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特許7556137メカニカルフェイスシールアセンブリの動作方法及びメカニカルフェイスシールアセンブリ
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  • 特許-メカニカルフェイスシールアセンブリの動作方法及びメカニカルフェイスシールアセンブリ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】メカニカルフェイスシールアセンブリの動作方法及びメカニカルフェイスシールアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/00 20060101AFI20240917BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
F16J15/00 E
F16J15/34 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023516277
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2021073372
(87)【国際公開番号】W WO2022058129
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】102020124238.7
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510151348
【氏名又は名称】イーグルブルクマン ジャーマニー ゲセルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】オツチック,ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル,ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ラング,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】ラクサンダー,アルミン
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-129158(JP,A)
【文献】特開2018-092511(JP,A)
【文献】特開2021-103117(JP,A)
【文献】特表2019-512094(JP,A)
【文献】米国特許第06065345(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第03617824(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転スライドリング(3)と固定スライドリング(4)とを有し、それらのスライド面の間にシーリングギャップ(5)が画成されるメカニカルシール(2)を備えたメカニカルシールアセンブリ(1)の動作方法であって、
前記メカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データを収集し、
前記収集された動作データ及び/又は環境データを前記メカニカルシール(2)のデジタルツイン(31)へ送信し、
前記送信されたメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データに基づき前記デジタルツイン(31)を用いて前記メカニカルシール(2)の動作をシミュレーション及び監視し、
前記デジタルツインのシミュレーション結果及び/又はデータを返送するステップを含む方法。
【請求項2】
前記メカニカルシール(2)のシミュレーション及び監視は、現在収集されている前記メカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データと前回のシミュレーション結果とに基づき連続的に実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シミュレーション結果及び/又はデータの返送のステップ中に、前記メカニカルシール(2)用の動作指令が更に一緒に送信される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記メカニカルシール(2)から収集された動作データ及び/又は環境データは、前記メカニカルシール(2)におけるシステムコンピュータ(20)を用いて分析され、前記分析されたデータは前記デジタルツイン(31)へ送信される請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記収集されたメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データは、デジタルツインへ送信される前に第1フィルタ(21)を用いてフィルタリングされ、及び/又は、
前記デジタルツイン(31)のシミュレーション結果及び/又はデータは、前記メカニカルシール(2)へ送信される前に第2フィルタ(32)を用いてフィルタリングされ、及び/又は、
前記送信のステップの前に前記データの削減を行う請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記デジタルツインで前記収集された動作データ及び/又は環境データを処理する際に、前記収集された動作データを用いてトレンド分析を行い、及び/又は、
前記デジタルツインで前記動作データ及び/又は環境データを処理する際に、前記収集された動作データのクラスタリングを行い、及び/又は、
前記デジタルツイン(31)が学習システムである請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記収集されたメカニカルシール(2)の動作データは、温度、圧力、回転速度、漏れ、前記シーリングギャップ(5)におけるギャプ高さ、前記メカニカルシールにおける振動、構造伝達音、表面音、前記スライドリングの負荷及び/又は変形、前記スライドリングのスライド面の接触の発生及び/又は前記メカニカルシールにおける損耗に関するデータから選択される請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
回転スライドリング(3)と固定スライドリング(4)とを有し、それらのスライド面の間にシーリングギャップ(5)が画成されたメカニカルシール(2)であって、前記メカニカルシール(2)の各種動作データ及び/又は環境データを検知する複数のセンサ(11,12,13,14,15)を有するメカニカルシール(2)と、
前記メカニカルシール(2)のデジタルツイン(31)を備え、前記デジタルツインを用いて前記メカニカルシール(2)の動作をシミュレーション及び監視する中央コンピュータ(30)と、
前記検知されたメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データを前記中央コンピュータ(30)へ送信し、前記デジタルツイン(31)のシミュレーション結果を受信する送受信装置とを備えるメカニカルシールアセンブリ。
【請求項9】
前記メカニカルシール(2)は、前記収集したメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データを処理及び/又は削減するシステムコンピュータ(20)を更に備える請求項8に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項10】
前記システムコンピュータ(20)は、第1フィルタ(21)を用いて前記収集されたメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データをフィルタリングする請求項9に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項11】
前記中央コンピュータ(30)は、前記収集されたメカニカルシール(2)の動作データ及び/又は環境データを用いて、前記収集された動作データ及び/又は環境データのトレンド分析及び/又はクラスタリングを行う請求項9又は10に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項12】
前記中央コンピュータ(30)と前記システムコンピュータ(20)との間にクラウドコンピュータ(40)が介在する請求項9~11のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項13】
前記システムコンピュータ(20)が、構成可能な第2デジタルツイン(22)を備える請求項9~12のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項14】
前記デジタルツイン(31)及び/又は前記第2デジタルツイン(22)が学習システムとして構成される請求項13に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールをデジタル的に画像化したデジタルツインを用いたメカニカルシールアセンブリの動作方法と、デジタルツインを有するメカニカルシールアセンブリとに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な構成のメカニカルシールアセンブリが先行技術から知られている。メカニカルシールアセンブリは、様々な機械に対して不可欠な封止機能を実施するために用いられ、特に重要な媒体が封止される。従って、メカニカルシールアセンブリは、その寿命を通して安全な封止性能を有する必要がある。起こりうるメカニカルシールアセンブリの故障をなるべく早期に予測できるようにするために、メカニカルシールアセンブリのシールリングのなるべく近くに温度センサを配置し、メカニカルシールの部品の温度を監視することが知られている。危機的な温度に達した場合、これはメカニカルシールアセンブリで技術的な問題が起こりそうであることを示している可能性があるので、重要な媒体の封止を100パーセント保証することができなくなる。
【0003】
従って本発明は、簡単な構造を有し、簡単且つ安価に製造でき、メカニカルシールアセンブリの監視の向上が可能なメカニカルシールアセンブリの動作方法及びメカニカルシールアセンブリを提供することを目的とする。
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法と請求項8の特徴を有するメカニカルシールアセンブリによって実現される。各下位クレームは、本発明の好ましい更なる実施形態を示す。
【0005】
本発明に係る、請求項1の特徴を有するメカニカルシールアセンブリの動作方法は、制御に基づくメカニカルシールアセンブリの動作が、メカニカルシールのデジタルツインを用いることによって可能となるという長所を有する。ここでは、デジタルツインは、動作させる実物のメカニカルシールのデジタルイメージを形成する。デジタルツインは、数学的計算モデルに基づいており、特にメカニカルシールの特定の幾何学的、物理的変数及び/又は収集されたメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データに基づいている。
【0006】
この方法は、メカニカルシールの複数の動作データ及び/又は環境データを記録し、収集した動作データ及び/又は環境データをデジタルツインへ送信するステップを有する。例えば、デジタルツインは中央コンピュータ上でマッピングされる。また、メカニカルシールの動作は、デジタルツインを用いてシミュレーション及び監視され、その際、デジタルツインへ送信されたメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データが組み込まれる。そして、シミュレーション結果及び/又はデータが、デジタルツインの中央コンピュータからメカニカルシールへと再送信される。メカニカルシールの動作をシミュレーション及び監視する際に、デジタルツインは、収集したメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データと特定のターゲットデータとの比較を特に行ってもよい。この処理によってずれが明らかとなった場合、このずれは実物のメカニカルシールにおいて問題がある可能性を示しているので、必要ならばシミュレーション結果及び/又はデータを返信することによって、実物のメカニカルシールに対して対策が取られるようにしてもよい。
【0007】
特に、取得したシミュレーション結果を、実物のメカニカルシールから新たに収集したその他の追加データと組み合わせ、新しいシミュレーションを開始してもよい。このようにして、実際のシミュレーション結果と新しい動作データ及び/又は環境データとの組み合せに基づき、リアルタイム又は特定の間隔で実物のメカニカルシールの監視を連続的に実行できる。これにより、変化するメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データに素早く反応し、適切な対策を実行できるようになる。
【0008】
好ましくは、シミュレーション結果が実物のメカニカルシールに再送信される際に、メカニカルシール用の動作指令が一緒に送信される。これにより、デジタルツインを用いたメカニカルシールの遠隔制御が可能となる。
【0009】
更に好ましくは、収集したメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データをメカニカルシールにおけるシステムコンピュータで分析する。収集した動作データをメカニカルシールで直接分析することにより、メカニカルシールからデジタルツインへと送信されるデータ量及び送信に必要なエネルギーを削減できるようなデータ削減を可能としうる。これは、メカニカルシールアセンブリとデジタルツインとの間の好適な無線データ送信の場合に特に有利となる。この結果、本発明に係る方法を用いて、実用的なエッジコンピューティングを実施できる。
【0010】
特に好ましくは、収集されたメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データをデジタルツインへ送信する前にフィルタリングする。これにより、メカニカルシールのユーザは、好ましくはメカニカルシールの製造者によって運用されているデジタルツインへ選択的に特定のデータを送信しないようにすることができる。このようにして、機密とする必要がある情報をメカニカルシールのユーザの元に残し、メカニカルシールのコントローラにとって必要なデータのみを、ユーザの使用範囲外のデジタルツインへと送信できる。
【0011】
更に好ましくは、デジタルツインのシミュレーション結果及び/又はデータも、デジタルツインから実物のメカニカルシールへと送信する前にフィルタリングする。これにより、デジタルツインのオペレータは、どの情報を実物のメカニカルシールアセンブリへ再送信するかフィルタリングできるようになる。また、フィルタリングにより結果的にデータが削減される。特に、メカニカルシールの動作に関連するシミュレーション結果や指令のみが、デジタルツインから実物のメカニカルシールへと送信される。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態では、収集した動作データをデジタルツインで処理する際に、収集した動作データのトレンド分析が行われる。これにより、更なる動作データ履歴の推論が可能となり、特に実物のメカニカルシールのコントローラでの使用が可能となる。
【0013】
更に好ましくは、収集した動作データをデジタルツインで処理する際に、クラスターを形成することによって、クラスター分析中にいくつかの個別のデータセットを組み合わせる。このようにして実用的なデータ削減を実現できる。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態では、データを送信するステップの前にデータ削減が実施され、このためデジタルツインへ送信されるデータとデジタルツインから再送信されるデータの両方が削減される。特に、これにより簡潔でより高速なデータ処理と通信の加速が可能となりうる。
【0015】
好ましくは、収集された実物のメカニカルシールの動作データは、温度、圧力、回転速度、メカニカルシールからの漏れ、メカニカルシールのギャプ高さ、メカニカルシールのスライドリングにおける振動、構造伝達音、表面音、スライドリングの負荷及び/又は変形、スライドリングのスライド面の接触の発生及び/又はメカニカルシールのスライドリングにおける損耗に関するデータから選択される。
【0016】
更に好ましくは、メカニカルシールにおけるシステムコンピュータは、構成可能な第2デジタルツインを備える。好ましくは、構成可能な第2デジタルツインは、第1デジタルツインよりも少ない機能を有する。これより、メカニカルシールアセンブリのユーザは、例えばメカニカルシールアセンブリの限定的なシミュレーション及び/又は監視を行うために使用される適応させた第2デジタルツインを利用できるようになる。ここでは、構成可能な第2デジタルツインは、第1デジタルツインからデータ及び/又はアップデートを受信するように構成されている。
【0017】
特に好ましい実施形態では、第1デジタルツイン及び/又は第2デジタルツインは学習システムとして設計されるので、メカニカルシールアセンブリの動作中に得た経験が結果的に第1デジタルツインの連続的な適応及びアップデートにつながる。
【0018】
更に、本発明は、回転及び固定スライドリングを有し、それらのスライド面の間にシーリングギャップが画成されたメカニカルシールを備えたメカニカルシールアセンブリに関する。これに関し、メカニカルシールアセンブリは、メカニカルシールアセンブリの各種動作データ及び/又は環境データを感知するための複数のセンサを備える。更に、メカニカルシールアセンブリは、実物のメカニカルシールのデジタルツインを有する中央コンピュータを備え、中央コンピュータは、収集した動作データ及び/又は環境データとメカニカルシールの既存データとに基づき、デジタルツイン上で実物のメカニカルシールの動作をシミュレーションするように構成されている。例えば、メカニカルシールの既存データは、メカニカルシールの物理データ又は幾何学的寸法やその他のデータ、例えば封止される媒体、特に封止される媒体の平均温度及び/又は封止される平均圧力、更なるメカニカルシールの環境データ、更には前回のシミュレーション処理から得られたデータであってもよい。また、メカニカルシールアセンブリは、収集した動作データ及び/又は環境データを、デジタルツインを有する中央コンピュータへと送信し、生成されたデジタルツインのシミュレーション結果及び/又はデータを受信する送受信装置を備える。なお、ここでは別体の送受信装置を設けてもよく、代わりに封止する機械に存在する送受信装置を用いてもよい。
【0019】
更に好ましくは、メカニカルシールは、メカニカルシールのユーザにおいて運用され、収集された動作データ及び/又は環境データを処理するシステムコンピュータをメカニカルシールにおいて更に備える。この結果、メカニカルシールで又はその近くで収集した動作データの処理を直接行うことができ、このため好ましくはシステムコンピュータでデータ削減を直接行うことができる。これにより、動作データ及び/又は環境データの送信に必要な労力を大幅に削減できる。
【0020】
システムコンピュータは、更に好ましくは、収集した動作データ及び/又は環境データをフィルタリングするように構成されている。これにより、例えば、メカニカルシールのユーザは、どのデータをデータ分析のためにデジタルツインに開放し、どのデータを機密のままとするかを簡単に決定できる。
【0021】
最も好ましくは、デジタルツインを有する中央コンピュータは、収集した実物のメカニカルシールの動作データ及び/又は環境データを用いてトレンド分析を実施することによって、特に推論による動作パラメータの将来予測を可能とするように構成される。更に好ましくは、中央コンピュータは、動作データ及び/又は環境データ及び/又はシミュレーションデータにクラスタリングを実施することによって、シミュレーションが加速される及び/又は再送信されるシミュレーション結果がそのデータ量に対して削減されるように構成される。好ましくは、それぞれのデータの送信の前にデータ削減が実施される。
【0022】
更に好ましくは、メカニカルシールアセンブリは、中央コンピュータとシステムコンピュータとの間に介在するクラウドコンピュータを備える。なお、ここではデジタルツインと計算動作はクラウドコンピュータにおいて実施されてもよいので、例えばデジタルツインまで修正済みの収集された動作データを供給し、シミュレーションはこの修正済みの動作データを用いて実施される。
【0023】
更に好ましくは、システムコンピュータは、構成可能な第2デジタルツインを備え、構成可能な第2デジタルツインは、中央コンピュータ上の第1デジタルツインと同じ又はそれよりも狭い範囲の機能を有する。この結果、構成可能な第2デジタルツインは、例えば一例として緊急の場合により素早く必要なシミュレーション結果を生成できる。また、メカニカルシールアセンブリのユーザは、自身で第2デジタルツインを構成し、例えば自身にとって重要なパラメータをシミュレーション又は監視してもよい。更に好ましくは、中央コンピュータの第1デジタルツインは、構成可能な第2デジタルツインの監視及び/又はシミュレーション結果を既に使用するので、第1デジタルツインにおけるデータ処理を加速できる。
【0024】
更に好ましくは、第1デジタルツイン及び/又は構成可能な第2デジタルツインは、それぞれ学習システムとして構成される。これにより、デジタルツインを時間と共に適応させることができる。
【0025】
添付の図面を参照しつつ本発明の実施例を以下に詳細に説明する。添付の図面は以下を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の好適な実施例に係るメカニカルシールアセンブリの図式表現である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から分かるように、メカニカルシールアセンブリ1は、例えばメカニカルシールのユーザ50側に配置されたメカニカルシール2と、メカニカルシールの製造者側に配置された中央コンピュータ30とを備える。
【0028】
メカニカルシール2は、回転スライドリング3と固定スライドリング4とを備え、それらのスライド面の間にはシーリングギャップ5が画成される。メカニカルシール2は、シャフト6とハウジング7で、製品領域8と大気領域9との間を封止する。
【0029】
メカニカルシール2は、更に複数のセンサを備える。本実施例では、メカニカルシールの回転速度を特定するための回転速度センサとして第1センサ11が設けられる。第2センサ12は、メカニカルシール近くの圧力及び/又は温度を検知する温度・圧力複合センサである。第3センサ13は、振動センサである。第4センサ14は、構造伝達音センサと表面音センサの組み合わせである。第5センサ15は、漏れセンサである。
【0030】
メカニカルシール2は、ユーザの領域内のメカニカルシール近くに配置されるシステムコンピュータ20を更に備える。
【0031】
中央コンピュータ30は、実物のメカニカルシール2の完全なデジタルイメージであるデジタルツイン31を備える。デジタルツイン31は、メカニカルシール2の基本データ(例えばメカニカルシールの寸法、使用されている材料、環境データを一例として挙げられる幾何学的及び物理的データ)だけでなく、基本動作データ(例えばメカニカルシール2を動作させる温度、圧力、速度)に基づいている。
【0032】
センサ11~15は、それぞれ実物のメカニカルシール2でデータを取得し、取得したデータをシステムコンピュータ20へ好ましくは無線で送信する。システムコンピュータ20は、データ量を削減することによって、送受信機33を用いたシステムコンピュータ20から中央コンピュータ30への最も簡潔で効率的なデータ送信を可能とするよう構成されている。図1から分かるように、実際のデータ送信の前に、第1フィルタ21がユーザ50側に設けられており、ユーザ50は、第1フィルタ21を使用して、どの種類のデータを中央コンピュータ30へ送信すべきかを決定する。
【0033】
図1から更に分かるように、この実施例では、データは、中央コンピュータ30へ直接送信されるのではなく、クラウドコンピュータ40を介して中央コンピュータ30へと送信される。収集され送信された動作データは、中央コンピュータ30内のデジタルツイン31で、実物のメカニカルシール2のシミュレーション及び監視を行うために使用される。この処理において、実物のメカニカルシール2のシミュレーションは、連続的に、好ましくはリアルタイムで行われ、各シミュレーション結果が出力される。そして、シミュレーション結果は、メカニカルシール2のシステムコンピュータ20へと再送信される。この際、製造者60は、第2フィルタ32を使用して、シミュレーション結果及び/又は更に送信されるデータ及び/又は指令をフィルタリングできる。製造者60の中央コンピュータ30からシステムコンピュータ20への送信は、図1に示すように再びクラウドコンピュータ40を介して行われる。
【0034】
シミュレーションでは、前回のシミュレーション結果が連続的に再利用され、同様に連続的に新たに収集された実物のメカニカルシール2の動作データがシミュレーションに組み込まれるので、デジタルツイン31による実物のメカニカルシール2のリアルタイム監視が可能となる。例えば、問題が検知された場合に実物のメカニカルシール2に対して適切な対策を取れるように、シミュレーション結果及び/又はデジタルツインのデータの再送信中にメカニカルシール2用の動作指令を送信してもよい。
【0035】
本発明に係るメカニカルシールアセンブリ1の処理では、このように、実物のメカニカルシール2の現在の動作データが集められ、デジタルツイン31へと送信される。デジタルツイン31では、メカニカルシール2の動作のシミュレーション及び監視が行われ、シミュレーション結果及び/又は指令が実物のメカニカルシール2へと返信される。
【0036】
なお、データやシミュレーション結果及び/又は指令の送信は、クラウドコンピュータ40の介在無しに、直接システムコンピュータ20から中央コンピュータ30へ又はその逆に中央コンピュータ30からシステムコンピュータ20へ行うこともできる。また、例えばクラウドコンピュータ40内でデータ削減を実行してもよく、及び/又はデジタルツイン31をクラウドコンピュータ40内でも実行してもよい。その結果、製造者60は、自身の中央コンピュータ30からクラウドコンピュータ40内のデジタルツインにアクセスできるようになる。また、その他のITアーキテクチャも考えられる。また、例えばデジタルツインがクラウドコンピュータ40内で稼働している場合、ユーザ50はデジタルツインにアクセスできる。
【0037】
更に、システムコンピュータ20内で構成可能な第2デジタルツイン22を稼働できる。第2デジタルツイン22は、好ましくは第1デジタルツイン31よりも狭い範囲の機能を有するが、理論的には第1デジタルツイン31の全ての機能を有していてもよい。但し、構成可能な第2デジタルツイン22がより狭い範囲の機能を有することが好ましい。これに関して、第2デジタルツイン22を各ユーザ50に厳密に適応させ、例えばユーザ50にとって最も高い情報価値のあるデータ及び/又はシミュレーション結果を第2デジタルツイン22が提供するようにできる。また、構成可能な第2デジタルツイン22は、第1デジタルツイン31でのシミュレーションが加速されるように、収集されたデータの前処理を行うことができる。更に好ましくは、第1デジタルツイン31と第2デジタルツイン22の両方は、それぞれ学習システムとして構成される。また、例えば毎分、毎時間、毎日といった所定の間隔で送信やデータバッファリングを行うことができる。このバッファリング処理は、データ損失の際にデータを保存できるという長所に加え、計算能力を所定の範囲内に留めうるという更なる長所を有する。
【0038】
更に、中央コンピュータ30は、収集した実物のメカニカルシール2の動作データのトレンド分析も実行でき、これにより例えば、連続的な圧力及び/又は温度の上昇の際に、必要ならばメカニカルシール2を保護するための対策をとるべきかを推論できる。また、実物のメカニカルシール2とデジタルツイン31との間の高速で円滑なデータ送信を可能とするようなデータ削減のために、収集した動作データのクラスタリングを行うこともできる。
【0039】
本発明に係る方法と本発明に係るメカニカルシールアセンブリ1とは、特にメカニカルシール2のメンテナンス時期を判断するために使用できる。これにより、非常に費用のかかりうるメカニカルシールの故障の発生を回避し、メカニカルシールに損傷が発生する前にメンテナンを行うことが確実にできる。また、シミュレーションとトレンド分析とを組み合わせることにより、いつメカニカルシール2の部品の故障が起こり得るかを比較的正確に判断し、これに応じて事前にメンテナンスの予定日を決めることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 メカニカルシールアセンブリ
2 メカニカルシール
3 回転スライドリング
4 固定スライドリング
5 シーリングギャップ
6 シャフト
7 ハウジング
8 製品領域
9 大気領域
11 第1センサ/速度センサ
12 第2センサ/温度・圧力センサ
13 第3センサ/振動センサ
14 第4センサ/構造伝達音センサ
15 第5センサ/漏れセンサ
20 システムコンピュータ
21 第1フィルタ
22 第2デジタルツイン
30 中央コンピュータ
31 デジタルツイン
32 第2フィルタ
33 送受信機
40 クラウドコンピュータ
50 ユーザ/顧客
60 製造者
図1