(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02B 39/12 20060101AFI20240918BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
F02B39/12
F02D29/00 C
(21)【出願番号】P 2020212497
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】國分 弥則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健二
(72)【発明者】
【氏名】八木 淳
(72)【発明者】
【氏名】楠 友邦
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-119436(JP,A)
【文献】特開2017-077813(JP,A)
【文献】特開2005-263025(JP,A)
【文献】特開平10-061452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/00-20/08
F02B 33/00-41/10
F02D 29/00-29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、
前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部と、
前記エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機と、
前記自動変速機が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、前記自動変速機が変速するエンジン回転数が前記ノーマルモードの時のエンジン回転数よりも相対的に高い走行モードであるスポーツモードとを選択可能な走行モード選択装置と、
前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器と
を備え、
前記制御器は、
前記走行モード選択装置によって選択された走行モードがスポーツモードか否かを判定する走行モード判定部と、
前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の過給回転数以上の場合に、前記電磁クラッチを接続するように制御する過給制御部と
を備えており、
前記過給制御部は、前記走行モードが前記スポーツモードであると前記走行モード判定部が判定した場合に、前記過給回転数を前記ノーマルモードと判定された場合の前記過給回転数よりも低くなるように設定
し、
前記過給制御部は、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数以下の場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御し、
前記スポーツモードにおいては、前記非過給回転数は、前記過給回転数よりも低くなるように設定され、
前記スポーツモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分は、前記ノーマルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分よりも大きくなるように設定されている、
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンシステムにおいて、
前記スポーツモードにおける前記非過給回転数は、前記ノーマルモードにおける前記非過給回転数よりも低くなるように設定されている、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、
前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部と、
前記エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機と、
前記自動変速機が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、手動でギア段を変速する走行モードであるマニュアルモードとを選択可能な走行モード選択装置と、
前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器と
を備え、
前記制御器は、
前記走行モード選択装置によって選択された走行モードがマニュアルモードか否かを判定する走行モード判定部と、
前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の過給回転数以上の場合に、前記電磁クラッチを接続するように制御する過給制御部と
を備えており、
前記過給制御部は、前記走行モードが前記マニュアルモードであると前記走行モード判定部が判定した場合に、前記過給回転数を前記ノーマルモードと判定された場合の前記過給回転数よりも低くなるように設定
し、
前記過給制御部は、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数以下の場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御し、
前記マニュアルモードにおいては、前記非過給回転数は、前記過給回転数よりも低くなるように設定され、
前記マニュアルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分は、前記ノーマルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分よりも大きくなるように設定されている、
ことを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式過給機とクランクシャフトを断接可能に接続する電磁クラッチを備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車などに搭載されたエンジンシステムでは、エンジンが高負荷領域や高回転領域などにある場合にエンジントルクを高めるために、過給機を用いてエンジンの燃焼室へ空気を過給する技術が知られている。とくにエンジンのクランクシャフトからの回転駆動力を用いて過給を行う機械式過給機(いわゆるスーパーチャージャー)は、エンジンの排気圧を用いる排気タービン式過給機(いわゆるターボチャージャー)と比較して応答性が良い。
【0003】
特許文献1記載のエンジンシステムは、エンジンが所定の高負荷領域になった場合に機械式過給機とクランクシャフトを接続する電磁クラッチを備えている。このエンジンシステムでは、アクセル開度を大きくするなどによってエンジンが低負荷領域から高負荷領域に移行してエンジン回転数が過給領域になった場合に、電磁クラッチがクランクシャフトと機械式過給機を接続する。これにより、機械式過給機がエンジンの燃焼室へ空気を過給し、エンジントルクを高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される機械式過給機は、上記のように排気タービン式過給機よりも応答性が良いが、スポーツモードなどのように加減速を繰り返す走行モードでは過給の応答遅れにより車両の加速遅れが生じることが懸念される。
【0006】
すなわち、スポーツモードなどのような走行モードでは、ドライバーが任意の走行を訴求するために加減速を繰り返すため、エンジン回転数の変動が激しくなり、通常の走行モード(ノーマルモード)と比較してエンジン回転数が大きく低下する頻度が多くなる。エンジン回転数が所定回転数以下まで低下したときには、電磁クラッチが切れて機械式過給機が非過給状態になるので、車両の再加速時にエンジン回転数を上げても電磁クラッチが再度接続して過給を開始するまでタイムラグが生じる。このため、スポーツモードなどのような加減速を繰り返す走行モードでは、機械式過給機による過給の応答遅れが発生し、車両の加速遅れが発生するおそれがある。上記の課題は、手動で変速を行って加減速を繰り返すマニュアルモードについても同様に生じ得る。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、スポーツモードなどのような加減速を繰り返す走行モードにおける車両の加速遅れを抑制することが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエンジンシステムは、スポーツモードなどのような加減速を繰り返す走行モードを選択した場合には、過給を開始するエンジン回転数(本発明における過給回転数)を下げて設定することにより、スポーツモードなどの走行モードにおいて加減速を繰り返しても機械式過給機による過給を維持して車両の加速遅れを抑制するシステムである。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部と、前記エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機と、前記自動変速機が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、前記自動変速機が変速するエンジン回転数が前記ノーマルモードの時のエンジン回転数よりも相対的に高い走行モードであるスポーツモードとを選択可能な走行モード選択装置と、前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器とを備え、前記制御器は、前記走行モード選択装置によって選択された走行モードがスポーツモードか否かを判定する走行モード判定部と、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の過給回転数以上の場合に、前記電磁クラッチを接続するように制御する過給制御部とを備えており、前記過給制御部は、前記走行モードが前記スポーツモードであると前記走行モード判定部が判定した場合に、前記過給回転数を前記ノーマルモードと判定された場合の前記過給回転数よりも低くなるように設定し、前記過給制御部は、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数以下の場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御し、前記スポーツモードにおいては、前記非過給回転数は、前記過給回転数よりも低くなるように設定され、前記スポーツモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分は、前記ノーマルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成では、走行モード選択装置によって選択された走行モードがスポーツモードであると走行モード判定部が判定した場合に、過給制御部は、過給回転数をノーマルモードと判定された場合の過給回転数よりも低くなるように設定する。そして、スポーツモードでは、過給制御部は、エンジン回転数が上記のように低く設定された過給回転数以上の場合に、電磁クラッチを接続するように制御する。これにより、スポーツモードが選択されて加減速を繰り返す走行であっても機械式過給機による過給を長く維持できるようになる。その結果、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0011】
上記のエンジンシステムでは、前記過給制御部は、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数以下の場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御し、前記スポーツモードにおいては、前記非過給回転数は、前記過給回転数よりも低くなるように設定されている。
【0012】
スポーツモードにおいては、非過給回転数は、過給回転数よりも低くなるように設定されているので、スポーツモードで走行中に減速度が大きく、エンジン回転数が大きく低下しても、エンジン回転数が非過給回転数まで低下して前記電磁クラッチを切断する回数および時間が減少する。このため、スポーツモードにおいてエンジン回転数の低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
また、上記のエンジンシステムでは、前記スポーツモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分は、前記ノーマルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分よりも大きくなるように設定されている。
かかる構成では、スポーツモードにおける過給回転数と非過給回転数の差分は、ノーマルモードにおける差分よりも大きくなるように設定されている。このため、スポーツモードで走行中に減速度が大きく、エンジン回転数が大きく低下しても、エンジン回転数が非過給回転数まで低下して前記電磁クラッチを切断する回数および時間が減少する。その結果、スポーツモードにおいてエンジン回転数の低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0013】
上記のエンジンシステムにおいて、前記スポーツモードにおける前記非過給回転数は、前記ノーマルモードにおける前記非過給回転数よりも低くなるように設定されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、スポーツモードにおける非過給回転数をノーマルモードにおける非過給回転数よりも低くなるように設定することにより、スポーツモードにおいてエンジン回転数の低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能である。
【0017】
本発明の請求項3に係るエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出部と、前記エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機と、前記自動変速機が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、手動でギア段を変速する走行モードであるマニュアルモードとを選択可能な走行モード選択装置と、前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器とを備え、前記制御器は、前記走行モード選択装置によって選択された走行モードがマニュアルモードか否かを判定する走行モード判定部と、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の過給回転数以上の場合に、前記電磁クラッチを接続するように制御する過給制御部とを備えており、前記過給制御部は、前記走行モードが前記マニュアルモードであると前記走行モード判定部が判定した場合に、前記過給回転数を前記ノーマルモードと判定された場合の前記過給回転数よりも低くなるように設定し、前記過給制御部は、前記エンジン回転数検出部によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数以下の場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御し、前記マニュアルモードにおいては、前記非過給回転数は、前記過給回転数よりも低くなるように設定され、 前記マニュアルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分は、前記ノーマルモードにおける前記過給回転数と前記非過給回転数の差分よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0018】
かかる構成では、走行モード選択装置によって選択された走行モードがマニュアルモードであると走行モード判定部が判定した場合に、過給制御部は、過給回転数をノーマルモードと判定された場合の過給回転数よりも低くなるように設定する。そして、マニュアルモードでは、過給制御部は、エンジン回転数が上記のように低く設定された過給回転数以上の場合に、電磁クラッチを接続するように制御する。これにより、マニュアルモードが選択されて加減速を繰り返す走行であっても機械式過給機による過給を長く維持できるようになる。その結果、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエンジンシステムによれば、スポーツモードのような加減速を繰り返す走行モードにおける車両の加速遅れを抑制することができる。また、同様に、マニュアルモードのような加減速を繰り返す走行モードにおいても車両の加速遅れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示すシステム図である。
【
図2】
図1のエンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。
【
図3】
図1のエンジンの運転領域および過給機の過給領域を示す運転マップである。
【
図4】SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。
【
図5】
図1の電磁クラッチの制御フローチャートである。
【
図6】
図1の電磁クラッチの制御を行うためのエンジン回転数、走行モードの切換え、および電磁クラッチのon‐offに関するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0022】
(1)エンジンシステムの全体構成
図1に示されるエンジンシステムは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50を備えている。
【0023】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0024】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復運動する。
【0025】
ピストン5の下方には、エンジン本体1のクランクシャフトであるクランクシャフト7が設けられている。クランクシャフト7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0026】
シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)およびクランクシャフト7の回転数(エンジン回転数)を検出するクランク角センサSN1と、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサSN2とが設けられている。
【0027】
クランク角センサSN1は、クランクシャフト7の回転数を検出することにより、エンジン回転数(rpm)も検出することが可能であり、本発明のエンジン回転数検出部として機能する。
【0028】
また、エンジンには、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機60が接続されている。
【0029】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
【0030】
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
【0031】
吸気弁11用の動弁機構には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気S-VT13が内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気S-VT14が内蔵されている。吸気S-VT13(排気S-VT14)は、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。
【0032】
図1に示すように、シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と吸入空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部と対向するように、燃焼室6の天井面の中心部に配置されている。点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。
【0033】
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
【0034】
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
【0035】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する吸気温センサSN4と、吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN5とが設けられている。エアフローセンサSN3および吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。吸気圧センサSN5は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0036】
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャー)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
【0037】
機械式の過給機33は、エンジン本体1のクランクシャフト7により駆動される。過給機33は、エンジン本体1の吸気ポート9を介して燃焼室6に通じる吸気通路30に配置されている。
【0038】
過給機33とエンジン本体1との間には、接続/切断を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34は、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する。すなわち、電磁クラッチ34が接続されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が切断されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
【0039】
電磁クラッチ34は、後述のPCM100からの制御信号を受けてから接続するまでの時間が短く、過給機33の接続をより早めることが可能である。
【0040】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0041】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面(吸気通路30とは反対側の面)に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
【0042】
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0043】
排気通路40における触媒コンバータ41よりも上流側には、排気ガス中の酸素濃度を検出するA/FセンサSN6が設けられている。
【0044】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
【0045】
(2)制御系統
図2は、エンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100(制御器)は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0046】
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、吸気圧センサSN5、A/FセンサSN6と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、エンジン水温、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気酸素濃度)がPCM100に逐次入力されるようになっている。
【0047】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度(以下、アクセル開度という)を検出するアクセルセンサSN7と、車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN8とが設けられており、これらのセンサSN7~SN8による検出信号もPCM100に逐次入力される。
【0048】
さらに、車両の運転席周辺には、走行モード選択装置SW1が設けられている。走行モード選択装置SW1は、2つの走行モード、すなわち、ノーマルモードとスポーツモードとを選択することが可能である。ノーマルモードは、自動変速機60が通常の変速を行う走行モードである。スポーツモードは、自動変速機60が変速するエンジン回転数がノーマルモードの時のエンジン回転数よりも相対的に高い走行モードである。これらの走行モードの選択は、ドライバーが走行モード選択装置SW1を手動で操作することによって行われる。
【0049】
さらに、本実施形態の走行モード選択装置SW1は、後述のマニュアルモードとノーマルモードとを選択することが可能である。マニュアルモードは、ドライバーが手動で自動変速機60のギア段を変速する走行モードである。
【0050】
PCM100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、吸・排気S-VT13,14、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0051】
具体的に、本発明の制御器として機能するPCM100は、燃焼制御部101と、走行モード判定部102と、過給制御部103とを機能的に有している。
【0052】
燃焼制御部101は、燃焼室6での混合気の燃焼を制御する制御モジュールであり、エンジンの出力トルク等がドライバーの要求に応じた適切な値となるようにエンジンの各部を制御する。
【0053】
走行モード判定部102は、走行モード選択装置SWによって選択された走行モードがスポーツモードか否かを判定する。本実施形態では、走行モード判定部102は、スポーツモードまたはノーマルモードのどちらであるかを判定する。さらに、走行モード判定部102は、後述のマニュアルモードまたはノーマルモードのどちらかも判定することが可能である。
【0054】
過給制御部103は、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数および走行モード判定部102の判定結果に基づいて電磁クラッチ34の接続を制御する。接続制御の具体的な方法については後段で詳述する。
【0055】
(3)エンジンの燃焼制御
つぎに、エンジンの燃焼制御について説明する。
図3には、エンジンの運転領域および過給機33の過給領域を示す運転マップが示されている。
【0056】
本図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1~A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第3運転領域A3は、エンジン回転数が第1回転数N1未満となる極低速域であり、第4運転領域A4は、エンジン回転数が第3回転数N3以上となる高速域であり、第1運転領域A1は、第3・第4運転領域A3,A4以外の速度域(低・中速領域)のうち負荷が比較的低い低速・低負荷の領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4以外の残余の領域である。
【0057】
図3の例によれば、第1運転領域A1は、第2運転領域A2の内側に位置する略矩形状の領域とされ、第2運転領域A2の下限回転数である第1回転数N1と、第2運転領域A2の上限回転数(第3回転数N3)よりも低い第2回転数N2と、エンジンの最低負荷よりも高い第1負荷L1と、第1負荷L1よりも高い第2負荷L2とに囲まれている。
【0058】
低速かつ低負荷の第1運転領域A1では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮等により十分に高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
【0059】
図4は、上記のようなSPCCI燃焼が行われた場合の燃焼波形、つまりクランク角による熱発生率(J/deg)の変化を示したグラフである。本図に示すように、SPCCI燃焼では、SI燃焼による熱発生とCI燃焼による熱発生とがこの順に連続して発生する。このとき、CI燃焼の方が燃焼速度が速いという性質上、SI燃焼時よりもCI燃焼時の方が熱発生の立ち上がりが急峻になる。このため、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、SI燃焼からCI燃焼に切り替わるタイミング(後述するθci)で現れる変曲点Xを有している。
【0060】
上記のようなSPCCI燃焼の具体的形態として、第1運転領域A1では、理論空燃比よりも大きい空燃比を有するA/Fリーンの混合気を燃焼室6内に形成しつつ当該混合気をSPCCI燃焼させる制御、言い換えるとλ>1(λは空気過剰率)の混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。このとき、スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような比較的大きな値に設定される。すなわち、第1運転領域A1では、吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される空気(新気)と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射される燃料との重量比である空燃比(A/F)の目標値が、理論空燃比(14.7)よりも十分に大きい値に設定される。そして、この空燃比の目標値(目標空燃比)が実現されるようなスロットル弁32の開度が都度決定され、その決定に従ってスロットル弁32が制御される。
【0061】
なお、エンジンが冷間の状態(エンジン壁温(シリンダブロック3の温度)が30度以下の状態)では、
図3の全運転領域A1~A4においてSI燃焼をする。また、半暖気の状態(エンジン壁温が30度以上80度以下の状態)では、運転領域A1は無くなり運転領域A2に包含されるが、完全暖気の状態(エンジン壁温が80度以上の状態)では運転領域A1は存在する。
【0062】
(4)過給機33の制御
図3に示されるマップにおいて、エンジンの全運転領域A1~A4のうち、エンジン負荷が負荷L3以上またはエンジン回転数がN4以上の場合のいずれかに該当するSCon領域(2点鎖線で囲まれたドット塗りつぶし領域)では、電磁クラッチ34によってクランクシャフト7と過給機33とが接続されることによって過給機33が過給状態になる。なお、エンジン回転数N4は、運転領域A1のエンジン回転数の上限値N2以上であって、運転領域A4のエンジン回転数の下限値N3以下の範囲に設定される。
【0063】
一方、
図3のマップのうち残余の領域(すなわち、エンジン負荷L3以下でかつエンジン回転数N4以下の領域)では、過給機33は非過給状態になる。
【0064】
通常の走行時(ノーマル走行時)では、エンジン負荷およびエンジン回転数に基づいて、上記の
図3のマップのSCon領域に該当する場合には、過給機33を過給状態にする制御を行うが、本発明では、走行モードがスポーツモードである場合には、上記の
図3のマップのうち過給開始のエンジン回転数N4(後述の過給回転数になる)の設定を下げ、エンジン回転数がスポーツモードのために低く設定された過給回転数以上になったときに過給機33を過給状態にする制御を行うことにより、スポーツモード走行時の過給の応答遅れならびに車両の加速遅れを抑制する。
【0065】
すなわち、本実施形態の過給制御部103は、走行モードがスポーツモードであると走行モード判定部102が判定した場合に、所定の過給回転数をノーマルモードと判定された場合の過給回転数よりも低くなるように設定する。具体的には、後述の
図5のステップS2のように、ノーマルモードにおける過給回転数AN1(例えば、2750rpm程度)からスポーツモードにおける過給回転数AN2(1900~2100rpm程度)へ下げる。
【0066】
そして、過給制御部103は、クランク角センサSN1(エンジン回転数検出部)によって検出されたエンジン回転数RNが上記のように低く設定された過給回転数AN2以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する(後述の
図5のステップS3~S4および
図6の時点t4参照)。これにより、電磁クラッチ34は過給機33とクランクシャフト7とを接続し、過給機33は過給状態になる。
【0067】
そして、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数BN2以下の場合(後述の
図5のステップS5および
図6の時点t5参照)には、過給制御部103は、電磁クラッチ34を切断するように制御する。これにより、電磁クラッチ34は過給機33とクランクシャフト7との接続を切断し、過給機33は非過給状態になる。
【0068】
スポーツモードにおいては、非過給回転数BN2は、過給回転数AN2よりも低くなるように設定されている。例えば、スポーツモードにおける非過給回転数BN2は、過給回転数AN2(1900~2100rpm程度)よりも低い1650~1850rpm程度に設定される。
【0069】
また、スポーツモードにおける非過給回転数BN2(例えば、1650~1850rpm程度)は、ノーマルモードにおける非過給回転数BN1(例えば、2650rpm程度)よりも低くなるように設定されている。
【0070】
さらに、スポーツモードにおける過給回転数AN2と非過給回転数BN2の差分α2は、ノーマルモードにおける過給回転数AN1と非過給回転数BN1の差分α1よりも大きくなるように設定されている、例えば、ノーマルモードにおける過給回転数AN1が2750rpm、非過給回転数BN1が2650rpmの場合には、差分α1が100rpmとなるのに対し、スポーツモードにおける過給回転数AN2が1900~2100rpm、非過給回転数BN2が1650~1850rpmの場合には、差分α2が200~300rpm程度になる。
【0071】
(電磁クラッチ34の制御フローチャート)
上記のように構成されたエンジンシステムでは、スポーツモードおよびノーマルモードにおける過給機33の動作制御、具体的には電磁クラッチ34の制御を以下のような手順で行う。
【0072】
図5のフローチャートに示されるように、まず、ステップS1において、PCM100の走行モード判定部102は、走行モード選択装置SW1で選択された走行モードがスポーツモードであるか判定する。
【0073】
走行モードがスポーツモードである場合には、ステップS2に進み、過給制御部103は、過給回転数AN2をノーマルモードと判定された場合の過給回転数AN1よりも低くなるように設定する。すなわち、
図6のエンジン回転数RNのチャートの時点t3のように、走行モード選択装置SW1がスポーツモードに切り換わったタイミングで過給回転数の設定をAN1→AN2に下げるように変更する。このとき、非過給回転数もBN1→BN2に下げる。
【0074】
ついで、ステップS3~S4では、スポーツモードで走行中において、過給制御部103は、エンジン回転数RNが上記のように低く設定された過給回転数AN2以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する(
図6の時点t4参照)。これにより、過給機33は、クランクシャフト7と接続して過給を行う(エンジン回転数RNが過給回転数AN2未満の場合にはステップS3を繰り返す)。
【0075】
このタイミングは、
図6のタイムチャートに示されるように、スポーツモードが選択された後(t3)に、スポーツモードで走行中においてエンジン回転数RNが過給回転数AN2以上になった時(t4)に電磁クラッチ34がオン(on)になり過給機33の接続状態になる。その後、スポーツモードの走行中に加減速を繰り返す間にエンジン回転数がノーマルモードにおける過給回転数AN1および非過給回転数BN1の近傍で変動しても過給機33の接続状態は長期間にわたって維持される(時点t4~t5の電磁クラッチ接続がonの区間参照)。
【0076】
その後、ステップS5~6では、エンジン回転数RNが過給回転数AN2より低い非過給回転数BN2以下になった場合には、過給制御部103は、電磁クラッチ34の接続を切断するように制御する。これにより、過給機33は、クランクシャフト7との接続が切断され、過給を停止する。なお、エンジン回転数RNが非過給回転数BN2以下になった時(t5)にタイマーで所定時間(例えば1秒)カウントしてから電磁クラッチ34の接続を切断してもよい。
【0077】
したがって、上記のように、走行モード選択装置SW1によりスポーツモードが選択された場合には、スポーツモードにおける過給回転数AN2および非過給回転数BN2をノーマルモードにおける過給回転数AN1および非過給回転数BN1よりも低く設定することにより、スポーツモードの走行中において、エンジン回転数RNがノーマルモードにおける過給回転数AN1および非過給回転数BN1の近傍で変動しても、非過給回転数BN2以下になるまで過給機33の接続状態は長期間にわたって維持される(時点t4~t5の電磁クラッチ接続がonの区間参照)。したがって、スポーツモードのように加減速を繰り返す走行モードにおいて過給機33の接続を長く維持し続けることが可能になり、過給の応答遅れを抑制することが可能である。
【0078】
上記のスポーツモードの走行中において、走行モード選択装置SW1を手動操作することにより、スポーツモードからノーマルモードに戻すことが可能である(
図6のタイムチャートの時点t6参照)。これにより、スポーツモードにおける過給回転数AN2および非過給回転数BN2からノーマルモードにおける過給回転数AN1および非過給回転数BN1に設定が変更される。
【0079】
なお、ステップS1において、走行モード判定部102がスポーツモードであると判定しない場合、例えば、
図6のタイムチャートの時点t1~t3のようにスポーツモードが選択される前の期間では、ステップS9に進み、ノーマルモードにおける過給機33の制御、すなわち、ノーマルモードにおける過給回転数AN1および非過給回転数BN1に基づく電磁クラッチ34の接続制御を行う。
【0080】
すなわち、ステップS7では、エンジンが
図3のマップで示されるSCon領域の状態になった時(t1)(この時点t1では、SCon領域になったことにより、エンジン回転数RNがノーマルモードにおける過給回転数AN1になる)には、ステップS8に進み、過給制御部103は、電磁クラッチ34を接続するように制御し、過給機33は過給を開始する(なお、ステップS7において、エンジンがSCon領域の状態にない場合にはステップS7を繰り返す)。過給回転数AN1は、
図3のマップの第4回転数N4に相当する。
【0081】
ついで、ステップS9においてエンジンがSCon領域にない状態になった時(t2)(この時点t2では、エンジン回転数RNがノーマルモードにおける非過給回転数BN1になる)には、上記のステップS6に示されるように、過給制御部103は、電磁クラッチ34の接続を切断するように制御し、過給機33の過給を停止させる。ノーマルモードにおいても、エンジン回転数RNが非過給回転数BN1以下になった時(t2)にタイマーで(例えば1秒)カウントしてから電磁クラッチ34の接続を切断してもよい。
【0082】
上記のようなノーマルモードでは、エンジンがSCon領域の状態になった時(すなわち、エンジン回転数RNが過給回転数AN1以上になった時)(t1)に過給機33は過給を開始し、エンジンがSCon領域の状態になった時(すなわち、非過給回転数BN1以下の時)(t2)に過給を停止する。したがって、ノーマルモードでは過給期間がt1~t2の短期間にすぎず、加減速を繰り返せば過給の応答遅れが生じやすい。このような点を見ても、上記のようにスポーツモードの場合に過給回転数AN2および非過給回転数BN2を低く設定することが過給の応答遅れの抑制に有効であることが理解される。
【0083】
(マニュアルモードの場合の過給機33の制御)
スポーツモードと同様に、マニュアルモードも加減速を繰り返す走行モードであるので、走行モード選択装置SW1が上記のスポーツモードの代わりにマニュアルモードを選択した場合も、上記の
図5のフローチャートのステップS1~S6におけるスポーツモードが選択された場合の制御と同様の制御を行えばよい。
【0084】
具体的には、本実施形態の過給制御部103は、走行モードがマニュアルモードであると走行モード判定部102が判定した場合(
図5のフローチャートのステップS1でマニュアルモードが選択された場合)に、所定の過給回転数をノーマルモードと判定された場合の過給回転数よりも低くなるように設定する。
【0085】
そして、過給制御部103は、クランク角センサSN1(エンジン回転数検出部)によって検出されたエンジン回転数RNが上記のように低く設定された過給回転数AN2以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する(
図5のステップS3~S4および
図6の時点t4参照)。
【0086】
そして、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数が所定の非過給回転数BN2以下の場合(
図5のステップS5および
図6の時点t5参照)には、過給制御部103は、電磁クラッチ34を切断するように制御する。
【0087】
マニュアルモードにおいても、非過給回転数BN2は、過給回転数AN2よりも低くなるように設定されるとともに、ノーマルモードにおける非過給回転数BN1よりも低くなるように設定される。
【0088】
さらに、マニュアルモードにおいても、過給回転数AN2と非過給回転数BN2の差分α2は、ノーマルモードにおける過給回転数AN1と非過給回転数BN1の差分α1よりも大きくなるように設定される。
【0089】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフト7により駆動される過給機33と、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する電磁クラッチ34と、エンジンの回転数を検出するクランク角センサSN1(エンジン回転数検出部)と、エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機60と、自動変速機60が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、自動変速機60が変速するエンジン回転数RNがノーマルモードの時のエンジン回転数よりも相対的に高い走行モードであるスポーツモードとを選択可能な走行モード選択装置SW1と、電磁クラッチ34に制御信号を出力するPCM100(制御器)とを備える。PCM100は、走行モード選択装置SW1によって選択された走行モードがスポーツモードか否かを判定する走行モード判定部102と、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数RNが所定の過給回転数(AN1またはAN2)以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する過給制御部103とを備えている。
【0090】
過給制御部103は、走行モードがスポーツモードであると走行モード判定部102が判定した場合に、過給回転数AN2をノーマルモードと判定された場合の過給回転数AN1よりも低くなるように設定する(
図6の過給回転数AN1、AN2参照)。
【0091】
かかる構成では、走行モード選択装置SW1によって選択された走行モードがスポーツモードであると走行モード判定部102が判定した場合に、過給制御部103は、過給回転数AN2をノーマルモードと判定された場合の過給回転数AN1よりも低くなるように設定する。そして、スポーツモードでは、過給制御部103は、エンジン回転数RNが上記のように低く設定された過給回転数AN2以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する。これにより、スポーツモードが選択されて加減速を繰り返す走行であっても機械式過給機33による過給を長く維持できるようになる。その結果、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0092】
(2)
本実施形態のエンジンシステムでは、過給制御部103は、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数RNが所定の非過給回転数BN2以下の場合に、電磁クラッチ34を切断するように制御する。スポーツモードにおいては、非過給回転数BN2は、過給回転数AN2よりも低くなるように設定されている(
図6の過給回転数AN2および非過給回転数BN2参照)。
【0093】
スポーツモードにおいては、非過給回転数BN2は、過給回転数AN2よりも低くなるように設定されているので、スポーツモードで走行中に減速度が大きく、エンジン回転数RNが大きく低下しても、エンジン回転数RNが非過給回転数BN2まで低下して電磁クラッチ34を切断する回数および時間が減少する。このため、スポーツモードにおいてエンジン回転数RNの低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0094】
(3)
本実施形態のエンジンシステムは、スポーツモードにおける非過給回転数BN2は、ノーマルモードにおける非過給回転数BN1よりも低くなるように設定されている(
図6の非過給回転数BN1、BN2参照)。
【0095】
かかる構成では、スポーツモードにおける非過給回転数BN2をノーマルモードにおける非過給回転数BN1よりも低くなるように設定することにより、スポーツモードにおいてエンジン回転数RNの低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能である。
【0096】
(4)
本実施形態のエンジンシステムでは、スポーツモードにおける過給回転数AN2と非過給回転数BN2の差分α2は、ノーマルモードにおける過給回転数ANと非過給回転数BN1の差分α1よりも大きくなるように設定されている(
図6の差分α1、α2参照)。
【0097】
かかる構成では、スポーツモードにおける過給回転数AN2と非過給回転数BN2の差分α2は、ノーマルモードにおける差分α1よりも大きくなるように設定されている。このため、スポーツモードで走行中に減速度が大きく、エンジン回転数RNが大きく低下しても、エンジン回転数RNが非過給回転数BN2まで低下して電磁クラッチ34を切断する回数および時間が減少する。その結果、スポーツモードにおいてエンジン回転数RNの低下後における再加速時の車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0098】
(5)
本実施形態のエンジンシステムは、スポーツモードの代わりにマニュアルモードを選択した場合も、スポーツモードが選択された場合の制御と同様の制御を行う構成を有する。
【0099】
すなわち、本実施形態のエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフト7により駆動される過給機33と、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する電磁クラッチ34と、エンジンの回転数を検出するクランク角センサSN1(エンジン回転数検出部)と、エンジンに接続され、自動的に変速して車輪に駆動力を伝達する自動変速機60と、自動変速機60が通常の変速を行う走行モードであるノーマルモードと、手動でギア段を変速する走行モードであるマニュアルモードとを選択可能な走行モード選択装置SW1と、電磁クラッチ34に制御信号を出力するPCM100(制御器)とを備える。PCM100は、走行モード選択装置SW1によって選択された走行モードがマニュアルモードか否かを判定する走行モード判定部102と、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数RNが所定の過給回転数(AN1またはAN2)以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する過給制御部103とを備えている。
【0100】
過給制御部103は、走行モードがマニュアルモードであると走行モード判定部102が判定した場合に、過給回転数AN2をノーマルモードと判定された場合の過給回転数AN1よりも低くなるように設定する。
【0101】
かかる構成では、走行モード選択装置SW1によって選択された走行モードがマニュアルモードであると走行モード判定部102が判定した場合に、過給制御部103は、過給回転数AN2をノーマルモードと判定された場合の過給回転数AN1よりも低くなるように設定する。そして、マニュアルモードでは、過給制御部103は、エンジン回転数RNが上記のように低く設定された過給回転数AN2以上の場合に、電磁クラッチ34を接続するように制御する。これにより、マニュアルモードが選択されて加減速を繰り返す走行であっても機械式過給機33による過給を長く維持できるようになる。その結果、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0102】
1 エンジン本体
7 クランクシャフト
33 過給機
34 電磁クラッチ
60 自動変速機
100 PCM(制御器)
102 走行モード判定部
103 過給制御部
SW1 走行モード選択装置