IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水ハウス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電着塗装装置 図1
  • 特許-電着塗装装置 図2
  • 特許-電着塗装装置 図3
  • 特許-電着塗装装置 図4
  • 特許-電着塗装装置 図5
  • 特許-電着塗装装置 図6
  • 特許-電着塗装装置 図7
  • 特許-電着塗装装置 図8
  • 特許-電着塗装装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】電着塗装装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/22 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
C25D13/22 304A
C25D13/22 304B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020161398
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054293
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】福島 毅
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-061493(JP,A)
【文献】特開2008-024983(JP,A)
【文献】特開平06-146079(JP,A)
【文献】特開平08-199398(JP,A)
【文献】特開2016-053205(JP,A)
【文献】特開平05-186896(JP,A)
【文献】特開2000-256893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D13/00-13/24
C25D11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料を貯留する槽と、
上記槽内に配置された電極と、
上記槽内で被塗物を保持し、且つ導電性を有する保持部と、
上記電極および上記保持部の間に電気的に接続される電源と、
上記電源に流れる電流を検出する電流検出部と、
複数の電流値範囲と、上記複数の電流値範囲毎に予め定められている通電時間の候補とが記録される不揮発性メモリを有する制御部と、を備え、
上記制御部は、
上記電源による通電の開始後に、上記電流検出部による検出結果に基づいて、上記電流のピーク値を検出する検出処理と、
上記複数の通電時間の候補のうち、上記検出処理で検出された上記ピーク値に対応するものを上記通電の通電時間として決定する決定処理と、
上記通電の通電時間が経過したことに応じて、上記通電を終了する終了処理と、を実行する電着塗装装置。
【請求項2】
上記保持部に保持される上記被塗物を、上記槽内の下位置と、上記下位置から上方の上位置との間で移動させる昇降機構を、さらに備え、
上記制御部は、
上記通電の開始前に、上記保持部に保持される上記被塗物が上記下位置に位置するように、上記昇降機構を制御し、
上記終了処理後に、上記保持部に保持される上記被塗物が、上記下位置から上記上位置へと移動した後に上記上位置で停止するように、上記昇降機構を制御する、請求項に記載の電着塗装装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記終了処理の後、予め定められた固定時間から上記決定処理で決定された通電時間を減算した時間が経過するまでの間に、上記保持部に保持される上記被塗物を、上記下位置から上記上位置へと移動させて、上記上位置で停止させる、請求項に記載の電着塗装装置。
【請求項4】
電着塗料を貯留する槽と、
上記槽内に配置された電極と、
上記槽内で被塗物を保持し、且つ導電性を有する保持部と、
上記電極および上記保持部の間に電気的に接続される電源と、
上記電源に流れる電流を検出する電流検出部と、
制御部と、
上記保持部に保持される上記被塗物を、上記槽内の下位置と、上記下位置から上方の上位置との間で移動させる昇降機構と、を備え、
上記制御部は、
上記電源による通電の開始前に、上記保持部に保持される上記被塗物が上記下位置に位置するように、上記昇降機構を制御する処理と、
上記電源による通電の開始後に、上記電流検出部による検出結果に基づいて、上記電流のピーク値を検出する検出処理と、
上記ピーク値に基づいて、上記通電の通電時間を決定する決定処理と、
上記通電の通電時間が経過したことに応じて、上記通電を終了する終了処理と、
上記終了処理後に、予め定められた固定時間から上記決定処理で決定された通電時間を減算した時間が経過するまでの間に、上記保持部に保持される上記被塗物が、上記下位置から上記上位置へと移動した後に上記上位置で停止するように、上記昇降機構を制御する処理と、を実行する電着塗装装置。
【請求項5】
上記電源は、上記通電の開始後、単調増加した後に一定値になる直流電圧を上記電極と上記保持部との間に与える、請求項1から4のいずれかに記載の電着塗装装置。
【請求項6】
電着塗料を貯留する槽と、
上記槽内で互いに異なる位置に配置された第1電極および第2電極と、
上記槽内で第1被塗物を保持し、導電性を有する第1保持部と、
上記槽内で第2被塗物を保持し、導電性を有する第2保持部と、
上記第1電極および上記第1保持部の間と、上記第2電極および上記第2保持部の間と、の各々に電圧を印加可能な電源部と、
上記第1電極および上記第1保持部への通電のオンおよびオフを切り替える第1切替部と、
上記第1電極および上記第1保持部に流れる第1電流の値を検出する第1電流検出部と、
上記第2電極および上記第2保持部への通電のオンおよびオフを切り替える第2切替部と、
上記第2電極および上記第2保持部に流れる第2電流の値を検出する第2電流検出部と、
制御部と、を備え、
上記制御部は、
上記第1切替部および上記第2切替部の各々をオンにして、上記第1電極および上記第1保持部への第1通電と、上記第2電極および上記第2保持部への第2通電とを開始させる開始処理と、
上記第1電流検出部および上記第2電流検出部による検出結果に基づいて、上記第1電流のピーク値および上記第2電流のピーク値を、第1ピーク値および第2ピーク値としてそれぞれ検出する検出処理と、
上記第1ピーク値および上記第2ピーク値に基づいて、上記第1通電および上記第2通電の開始から終了までの第1通電時間および第2通電時間を決定する決定処理と、
上記第1通電時間が経過したことに応じて、上記第1切替部をオフにして、上記第1電極および上記第1保持部への通電を終了させる第1終了処理と、
上記第2通電時間が経過したことに応じて、上記第2切替部をオフにして、上記第2電極および上記第2保持部への通電を終了させる第2終了処理と、を実行する電着塗装装置。
【請求項7】
上記第1保持部に保持される上記第1被塗物を、上記第2保持部に保持される上記第2被塗物とともに、上下方向において上記槽内の位置である下位置と、上記下位置より上方の位置である上位置との間で移動させる昇降機構を、さらに備え、
上記制御部は、上記通電の開始前に、上記第1保持部および上記第2保持部に保持される上記第1被塗物および上記第2保持部の双方を上記下位置に位置させ、上記第1終了処理および上記第2終了処理を実行したことに応じて、上記第1保持部に保持される上記第1被塗物および上記第2保持部に保持される上記第2保持部を上記下位置から上記上位置へと移動するように上記昇降機構を制御する、請求項6に記載の電着塗装装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電着塗装の通電制御では、電着槽内の電極と被塗物との間に電圧を印加開始後、測定電流値が予め実験等で導出した停止電流値に達した時点で停止される(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
従来の通電制御では、電圧は0Vから徐々に設定値まで上昇し、その後、設定値で概ね一定になるよう制御される。電流は、電圧が概ね設定値に到達したときにピーク電流値に達し、その後、停止電流値より若干小さい電流値に収束する。特許文献1では、ピーク電流値は被塗物の表面積により異なるが、停止電流値は被塗物の表面積によらず概ね同じとの知見に基づき、通電制御では、被塗物の表面積とは関係なく、停止電流値に達した時点で停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-228997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の通電制御では、表面積が大きく異ならない複数の被塗物であれば、被塗物の各々に適切な塗膜を形成できる。しかし、表面積が大きく異なる被塗物の各々に適切な厚さの塗膜を形成することが難しいという課題を、本件発明者は認識した。
【0006】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より多様な被塗物に適切な厚さの塗膜を形成可能な電着塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明の一形態は、電着塗装装置であって、電着塗料を貯留する槽と、上記槽内に配置された電極と、上記槽内で被塗物を保持し、且つ導電性を有する保持部と、上記電極および上記保持部の間に電気的に接続される電源と、上記電源に流れる電流を検出する電流検出部と、制御部と、を備えている。上記制御部は、上記電源による通電の開始後に、上記電流検出部による検出結果に基づいて、上記電流のピーク値を検出する検出処理と、上記ピーク値に基づいて、上記通電の通電時間を決定する決定処理と、上記通電時間が経過したことに応じて、上記通電を終了する終了処理と、を実行する。
【0008】
上記構成によれば、通電時間がピーク値に基づいて決定されるため、適切な膜厚が形成される電流値が異なる複数の被塗物にも、適切な厚さの塗膜が形成される。
【0009】
(2) 上記電源は、上記通電の開始後、単調増加した後に一定値になる直流電圧を上記電極と上記保持部との間に与える。
【0010】
上記構成によれば、検出処理で電流のピーク値を検出し易い。
【0011】
(3) 上記制御部は、複数の電流値範囲と、上記複数の電流値範囲毎に予め定められている通電時間の候補とが記録される不揮発性メモリを有している。上記制御部は、上記決定処理において、上記複数の通電時間の候補のうち、上記検出処理で検出されたピーク値に対応するものを上記通電時間として決定する。
【0012】
上記構成によれば、決定処理で通電時間を簡単に決定できる。
【0013】
(4) 上記保持部に保持される上記被塗物を、上記槽内の下位置と、上記下位置から上方の上位置との間で移動させる昇降機構を、さらに備える。上記制御部は、上記通電の開始前に、上記保持部に保持される上記被塗物が上記下位置に位置するように、上記昇降機構を制御し、上記終了処理後に、上記保持部に保持される上記被塗物が、上記下位置から上記上位置へと移動した後に上記上位置で停止するように、上記昇降機構を制御する。
【0014】
上記構成によれば、終了処理後に、不要な電着塗料が槽内に落下する。
【0015】
(5) 上記制御部は、上記終了処理の後、予め定められた固定時間から上記決定処理で決定された通電時間を減算した時間が経過するまでの間に、上記保持部に保持される上記被塗物を、上記下位置から上記上位置へと移動させて、上記上位置で停止させる。
【0016】
不要な電着塗料を槽内に落下させる時間を確保できる。
【0017】
(6) 本発明の他の形態は、電着塗装装置であって、電着塗料を貯留する槽と、上記槽内で互いに異なる位置に配置された第1電極および第2電極と、上記槽内で第1被塗物を保持し、導電性を有する第1保持部と、上記槽内で第2被塗物を保持し、導電性を有する第2保持部と、上記第1電極および上記第1保持部の間と、上記第2電極および上記第2保持部の間と、の各々に電圧を印加可能な電源部と、上記第1電極および上記第1保持部への通電のオンおよびオフを切り替える第1切替部と、上記第1電極および上記第1保持部に流れる第1電流の値を検出する第1電流検出部と、上記第2電極および上記第2保持部への通電のオンおよびオフを切り替える第2切替部と、上記第2電極および上記第2保持部に流れる第2電流の値を検出する第2電流検出部と、制御部と、を備える。上記制御部は、上記第1切替部および上記第2切替部の各々をオンにして、上記第1電極および上記第1保持部への通電と、上記第2電極および上記第2保持部への通電とを開始させる開始処理と、上記第1電流検出部および上記第2電流検出部による検出結果に基づいて、上記第1電流のピーク値および上記第2電流のピーク値を、第1ピーク値および第2ピーク値としてそれぞれ検出する検出処理と、上記第1ピーク値および上記第2ピーク値に基づいて、上記第1通電および上記第2通電の開始から終了までの第1通電時間および第2通電時間を決定する決定処理と、上記第1通電時間が経過したことに応じて、上記第1切替部をオフにして、上記第1電極および上記第1保持部への通電を終了させる第1終了処理と、上記第2通電時間が経過したことに応じて、上記第2切替部をオフにして、上記第2電極および上記第2保持部への通電を終了させる第2終了処理と、を実行する。
【0018】
上記構成によれば、第1終了処理および第2終了処理の実行タイミングは、第1通電時間および第2通電時間により定まり、電流値では定まらない。したがって、より多様な被塗物に所望の厚さの塗膜を形成できる。
【0019】
(7) 上記第1保持部に保持される上記第1被塗物を、上記第2保持部に保持される上記第2被塗物とともに、上下方向において上記槽内の位置である下位置と、上記下位置より上方の位置である上位置との間で移動させる昇降機構を、さらに備える。上記制御部は、上記通電の開始前に、上記第1保持部および上記第2保持部に保持される上記第1被塗物および上記第2保持部の双方を上記下位置に位置させ、上記第1終了処理および上記第2終了処理を実行したことに応じて、上記第1保持部に保持される上記第1被塗物および上記第2保持部に保持される上記第2保持部を上記下位置から上記上位置へと移動するように上記昇降機構を制御する。
【0020】
第1終了処理および第2終了処理の双方の実行後に、不要な電着塗料を槽内に落下させることができる。また、昇降機構は第1被塗物および第2被塗物を一緒に移動させるため、昇降機構の制御が複雑化しない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より多様な被塗物に適切な厚さの塗膜を形成可能な電着塗装装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】電着塗装装置100の構成と、各被塗物が上位置P1にあるときの様子と、を示す模式図である。
図2】電着塗装装置100の構成と、各被塗物が下位置P2にあるときの様子と、を示す模式図である。
図3】電着槽110に配置された各電極130を示す模式図であり、(A)は、同図(B)に示す線I-Iに沿う縦断面図であり、(B)は、平面図である。
図4】電着塗装装置100のブロック図である。
図5】電着塗装装置100のメインフローチャートである。
図6図5のS2(電着塗装)の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図7】グループGと、電極130との対応関係を示す図である。
図8】被塗物200の搬送経路を示す模式図である。
図9】電着塗装装置100の作用効果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は、本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0024】
[搬送方向Q,左右方向X,前後方向Y,上下方向Z]
図1図3には、矢印Q,X,Y,Zが示されている。矢印Qは、電着塗装装置100において各被塗物200がコンベヤ140により搬送される搬送方向(以下、「搬送方向Q」とも称す)を示す。矢印X,Yは、電着塗装装置100の左右方向(以下、「左右方向X」とも称す)および前後方向(以下、「前後方向Y」とも称す)を示す。左右方向Xは、搬送方向Qと直交する。搬送方向Qから電着塗装装置100を視て左方および右方は定義される。前後方向Yは、搬送方向Qに平行である。前方は、搬送方向Qと同じ方向である。矢印Zは、電着塗装装置100の上下方向(以下、「上下方向Z」とも称す)を示す。
【0025】
[電着塗装装置100]
図1図3において、電着塗装装置100は、電着槽110、付属槽120(図3(B)参照)、複数の電極130、コンベヤ140、複数のハンガ150、複数の電源・検出部U、昇降機構160、およびコントローラ170(図4参照)を備えている。なお、図1には、一部の電極130および一部の電源・検出部Uだけを示している。また、図1では、2個の電極だけに参照符号「120」が付されている。
【0026】
[電着槽110,付属槽120]
電着槽110および付属槽120の各々は、左右方向Xに細長い概ね直方体形状を有する。
【0027】
電着槽110は、槽の一例である。電着槽110は、底壁112および複数の側壁113により内部空間111(「槽内」に相当)を区画する。複数の側壁113は、前側壁114、後側壁115、左側壁116および右側壁117からなる。内部空間111の上端部は、上方に向けて開放された開口になっている。電着槽110は、内部空間111に電着塗料を貯留する。電着塗料は、樹脂・顔料等、塗膜になる塗料粒子成分を含む水溶性塗料である。電着槽110内の電着塗料には、被塗物200が浸漬される。
【0028】
図3(B)において、付属槽120の左右寸法は、電着槽110の左右寸法と概ね同じである。付属槽120は、電着槽110に対し搬送方向Q側に、前側壁114に沿って配置される。付属槽120は、自身の底壁および側壁により内部空間121を区画する。内部空間121の上端部は、上方に向けて開放された開口になっている。付属槽120は、塗装済みの被塗物200から落下した電着塗料を受ける。
【0029】
[電極130]
図1図3において、各電極130は、棒状の隔膜電極であり、内部空間111において互いに異なる位置に配置される。図3(B)において、105個の電極130は、32個の前側電極131、48個の後側電極132、12個の右側電極133、および13個の下側電極134からなる。なお、電極数は、上記以外でもよい。各前側電極131は前側壁114に沿って、各後側電極132は後側壁115に沿って、各右側電極133は右側壁117に沿って配置される。各前側電極131、各後側電極132、および各右側電極133は、上下方向Zに概ね平行に配置される。各下側電極134は、底壁112に沿って配置され、前後方向Yに概ね平行である。
【0030】
図7に示すように、105個の電極130は、複数のグループGに分けられる。詳細には、32個の前側電極131は、6個のグループG、即ち、グループG1からグループG6に分けられる。グループG1は、左端から数えて1個目から5個目までの前側電極131を含む。グループG2は、6個目から10個目までの前側電極131を含む。他のグループG3からG21は、図7に示した通りの電極130を含む。なお、図1から図3では、同一グループGに属する電極130は、破線で囲まれている。
【0031】
[コンベヤ140,ハンガ150]
図1図2において、コンベヤ140は、複数のハンガ150に取り付けられた複数の被塗物200を一括的に搬送方向Qに搬送する。各被塗物200は、導電性材料で作製され、電着塗装の対象となる物である。本実施形態では、各被塗物200は、大型の部材(住宅の梁や柱等)や小型の部材(ブレースや金具類等)であって、表面積が大きく異なる部材である。詳細には、コンベヤ140は、図8に示すように、被塗物200を、後方位置P3から、第1上方位置P41および第2上方位置P42を経由して、前方位置P5へと搬送する。後方位置P3は、電着槽110より後方且つ上方の位置である。第1上方位置P41は、電着槽110の開口の真上の位置である。第2上方位置P42は、付属槽120の開口の真上の位置である。前方位置P5は、付属槽120より前方且つ上方の位置である。なお、図1では、8個のハンガ150に、被塗物200として、合計5個の被塗物200Aから200Eが左右方向Xに並ぶように取り付けられている。
【0032】
ハンガ150の個数は8個である。8個のハンガ150の各々は、少なくとも1個の集電子151を備えている。各集電子151は接地される。また、複数のハンガ150は、保持部、第1保持部、第2保持部の一例である。複数の被塗物200は、被塗物、第1被塗物、第2被塗物の一例である。
【0033】
[電源・検出部U]
図1において、複数の電源・検出部Uの各々は、可変電源E、スイッチSWおよび電流計Aを含む。なお、図1では、1個の電源・検出部Uのみ内部構成が示されている。複数の電源・検出部Uは、21個の電源・検出部U1からU21からなる。例えば、電源・検出部U1において、可変電源E1は、+極および-極を有する。+極は、電源ラインにより、グループG1の電極130の各々と電気的に接続される。-極は、電源ラインを介して接地される。電源・検出部U1において、スイッチSW1および電流計A1は、電源ラインに設けられる。
【0034】
電源・検出部U2(図4参照)において、可変電源(図示せず)の+極は、グループG2(図3(B)参照)の電極130の各々と電源ラインにより電気的に接続され、その-極は電源ラインを介して接地される。電源・検出部U2において、スイッチおよび電流計(図示せず)は、電源ラインに設けられる。他の電源・検出部U3からU21において、可変電源(図示せず)は、グループG3からG21に電極130と電気的に接続される。他の電源・検出部U3からU21において、スイッチおよび電流計(図示せず)は、電源ラインに設けられる。
【0035】
なお、複数の電流計Aは、電流検出部、第1電流検出部、第2電流検出部の一例である。複数のスイッチSWは、切替部、第1切替部、第2切替部の一例である。
【0036】
[昇降機構160]
昇降機構160は、第1上方位置P41(図8参照)のコンベヤ140を、上位置P1および下位置P2の間で上下方向Zに移動させる。上位置P1は、上下方向Zにおいて、電着槽110よりも上方の位置である。下位置P2は、上下方向Zにおいて、上位置P1より下方であって、被塗物200の全体が電着槽110内で電着塗料に浸漬する位置である。
【0037】
[コントローラ170]
図4において、コントローラ170は、プロセッサ171、不揮発性メモリ172、およびメインメモリ173を備えており、これらは内部バス(図示せず)によって接続される。なお、コントローラ170は、制御部の一例である。不揮発性メモリ172は、電着塗装装置100の各種動作を制御するための制御プログラム174などを記憶する。プロセッサ171は、制御プログラム174をメインメモリ173を使いつつ実行する。
【0038】
不揮発性メモリ172は、テーブルデータ175を記憶する。テーブルデータ175には、複数のピーク電流値Cpの範囲(以下、「電流値範囲」とも称す)毎に、通電時間Tsが記述されている。複数の通電時間Tsは、複数の通電時間の候補に相当する。本実施形態では、複数のピーク電流値Cpは、互いに異なるピーク電流値Cp1からCp6である。ピーク電流値Cp1からCp6は、各電源・検出部Uによる通電開始後に、各ハンガ150の集電子151に流れる電流のピーク値である。各ピーク電流値Cpは、被塗物200の表面積と相関する。即ち、ピーク電流値Cpが大きいほど、対応するハンガ150により保持される被塗物200の表面積が大きい。
【0039】
複数の通電時間Tsは、通電時間Ts1からTs6である。通電時間Ts1からTs6は、テーブルデータ175においてピーク電流値Cp1からCp6に紐付けされている。各通電時間Ts1からTs6は、各可変電源Eによる通電の開始から終了までの時間であり、被塗物200の表面積(即ち、ピーク電流値Cp)に応じて適切に定められている。即ち、被塗物200と電気的に接続される集電子151にピーク電流値Cp1からCp6の電流が流れる場合、被塗物200に通電時間Ts1からTs6だけ通電させれば、被塗物200には適切な塗膜が形成される。
【0040】
ピーク電流値Cp1からCp6、および通電時間Ts1からTs6は、電着塗装装置100の設計・開発段階で、その試作機等を用いた実験やシミュレーション等により導出される。
【0041】
[電着塗装装置100の動作]
以下、図5図6を参照して、電着塗装装置100の動作、およびプロセッサ171の制御や処理について説明する。図5に示すように、電着塗装装置100の動作は、S1からS3に大別される。
【0042】
[S1,搬入・浸漬]
図5のS1で、電着塗装装置100は、被塗物200を電着槽110内に搬入し浸漬させる。詳細には、プロセッサ171は、コンベヤ140の搬送方向Qへの移動を制御する。これにより、コンベヤ140は、各ハンガ150に取り付けられた被塗物200を、上下方向Zにおいて上位置P1で、前後方向Xに後方位置P3から第1上方位置P41へと搬送する。その後、プロセッサ171は、昇降機構160の上下方向Zへの移動を制御する。これにより、昇降機構160は、コンベヤ140を、前後方向Xにおいて第1上方位置P41で、上下方向Zにおいて上位置P1から下位置P2へと搬送する。その結果、各被塗物200は、電着槽110内の電着塗料内に浸漬される。
【0043】
[S2,電着塗装]
S2で、電着塗装装置100は、電着槽110内の被塗物200に電着塗装を行う。図6に示すように、電着塗装ステップは、S21からS29を含む。
【0044】
[S21,通電開始および計時開始]
図6のS21で、プロセッサ171は、通電を開始させる。詳細には、プロセッサ171は、各スイッチSWをオフからオンに切り替え、その後、各可変電源Eから直流電圧を出力させ始める。これにより、電着槽110内で、各グループGに属する電極130と、それら電極130付近に位置する被塗物200(即ち、ハンガ150)との間で、電着塗料内の塗料粒子成分が電気泳動し始め、導電性の被塗物200に引き寄せられる。これにより、可変電源E、可変電源Eに接続された各電極130、各電極130付近の被塗物200、および、被塗物200に保持するハンガ150の集電子151を含む回路が形成される。また、各被塗物200には塗膜が形成されていく。また、プロセッサ171は、直流電圧の出力開始後、タイマ(図示せず)による計時を開始する。タイマは、直流電圧の出力開始からの経過時間をカウントする。
【0045】
[直流電流]
直流電圧の時間波形は、予め定められている。具体的には、直流電圧の初期値は、例えば0Vである。直流電圧値は、初期値から単調増加する。より詳細には、直流電圧値は、線形に増加する。直流電圧値は、非線形に増加してもよい。直流電圧値は、通電開始から予め定められた時間が経過すると、一定値になる。
【0046】
[S22,検出結果Iの取得]
S21の実行後、S22で、プロセッサ171は、各電流計Aから検出結果Iを取得する。検出結果Iは、電流計Aに対応する回路(集電子151を含む)に流れる電流値を示す信号である。本実施形態では、S21で、電流計Aとして電流計A1,A2,…A21から、検出結果Iとして検出結果I1,I2,…I21が取得される。S22で、プロセッサ171はさらに、電流計A毎に、取得した検出結果Iが示す電流値をメインメモリ173に記憶する。
【0047】
[S23およびS24,時間Tの経過後における検出結果Iの取得]
S22、または前回のS23の実行後、予め定められた時間Tが経過すると(S23)、S24で、プロセッサ171は、処理対象の電流計Aから検出結果Iを取得し、取得した検出結果Iが示す電流値をメインメモリ173に記憶する。処理対象の電流計Aは、電着塗装の開始直後は、全ての電流計Aであるが、時間経過により減少していく。
【0048】
[S25,変化量ΔIの導出]
S25で、プロセッサ171はさらに、処理対象の電流計A毎に、ΔI(=I2-I1)をΔIを導出しメインメモリ173に記憶する。I1は、直近の電流値(以下、「電流値I1」とも称す)である。I2は、直近の電流値I1の前の電流値(以下、「電流値I2」とも称す)である。ΔIは、対応する電流ループに流れる電流の時間Tにおける変化量(以下、「変化量ΔI」とも称す)である。
【0049】
[S26,変化量ΔIの判定]
S26で、プロセッサ171は、S25で導出した変化量ΔI(換言すると電流計A)を一つ選択し、予め定められた負の値である変化量閾値Ithに、選択した変化量ΔIが到達したか否かを判定する。プロセッサ171は、Yesと判定した場合、S27を実行し、Noと判定した場合、S29を実行する。
【0050】
[S27,ピーク電流値Cpの検出,通電時間Tsの決定]
S27で、プロセッサ171は、S25で変化量ΔIの導出に用いた電流値I2を、ピーク電流値Cpとして決定する。なお、ピーク電流値Cpは、概ね、直流電圧が線形増加から一定値に変化した直後に検出される。プロセッサ171はさらに、テーブルデータ175から、決定したピーク電流値Cpが含まれる電流値範囲に紐付けされた通電時間Tsを読み出す。プロセッサ171はさらに、読み出した通電時間Tsを、処理対象の電流計Aが接続された可変電源Eの通電時間Tsとしてメインメモリ173に記憶する。プロセッサ171はさらに、S26で選択した電流計Aを、今後実行されるS23~S25での処理対象の電流計Aから外す。
【0051】
S23からS27までの処理は、全ての電流計Aに接続された可変電源Eの通電時間Tsをメインメモリ173に記憶するまで繰り返し実行される。その後、プロセッサ171は、S28を実行する。
【0052】
[S28,通電時間Ts経過の判定]
S28で、プロセッサ171は、S27で決定した通電時間Tsから、未選択の通電時間Tsを一つ選択する。即ち、プロセッサ171は、回路を一つ選択する。プロセッサ171は、選択した通電時間Tsが経過したか否かを判定する。即ち、プロセッサ171は、タイマによりカウントされる経過時間が、選択した通電時間Tsを超えているかを判定する。プロセッサ171は、Yesと判定した場合、S29を実行し、Noと判定した場合、S28を実行する。
【0053】
[S29,通電終了]
S29で、プロセッサ171は、選択した回路への通電を終了する。S29では、選択した回路内のスイッチSWがオンからオフに切り替えられ、選択した回路内の可変電源Eから直流電圧を出力することが停止される。これにより、選択した回路内の被塗物200に適切な塗膜が形成される。S29で、プロセッサ171はさらに、S27で選択した通電時間Tsを、今後実行されるS28での選択対象から外す。
【0054】
S28からS29までの処理は、全ての回路への通電が終了するまで繰り返し実行される。全ての回路への通電が終了すると、プロセッサ171は、電着塗装(即ち、図6の処理、図5のS2)を終了する。
【0055】
[S3,引き上げ・停止(垂切れ)]
図5のS3で、電着塗装装置100は、被塗物200を電着槽110から引き上げて停止させる。詳細には、プロセッサ171は、昇降機構160の上下方向Zへの移動を制御する。これにより、昇降機構160は、コンベヤ140を、搬送方向Q(即ち、前後方向X)において第1上方位置P41(図8参照)で、上下方向Zにおいて下位置P2から上位置P1へと搬送する。その結果、各被塗物200は、電着槽110内の電着塗料内から引き上げられる。プロセッサ171は、上位置P1への搬送後すぐに、コンベヤ140により各被塗物200を搬送方向Qへと搬送させるのではない。プロセッサ171は、搬送方向Qにおいて第1上方位置P41で所定時間(詳細は後述)の間、各被塗物200を停止させる。
【0056】
[S4,搬出]
S4で、電着塗装装置100は、所定時間の経過後、各被塗物200を第1上方位置P41から第2上方位置P42を経由して前方位置P5へと搬出する。
【0057】
[所定時間]
本実施形態では、電着塗装装置100は、タクト方式により電着塗装を行う。タクト方式では、S1の開始からS4の終了までのタクト時間は固定値(例えば、300秒)であり、図5のS1の開始から終了までの時間(以下、「所要時間」とも称す)、およびS4の所要時間も、予め定められている固定値である。具体例を挙げると、S1,S4の所要時間の合計は、例えば約144秒である。したがって、S2,S3の所要時間の合計は、例えば約156秒である。但し、全回路への通電開始(図6のS21)から、最後の回路への通電終了(図6のS29)までの時間は、変動値であり、通電時間Ts1からTs6のいずれかである。所定時間は、S27で決定された通電時間Tsに応じて変わりうる変動値である。即ち、電着塗装装置100では、S2,S3の所要時間の合計(固定時間の一例)から、最長の通電時間Tsを減算した時間が経過するまでの間、被塗物200は、上下方向Zにおいて上位置P1且つ前後方向Xにおいて第1上方位置P41で停止させる。
【0058】
[電着塗装装置100の作用効果]
図9(A)に示すように、従来の通電制御では、被塗物の表面積とは関係なく、停止電流値に達した時点で通電は停止される。しかし、本件出願人のような住宅製造業者は、大型の部材(住宅の梁や柱等)から小型の部材(ブレースや金具類等)に至る様々な被塗物に電着塗装を一括的に行うことがある。この種の電着塗装では、図9(B)に示すように、小型部材のピーク電流値が大型部材の停止電流値以下になる場合がある。小型部材の停止電流値は、当然に大型部材の停止電流値と大きく異なる。したがって、従来の通電制御でこの種の電着塗装を行うと、小型部材および大型部材の少なくともいずれか一方に適切な塗膜を形成できない。それに対し、本実施形態に係る電着塗装装置100によれば、通電時間Tsがピーク電流値Cpに基づいて決定されるため、停止電流値にかかわらず、表面積が大きく異なる複数の被塗物200にも、適切な厚さの塗膜が形成される。
【0059】
また、電着塗装装置100によれば、複数の回路への通電を個別的に制御するため、表面積が大きく異なる複数の被塗物200に適切な厚さの塗膜を一括的に形成できる。
【0060】
電着塗装装置100は、通電開始後、単調増加した後に一定値になる直流電圧を、各グループGに属する電極130と、その付近に位置する被塗物200との間に与える。これにより、図6のS27で、ピーク電流値Cpを検出し易くなる。
【0061】
図6のS27において、処理対象の電流計Aが接続された可変電源Eの通電時間Tsは、テーブルデータ175から読み出されるため、複雑な演算を行うことなく、通電時間Tsが簡単に決定できる。
【0062】
図5のS3で、電着塗装装置100は、タクト方式により、上下方向Zにおいて上位置P1且つ前後方向Xにおいて第1上方位置P41で所定時間の間、各被塗物200を停止させる。これによれば、各被塗物200に付着する不要な電着塗料が付属槽120に落下させる時間を確保できる。
【0063】
[電着塗装装置100の変形例]
実施形態では、複数の電極130は、複数のグループGに分けられていた。電着塗装装置100は、複数の電源・検出部Uを備えていた。しかし、これに限らず、複数の電極105は、グループ分けされなくともよいし、電源・検出部Uの数は1個でもよい。
【0064】
通電時間Tsは、直流電圧の出力開始時を始期とする時間であった。また、図6のS28では、プロセッサ171は、タイマにより、直流電圧の出力開始からの経過時間が通電時間Tsを超えているか否かを判定していた。しかし、これに限らず、通電時間Tsは、ピーク電流値Cpの検出時を始期とする時間でもよい。また、図6のS28では、プロセッサ171は、タイマにより、ピーク電流値Cpの検出時からの経過時間が通電時間Tsを超えているか否かを判定してもよい。
【0065】
実施形態では、S25で変化量ΔIの導出に用いた電流値I2を、ピーク電流値Cpとして決定する。しかし、これに限らず、直流電圧が初期値から一定値になるまでの時間より若干長い時間の間、プロセッサ171は、電流計Aの各々から検出結果Iを定期的に取得する。プロセッサ171は、同一電流計Aから取得した複数の検出結果Iのうち、最大値を有する検出結果Iをピーク電流値Cpとして決定してもよい。
【0066】
プロセッサ171は、直流電圧の印加開始から、電流計Aの各々から検出結果Iを定期的に取得する。詳細には、プロセッサ171は、0.2秒毎に各検出結果Iを不揮発性メモリ172に記憶する。プロセッサ171は、同じ電流計Aから取得した最近10回分の検出結果Iの平均電流値を、全ての電流計Aについて算出する。プロセッサ171は、平均電流値より最新の検出結果Iが低い値になった場合に、1回前の検出結果Iをピーク電流値Cpとしてもよい。
【0067】
本実施形態では、電着塗装装置100は、タクト方式(すべての被塗物200の移動と加工が同期して繰り返される)により電着塗装を行っていた。しかし、これに限らず、電着塗装装置100は、ライン方式(被塗物200が移動するにつれて加工が進んでいく方式)であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
100・・・電着塗装装置
110・・・電着槽
120・・・付属槽
130・・・電極
140・・・コンベヤ
150・・・ハンガ
151・・・集電子
U,U1~U21・・・電源・検出部
A,A1~A21・・・電流計
E,E1~E21・・・可変電源
SW,SW1~SW21・・・スイッチ
160・・・昇降機構
170・・・コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9