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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】耳内投与用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20240918BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K47/12
A61K47/02
A61K38/18 ZNA
A61K45/00
A61P27/16
A61P43/00 111
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021535442
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029342
(87)【国際公開番号】W WO2021020535
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019140977
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【弁理士】
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【弁理士】
【氏名又は名称】川濱 周弥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴恒
(72)【発明者】
【氏名】長田 茉莉
(72)【発明者】
【氏名】松田 顕也
(72)【発明者】
【氏名】島田 謙
(72)【発明者】
【氏名】小島 宏行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 晃
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508381(JP,A)
【文献】特表2018-509473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
A61P 27/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物1種又は2種以上ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、及び1種又は2種以上の複素粘度調節剤を含有し、
前記複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択され、
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)であり、
複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である、耳内投与用の医薬組成物。
【請求項2】
複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
さらに溶媒を含有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬物が、低分子化合物、核酸、及びタンパク質からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
薬物がヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、及びクエン酸三ナトリウム又はこの水和物を含有し、
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)であり、
複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である、耳内投与用の医薬組成物。
【請求項8】
薬物1種又は2種以上、及び1種又は2種以上の複素粘度調節剤を含有し、
前記複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択され、
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)であり、
複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である耳内投与用の医薬組成物の製造のための、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の基剤としての使用。
【請求項9】
薬物1種又は2種以上及びポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有し、
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)であり、
複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である耳内投与用の医薬組成物の製造のための、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上の複素粘度調節剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
耳の疾患は未だ薬物治療法が少なく、外科手術に頼る場合が多い。また、治療に有効な薬物が発見されても、経口投与や静脈投与で全身送達させると薬効減退や副作用等のおそれがある。そのため、耳の疾患部位又は近傍に薬物を局所投与するための薬剤又は医薬組成物が開発されている。例えば、耳の粘膜等の抗炎症剤として、抗生物質やステロイド剤を含有した点耳薬や軟膏等がある。薬剤を冷たい状態で耳内に投与すると眩暈を起こす場合があるため、点耳薬を投与する際は、手のひらで薬剤の容器を握って体温程度になるよう温めることが求められる。また、投与時は横向きに寝て指示された回数を点耳し、5~10分程度そのままの姿勢でいることが求められる。耳は外耳道及び中耳の耳管から液体等の異物をクリアランスする機能を有し、嚥下によりクリアランスが促進されるため、薬剤が患部に浸透するまでは安静かつ嚥下を我慢する必要がある。さらに、内耳に薬物を送達させる場合は、血液内耳関門が存在することから、高濃度の薬剤を局所で持続的に作用させる徐放性が必要である。
【0003】
特許文献1(WO2001/068079)には、粘弾剤であるヒアルロン酸ナトリウムを手術処置の間又はその終了時に滴下し、耳の中に薬剤を維持させることが報告されている。ヒアルロン酸はムコ多糖類の一種で生体において主要な細胞外基質の構成成分であり、バイオマテリアルとして汎用されている。
【0004】
特許文献2(WО2014/186075)には、キトサン及びポリラクチドの架橋共重合体ヒドロゲルに含ませて持続放出ゲルを製し、注射筒を用いて鼓膜穿孔上に滞留させる治療法が報告されている。キトサン及び加水分解性架橋剤であるポリラクチドは、投与直前又は投与中の混合により化学的架橋が起き、数分以内に架橋共重合体ヒドロゲルに変化する特性を有する。
【0005】
特許文献3(WО2011/049958)には、事前混合又は特殊な投与デバイスを不要とする技術として、熱可逆性ゲルを利用した持続放出ゲル製剤が報告されている。熱可逆性ゲルの構成成分であるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレントリブロック共重合体を約14重量%~約21重量%で溶解させた溶液を、注射針を介して正円窓膜上又はその近傍に投与すると、耳内で温められて(非特許文献1:James M Chamberlain et al., ANNALS OF EMERGENCY MEDICINE, 1995, 25(1), p.15-20では、外耳道内の温度は約37℃~約38℃と報告されている。)ゲル化し、正円窓膜上又はその近傍で滞留することが報告されている。前記持続放出ゲル製剤は比較的低い温度でゲル化するため、投与前の製剤は厳密な温度管理が必要である。
【0006】
耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物は複数報告されているが、2液を投与直前若しくは投与中に混合する又は厳密な温度管理をする等の煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供するには更なる検討の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2001/068079号
【文献】国際公開第2014/186075号
【文献】国際公開第2011/049958号
【非特許文献】
【0008】
【文献】James M Chamberlain et al.,ANNALS OF EMERGENCY MEDICINE,1995,25(1),p.15-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物を滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物について鋭意検討を行った結果、薬物1種又は2種以上及びポリマーを含有し、特定の複素粘度特性を有する医薬組成物を知見した。加えて、本発明者らは、ポリマーとしてポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を用いることで、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供することができること等を知見し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]薬物1種又は2種以上及びポリマーを含有する耳内投与用の医薬組成物であって、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら該医薬組成物の複素粘度を測定したときに、25℃時点で1650mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で1650mPa・s以上100000mPa・s以下となる、医薬組成物、
[2]ゾル-ゲル転移点が、30℃~38℃である、[1]の医薬組成物、
[3]ポリマーがポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である、[1]又は[2]の医薬組成物、
[4]さらに1種又は2種以上の複素粘度調節剤を含有する、[1]~[3]のいずれかの医薬組成物、
[5]複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上である、[4]の医薬組成物、
[6]複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上である、[4]又は[5]の医薬組成物、
[7]さらに溶媒を含有する、[1]~[6]のいずれかの医薬組成物、
[8]ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)である、[4]~[7]のいずれかの医薬組成物、
[9]複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である、[4]~[8]のいずれかの医薬組成物、
[10]37℃±2℃のリン酸緩衝生理食塩水が2mL入ったマルチウェルプレートに、前記リン酸緩衝生理食塩水を上層及び下層に分けるように薄い半透明のメンブレンのついたインサートを嵌め込み、前記インサート上に医薬組成物を0.5mL投入し、前記リン酸緩衝生理食塩水の水面が揺れる速度で前記マルチウェルプレートを振とうし、薬物を溶出させたとき、薬物を徐放する、[1]~[9]のいずれかの医薬組成物、
[11]薬物が、低分子化合物、核酸、及びタンパク質からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[10]のいずれかの医薬組成物、
[12]薬物が、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物である、[1]~[11]のいずれかの医薬組成物、
[13]ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、[12]の医薬組成物、
[14]薬物1種又は2種以上及びポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有する、耳内投与用の医薬組成物、
[15]さらに1種又は2種以上の複素粘度調節剤を含有する、[14]の医薬組成物、
[16]複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上である、[15]の医薬組成物、
[17]複素粘度調節剤が、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上である、[15]又は[16]の医薬組成物、
[18]さらに溶媒を含有する、[14]~[17]のいずれかの医薬組成物、
[19]ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度が、医薬組成物に対して10%(w/w)~24%(w/w)である、[15]~[18]のいずれかの医薬組成物、
[20]複素粘度調節剤の濃度が、医薬組成物に対して0.1%(w/v)~5.0%(w/v)である、[15]~[19]のいずれかの医薬組成物、
[21]薬物が、低分子化合物、核酸、及びタンパク質からなる群より選択される1種又は2種以上である、[14]~[20]のいずれかの医薬組成物、
[22]薬物が、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物である、[14]~[21]のいずれかの医薬組成物、
[23]ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、[22]の医薬組成物、
[24]ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、及びクエン酸三ナトリウム又はこの水和物を含有する、耳内投与用の医薬組成物、
[25]薬物1種又は2種以上を含有する耳内投与用の医薬組成物の製造のための、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の基剤としての使用、
[26]薬物1種又は2種以上及びポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有する耳内投与用の医薬組成物の製造のための、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上の複素粘度調節剤としての使用、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薬物1種又は2種以上及びポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有する耳内投与用の医薬組成物であって、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら該医薬組成物の複素粘度を測定したときに、25℃時点で1650mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で1650mPa・s以上100000mPa・s以下となる、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、薬物1種又は2種以上及びポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有し、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する耳内投与用の医薬組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、及びクエン酸三ナトリウム又はこの水和物を含有し、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、耳内でヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物を滞留及び徐放する機能を有する、慢性鼓膜穿孔の治癒に優れた耳内投与用の医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例3-1で行った、基剤溶液の複素粘度測定において、一部の基剤溶液について複素粘度の経時的推移を示すグラフである。
図2】試験例5-3で行ったゾル-ゲル転移点と、試験例5-2で行った37℃到達後10分時点の複素粘度との関係を示すグラフである。
図3】試験例7-4で行った、アセトアミノフェンの溶出試験の溶出プロファイルを示すグラフである。
図4】試験例8で行った、蛍光色素を用いた試験により得られた耳内滞留性の評価結果を示すグラフである。
図5】試験例9で行った、PET撮像により得られた耳内滞留性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、薬物1種又は2種以上及びポリマーを含有する耳内投与用の医薬組成物であって、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら該医薬組成物の複素粘度を測定したときに、25℃時点で1650mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で1650mPa・s以上100000mPa・s以下となる、医薬組成物に関する。また、本発明は、薬物1種又は2種以上とポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体とを含有する、耳内投与用の医薬組成物に関する。さらに、本発明は、ヘパリン結合性上皮成長因子、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、及びクエン酸三ナトリウム又はこの水和物を含有する、耳内投与用の医薬組成物に関する。
【0015】
耳は、外耳、中耳、及び内耳に区分される。外耳は、耳介、外耳道、及び鼓膜の外側の膜から構成される。中耳は、鼓膜の内側の膜、耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)、鼓室、耳小骨筋、耳管、乳突洞、及び乳突蜂巣から構成される。内耳は、卵円(前庭)窓、前庭、半規管、卵形嚢、球形嚢、正円(蝸牛)窓、蝸牛等から構成される。
【0016】
本明細書において「耳内投与」とは、典型的には外耳道内、鼓膜の外側の膜近傍、鼓膜上、鼓膜内側の膜近傍、鼓室内、正円窓膜上、又は正円窓近傍に医薬組成物を投与することを意味するがこれに制限されない。好ましくは鼓膜の外側の膜近傍、鼓膜上、鼓膜内側の膜近傍、又は鼓室内に医薬組成物を投与することである。また、「「耳内投与用の」医薬組成物」とは、典型的には外耳道内、鼓膜の外側の膜近傍、鼓膜上、鼓膜内側の膜近傍、鼓室内、正円窓膜上、又は正円窓近傍に投与するための医薬組成物を意味するがこれに制限されない。好ましくは鼓膜の外側の膜近傍、鼓膜上、鼓膜内側の膜近傍、又は鼓室内に投与するための医薬組成物である。
【0017】
本発明の医薬組成物の形態としては、典型的には固体、粉末、溶液、懸濁液、ペースト、又はローション等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくは溶液、懸濁液、ペースト、又はローションであり、より好ましくは溶液又は懸濁液である。なお、本明細書において、ゾル状態及びゲル状態は溶液に含めることができ、ゾル状態とは液体に微粒子が分散した状態のコロイド溶液のことを意味し、流動性を有する。また、ゲル状態とはゾル状態の粘度が上昇し、流動性がなくなり固形状になることを意味する。
【0018】
本発明の医薬組成物に用いられる「ポリマー」とは、医薬組成物に粘性を生じさせるための医薬品添加物であり、典型的には温度応答性(熱感受性、熱可逆性、又は熱硬化性ともいう)を有する両親媒性ポリマーを挙げることができるがこれに制限されない。両親媒性ポリマーとは、例えば、典型的にはポリビニルカプロラクタム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンオキサイド等の親水ブロック(A)と、ポリビニル酢酸、エチレンオキサイド等の疎水ブロック(B)とを重合したA-B-A型又はB-A-B型ブロック共重合体を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくはA-B-A型ブロック共重合体であり、例えば、典型的にはポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、PEG-PLGA-PEGトリブロックコポリマー等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくはポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である。
【0019】
本発明の医薬組成物に用いられる「ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体」は、ポリエチレンカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、又はPVCap-PVAc-PEGと呼ぶこともあるが、式(1)の構造式で示される両親媒性で90,000-140,000の平均分子量(重量平均分子量;Mw)を有する。製品としては、例えば、SOLUPLUS(登録商標)を挙げることができるがこれに制限されない。
【0020】
【化1】
〔式中、l、m、及びnは、それぞれ独立して、約10~30000の範囲内である〕
【0021】
本発明の医薬組成物に用いられる「溶媒」又は本発明の医薬組成物を溶解又は分散させる溶媒としては、典型的には精製水、注射用水、その他の製薬学的に許容される水、炭素数1~7のアルカノール等の水混和性溶媒と水との混合物、デキストロース水溶液等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくは精製水、注射用水、その他の製薬学的に許容される水である。
【0022】
本発明に用いられるポリマーは、本発明の所望の効果が達成される範囲内で添加することができる。ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度は、溶液状態であれば高速液体クロマトグラフィ(HPLC:high performance liquid chromatography)又は吸光度計を用いて測定することができる。ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度の下限は、医薬組成物に対して、典型的には19%(w/w)以上であり、好ましくは20%(w/w)以上であり、より好ましくは25%(w/w)以上であり、さらに好ましくは27%(w/w)以上である。なお、ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度の上限は29%(w/w)である。
【0023】
医薬組成物にさらに複素粘度調節剤を含有した場合、ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の濃度としては、医薬組成物に対して、典型的には10%(w/w)~24%(w/w)であり、好ましくは11%(w/w)~23%(w/w)であり、より好ましくは13%(w/w)~21%(w/w)であり、さらに好ましくは15%(w/w)~20%(w/w)である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0024】
本明細書において「複素粘度」とは、レオメーター(粘弾性測定装置)を用いて動的測定によって得られる粘度(SI単位はPa・s)である。複素粘度を測定する方法としては、例えば、Anton Paar製のレオメーター(MCR302)を用いて、プレート(MEASURING CONE CP25-2)、フード(H-PTD200)、0.3mmのギャップの装備で、0.3mLのサンプル量とし、せん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒、ノーマルフォース0N、トルク信頼範囲は1μN・m以上の条件で測定する方法を挙げることができるがこれに制限されない。なお、医薬組成物が固体又は粉体等の流動性を有さない場合は、精製水、注射用水、その他の製薬学的に許容される水に溶解又は分散させた後、測定するものとする。
【0025】
本発明の医薬組成物は、煩雑な操作なく耳内へ投与できることが好ましい。すなわち、典型的には常温下(15℃~25℃)において、好ましくは室温下(1~30℃)において、医薬組成物の複素粘度は流動性を有する程度に低いことが好ましい。例えば、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら医薬組成物の複素粘度を測定したときに、25℃時点で、典型的には1650mPa・s未満であり、好ましくは1600mPa・s未満であり、より好ましくは1500mPa・s未満であり、さらに好ましくは1400mPa・s未満であり、さらに好ましくは1200mPa・s未満であり、さらに好ましくは1000mPa・s未満である。また、例えば、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら医薬組成物の複素粘度を測定したときに、30℃時点で、典型的には1650mPa・s未満であり、好ましくは1600mPa・s未満であり、より好ましくは1500mPa・s未満であり、さらに好ましくは1400mPa・s未満であり、さらに好ましくは1200mPa・s未満であり、さらに好ましくは1000mPa・s未満である。なお、複素粘度の下限は0mPa・sである。
【0026】
本発明の医薬組成物は、耳内に投与後、速やかに滞留する特徴を有することが好ましい。すなわち、約37℃~約38℃である耳内に投与後は、医薬組成物の複素粘度は速やかに流動性を有さない程度に高くなることが好ましい。例えば、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら医薬組成物の複素粘度を測定したときに、37℃到達後1分時点、5分時点、又は10分時点で、典型的には1650mPa・s以上であり、好ましくは1800mPa・s以上であり、より好ましくは2000mPa・s以上であり、さらに好ましくは2500mPa・s以上であり、さらに好ましくは3000mPa・s以上である。なお、複素粘度は高すぎると投与後に滞留物が耳内の壁面等から外れ、クリアランスされるおそれがあることから、37℃における複素粘度は、典型的には100000mPa・s以下であり、好ましくは90000mPa・s以下であり、より好ましくは80000mPa・s以下であり、さらに好ましくは70000mPa・s以下であり、さらに好ましくは60000mPa・s以下である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0027】
前述の通り、本発明の医薬組成物は、煩雑な操作なく耳内に投与でき、かつ、投与後は耳内で薬物が滞留する機能を有することが好ましい。すなわち、常温及び/又は室温において、医薬組成物の複素粘度は流動性を有する程度に低く、耳内では、複素粘度は流動性を有さない程度に高いことが好ましい。例えば、レオメーターを用いてせん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒の条件及び温度を25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させながら医薬組成物の複素粘度を測定したときに、複素粘度は、典型的には25℃時点で1650mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で1650mPa・s以上100000mPa・s以下であり、好ましくは25℃時点で1600mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で1800mPa・s以上100000mPa・s以下であり、より好ましくは25℃時点で1200mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で2000mPa・s以上80000mPa・s以下であり、さらに好ましくは25℃時点で1000mPa・s未満かつ37℃到達後10分時点で3000mPa・s以上80000mPa・s以下である。
【0028】
本明細書において「ゾル-ゲル転移点」とは、医薬組成物がゾル状態からゲル状態になるときの温度を意味する。ゾル-ゲル転移点を評価する方法としては、例えば、レオメーター等を用いた方法を挙げることができるがこれに制限されない。本明細書においては、例えば、Anton Paar製のレオメーター(MCR302)を用いて医薬組成物の複素粘度を測定したとき、固体的な要素である貯蔵弾性率(G’)と液体的な要素である損失弾性率(G”)が同時に数値化されるが、G’<G”をゾル状態、G’>G”をゲル状態とし、G’=G”となった時点の温度をゾル-ゲル転移点とすることができる。なお、医薬組成物が固体又は粉体等の流動性を有さない場合は、精製水、注射用水、その他の製薬学的に許容される水に溶解又は分散させた後、測定するものとする。本発明における医薬組成物として好ましいゾル-ゲル転移点の範囲は、典型的には30℃~38℃であり、好ましくは31℃~37℃であり、より好ましくは32℃~36℃であり、さらに好ましくは32℃~35℃である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0029】
本明細書において「ゲル化」又は「ゲル形成」とは、流動性を有した医薬組成物又は基剤が流動性を有さなくなることを意味し、「ゲル形成能」とは、ゲル化する性質を意味する。流動性を有すると医薬組成物の滞留率が低下する恐れがあることから、医薬組成物又は基剤は耳内投与後速やかにゲル形成することが好ましい。ゲル形成の有無又はゲル形成能を評価する方法としては、医薬組成物又は基剤をプラスチックシャーレ上又は試験管中に0.3mLを滴下して蓋をした後、25℃又は37℃に設定したウォーターバスの水面上又はサンプルを25℃又は37℃に調温することができるヒートブロック上に静置させ、静置開始から1分後、5分後、10分後、15分後、又は30分後にプラスチックシャーレ等を取り出し、直ちに倒立させ、倒立から10秒間の医薬組成物又は基剤の挙動を目視確認する方法(以後、ゲル形成能試験と称することもある。)を挙げることができるがこれに制限されない。該ゲル形成能試験を25℃に設定したウォーターバスの水面上で1分間、5分間、10分間、15分間、又は30分間静置したサンプルは、典型的には倒立から10秒未満で落下又は横に流れる、好ましくは倒立から5秒未満で落下又は横に流れることが好ましい。また、該ゲル形成能試験を37℃に設定したウォーターバスの水面上で1分間又は10分間静置したサンプルは、典型的には倒立から5秒未満は落下又は横に流れることが確認できない、好ましくは倒立から10秒未満は落下又は横に流れることが確認できない、より好ましくは倒立から10秒間落下及び横に流れることのいずれも確認できないことが好ましい。
【0030】
本明細書において「基剤」とは、医薬組成物の構成成分のうち、主に複素粘度を付与する機能を有する又は耳内で薬物を滞留・徐放する機能を有する医薬品添加物を意味する。具体的には、本明細書における基剤とは、典型的にはポリマー、好ましくはポリマー及び複素粘度調節剤、より好ましくは医薬組成物から薬物を除いた残りの医薬品添加物を意味する。
【0031】
本明細書において「複素粘度調節剤」とは、医薬組成物の複素粘度を上昇又は下降させる医薬品添加物を意味する。本発明に用いられる複素粘度調節剤としては、製薬学的に許容され、本発明の医薬組成物に含有される1種又は2種以上の薬物の徐放性に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。典型的にはクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム若しくはこれらの水和物又はこれらの組み合わせであり、好ましくはクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム若しくはこれらの水和物又はこれらの組み合わせであり、より好ましくはクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム若しくはこれらの水和物又はこれらの組み合わせであり、さらに好ましくはクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、硫酸ナトリウム若しくはこれらの水和物又はこれらの組み合わせであり、さらに好ましくはクエン酸三ナトリウム又はクエン酸三ナトリウムの水和物である。なお、複素粘度調節剤の別の態様としてはジクロロメタン等の有機溶媒を挙げることができるがこれに制限されない。
【0032】
複素粘度調節剤は、本発明の所望の効果が達成される範囲内で1種又は2種以上組み合わせて添加することができる。複素粘度調節剤の医薬組成物中の濃度は溶液状態であれば、HPLC又は吸光度計等を用いて測定することができるがこれに制限されない。複素粘度調節剤の濃度は、医薬組成物に対して、例えば、典型的には0.1%(w/v)~5.0%(w/v)であり、好ましくは0.8%(w/v)~3.1%(w/v)であり、より好ましくは1.0%(w/v)~3.1%(w/v)であり、さらに好ましくは1.0%(w/v)~2.5%(w/v)であり、さらに好ましくは1.4%(w/v)~2.4%(w/v)であり、さらに好ましくは1.5%(w/v)~2.2%(w/v)である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0033】
本発明における医薬組成物の「浸透圧」は、耳への刺激性がない範囲内であることが好ましい。ヒトの耳の外リンパ液の浸透圧は約280mOsm~約300mOsmであり、高浸透圧であると副作用のリスクを伴うことから、外リンパ液の浸透圧よりも低いことが好ましい。本発明の医薬組成物の浸透圧は、例えば、ARKRAY製の自動浸透圧分析装置OM-6050等を用いて測定したとき、典型的には50mOsm~300mOsmであり、好ましくは90mOsm~300mOsmであり、より好ましくは180mOsm~300mOsmであり、さらに好ましくは200mOsm~300mOsmであり、さらに好ましくは220mOsm~290mOsmである。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0034】
本発明における医薬組成物の「pH」は、耳への刺激性がなく、又は医薬組成物の安定性に影響を与えない範囲内であることが好ましい。本発明の医薬組成物のpHは、典型的には3.0~10.5であり、好ましくは4.5~9.0であり、より好ましくは5.5~8.5であり、さらに好ましくは6.0~8.0であり、さらに好ましくは6.5~8.0である。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。また、医薬組成物のpHとは、医薬組成物の形態が液体状態の場合には、液体状態におけるpHを意味し、非液体状態の場合には、溶媒(例えば、精製水、注射用水、又はその他の製薬学的に許容される水)に溶解され液体状態にしたときのpHを意味する。
【0035】
本明細書において「薬物を徐放する」又は「徐放性」とは、医薬組成物を投与後、一定期間薬物が溶出し続けること又は溶出し続ける性質を意味する。溶出速度に特に制限はないが、薬物を徐放させる目的は投与回数の低減、及び/又は標的部位の薬物濃度を一定で維持することによる薬効の持続や副作用の低減であることから、薬物を徐放する速度は遅いことが好ましい。
【0036】
薬物の徐放性を測定する方法としては、in vitroにおいては、例えば、Dose-dependent sustained release of dexamethasone in inner ear cochlear fluids using a novel local delivery Approach(Xiaobo Wang,2009 Audiol Neurotol 14:393-401)に記載の方法を参考につくられた、37℃±2℃に加温されたリン酸緩衝生理食塩水(以後、PBS;Phosphate buffered saltsと称することもある。)が2mL入ったマルチウェルプレートに、前記PBSを上層及び下層に分けるように薄い半透明のメンブレンのついたインサートを嵌め込み、前記インサート上に1種又は2種以上の薬物を含有した医薬組成物を0.5mL投入し、前記PBSの水面が揺れる速度(例えば、TAITEC製のクロマトチャンバーM-600FNで100回転/分の速度)で前記マルチウェルプレートを振とうし、薬物を溶出させる試験(以後、溶出試験と称することもある)を挙げることができるがこれに制限されない。なお、薬物の溶解がpHに依存し、適切に溶出性を評価できない場合は、PBSの代わりに、薬物毎に好ましい試験液(例えば、一定量の薬物を100%溶解させ得る溶媒等)を用いればよく、例えば、生理食塩水等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0037】
溶出試験で本発明の医薬組成物の徐放性を評価するには、例えば、試験開始後1、6、24時間時点、試験開始後1、4、8時間時点、又は試験開始後1、24、48時間時点の最低3時点についてウェルの下側の薬物濃度を定量し、薬物の溶出率の経時的推移を評価することにより行うことができる。薬物の定量方法に特に制限はなく、薬物の定量に最適な分析方法を用いればよい。例えば、HPLC、蛍光光度計等を挙げることができるがこれに制限されない。本明細書において「薬物を徐放する」とは、上記溶出試験において、例えば、溶出試験開始後1時間時点における薬物の溶出率が、典型的には40%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは12%以下であることを意味する。また、例えば、溶出試験開始後6時間時点における薬物の溶出率が、典型的には70%以下であり、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは35%以下であることを意味する。また、例えば、溶出試験開始後24時間時点における薬物の溶出率が、典型的には85%以下であり、好ましくは75%以下であり、さらに好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。なお、前記溶出試験に使用する試験液はリン酸緩衝生理食塩水に制限されず、薬物毎に好ましい試験液(例えば、一定量の薬物を100%溶解させ得る溶媒等)を用いればよい。
【0038】
本明細書において「滞留」又は「滞留性」とは、耳内に投与された医薬組成物が、外耳や中耳のクリアランスを回避し、投与部位に留まること又は留まる性質を意味する。滞留性を評価する方法としては特に制限されないが、例えば、PET(Positron Emission Tomography)撮像、SPECT(single photon emission computed tomography)撮像、蛍光色素を用いた試験、MRI(magnetic resonance imaging)等を挙げることができるがこれに制限されない。本明細書においてPET撮像又はSPECT撮像とは、ヒト又はサル若しくげっ歯類等のモデル動物の耳内の投与部位に、放射性同位体がラベルされた薬物を含む医薬組成物を投与し、一定期間後における耳内の放射性同位体の残存量を定量する試験を意味し、投与量と残存量から残存率を算出することができる。本明細書において蛍光色素を用いた試験とは、例えば、蛍光色素を封入した又は標識した薬物を含有した医薬組成物を耳内に投与し、一定期間後における耳内の蛍光色素残存量を定量する試験を意味し、投与量と残存量から残存率を算出することができる。
【0039】
本発明の医薬組成物の残存率は、耳の疾患及び/又は薬物ごとに適切な残存率は異なる。上記の方法で本発明の医薬組成物の滞留性を評価したとき、例えば、投与後の残存率が50%以下になるまでの期間は、典型的には6時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは1日以上であり、さらに好ましくは2日以上であり、さらに好ましくは3日以上であり、さらに好ましくは5日以上であり、さらに好ましくは6日以上であり、さらに好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは10日以上であり、さらに好ましくは12日以上であり、さらに好ましくは14日以上である。また、投与後の残存率が20%以下になるまでの期間は、典型的には6時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは1日以上であり、さらに好ましくは2日以上であり、さらに好ましくは3日以上であり、さらに好ましくは5日以上であり、さらに好ましくは6日以上であり、さらに好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは10日以上であり、さらに好ましくは12日以上であり、さらに好ましくは14日以上であり、さらに好ましくは21日以上であり、さらに好ましくは28日以上である。少なくとも上記のような滞留性を示す場合は、本明細書において「滞留性を有する」場合であるがこれに制限されない。
【0040】
本発明の医薬組成物の投与回数は、耳の疾患及び/又は薬物ごとに適切な回数は異なる。典型的には1日につき2回であり、好ましくは1日につき1回であり、より好ましくは2日毎に1回であり、さらに好ましくは3日毎に1回であり、さらに好ましくは4日毎に1回であり、さらに好ましくは5日毎に1回であり、さらに好ましくは6日毎に1回であり、さらに好ましくは7日毎に1回であり、さらに好ましくは10日毎に1回であり、さらに好ましくは12日毎に1回であり、さらに好ましくは14日毎に1回であり、さらに好ましくは21日毎に1回であり、さらに好ましくは28日毎に1回であるがこれに制限されない。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与量は、ヒトに投与可能であれば特に制限されない。ある態様としては鼓膜との有用な接触を提供するために必要な量、ある態様としては鼓室内に投与可能な量、ある態様としては正円窓との有用な接触を提供するために必要な量であることが好ましい。投与量は、典型的には1μL~2000μLであり、好ましくは10μL~1500μLであり、より好ましくは20μL~1250μLであり、さらに好ましくは30μL~1000μLであり、さらに好ましくは50μL~750μLであり、さらに好ましくは75μL~600μLであり、さらに好ましくは100μL~500μLであり、さらに好ましくは100μL~300μLである。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0042】
本発明の医薬組成物は薬物を1種又は2種以上含有する。本発明に用いられる「薬物」は、典型的には耳の疾患の治療に必要な有効成分であり、好ましくは低分子化合物、核酸、又はタンパク質である。
【0043】
低分子化合物とは、500未満の分子量を有する化合物であり、代表的な低分子化合物としては、アセトアミノフェン、セレコシキブ、ジクロフェナクナトリウム等の鎮痛薬や、デキサメタゾン、ベクロメタゾン等のステロイド、アジスロマイシン、アモキシシリン、オフロキサシン、ゲンタマイシン等の抗菌薬を挙げることができるがこれに制限されない。核酸とは、塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なった高分子化合物であり、代表的な核酸としては、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA(プラスミドDNA、cDNA、ゲノミックDNA又は合成DNA)、RNA、化学修飾を施した核酸、アデノウイルス、レトロウイルス等のウイルス等を挙げることができるがこれに制限されない。タンパク質とは、L-アミノ酸が鎖状に重合してできた高分子化合物であり、代表的なタンパク質としては、酵素、標的受容体に対するリガンド、受容体そのもの、抗体、ペプチド等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくは標的受容体に対するリガンドであり、例えば、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物である。
【0044】
本発明に用いられるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物としては、例えば、HB-EGF(Heparin-Binding Epidermal Growth Factor-like growth factor)、ヒトHB-EGF、組換えヒトHB-EGF等を挙げることができるがこれに制限されない。典型的にはHB-EGFであり、好ましくはヒトHB-EGFであり、より好ましくは組換えヒトHB-EGFである。
【0045】
本発明に用いられるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物は、典型的には配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、ケラチノサイト及び線維芽細胞に対する分裂促進作用及び/又は移行促進効果を有するタンパク質である。
【0046】
本発明に用いられるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物は、典型的には以下のタンパク質である:
a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、ケラチノサイト及び線維芽細胞に対する分裂促進作用及び/若しくは移行促進効果を有するタンパク質、又は、
b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1~10個、1~5個、1~3個、若しくは1個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ケラチノサイト及び線維芽細胞に対する分裂促進作用及び/若しくは移行促進効果を有するタンパク質。
【0047】
本発明に用いられるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物は、典型的には配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であり、好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0048】
本発明に用いられるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物は、本明細書に開示されるタンパク質の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。
【0049】
ヘパリン結合性上皮成長因子は、EGFファミリーに属するタンパク質である(Biochimica et Biophysica Acta, 1997, 1333, F179-F199)。ヘパリン結合性上皮成長因子前駆体は膜アンカー型タンパク質であり、タンパク質分解的切断により、成熟可溶型ヘパリン結合性上皮成長因子が放出されることが知られている。本発明に用いられるHB-EGFは、ケラチノサイト及び線維芽細胞に対する分裂促進作用及び/又は移行促進効果を有する限り、膜型若しくは可溶型又は前駆体若しくは成熟型を問わず、任意の適切なHB-EGF又はその変異体若しくはその改変体を選択することが可能である。あるタンパク質がケラチノサイト及び線維芽細胞に対する分裂促進作用及び/又は移行促進効果を有するか否かは、例えば、How to Choose a cell Health Assay.(Riss. T,January, 2014 tpub148)に記載の方法で確認することができる。
【0050】
本発明の医薬組成物は耳の疾患の治療に用いることができ、例えば、典型的には急性外耳炎、慢性外耳炎、先天性耳瘻孔、外傷性鼓膜損傷、慢性鼓膜穿孔等の外耳又は鼓膜の疾患、急性中耳炎、急性乳様突起炎、錐体尖炎、滲出性中耳炎、耳管開放症、慢性中耳炎、中耳真珠腫、耳性頭蓋内合併症、癒着性中耳炎、コレステリン肉芽腫、好酸球性中耳炎、耳小骨連鎖離断、グロームス腫瘍等の中耳の疾患、メニエール病、外リンパ瘻、老人性難聴、薬物による内耳障害、ムンプス難聴、良性発作性頭位等の内耳の疾患に用いることができるがこれに制限されない。好ましくは慢性鼓膜穿孔に用いることができる。
【0051】
慢性鼓膜穿孔とは、鼓膜に穿孔が生じ伝音難聴等の症状が出ることを特徴とする疾患である。鼓膜は中耳炎又は外傷により穿孔が生じうる。鼓膜穿孔は鼓膜が再生することで閉鎖し、自然治癒することが多い。しかし、慢性中耳炎等、鼓膜への細菌感染が持続することにより鼓膜の再生治癒過程が妨害されると、穿孔が閉鎖せず、慢性鼓膜穿孔と診断される。難聴等を訴える患者に対しては外科手術が行われている。
【0052】
ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の「有効量」又は「治療上有効な量」は、ある期間にわたって適用された場合、慢性鼓膜穿孔の治癒を強化する用量である。本発明の医薬組成物中に含有しうるヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の量の下限は約1ng/mL、約10ng/mL、約100ng/mL、約1μg/mL、約10μg/mL、約100μg/mL、約200μg/mL、約500μg/mL、約750μg/mL、約1mg/mL、約5mg/mL、約10mg/mL、約50mg/mL、又は約100mg/mLである。また、本発明の医薬組成物中に含有しうるHB-EGFの量の上限は約10mg/mL、約25mg/mL、約50mg/mL、約100mg/mL、約500mg/mLである。なお、前記の上限と下限は、所望により、任意に組み合わせることができる。また、投与回数を減らすために、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物が徐放する期間をのばした医薬組成物は、反復投与のための医薬組成物より高い初期濃度で提供され得る。
【0053】
慢性鼓膜穿孔を治療する上で、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物と慢性鼓膜穿孔部とを接触させる期間は、典型的には1日以上であり、好ましくは3日以上であり、より好ましくは5日以上であり、さらに好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは10日以上であり、さらに好ましくは2週間以上であり、さらに好ましくは3週間以上であり、さらに好ましくは4週間以上である。
【0054】
慢性鼓膜穿孔を治療する上で、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の徐放性は、上記溶出試験を実施したときに、例えば、溶出試験開始後1時間時点における薬物の溶出率が、典型的には40%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは12%以下であることを意味する。また、例えば、溶出試験開始後6時間時点における薬物の溶出率が、典型的には70%以下であり、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは35%以下であることを意味する。また、例えば、溶出試験開始後24時間時点における薬物の溶出率が、典型的には85%以下であり、好ましくは75%以下であり、さらに好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。
【0055】
慢性鼓膜穿孔を治療する上で、本発明の医薬組成物中のヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の残存率は、例えば、投与後の残存率が50%以下になるまでの期間は、典型的には6時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは1日以上であり、さらに好ましくは2日以上であり、さらに好ましくは3日以上であり、さらに好ましくは5日以上であり、さらに好ましくは6日以上であり、さらに好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは10日以上であり、さらに好ましくは12日以上であり、さらに好ましくは14日以上である。また、投与後の残存率が20%以下になるまでの期間は、典型的には6時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは1日以上であり、さらに好ましくは2日以上であり、さらに好ましくは3日以上であり、さらに好ましくは5日以上であり、さらに好ましくは6日以上であり、さらに好ましくは7日以上であり、さらに好ましくは10日以上であり、さらに好ましくは12日以上であり、さらに好ましくは14日以上であり、さらに好ましくは21日以上であり、さらに好ましくは28日以上である。
【0056】
ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物を用いる場合には、ヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の凝集又はヘパリン結合性上皮成長因子の生物活性を提供する薬物の構造変化等を抑制するため、薬効が発揮される範囲内で、医薬品添加物を1種又は2種以上組み合わせて適宜適量添加されうる。
【0057】
本発明の医薬組成物においては、所望により本発明の所望の効果が達成される範囲内で、医薬品添加物を1種又は2種以上組み合わせて適宜適量添加することができる。医薬品添加物としては、例えば、マンニトール等の賦形剤、PBS等の緩衝剤、希塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、等張化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、防腐剤、ポリソルベート20等の界面活性剤等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0058】
PBS等の緩衝剤は薬物を調製する工程で、薬物を安定化する理由により添加されうる。PBSの組成は特に制限されないが、pHが7.4のPBSを調製するには、典型的には精製水にリン酸水素二ナトリウム 1.44mg/mL、塩化カリウム 0.20mg/mL、塩化ナトリウム 8.00mg/mL、リン酸二水素カリウム 0.24mg/mLの割合で溶解させる方法、精製水にリン酸水素二ナトリウム 1.15mg/mL、塩化ナトリウム 8mg/mL、塩化カリウム 0.2mg/mL、リン酸二水素カリウム 0.2mg/mLの割合で溶解させる方法、又は精製水にリン酸水素二ナトリウム・12水和物 2.9mg/mL、塩化カリウム 0.2mg/mL、塩化ナトリウム 8.01mg/mL、リン酸二水素カリウム 0.2mg/mLの割合で溶解させる方法等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0059】
界面活性剤は、薬物の溶解度を向上する又はタンパク質の凝集を抑制する等の理由により添加されうるがこれに制限されない。
【0060】
本発明の医薬組成物の製造方法について、以下に説明するが、例えば、薬物の調製、基剤の溶解、pH調節、充填、滅菌、薬物の凍結乾燥、薬物と基剤の最終混合、最終滅菌等の工程を含む公知の方法も含まれる。
【0061】
<薬物の調製工程>
薬物の調製工程では、薬物を通常製薬学的に溶解、懸濁、又は分散できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。例えば、薬物を溶媒としてPBS等の緩衝剤に溶解、懸濁又は分散させる方法を挙げることができるがこれに制限されない。また、薬物がタンパク質等の場合は、凝集防止及び/又は容器への吸着防止のためにポリソルベート20等の界面活性剤を添加する場合があるがこれに制限されない。
【0062】
<基剤の溶解、pH調節工程>
基剤の溶解工程では、ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を通常製薬学的に溶解できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。例えば、ポリマー、特にポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を精製水等の溶媒に添加し、冷蔵条件下(約4℃)で撹拌機を用いて撹拌して溶解させることにより、基剤溶液を得る方法を挙げることができるがこれに制限されない。なお、該ポリマーを添加する際に、所望により本発明の所望の効果が達成される範囲内で複素粘度調節剤を添加することができるがこれに制限されない。また、所望により本発明の所望の効果が達成される範囲内で希塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を添加し、pHを調整することができるがこれに制限されない。
【0063】
<充填、滅菌工程>
充填工程及び滅菌工程では、通常製薬学的に許容される充填及び滅菌できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。例えば、溶解した基剤溶液を冷蔵条件下において撹拌容器中で加圧ろ過滅菌し、バイアル等の容器やデバイス等に充填する方法を挙げることができるがこれに制限されない。なお、充填量のばらつきを抑えるために0~25℃の範囲で温度制御するなど、定量充填に適した設備を使用することができるがこれに制限されない。なお、本明細書において、滅菌とは、医薬組成物、容器、又はデバイス等に存在する微生物を死滅又は除去することを意味する。滅菌の方法としては、例えば、乾熱滅菌、加熱滅菌、高圧蒸気滅菌、化学物質による滅菌、放射線滅菌又はろ過滅菌を挙げることができるがこれに制限されない。
【0064】
<薬物の凍結乾燥工程>
溶解した薬物溶液は凍結又は凍結乾燥を実施することができる。薬物の凍結乾燥工程では、通常製薬学的に凍結乾燥できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。凍結乾燥の際、固形分濃度を上げケーキの性状を保持するために、基剤溶液成分の一部を添加して凍結乾燥することができるがこれに制限されない。
【0065】
<薬物と基剤の最終混合工程>
本発明の医薬組成物は薬物と基剤が混合された状態での凍結溶液、冷蔵溶液、若しくは凍結乾燥品として、又は、別容器に充填された薬物の凍結溶液、冷蔵溶液、若しくは凍結乾燥品と基剤溶液として提供されることができるがこれに制限されない。薬物と基剤溶液とが別容器で提供される場合は、例えば、薬物を含むバイアルに基剤溶液を添加し混合する方法又は薬物若しくは基剤溶液を含むバイアルから別の空バイアルへと各々を添加し混合する方法により本発明の医薬組成物とすることができるがこれに限定されない。
【0066】
<最終滅菌工程>
本発明の医薬組成物は、その製造工程において、感染症を引き起こす微生物を含まない又は安全な医薬組成物を提供することを目的として最終滅菌工程を含むことができる。滅菌の方法としては、例えば、乾熱滅菌、加熱滅菌、高圧蒸気滅菌、化学物質による滅菌、放射線滅菌又はろ過滅菌を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくはろ過滅菌である。なお、薬物と基剤溶液とが別容器で提供される場合、最終混合工程及び最終滅菌工程、又は最終混合工程は医療現場において行われる可能性があるが、医療現場の室内の温度が室温(1~30℃)であれば混合後ただちにゲル化するものではないため、必ずしも投与直前又は投与中に混合する必要はない。
【0067】
本発明の医薬組成物を充填するための容器は、使用目的に応じて選択することができる。本明細書において容器とは、密封できるものであれば特に制限されない。例えば、バイアル、アンプル、瓶のような大容量の形状のもの、デバイス等を挙げることができるがこれに制限されない。
【0068】
本発明の医薬組成物は、デバイスを用いて治療部位に送達することができる。本明細書においてデバイスとは、医薬組成物を治療部位に送達する医療機器又は装置を意味し、治療部位に応じて選択することができる。デバイスとしては、例えば、典型的には注射器(ディスポーザブル注射器を含む)等の規定用量の形状のものに医薬組成物を充填し、針、カニューレ、又はカテーテルを装着したもの、マイクロピペット、2種類の溶液等を別々の規定用量の形状のものに充填して耳内で該溶液等を混合させることにより医薬組成物を完成させる二重バレルシリンジ、2種類の溶液等を別々の規定用量の形状のものに充填してインラインで該溶液等を混合させることにより医薬組成物を完成させる二重バレルシリンジ、医薬組成物を噴霧して治療部位に送達させることができるスプレー、ポンプ式で医薬組成物を送達することができる装置等を挙げることができるがこれに制限されない。好ましくは注射器に針を装着したものである。針、カニューレ、又はカテーテルの長さ及び太さは、治療部位や患者に応じて適切なものを選択することができるが、耳の疾患部位又は近傍に薬物を局所投与する際に鼓膜を貫通する投与方法で行う場合は、投与後に鼓膜に穴が開くことから、典型的には25~30ゲージ、好ましくは27~30ゲージの針、カニューレ、又はカテーテルを選択することが好ましい。
【0069】
デバイスは容器として使用することもできる。例えば、注射器に予め溶液等を充填して、プレフィルドシリンジ液体製剤又はオートインジェクター液体製剤として提供することを挙げることができる。これらは医療現場において、溶解操作等の操作が不要となり、より迅速な対応が可能となりうる。
【0070】
容器又はデバイス等の材質については、例えば、ガラス、プラスチック等を挙げることができるがこれに制限されない。また、容器又はデバイスは表面処理することができ、シリカコート処理、シリコンコート処理、サルファー処理、各種低アルカリ処理等を施すことができるがこれに制限されない。
【0071】
本発明には、薬物1種又は2種以上を含有する耳内投与用の医薬組成物の製造のための、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の基剤としての使用、並びに、薬物1種又は2種以上及びポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含有する耳内投与用の医薬組成物の製造のための、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム又はこれらの水和物からなる群より選択される1種又は2種以上の複素粘度調節剤としての使用を含む。
【0072】
本発明の使用で用いられる「耳内投与用の」、「基剤」、「複素粘度調節剤」、「ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体」、「薬物」については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
【0073】
本発明の使用における各成分の配合量、配合方法については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
【実施例
【0074】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
【0075】
以下の実施例においてポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフト共重合体であるSOLUPLUS(登録商標)はBASF製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(ポロキサマー)であるPluronic(登録商標)F-127はBASF製、クエン酸三ナトリウム・2水和物(以後、クエン酸三ナトリウムと称することもある。)はメルク製、クエン酸水素二ナトリウム・1.5水和物(以後、クエン酸水素二ナトリウムと称することもある。)は関東化学製、クエン酸二水素ナトリウムは関東化学製、クエン酸三カリウム・一水和物(以後、クエン酸三カリウムと称することもある。)は和光純薬工業製、クエン酸二水素カリウムは和光純薬工業製、クエン酸三アンモニウムは関東化学製、クエン酸水素二アンモニウムは和光純薬工業製、酢酸アンモニウムは関東化学製、炭酸アンモニウムは和光純薬工業製、硫酸アンモニウムは関東化学製、コハク酸二ナトリウムは和光純薬工業製、酢酸ナトリウムは関東化学製、炭酸ナトリウムは関東化学製、リン酸二水素ナトリウム・二水和物(以後、リン酸二水素ナトリウムと称することもある。)は関東化学製、酒石酸ナトリウム・二水和物(以後、酒石酸ナトリウムと称することもある。)は和光純薬工業製、四ホウ酸ナトリウム・十水和物(以後、四ホウ酸ナトリウムと称することもある。)はメルク製、塩化ナトリウムは関東化学製、硫酸ナトリウムは和光純薬工業製、塩化カリウムは関東化学製、塩化カルシウムは関東化学製、ポリソルベート20(以後、PS20と称することもある。)はTween20(関東化学製)を、FITCデキストラン(10kDa)はFluorescein isothiocyanate-dextran、average mol wt 10000でSigma-Aldrich製、FITCデキストラン(70kDa)はFluorescein isothiocyanate-dextran、average mol wt 70000でSigma-Aldrich製、FITCデキストラン(150kDa)はFluorescein isothiocyanate-dextran、average mol wt 150000でSigma-Aldrich製、生理食塩水は大塚製薬製、アセトアミノフェンは山本化学工業製、ジクロフェナクナトリウムはFUJIFILM製、ニカルジピン塩酸塩は東京化成工業製をそれぞれ用いた。PBSは本実施例において3種類用いており、1×PBS(pH7.4)(Gibco製)(PBSの組成はリン酸水素二ナトリウム・7水和物 0.795mg/mL、塩化ナトリウム 9mg/mL、リン酸二水素カリウム 0.144mg/mL)、D-PBS(-)(FUJIFILM製)(PBSの組成はリン酸水素二ナトリウム 1.15mg/mL、塩化ナトリウム 8mg/mL、塩化カリウム 0.2mg/mL、リン酸二水素カリウム 0.2mg/mL)、又は精製水にリン酸水素二ナトリウム・12水和物(Merck製)2.9mg/mL、塩化カリウム(Merck製)0.2mg/mL、塩化ナトリウム(Merck製)8.01mg/mL、及びリン酸カリウム(Merck製)0.2mg/mLの割合で溶解させる方法により調製したPBSである。なお、本実施例において、SOLUPLUS(登録商標)はSol.とPluronic(登録商標)はPlu.と称することもある。また、本実施例において、Sol.及びPlu.の濃度に用いる「%」は「%(w/w)」を意味するものとする。例えば、18%Sol.は18%(w/w)SOLUPLUS(登録商標)を意味する。
【0076】
実験1:基剤の検討
<調製例1-1>Sol.基剤溶液の調製
Sol.を3g量り取り、精製水7gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、30%Sol.基剤溶液(実施例1)を調製した。同様にして、Sol.の投入量を変更することにより、28%Sol.基剤溶液(実施例2)、25%Sol.基剤溶液(実施例3)、20%Sol.基剤溶液(実施例4)、18%Sol.基剤溶液(実施例5)、15%Sol.基剤溶液(実施例6)、及び10%Sol.基剤溶液(実施例7)を調製した。
【0077】
<調製例1-2>Plu.基剤溶液の調製
Plu.を3.4g、3.0g又は2.8g量り取り、それぞれPBS16.6mLに投入し、約4℃条件下でPlu.を溶解させることにより、17%Plu.-PBS基剤溶液(実施例8)、15%Plu.-PBS基剤溶液(実施例9)、及び14%Plu.-PBS基剤溶液(実施例10)を調製した。
【0078】
<試験例1-1>基剤溶液のゲル形成能試験
調製例1-1及び調製例1-2で調製した基剤溶液(実施例1~10)について、25℃又は37℃におけるゲル形成能を評価した。各基剤溶液をプラスチックシャーレ(1000-035、IWAKI製)上に0.3mLを滴下して蓋をした後、25℃又は37℃に設定したウォーターバス(TR-2A、アズワン製)の水面上に10分間静置させた(N=2)。静置開始から10分後に各プラスチックシャーレを取り出し、直ちに倒立させ、倒立から10秒間の基剤溶液の挙動を目視確認した。評価は以下の3パターンのいずれかで行い、2回とも(1)の場合は「●」、(1)と(2)の組み合わせの場合は「〇」、2回とも(2)の場合は「▲」、(2)と(3)の場合は「△」、2回とも(3)の場合は「×」、試験未実施の場合は「-」のマークを表1に示した。
(1)10秒間、「落下」及び「横に流れた」のいずれも確認しなかった、
(2)5秒以上~10秒未満で「落下」及び/又は「横に流れた」を確認した、
(3)倒立直後~5秒未満で「落下」及び/又は「横に流れた」を確認した。
【0079】
<試験例1-2>基剤溶液の複素粘度の確認
調製例1-1及び調製例1-2で調製した各基剤溶液(実施例1~10)について、レオメーター(MCR302、Anton Paar製)を用いて、プレート(MEASURING CONE CP25-2)、フード(H-PTD200)、0.3mmのギャップの装備で、0.3mLのサンプル量とし、せん断ひずみ5%、角周波数50rad/秒、ノーマルフォース0N、トルク信頼範囲は1μN・m以上の条件で、サンプルを昇温させたときの経時的な複素粘度を測定した(N=3)。トルク信頼範囲を超えない場合は定量限界(LOQ:Limit of Quantitation)未満とした。サンプル温度が25℃を複素粘度の測定開始時点とし、25℃から37℃まで1℃/10秒の昇温速度で昇温させ、37℃到達後は10分間測定を継続した。結果はすべて平均±標準偏差で示した。
【0080】
【表1】
【0081】
結果を表1に示す(実施例8については表5にも示す)。ゲル形成能について、25%Sol.基剤溶液(実施例3)は25℃でゲルを形成せず、37℃でゲルを形成した。28%Sol.基剤溶液(実施例2)は25℃で徐々にゲルを形成する傾向がみられ、30%Sol.基剤溶液(実施例1)は25℃でゲルを形成した。10~20%Sol.基剤溶液(実施例4~7)は、37℃でゲルを形成しなかった。なお、実施例3及び4について、37℃に設定したウォーターバスの水面上に30分間静置させたところ、ゲルを形成した。
【0082】
複素粘度について、25℃において、10~25%Sol.基剤溶液(実施例3~7)は複素粘度が1000mPa・s未満であり、28~30%Sol.基剤溶液(実施例1~2)は1000mPa・s以上であった。37℃において、10~20%Sol.基剤溶液(実施例4~7)の複素粘度は2000mPa・s未満であり、25~30%Sol.基剤溶液(実施例1~3)は2000mPa・s以上であった。
【0083】
実験2:耳内投与に許容される医薬品添加物の検討
耳内投与用の医薬組成物は耳への刺激性がないものが好ましいため、Sol.基剤溶液について、耳への刺激性がない医薬品添加物をさらに検討した。
【0084】
<調製例2-1>塩溶液(目標浸透圧200mOsm)の調製
浸透圧が約200mOsmとなる濃度の塩溶液を調製した。具体的には、表2の「添加した塩の種類」に記載した各塩について、それぞれ表2の「塩の添加量(g)」の欄に記載した量を量り取り、精製水200mLに溶解させることで、20種類の塩溶液(実施例11~30)を調製した。なお、以後の塩溶液の濃度において「%」は「%(w/v)」を意味する。
【0085】
<試験例2-1>塩溶液の浸透圧の測定
調製例2-1で調製した各塩溶液(実施例11~30)について、浸透圧を測定した。浸透圧の測定は自動浸透圧分析装置(OM-6050、ARKRAY製)を用い、ARKRAYの校正基準値と薬事関係法に準じた校正法で実施した。
【0086】
【表2】
【0087】
結果を表2に示す。各塩溶液の浸透圧は187~210mOsmの範囲内であった。
【0088】
<調製例2-2>18%Sol.-塩基剤溶液の調製
Sol.を20g(又は10g)量り取り、調製例2-1で調製した各塩溶液80g(又は40g)に投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-各塩からなる基剤溶液を調製した。次に、PS20を1×PBS(pH7.4)に溶解させることで調製した0.05%(v/v)PS20含有PBSを2mL量り取り、20%Sol.-塩基剤溶液から18mL量り取ったものと混合し、表3に記載された0.005%PS20含有18%Sol.-塩基剤溶液(実施例31~50)を調製した。同様に、上記塩溶液の代わりに精製水又は1×PBS(pH7.4)を用いた0.005%PS20含有18%Sol.基剤溶液(実施例51)及び0.005%PS20含有18%Sol.-PBSからなる基剤溶液(実施例52)を調製した。
【0089】
<試験例2-2>18%Sol.-塩基剤溶液のpHの測定
調製例2-2で調製した各基剤溶液(実施例31~52)のpHを測定した。測定にはpHメーター(HM-25G、東亜ディーケーケー製)を用いた。結果を表3に記載する。各基剤溶液のpHは4~10.5の範囲内であった。
【0090】
【表3】
【0091】
<調製例2-3>18%Sol.-塩基剤溶液の調製
表4の「18%Sol.に添加した塩及び濃度」に記載された各塩について、それぞれ表4の「塩の添加量(mg)」の欄に記載した量を量り取り、精製水20mLに溶解させることで、各塩溶液を調製した。Sol.を4.4g量り取り、前記各塩溶液に投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、表4に記載の各18%Sol.-塩の基剤溶液を調製した。同様に、塩溶液の代わりに精製水又は1×PBS(pH7.4)を用いて18%Sol.基剤溶液(実施例73)及び18%Sol.-PBSからなる基剤溶液(実施例74)を調製した。
【0092】
<試験例2-3>18%Sol.-塩基剤溶液のゲル形成能の評価
調製例2-3で調製した各基剤溶液(実施例53~74)について、37℃におけるゲル形成能を評価した。試験方法及び評価方法は試験例1-1と同じである。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
18%Sol.基剤溶液(実施例73)及び18%Sol.-PBSからなる基剤溶液(実施例74)は37℃でゲル形成しなかったが、塩溶液を含む基剤溶液の一部はゲル形成(実施例53~62、66~67)した。実施例56について、37℃に設定したウォーターバスの水面上に30分間静置させたところ、ゲルを形成した。なお、全ての18%Sol.基剤溶液は25℃においてゾル状態で流動性を有していることを目視確認できたことから、ゲル形成能試験は実施しなかった。
【0095】
実験3:18%Sol.-塩基剤溶液の複素粘度測定
医薬組成物を耳内に投与した後は、耳内で滞留させるために速やかに粘度上昇することが好ましい。そのため、各基剤溶液について複素粘度を評価した。
【0096】
<試験例3-1>複素粘度の測定
調製例2-3で調製した各基剤溶液(実施例53~74)及び調製例1-2で調製した基剤溶液(実施例8)について、試験例1-2と同じ試験方法で経時的な複素粘度を測定した(N=3)。各基剤溶液の25℃及び30℃、並びに37℃到達後1分、5分、及び10分時点における複素粘度を表5に示す。また、図1には一部の基剤溶液について複素粘度の経時的推移を示す。なお、図1のエラーバーは標準誤差を意味する。
【0097】
【表5】
【0098】
試験例1-2で実施した17%Plu.-PBS基剤溶液は25℃で5000mPa・sを超える複素粘度を示し、昇温に伴い複素粘度は増加した。一方で、Sol.を基剤の一部とした基剤溶液はいずれも25℃においては約100mPa・s以下の複素粘度を示した。昇温に伴い、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、又は硫酸ナトリウムを含む基剤溶液は複素粘度が上昇し、37℃到達後1分時点に、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、及び硫酸ナトリウムが2000mPa・s以上となった。クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は酒石酸ナトリウムを含む基剤溶液は37℃到達後5分時点で複素粘度が2000mPa・s以上となった。一部の基剤溶液については37℃到達後10分まで複素粘度を測定した。18%Sol.基剤溶液及び18%Sol.-PBSからなる基剤溶液は37℃到達後10分時点でも1000mPa・s以下であった。また、18%Sol.に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸アンモニウム、又は炭酸アンモニウムを含む基剤溶液に関しても、37℃到達後10分時点における複素粘度は1000mPa・s以下であった。
【0099】
<試験例3-2>37℃におけるゲル形成能の評価
調製例2-3で調製した各基剤溶液のうち、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、又は硫酸ナトリウムを含む基剤溶液について、37℃で1分静置したときのゲル形成能を評価した。試験方法及び評価方法については静置時間を1分間に短縮したこと以外は試験例1-1と同じである。
【0100】
結果を表6に示す。18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム基剤溶液、18%Sol.-2.1%クエン酸三カリウム基剤溶液、及び18%Sol.-1.1%硫酸ナトリウム基剤溶液の3種類はゲル形成が見られた。
【0101】
【表6】
【0102】
実験4:18%Sol.-塩基剤溶液における塩の濃度範囲の検討
実験2及び実験3においては、塩の濃度について、浸透圧が約200mOsmとなるように調製したが、浸透圧が約300mOsm又は約100mOsmとなる濃度の塩溶液を調製し、ゲル形成能及び複素粘度について評価した。
【0103】
<調製例4-1>塩溶液(目標浸透圧300mOsm)の調製
表7に記載した各種塩について、それぞれ表7に記載した「塩の添加量(g)」の欄に記載した量を量り取り、精製水100mLに溶解させることで、実施例75~91の塩溶液を調製した。
【0104】
<調製例4-2>塩溶液(目標浸透圧100mOsm)の調製
表7に記載した各種塩について、それぞれ表7に記載した「塩の添加量(g)」の欄に記載した量を量り取り、精製水100mLに溶解させることで、実施例92~95の塩溶液を調製した。
【0105】
<試験例4-1>塩溶液の浸透圧の測定
調製例4-1及び4-2で調製した実施例75~95の塩溶液について、浸透圧を測定した。浸透圧の測定方法は試験例2-1と同じである。結果を表7に示す。各塩溶液の浸透圧は281~304mOsmの範囲内又は95~111mOsmの範囲内であった。
【0106】
【表7】
【0107】
<調製例4-3>18%Sol.-塩基剤溶液(目標浸透圧300mOsm)の調製
Sol.を2g量り取り、調製例4-1で調製した各塩溶液8gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-塩基剤溶液をそれぞれ調製した。前記の各20%Sol.-塩基剤溶液1.8mL(又は1.35mL)に対し精製水を0.2mL(又は0.15mL)添加することにより、各種18%Sol.-塩基剤溶液(実施例96~105、110~116)を調製した。
【0108】
<調製例4-4>18%Sol.-塩基剤溶液(目標浸透圧100mOsm)の調製
Sol.を2g量り取り、調製例4-2で調製した各塩溶液8gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-塩基剤溶液をそれぞれ調製した。前記の各20%Sol.溶液1.8mL(又は1.35mL)に対し精製水を0.2mL(又は0.15mL)添加することにより、各種18%Sol.-塩基剤溶液(実施例106~109)を調製した。
【0109】
<試験例4-2>ゲル形成能の評価
調製例4-3及び4-4で調製した各基剤溶液のうち一部(実施例96~109)について、37℃におけるゲル形成の有無を評価した(N=2)。測定方法及び評価方法は試験例1-1と同じである。結果を表8に示す。
【0110】
【表8】
【0111】
試験例2-3でゲル形成しにくい基剤溶液について、クエン酸二水素ナトリウム(実施例96)、クエン酸二水素カリウム(実施例97)、クエン酸水素二アンモニウム(実施例98)、四ホウ酸ナトリウム(実施例100)、酢酸ナトリウム(実施例99)を含む基剤溶液については塩濃度を等張付近まで上げることでゲル形成が見られた。一方、塩化ナトリウム(実施例101)、塩化カリウム(実施例102)、塩化カルシウム(実施例103)、酢酸アンモニウム(実施例104)、炭酸アンモニウム(実施例105)を含む基剤溶液は塩濃度を等張まで上げてもゲル形成しなかった。なお、クエン酸三ナトリウムを含む基剤溶液(実施例106)は塩濃度を下げてもゲル形成が見られた。
【0112】
<試験例4-3>複素粘度の測定
調製例4-3で調製した各基剤溶液(実施例96~105、110~116)について、複素粘度を測定した(N=3)。試験方法は37℃到達後の測定時間以外、試験例1-2と同じである。
【0113】
【表9】
【0114】
結果を表9に示す。複素粘度が比較的速く増加する基剤溶液について、25℃、及び37℃到達後5分時点の複素粘度を表9に示す。
【0115】
実施例96~105、110~116はいずれも25℃時点における複素粘度が500mPa・s未満であり、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムを含有する基剤溶液以外の基剤溶液については37℃到達後5分時点で複素粘度が1650mPa・s以下であった。クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウムを含有する基剤溶液は37℃昇温後5分で特に高い複素粘度となった。塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムを含有する基剤溶液については、37℃到達後10分時点まで複素粘度を測定したが、いずれも3000mPa・s以下であった。
【0116】
実験5:Sol.濃度範囲の検討
Sol.の濃度を変更したときの基剤溶液のゲル形成能、複素粘度、及びゾル-ゲル転移点について評価した。
【0117】
<調製例5>各濃度のSol.-クエン酸三ナトリウム基剤溶液の調製
表10に記載の基剤溶液(実施例117~134)を調製した。具体的には、まず1.0%、1.9%、又は2.7%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を調製し、表10に記載の重量比となるようSol.を量り取って投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、各濃度のSol.-クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。
【0118】
<試験例5-1>ゲル形成能評価
調製例5で調製した基剤溶液について、37℃におけるゲル形成能を検討した(N=2)。一部の処方については25℃におけるゲル形成能も検討した。試験方法は試験例1-1と同じである。
【0119】
<試験例5-2>複素粘度の測定
調製例5で調製した各基剤溶液について複素粘度を測定した。試験方法等は試験例1-2と同じである。
【0120】
<試験例5-3>ゾル-ゲル転移点の測定
調製例5及び1-1で調製した基剤溶液の一部について、ゾル-ゲル転移点を測定した(N=3)。なお、ゾル-ゲル転移点を測定したサンプルについては、測定前に0.05%PS20含有PBS溶液を、基剤溶液のPS20濃度が0.005%となるように添加されている。ゾル-ゲル転移点の測定には、レオメーター(MCR302、Anton Paar製)を用い、プレートはMEASURING CONE CP25-2、ギャップは0.3mm、サンプル量は0.3mL、せん断ひずみは5%、角周波数は50rad/秒、サンプル温度が25℃(又は10℃)をゾル-ゲル転移点の測定開始時点とし、10秒あたり1℃上昇する条件で最高45℃まで加温した。
【0121】
【表10】
【0122】
結果を表10に示す。Sol.濃度が10%でクエン酸三ナトリウム濃度が1.0%の基剤溶液(実施例134)は37℃でゲルを形成せず、Sol.濃度を15%に上げた基剤溶液(実施例133)ではゲルの形成が見られたが、複素粘度は37℃到達後10分時点で約950mPa・sであった。
【0123】
試験例5-2の37℃到達後10分時点の複素粘度、試験例5-3のゾル-ゲル転移点との関係を図2に示す。基剤溶液中のSol.濃度及びクエン酸三ナトリウム濃度に依存して複素粘度及びゾル-ゲル転移点は変化した。
【0124】
実験6:ヒトHB-EGFを含有する医薬組成物の複素粘度
薬物が医薬組成物の複素粘度に与える影響を評価した。具体的には、18%Sol.基剤溶液又は18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム基剤溶液に薬物としてヒトHB-EGFを含有したときの複素粘度を評価した。
【0125】
<調製例6-1>18%Sol.基剤溶液及びHB-EGF含有18%Sol.溶液の調製
Sol.を2g量り取り、精製水8gにSol.に投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.基剤溶液を調製した。前記溶液1.8mLに精製水0.2mL又はHB-EGF溶液(ヒトHB-EGF 150μg/mL及び0.05%PS20含有PS20/PBS溶液、旭硝子製)0.2mLを添加し、18%Sol.基剤溶液(実施例135)及び15μg/mL HB-EGF含有18%Sol.溶液(実施例136)を調製した。なお、本調製で使用したPBSは、精製水にリン酸水素二ナトリウム・12水和物2.9mg/mL、塩化カリウム0.2mg/mL、塩化ナトリウム8.01mg/mL、及びリン酸二水素カリウム0.2mg/mLの割合で溶解させる方法により調製した。
【0126】
<調製例6-2>18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム基剤溶液及びHB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液の調製
精製水8gにクエン酸三ナトリウムを168mg溶解し、さらにSol.を2g量り取って投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。前記溶液1.8mLに精製水0.2mL又はHB-EGF溶液0.2mLを添加し、18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム基剤溶液(実施例137)及び15μg/mL HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例138)を調製した。
【0127】
<試験例6-1>複素粘度の測定
調製例6-1及び6-2で調製した各基剤溶液又は各溶液について、複素粘度を測定した(N=3)。試験方法は試験例1-2と同じである。結果を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
18%Sol.基剤溶液(実施例135)及び15μg/mL HB-EGF含有18%Sol.溶液(実施例136)と18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム基剤溶液(実施例137)及び15μg/mL HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例138)は、いずれも両者で複素粘度に大きな違いは見られなかった。
【0130】
実験7:耳内投与用医薬組成物の薬物徐放性の評価
Sol.基剤溶液又はSol.-塩基剤溶液について、薬物徐放性を複数のモデル薬物を用いて評価した。モデル薬物としては、たんぱく質の薬物モデルとして、FITCデキストラン(10kDa、70kDa、150kDa)(FITCデキストランは以後FITC-DEXと称することもある)、分配係数の異なる酸性低分子の薬物モデルとしてアセトアミノフェン及びジクロフェナクナトリウム、塩基性低分子の薬物モデルとしてニカルジピン塩酸塩を用いた。
【0131】
<調製例7-1>FITC-DEX(10kDa)含有溶液の調製
FITC-DEX(10kDa)30mgを0.05%(v/v)PS20含有PBS溶液に溶解して3mLとし、1%(w/v)FITC-DEX含有溶液を調製した。
【0132】
また、22.2%Sol.-2.1%(w/v)クエン酸三ナトリウム基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有20%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例143)を調製した。同様に、22.2%Sol.-1.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液、20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液、16.7%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液、11.1%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液、又は1×PBS(pH7.4)各1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、表12の実施例139~142及び144に記載の0.1%(w/v)FITC-DEX(10kDa)含有溶液を調製した。
【0133】
調製例2-2と同様の方法で調製した20%Sol.基剤溶液1350μLに、1%(w/v)FITC-DEXを150μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.溶液(実施例145)を調製した。
【0134】
調製例2-1で調製したクエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、又はクエン酸二水素ナトリウムを含む塩溶液について、それぞれSol.を20%(w/w)含有する20%Sol.-各塩溶液の基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1350μLに、1%(w/v)FITC-DEXを150μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.-各塩溶液(実施例146~148)を調製した。
【0135】
Plu.を18.9g量り取り、PBS81.1gに投入し、約4℃条件下でPlu.を溶解させることにより、18.9%Plu.-PBS基剤溶液を調製した。前記基剤溶液2700μLに、1%(w/v)FITC-DEXを300μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有17%Plu.-PBS溶液(実施例149)を調製した。
【0136】
<試験例7-1>FITC-DEX(10kDa)含有溶液の溶出試験
調製例7-1で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。溶出試験はTrans well(6well、12mm diameter inserts、0.4μm pore size、Corning製)のウェルの下側に1×PBS(pH7.4)を2mL入れ、37℃に設定したクロマトチャンバー(M-600FN、TAITEC製)でウェルごと加温した後、ウェルの上側に調製例7-1で調製した各溶液を0.5mL投与し、37℃±2℃、100回転/分で振盪することにより実施した。試験開始後1、2、4、6、及び24時間時点で、ウェルの下側から0.5mLサンプリングし、ウェルの下側にPBSを0.5mL補液した。蛍光プレートリーダー(Spectra Max i3x、Molecular Devices製)を用いて、励起波長494nm、測定波長522nmでサンプル液のFITC濃度を測定した。
【0137】
【表12】
【0138】
結果を表12に示す。ポリマーを含有する全ての溶液(実施例140~149)はFITC-DEX(10kDa)を徐放した。Sol.を含有する溶液は、Sol.の濃度上昇に伴い、試験開始後1時間時点における溶出率は低くなる傾向(実施例140~143)が見られたが、溶出率の差は10%以下であった。クエン酸三ナトリウムの濃度の違い(実施例143及び144)による溶出率の差も10%以下であった。また、18%Sol.-塩基剤溶液(実施例142、146~148)は塩溶液の種類により溶出速度に多少の違いはあるものの、いずれも徐放性を示し、17%Plu.-PBS基剤溶液(実施例149)より溶出速度は遅かった。
【0139】
<調製例7-2>FITC-DEX(70kDa)含有溶液の調製
FITC-DEX(70kDa)50mgをD-PBSに溶解し、1%(w/v)FITC-DEXを5mL調製した。D-PBS1800μLに、前記1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有PBS溶液(実施例150)を調製した。
【0140】
Plu.を56.7g量り取り、D-PBS243.3gに投入し、約4℃条件下でPlu.を溶解させることにより18.9%Plu.-PBS基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有17%Plu.-PBS溶液(実施例151)を調製した。
【0141】
Sol.を60.0g量り取り、精製水240.0gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより20%Sol.基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.溶液(実施例152)を調製した。
【0142】
調製例2-1で調製したクエン酸三ナトリウム又はクエン酸三アンモニウムを含む塩溶液について、それぞれ20%Sol.-各塩溶液の基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.-各塩溶液(実施例153、154)を調製した。
【0143】
<試験例7-2>FITC-DEX(70kDa)含有溶液の溶出試験
調製例7-2で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。試験条件は溶出試験液としてD-PBSを用いたこと以外、試験例7-1と同じであるが、測定は蛍光プレートリーダー(Infinite M1000PRO、TECAN製)を用いて、励起波長494nm、測定波長522nmでサンプル液のFITC濃度を測定した。
【0144】
【表13】
【0145】
結果を表13に示す。FITC-DEX(10kDa)と同様に、FITC-DEX(70kDa)についても、18%Sol.を含有する溶液(実施例152~154)はいずれも徐放性を示し、17%Plu.-PBS溶液(実施例151)より溶出速度は遅かった。
【0146】
<調製例7-3>FITC-DEX(150kDa)含有溶液の調製
FITC-DEX(150kDa)50mgをD-PBSに溶解し5mLとし、1%(w/v)FITC-DEXとした。D-PBS1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有PBS溶液(実施例155)を調製した。
【0147】
調製例7-2と同様の方法で調製した18.9%Plu.-PBS基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有17%Plu.-PBS溶液(実施例156)を調製した。
【0148】
調製例7-2と同様の方法で調製した20%Sol.基剤溶液1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.溶液(実施例157)を調製した。
【0149】
調製例2-1で調製したクエン酸三ナトリウム又はクエン酸三アンモニウムを含む塩溶液について、それぞれ20%Sol.-各塩溶液の基剤溶液を調製した。前記基剤1800μLに、1%(w/v)FITC-DEXを200μL混合し、0.1%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.-各塩溶液(実施例158、159)を調製した。
【0150】
試験例7-3>FITC-DEX(150kDa)含有溶液の溶出試験
調製例7-3で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。試験条件は試験例7-2と同じである。測定は蛍光プレートリーダー(Infinite M1000PRO、TECAN製)を用いて、励起波長494nm、測定波長522nmでサンプル液のFITC濃度を測定した。
【0151】
【表14】
【0152】
結果を表14に示す。FITC-DEX(10kDa)及びFITC-DEX(70kDa)と同様に、18%Sol.を含有する溶液(実施例157~159)はいずれも徐放性を示し、17%Plu.-PBS溶液(実施例156)より溶出速度は遅かった。
【0153】
<調製例7-4>アセトアミノフェン含有溶液の調製
アセトアミノフェン100mgを0.05%(v/v)PS20含有PBS溶液に溶解し10mLとし、1%(w/v)アセトアミノフェンとした。PBS1080μLに、1%(w/v)アセトアミノフェンを120μL混合し、0.1%(w/v)アセトアミノフェン含有PBS溶液(実施例160)を調製した。
【0154】
調製例7-2で調製した18.9%Plu.-PBS基剤溶液2700μLに、1%(w/v)アセトアミノフェンを300μL混合し、0.1%アセトアミノフェン含有17%Plu.-PBS溶液(実施例161)を調製した。
【0155】
調製例2-2と同様の方法で調製した20%Sol.基剤溶液1080μLに、1%(w/v)アセトアミノフェンを120μL混合し、0.1%(w/v)アセトアミノフェン含有18%Sol.溶液(実施例162)を調製した。
【0156】
調製例2-1で調製したクエン酸三ナトリウム、クエン酸三アンモニウム、コハク酸二ナトリウム、又はクエン酸二水素ナトリウムを含む塩溶液について、それぞれ20%Sol.-各塩溶液の基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1080μLに、1%(w/v)アセトアミノフェンを150μL混合し、0.1%(w/v)アセトアミノフェン含有18%Sol.-各塩溶液(実施例163~166)を調製した。
【0157】
<試験例7-4>アセトアミノフェン含有溶液の溶出試験
調製例7-4で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。試験条件は試験例7-1と同じであるが、測定はHPLC(ESPRIMO D583/N、Waters製)を用いて、測定波長254nmでサンプル液のアセトアミノフェン濃度を測定した。
【0158】
【表15】
【0159】
結果を表15及び図3に示す。ポリマーを含有する全ての溶液(実施例161~166)はアセトアミノフェンを徐放した。18%Sol.を含有する溶液(実施例162~166)の溶出速度は、いずれも17%Plu.-PBS溶液(実施例161)より遅かった。
【0160】
<調製例7-5>ジクロフェナクナトリウム含有溶液の調製
ジクロフェナクナトリウム50mgをD-PBSに溶解し5mLとし、1%(w/v)ジクロフェナクナトリウムとした。D-PBS1800μLに、1%(w/v)ジクロフェナクナトリウムを200μL混合し、0.1%(w/v)ジクロフェナクナトリウム含有PBS溶液(実施例167)を調製した。
【0161】
調製例7-2と同様の方法で調製した18.9%Plu.-PBS基剤溶液1800μLに、1%(w/v)ジクロフェナクナトリウムを200μL混合し、0.1%(w/v)ジクロフェナクナトリウム含有17%Plu.-PBS溶液(実施例168)を調製した。
【0162】
調製例7-2と同様の方法で調製した20%Sol.基剤溶液1800μLに、1%(w/v)ジクロフェナクナトリウムを200μL混合し、0.1%(w/v)ジクロフェナクナトリウム含有18%Sol.溶液(実施例169)を調製した。
【0163】
調製例2-1で調製したクエン酸三ナトリウムの塩溶液を用いて20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1800μLに、1%(w/v)ジクロフェナクナトリウムを200μL混合し、0.1%(w/v)ジクロフェナクナトリウム含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例170)を調製した。
【0164】
<試験例7-5>ジクロフェナクナトリウム含有溶液の溶出試験
調製例7-5で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。試験条件は試験例7-2と同じであるが、測定はHPLC(Waters Alliance e2695、Waters製)を用いて、測定波長240nmでサンプル液のジクロフェナクナトリウム濃度を測定した。
【0165】
【表16】
【0166】
結果を表16に示す。ポリマーを含有する全ての溶液(実施例168~170)はジクロフェナクナトリウムを徐放した。18%Sol.を含有する溶液(実施例169、170)の溶出速度は、いずれも17%Plu.-PBS溶液(実施例168)より遅かった。
【0167】
<調製例7-6>ニカルジピン塩酸塩含有溶液の調製
ニカルジピン塩酸塩25mgを精製水に溶解し5mLとし、0.5%(w/v)ニカルジピン塩酸塩とした。生理食塩水1800μLに、0.5%(w/v)ニカルジピン塩酸塩を200μL混合し、0.05%(w/v)ニカルジピン塩酸塩含有生理食塩水(実施例171)を調製した。
【0168】
調製例7-2と同様の方法で調製した18.9%Plu.-PBS基剤溶液1800μLに、0.5%(w/v)ニカルジピン塩酸塩を200μL混合し、0.05%(w/v)ニカルジピン塩酸塩含有17%Plu.-PBS溶液(実施例172)を調製した。
【0169】
調製例7-2と同様の方法で調製した20%Sol.基剤溶液1800μLに、0.5%(w/v)ニカルジピン塩酸塩を200μL混合し、0.05%(w/v)ニカルジピン塩酸塩含有18%Sol.溶液(実施例173)を調製した。
【0170】
調製例2-1で調製したクエン酸三ナトリウムを含む塩溶液を用いて、20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。前記基剤溶液1800μLに、0.5%(w/v)ニカルジピン塩酸塩を200μL混合し、0.05%(w/v)ニカルジピン塩酸塩含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例174)を調製した。
【0171】
<試験例7-6>ニカルジピン塩酸塩含有溶液の溶出試験
調製例7-6で調製した各溶液について溶出試験を実施した(N=2)。試験条件は溶出試験液として生理食塩水を用いたこと以外、試験例7-1と同じであるが、測定はHPLC(Waters Alliance e2695、Waters製)を用いて、測定波長254nmでサンプル液のニカルジピン塩酸塩濃度を測定した。
【0172】
【表17】
【0173】
結果を表17に示す。ポリマーを含有する全ての溶液(実施例172~174)はニカルジピン塩酸塩を徐放した。18%Sol.を含有する溶液(実施例173、174)の溶出速度は、いずれも17%Plu.-PBS溶液(実施例172)より遅かった。
【0174】
実験8:蛍光色素を用いた耳内滞留性の評価
Plu.又はSol.を基剤とした基剤溶液にモデル薬物としてFITC-DEX(10kDa)を含有する各基剤溶液を用いて耳内滞留性を評価した。
【0175】
<調製例8>FITC-DEX(10kDa)含有溶液の調製
FITC-DEX(10kDa)14mgを精製水に溶解させて1mLとし、1.4%(w/v)FITC-DEX溶液とした。前記溶液100μLと1×PBS(pH7.4)900μLとを混合し、0.14%(w/v)FIT-DEX含有PBS溶液(実施例175:図4のPBS)を調製した。
【0176】
Plu.を13.6g量り取り、1×PBS(pH7.4)66.4gに投入し、約4℃条件下でPlu.を溶解させることにより、17%Plu.-PBS基剤溶液を調製した。FITC-DEX14mgを前記17%Plu.-PBS基剤溶液に溶解させ10mLとし、0.14%(w/v)FITC-DEX含有17%Plu.-PBS溶液(実施例176:図4の17%Plu./PBS)を調製した。
【0177】
Sol.を4g量り取り、精製水16gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.基剤溶液を調製した。また、Sol.を20g量り取り、PBS80gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-PBS基剤溶液を調製した。1.4%(w/v)FITC-DEX溶液100μLと前記20%Sol.基剤溶液又は20%Sol.-PBS基剤溶液900μLとを混合し、0.14%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.溶液(実施例177:図4の18%Sol.)及び0.14%(w/v)FITC-DEX含有18%Sol.-PBS溶液(実施例178:図4の18%Sol./PBS)を調製した。
【0178】
<試験例8>蛍光色素を用いた耳内滞留性の評価
調製例8で調製した各溶液について、ラット耳内における滞留試験を実施した(N=4~6)。イソフルラン(フォーレン、アボット製)吸入麻酔下でラット(Crl:CD(SD)、7週齢)の鼓膜にローゼン氏探針(第一医科製)を用いて穴を開けた。この穴から各製剤50μLをマイクロピペット(Reference2、エッペンドルフ製)を用いて投与した。投与完了と共に吸入麻酔を止め、ラットを覚醒させた。24時間後にラットを麻酔下で放血処理・断頭し、中耳腔を採取した。採取した中耳腔内のFITC-DEXを回収し、蛍光プレートリーダー(Spectra Max i3x、Molecular Devices製)を用いて耳内のFITC-DEXの残存率を測定した。
【0179】
結果を図4に示す。なお、図4のエラーバーは標準偏差を意味する。投与24時間後における残存率は、0.14%(w/v)FITC-DEX含有PBS溶液(実施例175)は10%未満であり、0.14%(w/v)FITC-DEX含有17%Plu.-PBS溶液(実施例176)は約14%、18%Sol.溶液(実施例177及び実施例178)は40~60%程度であった。
【0180】
実験9:PETイメージングによる耳内滞留性の評価
Sol.基剤溶液又はSol.-クエン酸三ナトリウム基剤溶液の、耳内における滞留性を評価するため、薬物としてラットHB-EGFに89Zrを標識した89Zr-HB-EGFを用いて、PETイメージングにより耳内滞留性を評価した。Sol.基剤溶液、Sol.-クエン酸三ナトリウム基剤溶液、キトサン基剤溶液、又はPlu.-PBS基剤溶液に89Zr標識HB-EGFを含有することにより各種溶液を調製し、前記各溶液をマウスの外耳道に投与し、一定期間放置後にPET撮像を行った。得られたPET画像からHB-EGFを定量し、算出された残存量から耳内の放射能の残存率を計算することで、耳内滞留性を評価した。
【0181】
<調製例9-1>20%Sol.基剤溶液の調製
Sol.を4g量り取り、精製水16gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.基剤溶液を調製した。
【0182】
<調製例9-2>20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液の調製
精製水にクエン酸三ナトリウムを420mg溶解し、クエン酸三ナトリウム溶液を20mL調製した。Sol.を4g量り取り、前記溶液16gに投入し、約4℃条件下でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。
【0183】
<調製例9-3>18.9%Plu.-PBS基剤溶液の調製
Plu.を3.78g量り取り、1×PBS(pH7.4)16.22gに投入し、約4℃条件下でPlu.を溶解させることにより、18.9%Plu.-PBS基剤溶液を調製した。
【0184】
<調製例9-4>キトサン基剤溶液の調製
キトサン-乳酸プレポリマー(Auration(Stanford大学)製))(Kim et al.,J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 2014 Oct;102(7):1393-1406.)455μLにフィブリノーゲン(Enzyme Research Lab製)45μLを加えて混合し、キトサン基剤溶液を調製した。
【0185】
<調製例9-5>0.2%PS20含有PBS溶液の調製
PS20を40mg量り取り、1×PBS(pH7.4)を加えて溶解させ、0.2%PS20含有PBS溶液20mLを調製した。
【0186】
<調製例9-6>DFO-HB-EGFの調製
ラットHB-EGF(cyt-170、Prospec製)500μgを0.1mol/L炭酸水素ナトリウム溶液500μLに溶解した後に、p-SCN-Bn-Deferoxamine(WО2008/124467を参考に自社で合成)をDMSO(DMSOはDimethyl sulfoxideの略称)で溶解することで得た40mmol/Lのp-SCN-Bn-Deferoxamine溶液10μLと混合し、37℃に設定されたインキュベーター(ThermomixerC、Eppendorf製)内にて300回転/分の速度で30分間震盪させることで反応液を得た。反応液をPD-10カラム(17085101、GE Healthcare製)に添加した後に1×PBS(pH7.4)溶液にて溶出し、溶出液を500μLずつ回収し、7番目及び8番目のフラクションを回収し、目的のタンパク質であるDFO-HB-EGFを調製した。
【0187】
<調製例9-7> 89 Zr-HB-EGF含有PBS溶液及び 89 Zr-HB-EGF含有PS20-PBS溶液の調製
89Zr]Zr-oxalateの1mol/Lシュウ酸溶液20μL(10.52-38.5MBq)に1mol/L炭酸ナトリウム溶液18μLを加えた後、0.5mol/L HEPES溶液(HEPESはヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸を意味する)を88μL加え、混和した。さらに調製例9-6で調製したDFO-HB-EGF(フラクション7又は8)を50μL加え、これを37℃に設定したブロックインキュベーター(BI-516s、ASTEC製)を用いて30~60分間インキュベートし、反応させた。反応液を限外濾過膜(AmiconUltra 3K、Amicon製)に加え、さらにPBSを加えて限外濾過精製を行うことで、目的の89Zr-HB-EGF含有PBS溶液を得た(5.80-9.09MBq)。さらに、得られた溶液と0.2%PS20含有PBS溶液とを3:1(v/v)で混合することで、89Zr-HB-EGF含有PS20-PBS溶液を調製した。
【0188】
<調製例9-8> 89 Zr-HB-EGF含有18%Sol.溶液の調製
調製例9-7で調製した89Zr-HB-EGF含有PS20-PBS溶液10~100μLと、調製例9-1で調製した20%Sol.基剤溶液とを1:9の比率で混合し、89Zr-HB-EGF含有18%Sol.溶液(実施例179)を調製した。前記溶液は投与直前まで氷冷下で保存した。
【0189】
<調製例9-9> 89 Zr-HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液の調製
調製例9-7で調製した89Zr-HB-EGF含有PS20-PBS溶液10~100μLと、調製例9-2で調製した20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液とを1:9の比率で混合し、89Zr-HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例180)を調製した。前記溶液は投与直前まで氷冷下で保存した。
【0190】
<調製例9-10> 89 Zr-HB-EGF含有17%Plu.-PBS溶液の調製
調製例9-7で調製した89Zr-HB-EGF含有PS20-PBS溶液10μLと、調製例9-3で調製した18.9%Plu.-PBS基剤溶液とを1:9の比率で混合し89Zr-HB-EGF含有17%Plu.-PBS溶液(実施例181)を調製した。前記溶液は投与直前まで氷冷下で保存した。
【0191】
<調製例9-11> 89 Zr-HB-EGF含有キトサン溶液の調製
調製例9-7で調製した89Zr-HB-EGF含有PBS溶液10μLを、調製例9-4で調製したキトサン基剤溶液90μLと混合し、89Zr-HB-EGF含有キトサン溶液を調製した。
【0192】
<試験例9>PET撮像
マウス(BALB/C、9~11週齢)をイソフルランで麻酔し、外耳道に調製例9-8、9-9、及び9-10で得た各溶液3μLをそれぞれ投与した(89Zr-HB-EGF含有18%Sol.溶液:N=15,89Zr-HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液:N=15、89Zr-HB-EGF含有17%Plu.-PBS溶液:N=9)。調製例9-11で得た89Zr-HB-EGF含有キトサン溶液は、2.55μL投与し、さらに0.2mol/Lピロ亜硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich製)0.45μLを投与して89Zr-HB-EGF含有キトサン溶液を耳内で重合させた(実施例182)(N=9)。投与後0.15~0.31時間後、1日後、及び2日後にそれぞれ麻酔下、PET/CT撮像装置(PET:Clairvivo PET、島津製作所製、CT:Aquilion、TOSHIBA製)で画像を取得した。得られた画像から、投与直後の耳内の放射能に対する投与1日後及び2日後の放射能残存率を算出した。
【0193】
結果を図5に示す。なお、図5のエラーバーは標準誤差を意味する。投与2日後において89Zr-HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例180)は他の3溶液と比べて高い放射能の残存率を示した。89Zr-HB-EGF含有キトサン溶液(実施例182)は、投与1日後から投与2日後までに残存率が約50%減少し、89Zr-HB-EGF含有17%Plu.-PBS溶液(実施例181)は投与1日後から投与2日後までに残存率が約18%減少した。89Zr-HB-EGF含有18%Sol.溶液(実施例179)及び89Zr-HB-EGF含有18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(実施例180)は、投与1日後から投与2日後に残存率の減少が10%未満であった。
【0194】
実験10:慢性鼓膜穿孔モデルを用いたHB-EGF含有溶液の薬効評価
慢性鼓膜穿孔モデルマウスを作製し、マウスHB-EGFを含有した各溶液を投与したときの鼓膜穿孔に対する薬効を評価した。
【0195】
<試験例10-1>慢性鼓膜穿孔モデルマウスの作製
イソフルラン(ファイザー製)麻酔下でマウス(雄性CBA/CaJ種、9~13週齢)の鼓膜をローゼン氏探針(52-147-50、第一医科製)にて全穿孔させた。穿孔部に穿孔化剤として10mmol/L KB-R7785溶液(自社合成)(Hirayama et al., Bioorg Med Chem. 1997, Apr;5(4)765-778)を浸したゼルフォーム(登録商標)(ファイザー製)を留置した。なお、前記ゼルフォーム(登録商標)はマウスの耳内に入るサイズに裁断して使用した。耳内を1日1回観察し、ゼルフォーム(登録商標)が消失していた場合は、新たに穿孔化剤を浸したゼルフォーム(登録商標)を留置した。消失せず留まっている場合は、10mmol/L KB-R7785溶液の追加投与を行った。穿孔化剤による処置は1週間実施し、その後は約3か月間放置し、顕微鏡下で穿孔を確認した。
【0196】
<調製例10-1>マウスHB-EGF溶液の調製
HB-EGFとしてマウスHB-EGF(cyt-068、Prospec製)を用い、精製水で溶解させ、マウスHB-EGF溶液を調製した。
【0197】
<調製例10-2>キトサン溶液(マウスHB-EGF 有/無)の調製
キトサン-乳酸プレポリマー(Auration(Stanford大学)製))455μLにフィブリノーゲン(Enzyme Research Lab製)45μLを加えて混合し、キトサン基剤とした。調製例10-1で調製したマウスHB-EGF溶液58.824μg/mL又は精製水と前記キトサン基剤とを1:9の割合で混合することにより、キトサン溶液(マウスHB-EGF有)(実施例183)又はキトサン溶液(マウスHB-EGF無)(実施例184)を調製した。これらの溶液は4℃下で保管した。
【0198】
<調製例10-3>20%Sol.溶液(マウスHB-EGF 有/無)の調製
Sol.を6.7g量り取り、精製水23.3gに投入し、約4℃でSol.を溶解させることにより、22.3%Sol.基剤溶液を調製した。調製例10-1で調製したマウスHB-EGF溶液50μg/mL又は精製水と22.3%Sol.基剤溶液とを1:9の割合で混合することにより、20%Sol.溶液(マウスHB-EGF有)(実施例185)又は20%Sol.溶液(マウスHB-EGF無)(実施例186)を調製した。
【0199】
<調製例10-4>18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(マウスHB-EGF 有/無)の調製
クエン酸三ナトリウムを420mg量り取り、精製水に溶解させ、クエン酸三ナトリウム溶液20mLを調製した。Sol.を2g量り取り、前記溶液8gに投入し、約4℃でSol.を溶解させることにより、20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液を調製した。調製例10-1で調製したマウスHB-EGF溶液50μg/mL又は精製水と20%Sol.-2.1%クエン酸三ナトリウム基剤溶液とを1:9の割合で混合し、18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(マウスHB-EGF有)(実施例187)又は18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(マウスHB-EGF無)(実施例188)を調製した。
【0200】
<試験例10-2>慢性鼓膜穿孔の治療
試験例10-1で作製した慢性鼓膜穿孔モデルマウスに、調製例10-2~10-4で調製した各溶液(実施例183~188)5μLを、マイクロマンE(M10E、ギルソン製)を用いて鼓膜上に投与した(N=13~14)。なお、キトサン溶液(マウスHB-EGF 有/無)は、それぞれ投与前に室温に戻し、投与時に各キトサン溶液4.25μLと0.2mol/Lピロ亜硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich製)0.75μLとを耳内で重合させた(N=13)。具体的には、まずマイクロマンEを用いて外耳道よりキトサン溶液(マウスHB-EGF 有/無)を鼓膜上に投与し、その後同様にピロ亜硫酸ナトリウムを投与し、製剤が固まる前に素早く耳からマイクロマンEを引き抜いた。
【0201】
投与1か月後に、鼓膜を含む周辺組織をサンプリングし、残渣を除去した後に穿孔の有無を確認し、鼓膜穿孔耳数及び鼓膜完治耳数から鼓膜穿孔治癒率を算出した。
【0202】
【表18】
【0203】
結果を表18に示す。キトサン溶液(マウスHB-EGF有)(実施例183)及び20%Sol.溶液(マウスHB-EGF有)(実施例185)の鼓膜穿孔治癒率は69%であった。18%Sol.-1.9%クエン酸三ナトリウム溶液(マウスHB-EGF有)(実施例187)の鼓膜穿孔治癒率は86%であった。
【0204】
以上の結果より、本発明の医薬組成物は投与時の混合が不要であり、室温下でもゲル化しないことから煩雑な操作なく耳内に投与することができ、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明によれば、煩雑な操作なく耳内に投与することができ、かつ、耳内で薬物が滞留及び徐放する機能を有する医薬組成物を提供することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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