(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】音響共振装置、フィルター装置及び音響共振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240918BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
(21)【出願番号】P 2021553386
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 US2020022933
(87)【国際公開番号】W WO2020186261
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-09-27
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤンチェフ ヴェントシスラフ
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147687(WO,A1)
【文献】特開2010-233210(JP,A)
【文献】特表2013-528996(JP,A)
【文献】特開2012-169760(JP,A)
【文献】特開2008-079227(JP,A)
【文献】特開昭53-062964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に直接または少なくとも1つ以上の中間材料層を介して取り付けられる圧電板であって、前記圧電板の一部分がキャビティーの上方で振動板を形成する圧電板と、
前記圧電板に形成されたインターデジタル変換器(IDT)であって、前記IDTのインターリーブされたフィンガーが前記振動板に配置されるIDTと、
前記圧電板に形成された誘電体層と、を含み、
前記圧電板の厚さts及び前記誘電体層の厚さtdは以下のように定義され、
2ts=λ
0,s
0.88λ
0,d≦2td≦1.12λ
0,d
λ
0,s
は前記圧電板におけるせん断バルク音響波(BAW)基本共振の波長であり、
λ
0,dは前記誘電体層におけ
るせん断
BAW基本共振の波長である音響共振装置。
【請求項2】
前記誘電体層が、SiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3、及びAlNの1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の音響共振装置。
【請求項3】
前記圧電板はニオブ酸リチウムであり、
前記誘電体層はSiO
2であ
る請求項1に記載の音響共振装置。
【請求項4】
前記音響共振装置の周波数の温度係数が、共振周波数では-32ppm/℃~-42ppm/℃であり、反共振周波数では-20ppm/℃~-36ppm/℃である請求項
3に記載の音響共振装置。
【請求項5】
基板と、
厚さtsを有し、前記基板に直接または少なくとも1つ以上の中間材料層を介して取り付けられる圧電板と、
前記圧電板に形成された導体パターンであって、前記導体パターンは、シャント共振器及び直列共振器を含むそれぞれの複数の共振器の複数のインターデジタル変換器(IDT)を含み、前記複数のIDTのそれぞれのインターリーブされたフィンガーは、1つまたは複数のキャビティーの上方に前記圧電板のそれぞれの部分に配置される、導体パターンと、
前記直列共振器の前記フィンガーの間に堆積され、厚さtdsを有する第1誘電体層と、
前記シャント共振器の前記フィンガーの間に堆積され、厚さtdpを有する第2誘電体層と、を備え、
ts,tds,tdpは、
2ts=λ
0,s 及び
0.88λ
0,d≦2tds<2tdp≦
1.12λ
0,d
の式で表され、λ
0,sは前記圧電板におけ
るせん断バルク音響波
(BAW)基本共振の波長であり、
λ
0,dは誘電体層におけ
るせん断
BAW基本共振の波長であるフィルター装置。
【請求項6】
直接または1つ以上の中間材料層を介して基板に取り付けられる圧電板に、音響共振装置を製造する方法であって、
前記圧電板の一部分がキャビティーの上方に振動板を形成するように、前記基板にキャビティーを形成することと、
前記圧電板にインターデジタル変換器(IDT)を形成することであって、前記IDTのインターリーブされたフィンガーが前記振動板に配置されるIDTを形成することと、
前記圧電板に誘電体層を形成することと、を含み、
前記圧電板の厚さts及び前記誘電体層の厚さtdは以下のように定義され、
2ts=λ
0,s
0.88λ
0,d≦2td≦1.12λ
0,d
λ
0,s
は前記圧電板におけるせん断バルク音響波(BAW)基本共振の波長であり、
λ
0,dは前記誘電体層におけ
るせん断
BAW基本共振の波長である音響共振装置の製造方法。
【請求項7】
誘電体層を形成することは、SiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3、及びAlNの1つ以上を堆積することをさらに含む、請求項
6に記載の音響共振装置の製造方法。
【請求項8】
前記圧電板はニオブ酸リチウムであり、
誘電体層を形成することは、厚さtdのSiO
2を堆積することを含
む、請求項
6に記載の音響共振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響波共振器を用いた無線周波数フィルターに関し、特に通信装置に用いられるフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
無線周波数(RF)フィルターは、いくつかの周波数を通過させ、他の周波数を阻止するように構成された2ポート装置であり、「通過(pass)」とは、比較的低い信号損失で送信することを意味し、「停止(stop)」とは、遮断または実質的な減衰を意味する。フィルターが通過する周波数の範囲は、そのフィルターの「パスバンド」と呼ばれる。また、フィルターによって阻止される周波数の範囲は、フィルターの「ストップバンド」と呼ばれる。一般的なRFフィルターは、少なくとも1つのパスバンドと少なくとも1つのストップバンドを持っている。パスバンドやストップバンドに関する具体的な要件は、特定の用途に依存する。例えば、「パスバンド」は、フィルターの挿入損失が1dB、2dB、3dBなどの定義された値よりも優れる周波数範囲として定義されることがある。「ストップバンド」は、用途に応じて、フィルターの除去率が20dB、30dB、40dBなどの定義された値よりも大きくなる周波数範囲として定義されることがある。
【0003】
RFフィルターは、無線リンクで情報を送信する通信システムに使用される。例えば、RFフィルターは、セルラー基地局、携帯電話及びコンピューティング装置、衛星トランシーバー及び地上局、IoT(Internet of Things)装置装置、ラップトップコンピュータ及びタブレット、固定点無線リンク、及び他の通信システムのRFフロントエンドにみられる。また、RFフィルターは、レーダーや電子・情報戦システムにも使用される。
【0004】
RFフィルターは、通常、特定の用途ごとに、挿入損失、除去、分離、パワー処理、直線性、サイズ、コストなどの性能パラメータ間の最良の妥協点を達成するために、多くの設計トレードオフを必要とする。特定の設計及び製造方法や改善は、これらの要件の1つまたは複数を同時に満たすことができる。
【0005】
無線システムのRFフィルターの性能改善は、システムの性能に幅広い影響を与える。RFフィルターの改良は、セルサイズの拡大、バッテリー寿命の延長、データレートの向上、ネットワーク容量の拡大、低コスト、セキュリティの改善、信頼性の向上など、システム性能の向上に活用することができる。これらの改良は、例えば、RFモジュール、RFトランシーバー、モバイルまたは固定サブシステム、ネットワークレベルなど、ワイヤレスシステムの多くのレベルで、単独または組み合わせて実現することができる。
【0006】
通信チャネルのバンド幅を広くしたいという要望は、必然的により高い周波数の通信バンドを使用することにつながる。現在のLTE(登録商標)(Long Term Evolution)の仕様では、3.3GHz~5.9GHzの周波数帯が定められる。これらのバンドの中には、現在使用されていないものもある。今後の無線通信の提案としては、28GHzまでのミリメートル波通信帯がある。
【発明の概要】
【0007】
現在の通信システムの高性能RFフィルターは、表面弾性波(SAW)共振器、バルク音響波(BAW)共振器、フィルムバルク音響波共振器(FBAR)または他の音響波共振器(acoustic resonators)を内蔵するのが一般的である。しかし、これらの既存技術は、将来の通信ネットワークで提案されるより高い周波数での使用には適さない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】横方向に励起されたフィルムバルク音響共振器(XBAR)の概略平面図と2つの概略断面図を含む。
【
図2】
図1のXBARの部分の拡大概略断面図である。
【
図3】「ハーフラムダ」誘電体層を含む改良型XBARの部分の拡大概略断面図である。
【
図4】ハーフラムダの誘電体層を有するXBARと従来のXBARのアドミタンスを比較したグラフである。
【
図5】共振周波数における応力を表す輪郭が示されたハーフラムダ誘電体層を有するXBARの断面図である
【
図6】ハーフラムダAlN層を有する3つのXBARのアドミタンスを比較したグラフである。
【
図7】ハーフラムダのSiO
2層を有する3つのXBARのアドミタンスを比較したグラフである。
【
図8】ハーフラムダのSiO
2層を有する他の3つのXBARのアドミタンスを比較したグラフである。
【
図9】過度に薄いハーフラムダSiO
2層を有するXBARのアドミタンスを示すグラフである。
【
図10】過度に薄いハーフラムダSiO
2層を有するXBARのアドミタンスを示すグラフである。
【
図11】XBARの周波数の温度係数をSiO
2の厚さの関数として示すグラフである。
【
図12】XBARを用いたフィルターの概略回路図及び配置である。
【
図13】ハーフラムダ誘電体層を含むXBARを製造する工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、図に登場する構成には3桁または4桁の参照符号が割り当てられており、最下位の2桁はその構成に固有のものであり、最上位の1桁または2桁はその構成が最初に紹介される図の番号である。図とともに説明されていない構成は、同じ参照符号を持つ前に説明された構成と同じ特性と機能を持っていると推定することができる。
【0010】
詳細な説明
装置の説明
図1は、米国特許第10,491,192号に記載される横方向に励起されたフィルムバルク音響共振器(XBAR)100の簡略化された概略上面図及び直交する断面図である。共振器100のようなXBAR共振器は、バンドリジェクトフィルター、バンドパスフィルター、デュプレクサ、マルチプレクサを含む、さまざまなRFフィルターに使用されてよい。XBARは、特に周波数が3GHz以上の通信バンド用のフィルターの使用に適する。
【0011】
XBAR100は、平行な前面及び背面112,114をそれぞれ有する圧電板110の面に、薄膜導体パターンを形成したものである。圧電板は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ランタンガリウムシリケート、窒化ガリウム、窒化アルミニウムなどの圧電材料の薄い単結晶層である。圧電板は、前面及び背面に対するX、Y、Zの結晶軸の向きが既知で一貫するように切断される。この特許で紹介される例では、圧電板はZカット、つまりZ軸が前面及び背面112,114に垂直になっている。しかし、XBARは、他の結晶学的な方位の圧電板にも製造可能である。
【0012】
圧電板110の背面114は、基板に形成されたキャビティー140をまたぐ振動板115を形成する圧電板110の部分を除いて、基板120の面に取り付けられる。本明細書では、キャビティーをまたぐ圧電板の部分を、マイクロフォンの振動板(diaphragm)に物理的に似ていることから、「振動板」115と呼ぶことにする。
図1に示すように、振動板115は、キャビティー140の外周145の全てにおいて、圧電板110の残りの部分と連続する。ここでいう「連続する」とは、「介在物なく連続してつながっている」という意味である。
【0013】
基板120は、圧電板110に機械的な支持を与える。基板120は、例えば、シリコン、サファイア、石英、または他の材料、または材料の組み合わせであってもよい。圧電板110の背面114は、ウェハ接合工程を用いて基板120に接合してもよい。あるいは、圧電板110を基板120上に成長させてもよく、他の方法で基板に取り付けてもよい。圧電板110は、基板に直接取り付けてもよく、1つ以上の中間材料層を介して基板120に取り付けてもよい。
【0014】
「キャビティー」は、「固体内の空の空間」という従来の意味を有する。キャビティー140は、(断面A-A及び断面B-Bに示すように)基板120を完全に貫通する穴であってもよく、基板120の凹部であってもよい。キャビティー140は、例えば、圧電板110と基板120の取り付け前または取り付け後に、基板120を選択的にエッチングすることで形成されてもよい。
【0015】
XBAR100の導体パターンは、インターデジタル変換器(IDT)130を含む。IDT130は、第1バスバー132から延びる、フィンガー136などの第1の複数の平行なフィンガーと、第2バスバー134から延びる第2の複数のフィンガーとを含む。第1及び第2の複数の平行フィンガーは、インターリーブされる。インターリーブされたフィンガーは、通常、IDTの「隙間(aperture)」と呼ばれる距離APだけオーバーラップする。IDT130の最も外側のフィンガーの間の中心から中心までの距離LがIDTの「長さ」である。
【0016】
第1及び第2バスバー132,134は、XBAR100の端子として機能する。IDT130の2つバスバー132,134の間に適用される無線周波数またはマイクロ波信号は、圧電板110内の一次音響モードを励起する。一次音響モードはバルクせん断モードであり、音響エネルギーは圧電板110の面に実質的に直交する方向に沿って伝搬し、この方向はIDTフィンガーによって形成された電界の方向に対しても垂直、または横方向である。このように、XBARは横方向に励起されたフィルムバルク波共振器と考えられる。
【0017】
IDT130は、IDT130の少なくともフィンガーが、キャビティー140をまたぐ、またはその上に吊り下げられる、圧電板の部分115に配置されるように、圧電板110に配置される。
図1に示すように、キャビティー140は、IDT130の隙間AP及び長さLよりも大きい範囲を有する矩形状をする。XBARのキャビティーは、正多角形や不規則な多角形など、さまざまな形状をしてもよい。XBARのキャビティーは、4つ以上の面があってもなくてもよく、その面は直線でも曲線でもよい。
【0018】
図1の説明を容易にするために、IDTフィンガーの幾何学的なピッチと幅は、XBARの長さ(寸法L)と隙間(寸法AP)に対して大きく誇張される。一般的なXBARでは、IDT110に10本以上の平行なフィンガーがある。XBARは、IDT110に数百、場合によっては数千の平行フィンガーを持つことができる。同様に、断面図でのフィンガーの厚さも大きく誇張される。
【0019】
図2は、
図1のXBAR100であってもよいXBAR200の詳細な概略断面図である。圧電板210は、前面214と背面216を有する圧電材料の単結晶層である。前面214と背面216との間の厚さtsは、例えば、100nm~1500nmであってもよい。5G NR(第5世代新無線)やWi-Fi(登録商標)バンド(3.3GHZ~6GHz)のフィルターに使用する場合、厚さtsは、例えば280nm~550nmとすることができる。
【0020】
IDTフィンガー238は、アルミニウム、実質的にアルミニウム合金、銅、実質的に銅合金、タングステン、モリブデン、ベリリウム、金、または他の導電性材料であってもよい。フィンガーと圧電板210との間の接合性を向上させるため、及び/または、フィンガーを不動態化またはカプセル化するために、フィンガーの下及び/または上に、クロムやチタンなどの他の金属の(導体の総厚さに比べて)薄い層が形成されてもよい。IDTバスバー(
図1の132、134)は、フィンガーと同じまたは異なる材料で作製されてもよい。
【0021】
寸法pは、IDTフィンガーの中心から中心までの間隔または「ピッチ」であり、IDTのピッチ及び/またはXBARのピッチと呼ばれることがある。寸法wは、IDTフィンガーの幅または「マーク」である。XBARのIDTは、表面弾性波(SAW)共振器のIDTとは実質的に異なる。SAW共振器では、IDTのピッチが共振周波数における音響波長の1/2になる。さらに、SAW共振器IDTのマークとピッチの比は、通常0.5に近い(つまり、マークやフィンガーの幅は、共振時の音響波長の約1/4である)。XBARでは、IDTのピッチpは、通常、フィンガーの幅wの2~20倍である。また、IDTのピッチpは、通常、圧電板210の厚さtsの2~20倍である。XBARのIDTフィンガーの幅は、共振時の音響波長の1/4に制約されることはない。例えば、XBAR IDTフィンガーの幅は、光リソグラフィを用いてIDTを製造できるように、500nm以上とすることができる。IDTフィンガーの厚さtmは、100nmから幅wとほぼ等しくてもよい。IDTのバスバー(
図1の132、134)の厚さは、IDTフィンガーの厚さtmと同じであってもよく、それ以上であってもよい。
【0022】
圧電板の面に垂直に伝搬するせん断バルク音響波(BAW)は、圧電板の厚さtsが音響波の波長λの1/2の整数倍になると、面から反射して共振、すなわち定常波を形成する。このような共振が発生する最長波長/最低周波数は、周波数f0、圧電板の厚さtsの2倍に等しい波長λ0,sのせん断BAW基本共振である。用語「λ0,s」は、圧電板のせん断BAW基本(0次)共振の圧電板内での波長を意味する。同じ音響波(つまり、同じ周波数で同じ方向に伝搬するせん断BAW)でも、他の材料では波長が異なることがある。なお、周波数f0は、圧電板のせん断BAWの速度を波長λ0,sで割ることで求めることができる。圧電板のせん断BAW基本共振は、IDT構造に影響されるXBAR素子200の共振と同じではない。
【0023】
図3は、「ハーフラムダ」誘電体層を組み込んだXBARの詳細な概略断面図である。
図3は、具体的には、圧電板310の前側(すなわち、基板から離れて対向する側、
図3に示すように上側)に厚い誘電体層350を有するXBAR300を示す。誘電体層350の代わりに、圧電板310の背面316に同等の誘電体層を用いることも可能である。より大きなスケールでは、厚い誘電体層350を有するXBAR300は、
図1のXBAR100と同様である。
図3は、また、前述のように2つのIDTフィンガー338を示す。寸法pは、IDTフィンガーの中心から中心への間隔または「ピッチ」であり、寸法wがIDTフィンガーの幅または「マーク」である。
【0024】
圧電板310は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどの圧電材料の薄い単結晶層である。圧電板310は、前面及び背面314,316に対するX,Y,Zの結晶軸の向きが既知で一貫するように切断される。圧電板310の厚さtsは、例えば、100nm~1500nmであってもよい。
【0025】
誘電体層350は、SiO2、Si3N4、Al2O3、AlN、または他の材料のように、ほぼすべての誘電体材料でよい。後述するように、誘電体材料がAlNであるか、またはAlNを含む場合と、誘電体材料がSiO2である場合に、特に利点が得られる可能性がある。
【0026】
圧電板310の厚さts及び誘電体層350の厚さtdは、面316及び352に垂直に伝搬するせん断BAWが、XBAR装置300の所望の共振周波数よりもわずかに小さくてもよい所定の周波数で、面316及び352の間に全周期の定常波を形成するように構成される。つまり、所定の周波数でせん断BAWの2倍音共振が発生する。定義により、圧電板の厚さtsは、前述のように、誘電体層350がない場合の圧電板310のせん断BAW基本共振の波長であるλ0,sの1/2である。名目上、誘電体層350の厚さtdは、λ0,dの1/2であり、λ0,dは、誘電体層350の同じバルクBAWの波長である。この場合、圧電板310と誘電体層350のそれぞれには、現在の2倍音共振の周波数であるf0の半周期の定常波が含まれることになる。λ0,dは、誘電体層350におけるせん断音響波の速度と圧電板310におけるせん断音響波の速度との比をλ0,sに乗じた値に等しい。SiO2のような比較的遅い誘電体材料の場合、λ0,dはλ0,sと同じかわずかに大きくてもよい。この場合、誘電体層350の厚さtdは、tsと同じか、tsよりもわずかに大きくてもよい。Si3N4やAlNなどの比較的高速な誘電体材料では、λ0,dは、λ0,sよりも実質的に大きくてもよい。この場合、誘電体層350の厚さtdはtsよりも比例して大きくなる。
【0027】
本明細書では、誘電体層350を「ハーフラムダ」誘電体層と呼ぶが、誘電体層の厚さtdは正確にλ0,d/2である必要はない。圧電板310と誘電体層350の合計厚さは、バルクせん断波の2倍音共振が所定の周波数で発生するような厚さであれば、厚さtdはλ0,d/2と異なっていてもよい。シミュレーションの結果、いくつかについては後述のように、
0.85λ0,d≦2td≦1.15λ0,d (1)
で定義される範囲の誘電体層の厚さであれば、低スプリアスモードで電気機械結合が安定したXBARとなる。tdの値がこの範囲を超えると、電気機械の結合が弱くなり、スプリアスモードが増加する結果となる。この範囲内でtdを変化させると、XBARの共振周波数を約10%調整することができ、多くのフィルターの用途において、シャント共振器と直列共振器の間に必要な周波数オフセットを確立するのに十分となる。
【0028】
図3では、誘電体層350は、IDTフィンガー338の上及び間に堆積されることが示される。他の実施形態では、IDTフィンガーの間にのみハーフラムダ誘電体層が形成されてもよい。ハーフラムダ誘電体層350は、単層であっても、同様の音響インピーダンスを有する異なる誘電体材料の2層以上であってもよい。
【0029】
ハーフラムダ誘電体層350をXBAR300に組み込むことの主な利点は、振動板の厚さが増すことである。ハーフラムダ誘電体層350に使用される材料に応じて、XBAR300の振動板の厚さは、
図1のXBAR100の振動板115の厚さの2~3倍であってもよい。厚さがある振動板は剛性が高く、温度変化による反りや歪みが発生しにくい。
【0030】
XBAR300のより厚い振動板は、特にハーフラムダ誘電体層350が窒化アルミニウムのような高熱伝導性誘電体材料であるか、またはそれを含む場合、より高い熱伝導性も有することになる。高い熱伝導率により、振動板からの熱の奪い方がより効率的になり、一定の熱負荷や電力消費に対して、より小さな共振器面積を使用してもよい。
【0031】
また、XBAR300は、
図1のXBAR100(同じIDTピッチの場合)と比較して、単位面積当たりの静電容量が大きくなる。共振器の静電容量は回路設計の問題である。特に音響共振器を用いたRFフィルターは、通常、フィルターの入力インピーダンスと出力インピーダンスが規定値(通常50Ω)に一致することが要求される。この要求により、フィルターの一部または全部の共振器の最小静電容量値が決定される。部分ブラッグ反射器を持つXBAR300では、単位面積当たりの静電容量が大きいため、必要な静電容量値に対して、より小さな共振器面積を使用することができる。
【0032】
圧電板310の背面にハーフラムダ誘電体層を設けたXBAR(図示せず)は、剛性と熱伝導性が向上するが、単位面積当たりの静電容量はわずかに増加するだけである。
【0033】
図4は、ハーフラムダ誘電体層を有するXBARと従来のXBARのアドミタンスを比較したグラフ400である。
図4及び後述する
図6、
図7に示すデータは、XBAR装置を有限要素法でシミュレーションした結果である。実線410は、ハーフラムダ誘電体層を含むXBARのアドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。圧電板は厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTは厚さ100nmのアルミニウムである。IDTフィンガーのピッチとマークはそれぞれ4.25μmと1.275μmである。ハーフラムダの誘電体層は、厚さ350nmのSi
3N
4層と厚さ350nmのAlN層で構成される。共振周波数は4.607GHz、反共振周波数は4.862GHzである。反共振周波数と共振周波数の差は255MHzで、共振周波数と反共振周波数の平均値の約5.4%である。
【0034】
破線420は、従来のXBARのアドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。圧電板は厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTは厚さ100nmのアルミニウムである。IDTフィンガーのピッチとマークはそれぞれ3.7μmと0.47μmである。共振周波数は4.71GHz、反共振周波数は5.32GHzである。反共振周波数と共振周波数の差は610MHzで、共振周波数と反共振周波数の平均値の約12.2%である。従来のXBARのアドミタンス(破線420)は、ハーフラムダ誘電体層を有するXBARのアドミタンス(実線410)には存在しない、共振周波数と反共振周波数の間のいくつかのスプリアスモードを示す。
【0035】
XBAR装置300にハーフラムダ誘電体層を組み込むことにより、従来のXBAR装置と比較して、高い熱伝導率で、スプリアスモードの励起が潜在的に少ない硬い振動板が得られる。電気機械的な結合が減少し、それに伴い共振周波数と反共振周波数の差が小さくなるという利益がもたらされる。
【0036】
図5は、共振周波数における応力を表す輪郭(contours)が示されたハーフラムダ誘電体層を有するXBAR500の断面図である。圧電板510は、厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTフィンガー538は、厚さ100nmのアルミニウムである。ハーフラムダ誘電体層550は、厚さ350nmのSi
3N
4層552と、厚さ350nmのAlN層554とで構成される。
【0037】
共振周波数におけるXBAR500の応力は、装置の面の間の全周期の定常波を反映する。応力は、定常波の2つの半周期のピークに対応し、圧電板510の厚さの中央付近と、誘電体層550の中央付近で最も高くなる。応力は、装置の面、圧電板510と誘電体層550の中央付近との境界付近で最も低く、定常波のゼロクロス(zero crossings)と対応する。
【0038】
図6は、ハーフラムダ誘電体層を有するXBARの共振周波数及び反共振周波数を調整するための、ピッチ及び誘電体層の厚さの使用を説明するグラフ600である。実線610は、ピッチとマークがそれぞれ4.25μmと1.275μmのXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。圧電板は厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTの厚さは100nmのアルミニウムである。ハーフラムダの誘電体層は、厚さ700nmのSi
3N
4層で構成される。共振周波数は4.513GHz、反共振周波数は4.749GHzである。反共振周波数と共振周波数の差は236MHzで、共振周波数と反共振周波数の平均値の約5.1%である。
【0039】
点線620は、IDTフィンガーのピッチとマークがそれぞれ3.75μmと1.31μmであることを除いて同じ構造である同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。共振周波数は4.557GHz、反共振周波数は4.795GHzである。IDTのピッチを4.25μmから3.75μmに変更すると、共振周波数と反共振周波数が約45MHz増加する。ピッチを3μmから5μmの範囲で変化させると、約200MHzの同調範囲(tuning range)が得られる。
【0040】
破線630は、同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。IDTフィンガーのピッチとマークはそれぞれ4.25μmと1.275μmで、誘電体層には厚さ700nmのSi3N4層に加え、50nmのSiO2層が含まれる。共振周波数は4.400GHz、反共振周波数は4.626GHzである。50nmの「同調層」を追加することで、共振周波数と反共振周波数が約110MHz減少する。
【0041】
図7は、ハーフラムダ誘電体層を有するXBARの共振周波数及び反共振周波数を調整するための、ピッチ及び誘電体層の厚さの使用を説明する他のグラフ700である。実線710は、ピッチとマークがそれぞれ4.25μmと1.275μmのXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。圧電板は厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTの厚さは100nmのアルミニウムである。ハーフラムダの誘電体層は、厚さ400nmのSiO
2層で構成される。共振周波数は4.705GHz、反共振周波数は5.108GHzである。反共振周波数と共振周波数の差は403MHzで、共振周波数と反共振周波数の平均値の約8.2%である。
【0042】
点線720は、IDTフィンガーのピッチとマークがそれぞれ3.75μmと1.31μmであることを除いて同じ構造を持つ同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。共振周波数は4.740GHz、反共振周波数は5.137GHzである。IDTのピッチを4.25μmから3.75μmに変更すると、共振周波数と反共振周波数が約35MHz増加する。ピッチを3μmから5μmの範囲で変化させると、約100MHzの同調範囲が得られる。
【0043】
破線730は、IDTフィンガーのピッチとマークがそれぞれ4.25μmと1.275μmであり、誘電体層が450nmの厚さのSiO2であることを除いて同じ構造の同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。共振周波数は4.512GHz、反共振周波数は4.905GHzである。反共振周波数と共振周波数の差は393MHzであり、共振周波数と反共振周波数の平均値の約8.3%である。誘電体層の厚さを50nm増やすと、電気機械結合を減らすことなく、共振周波数と反共振周波数が約190MHz減少する。
【0044】
図8は、ハーフラムダ誘電体層を有するXBARの共振周波数及び反共振周波数を調整するための誘電体層の厚さの使用を説明する他のグラフ800である。点線810は、ピッチとマークがそれぞれ4.25μmと1.275pmのXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。圧電板は厚さ400nmのニオブ酸リチウムである。IDTの厚さは100nmのアルミニウムである。ハーフラムダの誘電体層は、厚さ425nmのSiO
2層で構成される。この例では、誘電体層の厚さtdがλ
0,d/2に等しい場合を表す。
【0045】
実線820は、誘電体層の厚さが375nmのSiO2であることを除いて同じ構造である同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。この場合、td=0.88(λ0,d/2)である。破線830は、誘電体層の厚さが475nmのSiO2であることを除いて同じ構造である同様のXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。この場合、td=1.12(λ0,d/2)である。SiO2を375nmから475nmに変化させると、電気機械的な結合を維持しつつ、不快なスプリアスモードを導入することなく、共振周波数と反共振周波数を約400MHzシフトさせることができる。
【0046】
厚さ400nmのニオブ酸リチウム圧電板を想定すると、式(1)で表されるtdの範囲は、約350nm~500nmに相当する。この範囲は、圧電板の厚さtsで次のように表すことができる。
0.875ts≦td≦1.25ts (2)
この範囲は、ニオブ酸リチウム圧電板のどの厚さにも当てはまると考えられる。
【0047】
図9は、過度に薄い「ハーフラムダ」誘電体層の効果を示すグラフ900である。実線910は、
図8の装置と同じ構造を持ち、SiO
2の誘電体層の厚さが325nmに減少したXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。この場合、td=0.76(λ
0,d/2)である。このように誘電体層の厚さを薄くすると、電気機械結合が減少し、装置の共振周波数を下回る非常に大きなスプリアスモードが発生する。
【0048】
図10は、厚くなりすぎた「ハーフラムダ」誘電体層の効果を示すグラフ1000である。実線910は、
図8の装置と同じ構造を持ち、SiO
2の誘電体層の厚さが525nmに増加したXBARについて、アドミタンスの大きさを周波数の関数としてプロットしたものである。この場合、td=1.24(λ
0,d/2)である。このように誘電体層の厚さを厚くすると、電気機械結合が減少し、装置の共振周波数を上回る非常に大きなスプリアスモードが発生する。
【0049】
SiO2の周波数の温度係数とニオブ酸リチウムの周波数の温度係数は、同じような大きさで符号が反対になっている。誘電体層にSiO2のハーフラムダを用いたXBAR装置は、従来のXBAR装置に比べて、温度による周波数変化が実質的に少なくなる。
【0050】
図11は、XBARの周波数の温度係数をSiO
2の厚さの関数として示すグラフである。具体的には、実線1110は、先に
図7と
図8でアドミタンス特性を示したXBAR装置の反共振周波数の温度係数をプロットしたものである。破線1120は、同装置の共振周波数の温度係数をプロットしたものである。シミュレーションの結果、誘電体層のない従来のXBAR装置は、周波数の温度係数が約-113ppm/℃となった。SiO
2のハーフラムダ誘電体層の存在は、周波数の温度係数の大きさを約3分の1に減少させる。
【0051】
図12は、5つのXBAR X1~X5を用いたバンドパスフィルター1200の概略回路図である。フィルター1200は、例えば、通信装置で使用されるバンドn79のバンドパスフィルターでもよい。フィルター1200は、3つの直列共振器X1、X3、X5と、2つのシャント共振器X2、X4を含む従来のラダーフィルター構造を有する。3つの直列共振器X1、X3、X5は、第1ポートと第2ポートの間に直列に接続される。
図12では、第1ポートと第2ポートにそれぞれ「In」と「Out」が示される。しかし、フィルター1200は双方向であり、どちらのポートがフィルターの入力または出力として機能してもよい。2つのシャント共振器X2,X4は、直列共振器間のノードからグランドに接続される。すべてのシャント共振器と直列共振器はXBARである。
【0052】
フィルター1200の3つの直列共振器X1,X3,X5及び2つのシャント共振器X2,X4は、シリコン基板(見えない)に接合された圧電材料の単一の板1230上に形成されてもよい。各共振器は、それぞれのIDT(図示せず)を含み、少なくともIDTのフィンガーは、基板のキャビティーの上に配置される。この文脈または同様の文脈で、「それぞれの」という言葉は、「それぞれがそれぞれに(each to each)関連する」、つまり一対一の対応を意味する。
図12では、キャビティーは、破線の長方形(長方形1235など)として概略が示される。この例では、各共振器のIDTがそれぞれのキャビティーの上に配置される。他のフィルターでは、2つ以上の共振器のIDTが共通のキャビティーの上に配置されていてもよい。また、共振器は複数のIDTにカスケード接続されてもよく、複数のIDTに複数のキャビティーが形成されてもよい。
【0053】
共振器X1~X5はそれぞれ共振周波数と反共振周波数を持つ。簡単に言うと、各共振器は、その共振周波数では実質的に短絡しており、反共振周波数では実質的に開回路となっている。各共振器X1~X5は、フィルターの入出ポート間の透過率が非常に低くなる「透過率ゼロ」を作る。なお、「透過率ゼロ」での透過率は、寄生部品によるエネルギーの漏れなどの影響により、実際にはゼロではない。3つの直列共振器X1、X3、X5は、それぞれの反共振周波数で透過率ゼロを作る(各共振器は実質的に開回路となる)。2つのシャント共振器X2、X4は、それぞれの共振周波数で透過率ゼロを形成する(各共振器は実質的には短絡状態となる)。音響共振器を用いた一般的なバンドパスフィルターでは、直列共振器の反共振周波数がパスバンドの上端よりも高いため、直列共振器によってパスバンドの上に透過率ゼロが生じる。シャント共振器の共振周波数は、パスバンドの下端よりも低いため、シャント共振器はパスバンドの下に透過率ゼロを作る。
【0054】
図7及び
図8のアドミタンス対周波数データを参照すると、400nmのニオブ酸リチウム圧電板とハーフラムダ誘電体層を有するXBARの共振周波数と反共振周波数の間の周波数オフセットは、約400MHzであることがわかる。この周波数分離は、n79(4400MHz~5000MHz)やn77(3300MHZ~4200MHz)などの通信バンドのバンドパスフィルターとしては十分ではない。米国特許第10,491,192号には、直列共振器の共振周波数に対して、シャント共振器の共振周波数を下げるために、シャント共振器の上に誘電体層を堆積させることが記載される。特許第10,491,192号には、直列共振器に誘電体層を非常に薄く、あるいは全く設けず、シャント共振器には圧電板の厚さの約0.25倍の誘電体層を設けたフィルターが記載される。
【0055】
共振器がハーフラムダ誘電体層を有するXBARである場合、直列共振器の共振周波数に対してシャント共振器の共振周波数を下げるために、同様のアプローチを用いることができる。この場合、直列共振器上の誘電体層の厚さtdsと、シャント(並列)共振器上の誘電体層の厚さtdpは、
0.85λ
0,d
≦2tds<2tdp≦1.15λ0,d (3)
【0056】
図8に戻って、実線の曲線820は、400nmのニオブ酸リチウム圧電板の上に375nmのSiO
2層を有するXBARのアドミタンスである。破線の曲線830は、400nmのニオブ酸リチウムの圧電板の上に475nmのSiO
2層を設けたXBARのアドミタンスである。フィルター1200のようなフィルターは、直列共振器上に375nmのSiO
2層を有し、シャント共振器上に475nmのSiO
2層を有する400nmのニオブ酸リチウム圧電板を用いて製造することができる。この場合、シャント共振器の共振周波数と直列共振器の反共振周波数の周波数分離は約800MHzとなり、バンドn79のバンドパスフィルターとしては十分な性能を発揮する。圧電板の厚さに比例して、周波数分離も大きくなる。
【0057】
直列共振器とシャント共振器を覆うSiO2層の厚さの範囲は、ニオブ酸リチウム圧電板の厚さtsで以下のように表すことができる。
0.875ts≦tds<tdp≦1.25ts (4)
tdsは直列共振器上のSiO2層の厚さ、tdpはシャント(並列)共振器上のSiO2層の厚さである。
【0058】
方法の説明
図13は、部分ブラッグ反射器を含むXBAR、またはそのようなXBARを組み込んだフィルターを製造するための方法1300を示す簡略化したフローチャートである。方法1300は、犠牲基板1302及び装置基板1304上に配置された薄い圧電板を用いて1305で開始する。方法1300は、完成したXBARまたはフィルターを用いて1395で終了する。
図13のフローチャートには、主要な工程のステップのみが含まれる。様々な従来の工程のステップ(例えば、面準備、洗浄、検査、ベーキング、アニーリング、モニタリング、テストなど)は、
図13に示すステップの前、間、後、及び中に実行されてもよい。
【0059】
図13のフローチャートは、基板にいつ、どのようにキャビティーを形成するかが異なる、XBARを製造するための方法1300の3つのバリエーションを示す。キャビティーは、ステップ1310A、1310B、または1310Cで形成されてもよい。これらのステップのうち1つだけが、方法1300の3つのバリエーションのそれぞれで実行される。
【0060】
単結晶の圧電材料を非圧電基板に接合した薄い板が市販される。本出願の時点で、シリコン、石英、溶融シリカなどのさまざまな基板に接合したニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの板のいずれも利用できる。現在または将来的に、他の圧電材料の薄い板を利用してもよい。圧電板の厚さは、300nmから1000nmの間でもよい。圧電板は、例えば、Zカット、回転Zカット、回転Yカットのニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなどがある。圧電板は、他の材料や他のカットでもよい。基板はシリコンでもよい。基板がシリコンの場合、圧電板と基板の間にSiO2層が配置されていてもよい。基板は、エッチングまたは他の処理で深いキャビティーを形成できるような他の材料でもよい。
【0061】
方法1300の1つの変形例では、1330で圧電板が基板に接合される前に、1310Aで1つまたは複数のキャビティーが基板に形成される。フィルター装置において、共振器ごとに他のキャビティーが形成されてもよい。1つまたは複数のキャビティーは、従来のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いて形成されてもよい。例えば、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてキャビティーが形成されてもよい。通常、1310Aで形成されたキャビティーは、基板を貫通しない。
【0062】
1330で、犠牲基板1302の圧電板と装置基板1304を接合してもよい。犠牲基板1302の圧電板と装置基板1304は、直接接合、面活性化接合またはプラズマ活性化接合、静電接合、または他の何らかの接合技術などのウェハ接合工程を用いて接合してもよい。装置基板は、ウェハ接合工程の前に、SiO2などの接合層でコーティングされていてもよい。
【0063】
犠牲基板1302の圧電板と装置基板1304が接合された後、1340で犠牲基板及び介在する層を除去して、圧電板の面(以前に犠牲基板に面していた面)を露出させる。犠牲基板は、例えば、材料に依ってはウェットエッチングやドライエッチング、他の工程によって除去できる。圧電板の露出した面は、1340において、面を準備し、圧電板の厚さを制御するために、研磨または他の方法で処理されてもよい。
【0064】
1つまたは複数のXBAR装置を画定する導体パターン及び誘電体層は、1350で形成される。通常、フィルター装置は、順次堆積してパターニングされる2つ以上の導体層を有するだろう。導体層には、ボンディングパッド、金、またははんだバンプ、または装置と外部回路とを接続するための他の手段が含まれる。導体層は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、モリブデン、タングステン、ベリリウム、金、他の導電性金属であってもよい。任意選択的に、導体層の下(つまり、導体層と圧電板の間)及び/または上に、1つまたは複数の他の材料の層が配置されていてもよい。例えば、チタン、クロム、または他の金属の薄膜を用いて、導体層と圧電板との密着性を高めることができる。導体層には、ボンディングパッド、金バンプ、はんだバンプ、装置と外部回路とを接続するための他の手段が含まれる。
【0065】
導体パターンは、1350において、圧電板の面上に導体層を堆積させ、パターニングされたフォトレジストを介したエッチングによって余分な金属を除去することによって形成されてもよい。あるいは、1350において、リフトオフ工程を用いて導体パターンが形成されてもよい。フォトレジストが圧電板の上に堆積し、パターニングされて、導体パターンを画定してもよい。導体層は、圧電板の面に順に堆積してもよい。その後、フォトレジストを除去して余分な材料を取り除き、導体パターンを残してもよい。
【0066】
1360で、ハーフラムダ誘電体層が圧電体層の前側に形成されてもよい。ハーフラムダ誘電体層は、導体パターン上に堆積されてもよく、IDTフィンガーの間にのみ形成されてもよい。いくつかのフィルター装置において、第1誘電体層は、すべてのIDTフィンガーの上/間に堆積され、第2誘電体がIDTの部分、例えばシャント共振器のIDTのみの上に選択的に形成されてもよい。第1誘電体層は、第2誘電体層よりも厚くなっている。第1誘電体層と第2誘電体層は、同じ材料でも異なる材料でもよい。第1誘電体層と第2誘電体層のどちらを先に堆積してもよい。
【0067】
工程1300の第2変形例では、1350及び1360で導体パターン及び誘電体層のすべてが形成された後、1310Bで基板の裏側に1つまたは複数のキャビティーが形成される。フィルター装置には、共振器ごとに別のキャビティーが形成されてもよい。1つまたは複数のキャビティーは、異方性または配向依存性のドライまたはウェットエッチングを用いて、基板の裏側を通る圧電板までの穴を開けて形成されてもよい。
【0068】
工程1300の第3変形例では、1310Cにおいて、圧電板及びハーフラムダ誘電体層の開口部から導入されたエッチング液を用いて基板をエッチングすることにより、基板に凹部の形態の1つまたは複数のキャビティーが形成されてもよい。フィルター装置において、共振器ごとに別のキャビティーが形成されてもよい。1310Cで形成された1つまたは複数のキャビティーは、基板を貫通しない。
【0069】
工程1300のすべてのバリエーションにおいて、フィルター装置は1370で完成する。1370で発生する可能性がある動作には、SiO2またはSi3O4などのカプセル化/パッシベーション層を装置の全部または部分にわたって堆積させること、及び/または、ボンディングパッドまたははんだバンプを形成すること、または、これらのステップが1350で実行されなかった場合、装置と外部回路との間の接続を行うための他の手段を形成することが含まれる。1370での他の動作には、複数の装置を含むウェハから個々の装置を取り出すこと、他のパッケージするステップ、及びテストが含まれる。1370で発生する可能性のある他の動作は、装置の前側に金属または誘電体材料を追加または除去することによって、装置内の共振器の共振周波数を調整することである。フィルター装置が完成すると、1395で工程が終了する。
【0070】
工程1300の変形例では、1302で、異なる材料の犠牲基板上の薄い圧電板の代わりに、単結晶圧電ウェハを用いて開始する。イオンは、圧電ウェハの面下の制御された深さに注入される(
図13では示されていない)。面からイオン注入の深さまでのウェハの部分が薄い圧電板であり(または、圧電板となり)、ウェハの残りの部分が犠牲基板である。圧電ウェハと装置基板は、先に述べたように1330で接合される。1340において、(例えば、熱衝撃を用いて)圧電ウェハは、イオンの注入された面で分割され、圧電材料の薄い板が露出し、音響ブラッグ反射器に接合された状態になってもよい。薄い板状の圧電材料の厚さは、注入されるイオンのエネルギー(つまり深さ)によって決定される。イオン注入とそれに続く薄い板の分離の工程は、一般に「イオンスライシング」と呼ばれる。圧電ウェハを分割した後、圧電板の露出した面を、例えば化学機械的な研磨によって平坦化し、厚さを減少させることができる。
【0071】
結びのコメント
本明細書全体を通して、示された実施形態及び例は、開示または請求された装置及び手順の制限ではなく、例示とみなされるべきである。ここで紹介される例の多くは、方法行為またはシステム構成の特定の組み合わせを含んでいるが、それらの行為及びそれらの構成は、同じ目的を達成するために他の方法で組み合わせることができることを理解する必要がある。フローチャートに関して、追加のステップや少ないステップをとってもよく、また、図示されたステップを組み合わせたり、さらに洗練させたりして、本明細書に記載された方法を実現してもよい。1つの実施形態に関連してのみ議論される行為、構成、及び特徴は、他の実施形態における同様の役割を排除することを意図したものではない。
【0072】
本明細書で使用する場合、「複数」は2つ以上を意味する。本明細書で使用されるように、アイテムの「セット」は、そのようなアイテムの1つまたは複数を含むことができる。本明細書で使用されるように、詳細な説明または特許請求の範囲のいずれにおいても、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運搬する」、「有する」、「含む(containing)」、「関連する(involving)」などの用語は、制約なく理解されるべきであり、すなわち、含むがこれに限定されないという意味である。請求項に関しては、「からなる」及び「のみからなる」という移行句のみが、閉じたまたはやや閉じた移行句である。請求項において、請求項の構成を修飾するために「第1」、「第2」、「第3」などの序数詞を使用することは、それ自体、ある請求項の構成の他に対する優先順位、先行順位、または方法の行為が実行される時間的順序を意味するものではなく、ある名称を有するある請求項構成を、同じ名称を有する他の構成(ただし、序数詞を使用した場合)と区別するための標識として使用されるに過ぎない。本明細書では、「及び/または」は、列挙された項目が代替案であることを意味するが、代替案には列挙された項目の任意の組み合わせも含まれる。