IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】小便器装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 13/00 20060101AFI20240918BHJP
   E03D 5/10 20060101ALI20240918BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20240918BHJP
   G01F 23/263 20220101ALI20240918BHJP
   G01V 3/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
E03D13/00
E03D5/10
G01B7/00 101C
G01F23/263
G01V3/08 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021026795
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2021139282
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020033038
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】小林 基紀
(72)【発明者】
【氏名】立木 翔一
(72)【発明者】
【氏名】正平 裕也
(72)【発明者】
【氏名】川崎 祐一
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-12251(JP,A)
【文献】特開2004-285762(JP,A)
【文献】特開2000-257138(JP,A)
【文献】特開2019-141305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00- 7/00
E03D 11/00-13/00
G01B 7/00
G01F 23/26-23/263
G01V 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記ボウル部の裏側に設けられ前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部内の水の挙動を検出する検出部を有し、
前記水位検知用センサは、静電容量センサであり、
前記検出部として、前記小便器本体の排水流路の閉塞率を検知するための下方検出部と、前記ボウル部からの洗浄水の溢れを事前に検知するための上方検出部と、を備え、
前記下方検出部により、前記吐水部による洗浄水の吐出停止後の静電容量の値の減少を検知し、
前記上方検出部により、前記吐水部による洗浄水の吐出開始後の静電容量の値の増加を検知する
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項2】
前記下方検出部は、上下方向に延伸状に設けられており、
前記上方検出部は、前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、かつ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている
ことを特徴とする請求項に記載の小便器装置。
【請求項3】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記ボウル部の裏側に設けられ前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部内の水の挙動を検出する検出部を有し、
前記小便器本体は、前記排水口に連通したトラップ部を有し、
前記検出部は、その少なくとも一部を、前記ボウル部の裏面と前記トラップ部をなす壁部の外側面とが連接する連接部の近傍に位置させるように設けられている
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項4】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記ボウル部の裏側に設けられ前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部内の水の挙動を検出する検出部を有し、
前記検出部は、その下端を、前記排水口の開口位置の高さよりも下方に位置させるように設けられている
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項5】
排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、
前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、
前記ボウル部の上部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、
前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサと、を備え、
前記水位検知用センサは、前記ボウル部の裏側に設けられ前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部内の水の挙動を検出する検出部を有し、
前記検出部は、前記吐水口に対して左右方向にずれた位置、かつ前記ボウル部の前記排水口よりも後側の位置に設けられている
ことを特徴とする小便器装置。
【請求項6】
前記検出部は、その少なくとも一部を、前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、かつ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている
ことを特徴とする請求項3または請求項5に記載の小便器装置。
【請求項7】
前記ボウル面には、親水層が形成されている
ことを特徴とする請求項1、3のいずれか1項に記載の小便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器本体のボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小便器装置においては、小便器本体のボウル部の下部に溜まっている溜水の水面である溜水面の状態を計測することで、小便器本体からの排水を行う排水部の詰まりを検知する構成を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、マイクロ波を用いたマイクロ波ドップラーセンサを使用して溜水面の揺れを計測し、その計測値に基づいて小便器本体のトラップ部やトラップ部に連通する排水管の詰まりの状況を判断する技術が開示されている。
【0003】
また、便器内の溜水の状態を計測する技術に関し、圧力センサを用い、トラップ部の溜水の水位変化に追従する圧力を検出することで、トラップ部の溜水の水位(溜水位)を検知する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、圧力センサの配置構成として、ボウル部の底部の排水口から小便器本体の背面側につながる折返し状のトラップ流路において、ボウル部の背面側に、トラップ流路の折返し部分の水面を臨ませる水位検出用の空間を設け、この空間を密閉するように圧力センサを取り付けた構成が開示されている。圧力センサによるトラップ部の溜水位の検知情報は、例えば給水管の詰まり等の給水系の異常や、例えば排水管の詰まり等の排水系の異常の有無の判別に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61030号公報
【文献】特開2003-56046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されているように、圧力センサを用いて溜水位を検知する構成の場合、次のような問題がある。圧力センサは、溜水位の変動にともなう水位検出用の空間(以下「検出用空間」という。)内の圧力の変動を検出するものである。このため、排水流路を流れる汚水の勢いによる検出用空間内への空気の流入や検出用空間内の空気の状態等によって圧力変動が生じやすく、十分な検知精度を得ることが難しい。
【0006】
また、圧力センサは、排水流路の水面が臨む検出用空間に対して設けられるものであることから、汚水から生じるガスに晒された状態となり、排水流路を流れる汚水や排泄物等の汚物の付着を受ける場合がある。汚水からのガスの影響や汚物の付着を受けることは、圧力センサの性能維持を困難なものとし、検知精度を低下させる原因となる。また、圧力センサのために検出用空間を形成することは、小便器本体の構造の複雑化や大型化を招く原因となる。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、排水部の詰まり等の検知に関し、検知精度を向上することができる小便器装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る小便器装置は、排尿を受けるボウル面に洗浄水の供給を受ける小便器装置であって、前記ボウル面を形成するとともに前記ボウル面の底部に臨んで開口した排水口を有するボウル部を有する小便器本体と、前記ボウル部の上部に吐水口を位置させ、前記吐水口から前記ボウル面に供給する洗浄水を吐出させる吐水部と、前記ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサと、を備え、前記水位検知用センサは、前記ボウル部の裏側に設けられ前記ボウル面をなす壁部を介して前記ボウル部内の水の挙動を検出する検出部を有するものである。
【0009】
このような構成の小便器装置によれば、水位検知用センサが排水部内における圧力変動の影響を受けることを防止することができ、また、水位検知用センサが汚水からのガスの影響や汚物の付着を受けることを防止することができる。これにより、センサの性能を維持することができ、排水部の詰まり等の検知に関し、検知精度を向上することができる。
【0010】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記水位検知用センサは、静電容量センサであり、前記検出部として、前記小便器本体の排水流路の閉塞率を検知するための下方検出部と、前記ボウル部からの洗浄水の溢れを事前に検知するための上方検出部と、を備え、前記下方検出部により、前記吐水部による洗浄水の吐出停止後の静電容量の値の減少を検知し、前記上方検出部により、前記吐水部による洗浄水の吐出開始後の静電容量の値の増加を検知するものである。
【0011】
このような構成の小便器装置によれば、小便器本体の排水流路の閉塞率と、ボウル部からの洗浄水の溢れの両方を精度良く検知することが可能となる。
【0012】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記下方検出部は、上下方向に延伸状に設けられており、前記上方検出部は、前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、かつ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられているものである。
【0013】
このような構成の小便器装置によれば、ボウル部内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。
【0014】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記検出部は、前記吐水口に対して左右方向にずれた位置、または前記ボウル部の前記排水口よりも前側の位置に設けられているものである。
【0015】
このような構成の小便器装置によれば、排水部の詰まりの検知に関し、誤検知を抑制することができ、検知精度を向上することができる。すなわち、吐水部の吐水口から吐水される洗浄水によってボウル面上に形成される水膜の挙動に関し、吐水口からの吐水停止後において、水膜はボウル面上において上方および左右両方から引いていく。このため、ボウル部の壁部を介してボウル面上の水を検出する検出部を、吐水部に対して左右中心から離間した位置、またはボウル部の排水口よりも前側の位置に配置することで、検出部の配置位置が、水膜の引きが比較的早い位置となり、検出部によって検出される水膜の影響を緩和することができる。これにより、水位検知用センサによる溜水位の誤検知を抑制することができる。
【0016】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記小便器本体は、前記排水口に連通したトラップ部を有し、前記検出部は、その少なくとも一部を、前記ボウル部の裏面と前記トラップ部をなす壁部の外側面とが連接する連接部の近傍に位置させるように設けられているものである。
【0017】
このような構成の小便器装置によれば、ボウル部内の溜水位に加えて、トラップ部の内部の水位を検知することが可能となる。
【0018】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記検出部は、その少なくとも一部を、前記ボウル部の溢れ面の高さよりも下方、かつ前記排水口の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられているものである。
【0019】
このような構成の小便器装置によれば、ボウル部内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。
【0020】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記検出部は、その下端を、前記排水口の開口位置の高さよりも下方に位置させるように設けられているものである。
【0021】
このような構成の小便器装置によれば、ボウル部内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。
【0022】
本発明に係る小便器装置の他の態様は、前記小便器装置において、前記ボウル面には、親水層が形成されているものである。
【0023】
このような構成の小便器装置によれば、親水層によってボウル面において高い洗浄性を得ながら、水位検知用センサによる誤検知を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排水部の詰まり等の検知に関し、検知精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る小便器装置を示す背面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る小便器装置の構成を示す縦断面図および制御ブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る小便器本体の層構造についての説明図である。
図6】本発明の一実施形態に係る小便器装置において排水部に詰まりが無い場合の洗浄水の排水の挙動についての説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る小便器装置において排水部に詰まりが有る場合の洗浄水の排水の挙動についての説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において下側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化を模式的に表したグラフを示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る小便器装置の正面断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る小便器装置の背面断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る小便器装置の底面図である。
図12】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面斜視図である。
図13】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面図である。
図14】本発明の一実施形態に係る小便器装置の下部の縦断面斜視図である。
図15】本発明の一実施形態に係る小便器装置の流路閉塞率が比較的高い場合における洗浄水の挙動についての説明図である。
図16】本発明の一実施形態に係る小便器装置に対する比較例の構成の流路閉塞率が比較的高い場合における洗浄水の挙動、および静電容量の変化についての説明図である。
図17】本発明の一実施形態に係る小便器装置の流路閉塞率が比較的高い場合における洗浄水の挙動、および静電容量の変化についての説明図である。
図18】本発明の一実施形態に係る小便器装置の流路閉塞率が比較的低い場合における洗浄水の挙動についての説明図である。
図19】本発明の一実施形態に係る小便器装置に対する比較例の構成の流路閉塞率が比較的低い場合における洗浄水の挙動、および静電容量の変化についての説明図である。
図20】本発明の一実施形態に係る小便器装置の流路閉塞率が比較的低い場合における洗浄水の挙動、および静電容量の変化についての説明図である。
図21】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において下側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化の一例を流路閉塞率ごとに表したグラフを示す図である。
図22】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において上側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化を模式的に表したグラフを示す図である。
図23】本発明の一実施形態に係る小便器装置の洗浄時において上側水位検知用センサによって検知される静電容量の変化の一例を流路閉塞率ごとに表したグラフを示す図である。
図24】本発明の一実施形態に係る小便器装置の変形例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、小便器本体からの排水を行う排水部の詰まりやボウル部からの洗浄水の溢れの検知に関し、ボウル部内の溜水の水位を検知するための水位検知用センサについて工夫をすることにより、検知精度の向上を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1から図4に示すように、本実施形態に係る小便器装置1は、排尿(小便)を受けるボウル面13に洗浄水の供給を受けるものであり、小便器本体2と、ボウル面13に供給する洗浄水を吐出させる吐水部を構成するスプレッダ3とを備える。小便器装置1は、使用者による小用後、スプレッダ3から吐出される洗浄水により、ボウル面13を洗浄するように構成されている。なお、図4に示す断面図の部分は、小便器本体2の左右方向の中心位置(図2におけるA-A位置)の断面図である。
【0028】
本実施形態に係る小便器装置1は、小便器本体2を、鉛直状の壁面4に対して設置させた、いわゆる壁掛けタイプの便器装置である。小便器本体2は、その底面を床面5に対して浮かせた状態で、壁面4に対して固定金具等によって固定支持されている。本実施形態において、小便器本体2は、陶器製である。
【0029】
小便器装置1において、小便器本体2の壁面4側を背面側(後側)とし、その反対側であるボウル面13側を正面側(前側)とする。また、小便器装置1の正面視における水平方向を左右方向とし、小便器装置1の正面視における右側および左側を、それぞれ小便器装置1の右側および左側とする。
【0030】
小便器本体2は、全体として、左右対称ないし略左右対称の形状を有する。小便器本体2は、全体として、平面視において、後側から前側にかけて徐々に左右の幅を狭くした略山型形状の外形をなすとともに、正面視において、上下方向を長手方向とする略矩形状の外形をなす。
【0031】
また、小便器本体2は、全体として、背面側を壁面4に沿わせるように鉛直状の面に沿わせるとともに、前後方向の寸法について、上端から下側にかけて徐々に寸法を長くし、上下の中央位置よりも下側寄りの位置から下端にかけて、下端が上端よりも長い寸法となるように徐々に寸法を短くした側面視形状を有する。すなわち、小便器本体2は、側面視形状において、前側の部分に、上下中央よりも下方の位置に頂部を位置させ前側に凸の略山型形状を有する。
【0032】
小便器本体2は、ボウル面13を形成するとともにボウル面13の底部に臨んで開口した排水口14を有するボウル部11と、排水口14に連通したトラップ部12とを有する。
【0033】
ボウル部11は、小便器本体2の下端部を除いた大部分に、前側および上側を開放させた凹部として形成されている。ボウル部11の内側の表面が、ボウル面13となっている。ボウル部11は、ボウル面13をなす部分として、正面部11aと左右の側面部11bとを有する。正面部11aおよび左右の側面部11bそれぞれの上縁部により、正面視において下窄まりで上下に細長い倒立山型形状をなす開口部が形成されている。
【0034】
ボウル面13は、上下方向について小便器本体2の上端部から中央部までの範囲で形成された略鉛直状の平面部13aと、平面部13aの左右両側に形成された側面部13bと、ボウル面13の底部をなす凹曲面状のボウル状面部13cとを有する。平面部13aは、ボウル部11の正面部11aの上側の部分の前側の面として形成されている。側面部13bは、ボウル部11の左右の側面部11bの上側の部分の内側の面として形成されている。平面部13a、左右の側面部13b、およびボウル状面部13cは、滑らかに連続してボウル面13を形成している。
【0035】
平面部13aは、ボウル部11の上端部においては左右方向について両端部を除いた略全体にわたる範囲に形成されており、正面視において、上端部から下側にかけて徐々に左右幅を狭めた下窄まりの形状を有する。側面部13bは、ボウル部11の左右の側壁部の内側の面であり、小便器本体2の側面視形状に対応して、側面視で上側から下側にかけて徐々に幅を広くした略三角形状をなすように形成されている。ボウル状面部13cは、平面部13aおよび左右の側面部13bそれぞれの下側に連続するように形成されている。
【0036】
また、ボウル面13においては、左右の側面部13bに導水棚13dが形成されている。導水棚13dは、側面部13bの下後側の部分を他の部分に対して左右内側に位置させるように形成された段差部分である。導水棚13dは、ボウル部11の開口縁部の側面視における前下がりの傾斜に沿うように、平面部13aの上下中間部の位置からボウル面13の前端部近傍の位置にかけて形成されている。
【0037】
ボウル部11の正面部11aは、その上側の部分を、平面部13aをなす鉛直状の壁面部分とし、下側の部分を、上側から下側にかけて徐々に前側に湾曲してボウル状面部13cをなす凹曲面状の壁部としている。ボウル状面部13cは、正面部11aの下部と、排水口14の前側の凹状の曲面部とを含んで形成されている。
【0038】
ボウル面13には、その表面層として親水層15cが形成されている。具体的には、図5に示すように、陶器製の小便器本体2において、少なくともボウル面13を形成する部分は、層構造として、陶器の素地部分である素地層15aと、素地層15aの表面に形成された釉薬層15bと、釉薬層15bの表面に形成された親水層15cとを有する。親水層15cの表面側が、ボウル面13となる。
【0039】
釉薬層15bは、例えば珪酸塩化合物を主成分としたガラス質の層であり、水分の吸収を防ぐ機能等を有する。親水層15cは、例えば100万分の1ミリメートルの凹凸を有する極めて平滑な表面をなす層部分である。親水層15cは、釉薬層15bの上に、例えば1200℃程度の高温で溶かした純度の高いガラス層を均一に形成することによって設けられる。親水層15cは、親水性が高く、水になじみやすい性質を有する。このため、ボウル面13の表面上においては、水が平らに広がり、汚れが浮きやすくなり、汚物が流れやすくなる。
【0040】
また、ボウル部11は、その正面視の開口形状をなす部分の下端部を形成する部分として、前端周壁部16を有する。前端周壁部16は、ボウル部11において左右の側面部11bの下側の間に形成された部分であり、正面視で下側を凸側とした半円弧状をなす上縁部16aを有する。前端周壁部16の上縁部16aの左右中央部は、小便器本体2の側面視形状における前側の頂部を形成する部分となる。
【0041】
排水口14は、平面視で略円形状をなす開口部であり、ボウル面13の底部をなすボウル状面部13cに臨んで開口している。ボウル面13が受けた小便およびスプレッダ3から吐出された洗浄水が、排水口14から排出される。排水口14に対しては、複数の通水孔を有する略円板状の目皿17が排水口14を上側から覆うように設けられている。
【0042】
トラップ部12は、ボウル部11の下側において、排水口14に連通するように設けられている。トラップ部12は、排水口14から下側にかけて流路径を徐々に狭くした下細りのテーパ状の下り流路を形成する下降流路部12aと、下降流路部12aの後側において下降流路部12aの下端から折り返して上り流路を形成する上昇流路部12bと、上昇流路部12bの上端から後側に向かう流路を形成して背面側に開口した排出流路部12cとを有する。下降流路部12aと上昇流路部12bとの間は、トラップ部12の下端部をなす折返流路部12dとなっている。
【0043】
トラップ部12は、主に下降流路部12a、折返流路部12dおよび上昇流路部12bにより、これらの流路部内に常時洗浄水を封水として貯留した折返し状のトラップ流路を形成している。上昇流路部12bおよび排出流路部12cは、ボウル部11の正面部11aの下部をなす湾曲部分の下側および後側に形成されている。下降流路部12aと上昇流路部12bとは、ボウル部11の正面部11aの下部から下斜め前方に向けて延出された流路隔壁部12fによって区画されている。
【0044】
トラップ部12のトラップ流路の下流側に形成された排出流路部12cは、排出口としての略円形状の後方開口部12eを小便器本体2の背面側に開口させており(図3参照)、排出流路部12cの下流側には、排水管18が連通接続されている。排水管18は、壁面4の奥側へと延び、図示せぬ排水設備に接続されている。
【0045】
スプレッダ3は、ボウル部11の上部に吐水口19を位置させ、吐水口19からボウル面13に供給する洗浄水を吐出させる吐水装置であり、ボウル面13の上部の左右中央位置に設けられている。つまり、スプレッダ3は、小便器本体2に対し、左右方向の中央位置であって、平面部13aの上部の位置に設けられている。このため、ボウル部11において平面部13aをなす鉛直状の壁部である正面部11aには、スプレッダ3を設置するための円形状の貫通孔部11cが形成されている。
【0046】
スプレッダ3は、吐水口19からの洗浄水の吐水態様として、ボウル面13に水膜を形成するように吐水を行うように構成されている。吐水口19は、小便器本体2の左右中心に対して左右対称となるように設けられている。スプレッダ3は、主な構成として、略円板状ないし略円柱状のスプレッダ本体部3aと、スプレッダ本体部3aの後側に設けられた給水管部3bとを有する。
【0047】
スプレッダ本体部3aは、吐水口19を有する部分であり、貫通孔部11cを前側から覆うように設けられ、吐水口19を下方に向けて開口させている。吐水口19は、ボウル面13の平面部13aに沿う薄型の開口部であり、スプレッダ3から下方に向けて吐出される洗浄水が扇状に広がるように形成されている。
【0048】
給水管部3bは、スプレッダ本体部3a内に形成された給水流路を介して吐水口19に連通する給水流路を構成する管状の部分であり、スプレッダ本体部3aから後側に延びて貫通孔部11c内を貫通し、小便器本体2の裏側に配されている。給水管部3bには、給水配管20の下流側が接続されており、給水管部3bは、給水配管20および給水配管20の上流側が接続された所定の給水部材21を介して、水道や貯水タンク等の図示せぬ給水源に接続されている。
【0049】
このような構成において、給水源から給水部材21および給水配管20を介して給水管部3bに供給された洗浄水が、スプレッダ本体部3a内の給水流路を通って吐水口19から下側に向けて吐出される。吐水口19から吐出される洗浄水は、ボウル面13の平面部13aに沿って下方に広がるように流れる(図1、矢印A1参照)。吐水口19から吐出された洗浄水は、ボウル面13に水膜を形成し、その一部を側面部13bの導水棚13dに沿わせてボウル状面部13cの前端部側に回り込ませながら排水口14から排出される。
【0050】
以上のようなスプレッダ3に対する給水構成において、給水配管20から給水管部3bまでの流路に、流路を開閉させる電磁弁22が設けられている。電磁弁22の動作は、小便器装置1が備える制御部25により制御される。つまり、電磁弁22は、制御部25からの制御信号に基づき、所定のタイミングで開閉する。
【0051】
制御部25は、各種演算処理や制御を実行する演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、RAM(random access memory)やROM(read only memory)等の記憶装置、データ入出力用の入出力インターフェイス等の入出力装置(入出力回路)、クロック回路等の周辺回路等をバス等により接続した構成を備える。制御部25のCPUは、ROM等に記憶された各種のプログラムに従って演算処理を行う。
【0052】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1は、排水部の詰まり具合を検知するため、小便器本体2の洗浄後における溜水の水位である溜水位の低下の状況、つまりボウル部11内における洗浄水の水捌けの状況を検知するための水位検知用センサを備える。つまり、水位検知用センサは、ボウル部11内の溜水位を検知するためのセンサである。
【0053】
小便器装置1において、排水部の詰まり具合は、排水部における排水流路の閉塞率で表される。本実施形態において、閉塞率の検知対象となる排水部における排水流路には、目皿17の通水孔、排水口14、トラップ部12およびこれに連通接続された排水管18が含まれる。
【0054】
本実施形態に係る小便器装置1は、排水流路の閉塞率を検知するための水位検知用センサとして、第1の水位検知用センサである下側水位検知用センサ30を備える。
【0055】
ここで、排水部の詰まりに関し、排水部に詰まりが無い場合と詰まりが有る場合の各場合について、小便器本体2から排水される洗浄水の挙動について説明する。
【0056】
まず、排水部に詰まりが無い場合の洗浄水の排水の挙動について、図6を用いて説明する。図6Aに示すように、スプレッダ3からの洗浄水の供給が行われていない平常時、つまり洗浄水の待機中においては、ボウル部11内の溜水として、トラップ部12のトラップ流路に封水36が貯溜されている。すなわち、封水36は、トラップ部12の下降流路部12aおよび上昇流路部12bによる折返し流路に溜まった水である。
【0057】
排水部に詰まりが無い場合において、封水36の水位B1は、トラップ部12の流路を形成する壁面のうち、上昇流路部12bを形成する壁面のうちの後側の壁面37aと、排出流路部12cを形成する壁面のうちの下側の壁面37bとにより形成された稜線部37cの高さ位置となる。なお、ボウル部11内の溜水位は、例えばトラップ部12の下端となる折返流路部12dの下端の高さ位置B0を基準とした水面の高さ位置である。
【0058】
図6Aに示す待機中において、スプレッダ3から洗浄水の吐水が行われることで、ボウル面13の洗浄が開始される。図6Bに示すように、ボウル面13の洗浄中は、スプレッダ3から吐出された洗浄水によってボウル面13上に水膜38が形成されるとともに、ボウル面13を洗浄した洗浄水が、排水口14から排出され、トラップ部12および排水管18内を通って排出される。
【0059】
ここで、溜水位は、待機中における封水36の水位B1に対して一時的に上昇するが、排水部に詰まりが無いことから、溜水位の上昇の程度は比較的小さい。具体的には、この場合における上昇時の溜水の水位B2は、例えば、排水管18が連通接続されるトラップ部12の後方開口部12eの略中心の高さ位置となる。
【0060】
そして、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止すると、図6Cに示すように、溜水位を上昇させた洗浄水がスムーズに排出され、溜水位が待機中の封水36の水位B1に戻る。
【0061】
次に、排水部に詰まりが有る場合の洗浄水の排水の挙動について、図7を用いて説明する。ここでは、図7Aに示すように、排水部の詰まりとして、排水部における排水流路に、排水管18の流路断面の中心よりも高い位置まで、つまり排水管18の流路を半分以上の閉塞率で尿石39が存在する場合を例にとって説明する。なお、尿石39は、ゲル状の堆積物であり、空気中や便器水溜り内にあるバクテリアと尿が混じり合ってアンモニアになり、その結果、水中のpHが上昇し、便器溜水中に含まれているカルシウムイオンがリン酸カルシウムや炭酸カルシウムとなって沈殿して固まることによって生じる。
【0062】
排水部に詰まりが有る場合、封水36の水位B3は、尿石39が存在する分、詰まりが無い場合における封水36の水位B1(図6A参照)よりも高くなる。具体的には、封水36の水位B3は、例えば、尿石39の上面の高さ位置となる。なお、封水36が蒸発したり、尿石39へ水分が吸収されたりすることで、封水36の水位B3は、例えば、詰まりが無い場合の封水36の水位B1と、尿石39の上面の高さ位置との間の高さ位置となることもある。
【0063】
図7Aに示す待機中において、スプレッダ3から洗浄水の吐水が行われることで、ボウル面13の洗浄が開始される。図7Bに示すように、ボウル面13の洗浄中は、スプレッダ3から吐出された洗浄水によってボウル面13上に水膜38が形成されるとともに、ボウル面13を洗浄した洗浄水が、排水口14から排出され、トラップ部12および排水管18内を通って排出される。
【0064】
ここで、溜水位は、排水部に詰まりが有ることから、待機中における封水36の水位B3に対して一時的に大幅に上昇する。具体的には、この場合における上昇時の溜水の水位B4は、例えば、排水管18の上端の高さよりも高い位置まで形成された排出流路部12cの上端位置よりも高い位置である。
【0065】
そして、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止すると、図7Cに示すように、水位B4まで上昇した溜水位が徐々に下降する(矢印B5参照)。ここで、排水部に詰まりが有ることから水捌けがわるいため、溜水位を上昇させた洗浄水がある程度の時間をかけて排出され、図7Dに示すように、溜水位が待機中の封水36の水位B3に戻る。
【0066】
このように、排水部に詰まりが有ると、小便器本体2からの排水能力が低下し、スプレッダ3からの洗浄水の給水量に対して排水能力が下回り、ボウル面13の洗浄中に、ボウル部11に水が溜まって溜水位が上昇する。このため、ボウル面13の洗浄後(スプレッダ3からの給水の停止後)に、一旦上昇した溜水位が待機中の高さまで低下するまでにかかる時間(以下「洗浄後水位低下時間」という。)が長くなる。
【0067】
洗浄後水位低下時間は、排水部の詰まり具合の程度によって変化する。つまり、排水部における排水流路の閉塞率(以下「流路閉塞率」という。)が高いほど、洗浄後水位低下時間が長くなる。このような洗浄後水位低下時間の変化が、下側水位検知用センサ30によって捉えられる。すなわち、下側水位検知用センサ30は、流路閉塞率に応じて変化の態様を異ならせる溜水位を検知対象とするものであり、溜水位の変化に応じて出力値を変化させる。なお、流路閉塞率は、排水流路の流路断面の面積に関する閉塞率である。
【0068】
本実施形態において、下側水位検知用センサ30は、静電容量センサである。下側水位検知用センサ30は、図4に示すように、IC基板等により構成されたセンサ本体部31と、センサ本体部31に対して所定の配線によって接続された電極部32とを有する。下側水位検知用センサ30のセンサ本体部31は、制御部25に接続されている。
【0069】
電極部32は、例えば一対のシート状電極を含んで構成されており、矩形状の外形を有するシート状またはプレート状の部材として構成されている。センサ本体部31は、電極部32や電極部32を貼り付けた対象部分の静電容量を計測するための回路構造を含んで構成されている。センサ本体部31において検知した静電容量は、デジタル値に変換される等して、静電容量の計測値として出力される。下側水位検知用センサ30からの出力信号は、制御部25に入力される。
【0070】
下側水位検知用センサ30の電極部32は、小便器本体2において、排水部の詰まり具合によって変化するボウル部11内の溜水位を測定することができる位置に設けられる。電極部32は、小便器本体2においてボウル面13およびトラップ部12のそれぞれを形成する陶器製の壁部の裏側に貼り付けられた状態で設けられる。したがって、センサ本体部31によれば、電極部32およびその貼付け対象部分であるボウル部11に加え、ボウル部11内の溜水等の静電容量が計測される。以下では、小便器本体2における電極部32の取付部分となる、ボウル面13およびトラップ部12のそれぞれを形成する陶器製の壁部を「下側センサ取付壁部」という。
【0071】
電極部32の下側センサ取付壁部に対する貼付けには、例えば接着剤や粘着テープ等が用いられる。なお、下側センサ取付壁部に対する電極部32の設置方法は特に限定されるものではなく、また、電極部32は、下側センサ取付壁部の表面に貼り付ける場合に限らず、下側センサ取付壁部の表面に対して隙間を空けた状態で設けられてもよい。
【0072】
センサ本体部31による検知においては、検知範囲が電極部32の面積に依存する。すなわち、センサ本体部31により検知される静電容量は、下側センサ取付壁部を介して電極部32とボウル面13側の水とが隣り合う部分の面積が増えるほど増加する。このように、電極部32は、ボウル部11の裏側に設けられ、ボウル面13をなす壁部を介してボウル部11内の水の挙動を検出する検出部(下方検出部)として機能する。電極部32は、小便器本体2の流路閉塞率を検知するための下方検出部である。
【0073】
小便器本体2の洗浄時(以下「便器洗浄時」という。)において、下側水位検知用センサ30によって検知される静電容量の変化の態様について、図8を用いて説明する。図8に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。
【0074】
図8のグラフに示すように、時刻0秒からの待機中においては、静電容量の値は略一定であり、時刻T1のタイミングでボウル面13の洗浄、つまりスプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されると、静電容量の値が急増する。増加した静電容量の値は、洗浄開始のタイミングである時刻T1から、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止するタイミングである時刻T2までの便器洗浄中の期間D1においてなだらかに変化する。そして、洗浄水の供給が停止した時刻T2から、静電容量の値が徐々に減少し、最終的に待機中の値に戻る。
【0075】
このような便器洗浄時において下側水位検知用センサ30によって検知される静電容量の変化は、ボウル部11の溜水位の変化に対応している。したがって、流路閉塞率が高くなるほど、便器洗浄中の期間D1における静電容量の値が大きくなるとともに、時刻T2からの静電容量の低下の度合が小さくなり、洗浄後水位低下時間が長くなる。このような下側水位検知用センサ30によって検出される溜水位の変化に応じた静電容量の変化の態様に基づいて、流路閉塞率が検知される。
【0076】
本実施形態に係る小便器装置1における下側水位検知用センサ30の電極部32の配置構成について説明する。電極部32は、スプレッダ3の吐水口19に対して左右方向にずれた位置に設けられている。つまり、電極部32は、ボウル面13をなす部分を含む下側センサ取付壁部の後側(裏側)において、右半部の部位に貼り付けられた状態で設けられている。
【0077】
具体的には、図9および図10に示すように、電極部32は、小便器本体2における左右方向の中心位置C1に対して右方向にずれた位置に設けられている。本実施形態では、電極部32は、左右方向について、中央部に設けられたスプレッダ3の吐水口19の開口範囲から右方向の外側に外れた位置に設けられている。なお、図9は、図4におけるB-B位置の断面図であり、図10は、図4におけるC-C位置の断面図である。
【0078】
小便器本体2における電極部32の配設部位近傍の形状について、図9から図14を用いて詳細に説明する。図9から図14に示すように、小便器本体2の底部には、下側を開放側とした開口部40aをなす底部空間40が形成されている。底部空間40は、陶器として型により成形される小便器本体2において、トラップ部12を形成するための型構造上形成される部分である。なお、図12図13および図14は、図3におけるD-D位置の断面を示している。
【0079】
底部空間40は、小便器本体2の底面視形状に沿うように、前側を頂部側とした略二等辺三角形状(前側を凸側とした略山型形状)の開口形状を有する(図11参照)。底部空間40を形成する面には、ボウル部11の裏面と、トラップ部12の流路を形成する壁部の外側面とが含まれており、底部空間40を形成する面は、外気に触れる部分となる。
【0080】
底部空間40内の左右中央部においては、トラップ部12が、その流路を形成する壁部として下方に向けて突出した突出部12Xを形成している。トラップ部12としての突出部12Xは、トラップ部12の流路形状に沿う外形を有する。
【0081】
突出部12Xは、略鉛直平面状の左右の側壁部41と、平面断面視において後側に凸の湾曲面をなす後壁部42と、後面断面視において下側に凸の湾曲面をなす上壁部43と、突出部12Xの下端部をなす略ドーム状の底壁部44とを有する。トラップ部12においては、左右の側壁部41の内側面により、上昇流路部12bおよび排出流路部12cの側面が形成される。また、後壁部42の前側の曲面により、排出流路部12cの後側の面が形成される。また、上壁部43の上側の曲面により、排出流路部12cの下側の面が形成される。また、底壁部44の内側の面により、折返流路部12dの大部分が形成される。
【0082】
底部空間40を形成する面として、内周壁面45が形成されている。内周壁面45は、底部空間40の開口形状に沿うように全周にわたって形成され、突出部12Xの周囲を取り囲んでいる。内周壁面45は、その後側の面部を、略鉛直状平面状の後壁面45aとしている。
【0083】
底部空間40の底部をなす面として、底面視において突出部12Xの上壁部43の左右両外側に位置する平面状の天面46が形成されている。また、底部空間40を形成する面として、底壁部44の前側に、底面視で略半円弧状をなす段差面47が形成されている。段差面47は、突出部12Xの平面視での湾曲形状に沿う湾曲横面部と、この湾曲横面部の左右両側の後側に形成された縦面部とを有する。
【0084】
また、底部空間40を形成する面として、左右の天面46と、段差面47の左右両端との間に、膨出傾斜面48が形成されている。膨出傾斜面48は、突出部12Xの左右の側壁部41と内周壁面45との間の面部である。膨出傾斜面48は、ボウル部11においてボウル状面部13cを形成する壁部の裏面、つまりボウル部11の正面部11aの下部の裏面となる。
【0085】
膨出傾斜面48は、ボウル面13のボウル状面部13cの湾曲形状に応じて、底部空間40の内側に対して膨らんだ膨出形状を有する上段面部48aと、上段面部48aの下側に形成され主に段差面47の縦面部と左右の側壁部41との間の部分をなす下段面部48bとを有する。側面視において、上段面部48aは、ボウル状面部13cの湾曲形状に沿って略前下がりの傾斜面となっており、下段面部48bは、トラップ部12の下降流路部12aの流路形状に沿って、上段面部48aの下端から略下方に向けて延びている。
【0086】
また、小便器本体2の背面側においては、小便器本体2の背面側が沿う鉛直状の仮想面に対して凹んだ部分をなす背面側凹部50が形成されている。背面側凹部50は、小便器本体2の上下方向の略全体に形成された溝状および穴状の凹み部分を含む部分である。
【0087】
背面側凹部50の上部は、左右方向を長手方向とした略矩形状の穴状の凹み部分50aであり、小便器本体2の背面側に配される給水配管20の配置空間等として用いられる。また、背面側凹部50の上下方向の中間部は、左右の内側面51と、ボウル部11の正面部11aの裏側の面であるボウル裏面52とにより、上下方向に延びた溝状の部分として形成されている。正面部11aは、ボウル面13の湾曲形状に沿う壁部分であり、ボウル裏面52は、ボウル面13に沿う形状を有する。
【0088】
背面側凹部50の下部においては、略水平状の上側横壁部53と、略鉛直状の後側縦壁部54と、略水平状の底壁部55とが形成されている。上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、左右方向について、トラップ部12の形成範囲を含むように形成されており、上側横壁部53および後側縦壁部54は、それぞれ左右両側を、トラップ部12に対して左右両側に張り出させている。上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、それぞれ左右両側を左右の内側面51に繋げており、左右の内側面51間に架設された態様の壁部として形成されている。
【0089】
上側横壁部53、後側縦壁部54および底壁部55は、側面断面視においてクランク形状をなすように形成されている。すなわち、側面断面視において、略水平状の上側横壁部53の後端部から下側に向けて、略鉛直状の後側縦壁部54が、上側横壁部53とともに略直角状をなすように形成されている。また、後側縦壁部54の下端部から後側に向けて、略水平状の底壁部55が、後側縦壁部54とともに略直角をなすように形成されている。
【0090】
上側横壁部53は、正面部11aの下部をなす湾曲面部の中途部の高さ位置において、正面部11aの後側に、正面部11aとともに谷部をなすように形成されている。上側横壁部53の下面53aの左右中間部により、排出流路部12cの上面が形成されており、上側横壁部53の下面53aの左右両側の部分が、底部空間40の天面46となっている。なお、排出流路部12cの前側は、正面部11aの下部の裏面(後面)によって形成されている。
【0091】
後側縦壁部54は、トラップ部12の後側の開口端面部を形成している。後側縦壁部54の前面54aの上部かつ左右中間部により、排出流路部12cの後面が形成されている。トラップ部12の後方開口部12eは、後側縦壁部54の上部の左右中央部に貫通形成されており、後側縦壁部54の後面54bに臨んで開口している。また、後側縦壁部54の下部においては、前面54aが、内周壁面45の後壁面45aとなっている。
【0092】
底壁部55は、背面側凹部50の下側の底面をなすとともに、下面55aにより、小便器本体2の略水平状の底面2aの一部を形成している。
【0093】
以上のような構成において、電極部32は、底部空間40を形成する左右の膨出傾斜面48のうち、右側の膨出傾斜面48に貼り付けられた状態で設けられている。つまり、電極部32は、右側の膨出傾斜面48をなす部分を下側センサ取付壁部として、膨出傾斜面48の面形状に沿うように貼り付けられている。
【0094】
本実施形態において、膨出傾斜面48は、側面断面視において上段面部48aおよび下段面部48bにより前側に凸の屈曲形状をなす部分として形成されており、電極部32は、膨出傾斜面48の屈曲形状に沿うように貼り付けられている。したがって、電極部32は、膨出傾斜面48に貼り付けられた状態において、上段面部48aに沿う上側電極部32aと、下段面部48bに沿う下側電極部32bとによる屈曲形状をなしている。そして、本実施形態では、膨出傾斜面48は、その上側の過半部分を上段面部48aとするように設けられている。
【0095】
以上のように、本実施形態の小便器装置1において、小便器本体2は、底部空間40を形成する面として、突出部12Xの外側の面と、突出部12Xを取り囲む内周壁面45と、突出部12Xと内周壁面45との間の面部とを有する。そして、電極部32は、突出部12Xと内周壁面45との間の面部における右上前側の部分に貼設されている。以上のように小便器本体2の底部空間40内の所定の部位に電極部32を貼設した小便器装置1は、電極部32の配置に関し、次のような構成を備えている。
【0096】
電極部32は、その少なくとも一部を、ボウル部11の裏面とトラップ部12をなす壁部の外側面とが連接する連接部の近傍に位置させるように設けられている。
【0097】
本実施形態では、電極部32は、ボウル部11の正面部11aの下部の裏面である膨出傾斜面48に貼り付けられている。電極部32が貼設されている右側の膨出傾斜面48は、トラップ部12としての突出部12Xを形成する右側の側壁部41の右側に連続する面部である。したがって、電極部32は、右側の側壁部41と右の膨出傾斜面48との連接部となる境界部58の近傍に設けられている。
【0098】
また、電極部32は、その少なくとも一部を、ボウル部11の溢れ面の高さよりも下方、かつ排水口14の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている。すなわち、細長い矩形状(短冊状)の外形を有する電極部32が、平面視において長手方向を略上下方向とする向きで設けられており、電極部32は、その下端を、ボウル部11の溢れ面の高さよりも下方に位置させるとともに、上端を、排水口14の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている。
【0099】
ボウル部11の溢れ面は、図4および図13に示すように、ボウル部11の前端周壁部16の上縁部16aの左右中央部の上端の高さ位置である溢れ面高さE1の水平状の仮想平面となる。溢れ面高さE1は、前端周壁部16の上縁部16aの上端のうち最も低い高さ位置である。したがって、ボウル部11内の溜水位が高さ溢れ面高さE1を超えると、ボウル部11内の水が外に溢れ出ることになる。
【0100】
排水口14の開口位置は、図4および図13に示すように、ボウル状面部13cに臨む排水口14の開口縁部の高さ位置である排水口高さE2に位置する。詳細には、排水口高さE2は、ボウル状面部13cと、トラップ部12の下窄まりの下降流路部12aを形成する周壁面とにより形成された平面視円周状の稜線部の高さ位置となる。
【0101】
そして、電極部32は、上下方向について、その少なくとも一部を、溢れ面高さE1よりも下方、かつ排水口高さE2よりも上方に位置させるように設けられている。すなわち、図13に示すように、電極部32は、その一部を、溢れ面高さE1と排水口高さE2との間の高さ範囲E3内に位置させるように設けられている。本実施形態では、電極部32は、上下方向について、上側の略1/3の部分(上側電極部32aの上側の略半分)を、高さ範囲E3内に位置させるように設けられている。
【0102】
このように、電極部32は、上下方向に延伸状に設けられている。すなわち、電極部32は、長手状の形状である細長い矩形状を有し、その長手方向(延伸方向)を縦向きとするように設けられている。本実施形態では、膨出傾斜面48に貼り付けられた電極部32は、膨出傾斜面48の形状に応じて、正面視で鉛直方向に対して傾斜した状態で設けられている。この点、正面視において、電極部32が、その長手方向の鉛直方向に対するずれが45°以内となるように設けられることで、電極部32が上下方向に延伸状に設けられることになる。
【0103】
また、電極部32は、その下端を、排水口14の開口位置の高さよりも下方に位置させるように設けられている。すなわち、図13に示すように、電極部32は、その下端の高さ位置E4を、排水口高さE2よりも下方に位置させるように設けられている。言い換えると、電極部32は、その少なくとも一部を、排水口高さE2よりも下方に位置させるように設けられている。
【0104】
したがって、例えば図13に示すように、電極部32の一部が排水口高さE2よりも下方に位置する場合、電極部32は、上下方向について、排水口高さE2の上下両側に跨るように設けられている。本実施形態では、図13に示すように、電極部32は、上下方向について、下側の略2/3の部分を、排水口高さE2の下方に位置させるように設けられている。
【0105】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1によれば、下側水位検知用センサ30の電極部32が、小便器本体2の左右中心位置からずれた位置に配置されていることから、排水部の詰まりの検知に関し、誤検知を抑制することができ、検知精度を向上することができる。
【0106】
陶器等によって形成される小便器本体2のボウル面13は、親水性を有する。このため、小便器本体2の洗浄後における流路閉塞率の検知に際し、ボウル部11に対する洗浄水の供給が終了した後も、しばらくはボウル面13に水が水膜として残っている状態となる。このように小便器本体2の洗浄後に一時的にボウル面13に残る水膜は、下側水位検知用センサ30の出力値である静電容量に影響するため、検知対象である溜水位の検知において誤検知の原因となる。つまり、静電容量センサがボウル面13に残った水膜を検知してしまうことで、溜水位の検知精度が低下するおそれがある。
【0107】
特に、流路閉塞率が低い場合、つまり洗浄水の水捌けが比較的良い場合、流路閉塞率が高い場合と比べて溜水位の上昇の程度が低くなるため、その分、溜水位の上側に存在する水膜の範囲が広くなる。したがって、流路閉塞率が低い場合、ボウル面13に沿う水膜の落下による静電容量の変化が、溜水位の低下による静電容量の変化として誤検知されやすくなる。
【0108】
本実施形態に係る小便器装置1において、スプレッダ3の吐水口19から吐水される洗浄水によってボウル面13上に形成される水膜の挙動に関し、電磁弁22の閉じ動作による吐水口19からの吐水停止後において、水膜はボウル面13上において上方および左右両方から引いていく。このため、下側センサ取付壁部を介してボウル面13上の水を検知する電極部32を、スプレッダ3に対して左右中心から離間した位置に配置することで、電極部32の配置位置が、水膜の引きが比較的早い位置となり、電極部32によって検知される水膜の影響を緩和することができる。これにより、下側水位検知用センサ30による溜水位の誤検知を抑制することができ、検知精度を向上することができる。
【0109】
このような効果が得られることについて、電極部32を小便器本体2の左右中心位置に配置した構成を本実施形態に係る構成に対する比較例の構成とし、スプレッダ3から吐出される洗浄水の挙動に基づき、流路閉塞率が比較的高い場合(70~90%)と、流路閉塞率が比較的低い場合(10~30%)との各場合について説明する。なお、比較例の構成において、電極部32は、ボウル部11の裏面側に設けられており、電極部32の上下方向についての設置範囲は、本実施形態に係る構成と同じとする。
【0110】
[流路閉塞率が比較的高い場合]
まず、流路閉塞率が比較的高い場合について、図15から図17を用いて説明する。図15は、流路閉塞率が比較的高い場合における洗浄水の挙動を小便器装置1の側面断面視において示している。図16および図17の各図における上段は、流路閉塞率が比較的高い場合における洗浄水の挙動を小便器装置1の正面断面視において示したものであり、各図における下段は、静電容量の時間変化を示したグラフである。
【0111】
図15から図17の各図における(1)~(7)は、ボウル面13の洗浄前(待機中)からボウル面13の洗浄動作を経て洗浄後までの洗浄水の挙動を時系列で示したものであり、同じ番号は同じタイミングを示している。なお、図15に示す断面図は、図4と同様に図2におけるA-A位置の断面を示しており、図16および図17に示す断面図は、図9と同様に図4におけるB-B位置の断面を示している。また、図15から図17において、電極部32については、その配置位置を模式的に示している。
【0112】
図15から図17において、溜水35の水位である溜水位に着目すると、流路閉塞率が比較的高い場合、洗浄前の状態から、電磁弁22が開きボウル面13の洗浄が開始されると、洗浄中において溜水位は上昇し、電磁弁22が閉じてスプレッダ3からの吐水が停止した後の溜水位の上昇の程度が比較的大きくなる((1)~(4))。そして、吐水停止後、溜水位は徐々に低下し、洗浄前における水位に戻る((5)~(7))。
【0113】
図15から図17において、ボウル面13上の水膜38に着目すると、洗浄前の状態から、電磁弁22が開きボウル面13の洗浄が開始されると、水膜38は、正面視で山形状をなすようにスプレッダ3から下方に向けて左右に広がり、左右両側については導水棚13dを覆う範囲まで形成され、ボウル部11内の溜水35に繋がる((1)~(3))。水膜38は、洗浄中から吐水停止のタイミングまで、その形成範囲を維持する((3)~(4))。
【0114】
そして、吐水停止のタイミングから、水膜38は、溜水位の低下とともにボウル面13に沿って落下し、上端をスプレッダ3から離すとともに、左右方向について範囲を狭め、最終的には無くなる((5)~(7))。すなわち、水膜38は、スプレッダ3からの吐水が停止されると、イメージ的には、正面視で縦長の略楕円形状の形成範囲(面積)を、その形状を保持しながら上側および左右両側から徐々に狭めていく態様で引いていく。
【0115】
以上のような洗浄水の挙動が示される流路閉塞率が高い場合において、比較例の構成および本実施形態の構成のいずれの構成についても、バルブ閉後に、流路閉塞率の違いが、電極部32により検出される静電容量の変化に表れている。
【0116】
図16に示すように、電極部32をスプレッダ3の直下の位置、つまり左右中心位置に設けた比較例の構成の場合、(5)~(7)までの時間範囲について、流路閉塞率によって溜水位が下がりきるまでの時間は異なるが、水膜38が電極部32の前側の部位(検知範囲)から無くなるまでの時間は変わらないため、静電容量が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率によって変わらない。なお、図16および図17の下段のグラフにおいては、流路閉塞率が比較的高い場合として、流路閉塞率が70%、80%、90%の各場合における静電容量の変化を示している。
【0117】
すなわち、バルブ閉後において、実際の溜水位が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率が高いほど長くなるが、静電容量の変化の態様としては、静電容量が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率の値に関わらず同じとなる。このことは、次のような作用に起因する。
【0118】
バルブ閉後において徐々に引いていく水膜38は、無くなる直前において左右中心位置に残るため(図16、(7)参照)、左右中心に位置する電極部32は、水膜38が無くなるまで水膜38を検知してしまうことになる。このため、実際には溜水位が低下している状態においても水膜38を溜水35として誤検知する状況が生じ、図16のグラフに示すように、流路閉塞率によらずに、静電容量が下がりきるまでの時間が同じとなる。なお、バルブ閉後における静電容量の減少の態様は、流路閉塞率が高いほどなだらかとなる。
【0119】
一方、図17に示すように、電極部32をスプレッダ3の直下の位置に対して右方にずらした(離間した)位置に設けた本実施形態の構成の場合、(5)~(7)までの時間範囲について、流路閉塞率によって溜水位が下がりきるまでの時間は異なり、溜水位が下がりきる前に、水膜38が電極部32の前側から無くなるため、静電容量が下がりきるまでの時間が、流路閉塞率によって変わることになる。
【0120】
すなわち、バルブ閉後において、実際の溜水位が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率が高いほど長くなり、静電容量の変化の態様としても、静電容量が下がりきるまでの時間が、溜水位の変化に応じて、流路閉塞率の値によって異なることとなる。このことは、次のような作用に起因する。
【0121】
バルブ閉後において徐々に引いていく水膜38は、上述のとおり、無くなる直前において左右中心位置に残る(図17、(7)参照)。これに対し、本実施形態では、電極部32は、左右中心位置から右方にずれた位置に設けられている。このため、図17の(6)、(7)において符号F1,F2で示すように、水膜38が無くなる前のある時点から、電極部32の前側の部位(検知範囲)から水が引いて無くなることになる。電極部32の前側の部位から水膜38が無くなることで、純粋に溜水位を検知することができる。したがって、電極部32によって溜水位の低下を検知する際に、水膜38の位置の低下による静電容量の変化、溜水位の低下による静電容量の変化として誤検知されることが抑制される。つまり、水膜38が溜水35として誤検知されることが抑制される。
【0122】
これにより、図17のグラフに示すように、静電容量が下がりきるまでの時間が、実際の溜水位の低下の状況に対応して、流路閉塞率によって異なることとなる。すなわち、図17のグラフに示すように、流路閉塞率が低い順に、静電容量が下がりきるタイミングが早くなっている。
【0123】
以上のような流路閉塞率が比較的高い場合においては、水捌けがわるく溜水位の低下にある程度の時間がかかることから、電極部32による検知対象として溜水が比較的しっかりと残り、比較例の構成のように、電極部32を左右中央に配置した構成であっても、流路閉塞率の違いが、静電容量の変化として表れることになる。つまり、流路閉塞率が比較的高い場合は、比較例の構成であっても、ある程度の流路閉塞率は検知可能である。この点、本実施形態の構成のように、電極部32を左右中央から左右にずらした位置に配置することで、静電容量が下がりきるまでの時間についての流路閉塞率による違いが明確となるため、より正確に流路閉塞率を検知することが可能となる。
【0124】
[流路閉塞率が比較的低い場合]
次に、流路閉塞率が比較的低い場合について、図18から図20を用いて説明する。図18は、流路閉塞率が比較的低い場合における洗浄水の挙動を小便器装置1の側面断面視において示している。図19および図20の各図における上段は、流路閉塞率が比較的低い場合における洗浄水の挙動を小便器装置1の正面断面視において示したものであり、各図における下段は、静電容量の時間変化を示したグラフである。なお、図18から図20の各図における(1)~(7)の対応関係、各図における断面図の断面位置、および電極部32の示し方は、図15から図17と同様である。
【0125】
図18から図20において、溜水35の水位である溜水位に着目すると、流路閉塞率が比較的低い場合、洗浄前の状態から、電磁弁22が開きボウル面13の洗浄が開始されると、洗浄中において溜水位は上昇し、電磁弁22が閉じてスプレッダ3からの吐水が停止した後の溜水位の上昇の程度が比較的小さくなる((1)~(4))。また、流路閉塞率が比較的低い場合、流路閉塞率が比較的高い場合と比べて、洗浄中の溜水位も低くなる。そして、吐水停止後、溜水位は徐々に低下し、洗浄前における水位に戻る((5)~(7))。
【0126】
ボウル面13上の水膜38の挙動は、流路閉塞率が比較的高い場合と同様である。すなわち、水膜38は、正面視で山形状をなすようにスプレッダ3から下方に向けて左右に広がり、洗浄中から吐水停止のタイミングまで、その形成範囲を維持し((1)~(4))、吐水停止のタイミングから、下方および左右両方から範囲を狭めて徐々に無くなっていく((5)~(7))。
【0127】
以上のような洗浄水の挙動が示される流路閉塞率が低い場合、水捌けが良いため溜水位の上昇の程度が低く、流路閉塞率が高い場合と比べて溜水位が低くなる。
【0128】
そのため、電極部32の前側の部位(検知範囲)に位置する溜水位が少なくなり、その分、電極部32の前側の部位に位置する水膜38の範囲が大きくなる。水膜38の範囲が大きくなると、溜水位の変化による静電容量の変化に対し、水膜38の変化、つまり水膜38が引くことで面積が小さくなることによる静電容量の変化の割合が大きくなる。
【0129】
したがって、図19に示すように、流路閉塞率が低い場合において、電極部32をスプレッダ3の直下の位置に設けた比較例の構成によれば、溜水位の変化による静電容量の変化が、水膜38による静電容量の変化に埋もれてしまい、検知精度が低下してしまう。すなわち、図19のグラフに示すように、(5)~(7)までの時間範囲について、水膜38が電極部32の前側の部位に存在することから、流路閉塞率によって変化する溜水位の変化の態様が、静電容量の変化の態様として表れないことになる。なお、図19および図20の下段のグラフにおいては、流路閉塞率が比較的低い場合として、流路閉塞率が10%、20%、30%の各場合における静電容量の変化を示している。
【0130】
すなわち、比較例の構成によれば、流路閉塞率が比較的高い場合と同様に、バルブ閉後において、実際の溜水位が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率が高いほど長くなるが、静電容量の変化の態様としては、静電容量が下がりきるまでの時間は、流路閉塞率の値に関わらず同じとなる。
【0131】
一方、図20に示すように、電極部32をスプレッダ3の直下の位置に対して右方にずらした(離間した)位置に設けた本実施形態の構成の場合、(5)~(7)までの時間範囲について、流路閉塞率によって溜水位が下がりきるまでの時間は異なり、溜水位が下がりきる前に、水膜38が電極部32の前側から無くなるため、静電容量が下がりきるまでの時間が、流路閉塞率によって変わることになる。
【0132】
すなわち、本実施形態の構成によれば、図20の(6)、(7)において符号G1,G2,G3で示すように、水膜38が無くなる前のある時点から、電極部32の前側の部位(検知範囲)から水が引いて無くなることになる。電極部32の前側の部位から水膜38が無くなることで、純粋に溜水位を検知することができる。ここで、電極部32の前側の部位から水が無くなるタイミングは、流路閉塞率が比較的高い場合と比べて早くなる。したがって、電極部32によって溜水位の低下を検知する際に水膜38が溜水35として誤検知されることが効果的に抑制される。これにより、図20のグラフに示すように、流路閉塞率が低い順に、静電容量が下がりきるタイミングが早くなっている。
【0133】
以上のような流路閉塞率が比較的低い場合においては、水捌けが良く溜水位の低下が比較的スムーズであるため、電極部32による検知対象として溜水が残りにくい(溜水のかかりが少ない)。このため、比較例の構成のように、電極部32を左右中央に配置した構成によれば、静電容量に対する溜水の寄与率が低くなり、流路閉塞率の違いが静電容量の変化として表れにくくなり、静電容量に基づく流路閉塞率の識別が困難となる。
【0134】
そこで、本実施形態の構成のように、電極部32を左右中央から左右にずらした位置に配置することで、水膜38が電極部32の検知範囲から外れるタイミングが早くなり、溜水位の変化を正確に検知することが可能となる。結果として、静電容量の変化に基づく流路閉塞率の検知精度を向上することができる。
【0135】
以上のように、本実施形態に係る小便器装置1によれば、洗浄水の水膜の水切れが早い位置に電極部32が位置することになり、洗浄水の吐水停止後の早い段階で電極部32の前から水膜38を引かせることができる。これにより、水膜による静電容量変化の影響による誤検知を抑制することができ、ボウル部11内の溜水位の変化による静電容量の変化が捉えやすくなり、流路閉塞率の検知精度を向上することができる。特に、電極部32に対する水膜38の影響が大きくなる(溜水位の影響が小さくなる)、流路閉塞率が比較的低い場合において、効果的に検知精度を向上することができる。
【0136】
なお、本実施形態では、電極部32は、小便器本体2の左右中心に対して右方にずれた位置に設けられているが、左右対称の構成において、電極部32をずらす方向を左方としても同様の作用効果が得られることはもちろんである。
【0137】
また、電極部32は、通常水に触れることがないボウル部11の裏面側に設けられている。このため、電極部32を綺麗な状態に保つことができ、電極部32が被水することによる誤作動や劣化を抑制することができる。
【0138】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、ボウル面13には、親水層15cが形成されている(図5参照)。つまり、ボウル面13には、親水加工が施されている。このような構成によれば、親水層15cによりボウル面13の洗浄性は向上するが、親水層15cが形成されていない構成と比べて水捌け性が低下することが考えられる。ボウル面13の水捌け性が低下すると、ボウル面13上において、電極部32による誤検出の原因となる水膜38が残りやすくなる。しかしながら、電極部32を左右方向について中心からずらした配置構成によれば、親水層15cによってボウル面13において高い洗浄性を得ながら、電極部32による誤検出を抑制することが可能となり、下側水位検知用センサ30による誤検知を抑制することが可能となる。
【0139】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、電極部32は、その少なくとも一部を、ボウル部11の裏面とトラップ部をなす壁部の外側面とが連接する連接部の近傍に位置させるように設けられている。このような構成によれば、ボウル部11内の溜水位に加えて、トラップ部12の内部の水位を検知することが可能となる。これにより、例えば、ボウル面13上にこびりついた汚れ等が存在することによって電極部32による水の検知範囲が狭くなったりボウル部11内の溜水位の検知ができなくなったりした場合等、トラップ部12の内部の水位を検知することができ、電極部32による検知範囲を確保することができる。
【0140】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、電極部32は、その少なくとも一部を、溢れ面高さE1と排水口高さE2との間に位置させるように設けられている(図13参照)。このような構成によれば、ボウル部11内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。
【0141】
また、本実施形態に係る小便器装置1において、電極部32は、その少なくとも一部を、排水口高さE2よりも下方に位置させるように設けられている。このような構成によれば、ボウル部11内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。特に、電極部32の少なくとも一部を排水口高さE2よりも下方に位置させる構成によれば、待機状態において封水36の水位が位置するトラップ部12内の水位の変化も確実に検知することができる。
【0142】
以上のような本実施形態に係る小便器装置1において、下側水位検知用センサ30による出力値(静電容量)の変化の一例を、図21に示す。図21に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。また、図21に示すグラフにおいて、グラフH1~H9は、それぞれ流路閉塞率が0%、50%、60%、70%、80%、90%、92.3%、93%、100%の場合に対応している。
【0143】
図21のグラフに示すように、流路閉塞率が100%の場合以外は、図8のグラフのように、洗浄水の吐水が開始されてから静電容量の値が増加し、ボウル面13の洗浄中は静電容量の値が略一定となり、洗浄水の吐水が停止したタイミングから静電容量の値が徐々に減少する。このように洗浄水の挙動に応じて変化する静電容量の時間変化において、洗浄水の吐水停止のタイミングからその直後の所定の時間(例えば約10秒間、破線で囲んだ部分J1参照)における静電容量の変化に基づいて、流路閉塞率が識別されて検知される。つまり、電極部32によれば、洗浄後(洗浄水の吐水停止後)の静電容量の変化に基づいて、溜水位が検知される。ここで、静電容量の変化としては、例えば、所定のタイミングでの容量差の値や傾きの値等が計測される。
【0144】
すなわち、流路閉塞率が低いほど、洗浄水の吐水停止のタイミングからの静電容量の値の減少の度合が大きくなる。一方、グラフH9に示すように、流路閉塞率が100%の場合、洗浄水の吐水停止のタイミングから静電容量の値はほぼ変化せずに最大値を保持した状態となる。流路閉塞率は、制御部25により、下側水位検知用センサ30から送られてくる検知信号に基づいて判断されて検知される。
【0145】
このように、小便器装置1は、下側水位検知用センサ30の電極部32により、スプレッダ3による洗浄水の吐水停止後の静電容量の値の減少を検知する。ここで、静電容量の値の減少は、静電容量の値の単位時間当たりの減少量、つまり静電容量の値の時間変化のグラフにおける傾き(減少率)や、洗浄水の吐水停止後から所定時間経過後の静電容量の値が所定の閾値より小さいことまたは大きいこと等により検知される。
【0146】
上述したような本実施形態に係る電極部32についての配置構成によれば、図21のグラフに示されるような、流路閉塞率による静電容量の変化の差異を明確にすることが可能となり、流路閉塞率についての誤検知を抑制することができる。
【0147】
また、本実施形態に係る小便器装置1は、ボウル部11からの洗浄水の溢れを事前に検知するため、水位検知用センサとして、第2の水位検知用センサである上側水位検知用センサ60を備える。小便器装置1において、排水部の詰まり具合の程度が高くなると、便器洗浄中に溜水位がボウル部11の溢れ面に達し、ボウル部11から洗浄水が溢れることが生じ得る。こうしたボウル部11からの洗浄水の溢れが、上側水位検知用センサ60によって事前に検知される。
【0148】
本実施形態において、上側水位検知用センサ60は、下側水位検知用センサ30と同様の構成を有する静電容量センサである。すなわち、上側水位検知用センサ60は、図4に示すように、IC基板等により構成されたセンサ本体部61と、センサ本体部61に対して所定の配線によって接続された電極部62とを有する。上側水位検知用センサ60のセンサ本体部61は、制御部25に接続されている。上側水位検知用センサ60のセンサ本体部61および電極部62は、それぞれ下側水位検知用センサ30のセンサ本体部31および電極部32と同様の構成を備えるものであるため、各部の説明を省略する。
【0149】
上側水位検知用センサ60の電極部62は、小便器本体2において、ボウル部11の溢れ面近傍の溜水位を測定することができる位置に設けられる。電極部62は、小便器本体2においてボウル面13を形成する陶器製の壁部の裏側に貼り付けられた状態で設けられる。したがって、センサ本体部61によれば、電極部62およびその貼付け対象部分であるボウル部11に加え、ボウル部11内の溜水等の静電容量が計測される。以下では、小便器本体2における電極部62の取付部分となる、ボウル面13を形成する陶器製の壁部を「上側センサ取付壁部」という。
【0150】
電極部62の上側センサ取付壁部に対する貼付けには、例えば接着剤や粘着テープ等が用いられる。なお、上側センサ取付壁部に対する電極部62の設置方法は特に限定されるものではなく、また、電極部62は、上側センサ取付壁部の表面に貼り付ける場合に限らず、上側センサ取付壁部の表面に対して隙間を空けた状態で設けられてもよい。
【0151】
センサ本体部61による検知においては、検知範囲が電極部62の面積に依存する。すなわち、センサ本体部61により検知される静電容量は、上側センサ取付壁部を介して電極部62とボウル面13側の水とが隣り合う部分の面積が増えるほど増加する。このように、電極部62は、ボウル部11の裏側に設けられ、ボウル面13をなす壁部を介してボウル部11内の水の挙動を検出する検出部として機能する。電極部62は、ボウル部11からの洗浄水の溢れを事前に検知するための上方検出部である。
【0152】
便器洗浄時において、上側水位検知用センサ60によって検知される静電容量の変化の態様について、図22を用いて説明する。図22に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。
【0153】
図22のグラフに示すように、時刻0秒からの待機中においては、静電容量の値は略一定であり、時刻S1のタイミングでボウル面13の洗浄、つまりスプレッダ3からの洗浄水の吐水が開始されると、静電容量の値が急増する。増加した静電容量の値は、洗浄開始のタイミングである時刻S1から、スプレッダ3からの洗浄水の供給が停止するタイミングである時刻S2までの便器洗浄中の期間U1においてなだらかに変化する。そして、洗浄水の供給が停止した時刻S2から、静電容量の値が徐々に減少し、最終的に待機中の値に戻る。
【0154】
このような便器洗浄時において上側水位検知用センサ60によって検知される静電容量の変化は、ボウル部11の溜水位の変化に対応している。したがって、流路閉塞率が高くなるほど、便器洗浄中の期間U1における静電容量の値が大きくなる。このような上側水位検知用センサ60によって検出される溜水位の変化に応じた静電容量の変化の態様に基づいて、ボウル部11からの洗浄水の溢れが検知される。
【0155】
本実施形態に係る小便器装置1における上側水位検知用センサ60の電極部62の配置構成について説明する。電極部62は、少なくとも一部がボウル部11の溢れ面の高さ位置(図4、溢れ面高さE1)よりも下方に位置するように設けられており、上側水位検知用センサ60が有する上方検出部として機能する。
【0156】
電極部62は、ボウル部11の正面部11aの下部において、上側横壁部53の直上方の位置に設けられている。具体的には、細長い矩形状(短冊状)の外形を有する電極部62が、背面視において長手方向を左右方向とする向きで、ボウル裏面52の曲面に沿うように貼り付けられている。
【0157】
また、本実施形態では、電極部62は、その全体を溢れ面(溢れ面高さE1)の下方に位置させるように設けられている。つまり、電極部62は、横長の状態で設けられた電極部62の上縁の高さ位置E5(図13参照)が溢れ面高さE1よりも低い位置となるように設けられている。なお、電極部62は、例えば、背面視において長手方向を上下方向とし、上下方向について溢れ面高さE1の位置の上下両側にわたるように設けられてもよい。この場合、電極部62の一部を溢れ面の下方に位置させた配設態様となる。
【0158】
また、本実施形態では、電極部62は、その全体を排水口高さE2よりも上方に位置させるように設けられている。つまり、電極部62は、横長の状態で設けられた電極部62の下縁の高さ位置E6(図13参照)が排水口高さE2よりも高い位置となるように設けられている。なお、電極部62は、例えば、背面視において長手方向を上下方向とし、上下方向について排水口高さE2の位置の上下両側にわたるように設けられてもよい。この場合、電極部62の一部を排水口高さE2の上方に位置させた配設態様となる。
【0159】
以上のような本実施形態に係る小便器装置1において、上側水位検知用センサ60による出力値(静電容量)の変化の一例を、図23に示す。図23に示すグラフにおいて、横軸は時間(秒)であり、縦軸は静電容量の値である。また、図23に示すグラフにおいて、グラフK1~K9は、それぞれ流路閉塞率が0%、50%、60%、70%、80%、90%、92.3%、93%、100%の場合に対応している。
【0160】
図23のグラフに示すように、流路閉塞率が100%の場合以外は、図22のグラフのように、洗浄水の吐水が開始されてから静電容量の値が増加し、ボウル面13の洗浄中は静電容量の値がなだらかに変化し、洗浄水の吐水が停止したタイミングから静電容量の値が徐々に減少する。このように洗浄水の挙動に応じて変化する静電容量の時間変化において、洗浄水の吐水開始のタイミングからその直後の所定の時間(例えば約6、7秒間、破線で囲んだ部分L1参照)における静電容量の変化に基づいて、ボウル部11からの洗浄水の溢れが検知される。つまり、電極部62によれば、洗浄中(洗浄水の吐水中)の静電容量の変化に基づいて、溜水位が検知される。ここで、静電容量の変化としては、例えば、所定のタイミングでの容量差の値や傾きの値等が計測される。
【0161】
グラフK9に示すように、流路閉塞率が100%の場合、洗浄中においてグラフがピークあるいはその近傍に達したタイミングM1の時点で、ボウル部11から洗浄水が溢れることになる。つまり、ボウル部11内の洗浄水が溢れ面を越えて外に溢れ出ることになる。そこで、上側水位検知用センサ60により、静電容量の変化に基づき、ボウル部11からの洗浄水の溢れが生じる前の状態を検知することで、洗浄水の溢れが事前に検知される。なお、グラフK9においては、タイミングM1の時点で洗浄水の吐水を強制的に停止させており、その時点から静電容量の値が略一定となっている。
【0162】
洗浄水の溢れは、制御部25により、上側水位検知用センサ60から送られてくる検知信号に基づいて事前に検知される。制御部25は、上側水位検知用センサ60によって検出される静電容量の変化に基づき、溜水位が溢れ面高さE1の付近まで上昇したことを検知することで、洗浄水の溢れを事前に検知する。溢れ面高さE1の付近の水位は、静電容量との関係で認識される所定の水位(限界水位)として、制御部25においてあらかじめ設定される。制御部25は、洗浄中において、溜水位が溢れ面高さE1の付近まで上昇したことを検知することで、電磁弁22に対して閉弁動作の制御信号を送信し、スプレッダ3からの洗浄水の供給を停止させる制御を行う。
【0163】
このように、小便器装置1は、上側水位検知用センサ60の電極部62により、スプレッダ3による洗浄水の吐出開始後の静電容量の値の増加を検知する。ここで、静電容量の値の増加は、静電容量の値の単位時間当たりの増加量、つまり静電容量の値の時間変化のグラフにおける傾き(増加率)や、洗浄水の吐水停止後から所定時間経過後の静電容量の値が所定の閾値より大きいことまたは小さいこと等により検知される。
【0164】
以上のように上側水位検知用センサ60を備えた構成によれば、洗浄水がボウル部11内から溢れることを抑制することができる。
【0165】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る小便器装置1によれば、上下のセンサ取付壁部を介してボウル部11内の水の挙動を検出する検出部を有する下側水位検知用センサ30および上側水位検知用センサ60を備えることにより、これらのセンサが排水部内における圧力変動の影響を受けることを防止することができ、また、センサが汚水からのガスの影響や汚物の付着を受けることを防止することができる。これにより、センサの性能を維持することができ、排水部の詰まり等の検知に関し、検知精度を向上することができる。
【0166】
また、下側水位検知用センサ30および上側水位検知用センサ60として静電容量センサを採用することで、各センサの電極部32,62をボウル部11の裏側に貼り付けることによって小便器本体2に対してセンサを配置することができる。これにより、小便器本体2の構造の複雑化や大型化を招いたり、陶器製の小便器本体2の形状等についての制約を受けたりすることなくセンサを設けることが可能となる。
【0167】
また、本実施形態に係る小便器装置1は、水位検知用センサの検出部として、流路閉塞率を検知するための下側水位検知用センサ30の電極部32と、ボウル部11からの洗浄水の溢れを事前に検知するための上側水位検知用センサ60の電極部62とを備える。このような構成によれば、流路閉塞率とボウル部11からの洗浄水の溢れの両方を精度良く検知することが可能となる。
【0168】
また、下側水位検知用センサ30の電極部32は、上下方向に延伸状に設けられており、上側水位検知用センサ60の電極部62は、ボウル部11の溢れ面の高さよりも下方、かつ排水口14の開口位置の高さよりも上方に位置させるように設けられている。このような構成によれば、ボウル部11内の溜水位の変化を確実に検知することが可能となる。
【0169】
本実施形態に係る小便器装置1は、下側水位検知用センサ30によって検知される流路閉塞率が所定の値(例えば80%)となったことや、上側水位検知用センサ60によって洗浄水の溢れが事前に検知されたことを、小便器装置1の使用者や清掃作業者等に報知するための構成を備えてもよい。具体的には、例えば、図4に示すように、制御部25に電気的に接続された報知部59が備えられる。
【0170】
報知部59は、例えば、LED(発光ダイオード)を光源とした発光部としての機能や、電子音を発生するブザーにより構成された音発生部としての機能を有するものとして構成される。報知部59は、排水部に詰まりが生じていることや洗浄水の溢れに関する検知結果を、例えば光や音により報知する部分となる。報知部59としては、例えば、流路閉塞率の大きさ、即ち排水部の詰まりの度合に応じて、発光や音発生の態様を変化させる機能を有するものであってもよい。
【0171】
このような構成によれば、小便器装置1の使用者や清掃作業者等に対して排水部の詰まりの状況を認識させることが可能となるため、排水部について適切な清掃の時期を把握することができる。これにより、排水部の清掃を効率的に行うことができる。なお、報知を行うための構成としては、例えば、無線通信モジュールを用い、流路閉塞率の検知情報を所定の受信装置に送信する構成が用いられてもよい。また、報知の方法としては、光や音のほか電子メール等のメッセージ送信が用いられてもよい。
【0172】
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係る小便器装置は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【0173】
上述した実施形態では、小便器装置1は、壁掛けタイプの便器装置であるが、小便器本体2を床面5上に設置した、いわゆる床置きタイプの便器装置であってもよい。
【0174】
また、上述した実施形態では、下側水位検知用センサ30の電極部32は、ボウル部11の背面側において、小便器本体2の左右中心位置からずれた位置に設けられているが、電極部32の配設部位はこれに限定されるものではない。電極部32の配設部位としては、ボウル面13において溜水35に対して水膜38が早く引いていく部位の裏側であればよい。
【0175】
したがって、電極部32の配設部位としては、例えば、図4において、電極部32Xで示すように、ボウル部11の裏側であって、排水口14よりも前側の位置であってもよい。この場合においても、スプレッダ3を左右中心に設けた構成との関係で水膜の影響を避ける観点から、水膜が比較的早く引いていく部位の裏側が、電極部32の好適な配置位置となる。ただし、電極部32を排水口14よりも前側の部位に設ける構成との比較において、上述した実施形態のようにボウル部11の背面側における左右中心位置からずれた位置に電極部32を設ける構成によれば、ボウル部11の排水口14よりも前側の部分(リップ部分)に電極部32が無い分、リップ部分の前端をシャープな形状にすることが可能となる。これにより、使用者が小便器本体2に近付きやすくなり、尿が小便器本体2の周りに飛散したり小便器本体2から外れたりすることを抑制することが可能となる。
【0176】
また、上述した実施形態では、水位検知用センサのうちの下側水位検知用センサ30の電極部32を左右中心からずれた位置に配置しているが、洗浄水の溢れを検知するための上側水位検知用センサ60の電極部62についても、下側水位検知用センサ30の電極部32と同様に左右中心からずれた位置に配置することで、上述のとおり水膜38の影響による誤検知を抑制することができる。
【0177】
また、上述した実施形態では、水位検知用センサとして、静電容量センサが用いられているが、小便器本体2の壁部を介してボウル部11内の洗浄水の挙動を検知することができる機能を有するものであれば、静電容量センサ以外のセンサであっても適用可能である。静電容量センサ以外のセンサとしては、例えば、マイクロ波を用いたマイクロ波ドップラセンサ等の電波センサや、超音波を用いた超音波センサ等が考えられる。
【0178】
また、上述した実施形態では、水位検知用センサとして、下側水位検知用センサ30と上側水位検知用センサ60が設けられているが、これらのセンサは、センサ本体部を共通とした1つの水位検知用センサとして設けられてもよい。この場合、電極部32および電極部62は、一体のシート状またはプレート状の部材として構成されたものであってもよい。
【0179】
また、水位検知用センサの電極部は、次のような構成のものであってもよい。水位検知用センサの電極部の配置構成の変形例について、図24を用いて説明する。上述した実施形態の小便器装置1は、水位検知用センサの検出部として、洗浄水の溢れ検知用の上方検出部である電極部62と、流路閉塞率検知用の下方検出部である電極部32とを有する。
【0180】
このような構成は、水位検知用センサの電極部を、主に流路閉塞率が比較的低い場合の溜水位の検知に用いられる電極部32と、主に流路閉塞率が比較的高い場合の溜水位の検知に用いられる電極部62とに分割配置した構成であると言える。そして、電極部の分割構成としては、例えば、図24に示すように、上側横壁部53の上下に設けられる電極部をそれぞれ複数の電極部として分割配置した構成であってもよい。
【0181】
図24に示す例では、上側横壁部53の下側に配置される電極部として、上下方向について上から順に、第1下電極部32x、第2下電極部32y、および第3下電極部32zの3つの電極部が設けられている。また、上側横壁部53の上側に配置される電極部として、上下方向について上から順に、第1上電極部62xおよび第2上電極部62yの2つの電極部が設けられている。なお、電極部の分割配置としては、上下方向の分割に限らず、左右方向に分割して電極部を横並びに複数箇所に設けてもよい。
【0182】
このような変形例の構成によれば、上側横壁部53の上下それぞれの複数の電極部に関し、例えば1つの電極部に不具合が生じた場合であっても、残りの電極部によって溜水位の検知動作を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0183】
1 小便器装置
2 小便器本体
3 スプレッダ(吐水部)
11 ボウル部
12 トラップ部
12e 後方開口部(排出口)
12X 突出部
13 ボウル面
14 排水口
15c 親水層
16 前端周壁部
19 吐水口
25 制御部
30 下側水位検知用センサ
32 電極部(検出部、下方検出部)
40 底部空間
40a 開口部
48 膨出傾斜面
52 ボウル裏面
60 上側水位検知用センサ
62 電極部(検出部、上方検出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24