(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導材料及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20240918BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2022044675
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】中本 博文
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-053171(JP,A)
【文献】特開2020-177779(JP,A)
【文献】特開2017-147184(JP,A)
【文献】国際公開第2014/126256(WO,A1)
【文献】特開2020-009750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 10/056
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導材料であって、
溶媒としての環状カーボネートと、
前記環状カーボネートに溶解したリチウムアミド塩と、を含み、
前記環状カーボネートに対する前記リチウムアミド塩のモル比が、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下であ
り、
前記リチウムアミド塩が、リチウムビスフルオロスルホニルアミド及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミドのうちの少なくとも一方であり、
前記環状カーボネート及び前記リチウムアミド塩とともに、硫化物固体電解質を含む、
リチウムイオン伝導材料。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン伝導材料であって、
前記環状カーボネートが、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートのうちの少なくとも一方である、
リチウムイオン伝導材料。
【請求項3】
リチウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を含み、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、請求項1
又は2に記載のリチウムイオン伝導材料を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はリチウムイオン伝導材料及びリチウムイオン二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液であって、所定の溶媒と、リチウムイミド塩と、第1族元素及び第2族元素のうちの少なくとも1種とを含有し、溶媒に対するリチウムイミド塩のモル比が0.8以上2以下であるものが開示されている。特許文献2には、非水電解液であって、当該非水電解液に含まれるリチウムと酸素との比が所定の範囲内であるものが開示されている。特許文献3には、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液であって、非水溶媒と、リチウム塩とを含み、前記リチウム塩1molに対する前記非水溶媒の量が3mol以下であるものが開示されている。特許文献4には、電解液であって、鎖状カーボネートと、不飽和環状カーボネートと、リチウム塩とを含み、前記リチウム塩を1.1~3.8mol/Lの濃度で含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-096463号公報
【文献】特開2020-053171号公報
【文献】特開2016-122657号公報
【文献】国際公開第2017/179682号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のリチウムイオン伝導材料は、リチウムイオン伝導性及び熱安定性について改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
リチウムイオン伝導材料であって、
溶媒としての環状カーボネートと、
前記環状カーボネートに溶解したリチウムアミド塩と、を含み、
前記環状カーボネートに対する前記リチウムアミド塩のモル比が、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下であるもの
を開示する。
【0006】
本開示のリチウムイオン伝導材料において、前記環状カーボネートが、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートのうちの少なくとも一方であってもよい。
【0007】
本開示のリチウムイオン伝導材料において、前記リチウムアミド塩が、リチウムビスフルオロスルホニルアミド及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミドのうちの少なくとも一方であってもよい。
【0008】
本開示のリチウムイオン伝導材料は、前記環状カーボネート及び前記リチウムアミド塩とともに、硫化物固体電解質を含むものであってもよい。
【0009】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
リチウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を含み、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、上記本開示のリチウムイオン伝導材料を含むもの
を開示する。
【発明の効果】
【0010】
本開示のリチウムイオン伝導材料は、優れたリチウムイオン伝導性及び熱安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】リチウムイオン伝導材料の熱安定性を評価した結果を示している。
【
図3】リチウムイオン伝導材料のリチウムイオン輸率を評価した結果を示している。
【
図4】リチウムイオン伝導材料のリチウムイオン伝導率を評価した結果を示している。
【
図5】リチウムイオン伝導材料に浸漬する前、及び、浸漬した後における、硫化物固体電解質のX線回折ピークを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.リチウムイオン伝導材料
本開示のリチウムイオン伝導材料は、溶媒としての環状カーボネートと、前記環状カーボネートに溶解したリチウムアミド塩と、を含む。本開示のリチウムイオン伝導材料においては、前記環状カーボネートに対する前記リチウムアミド塩のモル比が、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下である。
【0013】
1.1 溶媒
本開示のリチウムイオン伝導材料は、溶媒としての環状カーボネートを含む。溶媒は、実質的に環状カーボネートのみからなるものであってもよいし、環状カーボネートと環状カーボネート以外の溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0014】
1.1.1 環状カーボネート
本発明者の知見によると、環状カーボネートは、鎖状カーボネートと比較して誘電率が高く、リチウムイオンを配位し易い。言い換えれば、本開示のリチウムイオン伝導材料においては、環状カーボネートが遊離した状態となり難く、結果として熱安定性が高まり易い。特に、環状カーボネートに対してリチウムアミド塩が所定の濃度で溶解されている場合に、環状カーボネートのほぼすべてをリチウムイオンと溶媒和させることができ、その結果、熱安定性が一層向上し得る。また、環状カーボネートと溶媒和していないわずかなリチウムイオン等によって、高粘度下においてもリチウムイオンの輸率が高くなり、優れたリチウムイオン伝導性が確保され易い。
【0015】
環状カーボネートは、化学構造としての環状構造を有するものであって、リチウムイオン伝導性を発現させたい温度にて液体であり、且つ、リチウムアミド塩を所定の濃度で溶解し得るものであればよい。環状カーボネートの具体例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)又はこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物等)等が挙げられる。特に、環状カーボネートが、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートのうちの少なくとも一方である場合、一層優れたリチウムイオン伝導性及び熱安定性が確保され易い。環状カーボネートは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0016】
1.1.2 環状カーボネート以外の溶媒(副溶媒)
本開示のリチウムイオン伝導材料を構成する溶媒は、上記の環状カーボネートからなるものであってもよいし、上記の環状カーボネートに加えて、環状カーボネート以外の溶媒(副溶媒)を含むものであってもよい。環状カーボネート以外の副溶媒としては、例えば、鎖状カーボネートが挙げられる。鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)又はこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物、特にパーフルオロアルキル基を有するもの)等が挙げられる。ただし、鎖状カーボネートは、環状カーボネートと比較して誘電率が低く、リチウムイオンが配位し難い傾向にある。そのため、鎖状カーボネートは、リチウムイオン伝導材料において、単独で遊離した状態となり易く、揮発し易く、且つ、後述の硫化物固体電解質に対して高い反応性を有するものとなり易い。この点、本開示のリチウムイオン伝導材料においては、環状カーボネート以外の副溶媒が少量である場合に、高い熱安定性が確保され易く、且つ、硫化物固体電解質との反応性を抑制したままイオン伝導度を向上させ易い。本開示のリチウムイオン伝導材料において、環状カーボネートに対する副溶媒のモル比([副溶媒(mol)]/[環状カーボネート(mol)])は、0.10以下、0.05以下又は0.03以下であってもよい。環状カーボネートに対する副溶媒のモル比の下限は0である。
【0017】
1.2 リチウム塩
本開示のリチウムイオン伝導材料は、上記の溶媒に溶解したリチウム塩を含む。リチウム塩は、実質的にリチウムアミド塩のみからなるものであってもよいし、リチウムアミド塩とリチウムアミド塩以外のリチウム塩との組み合わせからなるものであってもよい。
【0018】
1.2.1 リチウムアミド塩
本開示のリチウムイオン伝導材料は、上記の環状カーボネートに溶解したリチウムアミド塩を含む。すなわち、リチウムアミド塩は、環状カーボネートに溶解してカチオンとアニオンとに電離した状態であってもよいし、環状カーボネート等とともに何らかの会合体を形成していてもよい。ここで、環状カーボネートに対するリチウムアミド塩のモル比([リチウムアミド塩(mol)]/[環状カーボネート(mol)])は、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下である。言い換えれば、リチウムアミド塩は、環状カーボネート1molあたり0.25mol以上0.33mol以下の濃度で溶解される。
【0019】
リチウムアミド塩としては種々のアミド塩が採用され得る。本開示のリチウムイオン伝導材料においては、リチウムアミド塩の種類によらず、環状カーボネートの活性部位に対してリチウムイオンを配位させることができるものと考えられ、優れた熱安定性及びリチウムイオン伝導性が確保され得る。リチウムアミド塩の具体例としては、リチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA、LiN(SO2F)2)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA、Li[N(CF3SO2)2])、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルアミド(Li[N(C2F5SO2)2])、リチウムビスパーフルオロブチルスルホニルアミド(Li[N(C4F9SO2)2])、リチウムフルオロスルホニルトリフルオロメタンスルホニルアミド(Li[N(FSO2)(C2F5SO2)])などのスルホニルアミド塩が挙げられる。或いは、Sに替えてSiを有するシリルアミド塩が採用されてもよい。特に、リチウムアミド塩が、リチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA、LiN(SO2F)2)及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA、Li[N(CF3SO2)2])のうちの少なくとも一方である場合、一層優れたリチウムイオン伝導性及び熱安定性が確保され易く、さらには、後述の硫化物固体電解質に対する反応性が一層低下し易い。リチウムアミド塩は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。尚、「アミド塩」とは、「イミド塩」も含む概念である。
【0020】
上述の通り、環状カーボネートに対するリチウムアミド塩のモル比は、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下である。環状カーボネートにおけるリチウムアミド塩の濃度がこの範囲である場合、熱安定性及びリチウムイオン伝導性が顕著に向上し易い。また、環状カーボネートの活性部位と後述の硫化物固体電解質との反応が抑制され、硫化物固体電解質の劣化が抑えられ易い。環状カーボネートに対するリチウムアミド塩の濃度が少な過ぎると、熱安定性やリチウムイオン伝導性が向上し難い。一方、環状カーボネートに対するリチウムアミド塩の濃度が過剰となると、粘度が高くなり過ぎて、リチウムイオン伝導性が低下する虞がある。当該モル比は、0.26以上、0.27以上又は0.28以上であってもよく、0.32以下、0.31以下又は0.30以下であってもよい。環状カーボネートに対するリチウムアミド塩のモル比は、環状カーボネートに含まれるイオンや元素等を分析することにより、特定可能である。
【0021】
1.2.2 リチウムアミド塩以外のリチウム塩
本開示のリチウムイオン伝導材料において、溶媒に溶解されるリチウム塩は、上記のリチウムアミド塩からなるものであってもよいし、上記のリチウムアミド塩とリチウムアミド塩以外のリチウム塩(その他のリチウム塩)との組み合わせであってもよい。いずれにしても、環状カーボネートに対して上記のリチウムアミド塩が所定濃度で溶解されることで、優れた熱安定性及びイオン伝導性が確保され易い。ただし、本発明者の知見によると、リチウムアミド塩以外のリチウム塩の中には、後述の硫化物固体電解質に対して反応性を有するものがある。例えば、リチウム塩を構成するアニオンの分子量があまりにも小さい場合、電荷密度が高くなり過ぎ(電子供与性が高くなり過ぎ)、硫化物固体電解質のLiを奪う等して、硫化物固体電解質を劣化させる可能性がある。リチウムアミド塩であれば、このような問題は生じ難い。この点、本開示のリチウムイオン伝導材料においては、溶媒に溶解されるリチウム塩に占めるリチウムアミド塩の割合が高いほうがよく、具体的には、リチウム塩全体(100モル%)に占めるリチウムアミド塩の割合が、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上又は99モル%以上であってもよい。
【0022】
1.3 任意成分
本開示のリチウムイオン伝導材料は、上述の環状カーボネート及びリチウムアミド塩に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、上述の副溶媒やその他のリチウム塩が挙げられる。また、本開示のリチウムイオン伝導材料は、液体材料(例えば、電解液)と固体材料(例えば、固体電解質)とが組み合わされたものであってもよい。上述の環状カーボネート及びリチウムアミド塩は、電解液となり得る。
【0023】
1.3.1 硫化物固体電解質
本開示のリチウムイオン伝導材料は、上記の環状カーボネート及びリチウムアミド塩と、硫化物固体電解質とが組み合わされたものであってもよい。すなわち、本開示のリチウムイオン伝導材料は、前記環状カーボネート及び前記リチウムアミド塩とともに、硫化物固体電解質を含むものであってもよい。このような組み合わせによれば、例えば、硫化物固体電解質同士の隙間に電解液としての環状カーボネート及びリチウムアミド塩が充填され得る。すなわち、硫化物固体電解質の隙間部分においてもイオン伝導パスが形成され得る。また、環状カーボネートが硫化物固体電解質の流動性を向上させる潤滑剤として機能し、硫化物固体電解質の成形性を向上させる効果が期待できる。
【0024】
一方で、上記の環状カーボネート及びリチウムアミド塩と、硫化物固体電解質とを組み合わせる場合、上述の通り、環状カーボネート及びリチウムアミド塩と硫化物固体電解質との反応を抑制したほうがよい。例えば、リチウムアミド塩を構成するアニオンとして硫化物固体電解質に対する反応性の低いものが採用されるとよい。具体的には、本開示のリチウムイオン伝導材料は、前記環状カーボネート及び前記リチウムアミド塩とともに、硫化物固体電解質を含む場合に、前記リチウムアミド塩が、リチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA)及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)のうちの少なくとも一方であってもよい。
【0025】
硫化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する硫化物のうちのいずれであってもよい。硫化物固体電解質は、構成元素として少なくともLiとSとを含み得る。特に、構成元素として、少なくとも、Li、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高く、Li3PS4骨格をベースとし、少なくとも1種類以上のハロゲンを含む硫化物固体電解質の性能も高い。硫化物固体電解質の一例としては、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。硫化物固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。硫化物固体電解質は例えば粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0026】
1.3.2 各種の添加剤
本開示のリチウムイオン伝導材料は、上記のほか、各種の添加剤が含まれていてもよい。添加剤の種類は、リチウムイオン伝導材料の用途に応じて選択され得る。
【0027】
2.リチウムイオン二次電池
本開示のリチウムイオン伝導材料は、例えば、リチウムイオン二次電池の電解質材料として用いられる。以下、本開示のリチウムイオン伝導材料を有するリチウムイオン二次電池について説明する。
図1に示されるように、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有する。ここで、正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つが、上記の本開示のリチウムイオン伝導材料を含む。上述の通り、本開示のリチウムイオン伝導材料は、熱安定性及びリチウムイオン伝導性に優れる。この点、二次電池100の正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つに本開示のリチウムイオン伝導材料が含まれることで、二次電池100の性能が高まり易い。尚、二次電池100においては、上記の本開示のリチウムイオン伝導材料が、電解液として用いられてもよいし、固体電解質(特に硫化物固体電解質)と組み合わされた状態で用いられてもよい。すなわち、二次電池100は、固体電解質を含まない電解液電池であってもよいし、固体電解質と液体とを含むものであってもよい。
【0028】
2.1 正極
図1に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよく、この場合、正極活物質層11が上記のリチウムイオン伝導材料を含んでいてもよい。
【0029】
2.1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11が上記本開示のリチウムイオン伝導材料を含むものである場合、正極活物質層11は、当該リチウムイオン伝導材料に加えて、正極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。正極活物質層11における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0030】
正極活物質としては二次電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、後述の負極活物質のそれよりも貴な電位を示す物質を正極活物質として用いることができる。例えば、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0031】
正極活物質の表面は、リチウムイオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、上記の正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、上述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。リチウムイオン伝導性酸化物としては、例えば、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4が挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0032】
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0033】
固体電解質は、二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、上述の硫化物固体電解質のほか、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高く、Li3PS4骨格をベースとし、少なくとも1種類以上のハロゲンを含む硫化物固体電解質の性能も高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0034】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってもよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。具体的には、上述したように、環状カーボネートにリチウムアミド塩が所定濃度で溶解されたものが挙げられる。
【0035】
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0036】
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、ポリアクリル酸系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0037】
2.1.2 正極集電体
図1に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0038】
正極10は、上記構成に加えて、二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0039】
2.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。電解質層20は、固体電解質を含んでいてもよいし、電解液を含んでいてもよいし、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。電解質層20が上記本開示のリチウムイオン伝導材料を含むものである場合、電解質層20は、当該リチウムイオン伝導材料に加えて、その他の電解質、バインダー及び各種添加剤をさらに含んでいてもよい。この場合、電解質層20における電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層20は、電解液として上記本開示のリチウムイオン伝導材料を含むものであってもよく、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有するものであってもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0040】
電解質層20に含まれる電解質としては、上記本開示のリチウムイオン伝導材料を構成する電解質(電解液及び/又は硫化物固体電解質)や、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、リチウムイオン二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0041】
2.3 負極
図1に示されるように、一実施形態に係る負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよく、この場合、負極活物質層31が上記のリチウムイオン伝導材料を含んでいてもよい。
【0042】
2.3.1 負極活物質層
負極活物質層31は、負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31が上記本開示のリチウムイオン伝導材料を含むものである場合、負極活物質層31は、当該リチウムイオン伝導材料に加えて、負極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。負極活物質層31における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0043】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、二次電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はリチウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層31が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0044】
負極活物質層31に含まれ得る電解質としては、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0045】
2.3.2 負極集電体
図1に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0046】
負極30は、上記構成に加えて、二次電池の負極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。負極30は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む負極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって負極活物質層31を容易に形成可能である。負極活物質層31は、負極集電体32とともに成形されてもよいし、負極集電体32とは別に成形されてもよい。
【0047】
2.4 その他の事項
リチウムイオン二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の二次電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0048】
リチウムイオン二次電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができ、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよい。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができ、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよい。その後、ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを、負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、当該負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、二次電池とする。尚、電解液を含む電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.リチウムイオン伝導材料の作製
1.1 実施例1
溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC、キシダ化学社製)に対する、リチウム塩としてのリチウムビスフルオロスルホニルアミド(LiFSA、キシダ化学社製)のモル比が、0.33(PC:LiFSA=3:1)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0051】
1.2 実施例2
PCに対するLiFSAのモル比が0.29(PC:LiFSA=3.5:1)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0052】
1.3 実施例3
PCに対するLiFSAのモル比が0.26(PC:LiFSA=3.8:1)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0053】
1.4 実施例4
LiFSAに替えてリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA、キシダ化学社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0054】
1.5 実施例5
LiFSAに替えてLiTFSAを用いたこと以外は、実施例2と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0055】
1.6 実施例6
LiFSAに替えてLiTFSAを用いたこと以外は、実施例3と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0056】
1.7 実施例7
PC単独溶媒に替えて、PCとエチレンカーボネート(EC、キシダ化学社製)との混合溶媒(PCとECとのモル比がPC:EC=1:2となるように混合したもの)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0057】
1.8 比較例1
PCに対するLiFSAのモル比が0.08(PC:LiFSA=11.8:1)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0058】
1.9 比較例2
PCに対するLiFSAのモル比が0.25(PC:LiFSA=4:1)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0059】
1.10 比較例3
LiFSAに替えてLiTFSAを用いたこと以外は、比較例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0060】
1.11 比較例4
LiFSAに替えてLiTFSAを用いたこと以外は、比較例2と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0061】
1.12 比較例5
PCに替えてジメチルカーボネート(DMC、キシダ化学社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0062】
1.13 比較例6
PC単独溶媒に替えて、DMCとECとの混合溶媒(DMCとECとのモル比がDMC:EC=1:2となるように混合したもの)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。比較例6に係るリチウムイオン伝導材料においては、ECに対するLiFSAのモル比が0.50(EC:LiFSA=2:1)である。
【0063】
1.14 比較例7
LiFSAに替えてリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6、キシダ化学社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0064】
1.15 比較例8
溶媒としてのテトラグライム(G4、キシダ化学社製)に対するLiTFSAのモル比が1.25(G4:LiTFSA=8:10)となるように、各々秤量し、混合及び撹拌することで、評価用のリチウムイオン伝導材料を得た。
【0065】
2.リチウムイオン伝導材料の評価方法
2.1 耐熱性の評価
各々のリチウムイオン伝導材料に対して、昇温速度10℃/minにてTG-DTA試験を行い、液体成分が揮発したものと判断できる0.5wt%重量減少温度(T
-0.5wt%)を測定した。当該温度が高いほど、耐熱性(熱安定性)に優れたものといえる。結果を
図2に示す。
【0066】
2.2 イオン導電率及びリチウムイオン輸率(tLi
+)の評価
電極にLi金属を用い、電極間距離が固定された2極式対象セルにて、25℃で複素インピーダンス法によりイオン導電率を求め、直流分極とインピーダンス法とを組み合わせたBruce法(Bruce et al. Solid State Ionics 28-30, 1987, 918-922)によりリチウムイオン輸率を求めた。リチウムイオン輸率についての結果を
図3に示す。
【0067】
2.3 リチウムイオン導電率の評価
上記の電気化学的手法により得られたリチウムイオン輸率とイオン導電率とを掛け合わせることで、リチウムイオン導電率を評価した。結果を
図4に示す。
【0068】
2.4 硫化物固体電解質に対する反応性評価
75(75Li
2S・25P
2S
5)・10LiI・15LiBrの組成(数字の単位はmol%)を有する硫化物固体電解質を、各々のリチウムイオン伝導材料に2か月間浸漬させ、浸漬前後の硫化物固体電解質についてX線回折測定を行い、X線回折スペクトルの変化を確認した。結果を
図5に示す。
【0069】
3.リチウムイオン伝導材料の評価結果
3.1 耐熱性について
図2に示される結果から以下のことが分かる。比較例1のように溶媒に対するリチウム塩のモル比が0.1を下回る場合、リチウム塩を含まない場合と同程度の耐熱性となる。すなわち、溶媒にリチウム塩を溶解させたことによる耐熱性向上効果が認められない。また、比較例2、4のように当該モル比が0.25である場合、耐熱性が若干向上する。さらに、実施例1、4のように当該モル比が0.25を超えると、耐熱性が顕著に向上する。
【0070】
3.2 リチウムイオン伝導性について
3.2.1 リチウムイオン輸率について
図3に示される結果から以下のことが分かる。比較例1~4のように溶媒に対するリチウム塩のモル比が0.25以下である場合と比較して、実施例1~6のように当該モル比が0.25を超える場合、リチウムイオン輸率が顕著に高くなる。一方で、本発明者が確認した限りでは、溶媒に対するリチウム塩のモル比が過剰となると、粘度が高くなり過ぎて(例えば、室温で固体となり)、リチウムイオン伝導性が低下し易い。実施例1~6のように、溶媒に対するリチウム塩のモル比が0.25よりも大きく、且つ、0.33以下であれば、このような問題は生じない。
【0071】
3.2.2 リチウムイオン導電率について
図4に示される結果から以下のことが分かる。通常、溶媒におけるリチウム塩の濃度が増大するにしたがい、粘度上昇によるイオン伝導度の低下が懸念される。これに対し、本実施例1~6では、粘度が上昇したとしても、上記したリチウムイオン輸率の上昇により、高いリチウムイオン導電率が確保され易い。
【0072】
以上の通り、環状カーボネートに対するリチウムアミド塩のモル比が、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下であるリチウムイオン伝導材料(実施例1~6)は、当該モル比が0.25以下であるリチウムイオン伝導材料(比較例1~4)よりも、耐熱性とリチウムイオン伝導性とのバランスに優れたものといえる。尚、本発明者が確認した限りでは、比較例6のように、環状カーボネート以外の溶媒(例えば、鎖状カーボネート)が多量に存在することによって、環状カーボネート量が相対的に少なくなり、結果として、環状カーボネートに対するLi塩の濃度が相対的に過剰となった場合、リチウムイオン伝導材料の耐熱性が低下する傾向にある。
【0073】
3.3 硫化物固体電解質に対する反応性について
図5に示される結果から以下のことが分かる。
図5において、実施例1、4、7については、リチウムイオン伝導材料に浸漬した後の硫化物固体電解質のX線回折ピークパターンが、浸漬する前の硫化物固体電解質(参考例)のそれと実質的に変わらない。これに対し、比較例5~8については、リチウムイオン伝導材料に浸漬した後の硫化物固体電解質のX線回折ピークパターンが、浸漬する前の硫化物固体電解質(参考例)のそれから大きく変化している。このことから、リチウムイオン伝導材料と硫化物固体電解質との反応性は、リチウムイオン伝導材料を構成する溶媒の種類及び極性、リチウム塩のアニオンの種類等によって変化するものといえる。例えば、比較例5のように溶媒として環状カーボネートではなく鎖状カーボネートを用いた場合や、比較例6のように溶媒として環状カーボネートとともに多量の鎖状カーボネートを用いた場合(結果として、環状カーボネートに対するリチウム塩のモル比が過剰となった場合)は、鎖状カーボネートが遊離して存在し易く、鎖状カーボネートの活性部位と硫化物固体電解質とが反応して、硫化物固体電解質が変質・劣化したものと考えられる。比較例8のように溶媒としてG4を用いた場合も同様である。また、比較例7のようにリチウム塩としてリチウムアミド塩ではなくLiPF
6を用いた場合、PF
6アニオンと硫化物固体電解質とが反応して、硫化物固体電解質が変質・劣化したものと考えられる。
【0074】
4.まとめ
以上の結果から、以下の構成(1)及び(2)を備えるリチウムイオン伝導材料は、優れた熱安定性及びリチウムイオン伝導性を有するものといえる。
(1)溶媒としての環状カーボネートと、前記環状カーボネートに溶解したリチウムアミド塩と、を含むもの。
(2)前記環状カーボネートに対する前記リチウムアミド塩のモル比が、0.25よりも大きく、且つ、0.33以下であるもの。
【0075】
また、上記の構成(1)及び(2)を備えるリチウムイオン伝導材料は、前記環状カーボネート及び前記リチウムアミド塩とともに硫化物固体電解質を含むものであってもよい。特に、以下の構成(3)を備えるリチウムイオン伝導材料は、上記の効果とともに、硫化物固体電解質の劣化を抑えることができるものといえる。
(3)前記リチウムアミド塩が、リチウムビスフルオロスルホニルアミド及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミドのうちの少なくとも一方であるもの。
【符号の説明】
【0076】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 リチウムイオン二次電池