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特許7556345リチウムイオン電池用電極およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240918BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240918BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20240918BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240918BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M4/139
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021196822
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023082849
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 将史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 壮吉
(72)【発明者】
【氏名】柳 拓男
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-078497(JP,A)
【文献】特開2001-351616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/64
H01M 4/66
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と
バインダ粒子群と
活物質層と
を含み、
前記バインダ粒子群は、前記集電箔の表面に付着しており、
前記活物質層は、前記集電箔の前記表面に配置されており、
前記活物質層は、活物質粒子群を含み、
前記バインダ粒子群は、前記活物質層と前記集電箔との界面に散在しており
前記バインダ粒子群は、前記活物質粒子群に比して、小さいD50を有する、
リチウムイオン電池用電極。
【請求項2】
前記集電箔の面積に対する、前記バインダ粒子群の付着面積の分率は、11.4~19.3%である、
請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項3】
前記バインダ粒子群は、0.010~0.017mg/cm2の目付量を有する、
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項4】
(a)集電箔を準備すること、
(b)前記集電箔の表面に、バインダ粒子群を乾式法により塗布すること、および
(c)前記(b)の後、前記集電箔の前記表面に、活物質粒子群を塗布することにより、活物質層を形成すること、
を含
前記(c)は、前記活物質粒子群を乾式法により塗布することを含む、
リチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記(b)は、静電気力により、前記バインダ粒子群を前記集電箔の前記表面に付着させることを含む、
請求項に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-122631号公報(特許文献1)は、集電体上にバインダコート層を形成することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-122631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池用電極(以下「電極」と略記され得る。)は、集電箔の表面に活物質層が形成されることにより、製造され得る。活物質層と集電箔との間の剥離強度を高めるため、活物質層と集電箔との間にバインダ膜を形成することが考えられる。
【0005】
従来、バインダ膜は湿式法で形成されている。すなわちバインダ溶液が集電箔の表面に塗布されることにより、バインダ膜が形成されている。バインダ膜は集電箔の表面を被覆する。バインダは抵抗成分である。集電箔と活物質層との間にバインダ膜が介在することにより、集電箔と活物質層との界面抵抗(電子抵抗)が増加する可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、界面抵抗の増加を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
1.リチウムイオン電池用電極は、集電箔とバインダ粒子群と活物質層とを含む。バインダ粒子群は、集電箔の表面に付着している。活物質層は、集電箔の表面に配置されている。活物質層は、活物質粒子群を含む。バインダ粒子群は、活物質層と集電箔との界面に散在している。
【0009】
上記「1」の電極においては、活物質層と集電箔との界面にバインダ粒子群が散在している。バインダが膜状でなく粒子状であるため、活物質層と集電箔との界面において、多数の活物質粒子が集電箔と接点を有し得る。よって、バインダの使用に伴う、界面抵抗の増加が軽減され得る。
【0010】
バインダ膜が集電箔の表面に形成される場合、バインダ膜(面)と活物質粒子との接点は、少数になりやすいと考えられる。他方、バインダ粒子は活物質粒子と点接触し得る。バインダが粒子状であることにより、バインダと活物質粒子との接点が増加し得る。バインダ膜に代えてバインダ粒子群が使用されることにより、少ないバインダ目付量で、高い剥離強度が得られることが期待される。
【0011】
2.集電箔の面積に対する、バインダ粒子群の付着面積の分率は、例えば11.4~19.3%であってもよい。
【0012】
以下「集電箔の面積に対する、バインダ粒子群の付着面積の分率」が「面積分率」と略記され得る。面積分率が11.4%以上であることにより、剥離強度の向上が期待される。面積分率が19.3%以下であることにより、界面抵抗の低減が期待される。
【0013】
3.バインダ粒子群は、例えば活物質粒子群に比して、小さいD50を有していてもよい。
【0014】
バインダ粒子のサイズが、活物質粒子のサイズに比して小さいことにより、活物質粒子と集電箔との接点が増加し得る。これにより、界面抵抗の低減が期待される。
【0015】
4.バインダ粒子群は、例えば0.010~0.017mg/cm2の目付量を有していてもよい。
【0016】
5.リチウムイオン電池用電極の製造方法は、下記(a)~(c)を含む。
(a)集電箔を準備する。
(b)集電箔の表面に、バインダ粒子群を乾式法により塗布する。
(c)上記(b)の後、集電箔の表面に、活物質粒子群を塗布することにより、活物質層を形成する。
【0017】
乾式法でバインダ粒子群が塗布されることにより、バインダ膜が形成されず、バインダ粒子群が散在し得る。
【0018】
6.上記(b)は、静電気力により、バインダ粒子群を集電箔の表面に付着させることを含んでいてもよい。
【0019】
乾式法の一例として、静電気力によりバインダ粒子群を集電箔に付着させることが考えられる。
【0020】
7.上記(c)は、活物質粒子群を乾式法により塗布することを含んでいてもよい。
【0021】
例えば、湿式法で活物質粒子群が塗布されると、バインダ粒子群の配置が変化する可能性がある。活物質粒子群も乾式法で塗布されることにより、バインダ粒子群の散在状態が維持されやすいと考えられる。
【0022】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極の概念断面図である。
図2図2は、バインダ粒子群の概念上面図である。
図3図3は、バインダ膜の概念上面図である。
図4図4は、バインダ膜の概念断面図である。
図5図5は、本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極の製造方法の概略フローチャートである。
図6図6は、バインダ粒子群の塗布方法の一例を示す概念図である。
図7図7は、バインダ目付量と界面抵抗との関係を示すグラフである。
図8図8は、バインダ目付量と剥離強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<用語の定義等>
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0025】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0026】
本明細書において、例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0027】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0028】
本明細書において、化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0029】
本明細書において、各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0030】
本明細書において「電極」は正極および負極の総称である。電極は正極であってもよいし、負極であってもよい。
【0031】
本明細書の「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。体積基準の粒度分布は、例えばレーザ回折散乱法により求められる。
【0032】
本明細書において、「乾式法」は、塗料の固形分率が90%以上である、塗布方法を示す。乾式法における塗料の固形分率は、例えば95~100%であってもよい。「湿式法」は、塗料の固形分率が90%未満である、塗布方法を示す。湿式法における塗料の固形分率は、例えば50~85%であってもよい。「固形分率」は、塗料全体に対する、固体成分の質量分率を示す。
【0033】
<リチウムイオン電池用電極>
図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極の概念断面図である。以下「本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極」が「本電極」と略記され得る。本電極10は、シート状である。本電極10は、集電箔11とバインダ粒子群12と活物質層13とを含む。バインダ粒子群12および活物質層13は、集電箔11の片面のみに配置されてもよいし、集電箔11の表裏両面に配置されてもよい。
【0034】
本電極10は、高い剥離強度を有し得る。活物質層13と集電箔11との間の剥離強度は、例えば1N/m以上であってもよい。活物質層13と集電箔11との間の剥離強度は、例えば1~3.5N/mであってもよい。本電極10は、低い界面抵抗を有し得る。活物質層13と集電箔11との間の界面抵抗は、例えば0.0033Ω/cm2以下であってもよい。活物質層13と集電箔11との間の界面抵抗は、例えば0.0011~0.0033Ω/cm2であってもよい。
【0035】
《集電箔》
集電箔11は導電性を有する。集電箔11はシート状である。集電箔11は活物質層13を支持する。集電箔11は金属箔を含む。集電箔11は、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、チタン箔、およびステンレス鋼箔からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。集電箔11は、例えば5~50μmの厚さを有していてもよいし、10~25μmの厚さを有していてもよい。
【0036】
《バインダ粒子群》
バインダ粒子群12は、活物質層13と集電箔11との界面に散在している。図2は、バインダ粒子群の概念上面図である。バインダ粒子群12は、集電箔11の表面に付着している。集電箔11の表面において、バインダ粒子群12は島状に分布している。各島状部は、単一のバインダ粒子であってもよいし、複数個のバインダ粒子の凝集体であってもよい。島状部の分布は規則的であってもよいし、ランダムであってもよい。島状部同士の隙間において、活物質粒子が集電箔11と接触できると考えられる。島状部同士の隙間は、例えば、バインダ粒子1個分以上であってもよい。
【0037】
集電箔11の表面において、バインダ粒子群12は、例えば、0.010~0.017mg/cm2の目付量を有していてもよい。目付量は、単位面積あたりの質量(付着量)を示す。バインダ粒子群12は、例えば、0.010~0.014mg/cm2の目付量を有していてもよいし、0.014~0.017mg/cm2の目付量を有していてもよい。
【0038】
集電箔11の表面において、バインダ粒子群12は、例えば、50%以下の面積分率を有していてもよいし、30%以下の面積分率を有していてもよいし、20%以下の面積分率を有していてもよい。バインダ粒子群12は、例えば、11.4~19.3%の面積分率を有していてもよい。面積分率が11.4%以上であることにより、剥離強度の向上が期待される。面積分率が19.3%以下であることにより、界面抵抗の低減が期待される。バインダ粒子群12は、例えば、11.4~15.9%の面積分率を有していてもよいし、15.9~19.3%の面積分率を有していてもよい。
【0039】
面積分率は、下記式(I)~(IV)により求まる。
M=c×S0 …(I)
V=M÷ρ …(II)
1=V÷T …(III)
F=S1÷S0×100 …(IV)
「M」は、バインダ粒子群の質量[mg]を示す。
「c」は、バインダ粒子群の目付量[mg/cm2]を示す。
「S0」は、集電箔の面積[cm2]を示す。
「V」は、バインダ粒子群の体積[cm3]を示す。
「ρ」は、バインダ粒子群の密度[g/cm3]を示す。
「T」は、バインダ粒子群の塗布厚さ[μm]を示す。
「F」は、面積分率[%]を示す。
【0040】
図3は、バインダ膜の概念上面図である。バインダ膜14は集電箔11の表面を被覆する。活物質粒子と集電箔11との接点を形成するため、例えば、ストライプ状にバインダ膜14を配置することが考えられる。
【0041】
図4は、バインダ膜の概念断面図である。活物質粒子はバインダ膜14同士の隙間において、集電箔11と接触する。しかしバインダ膜14上に配置された活物質粒子は、集電箔11と接触し難いと考えられる。ストライプ状にバインダ膜14が形成されても、所望の界面抵抗は得られないと考えられる。
【0042】
バインダ粒子群12は、複数個のバインダ粒子の集合体である。バインダ粒子群12は、例えば、10~1000nmのD50を有していてもよいし、50~500nmのD50を有していてもよいし、100~200nmのD50を有していてもよい。バインダ粒子群12は、活物質粒子群に比して小さいD50を有していてもよい。バインダ粒子のサイズが、活物質粒子のサイズに比して小さいことにより、活物質粒子と集電箔11との接点が増加し得る。これにより、界面抵抗の低減が期待される。バインダ粒子群12のD50は、活物質粒子群のD50の1/10以下であってもよいし、1/20以下であってもよい。バインダ粒子群12のD50は、活物質粒子群のD50の1/100以上であってもよい。
【0043】
バインダ粒子は任意の成分を含み得る。バインダ粒子は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアミドイミド(PAI)、およびポリイミド(PI)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0044】
《活物質層》
活物質層13は、集電箔11の表面に配置されている。活物質層13は、例えば、10~500μmの厚さを有していてもよいし、50~200μmの厚さを有していてもよい。活物質層13は、活物質粒子群を含む。活物質層13は、活物質粒子群に加えて、導電材、バインダ、固体電解質等をさらに含んでいてもよい。
【0045】
〈活物質粒子群〉
活物質粒子群は、複数個の活物質粒子の集合体である。活物質粒子群は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよいし、3~10μmのD50を有していてもよい。
【0046】
活物質粒子は、例えば正極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。
【0047】
活物質粒子は、例えば負極活物質を含んでいてもよい。活物質粒子は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0048】
〈その他の成分〉
活物質層13は、バインダをさらに含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の活物質粒子群に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。活物質層13に含まれるバインダは、粒子状であってもよいし、膜状であってもよい。バインダは、例えば、PVdF、CMC、SBR等を含んでいてもよい。
【0049】
活物質層13は、導電材をさらに含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の活物質粒子群に対して、例えば、0.1~10質量部であってもよい。導電材は、例えば、導電性炭素粒子、導電性炭素繊維等を含んでいてもよい。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびサーマルブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0050】
活物質層13は、固体電解質をさらに含んでいてもよい。固体電解質は、例えば、Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiBr-Li2S-P25、およびLiI-LiBr-Li2S-P25からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0051】
〈複合化〉
例えば、活物質粒子とその他の固体材料(バインダ、導電材等)とが複合化されていてもよい。例えば、強いせん断力が加わる条件下で、活物質粒子と、その他の固体材料とが混合されることにより、複合粒子が形成されてもよい。複合粒子においては、活物質粒子の表面に、例えばバインダおよび導電材が付着していてもよい。
【0052】
<リチウムイオン電池用電極の製造方法>
図5は、本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態におけるリチウムイオン電池用電極の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)集電箔の準備」、「(b)バインダ粒子群の塗布」および「(c)活物質粒子群の塗布」を含む。本製造方法は、例えば「(d)定着」等をさらに含んでいてもよい。
【0053】
《(a)集電箔の準備》
本製造方法は、集電箔11を準備することを含む。集電箔11の詳細は前述のとおりである。
【0054】
《(b)バインダ粒子群の塗布》
本製造方法は、集電箔11の表面に、バインダ粒子群12(粉体)を乾式法により塗布することを含む。例えば、静電印刷技術、静電塗装技術、または、これらと類似する技術が使用されてもよい。
【0055】
図6は、バインダ粒子群の塗布方法の一例を示す概念図である。例えば、静電スクリーン印刷法により、バインダ粒子群が塗布されてもよい。バインダ粒子群12は、スクリーン101上に配置される。スクリーン101は導電性である。スクリーン101には、複数の貫通孔が形成されている。スクリーン101の下方に集電箔11が配置される。電源102は、集電箔11とスクリーン101との間に直流電圧を印加する。これにより、スクリーン101と集電箔11との間に電界(E)が形成される。スクリーン101からバインダ粒子群12に電荷(q)が注入される。すなわちバインダ粒子群12が帯電する。印刷ブラシ103がバインダ粒子群12をならすことにより、バインダ粒子群12が電界に導入される。電界中においては、バインダ粒子群12に静電気力(F=qE)が働く。静電気力により、バインダ粒子群12が集電箔11の表面に付着し得る。例えば、スクリーン101の貫通孔のパターンにより、塗布パターンが制御され得る。すなわち所望の散在状態が形成され得る。
【0056】
バインダ粒子群12の塗布厚さ(堆積厚さ)は、例えば、0.1~3μmであってもよいし、0.1~1μmであってもよい。
【0057】
《(c)活物質粒子群の塗布》
本製造方法は、バインダ粒子群12の塗布後、集電箔11の表面に、活物質粒子群(粉体)を塗布することにより、活物質層13を形成することを含む。
【0058】
活物質粒子群は任意の方法により塗布され得る。例えば、活物質粒子群を含むスラリーが作られてもよい。例えばダイコータ等により、スラリーが集電箔11の表面に塗布されてもよい。例えば、活物質粒子群を含む湿潤粉体が作られてもよい。例えば、ロールコータ等により、湿潤粉体が集電箔11の表面に塗布されてもよい。なお湿潤粉体は、造粒体と称されることもある。
【0059】
バインダ粒子群と同様に、活物質粒子群も乾式法により塗布されてもよい。活物質粒子群も乾式法で塗布されることにより、バインダ粒子群の散在状態が維持されやすいと考えられる。
【0060】
例えば、活物質粒子と導電材とバインダとが複合化されることにより、複合粒子が形成されてもよい。複合粒子群(粉体)が乾式法で塗布されることにより、均質な組成を有する活物質層13が形成され得る。活物質層13の形成過程で、活物質粒子、導電材およびバインダの位置関係が変化し難いためと考えられる。湿式法においては、活物質層13の形成過程で、例えばバインダが溶媒(液体)と共に移動することにより、組成に偏りが生じやすい傾向がある。
【0061】
《(d)定着》
本製造方法は、活物質層13に熱または圧力の少なくとも一方を付与することにより、活物質層13を集電箔11に定着させることを含んでいてもよい。活物質層13が集電箔11に定着することにより、剥離強度の向上が期待される。
【0062】
圧力および熱は、別々に付与されてもよい。圧力および熱は、実質的に同時に付与されてもよい。例えば、ヒートロール、ヒートプレート等により、活物質層13が圧縮されてもよい。活物質層13の加熱温度は、例えば、バインダの融点付近の温度であってもよい。加熱温度は、例えば80~200℃であってもよいし、120~200℃であってもよいし、140~180℃であってもよい。
【0063】
圧力は、例えば、活物質層13の狙い厚さ、狙い密度等に応じて調整され得る。例えば、50~200MPaの圧力が活物質層13に加えられてもよい。
【0064】
以上より、本電極10が製造され得る。本電極10は、電池の仕様に応じて、所定の平面形状に切断されてもよい。
【実施例
【0065】
<電極の製造>
以下のようにNo.1~5の電極が製造された。
【0066】
《No.1》
下記材料が準備された。
活物質粒子群:Li(NiCoMn)O2、粒子径範囲=3~10μm
導電材:アセチレンブラック
バインダ粒子群:PVdF、D50=150nm、密度=1.76g/cm3
集電箔:Al箔、厚さ=12μm
【0067】
静電スクリーン印刷機(ベルク工業社製)が準備された。スクリーン101と集電箔11との距離が、1cmに設定された。スクリーン101と集電箔11との間に、1.5kVの直流電圧が印加されることにより、電界が形成された。静電スクリーン印刷法により、集電箔11の表面にバインダ粒子群12が塗布された(図6参照)。すなわちバインダ粒子群12が乾式により塗布された。バインダ粒子群12の目付量は、0.007mg/cm2であった。バインダ粒子群12の塗布厚さは、0.5μmであった。
【0068】
日本コークス工業社製の混合装置「マルチパーパスミキサ」が準備された。同装置は、球形タンク(混合槽)を含む。球形タンクの対流促進効果により、強いせん断力が発生し、固体材料が複合化され得る。
【0069】
球形タンクに、活物質粒子群、導電材およびバインダが投入された。材料の配合比は「活物質粒子群/導電材/バインダ=90/5/5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が10000rpmに設定された。10分間にわたって材料が混合された。活物質粒子の表面に導電材およびバインダが付着することにより、複合粒子が形成された。
【0070】
静電スクリーン印刷法(乾式法)により、複合粒子群が集電箔11の表面に塗布された。これにより活物質層13が形成された。すなわち本電極10が製造された。
【0071】
2枚のヒートプレート(平板)に本電極10が挟み込まれた。ヒートプレートの温度は160℃であった。ヒートプレートにより、15tfの荷重が活物質層13に付与された。これにより活物質層13が集電箔11に定着した。
【0072】
《No.2~4》
下記表1に示されるように、バインダ粒子群12の目付量が変更されることを除いては、No.1と同様に本電極10が製造され、活物質層13の定着が実施された。
【0073】
《No.5》
バインダ粒子群が溶媒に溶解されることにより、バインダ溶液が作られた。バインダ溶液が集電箔11の表面にストライプ状に塗布された(図3、4参照)。これによりバインダ膜14が形成された。これらを除いては、No.1と同様に電極が製造された。
【0074】
<電極の評価>
90度剥離試験により、活物質層13と集電箔11との間の剥離強度が測定された。
【0075】
電極抵抗測定システム(形名「RM2610」、HIOKI社製)により、活物質層13と集電箔11との間の界面抵抗が測定された。
【0076】
【表1】
【0077】
図7は、バインダ目付量と界面抵抗との関係を示すグラフである。目付量が多くなる程、界面抵抗が増大する傾向がみられる。
【0078】
図8は、バインダ目付量と剥離強度との関係を示すグラフである。バインダ粒子群が乾式で塗布されることにより、少ない目付量で、高い剥離強度が得られる傾向が見られる。すなわち、乾式法は湿式法に比して、バインダ目付量を低減できる。したがって、バインダ粒子群が乾式で塗布されることにより、界面抵抗の増加が軽減され得ると考えられる(図7参照)。
【0079】
<付記>
本明細書は、リチウムイオン電池もサポートする。リチウムイオン電池は、本電極を含む。リチウムイオン電池は、低い電池抵抗を有することが期待される。本電極においては、活物質層と集電箔との間の界面抵抗が低いためである。リチウムイオン電池は、液系電池であってもよいし、全固体電池であってもよい。
【0080】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0081】
10 電極(リチウムイオン電池用電極)、11 集電箔、12 バインダ粒子群、13 活物質層、14 バインダ膜、101 スクリーン、102 電源、103 印刷ブラシ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8