(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】情報処理装置、電力供給システムの運用方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240918BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020198083
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江原 宏和
【審査官】木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234335(JP,A)
【文献】特開2002-366760(JP,A)
【文献】特開2013-143814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムと共に用いられる情報処理装置であって、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得部と、
前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する保障情報取得部と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出する、実績収支額算出部と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測と、前記実績収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出部と、
を備え
ており、
前記予測収入額には、前記複数の電力供給先のそれぞれから支払われる電気料金が含まれ、
前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入後の、前記複数の電力供給先の平均入居率が所定の割合以上であることが、前記補填金の発生の条件として含まれる、
ことを特徴とする、情報処理装置。
【請求項2】
前記収支予測の情報には、前記予測収入額が前記予測支出額以上となる予測損益分岐点が到来する時期の情報、が含まれており、
前記所定の期間の経過時は、前記予測損益分岐点の到来する時期であり、
前記補填金算出部は、前記所定の期間の経過時において、前記実績収支額がマイナスと
なる場合に、当該マイナスとなった額以下の前記補填金が発生すると決定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な支出に、前記補填金の発生条件および/または前記補填金の額に応じた保険料を加算することが含まれる、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記電力供給システムは、
前記複数の電力供給先に電力を供給可能、かつ、電力系統と連系可能な発電設備を備えており、
前記実績収支額算出部が算出する実績収支額は、前記発電設備によって発電された電力の余剰分を電力事業者に売電した額が収入額として算入されたものである、
ことを特徴とする、請求項1から
3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記電力供給システムは、
前記複合施設の所有者が受け取るべき還元料金を算出する管理装置を備えており、
前記補填金算出部が前記補填金の発生及び金額を決定した場合には、当該補填金
の額が前記還元料金に加算される、
ことを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記電力供給システムにおける前記管理装置を兼ねる、
ことを特徴とする、請求項
5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムの運用方法であって、
前記電力供給システムとともに用いられる情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得ステップと、
前記情報処理装置において、前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する、保障情報取得ステップと、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出する、実績収支額算出ステップと、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測と、前記実績収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出ステップと、
を有
しており
前記予測収入額には、前記複数の電力供給先のそれぞれから支払われる電気料金が含まれ、
前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入後の、前記複数の電力供給先の平均入居率が所定の割合以上であることが、前記補填金の発生の条件として含まれる、
ことを特徴とする電力供給システムの運用方法。
【請求項8】
前記収支予測の情報には、前記予測収入額が前記予測支出額以上となる予測損益分岐点が到来する時期の情報、が含まれており、
前記所定の期間の経過時は、前記予測損益分岐点の到来する時期であり、
前記補填金算出ステップでは、前記所定の期間の経過時において、前記実績収支額がマイナスとなる場合に、当該マイナスとなった額以下の前記補填金が発生すると決定する、
ことを特徴とする、請求項
7に記載の電力供給システムの運用方法。
【請求項9】
前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な支出に、前記補填金の発生条件および/または前記補填金の額に応じた保険料を加算することが含まれる、
ことを特徴とする、請求項
7または
8に記載の電力供給システムの運用方法。
【請求項10】
前記電力供給システムは、
前記複数の電力供給先に電力を供給可能、かつ、電力系統と連系可能な発電設備を備えており、
前記実績収支額算出ステップにおいて算出される実績収支額は、前記発電設備によって発電された電力の余剰分を電力事業者に売電した額が収入額として算入されたものである、
ことを特徴とする、請求項
7から
9のいずれか一項に記載の電力供給システムの運用方法。
【請求項11】
前記電力供給システムは、
前記複合施設の所有者が受け取るべき還元料金を算出する管理装置を備えており、
前記補填金算出ステップにおいて前記補填金の発生、および、当該補填金の額が決定された場合には、当該補填金
の額を前記還元料金に加算するステップをさらに備える、
ことを特徴とする、請求項
7から1
0のいずれか一項に記載の電力供給システムの運用方法。
【請求項12】
請求項
7から1
1のいずれか一項に記載の電力供給システムの運用方法の各ステップを、情報処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムとともに用いられる情報処理装置、電力供給システムの運用方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムにおいて、電力会社から高圧一括受電契約により低価格で電力を一括して調達し、施設内の各電力供給先に対して電力を分配することにより、複合施設全体での電気料金を低減することが知られている(例えば特許文献1)。また、近年、低圧一括受電契約による電力調達によっても、電気料金の低減を実現するための電力供給システムが提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-118961号公報
【文献】特開2017-17779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような電力供給システムを導入し運用していくためには、初期投資及びランニングコスト(以下、併せて導入コストともいう)が発生する。そして、一括受電による電気料金の低減を実現したとしても、最終的に当該電気料金の低減によって得られる収益で導入コストを回収できるかどうかは、システムの導入時点においては不明である。
【0005】
これについて、事前に様々な条件に応じたシミュレーションを行うことは可能であるが、実績がシミュレーション通りになるとは限らないため、複合施設の所有者は一括受電電力供給システムの導入を行う際には、投資した資金が回収できない可能性があるというリスクを負うことになる。このため、上記のような電力供給システムの普及がなかなか進まないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムを導入する際のリスクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムと共に用いられる情報処理装置であって、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得部と、
前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する保障情報取得部と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出
する、実績収支額算出部と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測情報と、前記総収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出部と、
を備えることを特徴とする、情報処理装置である。
【0008】
ここで「所定の保障内容」とは、例えば、複合施設の導入時に行ったシミュレーションにおける損益分岐点の到来時においても、累積収益が累積コストを下回っていた場合には当該マイナス分が前記複合施設の所有者に補填される、といった内容であってよい。また、ここでいう複合施設は商業施設などに限られず、住居、オフィスなどの同一種類の施設のみで構成される建築物、さらに当該建築物が複数集合した施設なども広く含まれる。これによれば、電力供給システムを導入した後に、予め行った収支シミュレーションの通りに収益が上がらなかった場合においても、シミュレーションの内容を基準にした補填金を算出することができ、施設の所有者(以下、オーナーともいう)はこれに基づいて補填金を受けることが可能になる。このため、施設の所有者が電力供給システムを導入する際のリスクを低減させることが可能になる。
【0009】
また、前記収支予測情報には、前記予測収入額が前記予測支出額以上となる予測損益分岐点が到来する時期の情報、が含まれており、
前記所定の期間の経過時は、前記予測損益分岐点の到来する時期であり、
前記補填金算出部は、前記所定の期間の経過時において、前記実績収支額がマイナスとなる場合に、当該マイナスとなった額以下の前記補填金が発生すると決定するものであってもよい。
【0010】
これによれば、シミュレーションによれば損益分岐点となっていた時点で、実際には収支がマイナスである場合に補填金が発生することになるため、オーナーが電力供給システムを導入する際の計画を立てやすくなる。
【0011】
また、前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な支出に、前記補填金の発生条件および/または前記補填金の額に応じた保険料を加算することが含まれるようにしてもよい。
【0012】
補填金の受け取りのための条件である保険料は、オーナーにとってシステムの導入コストとは別の支出となるが、このようにしておけば、当該保険料までを含めた額で収支を算出することが可能となるため、オーナーの負担を減らすことができる。
【0013】
また、前記所定の保障内容には、前記複合施設に前記電力供給システムを導入後の、前記複数の電力供給先の平均入居率が所定の割合以上であることが、前記補填金の発生の条件として含まれるようにしてもよい。
【0014】
このようにすることで、複合施設内の入居率がシミュレーションとかけ離れて低くなるなど、収支シミュレーションを基にして行われる補填金の発生と金額の決定のための前提条件が崩れた状態で、補填金が発生することを抑止することができる。
【0015】
また、本発明において、前記電力供給システムは、
前記複数の電力供給先に電力を供給可能、かつ、電力系統と連系可能な発電設備を備えており、
前記実績収支額算出部が算出する実績収支額は、前記発電設備によって発電された電力の余剰分を電力事業者に売電した額が収入額として算入されたものであってもよい。
【0016】
このような構成によれば、発電設備を有する電力供給システムにより、電力事業者に売電することでも収益を上げる態様の一括受電事業にも適用することが可能になる。
【0017】
また、前記電力供給システムは、
前記複合施設の所有者が受け取るべき還元料金を算出する管理装置を備えており、
前記補填金算出部が前記補填金の発生及び金額を決定した場合には、当該補填金額が前記還元料金に加算されるものであってもよい。
【0018】
ここで、還元料金とは、例えば、前記複数の電力供給先から回収した電気料金から所定のコストを差し引いた金額などとすることができる。このような構成によれば、オーナーは補填金の受け取りを簡便に行うことが可能になる。
【0019】
また、前記情報処理装置は、前記電力供給システムにおける前記管理装置を兼ねるものであってもよい。これによれば、新たな構成を加えることなく、本発明を前記電力供給システムに適用することができ、効率的である。
【0020】
また、本発明は、以下の方法としても捉えることが可能である。即ち、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムの運用方法であって、
前記電力供給システムとともに用いられる情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得ステップと、
前記情報処理装置において、前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する、保障情報取得ステップと、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出する、実績収支額算出ステップと、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測と、前記実績収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出ステップと、を有することを特徴とする電力供給システムの運用方法である。
【0021】
また、前記収支予測情報には、前記予測収入額が前記予測支出額以上となる予測損益分岐点が到来する時期の情報、が含まれており、
前記所定の期間の経過時は、前記予測損益分岐点の到来する時期であり、
前記補填金算出ステップでは、前記所定の期間の経過時において、前記実績収支額がマイナスとなる場合に、当該マイナスとなった額以下の前記補填金が発生すると決定するものであってもよい。
【0022】
また、前記電力供給システムは、
前記複数の電力供給先に電力を供給可能、かつ、電力系統と連系可能な発電設備を備えており、
前記実績収支額算出ステップにおいて算出される実績収支額は、前記発電設備によって発電された電力の余剰分を電力事業者に売電した額が収入額として算入されたものであってもよい。
【0023】
また、前記電力供給システムは、
前記複合施設の所有者に支払われるべき還元料金を算出する管理装置を備えており、
前記補填金算出ステップにおいて前記補填金の発生、および、当該金額が決定された場合には、当該補填金額を前記還元料金に加算するステップをさらに備えていてもよい。
【0024】
また、本発明は、上記の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。
【0025】
なお、上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムを導入する際のリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の適用例における電力供給システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の適用例における補填金算出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の適用例において電力供給システム導入に先立ち行われる収支予測に係る説明図である。
【
図4】実施形態1における電力供給システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図5】実施形態1における電力供給システムを用いて行われる役務と料金の流れを示すブロック図である。
【
図6】実施形態1における管理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図7】実施形態1における管理装置の制御法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】実施形態1における管理装置の制御法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<適用例>
以下、図面を参照して、本発明の適用例について説明する。
図1は、本発明が適用可能な電力供給システム90のブロック図を示す。
図1において、各ブロックを連結する実線は電力線を示しており、各ブロックを連結する破線は通信線(無線通信も含む)を示している。本適用例に係る電力供給システム90は、集合住宅91に対して適用されることを前提としている。この場合、集合住宅91は複数の電力供給先を含む複合施設の一例である。
【0029】
図1において、電力供給システム90は電力系統98と電気的に繋がっている。電力系統98は、いわゆる小売電気事業者であってもよいし、一般電気事業者であってもよい。また、電力供給システム90と電力系統98の接続には施設メータ94が設けられており、電力系統98から電力供給システム90に対して供給される電力を測定可能となっている。
【0030】
また、電力供給システム90の複数の電力供給先としては、専有部96a、96b、96c・・・が想定されている。この専有部96a、96b、96c・・・は、例えば、集合住宅91における各部屋(以下、入居者ともいう。)である。より具体的には、専有部
96a、96b、96c・・・における負荷は、集合住宅91の各部屋における電気製品等(不図示)である。また、集合住宅91には、専有部96a、96b、96c・・・の他に共用部97が存在する。この共用部97は、集合住宅91における共用部分であり、共用部97の負荷としては、例えば廊下や玄関の照明等が考えられる。専有部96a、96b、96c・・・及び共用部97には、各々個別メータ95a、95b、95c・・・、95dが備えられており、専有部96a、96b、96c・・・及び共用部97において消費される電力を測定可能となっている。
【0031】
また、電力供給システム90は、集合住宅91の外部において、集合住宅91内のシステムと通信可能に構成された管理装置92を有している。この管理装置92は、より具体的には、電力供給システム90の運営主体である管理会社によってクラウド上に備えられたサーバ装置であってもよい。しかしながら、管理装置92は、電力供給システム90において、集合住宅91内のシステムとの間で情報の授受が可能とされていればよく、有線通信で繋がっていてもよく、必ずしもクラウド上に備えられたものでなくともよい。
【0032】
また、電力供給システム90は管理装置92と通信可能に構成された補填金算出装置93を備えている。
図2は、補填金算出装置93の概略構成を示すブロック図である。補填金算出装置93は、例えば汎用のコンピュータなどによって構成されることができ、収支予測情報取得部931、保障情報取得部932、実績収支額算出部933、補填金算出部934の各機能モジュールを備えている。その他、図示しないが、マウスやキーボードなどの各種入力手段、ディスプレイなどの出力手段、RAM、HDDなどの記憶手段、通信手段などを備えていてもよい。なお、補填金算出装置93は、本発明における情報処理装置に該当する。
【0033】
収支予測情報取得部931は、集合住宅91に電力供給システム90を導入するのに先立ち行われる収支予測(以下、シミュレーションともいう)の結果を取得及び保持する機能モジュールである。シミュレーションは、例えば、システムの導入及び運用に係る予測支出額(コスト)と、システムの導入により得られる予測の収入額(収益)とを諸般の条件に基づいて算出し、これらに基づいて、システムの導入後どれくらいの期間で黒字化が図られるのかの予測を行うものである。
図3に、当該シミュレーションのイメージ図を示す。図中の、横軸が時間軸、例えば電力供給システム90を導入後の経過年数を示し、縦軸が電力供給システム90を導入することで発生するコストと収益の合計額の累積値を示している。また、図中のPは累積収益が累積コストを超える損益分岐点を表している。
【0034】
保障情報取得部932は、上記のシミュレーション結果に基づいて予め定められる、所定の保障内容の情報を取得及び保持する機能モジュールである。所定の保障内容は、例えば、集合住宅の所有者(以下、オーナーともいう)が保険料を電力供給システムの管理者(例えば、オーナーから電力供給システムの導入及び運用を委託された者)に支払うことと引き換えに、シミュレーションにおける損益分岐点Pの到来時においても、累積収益が累積コストを下回っていた場合に、当該マイナス分の一部又は全部が補填される、といった内容であってよい。
【0035】
実績収支額算出部933は、電力供給システム90の導入による累積コストと、累積収益を管理装置92から取得し、前記電力供給システムの導入時からの収支の累計実績額を算出する機能モジュールである。
【0036】
補填金算出部934は、電力供給システム90の導入から所定の期間の経過時に、前記シミュレーション結果、前記所定の保障内容、及び、前記収支の累計実績額に基づいて、所定の期間の経過時におけるシミュレーション結果と収支の実績額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する機能モジュールである
。所定の期間の経過時、とは例えば、上述の損益分岐点Pの時点であってもよい。
【0037】
従来、集合住宅の所有者が、一括受電事業用に電力供給システムを導入し、一括受電契約により、集合住宅全体で消費する電力を低廉に調達しつつ、各入居者から一定のマージンを上乗せした電気料金を徴収することで、収益を得ることが行われている。これにより、電力供給システムの導入コストを回収し、さらに収益を得るという事業モデルである。
【0038】
しかしながら、一括受電事業のために電力供給システムを導入するには少なくないリスクが生じる。即ち、システムの導入後に、集合住宅の入居率が想定を下回ったり、入居者からの電気料金の支払いが滞ったりすることなども想定されることから、電力供給システムの導入による収益が、導入コストを上回って黒字化するか否か(いつ黒字化するか)の目途が立ちにくいことが問題となる。
【0039】
これに対し、本適用例では、補填金算出装置93を用いることで、システム導入から所定期間経過後における、シミュレーション結果に対する収支の実績額がマイナスとなっている場合には、当該マイナス分の少なくとも一部をオーナーに補填することが可能になる。これにより、電力供給システムを導入する際のリスクを低減することができる。
【0040】
なお、上述の適用例では、電力供給システム90は、集合住宅91で使用する電力を電力系統98のみから調達する構成であったが、例えば分散型電源などのその他の電力調達手段を備える電力供給システムにおいても本発明を適用することは可能である。
【0041】
<実施形態1>
(システム構成)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態についてより詳細に説明する。
図4は、本実施例に係る電力供給システム1のブロック図を示す。
図4において、各ブロックを連結する実線は電力線を示しており、各ブロックを連結する破線は通信線(無線通信も含む)を示している。本適用例に係る電力供給システム1は、集合住宅1aに対して適用されることを前提としている。この場合、集合住宅1aは、複数の電力供給先を含む複合施設の一例である。また、太陽電池、風力発電機、所謂V2H(Vehicle to Home)に係る電源や蓄電池等の分散型電源を備えることを前提としている。
【0042】
図4において、電力供給システム1は、系統3a、3bと電気的に繋がっている。そして、分散型電源による供給電力が、複数の電力供給先における消費電力より少なく、電力が不足する場合には、例えば系統3aから買電することが可能となっている。また、分散型電源による供給電力が、複数の電力供給先における消費電力より多い場合には、余剰の電力を例えば系統3bに余剰売電することが可能となっている。系統3a、3bは、所謂小売電気事業者であってもよいし、一般電気事業者であってもよい。また、系統3aと系統3bは異なる電気事業者であってもよいし、同一の電気事業者であってもよい。
【0043】
また、電力供給システム1は、集合住宅1aの外部において、集合住宅1a内のシステムと通信可能に構成された管理装置2を有している。本適用例では、集合住宅1a内のシステムと管理装置2とは、LTEルータ6を介した無線通信が可能となっている。この管理装置2は、より具体的には、電力供給システム1の運営主体である管理会社によってクラウド上に備えられたサーバ装置であってもよい。しかしながら、管理装置2は、電力供給システム1において、集合住宅1a内のシステムとの間で情報の授受が可能とされていればよく、有線通信で繋がっていてもよく、必ずしもクラウド上に備えられたものでなくともよい。
【0044】
また、電力供給システム1の複数の電力供給先としては、専有部12a、12b、12
c・・・が想定されている。この専有部12a、12b、12c・・・は、例えば、集合住宅1aにおける各部屋(以下、入居者ともいう。)である。より具体的には、専有部12a、12b、12c・・・における負荷は、集合住宅1aの各部屋における電気製品等(不図示)である。また、集合住宅1aには、専有部12a、12b、12c・・・の他に共用部13が存在する。この共用部13は、集合住宅1aにおける共用部分であり、共用部13の負荷としては、例えば廊下や玄関の照明13aや、停電時等に予め接続しておいた電気製品へ自動で電力を供給可能にする特定負荷分電盤13b等が考えられる。専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13には、各々スマートメータ11a、11b、11c・・・、11dが備えられており、専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13において消費される電力を測定可能となっている。
【0045】
また、電力供給システム1には、分散型電源として、蓄電池14と太陽電池15が備えられている。蓄電池14には充放電電圧を昇降させる双方向のDC/DCコンバータ及び、蓄電池の充放電に係る電圧の直流/交流を変換するDC/ACコンバータを含む蓄電池パワコン16が接続されている。蓄電池パワコン16から出力される電力は、スマートメータ11eによって測定される。一方、太陽電池15には太陽電池15の発電電圧を調整するDC/DCコンバータ、山登り法によるMPPT制御を行うための制御回路、太陽電池15の出力電圧の直流/交流を変換するDC/ACコンバータを含む太陽電池パワコン17が接続されている。太陽電池パワコン17は、蓄電池パワコン16とも電気的に繋がれており、太陽電池15で発電した電力を直接、蓄電池14に充電することが可能となっている。なお、本実施形態において、蓄電池14と太陽電池15とが一体化した分散型電源を使用しても構わない。
【0046】
図5に、実施形態1における電力供給システム1を用いて行われる役務と料金の流れを示すブロック図を示す。
図5は、電力供給システム1の運用の形態を示すブロック図である。図中、白矢印は、役務の流れを示し、ハッチングが施された矢印は、金の流れを示している。先ず、役務の流れについて説明する。
図5のブロック図における前提として、集合住宅1aのオーナーである設備所有者23は、
図4における管理装置2の運営主体である管理会社21に対して、一括受電委託(電力取引制御委託)をする。すなわち、設備所有者23は、集合住宅1aの入居者22や共有部分についての電力供給の管理と電気料金の徴収を一括して管理会社21に依頼する。
【0047】
管理会社21は、各入居者22に対して分散型電源による電力を用いて電力供給を行う。各入居者22は、自ら消費した電力に応じた電気料金を管理会社21に支払う。そして、分散型電源から供給された電力が入居者22における消費電力より少ない場合には、管理会社21は電気事業者20から不足分の電力を調達する。その場合、管理会社21は、電気事業者20に対して買電に係る買電料金を支払う。すなわち、管理会社21は、各入居者22に対して、電気事業者から調達した電力と分散型電源による電力とを組み合わせて電力供給を行う。
【0048】
ここで、上述のように、入居者22は、管理会社21に対して電力供給量に応じた電気料金を支払うが、その際の電気料金単価(円/kWh)は、管理会社21により自由に定められるが、従前、入居者22が電気事業者20に支払っていた一般電気料金の単価(円/kWh)より低い額としてもよい。また、管理会社21は、設備所有者23には、自家消費還元として、入居者22から支払われる電気料金の合計(電気料金合計)から、電気事業者20から電力調達した電力についての買電料金と、管理装置2の稼働費用を含んだ、電力供給システム1の運用手数料を差し引いた額を支払う。
【0049】
ここで、
図4の説明に戻る。
図4に示す電力供給システム1において、蓄電池パワコン16と太陽電池パワコン17とは、分散型電源用の第二分電盤10に接続されている。そ
して、第二分電盤10は各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13に電力を分電する第一分電盤9に接続されている。第一分電盤9は、親スマートメータ4a、4bを介して系統3a、3bと接続されている。また、第一分電盤9は、スマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eを介して、各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13(のコンセント)に接続されている。
【0050】
これにより、太陽電池15で発電された電力及び、蓄電池14から放電された電力は、各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13に供給可能となっている。その際、各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13における負荷による消費電力が、蓄電池14、太陽電池15の分散型電源による供給電力より多い場合には、系統3aから買電されることで不足分が補充される。また、各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13における負荷による消費電力が、蓄電池14、太陽電池15の分散型電源による供給電力より少ない場合には、余剰分を系統3bへ余剰売電すること可能になっている。
【0051】
スマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eによって測定された専有部12a、12b、12c・・・及び、共用部13における消費電力及び、スマートメータ11eで測定された蓄電池パワコン16の入出力電力の情報は、ゲートウェイ8c、ハブ7を介して制御装置としてのVPP(Virtual Power Plant)コントローラ5に提供される。また、太陽電池パワコン17の出力電力の情報は、ゲートウェイ8a、ハブ7を介してVPPコントローラ5に提供される。また、親スマートメータ4a、4bで測定された系統3aからの買電量、系統3bへの余剰売電量もVPPコントローラ5に提供される。また、太陽電池パワコン17におけるMPPT制御の状態、太陽電池15の端末電流値、電圧値等の情報、蓄電池14における蓄電量等の情報も、ゲートウェイ8a及び8b、ハブ7を介してVPPコントローラ5に提供される。
【0052】
VPPコントローラ5では、オーナーによる電力マネジメントの方針、電力取引市場価格と、各専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13における消費電力、太陽電池15における発電量、蓄電池14における蓄電量等に基づいて、蓄電池パワコン16の入出力電力、系統3aからの買電量、系統3bへの余剰売電量等を制御する。
【0053】
同様に、スマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eによって測定された専有部12a、12b、12c・・・及び共用部13における消費電力及び、蓄電池パワコン16からの入出力電力の情報は、ゲートウェイ8c、ハブ7、LTEルータ6を介して管理装置2にも提供される。同様に、親スマートメータ4a、4bで測定された系統3aからの買電量、系統3bへの余剰売電量も管理装置2にも提供される。さらに、太陽電池パワコン17におけるMPPT制御の状態、太陽電池15の端末電流、電圧値等の情報や、蓄電池14における蓄電量等の情報も、ゲートウェイ8a及び8b、ハブ7、LTEルータ6を介して管理装置2に提供される。なお、実施形態において、系統3aからの買電量、系統3bへの余剰売電量の情報は、スマートメータから管理装置2に提供されるのではなく、電力事業者からの請求情報より取得されるようにしてもよい。
【0054】
図6には、管理装置2の機能の詳細を示すブロック図を示す。
図6に示すように、管理装置2は、電気料金算出部201、還元料金算出部202、買電料金算出部203、収支予測情報取得部204、保障情報取得部205、実績収支額算出部206、補填金算出部207の各機能モジュールを備えている。なお、管理装置2のハード構成は一般的なサーバ装置と同一であることから、ここでは説明は省略する。
【0055】
電気料金算出部201は、専有部12a、12b、12c・・・及び、共用部13における消費電力の情報から、専有部12a、12b、12c・・・に課する電気料金を算出
する機能モジュールである。
【0056】
還元料金算出部202は、管理装置2の運営主体である管理会社が、オーナーに還元する還元料金を演算する機能モジュールである。また、買電料金算出部203は、系統3aからの買電量に基づいて、系統3aに係る電気事業者に支払う買電料金を算出し、あるいは電気事業者からの買電料金の請求額を記憶する機能モジュールである。
【0057】
なお、収支予測情報取得部204、保障情報取得部205、実績収支額算出部206、補填金算出部207、の各機能モジュールは、上述の適用例における収支予測情報取得部931、保障情報取得部932、実績収支額算出部933、補填金算出部934の各機能モジュールと同様の機能を果たすものであるため、ここでは説明は省略する。即ち、本実施形態においては、管理装置2が、適用例における補填金算出装置93を兼ねる構成となっており、本発明における情報処理装置に該当するということができる。
【0058】
(管理装置の処理)
次に、
図7及び
図8に基づいて、本実施形態において、管理装置2で行われる処理の一部の流れについて説明する。なお、当該処理の一連の流れは、管理装置2によって実行される、設備所有者23の投資の未回収リスクを低減させる電力供給システムの運用方法として捉えることもできる。
【0059】
図7及び
図8は、管理装置2において行われる処理の流れを説明するフローチャートである。管理装置2では、まず収支予測情報取得部204により、電力供給システム1導入に先立ち行われる収支シミュレーション結果の情報が取得される(S101)。具体的には、例えば、図示しない他のデータベースなどから通信手段を介して取得するのであってもよいし、ユーザーに入力手段を介した情報入力を求めるのであってもよい。ここで、シミュレーション結果の情報には、損益分岐点の到来する予測時期の情報が含まれていてもよい。
【0060】
つぎに、保障情報取得部205により、電力供給システム1導入に当たり設備所有者23と管理会社21とで取り決められた保障内容に関する情報が取得される(S102)。ここで、保障内容については、具体的には設備所有者23が管理会社21に支払う(或いは、オーナーへの還元料金から減額される)保険料の額、補填金の額(或いは、マイナス額に対する割合など)、補填金が支払われるための条件(例えば、施設の平均入居率が所定の値を上回っていること等)、が含まれていてもよい。管理装置2では続けて、システムの導入(設備投資)に当たり支出した初期コストの情報の取得が行われる(S103)。具体的には、例えば、図示しない他のデータベースなどから通信手段を介して取得するのであってもよいし、ユーザーに入力手段を介した情報入力を求めるのであってもよい。
【0061】
ステップS103の処理が終わると、月毎に、以下で説明するループL1の処理が繰り返し実行される。ループL1では、まず、電気料金算出部201において、各入居者22の電気料金が算出される(S104)。より具体的には、各入居者22の消費電力量に電気料金単価(円/kWh)を乗じることによって算出される。そして、各入居者22に対して請求処理が行われる(S105)。
【0062】
次に、管理装置2において収入管理が行われる(S106)。より具体的には、各入居者22からの該当月についての電気料金の支払いが完了したか否かが確認され、未収金の場合には、督促処理が行われる。また、管理装置2の買電料金算出部203により、買電料金の情報が取得される(S107)。より具体的には、買電料金算出部203に記憶された電気事業者20からの請求額を参照してもよいし、電気事業者20から買電した電力の量から買電料金を算出してもよい。そして、ステップS106において算出された収入
額と、ステップS107において算出された買電料金とから、設備所有者23への還元額が計算される(S108)。
【0063】
次に、実績収支額算出部206により、電力供給システム1の導入時からの収支の累計実績額が算出される(S109)。具体的には、ステップS103で取得した初期コスト情報、及びステップS108で算出した設備所有者23への還元額の累計などから、システム導入時からの収支の合計額が算出されるようにしてもよい。
【0064】
次に、補填金算出部207において、電力供給システム1の導入時から所定の期間が経過したか否かの判定が行われる(S110)。ここで、所定の期間とは、例えばシミュレーションにおいて損益分岐点Pとされた時期が到来するまでの期間とすることができる。ステップS110において、所定の期間が経過していないと判断された場合には、ステップS115に進み、ステップS108で計算された還元額の支払処理が行われ、ループL1内の処理が終了する。
【0065】
一方、ステップS110において、所定の期間が経過したと判断された場合には、続けて、補填金が既に支払われたか否かを判定する処理が行われる(S111)。ここで、補填金が既に支払われたと判断された場合には、ステップS115に進み、ステップS108で計算された還元額の支払処理が行われ、ループL1内の処理が終了する。
【0066】
一方、ステップS111において補填金が未だ支払われていないと判断された場合には、続けて、所定の補填条件を満たすか否かを判定する処理が行われる(S112)。ここで、所定の補填条件とは、例えば、当該月の時点で累計支出額が累計収入額を上回っているか(即ち、収支がマイナスであるか)、施設の平均入居率が所定の値以上であるか、などであってもよい。ステップS112において、所定の補填条件を満たしていないと判断された場合には、ステップS115に進み、ステップS108で計算された還元額の支払処理が行われ、ループL1内の処理が終了する。
【0067】
一方、ステップS112で、所定の補填条件を満たすと判断された場合には、続けて補填金額の算出処理が行われる(S113)。なお、補填金額の算出は、ステップS101で取得した収支シミュレーション結果、ステップS102で取得した保障内容に関する情報、ステップS109で算出された収支の累計実績額、を用いて行われる。
【0068】
そして、ステップS113で算出された補填金額が、ステップS108で計算された還元額に加算されたうえで(S114)、還元料金の支払い処理が行われ(S115)、ループ内の処理が終了する。
【0069】
以上のような本実施形態によれば、導入により多くの初期投資が必要となる分散型電源を備えるような電力供給システムであっても、システム導入の際のリスクを低減させることが可能になる。このため、オーナーは電力供給システムの導入のハードルが下がり、管理会社は一括受電委託契約の成約率を向上させることが可能になる。
【0070】
(その他)
なお、本実施形態においては、系統から調達する電力量を減少させ、自家消費率(%)を上昇させて電気料金を低廉にすることが望ましい。この為に、以下の施策が考えられる。
(1)安価な深夜電力で充電し、昼間の買電量を減少させる
安価な深夜電力を利用して、可能な限り蓄電池14の充電率を高めておくことで、専有部12a、12b、12c・・・、共用部13における消費電力に対して分散型電源からの電力供給の不足が生じることを抑制できる。
(2)太陽光発電による蓄電池の充電と夜間充電電力を組み合わせて、調達電力料金を減少させる
太陽電池15の発電電力が余剰となる場合には、可能な限り蓄電池14に充電し、可能な限り、蓄電池14の充電率を高める。
(3)太陽光発電と需要予測と蓄電池制御で売電電力のピークカット
日付や、曜日、日の出時刻、日の入り時刻、温度、湿度などのデータ、および、サーバから取得される天気予報に基づいて、現在の時点から所定の時刻ごとに、専有部12a、12b、12c・・・、共用部13における消費電力を予測する。この予測消費電力に対して分散型電源による供給電力の不足を最小にするように、蓄電池14の充電率を制御し、買電電力の最大値を低減しピークカットする。これにより、電気事業者20との間の基本契約における最大消費電力を低く設定し、電気事業者20に支払う基本料金を削減する。
【0071】
また、本実施形態においては、自家消費電力量を増やすことが望ましい。この為には、以下の施策が考えられる。
(1)家電の制御を利用した低消費電力化
例えば、共用部13のエアコンの駆動制御や、自然冷媒ヒートポンプ給湯機を用いた低消費電力の給湯システムを用いることで、専有部12a、12b、12c・・・、共用部13における消費電力を抑制する。
(2)太陽光発電、風力発電機、所謂V2Hに係る電源、蓄電池等を組み合わせて自家消費電力量を増やす
上記に加えて、太陽電池15等の発電電力が余剰となる場合には、可能な限り蓄電池14に充電し、可能な限り、蓄電池14の充電率を高める。系統3bへの売電を低減し、自家消費電力量を増やすことで、収益性は向上する。
【0072】
また、本実施形態においては、自家消費電力量の低下を防止することが望ましい。この為には、以下の施策が考えられる。
(1)遠隔モニタリングシステムで故障を検出・予測
管理会社21において、遠隔モニタリングシステムで電力供給システム1における故障を検出する。または、各スマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eの検出値の変化から故障を予測する。これにより、分散型電源からの供給電力が低下し、自家消費電力量が低下することを防止する。
【0073】
また、本実施形態においては、電気事業者20との基本契約料金を低下させることが重要である。この為には、以下の施策が考えられる。
(1)太陽光発電と需要予測と蓄電池制御でピークカット
日付や、曜日、日の出時刻、日の入り時刻、温度、湿度などのデータ、および、サーバから取得される天気予報に基づいて、現在の時点から所定の時刻ごとに、専有部12a、12b、12c・・・、共用部13における消費電力を予測する。この予測消費電力に対して分散型電源による発電電力の不足を最小にするように、蓄電池14の充電率を制御することで、買電電力の最大値を低減しピークカットする。これにより、電気事業者との間の基本契約における最大消費電力を低く設定し、基本料金を削減する。
(2)時間によって、スマートメータの容量を変動させる
スマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eにおける設定を変更することで、柔軟に契約容量を変更することができる。従って、電力の需要予測を行い、調達電力量を予測し、時間によってスマートメータ11a、11b、11c・・・11d、11eの各々の容量を変動させる。これにより、常に必要最低限の容量で電気事業者20との契約を行うことができ、基本料金を削減することが可能となる。
【0074】
その他、電力供給システム1の運用について以下のようなバリエーションが考えられる
。
(1)機器寿命を延ばす
複数の蓄電池14を使用する。これにより、各蓄電池14の充放電回数、充放電レートを減らす。
(2)親スマートメータ4a、4bとスマートメータ11a、11b、・・11eの遮断情報を検知し、故障個所(過電流、漏電)を判定する
(3)停電時、スマートメータ11a、11b、・・11eの容量を自動的に変更し、各入居者22が自立電源を使用する
(4)入居者22のスケジュール情報を取得し、当該情報から需要予測を行い、自家消費量を向上させる制御を行う
(5)消費電力の異常変化(不連続的な変化)から機器故障や入居者22の変化を推定する
【0075】
なお、上記の実施形態においては、複数の電力供給先を有する複合施設として、集合住宅1aを例示したが、本発明の対象となる複合施設は集合住宅には限られない。例えば、共同オフィス、工業団地等も対象となる。また、上記の実施形態においては分散型電源の例として、太陽電池を例示したが、本発明の対象となる分散型電源は太陽電池に限られない、風力発電装置、地熱発電装置、バイオマス発電装置等の他の電源装置も含まれる。
【0076】
なお、以下には本発明の構成要件と実施形態の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
複数の電力供給先(12;96)を含む複合施設(1a;91)に電力を供給する電力供給システム(1;90)と共に用いられる情報処理装置(2;93)であって、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得部(204;931)と、
前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する保障情報取得部(205;932)と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出する、実績収支額算出部(206;933)と、
前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測情報と、前記総収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出部(207;934)と、
を備えることを特徴とする、情報処理装置。
<発明2>
複数の電力供給先を含む複合施設に電力を供給する電力供給システムの運用方法であって、
前記電力供給システムとともに用いられる情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用するために必要な予測支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することによって得られる予測収入額と、に基づいて予測される、前記複合施設に前記電力供給システムを導入した場合における収支予測の情報を取得する、収支予測情報取得ステップ(S101)と、
前記情報処理装置において、前記収支予測の情報に基づいて予め定められる、前記収支予測に対する所定の保障内容の情報を取得する、保障情報取得ステップ(S102)と、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用する
ことで生じた累積支出額と、前記複合施設に前記電力供給システムを導入して運用することで生じた累積収入額とに基づいて、前記電力供給システムの導入時からの収支合計の実績値である実績収支額を算出する、実績収支額算出ステップ(S109)と、
前記情報処理装置において、前記複合施設に前記電力供給システムを導入してから所定の期間の経過時に、前記収支予測情報と、前記総収支額と、前記所定の保障内容と、に基づいて、前記所定の期間の経過時における前記収支予測と前記実績収支額との差額の少なくとも一部を補填する補填金の発生の有無、及び該補填金の額を決定する、補填金算出ステップ(S114)と、
を有することを特徴とする、電力供給システムの運用方法。
【符号の説明】
【0077】
1・・・電力供給システム
1a・・・集合住宅
2・・・管理装置
3a、3b・・・系統
4a、4b・・・親スマートメータ
5・・・VPPコントローラ
6・・・LTEルータ
7・・・ハブ
8a、8b、8c・・・ゲートウェイ
9・・・第一分電盤
10・・・第二分電盤
11a、11b、11c、11d、11e・・・スマートメータ
12a、12b、12c・・・専有部
13・・・共用部
14・・・蓄電池
15・・・太陽電池
16・・・蓄電池パワコン
17・・・太陽電池パワコン