(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/04 20060101AFI20240918BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240918BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20240918BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240918BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240918BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20240918BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240918BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/06
H02P21/05
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L58/10
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2021174916
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2021005214
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大畠 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】土門 薫
(72)【発明者】
【氏名】高松 直義
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-033861(JP,A)
【文献】特許第5752275(JP,B2)
【文献】特開2013-215041(JP,A)
【文献】特開2017-153227(JP,A)
【文献】特開平05-176584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/04
H02P 27/06
H02P 21/05
B60L 9/18
B60L 50/60
B60L 58/10
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
三相交流モータと、
前記直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換して前記三相交流モータに出力するインバータと、
前記インバータを制御し、前記三相交流モータへの入力電圧を制御する制御部と、
を備えた電動車両の制御装置であって、
前記制御部は、
前記電動車両に設けられた各種センサから入力された信号に基づいて、前記直流電源の電流である電源電流に電気周波数の倍数成分である6n次成分のリプルが発生していることを検知し、
前記各種センサから入力された信号に基づいて、前記三相交流モータのトルクであるモータトルクに電気周波数の倍数成分である6n次成分のリプルが発生していることを検知し、
前記電源電流に前記6n次成分のリプルが発生している場合、
前記電源電流の6n次成分のリプルを打ち消す
ための補正成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御
し、
前記モータトルクに前記6n次成分のリプルが発生している場合、前記モータトルクの6n次成分のリプルを打ち消すための補正成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御し、
前記補正成分は、6n-1次成分と6n+1次成分とのうちの少なくとも一方を含み、
さらに前記制御部は、
前記三相交流モータの動作点に応じて、前記電源電流と前記モータトルクとのうち前記電源電流の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第1補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクとのうち前記モータトルクの6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第2補正制御とを切り替える
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
直流電源と、
三相交流モータと、
前記直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換して前記三相交流モータに出力するインバータと、
前記インバータを制御し、前記三相交流モータへの入力電圧を制御する制御部と、
を備えた電動車両の制御装置であって、
前記制御部は、
前記電動車両に設けられた各種センサから入力された信号に基づいて、前記直流電源の電流である電源電流に電気周波数の倍数成分である6n次成分のリプルが発生していることを検知し、
前記各種センサから入力された信号に基づいて、前記三相交流モータのトルクであるモータトルクに電気周波数の倍数成分である6n次成分のリプルが発生していることを検知し、
前記各種センサから入力された信号に基づいて、磁束に電気周波数の倍数成分である6n次成分の歪みが発生していることを検知し、
前記電源電流に前記6n次成分のリプルが発生している場合、前記電源電流の6n次成分のリプルを打ち消すための補正成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御し、
前記モータトルクに前記6n次成分のリプルが発生している場合、前記モータトルクの6n次成分のリプルを打ち消すための補正成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御し、
前記磁束に前記6n次成分の歪みが発生している場合、前記磁束の6n次成分の歪みを打ち消すための補正成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御し、
前記補正成分は、6n-1次成分と6n+1次成分とのうちの少なくとも一方を含み、
さらに前記制御部は、
前記三相交流モータの動作点に応じて、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記電源電流の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第1補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記モータトルクの6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第2補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記磁束の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第3補正制御と、を切り替える
ことを特徴とす
る電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三相交流モータの駆動システムにおいて、インバータのスイッチングにより発生する電源電圧リプルを低減するために、インバータの電圧指令に電気3次の高調波成分を加える補正制御を実行することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、電源電圧リプルへの対策によってスイッチング周波数成分のリプルを低減することができるものの、電源電流リプルやモータトルクリプルへの対策は考慮されていないため、電気周波数の倍数成分が低減されず、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電気周波数の倍数成分を低減することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、直流電源と、三相交流モータと、前記直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換して前記三相交流モータに出力するインバータと、前記インバータを制御し、前記三相交流モータへの入力電圧を制御する制御部と、を備えた電動車両の制御装置であって、前記制御部は、前記入力電圧に相関のあるパラメータに所定の高周波数成分が含まれる場合、前記高周波数成分を打ち消す成分を前記入力電圧に加える補正を行い、その補正後の入力電圧に基づいて前記三相交流モータを制御することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、三相交流モータへの入力電圧に相関のあるパラメータに所定の高周波数成分が含まれる場合、その高周波数成分を打ち消す成分を入力電圧に加える補正を行うことによって、電気周波数の倍数成分を低減することができる。
【0008】
また、前記高周波数成分は、6n次成分であってもよい。
【0009】
この構成によれば、パラメータの6n次成分リプルへの対策が可能になる。
【0010】
また、前記高周波数成分を打ち消す成分は、6n-1次成分と6n+1次成分とのうちの少なくとも一方を含んでもよい。
【0011】
この構成によれば、交流側の6n-1次成分と6n+1次成分を調整することによって、パラメータの6n次成分リプルを低減することができる。
【0012】
また、前記パラメータは、電源電流とモータトルクとのうちの少なくとも一方を含んでもよい。
【0013】
この構成によれば、電源電流リプルとモータトルクリプルへの対策が可能になり、制御装置に求められる複数の目的を同時に達成することができる。
【0014】
また、前記制御装置は、前記三相交流モータの動作点に応じて、前記電源電流と前記モータトルクとのうち前記電源電流の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第1補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクとのうち前記モータトルクの6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第2補正制御とを切り替えてもよい。
【0015】
この構成によれば、第1補正制御と第2補正制御とを切り替えて実施するため、電源電流リプルを低減する制御とモータトルクリプルを低減する制御とが干渉し合うことを回避できる。
【0016】
また、前記パラメータは、磁束を含んでもよい。
【0017】
この構成によれば、磁束の歪みを抑制することができるので、高調波鉄損を低減することができる。これにより、高調波鉄損を低減し、システムの効率を向上させることができる。
【0018】
また、前記制御装置は、前記三相交流モータの動作点に応じて、前記磁束の6n次成分を打ち消すように前記補正を行う補正制御と、前記補正を行わない通常制御とを切り替えてもよい。
【0019】
この構成によれば、モータの状態に応じて、補正制御と通常制御とを切り替えて実施するため、磁束の歪みを低減することと効率を確保することとの両立を図ることができる。
【0020】
また、前記パラメータは、電源電流とモータトルクと磁束とのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0021】
この構成によれば、電源電流リプルとモータトルクリプルと高調波鉄損への対策が可能になり、制御装置に求められる複数の目的を同時に達成することができる。
【0022】
また、前記制御装置は、前記三相交流モータの動作点に応じて、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記電源電流の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第1補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記モータトルクの6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第2補正制御と、前記電源電流と前記モータトルクと前記磁束とのうち前記磁束の6n次成分のみを打ち消すように前記補正を行う第3補正制御と、を切り替えてもよい。
【0023】
この構成によれば、第1補正制御と第2補正制御と第3補正制御とを切り替えて実施するため、電源電流リプルを低減する制御とモータトルクリプルを低減する制御と高調波鉄損を低減する制御とが干渉し合うことを回避できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、三相交流モータへの入力電圧に相関のあるパラメータに所定の高周波数成分が含まれる場合、その高周波数成分を打ち消す成分を入力電圧に加える補正を行うことによって、電気周波数の倍数成分を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態における電動車両の構成を模式的に示すシステム構成図である。
【
図2】
図2は、電源電流リプルの発生メカニズムを説明するための図である。
【
図3】
図3は、電源電流の6次リプルを示す波形図である。
【
図4】
図4は、直流側のパワー変動を説明するための図である。
【
図5】
図5は、モータ電流に歪みが生じる要因を説明するための図である。
【
図6】
図6は、電源電流リプルへの対策方法を示す説明図である。
【
図7】
図7は、電源電流リプルへの対策としてインバータ電圧に意図的に歪みを追加した際の波形を説明するための図である。
【
図8】
図8は、補正制御を実施した際の電源電流の波形を示す波形図である。
【
図9】
図9は、モータトルクリプルを説明するための図である。
【
図10】
図10は、モータトルクリプルへの対策方法を示す説明図である。
【
図11】
図11は、モータの動作点に応じて補正制御が切り替わることを説明するためのマップ図である。
【
図12】
図12は、切り替え処理フローを示すフローチャート図である。
【
図14】
図14は、高調波鉄損への対策方法を示す説明図である。
【
図15】
図15は、モータの動作点に応じて磁束についての補正制御が実施されることを説明するためのマップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における電動車両の制御装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0027】
図1は、実施形態における電動車両の構成を模式的に示すシステム構成図である。
図1に示すように、電動車両1は、直流電源10と、インバータ20と、モータ30と、制御装置40とを備えている。この電動車両1はモータ30を動力源とする車両である。また、電動車両1におけるモータ駆動システム50は、直流電源10とインバータ20とモータ30とを含んで構成されている。
【0028】
直流電源10は、モータ30に供給するための電力を蓄えることが可能な蓄電装置である。この直流電源10は、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池により構成されている。
【0029】
インバータ20は、直流電源10から供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換装置であり、変換後の交流電力をモータ30に出力する。このインバータ20は制御装置40と電気的に接続されており、制御装置40によりその駆動状態が制御される。具体的には、インバータ20は制御装置40からの三相電圧指令に基づいて、モータ30に三相電圧を印加する。つまり、インバータ20は三相インバータである。
【0030】
このインバータ20は、p側スイッチング素子およびn側スイッチング素子を含むU相アームと、p側スイッチング素子およびn側スイッチング素子を含むV相アームと、p側スイッチング素子およびn側スイッチング素子を含むW相アームとを備えている。インバータ20の各スイッチング素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などにより構成されている。また、インバータ20の各相アームは、直流電源10の正極に接続された正極線と直流電源10の負極に接続された負極線との間に並列に接続されている。インバータ20のスイッチング素子には、エミッタ側からコレクタ側へと電流を流すダイオードが接続されている。そして、各相アームのp側スイッチング素子とn側スイッチング素子との中間点は、それぞれモータ30の各相コイル(U相コイル,V相コイル,W相コイル)に接続されている。
【0031】
モータ30は、電動車両1における走行用の動力源であり、ロータに永久磁石が埋設された三相交流電動発電機である。つまり、モータ30は三相交流モータである。モータ30には、印加された三相電圧に応じて三相電流が流れ、トルクが発生する。このモータ30は電動車両1の駆動輪に機械的に連結され、電動車両1を駆動するためのトルクを発生可能である。電動車両1の制動時、モータ30は電動車両1の運動エネルギの入力を受けて回生(発電)を行うことも可能である。例えば電動車両1がハイブリッド車両である場合、モータ30はエンジンに機械的に連結され、エンジンの動力により回生を行うことも、エンジンの動力をアシストすることも可能である。
【0032】
また、インバータ20によってモータ30に三相電圧が印加されると、モータ30の各相コイルにはモータ電流が流れる。モータ電流は、モータ30のU相コイルを流れるU相電流Iuと、モータ30のV相コイルを流れるV相電流Ivと、モータ30のW相コイルを流れるW相電流Iwとを含む。
【0033】
制御装置40は、モータ駆動システム50の動作を制御する電子制御装置である。この制御装置40は、プロセッサと、メモリと、を備えている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などからなる。メモリは、主記憶装置であって、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などからなる。そして、制御装置40は、予めROMに格納されたプログラムをメモリの作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部などを制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。さらに、制御装置40は、予めROMに格納された制御プログラムに従って、モータ駆動システム50に生じるリプルを低減するための制御(リプル低減制御)を実行可能である。
【0034】
また、制御装置40には、各種センサからの信号が入力される。制御装置40に入力される信号としては、モータ30の回転位置を検出する回転位置センサからのモータ30の回転位置や、モータ30のU相,V相の相電流を検出する電流センサからのモータ30のU相電流IuとV相電流Ivを挙げることができる。また、直流電源10の電圧を検出する電圧センサからの直流電源10の電圧Vbや、直流電源10の電流を検出する電流センサからの直流電源10の電流(以下、電源電流という)を挙げることができる。さらに、イグニッションスイッチからのイグニッション信号や、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサからのシフトポジションや、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサからのアクセル開度や、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサからのブレーキペダルポジションや、車速センサからの車速などを挙げることができる。そして、制御装置40は各種センサから入力された信号に基づいて各種の制御を実行する。例えば、制御装置40は、回転位置センサから入力されたモータ30の回転位置に基づいてモータ30の電気角や回転数を演算する。
【0035】
このように構成された電動車両1では、制御装置40は、アクセル開度と車速とに基づいて要求トルクを設定する。制御装置40は、この要求トルクをモータ30のトルク指令Trに設定する。そして、制御装置40は、モータ30のトルク指令Trを用いてインバータ20の各スイッチング素子のスイッチング制御を実行する。スイッチング制御を行う際、制御装置40からは、インバータ20の各スイッチング素子へのスイッチング信号が出力される。
【0036】
この制御装置40は、インバータ20の動作を制御するインバータ制御部100を備えている。インバータ制御部100は、トルク制御部110と、電流制御部120と、ゲート信号変換部130と、電圧指令補正器140とを備えている。このインバータ制御部100は、モータ30への入力電圧を制御する。
【0037】
トルク制御部110は、モータ30のトルク指令Trに基づいて、二相の電流指令(Idtg,Iqtg)を生成する。生成された二相の電流指令Idtg,Iqtgは、トルク制御部110から電流制御部120に出力される。
【0038】
電流制御部120は、トルク制御部110から入力される二相の電流指令Idtg,Iqtgに基づいて、三相の電圧指令(Vu,Vv,Vw)を生成する。生成された三相の電圧指令Vu,Vv,Vwは、電流制御部120からゲート信号変換部130に出力される。
【0039】
例えば、電流制御部120には、インバータ20からのフィードバック情報として、V相電流IvとW相電流Iwとが入力される。電流制御部120は、これらV相電流IvおよびW相電流Iwに基づいて、三相電流値を、d軸電流Idおよびq軸電流Iqからなる二相電流値に変換する。電流制御部120は、変換後の二相電流値(Id,Iq)と、トルク制御部110から入力された二相の電流指令Idtg,Iqtgとの差分に基づいて、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqからなる二相の電圧指令を生成する。そして、電流制御部120は、生成した二相の電圧指令(Vd,Vq)を三相の電圧指令(Vu,Vv,Vw)に変換する。このようにして電流制御部120は三相の電圧指令を生成する。
【0040】
ゲート信号変換部130は、電流制御部120から入力された三相の電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ20の各相スイッチング素子におけるゲート信号(スイッチング信号)を生成する。ゲート信号は、スイッチング素子のオンとオフとを切り替えるスイッチング信号である。生成された各相のスイッチング信号は、インバータ20に出力される。
【0041】
このゲート信号変換部130によるスイッチング信号の生成には、公知の方法(例えばPWMなど)を用いることができる。例えば、ゲート信号変換部130は、キャリア生成部から所定のキャリア周波数を有するキャリアを受け取ることが可能に構成されている。ゲート信号変換部130は、このキャリアと三相の電圧指令Vu,Vv,Vwとの大小関係を比較する。そして、ゲート信号変換部130は、この比較結果に応じて論理状態が変化するスイッチング信号として、U相スイッチング信号Gup,Gunと、V相スイッチング信号Gvp,Gvnと、W相スイッチング信号Gwp,Gwnとを生成する。この生成された各相のスイッチング信号がインバータ20に入力される。そして、インバータ20が各相スイッチング信号により規定される各スイッチング素子の駆動状態に変化または維持されると、その駆動状態に対応する回路状態に応じてモータ30が駆動される。このインバータ20の制御態様は、PWM制御の一態様である。また、各相に対応するスイッチング信号のうち、「p」という識別子が付された信号は、各相のスイッチング素子のうちp側スイッチング素子を駆動するための駆動信号であり、「n」という識別子が付された信号は、各相のスイッチング素子のうちn側スイッチング素子を駆動するための駆動信号である。
【0042】
電圧指令補正器140は、電流制御部120から出力された三相の電圧指令Vu,Vv,Vwを補正する。この電圧指令補正器140は、電流制御部120から出力された三相の電圧指令(Vu,Vv,Vw)に所定の補正成分を加える補正を行う。
【0043】
このように構成された制御装置40では、インバータ制御部100は、電圧指令補正器140による補正を行わない通常制御と、電圧指令補正器140による補正を行う補正制御とを切り替えて実施する。
【0044】
例えば、直流電源10の電源電流に電気周波数の倍数成分のリプルが発生している場合、電圧指令補正器140は、そのリプルを打ち消すための成分(補正成分)を電圧指令に加える補正を行う。つまり、補正制御の実行条件として、電気周波数の倍数成分を含む電源電流リプルが発生している場合が挙げられる。制御装置40は各種センサから入力される信号に基づいて、電源電流にリプルが発生していることを検知することができる。また、この電気周波数の倍数成分は、電源電流の6n次成分を含む。このように制御装置40は、モータ駆動システム50に生じるリプルを低減するためのリプル低減制御として、電圧指令補正器140により電圧指令を補正する補正制御を実施する。
【0045】
この電圧指令補正器140の構成について、発明者らの知見により、インバータ20の電圧指令に6n-1次歪み成分と6n+1次歪み成分とを加える補正を行うと、電源電流の6n次リプルを低減可能であることが明らかになった。このように、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータは、電源電流を含む。さらに、それぞれの次数成分は独立現象であるため、複数成分のリプルが発生している場合は、それぞれに応じた歪みを足し合わせて電圧指令に加えることができる。つまり、減らしたい次数成分に応じて、各次数の歪み重畳器を追加する。
【0046】
電圧指令補正器140は、6n-1次歪み重畳器141と、6n+1次歪み重畳器142とを備えている。nは自然数である(n=1,2,3,・・・)。
【0047】
6n-1次歪み重畳器141は、電圧指令に電気6n-1次の歪み成分を加える補正を行う。6n+1次歪み重畳器142は、電圧指令に電気6n+1次の歪み成分を加える補正を行う。また、6n-1次歪み重畳器141と6n+1次歪み重畳器142にはそれぞれ、振幅と位相が入力される。この振幅と位相について、制御装置40は、例えばインバータ・モータモデルを用いた推定方法(理論計算)によって振幅と位相を決定する。この理論計算はオンライン計算でも、オフライン計算でもよい。そして、6n-1次歪み重畳器141と6n+1次歪み重畳器142とは、入力された振幅および位相に基づいて、各相の補正値を決定する。電圧指令補正器140は、決定した各相の補正値(電圧指令の補正成分)を出力する。
【0048】
そして、電圧指令補正器140から出力された各相の補正値は、電流制御部120から出力された三相の電圧指令(Vu,Vv,Vw)に加算される。このように制御装置40が電圧指令の補正制御(リプル低減制御)を実行する際、ゲート信号変換部130には、補正成分が加えられた補正後の三相の電圧指令が入力される。ゲート信号変換部130は、補正後の三相の電圧指令に基づいて、インバータ20の各相のスイッチング信号を生成する。
【0049】
ここで、
図2~
図5を参照して、電源電流リプルの発生メカニズムについて説明する。なお、この説明では、モータ駆動システム50の電気回路においてインバータ20よりもモータ30側を「交流側」、インバータ20よりも直流電源10側を「直流側」と記載する。また、
図2に示す発生メカニズムは、発明者らの知見によって明らかとなった。
【0050】
図2は、電源電流リプルの発生メカニズムを説明するための図である。
図2に示すように、交流側で見ると、電流と電圧には6次成分はほぼ含まれていないことが分かった。代わりに、交流側の電流と電圧には、それぞれ5次成分と7次成分が含まれていることが分かった。
【0051】
一方、直流側で見ると、パワーには6次成分が含まれている。この直流側のパワーは、交流側の電流と電圧に基づくものである。つまり、交流側の5次歪みと7次歪みが直流側の6次成分となっていることが明らかになった。このように、発明者の知見により、直流側の6n次成分は、交流側(電圧,電流,磁束)で見ると、三角関数の性質から6n+1次成分および6n-1次成分となることが明らかになった。
【0052】
さらに、直流側では、回路特性によって電気周波数の6次成分が増幅される。リプル成分は平滑用のコンデンサや配線のインダクタンスの共振現象によって増幅される。その結果、電源電流リプルは、
図3に示すように、電気6次成分(電気6次周期)が支配的となる。このように、発明者らの知見により、直流側ではパワー変動が起震源となり、電源電流に6次リプルが発生することが明らかになった。すなわち、直流側のパワー変動を抑制することができれば、電源電流の6n次リプルを低減することが可能になると考えられる。
【0053】
図4は、直流側のパワー変動を説明するための図である。
図4に示すように、電源電流に6n次リプルが発生する場合、直流側のパワーには6n次の変動(6n次パワー変動)が発生している。この直流側のパワー変動は、電圧由来成分の歪みと電流由来成分の歪みに区別することが可能である。さらに、直流側のパワーは、交流側の電圧と電流により決まる。そのため、
図2に示す発生メカニズムを考慮すると、直流側での6n次パワー変動は、交流側の電圧における6n-1次成分および6n+1次成分と、交流側の電流における6n-1次成分および6n+1次成分によって決定される。つまり、直流側での6n次パワー変動における電圧由来成分の歪みは、交流側の電圧における6n-1次歪みおよび6n+1次歪みによるものとなる。直流側での6n次パワー変動における電流由来成分の歪みは、交流側の電流における6n-1次歪みおよび6n+1次歪みによるものとなる。
【0054】
そして、電圧由来成分と電流由来成分とで歪みの大きさを比較すると、電圧由来成分の歪みは相対的に小さく、電流由来成分の歪みは相対的に大きいことが分かる。この結果から、直流側の6n次パワー変動は、主に電流由来成分の歪みによって発生していることになる。すなわち、電源電流に6n次リプルが発生する要因は、交流側の電流における6n-1次歪みおよび6n+1次歪みであると考えられる。
【0055】
図5は、モータ電流に歪みが生じる要因を説明するための図である。
図5に示すように、交流側では、モータ起電力に歪みが発生する。インバータ電圧に歪みが発生してない場合でも、モータ起電力には歪みが発生してしまう。このモータ起電力の歪みによって、交流側のモータ電流に歪みが発生する。また、インバータ20でのスイッチング制御によって交流側から直流側へと電流が還流する。そして、
図2や
図4を参照して説明したように、直流側における電源電流の歪みは、交流側におけるインバータ電圧とモータ電流とによって決まる。そのため、
図5に示すように、交流側におけるモータ電流の歪みによって、直流側における電源電流の歪み(リプル)が発生する。
【0056】
そこで、制御装置40は、電源電流リプルへの対策として、
図6に示すように、直流側のパワー変動を抑制するように構成されている。直流側のパワーについて6n次パワー変動を抑制することができれば、電源電流の6n次リプルを低減することが可能になると考えられる。そこで、発明者らの知見により、パワーの電圧由来成分に着目し、この電圧成分を調整することによりパワー変動を抑制する方法が考えられた。
【0057】
具体的には、制御装置40は、
図6に示すように、意図的に電圧歪みを追加する。これにより、電圧成分の波形が所望の状態となるように調整する。その際、パワー変動のうち、電流由来成分の変動は調整しないまま、電圧由来成分の変動を調整するように制御を行う。そして、電流由来成分の歪みと、調整された電圧由来成分の歪みとが打ち消し合わさることにより、直流側での6n次パワー変動を抑制することが可能になる。このように、調整後の電圧由来成分が電流由来成分の変動を打ち消すことにより、直流側でのパワー変動を0にすることも可能になる。
【0058】
図7は、電源電流リプルへの対策としてインバータ電圧に意図的に歪みを追加した際の波形を説明するための図である。
図7に示すように、モータ起電力の歪みによってモータ電流に歪みが生じる場合、この電流歪み由来成分に起因する電源電流リプルを低減するために、制御装置40は電圧指令の補正制御を実施し、意図的にインバータ電圧に歪みを追加する。このインバータ電圧に追加された歪み成分は、電源電流の成分のうち電流歪み由来成分を打ち消すことができるように調整された成分である。この補正制御によりインバータ電圧に歪みが追加された場合、モータ電流に歪みが残っていることになる。つまり、制御装置40は、モータ電流の歪みを完全に相殺するような歪み成分をインバータ電圧に追加するのではなく、パワー変動の電流歪み由来成分を打ち消すような電圧歪み由来成分となるような歪み成分をインバータ電圧に追加する。
【0059】
例えば、電源電流に6次リプルが発生している場合、電圧指令補正器140において、6n-1次歪み重畳器141は各相電圧指令に補正成分として5次歪みを加える補正を行い、6n+1次歪み重畳器142は各相電圧指令に補正成分として7次歪みを加える補正を行う。電圧指令には、5次歪み成分と7次歪み成分とが重畳的に加えられる。そのため、補正後の電圧指令には5次歪み成分と7次歪み成分とが含まれる。そして、その補正後の電圧指令に基づいて各相スイッチング素子のゲート信号が生成され、インバータ20が制御される。補正後のインバータ電圧は、補正なしのインバータ電圧に比べてスイッチング幅が変化している。つまり、電圧指令を補正する際、スイッチング幅が変化するようにデューティ比が変化される。そして、制御装置40が電圧指令に5次成分および7次成分の歪みを追加する補正制御を実施した場合、
図8に示すように、電源電流の6次成分を低減することができる。
【0060】
このように、制御装置40のインバータ制御部100は、各相の電圧指令を制御することによって、モータ30への入力電圧を制御する。そして、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータに所定の高周波数成分が含まれる場合には、インバータ制御部100は、電圧指令についての補正制御を実施し、その高周波数成分を打ち消す成分を入力電圧に加える補正を行う。この高周波数成分は、6n次成分である。つまり、リプルには電気6次や電気12次の成分が含まれる。そのため、電圧指令補正器140は、
図1に示すように、6m-1次歪み重畳器143と、6m+1次歪み重畳器144とを備えている。mは、nに基づいた自然数である(m=n+1,n+2,n+3,・・・)。
【0061】
例えば、電源電流の6次リプルと12次リプルを低減させる場合には、n=1となり、m=2となるため、6n-1次歪み重畳器141は5次成分の歪み、6n+1次歪み重畳器142は7次成分の歪み、6m-1次歪み重畳器143は11次成分の歪み、6m+1次歪み重畳器144は13次成分の歪みを追加する。
【0062】
以上説明した通り、実施形態によれば、インバータ20やモータ30の電気的歪みへのハード対策を実施せずとも、電源電流の6n次リプルを低減することができる。つまり、一般的なモータ駆動システム50であれば、ハード変更なしに適用可能であり、汎用性に優れている。
【0063】
なお、電動車両1は、ハイブリッド車両に限らず、モータ30のみを動力源とする電気自動車や、モータ30を搭載した電車(鉄道車両)であってもよい。また、モータ30は、三相交流モータであればよく、PMモータに限らず、誘導モータ(IM)であってもよい。
【0064】
また、モータ駆動システム50は、昇圧コンバータと、平滑コンデンサとを備えてもよい。昇圧コンバータは、リアクトルと、スイッチング素子およびダイオードとを備えている。平滑コンデンサは、正極線と負極線との間に接続された平滑用のコンデンサである。この場合、各種センサによって、昇圧コンバータのリアクトルに流れる電流と、平滑コンデンサの端子間電圧とが検出される。このように平滑コンデンサを備える場合には、電圧指令の補正制御により電源電流を低減できることによって、平滑コンデンサを小型化することができる。また、制御装置40は、昇圧コンバータの駆動状態を制御するコンバータ制御部を含んで構成される。
【0065】
また、電圧指令補正器140の振幅と位相の決定方法は、理論計算に限定されない。つまり、補正値の振幅と位相の決定方法は、センサ値をフィードバックして学習する方法や、予めチューニングした結果をマップに引く方法など、どの方法を用いてもよい。例えばセンサ値をフィードバックする方法では、直流側においてどの振幅と位相で6次成分が小さくなったのかを計測する。
【0066】
また、電源電流に6次リプルが発生した場合、電圧指令補正器140は、各相電圧指令に、5次歪みと7次歪みとのうちの少なくとも一方を加える補正を行うように構成されてもよい。つまり、5次歪みと7次歪みを両方とも加える補正に限らず、どちらか一方のみを加える補正であってもよい。
【0067】
また、制御装置40は、電源電流リプルの低減に限らず、モータトルクリプルを低減するためにリプル低減制御(補正制御)を実行するように構成されてもよい。この変形例の制御装置40は、モータトルクリプルへの対策として、電圧指令を補正する補正制御を実行する。この変形例における補正制御の実行条件は、モータトルクリプルが発生した場合となる。つまり、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータは、モータトルクを含む。制御装置40は各種センサから入力される信号に基づいてモータトルクにリプルが発生していることを検知することができる。また、モータトルクリプルは電気周波数の倍数成分を含む。この電気周波数の倍数成分は6n次成分を含む。そして、制御装置40は、モータトルクに6n次リプルが発生した場合、モータトルクリプルを低減するために、電圧指令を補正する補正制御を実行する。ここで、
図9~
図10を参照して、変形例についてより詳細に説明する。
【0068】
図9は、モータトルクリプルを説明するための図である。
図9に示すように、モータトルクリプルが発生する場合、モータトルクに6n次リプルが発生している。このモータ30はIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。そのため、IPMSMのトルク式は、下式(1)により表される。
T=PΦIq+P(Lq-Ld)IdIq ・・・(1)
【0069】
上式(1)において、Pは極数、Φは磁石磁束、Iqはq軸電流、Lqはインダクタンス、Ldはインダクタンス、Idはd軸電流である。また、PΦIqは、マグネットトルクを表す。P(Lq-Ld)IdIqは、リラクタンストルクを表す。この変形例では、モータトルクリプルに関してマグネットトルクのみを要因として考える。なお、リラクタンストルクを含めた場合でも考え方は同様である。
【0070】
上式(1)に表されるように、モータトルクは、モータ電流と磁束により決まる。そして、モータトルクリプルは、電流由来成分の歪みと磁束由来成分の歪みに区別することが可能である。そのため、
図9に示すように、モータトルクの6n次リプルは、電流の6n-1次成分および6n+1次成分と、磁束の6n-1次成分および6n+1次成分によって決定される。また、モータ電流の歪みは、インバータ電圧の歪みによって生じるものである。つまり、電流の6n-1次歪みおよび6n+1次歪みは、インバータ電圧が歪んでいることにより生じるものである。そこで、変形例の制御装置40は、モータトルクリプルへの対策として、
図10に示すように、この電流の6n-1次成分および6n+1次成分を調整するようにして、意図的に電圧歪みを追加する補正制御を実行する。この変形例によれば、モータトルクの6n次リプルを抑制することができ、トルクリプルを0にすることも可能になる。
【0071】
また、別の変形例として、制御装置40は、電源電流リプルの低減制御と、モータトルクリプルの低減制御とを切り替えて実施するように構成されてもよい。電圧指令を補正して電源電流リプルとモータトルクリプルとを低減する方法では、互いに干渉し合うことを考慮する必要がある。そのため、この変形例では、モータ30の動作点(トルク、回転数)に応じて、優先すべき制御を切り替える。ここで、
図11~
図12を参照して、別の変形例についてより詳細に説明する。
【0072】
図11は、モータの動作点に応じて補正制御が切り替わることを説明するためのマップ図である。
図11に示すように、モータトルクが所定値よりも大きい場合に、制御装置40はリプル低減制御を実施する。その高トルク領域において相対的に回転数が大きい場合、すなわち動作点が
図11に示す領域A内となる場合には、制御装置40は電源電流リプルの低減制御を実施する。一方、高トルク領域において相対的に回転数が小さい場合、すなわち動作点が
図11に示す領域B内となる場合には、制御装置40はモータトルクリプルの低減制御を実施する。そして、モータトルクが所定値よりも小さい場合、すなわち動作点が
図11に示す領域C内となる場合には、制御装置40はリプル低減制御を実施しない。なお、
図11に示す領域および境界は一例であり、これに限定されない。
【0073】
図12は、切り替え処理フローを示すフローチャート図である。なお、
図12に示す制御は、制御装置40によって制御周期ごとに繰り返し実施される。
【0074】
制御装置40は、モータ30の回転数およびトルクの情報を取得する(ステップS101)。ステップS101では、モータ30の動作点が取得される。制御装置40は回転位置センサから入力されたモータ30の回転位置に基づいてモータ30の回転数を算出する。モータ30のトルクは、アクセル開度と車速とに基づいて算出された要求トルクを用いることができる。
【0075】
制御装置40は、モータ30の動作点が電源電流リプルの低減を優先する領域A内であるか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102では、
図11に示すマップとステップS101による動作点とを用いて、電源電流リプルへの対策を優先するか否かが判定される。
【0076】
モータ30の動作点が電源電流リプルの低減を優先する領域A内にある場合(ステップS102:Yes)、制御装置40は、電源電流リプルを低減するための補正制御を実施する(ステップS103)。ステップS103では、電源電流リプルの低減制御として、電圧指令の補正が行われる。ステップS103の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0077】
モータ30の動作点が電源電流リプルの低減を優先する領域A内にない場合(ステップS102:No)、制御装置40は、モータ30の動作点がモータトルクリプルの低減を優先する領域B内であるか否かを判定する(ステップS104)。ステップS104では、
図11に示すマップとステップS101による動作点とを用いて、モータトルクリプルへの対策を優先するか否かが判定される。
【0078】
モータ30の動作点がモータトルクリプルの低減を優先する領域B内にある場合(ステップS104:Yes)、制御装置40は、モータトルクリプルを低減するための補正制御を実施する(ステップS105)。ステップS105では、モータトルクリプルの低減制御として、電圧指令の補正が行われる。ステップS105の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0079】
モータ30の動作点がモータトルクリプルの低減を優先する領域B内にない場合(ステップS104:No)、制御装置40は、電圧指令の補正を行わず、電費を優先する(ステップS106)。ステップS106では、
図11に示すマップとステップS101による動作点とを用いて、動作点が領域C内にある場合に実施される。制御装置40は通常制御を実施する。ステップS106の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0080】
この別の変形例にように、制御装置40は、モータ30の動作点に応じて、電源電流とモータトルクとのうち電源電流の6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第1補正制御と、モータトルクの6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第2補正制御とを切り替える。すなわち、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータは、電源電流とモータトルクとのうちの少なくとも一方を含んでいればよい。
【0081】
なお、
図11に示すマップは一例であり、モータ動作点と制御実施の領域との関係は、これに限定されない。つまり、電源電流リプルの低減を優先する領域Aと、モータトルクリプルの低減を優先する領域Bと、補正制御を実施しない領域Cとの関係は、
図11に示す例に限定されない。
【0082】
また、従来技術では、電源電圧リプルへの対策によってスイッチング周波数成分のリプルを低減することができるものの、高調波鉄損への対策は考慮されていないため、電気周波数の倍数成分が低減されず、改善の余地がある。モータ駆動システム50においては、インバータ電圧やモータ30の電流や磁束の歪みにより、磁束に6n次の歪みが発生し、それによる高調波鉄損が発生することがある。そこで、さらなる変形例として、制御装置40は、高調波鉄損への対策として、電圧指令を補正する補正制御を実行する。この変形例における補正制御の実行条件は、磁束に歪みが発生した場合となる。つまり、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータは、磁束を含む。制御装置40は各種センサから入力される信号に基づいて磁束に歪みが発生していることを検知することができる。また、磁束の歪みは電気周波数の倍数成分を含む。この電気周波数の倍数成分は6n次成分を含む。そして、制御装置40は、磁束に6n次成分の歪みが発生した場合、磁束の歪みを低減するために、電圧指令を補正する補正制御を実行する。このように、制御装置40は、電源電流リプルやモータトルクリプルの低減に限らず、磁束の6倍成分の歪みを低減するために歪み低減制御(補正制御)を実行するように構成することが可能である。ここで、
図13~
図14を参照して、さらなる変形例についてより詳細に説明する。
【0083】
図13は、磁束の歪みを説明するための図である。
図13に示すように、高調波鉄損が発生する場合、直流側の磁束には6n次の歪みが発生している。直流側の磁束は、交流側の電流磁束と磁石磁束により決まる。そして、直流側での磁束の歪みは、電流磁束由来成分の歪みと磁石磁束由来成分の歪みに区別することが可能である。そのため、
図13に示す発生メカニズムを考慮すると、直流側での磁束の6n次の歪みは、交流側の電流磁束における6n-1次成分および6n+1次成分と、交流側の磁石磁束における6n-1次成分および6n+1次成分によって決定される。
【0084】
交流側での電流磁束の歪みは、インバータ電圧の歪みによって生じるものである。つまり、交流側での電流磁束の6n-1次歪みおよび6n+1次歪みは、インバータ電圧が歪んでいることにより生じるものである。また、交流側での磁石磁束の歪みは、磁石の配置や磁石のばらつきによって生じるもの、すなわちモータ30の構造により決定されるものである。そこで、制御装置40は、高調波鉄損への対策として、
図14に示すように、意図的に電圧歪みを追加して、直流側での磁束の6n次の歪みを抑制するように構成されている。
【0085】
具体的には、制御装置40は、交流側の電流磁束の6n-1次成分および6n+1次成分を調整するようにして、意図的に電圧歪みを追加する補正制御を実行する。その際、磁束の歪みのうち、磁石磁束由来成分の歪みは調整しないまま、電流磁束由来成分の歪みを調整するように制御を行う。そして、磁石磁束由来成分の歪みと、調整された電流磁束由来成分の歪みとが打ち消し合わさることにより、直流側での磁束の6n次の歪みを抑制することが可能になる。この変形例によれば、調整後の交流側での電流磁束由来成分が磁石磁束由来成分の歪みを打ち消すことにより、直流側での磁束の歪みを0にすることも可能になる。このように、直流側での磁束の歪みを抑制することにより、高調波鉄損を低減させることができる。これより、高調波鉄損が低減し、モータ駆動システム50の効率(システム効率)を向上させることができる。すなわち、インバータ20やモータ30の電気的歪みへのハード対策を実施せずとも、高調波鉄損を低減することが可能である。
【0086】
また、さらに別の変形例として、制御装置40は、磁束歪みの低減制御と、補正を行わない通常制御とを切り替えて実施するように構成されてもよい。電圧指令を補正して電源電流リプルとモータトルクリプルと磁束歪みとを低減する方法では、互いに干渉し合うことを考慮する必要がある。そのため、この変形例では、モータ30の動作点(トルク、回転数)に応じて、優先すべき制御を切り替える。ここで、
図15を参照して、さらに別の変形例についてより詳細に説明する。
【0087】
図15は、モータの動作点に応じて磁束についての補正制御が実施されることを説明するためのマップ図である。
図15に示すように、モータトルクが第2所定値よりも小さく、かつモータ回転数が第3所定値よりも小さい場合に、制御装置40は磁束歪みの低減制御を実施する。つまり、モータ30が低トルク領域かつ低回転領域の場合、すなわち動作点が
図15に示す領域D内となる場合には、制御装置40は磁束歪みの低減制御を実施する。そして、モータ30の動作点が
図15に示す領域C内となる場合には、制御装置40は、補正なしの通常制御を実施する。通常制御は、リプルや歪みの低減よりも電費を優先した制御である。このように、制御装置40は、モータ30の動作点に応じて、直流側の磁束の6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第3補正制御と、補正を行わない通常制御と、を切り替える。これにより、モータ30の状態に応じて、第3補正制御の実施により高調波鉄損を低減することと、通常制御の実施により効率を確保することとを両立することができる。
【0088】
さらに、この変形例において、制御装置40は、モータ30の動作点に応じて、電源電流とモータトルクと磁束とのうち電源電流の6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第1補正制御と、電源電流とモータトルクと磁束とのうちモータトルクの6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第2補正制御と、電源電流とモータトルクと磁束とのうち直流側の磁束の6n次成分のみを打ち消すように補正を行う第3補正制御と、補正を行わない通常制御と、を切り替えることが可能である。すなわち、モータ30への入力電圧に相関のあるパラメータは、電源電流とモータトルクと直流側の磁束とのうちの少なくとも一つを含んでいればよい。この場合、高トルク領域では、相対的に回転数が大きい場合すなわち動作点が
図15に示す領域A内となる場合には制御装置40は電源電流リプルの低減制御を実施し、相対的に回転数が小さい場合すなわち動作点が
図15に示す領域B内となる場合には制御装置40はモータトルクリプルの低減制御を実施する。これにより、電源電流リプルを低減する制御とモータトルクリプルを低減する制御と高調波鉄損を低減する制御とが干渉し合うことを回避できる。なお、
図15に示す領域および境界は一例であり、これに限定されない。
【符号の説明】
【0089】
1 電動車両
10 直流電源
20 インバータ
30 モータ
40 制御装置
50 モータ駆動システム
100 インバータ制御部
110 トルク制御部
120 電流制御部
130 ゲート信号変換部
140 電圧指令補正器
141 6n-1次歪み重畳器
142 6n+1次歪み重畳器
143 6m-1次歪み重畳器
144 6m+1次歪み重畳器