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特許7556479接触子及びそれを用いた単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】接触子及びそれを用いた単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
G01N3/56 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023559497
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2022038211
(87)【国際公開番号】W WO2023084988
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021183404
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
(72)【発明者】
【氏名】李 真和
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069888(WO,A1)
【文献】特開2014-091661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0146372(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105158098(CN,A)
【文献】李真和、真鍋佳典、寺本三記、原野佳津子、小林豊、角谷均,“各種ダイヤモンドの摩耗特性”,2019年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,日本,精密工学会,2019年03月13日,pp.646-647,https://doi.org/10.11522/pscjspe.2019S.0_646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 - 3/62
C01B 32/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のダイヤモンド粒子で構成された多結晶ダイヤモンドからなる円環状の接触子であって、
中心を回転軸が貫通するように構成され、
径方向に一定の厚みを有し内端部を含む第1部分と、
径方向に減少する厚みを有し外端部を含む第2部分を備え、
前記第2部分は、
前記第1部分の上面と連続する第1面と、前記第1部分の下面と連続する第2面と、前記第1面と前記第2面とを接続し前記外端部を含む接続面とを有し、
前記回転軸に沿った断面において
前記第1面を示す第1線分と前記第2面を示す第2線分とが成す角度θは100°以上150°以下であり、
前記第1面と前記接続面との境界である第1境界部と、前記第2面と前記接続面との境界である第2境界部との間の長さは1μm以上10μm以下であり、
前記回転軸から前記外端部までの長さは0.5mm以上5mm以下であり、
前記複数のダイヤモンド粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下である、接触子。
【請求項2】
前記多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPa以上である、請求項1に記載の接触子。
【請求項3】
前記接続面と前記回転軸を含む断面との交線が直線である、請求項1又は請求項2に記載の接触子。
【請求項4】
前記回転軸から前記接触子の端部までの長さは、前記回転軸から前記第1境界部までの長さよりも大きく、かつ前記回転軸から第2境界部までの長さよりも大きい、請求項1又は請求項2に記載の接触子。
【請求項5】
単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法であって、
請求項1又は請求項2に記載の前記接触子を回転させながら、前記単結晶ダイヤモンドを前記外端部に押しつけることにより、前記単結晶ダイヤモンドに摩耗痕を形成する第1工程と、
前記摩耗痕の長さに基づき、前記単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を評価する第2工程と、を備える、評価方法。
【請求項6】
前記単結晶ダイヤモンドは平面を有し、
前記第1工程は、
前記単結晶ダイヤモンドを、前記平面が、前記接触子と対向し、かつ、前記回転軸と平行になるように配置する第1-1工程と、
前記単結晶ダイヤモンドに対して前記平面の法線方向の荷重を加えることにより、前記単結晶ダイヤモンドを前記外端部に押しつける第1-2工程と、を含む、請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記単結晶ダイヤモンドの前記平面は(001)面であり、
前記摩耗痕は、前記(001)面の<100>方向に平行である、請求項6に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接触子及びそれを用いた単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の評価方法に関する。本出願は、2021年11月10日出願の日本出願2021‐183404号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載されたすべての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用の単結晶ダイヤモンドでは、窒素不純物や結晶欠陥の分布状態が結晶毎に異なったり、同一の結晶内でも、微小領域で見ると、領域毎に摩耗特性が異なる。
したがって、特に精密加工用の工具材料として単結晶ダイヤモンドを用いる場合は、同一結晶内での微小領域毎の摩耗特性の相違を十分に把握しておくことが重要である。
【0003】
単結晶ダイヤモンドの微小領域での摩耗特性を評価するために、小径でV字型刃先を有する鋳鉄ホイールやメタルボンドダイヤモンド砥石ホイールを用いた方法が知られている(非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Eileen M.Wilks&J.Wilks.(1959).“The Resistance of Diamond to Abrasion”.Philosophical.Magazine,4:38,158-170.
【文献】E M Wilks and J Wilks.(1972).“The resistance of diamond to abrasion”.Journal of Physics D:Applied Physics,5,1902-1919.
【発明の概要】
【0005】
本開示の接触子は、
複数のダイヤモンド粒子で構成された多結晶ダイヤモンドからなる円環状の接触子であって、
中心を回転軸が貫通するように構成され、
径方向に一定の厚みを有し内端部を含む第1部分と、
径方向に減少する厚みを有し外端部を含む第2部分を備え、
前記第2部分は、
前記第1部分の上面と連続する第1面と、前記第1部分の下面と連続する第2面と、前記第1面と前記第2面とを接続し前記外端部を含む接続面とを有し、
前記回転軸に沿った断面において
前記第1面を示す第1線分と前記第2面を示す第2線分とが成す角度θは100°以上150°以下であり、
前記第1面と前記接続面との境界である第1境界部と、前記第2面と前記接続面との境界である第2境界部との間の長さは1μm以上10μm以下であり、
前記回転軸から前記外端部までの長さは0.5mm以上5mm以下であり、
前記複数のダイヤモンド粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下である、接触子である。
【0006】
本開示の評価方法は、
単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法であって、
上記の接触子を回転させながら、前記単結晶ダイヤモンドを前記外端部に押しつけることにより、前記単結晶ダイヤモンドに摩耗痕を形成する第1工程と、
前記摩耗痕の長さに基づき、前記単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を評価する第2工程と、を備える、評価方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る接触子の一例の外観を示す写真代用図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る接触子の一例の上面図である。
図3図3は、図2に示される接触子のXI-XI線断面図である。
図4図4は、図3に示される接触子第2部分の拡大図である。
図5図5は、本開示の他の実施形態に係る第2部分の断面図である。
図6図6は、本開示の一実施形態に係る単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法に用いられる摩耗試験装置の概観図である。
図7図7は、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向及び<110>方向を示す図である。
図8図8は、実施例1で形成された摩耗痕を示す写真代用図である。
図9図9は、実施例2で形成された摩耗痕を示す写真代要図である。
図10図10は、実施例1及び実施例2における試験番号と摩耗痕長さとの関係を示すグラフである。
図11図11は、試験体Aの紫外線励起蛍光像を示す写真代用図である。
図12図12は、試験体Aにおける試験番号と摩耗痕長さとの関係を示すグラフである。
図13図13は、試験体Bの紫外線励起蛍光像を示す写真代用図である。
図14図14は、試験体Bにおける試験番号と摩耗痕長さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
非特許文献1に記載の鋳鉄ホイールは単結晶ダイヤモンドに対して柔らかいため、摩耗試験中に刃先が型崩れしやすく摩耗方向によっては摩耗痕が付かない。また、研磨材のダイヤモンド粉末が飛ばされ、切れ味がすぐに鈍化してしまう。このため、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を定量的に、適切に評価することは難しい。
【0009】
特許文献2に記載のメタルボンドダイヤモンド砥石ホイールは、単結晶ダイヤモンド材料に対して用いた場合、ダイヤモンド砥粒が脱落しやすく、刃先形状が崩れやすい。加えて、ダイヤモンド砥粒の粒度や強度のバラツキにより、刃先の研削性能が安定しない。このため、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を定量的に、適切に評価することは難しい。
【0010】
そこで、本開示は、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法に用いられる接触子及びこれを用いた単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性に用いられる接触子を提供することが可能となる。更に該接触子を用いて単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を評価することが可能となる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の接触子は、
複数のダイヤモンド粒子で構成された多結晶ダイヤモンドからなる円環状の接触子であって、
中心を回転軸が貫通するように構成され、
径方向に一定の厚みを有し内端部を含む第1部分と、
径方向に減少する厚みを有し外端部を含む第2部分を備え、
前記第2部分は、
前記第1部分の上面と連続する第1面と、前記第1部分の下面と連続する第2面と、前記第1面と前記第2面とを接続し前記外端部を含む接続面とを有し、
前記回転軸に沿った断面において
前記第1面を示す第1線分と前記第2面を示す第2線分とが成す角度θは100°以上150°以下であり、
前記第1面と前記接続面との境界である第1境界部と、前記第2面と前記接続面との境界である第2境界部との間の長さは1μm以上10μm以下であり、
前記回転軸から前記外端部までの長さは0.5mm以上5mm以下であり、
前記複数のダイヤモンド粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下である、接触子である。
【0013】
本開示によれば、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性(本明細書において、微小領域における摩耗特性を「微小摩耗特性」とも記す。)を評価することが可能となる。
【0014】
(2)前記多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPa以上であってもよい。これによると、微小摩耗特性の評価の精度が向上する。
【0015】
(3)前記接続面と前記回転軸を含む断面との交線が直線であってもよい。これによると、微小摩耗特性の評価結果が安定する。
【0016】
(4)前記回転軸から前記外端部までの長さは、前記回転軸から前記第1境界部までの長さよりも大きく、かつ前記回転軸から第2境界部までの長さよりも大きくてもよい。これによると、微小摩耗特性の評価結果が安定する。
【0017】
(5)本開示の評価方法は、
単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法であって、
上記の接触子を回転させながら、前記単結晶ダイヤモンドを前記外端部に押しつけることにより、前記単結晶ダイヤモンドに摩耗痕を形成する第1工程と、
前記摩耗痕の長さに基づき、前記単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を評価する第2工程と、を備える、評価方法である。
【0018】
本開示によれば、単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性を評価することが可能となる。
【0019】
(6)前記単結晶ダイヤモンドは平面を有し、
前記第1工程は、
前記単結晶ダイヤモンドを、前記平面が、前記接触子と対向し、かつ、前記回転軸と平行になるように配置する第1-1工程と、
前記単結晶ダイヤモンドに対して前記第3の平面の法線方向の荷重を加えることにより、前記単結晶ダイヤモンドを前記外端部に押しつける第1-2工程と、を含んでいてもよい。
【0020】
これによると、微小摩耗特性の評価の精度が向上する。
【0021】
(7)前記第3の平面は(001)面であり、前記摩耗痕は、前記(001)面の<100>方向に平行であってもよい。これによると、微小摩耗特性の評価の精度が向上する。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の接触子及びそれを用いた単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の評価方法について、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。なお、説明の都合上、図3図4図5は縦方向に圧縮されている。
【0023】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0024】
[実施形態1:接触子]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の接触子について、図1図5を用いて説明する。本実施形態の接触子1は、複数のダイヤモンド粒子で構成された多結晶ダイヤモンドからなる円環状の接触子1であって、
中心を回転軸Rが貫通するように構成され、
径方向に一定の厚みを有し内端部を含む第1部分2と、
径方向に減少する厚みを有し外端部3Aを含む第2部分3を備え、
第2部分3は、
第1部分2の上面と連続する第1面31と、第1部分2の下面と連続する第2面32と、第1面31と第2面32とを接続し外端部3Aを含む接続面33とを有し、
回転軸Rに沿った断面において
第1面31を示す第1線分と第2面32を示す第2線分とが成す角度θは100°以上150°以下であり、
第1面31と接続面33との境界である第1境界部31Aと、第2面32と接続面33との境界である第2境界部32Aとの間の長さは1μm以上10μm以下であり、
回転軸Rから外端部3Aまでの長さは0.5mm以上5mm以下であり、
前記複数のダイヤモンド粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下である。
【0025】
本実施形態の接触子は、複数のダイヤモンド粒子からなる多結晶ダイヤモンドからなる。ここで、複数のダイヤモンド粒子からなる多結晶ダイヤモンドとは、ダイヤモンド粒子同士が直接結合した多結晶ダイヤモンドを意味する。多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド焼結体に一般的に用いられる焼結助剤及び結合材の一方又は両方により形成される結合相(バインダー)を含まず、ダイヤモンド単相からなる多結晶体である。
【0026】
上記多結晶ダイヤモンドは、本開示の効果を奏する限り、ダイヤモンド成分以外に、不可避不純物を含むことができる。該不可避不純物としては、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)等が挙げられる。
【0027】
上記多結晶ダイヤモンドのダイヤモンド成分の含有率は、99体積%以上が好ましい。
多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド成分と、不可避不純物と、からなり、多結晶ダイヤモンドのダイヤモンド成分の含有率は99体積%以上が好ましい。多結晶ダイヤモンドがダイヤモンド成分を99体積%以上含むことは、X線回折法により確認することができる。多結晶ダイヤモンドが結合相を含まないことは、多結晶ダイヤモンドの表面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0028】
上記多結晶ダイヤモンドを構成する複数のダイヤモンド粒子の平均粒径(以下、「ダイヤモンド粒子の平均粒径」とも記す。)は、10nm以上300nm以下である。すなわち、上記多結晶ダイヤモンドは、数十nmレベルの微細なダイヤモンド粒子が強固に結合したナノ多結晶ダイヤモンド(NPD:Nano Polycrystalline Diamond)である。多結晶ダイヤモンドの硬度には方位依存性がなく、上記多結晶ダイヤモンドは単結晶ダイヤモンドより高い硬度と強度を備えている。
【0029】
上記ダイヤモンド粒子の平均粒径の下限は、ダイヤモンド特有の機械的強度を得られるという観点から、10nm以上であり、20nm以上であってもよく、30nm以上であってもよい。上記ダイヤモンド粒子の平均粒径の上限は、多結晶ダイヤモンド75が全方位に対して等方的な硬度及び耐摩耗性を示すことができるという観点から、300nm以下であり、200nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。上記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下であり、20nm以上200nm以下であってもよく、30nm以上100nm以下であってもよい。
【0030】
上記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた切断法により求められる。具体的には、まず走査電子顕微鏡を用いて多結晶ダイヤモンドを1000~100000倍の倍率で観察し、SEM画像を得る。
【0031】
次にそのSEM画像に円を描き、その円の中心から8本の直線を放射状(各直線間の交差角度がほぼ等しくなるよう)に円の外周まで引く。この場合、上記の観察倍率及び円の直径は、上記の直線1本あたりが横切るダイヤモンド粒子(結晶粒子)の個数が10~50個程度になるように設定する。
【0032】
次に、上記の各直線毎にダイヤモンド粒子の結晶粒界を横切る数を数え、直線の長さをその横切る数で割ることにより平均切片長さを求め、その平均切片長さに1.128をかけて得られる数値を平均粒径とする。上記の測定を3枚のSEM画像で行い、3枚のSEM画像毎に平均粒径を求める。3枚のSEM画像の平均粒径の平均値を、本明細書におけるダイヤモンド粒子の平均粒径とする。
【0033】
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0034】
接触子1を用いて単結晶ダイヤモンド75の微小領域における摩耗特性を評価する際には、接触子1を回転軸Rを中心に回転させながら、接触子1の外端部3Aを単結晶ダイヤモンド75に接触させて、単結晶ダイヤモンド75に摩耗痕を形成する。よって、本実施形態の接触子を構成する多結晶ダイヤモンドの硬度は、単結晶ダイヤモンド75の硬度と同等でもよいし、またはそれより大きくてもよい。
【0035】
単結晶ダイヤモンド75の硬度は、面方位によって70-120GPaと変化する。従って、上記多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は、120GPa以上であってもよく、125GPa以上であってもよく、また、130GPa以上であってもよい。多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度の上限は特に制限されないが、製造上の観点から、160GPa以下とすることができる。多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は、120GPa以上160GPa以下であってもよく、125GPa以上155GPa以下であってもよく、また、130GPa以上150GPa以下であってもよい。
【0036】
本明細書において、多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度の測定は、JIS Z 2251:2009に規定される条件で行われる。具体的には、菱形のヌープ圧子を、多結晶ダイヤモンドの表面に押し込み、試験力4.9Nで10秒間負荷して圧痕をつける。試験温度は23℃±5℃とする。試験力を解除した後、多結晶ダイヤモンドの表面に残った圧痕の長い方の対角線長さa(μm)を測定し、下記式(1)よりヌープ硬度(HK)を算出する。
HK=14229×F/a 式(1)
【0037】
図1図3に示されるように、接触子1は、第1部分2と、第1部分2と連続し、第1部分2の外周を取り囲む第2部分3とを備え、回転軸Rを含む断面において、第2部分3の回転軸R方向の長さは、外端部3Aに向かって減少する。ここで、第2部分3の回転軸R方向の長さは、外端部3Aに向かって減少するとは、図3に示されるように、第2部分3の回転軸R方向の長さを、回転軸から近い順にL1,L2,L3とした場合、L1>L2>L3の関係を示すことを意味する。図2に示されるように、接触子1は、上面視において円径である。接触子1の回転軸R方向の最大長さは特に限定されないが、例えば、0.2mm以上2mm以下とすることができる。
【0038】
接触子1の回転軸Rと外端部3Aとの間の回転軸Rに直交する方向の長さr1は、0.5mm以上5mm以下である。これによると、接触子1の取り扱いが容易であり、かつ、単結晶ダイヤモンド75に微小な摩耗痕を形成することができる。
【0039】
上記長さr1の下限は、接触子1の取り扱いの容易性の観点から、0.5mm以上であり、1mm以上であってもよく、1.5mm以上であってもよい。上記長さr1の上限は、微小な摩耗痕を形成する観点から、5mm以下であり、3mm以下であってもよく、2mm以下であってもよい。上記長さr1は、0.5mm以上5mm以下であり、1mm以上3mm以下であってもよく、1.5mm以上2mm以下であってもよい。
【0040】
接触子1の第1面31と第2面32とがなす角度θは、100°以上150°以下であり、第1面31と接続面33との境界である第1境界部31Aと、第2面32と接続面33との境界である第2境界部32Aとの間の回転軸R方向の長さDは、1μm以上10μm以下である。本明細書において、第1面31と第2面32とのなす角度θとは、図4の点線で示されるように、第1面31及び第2面32を拡大した仮想平面同士のなす角度を意味する。これによると、単結晶ダイヤモンド75に形成される摩耗痕が明瞭となり、かつ、安定した摩耗試験が可能となる。よって、微小摩耗特性の評価結果のバラツキが抑制され、評価結果が安定する。本明細書において、単結晶ダイヤモンド75の微小摩耗特性の評価のために行われる、接触子1を用いて単結晶ダイヤモンド75に摩耗痕を形成する工程を、摩耗試験とも記す。
【0041】
上記角度θの下限は、摩耗試験時の外端部3Aの形状の維持の観点から、100°以上であり、110°以上であってもよい。上記角度θの上限は、明瞭な摩耗痕を形成する観点から、150°以下であり、140°以下であってもよい。上記角度θは、100°以上150°以下であり、110°以上140°以下であってもよい。
【0042】
上記長さDの下限は、摩耗試験時の接触子外端部3Aの形状の維持の観点から、1μm以上であり、2μm以上であってもよい。上記長さDの上限は、明瞭な摩耗痕を形成する観点から、10μm以下であり、8μm以下であってもよい。上記長さDは、1μm以上10μm以下であり、2μm以上8μm以下であってもよい。
【0043】
図4に示されるように、接続面33と回転軸Rを含む断面との交線が直線であってもよい。これによると、安定した摩耗試験が可能となる。よって、微小摩耗特性の評価結果のバラツキが抑制され、評価結果が安定する。
【0044】
図5に示されるように、回転軸Rから外端部3Aまでの長さは、回転軸Rから第1境界部31Aまでの長さよりも大きく、かつ回転軸Rから第2境界部32Aまでの長さよりも大きくてもよい。これによると、安定した摩耗試験が可能となる。よって、微小摩耗特性の評価結果のバラツキが抑制され、評価結果が安定する。回転軸Rを含む断面において、接続面33は円弧である場合、該円弧の半径は1μm以上10μm以下であってもよく、2μm以上8μm以下であってもよい。
【0045】
図1図3に示されるように、接触子1の第1部分2は、回転軸Rに相当する部分に形成された穴を含むことが好ましい。これによると、摩耗試験において、該穴にスピンドルを挿入することができる。また、接触子1は、第1部分2に固定された軸を備えることができる。
【0046】
本実施形態の接触子の製造方法の一例について説明する。まず、高純度グラファイト(純度99.9%以上)を出発物質として、超高圧下の直接変換法で焼結させて、多結晶ダイヤモンドを合成する。焼結条件は、例えば、温度2200~2300℃、圧力15~16GPa、焼結時間10~30分とすることができる。得られた多結晶ダイヤモンドをレーザー加工と、ダイヤモンド砥石による研削および研磨加工により、本実施形態の接触子の形状に成形して、接触子を得る。
【0047】
[実施形態2:単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法]
本実施形態の単結晶ダイヤモンド75の微小領域における摩耗特性の評価方法について、図6を用いて説明する。図6は、本実施形態の微小摩耗特性の評価方法に用いられる摩耗試験装置の概観図である。摩耗試験装置は、マシニングセンタ60と、試料保持部70とを備える。マシニングセンタ60は、スピンドル61と、接触子1をスピンドル61に固定するための固定ネジ62とを備える。試料保持部70は、単結晶ダイヤモンド75を保持するための治具76と、治具76を接触子1方向へ移動させるエアシリンダ71と、エアシリンダ71の周囲に配置されるリニアガイド72とを備える。
【0048】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの微小領域における摩耗特性の評価方法は、
実施形態1に記載の接触子1を回転させながら、単結晶ダイヤモンド75を外端部3Aに押しつけることにより、単結晶ダイヤモンド75に摩耗痕を形成する第1工程と、
該摩耗痕の長さに基づき、単結晶ダイヤモンド75の微小領域における摩耗特性を評価する第2工程と、を備える、評価方法である。
【0049】
<第1工程>
接触子1の穴にマシニングセンター60のスピンドル61を挿入し、固定ネジ62で固定する。接触子1はスピンドル61に固定されているため、スピンドル61を回転させると、これに同期して接触子1が回転する。回転速度は、熱的反応摩耗の抑制の観点から、100rpm以上1000rpm以下、及び/又は、周速1m/min以上10m/min以下が好ましい。図6では、接触子1は固定ネジ62によりスピンドル61に固定されているが、接触子1とスピンドル61との固定方法はこれに限定されない。例えば、接触子1とスピンドル61とを接着剤を用いて固定することができる。
【0050】
試料保持部70の治具76に単結晶ダイヤモンド75を固定する。治具76の単結晶ダイヤモンド75を固定した方向とは反対側の方向には、エアシリンダ71が設置されている。図6の矢印aの方向で示されるように、エアシリンダ71に向けて一定圧のエアーを送り込むことにより、エアシリンダ71に対して矢印bの方向に荷重が加わり、エアシリンダ71が接触子1の方向に移動する。これにより、単結晶ダイヤモンド75が接触子1の外端部3Aに押し付けられ、単結晶ダイヤモンド75に摩耗痕が形成される。押し付け圧は0.1MPa以上0.2MPa以下が好ましい。押し付け時間は60秒が好ましい。
【0051】
単結晶ダイヤモンド75は平面77を有し、上記第1工程は、単結晶ダイヤモンド75を、平面77が接触子1と対向し、かつ、回転軸Rと平行になるように配置する第1-1工程と、単結晶ダイヤモンド75に対し平面77の法線方向の荷重を加えることにより、単結晶ダイヤモンド75を接触子1の外端部3Aに押しつける第1-2工程と、を含んでいてもよい。これによると、微小摩耗試験の精度が向上する。単結晶ダイヤモンド75が平面77を有するように加工する際は、単結晶ダイヤモンド75の(100)面を、メタルボンドダイヤモンド砥石又はスカイフで平行研磨することが好ましい。
【0052】
単結晶ダイヤモンド75の平面77は(001)面であり、上記摩耗痕は、該(001)面の<100>方向に平行であってもよい。これによると、微小摩耗試験の精度が向上する。
【0053】
一つの単結晶ダイヤモンド75に複数の摩耗痕を形成する場合は、複数の摩耗痕は略平行であり、かつ、各摩耗痕の間隔は、0.05mm以上0.1mm以下とすることができる。
【0054】
なお、摩耗痕の形成開始前に、接触子1の第1面31と第2面32とが直接接続してV字形状を形成し、接続面33が存在しない場合は、評価用の摩耗痕を形成する前に、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向に対して上記の摩耗痕の形成条件(回転速度、押し付け圧、押し付け時間)で5回以上の前処理を行い、外端部3Aの長さDが1μm以上10μm以下となるように調整する。
【0055】
<第2工程>
第2工程では、第1工程において単結晶ダイヤモンド75に形成された摩耗痕の長さに基づき、単結晶ダイヤモンド75の摩耗特性を評価する。摩耗特性は、摩耗量(除去量)や摩耗痕の面積、あるいは摩耗痕の長さで評価することができる。本実施形態では、簡易に測定可能な摩耗痕の長さで評価する。摩耗痕の長さは、光学顕微鏡にて、観察倍率500倍で計測される。
【0056】
本実施形態の微小摩耗特性の評価方法は、単結晶ダイヤモンド75の微小領域の摩耗特性(耐摩耗性)を高精度に評価できる。これにより単結晶ダイヤモンド75の、不純物や結晶欠陥の不均一分布による摩耗特性の分布状態が詳細に調査できる。この評価方法は、単結晶ダイヤモンド75を精密バイトや小径エンドミルなどの精密切削工具に用いる際の、単結晶ダイヤモンド75の選定や品質評価に有用である。
【実施例
【0057】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0058】
試験体として、不純物や結晶欠陥をほとんど含まない高純度で無色透明の合成単結晶ダイヤモンド(IIa型、不純物0.1ppm以下)および、通常工業用に生産されている黄色の合成単結晶ダイヤモンド(Ib型、百ppm前後の窒素を孤立置換型不純物として含む)を用いた。各試験体の(100)面を、メタルボンドダイヤモンド砥石あるいはスカイフ板で平行研磨して平面を形成し、該平面上で微小摩耗特性を評価した。
【0059】
単結晶ダイヤモンドの摩耗特性には、不純物や結晶欠陥が影響すると推察される。よって、まず、不純物や結晶欠陥をほとんど含まない合成単結晶ダイヤモンド(以下、「合成IIa型単結晶ダイヤモンド」とも記す。)からなる試験体において、本評価方法の妥当性の確認と、接触子の損耗状態及び安定性を調査した(後述の実施例1及び実施例2)。
更に、該合成IIa型単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の方位による違いを評価した(後述の実施例3)。
【0060】
次に、通常工業用に生産されている合成単結晶ダイヤモンド(以下、「合成Ib型単結晶ダイヤモンド」とも記す。)からなる試験体において、成長セクターと微小摩耗特性との関係を調査した(後述の実施例4)。
【0061】
以下の全ての実施例において、接触子は複数のダイヤモンド粒子からなる多結晶ダイヤモンドからなる。上記複数のダイヤモンド粒子の平均粒径は50nmである。該多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は130GPaである。
【0062】
以下の全ての実施例において、摩耗痕の形成条件は、接触子の回転速度313rpm(周速3.15m/min)、1つの摩耗痕当たりの押し付け圧0.1MPa、押し付け時間60秒である。試験体上の摩耗痕の間隔は、0.1mm又は0.05mmである。
【0063】
[実施例1:合成IIa型単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向の微小摩耗特性の評価]
接触子として、実施形態1に記載の接触子を準備した。該接触子は、外端部がV字形状である(すなわち、第1面31と第2面32とが交差して角度θを形成しており、接続面33は存在しない)こと以外は、図3に示される断面形状を有し、長さr1が1.6mm(上面視において、直径φ3.2mmの円状、第2部分の周長約10mm)、角度θは120°、回転軸R方向の最大長さ(厚さ)0.6mmである。
【0064】
図7及び図8に示されるように、合成IIa型単結晶ダイヤモンドに対して、(001)面の<100>方向に平行に摩耗痕を形成して評価を行った。その結果を、図10のグラフの実線として示す。図10の座標系において、横軸は試験番号を示し、縦軸は摩耗痕の長さ(μm)を示す。試験番号は、摩耗痕の形成回数に対応する。例えば、試験番号5とは、5回目の摩耗痕の形成を意味する。
【0065】
図10に示されるように、試験番号5で示される5回目の摩耗痕の形成までは、摩耗痕の長さが徐々に短くなる。これは、摩耗試験前の接触子の第2部分はV字形状で鋭利な状態であるため、摩耗痕が形成されやすく、前処理試験の回数の増加に伴い、第2部分の先端が摩耗し、摩耗痕が形成されにくくなるためと推察される。5回目の摩耗痕の形成後は、外端部が平坦となり、外端部の長さDが5~6μm程度となる。5回目以降の摩耗痕の形成では、外端部の摩耗がほぼ生じずに安定するため、摩耗痕の長さ及び幅がほぼ一定の値となる。これは、多結晶ダイヤモンドの耐摩耗性は、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向の耐摩耗性に比べてはるかに優れているためと推察される。
【0066】
上記より、前処理として5回以上の摩耗痕の形成を行うことで、その後は安定した微小摩耗評価が可能となることが確認された。また、単結晶ダイヤモンドからなる試験体に対して安定した摩耗試験が可能であることが確認された。
【0067】
[実施例2:合成IIa単結晶ダイヤモンドの(001)面の<110>方向の微小摩耗特性の評価]
その後、実施例1と同一の接触子を用いて、図7及び図9に示されるように、合成IIa型単結晶ダイヤモンドに対して、(001)面の<110>方向に平行に摩耗痕を形成して評価を行った。その結果を、図10のグラフの点線として示す。
【0068】
図10に示されるように、試験番号(摩耗痕の形成回数)の増加に従い、摩耗痕が短くなる。これは、多結晶ダイヤモンドの耐摩耗性は、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<110>方向の耐摩耗性と同レベルであるため、接触子の外端部は、少しずつ摩滅し続けるためと推察される。
【0069】
実施例1及び実施例2より、結晶間の耐摩耗性の違いや結晶内の摩耗特性の分布状態を調べる目的では、単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向に平行な摩耗痕を形成して評価を行うことが好ましいことが確認された。
【0070】
[実施例3:合成IIa単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>と<110>方向の摩耗特性比較]
実施例1では、合成IIa単結晶ダイヤモンドの(001)面の<100>方向の摩耗痕長(以下、「<100>摩耗痕長」とも記す。)の漸近値は145~150μm程度となっている。一方、実施例2では、試験開始時(試験番号1)の合成IIa単結晶ダイヤモンドの(001)面の<110>方向の摩耗痕長(以下、「<110>摩耗痕長」とも記す。)は110~120μm程度である。したがって、<100>摩耗痕長は<110>摩耗痕長の約1.3倍となり、摩耗体積に換算すると約2.2倍となる。
【0071】
上記の結果は、非特許文献2のメタルボンドダイヤモンド砥石ホイールによる実験結果と傾向は同じであるが、本実施形態の接触子は、外端部の摩耗(ヘタリ)が非常に小さいため、結晶による違いや、結晶内の場所による違いに関して、より正確に評価することが可能である。
【0072】
実施例1~実施例3より、本実施形態の接触子を用いた評価方法によれば、単結晶ダイヤモンドの摩耗特性(ダイヤモンド本来の耐摩耗性に関する特性)の面方位による違いを、数十μmレベルの微小領域においても正確に評価できることが確認された。
【0073】
[実施例4:合成Ib単結晶ダイヤモンドの成長セクターと微小摩耗特性との関係の評価]
接触子として、実施形態1に記載の接触子を準備した。該接触子は、図3に示される断面形状を有し、長さr1が1.6mm(上面視において、直径φ3.2mmの円状、第2部分の周長約10mm)、角度θは120°、長さDは5μm、回転軸R方向の最大長さ(厚さ)0.6mmである。
【0074】
上記接触子を用いて、窒素不純物を100ppm前後含む合成Ib型単結晶ダイヤモンドの試験体に対して、(001)面の<100>方向に平行に摩耗痕を形成し、成長セクターと微小摩耗特性との関係を評価した。上記試験体は2つ準備した。以下、それぞれ試験体A及び試験体Bと記す。
【0075】
試験体A及び試験体Bにおける成長セクターの分布は、紫外線励起蛍光像観察により確認される。図11は、試験体Aの紫外線励起蛍光像を示す写真代用図である。図13は、試験体Bの紫外線励起蛍光像を示す写真代用図である。図13では、紫外線励起蛍光像に、光学顕微鏡で観察された摩耗痕を重ね合わせて示している。
【0076】
図12は、試験体Aにおける試験番号と摩耗痕長さとの関係を示すグラフである。図12において、試験番号7~試験番号12は(111)セクター内に形成された摩耗痕を示し、試験番号13~試験番号27は(100)セクター内に形成された摩耗痕を示し、試験番号28は(110)セクター内に形成された摩耗痕を示す。
【0077】
図14は、試験体Bにおける試験番号と摩耗痕長さとの関係を示すグラフである。図14において、試験番号5は(110)セクター内に形成された摩耗痕を示し、試験番号6~試験番号26は(100)セクター内に形成された摩耗痕を示し、試験番号27は(110)セクター内に形成された摩耗痕を示す。
【0078】
図12及び図14より、摩耗特性は成長セクターにより異なり、特に(110)セクターの耐摩耗性が非常に高いことが確認された。各成長セクター内の窒素量は通常、(111)>(100)>(113)>(110)であることが知られており、(110)セクターにはほとんど窒素は含まれない。このため、(110)セクター部の摩耗量が少ないと推察される。
【0079】
上記より、本実施形態の接触子を用いた単結晶ダイヤモンドの微小摩耗特性の評価方法により、不純物を含む単結晶ダイヤモンドの耐摩耗性は、成長セクターにより異なること、及び、不純物の分布状態によって少なからず影響を受けることが確認された。
【0080】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1 接触子
2 第1部分
3 第2部分
3A 外端部
31 第1面
32 第2面
31A 第1境界部
32A 第2境界部
33 接続面
R 回転軸
60 マシニングセンタ
61 スピンドル
62 固定ネジ
70 試料保持部
71 エアシリンダ
72 リニアガイド
75 単結晶ダイヤモンド
76 治具
77 平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14