(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイスおよび試料分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20240918BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240918BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240918BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N35/08 A
C12M1/34 B
C12Q1/6837 Z
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2021502076
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006479
(87)【国際公開番号】W WO2020175264
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019034228
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168819(WO,A1)
【文献】特開2017-121728(JP,A)
【文献】特開2017-217617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
C12M 1/34
C12Q 1/6837
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、前記流路と接続している1つまたは複数の液滴保持部と、を有し、前記流路の高さが0μm超30μm以下であ
り、前記液滴保持部の1つあたりの容積が10fL以上100pL以下である、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
さらに、平板状の基板を有し、前記流路は、前記平板状の基板上に位置し、前記液滴保持部が前記基板上に存在する孔である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
さらに、蓋部材を有し、前記流路が、前記蓋部材と前記基板とに挟まれた空間である、請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記基板において前記液滴保持部が形成されている領域の単位面積あたりの前記液滴保持部の開口部の総面積の比率が、23%以上90%以下である、請求項2または3に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記液滴保持部が複数の液滴保持部である、請求項1~4の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記液滴保持部の総容積が、0.2μL以上2.0μL以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記流路の容積に対する、前記液滴保持部の総容積の比率が、5%以上40%以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記流路の高さに対する、前記液滴保持部の深さの比率が、3%以上150%以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを用いた試料分析方法であって、
試料を含有する水性液体を前記流路に導入し、前記液滴保持部に前記水性液体を保持させることと、
前記流路に封止液を導入して前記流路内に存在する前記水性液体と置換し、前記液滴保持部に前記水性液体を封入することと、
前記液滴保持部において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させることと、
前記シグナルを検出することと、
を備える試料分析方法。
【請求項10】
前記試料が、生体分子である、請求項
9に記載の試料分析方法。
【請求項11】
前記検出のためのシグナルを発生させることは、前記マイクロ流体デバイスを加熱して前記反応を起こすことを含み、前記マイクロ流体デバイスが加熱される際の温度が60℃以上である、請求項
9または
10に記載の試料分析方法。
【請求項12】
前記シグナルを前記マイクロ流体デバイスの画像撮影により検出する、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【請求項13】
前記シグナルが蛍光である、請求項
9~
12のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【請求項14】
前記反応が等温反応である、請求項
9~
13のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス、および前記マイクロ流体デバイスを用いた試料分析方法に関する。
本願は、2019年2月27日に日本に出願された特願2019-034228号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体回路の製造技術に用いられているエッチング技術やフォトリソグラフィ技術、または微細なプラスチックの成型方法を用いて形成される、種々の形態の微細な流路構造を有するマイクロウェルアレイが検討されている。これらのマイクロウェルアレイのウェルは、微小体積の流体中で種々の生化学的または化学的反応をさせるための化学反応容器として用いられている。
【0003】
マイクロ流体システムの製作のための材料としては、シリコン及びガラス等の硬質の物質、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等の種々の高分子樹脂やシリコーンゴム等の軟質の物質等が用いられている。例えば、特許文献1~3および非特許文献1には、このようなマイクロ流体システムを、種々のマイクロチップ又はバイオチップとして用いることが記載されている。
【0004】
生体分子を流路デバイス内で検出する技術が知られている。例えば、DNAマイクロアレイ技術では、微小孔に生体分子を導入し、加熱を伴う反応を行うことにより、生体分子を検出する。また、生体分子を単分子検出できる技術が知られている。前記単分子検出できる技術として、例えば、デジタルELISA(Digital Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、デジタルPCR(Digital Polymerase Reaction)やデジタルInvasive Cleavaged Assay(Digital ICA)などのデジタル計測技術がある。
デジタルPCR技術とは、試薬と核酸との混合物を無数の微小液滴に分割してPCR増幅を行い、核酸を含んだ液滴からは蛍光等のシグナルが検出されるようにしておき、シグナルが検出された液滴を数えることにより定量を行う技術である。
【0005】
微小液滴の形成方法として、封止液で試薬と核酸との混合物を分断化することにより微小液滴を形成する方法や、基板上に形成した孔に試薬と核酸との混合物を入れ、続いて封止液を入れることにより微小液滴を形成する方法等が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6183471号公報
【文献】特表2014-503831号公報
【文献】国際公開第2013-151135号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kim S. H., et al., Large-scale femtoliter droplet array for digital counting of single biomolecules., Lab on a Chip, 12 (23), 4986-4991, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、微小な液滴を形成して加熱し、蛍光等により光学的に検出を行う場合には、流路内部に気泡が発生することがあり、これが検出の妨げとなり得る。
【0009】
そこで、本発明は、微小な液滴を形成して加熱し、光学的に検出を行う場合に、気泡の発生を抑制し、検出効率を向上させることが可能なマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
また、本発明は、微小な液滴を形成して加熱し、試料を光学的に検出する場合に、微小な液滴を形成して加熱した場合の気泡の発生を抑制し、試料の検出効率を向上させることができる試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1]流路と、前記流路中に形成された液滴保持部と、を有し、前記流路の高さが0μm超30μm以下である、マイクロ流体デバイス。
[2]前記流路は、平面状の基板を有し、前記液滴保持部が前記基板に存在する孔である、[1]に記載のマイクロ流体デバイス。
[3]前記液滴保持部が複数存在する、[1]または[2]に記載のマイクロ流体デバイス。
[4]蓋部材を有し、前記流路が、前記蓋部材と前記基板とに挟まれた空間である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[5]前記液滴保持部の1つあたりの容量が10fL以上100pL以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[6]前記液滴保持部の総容量が、0.2μL以上2.0μL以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[7]前記流路の容積に対する、前記液滴保持部の総容量の比率が、5%以上40%以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[8]前記流路の高さに対する、前記液滴保持部の深さの比率が、3%以上150%以下である、[2]~[7]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[9]前記基板において前記液滴保持部が形成されている領域の単位面積に対する、前記液滴保持部の開口部の総面積の比率が、23%以上90%以下である、[2]~[8]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[10][1]~[9]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを用いた試料分析方法であって、試料を含有する水性液体を前記流路に供給し、前記液滴保持部に前記水性液体を保持させる試料供給工程と、前記流路に封止液を導入して前記流路内に存在する前記水性液体と置換し、前記液滴保持部に前記水性液体を封入する封止工程と、前記液滴保持部において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させる反応工程と、前記シグナルを検出する検出工程と、を備える試料分析方法。
[11]前記試料が、生体分子である、[10]に記載の試料分析方法。
[12]前記反応工程において、前記マイクロ流体デバイスを加熱して前記反応を起こし、加熱される際の温度が60℃以上である、[10]または[11]に記載の試料分析方法。
[13]前記シグナルを画像撮影により検出する、[10]~[12]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[14]前記シグナルが蛍光である、[10]~[13]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[15]前記反応が等温反応である、[10]~[14]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【0011】
本発明のもう一つの側面は、以下の態様を包含する。
[16]流路と、前記流路と接続している1つまたは複数の液滴保持部と、を有し、前記流路の高さが0μm超30μm以下であり、前記液滴保持部の1つあたりの容積が10fL以上100pL以下である、マイクロ流体デバイス。
[17]さらに、平板状の基板を有し、前記流路は、前記平板状の基板上に位置し、前記液滴保持部が前記基板上に存在する孔である、[16]に記載のマイクロ流体デバイス。
[18]さらに、蓋部材を有し、前記流路が、前記蓋部材と前記基板とに挟まれた空間である、[17]に記載のマイクロ流体デバイス。
[19]前記基板において前記液滴保持部が形成されている領域の単位面積あたりの前記液滴保持部の開口部の総面積の比率が、23%以上90%以下である、[17]または[18]に記載のマイクロ流体デバイス。
[20]前記液滴保持部が複数の液滴保持部である、[16]~[19]の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[21]前記液滴保持部の総容積が、0.2μL以上2.0μL以下である、[16]~[20]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[22]前記流路の容積に対する、前記液滴保持部の総容積の比率が、5%以上40%以下である、[16]~[21]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[23]前記流路の高さに対する、前記液滴保持部の深さの比率が、3%以上150%以下である、[16]~[22]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[24][16]~[23]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを用いた試料分析方法であって、試料を含有する水性液体を前記流路に導入し、前記液滴保持部に前記水性液体を保持させることと、前記流路に封止液を導入して前記流路内に存在する前記水性液体と置換し、前記液滴保持部に前記水性液体を封入することと、前記液滴保持部において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させることと、前記シグナルを検出することと、を備える試料分析方法。
[25]前記試料が、生体分子である、[24]に記載の試料分析方法。
[26]前記検出のためのシグナルを発生させることは、前記マイクロ流体デバイスを加熱して前記反応を起こすことを含み、前記マイクロ流体デバイスが加熱される際の温度が60℃以上である、[24]または[25]に記載の試料分析方法。
[27]前記シグナルを前記マイクロ流体デバイスの画像撮影により検出する、[24]~[26]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[28]前記シグナルが蛍光である、[24]~[27]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[29]前記反応が等温反応である、[24]~[28]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロ流体デバイスによれば、微小な液滴を形成し、前記微小な液滴を加熱する場合の気泡の発生を抑制することができる。
また、本発明の試料分析方法によれば、微小な液滴を形成し、前記微小な液滴を加熱し、試料を光学的に検出する場合に、前記微小な液滴を加熱する場合の気泡の発生を抑制し、試料の検出効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す斜視図である。
【
図4】基板の一部にのみ液滴保持部が形成されている領域が存在する、本発明の一実施形態に係るマイクロ流路デバイスの上面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るマイクロ流体デバイスの使用時の状態を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るマイクロ流体デバイスの使用時の状態を示す図である。
【
図8】比較例に係るマイクロ流体デバイスの使用時の状態を示す図である。
【
図9A】本発明の一実施形態、に係るマイクロ流体デバイスを用いて観察された蛍光画像を示す図である。
【
図9B】比較例に係るマイクロ流体デバイスを用いて観察された蛍光画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。本明細書において、各図面における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を示す斜視図である。
図2及び
図3は、
図1のb-b線における断面図である。マイクロ流体デバイス1は、
図2及び
図3に示すように、流路35と液滴保持部11を備えている。流路35は、蓋部材20と、基板10とを一定の間隔で対向配置することにより形成されていてもよい。この場合、流路35は、蓋部材20と基板10とに挟まれた空間となる。基板10と蓋部材20の間には、周縁部材34が位置している。基板10と蓋部材20に挟まれ、且つ周縁部材34に囲まれた領域が流路35である。周縁部材34は、蓋部材20と一体に形成されていてもよい。
【0016】
液滴保持部11は、前記流路35を形成する基板10が平面状つまり平板である場合は、基板10に存在する孔、つまりウェルであることが好ましい。
前記液滴保持部11は、
図3に示すように、基板10上に孔(ウェル)が複数存在するマイクロウェル33であることが好ましい。言い換えれば、基板10は、複数のマイクロウェル33を有することが好ましい。
以下、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を、前記液滴保持部11が、基板10上に孔(ウェル)が複数存在するマイクロウェル33であるマイクロ流体デバイス1を例にして説明する。
【0017】
マイクロウェルアレイ30は、底部層31と、壁部層32(隔壁32と記載してもよい)と、複数のマイクロウェル33とを有してもよい。底部層31は、基板10上に設けられている。壁部層32は、底部層31上に形成されている。複数のマイクロウェル33は、底部層31と壁部層32の厚さ方向に形成された複数の貫通孔32aとで構成されている。複数のマイクロウェル33は、壁部層32においてアレイ状に形成されている。基板10と蓋部材20との間の内部空間Sにおいて、マイクロウェルアレイ30と蓋部材20との間、言い換えれば壁部層32の上面と蓋部材20との間には隙間が存在する。この隙間は、複数のマイクロウェル33、並びに第一孔21および第二孔22と連通する流路35として機能する。
【0018】
基板10は、電磁波を透過可能であってもよい。ここで、電磁波としては、X線、紫外線、可視光線および赤外線等が挙げられる。基板10が電磁波を透過可能であることにより、マイクロ流体デバイス1に封入した試料と試薬との反応により生じる蛍光又は燐光等を基板10側から観察することができる。
基板10は、所定の波長範囲の電磁波のみを透過可能であってもよい。例えば、マイクロウェル内の試料の存在を、可視光領域である350~700nmの波長範囲にピークを有する蛍光を検出により判定する場合には、少なくとも上記波長範囲の可視光を透過可能な基板を基板10として用いればよい。
【0019】
基板10を形成する材料としては、例えば、ガラス及び樹脂等が挙げられる。樹脂基板の材料としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、PET(ポリエチレンテレフタレート)及びPEN(ポリエチレンナフタレート)等が挙げられる。これらの樹脂は、各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、酸化防止剤、撥水性を付与する添加剤、親水性を付与する添加剤等が挙げられる。樹脂基板は、上記の樹脂のうち一種のみを含んでいてもよいし、複数の樹脂が混合されていてもよい。
【0020】
後述する試料分析方法では蛍光や燐光を利用する場合があるため、基板10としては、自家蛍光を実質的に有しない材料を用いることが好ましい。ここで、「自家蛍光を実質的に有しない」とは、基板が、実験結果の検出に使用する波長の自家蛍光を全く有しないか、自家蛍光を有していても実験結果の検出に影響を与えないほど微弱であることを意味する。例えば、検出対象の蛍光に比べて1/2以下、好ましくは1/10以下程度の自家蛍光であれば、実験結果の検出に影響を与えないほど微弱であるといえる。
【0021】
基板10の厚みは、適宜決定することが出来るが、試料分析において発せられる蛍光や燐光を透過しやすくするため、例えば5ミリメートル(mm)以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1.6mm以下がさらに好ましい。基板10の厚みの下限値としては、適宜決定することが出来るが、マイクロ流体デバイス1の内部の圧力が上昇しても歪みが生じない厚みにするのがよい。例えば、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.4mm以上がさらに好ましい。基板10の厚みの上限および下限は、任意に組み合わせることができる。例えば、基板10の厚みは、0.1mm以上5mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましく、0.4mm以上1.6mm以下がさらに好ましい。
【0022】
底部層31は、マイクロウェル33の底面を構成する。したがって、底面に親水性を付与したい場合は親水性材料で底部層31を形成すればよい。底部層31は、底部層31が電磁波を透過可能なように形成され、基板10側からのマイクロウェル33内の試料観察の妨げにならないようにすることが好ましい。また、底面に疎水性を付与したい場合は疎水性材料で底部層31を形成すればよい。底部層31は、基板10側からのマイクロウェル33内の試料観察の妨げにならないようにすることが好ましい。また、底部層31には、自家蛍光を実質的に有しない材料を用いることが好ましい。ここで、基板10と底部層31とが一体化されたものを単に基板と称することもできる。
【0023】
なお、マイクロウェル33の底面の特性が基板10の特性と同じで問題ない場合は、底部層31を設けずに、基板10上に直接壁部層32が形成されてもよい。従って、その場合、基板10の表面と壁部層32の貫通孔32aとでマイクロウェル33が構成される。
【0024】
壁部層32は、厚さ方向に見た状態においてアレイ状に設けられた複数の貫通孔32aを有する。各貫通孔32aの内面は、各マイクロウェル33の内壁面を構成する。
【0025】
壁部層32を形成する材料としては、基板10を形成する材料と同様の樹脂等を用いることができるが、樹脂に所定の波長の電磁波を吸収する有色成分を混合した材料を用いてもよい。
樹脂材料としては、マイクロウェル33に求める特性等を考慮して、樹脂の構成成分の分子が親水性基を有する親水性樹脂と、樹脂の構成成分の分子が疎水性基を有する疎水性樹脂とのいずれも用いることができる。
【0026】
親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、スルホニル基、アミノ基、アミド基、エーテル基、およびエステル基等が挙げられる。親水性樹脂としては、例えば、シロキサンポリマー;エポキシ樹脂;ポリエチレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリアクリルアミド樹脂;ポリビニルピロリドン樹脂;ポリアクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;カチオン化ポリビニルアルコール、シラノール化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリエチレンポリアミド樹脂;ポリアミドポリアミン樹脂;ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体等のポリアルキレンオキサイド誘導体;無水マレイン酸共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体;および上記の樹脂の組み合わせ等の中から、適宜選択して使用することができる。
疎水性樹脂の例としては、例えば、ノボラック樹脂;アクリル樹脂;メタクリル樹脂;スチレン樹脂;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルフォン樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;ユリヤ樹脂;メラミン樹脂;グアナミン樹脂;フェノール樹脂;セルロース樹脂;および上記の樹脂の組み合わせ等の中から、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて測定した接触角が70度以上である材料を適宜選択して使用することができる。すなわち、本明細書における疎水性とは、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて測定した接触角が70度以上であることを意味する。なお、JIS R3257-1999に規定された静滴法に代えて、ASTM D5725-1997に準拠した方法で接触角を測定することもできる。
【0027】
親水性樹脂および疎水性樹脂のいずれも、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。さらに、電子線やUV光等の活性エネルギー線により硬化する樹脂であってもよく、エラストマーであってもよい。
樹脂材料としてフォトレジストを用いると、フォトリソグラフィにより壁部層32に多数の微細な貫通孔32aを精度良く形成することができる。
フォトリソグラフィを用いる場合、使用するフォトレジストの種類の選択、塗布、および露光(感光)、および不要なフォトレジストの除去の方法には公知の手段を適宜選択することができる。
レジストを用いない場合は、例えば射出成型等により壁部層32を形成することができる。
【0028】
有色成分としては、有機質または無機質の顔料が例示できる。具体的には、黒色顔料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、および鉄黒等が挙げられる。黄色顔料としては、クロム黄、亜鉛黄、黄土、ハンザイエロー、パーマネントイエロー、およびベンジンイエローが挙げられる。橙色顔料としては、オレンジレーキ、モリブデンオレンジ、およびベンジンオレンジが挙げられる。赤色顔料としては、べんがら、カドミウムレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド、リソールレッド、レーキレッド、ブリリアントスカーレット、およびチオインジゴレッドが挙げられる。青色顔料としては、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、フェロシアンブルー、およびインジゴが挙げられる。緑色顔料としては、クロムグリーン、ビリジアンナフトールグリーン、およびフタロシアニングリーン等が挙げられる。
【0029】
また、壁部層32を射出成型等で形成する場合、樹脂中に分散する顔料だけでなく、樹脂中に溶解する各種染料も有色成分として用いることが可能である。染料は各種染料法より例示できる。具体的には、直接染料、塩基性染料、カチオン染料、酸性染料、媒染染料、酸性媒染染料、硫化染料、建染染料、ナフトール染料、分散染料、および反応染料などが挙げられる。特に、樹脂を染色する場合には、分散染料が選択されることが多い。
【0030】
蓋部材20(単に蓋20と記載してもよい)は、板状またはシート状に形成された部材である。蓋部材20は、基板10と離間した状態で対向している。言い換えれば、蓋部材20は、複数のマイクロウェル33を覆っている。流路35は、蓋部材20と、マイクロウェルアレイ30と、周縁部材34に囲まれる領域である。流路35は、複数のマイクロウェル33の開口と接続しており、複数のマイクロウェル33の上方に位置する。
【0031】
蓋部材20は、厚さ方向に貫通する第一孔21および第二孔22を有する。蓋部材20の平面視において、第一孔21および第二孔22は、1つまたは複数の前記液的保持部を挟むように位置している。第一孔21および第二孔22は、完成したマイクロ流体デバイス1において、マイクロウェルアレイ30と流路35を含む内部空間Sと連通する。第一孔21および第二孔22は、それぞれ内部空間Sに流体を供給する入口および流体が排出される出口として機能する。
蓋部材20を形成する材料や蓋部材20の厚みについては、基板10と同様とすることができる。
蓋部材20が電磁波透過性を有する場合は、電磁波透過性については適宜設定できる。例えば、後述する電磁波照射工程を蓋部材20側から行わない場合は、蓋部材20は電磁波を透過可能でなくてもよい。
【0032】
流路35の高さhは、
図2に示すように、基板10の流路35側の最上面(基板10の孔が形成されていない部分における流路35側の面)から蓋部材20の流路35側の面までの高さとなる。マイクロ流体デバイス1が壁部層32を備える場合は、
図3に示すように、壁部層32の流路35側の面32bから蓋部材20の流路側の面20aまでの高さとなる。
【0033】
流路35の高さhは、0μm超50μm未満であり、0μm超30μm以下が好ましく、2μm以上30μm以下が好ましく、3μm以上25μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましく、8μm以上18μm以下が特に好ましい。流路の高さが、0μm超50μm未満であることにより、液滴保持部11(マイクロウェル33)に形成された液滴を加熱した際に、気泡の発生が抑制される。よって、気泡により蛍光等の検出が妨げられることなく、試料を蛍光等により検出することができる。
【0034】
流路の高さhは、気泡の発生を抑制する観点からは、50μm未満であれば小さい方が好ましいが、流路の高さhが2μmよりも小さい場合は、試料を流路内に充填することが簡便にはできなくなる可能性がある。流路の高さが2μm以上であると、試料を含む水性液体を流路に充填する際の圧力が上昇しすぎることがなく、簡便に前記水性液体を充填することができる。流路の高さhが50μm以上であると、液滴保持部11(マイクロウェル33)に形成された液滴を加熱した際に、気泡が発生しやすくなり、この気泡の発生により、試料を蛍光等により検出することが困難となる。言い換えれば、流路の高さhが50μm未満であると、液滴保持部11(マイクロウェル33)に形成された液滴を加熱しても、気泡が発生し難く、試料を蛍光等により正確に検出することができる。その結果、流路の高さhが50μm未満であると、マイクロ流体デバイスの良品率向上につながる。また、流路の高さhが50μm未満であると、試料の検出効率が向上するため、検出操作の成功率が向上する。
【0035】
流路35の高さは、基板10の流路35側の最上面(基板10の孔が形成されていない部分における流路35側の面)の複数個所における高さの平均値であってもよいし、代表的な個所における高さであってもよい。前記代表的な個所は、基板10の任意の位置を選択することができる。例えば、流路35を形成している基板10の中心であってもよいし、流路35を形成している基板10の最先端と中心を結ぶ線の最先端側から10%~50%の位置であってもよい。測定のしやすさも考慮すると、蓋部材20を上面から見たときの第一孔21の中心と第二孔22の中心とを結ぶ仮想的な線の中心における仮想的な直交線が周縁部材34と交わる点における位置を、代表的な個所とするのが好ましい。
また、マイクロ流体デバイス1が壁部層32を備える場合は、壁部層32の流路35側の面32aの複数個所における高さの平均値であってもよいし、代表的な個所における高さであってもよい。前記代表的な個所は、壁部層32の任意の位置を選択することができる。例えば、前記代表的な個所は、壁部層32の中心であってもよい。また、前記代表的な箇所は、壁部層32の流路35に面している側の最先端と中心を結ぶ線の最先端側から10%~50%の位置であってもよい。測定のしやすさも考慮すると、第一孔21と第二孔22とを結ぶ仮想的な線の中心における仮想的な直交線が周縁部材34と交わる点における位置を、代表的な個所とするのが好ましい。
ここで、最先端とは、マイクロ流体デバイス1の第一孔21と第二孔22とを結ぶ仮想的な線に平行な方向(長手方向という)における端のことを言う。端とは、後述する周縁部材34と接する部分のことを言う。
【0036】
さらに、流路35を形成する蓋部材20の流路側の面は平滑であることが好ましい。前記蓋部材20の流路35側の面が平滑であることにより、液滴保持部11(マイクロウェル33)中の液滴を加熱した際に、気泡の発生をより抑制することができる。本明細書において、平滑であるとは、光学顕微鏡で観察した際の凹凸が小さい、すなわち微視的な凹凸が小さいことを意味する。本明細書において、平滑であるとは、蓋部材20が周縁部材34の内側において湾曲していないことを意味しない。本実施形態において蓋部材20は周縁部材34の内側において湾曲していてもよい。例えば、蓋部材20は、蓋部材20の主面の中心近傍において、基板10側に突出するように湾曲していてもよい。つまり、周縁部材34と接する部分の流路35は、蓋部材20の主面の中心近傍における流路35より高くなっていてもよい。ここで、蓋部材20の主面の中心とは、蓋部材20の主面の幾何中心とする。
【0037】
本明細書において、マイクロウェルとは、容積が10ナノリットル(nL)以下のウェルを意味する。液滴保持部11の容積をマイクロウェルの容積にすることにより、デジタルPCRおよびデジタルICA反応等の微小空間内で行う反応を好適に行うことができる。上述した手法により、例えば遺伝子の変異検出等を行うことができる。
液滴保持部11(マイクロウェル33)の容積は、特に限定されるものではないが、10フェムトリットル(fL)以上100ピコリットル(pL)以下が好ましく、10fL以上5pL以下がより好ましく、10fL以上2pL以下が最も好ましい。このような範囲に容積を設定すると、後述する試料分析の際に、一つの液滴保持部11(マイクロウェル33)に、1から数個だけ生体分子または担体を収容するのに適している。
【0038】
マイクロウェル33の形状は、容積が上述した範囲内である限り特に制限はない。したがって、例えば、円筒形、複数の面により構成される多面体(例えば、直方体、六角柱、および八角柱等)、逆円錐形、および逆角錐形(逆三角錐形、逆四角錐形、逆五角錐形、逆六角錐形および、七角以上の逆多角錐形)等であってもよい。
さらに複数のマクロウェル33の形状は、上述の形状を二つ以上組み合わせたような形状であってもよい。例えば、複数のマクロウェル33の一部が円筒形であり、残りが逆円錐形であってもよい。また、マイクロウェル33が逆円錐形または逆角錐形の場合、円錐または角錐の底面が流路35とマイクロウェル33とを連通する開口部となる。この場合、逆円錐形または逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状を用いて、マイクロウェル33の底部を平坦にしてもよい。他の例として、マイクロウェル33の底部が開口部に向かって突出した曲面形状であってもよく、マクロウェル33の底部が窪んだ曲面形状であってもよい。
【0039】
基板10の液滴保持部が形成されている領域の単位面積(通常は1mm2)あたりの液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の総面積の比率は、23%以上90%以下が好ましく、25%以上90%以下がより好ましく、30%以上90%以下がより好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、39%以上76%以下がより好ましく、39%以上64%以下がより好ましい。基板10の液滴保持部が形成されている領域の単位面積あたりの液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の総面積の比率が、上述の好ましい範囲にあると、流路における気泡の発生を効果的に抑制することができる。これは、液滴保持部11(マイクロウェル33)内の水性液体を加熱した際に、開口部の総面積が大き過ぎないことで、流路35内の封止液に加わる圧力をある程度抑制できるからであると考えられる。
【0040】
以下、基板10の液滴保持部が形成されている領域の単位面積あたりの液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の総面積の比率を、「開口面積比率」ともいう。
【0041】
液滴保持部11(マイクロウェル33)が形成されている領域が基板10の全面に渡って存在する場合には、基板10の液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の総面積は、基板10の周縁部材で区画された領域の面積と同じであると近似してよい。液滴保持部11(マイクロウェル33)が形成されている領域は、
図4に示すように、基板10の一部のみに存在していてもよい。ここで、液滴保持部11(マイクロウェル33)が形成されている領域とは、
図4に示すように、基板10を垂直方向から見たときに、液滴保持部11(マイクロウェル33)同士の間隔が一定間隔を保っている領域を言う。この場合、基板10の液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の総面積は、液滴保持部11(マイクロウェル33)が形成されている領域の最外部に位置する複数の液滴保持部11(マイクロウェル33)の開口部の中心を通る仮想線で囲まれる領域の面積と近似してよい。一定間隔であるとは、厳密に一定間隔である必要はなく、当然に、製造上の誤差が許容される。
【0042】
基板10の周縁部材で区画された領域の面積に対する液滴保持部11が形成されている領域の面積が大きいほど、水性液体が蒸発しやすくなり、気泡が発生しやすくなる。しかし本実施形態のように流路35の高さhを50μm未満とすると、流路35における気泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0043】
壁部層32が存在する場合には、壁部層32の厚さは、液滴保持部11(マイクロウェル33)の深さを規定する。
マイクロウェルが円筒形の場合、生体分子を含む水性液体(試料)を封入する目的のためには、壁部層32の厚さは、例えば10nm以上100μm以下、好ましくは100nm以上50μm以下、より好ましくは1μm以上30μm以下、更に好ましくは2μm以上15μm以下、更に好ましくは3μm以上10μm以下の範囲内とすることができる。
マイクロウェル33の各部寸法は、収容する水性液体の量や、生体分子を付着させたビーズ等の担体の大きさ等を考慮して、1つのマイクロウェルに1つ、もしくは数個の生体分子が収容されるように適宜決定すればよい。
【0044】
流路35の高さhに対する液滴保持部11(マイクロウェル33)の深さの比率は、3%以上150%以下が好ましく、より好ましくは10%以上100%以下、更に好ましくは12%以上75%以下、更に好ましくは15%以上75%以下、更に好ましくは33%以上75%以下、更に好ましくは33%以上50%以下である。この範囲にあることにより、気泡の発生の抑制と、検出対象の液滴保持部11(マイクロウェル33)への導入のしやすさをより両立させることができる。
【0045】
マイクロウェルアレイ30に設けるマイクロウェル33の数や密度は適宜設定できるが、マイクロウェル33の総容積が、例えば0.2μL以上2.0μL以下、好ましくは0.5μL以上1.5μL以下となるように、マイクロウェル33の数や密度を設定することが好ましい。
また、マイクロウェル33の総容積は、流路35の容積に対して、好ましくは5%以上40%以下、より好ましくは8%以上30%以下、特に好ましくは10%以上20%以下となる容積が好ましい。流路35の容積に対するマイクロウェル33の総容積の割合が、好ましい範囲にあることで、マイクロウェル33中の液滴を加熱した場合の気泡の発生をより抑制することができる。
【0046】
1cm
2あたりのマイクロウェル33の数は、例えば1万以上1000万以下であり、好ましくは10万以上500万以下であり、更に好ましくは10万以上100万以下である。本明細書において1cm
2あたりのマイクロウェル33の数をマイクロウェルの密度と呼ぶことがある。マイクロウェルの密度がこの範囲内であると、所定数のウェルに試料である水性液体を封入させる操作が容易である。また、マイクロウェルの密度がこの範囲内であると、実験結果を解析するためのウェルの観察も容易である。例えば、セルフリーDNAの変異を検出する場合において、野生型DNAに対する検出対象である変異DNAの存在割合が0.01%程度である場合、例えば、100万~200万個程度のマイクロウェルを使用することが好適である。
図1では、複数のマイクロウェル33が一列に並んだ一次元アレイの例を示している。しかしながら、上述のように多数のマイクロウェルを設ける場合、複数のマイクロウェルを二次元に配列した二次元アレイを用いてもよい。
【0047】
マイクロウェルアレイの周囲には、平面視枠状の周縁部材34が配置されている。マイクロ流体デバイス1の厚さ方向における周縁部材34の寸法は、壁部層32よりも大きい。周縁部材34は、蓋部材20を支持することにより蓋部材20とマイクロウェルアレイとの間に隙間を確保し、流路35を維持している。つまり、流路35は、マイクロウェルアレイ30と蓋部材20に挟まれ、且つ周縁部材34により囲まれた領域である。
周縁部材34の材質等に特に制限はないが、例えばシリコーンゴム又はアクリル発泡体から形成される芯材フィルムの両面にアクリル系粘着剤が積層された両面粘着テープ等が挙げられる。
なお、周縁部材34は蓋部材20と一体成形されていてもよい。その場合、周縁部材34は、蓋部材20の段差部となり、前記段差部により蓋部材20とマイクロウェルアレイとの間に隙間を確保し、流路35を維持している。
【0048】
上記のように構成されたマイクロ流体デバイス1は、例えば以下の手順で製造することができる。
まず、基板10を準備し、基板10の面上に壁部層32となる壁部用樹脂層を形成する。底部層31を設ける場合は、壁部用樹脂層の形成前に底部層31を形成する。底部層31を設けない場合でも、必要に応じて基板10の面上に基板10と壁部用樹脂層との密着性を高めるアンカー層等を設けてもよい。
【0049】
壁部樹脂層は、樹脂材料に有色成分を混合した材料により形成されてもよい。樹脂材料がレジストである場合、樹脂材料と有色成分の総質量に対する有色成分の含有率は、例えば0.5質量%(mass%)以上60mass%以下とすることができる。含有率に関して、好ましくは5mass%以上55mass%以下であり、更に20mass%以上50mass%以下がさらに好ましい。樹脂材料と有色成分の総質量に対する有色成分の含有率は、レジストに含まれる感光成分等の割合を考慮して所望するパターンが構築可能となるように、適宜設定することができる。また、有色成分が顔料である場合、形成するマイクロウェルに対して上述した所定の条件を満たすように顔料の粒子径を設定し、準備する。顔料と共に、樹脂材料に分散剤が適宜添加されてもよい。
形成された壁部樹脂層が樹脂材料に有色成分を混合した材料から形成されている場合、壁部樹脂層は、壁部樹脂層に含有される有色成分に基づいた色彩を有する。
【0050】
次に、形成された壁部樹脂層に貫通孔32aを形成する。上述したように、フォトリソグラフィを用いると、貫通孔32aを簡便かつ精度よく形成することができる。壁部樹脂層を射出成型等により形成する場合は、壁部樹脂層の形成と貫通孔の形成とを同一のプロセスで行うことができる。この他、パターンマスクを用いたエッチング等によっても貫通孔32aの形成が可能である。
貫通孔32aが形成されると、壁部樹脂層が壁部層32となり、マイクロウェルアレイ30が完成する。
【0051】
その後、マイクロウェルアレイ30の周囲に周縁部材34を配置してから蓋部材20を周縁部材34上に配置する。基板10、周縁部材34、および蓋部材20を一体に接合すると、マイクロ流体デバイス1が完成する。流路35は、周縁部材34により、蓋部材20と基板10との間に形成される。接合方法は、特に限定されるものではないが、例えば、接着剤による接合、両面テープを用いた接合、レーザー溶着による接合、および熱溶着による接合等が挙げられる。マイクロ流体デバイス1を用いる試料分析方法が加熱反応を含む場合、加熱に伴う内部空間Sの圧力上昇に十分耐えられることから、接着剤による接合、両面テープを用いた接合、レーザー溶着による接合が好ましい。
【0052】
また、マイクロ流体デバイス1は、基板10と壁部層32とが一体成形され、周縁部材34と蓋部材20とが一体成形されていてもよい。
図5に、基板10と壁部層32とが一体成形され、周縁部材34と蓋部材20とが一体成形されているマイクロ流体デバイス2を示す。マイクロ流体デバイス2は、壁部層32と一体成形された基板10を、周縁部材34と一体成形された蓋部材20に配置し、周縁部材34と蓋部材20とが一体成形されることにより形成された段差部を、壁部層32と一体成形された基板10に接合することにより、製造することができる。流路35は、蓋部材20に形成された段差部により、蓋部材20と基板10との間に形成される。
基板10と壁部層32とが一体成形され、周縁部材34と蓋部材20とが一体成形されている以外のマイクロ流体デバイス2の構成は、上述のマイクロ流体デバイス1と同じである。
【0053】
他の態様として、基板10と壁部層32を別の要素として有し、周縁部材34と蓋部材20が一体形成されているマイクロ流体デバイスであってもよい。この場合においても、周縁部材34と蓋部材20が一体形成されている以外のマイクロ流体デバイスの構成は、上述のマイクロ流体デバイス1と同じである。
【0054】
次に、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を用いた、本実施形態の試料分析方法について
図6および
図7を参照して説明する。
本実施形態の試料分析方法は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を用いた試料の分析方法であって、
試料を含有する水性液体を流路35に導入し、前記液滴保持部11に前記水性液体を保持させることと、
前記流路35に封止液を導入して前記流路35内に存在する前記水性液体と置換し、前記液滴保持部11に前記水性液体を封入することと、
前記液滴保持部11において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させることと、
前記シグナルを検出することと、
を備える試料分析方法である。
【0055】
ここで、水性液体とは、試料のほかに、水、緩衝液および検出反応試薬等を含むことができる。また、水性液体中には、酵素を含有させてもよい。例えば、試料が核酸である場合には、PCR法、ICA法、LAMP法(商標登録、Loop-Mediated Isothermal Amplification)、TaqMan法(登録商標)、又は蛍光プローブ法等を用いることができる。例えば、試料がタンパク質の場合には、ELISA法(登録商標)等を用いることができる。さらに、水性液体中には、界面活性剤等の添加物を含有させてもよい。
【0056】
緩衝液としては、例えばTris-HCl緩衝液、酢酸緩衝液、及びリン酸緩衝液等が挙げられる。
酵素としては、例えばDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素、及びフラップエンドヌクレアーゼ等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばTween 20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートともいう)、Triton-X100(ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n=約10)ともいう)、グリセロール、オクチルフェノールエトキシレート、及びアルキルグリコシド等が挙げられる。
【0057】
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、例えば遺伝子の変異検出等において、封入した水性液体の温度を変化させる場合も、ウェル内に水性液体を好適に保持することができる。変化させる温度の範囲即ち温度変化の下限値から上限値の範囲は、例えば0℃~100℃であり、好ましくは20℃~100℃であり、更に好ましくは20℃~90℃であり、更に好ましくは20℃~80℃であり、更に好ましくは20℃~70℃である。ウェルに封入した水性溶液がこの範囲内であると、PCR反応やICA反応等の微小空間内で行う反応を好適に行うことができる。
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、流路の高さhが50μm未満であることから、上記温度範囲で液滴保持部11(マイクロウェル33)を加熱した場合も、気泡の発生を抑制することができる。
【0058】
本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1を使用して分析する試料としては、例えば血液等の生体から採取した試料が挙げられる。また、試料分析により検出する検出対象は、試料に含まれるDNAを鋳型としたPCR産物等であってもよいし、人工的に合成された化合物(例えば、試料であるDNAを模した人工的に合成された核酸)等であってもよい。例えば、生体分子であるDNAを検出対象とする場合、ウェルは、DNAが1分子入るような形状および大きさを有していてもよい。
【0059】
前記試料には、DNA、RNA、miRNA、mRNA、タンパク質、または脂質等の生体分子等が含まれてよい。脂質には、脂質二重膜構造体が含まれてよい。また、生体分子には、治療目的でなくヒトから採取された細胞や、動物から採取された細胞、微生物、または細菌等が含まれてもよい。検出対象が生体分子である場合には、本発明の一態様における試料分析方法は、生体分子検出方法であるということができ、生体分子検出方法に用いられる本発明の一態様におけるマイクロ流体デバイスは、生体分子検出デバイスであるということができる。
【0060】
以下、試料分析方法の詳細について説明する。準備工程として、マイクロウェルに封入する試料を含有する水性液体を調製する。試料を含有する水性液体は、検出対象を含有する水が主な溶媒である液体であり、例えば、生体試料を鋳型とし、検出試薬としてSYBR Greenを含むPCR反応溶液や、アレルプローブ、ICAオリゴ、FEN-1、および蛍光基質等を含むICA反応溶液等が挙げられる。調製においては、界面活性剤を添加して、試料をよりマイクロウェル内に入りやすくしてもよい。また、検出対象を特異的に認識するビーズを添加して、検出対象を捕捉させておいてもよい。検出対象は、ビーズ等の担体に直接または間接的に結合せず、水性液体中に浮遊していてもよい。
【0061】
次に、シリンジ等を用いて、調製した試料を含有する水性液体100を第一孔21から流路35に導入し、前記液滴保持部11に試料を含有する水性液体を保持させる(試料供給工程ともいう)。供給された試料を含有する水性液体100は、
図6に示すように、各マイクロウェル33内および流路35に充填される。流路35内の気体は、試料供給工程の前に、脱気操作により予め抜いておく。この脱気操作は、流路35内にバッファを満たすことにより行ってもよい。バッファとしては、例えば水、緩衝液を含む水、界面活性剤を含む水、及び、緩衝液及び界面活性剤を含む水等が挙げられる。
【0062】
次に、前記試料を含有する水性液体100を液滴保持部11(マイクロウェル33)に封入する封入工程を行う。封入工程の前に、水性液体に含有される試料内の検出対象に蛍光等の標識を付けておいてもよい。蛍光標識処理は、試料供給工程の前の、例えば試料の調製時に行ってもよいし、試料供給工程後に、蛍光標識を流路35に導入して行ってもよい。
封入工程では、シリンジ等を用いて、封止液110を第一孔21から流路35に供給する。供給された封止液110は流路35内を流れ、
図7に示すように、流路35内に存在する試料を含有する水性液体100を第二孔22に向かって押す。そして、封止液110は、流路35内に充填されていた水性媒体100と置換され、流路35は封止液110で充填される。その結果、前記試料を含有する水性液体100は、各マイクロウェル33内のみに、互いに独立した状態で配置され、試料の封入が完了する。
【0063】
本明細書において封止液110とは、マイクロウェルアレイ30の各マイクロウェル33に導入された水性液体同士が互いに混合しない状態に隔離するために用いる液体を意味し、例えば、オイル類等が挙げられる。オイルとしては、例えばシグマ社製の商品名「FC40」や、3M社製の商品名「HFE-7500」、PCR反応等に用いられるミネラルオイル等を用いることができる。
封止液110は、壁部層32の材質に対する接触角が5度以上30度以下であることが好ましい。封止液110の接触角がこの範囲であると、各マイクロウェル33に好適に試料を封入することができる。封止液110の接触角は、例えば、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて、水の代わりに封止液110を用いて測定すればよい。なお、JIS R3257-1999に規定された静滴法に代えて、ASTM D5725-1997に準拠した方法で接触角を測定してもよい。
【0064】
続いて、前記マイクロ流体デバイス1の前記液滴保持部11(マイクロウェル33)において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させる反応工程を行う。
検出のためのシグナルの例としては、蛍光、化学発光、発色、電位変化または、pH変化等が挙げられるが、蛍光が好ましい。
反応工程の前に、マイクロ流体デバイス1をサーマルサイクラーにかけて、PCR反応やICA反応等の酵素反応等を必要に応じて行ってもよい。
前記反応は、例えば生化学反応、より具体的には酵素反応であってもよい。また、前記反応は、マイクロ流体デバイス1を加熱して反応を起こしてもよい。加熱する際の温度は、反応に応じて適宜決定されるが、例えば、60℃以上100℃以下である。加熱する際の温度は、60℃以上90℃以下が好ましく、60℃以上80℃以下がより好ましく、60℃以上70℃以下がさらに好ましい。加熱する際の温度とは、前記液滴保持部11(マイクロウェル33)内の試薬液の実際の温度ではなく、サーマルサイクラーまたはインキュベーター等によって設定される、マイクロ流体デバイスの加熱温度のことである。また、加熱する際の温度が例えば60℃以上100℃以下であるとは、温度の最高温度が60℃以上100℃以下に達することをいい、常に60℃以上100℃以下である必要はない。すなわち、上述した変化させる温度の範囲内において、マイクロ流体デバイス1の温度が変化しても構わない。反応の一例として、シグナル増幅反応が挙げられる。シグナル増幅反応は、シグナル増幅のための酵素を含んだ試薬液が前記液滴保持部11(マイクロウェル33)内に収容された状態で、マイクロ流体デバイス1を、所望の酵素活性が得られる一定温度条件下、例えば60℃以上100℃以下で、所定時間、例えば少なくとも10分間、好ましくは約15分間、維持する等温反応である。
【0065】
次に、上記の反応によって前記液滴保持部11(マイクロウェル33)から発生するシグナルを検出する(検出工程ともいう)。例えば、シグナルが蛍光である場合は、蛍光顕微鏡にマイクロ流体デバイス1をセットし、励起光(電磁波)を照射する。励起光の波長は、使用している蛍光標識に応じて適宜設定される。
電磁波の照射は、マイクロ流体デバイス1の基板10側から行ってもよく、蓋部材20側、つまりマイクロウェル33の上側から行ってもよく、その他の任意の方向から行ってもよい。また、電磁波の照射の結果発生する蛍光または燐光の検出は、マイクロウェルアレイの基板側から行ってもよく、ウェル側から行ってもよく、その他の任意の方向から行ってもよいが、例えば蛍光顕微鏡を用いて蛍光または燐光を検出する場合には、マイクロ流体デバイス1の基板10側から行うことが簡便である。
【0066】
次に、マイクロウェルアレイ30を構成する複数のマイクロウェル33のうち、何個のマイクロウェル33が蛍光または燐光を発しているかを計測する。計測は、マイクロウェルアレイ30の蛍光画像を撮影して蛍光画像を用いて行ってもよい。
例えば、マイクロウェルアレイ30内でPCR反応を行い、PCR増幅が見られたマイクロウェル33におけるSYBR Greenの蛍光を検出することにより、全てのマイクロウェル33の数に対する増幅が見られたマイクロウェル33の割合を算出することができる。検出対象が例えば一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)の場合、蛍光を発するマイクロウェル33の数を数えることで、SNPの発現頻度等を分析することができる。
【0067】
本発明のもう1つの側面は、以下の態様を包含する。
[31]基板と、前記基板上に位置する蓋部材と、前記基板と前記蓋部材とを接続している周縁部材と、前記基板と前記蓋部材との間に位置し、前記周縁部材によって区画されている流路と、前記基板上に位置し、前記流路と接続している1つまたは複数の液滴保持部と、を有し、前記流路の高さが0μm超30μm以下である、マイクロ流体デバイス。
[32]前記液滴保持部が前記基板表面に設けられている孔である、[31]に記載のマイクロ流体デバイス。
[33]前記流路に液体を導入するための少なくとも1つの第一孔および前記流路から液体を排出するための少なくとも1つの第二孔を有し、前記第一孔および前記第二孔は、1つまたは複数の前記液的保持部を挟むように位置している、[31]に記載のマイクロ流体デバイス。
[34]前記液滴保持部の底部が基板側であり、前記液滴保持部が前記蓋部材側に開口を有しており、前記開口上に前記流路が位置する、[31]~[33]に記載のマイクロ流体デバイス。
[35]前記液滴保持部の1つあたりの容積が10fL以上100pL以下である、[31]~[34]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[36]前記液滴保持部の総容積が、0.2μL以上2.0μL以下である、[31]~[35]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[37]前記流路の容積に対する、前記液滴保持部の総容積の比率が、5%以上40%以下である、[31]~[36]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[38]前記流路の高さに対する、前記液滴保持部の深さの比率が、3%以上150%以下である、[31]~[37]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[39]前記基板において前記液滴保持部が形成されている領域の単位面積あたりの前記液滴保持部の開口部の総面積の比率が、23%以上90%以下である、[31]~[38]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[40]前記周縁部材が前記蓋部材と一体に形成された段差部である、[31]~[39]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[41][31]~[40]のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを用いた試料分析方法であって、試料を含有する水性液体を前記流路に導入し、前記液滴保持部に前記水性液体を保持させることと、前記流路に封止液を導入して前記流路内に存在する前記水性液体と前記封止液を置換し、前記液滴保持部に前記水性液体を封入することと、前記液滴保持部において反応を起こし、検出のためのシグナルを発生させることと、前記シグナルを検出することと、を備える試料分析方法。
[42]前記試料が、生体分子である、[41]に記載の試料分析方法。
[43]前記検出のためのシグナルを発生させることは、前記マイクロ流体デバイスを加熱して前記反応を起こすことを含み、前記マイクロ流体デバイスが加熱される際の温度が60℃以上である、[41]または[42]に記載の試料分析方法。
[44]前記シグナルを前記マイクロ流体デバイスの画像撮影により検出する、[41]~[43]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[45]前記シグナルが蛍光である、[41]~[44]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
[46]前記反応が等温反応である、[41]~[45]のいずれか一項に記載の試料分析方法。
【実施例】
【0068】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
射出成形で形成したCOP(ZEONOR1010R、日本ゼオン社製)製の基板とCOP(ZEONOR1010R、日本ゼオン社製)製の蓋部材の2つの樹脂製の部材を準備した。COP製の基板に成形する微小孔数を変化させることで、微小孔(つまりマイクロウェル)の総容積を調整した。蓋部材と段差部を一体に形成し、段差部の高さを30μmに調整することにより、流路の高さを30μmとした。
微小孔は、径10μm、深さ15μmの微小孔を、流路面内の9000mm×30000mmの領域に配置した。
開口面積比率は、微小孔が形成されている領域6.5mm×9.0mmあたりの微小孔の開口部の総面積の比率とした。
基板は、厚さ0.6mmで、基板全面に微小孔が配置された、射出成形により成形された基板を用いた。流路の高さの測定には、接触式測定器(TALYSURF PGI1240、Taylor Hobson社製)を使用した。
基板と蓋部材の段差部とを、レーザー溶着により貼合し、マイクロ流体デバイスを作製した。基板と蓋部材の間に形成された流路に、表1に示す組成を有する蛍光試薬(Fluorescein、東京化成工業社製)を注入した。さらにフルオロカーボンオイル(FC40、シグマ社製)によって複数のマイクロウェルを個別に封止した。なお、本実施例においては、蛍光反応は行っていないが、蛍光反応を行った場合と同様の状態とするために、蛍光試薬に酵素を加えている。
【0070】
【0071】
上記マイクロ流体デバイスを66℃で30分間加熱した。室温放置後、上面から、つまり蓋部材側から気泡の発生の有無を確認し、デジタルカメラ(CX-4、リコー社製)を用いて撮影した。また、蛍光顕微鏡(BZ-710、KEYENCE社製)で4倍の対物レンズを用いて微小孔蛍光画像を観察した。露光時間は、明視野20msecで、GFP(Green Fluorescent Protein)の蛍光フィルターを用いて3000msecとした。
【0072】
表2に、上記マイクロ流体デバイスの気泡の発生率を示した。気泡発生率は、複数の同じ設計のマイクロ流体デバイスを用意し、1つのマイクロ流体デバイス内に気泡が有るものの個数を、解析を行った全てのマイクロ流体デバイスの個数で除することにより算出した。気泡の有無は、肉眼で視認可能なサイズの気泡がマイクロ流体デバイス内に存在した場合には、気泡が有ると判断し、同一の条件で気泡が存在しなかった場合には気泡が無いと判断した。上記条件で視認可能な気泡の最大寸法は、約500μm以上であった。小さな気泡が存在したとしても、気泡のサイズが、4倍の対物レンズを用いて顕微鏡によりマイクロ流体デバイスを観察した際に、再隣接の微小孔(つまり、マイクロウェル)の端と端の距離よりも小さいときには、気泡が無いと判断した。そのように判断して良い理由は、上記のサイズ以下の気泡が存在する場合には、実質的に検出を阻害することにはならず、気泡の発生を抑制できていると考えられるからである。
その結果、表2に示すように実施例1で製造したマイクロ流体デバイスは、気泡の発生率が低かった。
図8に、比較例のマイクロ流体デバイスでの代表的な気泡の観察結果(流路高さ:100μm)を示す。
図8において、矢印で示した部分が、代表的な気泡発生部分を示す。
図8は、数mmの気泡が存在すると共に、500μm程度の小さな気泡も複数観察されたことを示している。流路高さを30μmとした実施例1のマイクロ流体デバイスは、このような気泡の発生率が低減されていた。
【0073】
次に、蛍光観察結果を示す。
図9Aのように、流路高さを30μmとした実施例1のマイクロ流体デバイスは、液滴が崩れることがなく、微小孔(つまり、マイクロウェル)の観察が可能であった。
【0074】
(実施例2)
流路の高さを20μmとした以外は実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表2に示す。表2に示すように実施例2で製造したマイクロ流体デバイスは、気泡の発生率が低かった。
【0075】
(比較例1)
流路の高さを100μmとした以外は実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表2に示す。表2に示すように比較例1で製造したマイクロ流体デバイスは、気泡の発生率が高かった。
図9Bに、蛍光観察結果を示す。流路高さを100μmとしたマイクロ流体デバイスは、気泡が複数発生し、微小孔の観察が困難であった。
図9Bにおいて、矢印で示した部分が、代表的な気泡発生部分を示す。
【0076】
(比較例2)
ウェルの深さを3.5μmとし、流路の高さを100μmとした以外は実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表2に示す。表2に示すように比較例2で製造したマイクロ流体デバイスは、気泡の発生率が高かった。
【0077】
【0078】
(実施例3)
射出成形で形成したCOP(ZEONOR1010R、日本ゼオン社製)製の基板を用いた。微小孔は、径5μm、深さ3.5μmの微小孔を、流路面内の6.5mm×9.0mmの領域に配置した。
蓋部材として、射出成形で形成したCOP(ZEONOR1010R、日本ゼオン社製)製の蓋部材(送液および廃液ポート付)に、周縁部材として厚さ30μmのPET(polyethylene terephthalate)基材両面テープ(No.5603 BN、日東電工製)を用いた。
【0079】
これら以外は、実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表3に示す。
なお実施例3のマイクロ流体デバイスは、4個が連結して一組のデバイス群として形成された。このデバイス群を3個、つまりマイクロ流体デバイスを計12個作成した。
また「ウェルが形成されている領域の比率」は、周縁部材で囲まれる領域、即ち流路が形成されている領域の面積に対する微小孔が形成されている領域の比率とした。
【0080】
(比較例3)
周縁部材として厚さ50μmのPET(polyethylene terephthalate)基材両面テープ(品番:No.5603 BN、日東電工製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表3に示す。
【0081】
(比較例4)
周縁部材として厚さ100μmのPET(polyethylene terephthalate)基材両面テープ(品番:No.5603 BN、日東電工製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを製造し、気泡発生率を計測した。その結果を表3に示す。
【0082】
【0083】
実施例4のマイクロ流体デバイスの流路の高さは、周縁部材の厚さに相当することから、30μmであるといえる。実施例4のマイクロ流体デバイスでは、気泡が発生しなかった。
【0084】
一方で、流路の高さが50μmである比較例3および流路の高さが100μmである比較例4のマイクロ流体デバイスでは、気泡発生率がそれぞれ50%および100%と高い値となった。
以上より、マイクロ流体デバイスの流路の高さが50μm以上であると気泡発生率が上昇するが、流路の高さが30μmであると、気泡の発生率を低減することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、微小な液滴を形成して加熱する場合の気泡の発生を抑制することができるマイクロ流体デバイスを提供することができる。また、微小な液滴を形成して加熱し、試料を光学的に検出する場合に、微小な液滴を形成して加熱する場合の気泡の発生を抑制することができ、試料の検出効率を向上させることができる試料分析方法を提供することができる。試料として生体分子を用いる場合には、一定時間以上に渡って高温に加熱する必要があり、本発明によれば、そのような場合においても効果的に気泡の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0086】
1、2 マイクロ流体デバイス
10 基板
11 液滴保持部
20 蓋部材
30 マイクロウェルアレイ
32 壁部層
33 マイクロウェル
35 流路
100 水性液体
110 封止液