IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特許7556265三次元造形物の製造方法、三次元造形装置、および、情報処理装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法、三次元造形装置、および、情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20240918BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240918BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20240918BHJP
   B29C 64/321 20170101ALI20240918BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240918BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240918BHJP
【FI】
B29C64/386
B29C64/106
B29C64/209
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y50/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020180081
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071244
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 郷志
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525207(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094791(WO,A1)
【文献】特開2020-032564(JP,A)
【文献】特開2017-165041(JP,A)
【文献】特開2019-025761(JP,A)
【文献】特開2019-025759(JP,A)
【文献】米国特許第06823230(US,B1)
【文献】特開2017-114114(JP,A)
【文献】特開2018-176597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B22F 1/00-12/90
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層することで三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、
前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割する第1工程と、
分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する第2工程と、
前記第2データに従って、前記吐出部を制御して前記三次元造形物を造形する第3工程と、
を備え、
前記第1工程において、前記凹形状の起点における前記凹形状の接線の基準線からの角度と、前記凹形状の終点における前記凹形状の接線の前記基準線からの角度との差が、予め定められた値以下になるまで、前記隙間領域を分割する、
三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第2工程において、分割された前記隙間領域に接する部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなるように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層することで三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、
前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割する第1工程と、
分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する第2工程と、
前記第2データに従って、前記吐出部を制御して前記三次元造形物を造形する第3工程と、
を備え、
前記第2工程において、分割された前記隙間領域に接する部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなるように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成し、
前記層は、前記三次元造形物の外殻を表す外殻領域と、前記三次元造形物のうち、前記外殻領域以外の領域である内部領域とを含み、
前記第2工程において、分割された前記隙間領域を挟むように分割された前記隙間領域に接する2つの部分経路のうちの、一方の部分経路が前記外殻領域に存在し、他方の部分経路が前記内部領域に存在する場合、前記他方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなり、前記一方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が変更されないように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第2工程において、分割された前記隙間領域に接する前記部分経路の線幅を、分割された前記隙間領域の幅の変化に従って調整して前記第2データを生成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第2工程において、分割された前記隙間領域を通る新たな部分経路を前記経路データに追加して前記第2データを生成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の三次元造形物の製造方法であって、
前記第2工程において、前記新たな部分経路の線幅を、分割された前記隙間領域の幅の変化に従って調整して前記第2データを生成する、三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層することで三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法であって、
前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割する第1工程と、
分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する第2工程と、
前記第2データに従って、前記吐出部を制御して前記三次元造形物を造形する第3工程と、
を備え、
各前記部分経路において前記ステージの上方に堆積させる前記造形材料の基準幅Ssと、各前記部分経路において前記ステージに堆積させることが可能な前記造形材料の最大幅Smaxと、前記隙間領域の幅Wと、が、
W≦Smax-Ss
の関係を満たす場合、前記第2工程では、分割された前記隙間領域を挟む2つの部分経路のうち、いずれか一方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなり、他方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が変更されないように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成し、
W>Smax-Ss
の関係を満たす場合、前記第2工程では、分割された前記隙間領域を挟む2つの部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅がそれぞれ大きくなるように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成する、
三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
ステージと、
前記ステージに向けて造形材料を吐出する吐出部と、
前記ステージに対して前記吐出部を移動させる移動機構と、
第1データから第2データを生成するデータ生成部と、
前記第2データに従って前記吐出部と前記移動機構とを制御して前記ステージ上に三次元造形物を造形する制御部と、
を備え、
前記データ生成部は、
前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する前記第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、
分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから前記第2データを生成し、
前記データ生成部は、前記凹形状の起点における前記凹形状の接線の基準線からの角度と、前記凹形状の終点における前記凹形状の接線の前記基準線からの角度との差が、予め定められた値以下になるまで、前記隙間領域を分割する、
三次元造形装置。
【請求項9】
吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層するための造形データを生成する情報処理装置であって、
前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、
分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから前記造形データを生成する、データ生成部、
を備え
前記データ生成部は、前記凹形状の起点における前記凹形状の接線の基準線からの角度と、前記凹形状の終点における前記凹形状の接線の前記基準線からの角度との差が、予め定められた値以下になるまで、前記隙間領域を分割する、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形物の製造方法、三次元造形装置、および、情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の製造方法に関し、例えば、特許文献1には、三次元造形物の各層を構築するためのビルド経路に従って、造形材料の押し出しを行うノズルを移動させることが記載されている。ビルド経路には、周囲経路と、バルクラスター経路と、残存経路とが含まれる。周囲経路は、三次元造形物と外部との境界を形成するための経路であり、バルクラスター経路は、周囲経路によって囲まれた領域を埋める経路である。特許文献1に記載された技術では、周囲経路およびバルクラスター経路では埋められない空隙領域を、残存経路によって埋めることにより、空隙率を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-525207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように空隙領域を残存経路によって埋める場合、空隙領域の形状によっては、追加の残存経路が上手く生成されず、空隙部分が残ってしまう可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層することで三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法が提供される。この製造方法は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割する第1工程と、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する第2工程と、前記第2データに従って、前記吐出部を制御して前記三次元造形物を造形する第3工程と、を備える。
【0006】
本開示の第2の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、ステージと、前記ステージに向けて造形材料を吐出する吐出部と、前記ステージに対して前記吐出部を移動させる移動機構と、第1データから第2データを生成するデータ生成部と、前記第2データに従って前記吐出部と前記移動機構とを制御して前記ステージ上に三次元造形物を造形する制御部と、を備え、前記データ生成部は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する。
【0007】
本開示の第3の形態によれば、吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層するための造形データを生成する情報処理装置が提供される。この情報処理装置は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから前記造形データを生成する、データ生成部、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】三次元造形装置の概略構成を示す説明図である。
図2】フラットスクリューの概略構成を示す斜視図である。
図3】スクリュー対面部の概略平面図である。
図4】三次元造形物が造形されていく様子を模式的に示す説明図である。
図5】造形データ生成処理のフローチャートである。
図6】造形データ生成処理の説明図である。
図7】幅が変化する分割隙間領域を模式的に示す図である。
図8】制御部によって実行される三次元造形処理のフローチャートである。
図9】隙間領域の埋め方の具体例を示す説明図である。
図10】隙間領域の埋め方の具体例を示す説明図である。
図11】隙間領域の埋め方の具体例を示す説明図である。
図12】隙間分割処理の具体的な処理内容を示す説明図である。
図13】隙間領域を埋めた結果の比較例を示す図である。
図14】第2実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図15】第2実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図16】第2実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図17】第2実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す説明図である。
図18】第3実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図19】第3実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図20】第3実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。
図21】第3実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す説明図である。
図22】第3実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す第2の説明図である。
図23】第4実施形態における造形データ生成処理の説明図である。
図24】第5実施形態における造形データ生成処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形装置100の概略構成を示す説明図である。図1には、互いに直交するX,Y,Z方向を示す矢印が示されている。X方向およびY方向は、水平面に平行な方向であり、Z方向は、重力方向とは反対の方向である。X,Y,Z方向を示す矢印は、他の図においても、図示の方向が図1と対応するように適宜、図示してある。以下の説明において、向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
【0010】
三次元造形装置100は、三次元造形装置100を制御する制御部101と、造形材料を生成して吐出する造形部110と、三次元造形物の基台となる造形用のステージ210と、造形材料の吐出位置を制御する移動機構230と、を備える。
【0011】
造形部110は、制御部101の制御下において、固体状態の材料を溶融させてペースト状にした造形材料をステージ210上に吐出する。造形部110は、造形材料に転化される前の材料の供給源である材料供給部20と、材料を造形材料へと転化させる造形材料生成部30と、造形材料を吐出する吐出部60と、を備える。
【0012】
材料供給部20は、造形材料生成部30に、造形材料を生成するための原材料MRを供給する。材料供給部20は、例えば、原材料MRを収容するホッパーによって構成される。材料供給部20は、下方に排出口を有している。当該排出口は、連通路22を介して、造形材料生成部30に接続されている。原材料MRは、ペレットや粉末等の形態で材料供給部20に投入される。本実施形態では、ペレット状のABS樹脂の材料が用いられる。
【0013】
造形材料生成部30は、材料供給部20から供給された原材料MRを溶融させて流動性を発現させたペースト状の造形材料を生成し、吐出部60へと導く。造形材料生成部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、スクリュー対面部50と、を有する。フラットスクリュー40は、ローターあるいはスクロールとも呼ばれ、スクリュー対面部50はバレルとも呼ばれる。
【0014】
図2は、フラットスクリュー40の下面48側の概略構成を示す斜視図である。図2に示したフラットスクリュー40は、技術の理解を容易にするため、図1に示した上面47と下面48との位置関係を、鉛直方向において逆向きとした状態で示されている。図3は、スクリュー対面部50の上面52側を示す概略平面図である。フラットスクリュー40は、その中心軸に沿った方向である軸線方向における高さが直径よりも小さい略円柱状を有する。フラットスクリュー40は、その回転中心となる回転軸RXがZ方向に平行になるように配置される。
【0015】
フラットスクリュー40は、スクリューケース31内に収納されている。フラットスクリュー40の上面47側は駆動モーター32に連結されており、フラットスクリュー40は、駆動モーター32が発生させる回転駆動力によって、スクリューケース31内で回転する。駆動モーター32は、制御部101の制御下において駆動する。
【0016】
フラットスクリュー40の、回転軸RXと交差する面である下面48には、渦状の溝部42が形成されている。上述した材料供給部20の連通路22は、フラットスクリュー40の側面から、当該溝部42に連通する。図2に示すように、本実施形態では、溝部42は、凸条部43によって隔てられて3本分形成されている。なお、溝部42の数は、3本に限られず、1本でもよいし、2本以上であってもよい。溝部42は、渦状に限らず、螺旋状あるいはインボリュート曲線状であってもよいし、中央部から外周に向かって弧を描くように延びる形状であってもよい。
【0017】
フラットスクリュー40の下面48は、スクリュー対面部50の上面52に面しており、フラットスクリュー40の下面48の溝部42と、スクリュー対面部50の上面52との間には空間が形成される。造形部110では、フラットスクリュー40とスクリュー対面部50との間のこの空間に、材料供給部20から図2に示した材料流入口44へと原材料MRが供給される。
【0018】
スクリュー対面部50には、回転しているフラットスクリュー40の溝部42内に供給された原材料MRを加熱するためのヒーター58が埋め込まれている。スクリュー対面部50には、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。なお、案内溝54の一端は、連通孔56に接続されていなくてもよい。また、案内溝54は省略することも可能である。
【0019】
フラットスクリュー40の溝部42内に供給された原材料MRは、溝部42内において溶融されながら、フラットスクリュー40の回転によって溝部42に沿って流動し、造形材料としてフラットスクリュー40の中央部46へと導かれる。中央部46に流入した流動性を発現しているペースト状の造形材料は、図3に示したスクリュー対面部50の中心に設けられた連通孔56を介して吐出部60に供給される。なお、造形材料では、造形材料を構成する全ての種類の物質が溶融していなくてもよい。造形材料は、造形材料を構成する物質のうちの少なくとも一部の種類の物質が溶融することによって、全体として流動性を有する状態に転化されていればよい。
【0020】
吐出部60は、造形材料を吐出するノズル61と、フラットスクリュー40とノズル61との間に設けられた造形材料の流路65と、流路65を開閉する開閉機構70と、を有する。ノズル61は、流路65を通じて、スクリュー対面部50の連通孔56に接続されている。ノズル61は、造形材料生成部30において生成された造形材料を、先端の吐出口62からステージ210に向かって吐出する。
【0021】
開閉機構70は、流路65を開閉して、ノズル61からの造形材料の流出を制御する。第1実施形態では、開閉機構70は、バタフライバルブによって構成されている。開閉機構70は、一方向に延びる軸状部材である駆動軸72と、駆動軸72の回転により回動する弁体73と、駆動軸72の回転駆動力を発生するバルブ駆動部74と、を備える。
【0022】
駆動軸72は、造形材料の流れ方向に交差するように流路65の途中に取り付けられている。より具体的には、駆動軸72は、流路65内の造形材料の流通方向に対して垂直な向きであるY方向に平行になるように取り付けられている。駆動軸72は、Y方向に沿った中心軸を中心に回転可能である。
【0023】
弁体73は、流路65内において回転する部材である。第1実施形態では、弁体73は、駆動軸72の流路65内に配置されている部位を加工することによって形成されている。弁体73を、その板面に垂直な方向に見たときの形状は、弁体73が配置されている部位における流路65の開口形状とほぼ一致する。
【0024】
バルブ駆動部74は、制御部101の制御下において、駆動軸72を回転させる。バルブ駆動部74は、例えば、ステッピングモーターによって構成される。駆動軸72の回転によって弁体73が流路65内において回転する。
【0025】
弁体73の板面を、流路65における造形材料の流通方向に対して垂直にされた状態が、流路65が閉じられた状態である。この状態では、流路65からノズル61への造形材料の流入が遮断され、吐出口62からの造形材料の流出が停止される。弁体73の板面が、駆動軸72の回転によって、この垂直にされた状態から回転されると、流路65からノズル61への造形材料の流入が許容され、弁体73の回転角度に応じた吐出量の造形材料が吐出口62から流出する。図1に示されているように、流路65における造形材料の流通方向に沿った状態が、流路65が全開となる状態である。この状態は、吐出口62からの単位時間あたりの造形材料の吐出量が最大となる。このように、開閉機構70は、造形材料の流出のON/OFFとともに、造形材料の吐出量の調整を実現できる。
【0026】
ステージ210は、ノズル61の吐出口62に対向する位置に配置されている。第1実施形態では、ノズル61の吐出口62に対向するステージ210の造形面211は、X,Y方向、すなわち水平方向に平行となるように配置される。後述するように、三次元造形装置100は、造形処理において、吐出部60からステージ210の造形面211に向けて造形材料を吐出させて層を積層することによって三次元造形物を造形する。
【0027】
移動機構230は、ステージ210とノズル61との相対位置を変化させる。第1実施形態では、ノズル61の位置が固定されており、移動機構230は、ステージ210を移動させる。移動機構230は、3つのモーターMの駆動力によって、ステージ210をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。移動機構230は、制御部101の制御下において、ノズル61とステージ210との相対的な位置関係を変更する。本明細書において、特に断らない限り、ノズル61の移動とは、ノズル61をステージ210に対して相対的に移動させることを意味する。
【0028】
なお、他の実施形態では、移動機構230によってステージ210を移動させる構成の代わりに、ステージ210の位置が固定された状態で、移動機構230がステージ210に対してノズル61を移動させる構成が採用されてもよい。また、移動機構230によってステージ210をZ方向に移動させ、ノズル61をX,Y方向に移動させる構成や、移動機構230によってステージ210をX,Y方向に移動させ、ノズル61をZ方向に移動させる構成が採用されてもよい。これらの構成であっても、ノズル61とステージ210との相対的な位置関係が変更可能である。
【0029】
制御部101は、三次元造形装置100全体の動作を制御する制御装置である。制御部101は、1つ、または、複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェイスとを備えるコンピューターによって構成される。制御部101は、主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令をプロセッサーが実行することによって、データ生成部102としての機能のほか、種々の機能を発揮する。制御部101は、コンピューターによって構成される代わりに、各機能の少なくとも一部を実現するための複数の回路を組み合わせた構成により実現されてもよい。制御部101のことを情報処理装置ともいう。
【0030】
データ生成部102は、移動機構230によって吐出部60を移動させるための複数の部分経路を有する造形データを生成する。制御部101は、データ生成部102によって生成された造形データに従って、開閉機構70および吐出部60を含む造形部110と、移動機構230とを制御してステージ210上に三次元造形物を造形する。
【0031】
データ生成部102は、三次元造形物の形状を表す3次元CADデータなどの形状データを用いて、造形データの生成を行う。造形データには、造形材料の吐出経路と、吐出部60による造形材料の吐出量を含む吐出制御データが含まれる。造形材料の吐出経路とは、ノズル61が、造形材料を吐出しながら、ステージ210の造形面211に沿って相対的に移動する経路である。
【0032】
吐出経路は、複数の部分経路から構成される。各部分経路は、直線状の経路である。吐出制御データは、各部分経路に対して個別に対応付けられる。本実施形態において、吐出制御データによって表される吐出量は、その部分経路において単位時間あたりに吐出される造形材料の量である。なお、他の実施形態では、各部分経路に対して、その部分経路全体において吐出される造形材料の総量が、吐出制御データとして対応付けられてもよい。
【0033】
図4は、三次元造形装置100において三次元造形物が造形されていく様子を模式的に示す説明図である。三次元造形装置100では、上述したように、造形材料生成部30において、回転しているフラットスクリュー40の溝部42に供給された固体状態の原材料MRが溶融されて造形材料MMが生成される。制御部101は、ステージ210の造形面211とノズル61との距離を保持したまま、ステージ210の造形面211に沿った方向に、ステージ210に対するノズル61の位置を変えながら、ノズル61から造形材料MMを吐出させる。ノズル61から吐出された造形材料MMは、ノズル61の移動方向に連続して堆積されていく。こうしたノズル61による走査によって、ノズル61の走査経路に沿って線状に延びる造形部位である線状部位LPが造形される。
【0034】
制御部101は、上記のノズル61による走査を繰り返して層MLを形成する。制御部101は、1つの層MLを形成した後、ステージ210に対するノズル61の位置を、Z方向に移動させる。そして、これまでに形成された層MLの上に、さらに層MLを積み重ねることによって三次元造形物を造形していく。
【0035】
制御部101は、例えば、一層分の層MLを完了した場合のノズル61のZ方向への移動や、各層で独立する複数の造形領域がある場合には、ノズル61からの造形材料の吐出を一時的に中断させることがある。この場合、開閉機構70の弁体73によって流路65を閉塞させて、吐出口62からの造形材料MMの吐出を停止させる。制御部101は、ノズル61の位置を変更した後、開閉機構70の弁体73によって流路65を開くことによって、変更後のノズル61の位置から造形材料MMの堆積を再開させる。三次元造形装置100によれば、開閉機構70によって、ノズル61による造形材料MMの堆積位置を簡易に制御することができる。
【0036】
図5は、制御部101によって実行される造形データ生成処理のフローチャートである。図6は、造形データ生成処理の説明図である。造形データ生成処理は、三次元造形物を造形するのに先立って、三次元造形物の造形に用いられる造形データを生成するための処理である。
【0037】
図5に示すように、ステップS100において、データ生成部102は、外部から入力された三次元造形物の造形データである3次元CADデータを解析し、三次元造形物を、XY平面に沿って複数の層にスライスした層データを生成する。層データは、そのXY平面における三次元造形物の外殻を表すデータである。図6の上段には、層データLDが表す外殻に相当する部分を太線によって示している。
【0038】
ステップS110において、データ生成部102は、外殻造形データを生成する。外殻造形データとは、層データLDが表す外殻の内側に接する外殻領域を形成するためのデータである。外殻領域とは、三次元造形物の外観に影響を与える領域である。外殻造形データには、三次元造形物の外殻に沿った最外周を造形するための経路が含まれる。外殻造形データは、三次元造形物の最外周を造形するための吐出経路だけではなく、最外周の内側1周分を含む吐出経路を含んでもよい。外殻領域を形成するための吐出経路の周回数は、任意に設定可能であってもよい。
【0039】
図6には、外殻造形データZD1が、最も外側の吐出経路とその内側1周分の吐出経路によって構成されている例を示している。これらの吐出経路は、外殻領域を造形するための複数の部分経路PP1を含む。上記のとおり、各部分経路PP1は、直線状の経路である。それぞれの部分経路PP1には、ステージ210に堆積される造形材料が予め定められた基準幅Ssとなる量の吐出量が吐出制御データとして対応付けられる。図6では、最も外側の吐出経路とその内側の吐出経路とは、不連続の経路となっているが、これらは連続した経路として構成されてもよい。
【0040】
ステップS120において、データ生成部102は、内部造形データを生成する。内部造形データとは、層データLDが表す外殻の内側の領域であって、三次元造形物のうちの外殻領域以外の領域である内部領域を造形するためのデータである。内部領域は、三次元造形物の外観よりも、三次元造形物の強度に与える影響が大きい領域である。
【0041】
図6には、内部造形データZD2が、外殻造形データZD1の内側に2周分、表されている例を示している。内部造形データZD2が表す内部領域を埋める吐出経路は、複数の部分経路PP2を含む。上記のとおり、各部分経路PP2は、直線状の経路である。それぞれの部分経路PP2には、ステージ210に堆積される造形材料が予め定められた基準幅Ssとなる量の吐出量が吐出制御データとして対応付けられる。なお、本実施形態では、外殻造形データZD1において造形される経路の幅と、内部造形データZD2よって造形される経路の幅とが、いずれも基準幅Ssであるものとしたが、これらは、異なる幅であってもよい。
【0042】
以下では、ステップS110において生成される外殻造形データと、ステップS120において生成される内部造形データとを、まとめて、「第1データ」という。第1データは、吐出部60が造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データと、各部分経路における造形材料の吐出量を表す吐出量情報を含む吐出制御データと、を有する。
【0043】
ステップS130において、データ生成部102は、第1データに基づき、各部分経路の配置および幅を解析することによって、複数の部分経路で挟まれた隙間領域を特定する。本実施形態では、このステップS130において、外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を特定する。図6の中段には、図6の上段に示した内部造形データZD2から特定されたL字状の隙間領域GAを示している。隙間領域GAは、外周に1つの凹形状CSを含んでいる。外周に凹形状を有する隙間領域は、例えば、180°より大きく360°より小さい内角を有する多角形の形状、つまり、凹角を有する多角形の形状を有する。なお、凹形状には、内側に向けて窪んだ部分を有する曲線形状も含まれる。
【0044】
隙間領域の特定にあたり、データ生成部102は、複数の部分経路によって挟まれた隙間領域であって、以下の関係(1)を満たす隙間領域を特定する。
W≦Smax-Ss ・・・(1)
Wは、隙間領域の幅であり、Ssは、各部分経路において堆積させる造形材料の基準幅であり、Smaxは、開閉機構70の制御によって各部分経路において堆積させることが可能な造形材料の最大幅である。基準幅Ssは、最大幅Smaxよりも小さな線幅である。基準幅Ssは任意に設定可能であるが、例えば、最大幅Smaxの60~80%とすることができる。なお、基準幅Ssは、最大幅Smaxの2分の1よりも大きい幅であることが好ましい。
【0045】
上記関係(1)によれば、隙間領域の片側に隣接する基準幅Ssの部分経路の幅を、最大幅Smaxまでの範囲で拡大することにより埋めることが可能な隙間領域が特定される。図6の中段に示す隙間領域GAは、上記関係(1)を満たす隙間領域である。
【0046】
ステップS140において、データ生成部102は、ステップS130において凹形状を含む隙間領域が特定されたか否かを判断する。凹形状を含む隙間領域が特定された場合、データ生成部102は、ステップS150において、隙間分割処理を実行する。この隙間分割処理では、データ生成部102は、外周に1または複数の凹形状を有する隙間領域を、その隙間領域に含まれる凹形状の数が少なくなるように、複数の領域に分割する処理を行う。「少なくなるように」とは、ゼロにすることを含む。図6の中段には、L字状の隙間領域GAが、2つの矩形状の隙間領域に分割された例を示している。この例では、凹形状の数が、1から0に減少している。分割された隙間領域のことを、以下では分割隙間領域という。図6の中段には、2つの分割隙間領域DA1,DA2を示している。分割隙間領域DA1は、Y方向が長手方向である長方形の領域であり、分割隙間領域DA2はX方向が長手方向である長方形の領域である。
【0047】
データ生成部102は、ステップS160において、データ変更処理を実行する。隙間領域全体が、上記関係(1)を満たす場合、各分割隙間領域も、上記関係(1)を満たす。そして、上記関係(1)を満たせば、分割隙間領域は、その分割隙間領域を挟む部分経路のうち、片方の部分経路のみ幅を大きくすれば、その分割隙間領域を埋めることができる。そのため、本実施形態では、ステップS160におけるデータ変更処理において、データ生成部102は、分割隙間領域を挟むように分割隙間領域に接する部分経路のうち、いずれか一方の部分経路において、ステージ210の上方、すなわち、ステージ210又は先に形成された層、に堆積される造形材料の線幅が大きくなるように、その部分経路に対応する吐出制御データを変更して、第1データから第2データを生成する。本実施形態では、データ生成部102は、部分経路に対応付けられている吐出制御データが表す吐出量を増加させることにより、その部分経路において堆積される造形材料の幅を増加させる。図6の下段に示した例では、データ生成部102は、分割隙間領域DA1については-X方向側に隣接する部分経路の幅を、分割隙間領域DA2については、-Y方向側に隣接する部分経路の幅を、それぞれ、基準幅Ssから、基準幅Ssに分割隙間領域の幅W1を加算した幅まで増加するように、吐出量を増加させている。
【0048】
データ生成部102は、部分経路の造形材料の幅を増加させるとともに、分割隙間領域の形状に応じて、部分経路の経路を変更してもよい。具体的には、データ生成部102は、直線状の部分経路の経路が、線幅変更後の造形材料の中心を通るように、経路の位置を変更する。このように、部分経路の幅だけではなく経路自体を変更することにより、隙間部分を精度よく埋めることができる。
【0049】
図7は、幅が変化する分割隙間領域DAを模式的に示す図である。図6には、分割隙間領域の形状が、一定の幅を有する矩形状である例を示したが、分割隙間領域の形状は、矩形に限られない。例えば、図7の上部に示すように、分割隙間領域の形状が、扇状のように、幅が変化する場合もあり得る。このように、分割隙間領域の幅が変化する場合、データ生成部102は、隣接する部分経路において堆積される造形材料の線幅を、分割隙間領域の幅の変化に従って調整して第2データを生成してもよい。具体的には、図7の下部に示すように、分割隙間領域に隣接する部分経路を複数の部分経路に分割し、分割されたそれぞれの部分経路の線幅を、分割隙間領域の幅の変化に従って変化するように増加させる。このように、部分経路を変更することにより、分割隙間領域を効率的に埋めることが可能となり、造形精度を高めることが可能になる。更に、本実施形態では、図7の下部に示すように、データ生成部102は、分割後の各部分経路の経路を、分割隙間領域の形状に応じた経路に変更してもよい。図7の下部では、分割された各部分経路が、破線によって示した直線状の経路から、分割隙間領域の円弧形状に沿う経路に変更されている。部分経路の変更は、例えば、拡大した幅の中心を通る経路に変更することで実現される。このように、部分経路を、分割隙間領域の形状に応じた形状の経路に変更することにより、隙間部分を効率的に埋めることが可能となり、造形精度を高めることが可能になる。
【0050】
上記ステップS130において凹形状を含む隙間領域が特定されなかった場合、データ生成部102は、ステップS150の隙間分割処理をスキップする。ステップS130において、凹形状を含まない隙間領域が特定された場合には、データ生成部102は、ステップS160において、その隙間領域を挟むように隙間領域に接する部分経路のうち、いずれか一方の部分経路において、ステージ210の上方、すなわち、ステージ210又は先に形成された層、に堆積される造形材料の線幅が大きくなるように、その部分経路に対応する吐出制御データを変更して、第1データから第2データを生成する。つまり、凹形状を含まない隙間領域については、分割隙間領域を埋める手法と同様の手法によって、その隙間を埋める。ステップS160においてデータ変更処理が実行されると、前述した第1データが変更されて第2データが生成される。上記ステップS130において、凹形状を含む隙間領域、および、凹形状を含まない隙間領域のいずれも特定されない場合には、ステップS160のデータ変更処理において、データ生成部102は、前述した第1データをそのまま第2データとする。第2データは、当該造形データ生成処理によって最終的に生成される造形データである。
【0051】
図5のステップS170において、データ生成部102は、以上の処理をすべての層データについて完了したか否か判断する。全ての層データについて終了していなければ、データ生成部102は、次の層データについて、ステップS110からステップS160までの処理を繰り返す。全ての層データについて造形データの生成を完了した場合、データ生成部102は、当該造形データ生成処理を終了する。なお、上述した造形データ生成処理におけるステップS150のことを、三次元造形物の製造方法における第1工程ともいい、ステップS160のことを、同方法における第2工程ともいう。
【0052】
図8は、制御部101によって実行される三次元造形処理のフローチャートである。三次元造形処理は、図5に示した造形データ生成処理において生成された造形データを用いて制御部101によって実行される処理である。図5に示した造形データ生成処理と図8に示した三次元造形処理とが実行されることによって、三次元造形装置100による三次元造形物の製造方法が実現される。
【0053】
ステップS200において、制御部101は、三次元造形物を構成する複数の層のうち、1つの層について、造形データを読み込む。造形データには、上述した外殻造形データと内部造形データとが含まれる。本実施形態では、制御部101は、まず、三次元造形物を構成する複数の層のうち、重力方向において最も下側に位置する層の造形データを読み込む。
【0054】
ステップS210において、制御部101は、第1造形処理を実行する。第1造形処理では、制御部101は、外殻造形データに含まれる部分経路および各部分経路に対応付けられた吐出制御データに従い、移動機構230および吐出部60を制御して、現在の層について外殻領域を形成する。
【0055】
ステップS220において、制御部101は、第2造形処理を実行する。第2造形処理では、制御部101は、内部造形データに含まれる部分経路および各部分経路に対応付けられた吐出制御データに従い、移動機構230および吐出部60を制御して、現在の層について内部領域を形成する。図6に示した層データの例では、この第2造形処理において、隙間領域GAに隣接する部分経路に対応する部分の造形材料の幅が、基準幅Ssから、基準幅Ssに隙間領域の幅W1を加算した幅まで拡大される。
【0056】
ステップS230において、制御部101は、全ての層について造形を完了したか否かを判断する。全ての層について造形が完了していなければ、制御部101は、処理をステップS200に戻して、次の層、すなわち、現在の層の重力方向上側に隣接する層について造形データを読み込み、ステップS210およびステップS220の処理を実行する。この場合、ステップS210では、吐出部60からの造形材料の吐出に先立ち、制御部101は、移動機構230を制御して、ノズル61の位置を、ステージ210から1層分、上昇させる。全ての層について造形が完了した場合、制御部101は、当該三次元造形処理を完了する。なお、上述した三次元造形処理におけるステップS210およびステップS220のことを、三次元造形物の製造方法における第3工程ともいう。
【0057】
図9~11は、第1実施形態における隙間領域の埋め方の具体例を示す説明図である。図9に示す例では、内部領域にT字形の隙間領域GAが生じている。この場合、データ生成部102は、隙間分割処理を行うことにより、図10に示すように、隙間領域を2つの長方形状の分割隙間領域DA3,DA4に分割する。そして、図11に示すように、分割隙間領域DA3については、その長手方向に垂直な方向に隣接する片方の部分経路、具体的には、図11において-X方向側に隣接する部分経路の線幅を増加させる。また、分割隙間領域DA4についても、その長手方向に垂直な方向に隣接する片方の部分経路、具体的には、図11において+Y方向側に隣接する部分経路の線幅を増加させる。こうすることで、データ生成部102は、隙間領域を適切に埋めることができる。
【0058】
図12は、隙間分割処理の具体的な処理内容を示す説明図である。図12では、以下に説明する各手順において決定あるいは特定された位置を丸印で示している。データ生成部102は、まず第1手順において、隙間領域GAの外周の頂点で、凹角となっている頂点を探索して、分割の起点として特定する。
【0059】
第2手順において、データ生成部102は、分割起点から順に隙間領域GAの外周上の頂点を進み、線分の向きが逆転する頂点を探索して、探索された頂点を分割の終点の候補とする。線分の向きが逆転する頂点とは、隙間領域の各辺をベクトルとしてみたときに、分割の起点を始点とするベクトルに対して、X成分またはY成分の符号が反転しているベクトルの始点または終点のことをいう。
【0060】
手順3において、データ生成部102は、分割の終点の候補のうち、分割起点との距離が最短距離となる候補を選出して、その候補を分割の終点に決定する。
【0061】
手順4において、データ生成部102は、分割起点と分割終点とを結ぶ線分によって、隙間領域を分割し、分割隙間領域を特定する。
【0062】
データ生成部102は、上述した手順1~4を、凹角を有する分割隙間領域が存在しなくなるまで繰り返し実行する。ただし、凹角を有する分割隙間領域であっても、その面積が、予め定めた面積以下である場合には、それ以上、分割を行わなくてもよい。予め定めた面積とは、例えば、ノズル61の開口面積に相当する面積である。
【0063】
図13は、隙間領域を埋めた結果の比較例を示す図である。この比較例では、図10に示した分割隙間領域DA3に対応する隙間の一部が、その隙間の+Y方向に隣接する短い部分経路の線幅を大きくすることによって埋められている。このように、分割隙間領域に隣接する部分経路であっても、その部分経路の長さが短い場合、その部分経路の線幅を大きくしたとしても、図13に示すように、長手方向を有する隙間領域の中央部が適切に埋まらない可能性がある。これに対して、図12を用いて説明した手順に従って隙間領域を複数の分割隙間領域に分割すれば、隙間領域を複数の長方形に分割できる。そうすると、各分割隙間領域の長手方向を特定できるので、線幅を増加させる部分経路を、長手方向に垂直な方向に隣接する部分経路に決定することができる。従って、短い部分経路の線幅を増加させることなく部分隙間領域を適切に埋めることが可能になる。なお、隙間分割処理の結果、生成された分割隙間領域が、正方形の場合には、その分割隙間領域に接する部分経路であれば、どの方向に接する部分経路の線幅を増加させてもよい。
【0064】
以上で説明した第1実施形態によれば、各層に含まれる隙間領域を分割し、分割した各隙間領域を造形材料で埋めるため、隙間領域の形状が複雑な場合であっても、適切に隙間領域を埋めることが可能になり、空隙部分が残る可能性を抑制できる。
【0065】
また、本実施形態では、隙間領域の外周に含まれる凹形状の数が少なくなるように隙間領域を分割するので、分割隙間領域の形状を単純な形状に近づけることができる。そのため、造形材料によって分割隙間領域を埋めることが容易となり、隙間領域に空隙部分が残ることを効果的に抑制できる。
【0066】
また、本実施形態では、分割隙間領域に隣接する部分経路においてステージ210の上方に堆積される造形材料の線幅が大きくなるように、吐出制御データを変更して第2データを生成する。そのため、新たな部分経路を追加することなく、既存の部分経路の線幅を大きくすることによって隙間を埋めることができるので、造形データが増大することを抑制できる。また、造形が困難な細い部分経路を追加する必要がないので、容易に隙間部分を埋めることができる。
【0067】
B.第2実施形態:
図14~16は、第2実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。第2実施形態における三次元造形装置100の構成は第1実施形態と同じであるため説明を省略する。図14に示す例では、内部領域に円弧状の隙間領域GAが生じている。この場合、データ生成部102は、隙間分割処理を行うことにより、図15に示すように、円弧状の隙間領域を複数の円弧状の分割隙間領域DA5~DA8に分割する。そして、図16に示すように、データ生成部102は、各分割隙間領域DA5~DA8に隣接する部分経路、より具体的には、分割隙間領域を挟むように分割隙間領域に隣接する2つの部分経路のうち、経路の長さが長い方の部分経路の線幅を増加させる。こうすることで、データ生成部102は、隙間領域を適切に埋めることができる。なお、これらの図に示す円弧あるいは曲線は、直線状の小さな部分経路が複数、連続的に接続されることで構成されている。
【0068】
図17は、第2実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す説明図である。図17では、以下に説明する各手順において決定あるいは特定された位置を丸印で示している。データ生成部102は、まず第1手順において、隙間領域の外周において、曲線状の凹形状の起点を探索して特定する。
【0069】
第2手順において、データ生成部102は、凹形状の起点から頂点を進み、外側に向けて凸となる頂点を探索して、凸となる頂点を凹形状の終点として特定する。
【0070】
第3手順において、データ生成部102は、凹形状の起点における凹形状の接線の基準線からの角度と、凹形状の終点における凹形状の接線の基準線からの角度との角度差を求め、凹形状上の点であって、その点における接線の基準線からの角度が、前述の角度差の1/2となる点を探索し、その点を分割起点として決定する。換言すれば、凹形状の起点における凹形状の接線の基準線からの角度と、凹形状の終点における凹形状の接線の基準線からの角度とを加算して2で割った値の角度となる凹形状上の点を探索し、その点を分割起点として決定する。本実施形態において、基準線とは、X軸であるものとする。このように凹形状の起点と終点における角度差に基づいて、分割の起点を決定すれば、凹形状の長さの中央点によって分割の起点を設定するよりも、湾曲した位置に応じて適切な分割起点を設定できる。
【0071】
続いて、手順4において、データ生成部102は、分割起点から順に隙間領域の外周上の頂点を進み、線分の向きが逆転する頂点を探索して、探索された頂点を分割の終点の候補とする。線分の向きが逆転する頂点とは、隙間領域に含まれる辺をベクトルとしたとき、分割の起点を始点とする接ベクトルに対して、X成分またはY成分の符号が反転しているベクトルの始点または終点に該当する頂点のことをいう。
【0072】
手順5において、データ生成部102は、分割の終点候補から隙間領域の外周に沿って更に進み、分割起点と最短距離となる位置を探索し、その位置を分割の終点として決定する。
【0073】
手順6において、データ生成部102は、分割起点と分割終点とを結ぶ線分によって、隙間領域を分割し、分割隙間領域を特定する。
【0074】
データ生成部102は、上述した手順1~6を、各分割隙間領域における上述の角度差が、予め定めた値以下となるまで各分割隙間領域に対して繰り返し実行する。予め定めた値とは、例えば、60°である。こうすることによって、円弧状の隙間領域が、長方形に近い単純な形状の複数の分割隙間領域に分割される。ただし、角度差が60°を超えていても、分割隙間領域の面積が、予め定めた面積以下である場合には、それ以上、分割を行わなくてもよい。予め定めた面積とは、例えば、ノズル61の開口面積に相当する面積である。
【0075】
以上で説明した第2実施形態では、凹形状の長さの中央ではなく、凹形状の起点と終点との角度差に基づいて、分割の起点を決定している。そのため、凹形状の起点や終点に近い位置において屈曲したような形状であっても、分割の起点を適切に設定できる。
【0076】
なお、直線は曲線に含まれる概念である。そのため、図6に示したL字状の隙間領域や、図9~11に示したT字状の隙間領域についても、第2実施形態において説明した手順によって分割することが可能である。
【0077】
C.第3実施形態:
図18~20は、第3実施形態における隙間領域の埋め方を示す説明図である。第3実施形態における三次元造形装置100の構成は第1実施形態と同じであるため説明を省略する。図18に示す例では、内部領域に枠状の隙間領域GAが生じている。枠状の隙間領域とは、内部に孔を有する環状の領域である。この場合、データ生成部102は、隙間分割処理を行うことにより、図19に示すように、枠状の隙間領域を複数の分割隙間領域DA9~DA10に分割する。最終的に、データ生成部102は、図20に示すように、各分割隙間領域に隣接する部分経路、より具体的には、分割隙間領域を挟んで分割隙間領域に隣接する2つの部分経路のうち、経路の長さが長い方の部分経路の線幅を増加させる。こうすることで、データ生成部102は、隙間領域を適切に埋めることができる。
【0078】
図21は、第3実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す説明図である。データ生成部102は、まず第1手順において、図21において丸印で示すように、枠状の隙間領域の内周に位置する任意の角部の頂点の位置を特定する。そして、データ生成部102は、その頂点と距離が最短となる隙間領域の外周上の位置を特定して、特定されたそれらの位置を結ぶ線分を分割の起点として特定する。
【0079】
第2手順において、データ生成部102は、図21において二重丸に示すように、枠状の隙間領域の内周に位置する頂点のうち、分割起点から最も離れた頂点を探索して分割の終点候補とする。
【0080】
手順3において、データ生成部102は、分割の終点候補から隙間領域の内周に沿って両方向に移動した位置で、外周との距離が最短となる位置を探索し、その位置と外周とを最短距離で結ぶ線分を分割の終点として特定する。
【0081】
手順4において、データ生成部102は、枠状の隙間領域を、分割起点と分割終点とにより、2つの分割隙間領域に分割する。こうすることによって、枠状の隙間領域を、異なる2つの分割隙間領域に分割することができる。
【0082】
上記手順4において、分割隙間領域を生成した後、データ生成部102は、各分割隙間領域に対して、第1実施形態において図12を用いて説明した手順を実行することにより、各分割隙間領域をより小さな分割隙間領域に分割する。こうすることにより、各分割隙間領域を、第1実施形態と同様の処理によって埋めることができる。
【0083】
図22は、第3実施形態における隙間分割処理の処理内容を示す第2の説明図である。図22には、隙間領域として、内周が五角形の枠状の隙間領域が示されている。このように、内周が矩形状でなくても、図21を用いて説明した手順1~4と同じ手順を実行することにより、隙間領域を複数の分割隙間領域に分割することができる。ただし、図22に示した例では、最終的に生成される各分割隙間領域の外周の形状は、長方形ではない多角形である。この場合、データ生成部102は、分割隙間領域に外接する最も面積の小さな矩形形状を計算により求め、その矩形形状の長手方向を、その分割隙間領域の長手方向として決定することにより、その長手方向を用いて線幅を増加させる部分経路の特定を行う。このような長手方向の決定手法は、第1~2実施形態においても同様に適用可能である。
【0084】
D.第4実施形態:
図23は、第4実施形態における造形データ生成処理の説明図である。第1実施形態では、分割隙間領域に隣接する一方の部分経路の線幅を増加させることによって、分割隙間領域を埋めている。これに対して、第4実施形態では、分割隙間領域に隣接する両方の部分経路の線幅を増加させることによって、分割隙間領域を埋める。図23の上段には、層の中に2周分の外殻領域と1周分の内部領域とが配置されている例を示している。
【0085】
本実施形態においても、図5に示したステップS130において、データ生成部102は、外殻造形データと内部造形データとを含む第1データに基づき、各部分経路の配置および幅を解析することによって隙間領域を特定する。データ生成部102は、部分経路によって挟まれた隙間領域であって、以下の関係(2)を満たす隙間部分を特定する。
W>Smax-Ss ・・・(2)
Wは、隙間領域の幅であり、Ssは、各部分経路において堆積させる造形材料の基準幅であり、Smaxは、開閉機構70の制御によって各部分経路において堆積させることが可能な造形材料の最大幅である。ただし、Wは、基準幅Ssよりも小さいことが好ましい。
【0086】
上記関係(2)によれば、隙間領域の片側に隣接する基準幅Ssの部分経路の幅を、最大幅Smaxまで拡大したとしても、埋まりきれない隙間領域が特定されることになる。図23の中段には、上記関係(2)を満たす幅W2の隙間部分G2が特定された例を示している。この幅W2は、図6に示した幅W1よりも大きな幅である。
【0087】
本実施形態では、上記関係(2)を満たす隙間領域GAを図5に示したステップS130において特定すると、データ生成部102は、図5に示したステップS150において、図23の中段に示すように、隙間領域GAを、分割隙間領域DA1,DA2に分割する。そして、データ生成部102は、図5に示したステップS160におけるデータ変更処理において、図23の下段に示すように、分割隙間領域を挟む両側の部分経路においてステージ210の上方に堆積させる造形材料の幅を増加するように、それぞれの部分経路に対応する吐出制御データを変更することによって、第1データから第2データを生成する。図23に示した例では、データ生成部102は、分割隙間領域DA1,DA2を挟む両側の部分経路の幅を、基準幅Ssから、基準幅Ssに隙間部分の幅W2の1/2を加算した幅まで増加するように、吐出制御データが表す吐出量を増加させる。こうすることにより、分割隙間領域DA1,DA2を、それらを挟む両側の部分経路の幅をそれぞれ増加させることによって埋めることができる。
【0088】
以上で説明した第4実施形態によれば、分割隙間領域を挟む2つの部分経路において堆積される造形材料の幅を増加させることによって、幅の大きな分割隙間領域を埋めることができる。つまり、分割隙間領域が、その分割隙間領域に隣接する片側の部分経路の幅を増加させるだけでは埋め切れない場合に、反対側の部分経路の幅も増加させることによって、その分割隙間領域を埋めることができる。そのため、三次元造形物の空隙率を効果的に低下させることができる。
【0089】
E.第5実施形態:
図24は、第5実施形態における造形データ生成処理の説明図である。上述した各実施形態では、分割隙間領域に隣接する部分経路の線幅を増加させることによって、分割隙間領域を埋めている。これに対して、第5実施形態では、分割隙間領域を通る新たな部分経路を経路データに追加して、第1データから第2データを生成する。
【0090】
図24の上段および中段には、図6に示した隙間領域と同様の隙間領域GAを示している。本実施形態において、データ生成部102は、図5に示した造形データ生成処理のステップS150において、図24の中段のように、隙間領域GAを、分割隙間領域DA1,DA2に分割した後、図5に示したステップS160におけるデータ変更処理において、図24の下段に示すように、分割隙間領域DA1,DA2をそれぞれ埋める新たな部分経路P1,P2を第1データに追加して第2データを生成する。
【0091】
以上で説明した第5実施形態によれば、分割隙間領域に対して新たな部分経路を追加して隙間を埋めるため、容易な処理で隙間を埋めることが可能になる。
【0092】
なお、本実施形態において、分割隙間領域の幅が変化する場合に、新たに追加する部分経路の線幅を、図7に示したように、分割隙間領域の幅の変化に従って調整して第2データを生成してもよい。こうすることにより、より精度良く隙間領域を埋めることができる。
【0093】
F.他の実施形態:
(F-1)上記実施形態において、データ生成部102は、分割隙間領域を挟むように隣接する2つの部分経路のうち、経路の長さが長い方の部分経路の線幅を大きくすることによって分割隙間領域を埋めている。これに対して、例えば、データ生成部102は、上述したデータ変更処理において、分割隙間領域を挟むように隣接する2つの部分経路のうち、一方の部分経路が、外殻領域に存在し、他方の部分経路が内部領域に存在する場合、他方の部分経路、すなわち、内部領域に存在する部分経路の線幅が大きくなるように、吐出制御データを変更して第2データを生成してもよい。このように、内部領域に存在する部分経路の線幅を優先して大きくすれば、部分経路の線幅を大きくすること伴って、三次元造形物の外観形状が変形することを抑制できる。
【0094】
(F-2)上記実施形態において、データ生成部102は、分割隙間領域を挟むように隣接する2つの部分経路のうち、経路の長さが長い方の部分経路の線幅を大きくすることによって分割隙間領域を埋めている。これに対して、データ生成部102は、2つの部分経路のうち、経路の長さが短い方の部分経路の線幅を大きくしてもよい。また、データ生成部102は、2つの部分経路のうち、分割隙間領域と予め定めた方向の関係にある部分経路、例えば、-X方向側または-Y方向側に隣接する部分経路の線幅を大きくしてもよい。
【0095】
(F-3)上記実施形態において、データ生成部102は、三次元造形物の内部領域内に存在する隙間領域を分割して埋めている。これに対して、データ生成部102は、三次元造形物の外殻領域内に形成される隙間領域を分割して埋めてもよい。また、データ生成部102は、内部領域と外殻領域との間に形成される隙間領域を分割して埋めてもよい。
【0096】
(F-4)上記実施形態では、外殻造形データにより三次元造形物の外殻領域が造形され、内部造形データにより内部領域が造形される。これに対して、造形データは、外殻造形データと内部造形データとに区別されていなくてもよい。三次元造形物は、単一種類の造形データによって造形されてもよい。
【0097】
(F-5)上記実施形態では、造形データに含まれる吐出制御データには、造形材料の吐出量を表す情報が含まれており、その吐出量を増加させることによって、ステージ210上に堆積される造形材料の幅を増加させている。これに対して、吐出制御データには、吐出部60の移動速度を表す移動速度情報が含まれてもよい。この場合、図5のステップS160に示したデータ変更処理では、部分経路に対応付けられた移動速度を遅くすることによって、ステージ210に堆積される造形材料の幅を増加させることができる。この場合、各部分経路の造形にあたり、単位時間に吐出される造形材料の量は一定であることが好ましい。ただし、造形材料の吐出量と吐出部60の移動速度の両方を調整することによって、ステージ210上に堆積される造形材料の幅を調整することも可能である。
【0098】
(F-6)上記実施形態において、造形部110は、フラットスクリュー40によって材料を可塑化している。これに対して造形部110は、例えば、インラインスクリューを回転させることによって材料を可塑化するものであってもよい。また、造形部110として、熱溶解積層法に用いられるヘッドを採用してもよい。
【0099】
(F-7)上記実施形態において、開閉機構70は、ピストンが流路65内に突出して流路65を閉塞するプランジャーを用いた機構や、流路65に交差する方向に移動して流路65を閉塞するシャッターを用いた機構によって構成してもよい。開閉機構70は、上記実施形態のバタフライバルブや、上述のシャッター機構、プランジャー機構のうちの2つ以上を組み合わせて構成してもよい。また、開閉機構70ではなく、フラットスクリュー40の回転数を制御することによって、造形材料の吐出量を制御してもよい。
【0100】
(F-8)上記実施形態では、材料供給部20に供給される原材料として、ペレット状のABS樹脂の材料が用いられる。これに対して、三次元造形装置100は、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として三次元造形物を造形することができる。ここで、「主材料」とは、三次元造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、三次元造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0101】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、造形材料生成部30において、当該材料が可塑化することによって造形材料が生成される。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。
【0102】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチック。
【0103】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、造形材料生成部30において、フラットスクリュー40の回転とヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。熱可塑性を有する材料の溶融によって生成された造形材料は、ノズル61から吐出された後、温度の低下によって硬化する。
【0104】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から射出されることが望ましい。例えば、ABS樹脂は、ガラス転移点が約120℃であり、ノズル61からの射出時には約200℃であることが望ましい。このように高温の状態で造形材料を射出するために、ノズル61の周囲にはヒーターが設けられてもよい。
【0105】
三次元造形装置100では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、原材料として造形材料生成部30に投入されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金。
<前記合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金。
【0106】
三次元造形装置100においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、ステージ210に配置された造形材料はレーザーの照射や温風などによる焼結によって硬化されてもよい。
【0107】
材料供給部20に原材料として投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、造形材料生成部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0108】
材料供給部20に原材料として投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等。
【0109】
その他に、材料供給部20に原材料として投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0110】
G.他の形態:
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、以下に記載する各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0111】
(1)本開示の第1の形態によれば、吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層することで三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法が提供される。この製造方法は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割する第1工程と、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する第2工程と、前記第2データに従って、前記吐出部を制御して前記三次元造形物を造形する第3工程と、を備える。
このような形態によれば、各層に含まれる隙間領域を分割し、分割した各隙間領域を造形材料で埋めるため、隙間領域の形状が複雑な場合であっても、適切に隙間領域を埋めることが可能になり、空隙部分が残ることを抑制できる。
【0112】
(2)上記形態において、前記第1工程において、前記隙間領域の前記外周に含まれる凹形状の数が少なくなるように前記隙間領域を分割してもよい。このような形態であれば、分割された隙間領域の形状を単純な形状に近づけることができるので、隙間領域に空隙部分が残ることを効果的に抑制できる。
【0113】
(3)上記形態において、前記第1工程において、前記凹形状の起点における前記凹形状の接線の基準線からの角度と、前記凹形状の終点における前記凹形状の接線の前記基準線からの角度との差が、予め定められた値以下になるまで、前記隙間領域を分割してもよい。このような形態であれば、分割された隙間領域の形状を単純な形状に近づけることができるので、隙間領域に空隙部分が残ることを効果的に抑制できる。
【0114】
(4)上記形態において、前記第2工程において、分割された前記隙間領域に接する部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなるように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成してもよい。このような形態によれば、新たな部分経路を追加することなく、既存の部分経路の線幅を大きくすることによって隙間を埋めることができるので、造形データが増大することを抑制できる。
【0115】
(5)上記形態において、前記層は、前記三次元造形物の外殻を表す外殻領域と、前記三次元造形物のうち、前記外殻領域以外の領域である内部領域とを含み、前記第2工程において、分割された前記隙間領域を挟むように分割された前記隙間領域に接する2つの部分経路のうちの、一方の部分経路が前記外殻領域に存在し、他方の部分経路が前記内部領域に存在する場合、前記他方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなるように、前記吐出制御データを変更して前記第2データを生成してもよい。このような形態によれば、部分経路の線幅を大きくすること伴って、三次元造形物の外観形状が変形することを抑制できる。
【0116】
(6)上記形態において、前記第2工程において、分割された前記隙間領域に接する前記部分経路の線幅を、分割された前記隙間領域の幅の変化に従って調整して前記第2データを生成してもよい。このような形態によれば、隙間部分を精度よく埋めることができる。
【0117】
(7)上記形態において、前記第2工程において、分割された前記隙間領域を通る新たな部分経路を前記経路データに追加して前記第2データを生成してもよい。このような形態によれば、分割された隙間領域を容易に埋めることができる。
【0118】
(8)上記形態において、前記第2工程において、前記新たな部分経路の線幅を、分割された前記隙間領域の幅の変化に従って調整して前記第2データを生成してもよい。このような形態によれば、隙間部分を精度よく埋めることができる。
【0119】
(9)上記形態において、各前記部分経路において前記ステージの上方に堆積させる前記造形材料の基準幅Ssと、各前記部分経路において前記ステージに堆積させることが可能な前記造形材料の最大幅Smaxと、前記隙間領域の幅Wと、が、
W≦Smax-Ss
の関係を満たす場合、前記第2工程では、分割された前記隙間領域を挟む2つの部分経路のうち、いずれか一方の部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅が大きくなるように、前記吐出制御データを変更して第2データを生成してもよい。このような形態によれば、分割された隙間領域を挟む2つの部分経路のうち、いずれか一方の部分経路の線幅を大きくすることによって効率的に隙間領域を埋めることができる。
【0120】
(10)上記形態において、各前記部分経路において前記ステージの上方に堆積させる前記造形材料の基準幅Ssと、各前記部分経路において前記ステージに堆積させることが可能な前記造形材料の最大幅Smaxと、前記隙間領域の幅Wと、が、
W>Smax-Ss
の関係を満たす場合、前記第2工程では、分割された前記隙間領域を挟む2つの部分経路において前記ステージの上方に堆積される前記造形材料の線幅がそれぞれ大きくなるように、前記吐出制御データを変更して第2データを生成してもよい。このような形態によれば、分割された隙間領域を挟む2つの部分経路の両方において堆積される造形材料の幅を増加させるため、幅の大きな隙間領域を埋めることができる。
【0121】
(11)本開示の第2の形態によれば、三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、ステージと、前記ステージに向けて造形材料を吐出する吐出部と、前記ステージに対して前記吐出部を移動させる移動機構と、第1データから第2データを生成するデータ生成部と、前記第2データに従って前記吐出部と前記移動機構とを制御して前記ステージ上に三次元造形物を造形する制御部と、を備え、前記データ生成部は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから第2データを生成する。
【0122】
(12)本開示の第3の形態によれば、吐出部からステージに向けて造形材料を吐出させて層を積層するための造形データを生成する情報処理装置が提供される。この情報処理装置は、前記吐出部が前記造形材料を吐出しつつ移動する経路を複数の部分経路によって表した経路データを有し、かつ、各前記部分経路における前記造形材料の吐出量を表す吐出量情報、および、各前記部分経路における前記吐出部の移動速度を表す移動速度情報の少なくとも一方を含む吐出制御データを有する第1データに基づいて、複数の前記部分経路で挟まれた隙間領域であって外周に1または複数の凹形状を含む隙間領域を分割し、分割した前記隙間領域を前記造形材料で埋めるように、前記経路データまたは前記吐出制御データの少なくともいずれかを変更して、前記第1データから前記造形データを生成する、データ生成部、を備える。
【符号の説明】
【0123】
20…材料供給部、22…連通路、30…造形材料生成部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、42…溝部、43…凸条部、44…材料流入口、46…中央部、47…上面、48…下面、50…スクリュー対面部、52…上面、54…案内溝、56…連通孔、58…ヒーター、60…吐出部、61…ノズル、62…吐出口、65…流路、70…開閉機構、72…駆動軸、73…弁体、74…バルブ駆動部、100…三次元造形装置、101…制御部、102…データ生成部、110…造形部、210…ステージ、211…造形面、230…移動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24