(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】プレス成形解析における破断判定方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240917BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240917BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20240917BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/23
G06F113:22
(21)【出願番号】P 2023046173
(22)【出願日】2023-03-23
【審査請求日】2024-06-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
(72)【発明者】
【氏名】小坂 洋康
(72)【発明者】
【氏名】石野 泰信
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-166251(JP,A)
【文献】国際公開第2007/051711(WO,A1)
【文献】特開2011-141237(JP,A)
【文献】特開2019-104051(JP,A)
【文献】特開2012-33039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
G06F 30/23
G06F 113/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、コンピュータを用いて、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するプレス成形解析における破断判定方法であって、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定工程と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義工程と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定工程と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定工程と、を含むことを特徴とするプレス成形解析における破断判定方法。
【請求項2】
前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定工程においては、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義工程においては、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定工程においては、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定工程においては、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とする請求項1記載のプレス成形解析における破断判定方法。
【請求項3】
シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するプレス成形解析における破断判定装置であって、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定部と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義部と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定部と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定部と、を備えていることを特徴とするプレス成形解析における破断判定装置。
【請求項4】
前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定部は、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義部は、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定部は、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定部は、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とする請求項3記載のプレス成形解析における破断判定装置。
【請求項5】
シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するプレス成形解析における破断判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定部と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義部と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定部と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定部と、して実行させる機能を備えていることを特徴とするプレス成形解析における破断判定プログラム。
【請求項6】
前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定部は、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義部は、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定部は、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定部は、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とする請求項5記載のプレス成形解析における破断判定プログラム。
【請求項7】
プレス成形におけるブランクの破断を抑制してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する仮プレス成形条件設定工程と、
該仮のプレス成形条件に基づいて、ブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、
請求項1又は2に記載のプレス成形解析における破断判定方法により、前記プレス成形品をプレス成形する過程のプレス成形解析におけるブランクの破断の有無を判定する破断発生有無判定工程と、
該破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生すると判定された場合、前記仮のプレス成形条件を変更する仮プレス成形条件変更工程と、
前記破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生無しと判定されるまで、前記仮プレス成形条件変更工程と、前記プレス成形解析工程と、前記破断発生有無判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生無しと判定された場合、その場合の前記仮のプレス成形条件をプレス成形条件として決定するプレス成形条件決定工程と、
該決定したプレス成形条件で前記プレス成形品をプレス成形するプレス成形工程と、を含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項8】
前記プレス成形品のブランクは引張強度が1GPa以上であることを特徴とする請求項7に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析におけるブランクの破断を成形限界線に基づいて判定するプレス成形解析における破断判定方法、装置及びプログラムに関する。
さらに、本発明は、プレス成形におけるブランクの破断の有無を判定した結果に基づいてブランクの破断を抑制するようにプレス成形条件を決定してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費向上、衝突安全性向上のニーズの高まりから、自動車車体における高張力鋼板の適用が拡大している。しかしながら、高張力鋼板はその延性の低さによる成形性の低下が適用の課題とされており、自動車の車体部品の形状変更が必要となる等、高張力鋼板適用の阻害要因となっている。そのため、自動車部品のプレス成形解析により事前にブランクに破断(割れ)が発生するか否かを判定することが求められている。
従来より、プレス成形解析におけるブランク(金属板)の破断判定には成形限界曲線図(FLD;Forming Limit Diagram)が使用されている。そして、例えば非特許文献1には、
図12に示すように、主なFLDの取得方法である中島法(
図12(a))とマルシニアック法(
図12(b))の測定原理と特徴が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】林 央、“成形限界線図(FLD)試験方法と国際規格化”、塑性と加工、日本塑性加工学会、2009年5月、第50巻、580号,pp.14-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中島法とマルシニアック法で取得されるFLDは、一例として
図12(c)に示すように、同一の成形限界線(FLC;Forming Limit Curve)とはならない。そのため、プレス成形解析における破断判定において、両者の判定結果に差異が出ることが知られている。しかしながら、非特許文献1には、中島法とマルシニアック法によるFLDの取得方法の違いは示されているが、それぞれのFLDを使い分ける基準については何ら示されていなかった。
【0005】
中島法とマルシニアック法によるFLDの差は、
図12(c)に例示するように、ひずみで1~2%程度と小さいものの、延性の低い高張力鋼板ではわずかなひずみ(成形量)の差により破断の発生に違いが生じる。そのため、プレス成形解析で得られたひずみ(最大主ひずみ及び最小主ひずみ)を用いてFLDにより破断判定を正確に行うには、1~2%程度のひずみの差を無視できず、中島法とマルシニアック法で取得した2つのFLDを使い分けることが必要であった。しかしながら、中島法とマルシニアック法のFLDを使い分ける基準についてはこれまで検討されておらず、プレス成形解析において破断判定を正確に行うことができないという課題があった。そのため、プレス成形品における破断の発生を十分に抑制することができるプレス成形条件でプレス成形品を製造することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、中島法とマルシニアック法で取得された成形限界線図を適切に使い分けて破断判定を行うことができるプレス成形解析における破断判定方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記の方法によりプレス成形におけるブランクの破断の有無を判定した結果に基づいてブランクの破断を抑制するようにプレス成形条件を決定し、プレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法は、シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、コンピュータを用いて、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するものであって、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定工程と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義工程と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定工程と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0008】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定工程においては、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義工程においては、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定工程においては、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定工程においては、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とするものである。
【0009】
(3)本発明に係るプレス成形解析における破断判定装置は、シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するものであって、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定部と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義部と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定部と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
(4)上記(3)に記載のプレス成形解析における破断判定装置は、前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定部は、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義部は、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定部は、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定部は、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とするものである。
【0011】
(5)本発明に係るプレス成形解析における破断判定プログラムは、シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型を備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析において、前記プレス成形する過程での前記ブランクにおける破断を成形限界線図に基づいて判定するものであって、
コンピュータを、
前記プレス成形する過程において前記ブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、前記ブランクの前記各シェル要素について、予め設定した前記金型位置における前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する上型及び下型距離測定部と、
前記各シェル要素について測定した前記上型及び前記下型それぞれとの距離のうち小さい方を前記各シェル要素の金型距離として定義する金型距離定義部と、
前記各シェル要素について、前記金型距離が前記各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は前記金型と接触していると判定する金型接触判定部と、
前記金型と接触していると判定された前記シェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定し、前記金型と接触していると判定されなかった前記シェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定する破断有無判定部と、して実行させる機能を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
(6)上記(5)に記載のプレス成形解析における破断判定プログラムは、前記ブランクはシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されており、
前記上型及び下型距離測定部は、前記ブランクの前記各ソリッド要素について、前記上型及び前記下型それぞれとの距離を測定し、
前記金型距離定義部は、前記各ソリッド要素について金型距離を定義し、
前記金型接触判定部は、前記各ソリッド要素について、前記金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定し、
前記破断有無判定部は、前記各ソリッド要素について破断の有無を判定することを特徴とするものである。
【0013】
(7)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、プレス成形におけるブランクの破断を抑制してプレス成形品を製造するものであって、
前記プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する仮プレス成形条件設定工程と、
該仮のプレス成形条件に基づいて、ブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析を行うプレス成形解析工程と、
上記(1)又は(2)に記載のプレス成形解析における破断判定方法により、前記プレス成形品をプレス成形する過程のプレス成形解析におけるブランクの破断の有無を判定する破断発生有無判定工程と、
該破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生すると判定された場合、前記仮のプレス成形条件を変更する仮プレス成形条件変更工程と、
前記破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生無しと判定されるまで、前記仮プレス成形条件変更工程と、前記プレス成形解析工程と、前記破断発生有無判定工程と、を繰り返し実行する繰り返し工程と、
前記破断発生有無判定工程において前記ブランクに破断が発生無しと判定された場合、その場合の前記仮のプレス成形条件をプレス成形条件として決定するプレス成形条件決定工程と、
該決定したプレス成形条件で前記プレス成形品をプレス成形するプレス成形工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
(8)上記(7)に記載のものにおいて、
前記プレス成形品のブランクは引張強度が1GPa以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析において、ブランクの要素ごとに金型との接触の有無を判定する。そして、金型との接触の有無の判定に基づいて、中島法により取得された成形限界線とマルシニアック法により取得された成形限界線図とを使い分けて、ブランクの各要素について破断発生の有無を判定する。これにより、実際のプレス成形品のプレス成形過程でのブランクが破断するか否かと破断発生部位を正確に予測することができる。
さらに、本発明により、プレス成形する過程においてブランクに破断が発生すると判定された部位に対して破断発生を解消する対策を施す。そして、対策した後のプレス成形する過程においてブランクが破断するか否かを判定する。これにより、破断発生を解消する対策が有効であるか否かを予め判定することもできる。
また、本発明は、延性の低い高張力鋼板、特に引張強度が1GPa以上の高張力鋼板を対象とするプレス成形における破断判定を行う場合に有効である。
【0016】
さらに、本発明においては、プレス成形品における破断発生の有無を判定し、当該判定結果に基づいて、プレス成形品の破断を抑制するプレス成形条件を決定する。これにより、割れのないプレス成形品を簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置のブロック図である。
【
図3】実施例1及び実施例2において破断判定の対象としたプレス成形品を示す図である。
【
図4】実施例1及び実施例2において破断判定の対象としたプレス成形品における破断発生部位を示す図である。
【
図5】実施例1において、ブランクの各シェル要素について測定した上型及び下型との距離に基づいて上型及び下型との接触を判定した結果を示すコンター図である((a)上型との接触判定、(b)下型との接触判定)。
【
図6】実施例1において、ブランクの各シェル要素について定義した金型距離に基づいて、各シェル要素と金型との接触を判定した結果を示すコンター図である。
【
図7】実施例1において、発明例として、プレス成形品の部位A及び部位Bについて成形限界線を使い分けて破断発生の有無を判定した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例1において、発明例として、成形限界線を使い分けてプレス成形品における破断発生の有無を判定した結果を示すコンター図である。
【
図9】実施例1において、比較例1として、中島法で取得した成形限界線図によりプレス成形品における破断発生の有無を判定した結果を示す図である((a)破断発生の有無のコンター図、(b)中島法により取得した成形限界線図)。
【
図10】実施例1において、比較例2として、マルシニアック法で取得した成形限界線図によりプレス成形品における破断発生の有無を判定した結果を示す図である((a)破断発生の有無のコンター図、(b)マルシニアック法により取得した成形限界線図)。
【
図11】実施例2において、破断を抑制する対策を施したプレス成形品について、本発明の方法によりプレス成形解析における破断発生の有無を判定した結果を示す図である((a)破断発生の有無のコンター図、(b)成形限界線図)。
【
図12】中島法とマルシニアック法による成形限界線図の取得方法と、各方法により取得した成形限界線図の一例を示す図である((a)中島法、(b)マルシニアック法、(c)中島法とマルシニアック法により取得した成形限界線図)。
【
図13】本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法の処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<発明に至った経緯>
発明者は、プレス成形解析において破断判定を行うに際して中島法とマルシニアック法により取得した成形限界線図を使い分ける基準を検討するにあたり、まず、中島法とマルシニアック法それぞれの成形限界線図の取得方法について検討した(非特許文献1参照)。
【0019】
中島法は、
図12(a)に示すように、球頭状の球頭ポンチ31を用いてダイス33としわ押さえ35で挟持した試験片21を張出し成形し、試験片21の形状を変化させることで様々なひずみ比(最大主ひずみと最小主ひずみとの比)を実現する。
【0020】
一方、マルシニアック法は、張出し成形により試験片21の形状を変化させるのは中島法と同じである。しかし、マルシニアック法は、
図12(b)に示すように、円筒状の平頭ポンチ37を使用するとともに、平頭ポンチ37と試験片21の間にドライビングシート23(駆動板)と呼ばれる材料を挟んで張出し成形する。そのため、試験片21は平頭ポンチ37と直接接触しないため、成形過程における平頭ポンチ37と試験片21との間の摩擦を無視できることが特徴となっている。
【0021】
このように、中島法とマルシニアック法における試験片の成形状態の差異から、プレス成形解析において成形限界線図を用いて破断判定を行うに際し、プレス成形に供するブランクと金型との摩擦を無視できるか否かを考慮すればよいのではないかと着想した。すなわち、ブランクにおける金型と接触していない領域では、ブランクと金型との接触を無視することができるため、マルシニアック法による成形限界線図の取得条件と同様の成形状態であると考えた。これに対し、ブランクにおける金型と接触している領域では、ブランクと金型との接触を無視することができないため、中島法による成形限界線図の取得条件と同様の成形状態であると考えた。
【0022】
そして、上記着想に基づいて有限要素法を用いたプレス成形解析においてブランクの破断判定を行う方法を鋭意検討した。その結果、まず、ブランクにおける各要素(例えば、シェル要素)について金型の接触の有無を判定する。そして、金型との接触の有無の判定に基づいて、中島法により取得した成形限界線とマルシニアック法により取得した成形限界線とを使い分ければよい、との結論に至った。
【0023】
本発明は、係る検討結果に基づいてなされたものであり、以下、本発明の実施の形態1及び実施の形態2について具体的に説明する。
【0024】
[実施の形態1]
<プレス成形解析における破断判定方法>
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法は、金型を用いてブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析において、コンピュータを用いて、プレス成形する過程でのブランクにおける破断の有無を成形限界線図に基づいて判定するものである。ここで、プレス成形解析において、ブランクはシェル要素でモデル化されたものであり、金型は上型と下型とを備えたものである。そして、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法は、
図1に示すように、上型及び下型距離測定工程S1と、金型距離定義工程S3と、金型接触判定工程S5と、破断有無判定工程S7と、を含むものである。
以下、上記の各工程を説明する。
【0025】
≪上型及び下型距離測定工程≫
上型及び下型距離測定工程S1は、プレス成形する過程においてブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、ブランクの各シェル要素について、予め設定した金型位置における上型及び下型それぞれとの距離を測定する工程である。
ここで、上型及び下型それぞれとの距離とは、ブランクの各シェル要素から上型及び下型それぞれの表面までの最短距離のことである。
また、金型位置については、プレス成形の開始時から成形下死点位置までの間における上型と下型それぞれの位置を予め設定する。
【0026】
≪金型距離定義工程≫
金型距離定義工程S3は、各シェル要素について測定した上型及び下型それぞれとの距離のうち小さい方を、各シェル要素の金型距離として定義する工程である。
【0027】
≪金型接触判定工程≫
金型接触判定工程S5は、ブランクの各シェル要素について、金型距離定義工程S3において定義された金型距離が各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合には金型と接触していると判定する工程である。ここで、金型接触判定工程S5は、ブランクの各シェル要素について、上型又は下型のいずれかと接触している、と判定する。
【0028】
ブランクがシェル要素でモデル化されている場合、シェル要素はブランクの板厚中央の位置(ブランク表面から板厚の1/2の位置)に設定される。そのため、ブランクのシェル要素について定義した金型距離が当該シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合、そのシェル要素は金型と接触していると判定する。
【0029】
≪破断有無判定工程≫
破断有無判定工程S7は、金型接触判定工程S5において金型と接触していると判定されたシェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定する工程である。さらに、破断有無判定工程S7は、金型接触判定工程S5において金型と接触していると判定されなかったシェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定する工程である。
【0030】
ここで、中島法及びマルシニアック法で取得される成形限界線図は、各方法による試験を予め行って取得するものであってもよいし、ブランクと同じ鋼種及び強度の高張力鋼板についてすでに得られている成形限界線図を取得してもよい。
【0031】
また、成形限界線図を用いた破断の有無を判定は、プレス成形解析により各シェル要素について算出した最大主ひずみと最小主ひずみを使用する。ここで、ブランクの各シェル要素の最大主ひずみと最小主ひずみは、プレス成形解析を別途に行って算出してもよいし、予め行われて算出された結果を取得してもよい。
【0032】
以上、本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法においては、ブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析において、ブランクのシェル要素ごとに、金型(上型及び/又は下型)との接触を判定する。そして、金型との接触の有無により中島法で取得された成形限界線図とマルシニアック法で取得された成形限界線図とを使い分けて破断発生の有無を判定する。これにより、実際のプレス成形品のプレス成形過程における破断の発生の有無とその部位を正確に予測することができる。
また、本発明は、特に延性の低い高張力鋼板を対象とするプレス成形における破断判定を行う場合に有効である。
【0033】
さらに、本実施の形態1に係る方法によれば、プレス成形する過程においてブランクに破断が発生すると判定された部位に対して破断発生を解消する対策を施し、対策した後のプレス成形する過程においてブランクが破断するか否かを判定することもできる。これにより、破断発生を解消する対策が有効であるか否かを予め判定することもできる。
本発明の実施の形態1に係る具体的な作用効果は、後述する実施例1及び実施例2において説明する。
【0034】
なお、上記の説明において、ブランクはシェル要素でモデル化されたものであったが、本実施の形態1のプレス成形解析における破断判定方法の他の態様として、ブランクがシェル要素に替えてソリッド要素でモデル化されたものであってもよい。
【0035】
この場合、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の他の態様における各工程は以下のとおりとなる。
【0036】
まず、上型及び下型距離測定工程はおいては、ブランクの各ソリッド要素について、上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する。
ソリッド要素と上型及び下型それぞれの距離の測定は、シェル要素でモデル化された場合と同様、ブランクの表面を構成するソリッド要素の表面から上型及び下型との最短距離とする。
【0037】
次に、金型距離定義工程においては、各ソリッド要素について金型距離を定義する。金型距離の定義については、シェル要素でモデル化された場合と同様、各ソリッド要素について測定した上型及び下型との距離のうち小さい方とする。
【0038】
続いて、金型接触判定工程においては、各ソリッド要素について、金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定する。
ブランクがソリッド要素でモデル化されている場合は、ソリッド要素の表面がブランクの表面となるので、ブランクのソリッド要素について定義した金型距離が0mm以下の場合、当該ソリッド要素は金型と接触していることになるためである。
【0039】
そして、破断有無判定工程は、ブランクの各ソリッド要素について破断の有無を判定する。破断の有無の判定には、ソリッド要素の場合と同様、金型接触判定工程においてソリッド要素が金型と接触していると判定されたソリッド要素については中島法で取得された成形限界線図を用いる。これに対し、金型接触判定工程においてソリッド要素が金型と接触していると判定されなかったソリッド要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図を用いる。
【0040】
このように、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の他の態様においても、ブランクの各ソリッド要素について金型との接触の有無を判定する。そして、判定した金型との接触の有無に基づいて、中島法で取得された成形限界線図とマルシニアック法で取得された成形限界線図とを使い分け、各ソリッド要素について破断発生の有無を判定する。これにより、ソリッド要素を用いたプレス成形解析における破断の発生の有無とその部位を正確に予測することができる。
【0041】
<プレス成形解析における破断判定装置>
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置は、金型を用いてブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析において、プレス成形する過程でのブランクにおける破断の有無を成形限界線図に基づいて判定するものである。ここで、プレス成形解析において、ブランクはシェル要素でモデル化されたものであり、金型は上型と下型とを備えたものである。そして、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1は、
図2に例示するように、上型及び下型距離測定部3と、金型距離定義部5と、金型接触判定部7と、破断有無判定部9と、を備えている。
【0042】
プレス成形解析における破断判定装置1は、コンピュータ(PC等)のCPU(中央演算処理装置)を備えて構成されたものであってもよい。この場合、上記の各部は、コンピュータのCPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
以下、上記の各部について説明する。
【0043】
≪上型及び下型距離測定部≫
上型及び下型距離測定部3は、プレス成形する過程においてブランクの破断の有無を判定する金型位置を予め設定し、ブランクの各シェル要素について、予め設定した金型位置における上型及び下型それぞれとの距離を測定するものである。
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1において、上型及び下型距離測定部3は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の上型及び下型距離測定工程S1を実行する。
【0044】
≪金型距離定義部≫
金型距離定義部5は、各シェル要素について測定した上型及び下型との距離のうち小さい方を各シェル要素の金型距離として定義するものである。
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1において、金型距離定義部5は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の金型距離定義工程S3を実行する。
【0045】
≪金型接触判定部≫
金型接触判定部7は、各シェル要素について、金型距離が各シェル要素に設定された板厚の1/2以下の場合は金型と接触していると判定するものである。
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1において、金型接触判定部7は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の金型接触判定工程S5を実行する。
【0046】
≪破断有無判定部≫
破断有無判定部9は、金型接触判定部7により金型と接触していると判定されたシェル要素については中島法で取得された成形限界線図を用いて破断の有無を判定するものである。さらに、破断有無判定部9は、金型接触判定部7により金型と接触していると判定されなかったシェル要素についてはマルシニアック法で取得された成形限界線図により破断の有無を判定するものである。
本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1において、破断有無判定部9は、前述した本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定方法の破断有無判定工程S7を実施する。
【0047】
なお、中島法及びマルシニアック法のそれぞれで取得された成形限界線図は、成形対象とするブランクと同じ鋼種及び強度の高張力鋼板についてすでに得られている成形限界線図を予め取得する。
【0048】
また、成形限界線図を用いた破断の有無を判定は、プレス成形解析により各シェル要素について算出した最大主ひずみと最小主ひずみを使用する。ここで、ブランクの各シェル要素の最大主ひずみと最小主ひずみは、予めプレス成形解析が行われて算出した結果を取得すればよい。
【0049】
もっとも、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置1は、プレス成形解析を行うプレス成形解析部を備えたものであってもよい。この場合、破断有無判定部9によるブランクの各シェル要素について破断の有無を判定する前に、プレス成形解析部によるプレス成形解析を実行し、ブランクの各シェル要素について最大主ひずみと最小主ひずみを算出するものであってもよい。
【0050】
<プレス成形解析における破断判定プログラム>
本発明の実施の形態1は、コンピュータによって構成されたプレス成形解析における破断判定装置1の各部を機能させるプレス成形解析における破断判定プログラムとして構成することができる。
【0051】
すなわち、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定プログラムは、金型を用いてブランクをプレス成形する過程のプレス成形解析において、プレス成形する過程でのブランクにおける破断の有無を成形限界線図に基づいて判定するものである。ここで、プレス成形解析において、ブランクはシェル要素でモデル化されたものであり、金型は上型と下型とを備えたものである。そして、本実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定プログラムは、
図2に例示するように、コンピュータを、上型及び下型距離測定部3と、金型距離定義部5と、金型接触判定部7と、破断有無判定部9と、して実行させる機能を備える。
【0052】
以上、本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置及びプレス成形解析における破断判定プログラムにおいても、ブランクのシェル要素ごとに金型との接触の有無を判定する。そして、判定した金型との接触の有無に基づいて、中島法で取得された成形限界線図とマルシニアック法で取得された成形限界線図とを使い分け、ブランクにおける破断発生の有無を判定する。これにより、実際のプレス成形品のプレス成形過程における破断の発生の有無とその部位を正確に予測することができる。
【0053】
さらに、本実施の形態1により、プレス成形する過程においてブランクに破断が発生すると判定された部位に対して破断発生を解消する対策を施し、対策した後のプレス成形する過程においてブランクが破断するか否かを判定してもよい。これにより、破断発生を解消する対策が有効であるか否かを予め判定することもできる。
【0054】
なお、本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置及びプレス成形解析における破断判定プログラムの他の態様として、ブランクがシェル要素に替わってソリッド要素でモデル化された場合についてのものであってもよい。
【0055】
この場合、上型及び下型距離測定部は、ブランクの各ソリッド要素について、上型及び前記下型それぞれとの距離を測定する。
また、金型距離定義部は、各ソリッド要素について金型距離を定義する。
そして、金型接触判定部は、各ソリッド要素について、金型距離が0mm以下の場合には前記金型と接触していると判定する。ブランクがソリッド要素でモデル化されている場合は、ソリッド要素の表面がブランクの表面となるので、ブランクのソリッド要素について定義した金型距離が0mm以下の場合、当該ソリッド要素は金型と接触していることになるためである。
さらに、破断有無判定部は、ブランクの各ソリッド要素について破断の有無を判定する。
【0056】
このように、本発明の実施の形態1に係るプレス成形解析における破断判定装置及びプレス成形解析における破断判定プログラムの他の態様においても、ブランクのソリッド要素ごとに金型との接触の有無を判定する。そして、判定した金型との接触の有無に基づいて、中島法により測定された成形限界線とマルシニアック法により測定された成形限界線とを使い分け、ブランクにおける破断発生の有無を判定する。これにより、実際のプレス成形品のプレス成形過程における破断の発生の有無を正確に予測することができる。
【0057】
[実施の形態2]
<プレス成形品の製造方法>
本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、プレス成形におけるブランクの破断を抑制してプレス成形品を製造するものである。そして、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、
図13に示すように、仮プレス成形条件設定工程S11と、プレス成形解析工程S13と、破断発生有無判定工程S15と、仮プレス成形条件変更工程S17と、繰り返し工程S19と、を含む。さらに、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法は、プレス成形条件決定工程S21と、プレス成形工程S23と、を含む。
【0058】
≪仮プレス成形条件設定工程≫
仮プレス成形条件設定工程S11は、プレス成形品の仮のプレス成形条件を設定する工程である。
【0059】
仮プレス成形条件設定工程S11において設定される仮のプレス成形条件として、鋼板を曲げ加工した曲げ部を有するプレス成形品を対象とする場合、曲げ部の曲げR(パンチ肩半径)が挙げられる。この他に、パンチとダイとのクリアランス、鋼板の板厚などが挙げられる。また、ドローベンド方式(引張曲げ・曲げ伸ばし)の場合、さらに、ダイ肩半径、側壁部のクリアランス及びしわ押さえ力等が挙げられる。また、プレス成形に用いる金型の形状もプレス成形条件として挙げられる。
【0060】
≪プレス成形解析工程≫
プレス成形解析工程S13は、仮プレス成形条件設定工程S11において設定した仮のプレス成形条件に基づいて、シェル要素でモデル化されたブランクを上型と下型とを備えた金型を用いてプレス成形する過程のプレス成形解析を行う工程である。プレス成形解析工程S13におけるプレス成形解析は、コンピュータを用いて実施する。
【0061】
≪破断発生有無判定工程≫
破断発生有無判定工程S15は、プレス成形解析工程S13において実施したプレス成形解析の結果を対象とし、プレス成形品をプレス成形する過程のプレス成形解析におけるブランクの破断の有無を判定する。ここで、ブランクの破断の有無は、前述した本発明に係るプレス成形解析における破断有無判定方法を実施することにより、ブランクの各シェル要素について判定する。さらに、破断発生有無判定工程S15は、ブランクの各シェル要素についての破断の有無の判定結果に基づいて、ブランクにおける破断の発生する部位を予測する。
【0062】
本実施の形態2において、破断発生有無判定工程S15は、
図13に示すように、上型及び下型距離測定工程S1と、金型距離定義工程S3と、金型接触判定工程S5と、破断有無判定工程S7と、を順に実施する。
【0063】
上型及び下型距離測定工程S1と、金型距離定義工程S3と、金型接触判定工程S5と、破断有無判定工程S7と、は、前述した本実施の形態1と同様である。
さらに、破断発生有無判定工程S15は、破断有無判定工程S7においてブランクに破断が発生すると判定された部位の有無により、仮のプレス成形条件でプレス成形したプレス成形品における破断の発生の有無を判定する(S15a)。
【0064】
具体的には、破断有無判定工程S7においては、シェル要素でモデル化されたブランクの各シェル要素について破断の有無を判定する。そして、破断が発生すると判定されたシェル要素が有る場合、プレス成形品において破断の発生が有ると判定する(S15a)。これに対し、破断が発生すると判定されたシェル要素が無い場合、プレス成形品において破断の発生が無いと判定する(S15a)。
【0065】
≪仮プレス成形条件変更工程≫
仮プレス成形条件変更工程S17は、破断発生有無判定工程S15においてプレス成形品に破断が発生すると判定された場合、仮のプレス成形条件を変更する工程である。
【0066】
仮のプレス成形条件の変更は、破断が発生すると判定された部位と金型との接触の有無の判定結果に応じて行うとよい。
破断が発生すると判定された部位が金型接触判定工程S5において金型との接触有りと判定されていた場合、中島法により取得された成形限界線図に基づいて当該部位に破断の発生無しと判定されるように、仮のプレス成形条件を変更する。
同様に、破断が発生すると判定された部位が金型接触判定工程S5において金型との接触無しと判定されていた場合、マルシニアック法により取得された成形限界線図に基づいて当該部位に破断の発生無しと判定されるように、仮のプレス成形条件を変更する。
【0067】
そして、破断の発生無しと判定されるためには、破断が発生すると判定された部位の最大主ひずみ及び/又は最小主ひずみを調整するように仮のプレス成形条件を変更すればよい。最大主ひずみ及び/又は最小主ひずみの調整は、例えば、破断発生有りと判定された部位が曲げ加工した曲げ部である場合、金型の形状を変更して当該曲げ部の曲げRを大きくするとよい。
【0068】
≪繰り返し工程≫
繰り返し工程S19は、変更した仮のプレス成形条件の下で、プレス成形解析工程S13、破断発生有無判定工程S15と、仮プレス成形条件変更工程S17と、を繰り返し実行する。この繰り返しは、破断発生有無判定工程S15においてプレス成形品の破断の発生無しと判定されるまで実行する。そのため、仮のプレス成形条件を一回変更したのみではプレス成形品の破断の発生無しと判定されない場合には、仮プレス成形条件変更工程S17についても繰り返すことになる。
【0069】
≪プレス成形条件決定工程≫
プレス成形条件決定工程S21は、破断発生有無判定工程S15においてプレス成形品の破断の発生無しと判定された場合、その場合の仮のプレス成形条件をプレス成形品のプレス成形条件として決定する工程である。
【0070】
≪プレス成形工程≫
プレス成形工程S23は、プレス成形条件決定工程S21において決定したプレス成形条件でブランクをプレス成形品にプレス成形する工程である。
【0071】
以上、本実施の形態2に係るプレス成形品の製造方法においては、本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法に基づいてプレス成形品における破断発生の有無を判定し、当該判定結果に基づいて、プレス成形品の破断を抑制するプレス成形条件を決定する。これにより、割れのないプレス成形品を簡便に製造することが可能となる。
【0072】
なお、本発明において、破断判定の対象は、成形開始から成形下死点までの変形している状態のブランクのことを指し、成形下死点形状に変形したプレス成形品を含む。
【0073】
また、本発明は、ブランクの全ての要素(シェル要素又はソリッド要素)について破断判定を行うことを要するものではない。例えば、成形対象とするプレス成形品に破断が発生する懸念の高い部位に相当するブランクにおける部位の要素について、破断判定を行うものであってもよい。
【0074】
さらに、本発明において対象とするブランクは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)を施した表面処理鋼板をはじめ、SUS、アルミニウム、マグネシウム等の各種金属類の金属板でもよい。
【0075】
なお、本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法及びプレス成形品の製造方法は、延性の低い高張力鋼板、特に引張強度が1GPa以上の高張力鋼板をブランクとして好ましく適用することができる。
このように、本発明は、延性の低い高張力鋼板をブランクに用いてわずかなひずみの差が生じる場合において、中島法とマルシニアック法で取得された成形限界線図を使い分けることで破断判定を正確に行うものである。もっとも、高張力鋼板を用いても微妙な成形量でない場合や、延性の高い鋼板を用いる場合に本発明を適用しても実用上問題はない。
【実施例1】
【0076】
本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法の作用効果を検証する解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0077】
実施例1では、
図3に示すプレス成形品11のプレス成形解析を対象とした。プレス成形品11は自動車の骨格部品であるセンターピラーであり、プレス成形に用いるブランクは、板厚1.6mmの冷延1470MPa級高張力鋼板とした。
【0078】
さらに、プレス成形品11を実際にプレス成形し、破断(割れ)の発生の有無と、発生した部位を確認した。その結果、
図4に示すように、部位A、部位Bともにほぼ平面ひずみ状態であるが、部位Aは最大主ひずみが大きいため破断が発生するのに対し、最大主ひずみの小さい部位Bにおいては破断が発生しないことが確認された。
【0079】
次に、シェル要素でモデル化されたブランク13をプレス成形品11にプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、ブランクの各シェル要素について、プレス成形過程におけるひずみ(最小主ひずみ、最大主ひずみ)を求めた。
【0080】
そして、前述した本発明の実施の形態1に係る方法に従って、プレス成形品11の部位A及び部位Bに対応するブランクの部位A及び部位Bにおける破断の有無を判定した。
まず、破断の有無の判定を行うプレス成形する過程での金型位置を設定した。本実施例では、金型が下死点の位置にあるときについて破断判定を行うこととした。
【0081】
次に、設定した金型位置に上型と下型が位置する時点における、ブランク13の各シェル要素について、上型及び下型それぞれとの距離を測定した。
【0082】
次に、ブランク13の各シェルについて測定した上型及び下型との距離のうち小さい方を金型距離として定義した。
【0083】
続いて、定義した金型距離が各シェル要素に設定された板厚(=1.6mm)の1/2以下のシェル要素については、金型(上型及び/又は下型)と接触していると判定した。
【0084】
図5に、ブランク13の各シェル要素について測定した上型及び下型それぞれの距離に基づいて、各シェル要素と上型又は下型との接触の有無を判定した結果を示す。
図5に示す結果は、上型又は下型との距離が各シェル要素に設定された板厚(=1.6mm)の1/2以下のシェル要素は金型と接触していると判定し、上型又は下型との距離が以上のシェル要素は金型と接触していないと判定したものである。
【0085】
図6に、各シェル要素について定義された金型距離に基づいて、各シェル要素と金型との接触の有無を判定した結果を示す。
図6に示すように、ブランク13の各シェル要素は、
図5に示した上型又は下型と接触しているシェル要素については、金型と接触していると判定された。
【0086】
そして、発明例として、金型との接触の有無の判定結果に基づいて、中島で取得した成形限界線図とマルシニアック法で取得した成形限界線図とを使い分けて、破断の有無を判定した。すなわち、金型と接触していると判定されたブランク13のシェル要素については、中島法で取得した成形限界線図に基づいて破断の有無を判定した。これに対し、金型と接触していると判定されなかったブランク13のシェル要素については、マルシニアック法で取得した成形限界線図に基づいて破断の有無を判定した。
【0087】
さらに、比較対象として、プレス成形品11の部位A及び部位Bに対応するブランク13における部位A及び部位Bのそれぞれについて、金型との接触の有無を判定せずに破断の有無を判定した。ここで、中島法で取得された成形限界線図による破断の有無の判定を行ったものを比較例1とし、マルシニアック法で取得された成形限界線図による破断の有無の判定を行ったものを比較例2とした。
【0088】
図7に、発明例におけるブランクの破断の有無の判定結果を示す。ここで、
図7(a)は、ブランク13の部位Aにおける最小主ひずみと最大主ひずみをマルシニアック法で取得された成形限界線図上にプロットして部位Aにおける破断の有無を判定した結果である。また、
図7(b)は、ブランク13における部位Bにおけるひずみ比(最小主ひずみと最大主ひずみ)を中島法で取得された成形限界線図上にプロットして部位Bにおける破断の有無を判定した結果である。
【0089】
さらに、
図8に、発明例として、ブランク13の各シェル要素について、
図6に示した金型との接触判定に基づいて中島法とマルシニアック法の成形限界線図を使い分けて、破断の有無を判定した結果のコンター図を示す。
【0090】
部位Aについては、前述した
図6に示すように金型との接触なしと判定されたので、
図7(a)に示すように、マルシニアック法の成形限界線図に基づいて破断の有無を判定した。その結果、ブランク13の部位Aにおける最大主ひずみは、マルシニアック法の成形限界線図において部位Aの最小主ひずみに対応する最大主ひずみよりも大きい値であった。そのため、部位Aにおいては、
図7(a)及び
図8に示すように破断と判定された。
【0091】
一方、部位Bについては、前述した
図6に示すように金型との接触ありと判定されたので、
図7(b)に示すように、中島法の成形限界線図に基づいて破断の有無を判定した。その結果、ブランク13の部位Bにおける最大主ひずみは、中島法の成形限界線図において部位Bの最小主ひずみに対応する最大主ひずみよりも小さい値であった。そのため、部位Bにおいては、
図7(b)及び
図8に示すように破断なしと判定された。
【0092】
そして、
図7及び
図8に示す部位Aと部位Bについての破断の判定結果は、
図4に示す実際のプレス成形品11における破断の有無と一致した。したがって、本発明の方法により、プレス成形品11のプレス成形解析におけるブランク13の破断の有無を正しく判定できることが示された。
【0093】
図9に、比較例1におけるブランクの破断の有無の判定結果を示す。ここで、
図9(a)は、ブランク13の各シェル要素について中島法で取得された成形限界線図による破断の有無を判定した結果である。また、
図9(b)は、中島法で取得された成形限界線図上に部位A及び部位Bにおける最小主ひずみと最大主ひずみをプロットした結果である。
【0094】
図9(b)に示すように、ブランク13の部位A及び部位Bの最大主ひずみは、中島法の成形限界線図において各部位の最小主ひずみに対応する最大主ひずみよりも小さい値であった。そのため、中島法の成形限界線図により破断の有無を判定した場合、
図9(a)に示すように、部位A及び部位Bのいずれにおいても破断なしと判定された。
【0095】
図10に、比較例2におけるブランクの破断の有無の判定結果を示す。
図10(a)は、ブランク13の各シェル要素についてマルシニアック法で取得された成形限界線図による破断の有無を判定した結果である。また、
図10(b)は、マルシニアック法で取得された成形限界線図上に部位A及び部位Bにおける最小主ひずみと最大主ひずみをプロットした結果である。
【0096】
図10(b)に示すように、ブランク13の部位A及び部位Bの最大主ひずみは、マルシニアック法の成形限界線図において各部位の最小主ひずみに対応する最大主ひずみよりも大きい値であった。そのため、マルシニアック法の成形限界線図により破断の有無を判定した場合、
図10(a)に示すように、部位A及び部位Bのいずれにおいても破断ありと判定された。
【0097】
このように、中島法により取得された成形限界線図、又は、マルシニアック法により取得された成形限界線図、のいずれか一方により破断の有無を判定した結果は、
図4に示した実際のプレス成形品11の部位Aと部位Bにおける破断の有無の結果と一致しなかった。
【0098】
以上、本発明によれば、プレス成形解析において、ブランクと金型との接触に基づいて破断の有無を判定する基準となる成形限界線図を使い分けることにより、ブランクにおける破断の有無を正確に判定できることが実証された。
【実施例2】
【0099】
実施例2では、実施例1において破断ありと判定されたプレス成形品11の部位Aにおける破断を解消する対策を施し、本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法により、部位Aに対応するブランク13の破断判定を行った。さらに、実施例2では、実際にプレス成形したプレス成形品11における破断発生の有無を検証した。
【0100】
プレス成形品11の部位Aにおける破断を解消する対策としては、ブランクにおけるプレス成形品11の部位Aに相当する部位へのプレス成形過程における材料流入が促進させることとした。そのため、部位Aにおける最小主ひずみが圧縮側(マイナス側)に誘導されるように実際の金型の形状を調整した。
そして、金型の形状を調整してプレス成形品11を実際にプレス成形した結果、プレス成形品11の部位Aに破断は発生せず、破断を解消できた。
【0101】
図11(a)に、金型の形状を調整してプレス成形解析を行い、本発明に係る方法によりプレス成形品11のプレス成形解析におけるブランク13の破断を判定した結果を示す。また、
図11(b)に、金型形状の調整前の最小主ひずみと最大主ひずみ(
図11(b)中のプロットA)と調整後の最小主ひずみと最大主ひずみ(
図11(b)中のプロットA’)を成形限界線図上にプロットした結果を示す。
【0102】
図11(b)に示すように、金型形状の調整前(図中のプロットA)における最大主ひずみは、部位Aの最小主ひずみに対応する成形限界線上の最大主ひずみよりも大きい値であるため、破断ありと判定された。
【0103】
これに対し、金型形状を調整した後(図中のプロットA’)における最大主ひずみは、部位Aの最小主ひずみに対応する成形限界線上の最大主ひずみよりも小さい値であるため、破断なしと判定された。
【0104】
このように、プレス成形過程におけるブランクの破断を解消するように対策を施したプレス成形品のプレス成形解析においても、破断抑制対策を施して実際にプレス成形したプレス成形品と同様に、破断の発生を抑制できる結果が得られた。
【0105】
以上の結果から、本発明に係る方法により、プレス成形する過程においてブランクに破断が発生すると判定された部位に対して破断発生を解消する対策を施し、対策した後のプレス成形する過程のプレス成形解析によりブランクが破断するか否かを判定する。これにより、破断発生を解消する対策が有効であるか否かを予め判定することもできることが実証された。
【符号の説明】
【0106】
1 プレス成形解析における破断判定装置
3 上型及び下型距離測定部
5 金型距離定義部
7 金型接触判定部
9 破断有無判定部
11 プレス成形品
13 ブランク
21 試験片
23 ドライビングシート
31 球頭ポンチ
33 ダイス
35 しわ押さえ
37 平頭ポンチ
【要約】
【課題】成形限界線図を使い分けてブランクの破断の有無を判定するプレス成形解析における破断判定方法、装置及びプログラム、並びにプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形解析における破断判定方法は、プレス成形解析においてブランクの破断を成形限界線図に基づいて判定するものであって、ブランクの各シェル要素について、破断判定をする金型位置における上型及び下型それぞれとの距離を測定し(S1)、上型及び下型それぞれの距離のうち小さい方を各シェル要素の金型距離とし(S3)、金型距離が板厚の1/2以下のシェル要素は金型と接触していると判定し(S5)、金型と接触していると判定されたシェル要素は中島法で取得された成形限界線図を用い、金型と接触していると判定されなかったシェル要素はマルシニアック法で取得された成形限界線図を用い、各シェル要素について破断の有無を判定する(S7)。
【選択図】
図1