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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】モノフィラメントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
D01F6/60 341B
D01F6/60 301C
D01F6/60 311K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023527594
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2022020954
(87)【国際公開番号】W WO2022259843
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021096148
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】古川 渉
(72)【発明者】
【氏名】正木 崇士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137934(JP,A)
【文献】特開2021-031790(JP,A)
【文献】特公昭55-006726(JP,B2)
【文献】特開平04-136215(JP,A)
【文献】国際公開第2021/255957(WO,A1)
【文献】特開昭63-056238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00 - 69/50
D01F 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド4のモノフィラメントであって、
前記モノフィラメントの、小角X線散乱測定による散乱ベクトルが0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における、子午線方向の規格化散乱強度I1に対する赤道方向の規格化散乱強度I2の比I2/I1の平均値が5以下であり、
前記モノフィラメントの複屈折が50×10-3以上である、
モノフィラメント。
【請求項2】
結節時の引張強度が550MPa以上であり、かつ結節時の引張伸度が10%以上である、請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】
糸径が400μm以下である、請求項1または2に記載のモノフィラメント。
【請求項4】
ポリアミド4の未延伸糸を延伸してポリアミド4のモノフィラメントを製造する方法であって、
ポリアミド4の未延伸糸を、延伸温度40℃以上であり、かつ延伸倍率が2.5倍以上3.5倍以下の条件の乾熱延伸によって延伸する第一の延伸工程と、
第一の延伸工程で生成したポリアミド4の一次延伸糸を、延伸温度80℃以上120℃以下であり、かつ特定の延伸倍率の条件の湿熱延伸によって延伸する第二の延伸工程と、を含み、
前記特定の延伸倍率は、前記第一の延伸工程および前記第二の延伸工程の両方による前記未延伸糸に対する延伸倍率である合計延伸倍率が3.5倍以上となる延伸倍率である、モノフィラメントの製造方法(ただし、前記合計延伸倍率が3.5倍の場合には、前記第一の延伸工程の延伸倍率は3.5倍未満である)。
【請求項5】
前記未延伸糸の密度が1.225g/cm以下である、請求項4に記載のモノフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフィラメントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4(以下、「PA4」とも言う)は、バイオプラスチックとして実用化が期待されており、その紡糸方法が多数検討されている。PA4のモノフィラメントに要求される特性の一つには、高い引張強度を有することが挙げられる。このような高い引張強度を有するPA4のモノフィラメントを製造する紡糸方法には、ギ酸などを用いた溶液紡糸方法(例えば、特許文献1参照)、イオン液体を用いたゲル紡糸方法、および、無機塩を用いた溶融紡糸方法(例えば、特許文献2参照)、が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-137934号公報
【文献】国際公開第2012/157576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モノフィラメントは、通常、結び合わされた状態で使用されることが考えられる。そのため、このような用途のモノフィラメントには、結節時に高い引張特性を発現することが求められる。しかしながら、前述の従来の紡糸方法は、いずれも、PA4のモノフィラメントにおけるボイドの発生を抑制し、結節時の引張特性を高める観点で検討の余地が残されている。
【0005】
本発明の一態様は、結節時においても高い引張特性を発現するPA4のモノフィラメントを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモノフィラメントは、ポリアミド4のモノフィラメントであって、前記モノフィラメントの、小角X線散乱測定による散乱ベクトルが0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における、子午線方向の規格化散乱強度I1に対する赤道方向の規格化散乱強度I2の比I2/I1の平均値が5以下であり、前記モノフィラメントの複屈折が50×10-3以上である。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモノフィラメントの製造方法は、ポリアミド4の未延伸糸を延伸してポリアミド4のモノフィラメントを製造する方法であって、ポリアミド4の未延伸糸を、延伸温度40℃以上であり、かつ延伸倍率が2.5倍以上3.5倍以下の条件の乾熱延伸によって延伸する第一の延伸工程と、第一の延伸工程で生成したポリアミド4の一次延伸糸を、延伸温度80℃以上120℃以下であり、かつ特定の延伸倍率の条件の湿熱延伸によって延伸する第二の延伸工程と、を含み、前記特定の延伸倍率は、前記第一の延伸工程および前記第二の延伸工程の両方による前記未延伸糸に対する延伸倍率である合計延伸倍率が3.5倍以上となる延伸倍率(ただし、前記合計延伸倍率が3.5倍の場合には、前記第一の延伸工程の延伸倍率は3.5倍未満)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、結節時においても高い引張特性を発現するPA4のモノフィラメントを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1のモノフィラメントにおける小角X線散乱(SAXS)の二次元像の写真を示す図である。
図2】本発明の比較例1のモノフィラメントにおける小角X線散乱(SAXS)の二次元像の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔モノフィラメント〕
[ポリアミド4]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、ポリアミド4(PA4)で実質的に構成されている。PA4は、下記式(1)で表される構造単位を有する高分子化合物である。下記式中のxは4である。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明の実施形態において、モノフィラメントの繊維の構造を構築している高分子化合物は、PA4のみであり得る。本発明の実施形態では、本実施形態における効果が得られる範囲において、PA4以外の他の成分をさらに含有してもよい。当該他の成分は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、強化材、可塑剤、滑剤および安定剤が含まれる。当該他の成分には、PA4以外の高分子化合物が含まれてもよい。当該他の成分は、当該他の成分による効果がさらに発現される量で適宜に用いられる。このように、本発明の実施形態のモノフィラメントは、PA4のモノフィラメントである。
【0013】
[小角X線散乱の散乱強度比]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、小角X線散乱(SAXS)法で測定される特定の散乱強度の比を有する。すなわち、当該モノフィラメントの、小角X線散乱測定による散乱ベクトルqが0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における、子午線方向の規格化散乱強度I1に対する赤道方向の規格化散乱強度I2の比I2/I1の平均値が5以下である。
【0014】
I2/I1の平均値とは、0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における0.000241刻みの散乱ベクトルqのそれぞれについて求められる子午線方向の規格化散乱強度I1と赤道方向の規格化散乱強度I2との比I2/I1の平均値である。
【0015】
赤道方向の規格化散乱強度I2は、モノフィラメント中のボイド(モノフィラメント中の微小の空洞)を表している。上記I2が大きいほど、モノフィラメント中におけるボイドの存在量が大きいことを表している。一方で、子午線方向の規格化散乱強度I1は、モノフィラメント中のボイド以外の散乱を表している。上記の比I2/I1の平均値が5以下であることは、モノフィラメントにおけるボイドが十分に抑えられており、結節時でも非結節時と同様の引張特性を示すことを示している。上記の比I2/I1の平均値が5以下であるPA4のモノフィラメントは、結節時においても十分に高い引張特性を有する。
【0016】
当該比I2/I1は、PA4のモノフィラメントの結節時の引張特性を高める観点から低いほど好ましい。このような理由から上記の比I2/I1は、1以上2以下の範囲内であることがより好ましい。
【0017】
上記I2およびI1は、公知の小角X線散乱測定装置を用いて測定することが可能である。また、上記の比I2/I1は、後述する第一の延伸工程および第二の延伸工程を含む製造方法によって実現することが可能であり、例えば第二の延伸工程における延伸倍率を低くすることにより、I2が小さくなる傾向にある。
【0018】
[複屈折]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、特定の複屈折を有する。すなわち、当該モノフィラメントの複屈折は、50×10-3以上である。
【0019】
モノフィラメントの複屈折は、モノフィラメントを構成する高分子化合物の高分子鎖の繊維軸方向に対する配向度の尺度である。当該複屈折の絶対値が大きいほど上記配向度が大きくなる。当該モノフィラメントの複屈折が50×10-3以上であることは、当該モノフィラメントが延伸工程に供されたことを意味する。
【0020】
当該複屈折は、モノフィラメントの引張特性を高める観点から、50×10-3以上であることが好ましく、55×10-3以上であることがより好ましく、60×10-3以上であることがさらに好ましい。当該複屈折は、モノフィラメントの結節時の十分に高い引張特性を発現させる観点から、90×10-3以下であってよい。
【0021】
上記複屈折は、例えば、べレック・コンペンセータを装着した偏光顕微鏡を用い、光源をナトリウムランプとするレタデーション測定によって測定することが可能である。また、上記複屈折は、後述する製造方法における延伸倍率を高めることによって、より高くなる傾向にある。
【0022】
[結節時の引張特性]
本発明の実施形態のモノフィラメントにおける結節時の引張強度は、550MPa以上であることが、結び合わせられる状態で使用され得る用途において十分な引張強度を実現する観点から好ましい。結び合わせられる状態で使用され得る用途とは、例えば釣り糸である。当該結節時の引張強度は、モノフィラメントの用途に応じて適宜に決めることが可能である。当該結節時の引張強度は、引っ張られたときに結節箇所でモノフィラメントが切れることを防止する観点から高いことが好ましく、例えば550MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましい。一方で、結節時の引張強度は、PA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよく、このような観点から、結節時の引張強度は、1000MPa以下であってよい。
【0023】
モノフィラメントにおける結節時の引張強度は、繊維の引張試験を実施可能な公知の装置を用いて測定することが可能である。モノフィラメントの結節時の引張強度は、後述する第一の延伸工程および第二の延伸工程を含む製造方法によって実現することが可能である。また、当該結節時の引張強度は、未延伸糸の密度を低くすることによって高くなる傾向にある。
【0024】
本発明の実施形態のモノフィラメントにおける結節時の引張伸度が10%以上であることは、結び合わせられる状態で使用された場合の破断を抑止する観点から好ましい。当該結節時の引張伸度は、モノフィラメントの用途に応じて適宜に決めることが可能であり、上記の観点から、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。一方で、結節時の引張伸度は、PA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよく、このような観点から、結節時の引張伸度は、50%以下であってよい。
【0025】
モノフィラメントにおける結節時の引張伸度は、繊維の引張試験を実施可能な公知の装置を用いて測定することが可能である。モノフィラメントの結節時の引張伸度は、後述する第一の延伸工程および第二の延伸工程を含む製造方法によって実現することが可能である。また、当該結節時の引張伸度は、後述する製造方法における延伸倍率を高くすることにより低くなる傾向があり、また未延伸糸の密度を小さくすることによって高くなる傾向にある。
【0026】
[糸径]
本発明の実施形態のモノフィラメントの糸径は、モノフィラメントの結節時の引張特性を十分に高める観点から、400μm以下であることが好ましい。当該糸径が400μmを超えると、後述する製造方法の第二の延伸工程における吸湿が不十分となり、結節時の引張特性が不十分となることがある。モノフィラメントの糸径は、第二の延伸工程におけるモノフィラメントの十分な吸湿を実現する観点から、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。一方で、モノフィラメントの糸径は、モノフィラメントの用途に応じてPA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよいが、上記の吸湿を十分に実施する観点であれば、50μm以上であってよい。
【0027】
モノフィラメントの糸径は、繊維径を測定する公知の技術によって測定することが可能であり、例えば、繊維を挟んで繊維の糸径を測定する公知の方法によって測定することが可能である。モノフィラメントの糸径は、後述する製造方法における延伸倍率を高くすることにより小さくなる傾向がある。
【0028】
[その他の物性]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、前述した物性を有していればよく、前述した本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した以外の他の物性をさらに有していてもよい。
【0029】
たとえば、本実施形態におけるPA4の重量平均分子量は、限定されないが、機械的物性および耐熱性などのPA4特有の物理的特性をモノフィラメントにおいて十分に発現させる観点から、20,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、35,000以上であることがさらに好ましい。また、PA4の重量平均分子量は、PA4のモノフィラメントが得られる範囲であればよく、例えばこのような観点から、200,000以下であることが好ましく、あるいは100,000以下であることが好ましい。
【0030】
〔モノフィラメントの製造方法〕
本発明の実施形態のモノフィラメントは、以下に説明する製造方法によって製造することができる。本発明の実施形態のモノフィラメントは、ポリアミド4の未延伸糸を、下記の第一の延伸工程および第二の延伸工程によって延伸することによって製造される。このような二段階の延伸工程を行うことで、前述したように結節時の引張特性に優れるPA4のモノフィラメントを製造することができる。
【0031】
[未延伸糸]
ポリアミド4の未延伸糸は、ポリアミド4を材料とする紡糸によって生成したモノフィラメントであり、実質的に延伸されていないモノフィラメントである。当該未延伸糸は、非晶性であることが、最終的に製造されるモノフィラメントの結節時の引張特性をより高める観点から好ましい。このような観点から、未延伸糸の密度は低いことが好ましい。前述したモノフィラメントにおける結節時の引張特性(結節時の引張強度が550MPa以上、かつ結節時の引張伸度が10%以上)を実現する観点から、未延伸糸の密度は1.225g/cm以下であることが好ましく、1.223g/cm以下であることがより好ましい。
【0032】
ただし、未延伸糸の密度が高くても、本発明の実施形態の製造方法によって、結節時の引張特性がより高められているモノフィラメントを得ることが可能である。未延伸糸の密度は、モノフィラメントの用途に応じた結節時の引張特性を発現し得る範囲において適宜に決めることが可能であり、このような観点から、1.240g/cm以下であってもよく、また1.250g/cm以下であってもよい。なお、モノフィラメントの密度は、モノフィラメントの結晶化度と相関しており、密度が低いほど結晶化度が低い傾向がある。たとえば、当該モノフィラメントの密度1.230g/cmは、当該モノフィラメントの結晶化度10%程度に相当する。
【0033】
未延伸糸の密度は、「密度勾配法」とも言われる方法によって求めることが可能である。未延伸糸の密度は、溶融紡糸によるPA4の繊維状の溶融押出物の冷却条件によって調整することが可能である。未延伸糸の密度は、冷却温度が低いほど、あるいは冷却時間が長いほど、低くなる傾向がある。
【0034】
[第一の延伸工程]
第一の延伸工程は、ポリアミド4の未延伸糸を、延伸温度40℃以上であり、かつ延伸倍率が2.5倍以上3.5倍以下の条件の乾熱延伸によって延伸する工程である。ただし、後述の合計延伸倍率が3.5倍の場合には、第一の延伸工程の延伸倍率は3.5倍未満である。第一の延伸工程は、このような条件での延伸を実施可能な公知の技術によって実施することが可能である。第二の延伸工程に先立って未延伸糸を上記の条件である程度延伸することによって、湿熱延伸時の延伸切れを防ぐことができる。
【0035】
第一の延伸工程において、延伸温度は40℃以上である。第一の延伸工程の延伸温度が低すぎると、モノフィラメントに白化が生じることがある。第一の延伸工程の延伸温度は、モノフィラメントの白化を防止する観点から、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0036】
第一の延伸工程における延伸温度が高くなると、モノフィラメントにおけるPA4の結晶化が進行し、結節時の引張特性が低減することがある。結晶化の進行を抑制し、結節時の引張特性を十分に発現させる観点から、第一の延伸工程における延伸温度は、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。第一の延伸工程の延伸温度は、モノフィラメントにおいて白化を防止し、結節時の所期の引張特性を発現させる観点から、60±5℃の範囲内にあることがさらに好ましく、60℃であることが最も好ましい。
【0037】
第一の延伸工程において、延伸倍率は2.5倍以上3.5倍以下である。第一の延伸工程の延伸倍率が低すぎると、PAの未延伸糸に第一の延伸工程を施したもの(一次延伸糸)にネッキングが残存し、その後の第二の延伸工程において局所的な変形が生じ、モノフィラメントの糸径が不均一になることがある。均一な糸径を有するモノフィラメントを得る観点から、第一の延伸工程の延伸倍率は、2.5倍以上であることが好ましく、2.8倍以上であることがより好ましい。
【0038】
第一の延伸工程の延伸倍率が高すぎると、一次延伸糸が伸び過ぎ、ボイドが発生し、結節時の所期の引張特性が不十分となることがある。モノフィラメントにおけるボイドの発生を抑制する観点から、第一の延伸工程の延伸倍率は、3.5倍以下であることが好ましく、3.2倍以下であることがより好ましい。均一な糸径を有し、ボイドの発生を抑制する観点から、第一の延伸工程の延伸倍率は、3±0.1倍の範囲内であることがさらに好ましく、3倍であることが最も好ましい。
【0039】
第一の延伸工程での延伸の形態は、乾熱延伸である。ここで言う乾熱延伸は、前述した延伸温度に温度が制御された気相(例えば空気)中でモノフィラメントを延伸すること、を意味する。第一の延伸工程における湿度は、限定されず、例えば相対湿度で80%以下であってよい。
【0040】
[第二の延伸工程]
第二の延伸工程は、第一の延伸工程で生成したポリアミド4の一次延伸糸を、延伸温度80℃以上120℃以下であり、かつ延伸倍率が4倍以上の条件の湿熱延伸によって延伸する工程である。第二の延伸工程は、このような条件での延伸を実施可能な公知の技術によって実施することが可能である。第一の延伸工程の後に一次延伸糸を吸湿して柔軟化した状態で延伸することによって、前述したように結節時の引張特性に優れるPA4のモノフィラメントを製造することができる。
【0041】
第二の延伸工程の延伸温度は、80℃以上120℃以下である。第二の延伸工程の延伸温度が低すぎると、一次延伸糸の吸湿が不十分となり、生成するモノフィラメントの結節時の引張特性が不十分となることがある。一次延伸糸を十分に吸湿させる観点から、第二の延伸工程の延伸温度は、85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
【0042】
第二の延伸工程の延伸温度は、延伸の雰囲気をスチームで実現可能な範囲で適宜に設定することができる。第二の延伸工程の延伸温度は、延伸の雰囲気として設定可能な観点から、110℃以下であることが好ましく、105℃以下であることがより好ましい。第二の延伸工程の延伸温度は、延伸の装置を簡易に構成でき、かつ一次延伸糸を十分に吸湿させる観点から、第二の延伸工程の延伸温度は、100±3℃の範囲内であることがさらに好ましく、100℃であることが最も好ましい。
【0043】
第二の延伸工程の延伸倍率は、3.5倍以上である。本発明の実施形態における第二の延伸工程の延伸倍率は、第一の延伸工程および第二の延伸工程の両方の延伸より前述の未延伸糸が最終的に延伸した倍率(「合計延伸倍率」とも言う)で表される。第二の延伸工程単独での延伸倍率は、第一の延伸工程の延伸倍率と合計延伸倍率とに応じて適宜に決められる。第二の延伸工程の延伸倍率は、通常、第一の延伸工程の延伸倍率よりも大きく、この場合、延伸工程が二段のみであれば、合計延伸倍率は、第二の延伸工程の延伸倍率と同じになる。
【0044】
第二の延伸工程の延伸倍率が低すぎると、モノフィラメントの結節時における引張特性が低下し、結節時の所期の引張特性が得られないことがある。モノフィラメントに十分な強度を付与する観点から、第二の延伸工程の延伸倍率は、合計延伸倍率で3.8倍以上となる延伸倍率であることが好ましく、4倍以上となる延伸倍率であることがより好ましい。
【0045】
一方で、第二の延伸工程の延伸倍率が高すぎると、モノフィラメントにボイドが発生することがある。モノフィラメントにおけるボイドの発生を十分に抑制する観点から、第二の延伸工程の延伸倍率は、合計延伸倍率で5倍以下となる延伸倍率であることが好ましく、合計延伸倍率で4.5倍以下となる延伸倍率であることがより好ましい。モノフィラメントの結節時における引張特性を十分に発現させ、かつボイドの発生を十分に抑制する観点から、第二の延伸工程の延伸倍率は、合計延伸倍率で4±0.3倍の範囲内となる延伸倍率であることがさらに好ましく、合計延伸倍率で4倍となる延伸倍率であることが最も好ましい。
【0046】
第二の延伸工程での延伸の形態は、湿熱延伸である。ここで言う湿熱延伸は、前述した延伸温度に温度が制御されたスチームの雰囲気中でモノフィラメントを延伸すること、を意味する。第二の延伸工程における湿度は、限定されず、例えば相対湿度で90%以上であってよい。
【0047】
第二の延伸工程での延伸時間は、一次延伸糸をより十分に湿潤させる観点から、長いことが好ましい。このような観点から、当該延伸時間は、5秒間以上であることが好ましく、8秒間以上であることがより好ましく、10秒間以上であることがさらに好ましい。一方で、第二の延伸工程での延伸時間は、モノフィラメントの生産性の観点から、短いことが好ましい。このような観点から、当該延伸時間は、60秒間以下であることが好ましく、45秒間以下であることがより好ましく、30秒間以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、一次延伸糸の糸径は、第二の延伸工程において一次延伸糸をより十分に湿潤させる観点から、小さいことが好ましい。前述したモノフィラメントにおける結節時の引張特性(結節時の引張強度が550MPa以上、かつ結節時の引張伸度が10%以上)を実現する観点であれば、一次延伸糸の糸径は、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
[その他の工程]
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述した第一の延伸工程および第二の延伸工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、当該製造方法は、PA4の未延伸糸を生成する紡糸工程をさらに含んでいてもよい。紡糸工程の形態は、いわゆる溶融紡糸であり、当該紡糸工程は、PA4の溶融混練物を押出成形によって押し出してPA4の繊維状の溶融押出物を生成する溶融押出工程と、溶融押出工程で生成した溶融押出物を冷媒液中で冷却する冷却工程と、を含んでいてよい。このような紡糸工程は、液冷で未延伸糸を生成する公知の溶融紡糸技術によって実施可能である。
【0050】
上記の冷却工程において、冷却温度は、未延伸糸の密度を低くする観点から、低いことが好ましく、より具体的には-10℃以下であることが好ましく、-15℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることがさらに好ましい。冷却温度は、冷媒液の種類および製造コストに応じて適宜に決めることができ、冷媒液が後述する無極性溶剤である場合では、コストの観点から-60℃以上であってよい。
【0051】
上記の冷却工程において、冷却時間は、未延伸糸の密度を低くする観点から、長いことが好ましく、より具体的には0.1秒間以上であることが好ましく、0.2秒間以上であることがより好ましく、0.3秒間以上であることがさらに好ましい。冷却時間は、生産性の観点からは短いことが好ましく、このような観点では、5秒間以下であることが好ましく、3秒間以下であることがより好ましく、2秒間以下であることがさらに好ましい。
【0052】
上記の冷却工程において、冷媒液は、未延伸糸の表面荒れあるいは白化の発生を防止する観点から、PA4の溶融押出物に対して実質的に不活性であることが好ましい。「実質的に不活性」とは、溶融押出物に実質的に作用しないことを意味し、より具体的には、PA4に対して難溶または不溶であること、および、PA4の溶融押出物への浸透性を有さないこと、が挙げられる。このような冷媒液は、無極性溶剤であることが好ましい。無極性溶剤の例には、シリコーンオイル、ヘキサン、ノナン、デカン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、トルエンおよびp-シメンが含まれる。
【0053】
なお、紡糸工程では、通常、溶融押出物の吐出速度よりも速い速度で繊維状の溶融押出物を引っ張りながら冷却し、その後の延伸装置へ供給する。本発明の実施形態では、溶融押出工程から冷却工程およびその後の延伸工程に供給するための上記溶融押出物の引っ張りは、延伸工程には含まれず、また本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に設定してよい。
【0054】
また、本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、ボイドを実質的に発生させないさらなる延伸工程を第二の延伸工程より後に実施してもよい。このようなさらなる延伸工程は、他の延伸工程に比べて高い温度(例えば200℃)かつ適度な延伸倍率(例えばさらなる延伸工程を含む最終的な延伸倍率(合計延伸倍率)で5倍)の乾熱延伸によって実施することが可能である。当該さらなる延伸工程は、モノフィラメントの引張特性をより一層高める観点から有利である。
【0055】
〔作用効果〕
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、前述した第一の延伸工程と第二の延伸工程を含む。これらの延伸工程を含む本実施形態の製造方法で製造されたPA4のモノフィラメントは、これらの延伸工程以外の延伸工程を経て製造されたPA4のモノフィラメントに比べて、より高い結節時の引張特性を有する。よって、本発明の実施形態によれば、モノフィラメント中でのボイドの発生が抑制され、その結果、結節時の改善された引張特性を有するモノフィラメントを実現することができる。より具体的には、本発明の実施形態によれば、結節時の引張強度および引張伸度が高いモノフィラメントを実現することができる。
【0056】
本発明の実施形態では、第一の延伸工程によって一次延伸糸の吸湿量を低減させ、その後に第二の延伸工程によって湿熱延伸を実施する。これにより、一次延伸糸が十分に吸湿し、その状態でさらに延伸されることにより、ボイドの発生および結晶化が十分に抑制される。なお、乾熱延伸では、通常、延伸によってモノフィラメントに発生する応力が高くなり、ボイドが形成しやすくなる。ボイドでは、モノフィラメントの結節時に応力が集中しやすく、そこが起点となってモノフィラメントが破断しやすくなる。そのため、第二の延伸工程を乾熱延伸で実施すると、結節時の引張特性は低下する傾向にある。
【0057】
また、本発明の実施形態では、第一の延伸工程および第二の延伸工程のいずれにおいても、延伸切れが生じない程度で十分に高い延伸倍率にて延伸が行われる。よって、モノフィラメントの強度が十分に発現される。なお、結節時の引張強度は、直線での引張強度よりも必ず小さくなる。よって、延伸工程における延伸倍率を低くすると、得られるモノフィラメントの直線での引張強度が低くなる。したがって、延伸倍率が低いと、得られるモノフィラメントの結節時の引張強度も低くなる。
【0058】
本実施形態の製造方法で製造されたPA4のモノフィラメントは、ボイドが実質的に存在しないことおよび延伸の痕跡によって特定され得る。ボイドの有無は、小角X線散乱法により確認することができ、延伸の痕跡は、PA4の分子配向度によって確認することが可能である。
【0059】
本発明の実施形態では、モノフィラメントの糸径が十分に小さい場合では、第二の延伸工程に供される一次延伸糸の糸径も、第二の延伸工程における延伸倍率に応じて十分に小さくなり、第二の延伸工程において十分に湿潤した状態で一次延伸糸が延伸され得る。たとえば、モノフィラメントの糸径が400μm以下であれば、前述したモノフィラメントにおける結節時の引張特性(結節時の引張強度が550MPa以上、かつ結節時の引張伸度が10%以上)を実現するのに有利である。
【0060】
また、本発明の実施形態では、モノフィラメントの密度がより低いと、結節時の引張特性を高める観点で有利であり、未延伸糸の密度を低くすることが、モノフィラメント(延伸糸)の密度を低くする観点から有利である。このような観点から、未延伸糸の密度が1.225g/cm以下であることは、前述したモノフィラメントにおける結節時の引張特性を発現させる観点から有利である。
【0061】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態のモノフィラメントは、ポリアミド4のモノフィラメントであって、当該モノフィラメントの、小角X線散乱測定による散乱ベクトルが0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における、子午線方向の規格化散乱強度I1に対する赤道方向の規格化散乱強度I2の比I2/I1が5以下であり、モノフィラメントの複屈折の平均値が50×10-3以上である。
【0062】
また、本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、ポリアミド4の未延伸糸を延伸してポリアミド4のモノフィラメントを製造する方法であって、ポリアミド4の未延伸糸を、延伸温度40℃以上であり、かつ延伸倍率が2.5倍以上3.5倍以下の条件の乾熱延伸によって延伸する第一の延伸工程と、第一の延伸工程で生成したポリアミド4の一次延伸糸を、延伸温度80℃以上120℃以下であり、かつ特定の延伸倍率の条件の湿熱延伸によって延伸する第二の延伸工程と、を含む。そして、当該特定の延伸倍率は、第一の延伸工程および第二の延伸工程の両方による未延伸糸に対する最終的な延伸倍率である合計延伸倍率が3.5倍以上となる延伸倍率である。ただし、合計延伸倍率が3.5倍の場合には、第一の延伸工程の延伸倍率は3.5倍未満である。
【0063】
したがって、本発明の実施形態によれば、結節時においても高い引張特性を発現するPA4のモノフィラメントを実現することができる。
【0064】
本発明の実施形態において、モノフィラメントの結節時の引張強度が550MPa以上であってもよく、またモノフィラメントの結節時の引張伸度が10%以上であってもよい。この構成は、結び合わせられる状態で使用され得る用途において十分な引張強度を有するモノフィラメントを実現する観点から、より一層効果的である。
【0065】
本発明の実施形態において、モノフィラメントの糸径は400μm以下であってもよい。この構成は、モノフィラメントの結節時の引張特性を十分に高める観点から、より一層効果的である。
【0066】
本発明の実施形態において、未延伸糸の密度が1.225g/cm以下であってもよい。この構成は、前述したモノフィラメントにおける結節時の引張特性(結節時の引張強度が550MPa以上、かつ結節時の引張伸度が10%以上)を実現する観点から、より一層効果的である。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であす。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0068】
〔実施例1〕
室温下で、重合容器に、α‐ピロリドンに2mol%のカリウムtert-ブトキシドを加え、攪拌した。カリウムtert-ブトキシド溶解後、重合助剤として2mol%のテトラメチルアンモニウムクロライドを、開始剤として0.1mol%のN,N’-アジピルジピロリドンを加えた。添加後、系は白濁し、まもなく撹拌困難となった。撹拌停止してから72時間後、フラスコ中に生成した塊状物を取り出して塊状物を粉砕した。アセトンで未反応物および低分子物を洗浄した。洗浄後の粉砕物を乾燥させることによって、粉末状のPA4を得た。得られたPA4の重量平均分子量(Mw)は140,000であった。
【0069】
なお、PA4のMwは、以下の手順、分析装置および条件によって測定した。
[測定手順]
トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、上記のようにして得られたPA4試料10mgを溶解させて10cmとした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得た。この試料溶液10μLを以下に示す分析装置に注入し、後述する測定条件でPA4の重量平均分子量を測定した。なお、本明細書において、「~」は、その両端の数値を含む以上以下の範囲を示す。
[分析装置]
GPC装置:東ソー製HLC-8420GPC
[測定条件]
A)カラム:昭光サイエンス製 GPC HFIP806M x 2 (直列接続)
B)溶離液:5mM CFCOONa/HFIP
C)MALS:Wyatt製DAWN HELEOS 2
D)サンプル10~11mg/5mM CFCOONa/HFIP 10mL
E)流量:1.0 mL/min
F)dn/dc:0.240
【0070】
PA4を265℃の温度で溶融押出にて繊維状に成形し、得られた繊維状の溶融押出物を成形直後に-20℃の揮発性シリコーンオイル(「KF-995」、信越シリコーン社製)浴へ0.3秒間通過させて冷却、固化した。こうしてPA4の未延伸糸を製造した。未延伸糸の密度を下記の方法によって求めたところ、未延伸糸の密度は1.220g/cmであった。
【0071】
[密度の測定方法]
未延伸糸の密度は、密度勾配法により求めた。溶媒には、ヘプタンと四塩化炭素の混合比を変えることにより、密度を1.20~1.30g/cmの間において0.02刻みで調整した6種の混合溶媒を用いた。
【0072】
次いで、製造した未延伸糸を、延伸温度60℃、延伸倍率3.0倍の乾熱延伸で延伸した。乾熱延伸の雰囲気の湿度は10%RH以下であった。次いで、二段目の延伸(二次延伸)として、製造した一次延伸糸を、延伸温度100℃、合計延伸倍率で4.0倍の湿熱延伸で延伸した。湿熱延伸の雰囲気の湿度は100%RHであった。こうして、PA4の延伸糸のモノフィラメントを製造した。
【0073】
製造したモノフィラメントの糸径を、マイクロメーターでモノフィラメントを挟んで測定した。無作為に抽出した5本のモノフィラメントのそれぞれについて、長さ方向の任意の1箇所の糸径を測定し、得られた測定値の平均値を求め、それをモノフィラメントの糸径とした。モノフィラメントの糸径は168μmであった。
【0074】
〔実施例2〕
二次延伸の湿熱延伸における一次延伸糸の延伸倍率を合計延伸倍率で4.8倍に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。モノフィラメントの糸径は147μmであった。
【0075】
〔実施例3〕
繊維状の溶融押出物を冷却するシリコーンオイル浴の温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.239g/cmであった。
【0076】
〔実施例4〕
未延伸糸の一次延伸倍率を2.5倍に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0077】
〔実施例5〕
未延伸糸の一次延伸倍率を3.5倍に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0078】
〔実施例6〕
未延伸糸の一次延伸温度を50℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0079】
〔実施例7〕
未延伸糸の一次延伸温度を100℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0080】
〔比較例1〕
一次延伸糸の二次延伸における延伸温度(二次延伸温度)を200℃に変更し、湿熱延伸に代えて乾熱延伸によって一次延伸糸を延伸した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0081】
〔比較例2〕
二次延伸温度を200℃に変更し、湿熱延伸に代えて乾熱延伸によって一次延伸糸を二次延伸した以外は実施例3と同様にしてモノフィラメントの製造を行った。
【0082】
〔比較例3〕
二次延伸温度を200℃に変更し、延伸倍率を合計延伸倍率で4.6倍に変更し、湿熱延伸に代えて乾熱延伸によって一次延伸糸を二次延伸した以外は実施例3と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0083】
〔比較例4〕
二次延伸温度を200℃に変更し、延伸倍率を合計延伸倍率で4.8倍に変更し、湿熱延伸に代えて乾熱延伸によって一次延伸糸を二次延伸した以外は実施例3と同様にしてモノフィラメントの製造を試みた。二次延伸において延伸切れが生じ、延伸を実施することができなかった。
【0084】
〔比較例5〕
未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率3.0倍の湿熱延伸で延伸して、PA4のモノフィラメントの製造を試みた。湿熱延伸において延伸切れが生じ、延伸を実施することができなかった。
【0085】
〔比較例6〕
未延伸糸の一次延伸倍率を2.5倍に変更した以外は比較例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0086】
〔比較例7〕
未延伸糸の一次延伸倍率を3.5倍に変更した以外は比較例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0087】
〔比較例8〕
未延伸糸の一次延伸温度を50℃に変更した以外は比較例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0088】
〔比較例9〕
未延伸糸の一次延伸温度を100℃に変更した以外は比較例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0089】
〔比較例10〕
二次延伸を実施しなかった以外は比較例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0090】
〔評価〕
[小角X線散乱測定(SAXS)による散乱ベクトル]
上記の実施例および比較例におけるモノフィラメントのそれぞれについて、下記の測定方法によって子午線方向の規格化散乱強度I1および赤道方向の規格化散乱強度I2を測定し、それらの比I2/I1を求めた。比I2/I1は、散乱ベクトルqが0.02nm-1以上0.04nm-1以下の範囲における、0.000241刻みの各散乱ベクトルqで求められる比I2/I1の全ての比I2/I1の値の平均値である。
<規格化散乱強度の測定方法>
16本のモノフィラメントを束ねてなる繊維試料をセルに入れ、テトラデカンに浸漬させた状態で以下の条件にてX線散乱の測定を行った。
装置:(株)リガク製、Nano-Viewer
X線発生源:CuKα
電流-電圧:40kV-20mA
照射時間:45min
カメラ長:830mm(小角)
スリット:0.7mmΦ-0.6mmΦ-0.8mmΦ
【0091】
[モノフィラメントの複屈折]
上記の実施例および比較例におけるモノフィラメントのそれぞれについて、下記の測定方法によってモノフィラメントの複屈折を測定した。
<複屈折の測定方法>
モノフィラメントの複屈折は、べレック・コンペンセータを装着した偏光顕微鏡を用いて、光源をナトリウムランプとし、レタデーション測定を行うことによって求めた。
【0092】
[モノフィラメントにおける結節時の引張特性]
上記の実施例および比較例におけるモノフィラメントのそれぞれについて、下記の測定方法によってモノフィラメントにおける結節時の引張強度および引張伸度を測定した。結節時の引張強度が550MPa以上であり、かつ結節時の引張伸度が10%以上であれば、釣り糸のように結び合わせて利用する用途においても実用上問題ないと判断することができる。
<引張強度および引張伸度の測定方法>
試験機としてテンシロンRTF-1210を用い、23℃湿度50%RHでチャック間距離を150mm、引張速度を150mm/minに設定し、引張測定を行った。結節時は、結節部がチャック間の中心になるようにした。
【0093】
上記の実施例および比較例におけるモノフィラメントの製造条件および性状を表1に示す。また、SAXSにおける実施例1のモノフィラメントの二次元像の写真を図1に、SAXSにおける比較例1のモノフィラメントの二次元像の写真を図2に、それぞれ示す。図1および図2中、矢印I1は、SAXSの二次元像における子午線方向を示し、矢印I2は、SAXSの二次元像における赤道方向を示している。
【0094】
【表1】
【0095】
〔実施例および比較例の考察〕
図1から明らかなように、実施例のモノフィラメントは、SAXSの二次元像において中央の赤道方向のボイド散乱(ボイドに由来する散乱)が小さい。また、表1から明らかなように、実施例のモノフィラメントのI2/I1は、いずれも5以下であり、複屈折は50×10-3以上である。そして、実施例のモノフィラメントは、比較例のモノフィラメントに比べて結節時の引張特性が向上している。さらに、未延伸糸の密度がより低い実施例1、2、4~7では、実施例3に比べて、結節時の引張強度がより高い。
【0096】
一方で比較例1~3および7~9では、いずれも、実施例に比べて結節時の引張特性が実質的に低減している。また、図2から明らかなように、比較例1のモノフィラメントでは、SAXSの二次元像において中央の赤道方向に強いストリークが観察され、このようにボイド散乱が確認される。これは、第二の延伸工程を高い延伸温度および高い延伸倍率で実施していることにより、モノフィラメント内部にボイドが形成されるため、と考えられる。
【0097】
また、比較例4では一次延伸糸の延伸において延伸切れが生じ、比較例5では未延伸糸の延伸において延伸切れが生じている。比較例4では、未延伸糸が湿潤せずに延伸されたことによりボイドが発生して破断したため、と考えられる。比較例5では、未延伸糸の延伸による強度の向上の影響よりも、未延伸糸の湿潤による強度の低下の影響が上回ったため、と考えられる。
【0098】
比較例1および比較例10と実施例との比較によれば、実施例のモノフィラメントは、未延伸糸の乾熱延伸によって発現した引張特性のうち、引張強度が湿熱の二次延伸によってより高くなる傾向が見られる。また、引張伸度については、湿熱延伸による二次延伸では、乾熱延伸による二次延伸よりも、二次延伸による引張伸度の低下が少なくなる傾向が見られる。さらに、実施例1~7によれば、乾熱の一次延伸と湿熱の二次延伸との条件の調整により、引張強度と引張伸度とのバランスを適宜に調整できることが期待される。
【0099】
なお、PA4は、比較的高い親水性を有するため、水の存在下ではモノフィラメントの強度が低減すると考えられる。よって、PA4のモノフィラメントにおける強度の発現には、乾熱延伸が有利と考えられる。したがって、PA4よりも高い疎水性を有するポリアミド、例えばPA6であれば、延伸時における吸湿の影響をより受けにくいと考えられる。よって、PA6の未延伸糸であれば、湿熱延伸で延伸しても十分に強度が向上すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のPA4のモノフィラメントは、引張特性に優れる合成繊維として利用することができ、本発明によれば、当該合成繊維の利用における環境への負荷のさらなる軽減が期待される。
図1
図2