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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】分光分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20240918BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N21/552
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021146454
(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公開番号】P2023039330
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 芙美枝
(72)【発明者】
【氏名】村山 広大
(72)【発明者】
【氏名】猿谷 敏之
(72)【発明者】
【氏名】原 理紗
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-078488(JP,A)
【文献】特開2003-065947(JP,A)
【文献】米国特許第05858799(US,A)
【文献】特開2012-068192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01Q 10/00 - G01Q 90/00
G02B 19/00 - G02B 21/00
G02B 21/06 - G02B 21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光分析の対象となる試料が接触する電極であって、互いに隣接する対極及び作用電極を少なくとも一組含む前記電極と、
前記試料の領域にしみ出すエバネッセント波を発生させる照射光を前記電極に照射する照射部と、
前記照射部によって照射された前記照射光に基づく測定光であって、前記試料の吸収スペクトルの情報を含む前記測定光を検出する検出部と、
前記照射光及び前記測定光が透過し、前記試料側の面に前記電極が配置されているプリズムと、
前記電極の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解するように前記対極と前記作用電極との間に電圧を印加する制御部と、
を備える、
分光分析装置。
【請求項2】
前記対極の面積は、前記作用電極の面積よりも大きい、
請求項1に記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記電極は、互いに隣接する前記対極及び前記作用電極を複数組含み、前記対極と前記作用電極とが交互に配列されるように形成されている、
請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記対極及び前記作用電極のそれぞれは、矩形状に形成されている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記対極及び前記作用電極のそれぞれに対して、長手方向の両側から同一の電位を印加する、
請求項4に記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記試料中に配置されている参照電極を備え、
前記制御部は、前記参照電極と前記作用電極との間の電位を制御しながら前記対極と前記作用電極との間に電流を流す、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【請求項7】
前記電極は、前記プリズムの前記試料側の面上に製膜されている、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【請求項8】
前記プリズムの前記試料側の面に配置されている基板を備え、
前記電極は、前記基板上に製膜されている、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【請求項9】
前記作用電極は、前記プリズムの前記試料側の面上に製膜され、
前記対極は、前記作用電極と対向するように前記作用電極に対して前記プリズムと反対側に配置されている、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、前記対極と前記作用電極との間に電圧を印加し、前記第1閾値よりも小さい第2閾値よりも前記ピークが小さいと判定すると前記電圧の印加を停止する、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の分光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液等を含む試料の状態を分光学的手法に基づいて分析する技術が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、金属中の自由電子を光で励起、共鳴させて、表面プラズモンの共鳴スペクトルと試料の吸収スペクトルとを重ね合わせ、試料の吸収スペクトルの強度を見かけ上増大させる表面プラズモン共鳴近赤外分光法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Appl. Phys. Lett. 83, 2232 (2003); https://doi.org/10.1063/1.1610812
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術では、分光分析の対象となる試料が接触する金属薄膜の界面に付着物が付着すると、付着物に基づく分光情報しか得られなくなるという問題があった。したがって、試料の分光スペクトルを連続して測定すると付着物の増大に伴って測定の信頼性が低下する。
【0006】
本開示は、試料の分光分析に係る測定の信頼性が向上する分光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態に係る分光分析装置は、分光分析の対象となる試料が接触する電極であって、互いに隣接する対極及び作用電極を少なくとも一組含む前記電極と、前記試料の領域にしみ出すエバネッセント波を発生させる照射光を前記電極に照射する照射部と、前記照射部によって照射された前記照射光に基づく測定光であって、前記試料の吸収スペクトルの情報を含む前記測定光を検出する検出部と、前記照射光及び前記測定光が透過し、前記試料側の面に前記電極が配置されているプリズムと、前記電極の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解するように前記対極と前記作用電極との間に電圧を印加する制御部と、を備える。
【0008】
これにより、試料の分光分析に係る測定の信頼性が向上する。分光分析装置は、電極の界面に付着した付着物が酸化還元反応により分解するように対極と作用電極との間に電圧を印加することで、電極の界面に付着した付着物を分解できる。例えば、分光分析装置は、電極の界面に吸着又は堆積したタンパク質等の有機物を分解して脱離させることが可能となる。以上により、付着物に基づく分光情報を抑制して試料の分光スペクトルを主に測定することが可能となるので、測定の信頼性が向上する。
【0009】
一実施形態における分光分析装置では、前記対極の面積は、前記作用電極の面積よりも大きくてもよい。これにより、対極表面の電流密度を低下させることが可能となり、対極における電位変動を抑制可能である。このような電位変動の抑制効果によって、制御部による精密な電位調整が可能になる。
【0010】
一実施形態における分光分析装置では、前記電極は、互いに隣接する前記対極及び前記作用電極を複数組含み、前記対極と前記作用電極とが交互に配列されるように形成されていてもよい。
【0011】
これにより、作用電極上の所定の位置と対極上の所定の位置との間の距離が位置ごとに異なっているとしても、そのような距離の不均一性が抑制される。例えば、図3に示す対極及び作用電極の場合、対極における所定の位置から、プリズムの上面の長手方向に沿った作用電極の一端までの距離と、当該位置から他端までの距離とは大きく相違する。一方で、図6に示す対極及び作用電極の場合、対極における所定の位置から、プリズムの上面の長手方向に沿った作用電極の一端までの距離と、当該位置から他端までの距離とは大きくは相違しない。したがって、以上のような距離の違いによって生じる抵抗の偏りが抑制される。
【0012】
一実施形態における分光分析装置では、前記対極及び前記作用電極のそれぞれは、矩形状に形成されていてもよい。これにより、例えば円筒プリズムとして構成されるプリズムの矩形状の上面に合わせて、各電極を適切に配置可能である。すなわち、プリズムの上面において電極が配置されていない面積を最小限に抑制可能である。
【0013】
一実施形態における分光分析装置では、前記制御部は、前記対極及び前記作用電極のそれぞれに対して、長手方向の両側から同一の電位を印加してもよい。これにより、各電極が有する長手方向の抵抗の偏りが補正可能となる。抵抗の偏りの補正により、電位変動が抑制される。結果として、電極表面に吸着する付着物をより効果的に脱離させることが可能となる。
【0014】
一実施形態における分光分析装置は、前記試料中に配置されている参照電極を備え、前記制御部は、前記参照電極と前記作用電極との間の電位を制御しながら前記対極と前記作用電極との間に電流を流してもよい。これにより、付着物の吸収スペクトルと共に、図11のような電流電位曲線を得ることができる。このような電流電位曲線は、電極の材料と、電極の界面に付着した付着物の種類と、に依存する。すなわち、電極の材料が既知である場合、電流電位曲線のプロファイルから電極の界面に付着した付着物の種類を特定することが可能である。制御部は、このような電流電位曲線に基づいて電極の界面に付着した付着物を識別しつつ、付着物の吸収スペクトルのピーク強度を確認しながら電極への電圧印加による付着物の分解を確認することができる。
【0015】
一実施形態における分光分析装置では、前記電極は、前記プリズムの前記試料側の面上に製膜されていてもよい。これにより、電極とプリズムとが一体的に形成される。したがって、分光分析装置では、後述する基板のような付加的な部品が不要となり、部品点数が低減する。
【0016】
一実施形態における分光分析装置は、前記プリズムの前記試料側の面に配置されている基板を備え、前記電極は、前記基板上に製膜されていてもよい。これにより、電極表面の汚染がひどい場合、及び電極の表面が傷ついた場合など、プリズム自体を交換する必要がない。プリズムに代えて、基板のみの交換が可能となる。プリズム自体を交換すると複雑な光学調整が必要となるが、基板のみの交換によってこのような複雑な光学調整が不要となる。したがって、電極の交換が必要となるときであっても、交換に要する作業が容易であり、作業効率が向上する。
【0017】
一実施形態における分光分析装置では、前記作用電極は、前記プリズムの前記試料側の面上に製膜され、前記対極は、前記作用電極と対向するように前記作用電極に対して前記プリズムと反対側に配置されていてもよい。これにより、作用電極と対極とが全体として等距離となり、かつ近距離に配置できるため、酸化還元反応により生じる電流の偏りが抑制される。作用電極の電位が均一化し、電極表面での酸化還元反応の制御性が向上する。したがって、ユーザが意図した電極クリーニング、すなわち付着物の除去を行うことができる。加えて、上述した表面プラズモン共鳴近赤外分光法において作用電極の大面積化が可能であり、表面プラズモン共鳴に基づく信号強度が増大する。
【0018】
一実施形態における分光分析装置では、前記制御部は、前記付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、前記対極と前記作用電極との間に電圧を印加し、前記第1閾値よりも小さい第2閾値よりも前記ピークが小さいと判定すると前記電圧の印加を停止してもよい。これにより、分光分析装置は、電極の界面に付着した付着物の酸化還元反応に基づく除去処理を自動的に実行することができる。したがって、ユーザの利便性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、試料の分光分析に係る測定の信頼性が向上する分光分析装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の第1実施形態に係る分光分析装置の概略構成を示す模式図である。
図2図1の分光分析装置の概略構成に対応するブロック図である。
図3図1の電極を上方から見たときの模式図である。
図4図1の分光分析装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図5】本開示の第2実施形態に係る分光分析装置の電極を上方から見たときの模式図である。
図6】本開示の第3実施形態に係る分光分析装置の電極を上方から見たときの模式図である。
図7】本開示の第4実施形態に係る分光分析装置の電極を上方から見たときの模式図である。
図8】本開示の第5実施形態に係る分光分析装置の電極を上方から見たときの模式図である。
図9】本開示の第6実施形態に係る分光分析装置の電極を上方から見たときの模式図である。
図10】本開示の第7実施形態に係る分光分析装置の概略構成を示す模式図である。
図11】試料及び付着物を含む物質全体の電流電位曲線の一例を示す模式図である。
図12】本開示の第8実施形態に係る分光分析装置の概略構成を示す模式図である。
図13】本開示の第9実施形態に係る分光分析装置の電極を斜め上方から見たときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来技術の背景及び問題点についてより詳細に説明する。
【0022】
従来、プリズム上に密着した試料に対してプリズム端から照射光を照射し、臨界角以上で全反射したプリズムからの出射光を検出する全反射分光法(Attenuated Total Reflection (ATR))が一般的に知られている。ATR法は、極少量の試料を計測する手法として一般的である。プリズム側から照射光が入射した場合、入射角が臨界角よりも大きいと、照射光はプリズムと試料との間の界面で全反射する。このとき、界面には、照射光に基づくエバネッセント波が発生する。ATR法は、このエバネッセント波を利用して、試料の吸収スペクトルを取得する手法である。
【0023】
しかしながら、エバネッセント波は、プリズムの極表面にのみ存在する。したがって、試料に照射される照射光が微弱であり、試料の吸収スペクトルの強度が低いという課題があった。その課題を解決するために、プリズムと試料との間に配置された金属薄膜中の自由電子をエバネッセント波で励起、共鳴させて、表面プラズモンを発生させることが考えられた。表面プラズモンの共鳴スペクトルと試料の吸収スペクトルとを重ね合わせ、試料の吸収スペクトルの強度を見かけ上増大させる表面プラズモン共鳴近赤外分光法が開発された。
【0024】
従来の表面プラズモン共鳴近赤外分光法に用いられる光学系では、広帯域光源から照射された照射光は、光ファイバ等の導光部品を伝搬して、レンズ及びミラー等により平行光に調整された後、金属薄膜が接合されたプリズム基板に入射する。金属薄膜は、例えば、金、銀、及び銅等の薄膜を含む。プリズム基板は、例えば、円筒プリズム及び半球プリズム等を含む。
【0025】
プリズム基板において反射した反射光は、レンズ及びミラー等により集光される。集光された反射光は、光ファイバ等の導光部品を伝搬して分光器によって検出される。処理部は、検出された反射光に基づいて、試料の吸収スペクトルの情報を取得する。例えば、処理部は、ATR法及び表面プラズモン共鳴近赤外分光法に基づいて、試料の屈折率、吸収係数、及び膜厚等の物理的情報を吸収スペクトルの情報に対するデータ処理によって取得する。
【0026】
金属薄膜の裏面から照射光が入射する光学系の全反射条件において、エバネッセント波の波長と表面プラズモンの波長とが一致するとき、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴して極大な光吸収が生じる。表面プラズモンの共鳴スペクトルは、金属薄膜上の試料の屈折率に依存する。より具体的には、試料の屈折率に基づいて、表面プラズモンの共鳴スペクトルの極大吸収波長、すなわちピーク波長又は極大吸収角度はシフトする。同様に、照射光の金属薄膜に対する入射角度を変化させることで、表面プラズモンの共鳴スペクトルのピーク波長が波長軸方向に変化する。
【0027】
したがって、特定の波長域に共鳴スペクトルのピーク波長をシフトさせて共鳴条件における極大光吸収波長と試料の吸収スペクトルのピーク波長とを一致させることが可能となる。これにより、試料の吸収スペクトルの強度が見かけ上増大し、試料に起因する吸収スペクトルを感度良く測定することができる。
【0028】
しかしながら、以上のような従来技術では、分光分析の対象となる試料が接触する金属薄膜の界面に付着物が付着する。例えば、試料に含まれるタンパク質等の有機物が金属薄膜の界面に吸着又は堆積する。従来技術では、プリズム基板に接合された金属薄膜上の極表面のみに対して測定が行われるため、金属薄膜の界面に付着物が付着すると、このような付着物に基づく分光情報のみしか得られなくなるという問題があった。したがって、試料の分光スペクトルを連続して測定すると付着物の増大に伴って測定の信頼性が低下する。
【0029】
ふき取り、界面活性剤による洗浄、及び表面研磨等を含む洗浄処理を行って界面の付着物が除去可能であるが、このような洗浄処理によって試料の分光分析に係る測定を連続的に行うことができず、測定の効率が低下していた。
【0030】
本開示は、以上のような問題点を解決するために、試料の分光分析に係る測定の信頼性が向上する分光分析装置を提供することを目的とする。また、試料の分光分析に係る測定の効率が向上する分光分析装置を提供することも可能である。以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係る分光分析装置1の概略構成を示す模式図である。分光分析装置1は、分光分析の対象となる試料Sが接触する電極10を有する。電極10は、プリズム20の試料S側の面上に薄膜として製膜されている。電極10は、例えば、金、銀、白金、銅、及びアルミニウム等の金属薄膜、ダイヤモンド、並びにカーボン等により形成されている。
【0032】
分光分析装置1は、例えば所定の流路内を一方向に流れ、表面プラズモンが発生する電極10に接触する試料Sの状態を分析する。本明細書において、「試料S」は、例えば、溶液を含む。「試料Sの状態」は、例えば、試料Sにおける成分の種類及び比率を含む成分組成、並びにその他試料Sの吸収スペクトルから読み取れる任意の物理的又は化学的なパラメータを含む。
【0033】
分光分析装置1は、電極10の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解するように電極10に電圧を印加する。本明細書において、「電極10の界面」は、例えば、電極10の表面のうち試料Sが接触する表面を含む。すなわち、電極10の界面は、プリズム20が接合される表面と反対側の表面を含む。本明細書において、「付着物」は、電極10の界面に付着する任意の有機物を含み、例えばタンパク質等の有機物を含む。
【0034】
分光分析装置1は、試料S側の面に電極10が配置されているプリズム20を有する。プリズム20は、例えば、BK-7等の光学ガラスにより円筒状に形成される。これに限定されず、プリズム20は、例えば、半球プリズム又は三角プリズムとして形成されてもよい。プリズム20は、後述する照射光L1及び測定光L2を透過させる。
【0035】
分光分析装置1は、照射光L1を照射する広帯域光源31を有する。例えば、照射光L1の波長帯域は、近赤外域に含まれる。広帯域光源31は、例えば、近赤外域の発光素子を有する光源を含む。本明細書において、「近赤外域」は、例えば、800nm以上2500nm未満の光の波長領域を含む。
【0036】
分光分析装置1は、広帯域光源31から照射された照射光L1を導く導光部品32を有する。導光部品32は、例えば、光ファイバを含んでもよいし、レンズ及びミラー等の空間光学部品を含んでもよい。分光分析装置1は、導光部品32から出射する照射光L1を平行光に調整する光平行化部品33を有する。光平行化部品33は、例えば、レンズ及びミラー等の空間光学部品を含む。
【0037】
分光分析装置1は、プリズム20から出射した測定光L2を集光する集光部品41を有する。集光部品41は、例えば、レンズ及びミラー等の空間光学部品を含む。分光分析装置1は、集光部品41によって集光された測定光L2を導く導光部品42を有する。導光部品42は、例えば、光ファイバを含んでもよいし、レンズ及びミラー等の空間光学部品を含んでもよい。分光分析装置1は、導光部品42を伝搬した測定光L2を検出する検出器43を有する。例えば、測定光L2の波長帯域は、近赤外域に含まれる。検出器43は、例えば、近赤外域の分光素子及び近赤外域の検出素子を有する分光器を含む。
【0038】
光平行化部品33から出射した照射光L1は、電極10が接合されたプリズム20に入射する。照射光L1は、プリズム20を透過して、例えば斜め下方から電極10の裏面へと入射し、プリズム20と電極10との間の界面で全反射する。このとき、電極10の界面には照射光L1に基づくエバネッセント波が発生する。
【0039】
電極10の界面に発生したエバネッセント波は、電極10上で一方向に流れている試料Sの領域にしみ出す。エバネッセント波は、電極10上で一方向に流れている試料Sに吸収される。
【0040】
試料Sの吸収スペクトルの第1情報を含む、照射光L1に基づく測定光L2は、プリズム20を透過してプリズム20から出射する。測定光L2は、プリズム20から出射した後、集光部品41及び導光部品42を介して検出器43に入射する。
【0041】
電極10の裏面から照射光L1が入射する光学系の全反射条件において、エバネッセント波の波長と表面プラズモンの波長とが一致するとき、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴して極大な光吸収が生じる。このような全反射条件は、照射光L1が電極10の裏面、すなわち電極10とプリズム20との間の界面で全反射するための条件を含む。表面プラズモンの共鳴スペクトルは、電極10上の試料Sの屈折率に依存する。より具体的には、試料Sの屈折率に基づいて、表面プラズモンの共鳴スペクトルの極大吸収波長、すなわちピーク波長又は極大吸収角度はシフトする。同様に、照射光L1の電極10に対する入射角度を変化させることで、表面プラズモンの共鳴スペクトルのピーク波長が波長軸方向に変化する。
【0042】
したがって、特定の波長域に共鳴スペクトルのピーク波長をシフトさせて共鳴条件における極大光吸収波長と試料Sの吸収スペクトルのピーク波長とを一致させることが可能となる。これにより、試料Sの吸収スペクトルの強度が見かけ上増大し、試料Sに起因する吸収スペクトルの測定感度が向上する。
【0043】
図2は、図1の分光分析装置1の概略構成に対応するブロック図である。図2を参照しながら、本開示の第1実施形態に係る分光分析装置1の構成についてさらに説明する。
【0044】
分光分析装置1は、照射部30と、検出部40と、記憶部50と、入力部60と、出力部70と、電位調整部80と、制御部90と、を有する。
【0045】
照射部30は、試料Sの領域にしみ出すエバネッセント波を発生させる照射光L1を電極10に照射する任意の光学系を有する。例えば、照射部30は、上述した、広帯域光源31と、導光部品32と、光平行化部品33と、を有する。
【0046】
検出部40は、照射部30によって照射された照射光L1に基づく測定光L2であって、試料Sの吸収スペクトルの第1情報を含む測定光L2を検出する任意の光学系を有する。例えば、検出部40は、上述した、集光部品41と、導光部品42と、検出器43と、を有する。
【0047】
記憶部50は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を含む任意の記憶モジュールを含む。記憶部50は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部50は、分光分析装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。
【0048】
例えば、記憶部50は、検出部40によって検出された測定光L2に含まれる、試料Sの吸収スペクトルの第1情報を記憶する。例えば、記憶部50は、検出部40によって検出された測定光L2に含まれる、付着物の吸収スペクトルの第2情報を記憶する。例えば、記憶部50は、システムプログラム及びアプリケーションプログラム等を記憶する。記憶部50は、分光分析装置1に内蔵されているものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポートによって接続されている外付け型の記憶モジュールを含んでもよい。
【0049】
入力部60は、ユーザの入力操作を受け付けて、ユーザの操作に基づく入力情報を取得する1つ以上の入力インタフェースを含む。例えば、入力部60は、物理キー、静電容量キー、出力部70のディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、及び音声入力を受け付けるマイク等を含むが、これらに限定されない。
【0050】
出力部70は、ユーザに対して情報を出力する1つ以上の出力インタフェースを含む。例えば、出力部70は、情報を画像で出力するディスプレイ、又は情報を音声で出力するスピーカ等であるが、これらに限定されない。
【0051】
電位調整部80は、ポテンショスタットなどの装置を含む。電位調整部80は、図1に示すとおり電極10と導電線13を介して電気的に接続されている。電位調整部80は、導電線13を介して電極10の電位を任意に調整する。
【0052】
制御部90は、1つ以上のプロセッサを含む。一実施形態において「プロセッサ」は、汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。制御部90は、分光分析装置1を構成する各構成部と通信可能に接続され、分光分析装置1全体の動作を制御する。
【0053】
制御部90は、電極10の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解するように電極10の電位を電位調整部80により調整する。制御部90は、試料Sの吸収スペクトルの第1情報及び電極10の界面に付着した付着物の吸収スペクトルの第2情報を照射部30及び検出部40を制御しながら取得する。例えば、制御部90は、照射部30を制御して、電極10上で一方向に流れている試料Sの状態を分光分析するための照射光L1を照射させる。例えば、制御部90は、電極10上で一方向に流れている試料Sの吸収スペクトルの第1情報及び付着物の吸収スペクトルの第2情報を検出部40から取得する。
【0054】
制御部90は、取得された第1情報及び第2情報を、記憶部50に格納する。制御部90は、取得された第1情報及び第2情報を、出力部70によりユーザに対して出力してもよい。すなわち、制御部90は、取得された第1情報に基づいて、電極10上で一方向に流れている試料Sの吸収スペクトルを出力部70により表示してもよい。制御部90は、取得された第2情報に基づいて、電極10の界面に付着した付着物の吸収スペクトルを出力部70により表示してもよい。
【0055】
制御部90は、検出部40から取得された第1情報に基づいて、電極10上で一方向に流れている試料Sの状態を分析する。制御部90は、検出部40から取得された第2情報に基づいて、電極10の界面に付着した付着物の吸収スペクトルのピーク強度を算出する。制御部90は、分析又は算出されたこれらの情報を、出力部70によりユーザに対して出力してもよい。
【0056】
制御部90は、検出部40から取得された第2情報に基づいて、電極10の界面に付着した付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいか否かを判定する。制御部90は、第1閾値よりも大きいと判定すると電極10の電位を調整する。本明細書において、「第1閾値」は、例えば入力部60を用いたユーザの入力操作に基づく入力情報により適宜定められたスペクトル強度に関する値を含んでもよいし、製品として分光分析装置1を製造するときの初期設定により予め定められたスペクトル強度に関する値を含んでもよい。
【0057】
制御部90は、検出部40から取得された第2情報に基づいて、電極10の界面に付着した付着物の吸収スペクトルのピークが第2閾値よりも小さいか否かを判定する。制御部90は、第2閾値よりも小さいと判定すると電極10の電位の調整処理を停止する。本明細書において、「第2閾値」は、例えば入力部60を用いたユーザの入力操作に基づく入力情報により適宜定められたスペクトル強度に関する値を含んでもよいし、製品として分光分析装置1を製造するときの初期設定により予め定められたスペクトル強度に関する値を含んでもよい。第2閾値は、第1閾値よりも小さい。
【0058】
図3は、図1の電極10を上方から見たときの模式図である。第1実施形態では、電極10は、円筒状のプリズム20の上面に製膜されている。電極10は、互いに隣接する対極11及び作用電極12を一組含む。対極11及び作用電極12のそれぞれは、矩形状に形成されている。対極11の面積は、作用電極12の面積と同一である。対極11及び作用電極12のそれぞれには、図1の導電線13が接続される電極端子14が形成されている。
【0059】
照射部30からの照射光L1は、プリズム20上の対極11及び作用電極12を含む電極10全体に照射される。電極10の金属薄膜上に付着物が吸着及び堆積すると、付着物の吸収スペクトルのピークが大きくなる。制御部90は、付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、対極11と作用電極12との間に電圧を印加する。対極11と作用電極12との間に存在している付着物の種類が既知であり、後述する図11のような電流電位曲線に関するデータが例えば記憶部50に記憶されている場合、制御部90は、記憶部50に記憶されている当該データを参照して、電流電位曲線で電流値が最も大きくなる電位を選択し、電位調整部80を制御する。
【0060】
電極10の表面電位の変化に伴って分子が吸着又は脱離を行う現象がよく知られている。制御部90は、電位調整部80を制御しながら、電極端子14に電圧を印加し、プリズム20上の対極11と作用電極12との間に電圧を印加する。これにより、制御部90は、作用電極12の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解する。結果、分光分析装置1は、作用電極12上の付着物を脱離させ、当該電極表面を清浄にする。
【0061】
その後、制御部90は、対極11及び作用電極12のそれぞれの電位が反転するように電位調整部80を制御する。これにより、酸化還元反応による付着物の分解が、作用電極12の界面に代わって対極11の界面に対しても実現される。結果、分光分析装置1は、対極11及び作用電極12を含む電極10全体に対して付着物を脱離させ、電極10表面を清浄にする。
【0062】
電極10の金属薄膜上における付着物の脱離が進むと、付着物の吸収スペクトルのピークが小さくなる。制御部90は、付着物の吸収スペクトルのピークが第2閾値よりも小さいと判定すると、対極11と作用電極12との間への電圧の印加を停止する。すなわち、制御部90は、電位調整部80の動作を停止させて、電極10に印加される電圧をゼロにする。
【0063】
図4は、図1の分光分析装置1の動作の一例を説明するためのフローチャートである。図4を参照しながら、分光分析装置1の動作の一例について主に説明する。
【0064】
ステップS100では、分光分析装置1は、照射部30を用いて、分光分析の対象となる試料Sが接触する電極10に照射光L1を照射する。
【0065】
ステップS101では、分光分析装置1は、ステップS100において照射された照射光L1に基づいて、電極10の界面に付着した付着物の付着領域を含む試料Sの領域にしみ出すエバネッセント波を発生させる。
【0066】
ステップS102では、分光分析装置1は、ステップS100において照射された照射光L1に基づく測定光L2であって、試料Sの吸収スペクトルの第1情報及び付着物の吸収スペクトルの第2情報を含む測定光L2を検出部40により検出する。
【0067】
ステップS103では、分光分析装置1は、試料Sの吸収スペクトルの第1情報及び付着物の吸収スペクトルの第2情報を、ステップS102において検出部40により検出された測定光L2に基づき取得する。
【0068】
ステップS104では、分光分析装置1は、ステップS103において検出部40から取得された第2情報に基づいて、付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいか否かを判定する。分光分析装置1は、ピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、ステップS105の処理を実行する。分光分析装置1は、ピークが第1閾値以下であると判定すると、ステップS108の処理を実行する。
【0069】
ステップS105では、分光分析装置1は、ステップS104において付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、対極11と作用電極12との間に電圧を印加する。
【0070】
ステップS106では、分光分析装置1は、付着物の吸収スペクトルのピークが第2閾値よりも小さいか否かを判定する。すなわち、分光分析装置1は、ステップS105における電圧の印加によって電極10界面の付着物の分解が進み、付着物の吸収スペクトルのピークが第2閾値よりも小さくなったか否かを判定する。分光分析装置1は、ピークが第2閾値よりも小さいと判定すると、ステップS107の処理を実行する。分光分析装置1は、ピークが第2閾値以上であると判定すると、ステップS106の処理を再度実行する。
【0071】
ステップS107では、分光分析装置1は、ステップS106において付着物の吸収スペクトルのピークが第2閾値よりも小さいと判定すると、対極11と作用電極12との間への電圧の印加を停止する。
【0072】
ステップS108では、分光分析装置1は、ステップS103において検出部40から取得された第1情報に基づいて、電極10で一方向に流れている試料Sの状態を分析する。
【0073】
以上のような第1実施形態に係る分光分析装置1によれば、試料Sの分光分析に係る測定の信頼性が向上する。分光分析装置1は、電極10の界面に付着した付着物が酸化還元反応により分解するように対極11と作用電極12との間に電圧を印加することで、電極10の界面に付着した付着物を分解できる。例えば、分光分析装置1は、電極10の界面に吸着又は堆積したタンパク質等の有機物を分解して脱離させることが可能となる。以上により、付着物に基づく分光情報を抑制して試料Sの分光スペクトルを主に測定することが可能となるので、測定の信頼性が向上する。
【0074】
加えて、分解された付着物は、電極10に接触する試料Sの流れによって洗い流される。これにより、分光分析装置1は、従来技術において必要とされていた、ふき取り、界面活性剤による洗浄、及び表面研磨等を含む洗浄処理を省略可能とする。したがって、分光分析装置1は、試料Sの分光分析に係る測定を連続的に行うことができ、試料Sの分光分析に係る測定の効率が向上する。
【0075】
仮に、試料Sが電極10上の所定領域にとどまっているような場合であっても、分解された付着物をふき取ったり、又は吸い取ったりする単純な作業のみが必要とされ、界面活性剤による洗浄及び表面研磨等の複雑な作業は不要となる。したがって、分光分析装置1は、試料Sの分光分析に係る測定を停止して洗浄処理が実行される間の時間を最小限に抑えることが可能となり、試料Sの分光分析に係る測定の効率を向上させることが可能である。
【0076】
以上のように試料Sの分光分析に係る測定の効率が向上することで、従来技術と比較して測定時間が短縮化される。加えて、従来技術と比較して分光分析装置1の保守又は管理に必要となるコストが低減可能である。さらに、分光分析装置1では、電極10の界面に付着した付着物が容易に除去され、付着物による測定不良が容易に回避される。したがって、測定に関する長期安定性が向上し、分光分析装置1の製品としての信頼性も向上する。
【0077】
対極11及び作用電極12のそれぞれが矩形状に形成されていることで、円筒プリズムとして構成されるプリズム20の矩形状の上面に合わせて、各電極を適切に配置可能である。すなわち、プリズム20の上面において電極10が配置されていない面積を最小限に抑制可能である。
【0078】
電極10がプリズム20の試料S側の面上に製膜されていることで、電極10とプリズム20とが一体的に形成される。これにより、分光分析装置1では、後述する基板21のような付加的な部品が不要となり、部品点数が低減する。
【0079】
制御部90は、付着物の吸収スペクトルのピークが第1閾値よりも大きいと判定すると、対極11と作用電極12との間に電圧を印加し、第2閾値よりもピークが小さいと判定すると電圧の印加を停止する。これにより、分光分析装置1は、電極10の界面に付着した付着物の酸化還元反応に基づく除去処理を自動的に実行することができる。したがって、ユーザの利便性が向上する。
【0080】
以下では、電極10について第1実施形態における構成とは異なる構成を有する他の実施形態について主に説明する。各実施形態において、主に電極10の構成が第1実施形態と相違する。その他の構成、機能、効果、及び変形例等については、第1実施形態と同様であり、対応する説明が各実施形態に係る分光分析装置1においても当てはまる。以下では、第1実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0081】
(第2実施形態)
図5は、本開示の第2実施形態に係る分光分析装置1の電極10を上方から見たときの模式図である。図5に示すとおり、第2実施形態に係る分光分析装置1の電極10では、対極11の面積は、作用電極12の面積よりも大きい。例えば、それぞれ矩形状に形成されている対極11及び作用電極12において、長手方向の幅は互いに同一である一方で、短手方向の幅が互いに異なる。
【0082】
以上のような第2実施形態に係る分光分析装置1によれば、対極11表面の電流密度を低下させることが可能となり、対極11における電位変動を抑制可能である。このような電位変動の抑制効果によって、電位調整部80による精密な電位調整が可能になる。
【0083】
(第3実施形態)
図6は、本開示の第3実施形態に係る分光分析装置1の電極10を上方から見たときの模式図である。図6に示すとおり、第3実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、互いに隣接する対極11及び作用電極12を複数組含み、対極11と作用電極12とが交互に配列されるように形成されている。このとき、対極11の面積は、作用電極12の面積と同一である。このように、電極10は、対極11と作用電極12とを交互に配置した櫛型の電極構造を有する。
【0084】
以上のような第3実施形態に係る分光分析装置1によれば、作用電極12上の所定の位置と対極11上の所定の位置との間の距離が位置ごとに異なっているとしても、そのような距離の不均一性が抑制される。例えば、図3に示す対極11及び作用電極12の場合、対極11における所定の位置から、プリズム20の上面の長手方向に沿った作用電極12の一端までの距離と、当該位置から他端までの距離とは大きく相違する。一方で、図6に示す対極11及び作用電極12の場合、対極11における所定の位置から、プリズム20の上面の長手方向に沿った作用電極12の一端までの距離と、当該位置から他端までの距離とは大きくは相違しない。したがって、以上のような距離の違いによって生じる抵抗の偏りが抑制される。
【0085】
(第4実施形態)
図7は、本開示の第4実施形態に係る分光分析装置1の電極10を上方から見たときの模式図である。図7に示すとおり、第4実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、第2実施形態及び第3実施形態を組み合わせたような構成を有する。より具体的には、第2実施形態と同様に、対極11の面積は、作用電極12の面積よりも大きい。また、第3実施形態と同様に、電極10は、対極11と作用電極12とを交互に配置した櫛型の電極構造を有する。
【0086】
以上のような第4実施形態に係る分光分析装置1によれば、第2実施形態及び第3実施形態における効果と同様の効果を奏する。
【0087】
(第5実施形態)
図8は、本開示の第5実施形態に係る分光分析装置1の電極10を上方から見たときの模式図である。図8に示すとおり、第5実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、図6のような櫛型の電極構造を有する。加えて、電極10では、各電極の長手方向の両端が導電線13を介して電位調整部80に接続されている。このとき、分光分析装置1の制御部90は、対極11及び作用電極12のそれぞれに対して、長手方向の両側から同一の電位を印加するように電位調整部80を制御する。
【0088】
以上のような第5実施形態に係る分光分析装置1によれば、各電極が有する長手方向の抵抗の偏りが補正可能となる。抵抗の偏りの補正により、電位変動が抑制される。結果として、電極10表面に吸着する付着物をより効果的に脱離させることが可能となる。
【0089】
(第6実施形態)
図9は、本開示の第6実施形態に係る分光分析装置1の電極10を上方から見たときの模式図である。図9に示すとおり、第6実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、第4実施形態及び第5実施形態を組み合わせたような構成を有する。より具体的には、電極10は、第4実施形態と同様に、対極11の面積が作用電極12の面積よりも大きく、かつ対極11と作用電極12とを交互に配置した櫛型の電極構造を有する。また、第5実施形態と同様に、電極10では、各電極の長手方向の両端が導電線13を介して電位調整部80に接続されている。
【0090】
以上のような第6実施形態に係る分光分析装置1によれば、第4実施形態及び第5実施形態における効果と同様の効果を奏する。
【0091】
(第7実施形態)
図10は、本開示の第7実施形態に係る分光分析装置1の概略構成を示す模式図である。図11は、試料S及び付着物を含む物質全体の電流電位曲線の一例を示す模式図である。
【0092】
図10に示すとおり、第7実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、対極11及び作用電極12に加えて、試料Sが流れる流路において反対側の内壁面に取り付けられている参照電極15を有する。参照電極15は、試料S中に配置されている。このように、第7実施形態では、電極10は、3局式電極方式で構成される。制御部90は、電位調整部80を用いて作用電極12と参照電極15との間の電位を制御しながら、作用電極12と対極11との間に電流を流す。
【0093】
このとき、一例として図11に示すような電流電位曲線を得ることができる。したがって、参照電極15の表面が負電位又は正電位の状態となるときに、参照電極15及び溶液界面の物質状態を測定することが可能となる。対極11の表面が負電位又は正電位の状態となるときに、対極11及び溶液界面の物質状態を測定することが可能となる。制御部90は、このような電流電位曲線に関するデータを取得して、記憶部50に格納する。制御部90は、記憶部50に格納された当該データを参照しながら、電極10の界面に付着した付着物を酸化還元反応により分解するときの電位を選択し、電位調整部80を制御する。
【0094】
以上のような第7実施形態に係る分光分析装置1によれば、付着物の吸収スペクトルと共に、図11のような電流電位曲線を得ることができる。このような電流電位曲線は、電極10の材料と、電極10の界面に付着した付着物の種類と、に依存する。すなわち、電極10の材料が既知である場合、電流電位曲線のプロファイルから電極10の界面に付着した付着物の種類を特定することが可能である。制御部90は、このような電流電位曲線に基づいて電極10の界面に付着した付着物を識別しつつ、付着物の吸収スペクトルのピーク強度を算出しながら電極10への電圧印加による付着物の分解を確認することができる。
【0095】
(第8実施形態)
図12は、本開示の第8実施形態に係る分光分析装置1の概略構成を示す模式図である。図12に示すとおり、第8実施形態に係る分光分析装置1は、プリズム20の試料S側の面に配置されている基板21をさらに有する。基板21は、プリズム20と同一の屈折率を有してもよい。第8実施形態に係る分光分析装置1の電極10は、プリズム20の上面に直接製膜されているのではなく、当該基板21上に製膜されている。
【0096】
以上のような第8実施形態に係る分光分析装置1によれば、プリズム20上にプリズム20と同一の屈折率を有する基板21を配置することで、電極10表面の汚染がひどい場合、及び電極10の表面が傷ついた場合など、プリズム20自体を交換する必要がない。プリズム20に代えて、基板21のみの交換が可能となる。プリズム20自体を交換すると複雑な光学調整が必要となるが、基板21のみの交換によってこのような複雑な光学調整が不要となる。したがって、電極10の交換が必要となるときであっても、交換に要する作業が容易であり、作業効率が向上する。
【0097】
(第9実施形態)
図13は、本開示の第9実施形態に係る分光分析装置1の電極10を斜め上方から見たときの模式図である。図13に示すとおり、第9実施形態に係る分光分析装置1の電極10では、作用電極12は、プリズム20の試料S側の面上に製膜されている。一方で、対極11は、作用電極12と対向するように作用電極12に対してプリズム20と反対側に配置されている。
【0098】
以上のような第9実施形態に係る分光分析装置1によれば、作用電極12と対極11とが全体として等距離となり、かつ近距離に配置できるため、酸化還元反応により生じる電流の偏りが抑制される。作用電極12の電位が均一化し、電極表面での酸化還元反応の制御性が向上する。したがって、ユーザが意図した電極クリーニング、すなわち付着物の除去を行うことができる。加えて、上述した表面プラズモン共鳴近赤外分光法において作用電極12の大面積化が可能であり、表面プラズモン共鳴に基づく信号強度が増大する。
【0099】
なお、第9実施形態において参照電極15を設置するとき、参照電極15は、対極11及び作用電極12のいずれか一方が配置されている平面と同一の平面内に配置される。
【0100】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0101】
例えば、本開示は、上述した分光分析装置1の各機能を実現する処理内容を記述したプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。本開示の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0102】
例えば、上述した各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、配置、向き、及び個数は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0103】
上記各実施形態において、試料Sは、図1のように一方向に流れると説明したが、これに限定されない。試料Sは、電極10上の所定領域にとどまっていてもよい。
【0104】
上記各実施形態において、対極11及び作用電極12のそれぞれは、矩形状に形成されていると説明したが、これに限定されない。対極11及び作用電極12のそれぞれは、例えばプリズム20の上面の形状に合わせて任意の形状で形成されていてもよい。
【0105】
上記各実施形態において、分光分析装置1は、電極10の界面に付着した付着物の酸化還元反応に基づく除去処理を、付着物の吸収スペクトルのピーク強度と第1閾値及び第2閾値との比較に基づいて自動的に実行すると説明したが、これに限定されない。このような除去処理をユーザ自身が行ってもよい。
【0106】
ユーザは、電極10が試料S内に配置されてから所定期間経過後に電位調整部80を操作して対極11と作用電極12との間に電圧を印加してもよい。ユーザは、付着物を除去するための適切な電位及び印加時間等のパラメータを電極10の材料及び付着物の種類に対して関連付ける事前の実験を行ってもよい。ユーザは、このような事前の実験で得られたデータに基づいて、電極10の特定の材料及び付着物の特定の種類に対し、対極11と作用電極12との間に電圧を印加するときのパラメータを決定してもよい。
【0107】
分光分析装置1は、電極10の界面に付着した付着物の酸化還元反応に基づく除去処理を、付着物の吸収スペクトルのピーク強度と一の閾値又は3つ以上の閾値との比較に基づいて任意の方法で自動的に実行してもよい。
【0108】
上記各実施形態において、対極11及び作用電極12のそれぞれは、平板状の構造に限定されず、波構造及び線状等の任意の構造を有してもよい。
【0109】
上記各実施形態において、照射部30からの照射光L1は、作用電極12上のみに照射されてもよい。このとき、照射部30は、対極11及び作用電極12のそれぞれの電位が反転すると同時に光路を切り替えて照射光L1を対極11上のみに照射してもよい。なお、対極11及び作用電極12のそれぞれの電位を反転させず、作用電極12上の付着物のみを除去する場合、照射部30は、光路を一定にして作用電極12上のみに照射光L1を照射してもよい。
【0110】
上記各実施形態において、分光分析装置1は、表面プラズモン共鳴近赤外分光法を用いた装置のみならず、近赤外分光装置、ラマン分光装置、赤外分光装置、可視-紫外分光装置、及びバイオセンサ等の任意の装置に応用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 分光分析装置
10 電極
11 対極
12 作用電極
13 導電線
14 電極端子
15 参照電極
20 プリズム
21 基板
30 照射部
31 広帯域光源
32 導光部品
33 光平行化部品
40 検出部
41 集光部品
42 導光部品
43 検出器
50 記憶部
60 入力部
70 出力部
80 電位調整部
90 制御部
L1 照射光
L2 測定光
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13