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特許7556323繊維状セルロース含有分散液及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】繊維状セルロース含有分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/02 20060101AFI20240918BHJP
   C09D 7/45 20180101ALI20240918BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08J3/02 B CEP
C09D7/45
C08B5/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021072616
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2021175799
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2020075908
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 実央
(72)【発明者】
【氏名】落合 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 瑛大
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106865(JP,A)
【文献】特開2017-025468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 5/
C09D 7/
C08J 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状セルロース含有分散液であって、
前記繊維状セルロースが、繊維幅が1000nm以下であり、かつイオン性置換基を有する繊維状セルロースであり、
前記繊維状セルロースにおける前記イオン性置換基量は0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、
前記繊維状セルロースの重合度は150以上515以下であり、
B型粘度計の3rpmにおける粘度が、40,000mPa・s以上800,000mPa・s以下であり、
繊維状セルロースを分散する溶媒が、水または水に加えてアセトン、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールよりなる群から選択される少なくとも1つの水混和性の有機溶媒を溶媒全体の10質量%以下含有する溶媒であり、
前記分散液中の前記繊維状セルロースの濃度が1.5質量%以上5質量%未満である、
塗料用である繊維状セルロース含有分散液。
【請求項2】
前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基由来の置換基である請求項1に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項3】
B型粘度計の0.3rpmにおける粘度が300,000mPa以上5,000,000mPa以下である、請求項1又は2に記載の繊維状セルセルロース含有分散液。
【請求項4】
B型粘度計の3rpmにおける粘度に対するB型粘度計の0.3rpmにおける粘度の比(0.3rpmにおける粘度/3rpmにおける粘度)が、5.00以上7.40以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項5】
レオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度が、30Pa・s以上400Pa・s以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項6】
レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度が、0.02Pa・s以上1.00Pa・s以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項7】
レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度に対する、レオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度の比(せん断速度1sec-1の条件における粘度/せん断速度1000sec-1の条件における粘度)が、200以上1,000以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項8】
前記繊維状セルロース含有分散液を、水とイソプロパノールからなる分散溶媒で希釈して、水とイソプロパノールの質量比が7:3の分散液であって、かつ23℃における粘度が2500mPa・sの分散液とし、前記希釈した分散液を以下の撹拌条件で撹拌した場合、以下の式で算出される粘度変化率が±50%以内となる、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液;
粘度変化率(%)=(撹拌後の粘度-撹拌前の粘度)/撹拌前の粘度×100
(撹拌条件)
23℃における粘度が2500mPa・sの分散液を、直径10cmの円筒状容器の5cmの高さまで入れ、長さ5cm、中心部の幅2cm、端部の幅1cmの楕円形の撹拌子を用いて、液面中心部が2cm凹む状態を維持して、23℃で24時間撹拌する。
【請求項9】
前記繊維状セルロース含有分散液を、繊維状セルロースの含有量が0.4質量%となるように水で希釈して分散液とした場合、前記希釈した分散液の23℃における粘度が20mPa・s以上4700mPa・s以下となる請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項10】
前記繊維状セルロース含有分散液を、繊維状セルロースの含有量が0.2質量%となるように水で希釈して水分散液とした場合、前記希釈した分散液のヘーズが20%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項11】
イオン性置換基を0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下有するセルロース繊維に、解繊処理を施して繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程と、
前記繊維状セルロースに低チキソ化処理を施す工程とを含む繊維状セルロース含有分散液の製造方法であって、
繊維状セルロースを分散する溶媒が、水または水に加えてアセトン、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールよりなる群から選択される少なくとも1つの水混和性の有機溶媒を溶媒全体の10質量%以下含有する溶媒であり、
前記低チキソ化処理を施す工程は、前記繊維状セルロースの重合度を150以上515以下にする工程である、繊維状セルロース含有分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース含有分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。
【0003】
微細繊維状セルロースは、例えば、塗料の添加剤として用いられる場合がある。この場合、微細繊維状セルロースは、塗料において粘性調整剤として機能し得る。例えば、特許文献1には、水、粘性調整剤(A)及び鱗片状光輝性顔料(B)を含有する光輝性顔料分散体が開示されている。また、特許文献2には、水、鱗片状アルミニウム顔料及びセルロース系粘性調整剤を含有する光輝性顔料分散体が開示されている。特許文献1及び2では、粘性調整剤としてセルロースナノファイバーを用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/012014号
【文献】国際公開第2017/175468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、セルロースナノファイバーは塗料において顔料等の分散性を高める目的で使用されている。しかし、このような塗料について、塗工前にシェアをかけることによる粘度変化(チキソトロピー性)に起因した塗工適性の低下については着目されておらず、塗工適性については、改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、塗料に添加した際に、優れた分散性安定性と、優れた塗工適性とを発揮し得る微細繊維状セルロース含有分散液を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、所定の微細繊維状セルロースを水に分散させて繊維状セルロース含有分散液としたときに、所定の粘度を有する分散液とすることにより、該微細繊維状セルロース含有分散液を塗料に添加することにより、優れた分散性安定性を維持しつつ、塗料の塗工適性を高め得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 繊維状セルロース含有分散液であって、前記繊維状セルロースが、繊維幅が1000nm以下であり、かつイオン性置換基を有する繊維状セルロースであり、
前記繊維状セルロースにおける前記イオン性置換基量は0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、前記繊維状セルロースの重合度は150以上515以下であり、B型粘度計の3rpmにおける粘度が、40,000mPa・s以上800,000mPa・s以下であり、前記分散液中の前記繊維状セルロースの濃度が1.5質量%以上5質量%未満である、繊維状セルロース含有分散液。
[2] 前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基由来の置換基である[1]に記載の繊維状セルロース含有分散液。
[3] B型粘度計の0.3rpmにおける粘度が300,000mPa以上5,000,000mPa以下である、[1]又は[2]に記載の繊維状セルセルロース含有分散液。
[4] B型粘度計の3rpmにおける粘度に対するB型粘度計の0.3rpmにおける粘度の比(0.3rpmにおける粘度/3rpmにおける粘度)が、5.00以上7.40以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[5] レオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度が、30Pa・s以上400Pa・s以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[6] レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度が、0.02Pa・s以上1.00Pa・s以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[7] レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度に対する、レオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度の比(せん断速度1sec-1の条件における粘度/せん断速度1000sec-1の条件における粘度)が、200以上1,000以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[8] 前記繊維状セルロース含有分散液を、水とイソプロパノールを含む分散溶媒で希釈して、水とイソプロパノールの質量比が7:3の分散液であって、かつ23℃における粘度が2500mPa・sの分散液とし、前記希釈した分散液を以下の撹拌条件で撹拌した場合、以下の式で算出される粘度変化率が±50%以内となる、[1]~[7]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液;
粘度変化率(%)=(撹拌後の粘度-撹拌前の粘度)/撹拌前の粘度×100
(撹拌条件)
23℃における粘度が2500mPa・sの分散液を、直径10cmの円筒状容器の5cmの高さまで入れ、長さ5cm、中心部の幅2cm、端部の幅1cmの楕円形の撹拌子を用いて、液面中心部が2cm凹む状態を維持して、23℃で24時間撹拌する。
[9] 前記繊維状セルロース含有分散液を、繊維状セルロースの含有量が0.4質量%となるように水で希釈して分散液とした場合、前記希釈した分散液の23℃における粘度が20mPa・s以上4700mPa・s以下となる[1]~[8]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[10] 前記繊維状セルロース含有分散液を、繊維状セルロースの含有量が0.2質量%となるように水で希釈して水分散液とした場合、前記希釈した分散液のヘーズが20%以下である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[11] 塗料用である[1]~[10]のいずれか1つに記載の繊維状セルロース含有分散液。
[12] イオン性置換基を0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下有するセルロース繊維に、解繊処理を施して繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程と、前記繊維状セルロースに低チキソ化処理を施す工程とを含む繊維状セルロース含有分散液の製造方法であって、前記低チキソ化処理を施す工程は、前記繊維状セルロースの重合度を150以上515以下にする工程である、繊維状セルロース含有分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗料に添加した際に、顔料等に対する優れた分散安定性と、優れた塗工適性とを発揮し得る微細繊維状セルロース含有分散液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(微細繊維状セルロース含有分散液)
本実施形態は、繊維幅が1000nm以下であり、かつイオン性置換基を有する繊維状セルロースを含有する分散液に関する。本実施形態における繊維状セルロースにおけるイオン性置換基量は0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、繊維状セルロースの重合度は150以上515以下である。なお、本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを、微細繊維状セルロースともいう。
ここで、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、分散液中の繊維状セルロース濃度が1.5質量%以上5質量%未満であり、B型粘度系の3rpmにおける粘度が、40,000mPa・s以上800,000mPa・s以下である。
【0013】
本実施形態の繊維状セルロース含有分散液を塗料に添加することにより、塗料に対し、顔料等の粒子に対する優れた分散安定性と、優れた塗工適性とを付与し得る。
一般に、繊維幅が1000nm以下である微細繊維状セルロース含有分散液を塗料等に添加することによって、塗料の粘度を向上させ、塗料中の粒子等の分散性を向上させることができる。一方で、チキソトロピー性が高く、微細繊維状セルロース含有分散液を添加した塗料に比較的高いシェアをかけた場合に、粘度が過度に低下するために、液ダレを生じたり、顔料等の添加剤の沈降が生じるという問題があった。
本実施形態の微細繊維状セルロースを分散した分散液は、チキソトロピー性が適度な範囲に制御されており、優れた塗工適性を発揮することができる。例えば、本実施形態の微細繊維状セルロースを含む塗料を保管したり、輸送した場合であっても塗料の粘度変化が適当な範囲に抑制されているため、塗工時の液ダレが抑制され、かつ顔料等の添加剤の沈降を抑制することができる。また、本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液を添加した塗料を長時間撹拌するなどして、塗料に比較的強いシェアをかけた場合であっても、塗料の粘度が低下することで生じる液ダレや、顔料等の添加剤の沈降を効果的に抑制することができる。
さらに、本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液は適度な粘度調整能を有し、前記微細繊維状セルロース含有分散液を塗料に添加することにより、塗料中の顔料等の粒子の分散安定性(以下、単に「分散安定性」ともいう)を向上させることができる。
すなわち、本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液は、塗料中の粒子の分散安定性を向上させつつ、チキソトロピー性を適度な範囲にすることで、塗料に対して優れた塗工適性と、分散性安定性とを付与することができる。
【0014】
本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、繊維状セルロースを、水を含む溶媒に分散させてなることが好ましく、水に分散させた微細繊維状セルロース含有水分散液であることがより好ましい。
なお、水に加えて、水混和性の有機溶媒である、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどを含有していてもよいが、その含有量は、溶媒全体の、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは3質量%以下であり、含有しないこと(0質量%)であることが特に好ましい。
【0015】
本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液は、塗料用として用いられることが好ましく、上述したように塗料の塗工適性を高めることができる。また、本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液を塗料の添加剤として用いた場合、塗工後の塗膜の平滑性や意匠性を向上させることもできる。具体的には、本実施形態においては、表面が平滑な塗膜を得ることができる。塗膜の平滑性は、塗膜の表面粗さ(Ra)によって評価でき、塗膜の表面粗さ(Ra)が0.30μm以下である場合に、表面が平滑であると評価できる。塗膜の表面粗さ(Ra)は、0.10μm以上が好ましく、0.12μm以上がより好ましい。塗膜の表面粗さ(Ra)は、0.28μm以下がより好ましく、0.20μm以下がさらに好ましい。なお、塗膜の表面粗さ(Ra)は、光干渉式非接触表面形状測定器(株式会社菱化システム製、非接触表面・層断面形状測定システムVertScan2.0、型式:R5500GML)を用い、×10対物レンズで硬化塗膜の測定範囲470.92μm×353.16μmの算術平均粗さ(Ra)を測定した際の値である。
【0016】
本実施形態の微細繊維状セルロース含有分散液を塗料の添加剤として用いた場合、塗膜中の凝集物の発生を抑制することもできる。このため、得られる塗膜の意匠性を向上させることができる。また、塗膜中の凝集物の発生が抑制されることにより、塗膜の平滑性や強度も高められる。
【0017】
繊維状セルロース含有分散液中における微細繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、1.5質量%以上であり、好ましくは1.8質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%を超え、よりさらに好ましくは2.1質量%以上である。また、微細繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、5.0質量%未満であり、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.5質量%以下、よりさらに好ましくは3.0質量%以下、よりさらに好ましくは3.0質量%未満、特に好ましくは2.9質量%以下である。
微細繊維状セルロースの含有量が上記範囲内であると、繊維状セルロース含有分散液を調製の際に、ハンドリング性に優れ、また、濃縮工程を行うことなく、所望の濃度の繊維状セルロース含有分散液が得られるので好ましい。さらに、分散液中での微細繊維状セルロースの分散性に優れ、透明性に優れる分散液が得られるので好ましい。
【0018】
繊維状セルロース含有分散液のB型粘度計の回転速度3rpmにおける粘度(ηβ’2)は、前記分散液の繊維分散性や粒子分散性の観点から、40,000mPa・s以上であり、好ましくは100,000mPa・s以上、より好ましくは150,000mPa・s以上、さらに好ましくは180,000mPa・s以上である。また、前記粘度(ηβ’2)は、脱泡性や塗膜凝集物の発生抑制の観点から、800,000mPa・s以下であり、好ましくは380,000mPa・s以下、より好ましくは350,000mPa・s以下、さらに好ましくは300,000mPa・s以下である。なお、繊維状セルロース含有分散液の前記粘度(ηβ’2)の測定条件の詳細は、実施例に記載の測定条件である。
【0019】
繊維状セルロース含有分散液のB型粘度計の回転速度0.3rpmにおける粘度(ηβ’1)は、前記分散液の繊維分散性や粒子分散性の観点から、好ましくは300,000mPa以上、より好ましくは700,000mPa・s以上、さらに好ましくは1,000,000mPa・s以上、よりさらに好ましくは1,200,000mPa・s以上、特に好ましくは1,280,000mPa・s以上である。また、前記粘度(ηβ’1)は、脱泡性や塗膜凝集物の発生抑制の観点から、好ましくは5,000,000mPa・s以下、より好ましくは3,500,000mPa・s以下、さらに好ましくは2,800,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは2,300,000mPa・s以下、特に好ましくは2,000,000mPa・s以下である。なお、繊維状セルロース含有分散液の前記粘度(ηβ’1)の測定条件の詳細は、実施例に記載の測定条件である。
【0020】
繊維状セルロース含有分散液の粘度の比率であって、B型粘度計の回転速度3rpmでの粘度に対するB型粘度計の回転速度0.3rpmでの粘度の比率(すなわち、ηβ’1/ηβ’2)は、適度なチキソトロピー性を得る観点から、好ましくは5.00以上、より好ましくは6.00以上、さらに好ましくは6.50以上、よりさらに好ましくは6.70以上である。また、前記粘度の比率は、塗工適性や塗膜凝集物の発生抑制の観点から、好ましくは7.40以下、より好ましくは7.30以下、さらに好ましくは7.00以下、よりさらに好ましくは6.90以下である。
【0021】
繊維状セルロース含有分散液の粘度であって、レオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度(ηα’1)は、前記分散液の繊維分散性や粒子分散性の観点から、好ましくは30Pa・s以上、より好ましくは50Pa・s以上、さらに好ましくは70Pa・s以上、よりさらに好ましくは80Pa・s以上である。また、前記粘度(ηα’1)は、脱泡性や塗膜凝集物の発生抑制の観点から、好ましくは400Pa・s以下、より好ましくは250Pa・s以下、さらに好ましくは180Pa・s以下、より好ましくは160Pa・s以下、130Pa・s以下がさらに一層好ましい。なお、繊維状セルロース含有分散液の前記粘度(ηα’1)の測定条件の詳細は、実施例に記載の測定条件である。
【0022】
繊維状セルロース含有分散液の粘度であって、レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度(ηα’2)は、前記分散液の繊維分散性や粒子分散性の観点から、好ましくは0.02Pa・s以上、より好ましくは0.06Pa・s以上、さらに好ましくは0.10Pa・s以上、よりさらに好ましくは0.15Pa・s以上、特に好ましくは0.17Pa・s以上である。また、前記粘度(ηα’2)は、脱泡性や塗膜凝集物の発生抑制観点から、好ましくは1.00Pa・s以下、より好ましくは0.65Pa・s以下、さらに好ましくは0.50Pa・s以下、よりさらに好ましくは0.30Pa・s以下、よりさらに好ましくは0.27Pa・s以下、特に好ましくは0.26Pa・s以下である。なお、繊維状セルロース含有分散液の前記粘度(ηα’2)の測定条件の詳細は、実施例に記載の測定条件である。
【0023】
繊維状セルロース含有分散液の粘度の比率であって、レオメーターでのせん断速度1000sec-1の条件における粘度(ηα’2)に対するレオメーターでのせん断速度1sec-1の条件における粘度(ηα’1)の比率(すなわち、ηα’1/ηα’2)は、適度なチキソトロピー性を得る観点から、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは400以上、よりさらに好ましくは450以上、特に好ましくは470以上である。また、前記粘度の比率は、塗工適性や塗膜凝集物の発生抑制の観点から、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは600以下、よりさらに好ましくは500以下である。
【0024】
本実施形態においては、繊維状セルロース含有分散液を水とイソプロパノールを含む分散溶媒で希釈して、水とイソプロパノールの質量比が7:3の分散液であって、かつ23℃における粘度が2500mPa・sの分散液とし、下記条件で撹拌を行った場合の粘度変化率は、好ましくは±50%以内である。なお、本明細書及び本実施形態において、「±50%以内」というのは、「-50%以上+50%以下」であることを意味する。
(撹拌条件)
23℃における粘度が2500mPa・sの分散液を、直径10cmの円筒状容器の5cmの高さまで入れ、長さ5cm、中心部の幅2cm、端部の幅1cmの楕円形の撹拌子を用いて、液面中心部が2cm凹む状態を維持して、23℃で24時間撹拌する。
通常、分散液にシェアをかけることで分散液の粘度変化率は低下する場合が多いため、上記式で算出される粘度変化率はマイナスの値となることが多い。すなわち、上記分散液の粘度変化率は、-50%以上0%以下であることがより好ましい。
上記式で算出される上記分散液の粘度変化率は、低粘度変化率と微細繊維状セルロース添加による粘度調整能とを両立させ、透明性と、塗料に含有させたときの脱泡性及び粒子の分散性とに優れる繊維状セルロース含有分散液とする観点から、さらに好ましくは-40%以上、よりさらに好ましくは-35%以上、特に好ましくは-30%以上であり、そして、さらに好ましくは-5%以下、よりさらに好ましくは-10%以下、よりさらに好ましくは-15%以下、特に好ましくは-18%以下である。
なお、上記式で算出される上記分散液の粘度変化率は、例えば、微細繊維状セルロースに対する処理の種類や条件、微細繊維状セルロースの重合度とイオン性置換基量などをそれぞれ適切な範囲にコントロールすることで達成される。
【0025】
本明細書において、分散液の粘度変化率の算出に用いられる撹拌前後の粘度は、B型粘度計を用いて、23℃で、回転速度6rpmとし、測定開始から1分後の粘度値である。B型粘度計としては、例えば、BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVTを用いることができる。撹拌前の粘度は、粘度が約2500mPa・sとなるように調整した分散液の粘度であるため、分散液の粘度の実測値は2500mPa・sとなることが好ましいが、±15%程度の誤差が生じていてもよい。すなわち、粘度変化率の算出式において、撹拌前の粘度とは、粘度が約2500mPa・sとなるように調整した分散液の実測粘度であり、B型粘度計を用いて、23℃で、回転速度6rpmとし、測定開始から1分後の実測粘度値である。但し、撹拌前の粘度を測定する際には、直径10cmの円筒状容器に微細繊維状セルロース分散液を5cmの高さまで入れ、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌し、撹拌終了時から1分後に測定を行う。また、撹拌前の分散液の粘度を約2500mPa・sに調整する際には、用いる微細繊維状セルロースの添加量を適宜調整する。例えば、分散液の全質量に対する微細繊維状セルロースの含有量を0.2~3.0質量%に調整することで、撹拌前の分散液の粘度を約2500mPa・sに調整することができる。
【0026】
粘度変化率の算出式において、撹拌後の粘度を測定する際には、まず、撹拌前の粘度測定に供された分散液を撹拌子によってさらに撹拌する。この際は、撹拌前分散液を直径10cmの円筒状容器に微細繊維状セルロース分散液を5cmの高さまで入れ、長さ5cm、中心部の幅2cm、端部の幅1cmの楕円形の撹拌子を用いて、液面中心部が2cm凹む状態を維持して24時間撹拌する。なお、撹拌時の液温は23℃を保つようにする。そして、撹拌終了時から1分後に、B型粘度計を用いて粘度を測定し、23℃で、回転速度6rpmとし、測定開始から1分後の粘度値を撹拌後の粘度とする。
【0027】
撹拌前後の粘度を測定するための分散液を作製する際には、水とイソプロパノールを含む分散溶媒で繊維状セルロースを希釈する。この際、繊維状セルロース含有分散液は、水分散液であることが好ましく、このような場合、繊維状セルロース含有分散液に必要に応じて水を添加した上で、イソプロパノールを添加することが好ましい。なお、繊維状セルロース含有分散液液に十分量の水が存在している場合、イソプロパノールのみを添加してもよい。このように、繊維状セルロース含有分散液に含まれる水、及び必要に応じて添加する水の合計質量と、添加されるイソプロパノールの質量の比が7:3となるように分散液が調製される。
【0028】
繊維状セルロース含有分散液を、微細繊維状セルロース濃度が0.4質量%となるように水で希釈して分散液とした場合、該希釈した分散液の23℃における粘度は、塗料に添加した際に粘度調整剤として機能し、粒子の分散性安定性を向上させる観点から、好ましくは20mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s以上、さらに好ましくは300mPa・s以上、よりさらに好ましくは350mPa・s以上、よりさらに好ましくは400mPa・s以上、よりさらに好ましくは600mPa・s以上、よりさらに好ましくは1000mPa・s以上、特に好ましくは1500mPa・s以上、最も好ましくは1900mPa・s以上である。また、同様の観点から、分散液の23℃における粘度は、好ましくは4700mPa・s以下、より好ましくは4000mPa・s以下、さらに好ましくは3500mPa・s以下、よりさらに好ましくは3000mPa・s以下、よりさらに好ましくは2500mPa・s以下である。微細繊維状セルロース濃度が0.4質量%の希釈した分散液の粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定することができる。測定条件は23℃とし、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度を測定する。
【0029】
繊維状セルロース含有分散液を、微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%になるように水で希釈して、水分散液とした場合、該希釈した分散液のヘーズは、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは9.5%以下である。希釈した分散液のヘーズが上記範囲であることは、繊維状セルロース含有分散液の透明度が高く、微細繊維状セルロースの微細化が良好であることを意味する。このような繊維状セルロース含有分散液を塗料に添加した場合、塗料は優れた塗工適性を発揮することができる。ここで、繊維状セルロース含有分散液(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)に希釈した繊維状セルロース分散液を入れ、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0030】
<微細繊維状セルロース>
以下、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液が含有する、繊維状セルロースについて述べる。繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下であり、かつイオン性置換基を有する繊維状セルロースであり、前記イオン性置換基量は0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、繊維状セルロースの重合度は150以上515以下である。
本実施形態において、繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下である微細繊維状セルロースである。繊維状セルロースの繊維幅は100nm以下であることがより好ましく、8nm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
繊維状セルロースの繊維幅は、例えば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがよりさらに好ましく、2nm以上8nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、例えば単繊維状のセルロースである。
【0032】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、例えば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0033】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0034】
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの繊維長は、例えば、0.15μm以上、0.2μm以上であることも、それぞれ好ましい。また、繊維状セルロースの繊維長は、例えば、100μm以下、10μm以下、1μm以下であることも、それぞれ好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、例えばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0035】
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、例えば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0036】
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、例えば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましく、50以上500以下であることがさらに好ましく、50以上250以下であることがよりさらに好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、例えば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0037】
本実施形態における繊維状セルロースは、例えば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0038】
本実施形態における繊維状セルロースは、例えばイオン性置換基及び非イオン性置換基のうちの少なくとも1種を有する。分散媒中における繊維の分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高める観点からは、繊維状セルロースがイオン性置換基を有することがより好ましい。イオン性置換基としては、例えばアニオン性基及びカチオン性基のいずれか一方又は双方を含むことができる。また、非イオン性置換基としては、例えばアルキル基及びアシル基などを含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。
イオン性置換基としてのアニオン性基は、エステル基又はエステル基に由来する置換基(単にエステル基ということもある)、カルボキシ基又はカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)などが挙げられる。エステル基としては、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)などが挙げられる。
【0039】
イオン性置換基としてのアニオン性基としては、例えばリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基又はカルボキシ基に由来する置換基、及び硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基及びカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロースは、塗料に添加した際に、より優れた塗工適性を発揮することができる。また、イオン性置換基としてのアニオン性基としては、分散液、並びに塗料及び塗膜の透明性の観点からは、エステル基であることが好ましい。
【0040】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、例えばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、例えば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0041】
【化1】
【0042】
式(1)中、a、b及びnは自然数である(但し、a=b×mである)。α,α,・・・,α及びα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各α及びα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である。また、nは1であることが好ましい。
【0043】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0044】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細繊維状セルロースの収率を高めることもできる。
【0045】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよく、この場合、有機アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
【0046】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量(イオン性置換基量)は、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であればよく、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.50mmol/g以下であればよく、1.35mmol/g以下であることが好ましく、1.20mmol/g以下であることがより好ましく、1.10mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。また、イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を適切な範囲にすることができ、これにより塗工適性をより効果的に高めることができる。
【0047】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0048】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(又はリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0049】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0050】
図2は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
【0051】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
【0052】
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0053】
また、微細繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基の導入量は、試料の湿式灰化とICP発光分析を用いて測定する。具体的には、繊維状セルロース含有スラリーを絶乾させた後に秤量し、過塩素酸を加え、炭化させ、さらに濃硝酸を加えて炭素を二酸化炭素に酸化し、無機物のみからなる試料液を得る。その後、この試料液を適当な倍率で希釈し、ICP発光分析にて硫酸イオン濃度を測定する。次いで、試料液中に含まれていた硫黄原子の量を秤量した繊維状セルロースの絶乾質量で除して、硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とする。
【0054】
微細繊維状セルロースの重合度は、150以上であればよく、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、320以上であることがさらに好ましく、340以上であることがよりさらに好ましく、360以上であることがよりさらに好ましく、380以上であることがよりさらに好ましく、400以上であることがよりさらに好ましく、460以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロースの重合度は、515以下であればよく、500以下であることが好ましく、490以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロースの重合度を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を低下(低チキソ化)させ、適切な範囲にすることができ、これにより塗工適性をより効果的に高めることができる。また、微細繊維状セルロースの重合度を上記範囲内とすることにより、塗膜の平滑性や意匠性、強度をより効果的に高めることができる。さらに、重合度を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロース含有分散液の透明性が向上するので好ましい。
【0055】
微細繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定されたパルプ粘度から計算した値である。具体的には、測定対象の微細繊維状セルロースを、銅エチレンジアミン水溶液に分散させて測定した粘度(η1とする)、及び分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定する。
ηsp=(η1/η0)-1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度(g/mL)を示す。
さらに、下記式から重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0056】
本実施形態においては、好ましくは、微細繊維状セルロースの重合度を300以上515以下とし、かつ微細繊維状セルロースにおけるイオン性置換基量を0.40mmol/g以上1.20mmol/g以下、より好ましくは微細繊維状セルロースの重合度を460以上490以下とし、かつ微細繊維状セルロースにおけるイオン性置換基量を0.70mmol/g以上0.95mmol/g以下とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を低下させつつ、粒子分散性を向上させることができ、これにより塗料の塗工適性をより効果的に高めることができる。微細繊維状セルロースの重合度とイオン性置換基量を適切な範囲とすることが、微細繊維状セルロースを分散させた分散液が低チキソトロピー性を示しつつ、粒子分散性を向上させることに寄与し、これにより塗料の塗工適性が高まるものと考えられる。
【0057】
(微細繊維状セルロース含有分散液の製造方法)
〔微細繊維状セルロースの製造方法〕
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、例えば木材パルプ、非木材パルプ、及び脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)及び酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)及びケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えばコットンリンター及びコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら及びバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、例えば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、例えば木材パルプ及び脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、例えば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0058】
セルロースを含む繊維原料としては、例えばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0059】
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程を含む。イオン性置換基導入工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
【0060】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0061】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態又はスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態又は湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、例えば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物A及び化合物Bは、それぞれ粉末状又は溶媒に溶解させた溶液状又は融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0062】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸又は脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩又は亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、又は亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0063】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、例えば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0064】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、例えば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、及び1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0065】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、例えばアミド類又はアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0067】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0068】
本実施形態に係る加熱処理においては、例えば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0069】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、例えばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0070】
加熱処理の時間は、例えば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0071】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
【0072】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であればよく、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol以上であることが特に好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり1.50mmol/g以下であればよく、1.35mmol/g以下であることが好ましく、1.20mmol/g以下であることがより好ましく、1.10mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。また、リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を低下させ、適切な範囲にすることができ、粒子の分散安定性を向上させることができ、これにより塗工適性をより効果的に高めることができる。
【0073】
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、又はカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0074】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0075】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0076】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、例えばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、例えば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0077】
繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、例えばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であればよく、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、1.50mmol/g以下であればよく、1.35mmol/g以下であることが好ましく、1.20mmol/g以下であることがより好ましく、1.10mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることがより好ましい。カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。また、カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を低下させ、適切な範囲にすることができ、これにより塗工適性をより効果的に高めることができる。
【0078】
<硫黄オキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、硫黄オキソ酸基導入工程を含んでもよい。硫黄オキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、硫黄オキソ酸基を有するセルロース繊維(硫黄オキソ酸基導入繊維)を得ることができる。
【0079】
硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、硫黄オキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩又は亜硫酸塩としては、硫酸塩又は亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0080】
硫黄オキソ酸基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫黄オキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0081】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0082】
セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、0.10mmol/g以上であればよく、0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.70mmol/g以上であることがよりさらく好ましい。また、セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、1.50mmol/g以下であればよく、1.35mmol/g以下であることが好ましく、1.20mmol/g以下であることがより好ましく、1.10mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり1.00mmol/g以下であることも好ましく、0.95mmol/g以下であることもより好ましい。硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの塗料への分散安定性を高めることが可能となる。また、硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースを塗料に添加した際の塗料のチキソトロピー性を低下させ、適切な範囲にすることができ、これにより塗工適性をより効果的に高めることができる。
【0083】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0084】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0085】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水又は有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、又はアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0086】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、例えばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0087】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0088】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、イオン性置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0089】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、例えば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、例えば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、例えば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸又は硫酸を用いることが特に好ましい。
【0090】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0091】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、例えば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、又はビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0092】
解繊処理工程においては、例えばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、及び極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種又は2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0093】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
なお、解繊処理時及び後述する低チキソ化処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液の濃度であることが好ましい。また、セルロース含有分散液の濃度は、解繊処理及び低チキソ化処理時のセルロースの固形分濃度と同じであることが、濃縮等の工程が不要となる点からも好ましい。
【0094】
<低チキソ化処理>
本実施形態の繊維状セルロース含有分散液の製造方法は、上述したような工程に加えて、さらに低チキソ化処理を施す工程を含むことが好ましい。具体的には、上述したように、適宜処理を施したセルロース繊維に解繊処理を施して繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程と、繊維状セルロースに低チキソ化処理を施す工程とを含むことが好ましい。すなわち、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液の製造方法は、例えば、セルロース繊維に解繊処理を施した後に、低チキソ化処理を施す工程を含むことが好ましい。なお、解繊処理工程の前には、上述したように、セルロース繊維にイオン性置換基を導入する工程をさらに含むことが好ましく、イオン性置換基を導入する工程では、繊維状セルロースにおけるイオン性置換基量が0.10mmol/g以上1.50mmol/g以下となるようにイオン性置換基を導入する。なお、解繊処理工程の前には、イオン性置換基を導入する工程の他に、洗浄工程やアルカリ処理工程をさらに含むことも好ましい。
なお、低チキソ化処理によっても、微細繊維状セルロースのイオン性置換基量は殆んど変化しないため、低チキソ化処理前の微細繊維状セルロースのイオン性置換基量は、低チキソ化処理後の微細繊維状セルロースのイオン性置換基量として近似することができる。
【0095】
本明細書において、低チキソ化処理を施す工程は、微細繊維状セルロースを含む分散液のチキソトロピー性を低下させて、適切な範囲にさせるための処理を施す工程である。具体的には、低チキソ化処理を施す工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの重合度を150以上515以下にする工程である。このため、低チキソ化処理は、低重合度化処理とも呼ぶことができる。なお、低チキソ化処理を施す工程で得られる微細繊維状セルロースの重合度は、150以上であればよく、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、320以上であることがさらに好ましく、340以上であることがよりさらに好ましく、360以上であることがよりさらに好ましく、380以上であることがよりさらに好ましく、400以上であることがよりさらに好ましく、460以上であることが特に好ましい。また、低チキソ化処理を施す工程で得られる微細繊維状セルロースの重合度は、515以下であればよく、500以下であることが好ましく、490以下であることがより好ましい。
【0096】
低チキソ化処理を施す工程としては、例えば、オゾン処理工程、酵素処理工程、次亜塩素酸処理工程、亜臨界水処理工程等を挙げることができる。低チキソ化処理を施す工程は、オゾン処理工程、酵素処理工程、次亜塩素酸処理工程及び亜臨界水処理工程から選択される少なくとも1種であることが好ましく、オゾン処理工程であることが特に好ましい。なお、オゾン処理工程、酵素処理工程、次亜塩素酸処理工程、及び亜臨界水処理工程に共通することは、低重合度化であり、その低重合度化によって低チキソ化処理がなされ、結果として本実施形態における繊維状セルロース含有分散液が得られる。
【0097】
オゾン処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)にオゾンを添加する。オゾンを添加する際には、例えば、オゾン/酸素混合気体として添加することが好ましい。この際、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)中に含まれる微細繊維状セルロース1gに対するオゾン添加率は、1.0×10-4g以上とすることが好ましく、1.0×10-3g以上とすることがより好ましい。なお、微細繊維状セルロース1gに対するオゾン添加率は、1.0×10g以下とすることが好ましく、1.0×10g以下とすることがより好ましく、1.0×10-1g以下とすることがさらに好ましく、3.0×10-2g以下とすることがよりさらに好ましく、1.5×10-2g以下とすることがよりさらに好ましく、1.0×10-2g以下とすることがよりさらに好ましく、6.0×10-3g以下とすることが特に好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)にオゾンを添加した後には、10℃以上50℃以下の条件下で10秒以上10分以下撹拌を行い、その後、1分以上100分以下静置することが好ましい。
【0098】
酵素処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加する。この際に用いる酵素は、セルラーゼ系酵素であることが好ましい。セルラーゼ系酵素は、セルロースの加水分解反応機能を有する触媒ドメインの高次構造に基づく糖質加水分解酵素ファミリーに分類される。セルラーゼ系酵素はセルロース分解特性によってエンド型グルカナーゼ(endo-glucanase)とセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase)に大別される。エンド型グルカナーゼはセルロースの非晶部分や可溶性セロオリゴ糖、又はカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体に対する加水分解性が高く、それらの分子鎖を内側からランダムに切断し、重合度を低下させる。これに対して、セロビオヒドロラーゼはセルロースの結晶部分を分解し、セロビオースを与える。また、セロビオヒドロラーゼはセルロース分子の末端から加水分解し、エキソ型あるいはプロセッシブ酵素とも呼ばれる。酵素処理工程において使用する酵素は特に限定されるものではないが、エンド型グルカナーゼを使用することが好ましい。
【0099】
酵素処理工程では、酵素の添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-7g以上であることが好ましく、1.0×10-6g以上であることがより好ましく、5.0×10-6g以上であることがさらに好ましく、1.0×10-5g以上であることがよりさらに好ましい。また、酵素の添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-2g以下であることが好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加した後には、30℃以上70℃以下の条件下で1分以上10時間以下撹拌を行い、その後、90℃以上の条件下に置くなどして酵素を失活させることが好ましい。
【0100】
次亜塩素酸処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に次亜塩素酸ナトリウムを添加する。次亜塩素酸ナトリウムの添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-4g以上であることが好ましく、1.0×10-3g以上であることがより好ましく、1.0×10-2g以上であることがさらに好ましい。また、次亜塩素酸ナトリウム添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10g以下であることが好ましく、1.0×10g以下であることがより好ましく、3×10g以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に次亜塩素酸ナトリウムを添加した後には、10℃以上50℃以下の条件下で1分以上10時間以下撹拌を行うことが好ましい。
【0101】
亜臨界水処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に高温高圧処理を施し、亜臨界状態とする。微細繊維状セルロースは亜臨界状態において加水分解される。具体的には、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)を反応容器に入れた後、150℃以上500℃以下、好ましくは150℃以上350℃以下となるまで昇温し、反応容器内の圧力を10MPa以上80MPa以下、好ましくは10MPa以上20MPa以下に加圧する。この際の加熱加圧時間は0.1秒以上100秒以下であることが好ましく、0.3秒以上50秒以下であることがより好ましい。
【0102】
上述したような低チキソ化処理の後には、さらに再度の解繊処理工程を設けてもよい。再度の解繊処理工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る際の上述した解繊処理工程と同様の工程であってもよい。
【0103】
繊維状セルロース含有分散液は、水を含む溶媒と、微細繊維状セルロースに加えて他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、防腐剤(例えば、フェノキシエタノール)等を挙げることができる。
【0104】
(用途)
本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、増粘剤として各種用途に用いられることが好ましい。例えば、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、食品、化粧品、セメント、塗料(自動車、船舶、航空機等の乗り物塗装用、建材用、日用品用など)、インク、医薬品などへの添加物として用いることができる。また、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、樹脂系材料やゴム系材料に添加したりすることで、日用品への応用も可能である。中でも、本実施形態の繊維状セルロース含有分散液は、塗料用繊維状セルロース含有分散液であることが特に好ましい。
【実施例
【0105】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0106】
<製造例1>
〔リン酸化微細繊維状セルロース分散液の製造〕
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。
【0107】
この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを140℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0108】
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0109】
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0110】
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
【0111】
また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0112】
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0113】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、0.80mmol/gであった。
【0114】
<製造例2>
リン酸化時の薬液含浸パルプの乾燥温度を140℃、時間を230秒とした以外は製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.00mmol/gであった。
【0115】
<製造例3>
リン酸化時の薬液含浸パルプの乾燥温度を165℃、時間を170秒とした以外は製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.20mmol/gであった。
【0116】
<製造例4>
リン酸化時の薬液含浸パルプの乾燥温度を165℃とした以外は製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gであった。
【0117】
<製造例5>
中和処理前の洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った以外は製造例4と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、2.00mmol/gであった。
【0118】
<製造例6>
〔亜リン酸化微細繊維状セルロース分散液の製造〕
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。
【0119】
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で150秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、亜リン酸化パルプを得た。
【0120】
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0121】
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された亜リン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0122】
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0123】
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0124】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は、0.74mmol/gであった。
【0125】
<製造例7>
亜リン酸化時の薬液含浸パルプの加熱時間を220秒間とした以外は製造例6と同様にして、微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は、1.41mmol/gであった。
【0126】
<製造例8>
亜リン酸化時の薬液含浸パルプの加熱時間を400秒間とした以外は製造例6と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は、1.86mmol/gであった。
【0127】
<製造例9>
亜リン酸(ホスホン酸)の代わりにアミド硫酸(スルファミン酸)38質量部を用い、加熱時間を13分間に延長した以外は、製造例6と同様に操作を行い、硫酸化パルプを得た。
【0128】
これにより得られた硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸基に基づく吸収が観察され、パルプに硫酸基が付加されていることが確認された。
【0129】
また、得られた硫酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。得られた硫酸化パルプにイオン交換水を添加後、撹拌し、2質量%のスラリーにした。このスラリーを湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する〔硫黄オキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される硫酸基(スルホン酸基)量は0.88mmol/gであった。
【0130】
<製造例10>
〔TEMPO酸化微細繊維状セルロース分散液の製造〕
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して1.3mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0131】
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0132】
この脱水シートに対して、残存するアルデヒド基の追酸化処理を次のようにして行った。乾燥質量100質量部相当の上記脱水シートを、0.1mol/L酢酸緩衝液(pH4.8)10000質量部に分散させた。次いで80%亜塩素酸ナトリウム113質量部を加え、直ちに密閉した後、マグネチックスターラーを用いて500rpmで撹拌しながら室温で48時間反応させ、パルプスラリーを得た。
【0133】
次いで、得られた追酸化済みTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、追酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0134】
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0135】
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0136】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、0.70mmol/gであった。
【0137】
<製造例11>
リン酸化時の薬液含浸パルプの加熱時間を180秒間とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、0.60mmol/gであった。
【0138】
<製造例12>
リン酸化時の薬液含浸パルプの加熱時間を220秒間とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、0.95mmol/gであった。
【0139】
<製造例13>
硫酸化時の薬液含浸パルプの加熱時間を15分間とした以外は製造例9と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、後述する〔硫黄オキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される硫酸基(スルホン酸基)は、0.94mmol/gであった。
【0140】
<製造例14>
解繊処理時の固形分濃度を2.4質量%とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0141】
<製造例15>
解繊処理時の固形分濃度を2.9質量%とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0142】
<製造例16>
解繊処理時の固形分濃度を4.0質量%、湿式微粒化装置での処理回数を1回とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0143】
<製造例17>
解繊処理時の固形分濃度を4.9質量%、湿式微粒化装置での処理回数を1回とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0144】
<製造例18>
解繊処理時の固形分濃度を12.0質量%、湿式微粒化装置での処理回数を1回とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0145】
<実施例1>
(オゾン処理による低チキソ化)
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、オゾン濃度200g/mのオゾン/酸素混合気体を2L加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、60分間静置した。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して2.0×10-2gであった。次いで、容器を開放して5時間撹拌し、分散液中に残存するオゾンを揮散させた。その後、高圧ホモジナイザーで200MPaの圧力にて3回処理し微細繊維状セルロース分散液を得た。このようにして、微細繊維状セルロースの低チキソ化を行い、得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。なお、低チキソ化処理によって、微細繊維状セルロースの繊維幅及びイオン性置換基量に変化はなかった。以下の実施例においても同様に、微細繊維状セルロースのイオン性置換基量に変化はなかった。
【0146】
<実施例2>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、オゾン濃度200g/mのオゾン/酸素混合気体を2L加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、60分間静置した。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して2.0×10-2gであった。次いで、容器を開放して5時間撹拌し、分散液中に残存するオゾンを揮散させた。このようにして、微細繊維状セルロースの低チキソ化を行い、得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0147】
<実施例3>
(オゾン処理による低チキソ化)
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、オゾン濃度200g/mのオゾン/酸素混合気体を1L加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、30分間静置した。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-2gであった。次いで、容器を開放して5時間撹拌し、分散液中に残存するオゾンを揮散させた。このようにして、微細繊維状セルロースの低チキソ化を行い、得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0148】
<実施例4>
オゾン濃度40g/mのオゾン/酸素混合気体を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して2.0×10-3gであった。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0149】
<実施例5>
(酵素処理による低チキソ化)
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、酵素含有液(AB Enzymes社製、ECOPULP R、酵素含有量は約5質量%)を1000倍希釈したものを20g添加し、温度50℃で1時間撹拌した。この時の酵素添加率は微細繊維状セルロース1gに対して約5.0×10-5gであった。次いで、温度100℃で1時間撹拌し、酵素を失活させた。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0150】
<実施例6>
微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、酵素含有液(AB Enzymes社製、ECOPULP R、酵素含有量は約5質量%)を1000倍希釈して4g添加したこと以外は実施例5と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。この時の酵素添加率は微細繊維状セルロース1gに対して約1.0×10-5gであった。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0151】
<実施例7>
(次亜塩素酸ナトリウム処理による低チキソ化)
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度12質量%)を170g添加し、室温で1時間撹拌した。この時の次亜塩素酸ナトリウム添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.02gであった。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0152】
<実施例8>
微細繊維状セルロース分散液1000g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度12質量%)を1.70g添加したこと以外は実施例7と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。この時の次亜塩素酸ナトリウム添加率は微細繊維状セルロース1質量部に対して1.02×10-2質量部である。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0153】
<実施例9>
(亜臨界水処理による低チキソ化)
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液を反応器内に入れ、200℃に昇温し、10秒間加熱した。このときの反応器内の圧力は20MPaであった。加熱終了後、反応器を水冷した後、反応器内の低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を回収した。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0154】
<実施例10>
加熱時間を1秒間としたこと以外は実施例9と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0155】
<実施例11>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0156】
<実施例12>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例2と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0157】
<実施例13>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0158】
<実施例14>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0159】
<実施例15>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0160】
<実施例16>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0161】
<実施例17>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例7と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0162】
<実施例18>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例8と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0163】
<実施例19>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例9と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0164】
<実施例20>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0165】
<実施例21>
製造例2で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0166】
<実施例22>
製造例3で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0167】
<実施例23>
製造例4で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0168】
<実施例24>
製造例7で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0169】
<実施例25>
製造例9で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0170】
<実施例26>
製造例10で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0171】
<実施例27>
製造例11で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0172】
<実施例28>
製造例11で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0173】
<実施例29>
製造例11で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例8と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0174】
<実施例30>
製造例11で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0175】
<実施例31>
製造例12で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0176】
<実施例32>
製造例12で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0177】
<実施例33>
製造例12で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例8と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0178】
<実施例34>
製造例12で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0179】
<実施例35>
製造例14で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0180】
<実施例36>
製造例14で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0181】
<実施例37>
製造例14で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例8と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0182】
<実施例38>
製造例14で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0183】
<実施例39>
製造例15で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0184】
<実施例40>
製造例15で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0185】
<実施例41>
製造例15で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例8と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0186】
<実施例42>
製造例15で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例10と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0187】
<実施例43>
製造例16で得られた微細繊維状セルロース分散液を用い、オゾン濃度40g/mのオゾン/酸素混合気体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して2.0×10-3gであった。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0188】
<実施例44>
製造例17で得られた微細繊維状セルロース分散液を用い、オゾン濃度40g/mのオゾン/酸素混合気体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して2.0×10-3gであった。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0189】
<実施例45>
製造例13で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0190】
<比較例1>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液500g(固形分濃度2質量%、固形分20g)に対して、オゾン濃度200g/mのオゾン/酸素混合気体を2L加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、120分間静置した。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して4.0×10-2gであった。次いで、容器を開放して5時間撹拌し、分散液中に残存するオゾンを揮散させた。その後、高圧ホモジナイザーで200MPaの圧力にて3回処理し微細繊維状セルロース分散液を得た。このようにして、微細繊維状セルロースの低チキソ化を行い、得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0191】
<比較例2>
製造例5において得られたリン酸化パルプ100g(固形分濃度20質量%、固形分20g)に対して、オゾン濃度200g/mのオゾン/酸素混合気体を1L加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、30分間静置した。この時のオゾン添加率は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-2gであった。その後、リン酸化パルプを洗浄し、残存するオゾンを除去した。次いで、得られたパルプを用いて固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた微細繊維状セルロース分散液をそのまま用いて粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0192】
<比較例3>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は比較例1と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0193】
<比較例4>
製造例8で得られたリン酸化パルプを用いたこと以外は比較例2と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0194】
<比較例5>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液をそのまま用いて粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0195】
<比較例6>
製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液をそのまま用いて粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0196】
<比較例7>
製造例9で得られた微細繊維状セルロース分散液をそのまま用いて粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0197】
<比較例8>
製造例10で得られた微細繊維状セルロース分散液をそのまま用いて粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0198】
<比較例9>
製造例5で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0199】
<比較例10>
製造例5で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例6と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液について、粘度、重合度、粘度変化率、繊維幅、繊維長、及びヘーズを後述した方法により測定した。
【0200】
<比較例11>
製造例18で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、低チキソ化微細繊維状セルロース分散液を得た。得られた低チキソ化微細繊維状セルロース分散液には明らかに粗大繊維が残っており、ヘーズ(0.2%濃度ヘーズ値)や分散性が悪かった。そのため、前記分散液の粘度、粘度変化率、塗工適性、並びに塗膜の表面粗さ、及び塗膜の凝集物について測定・評価を行っていない。
【0201】
<測定>
〔リンオキソ酸基量の測定〕
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
【0202】
〔硫黄オキソ酸基量の測定〕
硫酸基量は、試料の湿式灰化とICP発光分析を用いて測定した。具体的には、製造例7で得た繊維状セルロース含有スラリーを絶乾させた後に秤量し、過塩素酸を加え、炭化させ、さらに濃硝酸を加えて炭素を二酸化炭素に酸化し、無機物のみからなる試料液を得た。この試料液を適当な倍率で希釈し、ICP発光分析にて硫酸イオン濃度を測定した。試料液中に含まれていた硫黄原子の量を秤量した繊維状セルロースの質量で除して、硫酸基量とした。
【0203】
〔カルボキシ基量の測定〕
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察すると、図2に示されるような滴定曲線が得られる。図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
【0204】
[繊維長及び繊維幅の測定]
低チキソ化処理後の微細繊維状セルロースの繊維長は、微細繊維状セルロース分散液を0.001質量%に希釈したサンプルをAFMで観察し、画像解析によって求めた。実施例1~45の繊維長は最も短くて250nm、最も長くて610nmであり、比較例1~11の繊維長は最も短くて230nm、最も長くて760nmであった。また、低チキソ化処理後の微細繊維状セルロースの繊維幅は、電子顕微鏡を用いて求めた。実施例1~45及び比較例1~10の繊維幅は、3~5nmであった。
【0205】
〔微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0206】
〔微細繊維状セルロース含有分散液の原液粘度(ηβ’1、ηβ’2)の測定1〕
微細繊維状セルロース含有分散液を希釈せずに、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度0.3rpm及び3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
回転速度0.3rpmにおける粘度(ηβ’1)と、回転速度3rpmにおける粘度(ηβ’2)との比(0.3rpm/3rpm、ηβ’1/ηβ’2)を、チキソトロピー性の指標の1つとして算出し、表に示した。
【0207】
〔微細繊維状セルロース分散液の原液粘度(ηα’1、ηα’2)の測定2〕
微細繊維状セルロース含有分散液を希釈せずに、レオメーター(HAAKE社製、RheoStress1)を用いて測定した。測定条件は下記のとおりとし、せん断速度1sec-1における粘度値(ηα’1)と、1000sec-1における粘度値(ηα’2)を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
測定治具:コーンプレート(直径35mm、角度2°)
せん断速度:0.001~1000sec-1
データ点数:31点
測定時間:5分
また、せん断速度1sec-1における粘度値(ηα’1)と、せん断速度1000sec-1における粘度(ηα’2)との比(1sec-1/1000sec-1、ηα’1/ηα’2)を、チキソトロピー性の指標の1つとして算出し、表に示した。
【0208】
〔微細繊維状セルロースの比粘度及び重合度の測定〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロースの比粘度及び重合度は、Tappi T230に従い測定した。測定対象のセルロース繊維を分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、及び分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηsp=(η1/η0)-1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度(g/mL)を示す。
さらに、下記式から微細繊維状セルロースの重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0209】
〔微細繊維状セルロース分散液の粘度変化率の測定〕
微細繊維状セルロース分散液の粘度変化率は、次のように測定した。
(撹拌前粘度の測定)
まず、後述する方法で測定した場合の粘度が約2500mPa・sとなり、かつ分散液中に含まれる水とイソプロパノールの質量比が7:3となるように、実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液に水と、イソプロパノールを順に添加した。このようにして得た分散液を直径10cmの円筒状容器に5cmの高さまで入れ、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。撹拌終了時から1分後に、得られた微細繊維状セルロース分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度6rpmとし、測定開始から1分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定時の分散液の液温は23℃であった。
(撹拌子による撹拌)
次いで、得られた粘度約2500mPa・sの微細繊維状セルロース分散液を直径10cmの円筒状容器に微細繊維状セルロース分散液を5cmの高さまで入れ、長さ5cm、中心部の幅2cm、端部の幅1cmの楕円形の撹拌子を用いて、液面中心部が2cm凹む状態を維持して24時間撹拌した。撹拌中の分散液の液温は23℃であった。
(撹拌後粘度の測定)
撹拌子による撹拌終了時から1分後に、微細繊維状セルロース分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて直ちに測定した。測定条件は、回転速度6rpmとし、測定開始から1分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定時の分散液の液温は23℃であった。
(粘度変化率の計算)
以下の式で撹拌子による撹拌前後の粘度変化率を算出した。
粘度変化率(%)=(撹拌後粘度-撹拌前粘度)/撹拌前粘度×100
【0210】
〔微細繊維状セルロース分散液のヘーズの測定〕
微細繊維状セルロース分散液のヘーズは、次のように測定した。実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、自転公転型スーパーミキサー(株式会社シンキー製、ARE-250)にて脱泡処理を行った。次いで、これにより得られた分散液のヘーズをヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7136:2000に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。
【0211】
〔微細繊維状セルロース分散液の外観評価〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液について、自動公転型スーパーミキサー(株式会社シンキー製、ARE-250)にて脱泡処理を行った。その後、目視にて下記基準に従って外観を評価した。
A:目視で繊維がほぼ確認できず、分散液は透明である。
B:目視で繊維がほぼ確認できず、分散液は半透明である。
C:繊維が均一に分散しておらず分散液は白濁している、もしくは粒状物(繊維の凝集物)が確認できる
【0212】
〔微細繊維状セルロースの脱泡性評価〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が1質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて4000rpmで3分間撹拌し、自動公転型スーパーミキサー(株式会社シンキー製、ARE-250)にて脱泡処理を行った。脱泡処理が完了するまでにかかった時間から、以下の評価基準で脱泡性を評価した。
A:2分以内に、脱泡処理が完了した。
B:2分超え4分以内に、脱泡処理が完了した。
C:4分超え8分以内に、脱泡処理が完了した。
D:脱泡処理が完了するまでに、8分よりも長い時間がかかった。
【0213】
〔微細繊維状セルロース分散液の粒子分散性評価〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が1質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて4000rpmで3分間撹拌し、自動公転型スーパーミキサー(株式会社シンキー製、ARE-250)にて脱泡処理を行った。ガラスビーズ(直径3mm、比重2.5g/cm、材質:ソーダガラス)を添加し、ビーズの沈降を確認し、以下の評価基準で粒子分散性を評価した。
A:ビーズが24時間以上均一に分散している。
B:ビーズが5時間以上24時間未満、均一に分散されている。
C:ビーズが10分以上5時間未満、均一に分散されている。
D:ビーズが10分未満に沈降する。
【0214】
〔塗料の塗工適性の評価〕
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた塗料の塗工適性を、次のように評価した。
(微細繊維状セルロース含有塗料の調製)
上記と同様の方法で得られた粘度約2500mPa・sの微細繊維状セルロース分散液100質量部に対して、光輝材(アルミニウムペースト WXM7640、東洋アルミニウム株式会社製、アルミニウム濃度58~61質量%)1質量部を加え、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌し、微細繊維状セルロース含有塗料を得た。
(塗料の循環及びスプレー塗工)
次いで、得られた微細繊維状セルロース含有塗料をポンプ式循環装置により配管内を24時間循環させた。循環終了後、直ちに微細繊維状セルロース含有塗料をスプレーガンで壁面に塗工し、液ダレの有無を確認した。また、塗工の際に微細繊維状セルロース含有塗料中の光輝材の沈降の有無を目視で確認した。塗料の液ダレ及び光輝材の沈降の結果から、微細繊維状セルロース含有塗料の塗工適性を4段階で評価した。
A:塗料循環後の塗工時に液ダレ及び光輝材の沈降がみられず、塗工適性が非常によい。
B:塗料循環後の塗工時に液ダレもしくは光輝材の沈降のいずれかがみられるが軽微であり、塗工適性がよい。
C:塗料循環後の塗工時に液ダレ及び光輝材の沈降がみられ、塗工適性がやや悪いが、実用上は問題ない。
D:塗料循環後の塗工時に液ダレ及び光輝材の沈降が多くみられ、塗工適性が悪く、実用上問題がある。
【0215】
〔塗膜外観の評価〕
本実施形態により得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた塗料の塗膜外観を、次のように評価した。
(微細繊維状セルロース含有塗料の調製)
固形分濃度が0.4質量%の微細繊維状セルロース分散液24.9gをビーカーに取り、イオン交換水34.4g、アクリル樹脂35.2g、硬化剤5.49gの順に添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行い、全て添加後、さらに5分間撹拌を行った後、脱泡装置(株式会社シンキー製、自転・公転ミキサーAR-250)にて脱泡処理を行った。このようにして、固形分比アクリル樹脂78、硬化剤22、微細繊維状セルロース0.5(質量比)の微細繊維状セルロース含有塗料を得た。
【0216】
(評価用塗膜の作製)
得られた塗料を用い、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ株式会社製、品名:ルミラーT60、厚み75μm)を基材とし、アプリケーターを用いて乾燥後の塗膜厚みが30μmとなるよう塗工した。塗工後すぐに温度80℃の乾燥機で30分間加熱してPETフィルムを基材とした硬化塗膜を得た。
【0217】
(塗膜の表面粗さ)
得られた硬化塗膜の表面粗さを測定した。具体的には、光干渉式非接触表面形状測定器(株式会社菱化システム製、非接触表面・層断面形状測定システムVertScan2.0、型式:R5500GML)を用い、×10対物レンズで硬化塗膜の測定範囲470.92μm×353.16μmの算術平均粗さ(Ra(μm))を測定した。測定は1水準につき5回行い、その平均値から算術平均粗さを求めた。算術平均粗さ(Ra)の定義、測定条件、算出方法等の詳細は、JIS B 0601:2013に準じて行った。
【0218】
(凝集物の個数)
光学顕微鏡(株式会社ニコン製)を用いてPETフィルムを基材とした塗工物の観察を行い、1mm中における5μm以上の大きさの凝集物数N(個/mm)を100箇所で確認し、その算術平均値(N/100)を算出した。結果を次のように評価した。
A:サイズ5μm以上の凝集物の算術平均値が3個/mm未満である
B:サイズ5μm以上の凝集物の算術平均値が3個/mm以上8個未満である
C:サイズ5μm以上の凝集物の算術平均値が8個/mm以上13個/mm未満である
D:サイズ5μm以上の凝集物の算術平均値が13個/mm以上である
なお、凝集物の大きさは円相当径とし、測定条件、算出方法等の詳細は、JIS Z 8827-1:2008に準じて行った。
【0219】
【表1】
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
【表5】
【0224】
【表6】
【0225】
実施例で得られた繊維状セルロース含有分散液は、粒子の分散性に優れ、これを用いた塗料では優れた塗工適性が発揮されていた。さらに実施例で得られた微細繊維状セルロース含有分散液を用いた塗料を用いた場合、表面が平滑であり、かつ凝集物の発生が少ない塗膜が得られた。
また、実施例で得られた繊維状セルロース含有分散液は、分散液の透明性に優れ、さらに、脱泡性も良好であった。
図1
図2