(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240918BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
F16H25/22 M
F16H25/24 A
(21)【出願番号】P 2020184554
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 真大
(72)【発明者】
【氏名】押川 慧悟
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-13750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1ねじ溝が設けられたねじ軸と、
前記ねじ軸に挿入され、内周面に前記第1ねじ溝に対応する第2ねじ溝が設けられたナットと、
前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間である転動路に配置される複数のボールと、
を備え、
予圧が付与された状態で使用され、
前記第2ねじ溝は、前記予圧により前記ボールと接触して前記ボールに第1接触荷重を与える第1接触円弧面と、前記ボールと接触しない非接触円弧面と、を有し、
前記第1ねじ溝は、2つの円弧面を組み合わせてなるゴシックアーク形状であり、
前記第1ねじ溝の2つの円弧面の一方は、前記ボールを挟んで前記第2ねじ溝の第1接触円弧面と対向し、前記ボールと接触して前記ボールに第2接触荷重を与える第2接触円弧面であり、
前記第1ねじ溝の2つの円弧面の他方は、前記ボールを挟んで前記非接触円弧面と対向し、前記ボールと接触する第3接触円弧面であり、
前記第1接触円弧面と前記ボールとが接触し、かつ前記第1接触円弧面と前記ボールとの間で作用する荷重がないボール無負荷状態において、前記ボールと前記第2接触円弧面との初期接触角は、前記ボールと前記第1接触円弧面との初期接触角よりも大きく設定されており、
前記第1接触荷重と前記第2接触荷重とを合成してなる合成荷重は、前記第3接触円弧面を向いており、
前記合成荷重は、前記ねじ軸と前記ナットとが相対回転する際に前記ボールに掛かる荷重よりも大きく、
前記ボールは、前記合成荷重により作動中における前記第3接触円弧面との接触が保持される
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記予圧による予圧荷重は、基本静定格荷重の10%以下で使用され、
前記ボールと前記第1接触円弧面との初期接触角と、前記ボールと前記第2接触円弧面との初期接触角と、の初期接触角比は、以下の数1式を満たす
請求項1に記載のボールねじ装置。
数1式中のα
0Nはボールと第1接触円弧面との初期接触角を示す。
数1式中のα
0Sはボールと第2接触円弧面との初期接触角を示す。
数1式中のa
1とa
2は、数2式で示す補間係数が代入される。
数2式中のF
a0は予圧荷重を示し、C
0aは基本静定格荷重を示す。
【数1】
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタや円筒研削盤などの工作機械では、加工対象物を載せたテーブルを移動させたり回転させたりするための駆動装置を備える。駆動装置は、モータと、モータの出力軸の回転運動を直線運動に変換してテーブルのある一辺を押し引きするボールねじ装置(下記特許文献1参照)と、を備える。JISには、テーブルの位置精度を評価するための試験方法(テーブルの円運動)が規定されている(JISB6190-4を参照)。また、テーブルの円運動の象限切換え時、言い換えると、モータの反転によりボールねじ装置の動作が切り変わった直後、突起誤差が発生する。突起誤差には、最初に発生する1段目突起誤差と、1段目突起誤差の後に発生する2段目突起誤差と、がある。一般の工作機械では、コンピュータ数値制御によってモータへの指令値が補正され、1段目突起誤差によるテーブルの位置決め誤差が低減するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、2段目突起誤差は、発生するタイミング及び大きさが一定でない。このため、コンピュータ数値制御によりテーブルの位置決め誤差を低減させることが難しい。よって、2段目突起誤差の発生を抑制し、工作機械の更なる高精度化を図ることが望まれている。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、2段目突起誤差の発生を抑制できるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、外周面に第1ねじ溝が設けられたねじ軸と、前記ねじ軸に挿入され、内周面に前記第1ねじ溝に対応する第2ねじ溝が設けられたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間である転動路に配置される複数のボールと、を備え、予圧が付与された状態で使用される。前記第2ねじ溝は、前記予圧により前記ボールと接触して前記ボールに第1接触荷重を与える第1接触円弧面と、前記ボールと接触しない非接触円弧面と、を有する。前記第1ねじ溝は、2つの円弧面を組み合わせてなるゴシックアーク形状である。前記第1ねじ溝の2つの円弧面の一方は、前記ボールを挟んで前記第2ねじ溝の第1接触円弧面と対向し、前記ボールと接触して前記ボールに第2接触荷重を与える第2接触円弧面である。前記第1ねじ溝の2つの円弧面の他方は、前記ボールを挟んで前記非接触円弧面と対向し、前記ボールと接触する第3接触円弧面である。前記第1接触円弧面と前記ボールとが接触し、かつ前記第1接触円弧面と前記ボールとの間で作用する荷重がないボール無負荷状態において、前記ボールと前記第2接触円弧面との初期接触角は、前記ボールと前記第1接触円弧面との初期接触角よりも大きく設定されている。前記第1接触荷重と前記第2接触荷重とを合成してなる合成荷重は、前記第3接触円弧面を向いている。前記ボールは、前記合成荷重により作動中における前記第3接触円弧面との接触が保持される。
【0007】
第1接触円弧面と第2接触円弧面と第3接触円弧面の3点にボールが接触し続けることができる。よって、ボールの接触状態が2点から3点に変化すること、言い換えると、定常状態よりもトルクの低い領域が発生しないようになっている。よって、2段目突起誤差の発生が抑制される。
【0008】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置において、前記予圧による予圧荷重は、基本静定格荷重の10%以下で使用される。前記ボールと前記第1接触円弧面との初期接触角と、前記ボールと前記第2接触円弧面との初期接触角と、の初期接触角比は、以下の数1式を満たす。数1式中のα0Nはボールと第1接触円弧面との初期接触角を示す。数1式中のα0Sはボールと第2接触円弧面との初期接触角を示す。数1式中のa1とa2は、数2式で示す補間係数が代入される。数2式中のFa0は予圧荷重を示し、C0aは基本静定格荷重を示す。
【0009】
【0010】
これによれば、確実にボールの3点接触状態を保持し続けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示のボールねじ装置によれば、2段目突起誤差の発生が抑制され、工作機械の高精度化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の断面図である。
【
図2】
図2は、他の実施形態に係るボールねじ装置の断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るボールねじ装置のボール無負荷状態時における、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの関係を示す拡大図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るボールねじ装置の静止時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
【
図5】
図5は、ボールねじ装置の正方向作動時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、ボールねじ装置の逆方向作動時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
【
図7】
図7は、比較例の駆動装置でテーブルを円運動させた場合の試験結果を示す図である。
【
図8】
図8は、比較例の駆動装置の円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、比較例のボールねじ装置の静止状態(作動していない状態)を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、比較例のボールねじ装置の作動状態を示す図であって、
図9Aの静止状態から正方向作動の開始直後の状態を示す図である。
【
図9C】
図9Cは、比較例のボールねじ装置の作動状態を示す図であって、
図9Bの状態からさらに経過した状態を示す図である。
【
図10】
図10は、比較例のボールねじ装置において、ねじ軸を反転させた時のトルク波形を示す図である。
【
図11】
図11は、初期接触角α
0Nが45degの場合の第1試験結果であり、初期接触角比α
0N/α
0Sとボール荷重との関係と、初期接触角比α
0N/α
0Sとボールの中心の変位量との関係と、をシミュレーション解析で求めた結果を示す図である。
【
図12】
図12は、初期接触角α
0Nを変更した場合をシミュレーション解析で求めた第1試験結果である。
【
図16】
図16は、実施例に係るボールねじ装置を逆方向作動から正方向作動させた場合のトルクを測定した結果を示す図である。
【
図17】
図17は、比較例に係るボールねじ装置を逆方向作動から正方向作動させた場合のトルクを測定した結果を示す図である。
【
図18】
図18は、実施例に係るボールねじ装置を備えた駆動装置でテーブルの円運動の試験結果を示す図である。
【
図19】
図19は、比較例に係るボールねじ装置を備えた駆動装置でテーブルの円運動の試験結果を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例に係るテーブルの円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
【
図21】
図21は、比較例に係るテーブルの円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の断面図である。
図2は、他の実施形態に係るボールねじ装置の断面図である。
図3は、実施形態に係るボールねじ装置のボール無負荷状態時における、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの関係を示す拡大図である。
図4は、実施形態に係るボールねじ装置の静止時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
図5は、ボールねじ装置の正方向作動時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
図6は、ボールねじ装置の逆方向作動時の、ねじ軸の第1ねじ溝、ナットの第2ねじ溝、及びボールの状態を示す拡大図である。
【0015】
(実施形態)
図1に示すように、ボールねじ装置1は、外周面に第1ねじ溝20が設けられたねじ軸2と、ねじ軸2に挿入され、内周面に第1ねじ溝20に対応する第2ねじ溝30が設けられたナット3と、第1ねじ溝20と第2ねじ溝30とを組み合わせてなる転動路に配置される複数のボール5と、ボール5を循環させるための2つのチューブ6と、を備える。
【0016】
ナット3の第2ねじ溝30において、軸AX(ねじ軸2の回転中心軸)と平行な軸AX方向の中央部のリードW1が他の部分のリードW2よりも大きい。よって、ナット3の第2ねじ溝30は、オフセット点Wを基準として両側に配置されたボール5が互いに離間するように、ボール5を押圧している。これにより、オフセット点Wを境界として一方側に配置されるボール5には、予圧荷重Fa0が作用し、他方側に配置されるボール5には、予圧荷重Fa0´が作用している。
【0017】
なお、実施形態のボールねじ装置1は、オフセットリード形式による予圧を採用した例を挙げているが、本開示のボールねじ装置の予圧形式はこれに限定されない。例えば、
図2に示すダブルナット形式を採用してもよい。具体的に、ダブルナット形式のボールねじ装置1Aは、ねじ軸2と、2つのナット3、4と、複数のボール5と、2つのナット3、4の間に介在する間座7と、を備える。そして、2つのナット3、4と間座7を軸AX方向に締め付けて一体化することで、間座7が2つのナット3、4を軸AX方向に離隔するように押圧し、予圧を与える形式である。
【0018】
その他、本開示のボールねじ装置の予圧形式は、条間オフセット形式と、2つのナットの間にばね材を用いた定圧ばね形式とが挙げられる。さらに、本開示のボールねじ装置の予圧による荷重の向きについて、引張予圧と圧縮予圧とのどちらであってもよい。引張予圧とは、オフセット点Wを基準として両側に配置されたボール5が互いに離間するような荷重が作用する予圧をいう。一方で、圧縮予圧は、オフセット点Wを基準として両側に配置されたボール5が互いに近接するような荷重が作用する予圧をいう。また、ボール5の循環方式は、チューブ6に限定されず、エンドデフレクタ8(
図2参照)、又はこま(不図示)を用いてもよく、特に限定されない。
【0019】
次に、
図3を参照しながら、ボール5に対する負荷がかかっていないボール無負荷状態における、第1ねじ溝20と、第2ねじ溝30と、ボール5と、の関係について説明する。また、以下の説明において、ボールねじ装置1のうち予圧荷重F
a0が作用する部分を挙げて説明する。
【0020】
図3に示すように、ねじ軸2の第1ねじ溝20の断面形状は、2つの円弧面を組み合わせてなるゴシックアーク形状となっている。同様に、ナット3の第2ねじ溝30の断面形状は、2つの円弧面を組み合わせてなるゴシックアーク形状となっている。なお、本開示のボールねじ装置は、第2ねじ溝30の断面形状が単一の円弧面をなすサーキュラ形状であってもよい。
【0021】
図3に示すように、ボール無負荷状態とは、ボール5が第1ねじ溝20の後述する第2接触円弧面21と第3接触円弧面22とのそれぞれと接触した状態であり、かつボール5が第2ねじ溝30と接触していない状態から、予圧荷重F
a0が作用している方向に第2ねじ溝30の位置を変位させて第2ねじ溝30の後述する第1接触円弧面31がボール5と接触した時点で第2ねじ溝30の変位を止めた状態(予圧荷重F
a0が作用しておらず、第1接触円弧面31とボール5との間で作用する荷重がない)をいう。よって、ボール無負荷状態は、ボール5は3つの接点(P
N、P
S1、P
S2)を有し、かつボール5に作用する予圧がゼロの状態(負の隙間がゼロの状態)である。
【0022】
なお、P
Nは、第1接触円弧面31とボール5との接点である。P
S1は、第2接触円弧面21とボール5との接点である、P
S2は、第3接触円弧面22とボール5との接点である。そのほか、
図3に示す線OP
Nは、接点P
Nとボールの中心Oと、を結ぶ直線である。
図3に示す線AYは、ねじ軸2の軸AXに直交する直線であり、ボールの中心Oを通過する線である。また、
図3中の線OP
S1は、接点P
S1とボールの中心Oと、を結ぶ直線である。
【0023】
このようなボール無負荷状態において、第2ねじ溝30は、予圧荷重Fa0が作用する方向に移動してボール5と接触する第1接触円弧面31と、ボール5と接触しない非接触円弧面32と、を備える。一方で、第1ねじ溝20は、ボール5を挟んで第2ねじ溝30の第1接触円弧面31と対向し、ボール5と接触する第2接触円弧面21と、ボール5を挟んで非接触円弧面32と対向し、ボール5と接触する第3接触円弧面22と、を備える。なお、第2ねじ溝30がサーキュラ形状の場合、単一の円弧面で最も径方向外側に窪んでいる点を境に2つの円弧面に分割し、ボール5と接触する方が第1接触円弧面であり、ボールと接触しない方が非接触円弧面となる。
【0024】
また、ボール5と第1接触円弧面31との接触角(線AYと線OPNとが成す角度)は、α0Nである。ボール5と第2接触円弧面21との接触角(線AYと線OPS1とが成す角度)は、α0Sである。以下、このようなボール無負荷状態における接触角を初期接触角という。また、初期接触角α0Sは、初期接触角α0Nよりも大きい(α0S>α0N)。
【0025】
次に、
図4を参照しながら、予圧荷重F
a0が作用した場合の、第1ねじ溝20と、第2ねじ溝30と、ボール5と、の関係について説明する。予圧荷重F
a0により第1接触円弧面31はボール5を押圧する。よって、第1接触円弧面31は、ボール5に第1接触荷重Q
Nを与える。また、ボール5は、第2接触円弧面21を押圧し、その反作用として、ボール5は、第2接触円弧面21から第2接触荷重Q
Sを受ける。また、初期接触角α
0Sは、初期接触角α
0Nよりも大きい。よって、第1接触荷重Q
Nと第2接触荷重Q
Sとを合成してなり、かつ中心Oから第3接触円弧面22を向く合成荷重F
Qがボール5に作用している。
【0026】
なお、
図4の状態において、予圧荷重F
a0が作用しているため、ボール5と第1接触円弧面31との接触角と、ボール5と第2接触円弧面21との接触角は、ボール無負荷状態時から変化し、初期接触角α
0S、α
0Nと異なる角度となっている。また、前記した予圧荷重F
a0、第1接触荷重Q
N、第2接触荷重Q
S、第3接触荷重Q
S´を
図3に図示しているが、荷重がゼロのため、破線で示している。
【0027】
次に、
図5、
図6を参照しながら、ボールねじ装置1の作動時について説明する。ボールねじ装置1の作動時、ねじ軸2の回転により、第1ねじ溝20と第2ねじ溝30とを組み合わせてなる転動路が捩れる。これにより、ボール5の回転軸BX方向のいずれかに移動するような荷重(
図5の矢印で示すF
Cと
図6の矢印で示すF
Dを参照)が作用する。なお、ボール5の回転軸BXは、第3接触円弧面22と非接触円弧面32とを指しており、線AYに対して傾いている。なお、ボール5は、予圧(予圧荷重F
a0)により作動中における第1接触円弧面31及び第2接触円弧面21との接触が保持されている。
【0028】
ねじ軸2の回転方向が
図1の矢印C1に示す方向の場合、ボールが
図5の矢印C2に示す方向に回転し、ナット3の進行方向は、
図5の矢印C3に示す方向となる。なお、この動作は、一般に「正方向作動」と呼ばれる。この正方向作動の場合、
図5に示すように、ボール5には、転動路の捩じれにより非接触円弧面32に向かうような荷重F
Cが作用する。この荷重F
Cは、合成荷重F
Qと逆方向である。よって、荷重F
Cが合成荷重F
Qを超えない限り、ボール5と第3接触円弧面22との接触が維持される。
【0029】
一方で、ねじ軸2の回転方向が
図1の矢印D1に示す方向の場合、ボールが
図6の矢印D2に示す方向に回転し、ナット3の進行方向は、
図6の矢印D3に示す方向となる。なお、この動作は、一般に「逆方向作動」と呼ばれる。この逆方向作動の場合、
図6に示すように、ボール5には、転動路の捩じれにより第3接触円弧面22に向かうような荷重F
Dが作用する。そして、荷重F
Dは、合成荷重F
Qと同方向である。よって、ボールねじ装置1の逆方向作動時、ボール5と第3接触円弧面22との接触が維持される。
【0030】
また、実施形態のボールねじ装置1は、正方向作動時において、ボール5と第3接触円弧面22との接触が維持するため、言い換えると、常時3点接触を保持するため、予圧荷重Fa0は、基本静定格荷重C0aの10%以下となるように設定されている。
【0031】
また、実施形態のボールねじ装置1は、常時3点接触を保持するため、ボール5と第1接触円弧面31との初期接触角α0Nと、ボール5と第2接触円弧面21との初期接触角α0Sと、の初期接触角比α0N/α0Sは、以下の数3式とを満たしている。数3式中のa1とa2は、数4式で示す補間係数が代入される。
【0032】
【0033】
なお、数3式中の下式は、初期接触角α0S、α0Nの範囲を規定している。これは、初期接触角α0S、α0Nが15°未満のもの又は75°を超えるものを製造することが実際に困難だからである。また、初期接触角α0Nは、初期接触角α0Sよりも小さいため、最大角が65°となっている。
【0034】
以上、実施形態のボールねじ装置1は、外周面に第1ねじ溝20が設けられたねじ軸2と、ねじ軸2に挿入され、内周面に第1ねじ溝20に対応する第2ねじ溝30が設けられたナット3と、第1ねじ溝20と第2ねじ溝30との間である転動路に配置される複数のボール5と、を備える。ボールねじ装置1は、予圧が付与された状態で使用される。第2ねじ溝30は、予圧によりボール5と接触してボール5に第1接触荷重QNを与える第1接触円弧面31と、ボール5と接触しない非接触円弧面32と、を有する。第1ねじ溝20は、2つの円弧面を組み合わせてなるゴシックアーク形状である。第1ねじ溝20の2つの円弧面の一方は、ボール5を挟んで第2ねじ溝30の第1接触円弧面31と対向し、ボール5と接触してボール5に第2接触荷重QSを与える第2接触円弧面21である。第1ねじ溝20の2つの円弧面の他方は、ボール5を挟んで非接触円弧面32と対向し、ボール5と接触する第3接触円弧面22である。第1接触円弧面31とボール5とが接触し、かつ第1接触円弧面31とボール5との間で作用する荷重がないボール無負荷状態において、ボール5と第2接触円弧面21との初期接触角α0Sは、ボール5と第1接触円弧面31との初期接触角α0Nよりも大きく設定されている。第1接触荷重QNと第2接触荷重QSとを合成してなる合成荷重FQが第3接触円弧面22を向いている。ボール5は、合成荷重FQにより作動中における第3接触円弧面22との接触が保持される。
【0035】
実施形態のボールねじ装置1によれば、第1接触円弧面31と第2接触円弧面21と第3接触円弧面22の3点にボール5が接触し続けることができる。よって、ボール5の接触状態が2点から3点に変化したり、又は3点から2点に変化したりすることがない。
【0036】
また、実施形態のボールねじ装置1において、予圧による予圧荷重Fa0、Fa0´は、基本静定格荷重C0aの10%以下で使用され、ボール5と第1接触円弧面31との初期接触角α0Nと、ボール5と第2接触円弧面21との初期接触角α0Sと、の初期接触角比α0N/α0Sは、以下の数1式を満たす。なお、数1式中のα0Nはボール5と第1接触円弧面31との初期接触角を示す。数1式中のα0Sはボール5と第2接触円弧面21との初期接触角を示す。
数1式中のa1とa2は、数2式で示す補間係数が代入される。数2式中のFa0は予圧荷重を示し、C0aは基本静定格荷重を示す。
【0037】
【0038】
これによれば、確実にボールの3点接触状態を保持し続けることができる。
【0039】
図7は、比較例の駆動装置でテーブルを円運動させた場合の試験結果を示す図である。
図8は、比較例のテーブルの円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
図9Aは、比較例のボールねじ装置の静止状態(作動していない状態)を示す図である。
図9Bは、比較例のボールねじ装置の作動状態を示す図であって、
図9Aの静止状態から正方向作動の開始直後の状態を示す図である。
図9Cは、比較例のボールねじ装置の作動状態を示す図であって、
図9Bの状態からさらに経過した状態を示す図である。
図10は、比較例のボールねじ装置において、ねじ軸を反転させた時のトルク波形を示す図である。
【0040】
次にボールねじ装置1の効果を説明するため、比較例のボールねじ装置200について説明する。
図9Aに示すように、比較例のボールねじ装置200は、予圧による予圧荷重F
a0が作用している。そして、ボールねじ装置200は、作動していない静止状態で、ナット203の第2溝面とボール205との接触点が1つ、ねじ軸202の第1溝面とボール205との接触点が1つとなっている。
【0041】
図7中の円形は、テーブルの輪郭のある1点がどのように移動したかを示す軌跡である。また、
図7中には、2つの正方形があるが、大きい正方形は、小さい正方形の中にある軌跡を拡大したものである。
図7に示すように、比較例のボールねじ装置を用いた場合、突起誤差には、モータを反転させてボールねじ装置の動作を切り変わった直後に発生する1段目突起誤差と、1段目突起誤差の発生後に発生する2段目突起誤差と、が発生する。
【0042】
ここで、
図8、
図10に示すように、モータトルクの波形及びボールねじのトルク波形を観察すると、反転動作後に一旦ピークをとった後、定常状態(
図8及び
図10に示すC期間を参照)になるまでに、トルクの低い領域が存在している(
図8及び
図10に示すA期間及びB期間を参照)。そして、上記した2段目突起誤差の発生時期は、このトルクが低い領域(特にB期間)と重なっており、このトルクの低い領域と関連している。このトルクが低い領域について検討すると、ボールねじ装置の以下の挙動が原因と考えられる。
【0043】
図9Aに示すように、ナット203は、予圧により
図9A中の左側に押圧されている(
図9の矢印参照)。これにより、ボールねじ装置200の静止状態時、ボール205がねじ軸202の第1円弧面212と、ナット203の第2円弧面213と、で接触し、2点接触となっている。
【0044】
ねじ軸202が矢印T方向(
図1のC1方向)に回転すると(
図9B参照)、ナット203が矢印Eに移動する。このようにボールねじ装置200が正方向作動すると、ねじ軸202のねじ溝とナット203のねじ溝とを組み合わせてなる転動路が捩れる。そして、
図9Bに示すように、ボール205の回転軸方向であって白抜き矢印で指す方向の荷重がボール205に作用し、いわゆる食い込み現象が生じする。
【0045】
ボール205の食い込み現象がさらに進行すると、
図9Cに示すように、ボール205が反負荷側軌道にある円弧面214に接触し、3点接触状態となる(
図8及び
図10に示す、定常状態のC区間を参照)。そして、ボール205は、食い込み状態を含む2点接触の状態において略純転がり接触にあるため、トルクの低い領域が発生している(
図8及び
図10に示すB区間を特に参照)。以上から、2段目突起誤差は、ボール205の食込み状態の変化に伴い、ボール205の接触状態が変化(2点接触と3点接触)することにより引き起こされている。
【0046】
一方で、実施形態のボールねじ装置1は、静止時やねじ軸の反転動作を含む作動中において、常にボールの3点接触状態を保持し続け、定常状態よりもトルクの低い領域が発生しないようになっている。このため、ボールねじ装置1を備えた工作機械は、テーブルの円運動の象限切換え時、2段目突起誤差が発生しない。つまり、工作機械の高精度化を図ることができる。また、反転直後の位置決め精度が向上したボールねじ装置1は、高精度が求められる半導体製造装置や計測機器、XYテーブルなど、幅広い用途への適用が可能である。
【0047】
(実施例)
次に実施例について説明する。実施例に係るボールねじ装置について4つの試験を行った。第1試験、第2試験、及び第3試験は、シミュレーション解析に基づくものである。第1試験、第2試験、及び第3試験に係る実施例のボールねじ装置の諸元を下記の表1に示す。
【0048】
【0049】
(第1試験)
図11は、初期接触角α
0Nが45degの場合の第1試験結果であり、初期接触角比α
0N/α
0Sとボール荷重との関係と、初期接触角比α
0N/α
0Sとボールの中心の変位量との関係と、をシミュレーション解析で求めた結果を示す図である。
図12は、初期接触角α
0Nを変更した場合をシミュレーション解析で求めた第1試験結果である。詳細には、
図12の左図は、初期接触角α
0Nが25degの場合の第1試験結果であり、初期接触角比α
0N/α
0Sとボール荷重との関係と、初期接触角比α
0N/α
0Sとボールの中心の変位量との関係と、を示す図であり、
図12の右図は、初期接触角α
0Nが65degの場合の第1試験結果であり、初期接触角比α
0N/α
0Sとボール荷重との関係と、初期接触角比α
0N/α
0Sとボールの中心の変位量との関係と、を示す図である。
図13は、第1試験結果をまとめた図である。
【0050】
第1試験は、初期接触角比α
0N/α
0Sを変更しつつ、ボールねじ装置を正方向作動させた。そして、ボールが第3接触円弧面に接触しているか否かを判断するため、ボールの中心の変位量をシミュレーション解析により求めるとともに、第3接触円弧面からボールに作用している接触荷重Q
S´(
図4を参照)をシミュレーション解析により求めた。また、第1試験以外に、後述する第2試験、及び第3試験は、シミュレーション解析に基づくものである。また、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.017という条件で行った。
【0051】
初期接触角比α
0N/α
0Sの変更の仕方は、ボールと第1接触円弧面との初期接触角α
0Nを一定にしつつ、ボールと第2接触円弧面との初期接触角α
0Sを、初期接触角α
0Nよりも大きくなるように変化させた。この試験結果を
図11、
図12に示す。なお、
図11、
図12において、初期接触角比α
0N/α
0Sが1の場合とは、初期接触角α
0Sが初期接触角α
0Nと同じ角度の場合である。初期接触角α
0Nに対して初期接触角α
0Sが大きくなるにつれて、初期接触角比α
0N/α
0Sの値が小さくなる。
【0052】
(第1試験:α
0Nが45degの場合)
図11の下図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sが0.9よりも小さくなると、ボールの中心の変位量の値が変化していないものの、初期接触角比α
0N/α
0Sが0.9を超えたあたりから、ボールの中心の変位量が次第に大きくなった。
図11の上図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sの0.91よりも小さいときに接触荷重Q
S´が発生した。また、初期接触角α
0Sの最大値は75degであるため、初期接触角比α
0N/α
0Sの最小値は0.6であるところ、α
0N/α
0S=0.6の場合であっても3点接触状態が保持されることが確認された。以上から、α
0Nが45degの場合、0.60≦α
0N/α
0S<0.91を満たす時に3点接触状態が保持されることが確認された。
【0053】
(第1試験:α
0Nが25degの場合)
図12の左下図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sが0.8を超えたあたりから、ボールの中心の変位量が次第に大きくなった。また、
図12の左上図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sの0.77よりも小さいときに接触荷重Q
S´が発生していた。初期接触角比α
0N/α
0Sの最小値は0.33であるところ、α
0N/α
0S=0.33の場合であっても3点接触状態が保持されることが確認された。以上から、α
0Nが25degの場合、0.33≦α
0N/α
0S<0.77を満たす時に3点接触状態が保持されることが確認された。
【0054】
(第1試験:α
0Nが65degの場合)
図12の右下図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sが0.97あたりから、ボールの中心の変位量が次第に大きくなった。また、
図12の右上図に示すように、初期接触角比α
0N/α
0Sの0.96よりも小さいときに接触荷重Q
S´が発生していた。初期接触角比α
0N/α
0Sの最小値である0.87の場合であっても3点接触状態が保持されることが確認された。以上から、α
0Nが65degの場合、0.87≦α
0N/α
0S<0.96を満たす時に3点接触状態が保持されることが確認された。
【0055】
(第1試験:まとめ)
上記した初期接触角α
0Nが25、45、65deg以外に、初期接触角α
0Nが15、35、55degに設定した場合であって接触荷重Q
S´が発生する条件(Q
S´>0となる場合)を試験した。初期接触角α
0Nが15、35、55degの場合の試験結果の詳細は特に説明しないが、初期接触角α
0Nが15、25、35、45、55、65degの場合、3点接触状態が保持された初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値と最小値を
図13に示す。
【0056】
なお、
図13において、初期接触角α
0Nが15、25、35、45、55、65degの各条件において、3点接触状態が保持される初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値をプロットした。そして、
図13には、各プロットを通るような対数曲線L1を引いた。また、
図13には、初期接触角α
0Nが15、25、35、45、55、65degの各条件において、常時3点接触状態を満たす最小値をプロットしていないが、その最小値を通過する直線L2を引いた。
【0057】
図13に示すように、対数曲線L1は、常時3点接触状態を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値である。直線L2は、常時3点接触状態を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最小値である。よって、初期接触角比α
0N/α
0Sが対数曲線L1と直線L2とで囲まれる範囲(斜線が引かれた領域)にあれば、常時3点接触状態を満たすといえる。そして、この条件を数式で表すと、下記の数7式となる。
【0058】
【0059】
初期接触角比α0N/α0Sの右辺の式は、対数曲線L1の近似式である。また、数7式の補間係数a1とa2については、a1=0.242、a2=-0.0195となる。初期接触角比α0N/α0Sの左辺の式は、直線L2である。このような第1試験の結果から、常時3点接触状態を満たす初期接触角比α0N/α0Sを導出した。
【0060】
(第2試験)
図14は、第2試験の結果を示す図である。詳細には、
図14の左図は、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.008の場合の第2試験結果を示す図であり、
図14の右図は、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.067の場合の第2試験結果を示す図である。
【0061】
第1試験では、予圧荷重F
a0=基本静定格荷重C
0a×0.017という条件で行っていたが、予圧荷重F
a0を基本静定格荷重C
0a×0.008と、基本静定格荷重C
0a×0.067とに変更した場合、常時3点接触を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値がどのように変化するかを試験した。試験結果を
図14に示す。
【0062】
図14の左図に示すように、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.008の場合、常時3点接触を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値は、0.92を示した。
図14の右図に示すように、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.067の場合、常時3点接触を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値は、0.89を示した。なお、予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.017の場合は、
図11に示すように最大値が0.91であることから、予圧荷重F
a0が大きくなると、常時3点接触を保持できる初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値が小さくなることが分かった。
【0063】
(第3試験)
図15は、第3試験の結果を示す図である。詳細には、
図15の左上図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.004の場合、
図15の中央上図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.008の場合、
図15の右上図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.025の場合、
図15の左下図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.042の場合、
図15の中央下図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.067の場合、
図15の右下図は予圧荷重F
a0が基本静定格荷重C
0a×0.100の場合の試験結果を示す図である。
【0064】
第3試験では、予圧荷重F
a0を基本静定格荷重の10%以下の範囲で変更し、常時3点接触を満たす初期接触角比α
0N/α
0Sの最大値を求め、数7式における補間係数a
1とa
2を導出した。なお、試験した予圧荷重F
a0が、基本静定格荷重C
0a×0.004、基本静定格荷重C
0a×0.008、基本静定格荷重C
0a×0.025、基本静定格荷重C
0a×0.042、基本静定格荷重C
0a×0.067、及び基本静定格荷重C
0a×0.100の各条件の試験結果を
図15に示す。
【0065】
また、
図15に示す第3試験結果から、予圧荷重F
a0毎の数7式の補間係数a
1とa
2について以下のようになった。
【0066】
【0067】
(第4試験)
図16は、実施例に係るボールねじ装置を逆方向作動から正方向作動させた場合のトルクを測定した結果を示す図である。
図17は、比較例に係るボールねじ装置を逆方向作動から正方向作動させた場合のトルクを測定した結果を示す図である。
図18は、実施例に係るボールねじ装置を備えた駆動装置でテーブルの円運動の試験結果を示す図である。
図19は、比較例に係るボールねじ装置を備えた駆動装置でテーブルの円運動の試験結果を示す図である。
図20は、実施例に係るテーブルの円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
図21は、比較例に係るテーブルの円運動試験において、試験の経過時間に対応するテーブルの位置誤差とモータトルクとの関係を示す図である。
【0068】
第4試験では、初期接触角比α0N/α0Sが0.67に設定したボールねじ装置を製作し、そのボールねじを作動させた。そして、ボールねじのトルク値を測定した。併せて比較例として、初期接触角比が1となっているボールねじ装置を製作し、トルク値を測定した。実施例と比較例のボールねじ装置の諸元を下記の表2に示す。
【0069】
【0070】
図16に示すように、実施例のボールねじに関し、トルク値が0となった時点が反転したときである。実施例は、一旦ピークとなった後、不安定ながらも定常値を示す結果となった。一方で、比較例は、
図17に示すように、反転後にピークとなり、その後、次第にトルクが上昇する低トルク領域が発生し、定常値となった。以上から、実施例によれば、ピーク後に低トルク領域が生じないことが確認できた。
【0071】
次に、実施例、比較例のそれぞれのボールねじ装置を、駆動装置に使用し、テーブルの回転運動試験を行った。その試験結果について
図18、
図19に示す。さらに、回転運動試験時のモータトルクを測定した。この試験結果については、
図20、
図21に示す。なお、ボールねじ装置は、テーブルをY軸方向に押圧したり引っ張ったりするY軸方向用として駆動装置に装着されている。
【0072】
図18に示すように、実施例のボールねじ装置を装着した駆動装置によれば、+y線(象限の境界線)から右回りに反転した場合、1段目突起誤差が発生した後、2段目突起誤差が発生していない。一方で、比較例のボールねじ装置を装着した駆動装置によれば、
図19に示すように、右回りに反転した後、1段目突起誤差が発生し、さらに2段目突起誤差が発生した。
【0073】
図20に示すように、実施例のボールねじ装置を装着した駆動装置のモータトルクに関し、ピークをとった後低トルク領域が発生していない。一方で、比較例のボールねじ装置を装着した駆動装置は、
図21に示すように、ピークをとった後、次第にトルク値が上昇する低トルク領域が発生している。
【0074】
以上から、実施例に係る常時3点接触が保持されたボールねじ装置によれば、テーブルの反転後の低トルク領域が発生せず、2段目突起誤差が発生しないことを確認できた。
【符号の説明】
【0075】
1、1A ボールねじ装置
2 ねじ軸
3 ナット
5 ボール
6 チューブ
20 第1ねじ溝
21 第2接触円弧面
22 第3接触円弧面
30 第2ねじ溝
31 第1接触円弧面
32 非接触円弧面
AX 軸
BX 回転軸
C0a 基本静定格荷重
Fa0、Fa0´ 予圧荷重
FQ 合成荷重
QN 第1接触荷重
QS 第2接触荷重
PN、PS1、PS2 接点
α0N、α0S 初期接触角