(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析装置の操作方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20240918BHJP
H05H 1/00 20060101ALI20240918BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240918BHJP
【FI】
H01J49/00 500
H01J49/00 310
H05H1/00 A
G01N27/62 G
(21)【出願番号】P 2023539639
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014581
(87)【国際公開番号】W WO2023013161
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021126980
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 一高
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀典
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 雄太
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-177784(JP,A)
【文献】特開2012-037529(JP,A)
【文献】特開2013-037815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
H01J 49/26
H05H 1/00
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室内にプリカーサイオンを導入するステップと、
原料ガス供給部及び高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせることにより前記原料ガスからラジカルを生成するステップと、
前記反応室内に前記ラジカルを導入することによりプロダクトイオンを生成するステップと、
前記ラジカル生成室の内部の前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定するステップと、
前記所定の期間以外の期間に前記光の強度が予め決められた異常判定閾値を超えていることに基づき
質量分析装置の異常を判断して通知するステップと
を備える質量分析
装置の操作方法。
【請求項2】
さらに、
前記ラジカル生成室に前記原料ガス及び前記高周波電力が供給された状態で、該ラジカル生成室に所定波長の光を照射するステップ
を備える請求項1に記載の質量分析
装置の操作方法。
【請求項3】
前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定するステップにおいて、該プラズマから発せられる光のうち、前記所定波長と異なる波長の光を検出する、請求項2に記載の質量分析
装置の操作方法。
【請求項4】
前記所定の期間における前記光の強度が予め決められたプラズマ点灯閾値を超えていない場合に、前記原料ガス及び/又は前記高周波電力の供給量を増大する、請求項1に記載の質量分析
装置の操作方法。
【請求項5】
前記反応室にプリカーサイオンが導入される期間に、前記高周波電力供給部に対して所定の周波数及びデューティ比で繰り返し前記制御信号を送信する、請求項1に記載の質量分析
装置の操作方法。
【請求項6】
前記周波数が333kHz未満である、請求項5に記載の質量分析
装置の操作方法。
【請求項7】
異常判定閾値が保存された記憶部と、
プリカーサイオンが導入される反応室と、
ラジカル生成室と、
前記ラジカル生成室の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記ラジカル生成室の内部にプラズマを生じさせるための高周波電力を供給する高周波電力供給部と、
前記原料ガス供給部及び前記高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、前記ラジカル生成室に
前記原料ガス及び
前記高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせるプラズマ生成制御部と、
前記ラジカル生成室の内部で前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定する光検出部と、
前記所定の期間以外の期間に前記光検出部により測定された光の強度が前記異常判定閾値を超えているか否かを判定する光強度判定部と、
前記光強度判定部が、前記光の強度が前記異常判定閾値を超えていると判定した場合に
質量分析装置の異常を通知する異常通知部と
を備える質量分析装置。
【請求項8】
さらに、
前記ラジカル生成室に所定波長の光を照射する光照射部
を備え、
前記プラズマ生成制御部が、さらに、
前記ラジカル生成室に前記原料ガス及び前記高周波電力が供給された状態で、該ラジカル生成室に所定波長の光を照射するように前記光照射部を制御する、請求項7に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記光照射部が紫外光を発するLED光源であり、
前記光検出部が可視光領域に感度を有するフォトダイオードである、請求項8に記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記記憶部に、さらに、プラズマ点灯閾値が保存されており、
前記光強度判定部が、さらに、前記所定の期間における前記光の強度が前記プラズマ点灯閾値を超えているか否かを判定し、
前記光強度判定部が、前記光の強度が前記プラズマ点灯閾値を超えていないと判定した場合に、前記プラズマ生成制御部が、前記原料ガス及び/又は前記高周波電力の供給量を増大する、請求項7に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置及び質量分析装置の操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる高分子化合物等の試料成分を同定したりその構造を解析したりするために、試料成分由来のイオンから特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別し、そのプリカーサイオンを解離させて生成した種々のプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離し検出する質量分析法が広く利用されている。
【0003】
高分子化合物の多くは炭化水素鎖を主たる骨格とする有機物である。こうした高分子化合物の特性を知るには、炭素原子の不飽和結合の有無、特徴的な官能基の有無などの情報を得ることが有効である。そこで、最近では、試料成分由来のプリカーサイオンにラジカルを付着させることにより炭素原子の不飽和結合や特定の官能基の位置でプリカーサイオンを解離させる、ラジカル付着解離法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、反応室に導入したプリカーサイオンに水素ラジカル等を照射して付着させることによりペプチド結合の位置で選択的にプリカーサイオンを解離させることが記載されている。また、特許文献3及び4には、反応室に導入したプリカーサイオンに酸素ラジカル等を照射して付着させることにより炭化水素鎖に含まれる不飽和結合の位置で選択的にプリカーサイオンを解離させることが記載されている。
【0005】
ラジカル付着解離法において使用するラジカルは、例えば原料ガスを導入したラジカル生成室内に誘導結合型プラズマを生じさせることにより生成される。特許文献5及び非特許文献1には、石英管の外周にスパイラルアンテナを巻回し、その内部に原料ガスを導入して該アンテナに高周波電力を供給することにより誘導結合プラズマを発生させてラジカルを生成し、石英キャピラリを通じてラジカルを反応室に輸送する構成を有するラジカル供給部が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/133259号
【文献】国際公開第2018/186286号
【文献】国際公開第2019/155725号
【文献】国際公開第2020/240908号
【文献】特開2020-177784号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hidenori Takahashi, Yuji Shimabukuro, Daiki Asakawa, Akihito Korenaga, Masaki Yamada, Shinichi Iwamoto, Motoi Wada, Koichi Tanaka, "Identifying Double Bond Positions in Phospholipids Using Liquid Chromatography-Triple Quadrupole Tandem Mass Spectrometry Based on Oxygen Attachment Dissociation", Mass Spedctrometry, Volume 8, Issue 2, Pages S0080, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のラジカル供給部を備えた質量分析装置では、試料成分由来のイオンが反応室に導入されるタイミングに合わせてラジカル生成室に高周波電力を供給するように、測定制御部から高周波電源に対して所定の開始制御信号が送られる。また、反応室においてプロダクトイオンの生成が終了すると測定制御部から高周波電源に所定の終了制御信号が送られる。しかし、測定制御部と高周波電源の間で制御信号の送受信に不具合が生じ、例えば高周波電力の供給を停止する終了制御信号が不達になると、不要な期間においても高周波電力が供給されてプラズマが生成し続け、ラジカル生成室内が昇温していく。ラジカル生成室を構成する石英管や輸送管である石英キャピラリ自体の耐熱温度は1000℃以上と高いものの、これらを固定しラジカル生成室をシールするために用いられるOリングの耐熱温度は100~200℃と低い。そのため、ラジカル生成室内が昇温し続けると、耐熱温度が低い部材が破損してラジカル生成室の真空が破壊されるおそれがある。ラジカル生成室と質量分析装置の反応室は石英キャピラリで連通しているため、ラジカル生成室で真空破壊すると質量分析装置の内部の真空も破壊されて装置内が汚染されてしまう。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ラジカル生成室内でプラズマを生じさせることにより原料ガスからラジカルを生成し、該ラジカルをプリカーサイオンに照射してプロダクトイオンを生成する質量分析装置において、不所望の時点でプラズマが生じていることを使用者が速やかに発見することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の操作方法は、
反応室内にプリカーサイオンを導入するステップと、
原料ガス供給部及び高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせることにより前記原料ガスからラジカルを生成するステップと、
前記反応室内に前記ラジカルを導入することによりプロダクトイオンを生成するステップと、
前記ラジカル生成室の内部の前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定するステップと、
前記所定の期間以外の期間に前記光の強度が予め決められた異常判定閾値を超えていることに基づき質量分析装置の異常を判断して通知するステップと
を備える。
【0011】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
異常判定閾値が保存された記憶部と、
プリカーサイオンが導入される反応室と、
ラジカル生成室と、
前記ラジカル生成室の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記ラジカル生成室の内部にプラズマを生じさせるための高周波電力を供給する高周波電力供給部と、
前記原料ガス供給部及び前記高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、前記ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせるプラズマ生成制御部と、
前記ラジカル生成室の内部で前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定する光検出部と、
前記所定の期間以外の期間に前記光検出部により測定された光の強度が前記異常判定閾値を超えているか否かを判定する光強度判定部と、
前記光強度判定部が、前記光の強度が前記異常判定閾値を超えていると判定した場合に質量分析装置の異常を通知する異常通知部と
を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る質量分析装置の操作方法及び質量分析装置では、原料ガス供給部及び高周波電力供給部に所定の制御信号を送信し、所定の期間、ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせ、該原料ガスからラジカルを生成する。所定の期間とは、典型的には反応室内に分析対象の試料成分由来のプリカーサイオンが導入される期間の一部又は全部の期間である。本発明では、ラジカル生成室内で生じたプラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定し、上記所定の期間以外の期間、即ち不要な期間、に光の強度が予め決められた異常判定閾値を超えていることに基づき質量分析装置の異常を判断してその異常を通知する。従って、使用者はこの通知に基づき、質量分析装置の異常によって不所望のタイミングでプラズマが生じていることを速やかに確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る質量分析装置の一実施例の要部構成図。
【
図2】本実施例の質量分析装置におけるラジカル供給部の概略構成図。
【
図3】本発明に係る質量分析
装置の操作方法の一実施例の手順を示すフローチャート。
【
図4】本実施例における光照射のタイミングの一例。
【
図5】本実施例における光照射のタイミングの別の一例。
【
図6】本実施例における光照射のタイミングのさらに別の一例。
【
図7】本実施例における光検出器からの出力信号について説明する図。
【
図8】本実施例における光検出器からの出力信号の判定結果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る質量分析装置及び質量分析装置の操作方法の実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施例の質量分析装置1を液体クロマトグラフ2と組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置100の要部構成図である。
【0016】
液体クロマトグラフ2は、移動相が収容された移動相容器20、移動相を送液する送液ポンプ21、インジェクタ22、及びカラム23を備えている。また、インジェクタ22には複数の液体試料を所定の順番でインジェクタに導入するオートサンプラ24が接続されている。
【0017】
質量分析装置1は、略大気圧であるイオン化室10と真空チャンバで構成される本体と制御・処理部7を備えている。真空チャンバの内部には、イオン化室10の側から順に、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第3中間真空室13、及び分析室14を備えており、この順に真空度が高くなる多段差動排気系の構成を有している。
【0018】
イオン化室10には、液体試料に電荷を付与して噴霧するエレクトロスプレイイオン化プローブ(ESIプローブ)101が設置されている。ESIプローブ101には、液体クロマトグラフ2のカラム23で分離された試料成分が順次、導入される。
【0019】
イオン化室10と第1中間真空室11は細径の加熱キャピラリ102を通して連通している。第1中間真空室11には径が異なる複数のリング状の電極で構成され、イオンの飛行経路の中心軸であるイオン光軸Cの近傍にイオンを集束させるイオンレンズ111が配置されている。
【0020】
第1中間真空室11と第2中間真空室12は頂部に小孔を有するスキマー112で隔てられている。第2中間真空室12には、イオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを集束させるイオンガイド121が配置されている。
【0021】
第3中間真空室13には、イオンを質量電荷比に応じて分離する四重極マスフィルタ131、多重極イオンガイド133を内部に備えたコリジョンセル132、及びコリジョンセル132から放出されたイオンを輸送するためのイオンガイド134が配置されている。イオンガイド134は同一径の複数のリング状の電極で構成されている。
【0022】
コリジョンセル132には衝突ガス供給部4が接続されている。衝突ガス供給部4は、衝突ガス源41、該衝突ガス源41からコリジョンセル132にガスを導入するガス導入流路42、及び該ガス導入流路42を開閉するバルブ43を有している。衝突ガスには、例えば窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガスが用いられる。プリカーサイオンをラジカル付着反応により解離させる後述の測定例とは別に、同じ液体試料に含まれる化合物を衝突誘起解離(CID)によって開裂させる測定を行うことにより、ラジカル付着反応で生じるプロダクトイオンとは異なる分子構造を持つプロダクトイオンの情報を収集することができる。
【0023】
また、コリジョンセル132には、ラジカル供給部5も接続されている。
図1及び2に示すように、ラジカル供給部5は、内部にラジカル生成室51が形成されたラジカル源54と、ラジカル生成室51を排気する真空ポンプ(図示略)と、ラジカルの原料となるガス(原料ガス)を供給する原料ガス供給源52と、高周波電力供給部53とを備えている。原料ガス供給源52からラジカル生成室51に至る流路には、原料ガスの流量を調整するためのバルブ56が設けられている。
【0024】
ラジカル源54は、誘電体からなる管状体541を有しており、その内部空間がラジカル生成室51となる。管状体541のうち、磁石544の内側に位置する部分の外周にはスパイラルアンテナ542が巻回されている。
【0025】
また、ラジカル源54には、高周波電力投入部546が設けられている。高周波電力投入部546には高周波電力供給部53から高周波電力が供給される。さらに、ラジカル源54は、該ラジカル源54の先端部分を固定するためのフランジ547を備えている。フランジ547の内部には、磁石544と対を成す、中空筒状の磁石548が収容されている。磁石544、548により管状体541の内部(ラジカル生成室51)に磁場が発生し、その作用によりプラズマの発生及び維持が容易になる。
【0026】
本実施例では、プラズマ生成制御部76(後記)から高周波電力供給部53に対してパルス幅変調(PWM)した制御信号を送信し、それに応じてON/OFFする高周波電力が高周波電力投入部546に供給される。この高周波電力の周波数は、例えば100Hzであり、デューティ比(1周期に占めるON期間の割合)は、例えば20%である。高周波電力の周波数は、後述する光検出部の応答速度に応じて適宜に決めればよい。具体的には、例えば信号の応答速度1.5μs程度である一般的な応答特性を有するフォトダイオードの場合、信号の立ち上がりと立ち下がりに合計で約3μsを要する。そのため、こうした一般的なフォトダイオードを光検出部に用いる場合には、ON/OFFのデューティ比も考慮した上で高周波電力の周波数を333kHz以下の適宜の値に定めればよい。もちろん、より高速に応答するフォトダイオード等を光検出器62として用いてもよいが、その場合は装置が高価になる。
【0027】
また、ラジカル源54のラジカル生成室51を臨む位置には、所定の波長の光を照射する光源61と、光検出器62が配置されている。光検出器62は、プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光を検出する。光検出器62には、光源61から発せられる光に対して感度を持たないものを用いることが好ましい。本実施例では、光源61として深紫外光を発するLED光源(UV-LED)を使用し、光検出器62として可視光領域に感度を有する(紫外光を検出しない)フォトダイオードを用いる。これにより、光源61から発せられる光の影響を受けることなくプラズマの発光を検出することができる。光検出器62は、入射光の強度に応じた測定値を取得なものであればよく、フォトダイオード以外のものを用いてもよい。例えば、フォトダイオードと同様に動作するフォトトランジスタや、入射光の強度に応じて抵抗値が変化する、CdS(硫化カドミウム)を用いたフォトレジスタなどを光検出器62として用いることができる。
【0028】
本実施例でラジカル生成室51に照射する深紫外光は、人体に照射されると皮膚がんや白内障などの有害な影響を及ぼす。そのため、ラジカル生成室51の内部を気密に維持するとともに、ラジカル生成室51の内部の光が外部に出射せず、またラジカル生成室51の外部の光が内部に入射しないように、測定前にはラジカル生成室51が封止される。
【0029】
ラジカル源54の出口端にはバルブ582を介して、ラジカル生成室51内で生成されたラジカルをコリジョンセル132に輸送するための輸送管58が接続されている。輸送管58は絶縁管であり、例えば石英ガラス管やホウケイ酸ガラス管を用いることができる。
【0030】
輸送管58のうち、コリジョンセル132の壁面に沿って配設された部分には、複数のヘッド部581が設けられている。各ヘッド部581には傾斜したコーン状の照射口が設けられており、イオンの飛行方向の中心軸(イオン光軸C)と交差する方向にラジカルが照射される。これにより、コリジョンセル132の内部を飛行するイオンに対してまんべんなくラジカルを照射することができる。
【0031】
分析室14には、第3中間真空室13から入射したイオンを輸送するためのイオン輸送電極141、イオンの入射光軸(直交加速領域)を挟んで対向配置された1組の押し出し電極1421と引き込み電極1422からなる直交加速電極142、該直交加速電極142により飛行空間に送出されるイオンを加速する加速電極143、飛行空間においてイオンの折り返し軌道を形成するリフレクトロン電極144、イオン検出器145、及び飛行空間の外縁を規定するフライトチューブ146を備えている。イオン検出器145は、例えば電子増倍管やマルチチャンネルプレートである。
【0032】
制御・処理部7は、各部の動作を制御するとともに、光検出器62及びイオン検出器145で得られたデータを保存及び解析する機能を有する。制御・処理部7は、記憶部71と計時部72を備えている。記憶部71には化合物データベース711とラジカル情報データベース712が収録されている。化合物データベース711には、既知化合物の測定条件(保持時間、プリカーサイオンの質量電荷比、当該試料の分析時に照射するラジカル種)やプロダクトイオンスペクトルなどの情報が収録されている。
【0033】
また、ラジカル情報データベース712には、ラジカル種毎に、当該ラジカルを生成する際に用いる原料ガスの種類、原料ガスの流量、及び高周波電力の大きさ及びPWM波形(周波数とデューティ比)の情報などが収録されている。原料ガスの流量と高周波電力の大きさについては、2種類のプラズマ生成条件(第1プラズマ生成条件と第2プラズマ生成条件)が用意されており、それらを使い分けるための基準時間の情報とともに保存されている。第1プラズマ生成条件は、前回ラジカルを生成してから基準時間以上の時間が経過しているとき、及び後記第2プラズマ生成条件ではプラズマが点灯しないときに用いられる。第2プラズマ生成条件は、前回ラジカルを生成してからの経過時間が基準時間未満であるときに用いられる。第2プラズマ生成条件は、原料ガスの流量及び/又は高周波電力の大きさが、第1プラズマ生成条件よりも小さな値に設定されている。なお、本実施例において、高周波電力が大きいとは、単位時間に供給される電力量が大きいことを意味しており、具体的には、PWM波形のデューティ比が同じであって振幅が大きい場合と、振幅が同じであってデューティ比が大きい場合の両方が含まれる。
【0034】
ラジカル生成室51内で生成されたラジカルの一部はラジカル生成室51の内部に残留し、時間の経過とともに少しずつ消失する。ラジカル生成室51の内部にラジカルが残留している状態で原料ガスが導入されると、原料ガス分子がラジカルとの接触により励起されラジカル化しやすい状態になるため、ラジカル生成室51内にラジカルが存在しない場合に比べて原料ガスの流量及び/又は高周波電力を小さく抑えても原料ガスからラジカルを生成することができる。上記基準時間は、ラジカル生成室51内にラジカルが残留していると見做せる時間に相当する。前回ラジカルを生成してからの経過時間がこの基準時間未満である場合に、原料ガスの流量及び/又は高周波電力の供給量を抑えることで、原料ガス及び電力の消費量を低減することができる。ラジカル生成室51内にラジカルが残留している時間、及びラジカルの生成に必要な原料ガスの流量及び高周波電力の大きさは、ラジカル生成室51の容積や構造に依存するため、基準時間の長さと第1ラジカル照射条件及び第2ラジカル照射条件における原料ガスの流量及び高周波電力の大きさの具体的な値は、予備実験を行ったりシミュレーションしたりするなどして装置毎に設定すればよい。
【0035】
さらに、記憶部71には、光検出器62の検出強度に関する2種類の閾値(第1閾値と第2閾値)が保存されている。第1閾値(本発明におけるプラズマ点灯閾値に相当)は、プラズマが点灯しているか否かを判断するために用いられる。第1閾値は、第1プラズマ生成条件を用いてプラズマを点灯させるときと第2プラズマ生成条件を用いてプラズマを点灯させるときの両方に共通の値とすればよいが、生成条件毎に異なる値としてもよい。また、第2閾値(本発明における異常判定閾値に相当)は、装置の異常の発生を検知するために用いられる。ラジカル生成室51内で発生するプラズマの量はプラズマ生成条件、ラジカル生成室51の構成、あるいは光検出器62の配置によって異なる。そのため、第1閾値及び第2閾値についても、予備実験を行ったりシミュレーションしたりするなどして装置毎に設定すればよい。なお、本実施例では第1閾値と第2閾値を別の値にしているが、第1閾値と第2閾値は同じ値であってもよい。
【0036】
その他、記憶部71には後述する測定を実行する際の測定条件を記載したメソッドファイルや、イオンの飛行時間をイオンの質量電荷比に変換するための情報も保存されている。
【0037】
制御・処理部7は、さらに、機能ブロックとして、測定条件設定部73、測定制御部74、経過時間判定部75、プラズマ生成制御部76、光強度判定部77、及び異常情報出力部78を備えている。制御・処理部7の実体は、各部の動作に必要な回路が形成された制御基板を備え、入力部8及び表示部9が接続された一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた質量分析プログラムをプロセッサで実行することにより上記の機能ブロックが具現化される。
【0038】
次に、本発明に係る質量分析
装置の操作方法の一例として、本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置100を用いた分析の手順を説明する。
図3は、分析の手順を示すフローチャートである。この例では、複数の液体試料のそれぞれに含まれる目的成分を測定する。また、前回の液体試料の測定から数日が経過しているものとする。
【0039】
使用者が所定の入力操作により分析開始を指示すると、測定条件設定部73は、化合物データベース711に収録されている化合物を表示部9の画面に表示し、使用者に測定対象である1乃至複数の目的化合物を指定させる。使用者が目的化合物を指定すると、測定条件設定部73は化合物データベース711から各化合物の測定条件を読み出し、複数の液体試料の連続測定を実行するためのバッチファイルを作成する。
【0040】
バッチファイルが作成された後、使用者が所定の入力操作により測定開始を指示すると、測定制御部74は、真空ポンプを動作させてラジカル生成室51の内部が所定の真空度になるように排気する。
【0041】
次に、測定制御部74は、予め使用者がオートサンプラ24にセットした複数の液体試料のうち所定の位置にセットされたものを最初の測定試料としてインジェクタ22に導入する(ステップ1)。液体試料は移動相容器20から送液ポンプ21によって送液される移動相の流れに乗ってカラム23に導入される。液体試料に含まれる各成分はカラム23で時間的に分離されたあと、順次、エレクトロスプレイイオン化プローブ101に導入される。
【0042】
エレクトロスプレイイオン化プローブ101で生成された目的化合物のイオンはイオン化室10と第1中間真空室11の圧力差により、加熱キャピラリ102を通って第1中間真空室11に引き込まれる。第1中間真空室11ではイオンレンズ111によってイオンがイオン光軸Cの近傍に集束される。
【0043】
第1中間真空室11で集束されたイオンは続いて第2中間真空室12に進入し、再びイオンガイド121によってイオン光軸Cの近傍に集束されたあと、第3中間真空室13に進入する。
【0044】
第3中間真空室13では、四重極マスフィルタ131によって、目的化合物から生成されたイオンの中からプリカーサイオンが選別される。四重極マスフィルタ131を通過したプリカーサイオンはコリジョンセル132に導入される。
【0045】
測定開始後、光検出器62は、ラジカル生成室51内の所定波長の光の強度を所定の時間間隔で測定する。光検出器62からの出力信号は順次、制御・処理部7に送信され、記憶部71に保存される。本実施例の光検出器62はフォトダイオードであり、出力信号として電圧信号が制御・処理部7に入力される。上記の通り、フォトダイオード以外のものを光検出器62として用いてもよい。
【0046】
制御・処理部7では、光強度判定部77が、光検出器62からの出力信号の値を、記憶部71に保存されている第2閾値と比較する。そして、光検出器62からの出力信号の値が第2閾値以下である場合には(ステップ2でYES)、装置に異常は発生していないと判定する。一方、光検出器62からの出力信号の値が第2閾値を超えている(ステップ2でNO)場合には、装置に異常が発生していると判定する。光強度判定部77が装置に異常が発生していると判定すると、異常情報出力部78は装置に異常が発生していることを表示部9に表示し(ステップ3)、測定を停止する(ステップ4)。この場合には、表示部9に、例えば「外部光が検出されています。ラジカル生成室のシール状態を確認してください。」のようなメッセージを通知するとよい。
【0047】
光検出器62からの出力信号は、ラジカル生成室51における所定波長の光(プラズマ発光に含まれる可視光帯域の波長の光)の強度を反映したものである。ラジカル生成室51が完全に封止された状態になっていれば、この期間(高周波電力が供給されていない期間)にプラズマが生成されることはなく、従って、光検出器62からの出力信号が第2閾値を超えることはないはずである。この期間に光検出器62からの出力信号が第2閾値を超えている理由としては、ラジカル生成室51が完全に封止されておらず、ラジカル生成室51の外部の光がラジカル生成室51の内部に進入していることが考えられる。このような状態で測定を継続すると、目的化合物の保持時間に照射する深紫外光がラジカル生成室51の外部に漏れ、人体に照射される恐れがある。本実施例では、この期間に光検出器62からの出力信号が第2閾値を超えている場合に異常情報出力部78が装置の異常を通知して測定を終了するため、ラジカル生成室51の封止が不十分である場合にも安全を担保することができる。
【0048】
測定開始後、目的化合物の保持時間の所定時間(例えば1分)前になると(ステップ5でYES)、 経過時間判定部75は、計時部72による計測時間の情報を取得する。この所定時間は、目的化合物がカラム23から流出する際の流出量の立ち上がりの早さなどを考慮して適宜に決めてメソッドファイルに記載しておけばよい。
【0049】
経過時間判定部75が、最後にプラズマを生成してから基準時間以上の時間が経過していると判定すると(ステップ6でYES)、プラズマ生成制御部76は原料ガス供給源52及び高周波電力供給部53に第1プラズマ生成条件を設定する制御信号を送信する(ステップ7)。一方、経過時間判定部75が、最後にプラズマを生成してから基準時間が経過していないと判定すると(ステップ6でNO)、プラズマ生成制御部76は原料ガス供給源52及び高周波電力供給部53に第2プラズマ生成条件を設定する制御信号を送信する(ステップ8)。原料ガス供給源52には、第1プラズマ生成条件又は第2プラズマ生成条件に基づいて所定量の原料ガスの供給の開始を指示する開始制御信号が送信され、原料ガスがラジカル生成室51に導入される。また、高周波電力供給部53には、第1プラズマ生成条件又は第2プラズマ生成条件に基づいて所定の大きさのPWM波形を有する制御信号が送信され、高周波電力投入部546を通じて、該PWM波形に基づいてON/OFFする高周波電力がスパイラルアンテナ542に供給される。
【0050】
また、プラズマ生成制御部76は、ラジカル生成室51内の原料ガスに対して高周波電力が供給した状態で光源61にも制御信号を送信し、ラジカル生成室51内に所定波長の光を照射する(ステップ9)。本実施例では、
図4~
図6に示す3通りの方法を適宜に使い分けてラジカル生成室51に光を照射することができる。
図4に示す方法では、高周波電力供給部53と光源61に対して同じPWM制御信号を送信し、高周波電力の供給と同じタイミングでラジカル生成室51内に深紫外光を間欠的に照射する。
図5に示す方法では、目的化合物の保持時間の所定時間(例えば1分)前に、最初に高周波電力供給部53に送信する制御信号と同時に、光源61にもON制御信号を送信して該光源61を点灯させ続け、最後に高周波電力供給部53に送信するOFF制御信号と同時に光源61を消灯する。
図6に示す方法では、目的化合物の保持時間の所定時間前に、最初に高周波電力供給部53に送信するON制御信号及びOFF制御信号と同時に光源61に対して1度だけON制御信号及びOFF制御信号を送信し、該光源61を1度だけ点灯させる。原料ガスの種類によって、プラズマが発生しやすい場合とし難い場合がある。そのため、例えば、通常は
図4に示す方法でプラズマを生成し、プラズマが発生し難い場合には
図5に示す方法でプラズマを生成し、プラマが発生しやすい場合には
図6に示す方法でプラズマを生成するようにこれらの方法を使い分ければよい。実際の測定時にどの方法を採るかは、予備実験やシミュレーションを行うことにより予め決めておくことができる。
【0051】
ラジカル生成室51内に照射する光の波長は、ラジカル生成室51を構成する材料に応じて決められる。例えば石英からなる管状体541が用いられる場合には、275nm以下の波長の光が照射される。これによって、ラジカル生成室51を構成する管状体541の壁面から電子が放出される。この電子によってプラズマ発光が誘発される。
【0052】
光強度判定部77では、プラズマ生成制御部76から高周波電力供給部53に対して送信される制御信号(PWM波形の信号)と、光検出器62からの出力信号(出力電圧波形の信号)を受信する。そして、光強度判定部77は、PWM波形がOFFである期間(ラジカル生成室51に高周波電力が供給されていない期間)の光検出器62からの出力信号が第2閾値以下であるか(ステップ10)、及びPWM波形がONである期間(ラジカル生成室51に高周波電力が供給されている期間)の光検出器62の出力信号が第1閾値を超えているか(ステップ11)をそれぞれ判定する。光強度判定部77は、PWM波形がONである期間に対応する光検出器62の出力信号(
図3におけるON出力信号)と、PWM波形がOFFである期間に対応する光検出器の出力信号(
図3におけるOFF出力信号)を分離してそれぞれを積算する処理を行ったうえで、第1閾値及び第2閾値と比較する。なお、
図7に示すように、PWM波形はデジタル制御により生成可能な波形であるため瞬時にON/OFFが切り替わるが、光検出器62からの出力信号はアナログの電圧信号であるため裾を持つ信号となる。ラジカル生成室51の内部が完全に封止されていたとしても、PWM波形がOFFである期間の光検出器62からの出力信号がゼロになるわけではないため、PWM波形がON/OFFである期間の光検出器62からの出力信号について、それぞれ時間平均を求め、それを第1閾値又は第2閾値と比較する。
【0053】
PWM波形がONである期間の光検出器62の出力が第1閾値を超えていることは、ラジカル生成室51でプラズマが生成されていることを意味する。また、PWM波形がOFFである期間の光検出器62の出力が第2閾値以下であることは、ラジカル生成室51内が完全に封止され外部からの光が進入していないことを意味する。
【0054】
上記判定の結果、光検出器62のOFF出力信号が第2閾値以下であり(ステップ10でYES)、ON出力信号が第1閾値を超えている場合には(ステップ10でYES。
図8における正常に相当。)、そのまま測定を継続し、生成したラジカルをコリジョンセル132に導入する(ステップ14)。
【0055】
光検出器62のOFF出力信号は第2閾値以下であるが(ステップ10でYES)、判定を開始してから所定時間(例えば5秒)が経過してもPWM波形がONである期間の光検出器62の出力が第1閾値を超えない場合には(ステップ11でNO。
図8における異常1に相当。)、プラズマが点灯していないと判定する。この場合には、プラズマ生成制御部76は、高周波電力の及び/又は原料ガスの供給量を予め決められた大きさ(又は割合)だけ増大する(ステップ12)。そして変更の回数が予め決められた回数に達していない場合(ステップ13でNO)には、再びステップ11に戻る。高周波電力及び/又は原料ガスの供給量を予め決められた回数変更しても、光強度判定部77によりPWM波形がONである期間の光検出器62の出力が第1閾値を超えると判定されない場合には(ステップ13でYES)、原料ガス供給源52あるいは高周波電力供給部53に不具合が生じていると判定する。この場合には、異常情報出力部78は装置に異常が発生していることを表示部9に表示し(ステップ3)、測定を停止する(ステップ4)。この場合には、表示部9に、例えば「最大出力でもプラズマが点灯しません。原料ガス供給部と高周波電力供給部を確認してください。」のようなメッセージを表示するとよい。
【0056】
光検出器62のOFF出力信号が第2閾値を超えている場合(ステップ10でNO)には、装置に異常が発生していると判定する。そして異常情報出力部78は、装置に異常が発生していることを表示部9に表示し(ステップ3)、測定を停止する(ステップ4)。このうち、光検出器62のON出力信号が第1閾値を超えていない場合(
図8における異常2に相当。)には、高周波電力が供給されるタイミングでプラズマが点灯しているものの、制御信号の送信経路や、光検出器62からの出力信号の受信経路に信号の遅れが生じていることが考えられる。この場合には、異常情報出力部78は、表示部9に、例えば「信号遅れが発生しています。信号経路を確認してください。」のようなメッセージを通知する。
【0057】
一方、光検出器62のON出力信号も第1閾値を超えている場合(
図8における異常3に相当。)には、ラジカル生成室51の外部から光が進入していることが考えられる。この場合には、異常情報出力部78は、表示部9に、例えば「外部光が検出されています。ラジカル生成室のシール状態を確認してください。」のようなメッセージを通知する。
【0058】
プラズマ生成制御部76は、目的化合物の保持時間から所定時間(例えば1分)経過すると、原料ガス及び高周波電力の供給と光の照射を停止する(ステップ15)。 これによりプラズマが消失し、ラジカルの生成及び供給が停止される。この所定時間は、目的化合物の保持時間(カラム23から目的化合物が流出する時間)の長さを考慮して適宜に決めてメソッドファイルに記載しておけばよい。
【0059】
原料ガスの供給及び高周波電力の投入並びに光照射を停止すると同時に、計時部72にも所定の信号が送信され、計時部72において計測される経過時間がリセットされる(ステップ16)。
【0060】
コリジョンセル132では、ラジカル付着反応によってプリカーサイオンが解離してプロダクトイオンが生成される。コリジョンセル132で生成されたプロダクトイオンはイオンガイド134によってイオン光軸Cの近傍に集束された後、分析室14に進入する。
【0061】
分析室14に進入したプロダクトイオンはイオン輸送電極141によって直交加速電極142に輸送される。直交加速電極142には所定の周期で電圧が印加され、イオンの飛行方向がそれまでと略直交する方向に偏向される。飛行方向が偏向されたイオンは、加速電極143によって加速されて飛行空間に送出される。飛行空間に送出されたイオンは、リフレクトロン電極144とフライトチューブ146で規定された所定の飛行経路を、各イオンの質量電荷比に応じた時間で飛行して相互に分離し、イオン検出器145で検出される(ステップ17)。イオン検出器145はイオンが入射する毎にイオンの入射量に応じた大きさの信号を出力する。イオン検出器145からの出力信号は順次、記憶部71に保存される。記憶部71には、イオンの飛行時間とイオンの検出強度を軸とする測定データが保存される。
【0062】
最初の液体試料の測定が完了すると、測定制御部74は全ての目的化合物の測定が完了したか(全ての目的化合物の保持時間が経過したか)を確認する(ステップ18)。ここでは最初の目的化合物が測定されたのみであるため、全ての目的化合物の測定が完了していないと判定し(ステップ18でNO)、ステップ2に戻って、次に目的化合物の保持時間まで待つ。
【0063】
また、全ての目的化合物の測定が完了している場合には(ステップ18でYES)、全ての液体試料の測定が完了したかを確認し、未測定の液体試料がある場合には(ステップ19でNO)、ステップ1に戻り、次の液体試料をオートサンプラ24からインジェクタ22に導入する。なお、2番目以降の目的化合物の測定及び2番目以降の液体試料の測定における手順は上記同様であるため、説明を省略する。
【0064】
従来の質量分析装置では、原料ガスの供給と高周波電力の投入のみによってプラズマを生成しており、必ずしも一定のタイミングでプラズマが生成されない場合があった。そのため、測定開始前にラジカル供給部5においてラジカルを生成しておく必要があった。そのため、原料ガス及び高周波電力の消費量が多くなるという問題があった。
【0065】
これに対し、本実施例の質量分析装置では、光源61から所定波長の光を管状体541に照射し、ラジカル生成室51内に電子を放出させる。原料ガスを供給して高周波電力を投入すると、この電子によってプラズマ発光が誘発され、そのプラズマ発光が照射された原料ガスから即時にラジカルが生成される。従って、目的化合物の保持時間の直前にプラズマを発生させればよく、原料ガスや高周波電力の使用量を抑えることができる。また、光照射を行わない従来の構成に比べてより確実に、所望のタイミングでプラズマを発生させてラジカルを生成することができる。
【0066】
本実施例の質量分析装置では、最後にプラズマが生成されてからの経過時間が基準時間に満たない場合に、原料ガスの供給量及び/又は高周波電力の投入量を抑えてプラズマを生成する。従って、この点でも原料ガスや高周波電力の使用量を抑えることができる。
【0067】
また、本実施例の質量分析装置では、PWM波形によりON/OFFする高周波電力を供給するため、PWM波形の周波数やデューティ比を適切に決めることにより最適化した条件でプラズマを点灯させることができる。また、常時高周波電力を供給してプラズマを生成し続ける場合に比べて、ラジカル生成室51内を構成する各部の昇温が抑えられるため、ラジカル生成室51を構成する部材の損傷を抑制することができる。
【0068】
さらに、本実施例の質量分析装置では、高周波電力の供給時(PWM波形がONである期間)の光検出器62からの出力信号を第1閾値と比較することによりプラズマが点灯しているか否かを判定し、プラズマが点灯していない場合には予め決められた大きさ又は割合で原料ガス及び/又は高周波電力を増大する。そのため、最初から過剰な量の原料ガスや高周波電力を供給する必要がなく、この点でも原料ガスや高周波電力の使用量を抑えることができる。高周波電力の非供給時(PWM波形がOFFである期間)の光検出器62からの出力信号を第2閾値と比較することにより装置が正常に動作しているか否かを判定し、異常を通知するため、ラジカル生成室51内のシールが不十分でなく外部から光が進入している場合や、制御回路の損傷によって高周波電力の供給が不所望に継続されてプラズマが生成され続けている場合などに、使用者が装置の異常にすぐに気づくことができる。
【0069】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例は液体クロマトグラフ質量分析装置としたが、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いてもよく、あるいはクロマトグラフを用いることなく質量分析装置のみを使用してもよい。上記実施例では四重極-直交加速飛行時間型の質量分析装置としたが、三連四重極型の質量分析装置や、イオントラップ型の質量分析装置などを用いることができる。
【0070】
上記実施例では、プラズマを発生させるために深紫外光を照射する構成としたが、光照射は本発明に必須ではなく、光照射を行うことなくプラズマを発生させるようにしてもよい。また、上記実施例では、目的化合物の保持時間にのみプラズマを点灯させてラジカルを生成する構成としたが、例えば、光照射を行わず、プラズマを即時に点灯させることが難しい場合には、試料を測定する間、継続してプラズマを点灯させてラジカルを生成し続け、目的化合物の保持時間に合わせてバルブ582を開くようにしてもよい。
【0071】
上記実施例では、第1閾値(プラズマ点灯閾値)と第2閾値(異常判定閾値)という2種類の閾値を用いてプラズマの点灯の有無と装置の異常の発生の有無の両方を判断する構成としたが、第2閾値のみを用いる構成としてもよい。第2閾値のみを用いる構成によっても、上記実施例と同様に、装置に異常が発生していることを使用者が速やかに発見することができる。
【0072】
上記実施例では、第1ラジカル生成条件及び第2ラジカル生成条件を予め用意しておき、PWM波形がONである期間の光検出器62の出力が第1閾値を超えない場合に、第1ラジカル生成条件又は第2ラジカル生成条件に設定されている高周波電力の供給量及び/又は原料ガスの供給量を予め決められた大きさ(又は割合)だけ増大するようにしたが、3以上のラジカル生成条件を用意しておき、PWM波形がONである期間の光検出器62の出力が第1閾値を超えない場合に、高周波電力の供給量及び/又は原料ガスの供給量がより大きい条件に変更するようにしてもよい。
【0073】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0074】
(第1項)
一態様に係る質量分析装置の操作方法は、
反応室内にプリカーサイオンを導入するステップと、
原料ガス供給部及び高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせることにより前記原料ガスからラジカルを生成するステップと、
前記反応室内に前記ラジカルを導入することによりプロダクトイオンを生成するステップと、
前記ラジカル生成室の内部の前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定するステップと、
前記所定の期間以外の期間に前記光の強度が予め決められた異常判定閾値を超えていることに基づき質量分析装置の異常を判断して通知するステップと
を備える。
【0075】
(第7項)
別の一態様に係る質量分析装置は、
異常判定閾値が保存された記憶部と、
プリカーサイオンが導入される反応室と、
ラジカル生成室と、
前記ラジカル生成室の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記ラジカル生成室の内部にプラズマを生じさせるための高周波電力を供給する高周波電力供給部と、
前記原料ガス供給部及び前記高周波電力供給部に所定の制御信号を送信することにより、所定の期間、前記ラジカル生成室に前記原料ガス及び前記高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせるプラズマ生成制御部と、
前記ラジカル生成室の内部で前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定する光検出部と、
前記所定の期間以外の期間に前記光検出部により測定された光の強度が前記異常判定閾値を超えているか否かを判定する光強度判定部と、
前記光強度判定部が、前記光の強度が前記異常判定閾値を超えていると判定した場合に質量分析装置の異常を通知する異常通知部と
を備える。
【0076】
第1項に記載の質量分析装置の操作方法及び第7項に記載の質量分析装置では、原料ガス供給部及び高周波電力供給部に所定の制御信号(開始制御信号)を送信し、所定の期間、ラジカル生成室に原料ガス及び高周波電力を供給して該ラジカル生成室の内部でプラズマを生じさせ、該原料ガスからラジカルを生成する。所定の期間とは、典型的には反応室内に分析対象の試料成分由来のプリカーサイオンが導入される期間の一部又は全部の期間である。第1項に記載の質量分析装置の操作方法及び第7項に記載の質量分析装置では、ラジカル生成室内で生じたプラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定し、上記所定の期間以外の期間、即ち原料ガス及び高周波電力の供給が指示されていない期間に光の強度が予め決められた異常判定閾値を超えていることに基づき質量分析装置の異常を判断してその異常を通知する。従って、使用者はこの通知に基づき、質量分析装置の異常によって不所望のタイミングでプラズマが生じていることを速やかに確認することができる。
【0077】
(第2項)
第1項に記載の質量分析装置の操作方法において、さらに、
前記ラジカル生成室に前記原料ガス及び前記高周波電力が供給された状態で、該ラジカル生成室に所定波長の光を照射するステップ
を備える。
【0078】
(第8項)
第7項に記載の質量分析装置において、さらに、
前記ラジカル生成室に所定波長の光を照射する光照射部
を備え、
前記プラズマ生成制御部が、さらに、
前記ラジカル生成室に前記原料ガス及び前記高周波電力が供給された状態で、該ラジカル生成室に所定波長の光を照射するように前記光照射部を制御する。
【0079】
第2項の質量分析装置の操作方法及び第8項の質量分析装置では、ラジカル生成室に所定波長の光を照射し、該ラジカル生成室の壁面から電子を供給することによりプラズマを即時に点灯させることができる。
【0080】
(第3項)
第2項に記載の質量分析装置の操作方法において、
前記プラズマから発せられる光の波長を含む波長帯域の光の強度を測定するステップにおいて、該プラズマから発せられる光のうち、前記所定波長と異なる波長の光を検出する。
【0081】
(第9項)
第7項又は第8項に記載の質量分析装置において、
前記光照射部が紫外光を発するLED光源であり、
前記光検出部が可視光領域に感度を有するフォトダイオードである。
【0082】
第3項に記載の質量分析装置の操作方法では、ラジカル生成室に照射する光の影響を受けることなく、プラズマの点灯を確実に検出することができる。そのような光照射部及び光検出部として、例えば第7項に記載のようなUV-LED光源とフォトダイオードを用いることができる。
【0083】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載の質量分析装置の操作方法において、
前記所定の期間における前記光の強度が予め決められたプラズマ点灯閾値を超えていない場合に、前記原料ガス及び/又は前記高周波電力の供給量を増大する。
【0084】
(第10項)
第7項から第9項のいずれかに記載の質量分析装置において、
前記記憶部に、さらに、プラズマ点灯閾値が保存されており、
前記光強度判定部が、さらに、前記所定の期間における前記光の強度が前記プラズマ点灯閾値を超えているか否かを判定し、
前記光強度判定部が、前記光の強度が前記プラズマ点灯閾値を超えていないと判定した場合に、前記プラズマ生成制御部が、前記原料ガス及び/又は前記高周波電力の供給量を増大する。
【0085】
第4項に記載の質量分析装置の操作方法及び第10項に記載の質量分析装置では、プラズマの点灯が検出されなかった場合でも、原料ガス及び/又は高周波電力の供給量を増大することによりプラズマを点灯させることができる。
【0086】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載の質量分析装置の操作方法において、
前記反応室にプリカーサイオンが導入される期間に、前記高周波電力供給部に対して所定の周波数及びデューティ比で繰り返し前記制御信号を送信する。
【0087】
第5項の質量分析装置の操作方法では、間欠的に高周波電力を供給することにより、ラジカル生成室内の昇温を抑制し、該ラジカル生成室を構成する各部の損傷を抑制することができる。
【0088】
(第6項)
第5項に記載の質量分析装置の操作方法において、
前記周波数が333kHz未満である。
【0089】
第6項に記載の質量分析装置の操作方法では、応答特性が1.5μs程度である一般的なフォトダイオード等を光検出器として用いることにより安価に装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0090】
1…質量分析装置
10…イオン化室
101…ESIプローブ
11…第1中間真空室
111…イオンレンズ
12…第2中間真空室
121…イオンガイド
13…第3中間真空室
131…四重極マスフィルタ
132…コリジョンセル
134…イオンガイド
14…分析室
141…イオン輸送電極
142…直交加速電極
143…加速電極
144…リフレクトロン電極
145…イオン検出器
146…フライトチューブ
2…液体クロマトグラフ
20…移動相容器
21…送液ポンプ
22…インジェクタ
23…カラム
24…オートサンプラ
4…衝突ガス供給部
5…ラジカル供給部
51…ラジカル生成室
52…原料ガス供給源
53…高周波電力供給部
54…ラジカル源
541…管状体
542…スパイラルアンテナ
544、548…磁石
546…高周波電力投入部
547…フランジ
56…バルブ
58…輸送管
581…ヘッド部
582…バルブ
61…光源
62…光検出器
7…制御・処理部
71…記憶部
711…化合物データベース
712…ラジカル情報データベース
72…計時部
73…測定条件設定部
74…測定制御部
75…経過時間判定部
76…プラズマ生成制御部
77…光強度判定部
78…異常情報出力部
8…入力部
9…表示部
C…イオン光軸