(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20240918BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240918BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240918BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240918BHJP
B29C 64/295 20170101ALI20240918BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/153
B33Y50/02
B33Y30/00
B29C64/295
(21)【出願番号】P 2021074891
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100140682
【氏名又は名称】妙摩 貞茂
(72)【発明者】
【氏名】清水 六
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084218(JP,A)
【文献】特表2016-529389(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/393
B29C 64/153
B33Y 50/02
B33Y 30/00
B29C 64/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料及び前記粉末材料により構成された造形物を支持するテーブルと、
前記テーブル上に配置された前記粉末材料に対してビームを照射するビーム照射部と、
前記テーブル上に配置された前記粉末材料を予熱する電気ヒータと、
前記電気ヒータの動作状態と前記電気ヒータによって形成される磁場がビームの軌道に与える影響との関係に基づいて、前記ビーム照射部から照射される前記ビームの照射位置を制御する制御部と、を備え
、
前記電気ヒータは、直流電源によって動作し、
前記制御部は、前記電気ヒータの動作状態として、前記直流電源から前記電気ヒータに印加される電流の大きさを取得し、前記電気ヒータの動作状態と前記ビーム照射部から照射される前記ビームの照射位置との対応関係を示すデータを参照して、前記ビームの照射位置を制御する、三次元造形装置。
【請求項2】
前記データは、前記電気ヒータが動作していない状態において前記ビーム照射部から照射される前記ビームの照射位置を基準位置として、前記電気ヒータが動作している状態における前記ビームの照射位置の前記基準位置からのズレ量を示すテーブルである、請求項
1に記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業テーブル上に原料である粉末を層状に配置して、この粉末層の選択した部分に電子ビームを照射して順次溶融し、三次元製品(造形物)を製造する装置がある(例えば特許文献1参照)。このような三次元製品を製造する装置では、一つの粉末層の選択した部分を溶融させ、溶融した粉末が硬化した後に、その上に形成された別の粉末層の選択した部分を溶融し硬化させる。このように、溶融(硬化)と積層とが繰り返されることによって、三次元製品が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元造形装置では、予熱用の付加的な熱源を用いて、積層された粉末の予熱が行われ得る。しかしながら、熱源として電気ヒータを用いる場合、電子ビームを用いた三次元造形装置では、電気ヒータによって形成される磁場が電子ビームの軌道に影響を与え得る。この場合、電子ビームの照射位置に乱れが生じることが考えられる。本開示は、予熱中であっても電子ビームの照射位置を適切に制御できる三次元造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の三次元造形装置は、粉末材料及び粉末材料により構成された造形物を支持するテーブルと、テーブル上に配置された粉末材料に対してビームを照射するビーム照射部と、テーブル上に配置された粉末材料を予熱する電気ヒータと、電気ヒータの動作状態と電気ヒータによって形成される磁場がビームの軌道に与える影響との関係に基づいて、ビーム照射部から照射されるビームの照射位置を制御する制御部と、を備える。
【0006】
上記の三次元造形装置では、テーブル上に配置された粉末材料にビームが照射されることにより、溶融された粉末材料によって造形物が形成される。電気ヒータによって粉末材料が予熱されている場合、ビームの軌道は、電気ヒータによって形成される磁場の影響を受ける。しかし、ビームの照射位置は、電気ヒータの動作状態と電気ヒータによって形成される磁場がビームの軌道に与える影響との関係に基づいて制御される。したがって、予熱中であってもビームの照射位置を適切に制御できる。
【0007】
一例の制御部は、電気ヒータの動作状態として、電気ヒータに印加される電流の大きさを取得してもよい。この構成では、電気ヒータに印加される電流の大きさに応じて、ビームの照射位置を制御できる。
【0008】
一例の制御部は、電気ヒータの動作状態とビーム照射部から照射されるビームの照射位置との対応関係を示すデータを参照し、ビームの照射位置を制御してもよい。この構成では、電気ヒータの動作状態に対応したビームの照射位置が参照されるため、制御部は、電気ヒータの動作状態を監視するだけで、容易に照射位置を制御することができる。
【0009】
一例のデータは、電気ヒータが動作していない状態においてビーム照射部から照射されるビームの照射位置を基準位置として、電気ヒータが動作している状態におけるビームの照射位置の基準位置からのズレ量を示すテーブルであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、予熱中であっても電子ビームの照射位置を適切に制御できる三次元造形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一例の三次元造形装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、一例の三次元造形装置のフィーダ及びヒータを上方側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、一例の三次元造形装置の制御ユニットを説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一例の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図中には、必要に応じて、水平面に沿ったX軸方向及びY軸方向と鉛直方向に沿ったZ軸方向とを含むXYZ直交座標系が示される。
【0013】
図1は、一例の三次元造形装置を示す概略構成図である。
図2は、一例の三次元造形装置のフィーダ31及び電気ヒータ32を上方側から見た斜視図である。三次元造形装置1は、いわゆる3Dプリンタである。以下の説明では、三次元造形装置1を単に、「造形装置1」と称する。造形装置1は、層状に配置した粉末材料2に部分的にエネルギを付与して、粉末材料2を焼結又は溶融する。造形装置1は、粉末材料2の焼結又は溶融を繰り返して三次元の造形物3を製造する。
【0014】
造形物3は、例えば機械部品などである。なお、造形物3は、その他の構造物であってもよい。粉末材料2は、例えばチタン系金属粉末、インコネル(登録商標)粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末等である。造形物3の材料である粉末は、金属粉末に限定されない。粉末は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂を含んでもよい。また、粉末は、その他の材料を含んでもよい。例えば、粉末は、導電性を有する導電体材料を含んでもよい。
【0015】
造形装置1は、真空チャンバ4と、作業テーブル5と、電子線照射装置(ビーム照射部)14と、駆動装置20と、フィーダ31と、電気ヒータ32と、制御装置40と、を備える。真空チャンバ4は、複数のコラム6によって支持されている。真空チャンバ4は、内部を真空(低圧)状態とすることが可能な容器である。真空チャンバ4には、図示しない真空ポンプが接続されている。真空チャンバ4によって形成される造形空間Sは、粉末材料2の処理を行うための気密空間である。
【0016】
作業テーブル5は、例えば円板状を有している。作業テーブル5の上面である主面(造形面)5a上には、造形物3の原料である粉末材料2が配置される。作業テーブル5は、真空チャンバ4に対して回転可能に設けられている。作業テーブル5は、その回転軸線Cが真空チャンバ4の中心軸線と重なるように配置されてもよい。回転軸線Cは、上下方向、すなわち鉛直方向(Z軸方向)に沿っていてもよい。
【0017】
作業テーブル5は、真空チャンバ4内に収容されている。一例では、作業テーブル5は、真空チャンバ4の底部から下方に向かって延在するガイド部10内に配置されている。ガイド部10は、作業テーブル5の外形に対応するように円筒状を呈している。作業テーブル5は、ガイド部10内において、Z軸方向(上下方向)に移動可能である。作業テーブル5は、粉末材料2の層数に応じて順次降下する。ガイド部10及び作業テーブル5は、粉末材料2及び造形された造形物3を収容する収容部を形成する。
【0018】
駆動装置20は、作業テーブル5に接続されている。駆動装置20は、造形に要する種々の動作を実現する。駆動装置20は、例えば、回転駆動部21と直線駆動部22とを有している。回転駆動部21は、回転軸線Cを中心として周方向に作業テーブル5を回転させる。例えば、回転駆動部21の上端は、作業テーブル5に連結され、回転駆動部21の下端には、例えばモータ等の駆動源が取り付けられている。直線駆動部22は、回転駆動部21の回転軸線Cに沿って、作業テーブル5をガイド部10に対して相対的に昇降させる。したがって、作業テーブル5は、駆動装置20によって、回転軸線C周りの回転と、回転軸線Cに沿った直線移動と、を行う。なお、駆動装置20は、作業テーブル5を回転及び昇降させることができる機構であればよく、上述した機構に限定されない。
【0019】
フィーダ31は、作業テーブル5の主面5a上に粉末材料2を供給する。
図2に示すように、フィーダ31は、作業テーブル5の上方において、作業テーブル5の回転軸線Cの位置から径方向に沿って作業テーブル5の周縁の位置まで延在している。例えば、フィーダ31は、図示しない原料タンクと均し部とを有する。原料タンクは、粉末材料2を貯留するとともに、作業テーブル5の主面5a上に粉末材料2を供給する。均し部は、作業テーブル5上に供給された粉末材料2の表面を均す。なお、フィーダ31は、均し部に代えて、ローラ部材、棒状部材、刷毛等を有してもよい。
【0020】
電気ヒータ32は、作業テーブル5の主面5a上に供給された粉末材料2の予備加熱を行う。電気ヒータ32は、電子ビームが照射される前の粉末材料2に対して予備加熱を行う。例えば、電気ヒータ32は、作業テーブル5の上方に配置され、放射熱によって粉末材料2の温度を上昇させる。例えば、電気ヒータ32は、直流電源によって動作する赤外線電気ヒータであってよい。電気ヒータ32は、他の方式により加熱するものであってもよい。フィーダ31及び電気ヒータ32は、作業テーブル5の回転方向Rに沿って配置されている。そのため、フィーダ31の位置で供給された粉末材料2は、作業テーブル5の回転に伴って、電気ヒータ32の位置で予備加熱される。一例の電気ヒータ32は、作業テーブル5の主面5aの一部に対向するように配置されている。図示例では、電気ヒータ32は、作業テーブル5の半径と同じ略半径を有する扇形状を有しており、上側から見たときに主面5aの周方向の一部と重なっている。
【0021】
電子線照射装置14は、電気ヒータ32よりも回転方向Rの下流の位置において、予備加熱された粉末材料2に電子ビームBを照射する。電子線照射装置14は、エネルギビームとしての電子ビーム(電子線)Bを照射する電子銃等のビーム源15を含む。
図1では、出射された電子ビームBを2点鎖線で示している。ビーム源15から出射された電子ビームBは、真空チャンバ4内に照射される。電子ビームBは、粉末材料2を加熱する。つまり、電子線照射装置14は、粉末材料2にエネルギを付与する。その結果、粉末材料2が加熱されるので、粉末材料2は溶融又は焼結する。電子線照射装置14は、粉末材料2を固める粉末固化部である。また、電子線照射装置14は、粉末材料2にエネルギを付与するエネルギ付与部である。
【0022】
電子線照射装置14は、電子ビームBの照射を制御するコイル装置16を含んでいる。コイル装置16は、例えば収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19を備える。例えば、フォーカスコイル18は収差コイル17の下側に配置されており、偏向コイル19はフォーカスコイル18の下側に配置されている。収差コイル17は、ビーム源15から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBを収束させる。フォーカスコイル18は、ビーム源15から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBのフォーカス位置のずれを補正する。偏向コイル19は、ビーム源15から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBの照射位置を調整する。偏向コイル19は、電磁的なビーム偏向を行う。電磁的なビーム偏向によれば、電子ビームBの照射時における走査速度が機械的なビーム偏向よりも高速になる。ビーム源15及びコイル装置16は、真空チャンバ4の上部に配置されている。ビーム源15から出射された電子ビームBは、コイル装置16によって、収束され、焦点位置が補正され、走査速度が制御され、粉末材料2の照射位置に到達する。
【0023】
制御装置40は、三次元造形装置1の装置全体の制御を行う。制御装置40は、例えば、プログラムを実行するCPUと、ROM及びRAM等の記憶部と、入出力部と、ドライバとを有する。制御装置40の各機能は、CPUの制御の下で入出力部を動作させ、記憶部におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことによって実現される。制御装置40の形態及び配置場所については特に限定されない。制御装置40は、収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19を含む電子線照射装置14に電気的に接続されている。また、制御装置40は、回転駆動部21及び直線駆動部22を含む駆動装置20に電気的に接続されている。さらに、制御装置40は、フィーダ31及び電気ヒータ32に電気的に接続されている。なお、制御装置40と電気ヒータ32とは、ヒータ電源35を介して接続されている。ヒータ電源35は、制御装置40からの信号を受けて、電気ヒータ32に電力を供給する直流電源である。また、ヒータ電源35は、電気ヒータ32に供給されている電力の大きさを示すデータを制御装置40に出力する。一例において、ヒータ電源35は、電気ヒータ32に印加される電流値を制御装置40に出力する。
【0024】
図3は、一例の三次元造形装置の制御ユニットを説明するためのブロック図である。
図3に示すように、制御装置40は、機能部として、駆動制御部41と、フィーダ制御部42と、ヒータ制御部43と、照射制御部45と、を含む。また、制御装置40は、データ記憶部46を含む。
【0025】
駆動制御部41は、回転駆動部21に対し制御信号を出力し、回転駆動部21の動作を通じて作業テーブル5の回転制御を行う。例えば、駆動制御部41は、回転駆動部21を作動させて、回転軸線Cを中心として作業テーブル5を回転方向Rに回転させる。また、駆動制御部41は、直線駆動部22に対し制御信号を出力し、直線駆動部22の動作を通じて作業テーブル5の昇降制御を行う。例えば、駆動制御部41は、造形の初期において作業テーブル5をガイド部10の上部の位置に配置させ、造形物3の造形が進むに連れて作業テーブル5を降下させる。作業テーブル5の降下速度は、例えば作業テーブル5の回転速度に応じて決定されてもよい。
【0026】
フィーダ制御部42は、フィーダ31に対し制御信号を出力し、粉末材料2の供給制御を行う。例えば、フィーダ制御部42は、フィーダ31を作動させて、作業テーブル5の主面5aに粉末材料2を供給する。作業テーブル5上の粉末材料2の表面層は、作業テーブル5の回転に伴って敷き均される。
【0027】
ヒータ制御部43は、電気ヒータ32の動作を制御し、粉末材料2の予熱制御を行う。例えば、ヒータ制御部43は、ヒータ電源35に対し制御信号を出力し、ヒータ電源35から電気ヒータ32に電力を供給させる。これにより、ヒータ制御部43は、電気ヒータ32を作動させて、作業テーブル5の上面の粉末材料2を加熱させ、粉末材料2の予備加熱を実行させる。粉末材料2の加熱量は、粉末材料2の種類、作業テーブル5の回転速度等に応じて設定してもよい。
【0028】
照射制御部45は、電子線照射装置14に対し制御信号を出力し、電子ビームBの出射制御を行う。例えば、照射制御部45は、ビーム源15を作動させて、電子ビームBを出射させる。一例の照射制御部45は、粉末材料2の所定の位置に電子ビームBを照射させる。電子ビームBを照射させる位置は造形物3を造形すべき領域であり、予め設定される照射位置に従って電子ビームBが照射される。
【0029】
電子ビームBの照射位置は、造形物3の断面のスライスデータに基づいて設定され得る。造形物3の断面は、造形物3において回転軸線Cと交差(直交)する断面である。一例において、造形物3のスライスデータは、造形物3の三次元CAD(Computer-Aided Design)データに基づいて取得され得る。例えば、造形物3の上下の位置に応じて複数のスライスデータが取得され得る。1層分のスライスデータは、粉末材料2の1層分に対応している。
【0030】
照射制御部45は、設定された照射位置に電子ビームBが照射されるように、電子線照射装置14を制御する。すなわち、照射制御部45は、収差コイル17を制御して、電子ビームBを収束させる。照射制御部45は、フォーカスコイル18を制御して、電子ビームBのフォーカス位置を制御する。照射制御部45は、偏向コイル19を制御して、電子ビームBの照射位置(照射方向)を制御する。例えば、照射位置に対応する収差コイル17における制御量、フォーカスコイル18における制御量、及び偏向コイル19における制御量に関するデータは、データ記憶部46に記憶されていてもよい。照射制御部45は、データ記憶部46から取得されるデータに基づいて、任意の照射位置に電子ビームが照射されるように、収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19を制御する。
【0031】
電気ヒータ32が動作している場合、電子線照射装置14から照射される電子ビームBの軌道は、電気ヒータ32によって形成される磁場(磁界)の影響を受ける。すなわち、磁場の影響を考慮せずにコイル装置16が制御されている場合には、電気ヒータ32が動作しているときの照射位置は、電気ヒータ32が動作していないときの照射位置(基準位置)から磁場に応じたズレ量だけ移動する。そこで、一例の照射制御部45は、電気ヒータ32の動作状態と電気ヒータ32によって形成される磁場が電子ビームBの軌道に与える影響との関係に基づいて、電子線照射装置14から照射される電子ビームBの照射位置を制御する。
【0032】
一例の照射制御部45は、電気ヒータ32の動作状態と電子線照射装置14から照射される電子ビームBの照射位置との対応関係を示すデータを参照し、電子ビームBの照射位置を制御してもよい。例えば、このようなデータは、テーブルデータ(ルックアップテーブル)としてデータ記憶部46に記憶されていてもよい。一例のテーブルデータは、電気ヒータ32の動作状態ごとの、電子ビームBの照射位置に対応する収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量のデータであってもよい。電気ヒータ32の動作状態は、電気ヒータ32が動作しているか動作していないかを示す情報であってもよい。また、電気ヒータ32の動作状態は、電気ヒータ32に印加される電流の電流値であってもよい。
【0033】
照射制御部45は、電気ヒータ32の動作状態と電子ビームBの照射位置とを入力データとして、データ記憶部46から収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量のデータを取得し得る。例えば、照射制御部45は、ヒータ電源35から取得されるON/OFF情報と、スライスデータに基づいて設定される照射位置とを入力データとして、テーブルデータを参照して収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量を取得してもよい。また、照射制御部45は、ヒータ電源35から取得される電流値と、スライスデータに基づいて設定される照射位置とを入力データとして、テーブルデータを参照して収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量を取得してもよい。
【0034】
このようなテーブルデータは、実際に電気ヒータ32が動作している状態で電子線照射装置14によって電子ビームBを照射することによって取得されてもよい。電気ヒータ32の動作状態として電気ヒータ32のON/OFF情報を用いる場合には、電気ヒータ32を動作させない状態において実際の照射位置ごとに収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量を取得したデータと、電気ヒータ32を所定の電流値で動作させた状態において実際の照射位置ごとに収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量を取得したデータと、によってテーブルを構成してもよい。また、電気ヒータ32の動作状態として電流値を用いる場合には、電気ヒータ32を複数の電流値で動作させた状態で、各電流値において、照射位置ごとに収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量を取得し、取得されたパラメータ間を線形補間したデータによってテーブルを構成してもよい。
【0035】
また、テーブルデータは、電気ヒータ32が動作している状態における電子ビームBの照射位置の基準位置からのズレ量によって構成されてもよい。この場合、基準位置は、電気ヒータ32が動作していない状態における電子ビームBの照射位置であってよい。例えば、電子ビームBの照射位置の基準位置からのズレ量は、収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19の制御量の補正量であってもよい。補正量は、同じ照射位置に電子ビームBが照射されるときの、電気ヒータ32が動作している状態での制御量と電気ヒータ32が動作していないときの制御量との差分であってよい。
【0036】
三次元造形装置1の動作について説明する。まず、三次元造形装置1の制御装置40は、直線駆動部22を制御して、作業テーブル5を上方へ移動させる。作業テーブル5は、上方へ移動させられて、ガイド部10の上部に配置される。また、制御装置40は、回転駆動部21を制御して、回転軸線Cを中心に作業テーブル5を回転させる。
【0037】
次に、制御装置40は、フィーダ31を制御して、作業テーブル5上に粉末材料2を供給する。作業テーブル5上の粉末材料2はフィーダ31に設けられたリコータによって均される。フィーダ31が供給した粉末材料2は、作業テーブル5の回転に伴って移動し、電気ヒータ32の下方の領域内に進入する。電気ヒータ32は、下方に配置された粉末材料2を予備加熱する。粉末材料2は、作業テーブル5の回転に伴って移動しながら加熱される。
【0038】
電気ヒータ32によって予備加熱された粉末材料2は、作業テーブル5の回転に伴って、作業テーブル5の周方向において電気ヒータ32の領域外に移動する。制御装置40は、電子線照射装置14を制御して、電子線照射装置14の照射範囲内に存在する粉末材料2に対して電子ビームBを照射させる。粉末材料2に対して電子ビームBが順次照射されることにより、造形物3が造形されていく。
【0039】
このとき、制御装置40は、ヒータ電源35から入力される信号に基づいて、電子線照射装置14による電子ビームBの照射位置を制御する。例えば、ヒータ電源35から電気ヒータ32が動作状態であることを示す信号又は電流値を示す信号が入力される場合、照射制御部45は、データ記憶部46に記憶されたテーブルデータを参照して照射位置に対応する制御量によって収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19を制御する。これにより、電子ビームBは、電気ヒータ32によって形成される磁場の影響を受けた状態で、スライスデータに対応する照射位置に照射される。
【0040】
作業テーブル5は、造形物3の造形が進むにつれて降下する。すなわち、制御装置40は、直線駆動部22を制御して、作業テーブル5を回転軸線Cに沿って降下させる。この作業テーブル5の降下は、作業テーブル5の回転と同期させてもよいが、完全には同期させなくてもよい。そして、全ての層について造形が完了すると、造形物3の造形が完了する。
【0041】
以上に説明したように、一例の三次元造形装置1は、粉末材料2を支持する作業テーブル5と、作業テーブル5上に配置された粉末材料2に対して電子ビームBを照射する電子線照射装置14と、作業テーブル5上に配置された粉末材料2を予熱する電気ヒータ32と、電気ヒータ32の動作状態と電気ヒータ32によって形成される磁場が電子ビームBの軌道に与える影響との関係に基づいて、電子線照射装置14から照射される電子ビームBの照射位置を制御する制御装置40と、を備える。
【0042】
上記の三次元造形装置1では、作業テーブル5上に配置された粉末材料2に電子ビームBが照射されることにより、溶融された粉末材料2によって造形物3が形成される。電気ヒータ32によって粉末材料2が予熱されている場合、電子ビームBの軌道は、電気ヒータ32によって形成される磁場の影響を受け得る。三次元造形装置1、電子ビームBの照射位置は、電気ヒータ32の動作状態と電気ヒータ32によって形成される磁場が電子ビームBの軌道に与える影響との関係に基づいて制御されている。したがって、電気ヒータ32が動作している状態であっても、電子ビームBの照射位置を適切に制御できる。
【0043】
電気ヒータ32によって形成された磁場は、電気ヒータ32に印加される電流の大きさに応じて変化し得る。一例の制御装置40は、電気ヒータ32の動作状態として、電気ヒータ32に印加される電流の大きさを取得してもよい。この構成では、電気ヒータ32に印加される電流の大きさに応じて、電子ビームBの照射位置を制御できる。
【0044】
一例の制御装置40は、電気ヒータ32の動作状態と電子線照射装置14から照射される電子ビームBの照射位置との対応関係を示すデータを参照し、電子ビームBの照射位置を制御してもよい。この構成では、電気ヒータ32の動作状態に対応した電子ビームBの照射位置が参照されるため、制御装置40は、電気ヒータ32の動作状態を監視するだけで、容易に照射位置を制御することができる。
【0045】
データ記憶部46に格納されるデータは、電気ヒータ32が動作していない状態において電子線照射装置14から照射される電子ビームBの照射位置を基準位置として、電気ヒータ32が動作している状態における電子ビームBの照射位置の基準位置からのズレ量を示すテーブルデータ(以下、補正テーブルデータ)であってもよい。この構成では、電気ヒータ32が動作していない場合には、基準位置に基づいて生成された、電子ビームBの照射位置とコイル装置16の制御量との関係を示すテーブルデータ(以下、基準テーブルデータ)に基づいて、電子線照射装置14の照射位置が制御される。そして、電気ヒータ32が動作している状態では、基準テーブルデータの制御量を補正テーブルデータによって補正したデータに基づいて、電子線照射装置14の照射位置が制御される。
【0046】
本開示は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、電気ヒータの動作状態と電気ヒータによって形成される磁場が電子ビームの軌道に与える影響との関係が、テーブルデータとしてデータ記憶部46に記憶されている例について説明したが、本開示の内容はこれに限定されない。電気ヒータの動作状態と電気ヒータによって形成される磁場がビームの軌道に与える影響との関係は、テーブルデータではなく演算式としてデータ記憶部46等に記憶されていてもよい。このような演算式は、ビオ・サバールの法則等の一般的な電磁気学に基づいて構築されてもよい。また、演算式は、電子ビームを照射することによって取得されたテーブルデータに基づいて、近似式として構築されてもよい。
【0048】
また、コイル装置16が磁場の影響に応じて電子ビームを制御する例を示したが、例えば、コイル装置16は磁場の影響を考慮せずに電子ビームを制御してもよい。この場合、三次元造形装置は、磁場の影響による位置ずれを補正する補正専用のコイルをさらに備えてもよい。
【0049】
直流電源によって電気ヒータが動作する例を示したが、電気ヒータは交流電源によって動作してもよい。この場合、交流波形に応じて電気ヒータの磁界に揺らぎが生じ得る。電子ビームが磁界の影響を受けないように、交流波形の逆位相の成分を加えることで、コイル装置に対する制御値を補正してもよい。
【0050】
また、三次元造形装置は、複数の電気ヒータを有していてもよい。電気ヒータが複数ある場合、それぞれの電気ヒータにそれぞれ対応した制御用のテーブルデータが用意されてもよいし、複数の電気ヒータの動作状態とビームの照射位置との対応関係を示すテーブルデータが用意されてもよい。
【0051】
また、三次元造形装置は、複数のビーム源を有していてもよい。ビーム源が複数ある場合、ビーム源ごとに、電気ヒータの動作状態とビームの照射位置との対応関係を示すテーブルデータが用意されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 三次元造形装置(造形装置)
2 粉末材料
3 造形物
4 真空チャンバ
5 作業テーブル
5a 主面
6 コラム
10 ガイド部
14 電子線照射装置(ビーム照射部)
15 ビーム源
16 コイル装置
17 収差コイル
18 フォーカスコイル
19 偏向コイル
20 駆動装置
21 回転駆動部
22 直線駆動部
31 フィーダ
32 電気ヒータ
35 ヒータ電源
40 制御装置
41 駆動制御部
42 フィーダ制御部
43 ヒータ制御部
45 照射制御部
46 データ記憶部
B 電子ビーム(電子線)
C 回転軸線
R 回転方向
S 造形空間