチンは、37℃で3週間培養した後、分解を示さなかった。37℃での長期間にわたるこのスクレロスチンの持続放出性およびス安定性は予想外で驚き。供給者の知らせるにより、通常にスクレロスチンの分解の可能性を回避するため、低温で貯蔵されるべきである。再構成物質の2-8℃で1ヶ月の安定性を製品データシートで明示する。
【0045】
PLGAでカプセル化スクレロスチンの放出曲線。前記の調製したPLGAスクレロスチン微小球を、37℃でトランスウェル上に置きPBS中に加え、製造者の指示に従ってスクレロスチンヒトELISAキット(サーモフィッシャー社製)を使用して、各期間のスクレロスチンの濃度を測定した。計算された放出曲線を図2に示し、これは、PLGAスクレロスチン微小球が29日間にわたってスクレロスチンの持続放出性を与えたことを示す。
【0046】
共役スクレロスチン-HA放出曲線。10μgのイオン結合したHA-SOSTを0.5mlのPBSに溶解した。図8に示した各時点で、0.25mlの溶液を除去し、等量のPBSで置き換えた。10μlの各除去されたサンプルを、ELISAキット(サーモフィッシャー社製)からの200μlの希釈緩衝液中で希釈し、スクレロスチンヒトELISAキット(サーモフィッシャー社製)を使用してスクレロスチン含有量を測定した。結果を図8に示し、これは、30日間にわたるスクレロスチン-リンカーヒアルロン酸からのスクレロスチンの持続放出性を示す。
【0047】
線維軟骨幹細胞(FCSC)の単離および培養。8週齢のスプラーグドーリー(Sprague Dawley)ラットからTMJ線維軟骨を解剖し、ディスパーゼII/コラゲナーゼI(4mg/ml、3mg/ml)で消化し、37℃で振盪した。全ての線維軟骨組織が消化されるまで、毎20分に細胞を収集した。線維軟骨幹細胞の単細胞懸濁液を、20%ロット選択されたウシ胎仔血清(FBS、ギブコ(Gibco) ES細胞FBS、10439-024)、グルタマックス(インビトロジェン(Invitrogen) 35050-061)、ペニシリンストレプトマイシン(インビトロジェン 15140-163)、および100mMの2-メルカプトエタノール(ギブコ)を補充した、DMEM(インビトロジェン 11885-092)を含む基本培地中に4-6日間培養した(5% CO2、37℃)。トリプシンEDTA(ギブコ)で細胞を分離され、P1に置いた。2%FBSを含有する培地に2%高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)、2%単独なHMW HA、スクレロスチン(50ng/ml)、またはPBSのいずれかを混合したスクレロスチンを含有するトランスウェルで2、7および10日間FCSCを処理した。
【0048】
図3に示されるように、高分子量ヒアルロン酸-スクレロスチンヒドロゲルはラットFCSCの分化を誘導するが、測定されたTNFαおよびIL-1βレベルによって、炎症を引き起こさない。図4に示すように、高分子量ヒアルロン酸-スクレロスチンヒドロゲルは、単独なスクレロシンと比較して、FCSCを軟骨に分化することを誘導し、さらに炎症を減少させた。
【0049】
RNA単離およびqRT-PCR。線維軟骨幹細胞(インビトロジェン 12183018A)から全RNAを精製し、DNAse I(Ambion AM2222)で処理し、ゲノムのDNAを除去した。ナノ・ドロップ(Nanodrop)を用いてRNAの量および純度を決定した。RNAサンプル(260/280>1.8)を用いてcDNA(バイオ・ラッド(Biorad) AM2222)を得た。Acan、Runx2、Axin2、Wnt3a, TNF‐α、ILβに対するラットプライマーを用いてSYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、4309155)で定量的RT-PCRを行った。遺伝子発現レベルはハウスキーピング遺伝子Gapdhに正規化した。結果を図3および4に示す。
【0050】
ラビットTMJ損傷モデル。3-4月齢の合計13匹のニュージーランド白いラビットの両側にTMJ損傷を外科的に誘発された。頬骨突起より上方に斜切開を作られた。組織を引き上げ、TMJ上関節空間にアクセスするために後側に引っ込めた。下顎関節頭を損傷から保護するため骨膜剥離器を円板の下に置いた。生検穿孔で、TMJ円板の外側部分に2.5mmの孔を作った。円板の付属物を切断されず、円板を引っ込めるときに、その正常な解剖学的位置を縮小された。隔週(n=3)または月1回(n=4)ラビットの一側にHA-スクレロスチンハイドロゲルおよびHA注射剤を注射し、隔週(n=3)または月1回(n=3)対側にスクレロスチンおよびPBS注射剤を注射した。8週間後にすべてのラビットを屠殺した。
【0051】
図5に示すように、高分子量ヒアルロン酸スクレロスチンヒドロゲルはラビット損傷モデルにおけるTMJ円板穿孔を治癒し、これはヒトにおける効果を予測できる。ここに本明細書の一部を構成するものとして、エムブリー(Embree)らの論文「ウサギパ試験的研究におけるTMJ円板穿孔後の軟組織の骨化および下顎関節頭の軟骨の変性」、変形性関節症・軟骨(Osteoarthritis Cartilage)2015年4月;23(4):629-639、doi:10.1016j.joca.2014.12.015を参照されたく、その内容は全体的に本明細書に組み込まれている。
【0052】
本発明の組成物および方法を例として本開示に記載したが、本発明はそれに限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の教示から逸脱することなく、当業者によって知られているように変形を行うことができることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8