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特許7556260最適化装置、最適化方法、及び最適化プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】最適化装置、最適化方法、及び最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20240918BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240918BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/23
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020177379
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068606
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 昭人
(72)【発明者】
【氏名】添田 武志
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/046920(WO,A1)
【文献】特開2001-050848(JP,A)
【文献】特開2020-046718(JP,A)
【文献】特開2010-108451(JP,A)
【文献】特開2004-348691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0143008(US,A1)
【文献】ALMEIDA, S.R.M. et al.,A simple and effective inverse projection scheme for void distribution control in topology optimization,Structural and Multidisciplinary Optimization [online],2009年,Vol. 39,pp. 359-371,[検索日 2024.04.19],インターネット,URL:https://citeseerx.ist.psu.edu/document?repid=rep1&type=pdf&doi=026a79e76359658af99601d0e05eaa5b77ef777c
【文献】田中宗,量子アニーリングの基礎と応用事例,知能と情報(日本知能情報ファジィ学会誌),日本知能情報ファジィ学会,2018年02月15日,Vol. 30, No. 1,pp. 42-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の形状を特定する最適化装置であって、
前記対象物が配置される設計領域を分割することにより複数の要素を生成し、前記設計領域に配置される前記対象物に対し前記複数の要素を用いた有限要素法による解析を行うことにより所定の特性に関する物理量の分布を特定し、前記物理量の分布に基づいて前記複数の要素の各々の前記所定の特性に対する寄与度を求める寄与度特定部と、
前記複数の要素の各々に対して求められた前記寄与度に基づいて前記所定の特性に関するイジングモデルである目的関数式を生成し、前記目的関数式に基づいて前記複数の要素の各々について、前記対象物の前記要素の各々を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する最適化処理部と、
を有することを特徴とする最適化装置。
【請求項2】
前記寄与度特定部が、前記対象物の前記各要素を配置するか否かの特定の結果に基づいて、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を更新し、
前記最適化処理部が、更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いて、前記対象物の形状を特定する、請求項に記載の最適化装置。
【請求項3】
前記寄与度特定部における前記寄与度の更新と、前記最適化処理部における更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化とを、前記目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返す、請求項に記載の最適化装置。
【請求項4】
前記最適化処理部が、特定された前記対象物の形状を連続的な形状に補正する、請求項1からのいずれかに記載の最適化装置。
【請求項5】
前記対象物が磁気シールドであり、前記所定の特性が磁束の遮蔽性能であり、前記寄与度が磁化ベクトルである、請求項1からのいずれかに記載の最適化装置。
【請求項6】
対象物の形状を最適化する最適化装置であって、
設計領域に配置される前記対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、前記対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
前記対象物の前記各要素について、前記対象物の前記各要素を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する最適化処理部を有し、
前記対象物が磁気シールドであり、前記所定の特性が磁束の遮蔽性能であり、前記寄与度が磁化ベクトルであることを特徴とする最適化装置。
【請求項7】
前記最適化処理部が、前記磁気シールドにより磁束が遮蔽される領域における磁束密度の大きさを表す項と、前記磁気シールドにおける磁性体の面積を表す項とを含む前記目的関数式に基づいて最適化を行う、請求項5又は6に記載の最適化装置。
【請求項8】
前記最適化処理部が、下記式(1)で表される前記目的関数式に基づいて前記対象物の形状を特定する、請求項5から7のいずれかに記載の最適化装置。
【数1】
ただし、前記式(1)において、
前記Eは、前記目的関数式であり、
前記αは、正の数であり、
前記Eは、前記設計領域が空気で満たされる場合における、前記磁束が遮蔽される領域における束密度の2乗を表す数値であり、
前記Nは、前記磁束が遮蔽される領域を分割した要素の数を表す整数であり、
前記Bは、前記磁束が遮蔽される領域のk番目の要素における磁束密度を表すベクトルであり、
前記ΔSは、前記磁束が遮蔽される領域のk番目の要素の面積を表す数値であり、
前記βは、正の数であり、
前記Eは、前記設計領域が性体で満たされる場合における、前記磁性体の面積を表す数値であり、
前記Nは、前記設計領域を分割した要素の数を表す整数であり、
前記ΔSは、前記設計領域のi番目の要素の面積を表す数値であり、
前記xは、前記設計領域のi番目の要素に対して、前記磁性体を配置する場合に1となり、前記磁性体を配置せずに空気とする場合に0となるバイナリ変数である。
【請求項9】
前記最適化処理部が、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換した前記目的関数式に基づいて前記対象物の形状を特定する、請求項1からのいずれかに記載の最適化装置。
【数2】
ただし、前記式(2)において、
前記Eは、前記イジングモデル式に変換した前記目的関数式であり、
前記wijは、i番目のビットとj番目のビットとの間の相互作用を表す数値であり、
前記bは、前記i番目のビットに対するバイアスを表す数値であり、
前記xは、前記i番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数であり、
前記xは、前記j番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数である。
【請求項10】
前記最適化処理部が、焼き鈍し法により、前記イジングモデル式に変換した前記目的関数式を最小化することにより前記対象物の形状を特定する、請求項に記載の最適化装置。
【請求項11】
コンピュータが、対象物の形状を特定する最適化方法であって、
前記コンピュータが、前記対象物が配置される設計領域を分割することにより複数の要素を生成し、前記設計領域に配置される前記対象物に対し前記複数の要素を用いた有限要素法による解析を行うことにより所定の特性に関する物理量の分布を特定し、前記物理量の分布に基づいて前記複数の要素の各々の前記所定の特性に対する寄与度を求める寄与度特定工程と、
前記コンピュータが、前記複数の要素の各々に対して求められた前記寄与度に基づいて前記所定の特性に関するイジングモデルである目的関数式を生成し、前記目的関数式に基づいて前記複数の要素の各々について、前記対象物の前記要素の各々を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する最適化工程と、を含むことを特徴とする最適化方法。
【請求項12】
対象物の形状を特定する最適化プログラムであって、
前記対象物が配置される設計領域を分割することにより複数の要素を生成し、前記設計領域に配置される前記対象物に対し前記複数の要素を用いた有限要素法による解析を行うことにより所定の特性に関する物理量の分布を特定し、前記物理量の分布に基づいて前記複数の要素の各々の前記所定の特性に対する寄与度を求める処理と、
前記複数の要素の各々に対して求められた前記寄与度に基づいて前記所定の特性に関するイジングモデルである目的関数式を生成し、前記目的関数式に基づいて前記複数の要素の各々について、前記対象物の前記要素の各々を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する処理と、をコンピュータに行わせることを特徴とする最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、最適化装置、最適化方法、及び最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な製品(デバイスや機器など)の設計に、CAE(Computer Aided Engineering)解析が応用されている。CAE解析とは、CAD(Computer Aided Design)などを用いてコンピュータ上にモデリングした製品に対し、種々の条件を課した数値計算を行うことにより、仮想実験を行うことが可能なシミュレーション技術の総称である。
CAE解析を行うことにより、製品を実際に作製することなく、当該製品の形状などを最適化することができ、製品の設計を効率的に行うことができる。
【0003】
CAE解析を用いて製品の形状を最適化する従来技術としては、例えば、製品の設計を行う者が当該製品の形状を一意に決められるパラメータ(設計変数)を設定し、そのパラメータを用いて最適化するパラメータ最適化と称される手法が挙げられる。従来技術の一例であるパラメータ最適化においては、設定したパラメータ(円の半径、多角形の各辺の長さなど)の性質により、製品の形状が限定され、十分な最適化が行えない場合がある。さらに、従来技術の一例であるパラメータ最適化では、設定したパラメータの設定値ごとにCAE解析を行うため、多数のCAE解析を行う必要があり、計算コストが大きいという問題がある。
【0004】
また、上記の製品の形状を一意に決められるパラメータ(設計変数)を用いずに最適化を行う手法としては、例えば、トポロジ最適化と称される手法が挙げられる。トポロジ最適化においては、パラメータ(設計変数)性質により、製品の形状が限定されることはないため、パラメータ最適化と比べると、より高い自由度で製品の形状を最適化できる。
ここで、トポロジ最適化は、製品の形状の表現手法により分類することができ、例えば、連続トポロジ最適化と離散トポロジ最適化とに分類することができる。
【0005】
連続トポロジ最適化(密度法、レベルセット法)は、製品の形状等を連続値で表し、微分探索を行うことにより、当該製品の形状を最適化する手法である。
連続トポロジ最適化に関しては、物体の設計領域を要素で分割し、有限要素法により場の形状の物理量を導出して、目標関数及びその感度を導出して、反応拡散方程式を解くことを目標関数が収束するまで繰り返す技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このような連続トポロジ最適化においては、探索した製品の形状が局所解に制限されてしまう場合があり、探索可能な形状の範囲が狭いという問題がある。さらに、従来技術の一例である連続トポロジ最適化では、最適化の過程で多数のCAE解析を行う必要があり、計算コストが大きいという問題がある。
【0006】
離散トポロジ最適化(On-Off法)は、製品の形状を離散値(例えば、「1」又は「0」)で表して、当該製品を分割した領域に材料を配置するか否かを、離散値の全ての組合せに対して探索することにより、当該製品の形状を最適化する手法である。従来技術の一例である離散トポロジ最適化は、連続トポロジ最適化と比べて探索可能な形状の範囲が広いが、膨大な数の離散値の組合せごとにCAE解析を行うため、膨大な数のCAE解析を行う必要があり、計算コストが非常に大きいという問題がある。
【0007】
このように、従来技術においては、CAE解析を用いて製品(デバイスや機器などの設計の対象物)の形状を最適化して設計を行う際に、探索可能な形状が制限されてしまい、十分に形状を最適化できない場合があった。さらに、従来技術においては、多数のCAE解析を繰り返す必要があることから、計算コストが大きくなり、現実的な時間で製品の形状を最適化することが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-108451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一つの側面では、本件は、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができる最適化装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段の一つの実施態様は、以下の通りである。
すなわち、一つの実施態様では、最適化装置は、対象物の形状を最適化する最適化装置であって、
設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を特定する最適化処理部を有する。
【発明の効果】
【0011】
一つの側面では、本件は、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができる最適化装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、パラメータ最適化においてパラメータとして三角形の各辺の長さを指定する場合の各辺の長さの一例を示す図である。
図1B図1Bは、パラメータ最適化においてパラメータとして三角形の各辺の長さを指定する場合の各辺の長さの他の一例を示す図である。
図2図2は、離散トポロジ最適化における対象物の形状を表現するビットのマップの一例を示す図である。
図3図3は、QUBO形式のイジングモデル式に最小値を与えるビットの組合せを探索する際の様子の一例を示す図である。
図4図4は、本件で開示する最適化装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5図5は、本件で開示する最適化装置のハードウェア構成の他の一例を示す図である。
図6図6は、本件で開示する最適化装置の機能構成の一例を示す図である。
図7図7は、本件で開示する技術の一例を用いて、対象物の形状を最適化する際の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、焼き鈍し法に用いるアニーリングマシンの機能構成の一例を示す図である。
図9図9は、遷移制御部の動作フローの一例を示す図である。
図10図10は、実施例1における、磁気シールドの形状を最適化する際の計算モデルの一例を示す図である。
図11図11は、実施例1において設定した、磁気シールドを形成する磁性体材料についてのBH曲線(BHカーブ;ヒステリシス曲線)の一例を示す図である。
図12A図12Aは、実施例1における、計算モデルを分割して、有限要素法による解析を行うことにより、各要素における磁束密度を求める際の流れの一例を説明するための図である。
図12B図12Bは、実施例1における、計算モデルを分割して、有限要素法による解析を行うことにより、各要素における磁束密度を求める際の流れの一例を説明するための図である。
図12C図12Cは、実施例1における、計算モデルを分割して、有限要素法による解析を行うことにより、各要素における磁束密度を求める際の流れの一例を説明するための図である。
図13図13は、実施例1における、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件での、設計領域における磁束密度の分布の一例を示す図である。
図14図14は、実施例1における、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件での、設計領域における磁気シールドを分割した各要素の一例を示す図である。
図15図15は、実施例1において、最適化を行う際の初期の形状として、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図16A図16Aは、実施例1において、1回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図16B図16Bは、実施例1において、1回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図17A図17Aは、実施例1において、2回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図17B図17Bは、実施例1において、2回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図18A図18Aは、実施例1において、3回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図18B図18Bは、実施例1において、3回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図19A図19Aは、実施例1において、4回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図19B図19Bは、実施例1において、4回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図20A図20Aは、実施例1において、5回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図20B図20Bは、実施例1において、5回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図21A図21Aは、実施例1において、6回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図21B図21Bは、実施例1において、6回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図22A図22Aは、実施例1において、7回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図22B図22Bは、実施例1において、7回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図23A図23Aは、実施例1において、8回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図23B図23Bは、実施例1において、8回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図24A図24Aは、実施例1において、9回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図24B図24Bは、実施例1において、9回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図25A図25Aは、実施例1において、10回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図25B図25Bは、実施例1において、10回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図26A図26Aは、実施例1において、11回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図26B図26Bは、実施例1において、11回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図27A図27Aは、実施例1において、12回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図27B図27Bは、実施例1において、12回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図28A図28Aは、実施例1において、13回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図28B図28Bは、実施例1において、13回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図29A図29Aは、実施例1において、14回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図29B図29Bは、実施例1において、14回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図30A図30Aは、実施例1において、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状の一例を示す図である。
図30B図30Bは、実施例1において、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図31A図31Aは、実施例1において、α=0.95、β=0.05とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。
図31B図31Bは、実施例1において、α=0.95、β=0.05とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図32A図32Aは、実施例2において、α=0.5、β=0.5とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。
図32B図32Bは、実施例2において、α=0.5、β=0.5とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図33A図33Aは、実施例3において、α=0.7、β=0.3とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。
図33B図33Bは、実施例3において、α=0.7、β=0.3とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図34A図34Aは、実施例4において、α=0.8、β=0.2とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。
図34B図34Bは、実施例4において、α=0.8、β=0.2とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図35A図35Aは、実施例5において、α=0.99、β=0.01とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。
図35B図35Bは、実施例5において、α=0.99、β=0.01とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図36図36は、実施例1から実施例5における、対象領域における磁束密度の二乗の平均と、磁性体材料の面積(磁性体面積)の関係の一例を示す図である。
図37図37は、本件で開示する技術の一実施形態における、処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(最適化装置)
本件で開示する技術は、従来技術では、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができないという、本発明者らの知見に基づくものである。そこで、本件で開示する技術の詳細を説明する前に、従来技術の問題点等について具体的に説明する。
【0014】
まず、上述したように、パラメータ最適化では、対象物(デバイスや機器など)の形状の最適化を行う際には、例えば、対象物の設計を行う者が当該対象物の形状を一意に決められるパラメータ(設計変数)を設定して、当該パラメータに基づいて最適化を行う。パラメータ最適化において設定するパラメータとしては、例えば、円の半径、多角形の各辺の長さ、辺と辺の間の角度などが挙げられる。
ここで、パラメータ最適化においては、対象物の形状をパラメータにより表す際に、当該パラメータとして円の半径を指定した場合には、最適化する対象物の形状は円に限定される。同様に、パラメータ最適化において、パラメータとして三角形の各辺の長さを指定した場合には、最適化する対象物の形状は三角形に限定される。
【0015】
より具体的には、パラメータ最適化においてパラメータとして三角形の各辺の長さを指定する場合において、例えば、最適化を行う前の三角形の各辺の長さを、図1Aに示したa、a、及びaとする場合を考える。この場合において、パラメータ最適化を行った結果が、図1Bに示すような、三角形の各辺の長さa、a、及びaとなったとする。
図1A及び図1Bに示した例では、パラメータ最適化を行うことにより、三角形の各辺の長さa、a、及びaについては最適化できるが、対象物の形状は三角形に限定されており、三角形以外の形状となる場合については探索することができていない。このように、パラメータ最適化では、設定したパラメータの性質により、対象物の形状が限定され、十分な最適化が行えない場合がある。
さらに、パラメータ最適化を用いて対象物の形状を最適化する際は、設定したパラメータの値を変更するたびに、そのパラメータの値を用いたCAE解析(例えば、対象物の性能の解析など)を行う必要がある。このため、パラメータ最適化を用いて対象物の形状を最適化する場合には、設定したパラメータの設定値ごとにCAE解析を行うため、多数のCAE解析を行う必要があり、計算コストが大きいという問題がある。
【0016】
また、上述したように、連続トポロジ最適化(密度法、レベルセット法)においては、対象物の形状を一意に決められるパラメータ(設計変数)を用いずに、対象物の形状を、連続値を用いた関数などにより表現し、微分探索を行うことで最適化する。このように、連続トポロジ最適化は、微分探索を用いた最適化手法であるため、最適化の結果が、初期の設定値(連続値を用いた関数の初期値)に依存する。このため、連続トポロジ最適化では、最適化を行い探索した対象物の形状が、局所解に制限(トラップ)されてしまう場合があり、探索可能な形状の範囲が狭いという問題がある。
連続トポロジ最適化により対象物の形状を最適化する際には、最適化の過程で得られた形状のそれぞれについてCAE解析を行うため、多数のCAE解析が必要となり、計算コストが大きいという問題がある。
【0017】
加えて、上述したように、離散トポロジ最適化(On-Off法)では、対象物の形状を離散値で表して、当該対象物を分割した各領域に材料(物質)を配置するか否かを、離散値の全ての組合せに対して探索する。離散トポロジ最適化において対象物の形状を離散値で表す際には、例えば、対象物を分割した各領域に材料を配置するか否かを、「1(配置する)」と「0(配置しない)」を用いて表す。
より具体的には、離散トポロジ最適化では、「x=1」をi番目の領域に材料(物質)を配置する場合(On)とし、「x=0」をi番目の領域に材料を配置しない場合(Off)とする。この場合、離散トポロジ最適化では、図2に示すように、「1」と「0」のビットのマップ(ビットマップ)で対象物の形状を表現することできる。
このように、離散トポロジ最適化においては、対象物の形状を離散値の組合せで表現し、これらの離散値の全ての組合せついて形状を探索する(組合せ最適化問題を解く)ことにより、連続トポロジ最適化と比べて広い範囲で形状を探索することができる。
【0018】
しかしながら、離散トポロジ最適化においては、対象物の形状を表す離散値の組合せの全てについて形状を探索する際には、例えば、これらの膨大な数の離散値の組合せごと(対象物が取り得る形状のそれぞれ)にCAE解析を行う必要がある。したがって、離散トポロジ最適化では、膨大な数の離散値の組合せのそれぞれに対して、膨大な数のCAE解析を行う必要があり、計算コストが非常に大きいという問題がある。
【0019】
このように、従来技術では、対象物の形状の最適化を行う際、対象物の形状の探索範囲が制限されて探索が不十分となる場合や、計算コストが大きいことにより、最適化に長い時間が必要となり、現実的な時間で対象物の形状を最適化することが困難な場合があった。
【0020】
そこで、本発明者らは、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができる装置等について鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
すなわち、本発明者らは、下記の最適化装置等により、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができることを知見した。
本件で開示する技術の一例としての最適化装置は、対象物の形状を最適化する最適化装置であって、
設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を特定する最適化処理部を有する。
【0021】
ここで、本件で開示する技術の一例では、設計領域に配置される(配置する)対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の形状を特定することにより、対象物の形状を最適化する。
本件で開示する技術の一例では、形状を最適化する対象物について、当該対象物を設計領域に配置して分割することで、対象物を複数の要素に分割する。言い換えると、本件で開示する技術の一例においては、対象物を配置し得る領域である設計領域を、複数の要素に分割することにより、設計領域に配置される対象物を分割した複数の要素を得る。つまり、本件で開示する技術の一例においては、対象物の設計領域を分割して複数の要素とし、これらの複数の要素の集合として対象物の設計領域を表す。
【0022】
そして、本件で開示する技術の一例においては、対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、当該対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の形状を特定して最適化する。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、対象物を分割した要素について、当該対象物における所定の特性に対する、それぞれの要素の寄与度に基づいた目的関数式を構築して、構築した当該目的関数式に基づいて、対象物の形状を特定して最適化する。
対象物の所定の特性としては、例えば、対象物の性能に関する特性とすることができる。対象物の性能に関する特性としては、例えば、対象物の形状によって性能が変化する特性として、対象物の用途等に応じて適宜選択することができる。
より具体的には、対象物の所定の特性としては、後述の実施例等で説明するように、例えば、対象物を磁気シールドとする場合、当該磁気シールドにおける、磁気を遮蔽したい領域(対象領域)に対する磁束の遮蔽性能とすることができる。この例においては、例えば、磁気シールドの形状を最適化する(磁気シールドの材料(磁性体)を配置する要素を決定する)ために、磁気を遮蔽したい領域に対する磁束の遮蔽性能(所定の特性の一例)と、その他の条件とを考慮できるような目的関数式を用いる。
なお、目的関数式(目的関数)は、例えば、当該目的関数式における変数が、組合せ最適化問題における最適な組合せとなるときに、最小の値をとる関数とすることができる。このため、目的関数式が最小の値となる変数の組合せを探索する(目的関数式を最小化する)ことにより、組合せ最適化問題の解を探索することができ、対象物の形状を最適化することができる。
【0023】
また、本件で開示する技術の一例において、対象物の所定の特性に対する寄与度としては、例えば、上記のような所定の特性に与える影響の度合い(影響度)を表す物理量とすることができる。つまり、本件で開示する技術の一例では、寄与度として、例えば、対象物の性能に影響を及ぼす、当該対象物における物理量を用いることができる。
より具体的には、対象物の所定の特性に対する寄与度としては、対象物を磁気シールドとし、所定の特性を磁束の遮蔽性能とする場合、当該磁気シールドにおける各要素の磁化ベクトルとすることができる。この例においては、例えば、磁気シールドを分割した各要素における磁化ベクトルに基づいた目的関数式を用いて、当該磁気シールドの形状を最適化することにより、磁束の遮蔽性能が最適化された形状を特定することができる。
さらに、本件で開示する技術の一例においては、例えば、上記のような寄与度に加えて、他の条件(制約)を目的関数式に加えることにより、他の条件も考慮して、対象物の形状を最適化することができる。
【0024】
そして、本件で開示する技術の一例では、上述したような寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を最適化する。言い換えると、本件で開示する技術の一例においては、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいて、設計領域について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することで、所定の特性を向上できるように、対象物の形状を特定することで最適化することができる。
ここで、本件で開示する技術の一例では、目的関数式に基づいて、対象物の各要素を配置するか否かを特定するため、設計領域に各要素を配置し得る組合せの全てを考慮して、対象物の形状を広い範囲で探索することができる。つまり、本件で開示する技術の一例では、対象物の各要素の配置を離散的に表して形状を探索することができるため、形状を表すパラメータの性質や関数の初期値に影響されずに、対象物の形状を広い範囲で十分に探索することができる。
【0025】
さらに、本件で開示する技術の一例においては、上述したように、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、当該対象物の形状を最適化するため、寄与度を考慮して所定の特性を向上できるように、効率的に対象物の形状を最適化できる。つまり、本件で開示する技術の一例においては、対象物の所定の特性(対象物の性能)に与える影響度を表す物理量としての寄与度を考慮して、例えば、所定の特性を向上できるように対象物の形状の最適化の方向性(最適化の指針)を決めることができる。
また、本件で開示する技術の一例では、目的関数式に用いる寄与度は、あらかじめ特定しておいた寄与度を利用してもよいし、新たに特定した寄与度を利用してもよい。新たに特定した寄与度を利用する場合、寄与度を特定する手法としては、例えば、対象物の性能に影響を及ぼす、当該対象物における物理量を求めることができるCAE解析を行って特定する手法などが挙げられる。
本件で開示する技術の一例では、上述したように、所定の特性を向上できるように対象物の形状の最適化の方向性を決めることができるため、寄与度を特定する際にCAE解析を行う場合でも、寄与度を特定するためのCAE解析の数を少なくすることができる。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、例えば、寄与度に基づいて所定の特性を向上できるように効率的に形状の探索を行うことができるため、CAE解析により寄与度を更新する場合でも、CAE解析を行う回数を抑制することができる。
このように、本件で開示する技術の一例では、対象物の所定の特性に対する寄与度を、CAE解析などを行って求める場合においても、対象物の形状の最適化を行う上で必要となるCAE解析の回数を少なくすることができ、短時間で最適化することができる。
【0026】
以上、説明したように、本件で開示する技術の一例では、例えば、対象物(デバイスや機器など)の形状を最適化する際に、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、当該対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素を配置するか否かを特定する。このため、本件で開示する技術では、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができる。
【0027】
以下では、本件で開示する技術の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本件で開示する技術の一例としての最適化装置における、対象物の形状を最適化などの処理(動作)は、例えば、最適化装置が有する最適化処理部により行うことができる。
ここで、本件で開示する最適化装置は、寄与度特定部を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部(手段)を有していてもよい。なお、最適化処理部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)などのメモリを結合したものや、アニーリングマシンの一部として実現できる。
【0028】
まず、本件で開示する技術の一例としての最適化装置は、対象物の形状を最適化する最適化装置とすることができる。
ここで、本件で開示する技術の一例を用いて形状を最適化する対象物としては、形状に応じて所定の特性が変化し、当該所定の特性に対する寄与度を特定可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。対象物としては、例えば、従来のトポロジ最適化により形状を最適化可能なものを適宜選択して適用することができる。
対象物の具体例としては、例えば、後述する実施例で示す磁気シールド、機械の部品、断熱材、光遮蔽部材、防音材、制振材、防波材などが挙げられる。
【0029】
また、本件で開示する技術の一例において、最適化する対象物の形状としては、二次元形状であってもよいし、三次元形状であってもよい。本件で開示する技術の一例においては、より短時間で形状を最適化できることなどから、対象物の二次元形状を最適化(探索)することが好ましい。また、対象物の二次元形状を最適化する際には、設計領域に配置する対象物を分割した各要素に厚みを持たせた条件で最適化を行ってもよい。
【0030】
<最適化処理部>
本件で開示する技術の一例としての最適化装置は、上述したように、設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の形状を特定する最適化処理部を有する。さらに、最適化処理部は、対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を最適化する。
【0031】
本件で開示する技術の一例では、最適化処理部は、目的関数式を用いて、対象物の形状を特定して最適化する。ここで、目的関数式とは、例えば、組合せ最適化問題における条件や制約に基づき、当該目的関数式における変数が、組合せ最適化問題における最適な組合せとなるときに、最小の値をとる関数とすることができる。このため、目的関数式が最小の値となる変数の組合せを探索する(目的関数式を最小化する)ことにより、組合せ最適化問題の解を探索することができ、対象物の形状を最適化することができる。なお、式で表される目的関数は、エネルギー関数、コスト関数、ハミルトニアンなどと称される場合もある。
【0032】
本件で開示する技術の一例においては、設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いる。
また、「設計領域に配置される対象物を分割する」とは、形状が最適化された対象物を設計する際に、対象物を配置し得る領域(設計領域)を仮想的に分割することを意味する。
【0033】
対象物を分割する際の分割方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。対象物を分割する際の分割方法としては、例えば、後述する数値計算(例えば、有限要素法)による解析に適した形状に、各要素がなるように分割することが好ましい。
対象物を分割する際の分割数(要素の数)は、目的関数式の最適化に用いる計算機(例えば、アニーリングマシン)で用いることができるビットの数、求められる計算精度、実際に作製することができる対象物の大きさなどに応じて、適宜選択することができる。
【0034】
ここで、設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度は、あらかじめ特定しておいた寄与度を利用してもよいし、新たに特定した寄与度を利用してもよいが、新たに特定した寄与度を特定することが好ましい。
【0035】
<寄与度特定部>
寄与度を特定する手法としては、対象物の各要素について、所定の特性に対する寄与度を特定することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下に述べる寄与度特定部により特定することが好ましい。
寄与度特定部としては、設計領域に配置される対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、所定の特性に関する物理量の分布を特定する部(手段)とすることができる。つまり、本件で開示する技術の一例では、設計領域に配置される対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、所定の特性に関する物理量の分布を特定することで、対象物の各要素における寄与度を特定する寄与度特定部を更に有することが好ましい。なお、寄与度特定部は、例えば、CPUなどのプロセッサと、RAMなどのメモリを結合したものにより実現することができる。
【0036】
寄与度特定部が行う、設計領域に配置される対象物に対する数値計算を用いた解析としては、例えば、上述したCAE解析を用いることができる。数値計算を用いた解析(CAE解析)としては、寄与度を特定できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有限要素法を用いた解析であることが好ましい。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、寄与度特定部が、有限要素法を用いた解析を行うことにより、対象物の各要素における寄与度を特定することが好ましい。
有限要素法(Finite Element Method,FEM)では、例えば、解析したい領域を多数の要素(メッシュ)と呼ばれる小領域に分割し、各小領域の節点や辺において定義されるポテンシャルを簡単な式で近似して連立一次方程式を作成し、その連立方程式を解くことでポテンシャル分布などを求める。このため、有限要素法を用いることにより、解析的に解くことが困難な微分方程式を解くことができ、様々な対象物についてのシミュレーションを精度よく行うことができ、寄与度をより正確に特定することができる。
なお、有限要素法を用いた解析は、公知の解析シミュレーションソフトを用いて行うことができる。
【0037】
寄与度特定部は、数値計算を用いた解析(例えば、有限要素法による解析)により、対象物の所定の特性に関する物理量の分布を特定する。
ここで、対象物の所定の特性(例えば、対象物の性能についての特性)に関する物理量としては、当該所定の特性に影響する物理量であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。対象物の所定の特性に関する物理量としては、例えば、電磁界解析における磁束密度分布、構造解析における応力分布、熱解析における温度分布、光解析における光の強度の分布、音解析(音響解析)における音の大きさの分布、振動解析における振動の分布、液体の波の解析における波の分布などが挙げられる。なお、以下では、寄与度特定部が特定する物理量の分布を、「場の分布」と称するときがある。
【0038】
加えて、寄与度特定部が、物理量の分布を特定することにより特定する、対象物の各要素における寄与度としては、当該物理量の分布に基づいて特定した、当該対象物の所定の特性に影響する物理量であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。寄与度特定部が特定する寄与度の具体例としては、例えば、電磁界解析における磁化ベクトル、構造解析における荷重ベクトル、熱解析における発熱量、光解析における各要素の光の強度、音解析(音響解析)における各要素の音の大きさ、振動解析における各要素の振動の大きさ、液体の波の解析における各要素の波の大きさなどが挙げられる。
【0039】
また、本件で開示する技術の一例においては、対象物の形状の最適化と、最適化の結果に基づく寄与度の更新とを繰り返すことが好ましい。こうすることにより、より適切な寄与度に基づく目的関数式を用いて対象物の形状を最適化できるため、対象物のより適切な形状を求めることができる。
より具体的には、寄与度特定部が、対象物の各要素を配置するか否かの特定の結果に基づいて、対象物の各要素における寄与度を更新し、最適化処理部が、更新された寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の形状を特定することが好ましい。このように、本件で開示する技術の一例においては、寄与度特定部と最適化処理部との処理を繰り返して行うことで、段々とより適切な形状を探索することができ、最終的により十分に最適化された対象物の形状を特定することができる。
【0040】
本件で開示する技術の一例では、寄与度特定部と最適化処理部との処理を繰り返して行う場合、処理を繰り返す条件(繰り返しの回数)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。寄与度特定部と最適化処理部との処理を繰り返して行う場合、処理を繰り返す条件としては、例えば、最適化に用いる目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返すことが好ましい。
言い換えると、本件で開示する技術の一例では、寄与度特定部における寄与度の更新と、最適化処理部における更新された寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化とを、目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返すことが好ましい。こうすることにより、目的関数式における寄与度がより十分に最適化され、より十分に最適化された対象物の形状を特定することができる。なお、目的関数式の最小値の変化が所定値以下であると判定する際には、例えば、直前の計算結果との比較(n+1回目の計算結果と、n回目の計算結果の比較)により求めることができる。
また、処理を繰り返す条件としては、最大の計算回数(サイクル数)を定めておき、その計算回数の中で、最小値が最も低くなる目的関数式に基づいて特定した形状を、最終的な最適化結果として特定してもよい。
【0041】
ここで、本件で開示する技術の一例においては、上述したように、最適化処理部は、目的関数式を用いて、対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を特定する。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、目的関数式に基づいて組合せ最適化問題を解くことで、対象物の各要素を配置するか否かを特定するため、設計領域に各要素を配置し得る組合せの全てを考慮して、対象物の形状を広い範囲で探索することができる。
【0042】
また、目的関数式に基づいた組合せ最適化問題を高速に解くことができる技術としては、例えば、焼き鈍し法(アニーリング)による計算を行う技術が挙げられる。
焼き鈍し法(アニーリング)により、高速で効率的に目的関数の最小化を行うためには、目的関数がQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization;制限なし二次形式二値変数最適化)形式で表現されていることが必要となる場合がある。ここで、QUBO形式とは、0又は1などの2つの値のみを取り得る変数に対して、最大化又は最小化すべき目的関数が、その2次の項までで表現でき、かつ変数空間の範囲に明示的な制限がない形式を意味する。
焼き鈍し法においては、例えば、QUBO形式でされた目的関数をイジングモデルと呼ばれる形式に変換し、イジングモデルに変換した目的関数の値を最小化することにより、組合せ最適化問題を求解する。
【0043】
QUBO形式の目的関数をイジングモデルに変換した式(イジングモデル式)としては、例えば、次式で表されるQUBO形式のイジングモデル式とすることができる。
【数1】
ただし、上記の式において、E(s)は、最小化することが組合せ最適化問題を求解することを意味する目的関数である。
ijは、i番目の要素(ビット)とj番目の要素(ビット)の間の重み付けのための係数(ウエイト)である。
は、i番目の要素(ビット)が0又は1であることを表すバイナリ変数であり、sは、j番目の要素(ビット)が0又は1であることを表すバイナリ変数である。
は、i番目の要素(ビット)に対するバイアスを表す数値である。
const.は定数である。
【0044】
焼き鈍し法においては、例えば、上記のQUBO形式のイジングモデル式における各ビット(要素)を様々に変化させながら、当該イジングモデル式の最小値の探索を短時間で効率的に行うことができる。
例えば、図3に示すように、上記のQUBO形式のイジングモデル式に最小値を与えるビット(s;0又は1)の組合せを探索する(丸で囲った部分を探索する)ことにより、当該イジングモデル式を最適化することができるビットの状態を特定することができる。なお、図3において、縦軸はイジングモデル式(E(s))で算出されるエネルギーの値の大きさであり、横軸はビット(s)の組合せである。
そして、焼き鈍し法では、特定したビットの状態に基づいて、目的関数を最適化するパラメータを求めることができるため、短時間で効率的に目的関数を最適化することができる。このように、目的関数をQUBO形式で表現することができれば、当該目的関数をQUBO形式のイジングモデル式に変換することができ、当該イジングモデル式におけるエネルギー値は、焼き鈍し法により短時間で効率的に最適化(最小化)することができる。
【0045】
このように、本件で開示する技術の一例では、所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を最適化する手法としては、目的関数式をQUBO形式のイジングモデル式に変換し、イジングモデル式に変換し目的関数式の値を最小化する手法が好ましい。
また、目的関数式をイジングモデル式に変換する処理は、例えば、自作のプログラムを用いて「forループ」を用いて目的関数式を展開して変換する手法、数式自体を処理可能なプログラムを用いて変換する手法などが挙げられる。
イジングモデル式に変換した目的関数式としては、例えば、下記の式(2)で表される数式を用いることが好ましい。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、最適化処理部が、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換した目的関数式に基づき対象物の形状を特定する(最適化を行う)ことが好ましい。
【数2】
ただし、上記式(2)において、
Eは、イジングモデル式に変換した目的関数式であり、
ijは、i番目のビットとj番目のビットとの間の相互作用を表す数値であり、
は、i番目のビットに対するバイアスを表す数値であり、
は、i番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数であり、
は、j番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数である。
【0046】
ここで、上記式(2)におけるwijは、例えば、イジングモデル式に変換する前の目的関数式における各パラメータの数値などを、xiとxjの組み合わせ毎に抽出することにより求めることができ、通常は行列となる。
上記式(2)における右辺の一項目は、全てのビットの状態から選択可能な2つの状態の全組み合わせについて、漏れと重複なく、2つの回路の状態(ステート)と重み値(ウエイト)との積を積算したものである。
また、上記式(2)における右辺の二項目は、全てのビットの状態のそれぞれのバイアスの値と状態との積を積算したものである。
つまり、イジングモデル式に変換する前の目的関数式のパラメータを抽出して、wij及びbを求めることにより、目的関数式を、上記式(2)で表されるイジングモデル式に変換することができる。
【0047】
さらに、本件で開示する技術の一例では、上記のようにしてイジングモデル式に変換した目的関数式の最適化(最小化)は、例えば、アニーリングマシンなどを用いた焼き鈍し法(アニーリング)を行うことにより、短時間で実行することができる。つまり、本件で開示する技術の一例では、最適化処理部が、焼き鈍し法により、イジングモデル式に変換した目的関数式を最小化することにより対象物の形状を特定する(最適化を行う)ことが好ましい。
目的関数式の最適化に用いるアニーリングマシンとしては、例えば、量子アニーリングマシン、半導体技術を用いた半導体アニーリングマシン、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)を用いてソフトウェアにより実行されるシミュレーテッド・アニーリング(Simulated Annealing)を行うマシンなどが挙げられる。また、アニーリングマシンとしては、例えば、デジタルアニーラ(登録商標)を用いてもよい。
なお、アニーリングマシンを用いた焼き鈍し法の詳細については後述する。
【0048】
加えて、本件で開示する技術の一例においては、寄与度に基づいた目的関数式を用いて最適化した対象物の形状に対して、フィルタリングを行うことが好ましい。最適化した対象物の形状に対して、フィルタリングを行うことにより、実際の製造が困難な「飛び飛びの形状(まだらな形状)」を、ある程度連続的な形状に補正(細かい飛び飛びの部分を削除するなど)することが好ましい。
ここで、寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化した対象物の形状は、最適化の条件等によっては、目的関数式が最低値を取る形状が、対象物の材料(物質)が設計領域に飛び飛びに点在した形状となる場合がある。この場合、この飛び飛びの形状は、計算上は、所定の特性が高く、性能の高い形状であると考えられるが、実際に対象物を製造する際には、製造が困難なときがある。このため、寄与度に基づいた目的関数式を用いて最適化した対象物の形状に対して、フィルタリングを行うことで、対象物を連続的な形状に補正することが好ましい。言い換えると、本件で開示する技術の一例では、最適化処理部が、特定された対象物の形状を連続的な形状に補正することが好ましい。
また、この連続的な形状への補正は、寄与度の更新と寄与度に基づいた形状の最適化とを繰り返す場合、この繰り返し毎に行うこと好ましい。
【0049】
ここで、フィルタリング(形状の補正)の具体例について説明する。
フィルタリングを行う際には、例えば、設計領域における各要素について、要素ごとに、当該要素の周囲の要素を考慮して平均密度を求め、求めた平均密度に基づいてフィルタリングを行うことができる。
平均密度を基づいたフィルタリングを行う手法においては、例えば、e番目の要素に対して指定した半径(rmin)内にある要素を、距離(r)を用いて次の式を用いて特定する。
【数3】
ただし、上記の式において、gは要素の重心座標を意味する。
【0050】
次に、平均密度を基づいたフィルタリングを行う手法では、距離で重みづけした材料の密度の平均(ρの平均)を、次の2つの式を用いて特定する。
【数4】
【数5】
【0051】
そして、平均密度を基づいたフィルタリングを行う手法では、平均密度の大きさによりe番目の要素における材料の分布(x)を、次の式を用いて更新することにより、フィルタリングを行う。
【数6】
【0052】
なお、上述した平均密度を基づいたフィルタリングを行う手法については、「Almeida et al. “A simple and effective inverse projection scheme for void distribution control in topology optimization.” Struct Multidisc Optim, 39, 359-371 2009.」で提案されている手法を利用することができる。
【0053】
以下では、装置の構成例やフローチャートなどを用いて、本件で開示する技術の一例を更に詳細に説明する。
図4に、本件で開示する最適化装置のハードウェア構成例を示す。
最適化装置100においては、例えば、制御部101、主記憶装置102、補助記憶装置103、I/Oインターフェイス104、通信インターフェイス105、入力装置106、出力装置107、表示装置108が、システムバス109を介して接続されている。
【0054】
制御部101は、演算(四則演算、比較演算、焼き鈍し法の演算等)、ハードウェア及びソフトウェアの動作制御などを行う。制御部101としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、焼き鈍し法に用いるアニーリングマシンの一部であってもよく、これらの組み合わせでもよい。
制御部101は、例えば、主記憶装置102などに読み込まれたプログラム(例えば、本件で開示する最適化プログラムなど)を実行することにより、種々の機能を実現する。
本件で開示する最適化装置における最適化処理部及び寄与度特定部が行う処理は、例えば、制御部101により行うことができる。
【0055】
主記憶装置102は、各種プログラムを記憶するとともに、各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。主記憶装置102としては、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)の少なくともいずれかを有するものを用いることができる。
ROMは、例えば、BIOS(Basic Input/Output System)などの各種プログラムなどを記憶する。また、ROMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)などが挙げられる。
RAMは、例えば、ROMや補助記憶装置103などに記憶された各種プログラムが、制御部101により実行される際に展開される作業範囲として機能する。RAMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが挙げられる。
【0056】
補助記憶装置103としては、各種情報を記憶できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソリッドステートドライブ(SSD)、ハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。また、補助記憶装置103は、CDドライブ、DVDドライブ、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)ドライブなどの可搬記憶装置としてもよい。
また、本件で開示する最適化装置プログラムは、例えば、補助記憶装置103に格納され、主記憶装置102のRAM(主メモリ)にロードされ、制御部101により実行される。
【0057】
I/Oインターフェイス104は、各種の外部装置を接続するためのインターフェイスである。I/Oインターフェイス104は、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk ROM)、MOディスク(Magneto-Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などのデータの入出力を可能にする。
【0058】
通信インターフェイス105としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、無線又は有線を用いた通信デバイスなどが挙げられる。
入力装置106としては、最適化装置100に対する各種要求や情報の入力を受け付けることができれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどが挙げられる。また、入力装置106がタッチパネル(タッチディスプレイ)である場合は、入力装置106が表示装置108を兼ねることができる。
【0059】
出力装置107としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、プリンタなどが挙げられる。
表示装置108としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどが挙げられる。
【0060】
図5に、本件で開示する最適化装置の他のハードウェア構成例を示す。
図5に示す例において、最適化装置100は、寄与度を特定する処理、目的関数式を定義する処理、当該目的関数式をイジングモデル式に変換する処理などを行うコンピュータ200と、イジングモデル式の最適化を行うアニーリングマシン300とに分かれている。また、図5に示す例において、最適化装置100におけるコンピュータ200とアニーリングマシン300は、ネットワーク400により接続されている。
図5に示す例では、例えば、コンピュータ200における制御部101aとしてはCPUなどを用いることができ、アニーリングマシン300における制御部101bとしては焼き鈍し法(アニーリング)に特化した装置を用いることができる。
【0061】
図5に示す例においては、例えば、コンピュータ200により、寄与度特定部の機能として、有限要素法による解析を行って寄与度を特定し、目的関数式を定義するための各種の設定を行って目的関数式を定義し、定義した目的関数式をイジングモデル式に変換する。そして、イジングモデル式におけるウエイト(wij)及びバイアス(b)の値の情報を、コンピュータ200からアニーリングマシン300にネットワーク400を介して送信する。
次いで、アニーリングマシン300により、受信したウエイト(wij)及びバイアス(b)の値の情報に基づいてイジングモデル式の最適化(最小化)を行い、イジングモデル式の最小値と、当該最小値を与えるビットの状態(ステート)を求める。そして、求めたイジングモデル式の最小値と、当該最小値を与えるビットの状態(ステート)とを、アニーリングマシン300からコンピュータ200にネットワーク400を介して送信する。
続いて、コンピュータ200により、受信したイジングモデル式に最小値を与えるビットの状態(ステート)に基づいて、対象物の最適化された形状等を求める。
【0062】
図6に、本件で開示する最適化装置の機能構成例を示す。
図6に示すように、最適化装置100は、通信機能部120と、入力機能部130と、出力機能部140と、表示機能部150と、記憶機能部160と、制御機能部170とを備える。
【0063】
通信機能部120は、例えば、各種のデータを外部の装置と送受信する。通信機能部120は、例えば、外部の装置から、イジングモデル式に変換した目的関数式におけるバイアス及びウエイトのデータを受信してもよい。
入力機能部130は、例えば、最適化装置100に対する各種指示を受け付ける。また、入力機能部130は、例えば、イジングモデル式に変換した目的関数式におけるバイアス及びウエイトのデータの入力を受け付けてもよい。
出力機能部140は、例えば、最適化した対象物の形状に関する情報などをプリントして出力する。
表示機能部150は、例えば、最適化した対象物の形状に関する情報などをディスプレイに表示する。
記憶機能部160は、例えば、各種プログラム、最適化した対象物の形状に関する情報などを記憶する。
【0064】
制御機能部170は、最適化処理部171と、寄与度特定部172を有する。制御機能部170は、例えば、記憶機能部160に記憶された各種プログラムを実行するとともに、最適化装置100全体の動作を制御する。
最適化処理部171は、例えば、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、対象物の形状を特定(最適化)する処理を行う。
寄与度特定部172は、例えば、設計領域に配置される対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、所定の特性に関する物理量の分布を特定することで、対象物の各要素における寄与度を特定する処理を行う。
【0065】
ここで、図7を参照して、本件で開示する技術の一例を用いて、対象物の形状を最適化する際の流れの一例について説明する。
【0066】
まず、最適化処理部171は、設計領域に配置される対象物を、複数の要素に分割する(S101)。言い換えると、S101において、最適化処理部171は、設計領域に配置する対象物を分割した各要素を準備する。
次に、最適化処理部171は、分割した対象物における各要素を、設計領域の全てに対する条件を設定する(S102)。言い換えると、S102において、最適化処理部171は、設計領域における対象物の各要素について、全ての要素に当該対象物の材料を配置する条件となるように、材料の分布を表す変数を設定する(例えば、材料の有無を表す変数xを、全て「1」とする)。
【0067】
続いて、最適化処理部171は、対象物の所定の特性、及び当該所定の特性に対する寄与度の種類を特定する(S103)。言い換えると、S103において、最適化処理部171は、例えば、形状を最適化する対象物について、最適化の際に考慮する性能を所定の特性として特定し、当該性能に影響する物理量を寄与度として特定する。
次いで、寄与度特定部172は、有限要素法による数値計算を用いた解析を行い、所定に特性に関する物理量の分布を特定する(S104)。言い換えると、S104において、寄与度特定部172は、設計領域において、各要素に分割した対象物に対して、有限要素法による数値計算(シミュレーション)を行うことにより、各要素について、所定の特性に関する物理量を特定する。
【0068】
そして、寄与度特定部172は、設計領域の対象物の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度を特定する(S105)。言い換えると、S105において、寄与度特定部172は、S104で特定した物理量の分布に基づいて、対象物の各要素における寄与度を特定する。
次に、最適化処理部171は、寄与度に基づいた目的関数式を構築する(S106)。言い換えると、S106において、最適化処理部171は、S105で特定した寄与度に基づいて、対象物の各要素における、当該対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を定義する。
【0069】
続いて、最適化処理部171は、目的関数式を、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換する(S107)。言い換えると、S107において、最適化処理部171は、定義した目的関数式におけるパラメータを抽出して、下記式(2)におけるb(バイアス)及びwij(ウエイト)を求めることにより、目的関数式を、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換する。
【数7】
ただし、上記式(2)において、
Eは、イジングモデル式に変換した目的関数式であり、
ijは、i番目のビットとj番目のビットとの間の相互作用を表す数値であり、
は、i番目のビットに対するバイアスを表す数値であり、
は、i番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数であり、
は、j番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数である。
【0070】
次に、最適化処理部171は、アニーリングマシンを用いて、上記式(2)を最小化する(S108)。言い換えると、S108において、最適化処理部171は、上記式(2)についての焼き鈍し法を用いた基底状態探索(最適化計算)を実行することにより、上記式(2)の最小値を算出することで、目的関数式に最小値を与えるビットの状態を特定する。
そして、最適化処理部171は、上記式(2)の最小化の結果に基づいて、対象物の形状を特定する(S109)。言い換えると、S109において、最適化処理部171は、上記式(2)に最小値を与えるビットの状態(ステート)に基づいて、目的関数式が最小値となるときの対象物の形状を特定する。
【0071】
次いで、最適化処理部171は、特定した対象物の形状に、フィルタリングを行い、連続的な形状に補正する(S110)。より具体的には、S110において、最適化処理部171は、S109で特定した対象物の形状を連続的な形状に補正する処理を行う。
続いて、最適化処理部171は、目的関数式の最小値の変化が所定値以下であるかどうかを判定し、所定値以下であると判定した場合は処理をS112に移し、所定値以下でない(所定値以上である)と判定した場合は処理をS104に戻す(S111)。より具体的には、S111において、最適化処理部171は、例えば、n回目の計算における目的関数式の最小値と、n+1回目の計算における目的関数式の最小値との差(ΔE)が、あらかじめ設定した残差(ε)より小さいかどうかを判定する。そして、ΔEがεより小さい(ΔE<ε)と判定した場合は処理をS112に移し、ΔEがε以上(ΔE≧ε)と判定した場合は処理をS104に戻す。
【0072】
そして、最適化処理部171は、対象物の形状の最適化結果を出力し、処理を終了させる(S112)。言い換えると、S112において、最適化処理部171は、S110でフィルタリングを行い、目的関数式の最小値の変化が所定値以下となったときの対象物の形状を、最適化の結果として出力し、処理を終了させる。
【0073】
また、図7においては、本件で開示する技術の一例における処理の流れについて、特定の順序に従って説明したが、本件で開示する技術においては、技術的に可能な範囲で、適宜各ステップの順序を入れ替えることができる。また本件で開示する技術においては、技術的に可能な範囲で、複数のステップを一括して行ってもよい。
【0074】
以下に、焼き鈍し法及びアニーリングマシンの一例について説明する。
焼き鈍し法は、乱数値や量子ビットの重ね合わせを用いて確率的に解を求める方法である。以下では最適化したい評価関数の値を最小化する問題を例に説明し、評価関数の値をエネルギーと呼ぶことにする。また、評価関数の値を最大化する場合は、評価関数の符号を変えればよい。
【0075】
まず、各変数に離散値の1つを代入した初期状態からはじめ、現在の状態(変数の値の組み合わせ)から、それに近い状態(例えば、1つの変数だけ変化させた状態)を選び、その状態遷移を考える。その状態遷移に対するエネルギーの変化を計算し、その値に応じてその状態遷移を採択して状態を変化させるか、採択せずに元の状態を保つかを確率的に決める。エネルギーが下がる場合の採択確率をエネルギーが上がる場合より大きく選ぶと、平均的にはエネルギーが下がる方向に状態変化が起こり、時間の経過とともにより適切な状態へ状態遷移することが期待できる。このため、最終的には最適解又は最適値に近いエネルギーを与える近似解を得られる可能性がある。
もし、これを決定論的にエネルギーが下がる場合に採択とし、上がる場合に不採択とすれば、エネルギーの変化は時間に対して広義単調減少となるが、局所解に到達したらそれ以上変化が起こらなくなってしまう。上記のように離散最適化問題には非常に多数の局所解が存在するために、状態が、ほとんど確実にあまり最適値に近くない局所解に捕まってしまう。したがって、離散最適化問題を解く際には、その状態を採択するかどうかを確率的に決定することが重要である。
【0076】
焼き鈍し法においては、状態遷移の採択(許容)確率を次のように決めれば、時刻(反復回数)無限大の極限で状態が最適解に到達することが証明されている。
以下では、焼き鈍し法を用いて最適解を求める方法について、順序を追って説明する。
【0077】
(1)状態遷移に伴うエネルギー変化(エネルギー減少)値(-ΔE)に対して、その状態遷移の許容確率pを、次のいずれかの関数f( )により決める。
【0078】
【数8】
【0079】
【数9】
【0080】
【数10】
【0081】
ここで、Tは、温度値と呼ばれるパラメータであり、例えば、次のように変化させることができる。
【0082】
(2)温度値Tを次式で表されるように反復回数tに対数的に減少させる。
【0083】
【数11】
【0084】
ここで、Tは、初期温度値であり問題に応じて、十分大きくとることが望ましい。
(1)の式で表される許容確率を用いた場合、十分な反復後に定常状態に達したとすると、各状態の占有確率は熱力学における熱平衡状態に対するボルツマン分布に従う。
そして、高い温度から徐々に下げていくとエネルギーの低い状態の占有確率が増加するため、十分温度が下がるとエネルギーの低い状態が得られると考えられる。この様子が、材料を焼き鈍したときの状態変化とよく似ているため、この方法は焼き鈍し法(または、疑似焼き鈍し法)と称される。なお、エネルギーが上がる状態遷移が確率的に起こることは、物理学における熱励起に相当する。
【0085】
図8に焼き鈍し法を行うアニーリングマシンの機能構成の一例を示す。ただし、下記説明では、状態遷移の候補を複数発生させる場合についても述べるが、基本的な焼き鈍し法は、遷移候補を1つずつ発生させるものである。
【0086】
アニーリングマシン300は、現在の状態S(複数の状態変数の値)を保持する状態保持部111を有する。また、アニーリングマシン300は、複数の状態変数の値のいずれかが変化することによる現在の状態Sからの状態遷移が起こった場合における、各状態遷移のエネルギー変化値{-ΔEi}を計算するエネルギー計算部112を有する。さらに、アニーリングマシン300は、温度値Tを制御する温度制御部113、状態変化を制御するための遷移制御部114を有する。なお、アニーリングマシン300は、上記の最適化装置100の一部とすることができる。
【0087】
遷移制御部114は、温度値Tとエネルギー変化値{-ΔEi}と乱数値とに基づいて、エネルギー変化値{-ΔEi}と熱励起エネルギーとの相対関係によって複数の状態遷移のいずれかを受け入れるか否かを確率的に決定する。
【0088】
ここで、遷移制御部114は、状態遷移の候補を発生する候補発生部114a、各候補に対して、そのエネルギー変化値{-ΔEi}と温度値Tとから状態遷移を許可するかどうかを確率的に決定するための可否判定部114bを有する。さらに、遷移制御部114は、可となった候補から採用される候補を決定する遷移決定部114c、及び確率変数を発生させるための乱数発生部114dを有する。
【0089】
アニーリングマシン300における、一回の反復における動作は次のようなものである。
まず、候補発生部114aは、状態保持部111に保持された現在の状態Sから次の状態への状態遷移の候補(候補番号{Ni})を1つまたは複数発生する。次に、エネルギー計算部112は、現在の状態Sと状態遷移の候補を用いて候補に挙げられた各状態遷移に対するエネルギー変化値{-ΔEi}を計算する。可否判定部114bは、温度制御部113で発生した温度値Tと乱数発生部114dで生成した確率変数(乱数値)を用い、各状態遷移のエネルギー変化値{-ΔEi}に応じて、上記(1)の式の許容確率でその状態遷移を許容する。
そして、可否判定部114bは、各状態遷移の可否{fi}を出力する。許容された状態遷移が複数ある場合には、遷移決定部114cは、乱数値を用いてランダムにそのうちの1つを選択する。そして、遷移決定部114cは、選択した状態遷移の遷移番号Nと、遷移可否fを出力する。許容された状態遷移が存在した場合、採択された状態遷移に応じて状態保持部111に記憶された状態変数の値が更新される。
【0090】
初期状態から始めて、温度制御部113で温度値を下げながら上記反復を繰り返し、一定の反復回数に達する、又はエネルギーが一定の値を下回る等の終了判定条件が満たされたときに動作が終了する。アニーリングマシン300が出力する答えは、終了時の状態である。
【0091】
図8に示されるアニーリングマシン300は、例えば、半導体集積回路を用いて実現され得る。例えば、遷移制御部114は、乱数発生部114dとして機能する乱数発生回路や、可否判定部114bの少なくとも一部として機能する比較回路や、後述のノイズテーブルなどを含んでもよい。
【0092】
図8に示されている遷移制御部114に関し、(1)の式で表される許容確率で状態遷移を許容するメカニズムについて、更に詳細に説明する。
【0093】
許容確率pで1を、(1-p)で0を出力する回路は、2つの入力A,Bを持ち、A>Bのとき1を出力し、A<Bのとき0を出力する比較器の入力Aに許容確率pを、入力Bに区間[0,1)の値をとる一様乱数を入力することで実現することができる。したがって、この比較器の入力Aに、エネルギー変化値と温度値Tにより(1)の式を用いて計算される許容確率pの値を入力すれば、上記の機能を実現することができる。
【0094】
すなわち、fを(1)の式で用いる関数、uを区間[0,1)の値をとる一様乱数とするとき、f(ΔE/T)がuより大きいとき1を出力する回路により、上記の機能を実現できる。
【0095】
また、次のような変形を行っても、上記の機能と同じ機能が実現できる。
2つの数に同じ単調増加関数を作用させても大小関係は変化しない。したがって、比較器の2つの入力に同じ単調増加関数を作用させても出力は変わらない。この単調増加関数として、fの逆関数f-1を採用すると、-ΔE/Tがf-1(u)より大きいとき1を出力する回路とすることができることがわかる。さらに、温度値Tが正であることから、-ΔEがTf-1(u)より大きいとき1を出力する回路でよいことがわかる。
図8中の遷移制御部114は、逆関数f-1(u)を実現するための変換テーブルであり、区間[0,1)を離散化した入力に対して次の関数の値を出力するノイズテーブルを含んでもよい。
【0096】
【数12】
【0097】
【数13】
【0098】
図9は、遷移制御部114の動作フローの一例を示す図である。図9に示す動作フローは、1つの状態遷移を候補として選ぶステップ(S0001)、その状態遷移に対するエネルギー変化値と温度値と乱数値の積の比較で状態遷移の可否を決定するステップ(S0002)、状態遷移が可ならばその状態遷移を採用し、否ならば不採用とするステップ(S0003)を有する。
【0099】
(最適化方法)
本件で開示する最適化方法は、対象物の形状を最適化する最適化方法であって、
設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を特定する最適化工程を含む。
【0100】
本件で開示する最適化方法は、例えば、本件で開示する最適化装置により行うことができる。また、本件で開示する最適化方法における好適な態様は、例えば、本件で開示する最適化装置における好適な態様と同様にすることができる。
【0101】
(最適化プログラム)
本件で開示する最適化プログラムは、対象物の形状を最適化する最適化プログラムであって、
設計領域に配置される対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
対象物の各要素について、対象物の各要素を配置するか否かを特定することにより、対象物の形状を特定する処理をコンピュータに行わせる。
【0102】
本件で開示する最適化プログラムは、例えば、本件で開示する最適化方法をコンピュータに実行させるプログラムとすることができる。また、本件で開示する最適化プログラムにおける好適な態様は、例えば、本件で開示する最適化装置における好適な態様と同様にすることができる。
【0103】
本件で開示する最適化プログラムは、使用するコンピュータシステムの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、公知の各種のプログラム言語を用いて作成することができる。
【0104】
本件で開示する最適化プログラムは、内蔵ハードディスク、外付けハードディスクなどの記録媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどの記録媒体に記録しておいてもよい。
さらに、本件で開示する最適化プログラムを、上記の記録媒体に記録する場合には、必要に応じて、コンピュータシステムが有する記録媒体読取装置を通じて、これを直接又はハードディスクにインストールして使用することができる。また、コンピュータシステムから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータなど)に本件で開示する最適化プログラムを記録しておいてもよい。この場合、外部記憶領域に記録された本件で開示する最適化プログラムは、必要に応じて、外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じてこれを直接、又はハードディスクにインストールして使用することができる。
なお、本件で開示する最適化プログラムは、複数の記録媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0105】
(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)
本件で開示するコンピュータが読み取り可能な記録媒体は、本件で開示する最適化プログラムを記録してなる。
本件で開示するコンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
また、本件で開示するコンピュータが読み取り可能な記録媒体は、本件で開示する最適化プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体であってもよい。
【実施例
【0106】
本件で開示する技術の一実施例について説明するが、本件で開示する技術は、この実施例に何ら限定されるものではない。
また、以下の実施例においては、本件で開示する技術における好ましい一例として、対象物を磁気シールドとし、所定の特性を磁束の遮蔽性能とし、寄与度を磁化ベクトルとする例について説明する。
【0107】
(実施例1)
実施例1として、本件で開示する最適化装置の一例を用いて、磁気シールドの形状の最適化を行った。実施例1では、図5に示すようなハードウェア構成を有する最適化装置を用いて、図7のフローチャートに示した流れに従って、磁気シールドの形状の最適化を行った。また、目的関数式の最小化(式(2)イジングモデル式の最小化)には、デジタルアニーラ(登録商標)を用いた。
【0108】
<寄与度(磁化ベクトル)の特定>
まず、実施例1においては、磁気シールドの形状を最適化することにより、磁気シールドにおける所定の特性(磁気シールドの性能)としての磁束の遮蔽性能に加えて、磁気シールドを形成する磁性体材料の面積を考慮した最適化を行った。より具体的は、実施例1では、磁気シールドについて、可能な限り少ない磁性体の面積(材料の量)で、磁気シールドにより磁気を遮蔽したい領域(対象領域)における磁束密度を最小化できる、磁気シールドの形状の探索を行った。
図10は、実施例1における、磁気シールドの形状を最適化する際の計算モデルの一例を示す図である。図10に示すように、実施例1においては、磁気シールドを形成する磁性体材料を配置し得る領域である設計領域10の内側に、磁気シールドにより磁気を遮蔽したい領域である対象領域20が位置する。また、実施例1では、図10に示すように、設計領域10の上側に、磁束を発生するコイル30(10kAT(アンペア回数))が位置している。なお、実施例1では、図10に示すように、設計領域10及び対象領域20の左側の境界は対称境界40Aとし、設計領域10及び対象領域20の下側の境界は自然境界40Bとした。
【0109】
図11は、実施例1において設定した、磁気シールドを形成する磁性体材料についてのBH曲線(BHカーブ;ヒステリシス曲線)の一例を示す図である。実施例1では、磁性体材料に磁場(磁界)H(A/m)を加えたときの磁束密度B(T)の関係が、図11に示したグラフのようになる磁性体材料を用いて磁気シールドを形成する例について、磁気シールドの形状を最適化した。
【0110】
そして、実施例1では、図10に示した計算モデルに対して、数値計算を用いた解析(CAE解析)として有限要素法(FEM)を用いた解析を行った。
具体的には、実施例1においては、図10に示した計算モデルを、複数の要素に分割して、二次元静磁場についての支配方程式を、有限要素法による解析により数値的に解くことで、磁束密度の分布を求めた。つまり、実施例1では、複数の要素に分割した計算モデルについて、有限要素法による解析を行うことにより、各要素における磁束密度を求めた。
【0111】
図12Aから図12Cに、実施例1における、計算モデルを分割して、有限要素法による解析を行うことにより、各要素における磁束密度を求める際の流れの一例を説明するための図を示す。
まず、図12Aに示した、図10に示した計算モデルと同様の計算モデルを、図12Bに示すように分割して、複数の要素の集合とする。そして、図12Bのように分割した計算モデルに対して、有限要素法による解析を行い、各要素における磁束密度(B)を求めて、計算モデルにおける磁束密度の分布を、図12Cのように特定した。
なお、実施例1では、図7のS102でも説明したように、磁気シールドの形状を最適化の初期の計算モデルとして、図12Aにおける設計領域10の全てに、磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定する。また、実施例1においては、図12Bに示すようにして分割した設計領域10の各要素について、i番目の要素に磁性体材料を配置する条件を「x=1」で表し、i番目の要素に磁性体材料を配置する条件を「x=0」で表す。
【0112】
ここで、実施例1において、二次元静磁場についての支配方程式を、有限要素法による解析により数値的に解く際には、二次元静磁場についての支配方程式として、次の数式を用いた。
【数14】
上記の式において、μは透磁率を意味し、Jはコイル30における電流密度を意味し、Aはベクトルポテンシャルを意味する。
【0113】
なお、透磁率μは、磁性体材料が存在しない領域(空気が存在することになる領域)においては、μ=4π×10-7(H/m)となる。また、透磁率μは、磁性体材料が存在する領域(設計領域における磁性体を配置する要素)においては、図11に示したBH曲線の非線形特性に応じて、次の式で表すことができる。
【数15】
【0114】
そして、実施例1では、上記の二次元静磁場についての支配方程式を有限要素法による解析により数値的に解く(有限要素法によるシミュレーションを行う)ことにより、ベクトルポテンシャルAを求める。次いで、実施例1においては、求めたベクトルポテンシャルAに基づいて、次の数式により、各要素における磁束密度(B)を求めて、計算モデルにおける磁束密度の分布(磁束の遮蔽性能に関する場の分布)を特定した。
【数16】
【0115】
次いで、実施例1では、特定した磁束密度(B)の分布に基づいて、設計領域を分割した各要素における磁化ベクトルM(寄与度の一例)を特定した。
各要素における磁化ベクトルMに関しては、設計領域において、磁性体材料を配置する要素(セル)と、磁性体材料を配置しない要素(空気を配置するセル)に分類して、磁化ベクトルMを計算して特定した。
【0116】
磁性体材料を配置する要素については、磁化ベクトルMを、次の式に基づいて特定した。
【数17】
ここで、上記の式において、Mはi番目の要素における磁化ベクトルを意味し、Hはi番目の要素における磁場の強さを意味し、χは磁場の強さHの係数を意味し、μは磁性体材料における比透磁率を意味し、μは空気の透磁率を意味し、Bはi番目の要素における磁束密度を意味する。
このように、実施例1においては、各要素における寄与度としての磁化ベクトルMを、磁性体材料における比透磁率μと空気の透磁率μと、有限要素法を利用して求めた磁束密度Bとを用いて求めた。
【0117】
また、磁性体材料を配置しない要素(空気を配置する要素)については、上記のi番目の要素における磁化ベクトルMについての式を用いると、比透磁率が1となるため、算出される磁化ベクトルMの値がゼロとなる。このため、実施例1においては、磁性体材料を配置しない要素の磁化ベクトルMとして、磁化ベクトルの更新と、目的関数式を用いた最適化とを繰り返す際の、1ステップ前における磁化ベクトルMを用いる。つまり、実施例1では、n回目の計算ではi番目の要素に磁性体材料を配置し、n+1回目の計算ではi番目の要素に磁性体材料を配置しない場合、n+1回目の計算でのi番目の要素の磁化ベクトルMを、n回目の計算でのi番目の要素の磁化ベクトルMとする。
【0118】
図13は、実施例1における、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件での、設計領域における磁束密度の分布の一例を示す図である。図13においては、丸印を付した領域における磁束密度が大きいことを示している。
【0119】
図14は、実施例1における、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件での、設計領域における磁気シールドを分割した各要素の一例を示す図である。
図14に示すように、実施例1では、設計領域10における磁気シールドの各要素の形状が三角形となるように、設計領域における磁気シールドを分割した。なお、実施例1においては、磁束密度の分布を特定するための有限要素法による解析を行う際の要素(メッシュ)を、目的関数式を用いて磁気シールドの各要素を配置するか否かを特定する際の要素として、そのまま用いた。
【0120】
<目的関数式の構築>
ここで、実施例1では、可能な限り少ない磁性体の面積(材料の量)で、磁気シールドにより磁気を遮蔽したい領域(対象領域)における磁束密度を最小化できる、磁気シールドの形状の探索を行うために、以下のようにして、目的関数式を構築(定義)した。
磁束の遮蔽性能ができるだけ高く、磁性体材料の面積ができるだけ小さい磁気シールドの形状を得ることができる目的関数式としては、対象領域20における磁束密度の大きさを表す項と、設計領域10における磁性体材料の面積を表す項とを含むものが好ましい。つまり、本件で開示する技術の一例では、最適化処理部が、磁気シールドにより磁束が遮蔽される領域における磁束密度の大きさを表す項と、磁気シールドにおける磁性体の面積を表す項とを含む目的関数式に基づいて最適化を行うことが好ましい。
【0121】
具体的には、実施例1では、各要素における磁化ベクトルMに基づいて、磁気シールドにより磁束が遮蔽される領域における磁束密度の大きさを表す項と、磁気シールドにおける磁性体の面積を表す項とを含む目的関数式として、下記式(1)を定義した。
【数18】
ただし、式(1)において、
Eは、目的関数式であり、
αは、正の数であり、
は、設計領域が空気で満たされる場合における、磁束が遮蔽される領域(対象領域)における磁束密度の2乗を表す数値であり、
は、磁束が遮蔽される領域を分割した要素の数を表す整数であり、
は、磁束が遮蔽される領域のk番目の要素における磁束密度を表すベクトルであり、
ΔSは、磁束が遮蔽される領域のk番目の要素の面積を表す数値であり、
βは、正の数であり、
は、設計領域が磁性体で満たされる場合における、磁性体の面積を表す数値であり、
は、設計領域を分割した要素の数を表す整数であり、
ΔSは、設計領域のi番目の要素の面積を表す数値であり、
は、設計領域のi番目の要素に対して、磁性体を配置する場合に1となり、磁性体を配置せずに空気とする場合に0となるバイナリ変数である。
【0122】
上記の式(1)において、右辺の1項目(係数がαの項)は、磁気シールドの内側の対象領域20内における磁束密度の2乗を意味し、右辺の2項目(係数がβの項)は、磁気シールドを形成する磁性体材料の面積を意味する。なお、右辺の1項目(係数がαの項)における対象領域内の磁束密度Bは、磁化ベクトルMを含むビオ・サバールの法則に基づく計算により求めた。
上記の式(1)の値を最小化できる磁気シールドの形状を特定することにより、できるだけ少ない磁性体材料の面積で、磁気シールドの内側に存在する対象領域30内における磁束密度を最小化できる形状を特定することができる。
また、右辺の1項目(係数がαの項)においては、対象領域内の磁束密度Bはベクトル量であるため、2乗することによりスカラー量に変換することで、目的関数式の形式をQUBO形式とした。
なお、実施例1においては、α=0.95、β=0.05に設定した。
【0123】
ここで、上記の式(1)において、k番目の要素における磁束密度Bは、次の式を用いて、ビオ・サバールの法則に基づく計算を行うことにより求めた。
【数19】
ただし、上記の式において、
は、磁束が遮蔽される領域(対象領域)のk番目の要素における磁束密度を表すベクトルであり、
μは、空気の透磁率であり、
は、設計領域を分割した要素の数を表す整数であり、
は、設計領域のi番目の要素に対して、磁性体を配置する場合に1となり、磁性体を配置せずに空気とする場合に0となるバイナリ変数であり、
は、設計領域のi番目の要素における磁化ベクトルであり、
i,kは、磁束が遮蔽される領域のk番目の要素と、設計領域のi番目の要素との間の位置ベクトルであり、
ΔSは、設計領域のi番目の要素の面積を表す数値であり、
は、コイルが配置される領域(コイル領域)を分割した要素の数を表す整数であり、
は、コイルが配置される領域のj番目の要素における電流密度を表すベクトルであり、
ΔSは、コイルが配置される領域のj番目の要素の面積を表す数値である。
【0124】
そして、実施例1では、上記の目的関数式(式(1))を、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換し、変換したイジングモデル式をデジタルアニーラ(登録商標)により、焼き鈍し法(アニーリング)を用いて最小化した。
【数20】
ただし、上記式(2)において、
Eは、イジングモデル式に変換した目的関数式であり、
ijは、i番目のビットとj番目のビットとの間の相互作用を表す数値であり、
は、i番目のビットに対するバイアスを表す数値であり、
は、i番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数であり、
は、j番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数である。
【0125】
<フィルタリング>
実施例1においては、上記式(2)を用いて、イジングモデル式に変換した目的関数式を最小化することにより得た磁気シールドの形状に対して、フィルタリングを行い、磁気シールドの形状を連続的な形状に補正する処理を行った。
なお、実施例1では、各要素の周囲の要素を考慮して平均密度を求め、求めた平均密度に基づいてフィルタリングを行う、上述した手法を用いた。
【0126】
そして、実施例1では、磁化ベクトル(寄与度)の更新と、更新された磁化ベクトルに基づいた目的関数式を用いた最適化とを、目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返し、磁気シールドの形状を最適化した。なお、実施例1においては、この繰り返し毎に、フィルタリングを行い、磁気シールドの形状を連続的な形状に補正する処理を行った。
【0127】
<最適化の結果>
実施例1において、磁化ベクトル(寄与度)の更新と、更新された磁化ベクトルに基づいた目的関数式を用いた最適化の繰り返しの過程における、磁気シールドの形状について以下で説明する。
まず、図15は、実施例1において、最適化を行う際の初期の形状として、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状の一例を示す図である。
【0128】
図16Aは、実施例1において、1回目の最適化におけるフィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例を示す図である。図16Bは、実施例1において、1回目の最適化におけるフィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例を示す図である。
同様にして、2回目の最適化から14回目の最適化まで、フィルタリングを行う前の磁気シールドの形状の一例と、フィルタリングを行った後の磁気シールドの形状の一例とを、図17Aから図29Bに示す。なお、実施例1においては、13回目の最適化を行った際の目的関数式の最小値と、14回目の最適化を行った際の目的関数式の最小値の変化が所定値以下となったため、14回目の最適化で、磁気シールドの形状の最適化を終了した。
【0129】
図16Aから図29Bに示すように、初期の形状の設定を含む15回の繰り返しの過程では、連続的で磁性体材料の面積が比較的大きい形状から、段々と磁性体材料の面積が小さい形状へと変化していき、最終的には、図29Bに示した形状を得ることができた。なお、上述したように、15回の繰り返しの過程では、最適化を行った後にフィルタリングを行うことで得られた形状に対して、改めて有限要素法を用いた磁化ベクトル(寄与度の一例)の特定を行って、磁化ベクトルの値を更新した。
また、図16Aから図29Bに示すように、フィルタリング前の形状と、フィルタリング後の形状を比較すると、フィルタリングを行うことにより、製造が困難な「飛び飛びの形状」を、連続的な形状に補正できていることがわかる。
【0130】
図30Aは、実施例1において、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状の一例を示す図である。図30Bは、実施例1において、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。なお、図30A及び図30Bにおいては、磁性体材料を淡色の領域で示し、磁力線を濃色の線で示す。
図30A及び図30Bに示すように、設計領域の全てに磁気シールドの材料としての磁性体材料を配置する条件を設定したときの磁気シールドの形状においては、磁性体の面積は大きいものの、対象領域20には磁力線は侵入せず、磁束の遮蔽性能が高い。
また、図30A及び図30Bに示した形状における、磁性体材料の面積は、0.75cmであった。
【0131】
図31Aは、実施例1において、α=0.95、β=0.05とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。図31Bは、実施例1において、α=0.95、β=0.05とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
図31A及び図31Bに示すように、式(1)において、α=0.95、β=0.05と設定した場合は、図31A及び図31Bに示した例と比べて、磁性体材料の面積が大幅に少なくなっており、磁性体材料の面積は、0.19cmであった。さらに、図31A及び図31Bに示すように、実施例1の最適化結果においては、上記のように磁性体材料の面積を少ないものの、対象領域20には磁力線はほとんど侵入しておらず、磁束の遮蔽性能は十分に維持することができた。
このように、実施例1においては、上記式(1)に示した目的関数式を用いて磁気シールドの形状を最適化することにより、対象領域に対する磁束の遮蔽性能が十分であり、かつ、磁性体材料の面積を抑制できる形状を特定することができた。
【0132】
(実施例2)
実施例2では、実施例1において、式(1)のαとβを、それぞれα=0.5、β=0.5と設定した以外は、実施例1と同様にして、磁気シールドの形状を最適化した。
図32Aは、実施例2において、α=0.5、β=0.5とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。図32Bは、実施例2において、α=0.5、β=0.5とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
【0133】
(実施例3)
実施例3では、実施例1において、式(1)のαとβを、それぞれα=0.7、β=0.3と設定した以外は、実施例1と同様にして、磁気シールドの形状を最適化した。
図33Aは、実施例3において、α=0.7、β=0.3とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。図33Bは、実施例3において、α=0.7、β=0.3とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
【0134】
(実施例4)
実施例4では、実施例1において、式(1)のαとβを、それぞれα=0.8、β=0.2と設定した以外は、実施例1と同様にして、磁気シールドの形状を最適化した。
図34Aは、実施例4において、α=0.8、β=0.2とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。図34Bは、実施例4において、α=0.8、β=0.2とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
【0135】
(実施例5)
実施例5では、実施例1において、式(1)のαとβを、それぞれα=0.99、β=0.01と設定した以外は、実施例1と同様にして、磁気シールドの形状を最適化した。
図35Aは、実施例5において、α=0.99、β=0.01とした場合の、磁気シールドの形状の最適化結果の一例を示す図である。図35Bは、実施例5において、α=0.99、β=0.01とした場合の、磁気シールドの最適化結果の形状における、コイルが発生する磁気による磁力線の一例を示す図である。
【0136】
図36は、実施例1から実施例5における、対象領域における磁束密度の二乗の平均と、磁性体材料の面積(磁性体面積)の関係の一例を示す図である。
図36に示すように、本件で開示する技術の一例においては、式(1)のαとβの値を変更することにより、最適化の目的に応じた磁気シールドの形状を得ることができる。
つまり、実施例1から実施例5に示すように、式(1)のαとβの値を変更することにより、探索する磁気シールドの形状について、対象領域内における磁束密度を最小化する性能と、用いる磁性体材料の面積の大きさとのバランスを調整することができる。より具体的には、例えば、式(1)のαを大きくしβを小さくすることで、対象領域内における磁束密度を最小化する性能を重要視した形状を探索できる。また、例えば、式(1)のαを小さくしβを大きくすることで、磁性体材料の面積の大きさを抑制することを重要視した形状を探索できる。
【0137】
ここで、本件で開示する技術の実施例においては、上述したように、15回の繰り返し計算により、十分に最適化された磁気シールドの形状を得ることができた。つまり、本件で開示する技術の実施例においては、有限要素法を用いた数値計算(シミュレーション)を15回繰り返すことにより、磁気シールドの形状を最適化することができた。
ここで、従来技術として説明した連続トポロジ最適化を用いた場合、本件で開示する技術の実施例と同様の設計領域を設定した計算系を用いて、磁気シールドの形状を最適化すると、200回程度の有限要素法の計算が必要であることが知られている。この従来技術の例についての詳細は、例えば、「佐藤孝洋,渡辺浩太,五十嵐一,“静磁場問題のトポロジー最適化におけるレベルセット法と進化型on/off法”,計算数理工学論文集,vol.14,pp.13-18,2014.」に記載されている。
また、例えば、従来技術として説明した離散トポロジ最適化を用いた場合、有限要素法における要素数(メッシュの数)をn個とすると、2回の有限要素法による数値計算が必要となり、有限要素法における要素数に対して指数関数的に計算コストが大きくなる。
【0138】
このように、本件で開示する技術の実施例においては、有限要素法(数値計算手法の一例)による計算コストが大きい処理を行う回数を、従来技術と比較して、大幅に少なくすることができるため、計算時間を短くでき、短時間で形状の最適化を行うことができる。
【0139】
図37は、本件で開示する技術の一実施形態における、処理の流れの一例を示す図である。
図37に示すように、本件で開示する技術の一実施形態では、まず、設計領域に配置する対象物を分割して複数の要素の集合とする(「1.設計領域の要素分割」)。次いで、本件で開示する技術の一実施形態では、各要素に分割した設計領域を含む計算モデルについて、CAE解析を行うことにより、対象物の所定の特性に対する寄与度を特定するための物理量の分布を解析する(「2.CAE解析による物理量の分布の解析」)。
続いて、図37に示すように、本件で開示する技術の一実施形態では、解析した物理量の分布に基づいて、各要素における寄与度を特定する(「3.要素の寄与度を特定」)。そして、本件で開示する技術の一実施形態では、特定した寄与度に基づいた目的関数式を構築する(「4.目的関数式の構築」)。
【0140】
次に、図37に示すように、本件で開示する技術の一実施形態では、焼き鈍し法(アニーリング)により、目的関数式を最適化する(「5.焼き鈍し法による目的関数式の最適化」)。次に、本件で開示する技術の一実施形態では、目的関数式を最適化することにより得られた対象物の形状を、連続的な形状にできるようにフィルタリングする(「6.得られた形状に対するフィルタリング」)。
そして、図37に示すように、本件で開示する技術の一実施形態では、目的関数式の最小値の変化が所定値以上である場合は、処理を「2.CAE解析による物理量の分布の解析」に戻し、より適切な形状を求めるための反復処理を行う(「7.目的関数式の値の変化がある場合は反復処理」)。
また、本件で開示する技術の一実施形態では、目的関数式の最小値の変化が所定値以下である場合は、十分な最適化が完了したとして、最適化の結果(対象物の形状)を出力する(「8.目的関数式の値の変化がない場合は最終形状の出力」)。
【0141】
本件で開示する技術の一実施形態では、例えば、図37に示したような処理を行うことにより、対象物の形状を、十分かつ短時間で最適化することができる。
【0142】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
対象物の形状を最適化する最適化装置であって、
設計領域に配置される前記対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、前記対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
前記対象物の前記各要素について、前記対象物の前記各要素を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する最適化処理部を有することを特徴とする最適化装置。
(付記2)
前記設計領域に配置される前記対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、前記所定の特性に関する物理量の分布を特定することで、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する寄与度特定部を更に有する、付記1に記載の最適化装置。
(付記3)
前記寄与度特定部が、有限要素法を用いた解析を行うことにより、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する、付記2に記載の最適化装置。
(付記4)
前記寄与度特定部が、前記対象物の前記各要素を配置するか否かの特定の結果に基づいて、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を更新し、
前記最適化処理部が、更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いて、前記対象物の形状を特定する、付記2又は3に記載の最適化装置。
(付記5)
前記寄与度特定部における前記寄与度の更新と、前記最適化処理部における更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化とを、前記目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返す、付記4に記載の最適化装置。
(付記6)
前記最適化処理部が、特定された前記対象物の形状を連続的な形状に補正する、付記1から5のいずれかに記載の最適化装置。
(付記7)
前記対象物が磁気シールドであり、前記所定の特性が磁束の遮蔽性能であり、前記寄与度が磁化ベクトルである、付記1から6のいずれかに記載の最適化装置。
(付記8)
前記最適化処理部が、前記磁気シールドにより磁束が遮蔽される領域における磁束密度の大きさを表す項と、前記磁気シールドにおける磁性体の面積を表す項とを含む前記目的関数式に基づいて最適化を行う、付記7に記載の最適化装置。
(付記9)
前記最適化処理部が、下記式(1)で表される前記目的関数式に基づいて前記対象物の形状を特定する、付記7又は8に記載の最適化装置。
【数21】
ただし、前記式(1)において、
前記Eは、前記目的関数式であり、
前記αは、正の数であり、
前記Eは、前記設計領域が空気で満たされる場合における、前記磁束が遮蔽される領域における前記磁束密度の2乗を表す数値であり、
前記Nは、前記磁束が遮蔽される領域を分割した要素の数を表す整数であり、
前記Bは、前記磁束が遮蔽される領域のk番目の要素における磁束密度を表すベクトルであり、
前記ΔSは、前記磁束が遮蔽される領域のk番目の要素の面積を表す数値であり、
前記βは、正の数であり、
前記Eは、前記設計領域が前記磁性体で満たされる場合における、前記磁性体の面積を表す数値であり、
前記Nは、前記設計領域を分割した要素の数を表す整数であり、
前記ΔSは、前記設計領域のi番目の要素の面積を表す数値であり、
前記xは、前記設計領域のi番目の要素に対して、前記磁性体を配置する場合に1となり、前記磁性体を配置せずに空気とする場合に0となるバイナリ変数である。
(付記10)
前記最適化処理部が、下記式(2)で表されるイジングモデル式に変換した前記目的関数式に基づいて前記対象物の形状を特定する、付記1から9のいずれかに記載の最適化装置。
【数22】
ただし、前記式(2)において、
前記Eは、前記イジングモデル式に変換した前記目的関数式であり、
前記wijは、i番目のビットとj番目のビットとの間の相互作用を表す数値であり、
前記bは、前記i番目のビットに対するバイアスを表す数値であり、
前記xは、前記i番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数であり、
前記xは、前記j番目のビットが0又は1であることを表すバイナリ変数である。
(付記11)
前記最適化処理部が、焼き鈍し法により、前記イジングモデル式に変換した前記目的関数式を最小化することにより前記対象物の形状を特定する、付記10に記載の最適化装置。
(付記12)
対象物の形状を最適化する最適化方法であって、
設計領域に配置される前記対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、前記対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
前記対象物の前記各要素について、前記対象物の前記各要素を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する最適化工程を含むことを特徴とする最適化方法。
(付記13)
前記設計領域に配置される前記対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、前記所定の特性に関する物理量の分布を特定することで、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する寄与度特定工程を更に含む、付記12に記載の最適化方法。
(付記14)
前記寄与度特定工程において、有限要素法を用いた解析を行うことにより、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する、付記13に記載の最適化方法。
(付記15)
前記寄与度特定工程において、前記対象物の前記各要素を配置するか否かの特定の結果に基づいて、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を更新し、
前記最適化処理工程において、更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いて、前記対象物の形状を特定する、付記13又は14に記載の最適化方法。
(付記16)
前記寄与度特定工程における前記寄与度の更新と、前記最適化処理工程における更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化とを、前記目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返す、付記15に記載の最適化方法。
(付記17)
前記最適化処理工程において、特定された前記対象物の形状を連続的な形状に補正する、付記12から16のいずれかに記載の最適化方法。
(付記18)
対象物の形状を最適化する最適化プログラムであって、
設計領域に配置される前記対象物を分割することにより得られる複数の要素の各要素における、前記対象物の所定の特性に対する寄与度に基づいた目的関数式を用いて、
前記対象物の前記各要素について、前記対象物の前記各要素を配置するか否かを特定することにより、前記対象物の形状を特定する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする最適化プログラム。
(付記19)
前記設計領域に配置される前記対象物に対し数値計算を用いた解析を行うことにより、前記所定の特性に関する物理量の分布を特定することで、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する処理を更にコンピュータに行わせる、付記18に記載の最適化プログラム。
(付記20)
前記寄与度を特定する処理において、有限要素法を用いた解析を行うことにより、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を特定する、付記19に記載の最適化プログラム。
(付記21)
前記寄与度を特定する処理において、前記対象物の前記各要素を配置するか否かの特定の結果に基づいて、前記対象物の前記各要素における前記寄与度を更新し、
前記対象物の形状を特定する処理において、更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いて、前記対象物の形状を特定する、付記19又は20に記載の最適化プログラム。
(付記22)
前記寄与度を特定する処理における前記寄与度の更新と、前記対象物の形状を特定する処理における更新された前記寄与度に基づいた目的関数式を用いた最適化とを、前記目的関数式の最小値の変化が所定値以下になるまで繰り返す(S111)、付記21に記載の最適化プログラム。
(付記23)
前記対象物の形状を特定する処理において、特定された前記対象物の形状を連続的な形状に補正する、付記18から22のいずれかに記載の最適化プログラム。
【符号の説明】
【0143】
10 設計領域
20 対象領域
30 コイル
100 最適化装置
101 制御部
102 主記憶装置
103 補助記憶装置
104 I/Oインターフェイス
105 通信インターフェイス
106 入力装置
107 出力装置
108 表示装置
109 バス
120 通信機能部
130 入力機能部
140 出力機能部
150 表示機能部
160 記憶機能部
170 制御機能部
171 最適化処理部
172 寄与度特定部
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図25A
図25B
図26A
図26B
図27A
図27B
図28A
図28B
図29A
図29B
図30A
図30B
図31A
図31B
図32A
図32B
図33A
図33B
図34A
図34B
図35A
図35B
図36
図37