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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240918BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20240918BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20240918BHJP
   H01C 7/10 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
H01C7/02
H01C7/04
H01C7/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023529861
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2022023651
(87)【国際公開番号】W WO2022264969
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2021099625
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】時枝 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕市
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美希
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0082623(US,A1)
【文献】特開2017-37930(JP,A)
【文献】特開2005-197530(JP,A)
【文献】特開2013-236045(JP,A)
【文献】特開2007-67026(JP,A)
【文献】特開2012-191165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01C 7/02
H01C 7/04
H01C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック素体と、該セラミック素体に設けられた外部電極とを備える電子部品であって、
前記外部電極は、前記セラミック素体の端面と該端面に隣接した側面の一部とを連続して覆う下地層と、該下地層を覆うめっき層とを含み、
前記セラミック素体は、前記側面に開口した凹部を備え、前記凹部の開口は一対の縁部を有し、
前記開口の一方の縁部は、前記下地層で覆われた前記側面の被覆領域以内に位置し、
前記開口の他方の縁部は、前記被覆領域から離間している、電子部品。
【請求項2】
前記一方の縁部は、前記被覆領域の縁部に位置し、
前記凹部は、全部が前記下地層から露出している、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記一方の縁部は、前記被覆領域の縁部よりも内部に位置しており、
前記凹部は、一部が前記下地層で覆われ、残部が前記下地層から露出している、請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記めっき層は、前記下地層の先端を超えて、前記凹部の前記開口の前記一方の縁部まで延在する延伸部を含み、
前記延伸部は、前記凹部の内面に接しないように前記凹部内に向かって膨出している、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項5】
前記めっき層は、前記下地層の先端を超えて、前記凹部の内面に少なくとも部分的に接するように前記凹部内まで延在する延伸部を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項6】
前記凹部の深さが0.5μm以上5.0μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項7】
前記セラミック素体は、該セラミック素体の表面を覆う保護膜をさらに含み、
前記外部電極は、前記保護膜上に形成され、
前記凹部の内面は、前記保護膜から露出している、請求項1~のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項8】
前記保護膜の厚さが30nm以上500nm以下である、請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
前記電子部品は、前記セラミック素体の両端部に設けられた一対の外部電極を有しており、
前記保護膜は、前記一対の外部電極の間にて該外部電極から露出した露出面を有し、
前記露出面は、各外部電極に近接した一対の平滑面領域と、該一対の平滑面領域の間に位置し前記平滑面領域より表面粗さが粗い粗面領域とを含む、請求項7に記載の電子部品。
【請求項10】
前記セラミック素体は、半導体セラミック層と内部電極とからなる積層構造を有している、請求項1~のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項11】
前記電子部品がサーミスタである、請求項1~のいずれか1項に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品に関し、より詳細には、セラミック素体と、該セラミック素体の表面に設けられた外部電極とを備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体セラミックからなる素体と、該素体の表面を覆う薄膜層(保護膜)と、前記素体の一対の端面側に配置された一対の外部電極とを備えた電子部品が知られている(例えば、特許文献1)。外部電極は、保護膜上に配置された第1電極層(下地層)と、第1電極層を覆うように配置された第2電極層(めっき層)とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-67793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下地層には、Agなどのマイグレーションを起こしやすい金属材料が使用されている。特許文献1のように、下地層をめっき層(例えばNiめっき)で覆うことにより、下地層のマイグレーションを抑制することができる。しかしながら、下地層をめっき層で完全に覆うことは困難であるため、下地層は、めっき層から部分的に露出していることが多い。その場合、下地層の一部が外部環境と繋がった状態となり、外部環境から持ち込まれる水分により、一方の外部電極の下地層から他方の外部電極に向かってマイグレーションが発生することがある。
【0005】
そこで、本発明は、マイグレーションの発生を抑制またはマイグレーションの程度を緩和できる電子部品(これを「マイグレーション耐性に優れた電子部品」と称する)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの要旨によれば、
セラミック素体と、該セラミック素体に設けられた外部電極とを備える電子部品であって、
前記外部電極は、前記セラミック素体の端面と該端面に隣接した側面の一部とを連続して覆う下地層と、該下地層を覆うめっき層とを含み、
前記セラミック素体は、前記側面に開口した凹部を備え、前記凹部の開口は一対の縁部を有し、
前記開口の一方の縁部は、前記下地層で覆われた前記側面の被覆領域以内に位置し、
前記開口の他方の縁部は、前記被覆領域から離間している、電子部品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セラミック素体の側面に凹部を設けることにより、下地層のマイグレーションを抑制することができ、これによりマイグレーション耐性に優れた電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るサーミスタの概略断面図である。
図2図2は、図1の範囲Aの拡大断面図であり、凹部、下地層およびめっき層についての好ましい形態を示している。
図3図3は、図1の範囲Aの拡大断面図であり、凹部、下地層およびめっき層についての別の好ましい形態を示している。
図4図4は、図1の範囲Aの拡大断面図であり、凹部、下地層およびめっき層についてのさらに別の好ましい実施形態を示している。
図5図5は、図1の範囲Aの拡大断面図であり、凹部、下地層およびめっき層についてのさらに別の好ましい形態を示している。
図6図6(a)~(d)は、本発明の実施形態に係る電子部品の製造方法を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る電子部品10の概略断面図であり、いわゆる積層セラミックタイプのサーミスタを示している。電子部品10のサイズは特に限定されないが、例えば0201サイズ~2012サイズとすることができ、代表例では、0603サイズである。
【0010】
電子部品10は、セラミック素体20と、セラミック素体20に設けられた外部電極30とを備えている。図1の電子部品10では、外部電極30は、セラミック素体20の両端部に設けられた一対の外部電極(第1外部電極31、第2外部電極32)を備えている。
【0011】
各外部電極30は、下地層30a(図1では、第1外部電極31の下地層31aと、第2外部電極32の下地層32aが図示されている)と、それを覆うめっき層30b(図1では、第1外部電極31のめっき層31bと、第2外部電極32のめっき層32bが図示されている)とを含む。めっき層は、複数層の積層構造を有していてもよく、図1では、めっき層30b(これを「第1めっき層」と称することもある)と、第1めっき層30bを覆う第2めっき層30cの2層構造となっている。
下地層30aは、セラミック素体20の端面21、22と、端面21、22に隣接した側面23の一部とを連続して覆っている。
【0012】
実施形態に係る電子部品10は、セラミック素体20が凹部40(第1外部電極31に隣接している第1凹部41と、第2外部電極32に隣接している第2凹部42)を有している。凹部40は、セラミック素体20の側面23に開口している。
【0013】
図2~5は、図1の範囲Aの拡大断面図であり、本実施形態における凹部40、下地層30aおよびめっき層30bの様々な態様を示している。なお、説明を容易にするために、図2~5では、めっき層は単層(第1めっき層30bのみ)として示す。複数層を有するめっき層の場合、この単層で図示しためっき層30bを、複数のめっき層から構成する。
【0014】
本実施形態における凹部40近傍の構成について、図2を参照しながら説明する。凹部40は、セラミック素体20の側面23に開口401を有し、その開口401は、一対の縁部401a、401bを有している。開口401の一方の縁部401aは、図1において、セラミック素体20の端面22側に位置しており、他方の縁部401bは、セラミック素体20の中央側に位置している。それぞれの縁部の位置は、セラミック素体20の側面23を覆う下地層30aと、以下に説明するような関係となっている。
【0015】
図2に示すように、セラミック素体20の側面23のうち、下地層30aで覆われた範囲を、側面23の被覆領域23Rとする。開口401の一方の縁部401aは、被覆領域23R以内に位置している。一方、開口401の他方の縁部401bは、被覆領域23Rから離間している。
言い換えると、セラミック素体20の側面23に凹部40を設け、そして、下地層30aが凹部40の開口401の一方の縁部401aを覆うが、他方の縁部401bを覆わないように、下地層30aを形成する。
【0016】
このような凹部40を設けることにより、一方の外部電極(図1の第2外部電極32)の下地層32aから、他方の外部電極(図1の第1外部電極31)までの間の表面距離(セラミック素体20の表面形状(例えば凹凸)に沿って測定した距離)が長くなる。これにより、下地層32aのマイグレーションを起こりにくくすることができる。
【0017】
再び図2を参照すると、図2に示す電子部品10では、凹部40の開口401の一方の縁部401aは、被覆領域23Rの縁部23Eよりも、被覆領域23Rの内側に位置している。なお、図2から分かるように、被覆領域23Rの縁部23Eは、下地層30aの先端30atと対応する位置にある。
図4に示す電子部品10でも、側面23の被覆領域23Rの縁部23Eと、開口401の一方の縁部401aとは、同様の位置関係となっている。
開口401の縁部を図2および図4のように配置すると、凹部40は、一部が下地層30aで覆われ、残部が下地層30aから露出する。
【0018】
開口401の一方の縁部401aをこのように配置すると、下地層30aの先端30at近傍において、下地層30aの下面30aLが凹部40内で露出する。そして、下地層30aの下面30aLをめっき層30bで覆うことができる。すなわち、めっき層30bによって、下地層30aの先端30at近傍を広く覆うことができる。これにより、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果が得られる。
【0019】
一方、図3に示す電子部品10のように、凹部40の開口401の一方の縁部401aは、被覆領域23Rの縁部23Eに位置していてもよい。つまり、図3の断面視において、開口401の一方の縁部401aは、下地層30aの先端30atの位置のほぼ直下に位置していてもよい。
図5に示す電子部品10でも、側面23の被覆領域23Rの縁部23Eと、開口401の一方の縁部401aとは、同様の位置関係となっている。
開口401の縁部を図3および図5のように配置すると、凹部40は、全部が下地層30aから露出する。
【0020】
図2~5のいずれにおいても、凹部40の開口401の他方の縁部401bと外部電極30の下地層30aとが接しないように、下地層30aが形成されている。これにより、下地層30aがマイグレーションを生じやすい環境に置かれた場合、下地層30aのマイグレーションは、凹部40の一方の縁部401aから、凹部40の内面40fに沿って、開口401の他方の縁部401bまで到達することになる。表面に沿って測定した表面距離は、凹部40を設けることにより、凹部40を設けなかった場合に比べて長くなる。表面距離はマイグレーションの発生に影響を及ぼすため、表面距離を長くすることにより、下地層30aのマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0021】
また、以下に説明するように、凹部40を設けることにより、下地層30aの先端30atの近傍において、セラミック素体20に邪魔されることなく、めっき層30bを厚く形成することができる。めっき層30bを厚膜化することにより、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果が期待できる。
【0022】
例えば図2を参照すると、めっき層30bは、下地層30aの先端30atを超えて、凹部40の内面40fに少なくとも部分的に接するように凹部40内まで延在する延伸部30beを含む。つまり、めっき層30bの延伸部30beが、凹部40の内部に延在して、凹部40の内面40fまで到達している。
図3においても、図2と同様の延伸部30beを含むめっき層30bが示されている。
【0023】
めっき層30bが図2~3に示すような延伸部30beを含むことにより、外部環境から下地層30aまで達する経路が、めっき層30bの延伸部30beによって塞がれる。つまり、凹部40内部に広がる延伸部30beが立体障害となり、下地層30aを外部環境から遮断できるので、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果が高い。
【0024】
別の例として、図4に示す電子部品10では、めっき層30bは、下地層30aの先端30atを超えて、凹部40の開口401の一方の縁部401aまで延在する延伸部30beを含む。延伸部30beは、凹部40の内面40fには接していないが、凹部40内に向かって膨出している。なお、図4において、延伸部30beが凹部40内方向(下方向)に膨出しているので、めっき層30bの最下端は、下地層30aの下面30aLよりも下側に位置する。
図5においても、図4と同様の延伸部30beを含むめっき層30bが示されている。
【0025】
めっき層30bが図4~5に示すような延伸部30beを含むことにより、下地層30aの先端30at近傍のめっき層30bを厚くすることができるので、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果を奏し得る。
【0026】
凹部40の深さは、0.5μm以上5.0μm以下であることが好ましく、凹部40による電子部品10の不具合が生じにくく、かつ下地層30aのマイグレーションの抑制効果を向上し得る。凹部40の深さは、好ましくは1.0μm以上2.5μm以下である。
【0027】
セラミック素体20は、セラミック素体20の表面を覆う保護膜50を含んでいてもよい。セラミック素体20が保護膜50を含む場合は、外部電極30は、保護膜50上に形成される(図1~5)。
後述する製造方法から分かるように、凹部40を形成する前に保護膜50を形成するため、凹部40の内面40fは、通常は、保護膜50で覆われていない。なお、凹部40の形成時に除去しきれなかった保護膜50が、凹部40の開口401近傍において、凹部40の内面40fにわずかに残存することがある。この場合であっても、凹部40の内面40fは、実質的に、保護膜50で覆われていないものとみなす。
【0028】
保護膜50の厚さは、好ましくは30nm以上500nm以下であり、より好ましくは70nm以上100nm以下である。
【0029】
図1に示すように、電子部品10がセラミック素体20の両端部に設けられた一対の外部電極31、32を有している場合、保護膜50は、一対の外部電極31、32の間にて該外部電極31、32から露出した露出面50eを有する。そして、露出面50eは、各外部電極31、32に近接した一対の平滑面領域50sと、一対の平滑面領域50sの間に位置し平滑面領域50sより表面粗さが粗い粗面領域50rとを含むことが好ましい。外部電極31、32の近傍に平滑面領域50sを設けることにより、めっき層30bの形成時に、めっき層30bが保護膜50の表面上に広がることを抑制できる。また、一対の平滑面領域50sの間に粗面領域50rを設けることにより、一対の外部電極31、32間の表面距離を長くすることができるので、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果が期待できる。
【0030】
保護膜50に粗面領域50rを形成する方法としては、表面が平滑な保護膜50を形成した後に、保護膜50の表面のうち、外部電極31、32の近傍を除いた範囲を粗面化することが挙げられる。粗面領域50rを形成する別の方法としては、保護膜50を形成する前に、セラミック素体20のセラミック層20cの表面を粗面化し、次いで、保護膜50を形成する方法がある。保護膜50は薄いため、セラミック層20cの表面性状(細かい凹凸など)は、そのまま保護膜50の表面に反映される。
【0031】
外部電極31、32の離間距離が、例えば170μm以上430μm以下の場合、各平滑面領域50sの幅は、例えば20μm以上100μm以下とすることができる。
【0032】
図1に示すように、セラミック素体20は、セラミック層(例えば、半導体セラミック層)20cと内部電極20eとからなる積層構造を有していてもよい。
セラミック層20cを形成するためのセラミック材料(例えばセラミック半導体材料)は、所望の電子部品10の種類に合わせて選択される。
【0033】
例えば、負の抵抗温度特性を有するNTCサーミスタの場合、セラミック半導体材料は、負の抵抗温度特性を有するP型半導体を主成分として含む。P型半導体としては、例えば、酸化マンガンを主成分とするセラミックスであり、酸化ニッケル、酸化コバルト、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化亜鉛などを含む。
【0034】
また、積層コンデンサの場合は、セラミック材料として、例えば、BaTiO、CaTiO、SrTiO、CaZrO、(BaSr)TiO、Ba(ZrTi)Oおよび(BiZn)Nb等の誘電体材料が用いられる。
【0035】
内部電極20eを形成する材料は、導電性であれば特に限定されず、例えば、Ag、Cu、Pt、Ni、Al、Pd、Au等が挙げられ、特に、Ag、Cu、及びNiが好ましい。
【0036】
本発明の実施形態を適用するのに適した電子部品は、例えば正特性(または正温度係数、PTC)サーミスタおよび負特性(または負温度係数、NTC)サーミスタを含むサーミスタ、バリスタならびにコンデンサ等のチップ型セラミック電子部品がある。なお、それらの電子部品は、求められる特性に応じて、セラミック層20cを構成する材料を選択している。
【0037】
後述するように、本実施形態に係る電子部品10では、凹部40の形成方法としては、主に、めっき工程中においてめっき液で溶解する方法(化学的加工)と、めっき工程前に、レーザ加工等で切削加工する方法(機械的加工)の2つが挙げられる。
化学的加工は、めっき層の形成と同時に凹部40の形成を行うことができるので、工程を簡略化できる点で好ましい。しかしながら、化学的加工では、セラミック層を構成する材料が、めっき液に溶解する必要がある。化学的加工が可能なセラミック層(半導体セラミック層)20cを備える電子部品としては、例えばサーミスタが挙げられる。
【0038】
化学的加工を適用できない電子部品としては、バリスタが挙げられる。バリスタの場合は、化学的加工の代わりに、機械的加工を行う。機械的加工は、めっき液への溶解性を考慮する必要がないため、どのような電子部品であっても凹部40を形成することができる点で好ましい。セラミック素体20の側面23に機械的加工で凹部40を形成する場合、めっき工程の前に凹部40を形成する。
【0039】
[電子部品10の製造方法]
以下、本実施形態に係る本発明に係る電子部品10の製造方法について、図1に示すようなサーミスタを例として説明する。また、各工程における凹部40近傍の状態について、図6(a)~(d)を参照しながら説明する。
【0040】
(セラミック素体20の作製)
まず、セラミック素体の原料として、BaCO、TiO、PbO、SrCO、CaCO等のセラミック原料およびEr等の半導体化剤を所定量秤量する。半導体化剤としては、Erの代わりに、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物などを用いてもよい。また、セラミック素体の原料として、上述のセラミック原料および半導体化剤に加えて、Mn等の特性改善剤や、SiO等の焼結助剤を用いてもよい。秤量した各原料を、部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia:PSZ)等の粉砕媒体(以下、PSZボールともよぶ)および純水と共にボールミルに投入し、湿式混合粉砕する。得られた混合物を、所定温度(例えば、1000~1200℃)で仮焼成して、仮焼粉末を得る。
【0041】
得られた仮焼粉末に有機バインダを加え、湿式で混合処理を行なってスラリー状とし、その後、ドクターブレード法等を用いて成形加工し、セラミックグリーンシートを作製する。次いで、内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシートの表面に塗布して内部電極パターンを形成する。内部電極用導電性ペーストは、例えば、有機溶剤中にNi金属粉末および有機バインダを分散させることにより調製することができる。内部電極用ペーストは、例えば、スクリーン印刷等により塗布してよい。このように内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所定数積層し、次いで、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートで上下を挟持して圧着することにより、積層体を作製する。この積層体を所定寸法に切断した後、脱バインダ処理を行い、次いで大気中で所定の温度(1200~1400℃)で焼成することにより、セラミック層20cと内部電極20eとからなる積層構造を有する積層体が得られる。
図6(a)には、得られた積層体のうち、セラミック層20cのみが図示されている。
【0042】
次に、積層体の表面全体に保護膜50を形成する(図6(b))。このとき、セラミック層20cのみならず、内部電極20eも覆うように、保護膜50を形成する。
保護膜50は、例えばガラスなどの絶縁性材料から形成することができる。ガラスからなる保護膜50は、溶液を用いた薄膜作製法にて形成し得る。薄膜作製法としては、ゾル-ゲル法、MOD(金属有機化合物分解法)法、CSD(chemical solution deposition)法などが利用できる。保護膜50の原料塗膜を積層体の表面に形成した後、加熱処理に付して、塗膜に由来するガラスの保護膜50を得る。加熱処理の温度および時間は、例えば300℃以上1100℃以下、例えば10~60分間であり得る。加熱処理の温度は、特に好ましくは400℃以上1000℃以下である。
これにより、セラミック層20c、内部電極20eおよび保護膜50を備えたセラミック素体20が得られる。
【0043】
(下地層30aの形成)
図1に示すように、セラミック素体20の端面から側面23の一部を覆うように、下地層31a、32a(これをまとめて「下地層30a」と称する)を形成する。
下地層30aは、Ag、AgPd、Cuなどから形成することができる。
下地層30aは、各種の薄膜形成法、各種の印刷法またはディップ法などにより形成される。たとえば、ディップ法により下地層30aを形成する場合、セラミック素体の両端面に導電性ペーストを塗布した後、導電性ペーストを焼き付ける。導電性ペーストは、有機溶剤と金属粒子とガラスとを含む。焼付け温度は、例えば840℃である。なお、焼き付けを行うと、内部電極20eが保護膜50を貫通して下地層30aと導通する(ファイヤースルー)。
【0044】
保護膜50の厚さは、30nm以上500nm以下であることが好ましく、めっき層の形成時に、セラミック素体20のセラミック層20cを保護することができ、かつ、ファイヤースルーによって内部電極20eと下地層30aとを確実に導通させることができる。
【0045】
その後、例えば外力によって傷をつける、あるいは、薬品により化学的に反応させるなどの手段により、保護膜50のうち、下地層30aと接触する範囲および下地層30aの先端30at近傍の範囲(図6(c)に示すように、これらの範囲をまとめて「変質範囲50x」とする)が変質する。変質範囲50x内にある保護膜50は、その他の位置における保護膜50に比べて、強度が低下している。
【0046】
(めっき層30bの形成)
めっき層30b(図1では、第1めっき層31b、32b)は、下地層30aの表面を覆うように形成される。めっき層30bは、例えば、Ni、Sn、Pd、Auから選択される1つ以上の金属材料を電解めっきすることにより形成することができる。
【0047】
なお、めっき層30bを形成している間、保護膜50のうち下地層30aで覆われていない範囲は、めっき液と接触する。このとき、めっき層30bを形成する際のめっき条件(めっき液の種類、濃度、温度等)を適切に制御すると、めっき液と接触している保護膜50のうち、保護膜50が変質して強度が弱くなっている部分(つまり、下地層30aの先端30at近傍)を溶解除去して、セラミック層20cを露出させることができる。露出したセラミック層20cは、めっき液で溶解されて、凹部40が形成される。なお、保護膜50およびセラミック層20cの溶解が進むと、保護膜50が除去される範囲(保護膜50の除去範囲50y)が広がる。例えば、図6(d)に示すように、下地層30aの先端30at部分の下側まで、保護膜50が除去される。また、保護膜50の除去範囲50yが広がると、凹部40の開口401の範囲もそれに伴って広がる。
【0048】
めっき層30bは、図2~5に示すように、下地層30aの先端30atを超えて形成される。先端30atを超えた部分(延伸部30be)は、めっき条件(特に、めっき時間)によって異なる形態となる。例えば、めっき時間が長いと、延伸部30beは、図2~3に示すように、凹部40の内面40fに接触するほど大きく成長する。一方、めっき時間をそれほど長くしなければ、延伸部30beは、図4~5に示すように、凹部40内に向かって膨出するが、内面40fに接触はしない。図2~3のような延伸部30beを備えると、下地層30aのマイグレーションを抑制する効果は高いが、めっき時間が増加するため製造コストが増加する。よって、求められる性能と製造コストとを考慮して、図2~3のような延伸部30beにするのか、あるいは図4~5のような延伸部30beにするのか決定することが望ましい。
【0049】
めっき層(第1めっき層)30bおよび第2めっき層30cは、公知のめっき方法で形成することができ、例えば、ボールを用いたバレルめっきを用いることができる。バレルめっきでは、図1に示す保護膜50の露出面50eにボールが接触して、保護膜50を粗面化できる。なお、外部電極30の近傍における保護膜50の表面は、外部電極30が障害となってボールが接触できないので、保護膜50の表面は平滑面のままとなる(つまり、平滑面領域50sが形成できる)。
【0050】
図1に示すように、めっき層を2層構造にしてもよい。この場合は、めっき層(第1めっき層)31b、32bを形成した後、第1めっき層31b、32bを覆うように第2めっき層31c、32cを形成する。
第1めっき層31b、32bは、例えば、NiおよびCuの少なくとも1つを電解めっきすることにより形成することができる。第2めっき層31c、32cは、例えばSnを電解めっきすることにより形成することができる。
【0051】
[電子部品の製造方法(変形例)]
変形例では、凹部40を機械的加工により形成する点で、上述した本実施形態に係る製造方法とは異なる。
まず、本実施形態に係る製造方法と同様に、セラミック素体20を形成する。その後、セラミック素体20の側面23に、レーザ加工等の機械的加工により凹部40を形成する。その後、本実施形態に係る製造方法と同様に、下地層30a、めっき層31b(および第2めっき層31c)を順次形成する。
この変形例によって、セラミック素体20に含まれるセラミック層20cがめっき液に溶解しない材料で形成された場合にも、凹部40を備えた電子部品10を製造することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態に係る電子部品の製造方法およびその変形例について、内部電極を有するPTCサーミスタを例として説明したが、内部電極を有さないPTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタ、コンデンサ等の他の電子部品についても、本明細書の記載に基づいて適宜製造することができる。
【実施例
【0053】
実施形態に係る電子部品10の製造方法により、図1に示すような構造を有する電子部品(サーミスタ)を作成した。サーミスタの材料、寸法等は以下の通りであった。
・電子部品:積層セラミックタイプのサーミスタ
・電子部品のサイズ:0603サイズ、角柱タイプ
・セラミック層の材料:酸化マンガンを主成分とするセラミックスであり、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄を含む。
・下地層の材料:Ag
・めっき膜の材料:第1めっき層 Ni、第2めっき層 Sn
・めっき膜の層数:2層
・保護膜の材料:厚さ100nmの非晶質ガラス
【0054】
作製したサーミスタは、図2に示すような凹部40、下地層30a、めっき層30b(第1めっき層と第2めっき層からなる二層構造)を有していた。
【0055】
本願は、2021年6月15日付けで日本国にて出願された特願2021-099625に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0056】
10 電子部品
20 セラミック素体
21、22 セラミック素体の端面
23 セラミック素体の側面
30 外部電極
30a 下地層
30b めっき層(第1めっき層)
30c 第2めっき層
40 凹部
401 凹部の開口
401a、401b 開口の縁部
50 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6