(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 91/00 20060101AFI20240918BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240918BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240918BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240918BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08L91/00
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K7/02
C09K5/14 E
(21)【出願番号】P 2020166223
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115356(JP,A)
【文献】特開2018-129377(JP,A)
【文献】特表2010-524236(JP,A)
【文献】特開2020-196861(JP,A)
【文献】特開2021-143249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 91/00-91/08
C08L 101/00-101/16
C08L 63/00-63/10
C08K 3/00-13/08
C09K 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含む熱伝導性組成物であって、
前記基油組成物は、基油と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ナノ繊維状物質と、を含有し、
前記基油組成物に含有される基油と、熱硬化性樹脂と、の合計含有量が、前記無機粉末充填剤100質量部に対して5.3質量部以上33.3質量部以下の割合であり、
前記基油の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して1400質量部以上5500質量部以下の割合であり、
前記無機粉末充填剤が、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上を含有し、
前記基油100質量部に対し、前記ナノ繊維状物質を0.01質量部以上10質量部以下の割合で含有する
熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂及びメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上である
請求項
1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂であり、
前記硬化剤が、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤及び酸系硬化剤から選ばれる少なくとも1種以上である
請求項
2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記ナノ繊維状物質が、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、酸化亜鉛ナノワイヤー及びアルミナナノワイヤーからなる群より選択される少なくとも1種以上である
請求項1から
3のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記無機粉末充填剤は、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤及び該第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有し、
前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たす
請求項1から
4のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
D
2/D
1<0.70・・・(1)
D
3/D
2<0.60・・・(2)
[式中:D
1は第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D
2は第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D
3は第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【請求項6】
前記第2無機粉末充填剤の平均粒子径は1μm以上50μm以下の範囲であり、
前記第3無機粉末充填剤の平均粒子径は0.1μm以上5μm以下の範囲である
請求項
5に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
無機粉末充填剤100質量部に対し、前記第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、前記第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、前記第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有する
請求項
5又は
6に記載の熱伝導性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部品と放熱部品の間に塗布して用いられる熱伝導性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体素子や機械部品等の発熱部品は、発熱部品から生じる熱を放熱するために、ヒートシンクなどの放熱部品が取り付けられる。この放熱部品への熱の伝達を効率よく行う目的で、発熱部品と放熱部品との間に熱伝導性部材を挟んで用いている。この熱伝導性部材には、固体状の熱伝導性シートや、液体状の熱伝導性組成物、液体状から固体状に変化する硬化型熱伝導性組成物などの種類があり、用途に応じて使い分けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα-オレフィンとのコポリマーからなる基油と、熱伝導性充填剤と、を含有する熱伝導性組成物が開示されている。特許文献1には、この熱伝導性組成物は、高い熱伝導性と、良好なディスペンス性および圧縮性と、を有することが記載されている。
【0004】
しかしながら、このような熱伝導性組成物は常温でペースト状であり加圧により流動するため、薄膜上に塗布しやすく密着性に優れるものの、発熱と放熱の繰り返しにより発熱部品等の膨張、収縮により塗布部分から流出しやすく耐ポンプアウト性に劣るという課題がある。なお、ポンプアウトとは塗布部分から熱伝導性組成物がはみ出し、その内部にボイド(空隙)が発生して良好な熱伝導率を維持できなくなる現象をいう。
【0005】
これらの欠点を克服するために常温では固体でありながら、発熱部品に組み込まれた後は、吸熱し軟化することで被着体に密着し、熱抵抗を低くできる性質を有する熱伝導性組成物の開発が進められている(例えば、特許文献2~4)。
【0006】
しかしながら、上記に示した従来技術では、耐熱性や耐ポンプアウト性が不十分であったりする場合があった。また、シロキサン成分を含む為、接点障害の誘発等が懸念される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4713161号
【文献】特開2001-89756号公報
【文献】特開2004-75760号公報
【文献】特開2007-150349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ポンプアウトの発生も効果的に抑制することができる熱伝導性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、所定量のナノ繊維状物質を含有する熱伝導性組成物であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1は、基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含む熱伝導性組成物であって、前記基油組成物は、基油と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ナノ繊維状物質と、を含有し、前記基油100質量部に対し、前記ナノ繊維状物質を0.01質量部以上10質量部以下の割合で含有する熱伝導性組成物である。
【0011】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記基油組成物に含有される基油と、熱硬化性樹脂と、の合計含有量が、前記無機粉末充填剤100質量部に対して5.3質量部以上33.3質量部以下の割合であり、前記基油の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して1400質量部以上5500質量部以下の割合である熱伝導性組成物である。
【0012】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂及びメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上である熱伝導性組成物である。
【0013】
(4)本発明の第4は、第3の発明において、前記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂であり、前記硬化剤が、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤及び酸系硬化剤から選ばれる少なくとも1種以上である熱伝導性組成物である。
【0014】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記ナノ繊維状物質が、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、酸化亜鉛ナノワイヤー及びアルミナナノワイヤーからなる群より選択される少なくとも1種以上である熱伝導性組成物である。
【0015】
(6)本発明の第6は、第1から第5のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤は、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、該第1無機粉末充填剤及び該第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有し、
前記無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たす熱伝導性組成物である。
D2/D1<0.70・・・(1)
D3/D2<0.60・・・(2)
[式中:D1は第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D2は第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D3は第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【0016】
(7)本発明の第7は、第6の発明において、前記第2無機粉末充填剤の平均粒子径は1μm以上50μm以下の範囲であり、前記第3無機粉末充填剤の平均粒子径は0.1μm以上5μm以下の範囲である熱伝導性組成物である。
【0017】
(8)本発明の第8は、第6又は第7の発明において、無機粉末充填剤100質量部に対し、前記第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、前記第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、前記第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有する熱伝導性組成物である。
【0018】
(9)本発明の第9は、第1から第8のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤が、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種以上を含有する熱伝導性組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポンプアウトの発生を効果的に抑制することができる熱伝導性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「~」との表記は、「以上」「以下」を意味する。
【0021】
≪熱伝導性組成物≫
本実施の形態に係る熱伝導性組成物は、基油組成物と、無機粉末充填剤と、を含有する。そして、基油組成物においては、基油と、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ナノ繊維状物質を含有し、基油100質量部に対し、ナノ繊維状物質を0.01質量部以上10質量部以下の割合で含有していることを特徴としている。
【0022】
所定量の基油とナノ繊維状物質を含有する基油組成物を使用することで、室温での例えば発熱部品に対する十分な塗布性を有することとなる。また、発熱部品や放熱部品との密着性が高く、それらの隙間に均一に拡がる。
【0023】
さらに、熱伝導性組成物に含有される熱硬化性樹脂が重合する温度まで加熱される際に、塗布された熱伝導性組成物の流動性が一時的に高まってさらに均一に拡がるようになる。
【0024】
そして、熱硬化性樹脂が重合する温度に達すると、基油組成物に含まれる熱硬化性樹脂及び硬化剤の重合反応が進行しネットワーク状に硬化樹脂が形成される。一方、基油組成物に含まれる基油は、このネットワーク状に形成された硬化樹脂に囲まれた状態で捕捉される。さらに、この熱伝導性組成物は、所定量のナノ繊維状物質を含有しており、これにより、高温時での熱伝導性組成物のレオロジー特性の変化を抑制することが可能となる。これにより、熱伝導性組成物は発熱部品と放熱部品との密着性を維持した状態で柔軟性を有するとともに、高温時での熱伝導性組成物のレオロジー特性の変化が抑制された硬化物となることで基油の流出を防ぐことができ、ポンプアウトを効果的に抑制することができる。
【0025】
また、この熱伝導性組成物は、発熱部品や放熱部品との密着性を高めた状態で均一に拡がるために展性が高いことが好ましい。具体的には、膜厚0.5mmに塗布した熱伝導性組成物に、室温で0.1MPaの圧力を加えたときの膜厚が200μm以下となることが好ましく、150μm以下となることがより好ましく、100μm以下となることがさらに好ましい。これにより、発熱部品や放熱部品との間隔が狭くなり、熱抵抗をより低くすることができ、熱伝導効率を向上させることができる。
【0026】
以下、熱伝導性組成物に含まれる基油組成物と、無機粉末充填剤と、について説明する。
【0027】
<1-1.基油組成物>
基油組成物は少なくとも基油と、熱硬化性樹脂と、ナノ繊維状物質と、を含有する。基油組成物に含有される各成分について説明する。
【0028】
(1)基油
基油としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油等の炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油等が挙げられる。中でも、鉱油、合成炭化水素油等の炭化水素系基油、エステル系基油及びエーテル系基油から選ばれる少なくとも1種以上を含有する基油を用いるのが好ましい。
【0029】
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化等の精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油等を用いることができる。基油に用いられる鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
【0030】
炭化水素系基油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン又はこれらの水素化物等を単独で、もしくは2種以上を混合して使用することができる。中でもポリ-α-オレフィンがより好ましい。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0031】
エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4以上36以下の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4以上26以下の一価アルコール残基が好ましい。ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。エステル部を構成するカルボン酸残基は、炭素数4以上26以下のモノカルボン酸残基が好ましい。
【0032】
エーテル系基油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテル等が挙げられる。ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体等が挙げられる。(ポリ)フェニルエーテルとしては、モノアルキル化ジフェニルエーテル、ジアルキル化ジフェニルエーテル等のアルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテル等のアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキル化ペンタフェニルエーテル、ジアルキル化ペンタフェニルエーテル等のアルキル化ペンタフェニルエーテル等が挙げられる。
【0033】
基油の動粘度は、40℃で10mm2/s以上1200mm2/s以下であることが好ましい。40℃における動粘度を10mm2/s以上とすることで、高温下での基油の蒸発や離油等が抑制される傾向にあるため好ましい。また、40℃における動粘度を1200mm2/s以下とすることで熱伝導性組成物の塗布性(取り扱い性)を向上させることができる。
【0034】
(2)熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂とは、加熱されることで重合反応が進行して硬化する高分子である。熱硬化性樹脂を熱伝導性組成物中に含有させることで、加熱によって熱伝導性組成物を均一に拡がった状態にした後に硬化物とすることができるため、ネットワーク化した硬化樹脂により基油の流出を防ぐことができ、ポンプアウトを効果的に抑制することができる。
【0035】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂及びメラミン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むものが挙げられる。その中でもエポキシ系樹脂を含むものであることが好ましい。エポキシ系樹脂を含むものであることにより、熱伝導性組成物の耐熱性が向上し、さらに、発熱部品や放熱部品との密着性を高めることができる。
【0036】
エポキシ系樹脂としては、特に限定はされず、例えば、(1)ビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ系樹脂、(2)フェノールノボラック型エポキシ系樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ系樹脂等の多官能エポキシ系樹脂、(3)ナフタレン型エポキシ系樹脂、等が挙げられ、これらの樹脂を組み合わせて用いてもよい。好ましいエポキシ系樹脂の例としては、DIC(株)製エピクロン(登録商標)850、エピクロン900-IM、エピクロンEXA-4816、エピクロンEXA-4822、東都化成(株)製エポトート(登録商標)YD-134、三菱ケミカル(株)製JER(登録商標)834、JER825、JER828、JER872、JER154、JER152住友化学工業(株)製ELA-134等のビスフェノールA型エポキシ系樹脂;DIC(株)製エピクロンHP-4032等のナフタレン型エポキシ系樹脂;DIC(株)製エピクロンN-670等のクレゾールノボラック型エポキシ系樹脂;DIC(株)製エピクロンN-740等のフェノールノボラック型エポキシ系樹脂等である。これらのエポキシ系樹脂は1種類を用いるか、または2種類以上を併用することができる。またさらにテトラブロモビスフェノールA型エポキシに代表される難燃型エポキシ系樹脂を上述のエポキシ系樹脂に併せて用いることもできる。
【0037】
(3)硬化剤
硬化剤は、熱硬化性樹脂と反応して熱硬化性樹脂の硬化物を形成する。硬化剤としては熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ系樹脂を使用する場合には、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤及び酸系硬化剤から選ばれる少なくとも1種以上を含有するものが好ましい。
【0038】
アミン系硬化剤とは、アミノ基を有する硬化剤である。アミン系硬化剤としては、1分子内中に1個以上のアミノ基を有する硬化剤が挙げられ、例えば、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環族アミン類、芳香族アミン類等が挙げられる。アミン系硬化剤は、第1級アミン又は第2級アミンが好ましく、第1級アミンがより好ましい。アミン系硬化剤の具体例としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、ジフェニルジアミノスルホン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンジアミン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、等が挙げられる。アミン系硬化剤は市販品を用いてもよく、例えば、日本化薬社製の「KAYABOND C-200S」、「KAYABOND C-100」、「カヤハードA-A」、「カヤハードA-B」、「カヤハードA-S」、三菱ケミカル社製の「ST11」、「ST12」、「YN100」、「RC14」等が挙げられる。
【0039】
酸無水物系硬化剤とは、酸無水物基を有する硬化剤である。酸無水物系硬化剤としては、1分子内中に1個以上の酸無水物基を有する硬化剤が挙げられる。酸無水物系硬化剤の具体例としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンソフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3′-4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオン、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、スチレンとマレイン酸とが共重合したスチレン・マレイン酸樹脂などのポリマー型の酸無水物などが挙げられる。酸無水物系硬化剤の市販品としては、新日本理化社製の「HNA-100」、「MH-700」、「MTA-15」、「DDSA」、「HF-08」、「OSA」、三菱ケミカル社製の「YH306」、「YH307」、三菱ガス化学社製の「H-TMAn」、日立化成社製の「HN-2200」、「HN-2000」、「HN-5500」、「MHAC-P」等が挙げられる。
【0040】
硬化剤の含有量は、特に制限されないが、熱硬化性樹脂100質量部に対して50質量部以上150質量部以下であることが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂の重合反応がより効果的に進行させることが可能となって、ポンプアウトを効果的に抑制することができる。
【0041】
(4)ナノ繊維状物質
ナノ繊維状物質とは、直径が10nm未満であるナノサイズの繊維を有するものをいう。本発明者らの研究により、ナノ繊維状物質を所定量含有するものを用いることにより、グリース状の熱伝導性組成物の粘度を適切な値にすることができ、熱伝導性組成物のポンプアウトを効果的に抑制できることが明らかとなった。その理由は必ずしも明らかではないが、ナノ繊維状物質を含有することで高温時での熱伝導性組成物のレオロジー特性の変化を抑制するためであると考えられる。
【0042】
さらに、ナノ繊維状物質は、熱伝導性が高く、熱伝導性組成物における熱伝導性の向上効果をも有する。このため、ナノ繊維状物質を含有する本実施の形態に係る熱伝導性組成物であれば、熱伝導性組成物中の無機粉末充填剤の含有量を少なくした状態で十分な熱伝導性が得られる。
【0043】
ナノ繊維状物質としては、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、などのナノ炭素繊維状物質や、酸化亜鉛ナンワイヤー、アルミナナノワイヤー等のナノ無機繊維状物質を挙げることができる。
【0044】
ナノ繊維状物質は、基油100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下の割合で含有する。ナノ繊維状物質を基油100質量部に対して0.01質量部以上の割合で含有することにより、ポンプアウトを効果的に抑制することができる。ナノ繊維状物質を基油100質量部に対して10質量部以下の割合で含有することにより、熱伝導性組成物の柔軟性が向上して、発熱部品や放熱部品との密着性を高めた状態で空隙が生じることなく熱伝導性組成物が均一に拡がるようになる。
【0045】
(5)その他の添加剤
熱伝導性組成物の各種特性を高めるために、硬化促進剤、溶剤(希釈溶剤)、チクソトロピー調整剤、酸化防止剤、拡散防止剤、分散剤、及び密着性付与剤から選ばれる一種以上を含む添加剤を更に含有させることができる。
【0046】
硬化促進剤は、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応を促進させる。硬化促進剤としては、特に限定はされない。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ系樹脂を使用する場合には、イミダゾール化合物、三フッ化ホウ素化合物、有機ホスフィン化合物等が挙げられる。
【0047】
イミダゾール化合物とは、イミダゾール構造を含む化合物である。イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾール等が挙げられる。
【0048】
三フッ化ホウ素化合物とは、三フッ化ホウ素構造を含む化合物である。三フッ化ホウ素化合物としては、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯化合物、三フッ化ホウ素・トリエチルアミン錯化合物、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯化合物、三フッ化ホウ素・n-ブチルエーテル錯化合物、三フッ化ホウ素・アミン錯化合物等が挙げられる。
【0049】
有機ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられる。
【0050】
溶剤(希釈溶剤)は、熱伝導性組成物の粘度を、必要に応じて調整する際に用いることができる。粘度が調整された熱伝導性組成物であれば、例えばスクリーン印刷等の従来公知の塗布法を用いて部品に対して塗布することが可能になるなど、取り扱い性が向上する。
【0051】
溶剤としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2,4-ジメチル―3-ペンタノール、3-ペンタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テキサノール、ジエチレングリコール、エチレングリコールジブチラート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキシルグリコール、メチルプロピルトリグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、フェニルプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、リモネン、メチルエチルケトン、アセトン、アセトニトリル、トルエン、メチルセロソルブ、メチルカルビトール、2,4,4-トリメチル-1,3-ペンタジオール-1-モノイソブチレート等を例示する事ができる。これらは、単独で或いは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
チクソトロピー調整剤は、例えば、有機処理ベントナイト、有機処理セピオライト、ウレア化合物、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル等を挙げることができる。
【0053】
酸化防止剤は、基油組成物に含まれる基油の酸化を防止する。酸化防止剤は、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、イオウ系、リン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、HALS等の化合物が挙げられる。
【0054】
分散剤は、例えば、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、脂肪酸エステルのようなカルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、カルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物を併用することが好ましい。
【0055】
密着性付与剤としては、例えば、ロジン粘着付与樹脂、重合ロジン粘着付与樹脂、重合ロジンエステル粘着付与樹脂、ロジンフェノール粘着付与樹脂、安定化ロジンエステル粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル粘着付与樹脂、水添ロジンエステル粘着付与樹脂、テルペン粘着付与樹脂、テルペンフェノール粘着付与樹脂、石油樹脂粘着付与樹脂等、公知の物質を使用する事ができる。
【0056】
その他の添加剤の含有量としては、基油組成物100質量部に対して0質量部より多く、20質量部未満であることが好ましい。
【0057】
<1-2.無機粉末充填剤>
無機粉末充填剤は、熱伝導性組成物に高い熱伝導性を付与する。本実施の形態に係る熱伝導性組成物に用いられる無機粉末充填剤は、1種類の平均粒径の無機粉末充填剤を用いてもよいし、平均粒径の異なる無機粉末充填剤を複数用いてもよい。
【0058】
平均粒径の異なる無機粉末充填剤を複数用いる場合、例えば、平均粒子径が10μm以上100μm以下の範囲にある第1無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第2無機粉末充填剤と、第1無機粉末充填剤及び第2無機粉末充填剤とは平均粒子径が異なる第3無機粉末充填剤と、を含有する3種類の平均粒径の異なる無機粉末充填剤を用いることができる。
【0059】
そして、無機粉末充填剤の平均粒径が以下の関係式(1)、(2)を満たすことが好ましい。
D2/D1<0.70・・・(1)
D3/D2<0.60・・・(2)
[式中:D1は第1無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D2は第2無機粉末充填剤の平均粒径を表し、D3は第3無機粉末充填剤の平均粒径を表す。]
【0060】
所定の平均粒径の関係を有する第1、第2及び第3の無機粉末充填剤を含有することにより、流動性を損なうことなく、無機粉末充填剤の粒子間の隙間に入り込む基油を減らすことが可能となる。そのため、無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性組成物をさらに均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0061】
第2無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされないが、1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性組成物をより均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0062】
第3無機粉末充填剤の平均粒子径は上記の関係式を満たすのであれば特に制限はされないが、0.1μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。これにより、無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性組成物をより均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0063】
第1、第2及び第3の無機粉末充填剤のそれぞれの含有量は、特に制限されるものではないが、無機粉末充填剤100質量部に対して第1無機粉末充填剤を40質量部以上80質量部以下の割合で含有し、第2無機粉末充填剤を10質量部以上50質量部以下の割合で含有し、第3無機粉末充填剤を10質量部以上40質量部以下の割合で含有することが好ましい。第1、第2及び第3の無機粉末充填剤のそれぞれの含有量がこのような範囲であることにより、無機粉末充填剤の含有量を増やした状態で熱伝導性組成物をさらになお均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0064】
本実施の形態に係る熱伝導性組成物に用いられる無機粉末充填剤の種類は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金も含む。)、ケイ素化合物などの粉末が好適に用いられる。無機粉末充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0065】
電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素の粉末が特に好ましい。これらの無機粉末充填剤をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0066】
無機粉末充填剤として金属を用いる場合、銅、アルミニウム等の粉末を用いることができる。
【0067】
なお、第1、第2及び第3の無機粉末充填剤は、所定の平均粒子径を有する無機粉末充填剤であることを意味し、異なる材料の無機粉末充填剤を含んでいてもよい。例えば第1の無機粉末充填剤は、平均粒子径が同じであれば一種の材料からなる無機粉末充填剤であってもよいし、2種以上の材料からなる無機粉末充填剤であってもよい。第2及び第3の無機粉末充填剤についても同様である。
【0068】
また、本実施の形態に係る熱伝導性組成物は上記第1、第2及び第3の無機粉末充填剤以外の平均粒径の異なる無機粉末充填剤を含有してもよい。しかしながら、本実施の形態に係る熱伝導性組成物に含有される第1、第2及び第3の無機粉末充填剤の含有量は、無機粉末充填剤100質量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが更に尚好ましく、100質量%であること(すなわち、上記第1、第2及び第3の無機粉末充填剤以外の平均粒径の異なる無機粉末充填剤を含有しないこと。)が最も好ましい。
【0069】
なお、本実施の形態に係る熱伝導性組成物において、無機粉末充填剤の平均粒径はレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)により測定した粒度分布の体積平均径として算出できる。
【0070】
無機粉末充填剤の含有量は熱伝導性組成物100質量%に対して50質量%以上93質量%以下の割合で含有することが好ましく、60質量%以上90質量%以下の割合で含有することがより好ましい。50質量%以上であることにより熱伝導性組成物自体の熱伝導性を十分高くすることができ、また基油の流出を防ぐことができ、ポンプアウトを効果的に抑制することができる。一方、93質量%以下であることによりちょう度の低下を抑制し、熱伝導性組成物をより均一に拡がるようにすることが可能となる。
【0071】
≪2.各成分の配合比≫
基油組成物に含有される基油と、熱硬化性樹脂と、の合計含有量は、無機粉末充填剤100質量部に対して5.3質量部以上33.3質量部以下の割合であることが好ましい。これにより、基油の流出を防ぐための十分な硬化樹脂が得られることとなり、ポンプアウトをより効果的に抑制することができる。
【0072】
基油の含有量としては、熱硬化性樹脂100質量部に対して1400質量部以上5500質量部以下の割合であることが好ましい。これにより、熱伝導性組成物の塗布性(取り扱い性)を向上させることができる。
【0073】
≪3.熱伝導性組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る熱伝導性組成物の製造に関しては、均一に成分を混合できればその方法は特に限定されない。一般的な製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
1.熱伝導性組成物の製造
下記(A)~(E)に示す各材料を用い、下記表1、2に示す組成の熱伝導性組成物を製造した。
【0076】
(構成成分)
(A)無機粉末充填剤
(A)-1:第1無機粉末充填剤
アルミナ1-1:平均粒子径=40μm
アルミナ1-2:平均粒子径=30μm
アルミナ1-3:平均粒子径=50μm
アルミナ1-4:平均粒子径=70μm
【0077】
(A)-2:第2無機粉末充填剤
アルミナ2-1:平均粒子径=8μm
アルミナ2-2:平均粒子径=15μm
アルミナ2-3:平均粒子径=20μm
酸化亜鉛1:平均粒子径=10μm
【0078】
(A)-3:第3無機粉末充填剤
アルミナ3-1:平均粒子径=0.53μm
アルミナ3-2:平均粒子径=0.83μm
アルミナ3-3:平均粒子径=0.18μm
酸化亜鉛2:平均粒子径=0.60μm
【0079】
なお、各無機粉末充填剤の平均粒径は、粒子径分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)を用いてレーザー回折散乱法(JIS R 1629:1997に準拠)にて測定した。
【0080】
(B)基油
(B)-1:ジペンタエリスリトールイソノナン酸エステル(エステル系基油)
(B)-2:トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル(エステル系基油)
(B)-3:トリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル(エステル系基油)
【0081】
(C)熱硬化性樹脂
(C)―1:ビスフェノールA型エポキシ系樹脂とフェノールノボラック型エポキシ系樹脂の混合物。混合割合は、ビスフェノールA型エポキシ系樹脂100質量部に対してフェノールノボラック型エポキシ系樹脂を40質量部含む混合物を熱硬化性樹脂として用いた。
【0082】
(D)硬化剤
(D)-1:無水ピロメリット酸(酸無水物系硬化剤)
【0083】
(E)ナノ繊維状物質
(E)-1:カーボンナノチューブ(直径1.5~2nm)
(E)-2:セルロースナノファイバー(直径3~4nm)
【0084】
(F)分散剤
(F)-1:酸系炭化水素ポリマー
(F)-2:高級脂肪酸エステル
【0085】
(G)熱可塑性樹脂
(G)-1:アクリル樹脂(東亜合成UC-3000)
【0086】
下記表に示す組成で、材料(A)~(F)をプラネタリーミキサーにて混合し、1時間混錬しながら真空脱泡し、熱伝導性組成物を得た。
【0087】
2.評価
[熱伝導率評価]
上記により製造した実施例及び比較例の熱伝導性組成物について熱伝導率を測定した。具体的には、過渡熱測定装置(ASTMD5470準拠)を用いて室温にて熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率を測定した。評価結果を表に示す(表中、「熱伝導率」と表記)。
【0088】
[展性評価]
上記により製造した実施例及び比較例の熱伝導性組成物について展性を評価した。具体的には、膜厚が0.5mmの熱伝導性組成物を室温下で0.1MPaの圧力を加えて押しつぶした時の熱伝導性組成物の膜厚を測定した。評価結果を表に示す(表中、「展性」と表記。)
【0089】
[サイクル試験評価]
上記により製造した実施例及び比較例の熱伝導性組成物についてサイクル試験を行った。具体的には、アルミニウム板上にシリコーン樹脂製の型枠を設置し、実施例及び比較例の熱伝導性組成物を流し入れた。次に、0.5mmのスペーサーを設けスライドガラスをかぶせ、熱伝導性組成物を挟持した。このとき、熱伝導性組成物の直径は10mmであり、膜厚は0.5mmであった。
【0090】
その後、アルミニウム板とスライドガラスで挟持された熱伝導性組成物を加熱炉に装入し、80℃で1時間加熱し、続けて170℃で1時間加熱して熱伝導性組成物を加熱硬化させて硬化物を得た。冷却後、型枠を取り外す事で膜厚0.5mmの硬化物からなる試験片を得た。
【0091】
次にこの試験片を、0℃と100℃(各30分)を交互に繰り返すようにセットされたヒートサイクル試験機の中に地面から垂直に配置し、1000サイクル試験を行った。1000サイクル後、熱伝導性組成物の硬化物が元の場所から移動した距離(mm)を測定した。評価結果を表に示す(表中、「サイクル試験」と表記)。
【0092】
【0093】
【0094】
表1、2から分かるように、実施例1~27の熱伝導性組成物は、サイクル評価試験で元の場所から移動した距離も小さいものであった。このことから、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ナノ繊維状物質と、を含有し、基油100質量部に対し、ナノ繊維状物質を0.01質量部以上10質量部以下の割合で含有する熱伝導性組成物であればポンプアウトの発生を効果的に抑制できることが分かる。
【0095】
一方、ナノ繊維状物質を含んでいない比較例1、ナノ繊維状物質を基油100質量部に対し0.01質量部未満しか含有していない比較例2、及び熱硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)を含有する比較例4では、サイクル評価試験で元の場所から移動した距離が大きいことから、耐ポンプアウト性が悪いものであることが分かる。
【0096】
また、基油100質量部に対しナノ繊維状物質を10質量部超の割合で含有する比較例3では、熱伝導性組成物をグリース化することができなかったため、熱伝導率、展性、サイクル試験は行わなかった。