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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】搬送装置用摺動部材および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20240917BHJP
   F16C 29/02 20060101ALI20240917BHJP
   F16C 31/02 20060101ALI20240917BHJP
   B29C 48/12 20190101ALI20240917BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20240917BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240917BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
F16C33/20 A
F16C29/02
F16C31/02
B29C48/12
C08L59/00
C08K5/098
C08K5/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023552590
(86)(22)【出願日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2023020019
(87)【国際公開番号】W WO2023243388
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022098246
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】赤田 征之
(72)【発明者】
【氏名】山元 裕太
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-526165(JP,A)
【文献】特開2016-175956(JP,A)
【文献】特表2004-502009(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123834(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0331488(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/02
F16C 31/02
F16C 33/20
B29C 48/12
C08L 59/00
C08K 5/098
C08K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成された搬送装置用摺動部材であって、
移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、前記樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm2以下であり、
前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm3/10分であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、
(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.2質量部と、
(C)脂肪酸エステル0.2質量部を含み、
前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有する、搬送装置用摺動部材。
【請求項2】
(A)ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成された搬送装置用摺動部材であって、
移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、前記樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm 2 以下であり、
前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm 3 /10分であり、
前記搬送装置用摺動部材が、異形断面押出成形品であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、
(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.2~2.5質量部と、
(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、
(B)/(C)の質量比率が0.5以上5未満であり、
前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有する、搬送装置用摺動部材。
【請求項3】
(A)ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成された搬送装置用摺動部材であって、
移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、前記樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm 2 以下であり、
前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm 3 /10分であり、
前記搬送装置用摺動部材が、異形断面押出成形品であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、
(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.3~2.5質量部と、(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、
(B)/(C)の質量比率が0.5以上5未満であり、
前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有する、送装置用摺動部材。
【請求項4】
搬送用レールである、請求項1~のいずれか1項に記載の搬送装置用摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置用摺動部材および樹脂組成物に関する。特に、ポリアセタール樹脂を主要成分とする搬送装置用摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的性質、電気的性質、および、耐薬品性などの化学的性質に優れたプラスチックとして、広範囲の用途で使用されている。
ここで、ポリアセタール樹脂は優れた耐摩耗性を有することから搬送装置用摺動部材として用いられることがある(特許文献1、特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-047262号公報
【文献】特開2006-001693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、搬送装置用摺動部材にポリアセタール樹脂を用いることは検討されてきたが、搬送用のチェーンを想定した部材であった。すなわち、ポリアセタール樹脂を搬送装置用のレールなどに用いることは検討されてこなかった。この理由としては、搬送用レールなどは、コの字型(四角形から一辺を取り払った形)や中空構造等の異形断面を有するためであると考えられる。つまり、搬送用レールなどを押出成形する場合は、異形断面押出成形となる。しかしながら、ポリアセタール樹脂は、押出成形する際に、収縮してしまうため、異形断面を有する成形品について、寸法を調整することが困難であった。また、搬送用のレールなどは、これまで、MCナイロン(登録商標)などについて、押出成形で板状や丸棒を成形し、切り出して成形していた。しかしながら、切削加工は当然に作業工程が増えてしまう。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、耐摩耗性に優れ、異形断面成形が可能な搬送装置用摺動部材、および、前記搬送装置用摺動部材を提供可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成された搬送装置用摺動部材であって、移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、前記樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm以下であり、前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm/10分である、搬送装置用摺動部材。
<2>前記搬送装置用摺動部材が、異形断面押出成形品である、<1>に記載の搬送装置用摺動部材。
<3>前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.3~2.5質量部と、(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、(B)/(C)の質量比率が0.5以上5未満である、<1>に記載の搬送装置用摺動部材。
<4>前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有する、<3>に記載の搬送装置用摺動部材。
<5>前記搬送装置用摺動部材が、異形断面押出成形品であり、前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.3~2.5質量部と、(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、(B)/(C)の質量比率が0.5以上5未満であり、前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有する、<1>に記載の搬送装置用摺動部材。
<6>搬送用レールである、<1>または<5>に記載の搬送装置用摺動部材。
<7>(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.3~2.5質量部と、(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、(B)/(C)の質量比率が0.5以上5未満である、前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm/10分である樹脂組成物。
<8>搬送用レールである、<7>に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、耐摩耗性に優れ、異形断面成形が可能な搬送装置用摺動部材、および、前記搬送装置用摺動部材を提供可能な樹脂組成物を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の搬送装置用摺動部材は、(A)ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成された搬送装置用摺動部材であって、移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、前記樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm以下であり、前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm/10分であることを特徴とする。このような部材は、耐摩耗性に優れ、異形断面成形が可能な搬送装置用摺動部材である。
【0009】
<樹脂組成物の物性値>
本実施形態においては、移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、ポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物から形成されたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積が1000μm以下である。前記摩耗溝断面積を小さくする手段としては、例えば、樹脂組成物に(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩や(C)脂肪酸エステルを配合すること、これらの配合比を精密に調整することの1つまたは2つ以上の手段を採用することが挙げられる。特に、前記樹脂組成物が、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩0.3~2.5質量部と、(C)脂肪酸エステル0.3~2.5質量部を含み、(B)/(C)の質量比率が0.5以上、5未満であり、前記脂肪酸金属塩(B)が炭素数10~50の脂肪族基を有し、前記ポリアセタール樹脂のJIS K7210-1に従って測定したメルトボリュームフローレートが1.0~5.0cm/10分である樹脂組成物を採用することによって達成される。
前記摩耗溝断面積は、950μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、850μm以下であることがさらに好ましく、800μm以下であることが一層好ましく、750μm以下であることがより一層好ましい。前記摩耗溝断面積の下限は、0μmが理想であるが、100μm以上が実際的である。
次に、本実施形態で用いる樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0010】
<(A)ポリアセタール樹脂>
前記樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含む。ポリアセタール樹脂を含むことにより、摺動性と機械的強度に優れた搬送装置用摺動部材が得られる。
本実施形態で用いるポリアセタール樹脂は、アセタール構造-(-O-CRH-)-(但し、Rは、水素原子または有機基を示す。)を繰り返し構造に有する高分子であり、通常はRが水素原子であるオキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とするものである。本実施形態で用いるポリアセタール樹脂は、この繰り返し構造のみからなるアセタールホモポリマー以外に、前記オキシメチレン基以外の構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマーを含む)やターポリマー等も含み、さらには線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。
【0011】
前記オキシメチレン基以外の構成単位としては例えば、オキシエチレン基(-CHCHO-)、オキシプロピレン基(-CHCHCHO-)、オキシブチレン基(-CHCHCHCHO-)等の炭素数2以上10以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が挙げられ、中でも炭素数2以上4以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が好ましく、特にオキシエチレン基が好ましい。また、この様な、オキシメチレン基以外のオキシアルキレン構成単位の含有量としては、ポリアセタール樹脂中において、0.1mol%以上20mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以上15mol%以下であることがより好ましい。
【0012】
本実施形態で用いるポリアセタール樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキソカン、1,3-ジオキセパン等の炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を含む環状オリゴマーとを共重合することによって製造することができる。
【0013】
中でも本発明に用いるポリアセタール樹脂としては、トリオキサンやテトラオキサン等の環状オリゴマーと、エチレンオキサイドおよび/または1,3-ジオキソランとの共重合体であることが好ましく、特にトリオキサンと1,3-ジオキソランとの共重合体であることが好ましい。この場合、環状オリゴマー80~99質量%に対し、エチレンオキサイドおよび/または1,3-ジオキソランの合計が1~20質量%であることが好ましい。
ポリアセタール樹脂のメルトボリュームフローレート(MVR)は、JIS K7210-1の条件下で測定した値が、1.0cm/10分以上であり、1.5cm/10分以上であることが好ましく、2.0cm/10分以上であることがさらに好ましい。また、前記MVRは、5.0cm/10分以下であり、4.5cm/10分以下であることが好ましく、4.0cm/10分以下であることがさらに好ましく、3.5cm/10分以下であることが一層好ましい。ポリアセタール樹脂のMVRを調整することにより、成形時(特に押出成形時)の、ボイドの発生を効果的に抑制できる傾向にある。
前記樹脂組成物がポリアセタール樹脂を2種以上含む場合、混合物のMVRが上記範囲を満たすことが好ましい。
【0014】
前記樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂を樹脂組成物の80質量%以上の割合で含むことが好ましく、85質量%以上の割合で含むことがより好ましく、90質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、95質量%以上の割合で含むことが一層好ましい。上限は、後述する(B)脂肪酸金属塩と(C)脂肪酸エステル以外の全量がポリアセタール樹脂となる量である。
前記樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
<(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩>
前記樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩を0.3~2.5質量部含むことが好ましい。これらの(B)脂肪酸金属塩を含むことにより、成形品に摺動性を付与することができる。
【0016】
本実施形態で用いる(B)脂肪酸金属塩は、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩であり、少なくとも、カルシウム塩を含むことが好ましい。
また、本実施形態で用いる(B)脂肪酸金属塩は、炭素数10~50の脂肪族基を有することが好ましい。さらには、前記炭素数は、12以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましく、また、36以下であることが好ましく、28以下であることがより好ましく、25以下であることが一層好ましく、20以下であることがより一層好ましい。
前記脂肪族基は、直鎖脂肪族基であることが好ましい。また、前記脂肪族基は、飽和脂肪族基であってもよいし、不飽和脂肪族基であってもよいが、飽和脂肪族基が好ましい。
より具体的には、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸が例示され、ステアリン酸が好ましい。
本実施形態においては、(B)脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましく、ステアリン酸カルシウムがさらに好ましい。
【0017】
前記樹脂組成物における(B)脂肪酸金属塩の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.3質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.6質量部以上であることがさらに好ましく、0.8質量部以上であることが一層好ましく、0.9質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、脂肪酸エステルと併用した際の成形時のスリッピングを効果的に抑制できる傾向にある。また、前記(B)脂肪酸金属塩の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、2.5質量部以下であることが好ましく、2.2質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることが一層好ましく、1.2質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形品に熱をかけた際の変色を効果的に抑制できる傾向にある。
前記樹脂組成物は、(B)脂肪酸金属塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0018】
<(C)脂肪酸エステル>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、(C)脂肪酸エステルを0.3~2.5質量部含むことが好ましい。(C)脂肪酸エステルを含むことにより、得られる成形品の摺動性を高めることができる。
(C)脂肪酸エステルは、分子中に1つまたは2つ以上のエステル結合を有する化合物であり、脂肪酸フルエステルが好ましい。脂肪酸エステルは、通常、脂肪酸のCOOHとアルコールのOHが反応して得られる化合物であり、かつ、脂肪酸由来のCOOHとアルコール由来のOHがすべてエステル化している化合物を意味する。脂肪酸フルエステルを用いることにより、樹脂部材に対する限界PV値をより高くすることができる。なお、本実施形態における脂肪酸フルエステルは、市販品を用いる場合など、当業者が通常許容される範囲で、未反応の脂肪酸由来の遊離のCOOHおよびアルコール由来の遊離のOHが残存している化合物がその一部に含まれる場合はあるであろう。
また、(C)脂肪酸エステル一分子中のエステル基の数は、1~4個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1または2個であることがさらに好ましく、1個であることが一層好ましい。
(C)脂肪酸エステルの分子量としては、300~2000であることが好ましい。特に、(C)脂肪酸エステルがエステル基を1つ有する場合、分子量は300~800であることが好ましく、(C)脂肪酸エステルがエステル基を2つ有する場合、分子量は300~800であることが好ましく、(C)脂肪酸エステルがエステル基を2つ有する場合、分子量は300~1000であることが好ましく、(C)脂肪酸エステルがエステル基を3つ有する場合、分子量は500~1200であることが好ましく、(C)脂肪酸エステルがエステル基を4つ有する場合、分子量は800~2000であることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態で用いる(C)脂肪酸エステルは、炭素数10~50の脂肪族基を有することが好ましいが、前記炭素数は、12以上であることがより好ましく、14以上であることがさらに好ましく、また、36以下であることが好ましく、28以下であることがより好ましく、25以下であることが一層好ましく、20以下であることがより一層好ましい。
前記脂肪族基は、直鎖脂肪族基であることが好ましい。また、前記脂肪族基は、飽和脂肪族基であってもよいし、不飽和脂肪族基であってもよいが、飽和脂肪族基が好ましい。
より具体的には、(C)脂肪酸フルエステルを構成する脂肪酸としては、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸が例示され、ステアリン酸が好ましい。
脂肪酸エステル(C)としては、ステアリン酸ステアリル、ジステアリン酸グリコール、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドが好ましく、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドがより好ましく、ステアリン酸ステアリルがさらに好ましい。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物における(C)脂肪酸エステルの含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.3質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることがさらに好ましく、0.9質量部以上であることが一層好ましい。前記上限値以上とすることにより、成形時の計量時間をより短くできる傾向にある。また、前記(C)脂肪酸エステルの含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、2.5質量部以下であることが好ましく、2.2質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることが一層好ましく、1.2質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形時の計量安定性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(C)脂肪酸エステルを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物において、(B)脂肪酸金属塩と(C)脂肪酸エステルの質量比率((B)/(C)の質量比率)が0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形時の計量時間をより短くできる傾向にある。また、前記(B)/(C)の質量比率は、5未満であり、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、3未満であることがさらに好ましく、2以下であることが一層好ましく、1.5以下であることがより一層好ましく、1.2以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、金属部材に対する動摩擦係数をより小さくすることができる傾向にある。
【0022】
<他の成分>
前記樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、公知の添加剤や充填剤を添加してもよい。本実施形態に使用することのできる添加剤や充填剤としては、具体的には例えば公知の熱可塑性ポリマー、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウイスカー等が挙げられる。
これらの成分の含有量は、合計で、樹脂組成物の10質量%以下の割合であることが好ましい。
前記樹脂組成物は、(B)脂肪酸金属塩と(C)脂肪酸エステル以外の他の摺動性向上剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、他の摺動性向上剤の含有量が、(B)脂肪酸金属塩と(C)脂肪酸エステルの合計量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。前記他の摺動性向上剤とは、例えば、シリコーンやフッ素樹脂などが例示される。
【0023】
本実施形態で用いる樹脂組成物のJIS K7210-1に従って測定したMVRは、6.0cm/10分以下であることが好ましく、5.0cm/10分以下であることがより好ましく、4.0cm/10分以下であることがさらに好ましく、3.5cm/10分以下であることが一層好ましい。また、前記MVRの下限は、1.0cm/10分以上であることが好ましく、2.0cm/10分以上であってもよく、2.5cm/10分以上であってもよく、2.7cm/10分超であってもよい。このような範囲とすることにより、より異形押出性に優れた搬送装置用摺動部材が得られる傾向にある。
【0024】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態で用いる樹脂組成物は、従来の熱可塑性樹脂組成物の調製法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製される。例えば、(1)樹脂組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法等を採用できる。
【0025】
混練機は、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等が例示される。混合・混練の各種条件や装置についても、特に制限はなく、従来公知の任意の条件から適宜選択して決定すればよい。混練はポリアセタール樹脂が溶融する温度以上、具体的にはポリアセタール樹脂の融解温度以上(一般的には180℃以上)で行うことが好ましい。
【0026】
<搬送装置用摺動部材>
本実施形態の搬送装置用摺動部材は、上記樹脂組成物から形成される。本実施形態の搬送装置用摺動部材は、上記樹脂組成物をペレタイズした後、異形断面押出成形することによって、製造することが好ましい。また、本実施形態の搬送装置用摺動部材は、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、異形断面押出成形して製造にすることもできる。すなわち、本実施形態の搬送装置用摺動部材は、異形断面押出成形品であることが好ましい。異形断面押出成形を可能にする手段としては、例えば、ポリアセタール樹脂に(B)カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む脂肪酸金属塩や(C)脂肪酸エステルを配合すること、これらの配合比を精密に調整することによって達成される。
本実施形態の搬送用摺動部材は、搬送用レールであることが好ましい。
【0027】
本実施形態の搬送用摺動部材は、また、本実施形態の摺動部材同士はもちろん、他の樹脂製摺動部材や、繊維強化樹脂摺動部材の他、セラミックスや金属製摺動部材と組み合わせた搬送用摺動部材として用いることも可能である。
【実施例
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0029】
1.原料
表1に示す原料を用いた。
【表1】
【0030】
メルトボリュームフローレート(MVR、単位:cm/10分)は、JIS K7210-1に従って測定した。
【0031】
2.樹脂組成物(ペレット、POM-1~POM-17)の製造
表2または表3に示す各成分を表2または表3に示す割合(質量部)で、タンブラーを用いて均一に混合した。得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製PCM30)を用いてシリンダー温度190℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量10kg/hで溶融せん断混合し、樹脂組成物のペレットを製造した。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
上記表2および3におけるMVRは、樹脂組成物のMVRを示している。
【0034】
3.実施例1~9、比較例1~10
<JIS K7139 多目的試験片 タイプA1の成形>
上記で得られたペレット(ただし、比較例1および2は、所定の市販品)を用い、芝浦機械社製、EC100SXにて、シリンダー温度195℃、金型温度90℃、保圧80MPa、射出速度19.3mm/sにて、JIS K7139 多目的試験片 タイプA1(プレート)を成形した。
【0035】
<摩耗溝断面積>
ACCRETECH製SURFCOM 3000Aを用いて、移動速度6000mm/分、荷重500g、片道移動距離20mmの条件で、上記で得られたJIS K7139 多目的試験片 タイプA1(プレート)とS45Cのピンを40000回往復摺動させたときの摩耗溝断面積を測定した。
【0036】
<異形押出>
上記で得られたペレット(ただし、比較例1および2は、所定の市販品)を用い、株式会社池貝社製FS50にて、シリンダー温度180℃、スクリュー回転数9.0rpm、冷却ダイ温度60℃で異形押出を行った。異形押出断面の形状は、コの字型とした。
異形押出成形に適していた場合は「適」と、異形押出成形に適していない場合は「不適」とした。異形押出成形の不適の例として、ボイドが発生することが挙げられる。判断は5人の専門家が行い、多数決とした。
【0037】
<切削加工>
異形押出成形ができ、切削加工が不要だった場合は「不要」と、異形押出成形ができず、切削加工が必要だった場合は「必要」とした。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【表6】
【0040】
比較例2は、摩耗試験について、試験途中で摩擦力の上限リミットとなったことにより停止した。
上記結果から明らかなとおり、実施例1~9においては、異形断面押出成形により、成形品を成形できた。特に、異形押出成形品も成形品として適切なものが得られ、切削加工は不要であった。また、耐摩耗性にも優れていた。
これに対し、ポリアセタール樹脂以外の樹脂を用いた比較例1および比較例2では、異形押出ができず、切削加工が必要であった。
また、ポリアセタール樹脂を用いた場合であっても、樹脂組成物の組成等を調整しない場合、異形押出ができなかったり、耐摩耗性が劣っていたりした(比較例3~10)。特に、比較例6~8では、成形品にボイドができてしまう等、異形押出成形が適切にできなかった。