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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】積載形トラッククレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/90 20060101AFI20240918BHJP
   B66C 23/78 20060101ALI20240918BHJP
   B66C 23/88 20060101ALI20240918BHJP
   B66C 13/16 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B66C23/90 X
B66C23/78 H
B66C23/88 A
B66C13/16 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023542445
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2022031275
(87)【国際公開番号】W WO2023022205
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021133758
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷東 末和
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156579(JP,A)
【文献】特開2004-115207(JP,A)
【文献】特開2021-88432(JP,A)
【文献】実開平5-77191(JP,U)
【文献】米国特許第8272521(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00-23/94
B66C 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、前記車両の車幅方向に伸縮可能な右側アウトリガ及び左側アウトリガを含むアウトリガ装置と、
旋回可能なブームを有し、前記車両に搭載されたクレーン装置と、
前記アウトリガ装置の接地反力に基づいて前記クレーン装置の限界作業半径を算出し、算出した前記限界作業半径に基づいて、前記クレーン装置による前記ブームの倒伏動作および伸長動作のうちの少なくとも一方の動作に関する安全制御を実施する制御装置と、を備える
積載形トラッククレーン。
【請求項2】
前記安全制御は、前記クレーン装置の倒伏動作および伸長動作を規制する規制制御、及び、前記クレーン装置の使用者に情報を報知する報知制御のうちの少なくとも一方の制御を含む、請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記積載形トラッククレーンの定格荷重の決定に用いられるクレーン強度性能からクレーン強度性能半径を算出し、
算出した前記クレーン強度性能半径と前記限界作業半径とのうちの小さい方に基づいて、前記安全制御を実施する、請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項4】
前記限界作業半径は、第1限界作業半径と、前記第1限界作業半径よりも小さい第2限界作業半径と、を含み、
前記制御装置は、前記第2限界作業半径に基づいて、前記報知制御を実施し、前記第1限界作業半径に基づいて、前記規制制御を実施する、請求項2に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項5】
前記制御装置と接続し、前記積載形トラッククレーンの状態を表示する表示器を、さらに備え、
前記制御装置は、前記限界作業半径を、前記表示器に表示する、請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積載形トラッククレーンに関する。さらに詳しくは、転倒防止機能を備えた積載形トラッククレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
積載形トラッククレーンは、多くの場合、運転室と荷台との間にクレーン装置とアウトリガ装置とを備えている。クレーン作業を行う際、積載形トラッククレーンの使用者は、アウトリガ装置の左右外側端部に設けられた油圧ジャッキにより車体を持ち上げたあと、クレーン作業を行う。すなわちクレーン装置のブームを旋回、伸縮、または起伏させて貨物を吊り上げ、その貨物を運搬する。
【0003】
特許文献1には、この積載形トラッククレーンの転倒事故を防止するための転倒防止装置が開示されている。この転倒防止装置ではアウトリガに付設されている反力検出器の反力値の大きさに応じて、反力値が小さいときには大きいときに比べてコントロールバルブのスプールの移動量を少なくして、クレーン速度を無段階で減速させる。特許文献1では、この構成により積載形トラッククレーンの使用者の操作に依存せず、反力値に応じてクレーンを減速又は停止させ、積載形トラッククレーンの転倒を確実に防止できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-37565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積載形トラッククレーンのクレーン装置は、ブームの旋回、伸縮、および起伏という動作が可能であるため、ブームが取りうる姿勢が多岐にわたる。例えばブームの起伏に対する姿勢が比較的水平に近い状態であれば、ブームを伸長すると、ブームと反対側に位置するアウトリガの反力値は急激に下がる。逆にブームの起伏に対する姿勢が、比較的鉛直に近い状態であれば、ブームを伸長したとしても、アウトリガの反力値の降下は緩やかである。特許文献1の発明では、所定の状態でクレーン速度を減速させることで、積載形トラッククレーンの転倒を防止している。ただし、ブームの姿勢により反力値の降下の程度が異なるため、ブームの動作を安全サイドで減速させた場合、その使用者の操作に反して、急激にブームの動作が規制される。これによりクレーン作業の効率が不必要に悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、クレーン作業の効率を損なわず、かつ積載形トラッククレーンの転倒を抑制できる積載形トラッククレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積載形トラッククレーンの一態様は、
車両に搭載され、車両の車幅方向に伸縮可能な右側アウトリガ及び左側アウトリガを含むアウトリガ装置と、
旋回可能なブームを有し、車両に搭載されたクレーン装置と、
アウトリガ装置の接地反力に基づいてクレーン装置の限界作業半径を算出し、算出した限界作業半径に基づいて、クレーン装置によるブームの倒伏動作および伸長動作のうちの少なくとも一方の動作に関する安全制御を実施する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クレーン作業の効率を損なわず、かつ積載形トラッククレーンの転倒を抑制できる積載形トラッククレーンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンの限界作業半径に基づく制御フロー図である。
図2図2は、積載形トラッククレーンの側面図である。
図3図3は、積載形トラッククレーンの油圧回路図である。
図4図4は、積載形トラッククレーンの制御回路図である。
図5図5は、積載形トラッククレーンの限界作業半径算出前の現況パラメータの取得フロー図である。
図6図6は、積載形トラッククレーンのブームが、起伏角度ゼロである場合の模式図である。
図7図7は、積載形トラッククレーンのブームが所定の起伏角度を有した場合の模式図である。
図8図8は、積載形トラッククレーンの平面模式図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係る積載形トラッククレーンの限界作業半径に基づく制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための積載形トラッククレーンを例示するものであって、本発明に係る積載形トラッククレーンは、以下のものに限定されない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0011】
加えて本明細書においては、前後左右の記載は、特記した場合を除き、車体の運転室に積載形トラッククレーンの使用者が搭乗した状態での使用者を基準として前後左右とするとともに、XYZ座標を図2に示すように定義する。すなわち、前後方向がX座標、左右方向がY座標、上下方向がZ座標であり、矢印の方向(左右では右に向かう方向)が正方向である。
【0012】
<第1実施形態>
(積載形トラッククレーンC)
図2には本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンCの側面図を示す。図2に示すように、積載形トラッククレーンCは、汎用トラックの車両10の運転室101と荷台102との間の車両10のフレーム100にクレーン装置20が搭載されたものである。車両10には、左右対称に前側車輪103が設けられている。さらに車両10には、左右対称に後側車輪104が設けられている。
【0013】
図2に示すように、クレーン装置20は、フレーム100上に固定された固定部201と、固定部201に対して旋回可能に設けられた旋回台202と、旋回台202の上端部に起伏可能に設けられたブーム203と、を含んで構成されている。加えて、積載形トラッククレーンCは、アウトリガ装置200を備えている。アウトリガ装置200は、固定部201に設けられ、固定部201から左右外側へ張出す。すなわちクレーン装置20およびアウトリガ装置200は、側面方向から見て運転室101と荷台102との間に設けられている。アウトリガ装置200は、右側アウトリガ及び左側アウトリガを有する。右側アウトリガは、右端部に設けられた右ジャッキ200aを有する。左側アウトリガは、左端部に設けられた左ジャッキ200bを有する。
【0014】
旋回台202にはウインチ(不図示)が設けられている。ウインチには、ワイヤロープ205が巻かれている。ワイヤロープ205は、ブーム203の先端部に設けられた滑車により、ブーム203の先端部から吊り下げられている。ワイヤロープ205の先端部には、フック206が固定されている。ブーム203は、基端ブーム203a、第1中間ブーム203b、第2中間ブーム203c、および先端ブーム203dが入れ子式に組み合わされて構成されている。ブーム203は、後述するブーム伸縮用アクチュエータ210a(図3参照)の動力に基づいて伸縮する。
【0015】
クレーン装置20は油圧回路310により油圧駆動される(図3参照)。油圧回路310を操作するためのレバー群が固定部201の左右両側に設けられている。また、油圧回路310を電気的に制御し、作業車両を制御する制御装置307が固定部201に設けられている。
【0016】
(油圧回路310)
図3には、本実施形態に係る積載形トラッククレーンCの油圧回路図を示す。クレーン装置20の油圧回路310は、油圧バルブユニット311、油圧ポンプ313、主油路314、戻油路315、クレーン装置用アクチュエータ210a~210d、右ジャッキ200a、左ジャッキ200b、右張出アクチュエータ200c、および左張出アクチュエータ200dを有する。
【0017】
油圧ポンプ313は、油圧バルブユニット311にタンク312内の作動油を供給する。主油路314は、油圧ポンプ313と油圧バルブユニット311とを接続している。戻油路315は、油圧バルブユニット311とタンク312とを接続している。クレーン装置用アクチュエータ210a~210dはそれぞれ、ブーム203の起伏動作、ブーム203の伸縮動作、ブーム203の旋回動作、及びウインチの巻上げ巻下げなどを行うためのアクチュエータである。
【0018】
クレーン装置用アクチュエータ210a~210d、右ジャッキ200a、左ジャッキ200b、右張出アクチュエータ200c、および左張出アクチュエータ200dは、油圧バルブユニット311に接続されている。
【0019】
油圧ポンプ313は、PTO(パワーテイクオフ)装置を介して汎用トラックのエンジン107に接続されている。油圧ポンプ313は、エンジン107により駆動される。
【0020】
油圧バルブユニット311は、ブーム伸縮用制御弁211a、ウインチ用制御弁211b、ブーム起伏用制御弁211c、ブーム旋回用制御弁211d、右側ジャッキ制御弁212a、左側ジャッキ制御弁212b、右張出制御弁212c、左張出制御弁212dを有する。
【0021】
ブーム伸縮用制御弁211aは、ブーム伸縮用アクチュエータ210aに接続されている。ウインチ用制御弁211bは、ウインチ用油圧モータ210bに接続されている。ブーム起伏用制御弁211cは、ブーム起伏用アクチュエータ210cに接続されている。ブーム旋回用制御弁211dは、ブーム旋回用アクチュエータ210dに接続されている。
【0022】
また、右側ジャッキ制御弁212aは、右側に位置する右ジャッキ200aに接続されている。左側ジャッキ制御弁212bは、左側に位置する左ジャッキ200bに接続されている。
【0023】
右張出制御弁212cは、右張出アクチュエータ200cに接続されている。左張出制御弁212dは、左張出アクチュエータ200dに接続されている。
【0024】
これらの切換制御弁には、それぞれレバー(不図示)が接続されている。作業者がこれら各レバーを手動操作することにより、油圧ポンプ313から供給される作動油の方向および流量が切り換えられる。
【0025】
また、制御装置307は、エンジン107のECU(エンジンコントロールユニット)にも接続されている。制御装置307は、少なくともエンジン107の回転数を制御できるよう構成されている。制御装置307は、エンジン107の回転数を制御することで油圧ポンプ313の回転数を制御して油圧ポンプ313の吐出量を調整する。
【0026】
(制御回路)
図4には、本実施形態に係る積載形トラッククレーンCの制御回路図を示す。制御装置307には、記憶部300が接続されている。
【0027】
制御装置307の入力側には、吊荷情報検出器301、旋回角情報検出器302、長さ情報検出器303、起伏角情報検出器304、右反力情報検出器305a、左反力情報検出器305b、右張出情報検出器306a、および左張出情報検出器306bが接続されている。
【0028】
また、制御装置307の出力側には、表示器105、警報器106、ブーム伸縮用制御弁211a、ウインチ用制御弁211b、ブーム起伏用制御弁211c、ブーム旋回用制御弁211d、右側ジャッキ制御弁212a、左側ジャッキ制御弁212b、右張出制御弁212c、および左張出制御弁212dが接続されている。
【0029】
吊荷情報検出器301は、フック206に吊られた荷重を検出する。本実施形態では、吊荷情報検出器301は、ブーム起伏用アクチュエータ210cに設けられた差圧計により構成されている。
【0030】
吊荷情報検出器301で検出された差圧は、制御装置307へ出力される。なお、吊荷情報検出器301の検出方式は、他の方式であっても問題ない。例えば吊荷情報検出器301は、ブーム203の先端に設けられたシーブ内のロードセルを含む構成であったり、ブーム伸縮用アクチュエータ210aのひずみを検出するひずみゲージを含む構成であってもよい。
【0031】
旋回角情報検出器302は、ブーム203の旋回角度を検出するためのものであり、旋回台202の根元側に配置されている。例えば旋回角情報検出器302はポテンショメータである。旋回角情報検出器302は、ロータリエンコーダにより構成されてもよい。
【0032】
長さ情報検出器303は、ブーム203の長さを検出する。長さ情報検出器303は、例えばコード繰出長さ検出器である。コード繰出長さ検出器は、測長用コードの繰り出し長さをコード巻取器の回転変位量を検出することで検出する。
【0033】
起伏角情報検出器304は、ブーム203の起伏角度θbを検出する。起伏角情報検出器304は、ブーム203の根元側に配置されている。例えば起伏角情報検出器304は、ポテンショメータである。起伏角情報検出器304は、ロータリエンコーダにより構成されてもよい。
【0034】
右反力情報検出器305aは、アウトリガ装置200の右外側端部に設けられた右ジャッキ200aに作用する反力(接地反力)を検出する。右反力情報検出器305aは、例えばひずみゲージを用いたロードセル、又は、ジャッキ内の圧力を検出できる圧力計である。ただし、右反力情報検出器305aの構成は、これらの構成に限定されない。
【0035】
左反力情報検出器305bは、アウトリガ装置200の左外側端部に設けられた左ジャッキ200bに作用する反力(接地反力)を検出する。左反力情報検出器305bは、例えばひずみゲージを用いたロードセル、又は、ジャッキ内の圧力を検出できる圧力計である。ただし、左反力情報検出器305bは、ロードセルおよび圧力計に限定されない。
【0036】
右張出情報検出器306aは、アウトリガ装置200の右ジャッキ200aが所定の張出位置にあることを検出する。右張出情報検出器306aは、例えば近接スイッチである。ただし、右張出情報検出器306aは、近接スイッチに限定されない。また。右張出情報検出器306aは、例えばコード繰出長さ検出器により構成されてもよい。
【0037】
左張出情報検出器306bは、アウトリガ装置200の左ジャッキ200bが所定の張出位置にあることを検出する。左張出情報検出器306bは、例えば近接スイッチである。ただし、左張出情報検出器306bは、近接スイッチに限定されない。また。左張出情報検出器306bは、例えばコード繰出長さ検出器により構成されてもよい。
【0038】
表示器105は、例えば吊荷荷重などを表示する。
【0039】
警報器106は、例えば定格荷重を超えた吊り荷重となった場合など、あらかじめ定められた状態になった場合に、積載形トラッククレーンCの使用者にその状態を報知する。本実施形態では、警報器106は、運転室101の外側に設けられている。
【0040】
(限界作業半径Radi’に基づく制御フロー)
図1は、本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンCの限界作業半径Radi’に基づく制御フロー図である。図5は、限界作業半径Radi’を算出する前の現況パラメータを取得フロー図である。
【0041】
図1の制御フロー、および図5の取得フローは、あらかじめ定められた周期で実行される。ここで限界作業半径Radi’とは、現在吊っている吊荷の重量、荷台102上の積荷の重量等に対応して、クレーン装置20の動作である倒伏動作および伸長動作の少なくとも1つを規制するための基準である。
【0042】
本実施形態では、限界作業半径Radi’とは、ブーム起伏角度θbをこれ以上小さくすることができないと判断される半径、またはブーム長さLbをこれ以上伸長することができないと判断される半径である。つまり、限界作業半径Radi’とは、作業半径が大きくなるようなブームの動作の限界を規定するものである。ただし、限界作業半径Radi’は、本実施形態における定義に限定されず、クレーン装置20の動作を規制する基準であれば問題ない。
【0043】
図1に示すように、制御装置307は、ステップS001(以下、「S001」のように表記する)において、限界作業半径Radi’の算出に必要な現況パラメータを取得する。
【0044】
この現況パラメータの取得は、例えば図5に示す取得フローに基づいて行われるのが好ましい。なお、図5の取得フローが実施される前、すなわち積載形トラッククレーンCの出荷時には、記憶部300に上記のパラメータを取得するために必要な、その積載形トラッククレーンCに関する情報が記憶されている。この記憶されている情報の一例について、図8を用いて説明する。
【0045】
図8は、図1の積載形トラッククレーンCの平面模式図である。この模式図は、図8の座標軸が示すように、運転室101が紙面の上側に位置し、荷台102が紙面の下側に位置している。
【0046】
図8では、アウトリガ装置200は、左右に最も張り出している状態を示している。右ジャッキ200aは接地位置GRで接地している。左ジャッキ200bは接地位置GLで接地している。
【0047】
また積載形トラッククレーンCの左右の中心軸を基準位置Spとしている。図8では、ブーム203が、基準位置Spからブーム旋回角θだけ旋回中心Ocを中心として旋回した状態を示している。
【0048】
例えば、記憶部300には、ブーム203の作業半径Radiごとの強度定格荷重Wstrが記憶されている。
【0049】
例えば、記憶部300には、クレーン装置20の旋回中心Ocと、一対の後側車輪104との前後方向における距離Xdが記憶されている。
【0050】
例えば、記憶部300には、右転倒ラインLa1および左転倒ラインLb1が記憶されている。右転倒ラインLa1および左転倒ラインLb1は、図8において一点鎖線で示されている。右転倒ラインLa1および左転倒ラインLb1は、制御装置307により算出されたものが記憶されている。
【0051】
例えば、右転倒ラインLa1は、右ジャッキ200aの接地位置GRと、後輪ラインLcの車幅方向における中心位置Obとを結んだ水平線として定義される。左転倒ラインLb1は、左ジャッキ200bの接地位置GLと、後輪ラインLcの車幅方向における中心位置Obとを結んだ水平線として定義される。
【0052】
なお、右転倒ラインLa1および左転倒ラインLb1は、別の方法、例えば接地位置GRまたは接地位置GLと、後輪ラインLc上の他の任意の点を結んだ線として定義することもできる。
【0053】
例えば、記憶部300には、後輪ラインLcの位置と長さが記憶されている。後輪ラインLcは、積載形トラッククレーンCを車両上方から見た場合に、一対の後側車輪104の中心位置を通り、かつ車幅方向に平行な直線である。後輪ラインLcは、車幅方向において、一対の後側車輪104同士の間に存在する。
【0054】
例えば、記憶部300には、積載形トラッククレーンCのチッピング荷重Wtipと、定格総荷重Wrateとの比である安全率Nが記憶されている。チッピング荷重Wtipは、積載形トラッククレーンCが転倒する限界の吊上荷重である。なお、チッピング荷重Wtip、定格総荷重Wrate、および安全率Nの関係は、下記式1で示される。ここで安全率Nは、積載形トラッククレーンCの仕様によって決定される1以上の定数である。
【0055】
【数1】
【0056】
例えば、記憶部300には、旋回中心Ocと接地位置GRとの前後方向における距離X1、および、旋回中心Ocと接地位置GLとの前後方向における距離X4が記憶されている。
【0057】
例えば、記憶部300には、旋回中心Ocと接地位置GRとの車幅方向における距離Y1、および、旋回中心Ocと接地位置GLとの車幅方向における距離Y4が記憶されている。例えば、記憶部300には、接地位置GLと右転倒ラインLa1との距離l4、および、接地位置GRと左転倒ラインLb1との距離l1が記憶されている。
【0058】
次に、図5に基づいて、限界作業半径Radi’の算出に必要なパラメータの取得フローを説明する。
【0059】
図5に示すように、制御装置307は、S101において吊荷荷重Tloadを取得する。吊荷荷重Tloadは、吊荷情報検出器301からの情報により制御装置307により算出され、取得される。
【0060】
制御装置307は、S102において、積載形トラッククレーンCにおける上側部材群を構成する各部材の重心位置を取得する。上側部材群は、旋回台202、ブーム起伏用アクチュエータ210c、およびブーム203を含む。なお、上側部材群は、旋回台202、ブーム起伏用アクチュエータ210c、またはブーム203に固定された部材を含んでもよい。これら上側部材群を構成する各部材の重心位置は、記憶部300から取得する場合がある。
【0061】
制御装置307は、S103において、ブーム旋回角θを取得する。制御装置307は、ブーム旋回角θを、旋回角情報検出器302からの情報により取得する。
【0062】
なお、この際、制御装置307は、取得されたブーム旋回角θによって、反転倒側ジャッキを決定する。反転倒側ジャッキは、右ジャッキ200aおよび左ジャッキ200bのうち、積載形トラッククレーンCの車幅方向の中心軸を基準として、車幅方向においてブーム203と反対側に存在するジャッキである。なお、車幅方向の中心軸とは、積載形トラッククレーンCの車幅方向の中心を通り、かつ、前後方向に平行な軸を意味する。
【0063】
具体的には、制御装置307は、旋回角情報検出器302の検出値に基づいて、ブーム203が車両右側に旋回していると判定した場合に、左ジャッキ200bを反転倒側ジャッキとする。一方、制御装置307は、旋回角情報検出器302の検出値に基づいて、ブーム203が車両左側に旋回していると判定した場合に、右ジャッキ200aを反転倒側ジャッキとする。
【0064】
さらに制御装置307は、旋回角情報検出器302の検出値に基づいて、そのときの転倒基準ラインを決定する。転倒基準ラインは、車幅方向において、右転倒ラインLa1もしくは左転倒ラインLb1のうち、ブーム203と同方向に存在するラインである。
【0065】
具体的には、制御装置307は、旋回角情報検出器302の検出値に基づいて、ブーム203が車両右側に旋回していると判定した場合に、右転倒ラインLa1を転倒基準ラインとする。一方、制御装置307は、旋回角情報検出器302の検出値に基づいて、ブーム203が車両左側に旋回していると判定した場合に、左転倒ラインLb1を転倒基準ラインとする。
【0066】
制御装置307は、S104において、ジャッキ反力を取得する。具体的には、制御装置307は、右反力情報検出器305aからの反力情報に基づいて、右ジャッキ200aの右ジャッキ反力PF1を取得する。また、制御装置307は、左反力情報検出器305bからの反力情報に基づいて、左ジャッキ200bの左ジャッキ反力PF4を取得する。
【0067】
制御装置307は、S105において、上側部材群と吊荷とを合わせた重量(以下、「上部重量Uwei」という。)を取得する。この上部重量Uweiは、次の式2により求められるのが好ましい。
【0068】
【数2】
【0069】
図7には、積載形トラッククレーンCのブーム203が所定の起伏角度、すなわちブーム起伏角度θbである場合の模式図を示す。式2内のパラメータは、以下のように定義される。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図7に示されている。

Uwei : 上部重量
Tlaod: 吊荷荷重
Wbm : ブーム203の重量
Wecy : ブーム起伏用アクチュエータ210cの重量
Wsle : 旋回台202の重量
【0070】
制御装置307は、S106において、上側部材群と吊荷とを合わせた重心(以下、「上部重心Ugra」という。)を取得する。具体的に説明すると、上部重心Ugraは、ブーム203の旋回中心Ocから、上側部材群と吊荷とを合わせたものの重心までの水平距離を言う。上部重心Ugraは、次の式3により求められるのが好ましい。
【0071】
【数3】
【0072】
式3内のパラメータは、以下のように定義される。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図7に示されている。

Ugra : 上部重心
Radi : 作業半径
Rlbm : 旋回中心Ocとブーム203の重心との水平距離
Rlecy : 旋回中心Ocとブーム起伏用アクチュエータ210cの重心との水平距離
Rlsle : 旋回中心Ocと旋回台202の重心との水平距離
【0073】
なお、作業半径Radiは、以下の式4により定義されることが好ましい。
【0074】
【数4】
【0075】
式4内のパラメータは、以下のように定義される。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図7に示されている。

Radi : 作業半径
Lb : ブーム203の長さ
θb : ブーム起伏角度
Lbh : ブーム203を水平にした際の、ブーム203の根元から吊荷荷重の作用点までの上下方向の距離
L : ブーム203の取付支点と旋回台202の旋回中心Ocとの距離
【0076】
制御装置307は、S107において、上部重量Uweiによるジャッキ反力を算出し、取得する。ジャッキ反力には、右ジャッキ200aのジャッキ反力PF1uと、左ジャッキ200bのジャッキ反力PF4uとが含まれる。以下、上部重量Uweiによるジャッキ反力の算出方法について説明する。
【0077】
まず、後述する式5から式7において、上部重量Uweiが旋回中心Ocに作用するスラスト荷重(ton)をFt、上部重量UweiによるX軸まわりのモーメントをMx(ton・m)、上部重量UweiによるY軸まわりのモーメントをMy(ton・m)と定義する。
【0078】
【数5】
【0079】
【数6】
【0080】
【数7】
【0081】
また、これらFt、Mx、およびMyによる反力係数Sは以下の式8で定義される。
【0082】
【数8】
【0083】
式8内のパラメータは、再掲するが、以下のように定義されている。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図8に示されている。

Xd : 旋回中心Ocと、一対の後側車輪104との前後方向における距離
X1 : 旋回中心Ocと接地位置GRとの前後方向における距離
X4 : 旋回中心Ocと接地位置GLとの前後方向における距離
Y1 : 旋回中心Ocと接地位置GRとの車幅方向における距離
Y4 : 旋回中心Ocと接地位置GLとの車幅方向における距離
【0084】
この式8から、F(PF1)、Mx(PF1)、およびMy(PF1)は以下の式9から式11で定義される。
【0085】
【数9】
【0086】
【数10】
【0087】
【数11】
【0088】
これらの式9から式11により、上部重量Uweiによる右ジャッキ200aのジャッキ反力PF1u(ton)は、以下の式12により求められる。
【0089】
【数12】
【0090】
また、式8から、F(PF4)、Mx(PF4)、およびMy(PF4)は以下の式13から式15で定義される。
【0091】
【数13】
【0092】
【数14】
【0093】
【数15】
【0094】
これらの式13から式15により、上部重量Uweiによる左ジャッキ200bのジャッキ反力PF4u(ton)は、以下の式16により求められる。
【0095】
【数16】
【0096】
制御装置307は、S108において、下側部材群の下部重量によるジャッキ反力を算出し、取得する。なお、下側部材群とは、車両10、アウトリガ装置200、固定部201、および荷台102上の積荷を含む。よって、下部重量とは、車両10、アウトリガ装置200、および固定部201の重量と、荷台102の積荷の重量との和である。
【0097】
この下部重量は、積荷の重量が未知であるため、直接求められない。そこで本実施形態では、下部重量によるジャッキ反力を、S104で取得したジャッキ反力から、S107で取得した上部重量Uweiによるジャッキ反力を減算して取得する。
【0098】
下部重量による右ジャッキ200aのジャッキ反力PF1lは、以下の式17により算出され、取得される。
【0099】
【数17】
【0100】
下部重量による左ジャッキ200bのジャッキ反力PF4lは、以下の式18により算出され、取得される。
【0101】
【数18】
【0102】
制御装置307は、S109において、転倒ラインまわりの下部重量によるモーメント(以下、「安定モーメント」という。)を算出し、取得する。転倒ラインは、右転倒ラインLa1および左転倒ラインLb1の2つがあるので、それぞれについて、安定モーメントを取得する。
【0103】
右転倒ラインLa1まわりの安定モーメントSMOMr(ton・m)は以下の式19により算出され、取得される。
【0104】
【数19】
【0105】
式19内のパラメータは、再掲するが、以下のように定義されている。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図8に示されている。

l4:接地位置GLと右転倒ラインLa1との距離
【0106】
左転倒ラインLb1まわりの安定モーメントSMOMl(ton・m)は以下の式20により算出され、取得される。
【0107】
【数20】
【0108】
式20内のパラメータは、再掲するが、以下のように定義されている。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図8に示されている。

l1:接地位置GRと左転倒ラインLb1との距離
【0109】
次に制御装置307は、図1に戻り、S002において、現況パラメータに基づいて、限界作業半径Radi’を算出する。本実施形態では、倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1が算出される。なお、以下の説明では、ブーム203が、図8に示すように右側に位置している場合の説明を行う。
【0110】
図6は、本実施形態に係る積載形トラッククレーンCにおいて、ブーム203が、起伏角度0である場合を模式的に示した図である。図6に示すように、限界作業半径Radi’を求める際には、吊荷荷重Tloadの作用点、およびブーム重量が作用するブーム重心の座標を以下のように定める。なお、これらの座標は、記憶部300に記憶されている場合がある。
【0111】
BL : ブーム203の根元から吊荷荷重の作用点までの、図6の紙面における左右方向の距離であるとともにブーム長さ
BH : ブーム203の根元から吊荷荷重の作用点までの、図6の紙面における上下方向の距離
BGX: ブーム203の根元からブーム重心までの、図6の紙面における左右方向の距離
BGZ: ブーム203の根元からブーム重心までの、図6の紙面における上下方向の距離
【0112】
現況でのチッピング荷重Wtip’は、式21に示すように、吊荷荷重Tloadに安全率Nを乗じた値とする。
【0113】
【数21】
【0114】
また、倒伏動作に対する限界作業半径がRadi’1である場合の起伏角度をθb’とすると、倒伏動作に対する限界作業半径がRadi’1であり、かつ、起伏角度がθb’である場合の旋回中心Ocとブーム203の重心との水平距離Rlbm’1に関して以下の関係が成立する。
【0115】
【数22】
【0116】
【数23】
【0117】
加えて、現況での上部重量Uwei’1、および、現況での上部重心Ugra’1は以下の式で表される。
【0118】
【数24】
【0119】
【数25】
【0120】
そして、本実施形態では、倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1は、ブーム起伏角度θbをこれ以上小さくすることができないと判断される半径であるので、倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1にある場合、現況での上部重量によるモーメントが、現況での安定モーメントSMOMrと等しくなり、以下の式26が成立する。
【0121】
【数26】
【0122】
式26内のパラメータは、以下のように定義される。これらのパラメータは、記憶部300から取得される場合がある。また、これらのパラメータは、図8に示されている。

β : 水平面内において、旋回中心Ocから右転倒ラインLa1おろした垂線と、現況のブーム203とのなす角度
XLI1: 水平面内において、旋回中心Ocから右転倒ラインLa1までの距離
【0123】
上記の式21から式26を満たす、倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1時の起伏角度をθb’が算出され、この角度により、倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1が算出される。
【0124】
次に制御装置307は、S003において、積載形トラッククレーンCの使用者が倒伏動作を選択しているかを判断する。倒伏動作を選択していると判断すると、制御装置307は、S004に進む。また、倒伏動作を選択していないと判断すると、制御装置307は、S005に進む。
【0125】
制御装置307は、S004において、限界作業半径Radi’1に基づいて、安全制御を実施する。安全制御は、例えば、ブーム203の倒伏動作を規制する制御(規制制御)、および、積載形トラッククレーンCの使用者に情報を報知する制御(報知制御)のうちの少なくとも一方の制御を含む。具体的には、制御装置307は、安全制御において、限界作業半径Radi’1に近づく倒伏動作に対して、速度規制を行ったり、倒伏操作を不能にしたりする。また使用者への報知は、制御装置307に接続されている警報器106を用いて行ったり、制御装置307に接続されている表示器105上に警報表示をしたりする。
【0126】
制御装置307は、S005においては、クレーン装置20への動作規制などを行わず、動作フローを終了する。
【0127】
<第2実施形態>
図9には、本発明の第2実施形態に係る積載形トラッククレーンCの限界作業半径Radi’の算出フロー図を示す。第2実施形態に係る積載形トラッククレーンCと、第1実施形態に係る積載形トラッククレーンCとの相違点は、図9のフロー図のS012の限界作業半径Radi’の算出の方法、およびS013の分岐の方法である。積載形トラッククレーンCの構成など、第1実施形態と同じ部分は説明を省略する。
【0128】
制御装置307は、S012において、現況における、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2を算出する。本実施形態においては、積載形トラッククレーンCの使用者が、伸長動作を選択し、今後伸長動作が行われるとした場合を想定して、ブームの伸長動作に対する限界作業半径Radi’2が求められる。
【0129】
伸長動作に対する限界作業半径Radi’2時のブーム長さをBL’とすると、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2、およびブーム長さがBL’の際の旋回中心Ocとブーム203の重心との水平距離Rlbm’2に関して以下の関係が成立する。
【0130】
【数27】
【0131】
【数28】
【0132】

BGX’:伸長動作に対する限界作業半径Radi’2の際の、ブーム203の根元からブーム重心までの、図6の紙面における左右方向の距離
【0133】
加えて、現況での上部重量Uwei’2、および現況での上部重心Ugra’2は以下の式で表される。
【0134】
【数29】
【0135】
【数30】
【0136】
Wbm’:ブーム203の重量(ブーム伸縮用アクチュエータ210a内の作動油の重量を考慮した場合)
【0137】
そして、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2は、ブーム長さLBをこれ以上伸ばすことができないと判断される半径であるので、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2にある場合、現況での上部重量によるモーメントが、現況での安定モーメントSMOMrと等しくなるため、以下の式31が成立する。
【0138】
【数31】
【0139】
上記の式21、24、27から31を満たす、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2時のブーム長さLB’が算出され、この長さにより、伸長動作に対する限界作業半径Radi’2が算出される。
【0140】
次に、制御装置307は、S013において、積載形トラッククレーンCの使用者が伸長動作を選択しているかを判断する。伸長動作を選択していると判断すると、制御装置307は、S014に進む。また、伸長動作を選択していないと判断すると、制御装置307は、S015に進む。
【0141】
制御装置307は、S014において、限界作業半径Radi’2に基づいて、安全制御を実施する。安全制御は、ブーム203の伸長動作の規制、積載形トラッククレーンCの使用者へ報知の少なくともいずれかの制御を含む。具体的には、制御装置307は、限界作業半径Radi’2に近づく伸長動作に対して、速度規制を行ったり、伸長操作を不能にしたりする。また使用者への報知は、制御装置307に接続されている警報器106を用いて行ったり、制御装置307に接続されている表示器105上に警報表示をしたりする。
【0142】
制御装置307は、S015においては、クレーン装置20への動作規制などを行わず、動作フローを終了する。
【0143】
<その他>
限界作業半径Radi’については、上記実施例に記載の方式で算出されたものに限定されない。例えば、限界作業半径Radi’を、右ジャッキ反力PF1または左ジャッキ反力PF4があらかじめ定められた値になる場合とすることも可能である。
【0144】
上記では、ブーム203を剛体として限界作業半径Radi’が算出されたが、ブーム203の撓みを考慮して計算を行うことが好ましい。また、BGZで表される上下方向の距離は、ブーム伸縮用アクチュエータ210aへの作動油の供給量を考慮して計算を行うことが好ましい。加えて、起伏動作の起立限界位置および倒伏限界位置、または伸縮動作の伸長限界位置および収縮限界位置における作業半径を、記憶部300に事前に記憶し、限界作業半径Radi’が、記憶部300に記憶された作業半径よりも小さい場合は、記憶部300に記憶された作業半径を限界作業半径Radi’とすることも可能である。
【0145】
また、本明細書においては、第1実施形態で倒伏動作に対する限界作業半径Radi’1が算出され、第2実施形態で伸長動作に対する限界作業半径Radi’2が算出されているが、これらの限界作業半径の両方を算出し、両方を表示器105に表示することも可能である。また、限界作業半径の両方を算出し、積載形トラッククレーンCの使用者の操作に応じて、いずれかの限界作業半径を表示することも可能である。
【0146】
また、上記の第1実施形態および第2実施形態において、制御装置307は、限界作業半径Radi’を、第1限界作業半径と、この第1限界作業半径よりも小さい第2限界作業半径とに分けて算出してもよい。この場合、制御装置307は、第2限界作業半径に基づいてクレーン装置20の使用者に情報を報知する制御(報知制御)を行うとともに、第1限界作業半径に基づいてクレーン装置20のブームの動作(伸長動作および/または倒伏動作)を規制する制御(規制制御)を行ってもよい。第1実施形態および第2実施形態において、2つの限界作業半径を求める場合、値が異なる2種類の安全率N(第1安全率N1および第2安全率N2)を用いることでこれらの限界作業半径を取得することができる。つまり、制御装置307は、第1安全率N1に基づいて、第1限界作業半径を求め、第2安全率N2に基づいて第2限界作業半径を算出する。このように2つの限界作業半径Radi’を算出することにより、クレーン作業の安全性の向上および効率化をさらに図ることができる。
【0147】
また一般的に、積載形トラッククレーンCの定格荷重は、荷台102に積載物がない状態で、かつ、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力(空車時安定性能)と、クレーンの構造物の強度から決定される能力(クレーン強度性能)から決定される。本願において、制御装置307が、クレーン装置20のクレーン強度性能から算出されるクレーン強度性能半径を算出し、これを限界作業半径Radi’と比較して、限界作業半径Radi’よりもクレーン強度性能半径が小さい場合、クレーン強度性能半径によりクレーン装置20の動作の規制、またはクレーン装置20の使用者への報知の少なくともいずれかを行うことも可能である。
【0148】
2021年8月19日出願の特願2021-133758の日本出願に含まれる明細書、図面、および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0149】
C 積載形トラッククレーン
10 車両
20 クレーン装置
100 フレーム
101 運転室
102 荷台
103 前側車輪
104 後側車輪
105 表示器
106 警報器
107 エンジン
200 アウトリガ装置
200a 右ジャッキ
200b 左ジャッキ
200c 右張出アクチュエータ
200d 左張出アクチュエータ
201 固定部
202 旋回台
203 ブーム
203a 基端ブーム
203b 第1中間ブーム
203c 第2中間ブーム
203d 先端ブーム
205 ワイヤロープ
206 フック
210a ブーム伸縮用アクチュエータ
210b ウインチ用油圧モータ
210c ブーム起伏用アクチュエータ
210d ブーム旋回用アクチュエータ
211a ブーム伸縮用制御弁
211b ウインチ用制御弁
211c ブーム起伏用制御弁
211d ブーム旋回用制御弁
212a 右側ジャッキ制御弁
212b 左側ジャッキ制御弁
212c 右張出制御弁
212d 左張出制御弁
300 記憶部
301 吊荷情報検出器
302 旋回角情報検出器
303 長さ情報検出器
304 起伏角情報検出器
305a 右反力情報検出器
305b 左反力情報検出器
306a 右張出情報検出器
306b 左張出情報検出器
307 制御装置
310 油圧回路
311 油圧バルブユニット
312 タンク
313 油圧ポンプ
314 主油路
315 戻油路
Radi’ 限界作業半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9