(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】細胞構造体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240918BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240918BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/09
(21)【出願番号】P 2019225725
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039452(WO,A1)
【文献】特表2017-530983(JP,A)
【文献】特開2000-189158(JP,A)
【文献】Cancer Research,2018年,Vol.78, Issue 13_Supplement,Abstract 1151 [online],<URL: https://aacrjournals.org/cancerres/article/78/13_Supplement/1151/625457/Abstract-1151-A-unique-layered-3D-stromal-tissue>,[検索日 2023.10.20]
【文献】Cancer Research,2018年,Vol.78, Issue 13_Supplement,Abstract 5016 [online],<URL: https://aacrjournals.org/cancerres/article/78/13_Supplement/5016/629563/Abstract-5016-A-unique-ex-vivo-drug-evaluation>,[検索日 2023.10.20]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の細胞集団の増殖速度を、単層で培養した場合に比べて、抑制する方法であって、
第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む細胞構造体に、第2の細胞集団を接触させて培養する工程を含み、
前記第1の細胞集団は細胞間に前記細胞外マトリックス成分を含み、
前記第1の細胞集団は少なくとも間質細胞を含
み、
前記細胞構造体の細胞層数は10~60層である、前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
【請求項2】
前記第1の細胞集団が、血管内皮細胞を更に含み、前記間質細胞が線維芽細胞である、請求項1に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
【請求項3】
前記第2の細胞集団が株化された細胞を含む、請求項1又は2に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
【請求項4】
前記第2の細胞集団ががん細胞を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
【請求項5】
前記細胞構造体が、
前記第1の細胞集団をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、
得られた前記混合物中の細胞を培養して前記細胞構造体を得る工程と、を含む、方法により製造されたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞構造体及びその使用に関する。より詳細には、細胞構造体、増殖速度を抑制する方法及び抗がん効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、不死化した細胞や株化された細胞はゲノム内に変異を有しており、ex vivo(生体外)で培養されたこれらの細胞は、生体における細胞増殖とは異なる様式で増殖する場合がある。
【0003】
ところで、出願人らは、特許文献1に開示されるように、細胞と細胞外マトリックス成分と高分子電解質とを含む細胞構造体を、これらの材料を混合させて集めることにより作製する簡便な方法を発明した。また、出願人らは、特許文献2に開示されるように、この方法により、がん細胞を用いて細胞構造体を形成して抗がん剤の薬効評価を行う手法を発明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/146124号
【文献】国際公開第2019/039452号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、不死化した細胞や株化された細胞の増殖速度は、生体における細胞の増殖速度よりも著しく速いため、ex vivoで培養された不死化した細胞や株化された細胞を用いて薬剤や毒物による影響を正確に評価できないという問題が生じる場合がある。
【0006】
そこで、本発明の解決すべき課題は、株化された細胞や不死化された細胞を、ex vivoで培養する際に、従来よりも生体内と類似する状態で培養する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む細胞構造体であって、前記第1の細胞集団は細胞間に前記細胞外マトリックス成分を含み、前記第1の細胞集団は少なくとも間質細胞を含み、前記細胞構造体に接触させて第2の細胞集団を培養したときに、前記第2の細胞集団を生体内と類似する状態で培養するために用いられる、細胞構造体。
[2]前記第1の細胞集団が、血管内皮細胞を更に含み、前記間質細胞は線維芽細胞である、[1]に記載の細胞構造体。
[3]前記第2の細胞集団が株化された細胞を含む、[1]又は[2]に記載の細胞構造体。
[4]前記第2の細胞集団ががん細胞を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞構造体。
[5]前記細胞構造体の厚みが40μm以上である、[1]から[4]のいずれかに記載の細胞構造体。
[6]前記第1の細胞集団の細胞数と、前記第2の細胞集団の細胞数の比(前記第1の細胞集団の細胞数:前記第2の細胞集団の細胞数)が、3:1~300:1である、[1]から[5]のいずれかに記載の細胞構造体。
[7]第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む細胞構造体に、第2の細胞集団を接触させて培養する工程を含み、前記第1の細胞集団は細胞間に前記細胞外マトリックス成分を含み、前記第1の細胞集団は少なくとも間質細胞を含む、前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
[8]前記第1の細胞集団が、血管内皮細胞を更に含み、前記間質細胞が線維芽細胞である、[7]に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
[9]前記第2の細胞集団が株化された細胞を含む、[7]又は[8]に記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
[10]前記第2の細胞集団ががん細胞を含む、[7]~[9]のいずれかに記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
[11]前記細胞構造体が、前記第1の細胞集団をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、得られた前記混合物中の細胞を培養して前記細胞構造体を得る工程と、を含む、方法により製造されたものである、[7]~[10]のいずれかに記載の前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法。
[12]被験物質の評価方法であって、前記被験物質の存在下で、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞構造体に接触させて細胞集団を培養し、前記細胞集団の状態を解析する工程と、前記被験物質の存在下における前記状態と、前記被験物質の非存在下における前記状態とを比較し、前記被験物質の効果を評価する工程と、を含む、評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、株化された細胞や不死化された細胞を、ex vivoで培養する際に、従来よりも生体内と類似する状態で培養する技術を提供することできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[細胞構造体]
一実施形態において、本発明は、第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む細胞構造体であって、前記第1の細胞集団は細胞間に前記細胞外マトリックス成分を含み、前記第1の細胞集団は少なくとも間質細胞を含み、前記細胞構造体に接触させて第2の細胞集団を培養したときに、前記第2の細胞集団を生体内と類似する状態で培養するために用いられる、細胞構造体を提供する。
【0010】
本実施形態及び本願明細書において、「細胞構造体」とは、複数の細胞層が積層された3次元構造体である。「細胞層」とは、細胞構造体の厚み方向の断面の切片画像において、細胞核を認識できる倍率、つまり、染色した切片の厚みの全体が視野に入る倍率で観察した際に、厚み方向と直交する方向に存在し、厚み方向に対して細胞核が重ならないで存在する一群の細胞および間質によって構成される層のことである。また、「層状」とは、異なる細胞層が厚み方向に2層以上重ねられているという意味である。
【0011】
本実施形態に係る細胞構造体に接触させて第2の細胞集団を培養することにより、第2の細胞集団を生体内と類似する状態で培養することができる。その結果、例えば、第2の細胞集団の増殖速度を、生体における第2の細胞集団の増殖速度に近づける(抑制する)ことができる。また、第2の細胞集団の寿命の長さを、生体における第2の細胞集団の寿命の長さに近づけることもできてもよい。また、第2の細胞集団の分化、成熟等の程度を、生体における第2の細胞集団の分化、成熟等の程度に近づけることもできてもよい。いい換えると、第2の細胞集団が発現するmRNA、タンパク質等の種類及び量、並びに、第2の細胞集団の形態、機能等を、生体におけるものに近づけることもできてもよい。これにより、第2の細胞集団の薬剤、毒物に対する応答を、生体におけるものに近づけることができ、薬効評価や毒性評価をより正確に行うこともできる。
【0012】
本実施形態に係る細胞構造体は、各細胞層を構成する細胞種が層ごとに異なる多層構造体であってもよく、各細胞層を構成する細胞種が、構造体の全層で共通する細胞種であってもよい。
【0013】
本実施形態に係る細胞構造体の大きさや形状は、特に限定されない。細胞構造体の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、100μm以上がよりさらに好ましい。細胞構造体の厚さとしては、また、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。細胞構造体の厚さが上記下限値以上であることで、第2の細胞集団をより生体内と類似した状態で培養することができる。実施例において後述するように、細胞構造体の厚さが40μm以上である場合、がん細胞の増殖を顕著に抑制することができる。細胞構造体の厚さが上記上限値以下であることで、細胞構造体を製造するための費用を低減することができる。本実施形態に係る細胞構造体の細胞層の数としては、2~60層程度が好ましく、5~60層程度がより好ましく、10~60層程度がさらに好ましい。
【0014】
なお、細胞構造体を構成する細胞層数は、三次元構造を構成する細胞の総数を、1層当たりの細胞数(1層を構成するために必要な細胞数)で除することにより測定されてもよい。1層当たりの細胞数は、細胞構造体を構成させる際に使用する細胞培養容器に、予め細胞をコンフルエントになるように平面的に培養して調べることができる。具体的には、ある細胞培養容器に形成された細胞構造体の細胞層数は、当該細胞構造体を構成する全細胞数を計測し、当該細胞培養容器の1層当たりの細胞数で除することにより算出できる。
【0015】
本実施形態において、第1の細胞集団の細胞数と、第2の細胞集団の細胞数の比(第1の細胞集団の細胞数:第2の細胞集団の細胞数)は、3:1~300:1であることが好ましく、5:1~200:1であることがより好ましく、6:1~100:1であることがさらに好ましい。第1の細胞集団の細胞数と、第2の細胞集団の細胞数の比が上記範囲内であることで、第2の細胞集団をより生体内と類似した状態で培養することができる。
【0016】
本実施形態に係る細胞構造体は、第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む。また、第1の細胞集団は細胞間に細胞外マトリックス成分を含む。すなわち、第1の細胞集団が細胞外マトリックス成分に被覆されることによって、第1の細胞集団を含む三次元構造体は細胞構造体を形成する。
【0017】
(第1の細胞集団)
第1の細胞集団は、少なくとも間質細胞を含み、更に、間質細胞以外の細胞を含んでもよい。間質細胞以外の細胞としては、免疫細胞、神経細胞、肝細胞、膵細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、骨細胞、肺胞上皮細胞、脾臓細胞等が挙げられる。
【0018】
(間質細胞)
本実施形態において、第1の細胞集団が含む細胞種は、特に限定されず、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞が由来する生物種は、特に限定されず、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。また、本実施形態に係る細胞構造体は、同種の生物種由来の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の生物種由来の細胞により構成されていてもよい。
【0019】
間質細胞としては、例えば、免疫細胞、内皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる間質細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる間質細胞の細胞種としては、特に限定されず、第1の細胞集団に含まれる間質細胞以外の細胞の種類を考慮して、適宜選択することができる。
【0020】
第1の細胞集団は、血管内皮細胞を更に含んでもよく、間質細胞は線維芽細胞であってもよい。血管網構造やリンパ管網構造は、第2の細胞集団の増殖や活性に重要である場合がある。このため、本実施形態に係る細胞構造体は、脈管網構造を備えていてもよい。
【0021】
すなわち、本実施形態に係る細胞構造体は、脈管を形成していない細胞の積層体の内部に、リンパ管及び/又は血管等の脈管網構造が三次元的に構築され、より生体内に近い組織を構築しているものであってもよい。脈管網構造は、細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくとも脈管網構造の一部が細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。なお、本実施形態及び本願明細書において、「脈管網構造」とは、生体組織における血管網やリンパ管網のような、分岐を有するような網状の構造を指す。
【0022】
脈管網構造は、第1の細胞集団が、更に、脈管を構成する内皮細胞を含むことにより形成させることができる。このような内皮細胞としては、血管内皮細胞であってもよく、リンパ管内皮細胞であってもよい。また、第1の細胞集団は、内皮細胞として、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞との両方を含んでいてもよい。
【0023】
本実施形態に係る細胞構造体が脈管網構造を備える場合、内皮細胞が本来の機能及び形状を保持する脈管網を形成しやすいことから、細胞構造体中の内皮細胞以外の細胞は、生体内において脈管の周辺組織を構成する細胞であることが好ましく、生体内のがん微小環境とより近似させられることから、細胞構造体は内皮細胞以外の細胞として少なくとも線維芽細胞を含むことがより好ましく、血管内皮細胞と線維芽細胞を含む細胞、リンパ管内皮細胞と線維芽細胞を含む細胞、又は血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞と線維芽細胞を含むことがさらに好ましい。なお、細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞と同種の生物種由来の細胞であってもよく、異種の生物種由来の細胞であってもよい。
【0024】
本実施形態に係る細胞構造体中の内皮細胞の数は、第2の細胞集団を生体内と類似する状態で培養することができる限り、特に限定されず、細胞構造体の大きさ、内皮細胞や内皮細胞以外の細胞の細胞種等を考慮して適宜決定することができる。例えば、本実施形態に係る細胞構造体を構成する全細胞に対する内皮細胞の存在比(細胞数比)は0.1%以上とすることにより、脈管網構造が形成された細胞構造体を調製できる。また、内皮細胞以外の細胞として線維芽細胞を用いる場合、本実施形態に係る細胞構造体における内皮細胞数は、線維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~5.0%であることがより好ましい。内皮細胞として血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両方を含む場合、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、線維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~5.0%であることがより好ましい。
【0025】
(細胞外マトリックス成分)
細胞構造体に含まれる細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンとしては、例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。また、細胞の生育及び細胞構造体の形成に悪影響を及ぼさない限り、細胞構造体は、上述した細胞外マトリックス成分の改変体及びバリアントを含んでもよい。細胞構造体は、1種類の細胞外マトリックス成分を含んでも良く、2種類以上の細胞マトリックスを含んでもよい。細胞構造体は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを含むことが好ましく、コラーゲンを用いることがより好ましい。上述のタンパク質は、細胞から抽出したものであってもよいし、ペプチド合成等により人工的に合成されたものであってもよい。
【0026】
細胞外マトリックス成分としては、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を有するタンパク質、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。RGD配列を有するタンパク質は細胞接着能を有する。RGD配列を有するタンパク質としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、オステオポンチン、ラミニン等が挙げられる。RGD配列を有するタンパク質としては、細胞構造体を形成することができる限り特に限定されず、人工的に設計されたアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0027】
(第2の細胞集団)
第2の細胞集団に含まれる細胞としては、特に限定されず、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。また、第2の細胞集団に含まれる細胞が由来する生物種は、特に限定されず、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよく、株化された細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。第2の細胞集団は、一種類の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の細胞により構成されていてもよい。
【0028】
第2の細胞集団は、例えば、がん細胞を含んでもよい。第2の細胞集団に含まれるがん細胞の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。なお、がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。第2の細胞集団に含まれるがん細胞としては、株化された培養細胞であってもよく、がん患者から採取されたがん細胞であってもよい。がん患者から採取されたがん細胞は、予め培養して増殖させた細胞であってもよい。具体的には、がん患者から採取された初代がん細胞、人工培養がん細胞、iPSがん幹細胞、がん幹細胞、がん治療の研究や抗がん剤の開発に利用するために予め準備されている株化がん細胞等が挙げられる。また、ヒト由来のがん細胞であってもよく、ヒト以外の動物由来のがん細胞であってもよい。なお、第2の細胞集団ががん患者から採取されたがん細胞を含む場合、がん患者から採取されたがん細胞以外の細胞も、がん細胞と共に含んでいてもよい。がん細胞以外の細胞としては、例えば、術後摘出した固形組織内に含まれる1種類以上の細胞が挙げられる。
【0029】
第2の細胞集団ががん細胞を含む場合、当該がん細胞の由来となるがんとしては、例えば、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、肝がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0030】
第2の細胞集団は、免疫細胞を含んでもよい。第2の細胞集団が、がん細胞と、免疫細胞とを含むことにより、細胞構造体と接触させて培養されるがん細胞の環境は、生体内のがん細胞の環境により類似したものとなる。
【0031】
第2の細胞集団は、細胞構造体の外部にあってもよいし、内部にあってもよい。第2の細胞集団が細胞構造体の外部にある場合、第2の細胞集団が細胞構造体に接触している限り、第2の細胞集団の位置は、特に限定されず、例えば、細胞構造体の天面(上面)に位置してもよいし、細胞構造体の底面に位置していてもよいし、第2の細胞集団を含む細胞層の上面と底面において細胞構造体が接触していてもよい。第2の細胞集団が細胞構造体の内部にある場合、第2の細胞集団は細胞構造体に散在していてもよい。
【0032】
(高分子電解質)
細胞構造体は、高分子電解質を含んでもよい。高分子電解質としては、例えば、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞構造体は、1種類のみの高分子電解質を含んでもよく、2種類以上の高分子電解質を含んでもよい。高分子電解質としては、グリコサミノグリカンであることが好ましい。また、高分子電解質としては、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、及びデルマタン硫酸のうち少なくとも1つを用いることがより好ましい。高分子電解質はヘパリンであることがさらに好ましい。
【0033】
(カチオン性物質)
細胞構造体は、カチオン性物質を含んでもよい。カチオン性物質としては、細胞の生育および細胞構造体に悪影響を及ぼさない限り、任意の正電荷を有する物質を用いることができる。カチオン性物質には、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、およびHEPESなどのカチオン性緩衝液、ならびにエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、およびポリアルギニンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、本発明で用いられるカチオン性物質はカチオン性緩衝液である。より好ましい実施形態では、本発明で用いられるカチオン性物質はトリス-塩酸緩衝液である。
【0034】
前記カチオン性物質の濃度は、細胞の生育および細胞構造体に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。前記カチオン性物質の濃度は10~100mMであることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は、20~90mM、30~80mM、40~70mM、45~60mMであることが好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は50mMであることがより好ましい。
【0035】
前記カチオン性物質としてカチオン性緩衝液が用いられる場合、カチオン性緩衝液のpHは、細胞の生育および細胞構造体に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは6.0~8.0であることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または8.0である。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.2~7.6であることがより好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.4であることがさらに好ましい。
【0036】
[方法]
一実施形態において、本発明は、第1の細胞集団と細胞外マトリックス成分とを含む細胞構造体に、第2の細胞集団を接触させて培養する工程を含み、前記第1の細胞集団は細胞間に前記細胞外マトリックス成分を含み、前記第1の細胞集団は少なくとも間質細胞を含む、前記第2の細胞集団の増殖速度を抑制する方法を提供する。
【0037】
本実施形態に用いられる細胞構造体としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。また、第1の細胞集団としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。また、第2の細胞集団としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。
【0038】
細胞構造体に接触させて第2の細胞集団を培養することにより、第2の細胞集団を生体内と類似する状態で培養することができる。その結果、例えば、第2の細胞集団の増殖速度を、生体における第2の細胞集団の増殖速度に近づける(抑制する)ことができる。また、第2の細胞集団の寿命の長さを、生体における第2の細胞集団の寿命の長さに近づけることもできる。また、第2の細胞集団の分化、成熟等の程度を、生体における第2の細胞集団の分化、成熟等の程度に近づけることもできる。いい換えると、第2の細胞集団が発現するmRNA、タンパク質等の種類及び量、並びに、第2の細胞集団の形態、機能等を、生体におけるものに近づけることもできる。これにより、第2の細胞集団の薬剤、毒物に対する応答を、生体におけるものに近づけることができ、薬効評価や毒性評価をより正確に行うこともできる。
【0039】
本実施形態において、細胞構造体は、間質細胞と細胞外マトリックス成分とを含むものであればよい。細胞構造体は、例えば、次のような方法で製造(構築)することができる。細胞構造体の製造方法としては、例えば、一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法であってもよく、2層以上の細胞層を一度に構築する方法であってもよく、両構築方法を適宜組み合わせて多層の細胞層を構築する方法であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体は、各細胞層を構成する細胞種が層ごとに異なる多層構造体であってもよく、各細胞層を構成する細胞種が、構造体の全層で共通する細胞種であってもよい。例えば、細胞種毎に層を形成し、細胞種毎の細胞層を順次積層させることによって構築する方法であってもよく、複数種類の細胞を混合した細胞混合液を予め調製し、予め調製された複数種類の細胞を混合した細胞混合液から多層構造の細胞構造体を一度に構築する方法であってもよい。
【0040】
一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法としては、例えば、日本国特許第4919464号公報に記載されている方法、すなわち、細胞層を形成する工程と、形成された細胞層をECM(細胞外マトリックス)の成分を含有する溶液に接触させる工程と、を交互に繰り返すことにより、連続的に細胞層を積層する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞及び第2の細胞集団を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物によって各細胞層を形成することによって、細胞構造体全体に脈管網構造が形成されており、かつ第2の細胞集団が細胞構造体全体に散在した細胞構造体が構築できる。また、各細胞層を、細胞種ごとに形成することによって、内皮細胞から形成された層にのみ脈管網構造が形成されており、第2の細胞集団が特定の細胞層にのみ存在し、第2の細胞集団を含む細胞層が接触している細胞構造体が構築できる。
【0041】
2層以上の細胞層を一度に構築する方法としては、例えば、日本国特許第5850419号公報に記載されている方法が挙げられる。当該方法は、予め細胞の表面全体をインテグリンが結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を含む高分子と前記RGD配列を含む高分子と相互作用をする高分子によって被覆しておき、この接着膜で被覆された被覆細胞を細胞培養容器に収容した後、遠心処理等によって被覆細胞同士を集積させることにより、多層の細胞層から形成された細胞構造体を構築する方法である。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞及び第2の細胞集団を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物に接着性成分を添加することによって調製された被覆細胞を用いる。これにより、1度の遠心処理によって、構造体全体に第2の細胞集団が散在する細胞構造体が構築できる。また、例えば、内皮細胞を被覆した被覆細胞と、線維芽細胞を被覆した被覆細胞と、第2の細胞集団の細胞を被覆した被覆細胞とを、それぞれ別個に調製し、線維芽細胞の被覆細胞から構成された多層を形成させた後、その上に内皮細胞の被覆細胞から形成された1層を積層させ、さらにその上に線維芽細胞の被覆細胞から形成された多層を積層させ、さらにその上に第2の細胞集団の被覆細胞から形成された1層を積層させる。これにより、厚みのある線維芽細胞層に挟まれた脈管網構造を備え、かつ天面に第2の細胞集団を含む細胞層が接触している細胞構造体が構築できる。
【0042】
本実施形態において、細胞構造体は、第1の細胞集団をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程(A)と、得られた混合物中の細胞をインキュベートして細胞構造体を得る工程(B)と、を含む、方法により製造されたものであってもよい。
【0043】
また、本実施形態において、細胞構造体は、第1の細胞集団をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程(a)と、混合物から第1の細胞集団を集めて細胞集合体を形成する工程(b)と、細胞集合体をインキュベートする工程(c)と、を含む、方法により製造されたものであってもよい。
【0044】
工程(a)~(c)を行うことにより、内部に大きな空隙が少ない細胞構造体を得ることができる。また、得られた細胞構造体は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。また、本実施形態においては、工程(b)は、混合物を細胞培養容器内に播種し、細胞培養容器内に沈降させることを含んでもよい。細胞混合物の沈降は、遠心分離等によって積極的に細胞を沈降させてもよく、自然沈降させてもよい。
【0045】
カチオン性物質としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。また、細胞外マトリックス成分としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。高分子電解質としては、[細胞構造体]において述べたものを用いることができる。
【0046】
本実施形態において、高分子電解質の濃度は、0mg/mL超(0mg/mLより高く)1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.5mg/mLであることが好ましく、0.05~0.3mg/mLであることがより好ましい。また、本実施形態においては、高分子電解質を混合せずに上述の混合物を調整し、細胞構造体を製造することもできる。
【0047】
本実施形態において、高分子電解質と細胞外マトリックス成分の配合比は、1:5~5:1である。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、高分子電解質と細胞外マトリックス成分の配合比が、1:2~2:1であることがより好ましく、1:1.5~1.5:1であることがより好ましく、1:1であることがより好ましい。
【0048】
工程(a)~(c)を繰り返す、具体的には、工程(c)で得られた細胞構造体の上に、工程(b)として、工程(a)で調製した混合物を細胞構造体の上面に載せ、第1の細胞集団を集めて細胞集合体を形成した後、工程(c)を行うことを繰り返すことにより、充分な厚みの細胞構造体を構築することができる。工程(c)で得られた細胞構造体の上に新たに載せる混合物の細胞組成は、既に構築されている細胞構造体を構成する細胞組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
工程(a)~(c)を繰り返す場合に、工程(c)の後、工程(b)を行う前に、得られた細胞構造体を培養してもよい。培養に用いる培養培地の組成、培養温度、培養時間、培養時の大気組成等の培養条件は、当該細胞構造体を構成する細胞の培養に適した条件で行う。培養培地としては、例えば、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0050】
工程(a)の後に、(a’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、混合物を得る工程、及び(a’-2)得られた混合物を溶媒に懸濁する工程を行い、工程(b)へ進んでもよい。上述の工程(a)~(c)を実施することで所望の細胞構造体を得ることができるが、工程(a)の後に(a’-1)及び(a’-2)を実施し、工程(b)を実施することで、より均質な細胞構造体を得ることができる。
【0051】
また、工程(a)の後に、前記工程(b)に代えて、下記工程(b’-1)及び(b’-2)を行ってもよい。工程(b’-1)及び工程(b’-2)を行うことによっても、より均質な細胞構造体を得ることができる。工程(b’-2)においても、工程(b)と同様に、細胞培養容器内に播種した細胞混合物を当該細胞培養容器内に沈降させることを含んでもよい。細胞混合物の沈降は、遠心分離等によって積極的に細胞を沈降させてもよく、自然沈降させてもよい。本実施形態及び本願明細書において、「細胞粘稠体」とは、ゲル様の細胞集合体を指す(例えば、Nishiguchi et al., Macromol Bioscience,2015,vol.15(3),p.312-317.を参照)。
(b’-1)工程(a)で得られた混合物を細胞培養容器内に播種した後、混合物から液体成分を除去し、細胞粘稠体を得る工程と、
(b’-2)細胞培養容器内に細胞粘稠体を溶媒に懸濁する工程。
【0052】
細胞懸濁液を調製するための溶媒としては、細胞に対する毒性がなく、増殖性や機能を損なわない溶媒であれば特に限定されず、水、緩衝液、細胞の培養培地等を用いることができる。当該緩衝液としては、例えば、リン酸生理食塩水(PBS)、HEPES、Hanks緩衝液等が挙げられる。培養培地としては、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。細胞懸濁液を調製するための溶媒として、細胞の培養培地を用いる場合には、後述する工程(c)において液体成分を除去することなく細胞を培養することができる。
【0053】
前記工程(c)に代えて、下記工程(c’)を行ってもよい。
(c’):基材上で細胞構造体をインキュベートする工程。
【0054】
工程(c)及び工程(c’)における液体成分の除去処理の方法は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されず、液体成分と固体成分の懸濁物から液体成分を除去する方法として当業者に公知の手法により適宜行うことができる。当該手法としては、例えば、吸引、遠心分離処理、磁性分離処理、又はろ過処理等が挙げられる。例えば、細胞培養容器としてセルカルチャーインサートを用いた場合には、混合物を播種したセルカルチャーインサートを、10℃、400×gで1分間の遠心分離処理に供することによって、細胞混合物が沈降するので、吸引によって液体成分を除去することができる。
【0055】
本実施形態に係る細胞構造体は、細胞培養容器中に構築してもよい。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されない。当該細胞培養容器としては、具体的には、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、当該細胞構造体を用いた評価をより適正に行うことができるため、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0056】
より具体的には、細胞構造体は、例えば、次のように製造してもよい。例えば、まず、工程(a)において細胞としては線維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器に10層の線維芽細胞層から形成された細胞構造体を得る。次いで、工程(a)として細胞として血管内皮細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の線維芽細胞層の上に1層の血管内皮細胞層を積層させる。さらに、工程(a)として細胞として線維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の血管内皮細胞層の上に、10層の線維芽細胞層を積層させる。これにより、線維芽細胞層10層-血管内皮細胞層1層-線維芽細胞層10層と細胞種毎に順番に層状に積層された細胞構造体が構築できる。工程(b)における混合物に含まれる細胞数を調節することにより、工程(c)において積層される細胞層の厚みを調整できる。工程(b)における混合物に含まれる細胞数が多いほど、工程(c)において積層される細胞層の数が多くなる。
【0057】
例えば、工程(a)~(c)と同様にして、上述した線維芽細胞層10層-血管内皮細胞層1層-線維芽細胞層10層の細胞構造体の線維芽細胞層の上に、第2の細胞集団を含む細胞層を積層することができる。また、工程(a)において、線維芽細胞層20層分の線維芽細胞と血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞を全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行い、形成された多層の細胞構造体の上に、同様にして調製した第2の細胞集団を含む混合物を積層することによって、21層分の厚みを有し、血管網構造が内部に散在している構細胞造体の上に第2の細胞集団を含む細胞層が積層された細胞構造体が構築できる。さらに、工程(a)において、線維芽細胞層20層分の線維芽細胞と血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞と第2の細胞集団を含む細胞層1層分の第2の細胞集団とを全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行うことにより、厚みが22層分であって、内部に第2の細胞集団と血管網構造が分散した細胞構造体を構築できる。
【0058】
[評価方法]
一実施形態において、本発明は、被験物質の評価方法であって、被験物質の存在下で、上述の細胞構造体に接触させて細胞集団を培養し、細胞集団の状態を解析する工程と、被験物質の存在下における状態と、被験物質の非存在下における状態とを比較し、被験物質の効果を評価する工程と、を含む、評価方法を提供する。
【0059】
本実施形態において、細胞構造体に接触させて細胞集団を培養することにより、細胞集団を生体内と類似する状態で培養することができる。その結果、例えば、細胞集団の増殖速度を、生体における細胞集団の増殖速度に近づける(抑制する)ことができる。また、細胞集団の寿命の長さを、生体における細胞集団の寿命の長さに近づけることもできる。また、細胞集団の分化、成熟等の程度を、生体における細胞集団の分化、成熟等の程度に近づけることもできる。いい換えると、細胞集団が発現するmRNA、タンパク質等の種類及び量、並びに、細胞集団の形態、機能等を、生体におけるものに近づけることもできる。これにより、細胞集団の被験物質に対する応答を、生体におけるものに近づけることができ、被験物質の効果の評価をより正確に行うこともできる。
【0060】
本実施形態において用いる細胞集団としては、[細胞構造体]において上述した、第二
の細胞集団と同様の細胞が挙げられる。
【0061】
本実施形態において用いられる被験物質としては特に制限されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等に由来する物質が挙げられる。
【0062】
本実施形態の評価方法によれば、被験物質の存在下における細胞集団の状態が、被験物質の非存在下における細胞集団の状態と異なる場合、被験物質は細胞集団に対して効果があると判断することができる。
【0063】
細胞集団の状態を解析する工程において、例えば、細胞の生存率、細胞の増殖速度、細胞の形態、細胞の構成成分の状態、細胞からの分泌物の状態、細胞の機能等を解析してもよい。
【0064】
細胞の生存率、細胞の増殖速度、細胞の形態を解析する方法としては、当業者に公知の方法を用いてもよい。
【0065】
細胞の構成成分としては、特に限定されず、例えば、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA等の遺伝物質;RNA、タンパク質等の遺伝子産物;セカンドメッセンジャー、イオン等の低分子代謝産物等が挙げられる。
【0066】
細胞の構成成分の状態は、例えば、次のように解析してもよい。遺伝物質の状態を解析するために、例えば、DNAメチル化の頻度等を解析してもよい。遺伝子産物の状態を解析するために、例えば、RNA、タンパク質等の発現量、修飾の状態、タンパク質の活性の強さ等を解析してもよい。低分子代謝産物の状態を解析するために、例えば、低分子代謝産物の存在量を解析してもよい。
【0067】
細胞からの分泌物としては特に限定されず、例えば、ペプチドホルモン、脂溶性ホルモン等のホルモン;サイトカイン等のシグナル伝達物質;グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、モノアミン、神経ペプチド等の神経伝達物質;抗体等のタンパク質;エクソソーム等の分泌小胞等が挙げられる。細胞からの分泌物の状態を解析するために、例えば、細胞集団が培養されている培養培地中の分泌物を検出、定量することにより解析してもよい。
【0068】
細胞の機能を解析するために、例えば、細胞の分化、成熟等の程度を解析してもよい。細胞の分化、成熟等の程度は、例えば、上述した細胞の構成成分の状態、細胞からの分泌物の状態の解析結果に基づいて判断してもよい。
【0069】
また、細胞の機能を解析するために、細胞を刺激し、刺激に対する細胞の応答を解析してもよい。例えば、細胞が筋細胞である場合、筋細胞の収縮、筋細胞内のカルシウム動態等を解析してもよく、細胞が神経細胞である場合、神経細胞の活動電位等を解析してもよい。
【0070】
本実施形態において、細胞集団が構造体を形成する場合、細胞集団の状態は、細胞集団が形成する構造体の状態であってもよい。細胞集団が形成する構造体の状態を解析するために、構造体の形態、構造体の機能等を解析してもよい。例えば、細胞集団が神経細胞を含む場合、細胞集団の状態を解析するために、神経細胞が形成する神経回路網の形態を解析してもよい。
【0071】
本実施形態において、細胞集団はがん細胞を含んでもよい。本実施形態の評価方法は、抗がん剤の存在下で、上述の細胞構造体に接触させてがん細胞を培養する培養工程と、培養工程後におけるがん細胞の生細胞数を指標として、抗がん剤の抗がん効果を評価する評価方法であってもよい。抗がん剤は、細胞構造体を培養する際の培地に含まれていてもよい。
【0072】
本実施形態の抗がん効果の評価方法によれば、がん細胞を従来よりも生体内と類似する状態で培養することができる。これにより、細胞構造体に接触させて培養したがん細胞が発現するmRNA、タンパク質等の種類及び量、並びに、がん細胞の形態、機能等を、生体におけるものに近づけることもできる。その結果、細胞構造体に接触させて培養したがん細胞を用いた抗がん剤に対する抗がん効果を、生体内のがん細胞の抗がん剤に対する効果と類似するものにすることができる。
【0073】
本実施形態の培養工程において、細胞構造体に接触して抗がん剤の存在下で培養されるがん細胞は、免疫細胞と共培養されていてもよい。がん細胞が免疫細胞と共培養されることにより、がん細胞の環境は、生体内のがん細胞の環境とより類似したものとなる。
【0074】
(抗がん剤)
本実施形態に係る評価方法に用いられる抗がん剤は、がん治療に用いられる薬剤であればよく、細胞障害性を有する薬剤のようにがん細胞に直接的に作用する薬剤のみならず、細胞障害性を有さないが、がん細胞の増殖等を抑制する薬剤も含まれる。細胞障害性を有さない抗がん剤としては、がん細胞を直接的に攻撃することはせず、その他の薬剤との協働的な作用によって、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞の活動を鈍らせたり、がん細胞を死滅させたりする機能を発揮する薬剤や、がん細胞以外の細胞や組織を障害することによってがん細胞の増殖を抑制する薬剤が挙げられる。本実施形態において用いられる抗がん剤は、抗がん作用を有することが既知である薬剤であってもよく、新規な抗がん剤の候補化合物であってもよい。本実施形態のがん細胞が免疫細胞と共培養される場合、抗癌剤は、生体内の免疫細胞と協働的に作用する薬剤であってもよい。
【0075】
細胞障害性を有する抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、分子標的薬、アルキル化剤、5-FU系抗がん剤に代表される代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗がん性抗生物質、プラチナ誘導体、ホルモン剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、生物学的応答調節剤に分類される化合物等が挙げられる。
【0076】
細胞障害性を有さない抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、脈管新生阻害剤、抗がん剤のプロドラッグ、抗がん剤若しくはそのプロドラッグの代謝に関連する細胞内代謝酵素活性を調整する薬剤(以下、明細書中では、「細胞内酵素調整剤」という。)、免疫療法剤等が挙げられる。その他にも、抗がん剤の機能を高めたり、生体内の免疫機能を向上させたりすることによって最終的に抗がん作用に関与する薬剤も挙げられる。
【0077】
脈管新生阻害剤は、脈管新生阻害活性を有することが期待される化合物であればよく、既知の脈管新生阻害剤であってもよく、新規な脈管新生阻害剤の候補化合物であってもよい。既知の脈管新生阻害剤としては、Avastin、EYLEA、Suchibaga、CYRAMZA(登録商標)(Eli Lilly社製、別名ラムシルマブ)、BMS-275291(Bristol-Myers社製)、Celecoxib(Pharmacia/Pfizer社製)、EMD121974(Merck社製)、Endostatin(EntreMed社製)、Erbitaux(ImCloneSystems社製)、Interferon-α(Roche社製)、LY317615(Eli Lilly社製)、Neovastat(Aeterna Laboratories社製)、PTK787(Abbott社製)、SU6688(Sugen社製)、Thalidomide(Celgene社製)、VEGF-Trap(Regeneron社製)、Iressa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名ゲフィチニブ)、Caplerusa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名パンデタニブ)、Recentin(登録商標)(Astrazeneca社製、別名セディラニブ)VGX―100(Circadian Technologies社製)、VD1andcVE199、VGX-300(Circadian Technologies社製)、sVEGFR2、hF4-3C5、Nexavar(登録商標)(Bayer Yakuhin社製、別名ソラフェニブ)、Vortrient(登録商標)(GlaxoSmithKline社製、別名パゾパニブ)、Sutent(登録商標)(Pfizer社製、別名スニチニブ)、Inlyta(登録商標)(Pfizer社製、別名アキシチニブ)、CEP-11981(Teva Pharmaceutical Industries社製)、AMG-386(Takeda Yakuhin社製、別名トレバナニブ)、anti-NRP2B(Genentech社製)、Ofev(登録商標)(boehringer-ingelheim社製、別名ニンタテニブ)、AMG706(Takeda Yakuhin社製、別名モテサニブ)等が挙げられる。
【0078】
抗がん剤のプロドラッグは、肝臓などの臓器やがん細胞の細胞内酵素によって、抗がん作用を有する活性体に変換される薬剤である。サイトカインネットワークが細胞内酵素の酵素活性を上昇させることにより、活性体量が増し、抗腫瘍効果の増強をもたらすことから、抗がん作用に関与する薬剤として挙げられる。
【0079】
細胞内酵素調整剤としては、例えば、単剤では直接的な抗腫瘍効果をもたないが、5-FU系抗がん剤の分解酵素(Dihydropyrimidine dehydrogenase:DPD)を阻害することにより抗がん作用に関与するギメラシルなどが挙げられる。
【0080】
免疫療法剤は、免疫細胞の免疫機能又は運動能の活性化等により、免疫機能を向上させることによって抗がん効果を得る薬剤である。免疫療法剤としては、例えば、生体応答調節剤療法に用いられる薬剤(以下、「BRM製剤」と略記する。)、免疫細胞から分泌され、遊走や浸潤に関与するサイトカインから形成されたサイトカイン系製剤、近年注目をあつめるがん免疫チェックポイント阻害剤、がんワクチン、がんウイルスなどが挙げられる。BRM製剤としては、クレスチン、レンチナン、OK-432などが挙げられる。サイトカイン系製剤としては、例えば、IL-8、IL-2などのインターロイキン;IFN-α、IFN-β、IFN-γなどのインターフェロン;CCL3、CCL4、CCL5、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16/CXCR6、CX3CL1/CX3CR1などのケモカインが挙げられる。
【0081】
がん免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞や免疫細胞の表面に存在しており、がん細胞に対する免疫機能の低下に関与するタンパク質に対して当該タンパク質の機能を特異的に阻害する物質である。当該タンパク質としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、CD4、CD8、CD19、CD28、CD80/86、B7、Galectin-9、HVEM、CTLA-4、TIM-3、BTLA、MHC-II、LAG-3、TCRなどが挙げられる。がん免疫チェックポイント阻害剤としては、これらに対する特異的モノクロナール抗体薬が好ましい。具体的には、がん免疫チェックポイント阻害剤としては、Nivolumab(Opdivo)、Pembrolizumab(Keytruda)、Atezolizumab(Tecentriq)、Ipilimumab(Yervoy)、Tremelimumab、durvalmab、avelumabなどが挙げられる。
【0082】
本実施形態に係る評価方法のうち、細胞構造体に接触させて抗がん剤の存在下でがん細胞と免疫細胞とを共培養する態様においては、用いられる抗がん剤としては、免疫療法剤が好ましく、中でも、奏効性が免疫機能に大きく影響を受けると考えられていることから、がん免疫チェックポイント阻害剤がより好ましい。
【0083】
本実施形態に係る評価方法においては、1種類の抗がん剤を用いてもよく、2種類以上の抗がん剤を組み合わせて用いてもよい。また、抗がん剤を抗がん剤以外の薬剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、単独で投与された場合でも抗がん効果を奏する抗がん剤であっても、実際の臨床現場では他の薬剤と併用投与される場合には、本実施形態に係る評価方法は、当該抗がん剤と当該他の薬剤とを併用して行ってもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実験例1]
(細胞構造体によるがん細胞の増殖抑制効果)
繊維芽細胞と血管内皮細胞とからなり、血管網構造を備える細胞構造体を用いて、がん細胞の増殖抑制の効果を評価した。評価は、がん細胞を7日間培養した後に行った。
【0086】
<細胞構造体>
細胞構造体の形成において、以下の細胞を用いた。
NHDF:ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts、Lonza社製、製品番号:CC-2509)
HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell、Lonza社製、製品番号:CC-2517A)
【0087】
<がん細胞>
がん細胞として、以下のがん細胞を用いた。
HT29:ヒト結腸直腸腺がん細胞株(ATCC番号:CCL-247)
HCT116:ヒト結腸直腸腺がん細胞株(ATCC番号:CCL-247)
DLD-1:ヒト結腸直腸腺がん細胞株(ATCC番号:CCL-221)
A549:ヒト肺がん細胞株(ATCC番号:CCL-185)
NCI-H1975:ヒト肺がん細胞株(ATCC番号:CCL-5908)
MCF-7:ヒト乳がん細胞株(ATCC番号:HTB-22)
【0088】
<細胞培養容器、培養培地>
細胞培養容器、培養培地として、以下のものを用いた。
細胞培養容器:トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)
培養培地:10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)を含有するD-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)
【0089】
<細胞構造体の形成>
まず、2×106個のNHDFと3×104個のHUVECを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、室温、1000×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0090】
<がん細胞の播種>
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×104個のがん細胞を播種した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて7日間培養した。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0091】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、同数のがん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養したもの(2D培養物)も同様に培養した。
【0092】
<生細胞数解析>
培養後の細胞構造体とがん細胞をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
【0093】
各培養物の細胞数を表1に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を示し、「3D」の欄はがん細胞を本発明に係る細胞構造体に接触させて培養させたもの(3D培養物)を示す。
【0094】
【0095】
この結果、2D培養物と比較して、3D培養物においては、7日間培養後の時点で、用いた全てのがん細胞種で有意に細胞増殖が抑制されている事が示された。
【0096】
[実験例2]
(細胞構造体によるがん細胞の増殖抑制効果)
繊維芽細胞と血管内皮細胞とからなり、血管網構造を備える細胞構造体を用いて、がん細胞の増殖抑制の効果を評価した。評価は、がん細胞を4日間培養した後、7日間培養した後に行った。
【0097】
<細胞構造体>
細胞構造体の形成において、以下の細胞を用いた。
NHDF:ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts、Lonza社製、製品番号:CC-2509)
HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell、Lonza社製、製品番号:CC-2517A)
【0098】
<がん細胞>
がん細胞として、以下のがん細胞を用いた。
HT29:ヒト結腸直腸腺がん細胞株(ATCC番号:CCL-247)
NCI-H1975:ヒト肺がん細胞株(ATCC番号:CCL-5908)
MCF-7:ヒト乳がん細胞株(ATCC番号:HTB-22)
【0099】
<細胞培養容器、培養培地>
細胞培養容器、培養培地として、以下のものを用いた。
細胞培養容器:トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)
培養培地:10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)を含有するD-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)
【0100】
<細胞構造体の形成>
まず、2×106個のNHDFと3×104個のHUVECを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、室温、1000×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0101】
<がん細胞の播種>
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×104個のがん細胞を播種した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて4日間、又は7日間培養した。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0102】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、同数のがん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養したもの(2D培養物)も同様に培養した。
【0103】
<生細胞数解析>
培養後の細胞構造体とがん細胞とをトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
【0104】
各培養物の細胞数を表2に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を示し、「3D」の欄はがん細胞を本発明に係る細胞構造体に接触させて培養させたもの(3D培養物)を示す。
【0105】
【0106】
この結果、2D培養物と比較して、3D培養物においては、4日間培養後及び7日間培養後の時点で、用いた全てのがん細胞種で有意に細胞増殖が抑制されている事が示された。
【0107】
[実験例3]
(細胞構造体の細胞層数とがん細胞増殖抑制効果の関係)
繊維芽細胞と血管内皮細胞とからなり、血管網構造を備える細胞構造体を用いて、がん細胞の増殖抑制の効果を評価した。細胞構造体として、細胞層が1.25層、2.5層、5層、10層、20層相当のものを形成し、用いた。
【0108】
<細胞構造体>
細胞構造体の形成において、以下の細胞を用いた。
NHDF:ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts、Lonza社製、製品番号:CC-2509)
HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell、Lonza社製、製品番号:CC-2517A)
【0109】
<がん細胞>
がん細胞として、以下のがん細胞を用いた。
NCI-H1975:ヒト肺がん細胞株(ATCC番号:CCL-5908)
【0110】
<細胞培養容器、培養培地>
細胞培養容器、培養培地として、以下のものを用いた。
細胞培養容器:トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)
培養培地:10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)を含有するD-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)
【0111】
<細胞構造体の形成>
まず、NHDFとHUVECを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、室温、1000×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。播種する細胞数を調整して、細胞層数が1.25層、2.5層、5層、10層、20層相当の細胞構造体を形成した。1cm2の1層の細胞層に相当する細胞数を3×105個とみなして、細胞層数を計算した。また、本実験例の方法により作製された細胞構造体は、10層あたりの厚さが40μm程度となる。すなわち、1.25層、10層、20層相当の細胞構造体の厚さはそれぞれ、5μm程度、40μm程度、80μm程度となる。
【0112】
<がん細胞の播種>
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×104個のがん細胞を播種した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて7日間培養した。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0113】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、同数のがん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養したもの(2D培養物)も同様に培養した。
【0114】
<生細胞数解析>
培養後の細胞構造体及びがん細胞をanti―Cytokeratin7抗体(Invitrogen:OV-TL 12/30)及び二次抗体(Invitrogen:A-21235)により処理して、がん細胞のみを蛍光染色して計測した。細胞の計測は、共焦点顕微鏡システム(PerkinElmer:Operetta CLS)の蛍光モードを使用して行い、容器上の蛍光発光領域をがん細胞が存在する領域としてがん細胞面積を算出した。
また、2D培養物に対しても同様に染色、計測した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0115】
各培養物の細胞数を表3に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を示し、「3D」の欄はがん細胞を本発明に係る細胞構造体に接触させて培養させたもの(3D培養物)の結果を示す。
【0116】
【0117】
この結果、2D培養物と比較して、3D培養物においては、細胞層数が10層以上の細胞構造体を用いた場合に、がん細胞の細胞増殖が抑制されている事が示された。
【0118】
[実験例4]
(血管網構造を備えていない細胞構造体によるがん細胞の増殖抑制効果)
繊維芽細胞と血管内皮細胞とからなり血管網構造を備える細胞構造体、及び、繊維芽細胞からなり血管網構造を備えていない細胞構造体用いて、がん細胞の増殖抑制の効果を評価した。評価は、がん細胞を7日間培養した後に行った。
【0119】
<細胞構造体>
細胞構造体の形成において、以下の細胞を用いた。
NHDF:ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts、Lonza社製、製品番号:CC-2509)
HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell、Lonza社製、製品番号:CC-2517A)
【0120】
<がん細胞>
がん細胞として、以下のがん細胞を用いた。
HCT116:ヒト結腸直腸腺がん細胞株(ATCC番号:CCL-247)
【0121】
<細胞培養容器、培養培地>
細胞培養容器、培養培地として、以下のものを用いた。
細胞培養容器:トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)
培養培地:10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)を含有するD-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)
【0122】
<細胞構造体の形成>
まず、2×106個のNHDFと3×104個のHUVEC、又は、NHDFのみを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、室温、1000×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて24時間培養した。
【0123】
<がん細胞の播種>
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×104個のがん細胞を播種した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)にて7日間培養した。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0124】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、同数のがん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養したもの(2D培養物)も同様に培養した。
【0125】
<生細胞数解析>
培養後の細胞構造体とがん細胞をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
また、2D培養物についても同様にトリパンブルー染色した後、染色されていない細胞を生きているがん細胞として計数した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0126】
各培養物の細胞数を表4に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を示し、「3D」の欄はがん細胞を本発明に係る細胞構造体に接触させて培養させたもの(3D培養物)を示す。「3D血管網含む」は繊維芽細胞と血管内皮細胞とからなり血管網構造を備える細胞構造体を用いた場合の結果を示し、「3D血管網含まない」は繊維芽細胞からなり血管網構造を備えていない細胞構造体を用いた場合の結果を示す。
【0127】
【0128】
この結果、2D培養物と比較して、3D培養物が血管網を備えるか備えないかに関わらず、有意にがん細胞の増殖が抑制されている事が示された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、株化された細胞や不死化された細胞を、ex vivoで培養する際に、従来よりも生体内と類似する状態で培養する技術を提供することできる。