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特許7556471熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20240918BHJP
   G06F 119/08 20200101ALN20240918BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F119:08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023533475
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2022023044
(87)【国際公開番号】W WO2023281968
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021113879
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山寄 優
(72)【発明者】
【氏名】柴原 輝久
(72)【発明者】
【氏名】福西 正尚
【審査官】三沢 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-293382(JP,A)
【文献】特開2009-026085(JP,A)
【文献】今野 雅ほか,“E-1 固体伝熱・対流・放射連成解析における解適合面素分割に関する研究”,空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集,1999年,第1999.1巻, 第0号,pp.265-268
【文献】IMANO Masashi et al.,“Study on Adaptive Mesh Generation Method in CFD Calculation with Conjugate Heat Transfer Model”,Proceedings of Building Simulation '99, Sixth International IBSPA Conference,1999年
【文献】M.J. Berger et al.,“Local adaptive mesh refinement for shock hydrodynamics”,Journal of Computational Physics,1989年05月,Vol. 82, No. 1,pp.64-84
【文献】Krivanek J. et al.,“Adaptive Mesh Subdivision for Precomputed Radiance Transfer”,Proc. Spring Conference on Computer Graphics, 2004,2004年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
G06F 119/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、前記構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割ステップと、
前記初期分割ステップで生成された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析ステップと、
前記初期熱解析ステップで行われた熱解析により前記構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各前記細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各前記細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出ステップと、
前記熱対策感度指標算出ステップで各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割ステップと、
前記再分割ステップによってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析ステップと
を備えて、構造体または空間の熱解析を行う熱解析方法。
【請求項2】
前記熱再解析ステップで行われた熱解析により各前記細分化領域について得られる前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する分割繰り返しステップと、
前記分割繰り返しステップによってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱解析繰り返しステップと
を備える請求項1に記載の熱解析方法。
【請求項3】
各前記細分化領域内に設定された等価物性算出領域の構成材料の物性値を基に各前記等価物性算出領域の等価物性を算出する等価物性算出ステップを備え、
前記再分割ステップおよび前記分割繰り返しステップにおいて、前記計算用メッシュの細分化および前記細分化領域の再分割が行われると共に、再分割された前記細分化領域における前記等価物性算出領域の細分化が行われ、
前記熱解析は、前記等価物性算出ステップで細分化された各前記等価物性算出領域毎に算出される前記等価物性を用いて行われることを特徴とする請求項2に記載の熱解析方法。
【請求項4】
前記熱対策感度指標算出ステップで各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の小さい隣接する所定数の前記細分化領域を1つの統合領域にまとめる領域統合ステップを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱解析方法。
【請求項5】
各前記細分化領域は、熱解析対象となる構造体または空間の前記所定領域が一方向に分割されて得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱解析方法。
【請求項6】
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、前記構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割手段と、
前記初期分割手段で生成された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析手段と、
前記初期熱解析手段で行われた熱解析により前記構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各前記細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各前記細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出手段と、
前記熱対策感度指標算出手段で各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割手段と、
前記再分割手段によってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析手段と
を備えて、構造体または空間の熱解析を行う熱解析装置。
【請求項7】
前記熱再解析手段で行われた熱解析により各前記細分化領域について得られる前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する分割繰り返し手段と、
前記分割繰り返し手段によってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱解析繰り返し手段と
を備える請求項6に記載の熱解析装置。
【請求項8】
各前記細分化領域内に設定された等価物性算出領域の構成材料の物性値を基に各前記等価物性算出領域の等価物性を算出する等価物性算出手段を備え、
前記再分割手段および前記分割繰り返し手段は、前記計算用メッシュの細分化および前記細分化領域の再分割を行うと共に、再分割された前記細分化領域における前記等価物性算出領域の細分化を行い、
前記熱解析は、前記等価物性算出手段で細分化された各前記等価物性算出領域毎に算出される前記等価物性を用いて行われることを特徴とする請求項7に記載の熱解析装置。
【請求項9】
前記熱対策感度指標算出手段で各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の小さい隣接する所定数の前記細分化領域を1つの統合領域にまとめる領域統合手段を備えることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の熱解析装置。
【請求項10】
各前記細分化領域は、熱解析対象となる構造体または空間の前記所定領域が一方向に分割されて得られることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の熱解析装置。
【請求項11】
コンピュータを、
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、前記構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割手段と、
前記初期分割手段で生成された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析手段と、
前記初期熱解析手段で行われた熱解析により前記構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各前記細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各前記細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出手段と、
前記熱対策感度指標算出手段で各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割手段と、
前記再分割手段によってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析手段と
して機能させるコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記コンピュータを、さらに、
前記熱再解析手段で行われた熱解析により各前記細分化領域について得られる前記熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各前記細分化領域について、前記計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する分割繰り返し手段と、
前記分割繰り返し手段によってさらに細分化された前記計算用メッシュを用いて前記構造体または空間の熱解析を再度行う熱解析繰り返し手段と
して機能させる請求項11に記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記コンピュータを、さらに、
各前記細分化領域内に設定された等価物性算出領域の構成材料の物性値を基に各前記等価物性算出領域の等価物性を算出する等価物性算出手段として機能させ、
前記再分割手段および前記分割繰り返し手段に、前記計算用メッシュの細分化および前記細分化領域の再分割を行わせると共に、再分割された前記細分化領域における前記等価物性算出領域の細分化を行わせ、
前記熱解析を、前記等価物性算出手段で細分化された各前記等価物性算出領域毎に算出される前記等価物性を用いて行わせる請求項12に記載のコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記コンピュータを、さらに、
前記熱対策感度指標算出手段で各前記細分化領域について算出された複数の前記熱対策感度指標のなかで指標値の小さい隣接する所定数の前記細分化領域を1つの統合領域にまとめる領域統合手段として機能させることを特徴とする請求項11または請求項12記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
熱解析対象となる構造体または空間の前記所定領域を一方向に分割させて、各前記細分化領域を得させることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体または空間の熱解析を行う熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラムとしては、例えば、特許文献1に開示された自動メッシュ生成装置、自動メッシュ生成方法およびプログラムがある。この自動メッシュ生成装置では、3次元構造体モデルデータである配線パターンがメッシュ生成部によって微小エリアに分割され、物性値特定部によりその微小エリアの物性値が特定される。また、メッシュ削減部において、隣接する複数の微小エリアの物性値が参照されて、複数の微小エリアの物性値が同じである場合にそれらが1つの微小エリアとされて、計算用メッシュの数が削減される。
【0003】
また、従来、この種の熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラムとして、例えば、特許文献2に開示された熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムもある。この熱解析方法では、グランドパターン接続端子とグランドパターン非接続端子とを異なるものとしてモデル化し、グランドパターン接続端子および基板間の接続面積と、グランドパターン非接続端子および基板間の接続面積とに基づいて、電子部品本体モデルと基板モデルとの間の等価熱伝導率を求める。
【0004】
また、従来、この種の熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラムとして、例えば、特許文献3に開示された有限要素解析方法、有限要素解析装置、およびコンピュータプログラムもある。この有限要素解析方法では、分割した要素毎に解析誤差を算出し、算出した解析誤差が所定値より大きい有限要素が存在するか否か、判断する。解析誤差が所定値より大きい有限要素が存在すると判断した場合、この有限要素をさらに複数の有限要素に再分割し、再分割された有限要素に解析誤差を配分する。そして、再分割した有限要素毎に配分した解析誤差が所定値より大きい有限要素が存在するか否か、判断する。解析誤差が所定値より大きい有限要素が存在すると判断した場合、さらに再分割して分割前の有限要素に配分された解析誤差の再配分を繰り返し、存在しないと判断した場合、再分割された有限要素に基づいて有限要素解析を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-50137号公報
【文献】特開2008-275579号公報
【文献】特開2007-65803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された上記従来の自動メッシュ生成装置、自動メッシュ生成方法およびプログラムでは、配線パターンをメッシュ分割する際に十分に細かいメッシュにしてから、細分化不要なメッシュを統合していくことで、計算精度を維持して計算コストを削減する。このため、配線パターンを忠実にモデル化することが前提となるため、計算コストの削減に限界がある。
【0007】
また、特許文献2に開示された熱解析方法、熱解析装置および熱解析プログラムでは、複雑な配線パターンをグランド接続情報を基に重み付けして等価物性を求めることで、計算精度の向上を図っているが、メッシュ分割時の離散化に伴う計算精度の低下の問題については何ら考慮されていない。
【0008】
また、特許文献3に開示された有限要素解析方法、有限要素解析装置およびコンピュータプログラムでは、解析誤差の大きい要素を細分化することで、演算処理負荷を軽減しつつ、有限要素解析の計算精度を向上させているが、その計算精度の向上効果は指標となる解析誤差の定義の仕方に依存しており、熱解析における効果的な解析誤差指標の定義方法については、特に何ら言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割ステップと、
初期分割ステップで生成された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析ステップと、
初期熱解析ステップで行われた熱解析により構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出ステップと、
熱対策感度指標算出ステップで各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各細分化領域について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割ステップと、
再分割ステップによってさらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析ステップと
を備えて、構造体または空間の熱解析を行う熱解析方法を構成した。
【0010】
また、本発明は、
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割手段と、
初期分割手段で生成された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析手段と、
初期熱解析手段で行われた熱解析により構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出手段と、
熱対策感度指標算出手段で各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各細分化領域について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割手段と、
再分割手段によってさらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析手段と
を備えて、構造体または空間の熱解析を行う熱解析装置を構成した。
【0011】
また、本発明は、
コンピュータを、
熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割する初期分割手段と、
初期分割手段で生成された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析手段と、
初期熱解析手段で行われた熱解析により構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を各細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域毎に熱対策感度指標を算出する熱対策感度指標算出手段と、
熱対策感度指標算出手段で各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標のなかで指標値の大きい所定数の各細分化領域について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する再分割手段と、
再分割手段によってさらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析手段と
して機能させるコンピュータプログラムを構成した。
【0012】
これらの構成によれば、熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を細分化した計算用メッシュを用いて熱解析を行うことで、構造体または空間の領域全体について熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルの空間分布が得られる。得られた空間分布に基づき、これら熱流束ベクトルと温度勾配ベクトルとの内積を、構造体または空間の所定領域を分割した各細分化領域について体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域毎に熱対策感度指標が算出される。そして、算出された複数の熱対策感度指標のなかで、指標値の大きい所定数の細分化領域について、計算用メッシュのさらなる細分化と共に再分割が行われ、さらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析が再度行われる。したがって、構造体または空間の所定領域が分割されて得られる細分化領域のうち、熱対策の重要度が高い細分化領域が熱対策感度指標を基に選択されて、熱対策の重要度が高い所定数の細分化領域に対して選択的に、熱解析が行われるようになる。このため、熱解析の演算処理負荷を低減して計算コストを削減しながら、領域分割時の離散化に伴う計算精度の低下を回避して、構造体または空間の熱解析、つまり、伝熱シミュレーションを精度高く行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
この結果、本発明によれば、熱解析の演算処理負荷を低減して計算コストを削減しながら、領域分割時の離散化に伴う計算精度の低下を回避して、構造体または空間の伝熱シミュレーションを精度高く行うことができる熱解析方法、熱解析装置およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態による熱解析装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示す熱解析装置によって実行される第1の実施形態による熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。
図3】第1の実施形態による熱解析時に得られる細分化領域を説明するための図である。
図4】本発明の第2の実施形態による熱解析装置の構成を示すブロック図である。
図5図4に示す熱解析装置によって実行される第2の実施形態による熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。
図6】第2の実施形態による熱解析時に得られる細分化領域を説明するための図である。
図7】本発明の第3の実施形態による熱解析装置の構成を示すブロック図である。
図8図7に示す熱解析装置によって実行される第3の実施形態による熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。
図9】第3の実施形態による熱解析時に得られる細分化領域を説明するための図である。
図10】第3の実施形態によって回路基板を選択的に細分化して熱解析した結果を、同じ回路基板を均等に分割して細分化して行った熱解析結果と比較して示すグラフである。
図11】本発明の第4の実施形態による熱解析装置の構成を示すブロック図である。
図12図11に示す熱解析装置によって実行される第4の実施形態による熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明による熱解析方法、熱解析装置、およびコンピュータプログラムを実施するための形態について、説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態による熱解析装置1Aの構成を示すブロック図である。図2は、この熱解析装置1によって実行される熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。
【0017】
本実施形態および後述する各実施形態では、熱解析対象となる構造体として、説明の簡略化のため、図3に示すような、IC等の図示しない熱源部品が実装された回路基板4を例に挙げて説明する。しかし、回路基板4は熱解析対象となる構造体の一例に過ぎず、また、空間も同様に熱解析対象となって同様に熱解析を行える。
【0018】
熱解析装置1Aは、MPU(Micro Processing Unit)等からなるプロセッサ2と、ROM(Read Only Memory)3aやRAM(Random Access Memory)3b等からなる記憶部3とを備えるコンピュータから構成されている。ROM3aにはプロセッサ2の動作手順を規定するコンピュータプログラムや、構造体4の熱情報を始めとする各種データが記憶されている。プロセッサ2は、ROM3aに記憶されたコンピュータプログラムにしたがい、RAM3bを一時記憶作業領域として各部の制御を行う。
【0019】
プロセッサ2は、初期分割手段2a、初期熱解析手段2b、熱対策感度指標算出手段2c、再分割手段2d、および熱再解析手段2eを機能ブロックとして有する。
【0020】
図2に示すフローチャートはコンピュータの演算処理により実行される。
【0021】
初期分割手段2aは、初期分割処理ステップ101において、熱解析対象となる回路基板4の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、回路基板4の所定領域、ここでは回路基板4の全領域を複数の細分化領域に初期分割する。この初期分割処理ステップ101においては、例えば、図3(a)に示すように、回路基板4の全領域が4つの細分化領域4a,4b,4c,4dに初期分割される。
【0022】
初期熱解析手段2bは、初期熱解析処理ステップ102において、初期分割手段2aで生成された計算用メッシュを用いて回路基板4の熱解析を行う。この熱解析により、回路基板4の領域全体について、熱流束ベクトルJと温度勾配ベクトル∇Tとの空間分布が物理量として得られる。
【0023】
熱対策感度指標算出手段2cは、熱対策感度指標算出処理ステップ103において、初期熱解析処理ステップ102で得られた熱流束ベクトルJと温度勾配ベクトル∇Tとの空間分布に基づき、これら物理量の内積値J・∇Tを計算し、各細分化領域4a,4b,4c,4dについて体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域4a,4b,4c,4dについて熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4を算出する。これらの熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4は、熱源温度を低減するために対策を施す場合に、各細分化領域4a,4b,4c,4dが放熱対策領域全体に占める寄与の大きさを示す指標となっており、その指標値が大きいことは、その細分化領域に対する熱対策の有効性が高いことを意味する。
【0024】
再分割手段2dは、再分割処理ステップ104において、熱対策感度指標算出処理ステップ103で各細分化領域4a,4b,4c,4dについて算出された複数の熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4のなかで、指標値の大きい所定数の各細分化領域を複数の細分化領域に再度分割すると同時に、所定数の各細分化領域の内部における計算用メッシュのさらなる細分化を行う。例えば、細分化領域4aの熱対策感度指標Rd1の指標値が最も大きい場合、細分化領域4aの計算用メッシュをさらに細分化すると共に、図3(b)に示すように、この細分化領域4aを2つの細分化領域4a1,4a2にさらに分割する。ここでは、算出された複数の熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4のなかで、指標値の最も大きい1つの細分化領域4aを複数の細分化領域に再度分割しているが、1つの細分化領域4aに限らず、例えば、指標値が次に大きい細分化領域4bを含めて、2つの細分化領域4a,4bのそれぞれに対して計算用メッシュの細分化と細分化領域の再分割をしてもよい。また、細分化領域の再分割数も2つの細分化領域4a1,4a2に限らず、3つや4つ等に再分割してもよい。
【0025】
熱再解析手段2eは、熱再解析処理ステップ105において、再分割処理ステップ104によって細分化された計算用メッシュを用いて、回路基板4の領域全体について熱解析を再度行う。
【0026】
本実施形態では、ROM3aに記憶されたコンピュータプログラムは、プロセッサ2および記憶部3から構成されるコンピュータを、熱解析対象となる構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域4a,4b,4c,4dに分割する初期分割手段2aと、初期分割手段2aで生成された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を行う初期熱解析手段2bと、初期熱解析手段2bで行われた熱解析により構造体または空間の領域全体について得られる熱流束ベクトルJと温度勾配ベクトル∇Tとの内積J・∇Tの空間分布を各細分化領域4a,4b,4c,4dについて体積分して絶対値を取ることで、熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4を算出する熱対策感度指標算出手段2cと、熱対策感度指標算出手段2cで各細分化領域4a,4b,4c,4dについて算出された複数の熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4のなかで指標値の大きい所定数の各細分化領域4aについて、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域4a1,4a2へ再分割する再分割手段2dと、再分割手段2dによってさらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を再度行う熱再解析手段2eとして機能させている。
【0027】
このような本実施形態による熱解析方法、熱解析装置1A、およびコンピュータプログラムによれば、上記のように、初期分割手段2aによって初期分割処理ステップ101において生成された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を行うことで、熱流束ベクトルJと温度勾配ベクトル∇Tとの空間分布が得られ、これら熱流束ベクトルJと温度勾配ベクトル∇Tとの内積J・∇Tを各細分化領域4a,4b,4c,4dについて体積分して絶対値を取ることで、各細分化領域4a,4b,4c,4d毎に熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4が算出される。そして、算出された複数の熱対策感度指標Rd1,Rd2,Rd3,Rd4のなかで、指標値の大きい所定数の細分化領域、例えば1つの細分化領域4aについて計算用メッシュのさらなる細分化と細分化領域の再分割が行われ、さらに細分化されたその計算用メッシュを用いて熱解析が再度行われる。したがって、構造体または空間の所定領域が分割されて得られる細分化領域のうち、熱対策の重要度が高い細分化領域が熱対策感度指標Rdを基に選択されて、熱対策の重要度が高い所定数の細分化領域に対して選択的に、計算用メッシュの細分化を行ったうえで熱解析が行われるようになる。
【0028】
熱対策感度指標Rdは、着目する領域全体の中でどの領域が熱対策の重要度が高く、どの領域が低いのかを把握するための指標である。ある領域の熱対策感度指標Rdが高いということは、熱解析計算を行う際にその領域が結果に対して及ぼす影響度が大きいことである。結果に対して及ぼす影響度が大きい領域は、熱解析の計算精度を高めるために空間分解能を向上すべき領域と一致する。このため、本実施形態による熱解析方法、熱解析装置1A、およびコンピュータプログラムによれば、熱解析の演算処理負荷を低減して計算コストを削減しながら、領域分割時の離散化に伴う計算精度の低下を回避して、構造体または空間の伝熱シミュレーションを精度高く行うことができる。
【0029】
図4は、本発明の第2の実施形態による熱解析装置1Bの構成を示すブロック図である。図5は、この熱解析装置1Bによって実行される熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。また、図6は、第2の実施形態において熱解析対象となる構造体の一例としての回路基板4を示す図である。図4図5および図6において図1図2および図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0030】
図4に示す第2の実施形態による熱解析装置1Bは、プロセッサ2が、分割繰り返し手段2fおよび熱解析繰り返し手段2gを機能ブロックとしてさらに有する点が、図1に示す第1の実施形態による熱解析装置1Aと相違する。また、図5のフローチャートに示す第2の実施形態による熱解析方法は、熱再解析処理ステップ105の後に、分割繰り返し処理ステップ106および熱解析繰り返し処理ステップ107を有する点が、図2のフローチャートに示す第1の実施形態による熱解析方法と相違する。
【0031】
また、ROM3aに記憶された第2の実施形態によるコンピュータプログラムは、第1の実施形態によるコンピュータプログラムがコンピュータを上述の各手段として機能させるのに加え、コンピュータを、さらに、熱再解析手段2eで行われた熱解析により各細分化領域について得られる熱対策感度指標Rdのなかで指標値の大きい所定数の各細分化領域について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する分割繰り返し手段2fと、分割繰り返し手段2fによってさらに細分化された計算用メッシュを用いて構造体または空間の熱解析を再度行う熱解析繰り返し手段2gとして機能させる点において、第1の実施形態によるコンピュータプログラムと相違する。
【0032】
図4に示す熱解析装置1Bにおける分割繰り返し手段2fは、熱再解析処理ステップ105の後の図5に示す分割繰り返し処理ステップ106において、熱再解析処理ステップ105で行われた熱解析により各細分化領域4a1,4a2,4b,4c,4dについて得られた熱対策感度指標Rd1A,Rd1B,Rd2,Rd3,Rd4のなかで、指標値の大きい所定数の各細分化領域について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、複数の細分化領域へ再分割する。例えば、熱対策感度指標Rd1A,Rd1B,Rd2,Rd3,Rd4のなかで、図6(b)に斜線で図示するように、細分化領域4a2で得られた熱対策感度指標Rd1Bの指標値が最も大きい場合、図6(c)に示すように、この細分化領域4a2について、計算用メッシュをさらに細分化すると共に、2つの細分化領域4a2A,4a2Bへさらに分割する。
【0033】
ここでも、算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで、指標値の最も大きい1つの細分化領域4a2を対象としているが、1つの細分化領域に限らず、2つや3つ等の細分化領域のそれぞれに対して計算用メッシュの細分化と再分割を行うようにしてもよい。また、再分割数も2つの細分化領域4a2A,4a2Bに限らず、3つや4つ等に再分割してもよい。
【0034】
熱解析繰り返し手段2gは、熱解析繰り返し処理ステップ107において、分割繰り返し処理ステップ106によって細分化された計算用メッシュを用いて回路基板4に対して熱解析を再度行う。
【0035】
このような第2の実施形態による熱解析方法、熱解析装置1B、およびコンピュータプログラムによれば、上記のように、熱対策感度指標Rdの指標値が大きい所定数の各細分化領域についての計算用メッシュの細分化および熱解析が反復されて行われることで、解析精度が向上する。
【0036】
図7は、本発明の第3の実施形態による熱解析装置1Cの構成を示すブロック図である。図8は、この熱解析装置1Cによって実行される熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。また、図9は、第3の実施形態において熱解析対象となる構造体の一例としての回路基板4を示す図である。図7図8および図9において図4図5および図6と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0037】
図7に示す第3の実施形態による熱解析装置1Cは、プロセッサ2が、等価物性算出手段2hおよび終了判定手段2iを機能ブロックとして有する点が、図4に示す第2の実施形態による熱解析装置1Bと相違する。
【0038】
また、図8のフローチャートに示す第3の実施形態による熱解析方法は、等価物性算出処理ステップ107,108を有する点、次述するループ処理を有する点、分割繰り返し処理ステップ106および熱解析繰り返し処理ステップ107が、ループ処理における再分割処理ステップ104および熱再解析処理ステップ105によって構成される点、および、ループ処理が終了判定処理ステップ109で終了判定が決定されるまで繰り返される点において、図5のフローチャートに示す第2の実施形態による熱解析方法と相違する。ここで、熱対策感度指標算出処理ステップ103、再分割処理ステップ104、等価物性算出処理ステップ108および熱再解析処理ステップ105は、ループ処理を構成する。
【0039】
また、この第3の実施形態では、初期分割手段2aによる初期分割処理ステップ101および再分割手段2dによる再分割処理ステップ104において、熱解析対象となる構造体または空間の所定領域を一方向に分割して、各細分化領域を得る点において、第2の実施形態と相違する。
【0040】
また、ROM3aに記憶された第3の実施形態によるコンピュータプログラムは、第2の実施形態によるコンピュータプログラムがコンピュータを上述の各手段として機能させるのに加え、コンピュータを、さらに、各細分化領域内に設定された等価物性算出領域の構成材料の物性値を基に各等価物性算出領域の等価物性を算出する等価物性算出手段2hとして機能させ、再分割手段2dおよび分割繰り返し手段2fに、計算用メッシュの細分化および細分化領域の再分割を行わせると共に、再分割された細分化領域における等価物性算出領域の細分化を行わせ、熱解析を、等価物性算出手段2hで細分化された各等価物性算出領域毎に算出される等価物性を用いて行わせると共に、熱解析対象となる構造体または空間の所定領域を一方向に分割させて、各細分化領域を得させる点において、第2の実施形態によるコンピュータプログラムと相違する。
【0041】
図7に示す熱解析装置1Cにおける初期分割手段2aは、図8に示す初期分割処理ステップ101において、構造体または空間の領域全体を計算用メッシュに細分化すると共に、構造体または空間の所定領域を複数の細分化領域に分割し、等価物性を算出する等価物性算出領域については、等価物性計算のための領域分割を計算用メッシュ分割と同様に行って、各細分化領域内に設定する。本実施形態では、複数の細分化領域への分割は、厚さを持つ回路基板4の全領域を図9(a)に示すように一方向に短冊状に分割することで、各細分化領域を直方体形状にして得る。初期分割処理ステップ101による領域の各細分化領域への初期分割は、後のステップで初期分割領域がさらに細分化されるので、粗く行われる。等価物性算出手段2hは、等価物性算出処理ステップ107,108において、各等価物性算出領域内の構成材料の物性値を基に各等価物性算出領域の等価物性を算出する。また、初期熱解析手段2bおよび熱再解析手段2eによる初期熱解析処理ステップ102および熱再解析処理ステップ105における各熱解析は、等価物性算出処理ステップ107,108で細分化された各等価物性算出領域毎に算出される等価熱伝導率を用いて行われる。
【0042】
再分割処理ステップ104においては、再分割手段2dにより、熱対策感度指標算出処理ステップ103で短冊状の各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで、指標値の最も大きい例えば図9(a)に斜線を付した細分化領域4eが、図9(b)に示すように、分割線5によって2つの細分化領域4e1,4e2に等分に再分割されると共に、細分化領域4e内の計算用メッシュおよび等価物性算出領域分割の細分化が行われる。なお、ここでは、指標値の最も大きい細分化領域4eを再分割する場合について説明しているが、最も大きいものから所定番目までの大きさの指標値を持つ細分化領域について、同様の処理を行ってもよい。等価物性算出処理ステップ108では、等価物性算出手段2hにより、細分化された等価物性算出領域について等価物性の算出が行われ、熱再解析処理ステップ105では、熱再解析手段2eにより、算出された等価物性を用いた熱解析が再度行われる。
【0043】
終了判定処理ステップ109では、終了判定手段2iにより、熱再解析処理ステップ105の熱解析によって算出される熱解析計算結果が所定の精度に達しているか否かが、判定される。熱解析計算結果が所定の精度に達していない場合、熱対策感度指標算出処理ステップ103、再分割処理ステップ104、等価物性算出処理ステップ108および熱再解析処理ステップ105のループ処理が繰り返される。終了判定処理ステップ109で、熱再解析処理ステップ105における熱解析計算結果が所定の精度に達していると判定された場合、熱解析処理は終了する。
【0044】
終了判定処理ステップ109における終了判定は、例えば、熱再解析処理ステップ105の熱解析計算によってシミュレーションされる、回路基板4に実装される熱源部品の温度の変動が十分に小さくなったときなどに、熱解析計算結果が所定の精度に達していると判定される。
【0045】
このような第3の実施形態による熱解析方法、熱解析装置1C、およびコンピュータプログラムによれば、上記のように、解析結果への影響度の大きい細分化領域について選択的に等価物性算出領域の細分化が行われ、細分化された各等価物性算出領域毎に等価物性が算出されて、熱解析が行われることで、配線パターンのような複雑な形状をした熱解析対象についても、より精度の高い熱解析が、熱対策の重要度が高い所定数の細分化領域に対して選択的に行われるようになる。等価物性の一例として等価熱伝導率が代表的なものとして挙げられる。等価熱伝導率は、ある領域の内部に複数の材料が包含されている際に、構成材料の熱伝導率やその含有比率などを用いてその領域の平均的な伝熱特性を表したものである。等価熱伝導率を用いることで、複雑な形状パターンなどがある場合にモデルの大幅な簡略化が可能となるが、一定の熱解析精度の低下が生じる。このとき生じる精度の低下は、等価熱伝導率に置き換える領域のサイズによって変化し、大きな領域を等価熱伝導率に置き換えると精度低下は大きく、多数の小さい領域で等価熱伝導率に置き換えると、精度低下は小さく抑えられる。したがって、上記の第3の実施形態のように、計算精度への影響度の大きい細分化領域を選択して計算用メッシュの細分化を行う際に、同時にその領域の等価熱伝導率を計算する等価物性算出領域の細分化も行うことで、等価熱伝導率を用いることによる精度低下の影響が抑えられる。このため、第3の実施形態によれば、複雑な形状をした熱解析対象についても、演算処理負荷を低減しながら、領域の細分化および等価熱伝導率計算の双方について精度を向上させて、構造体または空間の伝熱シミュレーションを高い精度で行えるようになる。
【0046】
また、熱解析対象となる構造体または空間の所定領域が一方向に分割されて各細分化領域が得られることで、その一方向に隣接する領域との領域間の連続性を考慮する必要がなくなる。このため、計算用メッシュ細分化時の処理負荷をより軽減して、計算コストの更なる削減を図ることができる。
【0047】
なお、上記の第3の実施形態では、構造体または空間の所定領域を一方向に分割することで、各細分化領域を得る場合について、説明した。しかし、細分化領域をこれと直交する方向に対しても設定し、重要度の高い領域の細分化を2方向の2次元、あるいは3方向の3次元に対して行うことで、構造体または空間の所定領域をより効率的に細分化して熱解析を行えるようになる。また、所定領域を一方向に分割する手法は上述の第1の実施形態および第2の実施形態における熱解析にも同様に適用することができ、同様な作用効果が奏される。
【0048】
図10は、上記の第3の実施形態によって回路基板4を選択的に細分化して熱解析した結果を、同じ回路基板4を均等に分割して細分化して行った熱解析結果と比較して示すグラフである。同グラフの横軸はモデル自由度で領域を分割する粗さを表し、数値が小さいほど分割が粗く、数値が大きいほど分割が細かいことを表す。また、同グラフの縦軸は熱源部品の最大温度[℃]を表す。また、実線の折れ線で示す特性線11は第3の実施形態による熱解析結果、一点鎖線の折れ線で示す特性線12は領域を均等分割して行った熱解析結果を表す。また、点線の直線で示す特性線13は形状モデルを忠実に再現して熱解析計算をした結果を表す。同グラフから、特性線11は同じモデル自由度で特性線12よりも特性線13に近い熱解析結果が得られ、第3の実施形態によって回路基板4を選択的に細分化した熱解析は、領域を均等分割して行った熱解析よりも、忠実形状モデルの熱解析結果に近い精度の高い解析結果が得られることが、理解される。
【0049】
また、上記の各実施形態では、所定領域を細分化して熱対策感度指標Rdの大きい細分化領域内部の計算用メッシュや等価物性計算領域を細分化すると共に細分化領域を再分割し、細分化領域を狭めていく場合について、説明した。しかし、逆に、熱対策感度指標Rdの小さい細分化領域について計算用メッシュや等価物性計算領域を粗くすると共に細分化領域を統合することでも、構造体または空間の所定領域を効率的に分割して熱解析を行うことができる。
【0050】
図11は、このような熱解析を行う本発明の第4の実施形態による熱解析装置1Dの構成を示すブロック図である。図12は、この熱解析装置1Dによって実行される熱解析方法の概略を表わすフローチャートである。図11および図12において図1および図2と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0051】
図11に示す第4の実施形態による熱解析装置1Dは、プロセッサ2が、熱対策感度指標算出手段2cで各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで、指標値の小さい隣接する所定数の細分化領域を、1つの統合領域にまとめる領域統合手段2jを機能ブロックとして有する点が、図1に示す第1の実施形態による熱解析装置1Aと相違する。また、図12のフローチャートに示す第4の実施形態による熱解析方法は、再分割処理ステップ104の後に領域統合処理ステップ110を有する点が、図2のフローチャートに示す第1の実施形態による熱解析方法と相違する。
【0052】
また、ROM3aに記憶された第4の実施形態によるコンピュータプログラムは、第1の実施形態によるコンピュータプログラムがコンピュータを上述の各手段として機能させるのに加え、コンピュータを、さらに、熱対策感度指標算出手段2cで各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで指標値の小さい隣接する所定数の細分化領域を1つの統合領域にまとめさせる領域統合手段2jとして機能させる点において、第1の実施形態によるコンピュータプログラムと相違する。
【0053】
再分割手段2dは、再分割処理ステップ104において、熱対策感度指標算出処理ステップ103で各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで、指標値の大きい所定数の各細分化領域を複数の細分化領域に再度分割する。例えば、図9(a)に示すように細分化された回路基板4の各細分化領域のなかで、熱対策感度指標Rdの指標値が最も高い細分化領域4eについて、図9(b)に示すように2つの細分化領域4e1,4e2に再分割する。
【0054】
次に、領域統合手段2iは、領域統合処理ステップ110において、熱対策感度指標算出処理ステップ103で各細分化領域について算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで、指標値の小さい隣接する所定数の細分化領域を、1つの統合領域にまとめると共に、これら細分化領域内の計算用メッシュおよび等価物性算出領域の粗化を行う。例えば、図9(a)に示す隣接する3つの細分化領域4f,4g,4hが、算出された複数の熱対策感度指標Rdのなかで指標値が小さいものである場合、これらの3つの細分化領域4f,4g,4hを1つの統合領域にまとめると共に、これら細分化領域4f,4g,4h内の計算用メッシュおよび等価物性算出領域の粗化を行う。まとめた統合領域は記憶部3に記憶される。熱再解析手段2eは、再分割処理ステップ104によって細分化および粗化を行った計算用メッシュおよび等価物性算出領域を用いて、熱解析を再度行う。
【0055】
このような第4の実施形態による熱解析方法、熱解析装置1D、およびコンピュータプログラムによれば、上記のように、熱対策感度指標Rdの指標値の小さい隣接する所定数の細分化領域が、1つの統合領域にまとめられると共に、これら細分化領域内の計算用メッシュおよび等価物性算出領域の粗化が行われる。したがって、構造体または空間の所定領域が分割されて得られる細分化領域のうち、熱対策感度指標Rdの指標値が小さくて、熱対策の重要度が低い隣接する所定数の細分化領域の粗化により計算負荷が低減され、各細分化領域の熱解析の精度に与える影響を効率的に評価し、領域分割時の離散化に伴う計算精度の低下を回避しながら、計算を行うことが可能になる。
【0056】
また、上記の各実施形態においても、この第4の実施形態のように、熱対策感度指標Rdの指標値の小さい隣接する所定数の細分化領域を1つの統合領域にまとめて記憶しておくことで、第4の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0057】
また、上記の第4の実施形態では、再分割処理ステップ104で、所定数の各細分化領域を複数の細分化領域に再度分割する場合について説明したが、この再分割処理ステップ104を行わずに、領域統合処理ステップ110で、所定数の細分化領域を1つの統合領域にまとめ、計算用メッシュおよび等価物性算出領域の粗化だけを行うように構成することもできる。このように構成することで、後の処理において、所定数の細分化領域を1つの統合領域として扱えるようになり、計算の負荷が軽減されるようになる。
【符号の説明】
【0058】
1A,1B,1C,1D…熱解析装置(コンピュータ)
2…プロセッサ
2a…初期分割手段
2b…初期熱解析手段
2c…熱対策感度指標算出手段
2d…再分割手段
2e…熱再解析手段
2f…分割繰り返し手段
2g…熱解析繰り返し手段
2h…等価物性算出手段
2i…終了判定手段
2j…領域統合手段
3…記憶部
3a…ROM
3b…RAM
4…回路基板(構造体)
4a,4b,4c,4d,4e,4f,4g,4h…細分化領域
4a1,4a2…細分化領域4aから再分割された細分化領域
4a2A,4a2B…細分化領域4a2から再分割された細分化領域
4e1,4e2…細分化領域4eから再分割された細分化領域
5…分割線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12