(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ロール体およびその製造方法、フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/08 20190101AFI20240918BHJP
B29C 48/28 20190101ALI20240918BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240918BHJP
B29C 48/91 20190101ALI20240918BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240918BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240918BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20240918BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240918BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20240918BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
B29C48/08
B29C48/28
B29C48/88
B29C48/91
B29C48/305
G02B5/30
H05B33/02
H05B33/14 A
B29K23:00
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2022530001
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023306
(87)【国際公開番号】W WO2021250905
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森井 里誌
(72)【発明者】
【氏名】南條 崇
(72)【発明者】
【氏名】中江 葉月
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔太
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-118238(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145718(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103988(WO,A1)
【文献】特開2017-121777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/08
B29C 48/28
B29C 48/88
B29C 48/91
B29C 48/305
G02B 5/30
H05B 33/02
H10K 50/10
B29K 23/00
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体であって、
前記フィルムは、フィルム基部と、その幅方向両端部に設けられた凸部とを有し、
前記フィルム基部は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を含み、
前記凸部は、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物
を含み、
前記第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw2は、前記第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw1よりも小さい、
ロール体。
【請求項2】
(Mw1-Mw2)は、1万以上である、
請求項
1に記載のロール体。
【請求項3】
前記フィルム基部の厚みは、10~40μmである、
請求項1
又は2に記載のロール体。
【請求項4】
前記フィルム基部は、光学フィルムである、
請求項1~
3のいずれか一項に記載のロール体。
【請求項5】
帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体の製造方法であって、
1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、
2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延
し、冷却固化
させることにより、前記フィルム基部の表面に前記第2樹脂組成物による凸部を形成する工程と
を含み、
前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T
1よりも高い、
ロール体の製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg1、前記第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg2としたとき、
前記溶融温度T1は、(Tg1+90)~(Tg1+150)℃であり、
前記溶融温度T2は、(Tg2+110)~(Tg2+170)℃である、
請求項
5に記載のロール体の製造方法。
【請求項7】
帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体の製造方法であって、
1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、
2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、凸部を形成する工程と
を含み、
前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T1と同じであるか、またはそれよりも高く、
前記第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg1、前記第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg2としたとき、
前記溶融温度T1は、(Tg1+90)~(Tg1+150)℃であり、
前記溶融温度T2は、(Tg2+110)~(Tg2+170)℃であり、
T1-Tg1をΔT1、T2-Tg2をΔT2としたとき、(ΔT2-ΔT1)は、20℃以上である、
ロール体の製造方法。
【請求項8】
帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体の製造方法であって、
1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、
2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、凸部を形成する工程と
を含み、
前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T1と同じであるか、またはそれよりも高く、
前記第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw2は、前記第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw1よりも小さい、
ロール体の製造方法。
【請求項9】
(Mw1-Mw2)は、1万以上である、
請求項
8に記載のロール体の製造方法。
【請求項10】
フィルム基部と、その両端部に設けられた帯状の凸部とを有するフィルムであって、
前記フィルム基部は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を含み、
前記凸部は、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物
を含み、
前記第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw2は、前記第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量Mw1よりも小さい、
フィルム。
【請求項11】
フィルム基部と、その両端部に設けられた帯状の凸部とを有するフィルムの製造方法であって、
1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、
2)前記帯状のフィルム基部の両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延
し、冷却固化
させることにより、前記フィルム基部の表面に前記第2樹脂組成物による凸部を形成する工程と
を含み、
前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T
1よりも高い、
フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール体およびその製造方法、フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン樹脂を主成分とする樹脂フィルムは、良好な透明性と、良好な耐湿性とを有することから、例えば偏光板保護フィルムなどの光学フィルムとして用いられている。これらの光学フィルムは、取り扱い性や製造効率の観点から、通常、帯状のフィルムをロール状に巻き取ったロール体として保管または輸送される。
【0003】
このようなロール体では、保管または輸送される間に、フィルム同士の貼り付きなどによる品質故障を抑制するために、通常、フィルムの幅方向両端部に、エンボス加工と呼ばれる凹凸加工が施される(例えば特許文献1参照)。一方で、エンボス加工によって形成されるエンボス部は潰れやすく、フィルム同士の貼り付きを十分には抑制できないことがあった。
【0004】
これに対し、フィルムの幅方向両端部に、塗布によりナーリング部(凸部)を形成する方法も知られている。具体的には、樹脂フィルムの幅方向両端部に、セルローストリアセテートと、可塑剤と、二酸化珪素粒子と、溶剤とを含むナーリング形成液Aを塗布した後、乾燥させるか、または、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、光重合開始剤とを含むナーリング形成液Bを光硬化させて、ナーリング部を形成する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-118238号公報
【文献】特開2012-206312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のロール体では、樹脂フィルム(フィルム基部)とナーリング部(凸部)との間で十分な密着性が得られなかった。そのため、例えばロール体に幅方向に振動が加わった場合に、ナーリング部が剥がれやすく、巻きズレが生じやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フィルム基部に対する凸部の密着性が高く、凸部の剥がれやそれによる巻きズレを抑制できる帯状フィルムのロール体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0009】
本発明のロール体は、帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体であって、前記フィルムは、フィルム基部と、その幅方向両端部に設けられた凸部とを有し、前記フィルム基部は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を含み、前記凸部は、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物、または、前記フィルム基部上の極性基と反応する官能基を有する、ウレタン重合体または変性オレフィン重合体を含む架橋性組成物の架橋物を含む。
【0010】
本発明のロール体の製造方法は、帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体の製造方法であって、1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、凸部を形成する工程とを含み、前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T1と同じであるか、またはそれよりも高い。
【0011】
本発明のロール体の製造方法は、帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿って巻き取ったロール体の製造方法であって、1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を流延して、帯状のフィルム基部を得る工程と、2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、活性化処理を施す工程と、3)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部の前記活性化処理を施した面に、前記フィルム基部上の極性基と反応する官能基を有する、ウレタン重合体または変性オレフィン重合体を含む架橋性組成物を流延した後、架橋させて、凸部を形成する工程とを含む。
【0012】
本発明のフィルムは、フィルム基部と、その両端部に設けられた帯状の凸部とを有するフィルムであって、前記フィルム基部は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を含み、前記凸部は、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物であるか、または、前記フィルム基部上の極性基と反応する官能基を有する、ウレタン重合体または変性オレフィン重合体を含む架橋性組成物の架橋物を含む。
【0013】
本発明のフィルムの製造方法は、フィルム基部と、その両端部に設けられた帯状の凸部とを有するフィルムの製造方法であって、1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、帯状のフィルム基部を得る工程と、2)前記帯状のフィルム基部の両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を溶融流延した後、冷却固化して、凸部を形成する工程とを含み、前記溶融流延時の前記第2樹脂組成物の溶融温度T2は、前記溶融流延時の前記第1樹脂組成物の溶融温度T1と同じであるか、またはそれよりも高い。
【0014】
本発明のフィルムの製造方法は、フィルム基部と、その両端部に設けられた帯状の凸部とを有するフィルムの製造方法であって、1)シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を流延して、帯状のフィルム基部を得る工程と、2)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部に、活性化処理を施す工程と、3)前記帯状のフィルム基部の幅方向両端部において前記活性化処理を施した面に、前記フィルム基部上の極性基と反応する官能基を有する、ウレタン重合体または変性オレフィン重合体を含む架橋性組成物を流延した後、架橋させて、凸部を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィルム基部に対する凸部の密着性が高く、凸部の剥がれやそれによる巻きズレを抑制できる帯状フィルムのロール体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1Aは、本実施の形態における帯状のフィルムの平面図であり、
図1Bは、
図1Aの1B-1B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の態様について)
本発明者らは、第1に、「凸部の材料として、シクロオレフィン樹脂」を用い、かつ「ロール体の製造時に、凸部を得るための第2樹脂組成物の溶融温度T2を、フィルム基部を得るための第1樹脂組成物の溶融温度T1よりも高く」することで、良好な凸部の密着性が得られ、巻きズレを抑制できることを見出した。
【0018】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推定される。
凸部の材料を、フィルム基部の材料と同じにすることで、凸部とフィルム基部との密着性を高めることができる。
さらに、フィルム基部を得るための第1樹脂組成物の製膜時の溶融温度T1を相対的に低くすると、フィルム基部の密度が低くなりやすい。そのため、凸部を得るための第2樹脂組成物のシクロオレフィン樹脂が浸透しやすく、高分子鎖同士の絡み合いも生じやすくなり、密着性が向上する。一方、第2樹脂組成物の溶融温度T2を相対的高くすることで、シクロオレフィン樹脂の流動性が高まるため、フィルム基部への浸透や高分子鎖同士の絡み合いが生じやすく、フィルム基部と凸部との密着性が向上する。
【0019】
(第2の態様について)
また、本発明者らは、第2に、「凸部の材料として、フィルム基部の表面の極性基(例えば水酸基やカルボニル基など)と反応する官能基を有する、ウレタン重合体または変性オレフィン重合体」を用い、かつ「ロール体の製造時に、フィルム基部の幅方向両端部に、極性基を生成するための活性化処理」を行うことで、良好な凸部の密着性が得られ、巻きズレを抑制できることを見出した。
【0020】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推定される。
コロナ処理などの活性化処理されたフィルム基部の表面には、水酸基などの極性基が生成する。例えば、後述するようなノルボルネン構造を有する単量体由来の構造単位を含むシクロオレフィン系樹脂は、3級炭素を有するため、コロナ処理などによって水酸基などの極性基を生成しやすい。そのような処理面に、当該極性基と反応する官能基を有する重合体を含む架橋性組成物を付与することで、フィルム基部の表面の当該極性基と、上記重合体の官能基とが反応して、フィルム基部と凸部との密着性が向上する。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
1.フィルムのロール体
本発明のロール体は、帯状のフィルムを、その幅方向に直交する方向に沿ってロール状に巻き取ったものである。
【0023】
図1Aは、本実施の形態における帯状のフィルムの平面図であり、
図1Bは、
図1Aの1B-1B線断面図である。なお、
図1Bでは、見やすくするために、断面のハッチングは省略している。
【0024】
図1AおよびBに示されるように、帯状のフィルム10は、フィルム基部11と、その幅方向両端部に設けられた凸部12を有する。
【0025】
1-1.フィルム基部11
フィルム基部11は、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂組成物を含む。
【0026】
熱可塑性樹脂は、光学フィルムに適したものであればよく、特に限定されないが、良好な透明性と、低吸湿性とを有する観点から、シクロオレフィン樹脂がより好ましい。すなわち、フィルム基部11は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を含む。
【0027】
シクロオレフィン樹脂は、ノルボルネン構造を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体の例には、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)が含まれる。
【0029】
置換基の例には、アルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、および極性基が含まれる。
【0030】
極性基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、およびハロゲン原子から選ばれるヘテロ原子を含む基であってよく、その例には、カルボキシル基、カルボニル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、アミド基、イミド基、ニトリル基、カーボネート基、チオエステル基、チオカーボネート基、チオエーテル基、チオニルオキサイド基およびスルホン酸基が含まれる。
【0031】
ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ノルボルネン構造を有する単量体に由来する構造単位の含有量は、シクロオレフィン樹脂を構成する全構造単位に対して50~100質量%であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。ノルボルネン系単量体に由来する構造単位の含有量が上記範囲にあると、シクロオレフィン樹脂の透明性や耐熱性が良好となる。
【0033】
シクロオレフィン樹脂は、必要に応じて上記ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な共重合性単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0034】
共重合性単量体の例には、ノルボルネン構造を有しない共重合性単量体が含まれ;ノルボルネン構造を有しない共重合性単量体の例には、開環共重合可能な共重合性単量体や付加共重合可能な共重合性単量体が含まれる。
【0035】
開環共重合可能な共重合性単量体の例には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンが含まれる。
【0036】
付加共重合可能な共重合性単量体の例には、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体、(メタ)アクリル酸エステルが含まれる。不飽和二重結合含有化合物の例には、炭素原子数2~20のα-オレフィンであり、その例には、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが含まれる。ビニル系環状炭化水素単量体の例には、4-ビニルシクロペンテン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの炭素原子数1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。以下、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示す。
【0037】
シクロオレフィン樹脂の例には、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびその水素化物が含まれる。中でも、成形性、耐熱性、低吸湿性などの観点から、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物が好ましい。
【0038】
シクロオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw1)は、特に制限されないが、1万~10万であることが好ましく、1.5万~8万であることがより好ましく、2万~5万であることがさらに好ましい。Mw1が上記範囲にあると、得られるフィルムの機械的強度と成型性のバランスに優れる。
【0039】
シクロオレフィン樹脂のMw1は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。具体的には、東ソー社製HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL直列)を用いて測定することができる。
【0040】
シクロオレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg1)は、通常、100℃以上であり、110~190℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましい。Tg1が100℃以上であると、高温条件下での使用や、コーティング、印刷などの二次加工による変形を抑制しやすく、190℃以下であると、成形加工や成形加工時の熱による樹脂劣化を抑制しやすい。
【0041】
シクロオレフィン樹脂のTg1は、DSC(DifferentialScanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JISK 7121-2012またはASTMD 3418-82に準拠して測定することができる。
【0042】
シクロオレフィン樹脂の含有量は、第1樹脂組成物に対して80質量%以上であることが好ましく、90~100質量%でありうる。
【0043】
(他の成分)
第1樹脂組成物は、必要に応じて上記シクロオレフィン樹脂以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、微粒子(マット剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤(顔料、染料など)、蛍光増白剤などが挙げられる。
【0044】
微粒子(マット剤)は、フィルム基部11に適度な滑り性を付与しうる。微粒子は、無機微粒子であってもよいし、有機微粒子であってもよい。
【0045】
無機微粒子の例には、シリカ粒子が含まれる。シリカ粒子の平均一次粒子径は、特に制限されないが、例えば5~100nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましい。
【0046】
有機微粒子の例には、樹脂との屈折率差が0.01以下の重合体微粒子であることが好ましい。そのような有機微粒子の例には、樹脂との親和性が高く、かつ屈折率を上記範囲に調整しやすい観点から、(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、およびオレフィン類からなる群より選ばれる構造単位を含む共重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類とスチレン類に由来する構造単位とを含む共重合体がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類に由来する構造単位と、スチレン類に由来する構造単位と、多官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体がさらに好ましい。
【0047】
有機微粒子のガラス転移温度(Tg)は、80℃以上であることが好ましい。有機微粒子のガラス転移温度(Tg)は、JISK 7121-2012またはASTMD 3418-82に準拠して測定することができる。
【0048】
有機微粒子の平均粒子径は、0.01~0.4μmである。有機微粒子の平均粒子径が0.01μm以上であると、得られるフィルムの表面に適度な大きさの凹凸を形成しうるため、滑り性を付与しやすく、0.4μm以下であると、フィルムの内部ヘイズの増大を抑制しやすい。有機微粒子の平均粒子径は、上記観点から、0.07~0.28μmであることがより好ましい。微粒子の平均一次粒子径は、1)フィルムの面内遅相軸と平行な断面を、TEM観察し;2)TEM画像における任意の10個の微粒子の一次粒子径を測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0049】
酸化防止剤の例には、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤が含まれる。中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤がより好ましい。酸化防止剤の含有量は、特に制限されないが、シクロオレフィン樹脂100質量部に対して0.001~5質量部、好ましくは0.01~3質量部としうる。
【0050】
紫外線吸収剤の例には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリレート系紫外線吸収剤、金属錯体系紫外線吸収剤が含まれる。光安定剤の例には、ヒンダードアミン系光安定剤が含まれる。
【0051】
染料の例には、油溶性染料(各種C.I.ソルベント染料)が含まれる。顔料の例には、ジアリリド系顔料、アゾレーキ系顔料、縮合アゾ系顔料、ペンズイミダゾロン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料が含まれる。
【0052】
帯電防止剤の例には、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの長鎖アルキルアルコール、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレートなどの多価アルコールの脂肪酸エステルなどが含まれる。
【0053】
[物性]
フィルム基部11の厚みは、一定である。すなわち、フィルム基部11は、エンボス加工はされていないため、エンボスローラで潰されることによって形成される肉薄部分を有しない。フィルム基部11の厚みは、特に制限されないが、10~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましく、15~20μmであることがさらに好ましい。
【0054】
フィルム基部11の長さ(巻き長)は、特に制限されないが、2000~15000mであることが好ましく、3000~12000mであることがより好ましい。フィルム基部11の幅は、特に制限されないが、1000~3000mmであることが好ましい。
【0055】
1-2.凸部12
凸部12は、フィルム基部11の幅方向両端部に、フィルム基部11の長手方向に沿って帯状に配置されている(
図1A参照)。凸部12は、連続的に配置されてもよいし、間欠的に配置されてもよい。本実施の形態では、凸部12は、連続的に配置されている(
図1A参照)。
【0056】
フィルム10の幅方向断面において、凸部12の形状は、特に制限されず、多角形であってもよいし、弓形(circular segment)であってもよい。弓形とは、円弧または楕円弧の両端部を直線で結んだ形状であり、その例には、半円形、半楕円形などが含まれる。多角形の例には、四角形や台形が含まれる。
【0057】
凸部12の高さTは、特に制限されないが、フィルム基部11の厚みの1.0~25%であることが好ましく、2.5~10%であることがより好ましい。具体的には、凸部12の高さTは、0.3~4.0μmであることが好ましく、0.5~2.0μmであることがより好ましい。なお、凸部12の高さとは、フィルム基部11の表面からの高さ(フィルム基部11の表面の法線方向の高さ)をいう。
【0058】
凸部12の幅Wは、特に制限されないが、フィルム基部11の幅の0.2~2.0%であることが好ましく、0.4~1.5%であることがより好ましい。具体的には、凸部12の幅Wは、5~20mmであることが好ましく、10~15mmであることがより好ましい。
【0059】
フィルム10の幅方向断面における、凸部12の高さTや幅Wは、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。レーザー顕微鏡としては、例えばキーエンス社製laser Microscope VK-X1000を用いることができる。
【0060】
凸部12は、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物、または、フィルム基部11上の極性基と反応する官能基を有する重合体を含む架橋性組成物の架橋物を含む。
【0061】
<第2樹脂組成物>
(凸部12を構成する)第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂は、(フィルム基部11を構成する)第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂と同様のものでありうる。
【0062】
第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw2)は、第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw1)よりも小さいことが好ましい。凸部12を、例えば溶融流延法で形成する際、溶融したシクロオレフィン樹脂が低分子量であると、フィルム基部11に含まれるシクロオレフィン樹脂の高分子鎖の隙間に浸透しやすく、絡み合いによる密着力向上効果が得られやすいためである。具体的には、(Mw1-Mw2)は、1万以上であることが好ましく、2万~9万であることがより好ましい。
【0063】
第2樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のMw2は、上記関係を満たせばよく、特に制限されないが、1万~10万であることが好ましい。Mw2が1万以上であると、得られる凸部12の機械的強度が得られやすく、Mw2が10万以下であると、溶融押し出しの際に高粘度になりにくく、成形性が損なわれにくい。
【0064】
シクロオレフィン樹脂の含有量は、第2樹脂組成物に対して80質量%以上であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0065】
第2樹脂組成物は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、第1樹脂組成物に含まれる他の成分と同様のもの、例えば微粒子(マット剤)が含まれる。
【0066】
<架橋性組成物>
架橋性組成物は、官能基を有する重合体を含む。当該重合体は、オリゴマーであってもよいし、ポリマーであってもよい。
【0067】
官能基は、フィルム基部11の表面にある極性基と反応する基であることが好ましく、そのような極性基の例には、水酸基などが含まれる。水酸基と反応する官能基の例には、カルボキシル基、カルボン酸無水物残由来の基、カルボン酸エステル基、アンモニウム基、アミノ基、イソシアネート基が含まれる。中でも、カルボキシル基、カルボン酸無水物由来の基、イソシアネート基が好ましい。
【0068】
すなわち、官能基を有する重合体は、水酸基と反応する官能基を有するウレタン重合体、または、水酸基と反応する官能基を有する変性オレフィン重合体であることが好ましい。
【0069】
(官能基を有するウレタン重合体)
官能基を有するウレタン重合体は、例えば、(i)1分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール成分と、(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;(i)成分と(ii)成分とを反応させて得られるイソシアネート基含有プレポリマーを、鎖延長剤を用いて鎖延長して得られるポリウレタンでありうる。また、上記(i)の一部を、(iii)酸構造を有する成分に置き換えてもよい。
【0070】
(i)成分について:
(i)成分は、特に限定されないが、その例には、アルキレンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、)ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが含まれる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(1)アルキレンポリオール
ポリオキシアルキレンポリオールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、2,5-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチルプロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどが含まれる。
【0072】
(2)ポリエーテルポリオール
ポリエーテルポリオールの例には、アルキレンポリオールのアルキレンオキサイド付加物;アルキレンオキサイドと環状エーテル(例えばテトラヒドロフラン)との開環(共)重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールの共重合体;グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコールなどのグリコール類が含まれる。
【0073】
(3)ポリエステルポリオール
ポリエステルポリオールの例には、ジカルボン酸またはその無水物と、ポリオールとを、水酸基過剰の条件で重縮合させて得られたものなどが含まれる。ジカルボン酸の例には、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸またはこれらの無水物が含まれる。ポリオールの例には、上記(1)のポリアルキレンポリオールが含まれる。
【0074】
ポリエステルポリオールの例には、エチレングリコール-アジピン酸縮合物、ブタンジオール-アジピン縮合物、ヘキサメチレングリコール-アジピン酸縮合物、エチレングリコール-プロピレングリコール-アジピン酸縮合物が含まれる。
【0075】
(4)ポリエーテルエステルポリオール
ポリエーテルエステルポリオールの例には、エーテル基含有ポリオール(例えば、上記(2)のポリエーテルポリオールやジエチレングリコール)、またはこれと他のグリコールとの混合物を上記(3)のジカルボン酸またはその無水物に加えてアルキレンオキシドを反応させてなるものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール-アジピン酸縮合物などが挙げられる。
【0076】
(5)ポリカーボネートポリオール
ポリカーカーボネートポリオールは、下記式で示される化合物でありうる。
HO-R-(O-C(O)-O-R)x-OH
(Rは、炭素原子数1~12の飽和脂肪酸ポリオール残基を示し、
xは、分子の繰り返し単位の数を示し、通常、5~50の整数である)
【0077】
ポリカーカーボネートポリオールは、飽和脂肪族ポリオールと置換カーボネート(例えば、炭酸ジエチル、ジフェニルカーボネート)とを、水酸基が過剰となる条件で反応させるエステル交換法;飽和脂肪族ポリオールとホスゲンとを反応させるか、または必要に応じて、その後さらに飽和脂肪族ポリオールを反応させる方法により得ることができる。
【0078】
(ii)成分について:
(ii)成分は、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート成分である。
【0079】
多価イソシアネート成分の例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)などの炭素原子数1~12の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)などの炭素原子数4~18の脂環式ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネートが含まれる。
【0080】
(iii)成分について:
(iii)成分は、酸性基を有するポリオールである。酸性基は、カルボキシル基、スルホン酸基でありうる。酸性基を有するポリオールの例には、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などのジメチロールアルカン酸が含まれる。
【0081】
ポリウレタンの調製は、前述の通り、(i)多価アルコール成分と、(ii)多価イソシアネート成分とを反応させるか;(i)成分と(ii)成分とをイソシアネート基過剰の条件下、有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーを得た後、当該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長させて行うことができる。また、(i)の成分の一部を、(iii)酸性基含有成分に置き換えることで、酸構造を導入してもよい。
【0082】
イソシアネート基含有プレポリマーの鎖伸長方法は、公知の方法であってよく、例えば鎖伸長剤として、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などを使用し、イソシアネート基含有プレポリマーと鎖伸長剤とを、必要に応じて触媒の存在下で反応させればよい。
【0083】
ウレタン樹脂が酸性基を有する場合、当該酸性基の少なくとも一部は、中和されていてもよい。酸性基を中和することで、ウレタン樹脂の水分散性を向上させうる。中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基が含まれる。
【0084】
(官能基を有する変性オレフィン重合体)
変性オレフィン重合体は、ポリオレフィンを、官能基を有する化合物(変性剤)で変性処理して得られる、官能基を有するポリオレフィンである。中でも、変性オレフィン重合体は、酸変性オレフィン重合体であることがより好ましい。酸変性オレフィン重合体は、オレフィン重合体に、不飽和カルボン酸またはその無水物を反応させて、カルボキシル基またはカルボン酸無水物由来の基を導入(グラフト変性)して得られる。
【0085】
オレフィン重合体は、オレフィン単量体の単独重合体であってもよいし、オレフィン単量体とそれ以外の単量体との共重合体であってもよい。
【0086】
オレフィン単量体は、好ましくは炭素数2~8のα-オレフィンである。炭素数2~8のα-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレンおよび1-ヘキセンが含まれ、好ましくはエチレンまたはプロピレンである。オレフィン単量体以外の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、スチレンなどが含まれる。
【0087】
ポリオレフィンの例には、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、オレフィン系エラストマー(TPO)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれ、好ましくはエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体である。
【0088】
変性剤は、不飽和カルボン酸またはその無水物でありうる。不飽和カルボン酸またはその無水物の例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、アコニット酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物が含まれ、好ましくは無水マレイン酸である。
【0089】
(共通事項)
架橋性組成物に含まれる官能基を有する重合体の重量平均分子量(Mw3)は、特に制限されないが、第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw1)よりも大きいことが好ましい。具体的には、(Mw3-Mw1)は、3万以上であることが好ましく、5万~10万であることがより好ましい。
【0090】
このように、架橋性組成物に含まれる上記重合体のMw3を、第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のMw1よりも大きくすることで、(凸部12の)架橋性組成物に含まれる上記重合体の高分子鎖が、(フィルム基部11の)第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂の高分子鎖と絡み合いやすい。そのため、フィルム基部11のシクロオレフィン樹脂の高分子鎖を、上記重合体を介して間接的に結合し、補強する効果が得られるため、フィルム基部11と凸部12との密着性が高まると考えられる。
【0091】
上記重合体のMw3は、上記関係を満たせばよく、特に制限されないが、4万~20万であることが好ましく、8万~16万であることがより好ましい。Mw3が下限値以上であると、得られる凸部12の機械的強度が得られやすく、Mw3が上限値以下であると、成形時の溶液の粘度が高くなりすぎず、成形性が損なわれにくい。
【0092】
上記重合体の含有量は、架橋性組成物の固形分に対して60質量%以上であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0093】
架橋性組成物は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、第1樹脂組成物に含まれる他の成分と同様のもの、例えば微粒子(マット剤)が含まれる。
【0094】
2.ロール体の製造方法
本発明のロール体は、1)帯状のフィルム基部11を得る工程と、2)帯状のフィルム基部11の幅方向両端部に凸部を形成する工程とを経て得ることができる。
【0095】
1)フィルム基部11を得る工程について
第1樹脂組成物を流延して、帯状のフィルム基部11を得る。
【0096】
第1樹脂組成物の流延は、溶融流延法で行ってもよいし、溶液流延法で行ってもよい。中でも、溶剤が不要な点およびそれに伴う設備負荷の低減、環境への負荷低減が可能である観点では、第1樹脂組成物の流延は、溶融流延法で行うことができる。
【0097】
すなわち、フィルム基部11は、シクロオレフィン樹脂を含む第1樹脂組成物を溶融混練した後、支持体上に流延し、冷却固化する工程を経て得ることができる。
【0098】
溶融混練は、任意の方法で行うことができるが、厚みを均一に薄くしうる観点などから、押出成形法で行うことが好ましい。溶融温度T1は、後述する第2樹脂組成物の溶融温度T2よりも低いことが好ましい。
【0099】
具体的には、第1樹脂組成物に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg1としたとき、第1樹脂組成物の溶融温度T1は、(Tg1+90)~(Tg1+150)℃であることが好ましい。溶融温度T1が(Tg1+90)℃以上であると、押出時の流動性が良好であり、(Tg1+150)℃以下であると、樹脂の熱劣化による品質劣化を生じにくい。同様の観点から、溶融温度T1は、(Tg1+110)~(Tg1+130)℃であることがより好ましい。具体的には、220~300℃、好ましくは240~290℃、より好ましくは260~280℃である。
【0100】
次いで、溶融した第1樹脂組成物をTダイのスリット状の吐出口から押し出し、冷却ロール(支持体)で固化させて形成する。
【0101】
冷却ロールの温度は、50~100℃であることが好ましく、70~90℃であることがより好ましい。
【0102】
また、必要に応じて、得られた膜状物を延伸する工程をさらに行ってもよい。
【0103】
延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(TD方向)と、それと直交する搬送方向(MD方向)の二軸延伸)してもよい。
【0104】
延伸時の加熱温度(延伸温度)は、シクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg1としたとき、(Tg1+5)℃~(Tg1+150)℃であることが好ましく、(Tg1+15)℃~(Tg1+100)℃であることがより好ましい。延伸温度が一定以上であると、延伸張力を適切な範囲に調整しやすい。
【0105】
膜状物のTD方向(幅方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0106】
2)凸部12を形成する工程について
次いで、得られたフィルム基部11の幅方向両端部に、凸部を形成する。
【0107】
凸部の形成は、材料の種類に応じて、任意の方法で行ってよく、溶融流延法で行ってもよいし、溶液流延法で行ってもよい。例えば、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物を含む凸部の形成は、溶融流延法で行うことが好ましく;官能基を有する重合体を含む架橋性組成物の架橋物を含む凸部の形成は、溶液流延法で行うことが好ましい。
【0108】
<第2樹脂組成物を用いる場合>
フィルム基部11の幅方向両端部に、シクロオレフィン樹脂を含む第2樹脂組成物の溶融流延した後、冷却固化させて、凸部を形成する。
【0109】
溶融流延は、前述と同様の方法で行うことができる。中でも、溶融流延時の第2樹脂組成物の溶融温度T2は、溶融流延時の第1樹脂組成物の溶融温度T1と同じであるか、またはそれよりも高いことが好ましい。T2がT1と同じであるか、またはそれよりも高いと、凸部12のフィルム基部11に対する密着性を高めやすいからである。具体的には、第1樹脂組成物の溶融温度T1と、第1樹脂組成物のシクロオレフィン樹脂のTg1との差(T1-Tg1)をΔT1、第2樹脂組成物の溶融温度T2と、第2樹脂組成物のシクロオレフィン樹脂のTg2との差(T2-Tg2)をΔT2としたとき、ΔT2-ΔT1≧20℃を満たすことが好ましく、ΔT2-ΔT1≧40℃を満たすことがより好ましい。
【0110】
これは、以下のような現象が生じるためであると推測される。
第1樹脂組成物の製膜時の溶融温度T1を相対的に低くすると、シクロオレフィン樹脂の流動性が低下し、高分子鎖同士のパッキングが進行しにくくなる。その結果、得られるフィルム基部11の密度は低くなり(高分子鎖同士の隙間が多くなり)、(凸部12を構成する)第2樹脂組成物のシクロオレフィン樹脂の浸透やその高分子鎖の絡み合いが生じやすく、密着性が向上するためと推定される。
また、第2樹脂組成物の溶融温度T2を相対的高くすると、シクロオレフィン樹脂の流動性が高まるため、フィルム基部11への浸透やシクロオレフィン樹脂同士の絡み合いが進行しやすく、密着性が向上しやすい。
【0111】
溶融温度T2は、(Tg2+110)~(Tg2+170)℃であることが好ましい。溶融温度T2が(Tg2+110)℃以上であると、押出時の流動性が良好であり、(Tg2+170)℃以下であると、樹脂の熱劣化による品質劣化を生じにくいだけでなく、凸部の強度劣化による、密着性の低下やそれによる巻きズレを十分に抑制できる。同様の観点から、溶融温度T2は、(Tg2+135)~(Tg2+160)℃であることがより好ましい。
【0112】
その後、流延した第2樹脂組成物を冷却し、固化させる。冷却方法および冷却温度は、第1樹脂組成物の冷却方法および冷却温度と同様としうる。
【0113】
<架橋性組成物を用いる場合>
まず、フィルム基部11の架橋性組成物が付与される面に、活性化処理を施すことが好ましい。
【0114】
活性化処理は、フィルム基部11の表面に水酸基などの極性基を付与する処理であることが好ましい。それにより、架橋性組成物に含まれる重合体と反応可能とし、フィルム基部11と凸部12との密着性を高めることができる。
【0115】
活性化処理の例には、コロナ処理、プラズマ処理および鹸化処理が含まれ、好ましくはコロナ処理およびプラズマ処理であり、より好ましくはコロナ処理である。
【0116】
活性化処理の条件は、凸部12の密着性を高めうるものであればよく、特に制限されない。例えば、コロナ処理の場合、照射量は、200~1000(W・min/m2)であることが好ましく、300~900(W・min/m2)であることがより好ましい。
【0117】
次いで、フィルム基部11の幅方向両端部の活性化処理面に、官能基を有する重合体を含む架橋性組成物を付与する。
【0118】
(架橋性組成物)
架橋性組成物は、上記官能基を有する重合体を含む。架橋性組成物は、環境負荷を低減しうる観点などから、上記重合体が、水または水溶性有機溶剤中に分散した水分散体であることが好ましい。
【0119】
水溶性有機溶剤の例には、アルコール類(メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなどの炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状のアルコール)が含まれる。中でも、安定性や乾燥性の観点から、メタノールおよびエタノールが好ましい。
【0120】
水分散体は、定法により媒質を合成および水中への散物を行うことで調製、または、市販ものを適用することもでき、例えば、ポリウレタン樹脂の水分散体としては、スーパーフレックス830、460、870、420、420NS(商品名:第一工業製薬(株)製ポリウレタン)、ボンディック1370NS、1320NS(商品名:大日本インキ化学工業(株)製ポリウレタン)、オレスターUD-350、タケネートWD220(商品名:三井化学(株)製ポリウレタン)などを挙げることができる。
【0121】
架橋性組成物の樹脂濃度は、70質量%以下であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0122】
(付与)
架橋性組成物の付与は、任意の方法で行うことができ、例えばダイ(好ましくは減圧ダイ)による流延や、ディスペンサーによる塗布などで行うことができる。
【0123】
(乾燥)
架橋性組成物の乾燥は、任意の方法で行うことができ、例えば熱風乾燥や、電磁波による加熱乾燥などで行うことができる。
【0124】
乾燥温度は、特に制限されないが、適度に高いことが好ましい。具体的には、乾燥温度は、架橋性組成物に含まれる溶媒(水を含む)を揮発除去させうる程度の温度であればよく、例えば40~250℃であることが好ましく、40~200℃であることがより好ましい。
【0125】
このように、活性化処理されたフィルム基部11の表面には、例えば水酸基などの極性基が生成している可能性がある。そのような処理面に、当該極性基と反応する官能基を有する重合体を含む架橋性組成物を付与することで、フィルム基部11上の極性基と、当該重合体の官能基とが結合して、フィルム基部11と凸部12との密着性が高められると推定される。
また、乾燥時には、ウレタンオリゴマー同士も重合して、ウレタン樹脂となる。それにより、フィルム基部11を構成するシクロオレフィン樹脂の高分子鎖との反応点も多いため、層間の密着性をさらに高めうると考えられる。
【0126】
そして、フィルム基部10と、その幅方向両端部に配置された凸部12とを有するフィルム10が得られる。得られたフィルム10を、長手方向に沿ってロール状に巻き取る。
【0127】
3)巻き取り工程について
得られたフィルム基部11を、巻き取り機を用いて、フィルム10の長手方向(幅方向に対して直交する方向)に巻き取る。それにより、巻き芯の周りにロール状に巻き取られたフィルム、すなわち、フィルム10のロール体を得ることができる。
【0128】
巻き取り方法は、特に制限されず、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法などでありうる。
【0129】
フィルム基部11を巻き取る際の、巻き取り張力は、50~170N程度としうる。巻き取り長さが長いほど、ロール状に巻き取った際に、ロール全体で見た場合のフィルム同士の間に蓄えられたエアの総量は多くなり、これらのエアが放出されることによる、巻きズレが生じやすい。そのような場合であっても、凸部12の組成や形成条件を調整することで、フィルム基部11に対する凸部12の密着性を高めることができ、それにより、凸部12の剥離や巻きズレを抑制できる。
【0130】
得られるフィルム10は、使用時には、凸部12の形成部分が除去されて、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置の光学フィルムとして用いられる。光学フィルムの例には、偏光板保護フィルム(位相差フィルムや輝度向上フィルムなどを含む)、透明基材フィルム、光拡散フィルムが含まれる。中でも、フィルム10は、偏光板保護フィルムとして用いられることが好ましい。
【0131】
3.フィルムおよびその製造方法
本発明のフィルムは、上記のように、帯状のフィルムまたはそのロール体であってもよいし、帯状のフィルムから切り出された枚葉状のフィルムであってもよい。すなわち、本発明のフィルムは、本発明のロール体10から切り出されたフィルムであってもよい。
【0132】
上記の通り、そのようなフィルムは、(上記フィルム基部11に対応する)フィルム基部と、その幅方向両端部に設けられた(上記凸部12に対応する)帯状の凸部とを有する。
【0133】
帯状の凸部が延在する方向と直交するフィルムの断面における凸部の形状や凸部の高さTおよび幅Wや、凸部の構成材料は、上記の通りである。また、フィルム基部11の形状(凹部を有さないこと)やフィルム基部の厚み、フィルム基部の構成材料も、上記の通りである。
【0134】
そのようなフィルムは、上記3)の巻き取り工程を含まないか、または、上記3)の巻き取り工程後、ロール体から巻き出した帯状のフィルムを切り出す工程をさらに含む以外は上記のロール体の製造方法と同様の方法で製造されうる。
【0135】
[変形例]
なお、上記実施の形態では、凸部12が、フィルム基部11の長手方向に沿って連続的に配置される例を示したが、これに限定されない。例えば、凸部12は、フィルム基部11の長手方向に沿って間欠的に配置されてもよい。
【0136】
また、上記実施の形態では、凸部12が、フィルム基部11の幅方向両端部に1つずつ配置される例を示したが、これに限定されず、複数ずつ配置されてもよい。
【0137】
また、上記実施の形態では、凸部12が、フィルム基部11の一方の面のみに配置される例を示したが、これに限定されず、両方の面に配置されてもよい。
【0138】
また、上記実施の形態では、フィルム基部11を、溶融流延法で製膜する例を示したが、これに限定されず、溶液流延法で製膜してもよい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
1.材料の準備
<シクロオレフィン樹脂1のペレットの調製>
(重合)
窒素雰囲気下で、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(TCD)5.0質量部、およびトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(DCP)5.0質量部を、シクロヘキサン300質量部に溶解し、分子量調節剤として1-ヘキセン0.30質量部を添加した。この溶液にトリイソブチルアルミニウムの10質量%シクロヘキサン溶液1.1質量部、および、イソブチルアルコール0.043質量部の混合物を添加した。この溶液を40℃に保ちながら、TCD45.0質量部、DCP45.0質量部および六塩化タングステンの0.6質量%シクロヘキサン溶液11質量部を2時間かけて連続的に添加し、重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル0.067重量部とイソプロピルアルコール0.20質量部を加えて重合触媒を不活性化した。重合転化率は、100%であり、重合体中のTCD/DCPの重量比率は、50/50であった。
【0141】
(水素添加)
重合反応溶液200質量部に、珪藻土担持ニッケル触媒(日産ガードラー社製;G-96D、ニッケル担持率58質量%)2.4質量部およびシクロヘキサン20質量部を加え、耐圧反応器中で、170℃、水素圧45kgf/cm2で2時間、水素添加反応させた。この溶液を、珪藻土を濾過助剤として加圧濾過器(石川島播磨重工社製、リーフフィルター)によりろ過し、触媒を除去した。得られた重合体水素添加物を含む反応溶液の200質量部を400質量部のイソプロピルアルコール中に攪拌下に注いで、水素添加物を沈殿させ、濾別して回収した。さらに、アセトン200重量部で洗浄した後、1mmHg以下に減圧した真空乾燥器中、100℃で24時間乾燥させ、ノルボルネン系開環重合体の水素添加物(シクロオレフィン樹脂1)23質量部を得た。シクロオレフィン樹脂1を含む反応溶液の残りは、窒素雰囲気下、25℃で保管した。得られたシクロオレフィン樹脂1の重量平均分子量は5万(シクロヘキサン中、ポリイソプレン換算)、ガラス転移温度は130℃、水素添加率は99.9%以上であった。
【0142】
(ペレットの作製)
シクロオレフィン樹脂1を100質量部に、酸化防止剤としてテトラキス(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン0.1重量部を添加し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-35B)により、シリンダー温度240℃で溶融混練し、ダイからストランド状に押出し、ペレタイザーでカッティングして、シクロオレフィン樹脂1のペレット95質量部を得た。
【0143】
<シクロオレフィン樹脂2~5のペレットの調製>
得られるシクロオレフィン樹脂の重量平均分子量が表1に示される値となるように、仕込み量、反応条件および精製条件を調整して、シクロオレフィン樹脂2~5のペレットを得た。
【0144】
<ウレタン樹脂1の水分散体の調製>
温度計、攪拌機、窒素導入管および冷却管を備えた2000mlの四つ口フラスコに、ポリエステルポリオールであるマキシモールFSK-2000(川崎化成工業社製、水酸基価56mgKOH/g)840gと、多価イソシアネート成分であるトリレンジイソシアネート119gと、溶媒であるメチルエチルケトン200gとを入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、酸構造を導入するためにジメチロールプロピオン酸35.6gを加え、75℃で反応させて、イソシアネート基の含有量が0.5%の酸構造を有する水系ウレタン樹脂溶液を得た。次いで、この酸構造含有水系ウレタン樹脂溶液を40℃にまで冷却し、水1500gと、中和剤である水酸化ナトリウム10.6gとを加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下によりメチルエチルケトンを留去した後、固形分濃度が40%になるように水を加えて中和処理し、ウレタン樹脂1の水分散体を得た。
【0145】
<ウレタン樹脂2~4の水分散体の調製>
得られるウレタン樹脂の重量平均分子量が表1に示される値となるように、仕込み量、反応条件および精製条件を調整して、ウレタン樹脂2~4の水分散体を得た。
【0146】
<変性オレフィン樹脂>
定法(特開2003-119328号の実施例参照)により、カルボキシル基を有するエチレン-アクリル酸共重合体(Mw:10万)を合成し、水と合わせて固形分濃度が40%(固形分中の上記重合体の含有量:99%)となるように水分散液を調製した。
【0147】
<アクリル樹脂のペレットの調製>
定法により合成したポリメタクリル酸メチル(Mw:20万)を、真空ナウターミキサーにて70℃、減圧下で3時間乾燥させた後、室温まで冷却した。これを、二軸式押出機にて235℃で溶融混練して、ストランド状に押し出した。ストランド状に押し出された溶融物を水冷した後、カッティングして、アクリル樹脂のペレットを得た。
【0148】
<ポリエステルのペレットの調製>
定法により合成したポリエチレンテレフタレート(Mw:7万)を、真空ナウターミキサーにて70℃、減圧下で3時間乾燥させた後、室温まで冷却した。これを、二軸式押出機にて270℃で溶融混練して、ストランド状に押し出した。ストランド状に押し出された溶融物を水冷した後、カッティングして、ポリエステルのペレットを得た。
【0149】
<ポリビニルアセタールの調製>
定法により、ポリビニルアセタール(Mw:8万)を合成し、水とエタノールの混合溶媒(水:エタノール=50質量%:50質量%)と合わせて、固形分濃度40%の溶液を調製した。
【0150】
得られた樹脂の物性を、表1に示す。
【0151】
【0152】
2.ロール体の作製
<ロール体1-1の作製>
(フィルム基部の作製)
得られたシクロオレフィン樹脂1のペレットを一軸押出機に投入し、窒素雰囲気下、240℃で溶融混練した。その後、ダイから、表面温度が90℃の第1冷却ロール上に押し出した。そして、第1冷却ロール上に押し出された樹脂を、タッチロールで押圧した。タッチロールの表面温度は80℃とした。その後、得られた樹脂を、第2および第3冷却ロール上でさらに冷却固化して、フィルムを得た。
得られたフィルムをゾーン延伸で、150℃にて搬送方向(MD方向)に1.4倍、テンター延伸で150℃にて幅手方向(TD方向)に1.5倍にそれぞれ延伸して、膜厚40μmに調整し、スリットして、幅2000mm、巻長4000mのフィルム1(フィルム基部)とした。
【0153】
(凸部の形成)
まず、特開2012-206312号の実験1の記載(段落0079)に従って、セルロース樹脂溶液を調製した。
【0154】
そして、得られたセルロース樹脂溶液を、ダイを用いて流延した後、80℃の乾燥風を当てて固化させて、上記準備したフィルム1の幅方向両端部に、フィルム1の長さ方向に沿って連続的に凸部を形成した。凸部の高さは1μm、凸部の幅は15mmとした。
【0155】
<ロール体1-2の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0156】
(凸部の形成)
アクリル樹脂のペレットを一軸押出機に投入し、窒素雰囲気下、250℃で溶融混練した。
一方、上記準備したフィルム1(フィルム基部)を所定の幅にスリットした後、その幅方向両端部をヒートガンで5秒以上の間90℃に加熱した。次いで、加熱された状態のフィルム1の幅方向両端部に、溶融混錬したアクリル樹脂をダイから押出した後、当該溶融樹脂を上下からタッチロールで押圧し、幅15mm、厚み1μmとなるように調整し、冷却風にて冷却して、連続的に凸部を形成した。凸部は、フィルム1の片面に形成した。その後、得られたフィルムをコアに巻き取り、巻長4000mのロール体を得た。
【0157】
<ロール体1-3の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0158】
(凸部の形成)
ポリエチレンテレフタレート(PET)のペレットを一軸押出機に投入し、窒素雰囲気下、280℃で溶融混練した。
一方、上記準備したフィルム1(フィルム基部)を所定の幅にスリットした後、フィルム1の幅方向両端部をヒートガンで5秒以上の間120℃に加熱し、その加熱された状態のフィルム1の幅方向両端部に、溶融混錬したポリエチレンテレフタレートをダイから押出した以外はロール体1-2と同様にして凸部を形成し、巻き取って、巻長4000mのロール体を得た。
【0159】
<ロール体1-4の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0160】
(凸部の形成)
ポリビニルアセタールの溶液を用い、乾燥温度を95℃にした以外はロール体1-1と同様にして凸部を形成し、巻長4000mのロール体を得た。
【0161】
<ロール体1-5の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0162】
(凸部の形成)
シクロオレフィン樹脂1のペレットを一軸押出機に投入し、窒素雰囲気下、260℃(Tg+130℃)で溶融混練した。
一方、上記準備したフィルム1(フィルム基部)を所定の幅にスリットした後、当該フィルム1の幅方向両端部をヒートガンで5秒以上の間125℃に加熱し、その加熱された状態のフィルム1の幅方向両端部に、溶融混錬したシクロオレフィン樹脂1をダイから押出した以外はロール体1-2と同様にして凸部を形成し、巻き取って、巻長4000mのロール体を得た。
【0163】
<ロール体1-6の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0164】
(凸部の形成)
まず、上記準備したフィルム1(フィルム基部)の幅方向両端部の表面に、コロナ放電処理(活性化処理)を施した。このとき、コロナ放電における電子照射量は500W/m2/minとした。
【0165】
次いで、上記フィルム1のコロナ放電処理面に、上記ウレタン樹脂1の水分散体をダイを用いて流延し、乾燥後に幅15mm、厚み1μmとなるように塗布した後、95℃で乾燥させて、凸部を形成した。その後、得られたフィルムを巻き取り、巻長4000mのロール体を得た。
【0166】
<ロール体1-7の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0167】
(凸部の形成)
次いで、上記ウレタン樹脂1の水分散体に、シリカ粒子を樹脂に対して4質量%となるように添加して、分散液を得た。
【0168】
上記調製した分散液を、上記準備したフィルム1(フィルム基部)のコロナ放電処理面に塗布した以外はロール体1-6と同様にして凸部を形成し、巻き取って、巻長4000mのロール体を得た。
【0169】
<ロール体1-8の作製>
(フィルム基部の作製)
ロール体1-1と同様にして、フィルム1を準備した。
【0170】
(凸部の形成)
上記準備したフィルム1(フィルム基部)の幅方向両端部に、変性ポリオレフィンとしてエチレン-アクリル酸共重合体の水分散液を使用した以外はロール体1-6と同様にして凸部を形成し、巻き取って、巻長4000mのロール体を得た。
【0171】
<評価>
得られたロール体1-1~1-8について、巻きズレおよび凸部の密着性を、以下の方法で評価した。
【0172】
(1)巻きズレ
得られたロール体を、40℃、80%の温湿度下にて約10日間保存した後、振動試験にて5.8m/s2の加速度を幅方向に30分間与え、左右のズレ量を測定した。振動試験機は、IMV株式会社製TR1000を使用した。そして、以下の基準で評価した。
◎:ズレ量が1mm未満で、巻きズレが生じない
○:ズレ量が1mm以上2mm未満で、巻きズレがほとんど生じない
△:ズレ量が2mm以上4mm未満で、巻きズレが僅かに生じるが、実用上問題ないレベル
×:ズレ量が4mm以上で、巻きズレが生じ、実用上問題となるレベル
△以上であれば良好と判断した。
【0173】
(2)凸部の密着性
巻きズレの評価の後、ロール体からフィルムを繰り出して、巻き芯の残り300m~200mの間の100m分のフィルムについて、凸部がフィルム基部から剥離している箇所の有無を、目視で確認した。そして、以下の基準で評価した。
◎:剥離なし
〇:剥離箇所が1~2か所で問題ない
△:剥離箇所が3~4か所で実用上問題ないレベル
×:剥離箇所が5か所以上で実用上問題となるレベル
△以上であれば良好と判断した。
【0174】
ロール体1-1~1-8の評価結果を表2に示す。
【0175】
【0176】
表2に示されるように、凸部を材料として、シクロオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂または変性ポリオレフィンを用いたロール体1-5~1-8は、凸部の密着性が良好であり、巻きズレも少ないことがわかる。
【0177】
これに対し、凸部を材料として、セルロース樹脂やアクリル樹脂、ポリエステル樹脂を用いたロール体1-1~1-4は、凸部の密着性が低く、巻きズレも生じることがわかる。
【0178】
<ロール体2-1~2-6の作製>
フィルム基部(第1樹脂組成物)の樹脂の重量平均分子量Mw1と、凸部(第2樹脂組成物)を構成する樹脂の重量平均分子量Mw2を、それぞれ表3に示されるように変更した以外はロール体1-5と同様にして、上記フィルム1の幅方向両端部に凸部を形成し、ロール体を得た。
【0179】
<ロール体2-7~2-13の作製>
フィルム基部(第1樹脂組成物)を製膜するときの溶融温度T1(℃)と、凸部(第2樹脂組成物)を形成するときの溶融温度T2(℃)とを、表3に示されるように変更した以外はロール体1-5と同様にして、上記フィルム1の幅方向両端部に凸部を形成し、ロール体を得た。
【0180】
<ロール体3-1~3-4の作製>
凸部(第2樹脂組成物)を構成する樹脂の種類と重量平均分子量Mw3を、表4に示されるように変更した以外はロール体1-5と同様にして、上記フィルム1の幅方向両端部に凸部を形成し、ロール体を得た。
【0181】
得られたロール体の巻きズレおよび密着性を、前述と同様の方法で評価した。ロール体2-1~2-13の評価結果を表3に示し;ロール体3-1~3-4の評価結果を表4に示す。
【0182】
【0183】
【0184】
表3に示されるように、凸部を構成する樹脂がシクロオレフィン樹脂である場合、Mw2をMw1よりも小さくすることで、ロール体の凸部の密着性がさらに高くなり、巻きズレもさらに少ないことがわかる(ロール体2-1~2-6の対比)。
【0185】
また、凸部を形成するときの溶融温度T2を、フィルム基部を形成するときの溶融温度T1よりも高くすることで、ロール体の凸部の密着性がさらに高くなり、巻きズレもさらに少ないことがわかる(ロール体2-7~2-13の対比)。
【0186】
一方、表4に示されるように、凸部を構成する樹脂がウレタン樹脂である場合は、Mw3をMw1よりも大きくすることで、ロール体の凸部の密着性がさらに高くなり、巻きズレもさらに少ないことがわかる(ロール体3-1~3-4の対比)。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明によれば、凸部のフィルム基部に対する密着性が高く、凸部の剥がれやそれによる巻きズレを抑制できる帯状フィルムのロール体およびその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0188】
10 帯状のフィルム
11 フィルム基部
12 凸部