IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特許7556229光応答性材料、接着剤、光スイッチング材料、トナーおよび画像形成方法
<>
  • 特許-光応答性材料、接着剤、光スイッチング材料、トナーおよび画像形成方法 図1
  • 特許-光応答性材料、接着剤、光スイッチング材料、トナーおよび画像形成方法 図2
  • 特許-光応答性材料、接着剤、光スイッチング材料、トナーおよび画像形成方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】光応答性材料、接着剤、光スイッチング材料、トナーおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20240918BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240918BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240918BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240918BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240918BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240918BHJP
   C08K 5/23 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 20/38 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 20/36 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 257/00 20060101ALI20240918BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240918BHJP
   C07C 245/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08L101/12
G03G9/097 365
G03G9/087 331
G03G9/087 325
C09K3/00 U
C09J201/00
C08K5/29
C08K5/23
C08F20/38
C08F20/36
C08F257/00
C08F2/44 C
C07C245/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020135373
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2021175783
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2020077690
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】草野 優咲子
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】堀口 治男
(72)【発明者】
【氏名】芝田 豊子
(72)【発明者】
【氏名】早田 裕文
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017960(JP,A)
【文献】特開2018-124387(JP,A)
【文献】国際公開第2013/168712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
G03G 9/00- 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性化構造体を含む構造単位を含む異性化重合体と、異性化低分子化合物とを含み、
前記異性化重合体は、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体であり、前記異性化低分子化合物は、アゾメチン化合物であり、
前記アゾメチン誘導体は、炭素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含み、
前記アゾメチン化合物は、窒素-炭素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を含み、
固体状態から光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、組成物。
【請求項2】
前記異性化重合体と前記異性化低分子化合物との混合比が、質量比で、異性化重合体:異性化低分子化合物=99:1~10:90である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記光の波長は、280nm以上480nm以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を含む、トナー。
【請求項5】
さらに結着樹脂を含む、請求項に記載のトナー。
【請求項6】
前記結着樹脂は、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載のトナー。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のトナーからなるトナー像を記録媒体上に形成する工程と、前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程とを含む、画像形成方法。
【請求項8】
前記光の波長は、280nm以上480nm以下である、請求項に記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記トナー像を加圧する工程をさらに含む、請求項7または8に記載の画像形成方法。
【請求項10】
前記加圧する工程では、前記トナー像をさらに加熱する、請求項に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程において、光照射とともに前記トナー像を加熱する、請求項7~10のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を含む、光応答性接着剤。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を含む、光スイッチング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、光応答性材料としての組成物、これを用いた接着剤、光スイッチング材料およびトナー、ならびに上記トナーを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射により流動性が変化する材料として光応答性液晶材料が知られている。例えば、特許文献1、2では、アゾベンゼン誘導体を用いた高分子液晶材料が提案されている。これらは光に応答してアゾベンゼン部位のシス-トランス異性化反応を起こす。これによる分子構造変化が固体状態から流動性状態への相転移を誘起すると考えられている。また、波長を変えて再光照射するか、加熱するか、或いは、暗所に室温で放置することで、逆反応が起きて再び固化するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-256155号公報
【文献】特開2011-256291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているアゾベンゼン誘導体の規則性の高い固体状態から流動状態への相変化には、規則構造を崩し得るのに十分量の光エネルギーが必要である。これらのアゾベンゼン誘導体は、光異性化による構造変化の伝播が非効率であるため、流動化させるためには光照射による大きなエネルギー量が必要であった。
【0005】
そこで本発明では、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性材料において、より効率的な流動化・非流動化を示す、すなわち、必要エネルギーを抑えた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、異性化構造体に由来する構造単位を含む重合体と、異性化低分子化合物とを混合した固体組成物を用いることで、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、異性化構造体を含む構造単位を含む異性化重合体と、異性化低分子化合物とを含み、固体状態から光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性材料において、より効率的な流動化・非流動化を示す、すなわち、必要エネルギーを抑えた材料が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。
図2】画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
図3】実施例の光応答接着試験で用いた組成物の光照射に伴う接着性の変化を測定する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、異性化構造体を含む構造単位を含む異性化重合体と、異性化低分子化合物とを含み、固体状態から光照射により流動化し、可逆的に非流動化する、組成物である。
【0011】
本発明によれば、光異性化により効率的な流動化・非流動化を示す組成物、すなわち、必要エネルギーを抑えた組成物が得られうる。
【0012】
なぜ、本発明の組成物により上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら制限されるものではない。
【0013】
異性化構造体を含む構造単位を含む重合体は、異性化構造体が光吸収して、光励起・失活過程で放出される熱エネルギーが、結合する繰り返しユニット(構造単位)に伝わること(光熱変換)により可逆的な流動化・非流動化現象を誘起することができる。特に、当該重合体における異性化構造体が、シス-トランス光異性化を示す分子のトランス体に由来するものであると、前述の光熱変換に加えて、光照射によりトランス-シス光異性化がさらに生じやすく、Tgが低いシス体が生成されやすい。光異性化することにより規則構造が崩れ相転移変化することで、より効率的な流動化・非流動化現象を誘起できると考えられる。
【0014】
以上のような異性化構造体を含む重合体に異性化低分子化合物を混合すると、前記重合体がポリマー側鎖として異性化構造体を含む場合、異性化低分子化合物は側鎖としての異性構造体の隙間空間に入り込み、π-πスタックを形成すると考えられる。光を照射すると、重合体の異性化構造体の異性化に伴う構造変化により、π-πスタックを形成していた異性化低分子化合物が規則構造から外れ、これによって生じた自由空間によって、異性化構造体の異性化がより生じやすくなり、より効率的な規則構造の崩れ、すなわち流動化現象を誘起できると考えられる。
【0015】
さらに、異性化低分子化合物がシス-トランス光異性化を示す化合物においてトランス体であると、光照射により光異性化が生じやすく、シス体へと変化することでπ-πスタックによる規則構造から外れやすくなるものと考えられる。これによりポリマー側鎖に自由空間が生じ、ポリマー側鎖の異性化構造体の構造変化がより誘起されやすく、より効率的な流動化現象を誘起できると考えられる。また、異性化重合体と異性化低分子化合物とを混合することにより、異性化低分子化合物のみの場合に比べて靭性に優れた材料を得ることができる。
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0017】
[光照射により流動化し、可逆的に非流動化する組成物]
本明細書中、光照射により流動化し、可逆的に非流動化するとは、光照射によって非流動状態から流動状態へと変化し、さらに非流動状態へと戻ることを指す。すなわち、本発明の組成物は、常温、常圧下、光照射されていないときに非流動性の固体状態であり、光照射により軟化して流動状態に変化する。光照射を停止し、室温の暗所もしくは可視光照射下で放置、または加熱することで非流動性の固体状態に戻る。本明細書中、流動状態とは、少ない外力で変形する状態をいう。
【0018】
本発明の組成物に用いられうる異性化重合体および異性化低分子化合物の具体的な形態は後述するが、本発明の組成物に用いられる異性化重合体は、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位またはアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体を含み、異性化低分子化合物は、アゾベンゼン化合物またはアゾメチン化合物を含むことが好ましい。
【0019】
アゾベンゼン誘導体およびアゾメチン誘導体は、光照射によってシス-トランス異性化反応を生じ、この分子構造変化により固体状態から流動状態への相転移が誘起される。また、光照射停止後、室温の暗所もしくは可視光照射下で放置、または加熱することで可逆的に非流動化(再固化)する。そのため、アゾベンゼン誘導体(アゾベンゼン化合物)またはアゾメチン誘導体(アゾメチン化合物)と、これらに由来する構造単位を含む重合体とを用いることで、光照射による流動化および可逆的な流動化をより効果的に生じさせることができる。
【0020】
本発明の組成物は、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、アゾベンゼン化合物とを組み合わせて用いてもよく、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、アゾメチン化合物とを組み合わせて用いてもよい。この際、重合体の構造単位に含まれるアゾベンゼン誘導体と、アゾベンゼン化合物とは、互いに同じ構造を有するものであっても異なる構造を有するものであってもよい。また、重合体の構造単位に含まれるアゾメチン誘導体と、アゾメチン化合物とは、互いに同じ構造を有するものであっても異なるものであってもよい。
【0021】
また、本発明の組成物は、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、アゾメチン化合物とを組み合わせて用いてもよく、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、アゾベンゼン化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
さらに、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を有する重合体とアゾメチン誘導体に由来する構造単位を有する重合体を併用してもよく、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位とアゾメチン誘導体に由来する構造単位とを有する重合体を用いてもよい。
【0023】
なお、本発明の組成物に含まれる異性化重合体の総質量に対して、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位またはアゾメチン誘導体に由来する構造単位を有する重合体の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の組成物に含まれる異性化低分子化合物の総質量に対するアゾベンゼン化合物およびアゾメチン化合物の合計量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
[異性化低分子化合物]
本発明の組成物に用いられる異性化低分子化合物は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する化合物であって、分子量が1000未満である化合物である。
【0025】
異性化低分子化合物は、好ましくは分子量が100以上1000未満であり、より好ましくは100以上800以下である。なお、異性化低分子化合物は、重合体を含まないものとする。好ましい実施形態において、異性化低分子化合物は、繰り返し単位を含まずに構成されている。また、好ましい実施形態において、異性化低分子化合物は、重合性基を含むモノマーを重合して得られるものではない。
【0026】
異性化低分子化合物は、光異性化を示す化合物であることが好ましい。例えば、光照射によりシス-トランス異性化反応を示す化合物などが挙げられる。このような光照射によりシス-トランス異性化を示す化合物としては、アゾベンゼン誘導体(アゾベンゼン化合物)、アゾメチン誘導体(アゾメチン化合物)が好ましい。なお、本明細書中、アゾベンゼン誘導体(アゾベンゼン化合物)は、アゾベンゼンを含む。
【0027】
(アゾベンゼン誘導体)
本発明に用いられるアゾベンゼン誘導体(アゾベンゼン化合物)としては特に制限されないが、アゾベンゼン誘導体の好ましい実施形態は、光照射による軟化速度が高く、トナーに用いたときに画像の定着性に優れることから、下記化学式(1)で表されるアゾベンゼン誘導体である。
【0028】
【化1】
【0029】
上記化学式(1)中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される基であり、R~R10の少なくとも2つは、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される基であり、好ましくは、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~18のアルキル基またはアルコキシ基であり、かつ、R~R10の少なくとも1つは、炭素数1~18のアルキル基またはアルコキシ基である。
【0030】
上記化学式(1)中、RおよびRの少なくとも一方は、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基であることが好ましい。すなわち、本発明に用いられるアゾベンゼン誘導体の好ましい実施形態は、窒素-窒素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を有する、アゾベンゼン誘導体である。RおよびRの少なくとも一方が上記炭素数範囲内のアルキル基またはアルコキシ基であれば、トランス体では芳香環による分子間のパッキング(π-π相互作用)を発現しながら、トランス体からシス体に異性化した際には高い熱運動性を示すため、流動化現象を誘起しやすくなるものと考えられる。
【0031】
中でも、トナーに用いたときの画像の定着性のさらなる向上の観点から、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基であることが好ましい。このように、2個のベンゼン環のパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有することで、分子の熱運動性が増加し、上記のように系全体で連鎖的に等方的な融解が生じやすくなる。この際、RおよびRは、同一であっても異なってもよいが、合成の容易さから、同一であることが好ましい。また、RおよびRで用いられる炭素数1~18のアルキル基またはアルコキシ基は、それぞれ直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいが、光相転移が生じやすい棒状分子の構造を構成する観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0032】
中でも、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数6~12のアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましい。RおよびRが上記炭素数範囲内のアルキル基またはアルコキシ基であれば、高い熱運動性を有しながらも、分子間に働くアルキル-アルキル相互作用が比較的弱い。ゆえに、結晶が崩れやすく、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、光照射による軟化速度およびトナーに用いたときの画像の定着性がさらに向上する。
【0033】
上記化学式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、R10のうち少なくとも1つは、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される基(以下、単に置換基とも称する)であることが好ましい。かような構造を有することで、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、光照射による軟化速度および画像の定着性がさらに向上する。中でも、シス-トランス異性化に必要な自由体積の確保の観点から、R、R、R、R、R、R、R、R10のうち少なくとも1つは分岐を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基もしくはアルコキシ基またはハロゲン基であることがより好ましく、画像の定着性のさらなる向上の観点から、炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることがさらにより好ましい。
【0034】
上記化学式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、R10における置換基の数は、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6である。中でも、アゾベンゼン誘導体の融点を下げすぎず、トナーの耐熱保管性をさらに高める観点から、さらにより好ましくは1~4であり、特に好ましくは1~3である。
【0035】
、R、R、R、R、R、R、R10において置換基が存在する位置は、特に制限されないが、上記化学式(1)のR、R、RおよびRのいずれかに置換基が少なくとも存在することが好ましく、上記化学式(1)のR、R、RおよびRのいずれかにメチル基が少なくとも存在することがより好ましい。かような構造を有するアゾベンゼン誘導体は、光照射による軟化速度がより向上するため画像の定着性が向上し、また融点が適度に高くなることから、トナーの耐熱保管性も向上する。
【0036】
前記アゾベンゼン誘導体は、例えば、4,4’-ジヘキシルアゾベンゼン、4,4’-ジオクチルアゾベンゼン、4,4’-ジデシルアゾベンゼン、4,4’-ジドデシルアゾベンゼン、4,4’-ジヘキサデシルアゾベンゼン等の化学式(1)のRおよびRがそれぞれ炭素数1~18のアルキル基である4,4’-ジアルキルアゾベンゼン;または4,4’-ビス(ヘキシルオキシ)アゾベンゼン、4,4’-ビス(オクチルオキシ)アゾベンゼン、4,4’-ビス(ドデシルオキシ)アゾベンゼン、4,4’-ビス(ヘキサデシルオキシ)アゾベンゼン等の化学式(1)のRおよびRがそれぞれ炭素数1~18のアルコキシ基である4,4’-ビス(アルコキシ)アゾベンゼンにおいて、ベンゼン環に付加する水素原子がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される基で一置換、二置換または三置換されている化合物であることが好ましい。より具体的には、下記のアゾベンゼン誘導体(1)~(12)が挙げられる。
【0037】
【化2-1】
【0038】
【化2-2】
【0039】
当該アゾベンゼン誘導体の合成方法は、特に制限されず、従来公知の合成方法を適用することができる。
【0040】
例えば、下記反応式Aのように、4-アミノフェノールと亜硝酸ナトリウムとを冷却下で反応させてジアゾニウム塩を生成し、これとo-クレゾールとを反応させて中間体Aを合成したのち(第1段階)、中間体Aに対してn-ブロモヘキサンを作用させることにより、上記アゾベンゼン誘導体(1)を得ることができる。
【0041】
【化3】
【0042】
上記反応式Aにおいて、使用する原料(4-アミノフェノール、o-クレゾールおよび/またはn-ブロモヘキサン)を他の化合物に変更することで、所望のアゾベンゼン誘導体を得ることができる。また、上記の製造方法であれば、非対称な構造を有するアゾベンゼン誘導体を容易に得ることができる。
【0043】
例えば、下記反応式Bのように、o-クレゾールおよびn-ブロモヘキサンを2-ブロモフェノールおよびn-ブロモドデカンにそれぞれ変更することで、アゾベンゼン誘導体(4)を得ることができる。
【0044】
【化4】
【0045】
また、下記反応式Cのように、アゾベンゼン誘導体(4)とメタノールとをPd触媒および塩基存在下で反応させることでアゾベンゼン誘導体(5)を得ることができる。
【0046】
【化5】
【0047】
あるいは、例えば、下記反応式Dのように、p-ヘキシルアニリンに対して酸化剤である二酸化マンガンを反応させて、4,4’-ジヘキシルアゾベンゼンを合成したのち、N-ブロモスクシンイミドを反応させ、メチルボロン酸をPd触媒および塩基存在下で反応させることでアゾベンゼン誘導体(6)を得ることができる。
【0048】
【化6】
【0049】
上記反応式Dにおいて、使用する原料(p-ヘキシルアニリンおよび/またはメチルボロン酸)を他の化合物に変更することで、所望のアゾベンゼン誘導体を合成することができる。
【0050】
前記アゾベンゼン誘導体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0051】
(アゾメチン誘導体)
異性化低分子化合物として好適に用いられるアゾメチン誘導体(アゾメチン化合物)は、C=N結合の両端にそれぞれ芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を有する化合物であって、シス-トランス異性化の活性化エネルギーEaが60kJ/mol以上である化合物である。
【0052】
シス-トランス異性化の活性化エネルギーは、下記一般式(1)で表される光応答性化合物において、下記一般式(2)で表される遷移状態の全エネルギーと、下記一般式(3)で表されるシス体の全エネルギーとの差である。
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
一般式(1)中、ZおよびZは、それぞれ独立して、NまたはCHであり、かつZ≠Zであり、AおよびBは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の芳香族複素環基である。
【0056】
シス-トランス異性化の活性化エネルギーEaが60kJ/mol以上であれば、シス体からトランス体への異性化反応の障壁が十分に高く、光照射によりシス体に異性化した後、トランス体に素早く戻ってしまうことを抑制できるため、光照射による流動化現象を誘起でき、さらに可逆的な非流動化を実現できる。
【0057】
上記活性化エネルギーEaは、より好ましくは63kJ/mol以上であり、さらに好ましくは64kJ/mol以上であり、さらにより好ましくは65kJ/mol以上である。また、上記活性化エネルギーEaは、トランス体への戻りやすさから、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは、95kJ/mol以下であり、さらにより好ましくは90kJ/mol以下である。
【0058】
ここで、アゾメチン誘導体のシス体の分子構造およびシス体の全エネルギー、ならびに遷移状態の分子構造および遷移状態の全エネルギーの算出には、米国Gaussian社製のGaussian 16 (Revision B.01, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, X. Li, M. Caricato, A. V. Marenich, J. Bloino, B. G. Janesko, R. Gomperts, B. Mennucci, H. P. Hratchian, J. V. Ortiz, A. F. Izmaylov, J. L. Sonnenberg, D. Williams-Young, F. Ding, F. Lipparini, F. Egidi, J. Goings, B. Peng, A. Petrone, T. Henderson, D. Ranasinghe, V. G. Zakrzewski, J. Gao, N. Rega, G. Zheng, W. Liang, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, K. Throssell, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. J. Bearpark, J. J. Heyd, E. N. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, T. A. Keith, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. P. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, J. M. Millam, M. Klene, C. Adamo, R. Cammi, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, O. Farkas, J. B. Foresman, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2016.)ソフトウェアを用いることができ、計算手法として密度汎関数法(B3LYP/6-31G(d))を用いることができる。シス体の分子構造としては、一般式(3)で表される異性体の最安定な分子構造、すなわち最も全エネルギーの低い分子構造を算出し、この全エネルギーをシス体の全エネルギーとする。遷移状態(TS)の分子構造としては、一般式(2)で表される遷移状態について、対応する分子構造の鞍点を算出し、このときに得られた全エネルギーを遷移状態の全エネルギーとする。なお、ソフトウェアや計算手法に特に限定はなく、いずれを用いても同様の値を得ることができる。このようにして得られた計算値から、式(1):Ea(kJ/mol)=(TSの全エネルギー(kJ/mol))-(シス体の全エネルギー(kJ/mol))により活性化エネルギーEaの値を求めることができる。
【0059】
上記一般式(1)のAおよびBの構造を適宜選択することで、式(1)で表される活性化エネルギーEaを60kJ/mol以上に制御することができる。
【0060】
具体的には、アゾメチン部位を有する化合物に電子供与性構造を導入することでアゾメチン部位の電子密度を上げ、活性化エネルギーEaを高くすることができる。例えば、AおよびBの少なくとも一方を電子供与性の高い芳香族複素環基とすることで活性化エネルギーEaを高くすることができる。また、AおよびBとしての芳香族炭化水素基または芳香族複素環基に電子供与性の高い置換基を導入することで活性化エネルギーEaを高くすることができる。
【0061】
ここで、芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数6~30のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基などが挙げられる。なかでも流動化、非流動化が効果的に生じることからフェニル基が好ましい。
【0062】
芳香族複素環基としては、特に制限されないが、炭素数2~30のものが好ましい。また、電子供与性の高いものが好ましく、例えば、チエニル基、ピロリル基、フラニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾチエニル基、ベンズイミダゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチエニル基などが挙げられるがこれらに制限されない。なかでも、活性化エネルギーが高くなり、流動化、非流動化が効果的に生じることから、チエニル基、ピロリル基、フラニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基が好ましい。
【0063】
上記の芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、それぞれ、置換基を有していてもよい。置換基としては特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、および炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0064】
上記のように、アゾメチン誘導体の光相転移はアゾベンゼン化合物と同様、シス-トランス異性化により結晶構造が崩れることで生じていると考えられる。一般的に分子間のπ-π相互作用が強いため、光相転移は結晶構造の極最表面でしか生じない。ここで、上記一般式(1)のAまたはBで表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が置換基を有すると、アゾメチン誘導体は、π-π相互作用が支配的な周期構造中に、これらの置換基の熱運動によって等方的に乱れた構造が共存する特異的な結晶構造を形成する。そのため、局所的にシス-トランス異性化反応が進行しアゾメチン部位のπ-π相互作用が低減すると、系全体で連鎖的に等方的な融解を生じる。そのため、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0065】
好ましくは、前記一般式(1)において、AおよびBは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のフェニル基または置換もしくは非置換の芳香族複素環基である。このような構成とすることで、流動化、非流動化がより効果的に生じうる。
【0066】
本発明の他の好ましい実施形態は、前記一般式(1)において、AおよびBの少なくとも一方が、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される少なくとも1つの置換基で置換されたフェニル基である、化合物である。好ましくは、AおよびBの一方が、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される少なくとも1つの置換基で置換されたフェニル基であり、他方が、置換もしくは非置換の芳香族複素環基である、化合物である。上記構成により、アゾメチン部位の電子密度を高めて活性化エネルギーを制御し、流動化および可逆的な非流動化現象を効果的に誘起することができる。また、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。ここで、芳香族複素環基やそれぞれの置換基の具体的な形態は上記と同様である。
【0067】
特には、前記一般式(1)において、AおよびBの少なくとも一方が、前記ZまたはZに対するパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基であることが好ましい。これにより、結晶が崩れやすく、光照射による流動化がより生じやすくなるものと考えられる。
【0068】
好ましい実施形態においては、上記一般式(1)において、AおよびBの一方が、前記ZまたはZに対するパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基であり、他方が置換もしくは非置換のチエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、フラニル基、イミダゾリル基、またはインドリル基である化合物である。これにより、より低い照射光強度で流動化を達成できる。なかでも、Bが置換もしくは非置換のチエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、フラニル基、イミダゾリル基、またはインドリル基であり、ZがNであり、ZがCHである化合物は上記効果がより顕著に得られうる。
【0069】
上記したように、異性化低分子化合物としてのアゾメチン誘導体は、光異性化の活性化エネルギーを所定の範囲とすることにより、流動化および可逆的な非流動化が効果的に達成できるものと考えられる。さらに、上記一般式(1)において、A、Z、Z、Bを適切に選択することにより分子間相互作用の大きさを制御し、光溶融性を制御することができ、本発明の効果がより顕著に得られるものと考えられる。
【0070】
本発明に用いられる異性化低分子化合物としてのアゾメチン誘導体としては、下記表1に示す、一般式(1)において、A、Z、Z、Bが適宜選択されてなる化合物1~5、7~10が挙げられる。
【0071】
【表1-1】
【0072】
【表1-2】
【0073】
【表1-3】
【0074】
【表1-4】
【0075】
【表1-5】
【0076】
アゾメチン誘導体の合成方法は、特に制限されず、従来公知の合成方法を適用することができる。例えば、一般式(1)において、ZがNであり、ZがCHであり、Aが4-ヘキシルオキシフェニル基であり、Bが5-メチル-2-チエニル基である化合物を例にとれば、下記スキーム1により合成できる。
【0077】
エタノール(EtOH)中、4-(ヘキシルオキシ)アニリンと5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒドとを加熱攪拌して反応させ、反応液をろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄し、メタノール/エタノールで再結晶すれば、目的物のアゾメチン化合物を得ることができる(下記スキーム1参照)。加熱攪拌の際の温度は、好ましくは0℃以上100℃以下の範囲内、より好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内、さらに好ましくは、40℃以上60℃以下の範囲内である。
【0078】
【化9】
【0079】
また、例えば、一般式(1)において、ZがNであり、ZがCHであり、Aが4-ヘキシルオキシフェニル基であり、BがN-メチル-2-ピロリル基である化合物を例にとれば、下記スキーム2により合成できる。また、例えば、これらの化合物のZとZを入れ替えた化合物についても、上記スキーム1及び下記スキーム2を参照して適宜合成できる。
【0080】
エタノール(EtOH)中、4-(ヘキシルオキシ)アニリンとN-メチル-ピロール-2-カルボキシアルデヒドとを加熱攪拌して反応させ、反応液をろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄し、メタノール/エタノールで再結晶すれば、目的物であるアゾメチン化合物を得ることができる(下記スキーム2参照)。加熱攪拌の際の温度は、好ましくは0℃以上100℃以下の範囲内、より好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内、さらに好ましくは、40℃以上60℃以下の範囲内である。
【0081】
【化10】
【0082】
上記以外のアゾメチン誘導体についても、上記スキーム1、2を参照し、適宜原料を変更することで同様の方法で合成することができる。
【0083】
上記アゾメチン誘導体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0084】
[異性化重合体]
本発明の組成物に用いられる異性化重合体は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する重合体であって、異性化構造体を含む構造単位を有するものであれば特に限定されない。好ましい実施形態において、異性化重合体は、異性化構造体を含む構造単位を繰り返し単位として有する。好ましい実施形態において、異性化重合体は、数平均分子量が1000以上である。
【0085】
異性化構造体は、光異性化を示す化合物に由来する分子構造であることが好ましい。例えば、光照射によりシス-トランス異性化反応を示す化合物に由来する分子構造などが挙げられる。このような光照射によりシス-トランス異性化を示す化合物としては、アゾベンゼン誘導体およびアゾメチン誘導体が挙げられ、上記異性化構造体として異性化重合体に導入されうる。すなわち、本発明の組成物における異性化重合体としては、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位、またはアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体が用いられうる。
【0086】
(アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位またはアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体)
アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位またはアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体は、重合性基を有する基として、下記式(i)~(iii)のいずれかで表される基を有することが好ましい。以下の重合性基を有する基を含むとリビングラジカル重合法によるブロック共重合体の合成に好適であるため好ましい。なかでも、軟化溶融のしやすさの観点から、(ii)または(iii)の重合性基を有する基を含むことが好ましく、(iii)の重合性基を有する基を含むことがさらに好ましい。
【0087】
【化11】
【0088】
式(i)~(iii)中、rは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基である。rは、それぞれ独立して炭素数1~18のアルキレン基である。好ましくは、rは炭素原子数3~10のアルキレン基である。上記アルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよく、好ましくは直鎖状である。上記アルキレン基の一部は、置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基などが挙げられる。
【0089】
アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位としては、窒素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を有するものが好ましい。窒素-窒素二重結合に対してパラ位に前記置換基を導入することで結晶が崩れやすく、光異性化が生じやすくなり、より低エネルギーの光照射で溶融または軟化させることができる。より好ましくは、上述の異性化低分子化合物としての化学式(1)の化合物のRが上記式(i)~(iii)のいずれかで表される重合性基を有する基で置換された構造が挙げられる。式(1)において、R、R、R~R10の好ましい形態は異性化低分子化合物としての式(1)の化合物と同様である。
【0090】
この際、異性化重合体として窒素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含むアゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を含む重合体を用い、異性化低分子化合物として、窒素-窒素二重結合または炭素-窒素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体またはアゾメチン誘導体を用いることが好ましい。このようにすることで、結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなる効果がより顕著に得られうる。そのため、光照射による流動化をより効率的に行うことができる。
【0091】
本発明に用いられる重合体において、アゾメチン誘導体に由来する構造単位は、下記一般式(1a)で表される重合体において、Aが、一般式(2a)で表され、Aに結合した酸素原子の代わりに水素原子を結合させた化合物の下記式(1a)で表される活性化エネルギーEaが60kJ/mol以上である、構造を有することが好ましい。
【0092】
【化12】
【0093】
一般式(1a)中、rは水素原子またはメチル基であり、
Aは、下記一般式(2a)で表されるアゾメチン構造を有する基であり;
【0094】
【化13】
【0095】
一般式(2a)中、ZおよびZは、それぞれ独立して、NまたはCHであり、かつZ≠Zであり、
は、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であり、
は、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基であり、
は、炭素数1~18のアルキレン基である。
式(1a):Ea(kJ/mol)=(TSの全エネルギー(kJ/mol))-(シス体の全エネルギー(kJ/mol))
上記式(1a)中、TSは、一般式(3a)で表される遷移状態を指し、シス体は一般式(4a)で表される異性体を指す。
【0096】
【化14】
【0097】
上記一般式(2a)で表される構造に水素原子が結合した化合物のシス体からトランス体への異性化反応におけるエネルギー障壁(活性化エネルギーEa)が60kJ/mol以上であると、シス体からトランス体への異性化反応の反応速度が低下し、光照射時のシス体量が増加し、光異性化反応に伴った流動化をより効果的に誘起することができる。
【0098】
また、アゾメチン基部分で分子間のパッキング(π-π相互作用)を発現しながら、トランス体からシス体に異性化した際には高い熱運動性を示すため、材料としての強度を高めながら、流動化現象を誘起しやすくなるものと考えられる。
【0099】
好ましくは、上記活性化エネルギーEaは、63kJ/mol以上であり、より好ましくは65kJ/mol以上であり、さらに好ましくは67kJ/mol以上である。また、上記活性化エネルギーEaは、トランス体への戻りやすさから、100kJ/mol以下が好ましく、より好ましくは、95kJ/mol以下であり、さらに好ましくは90kJ/mol以下である。このようにすることで、上記効果がより容易に得られうる。
【0100】
式(1a)の活性化エネルギーEaを算出するにあたり、上記遷移状態の構造は一般式(3a)で、シス体の構造は一般式(4a)でそれぞれ表すことができるが、一般式(3a)および(4a)は、Z=Z結合に対するBおよびBの配置(位置)を示すものであって、H、r-H、O-r-Hの部分の位置はBの構造を含むアゾメチン構造を有する基Aの構造に依存するものである。
【0101】
ここで、上記化合物のシス体の分子構造と全エネルギーおよび遷移状態の分子構造と全エネルギーの算出には、米国Gaussian社製のGaussian 16ソフトウェアを用いることができ、計算手法として密度汎関数法(B3LYP/6-31G(d))を用いることができる。シス体の分子構造としては、一般式(4a)で表される異性体の最安定な分子構造、すなわち最も全エネルギーの低い分子構造を算出し、この全エネルギーをシス体の全エネルギーとする。遷移状態の分子構造としては、一般式(3a)で表される遷移状態について、対応する分子構造の鞍点を算出し、このとき得られた全エネルギーを遷移状態の全エネルギーとする。なお、ソフトウェアや計算手法に特に限定はなく、いずれを用いても同様の値を得ることができる。このようにして得られた計算値から、上記式(1a)に従って活性化エネルギーEaの値を求めることができる。
【0102】
上記一般式(1a)のZ、Z、BおよびBの構造を適宜選択することで、上記式(1a)で表される活性化エネルギーEaを60kJ/mol以上に制御することができる。
【0103】
具体的には、アゾメチン構造を有する基Aに電子供与性構造を導入することでアゾメチン部位の部分の電子密度を上げ、活性化エネルギーEaを高くすることができる。例えば、BおよびBの少なくとも一方を電子供与性の高い芳香族複素環基とすることで活性化エネルギーEaを高くすることができる。また、BおよびBとしての芳香族炭化水素基または芳香族複素環基に電子供与性の高い置換基を導入することで活性化エネルギーEaを高くすることができる。
【0104】
ここで、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基の好ましい形態、ならびに芳香族炭化水素基および芳香族複素環基に導入されうる置換基の例としては、上記の異性化低分子化合物としてのアゾメチン誘導体と同様である。
【0105】
上記一般式(1a)に示される構造単位においては、1つの上記アゾメチン部分を有する基に対して重合性基を1つ有する。これにより、低い光照射エネルギー量であっても、溶融しやすい重合体が得られやすい。
【0106】
一般式(1a)の構造単位を構成する単量体の重合性基を有する基は、上記の(i)~(iii)のいずれかで表される基を有することが好ましい。これらの重合性基を有する基を有する重合体は、一般式(1a)におけるAが、それぞれ、一般式(2a-a)、(2a-b)、(2a-c)で表される重合体に対応する。
【0107】
上記一般式(1a)で表される重合体は、特に制限されるものではなく、任意の方法で調製することができるが、例えば、下記式(i-2)、(ii-2)、または(iii-2)で表される単量体を重合することで、上記一般式(1a)におけるAが、それぞれ、上記一般式(2a-a)、(2a-b)、または(2a-c)で表される重合体を得ることができる。下記式(i-2)、(ii-2)、および(iii-2)において、Z、Z、B、Bは上記一般式(1a)と同様であり、rおよびrは、上記一般式(1a)ならびに上記式(i)、(ii)、および(iii)と同様である。すなわち、本発明の一実施形態において、上記重合体は、下記式(i-2)、(ii-2)、または(iii-2)で表される重合性基を有するアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む。
【0108】
【化14-2】
【0109】
好ましい実施形態において、前記一般式(1a)において、Bは、Zに対してパラ位で酸素原子((2a-a)または(2a-c)の場合)またはr((2a-b)の場合)に結合するフェニレン基である。すなわち、アゾメチン誘導体に由来する構造単位の好ましい実施形態は、炭素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含む。これにより、結晶が崩れやすく、光照射による流動化がより生じやすくなるものと考えられる。
【0110】
この際、異性化重合体として炭素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含むアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体を用い、異性化低分子化合物として、窒素-窒素二重結合または炭素-窒素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体またはアゾメチン誘導体を用いることが好ましい。このようにすることで、結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなる効果がより顕著に得られうる。そのため、光照射による流動化をより効率的に行うことができる。
【0111】
本発明の他の好ましい実施形態は、前記一般式(1a)において、Bが、Zに対してパラ位で酸素原子((2a-a)または(2a-c)の場合)またはr((2a-b)の場合)に結合するフェニレン基であり、Bが、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基のいずれかで置換された芳香族複素環基である、重合体である。
【0112】
上記構成により、アゾメチン部位の電子密度を高めて光照射による流動化および可逆的な非流動化の現象を効果的に誘起することができる。また、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0113】
ここで、Bがフェニレン基、Bが芳香族複素環基である当該実施形態においては、ZがNであり、ZがCHであることが好ましい。また、当該実施形態においては、Bの芳香族複素環基としては、置換もしくは非置換のチエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、フラニル基、イミダゾリル基またはインドリル基であることが好ましく、置換もしくは非置換のチエニル基、フラニル基、ピラゾリル基またはピロリル基であることが特に好ましい。
【0114】
なお、重合体において、一般式(1a)で表される構造単位は、1種類であってもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0115】
一般式(1a)で表される構造単位の具体例としては、下記表2に表される構造単位1~4、6、7、18が挙げられる。
【0116】
【表2-1】
【0117】
【表2-2】
【0118】
【表2-3】
【0119】
【表2-4】
【0120】
【表2-5】
【0121】
【表2-6】
【0122】
<重合性基を有するアゾベンゼン誘導体または重合性基を有するアゾメチン誘導体の調製方法>
重合性基を有するアゾベンゼン誘導体または重合性基を有するアゾメチン誘導体の調製方法は特に制限されない。例えば、はじめに所望のアゾベンゼン誘導体またはアゾメチン誘導体を準備し、得られたアゾベンゼン誘導体またはアゾメチン誘導体に重合性基を有する基を導入することで調製することができる。以下、重合性基を有するアゾメチン誘導体の調製方法の一例を説明する。なお、重合性基を有するアゾベンゼン誘導体についても、下記のスキームを参照して適宜調製することができる。
【0123】
例えば、チオフェン環を含むアゾメチン誘導体を調製する場合、第1段階として、アニリン誘導体と、チオフェン環を有する化合物としてチオフェンカルボキシアルデヒド誘導体とを反応させる。この際、原料であるアニリン誘導体またはチオフェンカルボキシアルデヒド誘導体のいずれかに置換基としてOH基を有する場合、上記OH基の位置に重合性基を容易に導入できる。
【0124】
例えば、上記一般式(1a)のZがNであり、ZがCHであり、XがSであり、Bがフェニレン基であり、当該フェニレン基においてZに対してパラ位に重合性基を有する基が導入され、Bが2-メチルチエニル基であり、5位でZに結合するアゾメチン誘導体の場合、下記反応式により中間体Aを得ることができる。
【0125】
具体的には、エタノール(EtOH)やメタノール(MeOH)などの溶媒中、4-ヒドロキシアニリンと5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒドを処理し(加熱還流して反応させ)、反応液をろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄し、メタノール/エタノールで再結晶)すれば、目的物を得ることができる。
【0126】
【化15】
【0127】
その後、第2段階として、上記中間体Aに対して重合性基を導入する。重合性基を導入する方法も特に制限されない。例えば、上記中間体Aに対してリンカー部-C12-を導入する場合は、ハロゲン化アルコール化合物として、例えばCl-C12-OHを作用させて下記の中間体Bを得る。
【0128】
反応条件としては特に制限されないが、例えばジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中、炭酸カリウムおよびヨウ化カリウムの存在下、好ましくは0℃以上100℃以下の範囲内、より好ましくは0℃以上60℃以下の範囲内、さらに好ましくは、0℃以上40℃以下の範囲内で反応させることが好ましい。
【0129】
【化16】
【0130】
その後、第3段階として、中間体Bに、重合性基を有する基を構成するための化合物、例えば、アクリル酸塩化物またはメタクリル酸塩化物を反応させる。反応条件は特に限定されない。例えば公知の有機溶媒中で、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの三級アミン類の存在下で反応を行うことが好ましい。好ましくは、上記中間体B、三級アミン類、および溶媒を含む混合液を0~10℃に保ちながら、この混合液にアクリル酸塩化物またはメタクリル酸塩化物などの重合性基を有する基を構成するための化合物を滴下して混合する。その後、混合液を例えば室温で5~10時間程度反応させて、重合性基を有するアゾメチン誘導体を得ることができる。
【0131】
【化17】
【0132】
なお、上記の第1段階において、使用する原料を他の化合物に変更することで、所望の置換基を有するアゾメチン誘導体を得ることができる。例えば、ベンズアルデヒド誘導体とアミノチオフェン誘導体とを反応させることで、一般式(1a)のZがCHであり、ZがNであり、Bがフェニレン基であり、Bがチエニル基であるアゾメチン誘導体を得ることができる。また、原料としてチオフェン環を有する化合物(チオフェンカルボキシアルデヒド誘導体)に代えて、他の芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物(カルボキシアルデヒド誘導体)を用いることで、Bの構造が異なるアゾメチン誘導体を得ることができる。同様に、原料であるアニリン誘導体を他のアミノ基を有する芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物に変更することで、Bの構造が異なるアゾメチン誘導体を得ることができる。
【0133】
また、第2段階、第3段階で添加する化合物を変化させることで異なる構造の重合性基を有する基を導入することができる。当業者であれば、上記変更を適宜行い、適当な反応条件を選択することで、所望の重合性基を有するアゾメチン誘導体を合成することができる。
【0134】
また、上記の第1段階において、使用する原料を適当に選択することで第2段階を行わずに中間体Aに重合性基を有する基を導入することもできる。
【0135】
<異性化構造体を含む構造単位以外の構造単位>
本発明に用いられる重合体は、異性化構造体を含む構造単位以外の構造単位(他の構造単位)を含んでもよい。他の構造単位を含む共重合体である場合、共重合体の繰り返し単位の配列形態も特に制限されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0136】
上記他の構造単位としては、異性化構造体を含まないものであれば特に制限されないが、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を構成する構造単位であることがより好ましい。
【0137】
上記他の構造単位としては、共重合体の合成が容易であることから、ビニル系重合性基を有するものであることが好ましい。具体的には、例えば、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、オレフィン誘導体、ビニルエステル誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体等が用いられ、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、またはオレフィン誘導体に由来する構造単位であることが好ましい。
【0138】
スチレン誘導体としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレンなどが挙げられる。
【0139】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0140】
オレフィン誘導体としては、エチレン、プロピレン、n-ブチレン、イソブチレン、n-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。オレフィン誘導体は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素鎖数も特に限定されない。
【0141】
ビニルエステル誘導体としては、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエーテル誘導体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられる。ビニルケトン誘導体としては、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどが挙げられる。
【0142】
重合体における上記他の構造単位の含有量は特に制限されず、適宜選択されうるが、重合体を構成する全構造単位の合計量100質量%に対して、70質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0143】
重合体の数平均分子量Mnは、特に制限されないが、好ましくは1000以上であり、より好ましくは3500以上であり、さらに好ましくは3500~100000であり、さらにより好ましくは3500~70000であり、さらにより好ましくは3500~50000であり、特に好ましくは5000~50000である。重合体の数平均分子量が3500以上であれば、靱性に優れ、トナーとして用いた場合に定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、数平均分子量が100000以下であれば異性化および軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。
【0144】
重合体の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0145】
<重合体の調製方法>
重合体の合成方法は特に制限されず、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合など、公知の重合開始剤を使用して、上記の重合性基を有するアゾメチン誘導体やアゾベンゼン誘導体などの単量体を重合する方法が用いられうる。必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0146】
重合開始剤としては、例えば、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤が用いられる。
【0147】
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルなどが挙げられる。
【0148】
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
【0149】
連鎖移動剤としては、例えば、ジチオ安息香酸ベンジル、1-フェニルエチルジチオ安息香酸塩、2-フェニルプロプ-2-イルジチオ安息香酸塩、1-アセトキシルエチルジチオ安息香酸塩、ヘキサキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,2,4,5-テトラキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス-(2-(チオベンゾイルチオ)プロプ-2-イル)ベンゼン、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオ安息香酸塩、ジチオ酢酸ベンジル;エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾアート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾアート、t-ブチルジチオベンゾアート、2,4,4-トリメチルペント-2-イルジチオベンゾアート、2-(4-クロロフェニル)プロプ-2-イルジチオベンゾアート、3-および4-ビニルベンジルジチオベンゾアート、S-ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、t-ブチルトリチオペルベンゾアート、2-フェニルプロプ-2-イル4-クロロジチオベンゾアート、2-フェニルプロプ-2-イル1-ジチオナフタラート、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾアート、ジベンジルテトラチオテレフタラート、ジベンジルトリチオカーボネート、カルボキシメチルジチオベンゾアートなどが挙げられる。
【0150】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、例えば2~60時間であることが好ましい。
【0151】
なお、異性化構造体を含む構造単位以外の構造単位(他の構造単位)を含む共重合体についても、その調製方法は特に制限されない。
【0152】
例えば、ランダム共重合体を調製する場合は、原料となる単量体として、異性化構造体を含む構造単位を構成するための単量体に加えて、上記他の構造単位を構成するための単量体を、連鎖移動剤、重合開始剤などと混合し、重合反応を行うことで所望の共重合体を得ることができる。他の構造単位を構成するための単量体の具体的な形態は上述した通りである。
【0153】
本発明の組成物に用いられる重合体の好ましい一実施形態は、下記一般式(5)で表される重合体(ブロック共重合体)である。
【0154】
【化18】
【0155】
上記一般式(5)中、αは異性化構造体を含む構造単位を含む重合体ブロックであり、βは異性化構造体を含む構造単位を含まない重合体ブロックである。
【0156】
異性化構造体の光励起・失活過程で放出される熱エネルギーは、高分子化することで結合する繰り返しユニット(構造単位)に伝わり、重合体において溶融または軟化が進行しうる。また、ブロック共重合体を形成することで、異性化構造体の部分が重合体内でドメインを形成しやすくなり、軟化・溶融を効率的に誘起すると考えられる。そのため、本発明の効果がより一層顕著に得られうる。
【0157】
上記のブロック共重合体構造のうち、軟化溶融のしやすさとトナーとして用いたときの画像強度の観点から、α-β-α(2α-βとも表す)またはβ-α-β(2β-αとも表す)のブロック共重合体構造であることが好ましく、α-β-αのブロック共重合体構造であることがより好ましい。
【0158】
重合体ブロックαを構成する、異性化構造体を含む構造単位の具体的な形態は上記の通りである。
【0159】
重合体ブロックβを構成する構造単位は、異性化構造体を含まないものである。具体的には、他の構造単位として説明した形態が好ましく用いられうる。特には、ATRP法、ARGET-ATRP法またはRAFT法などのリビングラジカル重合法によるブロック共重合体の合成に適用する観点から、ビニル系重合性基を有するものであることが好ましい。具体的には、例えば、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、オレフィン誘導体、ビニルエステル誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体等が用いられ、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、またはオレフィン誘導体であることが好ましい。なお、これらの具体的な形態は上記と同様である。
【0160】
一般式(5)で表される重合体に含まれる重合体ブロックαの数平均分子量(合計の数平均分子量)は、特に制限されないが、好ましくは1000以上であり、より好ましくは1000~100000であり、さらに好ましくは1000~70000であり、さらにより好ましくは1000~50000であり、特に好ましくは3000~50000である。重合体ブロックαの合計の数平均分子量が1000以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、重合体ブロックαの合計の数平均分子量が100000以下であれば軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。ここで、重合体ブロックαの合計の数平均分子量は、一般式(5)で表される重合体が単一の重合体ブロックαを含む場合は当該重合体ブロックαの数平均分子量を指し、複数の重合体ブロックαを含む場合、各重合体ブロックαの数平均分子量の総和を意味する。
【0161】
一般式(5)で表される重合体に含まれる重合体ブロックβの数平均分子量(合計の数平均分子量)は、特に制限されないが、好ましくは1000以上であり、より好ましくは1000~100000であり、さらに好ましくは1000~70000であり、さらにより好ましくは1000~50000であり、特に好ましくは3000~50000である。重合体ブロックβの合計の数平均分子量が1000以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、重合体ブロックβの合計の数平均分子量が100000以下であれば軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。ここで、重合体ブロックβの合計の数平均分子量は、一般式(5)で表される重合体が単一の重合体ブロックβを含む場合は当該重合体ブロックβの数平均分子量を指し、複数の重合体ブロックβを含む場合、各重合体ブロックβの数平均分子量の総和を意味する。
【0162】
また、一般式(5)で表される重合体の全数平均分子量Mnは、好ましくは3500以上であり、より好ましくは3500~100000であり、さらに好ましくは3500~70000であり、さらにより好ましくは3500~50000であり、特に好ましくは5000~50000である。一般式(5)で表される重合体の全数平均分子量が3500以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、全数平均分子量が100000以下であれば軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。
【0163】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、一般式(5)で表される重合体に含まれる重合体ブロックαの合計の数平均分子量が1000以上であり、重合体ブロックβの合計の数平均分子量が1000以上であり、前記一般式(5)で表される重合体の全数平均分子量Mnが3500以上である。
【0164】
一般式(5)で表される重合体において、重合体ブロックαの合計の数平均分子量と重合体ブロックβの合計の数平均分子量との比は特に制限されないが、軟化溶融のしやすさおよび画像強度の観点から、重合体ブロックαの合計の数平均分子量:重合体ブロックβの合計の数平均分子量の比は、1:20~20:1であることが好ましく、1:15~15:1であることがより好ましい。
【0165】
一般式(5)で表される重合体の全数平均分子量、重合体ブロックαおよびβの合計の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0166】
一般式(5)で表されるブロック共重合体の合成方法は特に制限されず、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合などの公知の方法が用いられうる。中でも、簡便な合成方法として原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、ARGET-ATRP法またはRAFT法といったリビングラジカル重合法が好適に用いられうる。
【0167】
ATRP法を例にとれば、開始剤として、1官能、2官能、3官能、または4官能のハロゲン元素を含む化合物を出発物質にして、重合体ブロックαまたはβの構造単位となるモノマーを触媒下で重合させる、等の方法により行うことができる。
【0168】
モノマーを重合する段階においては、例えば、開始剤、触媒および配位子の存在下で重合体ブロックαまたはβのいずれか一方(ブロック共重合体のコア部分となるブロック)の構造単位となるモノマーを重合してマクロ開始剤を製造する。
【0169】
前記開始剤としては、例えば、2-ブロモイソ酪酸ブチル、2-ブロモイソ酪酸エチル、エチレンビス(2-ブロモイソブチレート)、1,1,1-トリス(2-ブロモイソブチリルオキシメチル)エタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-ブロモイソブチレート)、α,α’-ジブロモ-p-キシレン、ブロモ酢酸エチル、2-ブロモイソブチリルブロミドまたはこれらの混合物などを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0170】
触媒としては銅(I)触媒、鉄(II)触媒などがあり、例えば、Cu(I)Cl、Cu(I)Br、Fe(II)Cl、Fe(II)Brまたはこれらの混合物などを例示することができる。
【0171】
配位子としては公知のものを使用することができるが、2,2’-ビピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジル、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、シクラム(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、1,4,8,11-テトラメチルシクラム(1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンなどからなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。
【0172】
上記触媒および配位子の使用量は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜決定することができる。
【0173】
次に、上記重合により得られたマクロ開始剤を単離して開始剤として用い、再び触媒および配位子の存在下で、重合体ブロックαまたはβの構造単位となるモノマーのうち、マクロ開始剤の合成で使用していない方のモノマーの重合を行う。もしくは、マクロ開始剤の合成でモノマーをほぼすべて消費した段階で、マクロ開始剤を単離せずそのまま、マクロ開始剤の合成で使用していない方のモノマーを追加して、重合を続けてもよい。これらの操作により目的とするブロック共重合体を得ることができる。
【0174】
上記の各反応は、窒素、またはアルゴン等の希ガス類など不活性雰囲気で行うことが好ましい。上記の各反応は、例えば、25~160℃、好ましくは35~130℃の温度で実行することができる。また、上記の各反応は、溶媒を用いずに行ってもよく、有機溶媒などの溶媒中で行ってもよい。
【0175】
なお、重合体ブロックαまたはβのいずれか一方の構造単位となるモノマーを重合してマクロ開始剤を得る反応と、該マクロ開始剤を他方の重合体ブロックの構造単位となるモノマーと反応させてブロック共重合体を得る反応において、使用する触媒や配位子の種類や使用量、反応時の温度などの条件は同一であっても異なるものであってもよい。
【0176】
[異性化重合体と異性化低分子化合物との混合比]
本発明の組成物において、前記異性化重合体と前記異性化低分子化合物との混合比は特に制限されないが、質量比で、異性化重合体:異性化低分子化合物=99:1~10:90の範囲であることが好ましい。異性化重合体と異性化低分子化合物との合計量100質量%に対して、異性化重合体は99質量%以下であると、流動化に必要な光照射量を抑える効果に優れる。また、10質量%以上であれば、接着性に優れた組成物がより容易に得られうる。なかでも、異性化重合体:異性化低分子化合物=30:70~90:10であることがより好ましく、40:60~80:20の範囲であることがさらに好ましい。
【0177】
なお、本発明の組成物は、異性化重合体および異性化低分子化合物以外の成分を含んでいてもよい。異性化重合体および異性化低分子化合物以外の成分の具体的な形態やその含有量は、組成物が固体状態から光照射により流動化し、可逆的に非流動化するものであれば特に限定されない。
【0178】
一実施形態において、異性化重合体と異性化低分子化合物との合計量が、全組成物中、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。本実施形態による組成物を、そのまま、または適量の任意の公知の添加剤を加えて、接着剤として用いることができる。同様に、本実施形態による組成物を、そのまま、または適量の任意の公知の添加剤を加えて、光スイッチング材料として用いることができる。また、後述するように、本実施形態による組成物を使用して、必要に応じて結着樹脂や着色剤などをさらに用いて、トナーを作製することができる。
【0179】
[異性化重合体と異性化低分子化合物との組み合わせ]
本発明の組成物に用いられうる異性化重合体および異性化低分子化合物としては、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する重合体および化合物を適宜組み合わせて使用することができる。しかしながら、特にトナーに用いる場合は、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、アゾメチン化合物とを組み合わせることが好ましい。
【0180】
なかでも、炭素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含むアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体と、窒素-炭素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を含むアゾメチン化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、より効率的に光照射による流動化が進行しうる。
【0181】
また、重合体中のアゾメチン誘導体に由来する構造単位と、アゾメチン化合物とが、いずれも、チオフェン環またはピロール環を含むものであることが好ましい。これにより、より効率的に光照射による流動化が進行しうる。
【0182】
[組成物の調製方法]
本発明の組成物の調製方法は特に制限されない。例えば、異性化重合体および異性化低分子化合物をそれぞれ準備し、所望の混合比で前記異性化重合体および前記異性化低分子化合物を溶解させることができる溶媒に溶解させ、その後、溶媒を除去して乾固させる方法などが挙げられる。
【0183】
<光照射による流動化および可逆的な非流動化>
光照射により本発明の組成物が流動化する際の照射光の波長は、好ましくは280nm以上480nm以下の範囲、より好ましくは300nm以上420nm以下の範囲内、さらに好ましくは330nm以上420nm以下の範囲内である。上記範囲であれば結晶が崩れやすく(光溶融性が良く)なり、定着性がよくなる。また、流動化させる際には、光照射に加え、熱や圧力を加えて流動化を促進させてもよい。上記波長の照射光を照射することにより、熱や圧力を加える場合であっても、より少ない熱や圧力で流動化させることができる。そのため、本発明の組成物をトナーに導入することで、上記波長での定着が可能となり、定着性に優れ、かつ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0184】
なお、上記波長範囲には、可視光の一部が含まれる。そのため、本発明の組成物は、太陽光(自然光)や蛍光灯などの照明による光を受けただけでは流動化せず、かつ出来るだけ照射量及び照射時間を抑えた低コスト条件でより流動化するのが望ましい。かかる観点から、上記組成物が流動化する際の照射光の照射条件としては、照射量は、例えば0.1J/cm以上200J/cm以下の範囲内、好ましくは0.1J/cm以上100J/cm以下の範囲内、より好ましくは、0.1J/cm以上50J/cm以下の範囲内、さらに好ましくは0.1J/cm以上30J/cm以下の範囲内である。
【0185】
組成物を流動化させる際に、光照射とともに、組成物を加熱してもよい。これにより、より低い照射量で流動化させることができる。この際の加熱温度としては、例えば、20℃以上200℃以下の範囲内であり、好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0186】
一方、本発明の組成物を非流動化(再固化)する条件は、室温(25±15℃の範囲)で放置(自然環境下)、加熱、または可視光照射が好ましい。可視光照射により本発明の組成物を非流動化させる場合の可視光の波長および照射条件は特に制限されないが、本発明の組成物を流動化させる際の照射光の波長よりも長波長の光であることが好ましい。
【0187】
前記組成物を加熱して非流動化させる場合、加熱温度としては、好ましくは0℃以上200℃以下の範囲内、より好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内であり、さらに好ましくは20℃以上100℃以下の範囲内である。
【0188】
[トナーの構成]
本発明の一実施形態は、本発明の組成物を含む、トナーである。本発明の組成物をトナーに導入することで、より少ないエネルギーの光照射により定着可能であり、定着性に優れるトナーを得ることができる。なお、トナーとは、トナー母体粒子またはトナー粒子の集合体をいう。トナー粒子とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものであることが好ましいが、トナー母体粒子をそのままトナー粒子として用いることもできる。なお、本発明において、トナー母体粒子、トナー粒子およびトナーを特に区別する必要がない場合、単に「トナー」ともいう。
【0189】
トナー中の前記組成物の含有量は、異性化重合体および異性化低分子化合物の種類によるが、効率的な流動化および画像強度の観点から、異性化重合体および異性化低分子化合物の合計量が、トナーを構成する結着樹脂、着色剤、離型剤、異性化重合体および異性化低分子化合物の総量に対して、5~95質量%の範囲であることが好ましい。
【0190】
なお、本発明の組成物をトナーに用いる場合、異性化重合体は、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体であり、異性化低分子化合物は、アゾメチン誘導体であることが好ましい。アゾメチン誘導体は著しい着色がないため、着色剤の色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0191】
<結着樹脂>
本発明のトナーは、結着樹脂をさらに含んでもよい。結着樹脂は、異性化構造体に由来する構造や、異性化低分子化合物に由来する構造を含まない樹脂であって、一般にトナーを構成する結着樹脂として用いられている樹脂を制限なく用いることができる。結着樹脂としては、例えば、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アミド樹脂、およびエポキシ樹脂などが用いられうる。これら結着樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0192】
これらの中でも、溶融すると低粘度になり、かつ高いシャープメルト性を有するという観点から、結着樹脂は、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0193】
(スチレンアクリル樹脂)
本発明でいうスチレンアクリル樹脂とは、少なくとも、スチレン単量体に由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位とを含む重合体である。ここで、スチレン単量体とは、CH=CH-Cの構造式で表されるスチレンの他、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものも含まれる。
【0194】
スチレン単量体の例としては、前述の重合体を構成しうるスチレン単量体と同様のものが挙げられる。
【0195】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、エステル結合を有する官能基を側鎖に有するものである。具体的には、CH=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル単量体の他、CH=C(CH)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステル単量体などのビニル系エステル化合物が含まれる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体における(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。
【0196】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0197】
スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0198】
スチレンアクリル樹脂におけるスチレン単量体に由来する構造単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、特に限定されず、結着樹脂の軟化点やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整されうる。具体的には、スチレン単量体に由来する構造単位の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する全構造単位に対して40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する全構造単位に対して5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0199】
スチレンアクリル樹脂は、必要に応じて、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。他の単量体の例としては、ビニル単量体が挙げられる。以下に、本発明でいうスチレンアクリル共重合体を形成する際に併用可能なビニル単量体を例示するが、併用可能なビニル単量体は以下に示すものに限定されるものではない。
【0200】
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレンなど
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど
(5)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなど
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0201】
また、多官能性ビニル単量体を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。さらに、側鎖にイオン性解離基を有するビニル単量体を使用することも可能である。イオン性解離基の具体例としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。以下に、これらイオン性解離基を有するビニル単量体の具体例を示す。
【0202】
カルボキシル基を有するビニル単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
【0203】
スチレンアクリル樹脂の調製方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。必要に応じて、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネートなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。油溶性の重合開始剤としては、例えば、アゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤が用いられる。アゾ系またはジアゾ系重合開始剤、および過酸化物系重合開始剤の具体的な形態は上記の重合体の調製方法において説明した形態と同様である。
【0204】
また、乳化重合法でスチレンアクリル樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0205】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、例えば2~12時間であることが好ましい。
【0206】
乳化重合法により形成されるスチレンアクリル樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とすることもできる。この場合の製造方法としては、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段、第3段重合)する多段重合法を採用することができる。
【0207】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂である。なお、ポリエステル樹脂は、非晶性であってもよいし、結晶性であってもよい。
【0208】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数は、好ましくはそれぞれ2~3であり、より好ましくはそれぞれ2である。すなわち、多価カルボン酸成分は、ジカルボン酸成分を含むことが好ましく、多価アルコール成分は、ジアルコール成分を含むことが好ましい。
【0209】
ジカルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸、ドデセニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-フェニレン二酢酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの不飽和芳香族ジカルボン酸;などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。ジカルボン酸成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0210】
その他、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸、およびその無水物、あるいは炭素数1~3のアルキルエステルなども用いることができる。
【0211】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの飽和脂肪族ジオール;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ブチン-1,4-ジオール、9-オクタデセン-7,12-ジオールなどの不飽和脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などの芳香族ジオールが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。ジオール成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0212】
ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことによりを製造することができる。
【0213】
ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物などが挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O-n-Bu))、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0214】
重合温度は特に限定されるものではないが、70~250℃であることが好ましい。また、重合時間も特に限定されるものではないが、0.5~10時間であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0215】
本発明のトナーが本発明の組成物に加えて結着樹脂を含む場合、前記組成物と結着樹脂との含有割合は特に制限されない。
【0216】
なお、本発明のトナーは、単層構造を有する粒子であってもよいし、コアシェル構造を有する粒子であってもよい。コアシェル構造のコア粒子およびシェル部に用いられる結着樹脂の種類は、特に制限されない。
【0217】
<着色剤>
本発明のトナーは、着色剤をさらに含んでいてもよい。着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
【0218】
黒色のトナーを得るための着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、鉄・チタン複合酸化物ブラックなどが挙げられ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックが含まれる。また、磁性体としてはフェライト、マグネタイトなどが挙げられる。
【0219】
イエローのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162などの染料;C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185などの顔料が挙げられる。
【0220】
マゼンタのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122などの染料;C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222などの顔料が挙げられる。
【0221】
シアンのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などの染料;C.I.ピグメントブルー1、同7、同15、同15:3、同60、同62、同66、同76などの顔料が挙げられる。
【0222】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0223】
着色剤の含有量は、外添剤の添加前のトナー粒子(トナー母体粒子)中0.5~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0224】
<離型剤>
本発明に係るトナーは、離型剤をさらに含んでもよい。離型剤をトナーに導入することで、光照射と共に熱定着を行う場合に、より定着性に優れ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0225】
使用される離型剤は、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができる。ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、または酸化型の低分子量ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、パラフィンワックス、合成エステルワックスなどが挙げられる。中でも、トナーの保存安定性を向上させる観点から、パラフィンワックスを用いることが好ましい。
【0226】
離型剤の含有量は、トナー母体粒子中1~30質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
【0227】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナーは、荷電制御剤を含有してもよい。使用される荷電制御剤は、摩擦帯電により正または負の帯電を与えることのできる物質であり、かつ無色のものであれば特に限定されず、公知の種々の正帯電性の荷電制御剤および負帯電性の荷電制御剤を用いることができる。
【0228】
荷電制御剤の含有量は、トナー母体粒子中0.01~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0229】
<外添剤>
トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために、トナー母体粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤を添加して本発明に係るトナーを構成してもよい。
【0230】
外添剤としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子などの無機酸化物粒子、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、チタン酸亜鉛粒子などの無機チタン酸化合物粒子などの無機粒子が挙げられる。必要に応じてこれらの無機粒子は疎水化処理されていてもよい。これらは単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0231】
これらの中でも、外添剤としては、例えば、ゾルゲルシリカ粒子や、表面を疎水化処理したシリカ粒子(疎水性シリカ粒子)または酸化チタン粒子(疎水性チタニア粒子)が好ましく、これらのうち少なくとも2種以上の外添剤を使用することがより好ましい。
【0232】
外添剤の数平均一次粒子径は、1~200nmの範囲内であることが好ましく、10~180nmであることがより好ましい。
【0233】
これら外添剤の添加量は、トナー中0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0234】
<トナーの平均粒径>
トナーの平均粒径(およびトナー母体粒子の平均粒径)は、体積基準のメジアン径(D50)で4~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。体積基準のメジアン径(D50)が上記範囲にあると、転写効率が高くなり、ハーフトーンの画質が向上し、細線やドット等の画質が向上する。
【0235】
体積基準のメジアン径(D50)は、「コールターカウンター3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター株式会社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出することができる。
【0236】
具体的には、測定試料(トナー、またはトナー母体粒子)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、分散液を調製する。この分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター株式会社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。
【0237】
ここで、表示濃度を上記値にすることで、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を50μmにし、測定範囲である1~30μmの範囲を256分割して頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径(D50)とする。
【0238】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は特に制限されない。例えば、本発明の組成物のみでトナーとする場合は、前記組成物を、ハンマーミル、フェザーミル、カウンタージェットミルなどの装置を用いて粉砕した後、スピンエアーシーブ、クラッシール、マイクロンクラッシファイアーなどの乾式分級機を用いて所望の粒径になるように分級することを含む製造方法を用いることができる。着色剤をさらに含むトナーを製造する場合は、前記組成物および着色剤がともに溶解する溶媒を用いて、前記組成物および着色剤を溶解させて溶液とした後、脱溶媒し、その後上記と同様の方法で、粉砕・分級することができる。
【0239】
特には、本発明の組成物ならびに必要に応じて結着樹脂および着色剤を含むトナーは、粒径および形状の制御が容易な乳化凝集法を利用した製造方法により製造することが好ましい。
【0240】
かような製造方法は、
(1A)必要に応じて、結着樹脂粒子の分散液を調製する結着樹脂粒子分散液調製工程
(1B)本発明の組成物の粒子の分散液を調製する組成物粒子分散液調製工程
(1C)必要に応じて、着色剤粒子の分散液を調製する着色剤粒子分散液調製工程
(2)組成物粒子、ならびに必要に応じて結着樹脂粒子および着色剤粒子が存在している水系媒体中に、凝集剤を添加し、塩析を進行させると同時に凝集および融着を行い、会合粒子を形成する会合工程
(3)会合粒子の形状制御をすることによりトナー母体粒子を形成する熟成工程
(4)水系媒体からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤等を除去する濾過、洗浄工程
(5)洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程
(6)乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
の各工程を含むことが好ましい。
【0241】
以下、(1A)~(1C)の工程について説明する。
【0242】
(1A)結着樹脂粒子分散液調製工程
本工程では、従来公知の乳化重合などにより樹脂粒子を形成し、この樹脂粒子を凝集、融着させて結着樹脂粒子を形成する。一例として、結着樹脂を構成する重合性単量体を水系媒体中へ投入、分散させ、重合開始剤によりこれら重合性単量体を重合させることにより、結着樹脂粒子の分散液を作製する。
【0243】
また、結着樹脂粒子分散液を得る方法として、上記の水系媒体中で重合開始剤により重合性単量体を重合させる方法の他に、例えば、水系媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性樹脂を酢酸エチルなどの溶媒に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶媒処理を行う方法などが挙げられる。
【0244】
この際、必要に応じ、結着樹脂には離型剤を予め含有させておいてもよい。また、分散のために、適宜公知の界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアニオン系界面活性剤)の存在下で重合させることも好ましい。
【0245】
分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、50~300nmであることが好ましい。分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0246】
(1B)組成物粒子分散液調製工程
この組成物粒子分散液調製工程は、本発明の組成物を、水系媒体中に微粒子状に分散させて、前記組成物の粒子の分散液を調製する工程である。
【0247】
前記組成物の粒子の分散液を調製するにあたり、まず、前記組成物の乳化液を調製する。前記組成物の乳化液は、例えば有機溶媒に前記組成物を溶解させた後、得られた溶液を水系媒体中で乳化させる方法が挙げられる。
【0248】
前記組成物を有機溶媒に溶解させる方法は、特に制限されず、例えば、前記組成物を有機溶媒に添加して、前記組成物が溶解するように攪拌混合する方法が挙げられる。前記組成物の添加量は、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは5質量部以上100質量部以下、より好ましくは10質量部以上50質量部以下である。
【0249】
次に、得られた前記組成物の溶液と水系媒体とを混合し、ホモジナイザーなどの公知の分散機を用いて攪拌する。これにより、前記組成物が液滴となって、水系媒体中に乳化され、前記組成物の乳化液が調製される。
【0250】
前記組成物の溶液の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上110質量部以下である。
【0251】
前記組成物の溶液と水系媒体との混合時における、前記組成物の溶液および水系媒体の温度は、それぞれ有機溶媒の沸点未満となる温度範囲であって、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは30℃以上75℃以下である。前記組成物の溶液と水系媒体の混合時における、前記組成物の溶液の温度と水系媒体の温度とは、互いに同一であっても異なっていてもよく、好ましくは互いに同一である。
【0252】
分散機の攪拌条件は、例えば攪拌容器の容量が1~3Lである場合、回転数は7000rpm以上20000rpm以下であることが好ましく、攪拌時間は10分以上30分以下であることが好ましい。
【0253】
前記組成物の粒子の分散液は、前記組成物の乳化液から有機溶媒を除去することによって調製される。前記組成物の乳化液から有機溶媒を除去する方法としては、例えば、送風、加熱、減圧、またはこれらの併用など、公知の方法が挙げられる。
【0254】
一例として、前記組成物の乳化液は、例えば、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、好ましくは25℃以上90℃以下、より好ましくは30℃以上80℃以下で、例えば初期の有機溶媒量の80質量%以上95質量%以下程度が除去されるまで、加熱されることにより、有機溶媒が除去される。これにより、水系媒体から有機溶媒が除去されて、前記組成物の粒子が水系媒体中に分散された前記組成物の粒子の分散液が調製される。
【0255】
前記組成物の粒子の分散液中の前記組成物の粒子の質量平均粒径は、90nm以上1200nm以下であることが好ましい。上記質量平均粒径は、前記組成物を有機溶媒に配合したときの粘度、前記組成物の溶液と水系媒体との配合割合、前記組成物の乳化液を調製するときの分散機の攪拌速度などを適宜調節することにより、上記範囲内に設定することができる。前記重合体の粒子の分散液中の前記組成物の粒子の質量平均粒径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0256】
<有機溶媒>
本工程で用いられる有機溶媒は、前記組成物中の重合体および化合物を溶解させることができれば、特に制限されず使用することができる。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ヘキサン、ヘプタンなどの飽和炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0257】
このような有機溶媒は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これら有機溶媒の中でも、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、メチルエチルケトン、ジクロロメタンがより好ましい。
【0258】
<水系媒体>
本工程で用いられる水系媒体は、水、または水を主成分として、アルコール類、グリコール類などの水溶性溶媒や、界面活性剤、分散剤などの任意成分が配合されている水系媒体などが挙げられる。水系媒体は、好ましくは水と界面活性剤とを混合したものが用いられる。
【0259】
界面活性剤としては、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウムなどの脂肪酸石けん、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0260】
このような界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。界面活性剤の中では、好ましくはアニオン性界面活性剤、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用される。
【0261】
界面活性剤の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.04質量部以上1質量部以下である。
【0262】
(1C)着色剤粒子分散液調製工程
この着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0263】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散液中の着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、10~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0264】
(2)会合工程から(6)外添剤添加工程までの工程については、従来公知の種々の方法に従って行うことができる。
【0265】
なお、(2)会合工程において使用される凝集剤は、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩等の一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0266】
[現像剤]
本発明に係るトナーは、例えば、磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0267】
上記磁性体としては、例えば、マグネタイト、γ-ヘマタイト、または各種フェライトなどを使用することができる。
【0268】
二成分現像剤に含まれるキャリアとしては、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができる。
【0269】
キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアであってもよいし、バインダー樹脂中に磁性体粉末を分散させた樹脂分散型キャリアであってもよい。被覆用の樹脂としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂またはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリア粒子を構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0270】
キャリアの体積基準のメジアン径は、20~100μmであることが好ましく、25~80μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパテック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0271】
トナーの混合量は、トナーとキャリアとの合計質量を100質量%として、2~10質量%であることが好ましい。
【0272】
[画像形成方法]
本発明のトナーは、電子写真方式の公知の種々の画像形成方法において用いることができる。例えば、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、1つの感光体とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置および感光体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法にも適用することができる。
【0273】
本発明の一実施形態による画像形成方法においては、1)記録媒体上に本発明のトナーからなるトナー像を形成する工程と、2)前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程とを含む。かかる実施形態であることによって定着性に優れ、さらに高画質となる。
【0274】
1)の工程について
本工程では、本発明のトナーからなるトナー像を、記録媒体上に形成する。
【0275】
(記録媒体)
記録媒体は、トナー画像を保持するための部材である。記録媒体の例としては、普通紙、上質紙、アート紙、コート紙などの塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用または包装材用の樹脂フィルム、および布などが挙げられる。
【0276】
記録媒体は、所定の大きさを有するシート状(枚葉状)であってもよいし、トナー像が定着された後にロール状に巻き取られる長尺状であってもよい。
【0277】
トナー像の形成は、後述するように、例えば感光体上のトナー像を記録媒体上に転写することにより行うことができる。
【0278】
2)の工程について
本工程では、形成されたトナー像に光を照射してトナー像を軟化させる。これにより記録媒体上にトナー像を接着させることができる。
【0279】
照射する光の波長は、トナー中の前記組成物に含まれる化合物および重合体による光熱変換などにより、トナー像を十分に軟化させうる程度であれば特に制限されないが、好ましくは280nm以上480nm以下である。上記範囲であればトナー像をより効率的に軟化させることができる。また、光の照射量は、同様の観点から、好ましくは0.1~200J/cm、より好ましくは0.1~100J/cm、さらに好ましくは0.1~50J/cmである。
【0280】
光の照射は、後述するように、例えば発光ダイオード(LED)やレーザー光源などの光源を用いて行うことができる。また、後述のように、光照射とともに加熱をさらに行ってもよい。
【0281】
2)の工程の後、必要に応じて、3)軟化させたトナー像を加圧する工程をさらに行ってもよい。かかる実施形態であることによって定着性が向上する。
【0282】
3)の工程について
本工程では、軟化させたトナー像を加圧する。
【0283】
記録媒体上のトナー像を加圧する際の圧力は、特に限定されないが、0.01~5.0MPaであることが好ましく、0.05~1.0MPaであることがより好ましい。圧力を0.01MPa以上とすることで、トナー像の変形量を大きくしうるため、トナー像と記録用紙Sとの接触面積が増加し、画像の定着性をさらに高めやすい。また、圧力を5.0MPa以下とすることで、加圧時のショックノイズを抑制できる。
【0284】
当該加圧工程は、光照射し、トナー像を軟化させる工程(前述の2)の工程)の前または同時に行ってもよいが、光照射した後に行うほうが、あらかじめ軟化した状態のトナー像に加圧することができ、この結果、画像の定着性がより向上するため好ましい。
【0285】
また、加圧する工程において、軟化させたトナー像をさらに加熱してもよい。すなわち、加圧工程は、トナー像を加熱しながら行ってもよい。その際の温度(例えば、加圧部材の温度)は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、20℃超がさらに好ましく、30℃以上がよりさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。かかる実施形態であることによって定着性が顕著に向上する。上限としては特に制限はないが、例えば、200℃以下、150℃以下、あるいは、100℃以下である。
【0286】
トナー像の加熱温度(加熱時のトナー像の表面温度)は、トナーのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg+20)~(Tg+100)℃であることが好ましく、(Tg+25)~(Tg+80)℃であることがより好ましい。トナー像の表面温度が(Tg+20)℃以上であれば、加圧によってトナー像を変形させやすく、(Tg+100)℃以下であれば、ホットオフセットを抑制しやすい。なお、ホットオフセットとは、定着工程において、ローラーなどの加圧部材にトナーの一部が転移してしまい、トナー層が分断してしまう現象をいう。
【0287】
また、2)の工程の前に、必要に応じて4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行ってもよい。このように、2)の工程の前に4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行うことで、本発明の化合物の光に対する感受性をより高めることができる。それにより、高分子であっても光に対する感受性は損なわれにくいため、光照射によるトナー像の溶融または軟化を促進しやすい。
【0288】
図1は、本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。ただし、本発明に用いられる画像形成装置としては、下記の形態および図示例に限定されるものではない。図1には、モノクロの画像形成装置100の例を示すが、カラーの画像形成装置にも本発明を適用することができる。
【0289】
画像形成装置100は、記録媒体としての記録用紙Sに画像を形成する装置であって、画像読取装置71および自動原稿送り装置72を備え、用紙搬送系7により搬送される記録用紙Sに対し画像形成部10、照射部40、および圧着部9により画像形成を行う。
【0290】
また、記録媒体として、画像形成装置100では記録用紙Sを用いているが、画像形成を行う対象とされる媒体は、上記のように、用紙以外でもよい。
【0291】
自動原稿送り装置72の原稿台上に載置された原稿dは、画像読取装置71の走査露光装置の光学系により走査露光されてイメージセンサーCCDに読み込まれる。イメージセンサーCCDにより光電変換されたアナログ信号は、画像処理部20において、アナログ処理、A/D変換、シェーディング補正、画像圧縮処理等が行われた後、画像形成部10の露光器3に入力される。
【0292】
用紙搬送系7は、複数のトレイ16、複数の給紙部11、搬送ローラー12、搬送ベルト13等を備えている。トレイ16は、決められたサイズの記録用紙Sをそれぞれ収容しており、制御部90からの指示に応じて定められたトレイ16の給紙部11を作動させ、記録用紙Sを供給する。搬送ローラー12は、給紙部11によってトレイ16から送り出された記録用紙Sまたは手差し給紙部15から搬入された記録用紙Sを画像形成部10へ搬送する。
【0293】
画像形成部10は、感光体1の周りに、感光体1の回転方向に沿って、帯電器2、露光器3、現像部4、転写部5、除電部(図示せず)およびクリーニング部8がこの順番に配置されて構成されている。
【0294】
像担持体である感光体1は、表面に光導電層の形成された像担持体であり、図示しない駆動装置により図1中の矢印方向に回転可能に構成されている。感光体1の近傍には、画像形成装置100内の温度や湿度を検知する温湿度計17が設けられている。
【0295】
帯電器2は、感光体1の表面に均一に電荷を与え、感光体1の表面を一様に帯電させる。露光器3は、レーザーダイオード等のビーム発光源を備え、帯電された感光体1の表面にビーム光を照射することで照射部分の電荷を消失させ、感光体1上に画像データに応じた静電潜像を形成する。現像部4は、内部に収容されるトナーを感光体1に供給して、感光体1表面上に静電潜像に基づくトナー像を作像する。
【0296】
転写部5は、記録用紙Sを介して感光体1と対向し、トナー像を記録用紙Sに転写する。除電部は、トナー像を転写した後の感光体1上の除電を行う。クリーニング部8は、ブレード85を備える。ブレード85により、感光体1表面をクリーニングして感光体1の表面に残留した現像剤を除去する。
【0297】
トナー像が転写された記録用紙Sは、搬送ベルト13により圧着部9へ搬送される。圧着部9は、任意に設置されるものであり、トナー像が転写された記録用紙Sに対し、加圧部材91および92によって圧力のみまたは熱および圧力を加えて定着処理を施し、これにより記録用紙S上に画像を定着させる。画像が定着された記録用紙Sは、搬送ローラーによって排紙部14に搬送され、排紙部14から機外へ排出される。
【0298】
また、画像形成装置100は用紙反転部24を備えており、加熱定着処理がなされた記録用紙Sを排紙部14の手前で用紙反転部24に搬送し、表裏を反転して排出するか、または表裏を反転した記録用紙Sを再度画像形成部10に搬送し記録用紙Sの両面に画像形成を行うことを可能としている。
【0299】
<照射部>
図2は、画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
【0300】
本発明の一実施形態による画像形成装置100は、照射部40を備える。照射部40は、光源41と加熱部材93とを備える。光源41を構成する装置の例としては、発光ダイオード(LED)、レーザー光源などが挙げられる。
【0301】
光源41は、記録媒体上に形成されたトナー像に光を照射して、トナー像を軟化させる。光照射の条件は、現像剤のトナーに含まれる本発明の組成物を溶融、流動化させるものであれば特に制限されない。トナー像に照射する光の波長は、前記組成物を十分に流動化させうる程度であればよく、好ましくは280nm以上480nm以下の範囲内、より好ましくは300nm以上420nm以下の範囲内、さらに好ましくは330nm以上420nm以下の範囲内である。光源41における光の照射量も、十分に流動化させうる程度であればよく、例えば0.1J/cm以上200J/cm以下の範囲内、好ましくは0.1J/cm以上100J/cm以下の範囲内、より好ましくは、0.1J/cm以上50J/cm以下の範囲内、さらに好ましくは0.1J/cm以上30J/cm以下の範囲内である。
【0302】
光源41によりトナー像に光を照射してトナー像を軟化させる際に、光照射とともに、加熱部材93によりトナー像を加熱してもよい。これにより、より効率的にトナー像の軟化、溶融が進行しうる。この際の加熱温度としては、例えば、20℃以上200℃以下の範囲内であり、好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0303】
軟化した前記トナー像に対して、室温(25±15℃の範囲)で放置する、加熱する、または可視光照射することで、前記トナー像を固化させ記録媒体に定着させることができる。なお、後述のように、定着させる工程においては、軟化した前記トナー像を加圧する工程をさらに含むことが好ましい。前記加圧する工程では、軟化した前記トナー像をさらに加熱することが好ましい。
【0304】
光源41はトナー像を保持する記録用紙Sにおける感光体側の第1面に向かって光を照射するものであり、感光体1と転写部である転写ローラー5とにニップされた記録用紙S面に対して感光体側に配置されている。そして、記録用紙S面に対して、光源41と反対側に加熱部材93が配置されている。また、記録用紙Sの搬送方向(用紙搬送方向)に沿って、光源41および加熱部材93が配置されている。
【0305】
光源41および加熱部材93は、感光体1と転写ローラー5とのニップ位置に対して、用紙搬送方向下流側、かつ圧着部9に対して用紙搬送方向上流側に配置されている。
【0306】
本発明の一実施形態による画像形成方法によれば、帯電器2により感光体1に一様な電位を付与して帯電させた後、原画像データに基づいて露光器3により照射した光束で感光体1上を走査し、静電潜像を形成する。次に現像部4により本発明の組成物を含むトナーを有する現像剤を感光体1上に供給する。
【0307】
感光体1の表面に担持されたトナー像が、感光体1の回転によって転写部である転写ローラー5の位置に至るタイミングに合わせて、トレイ16から記録用紙Sを画像形成部10に搬送すると、転写ローラー5に印加される転写バイアスにより、感光体1上のトナー像が、転写ローラー5と感光体1とにニップされた記録用紙S上に転写される。
【0308】
また、転写部5は、加圧部材を兼ねており、感光体1から記録用紙Sにトナー像を転写しながら、トナー像を確実に記録用紙Sに密着させることができる。
【0309】
トナー像が記録用紙Sに転写された後に、クリーニング部8のブレード85は、感光体1表面に残留する現像剤を除去する。
【0310】
トナー像が転写された記録用紙Sが搬送ベルト13により圧着部9に搬送される過程において、光源41は、記録用紙S上に転写されたトナー像に対して光を照射する。光源41により記録用紙Sの第1面上のトナー像に向かって光を照射することにより、トナー像をより確実に溶融させることができ、トナー像の記録用紙Sに対する定着性を向上させることができる。
【0311】
トナー像が保持された記録用紙Sが、搬送ベルト13により圧着部9に至ると、加圧部材91および92が、トナー像を記録用紙Sの第1面に圧着する。圧着部9により定着処理が施される前に、トナー像が光源41による光照射により軟化するため、記録用紙Sに対する画像圧着の省エネルギー化を図ることができる。さらに、トナー像を固化させ記録媒体に定着させる工程において、トナー像を加圧部材91、92により加圧することで、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより向上する。
【0312】
記録媒体上のトナー像を加圧する際の圧力は、特に限定されないが、0.01~5.0MPaであることが好ましく、0.05~1.0MPaであることがより好ましい。圧力を0.01MPa以上とすることで、トナー像の変形量を大きくしうるため、トナー像と記録用紙Sとの接触面積が増加し、画像の定着性をさらに高めやすい。また、圧力を5.0MPa以下とすることで、加圧時のショックノイズを抑制できる。
【0313】
また、加圧する工程では、前記トナー像をさらに加熱することが好ましい。加圧部材91、92により圧力及び熱を加えることで、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより一層向上する。具体的には、加圧部材91は、記録用紙Sが加圧部材91および92の間を通過する際に、光照射によって軟化したトナー像は、加熱によりさらに軟化された状態で加圧されることで、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより一層向上する。
【0314】
加圧する工程でさらに加熱する際の加熱温度としては、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、20℃超がさらに好ましく、30℃以上がよりさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。かかる実施形態であることによって定着性が顕著に向上する。上限としては特に制限はないが、例えば、200℃以下、150℃以下、あるいは、100℃以下である。
【0315】
加圧部材91および92によって圧着されたトナー像は、固化されて、記録用紙S上に定着される。
【0316】
すなわち、本発明の一実施形態において、定着装置は、加圧部材を備える圧着部を有する。また、本発明の一実施形態において、前記加圧部材は加熱手段を有する。
【0317】
本発明の一実施形態において、前記加圧部材の温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、20℃超がさらに好ましく、30℃以上がよりさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。上限としては特に制限はないが、例えば、200℃以下、150℃以下、あるいは、100℃以下である。
【0318】
記録用紙Sの両面に画像を形成する場合、圧着処理がなされた記録用紙Sを排紙部14の手前で用紙反転部24に搬送し、表裏を反転して排出するか、または表裏を反転した記録用紙Sを再度画像形成部10に搬送する。
【0319】
(光応答性接着剤)
本発明の組成物は光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の組成物を用いて繰り返しの利用が可能な光応答性接着剤(感光性接着剤)を作製することができる。例えば、粘度(摩擦係数)の変化に対応して、繰り返しの光脱着可能な光応答性接着剤として各種の接着技術に応用することが可能である。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の組成物を含む、光応答性接着剤である。
【0320】
本発明の光応答性接着剤は、繰り返しの利用が可能な仮止めに使えるほか、リサイクル利用にも適しているが、これらに何ら制限されるものではない。
【0321】
(光スイッチング材料)
本発明の組成物は光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の組成物を用いて光スイッチング材料を作製することができる。例えば、光異性化に伴う色や極性の変化、物質移動、配向の変化、粘度の変化、表面張力の変化を利用して光スイッチング材料を作製することができる。例えば、液晶材料などにおいて、光異性化に伴う分子の配向の変化に対応して、繰り返しの書き換えが可能なパターニング描画に応用することが可能である。また、例えば、光照射に伴う表面張力の変化やこれによる物質移動を利用して、高分子膜の表面の微細加工を行うことができる。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の組成物を含む、光スイッチング材料である。
【0322】
本発明の光スイッチング材料は、液晶ディスプレイ材料や、高分子膜の表面加工に使用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
【実施例
【0323】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0324】
はじめに、上記表1に記載の化合物1、2、6、10および上記表2の構造単位1~3、5、18を含む下記表3の重合体1~3、5~18を調製した。
【0325】
[化合物1の合成]
冷却管、窒素導入管、温度計を備えた100mlの4頭フラスコに、4-ヘキシルオキシアニリン(7.7mmol)と5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒド(7.7mmol)とエタノール20mlを投入し、加熱攪拌した。反応液を吸引ろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄した。さらに、メタノール/エタノールで再結晶を行い、目的物である化合物1を収率42%で得た。
【0326】
【化19】
【0327】
H NMRで化合物1の生成を確認した。H NMR(400MHz、CDCl);8.35ppm(s,1H,CH=N)、7.39ppm(d,2H,aryl)、7.08ppm(d,1H,thiophene)、6.96ppm(d,2H,aryl)、6.67ppm(d,2H,thiophene)、4.11ppm(t,2H,methylene)、2.44ppm(s,3H,methyl)、1.80ppm(m,2H,methylene)、1.47ppm(m,2H,methylene),1.37ppm(m,4H,methylene)、0.89ppm(t,3H,methyl)。
【0328】
[化合物2の合成]
上記の化合物1の合成において、5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒド(7.7mmol)をN-メチルピロール-2-カルボキシアルデヒド(7.7mmol)に変更したこと以外は、化合物1の合成と同様の方法で化合物2を合成した。同様に、H NMRにて化合物の生成を確認し、目的の化合物が得られていることがわかった。
【0329】
[化合物10の合成]
上記の化合物1の合成において、5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒド(7.7mmol)を1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキシアルデヒド(7.7mmol)に変更したこと以外は、化合物1の合成と同様の方法で化合物10を合成した。同様に、H NMRにて化合物の生成を確認し、目的の化合物が得られていることがわかった。
【0330】
[化合物6の合成]
4-アミノフェノール(6.54g、60mmol)に2.4N塩酸75mLを加えた後、0℃で冷却攪拌しながら、亜硝酸ナトリウム(4.98g、72mmol)を蒸留水6mLに溶解した溶液を加え、0℃で60分間攪拌を続けた。この溶液に、o-クレゾール(6.48g、60mmol)と20%水酸化ナトリウム水溶液24mLの混合溶液を加え20時間攪拌した。析出した沈殿を濾過し、固形物を水で洗浄した。得られた固体を、酢酸エチルとヘキサンの混合液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、アセトンとヘキサンの混合溶媒により再結晶することにより中間体Aを得た。この中間体A(2.28g、10mmol)にDMF100mL、1-ブロモヘキサン(9.9g、60mmol)、炭酸カリウム(6.9g、50mmol)を加え、80℃で2時間攪拌した後、室温で20時間攪拌を続けた。溶媒を減圧留去後、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これを濾過した後、溶媒を減圧留去し、得られた固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、アゾベンゼン誘導体である化合物6を得た。
【0331】
【化20】
【0332】
[重合体1の合成]
(アゾメチン誘導体モノマー1の合成)
100mlの4頭フラスコに、4-アミノフェノール(5g、0.046mol)と5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒド(5.8g、0.046mol)とエタノール100mlとを投入し、加熱攪拌した。反応液を吸引ろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄した。さらに、メタノール/エタノールで再結晶を行い、目的物1を得た。
【0333】
【化21】
【0334】
次いで、200mlの4頭フラスコにおいて、上記で得られた目的物1(5g、0.023mol)を、ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに溶解させた。これに、炭酸カリウム4.88g(0.035mol)を加え、30℃に保ちながら攪拌した。これに、ヨウ化カリウム10.2mg(0.06mmol)、6-クロロ-1-ヘキサノール(3.54g、0.026mol)を添加し、110℃で反応させた。これを、室温まで冷却し、650gの氷に添加した後、ろ過した。結晶を水400mlに分散させ、一晩攪拌して洗浄し、ろ過して乾燥させた。さらに、エタノールにて再結晶を行い、目的物2を得た。
【0335】
【化22】
【0336】
次に、100mlの4頭フラスコに、上記で得られた目的物2(3g、0.001mol)、トリエチルアミン1.34ml(0.001mol)およびジクロロメタン30mlを投入した。この時、原料は分散状態であった。内温を0℃に保ちながら、アクリル酸クロライド1.04g(0.011mol)をジクロロメタン10mlに溶かした溶液を、内温を0~5℃を保ちながら滴下した。滴下していくと、原料は溶解した。
【0337】
滴下終了後、反応液を室温に戻して攪拌を行った。反応終了後、ジクロロメタンを濃縮して除去し、酢酸エチルに溶解して、希塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥させた後、濃縮した。得られたオレンジ色の結晶をシリカゲルカラム(酢酸エチル/へプタン=1/5)にて精製し、構造単位1を有するアゾメチン誘導体モノマー1を得た。
【0338】
【化23】
【0339】
(重合体1の合成)
100mlの4頭フラスコにおいて、上記で得られたアゾメチン誘導体モノマー1を1.5g(4.096mmоl)、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾアートを5mg(0.023mmоl)およびAIBN1mg(0.006mmоl)を、アニソール4mlに溶解させた。そして、凍結脱気によりアルゴンガス雰囲気にした後、75℃に昇温し、攪拌することで重合させた。得られたポリマー溶液に、メタノール40mlを徐々に滴下した後、THFを加えて、未反応のアゾメチン誘導体モノマー1を除去した。分取したポリマー溶液は、40℃の真空乾燥炉内にて24時間乾燥させて、重合体1を得た。得られた重合体1の数平均分子量MnをGPC法で測定したところ12000であった。
【0340】
【化24】
【0341】
[重合体2、3、18の合成]
それぞれ対応する原料を用い、重合体1の合成と同様の手法を用いて、構造単位2、3、18を有する重合体2、3、18を得た。
【0342】
具体的には、重合体2は、アゾメチン誘導体モノマー1の合成において4-アミノフェノールを3-アミノフェノールに変更したことを除いては、重合体1と同様の方法で合成した。
【0343】
重合体3は、アゾメチン誘導体モノマー1の合成において5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒドをN-ヘキシルピロール-3-カルボキシアルデヒドに変更したことを除いては、重合体1と同様の方法で合成した。
【0344】
重合体18は、アゾメチン誘導体モノマー1の合成において5-メチルチオフェン-2-カルボキシアルデヒドを1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキシアルデヒドに変更し、6-クロロ-1-ヘキサノールを10-クロロ-1-デカノールに変更したことを除いては、重合体1と同様の方法で合成した。
【0345】
なお、重合体2、3、18および以下の各重合体の調製においては各原料の添加量や反応条件は必要に応じて、適宜調整した。
【0346】
[重合体5の合成]
暗室、アルゴン気流下にて、4-ヘキシルアニリン(11g、0.0643mol)とアセトン100mlとを投入し、冷却させながら、HClaq.を26ml滴下した。さらにNaNOaq.(NaNO 4.6g/HO 10ml)を滴下し、0℃以下で30分攪拌した。この調製液に、20%NaOHaq.26mlとフェノール6gを滴下し、室温で攪拌した。その後、HClaq.を64mlを滴下し、トルエン/水で分液した。得られた有機層をシリカゲルカラム(トルエン)にて精製し、目的物1’を得た。
【0347】
【化25】
【0348】
次いで、上記アゾメチン誘導体モノマー1の合成において、目的物1に代えて、上記で調製した目的物1’を用い、6-クロロ-1-ヘキサノールに代えて10-クロロ-1-デカノールを用いたこと以外は同様の方法でアゾベンゼン誘導体モノマー5を得た。アゾメチン誘導体モノマー1に代えて上記アゾベンゼン誘導体モノマー5を用いたことを除いては重合体1の合成と同様にして、重合体5を得た。
【0349】
[重合体6~9の合成]
重合体1の合成において、アゾメチン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、スチレン、エチルアクリレート、n-ブチルメタクリレートをそれぞれ0.3g加えたこと以外は同様にして、重合体6~8をそれぞれ調製した。また、重合体1の合成において、アゾメチン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、スチレン0.15gおよびメチルアクリレートを0.15g加えたこと以外は同様にして、重合体9を調製した。
【0350】
[重合体10の合成]
<マクロ開始剤10の合成>
100mlのナスフラスコにおいて、2,2’-ビピリジル(230mg、1.47mmol)を入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにCu(I)Br(95mg、0.66mmol)、スチレン(15g、144mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(35mg、0.18mmol)を加えて密閉した。これを100℃のオイルバスで加熱攪拌した。その後、テトラヒドロフランを適量加え、中性アルミナカラムに通した。これをメタノールで再沈殿・遠心分離して精製し、マクロ開始剤10を得た。得られたマクロ開始剤10の数平均分子量(β Mn)をGPC法で測定したところ1100であった。
【0351】
<重合体10の合成>
100mlのナスフラスコにおいて、上記で得られたアゾメチン誘導体モノマー1(16g、38mmol)、および上記のマクロ開始剤10(0.92g、0.18mmol)を入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにCu(I)Cl(29mg、0.29mmol)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(136mg、0.59mmol)、溶媒としてのアニソール(4.9g、41.1mmol)を加えて密閉した。そして、80℃のオイルバスで加熱攪拌した。その後、クロロホルムを適量加え、塩基性アルミナカラムに通した。これをメタノールで再沈殿・遠心分離して精製し、重合体10を得た。得られた重合体10の全数平均分子量MnをGPC法で測定したところ5600であった。これより、アゾメチン誘導体に由来する構造単位の数平均分子量(α Mn)を4500と求められる。
【0352】
[重合体11の合成]
<マクロ開始剤11の合成>
マクロ開始剤10の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルをα,α’-ジブロモ-p-キシレンに変更した以外は同様な方法でマクロ開始剤11を得た。
【0353】
<重合体11の合成>
重合体10の合成において、マクロ開始剤10をマクロ開始剤11に変更した以外は同様な方法で重合体11を得た。
【0354】
[重合体12の合成]
<マクロ開始剤12の合成>
マクロ開始剤10の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルをエチレンビス(2-ブロモイソ酪酸)(ethylene bis(2-bromoisobutyrate))に変更し、2,2’-ビピリジルを1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンに変更し、スチレンをアゾメチン誘導体モノマー1に変更し、さらにアニソールを加えた以外は同様な方法でマクロ開始剤12を得た。
【0355】
<重合体12の合成>
重合体10の合成において、マクロ開始剤10をマクロ開始剤12に変更し、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンを2,2’-ビピリジルに変更し、アゾメチン誘導体モノマー1をスチレンに変更し、アニソールを除いたこと以外は同様な方法で重合体12を得た。
【0356】
[重合体13の合成]
<マクロ開始剤13の合成>
マクロ開始剤10の合成において、100℃のオイルバスで加熱攪拌する時間を適宜調節することで、マクロ開始剤10と同様の構造で数平均分子量(β Mn)が7000であるマクロ開始剤13を得た。
【0357】
<重合体13の合成>
重合体10の合成において、80℃のオイルバスで加熱攪拌する時間を適宜調節することで、重合体10と同様の構造単位から構成され、全数平均分子量Mnが7500である重合体13を得た。重合体13において、アゾメチン誘導体に由来する構造単位の数平均分子量(α Mn)は500であった。
【0358】
[重合体14の合成]
<マクロ開始剤14の合成>
マクロ開始剤11の合成において、スチレンをメチルアクリレートに変更した以外は同様な方法でマクロ開始剤14を得た。
【0359】
<重合体14の合成>
重合体11の合成において、マクロ開始剤11をマクロ開始剤14に変更した以外は同様な方法で重合体14を得た。
【0360】
[重合体15の合成]
<マクロ開始剤15の合成>
マクロ開始剤11の合成において、スチレンをn-へキシルメタクリレートに変更した以外は同様な方法でマクロ開始剤15を得た。
【0361】
<重合体15の合成>
重合体11の合成において、マクロ開始剤11をマクロ開始剤15に変更した以外は同様な方法で重合体15を得た。
【0362】
[重合体16の合成]
<マクロ開始剤16の合成>
マクロ開始剤11の合成において、スチレンを3-メチル-1-ペンテンに変更した以外は同様な方法でマクロ開始剤16を得た。
【0363】
<重合体16の合成>
重合体11の合成において、マクロ開始剤11をマクロ開始剤16に変更した以外は同様な方法で重合体16を得た。
【0364】
[重合体17の合成]
<マクロ開始剤17の合成>
マクロ開始剤11の合成において、スチレンを、スチレン:メチルアクリレートのモル比が5:5となる混合物に変更したこと以外は同様な方法でマクロ開始剤17を得た。
【0365】
<重合体17の合成>
重合体11の合成において、マクロ開始剤11をマクロ開始剤17に変更した以外は同様な方法で重合体17を得た。
【0366】
[組成物1~25の調製]
上記で調製した化合物1、2、6、10および重合体1~3、5~18を、下記表3の比率(質量比)で適量のTHFに溶解させ、乾固させることで組成物1~25を得た。
【0367】
下記表3に、組成物1~25を構成する化合物および重合体を示す。表3中、化合物1、2、6、10は上述の表1の化合物1、2、6、10である。また、重合体1~3、5~18を構成する構造単位No.は、上述の表2の構造単位No.に対応する。
【0368】
[トナー1の作製]
<組成物粒子分散液1の調製>
ジクロロメタン80質量部と、上記で得られた組成物1を20質量部とを、50℃で加熱しながら混合攪拌し、組成物1を含む溶液を得た。得られた溶液100質量部に、50℃に温めた蒸留水99.5質量部と、20質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.5質量部との混合液を添加した。その後、シャフトジェネレーター18Fを備えるホモジナイザー(ハイドルフ社製)により16000rpmで20分間攪拌して乳化させ、組成物1の乳化液を得た。
【0369】
得られた乳化液をセパラブルフラスコへ投入し、窒素を気相中へ送気しながら40℃で90分間加熱攪拌して有機溶媒を除去して、組成物粒子分散液1を得た。組成物粒子分散液1中の組成物粒子の粒径を、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、質量平均粒径で155nmであった。
【0370】
(ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)の調製)
n-ドデシル硫酸ナトリウム11.5質量部を純水160質量部に溶解し、カーボンブラック「モーガルL(キャボット社製)」25質量部を徐々に添加し、次いで、「クレアミックス(登録商標)WモーションCLM-0.8(エム・テクニック株式会社製)」を用いて分散処理することにより、ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)を調製した。ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)における着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、110nmであった。
【0371】
<トナー1の作製>
上記で作製した組成物粒子分散液1を固形分換算で602質量部、ブラック着色剤粒子分散液(Bk-1)を固形分換算で52質量部、およびイオン交換水900質量部を、攪拌装置、温度センサー、および冷却管を装着した反応装置に投入した。容器内の温度を30℃に保持して、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
【0372】
次に、塩化マグネシウム・6水和物2質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を攪拌下、10分間かけて滴下した後、昇温を開始し、この系を60分間かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(D50)が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。70℃で1時間攪拌した後、さらに昇温を行い、75℃の状態で加熱攪拌することにより、粒子の融着を進行させた。その後、30℃まで冷却することにより、トナー母体粒子の分散液を得た。
【0373】
得られたトナー母体粒子の分散液を、遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。該ウェットケーキを、遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー(株式会社セイシン企業製)」に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥して、トナー母体粒子を作製した。
【0374】
得られたトナー母体粒子100質量%に対して、疎水性シリカ(数平均一次粒径:12nm)1質量%、および疎水性チタニア(数平均一次粒径:20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサー(登録商標)を用いて混合することにより、トナー1を得た。
【0375】
[トナー2~23、26、27、比較例1、2のトナーの作製]
上記のトナー1の作製において、組成物1を組成物2~25に変更したことを除いては同様の方法で、それぞれトナー2~23、26、27を得た。比較例1、2のトナーは、下記表4に記載の組成にしたがって作製した。
【0376】
[トナー24の作製]
トナー1の作製において、重合体粒子分散液1を固形分換算で602質量部から421質量部に変更し、以下のスチレンアクリル樹脂粒子分散液を固形分換算で181質量部添加した以外は同様の方法でトナー24を得た。
【0377】
<スチレンアクリル樹脂粒子分散液の調製>
(第1段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で攪拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃とし、スチレン480質量部、n-ブチルアクリレート250質量部、メタクリル酸68.0質量部、およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート16.0質量部よりなる重合性単量体溶液を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、攪拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1a)を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)を調製した。
【0378】
(第2段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水800質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、上記で得られたスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)260質量部、スチレン245質量部、n-ブチルアクリレート120質量部、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート1.5質量部、離型剤であるパラフィンワックス「HNP-11」(日本精蝋株式会社製)67質量部を90℃にて溶解させた重合性単量体溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)により1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃にて1時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1b)を含むスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)を調製した。
【0379】
(第3段重合)
得られたスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、次いで、82℃の温度条件下で、スチレン435質量部、n-ブチルアクリレート130質量部、メタクリル酸33質量部およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート8質量部からなる重合性単量体溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却しスチレンアクリル樹脂1を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液を得た。
【0380】
[トナー25の作製]
トナー1の作製において、重合体粒子分散液1を固形分換算で602質量部から421質量部に変更し、以下のポリエステル樹脂粒子分散液を固形分換算で181質量部添加した以外は同様の方法でトナー25を得た。
【0381】
(ポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂粒子分散液の調製)
窒素導入管、脱水管、攪拌器、および熱電対を備えた容量10リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 524質量部、テレフタル酸 105質量部、フマル酸 69質量部、およびオクチル酸スズ(エステル化触媒)2質量部を投入し、温度230℃で8時間の重縮合反応を行った。さらに、8kPaで1時間重縮合反応を継続後、160℃に冷却し、ポリエステル樹脂1を得た。ポリエステル樹脂1 100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(株式会社徳寿工作所製)で粉砕し、予め作製した0.26質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液 638質量部と混合し、攪拌しながら超音波ホモジナイザー「US-150T」(株式会社日本精機製作所製)を用いて、V-LEVEL、300μAで30分間超音波分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を得た。上記ポリエステル樹脂粒子分散液中のポリエステル樹脂粒子の粒径を「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定したところ、体積基準のメジアン径で135nmであった。
【0382】
(数平均分子量Mn)
上記で調製した重合体1~3、5~18の数平均分子量Mnは、GPC法により測定した。具体的には、装置「HLC-8120GPC」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ-M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流した。測定試料は、濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させた。当該溶液の調製は、超音波分散機を用いて、室温にて5分間処理を行うことにより行った。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出した。単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成された検量線に基づいて、測定試料の分子量分布を算出した。上記検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
【0383】
なお、重合体10~17においては、全数平均分子量の他、マクロ開始剤の数平均分子量についても上記の方法で測定した。また、マクロ開始剤の数平均分子量を重合体ブロックαまたはβの数平均分子量として、ブロック構造ごとに、重合体の全数平均分子量から(マクロ開始剤の数平均分子量×ブロック数)を差し引くことで他方の重合体ブロックの合計の数平均分子量(他方の重合体ブロックの数平均分子量×ブロック数)を得た。結果を下記表3に示す。表3中、Mnは重合体の全数平均分子量、α Mnは重合体ブロックαの合計の数平均分子量、β Mnは重合体ブロックβの合計の数平均分子量をそれぞれ表す。
【0384】
[評価:組成物の光応答接着試験]
各実施例で調製した組成物1~25の光照射に伴う接着性の変化を図3に示す装置を用いて、以下の光応答接着試験で評価した。図3に示すように、18mm角のカバーガラス1に組成物2mgをガラス中心から半径6mm内に載せ、同サイズのカバーガラス2を、カバーガラス1に対して平行方向に約4mmずらした位置で、組成物をすべて覆いかぶせるように被せた。これを加熱し、試料を溶融させ、カバーガラス1とカバーガラス2とを接着させた。得られた各サンプルを下記の非流動性→流動性の試験に供し、その後、下記の流動性→非流動性の試験に供した。
【0385】
<非流動性→流動性の試験(流動化試験)>
図3に示す(A)部分を台にセロハンテープで固定し、(C)部分には100gのおもりを装着した長さ30cmのビニール紐をセロハンテープで固定した。(B)部分に波長365nmの光を照射量30J/cmで照射し、カバーガラス2がカバーガラス1から剥がれるかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。
【0386】
-非流動性→流動性の試験(流動化試験)の評価基準-
〇:カバーガラス2がカバーガラス1から完全に剥がれた
△:カバーガラス2がずれた
×:カバーガラス2は動かなかった。
【0387】
<流動性→非流動性の試験(非流動化試験)>
非流動性→流動性試験終了後、カバーガラス2が完全に剥がれた試料とずれた試料について以下の実験を行った。なお、ずれた試料については、手でカバーガラス1と2を剥がした。非流動性→流動性試験の光照射終了5分(5分は、室温(25±15℃の範囲)、蛍光灯等の可視光照射下で放置した)後に、上記試験で使用したカバーガラス1の試料部分((B)部分))を覆いかぶせるようにカバーガラス3(カバーガラス1、2と同サイズ)をのせ、カバーガラス1とカバーガラス3とが接着するかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。
【0388】
-流動性→非流動性の試験(非流動化試験)の評価基準-
〇:接着しなかった(非流動化していた)
△:一部接着した(一部、流動化状態が保たれていた)
×:接着した(流動化状態が保たれていた)。
【0389】
異性化重合体と異性化低分子化合物とを含む組成物1~25はいずれも、流動化試験および非流動化試験の評価結果は〇であり、光の照射により流動化し、可逆的に非流動化することが確認された。
【0390】
[評価:定着性試験]
(現像剤の作製)
上記で作製したトナー1~27、および比較例1、2のトナーについて、シクロヘキサンメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体樹脂(モノマー質量比1:1)で被覆した体積平均粒径が30μmのフェライトキャリア粒子を、トナー粒子が6質量%となるように混合し、現像剤1~27および比較例1、2の現像剤を得た。混合は、V型混合機を用いて30分間行った。
【0391】
(定着性試験)
定着性試験は、上記で得られた現像剤1~27、比較例1、2の現像剤を用いて、常温常湿環境下(温度20℃、相対湿度50%RH)で行った。具体的には、一方に現像剤、他方に記録媒体としての普通紙(坪量:64g/m)を設置した一対の平行平板(アルミ)電極間に、現像剤を磁力によって摺動させながら配置し、電極間ギャップが0.5mm、DCバイアスとACバイアスとはトナー付着量6g/mとなる条件でトナーを現像させ、上記普通紙の表面にトナー像を形成し、各定着装置にて定着して印刷物を得た(画像形成)。
【0392】
この印刷物に荷重をかけるように折り機で折り、その後画像部に0.45MPaの圧縮空気を吹き付けた。折り目部分を、下記評価基準にしたがってランク評価し、ランク3以上を合格とした。
【0393】
6:全く折れ目なし
5:ほんのわずかに折れ目に従った剥離あり
4:一部に折れ目に従った剥離あり
3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり
2:折れ目に従った太い線状の剥離あり
1:折れ目に従った大きな剥離あり。
【0394】
定着装置は、図2に示す装置を適宜改変して構成された下記4種の定着装置を用いた:
No.1:図2の圧着部9がなく、加熱部材93の温度が20℃であり、光源41から照射される紫外光の波長は365nmであり(光源:発光波長が365nm±10nmのLED光源)、照射量は7J/cmおよび11J/cmである;
No.2:図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は20℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。光源41の波長および照射量はNo.1と同様である;
No.3:図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は80℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。光源41の波長および照射量はNo.1と同様である;
No.4:図2の圧着部9がなく、加熱部材93の温度が80℃であり、光源41の波長および照射量はNo.1と同様である。
【0395】
[色再現性評価]
上記で得られた実施例、比較例の画像について色再現性を、10名のモニターによる目視評価により下記評価基準に従って評価した。具体的には、評価比較用サンプルとして、実施例1において重合体1をすべてスチレンアクリル樹脂に変更したトナーを作製した。これを用いて上記と同様に現像剤を作製し、上記の定着性試験における画像形成と同様に現像し、下記の定着装置No.5にて定着を行った:
定着装置No.5:図2の圧着部9があり、加熱部材93の温度が20℃であり、加圧部材91の温度は150℃であり、加圧時の圧力は0.2MPaであり、光照射は実施しない。
【0396】
10名のモニターに対して、前記評価比較用サンプルと上記の実施例、比較例で得られた画像とを順番に見せ、2つの画像の色が明らかに異なるか質問した。下記色再現性の評価基準による判定結果を下記表4に示す:
-色再現性の評価基準-
◎:2名以下が明らかに異なると答えた
○:3~4名が明らかに異なると答えた
△:5~7名が明らかに異なると答えた
×:8名以上が明らかに異なると答えた。
【0397】
結果を下記表3、4に示す。
【0398】
【表3】
【0399】
【表4-1】
【0400】
【表4-2】
【0401】
表4に示されるように、本発明の組成物を用いたトナー1~27は、いずれも光照射により定着を行うことができ、高い定着性を示した。
【0402】
アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体とアゾメチン化合物とを含む組成物1~3、24、25を用いたトナー1~3、26、27、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を含む重合体とアゾベンゼン化合物とを含む組成物4を用いたトナー4、アゾベンゼン誘導体に由来する構造単位を含む重合体とアゾメチン化合物とを含む組成物5を用いたトナー5、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体とアゾベンゼン化合物とを含む組成物6を用いたトナー6はいずれも光照射により高い定着性を示した。
【0403】
一方、比較例1、2のように、重合体5のみ、または化合物6のみで作製したトナーは定着性が不十分であった。特に、光照射量が低い場合の定着性が低いことがわかった。このことから、重合体と化合物とを組み合わせて用いることで、それぞれを単独で用いた場合と比較して、低い光照射量で定着可能であることが確認された。
【0404】
重合体中の構造単位が、アゾベンゼン誘導体または前記アゾメチン誘導体の窒素-窒素二重結合または炭素-窒素二重結合に対してパラ位に高分子主鎖へのリンカー部分を有するフェニレン基を含み、アゾベンゼン化合物またはアゾメチン化合物が窒素-窒素二重結合にまたは窒素-炭素二重結合に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のアルコキシ基を有するフェニル基を含む、組成物1~6を用いたトナー1~6は、メタ位にリンカー部分を有するフェニレン基を含む重合体2を含む組成物11を用いたトナー11に比較して低い照射量での定着性により優れることがわかった。
【0405】
組成物中の重合体と化合物の混合比は、重合体:化合物=99:1~10:90(質量比)の範囲であれば、いずれも良好な定着性が得られた(実施例1、7~10)。なかでも、重合体:化合物=30:70~90:10の範囲であればより定着性に優れ、重合体:化合物=40:60~80:20の範囲であればさらに定着性に優れることがわかった。
【0406】
重合体は、ホモポリマー、ランダム共重合体、およびブロック共重合体のいずれを用いた場合も良好な定着性が得られた。なかでも、重合体としてホモポリマーまたはブロック共重合体を用いた組成物を用いたトナー1~6、16~18、20~23、26、27では、ランダム共重合体を用いたトナー12~15に比較して、低い照射量での定着性により優れる傾向がある。重合体の数平均分子量が3500以上であり、ブロック共重合体である場合はそれぞれの重合体ブロックの合計の数平均分子量が1000以上であると、より優れた定着性が得られうる。
【0407】
また、組成物だけでなく、結着樹脂をトナーにさらに含有させることができる。トナー24、25のように、結着樹脂をさらに用いた場合も同様に良好な定着性が得られることが確認された。
【0408】
定着装置の比較をすると、同じトナー1を用い、同じ条件で紫外線照射し、加圧部材を用いないNo.1の定着装置よりも、加圧部材で加圧したNo.2の定着装置、更には加圧部材で加熱しつつ加圧したNo.3の定着装置を用いた方が、より高い定着性が得られることがわかった(実施例1、26、27の比較)。また、同じトナー1を用い、同じ条件で紫外線照射し、紫外線照射時に加熱を行わないNo.1の定着装置よりも、加熱部材93で加熱を行うNo.4の装置を用いたほうが、より高い定着性が得られた(実施例1、28)。
【0409】
また、アゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体とアゾメチン化合物とを含む組成物1~3、7~25を用いたトナー1~3、7~27では色再現性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0410】
1 感光体、
2 帯電器、
3 露光器、
4 現像部、
5 転写部、
7 用紙搬送系、
8 クリーニング部、
9 圧着部、
10 画像形成部、
11 給紙部、
12 搬送ローラー、
13 搬送ベルト、
14 排紙部、
15 手差し給紙部、
16 トレイ、
17 温湿度計、
20 画像処理部、
24 用紙反転部、
40 照射部、
41 光源、
71 画像読取装置、
72 自動原稿送り装置、
85 ブレード、
90 制御部、
91、92 加圧部材、
93 加熱部材、
100 画像形成装置、
d 原稿、
S 記録用紙。
図1
図2
図3