(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】アルカリ金属イオン伝導体及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20240918BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240918BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240918BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240918BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2022044665
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/10
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオン伝導体であって、アルカリ金属塩
と硫化物固体電解質とを含み、
前記アルカリ金属塩が、第4級アンモニウムカチオンと、アルカリ金属イオンと、第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第1のスルホニルアミドアニオンとは異なる第2のスルホニルアミドアニオンとを含
み、
前記第1のスルホニルアミドアニオンが、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオンであり、
前記第2のスルホニルアミドアニオンが、フルオロスルホニルアミドアニオン、及び、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオンのうちの少なくとも一方であり、
前記第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比(前記第1のスルホニルアミドアニオン/前記第2のスルホニルアミドアニオン)が4以上である、
アルカリ金属イオン伝導体。
【請求項2】
前記第4級アンモニウムカチオンが、メチル基を有する、
請求項1に記載のアルカリ金属イオン伝導体。
【請求項3】
前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオンである
請求項1に記載のアルカリ金属イオン伝導体。
【請求項4】
二次電池であって、正極、電解質層及び負極を含み、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、請求項1~
3のいずれか1項に記載のアルカリ金属イオン伝導体を含む、
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はアルカリ金属イオン伝導体及び二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中温作動用のリチウムイオン伝導体として、LiFTAとCsFTA/KFTAとの溶融塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアルカリ金属イオン伝導体は、当該イオン伝導体を充填した場合に隙間が生じ易く、充填率が小さくなり易い。この点、アルカリ金属イオン伝導体を充填した場合に充填率を向上させることが可能な技術が必要である。また、充填時の充填率を向上させるだけでなく、イオン伝導性を向上させることが好ましい。従来のアルカリ金属イオン伝導体においては、充填率及びイオン伝導性の向上に関して、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
アルカリ金属イオン伝導体であって、アルカリ金属塩を含み、
前記アルカリ金属塩が、第4級アンモニウムカチオンと、アルカリ金属イオンと、第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第1のスルホニルアミドアニオンとは異なる第2のスルホニルアミドアニオンとを含むもの、
を開示する。
【0006】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、
前記第1のスルホニルアミドアニオンが、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン(TFSAアニオン)であってもよく、
前記第2のスルホニルアミドアニオンが、フルオロスルホニルアミドアニオン(FSAアニオン)、及び、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(FTAアニオン)のうちの少なくとも一方であってもよい。
【0007】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、前記第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比(前記第1のスルホニルアミドアニオン/前記第2のスルホニルアミドアニオン)が1以上であってもよい。
【0008】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、前記アルカリ金属塩と硫化物固体電解質とを含んでいてもよく、
前記第1のスルホニルアミドアニオンが、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン(TFSAアニオン)であってもよく、
前記第2のスルホニルアミドアニオンが、フルオロスルホニルアミドアニオン(FSAアニオン)、及び、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(FTAアニオン)のうちの少なくとも一方であってもよく、
前記第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比(前記第1のスルホニルアミドアニオン/前記第2のスルホニルアミドアニオン)が4以上であってもよい。
【0009】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、前記第4級アンモニウムカチオンが、メチル基を有していてもよい。
【0010】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオンであってもよい。
【0011】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
二次電池であって、正極、電解質層及び負極を含み、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を含むもの、
を開示する。
【発明の効果】
【0012】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体によれば、充填率及びイオン伝導性が向上し易い。本開示のアルカリ金属イオン伝導体を用いて二次電池を構成した場合、電池性能が高まり易い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.アルカリ金属イオン伝導体
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、アルカリ金属塩を含む。前記アルカリ金属塩は、第4級アンモニウムカチオンと、アルカリ金属イオンと、第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第1のスルホニルアミドアニオンとは異なる第2のスルホニルアミドアニオンとを含む。
【0015】
1.1 アルカリ金属塩
アルカリ金属塩は、上記のカチオン及びアニオンを含むものであればよく、その形態は特に限定されるものではない。例えば、アルカリ金属塩は、上記のカチオン及びアニオンを含む溶融塩であってもよい。溶融塩とは、複数の塩を混合して互いに溶融させて一体化させたものをいう。
【0016】
アルカリ金属塩を構成するカチオンやアニオンが複数種類である(アルカリ金属塩が複数の塩から構成される)場合、当該アルカリ金属塩の融点が低下する。また、アルカリ金属塩が複数種類のスルホニルアミドアニオンを含むことで、アルカリ金属イオンが解離し易くなる。このように、融点を低下させる効果やアルカリ金属イオンの解離性を向上させる効果によって、アルカリ金属イオン伝導性が向上し得る。本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、例えば、室温における固体状態において、上記のカチオン及びアニオンを含むアルカリ金属塩が採用されることにより、アルカリ金属イオン伝導性が向上し得る。
【0017】
1.1.1 カチオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、アルカリ金属塩は、第4級アンモニウムカチオン及びアルカリ金属イオンを含む。
【0018】
(第4級アンモニウムカチオン)
アルカリ金属塩が第4級アンモニウムカチオンを含むことで、アルカリ金属塩のヤング率が小さくなる。アルカリ金属塩のヤング率が小さい場合、本開示のアルカリ金属イオン伝導体を充填した場合に、アルカリ金属塩が変形して隙間を埋めることができ、その結果、充填率が高まり易い。また、隙間を埋めたアルカリ金属塩がイオン伝導パスとして機能し得る。この効果は、アルカリ金属イオン伝導体を単独で混合した場合、及び、アルカリ金属イオン伝導体を他の固体材料とともに混合した場合のいずれにおいても発揮され得る。
【0019】
本発明者の知見によれば、アルカリ金属塩を構成する第4級アンモニウムカチオンは、その種類によらず、後述する硫化物固体電解質との反応性が低い。また、第4級アンモニウムカチオンのような有機系のカチオンは、その種類によらず、アルカリ金属塩のヤング率を小さくすることが可能である。そのため、本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、アルカリ金属塩を構成する第4級アンモニウムカチオンの種類に特に制限はない。第4級アンモニウムカチオンとしては、例えば、炭素数1以上10以下の官能基を有するカチオンが挙げられる。具体的には、テトラブチルアンモニウムカチオン(TBAカチオン)、テトラプロピルアンモニウムカチオン(TPAカチオン)、テトラエチルアンモニウムカチオン(TEAカチオン)、テトラメチルアンモニウムカチオン(TMAカチオン)、テトラアミルアンモニウム(TAA)、テトラヘキシルアンモニウム(THA)、テトラオクチルアンモニウム(TOA)、テトラデシルアンモニウム(TDA)等が挙げられる。第4級アンモニウムカチオンは、互いに炭素数の異なる官能基を有するものであってもよい。例えば、炭素数1以上10以下の第1の官能基と、炭素数1以上10以下、且つ、前記第1の官能基とは異なる第2の官能基とを有するものであってもよい。そのようなカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン等が挙げられる。本発明者が確認した限りでは、第4級アンモニウムカチオンが、メチル基を有するものである場合、例えば、TMAカチオンである場合に、イオン伝導性等に一層優れるアルカリ金属イオン伝導体が得られ易い。また、第4級アンモニウムカチオンが、ブチル基を有するものである場合、例えば、TBAカチオンである場合にも、イオン伝導性が確保され得る。アルカリ金属塩は、第4級アンモニウムカチオンを1種類のみ含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0020】
(アルカリ金属イオン)
アルカリ金属イオンは、伝導させるキャリアイオンの種類に応じて決定されればよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体がリチウムイオン二次電池に用いられるものである場合、アルカリ金属イオンはリチウムイオンであってもよい。すなわち、アルカリ金属塩が、二次電池におけるキャリアイオンと同種のカチオンを含むことで、二次電池の性能が一層高まり易い。アルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンを1種類のみ含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0021】
(その他のカチオン)
アルカリ金属塩を構成するカチオンは、上記の第4級アンモニウムカチオン及びアルカリ金属イオンのみからなるものであってもよいし、所望の効果が発揮される範囲内で、その他のカチオンを含むものであってもよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体による効果が一層高まる観点からは、アルカリ金属塩を構成するカチオン全体に占める上記の第4級アンモニウムカチオン及びアルカリ金属イオンの合計割合が80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上又は100モル%であってもよい。
【0022】
(カチオンについてのモル比)
アルカリ金属塩を構成する第4級アンモニウムカチオンとアルカリ金属イオンとのモル比は特に限定されるものではない。アルカリ金属塩が、第4級アンモニウムカチオンとアルカリ金属イオンとを含む場合、各々を単独で含む場合と比較して、アルカリ金属塩の融点が低下する。アルカリ金属塩の融点を大きく低下させる観点から、第4級アンモニウムカチオンとアルカリ金属イオンとのモル比(第4級アンモニウムカチオン/アルカリ金属イオン)は、0.3以上2.5以下であってもよい。当該モル比は、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってもよく、2.2以下、2.0以下、1.8以下又は1.5以下であってもよい。
【0023】
1.1.2 アニオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体において、アルカリ金属塩は、第1のスルホニルアミドアニオン及び第2のスルホニルアミドアニオンを含む。第1のスルホニルアミドアニオンと第2のスルホニルアミドアニオンとは、互いに異なる種類のものである。アルカリ金属塩において複数種類のスルホニルアミドアニオンを含ませることで、アルカリ金属塩の融点が低下するとともに、アルカリ金属イオンの解離性が高くなるものと考えられる。そのため、複数種類のスルホニルアミドアニオンを含むアルカリ金属塩は、スルホニルアミドアニオンを1種類のみ単独で含むアルカリ金属塩と比べて、低温(例えば室温)且つ固体状態におけるイオン伝導性が向上し易い。このように、複数種類のスルホニルアミドアニオンを組み合わせることによる効果は、組み合わせられるスルホニルアミドアニオンの種類によらず発揮され得る。
【0024】
(スルホニルアミドアニオン)
スルホニルアミドアニオンとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン(TFSAアニオン、(CF3SO2)2N-)、フルオロスルホニルアミドアニオン(FSAアニオン、(FSO2)2N-)、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(FTAアニオン、FSO2(CF3SO2)N-)等が挙げられ、これらが任意に組み合わされて、第1のスルホニルアミドアニオン及び第2のスルホニルアミドイオンとして採用され得る。
【0025】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体においては、例えば、上記の第1のスルホニルアミドアニオンが、TFSAアニオンであってもよく、且つ、上記の第2のスルホニルアミドアニオンが、FSAアニオン、及び、FTAアニオンのうちの少なくとも一方であってもよい。本発明者の知見によると、後述する硫化物固体電解質に対するアルカリ金属塩の反応性は、アルカリ金属塩を構成するアニオンの種類によって変化する。例えば、FTAアニオンや、FSAアニオンは、極性が高く、硫化物固体電解質と反応し易い。これに対し、TFSAアニオンは、極性が低く、硫化物固体電解質と反応し難い。このように、TFSAアニオンと、TFSAアニオン以外のスルホニルアミドアニオンとを組み合わせた場合、TFSAアニオンを含まない場合よりも、硫化物固体電解質との反応性を低下させることができる。
【0026】
(その他のアニオン)
アルカリ金属塩を構成するアニオンは、上記の第1のスルホニルアミドアニオン及び第2のスルホニルアミドアニオンのみからなるものであってもよいし、所望の効果が発揮される範囲内で、その他のアニオンを含むものであってもよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体による効果が一層高まる観点からは、アルカリ金属塩を構成するアニオン全体に占めるスルホニルアミドアニオンの合計割合が80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上又は100モル%であってもよい。
【0027】
(アニオンについてのモル比)
第1のスルホニルアミドアニオンと第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比は特に限定されるものではない。例えば、第1のスルホニルアミドアニオンが、TFSAアニオンであり、第2のスルホニルアミドアニオンが、FSAアニオン、及び、FTAアニオンのうちの少なくとも一方である場合、第1のスルホニルアミドアニオンと、第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比(第1のスルホニルアミドアニオン/第2のスルホニルアミドアニオン)が1以上であってもよい。当該モル比は、2以上、3以上又は4以上であってもよく、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下又は7以下であってもよい。このように、第1のスルホニルアミドアニオンとしてのTFSAアニオンのモル量が、第2のスルホニルアミドアニオンとしてのFSAアニオンやFTAアニオンのモル量(FSAアニオンとFTAアニオンとを双方を含む場合は、これらの合計のモル量)以上であることで、後述する硫化物固体電解質との反応性を一層低下させることができる。特に、モル比(第1のスルホニルアミドアニオン/第2のスルホニルアミドアニオン)が4以上である場合に、硫化物固体電解質との反応性が特に顕著に抑制され易い。
【0028】
1.2 硫化物固体電解質
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上記のアルカリ金属塩とともに、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上記のアルカリ金属塩と硫化物固体電解質とを含んでいてもよい。この場合は、上述したように、アルカリ金属塩における第1のスルホニルアミドアニオンが、TFSAアニオンであってもよく、第2のスルホニルアミドアニオンが、FSAアニオン、及び、FTAアニオンのうちの少なくとも一方であってもよく、第1のスルホニルアミドアニオンと、第2のスルホニルアミドアニオンとのモル比(第1のスルホニルアミドアニオン/第2のスルホニルアミドアニオン)が1以上、2以上、3以上又は4以上であってもよい。当該モル比は、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下又は7以下であってもよい。
【0029】
硫化物固体電解質は、例えば、二次電池の固体電解質として用いられるものをいずれも採用可能である。硫化物固体電解質は、構成元素として少なくともアルカリ金属とSとを含むものであってよい。アルカリ金属は、伝導させるキャリアイオンの種類に応じて決定されればよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体がリチウムイオン二次電池に適用されるものである場合、硫化物固体電解質はアルカリ金属としてリチウムを含み得る。特に、構成元素として、少なくとも、Li、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高く、Li3PS4骨格をベースとし、少なくとも1種類以上のハロゲンを含む硫化物固体電解質の性能も高い。硫化物固体電解質の一例としては、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。硫化物固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。硫化物固体電解質は例えば粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0030】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体が、アルカリ金属塩とともに硫化物固体電解質を含む場合、硫化物固体電解質とアルカリ金属塩との質量比は特に限定されるものではない。例えば、硫化物固体電解質とアルカリ金属塩との合計を100質量%として、硫化物固体電解質の割合が40質量%以上100質量%未満、50質量%以上100質量%未満、60質量%以上100質量%未満、70質量%以上100質量%未満、又は、80質量%以上100質量%未満であってもよく、アルカリ金属塩の割合が0質量%超60質量%以下、0質量%超50質量%以下、0質量%超40質量%以下、0質量%超30質量%以下、又は、0質量%超20質量%以下であってもよい。
【0031】
1.3 任意成分
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上述のアルカリ金属塩と、任意の硫化物固体電解質と、その他の成分とが組み合わされたものであってもよい。その他の成分としては、アルカリ金属イオン伝導体の具体的な用途に応じて適宜決定され得る。例えば、アルカリ金属イオン伝導体が二次電池の電極材料として用いられる場合、アルカリ金属イオン伝導体とともに、活物質、導電助剤及びバインダー等が組み合わされてもよい。また、アルカリ金増イオン伝導体が二次電池の電解質層を構成する材料として用いられる場合、アルカリ金属イオン伝導体とともにバインダー等が組み合わされてもよい。尚、アルカリ金属イオン伝導体は、上述のアルカリ金属塩と、任意の硫化物固体電解質と、その他の電解質(硫化物固体電解質以外の固体電解質や液体電解質)とを含んでいてもよい。さらに、本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
2.二次電池
図1に示されるように、一実施形態に係る二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有する。ここで、正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つが、上記の本開示のアルカリ金属イオン伝導体を含む。上述の通り、本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成するアルカリ金属塩が第4級アンモニウムカチオンを含むことで、アルカリ金属イオン伝導体を高い充填率にて充填可能である。また、アルカリ金属塩が複数種類のスルホニルアミドアニオンを含むことで、アルカリ金属イオン伝導体のイオン伝導性が向上し易い。この点、二次電池100の正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つに本開示のアルカリ金属イオン伝導体が含まれることで、二次電池100の性能が高まり易い。尚、二次電池100には、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体が固体電解質として含まれ得るが、これとともに液体電解質或いは液体添加剤が併用されてもよい。すなわち、二次電池100は、全固体電池であってもよいし、固体電解質と液体とを含むものであってもよい。
【0033】
2.1 正極
図1に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよく、この場合、正極活物質層11が上記のアルカリ金属イオン伝導体を含み得る。
【0034】
2.1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、正極活物質層11は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、正極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。正極活物質層11における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0035】
正極活物質としては二次電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、後述の負極活物質のそれよりも貴な電位を示す物質を正極活物質として用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合は、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物を用いてもよいし、或いは、単体硫黄や硫黄化合物などの硫黄系活物質を用いてもよい。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよく、空隙を有する粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0036】
正極活物質の表面は、イオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、上記の正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、上述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、正極活物質の表面を被覆・保護するイオン伝導性酸化物としては、例えば、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4が挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0037】
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0038】
固体電解質は上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体であってもよいし、これ以外の固体電解質であってもよい。上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体以外の固体電解質は、二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、上述の硫化物固体電解質のほか、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0039】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのアルカリ金属イオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってもよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にアルカリ金属塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。
【0040】
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0041】
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、ポリアクリル酸系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0042】
2.1.2 正極集電体
図1に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0043】
正極10は、上記構成に加えて、二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0044】
2.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。電解質層20は、固体電解質を含んでいてもよく、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。電解質層20が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、電解質層20は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、その他の電解質、バインダー及び各種添加剤をさらに含んでいてもよい。この場合、電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層20は、電解液を含むものであってもよく、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0045】
電解質層20に含まれる電解質としては、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体や、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。二次電池が電解液電池である場合、当該電解液を保持するためのセパレータは、二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0046】
2.3 負極
図1に示されるように、一実施形態に係る負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよく、この場合、負極活物質層31が上記のアルカリ金属イオン伝導体を含み得る。
【0047】
2.3.1 負極活物質層
負極活物質層31は、負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、負極活物質層31は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、負極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。負極活物質層31における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0048】
負極活物質としては、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の本開示の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、二次電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はリチウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層31が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0049】
負極活物質層31に含まれ得る電解質としては、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0050】
2.3.2 負極集電体
図1に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びアルカリ金属と合金化し難い観点から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0051】
負極30は、上記構成に加えて、二次電池の負極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。負極30は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む負極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって負極活物質層31を容易に形成可能である。負極活物質層31は、負極集電体32とともに成形されてもよいし、負極集電体32とは別に成形されてもよい。
【0052】
2.4 その他の事項
二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の二次電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0053】
二次電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができ、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよい。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができ、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよい。その後、ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを、負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、当該負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、二次電池とする。尚、電解液を含む電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。
【実施例】
【0054】
以上の通り、本開示のアルカリ金属イオン伝導体及び二次電池の一実施形態について説明したが、本開示のアルカリ金属イオン伝導体及び二次電池は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
1.事前検討
Li3PS4骨格をベースとする硫化物固体電解質を単独で圧粉成形した。成形体の断面をSEM-EDXで観察し、成形体の空隙率を算出したところ、27.1%であった。硫化物固体電解質のヤング率が高いことから、圧粉成形では、硫化物固体電解質の間の隙間を十分に解消できなかった。
【0056】
テトラブチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(TBATFSA)と、リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)とをモル比で50:50にて混合し、100℃にて完全に溶融させた。その後、室温で固化した結晶を粉砕し、第4級アンモニウムカチオンとしてのTBAカチオン、アルカリ金属イオンとしてのリチウムイオン、及び、TFSAアニオンを含むアルカリ金属塩(溶融塩)を得た。硫化物固体電解質と、溶融塩とを、質量比で、硫化物固体電解質:溶融塩=80:20となるように混合して、評価用の電解質材料を得た。得られた電解質材料を圧粉して成形した。成形体の断面をSEM-EDXで観察して、成形体の空隙率を算出したところ、19.8%であった。
【0057】
以上の通り、TBAカチオンのような第4級アンモニウムカチオンを含むアルカリ金属塩(溶融塩)は、小さなヤング率を有し、成形時の充填率を高め易いことが分かる。尚、アルカリ金属塩における第4級アンモニウムカチオンの割合には特に制限はなく、アルカリ金属塩が第4級アンモニウムカチオンを含みさえすれば、アルカリ金属塩のヤング率が小さくなって、上述の充填率向上効果が得られる。一方、溶融塩が第4級アンモニウムカチオンを含まない場合、溶融塩のヤング率が小さくならず、充填率を向上させる効果は小さくなる。
【0058】
2.カチオン種及びアニオン種によるイオン伝導度の変化の確認
アルカリ金属塩を構成するカチオン及びアニオンの種類を変更しつつ、イオン伝導度を確認した。尚、以下の実施例及び比較例に係るアルカリ金属塩は、いずれも、第4級アンモニウムカチオンを有するものであり、小さなヤング率を有し、成形時の充填率を高め易いものである。
【0059】
2.1 イオン伝導体としてのアルカリ金属塩の作製
以下の手順にて、実施例1~5及び比較例1、2に係るアルカリ金属塩を作製した。
【0060】
2.1.1 実施例1
テトラメチルアンモニウムビスフルオロメタンスルホニルアミド(TMATFSA)と、LiTFSAと、リチウムフルオロスルホニルアミド(LiFSA)とを、モル比で、1:1:0.2の比率で混合し、これを100℃で加熱することで融解させた。その後、室温で固化した結晶を粉砕し、アルカリ金属塩からなる粉末を得た。
【0061】
2.1.2 実施例2
TMATFSAと、LiTFSAと、LiFSAとを、モル比で、1:1:0.5の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0062】
2.1.3 実施例3
TMATFSAと、LiTFSAと、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiFTA)とを、モル比で、1:1:0.5の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0063】
2.1.4 実施例4
テトラブチルアンモニウムビスフルオロメタンスルフォニルアミド(TBATFSA)と、LiTFSAと、LiFSAとを、モル比で、1:1:0.2の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0064】
2.1.5 実施例5
TBATFSAと、LiTFSAと、LiFSAとを、モル比で、1:1:0.5の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0065】
2.1.6 比較例1
TBATFSAと、LiTFSAとを、モル比で、1:1の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0066】
2.1.7 比較例2
TMATFSAと、LiTFSAとを、モル比で、1:1の比率で混合したこと以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
【0067】
2.2 イオン伝導度の算出
実施例1~5又は比較例1、2に係る粉末を用いて、各々、圧粉セルを作製し、室温(25℃)でのインピーダンス測定から、固体状態でのイオン伝導度を算出した。結果を下記表1に示す。
【0068】
【0069】
2.3 結果と考察
表1に示されるように、カチオンとして第4級アンモニウムカチオンとリチウムイオンとを含むリチウム塩は、アニオンとして1種類のスルホニルアミドアニオンのみが含まれる場合(比較例1、2)と比較して、アニオンとして2種類のスルホニルアミドアニオンが含まれる場合(実施例1~5)のほうが、室温における固体状態でのイオン伝導度が向上することが分かる。中でも、リチウム塩において、2種類のスルホニルアミドアニオンとともに、第4級アンモニウムカチオンとしてメチル基を有するものを用いた場合に、イオン伝導度が一層向上し易い。
【0070】
実施例1~5による効果は、以下のメカニズムによるものと推定される。リチウム塩を構成するカチオンやアニオンが複数種類である場合、当該リチウム塩の融点が低下する。また、リチウム塩が複数種類のスルホニルアミドアニオンを含む場合、リチウムイオンが解離性し易くなる。このように、融点を低下させる効果やリチウムイオンの解離性を向上させる効果によって、イオン伝導性が向上したものと考えられる。また、第4級アンモニウムカチオンがメチル基を有するものである場合、第4級アンモニウムカチオンがブチル基を有するものである場合と比較して、立体障害が小さくなり、リチウムイオン伝導パスが確保され易いものと考えられる。そのため、第4級アンモニウムカチオンとしてメチル基を有するものを用いた場合にイオン伝導度が一層向上したものと考えられる。
【0071】
3.補足
尚、上記の実施例では、第1のスルホニルアミドアニオンとしてのTFSAアニオンと、第2のスルホニルアミドアニオンとしてのFSAアニオン又はFTAアニオンとを所定のモル比で含むリチウム塩を例示したが、スルホニルアミドアニオンの組み合わせはこれらに限定されるものではない。スルホニルアミドアニオンの種類によらず、複数種類のスルホニルアミドアニオンを組み合わせることで、融点を低下させる効果、及び、リチウムイオンの解離性を向上させる効果が得られる。スルホニルアミドアニオンは2種が組み合わされたものであってもよいし、3種以上が組み合わされたものであってもよい。
【0072】
また、上記の実施例では、アルカリ金属塩としてリチウム塩を例示したが、リチウム塩以外のアルカリ金属塩を用いた場合も同様のメカニズムにより同様の効果が奏されるものと考えられる。アルカリ金属塩がリチウムイオンを含むものである場合、当該アルカリ金属塩はリチウムイオン二次電池用のリチウムイオン伝導体として好適である。また、アルカリ金属塩がナトリウムイオンを含むものである場合、当該アルカリ金属塩はナトリウムイオン二次電池用のナトリウムイオン伝導体として好適である。また、アルカリ金属塩がカリウムイオンを含むものである場合、当該アルカリ金属塩はカリウムイオン二次電池用のカリウムイオン伝導体として好適である。
【0073】
上記の実施例では、アルカリ金属塩単独でのイオン伝導性を評価したが、本開示のアルカリ金属イオン伝導体においては、アルカリ金属塩とその他の電解質とが組み合わされてもよい。例えば、アルカリ金属塩と硫化物固体電解質とが組み合わされてもよい。この場合、硫化物固体電解質に対する反応性を考慮して、アルカリ金属塩を構成するアニオンの種類が選択されるとよい。特に、アニオンとしてTFSAアニオンが含まれる場合に、硫化物固体電解質との反応性を抑制することができる。アニオン全体に占めるTFSAアニオンの好ましいモル比については、実施形態にて説明した通りである。尚、カチオン(第4級アンモニウムカチオン及びアルカリ金属イオン)については、硫化物固体電解質との反応性が低いことから、特にその種類等は限定されない。
【0074】
4.まとめ
以上の結果から、以下の構成(1)及び(2)を備えるアルカリ金属イオン伝導体によれば、充填率及びイオン伝導性を向上させることが可能といえる。
(1)アルカリ金属塩を含むこと。
(2)前記アルカリ金属塩が、第4級アンモニウムカチオンと、アルカリ金属イオンと、第1のスルホニルアミドアニオンと、前記第1のスルホニルアミドアニオンとは異なる第2のスルホニルアミドアニオンとを含むこと。
【0075】
また、上記の構成(1)及び(2)に加えて、以下の構成(3)を備えるアルカリ金属イオン伝導体は、イオン伝導性が一層向上し易い。
(3)前記第4級アンモニウムカチオンが、メチル基を有すること。
【符号の説明】
【0076】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 二次電池