(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】接着シート、接着シートの製造方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20240918BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240918BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240918BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240918BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240918BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J201/00
C09J163/00
C09J11/08
C09J5/00
B32B27/00 M
(21)【出願番号】P 2024072440
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2023067746の分割
【原出願日】2023-04-18
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】島田 信哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泉
(72)【発明者】
【氏名】星 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 菜穂
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-006646(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105217(WO,A1)
【文献】特開2020-076059(JP,A)
【文献】特開2021-155495(JP,A)
【文献】特開2023-036159(JP,A)
【文献】特開2018-021203(JP,A)
【文献】国際公開第2022/244535(WO,A1)
【文献】特開2019-214729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有する接着シートであって、
前記基材の前記第一接着層とは反対の面側に、他の接着層を有さず、
前記第一接着層がエポキシ樹脂を含有し、前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下である、接着シート。
【請求項2】
基材と、前記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、前記基材の前記第一接着層とは反対の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、を有する接着シートであって、
前記第一接着層および前記第二接着層がエポキシ樹脂を含有し、前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下であり、
前記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下である、接着シート。
【請求項3】
基材と、前記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、前記基材の前記第一接着層とは反対の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、前記第二接着層の前記基材とは反対の面側に配置されたセパレータと、を有する接着シートであって、
前記第一接着層がエポキシ樹脂を含有し、前記第一接着層に含有される前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第二接着層がエポキシ樹脂を含有し、前記第二接着層に含有される前記エポキシ樹脂が常温で液体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下であり、
前記第二接着層のタックが、0.1N以上である、接着シート。
【請求項4】
前記第一接着層が発泡剤を含有する、請求項1に記載の接着シート。
【請求項5】
前記第一接着層および前記第二接着層の少なくとも一方が発泡剤を含有する、請求項2または請求項3に記載の接着シート。
【請求項6】
基材と、前記基材の一方の面側に配置された第一接着層と、を有する接着シートを製造する接着シートの製造方法であって、
前記接着シートは、前記基材の前記第一接着層とは反対の面側に、他の接着層を有さず、
前記基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、前記第一接着層を形成する第一接着層形成工程を有し、
前記第一接着剤組成物がエポキシ樹脂を含有し、前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第一接着層形成工程では、前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下となるように、前記第一接着剤組成物を乾燥する、接着シートの製造方法。
【請求項7】
基材と、前記基材の一方の面側に配置された第一接着層と、前記基材の他方の面側に配置された第二接着層と、を有する接着シートを製造する接着シートの製造方法であって、
前記基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、前記第一接着層を形成する第一接着層形成工程と、前記基材の他方の面側に、第二硬化性接着剤を含有する第二接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、前記第二接着層を形成する第二接着層形成工程と、を有し、
前記第一接着剤組成物および前記第二接着剤組成物がエポキシ樹脂を含有し、前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第一接着層形成工程では、前記第一接着層形成工程後および前記第二接着層形成工程後の前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下となるように、前記第一接着剤組成物を乾燥し、
前記第二接着層形成工程では、前記第一接着層形成工程後および前記第二接着層形成工程後の前記第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下となるように、前記第二接着剤組成物を乾燥する、接着シートの製造方法。
【請求項8】
基材と、前記基材の一方の面側に配置された第一接着層と、前記基材の他方の面側に配置された第二接着層と、前記第二接着層の前記基材とは反対の面側に配置されたセパレータと、を有する接着シートを製造する接着シートの製造方法であって、
前記基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、前記第一接着層を形成する第一接着層形成工程と、前記基材の他方の面側に、
第二硬化性接着剤を含有する第二接着剤組成物を用い、前記第二接着層を形成する第二接着層形成工程を有し、
前記第一接着剤組成物がエポキシ樹脂を含有し、前記第一接着剤組成物に含有される前記エポキシ樹脂が常温で固体のエポキシ樹脂を含み、
前記第二接
着剤組成物がエポキシ樹脂を含有し、前記第二接着剤組成物に含有される前記エポキシ樹脂が常温で液体のエポキシ樹脂を含み、
前記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
前記第二接着層のタックが、0.1N以上であり、
前記第一接着層形成工程では、前記第一接着層形成工程後および前記第二接着層形成工程後の前記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下となるように、前記第一接着剤組成物を乾燥する、接着シートの製造方法。
【請求項9】
前記第一接着剤組成物が発泡剤を含有する、請求項6に記載の接着シートの製造方法。
【請求項10】
前記第一接着剤組成物および前記第二接着剤組成物の少なくとも一方が発泡剤を含有する、請求項7または請求項8に記載の接着シートの製造方法。
【請求項11】
第一部材および第二部材の間に、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の接着シートを配置する配置工程と、
前記接着シートを硬化し、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、
を有する物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着シートおよびその製造方法、ならびに接着シートを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を接着する接着剤は、様々な分野で用いられている。接着剤としては、液状接着剤が主流である。しかし、液状接着剤の場合、塗布ムラ、はみ出し、液垂れ等が生じ、接着工程を煩雑化させるという問題がある。
【0003】
一方、近年では、液状接着剤に代えて、シート状接着剤、つまり接着シートを使用することが提案されている。さらには、発泡剤を含有する接着シート(発泡性接着シート)も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/163514号
【文献】特開2019-203062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着シートを用いた2つの部材の接着方法としては、例えば、2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートを硬化することにより、2つの部材を接着する方法が挙げられる。この方法においては、例えば、2つの部材の間隙に接着シートを挿入する、あるいは、一方の部材の穴または溝に、他方の部材および接着シートを挿入する場合がある。これらの場合、接着シートの粘着性が高いと、接着シートの滑り性が悪いため、接着シートが挿入しにくいという問題がある。
【0006】
また、接着シートは、保管時にブロッキングが生じるおそれがあるため、耐ブロッキング性が良好であることが望まれる。
【0007】
さらに、接着シートは、ロール状に巻き取られた状態で保管される場合がある。また、2つの部材の間に接着シートを配置する際、例えば部材の形状に合わせて、接着シートを折り曲げる場合がある。これらの場合、接着シートが割れてしまうおそれがある。また、接着シートが、基材の片面または両面に接着層を有する場合、巻き取り時および折り曲げ時に、基材からの接着層の浮きまたは剥がれが生じるおそれがある。そのため、接着シートは、巻き取り時および折り曲げ時に、接着層の割れ、浮き、剥がれが生じにくいことも望まれる。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、接着層の滑り性および耐ブロッキング性が良好であり、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できる接着シートを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有する接着シートであって、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である、接着シートを提供する。
【0010】
本開示の他の実施形態は、基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第一接着層を形成する第一接着層形成工程を有する接着シートの製造方法であって、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層形成工程では、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、上記第一接着剤組成物を乾燥する、接着シートの製造方法を提供する。
【0011】
本開示の他の実施形態は、第一部材および第二部材の間に、上述の接着シートを配置する配置工程と、上記接着シートを硬化し、上記第一部材および上記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本開示における接着シートは、接着層の滑り性および耐ブロッキング性が良好であり、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示における接着シートの一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示における接着シートの他の例を示す概略斜視図である。
【
図3】本開示における接着シートの他の例を示す概略断面図である。
【
図4】本開示における接着シートの他の例を示す概略断面図である。
【
図5】本開示における接着シートの他の例を示す概略断面図である。
【
図6】本開示における接着シートの他の例を示す概略断面図である。
【
図7】本開示における接着シートの他の例を示す概略断面図である。
【
図8】本開示における接着シートの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図9】本開示における物品の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定しない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0015】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0016】
また、本明細書において、「シート」には、「フィルム」と呼ばれる部材も含まれる。また、「フィルム」には、「シート」と呼ばれる部材も含まれる。また、本明細書における数値範囲は、平均的な値の範囲である。
【0017】
以下、本開示における接着シート、接着シートの製造方法、および物品の製造方法について、詳細に説明する。
【0018】
A.接着シート
本開示の発明者らは、基材の片面または両面に接着層を有する接着シートについて、鋭意検討を行った。まず、接着層の滑り性を向上するには、例えば接着層を非粘着性(タックフリー)にするのが有効である。しかし、接着層が非粘着性であると、接着層が硬くなる傾向にあるため、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時に、接着層に割れ、浮き、剥がれが生じやすい傾向にある。次に、接着層が非粘着性である場合において、接着シートをロール状に巻き取る場合、コスト削減およびセパレータのずれ防止を考慮して、非粘着性の接着層の基材とは反対の面にはセパレータを配置しない状態で、接着シートをロール状に巻き取るのが一般的である。しかし、この場合、非粘着性の接着層はセパレータで保護されていないため、ブロッキングが生じることがある。接着層が非粘着性である場合において、接着層の耐ブロッキング性を向上するには、例えば接着層を硬くするのが有効である。しかし、上述のように、接着層が硬くなりすぎると、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時に、接着層に割れ、浮き、剥がれが生じやすい傾向にある。本開示の発明者らは鋭意検討を重ね、接着層のタックを所定の範囲とし、かつ、接着層のマルテンス硬さを所定の範囲内とすることにより、接着層の滑り性および耐ブロッキング性の向上と、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれの抑制とを、バランス良く実現できることを見出した。本開示はこのような知見に基づく。
【0019】
本開示における接着シートは、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0020】
本開示においては、第一接着層のタックが所定の値未満であり、かつ、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内であることにより、第一接着層の滑り性および耐ブロッキング性の向上と、巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れ、浮き、剥がれの抑制とを、バランス良く実現できる。
【0021】
また、本開示においては、第一接着層のタックが所定の値未満であり、第一接着層が実質的に非粘着性(タックフリー)であるため、接着シートの取扱性および作業性を向上できる。
【0022】
本開示における接着シートは、3つの好ましい実施態様を有する。
【0023】
本開示における接着シートの第一実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0024】
図1は、本開示における接着シートの第一実施態様を例示する概略断面図である。
図1における接着シート10Aは、基材1と、基材1の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層2とを有する。接着シート10Aは、基材1の他方の面側に、他の接着層を有さない。第一接着層2のタックは所定の値未満であり、第一接着層2のマルテンス硬さは所定の範囲内である。
【0025】
図1に示す接着シート10Aにおいては、第一接着層2のタックが所定の値未満であるため、第一接着層2は実質的に非粘着性(タックフリー)である。そのため、接着シート10Aをロール状に巻き取る場合、コスト削減およびセパレータのずれ防止等を考慮して、通常、第一接着層2の基材1とは反対の面には、セパレータは配置されない。この場合、例えば
図2に示すように、ロール状の接着シート10Aにおいては、第一接着層2と基材1とが接するようになるため、ブロッキングが懸念される。
【0026】
滑り性および耐ブロッキング性の向上を図る場合、例えば、第一接着層を硬くすることが有効である。しかし、第一接着層を硬くすると、接着シートをロール状に巻き取った際、および、接着シートを折り曲げた際に、第一接着層が割れやすくなる、あるいは、基材からの第一接着層の浮きまたは剥がれが生じやすくなる。また、例えば第一接着層が発泡剤をさらに含有する場合、第一接着層が硬いと、第一接着層が発泡硬化する際に膨張しにくくなり、発泡倍率が低下する。そうすると、2つの部材の間に接着シートを配置した後、第一接着層を発泡硬化することにより、2つの部材の間を充填かつ接着する場合、2つの部材の間隙を十分に充填できず、発泡硬化後の接着性が低下する。
【0027】
これに対し、第一実施態様においては、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内であることにより、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制しつつ、第一接着層の滑り性を向上させ、第一接着層のブロッキングを抑制できる。また、第一接着層が発泡剤を含有する場合には、発泡硬化後の接着性も良好になる。
【0028】
また、第一実施態様においては、第一接着層のタックが所定の値未満であり、第一接着層が実質的に非粘着性(タックフリー)であることにより、第一接着層の滑り性が良好になる。そのため、例えば、2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートを硬化させることにより、2つの部材を接着する場合、2つの部材の間隙に接着シートをスムーズに挿入できる。あるいは、一方の部材の穴または溝に、他方の部材と接着シートとをスムーズに挿入できる。あるいは、一方の部材の穴または溝に接着シートを配置した後の隙間に、他方の部材を挿入できる。また、一方の部材に対して他方の部材を動かして2つの部材の位置合わせを行う場合、一方の部材の穴または溝に他方の部材を挿入した状態で、一方の部材に対して他方の部材をスムーズに動かすことができ、位置合わせを容易に行うことができる。
【0029】
本開示における接着シートの第二実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、基材の他方の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、を有し、上記第一接着層および上記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層および上記第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0030】
図3は、本開示における接着シートの第二実施態様を例示する概略断面図である。
図3における接着シート10Bは、基材1と、基材1の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層2と、基材1の他方の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層3とを有する。第一接着層2および第二接着層3のタックは所定の値未満であり、第一接着層2および第二接着層3のマルテンス硬さは所定の範囲内である。
【0031】
図3に示す接着シート10Bにおいては、第一接着層2および第二接着層3のタックが所定の値未満であるため、第一接着層2および第二接着層3は実質的に非粘着性(タックフリー)である。そのため、接着シート10Bをロール状に巻き取る場合、コスト削減およびセパレータのずれ防止等を考慮して、通常、第一接着層2の基材1とは反対の面、および、第二接着層3の基材1とは反対の面には、セパレータは配置されない。この場合、第一接着層2と第二接着層3とが接するようになるため、ブロッキングが懸念される。
【0032】
滑り性および耐ブロッキング性の向上を図る場合、例えば、第一接着層および第二接着層を硬くすることが有効である。しかし、第一接着層および第二接着層を硬くすると、接着シートをロール状に巻き取った際、および、接着シートを折り曲げた際に、第一接着層および第二接着層が割れやすくなる、あるいは、基材からの第一接着層および第二接着層の浮きまたは剥がれが生じやすくなる。また、例えば第一接着層および第二接着層の少なくとも一方が発泡剤をさらに含有する場合、発泡剤を含有する接着層が硬いと、その接着層が発泡硬化する際に膨張しにくくなり、発泡倍率が低下する。そうすると、2つの部材の間に接着シートを配置した後、発泡剤を含有する接着層を発泡硬化することにより、2つの部材の間を充填かつ接着する場合、2つの部材の間隙を十分に充填できず、発泡硬化後の接着性が低下する。
【0033】
これに対し、第二実施態様においては、第一接着層および第二接着層のタックが所定の値未満である場合に、第一接着層および第二接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内であることにより、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層および第二接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制しつつ、第一接着層および第二接着層の滑り性を向上させ、第一接着層および第二接着層のブロッキングを抑制できる。また、第一接着層および第二接着層の少なくとも一方が発泡剤を含有する場合には、発泡硬化後の接着性も良好になる。
【0034】
また、第二実施態様においては、第一接着層および第二接着層のタックが所定の値未満であり、第一接着層および第二接着層が実質的に非粘着性(タックフリー)であることにより、第一接着層および第二接着層の滑り性が良好になる。そのため、例えば、2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートを硬化させることにより、2つの部材を接着する場合、2つの部材の間隙に接着シートをスムーズに挿入できる。あるいは、一方の部材の穴または溝に、他方の部材と接着シートとをスムーズに挿入できる。あるいは、一方の部材の穴または溝に接着シートを配置した後の隙間に、他方の部材を挿入できる。また、一方の部材に対して他方の部材を動かして2つの部材の位置合わせを行う場合、一方の部材の穴または溝に他方の部材を挿入した状態で、一方の部材に対して他方の部材をスムーズに動かすことができ、位置合わせを容易に行うことができる。
【0035】
本開示における接着シートの第三実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、基材の他方の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、上記第二接着層の上記基材とは反対の面側に配置されたセパレータと、を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第二接着層のタックが、0.1N以上であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0036】
図4は、本開示における接着シートの第三実施態様を例示する概略断面図である。
図4における接着シート10Cは、基材1と、基材1の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層2と、基材1の他方の面側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層3と、第二接着層3の基材1とは反対の面側に配置されたセパレータ4とを有する。第一接着層2のタックは所定の値未満であり、第二接着層3のタックは所定の値以上であり、第一接着層2のマルテンス硬さは所定の範囲内である。
【0037】
図4に示す接着シート10Cにおいては、第一接着層2のタックが所定の値未満であるため、第一接着層2は実質的に非粘着性(タックフリー)である。そのため、接着シート10Cをロール状に巻き取る場合、コスト削減およびセパレータのずれ防止等を考慮して、通常、第一接着層2の基材1とは反対の面には、セパレータは配置されない。一方、第二接着層3は粘着性であるため、第二接着層3の基材1とは反対の面側にはセパレータ4が配置される。この場合、第一接着層2とセパレータ4とが接するようになるため、ブロッキングが懸念される。
【0038】
滑り性および耐ブロッキング性の向上を図る場合、例えば、第一接着層を硬くすることが有効である。しかし、第一接着層を硬くすると、接着シートをロール状に巻き取った際、および、接着シートを折り曲げた際に、第一接着層が割れやすくなる、あるいは、基材からの第一接着層の浮きまたは剥がれが生じやすくなる。また、例えば第一接着層が発泡剤をさらに含有する場合、第一接着層が硬いと、第一接着層が発泡硬化する際に膨張しにくくなり、発泡倍率が低下する。そうすると、2つの部材の間に接着シートを配置した後、第一接着層を発泡硬化することにより、2つの部材の間を充填かつ接着する場合、2つの部材の間隙を十分に充填できず、発泡硬化後の接着性が低下する。
【0039】
これに対し、第三実施態様においては、第一接着層のタックが所定の値未満である場合に、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内であることにより、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れを抑制しつつ、第一接着層の滑り性を向上させ、第一接着層のブロッキングを抑制できる。また、第一接着層が発泡剤を含有する場合には、発泡硬化後の接着性も良好になる。
【0040】
また、第三実施態様においては、第一接着層のタックが所定の値未満であり、第一接着層が実質的に非粘着性(タックフリー)であることにより、第一接着層の滑り性が良好になる。一方で、第二接着層のタックが所定の値以上であることにより、部材に対する第二接着層の密着性を向上できる。そのため、例えば、2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートを硬化させることにより、2つの部材を接着する場合、一方の部材に接着シートの第二接着層の面を貼り付けた後、他方の部材の穴または溝に、接着シートが貼り付けられた一方の部材をスムーズに挿入できる。また、他方の部材の穴または溝に、接着シートが貼り付けられた一方の部材を挿入する際に、一方の部材に対する接着シートの剥がれおよび位置ずれを抑制できる。また、他方の部材に対して一方の部材を動かして2つの部材の位置合わせを行う場合には、他方の部材の穴または溝に、接着シートが貼り付けられた一方の部材を挿入した状態で、他方の部材に対して一方の部材をスムーズに動かすことができ、位置合わせを容易に行うことができる。
【0041】
ここで、非粘着性は、主に粘着力が低いという意味で一般に使用される。本開示において、「実質的に非粘着性である」とは、タックが0.1N未満であることをいう。
【0042】
また、「粘着」とは「接着」に含まれる概念である。粘着は一時的な接着現象の意味として用いられるのに対し、接着は実質的に永久的な接着現象の意味として用いられる点で区別されることがある(岩波書店 理化学辞典第5版)。「粘着性」および「粘着力」とは、感圧により接着する性質およびそのときの接着力を指す。
【0043】
なお、本明細書において、「接着層の粘着性」および「接着層の粘着力」とは、特段の事情が無い限り、硬化前の接着層が有する粘着性および粘着力をいう。また、本明細書において、「接着層の接着性」および「接着層の接着力」とは、特段の事情が無い限り、硬化後の接着層が有する接着性および接着力をいう。
【0044】
以下、本開示における接着シートの各実施態様について説明する。
【0045】
I.接着シートの第一実施態様
本開示における接着シートの第一実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。本実施態様の接着シートは、基材の他方の面側に、他の接着層を有さない。
【0046】
以下、本実施態様の接着シートの各構成について説明する。
【0047】
1.第一接着層
本実施態様における第一接着層は、基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する。また、本実施態様において、第一接着層のタックは所定の値未満であり、第一接着層のマルテンス硬さは所定の範囲内である。
【0048】
(1)第一接着層の物性
本実施態様における第一接着層のタックは、0.1N未満であり、0.05N以下であってもよく、0.02N以下であってもよい。第一接着層のタックが上記範囲内であることにより、第一接着層を実質的に非粘着性(タックフリー)とすることができる。また、第一接着層の滑り性が良好になる。
【0049】
ここで、第一接着層のタックは、プローブタック試験により測定する。具体的には、発泡性接着シートの第一接着層の面に、直径5mmの円柱形のステンレス製のプローブを、温度23±5℃、湿度50±30%RHの条件で、荷重0.1N、速度30mm/minで押し付け、1.0秒間保持した後、速度30mm/minで引き剥がし、引き剥がすときの荷重を測定する。この測定を5回行い、平均値をタックとする。プローブタック試験機としては、例えば、RHESCA社製のタッキング試験機「TAC-II」を使用できる。
【0050】
本実施態様において、第一接着層のタックを制御する方法としては、例えば、第一接着層の組成を調整する方法が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、常温で固体のエポキシ樹脂を用いたり、常温で固体の硬化剤を用いたりすることにより、第一接着層のタックを低くできる。また、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、軟化温度の高いエポキシ樹脂を含有させる、あるいは重量平均分子量の大きいエポキシ樹脂を含有させることにより、第一接着層のタックを低くできる。例えば、第一接着層に軟化温度の異なる複数種のエポキシ樹脂を含有させる、すなわち、第一接着層が、一のエポキシ樹脂と、軟化温度が25℃以上であり、かつ、上記一のエポキシ樹脂の軟化温度よりも10℃以上高い、他のエポキシ樹脂とを含有することにより、第一接着層のタックを低くできる。また、例えば、第一接着層に重量平均分子量の異なる複数種のエポキシ樹脂を含有させる、すなわち、第一接着層が、一のエポキシ樹脂と、重量平均分子量が370以上であり、かつ、上記一のエポキシ樹脂の重量平均分子量よりも300以上大きい、他のエポキシ樹脂とを含有することにより、第一接着層のタックを低くできる。より具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、後述するように、エポキシ樹脂として、軟化温度が低く、低分子量の第一エポキシ樹脂と、軟化温度が高く、高分子量の第二エポキシ樹脂とを含有させることにより、第一接着層のタックを低くできる。また、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、後述するように、エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂を含有させることにより、第一接着層のタックを低くできる。
【0051】
本実施態様における第一接着層のマルテンス硬さは、20N/mm2以上であり、30N/mm2以上であってもよく、40N/mm2以上であってもよい。第一接着層のマルテンス硬さが上記範囲であることにより、耐ブロッキング性を向上できる。また、第一接着層のマルテンス硬さは、130N/mm2以下であり、110N/mm2以下であってもよく、90N/mm2以下であってもよい。第一接着層のマルテンス硬さが上記範囲であることにより、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できる。具体的には、第一接着層のマルテンス硬さは、20N/mm2以上130N/mm2以下であり、30N/mm2以上110N/mm2以下であってもよく、40N/mm2以上90N/mm2以下であってもよい。
【0052】
ここで、第一接着層のマルテンス硬さは、ISO 14577に準拠し、インデンテーション法により測定する。マルテンス硬さ(HM)は、下記式により算出する。
HM=F/As
(上記式において、F:押し込み荷重、As:押し込み深さにおける圧子の表面積、である。)
超微小硬さ試験機としては、フィッシャー・インストルメンツ社製「ピコデンターHM500」を使用できる。圧子は、以下の圧子を使用する。また、測定条件を以下に示す。なお、厚さによる依存をなくすため、押し込み荷重は小さく設定する。具体的には、押し込み深さが第一接着層の1/10以下程度となるように、押し込み荷重を設定している。
【0053】
(圧子)
・形状:正四角錐
・素材:ダイヤモンド
【0054】
(測定条件)
・押し込み荷重:25mN
・負荷時間:20秒
・保持時間:5秒
・温度:23±5℃
・湿度:50±30%RH
【0055】
本実施態様において、第一接着層のマルテンス硬さを制御する方法としては、例えば、第一接着層の組成を調整する方法、および、第一接着層の形成時の乾燥条件を調整するが挙げられる。
【0056】
第一接着層の組成を調整する方法においては、具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、常温で固体のエポキシ樹脂を用いたり、常温で固体の硬化剤を用いたりすると、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。また、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、軟化温度の高いエポキシ樹脂を含有させる、あるいは重量平均分子量の大きいエポキシ樹脂を含有させることにより、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。例えば、第一接着層に軟化温度の異なる複数種のエポキシ樹脂を含有させる、すなわち、第一接着層が、一のエポキシ樹脂と、軟化温度が25℃以上であり、かつ、上記一のエポキシ樹脂の軟化温度よりも10℃以上高い、他のエポキシ樹脂とを含有することにより、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。また、例えば、第一接着層に重量平均分子量の異なる複数種のエポキシ樹脂を含有させる、すなわち、第一接着層が、一のエポキシ樹脂と、重量平均分子量が370以上であり、かつ、上記一のエポキシ樹脂の重量平均分子量よりも300以上大きい、他のエポキシ樹脂とを含有することにより、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。より具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、後述するように、エポキシ樹脂として、軟化温度が低く、低分子量の第一エポキシ樹脂と、軟化温度が高く、高分子量の第二エポキシ樹脂とを含有させることにより、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。また、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第一接着層において、後述するように、エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂を含有させることにより、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。
【0057】
また、第一接着層の形成時の乾燥条件を調整する方法においては、例えば、基材の一方の面側に第一接着剤組成物を塗布して乾燥することにより、第一接着層を形成する場合、乾燥条件を調整することにより、第一接着層のマルテンス硬さを制御できる。乾燥条件としては、例えば、乾燥温度、熱履歴、風速が挙げられる。熱履歴としては、例えば、昇温速度、トータルの熱量が挙げられる。例えば、乾燥温度が高くなると、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、乾燥温度が低くなると、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、昇温速度が速くなると、乾燥時間が一定である場合、トータルの熱量が多くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、昇温速度が遅くなると、乾燥時間が一定である場合、トータルの熱量が少なくなるため、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、第一接着層が受けるトータルの熱量が多くなると、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、第一接着層が受けるトータルの熱量が少なくなると、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、風速が速くなると、乾燥速度が速くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、風速が遅くなると、乾燥速度が遅くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。
【0058】
また、本実施態様において、後述するように第一接着層が発泡剤を含有する場合、第一接着層は、例えば、1.5倍以上、15倍以下の発泡倍率で発泡可能である。上記発泡倍率は、例えば、3.5倍以上であってもよく、4倍以上であってもよく、4.5倍以上であってもよい。また、上記発泡倍率は、例えば、9倍以下であってもよく、8.5倍以下であってもよく、8倍以下であってもよい。上記発泡倍率が小さすぎると、2つの部材の間隙を十分に充填できず、発泡硬化後の接着性が低下する可能性がある。また、上記発泡倍率が大きすぎると、第一接着層の発泡硬化後の空隙率が大きくなるため、発泡硬化後の接着性が低下する場合がある。
【0059】
ここで、発泡倍率は、下記式により求める。
発泡倍率(倍)=硬化後の第一接着層の厚さ/硬化前の第一接着層の厚さ
【0060】
(2)第一接着層の材料
(a)第一硬化性接着剤
本実施態様における第一接着層に含まれる第一硬化性接着剤としては、一般に接着シートの接着層に使用される硬化性接着剤を用いることができる。第一硬化性接着剤としては、例えば、加熱硬化型接着剤および光硬化型接着剤等が挙げられる。中でも、加熱硬化型接着剤が好ましい。加熱硬化型接着剤は、例えば金属製の部材のように部材が透明性を有さない場合でも適用可能である。
【0061】
第一硬化性接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤であることが好ましい。すなわち、第一硬化性接着剤は、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含有することが好ましい。一般に、エポキシ樹脂系接着剤は、硬化膜が硬く強靭であり、金属製やガラス製の部材のように硬い素材の部材の接着に適している。また、エポキシ樹脂系接着剤は、一般に、耐熱性、絶縁性、耐薬品性等に優れており、硬化収縮が小さく、幅広い用途に用いることができる。
【0062】
また、第一硬化性接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である場合、第一硬化性接着剤は、エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂をさらに含有することが好ましい。エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂をさらに用いることにより、第一接着層の靭性を高めることができる。これにより、硬化後の接着性を向上できる。
【0063】
(i)エポキシ樹脂
本実施態様におけるエポキシ樹脂は、少なくとも1つ以上のエポキシ基またはグリシジル基を有し、硬化剤との併用により架橋重合反応を起こして硬化する化合物である。エポキシ樹脂には、少なくとも1つ以上のエポキシ基またはグリシジル基を有する単量体も含まれる。
【0064】
エポキシ樹脂としては、一般に接着シートの接着層に使用されるエポキシ樹脂を用いることができる。中でも、硬化性接着剤は、エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂とを含有することが好ましい。第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を組み合せて用いることで、耐ブロッキング性および硬化後の接着性が良好な接着シートを得ることができる。さらには、第一接着層の粘着性(タック性)を低下させることができ、滑り性が良好な接着シートを得ることができる。
【0065】
例えば、硬化後の接着性の向上のみを図る場合、高分子量(高エポキシ当量)のエポキシ樹脂よりも低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂を用いることが有効である。しかしながら、低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂を用いた場合、例えば接着シートをロール状に巻き取った際に、低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂同士が同化し、ブロッキングが生じやすくなる。
【0066】
これに対して、軟化温度が相対的に低く(結晶性が相対的に高く)、かつ、低分子量(低エポキシ当量)な第一エポキシ樹脂を用いる場合、第一エポキシ樹脂は、軟化温度以上の温度になると、急速に融解して低粘度の液状に変化する。そのため、硬化後の接着性を向上させやすい。一方、第一エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に高いため、結晶性が相対的に低いエポキシ樹脂または結晶性を有しないエポキシ樹脂と比較すると、ブロッキングの発生を抑制できる。しかしながら、第一エポキシ樹脂のみを用いた場合、ブロッキングの発生抑制効果が不十分である可能性や、第一接着層の粘着性(タック性)が高くなりすぎる可能性がある。そのため、軟化温度が相対的に高く(結晶性が相対的に低く)、かつ、高分子量な第二エポキシ樹脂をさらに用いることにより、ブロッキングの発生抑制効果を向上させることや、第一接着層の粘着性(タック性)を低く抑えることができる。
【0067】
(i-1)第一エポキシ樹脂
第一エポキシ樹脂は、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である。第一エポキシ樹脂は、後述する第二エポキシ樹脂と比較して、軟化温度が相対的に低い(結晶性が相対的に高い)。第一エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に高く、分子量が低いことから、硬化後の接着性および耐ブロッキング性を向上させやすい。また、第一エポキシ樹脂は、分子量が低いため、架橋密度を高くでき、機械的強度、耐薬品性、硬化性が良好な第一接着層が得られる。また、第一エポキシ樹脂は、常温(23℃)で固体のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0068】
第一エポキシ樹脂の軟化温度は、通常、50℃以上であり、55℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば150℃以下である。軟化温度は、JIS K7234:1986に準拠し、環球法により測定する。
【0069】
第一エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば5000g/eq以下であり、3000g/eq以下であってもよく、1000g/eq以下であってもよく、600g/eq以下であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば90g/eq以上であり、100g/eq以上であってもよく、110g/eq以上であってもよい。エポキシ当量は、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。エポキシ当量は、ISO 3001(Plastics-Epoxy compounds-Determination of epoxy equivalent)に対応するJIS K7236:2009に準拠した方法により測定する。
【0070】
第一エポキシ樹脂は、1官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能のエポキシ樹脂であってもよく、3官能のエポキシ樹脂であってもよく、4官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。
【0071】
また、第一エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常、後述する第二エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)よりも小さい。第一エポキシ樹脂のMwは、例えば6,000以下であり、4,000以下であってもよく、3,000以下であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂のMwは、例えば400以上である。Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際のポリスチレン換算の値である。
【0072】
第一エポキシ樹脂は、150℃における溶融粘度が、例えば0.005Pa・s以上であり、0.015Pa・s以上であってもよく、0.03Pa・s以上であってもよく、0.05Pa・s以上であってもよく、0.1Pa・s以上であってもよい。溶融粘度が低すぎると、良好な発泡性が得られない可能性がある。また、第一エポキシ樹脂の溶融粘度が低すぎると(第一エポキシ樹脂の結晶性が高すぎると)、得られる第一接着層の粘着性(タック性)が高くなる可能性がある。その理由は、第一エポキシ樹脂の溶融粘度が低すぎると(第一エポキシ樹脂の結晶性が高すぎると)、第二エポキシ樹脂またはアクリル樹脂と相溶した際に、その結晶性が大きく低下し、接着剤組成物全体のTgが低下するためであると推測される。一方、第一エポキシ樹脂は、150℃における溶融粘度が、例えば10Pa・s以下であり、5Pa・s以下であってもよく、2Pa・s以下であってもよい。溶融粘度が高すぎると、得られる第一接着層の均一性が低下する可能性がある。溶融粘度は、ISO 2555(Resins in the liquid state or as emulsions or dispersions-Determination of Brookfield RV viscosity)に対応するJIS K6862:1984に準拠し、ブルックフィールド形単一円筒回転粘度計、および、溶液を加温するためのサーモセルを用いて測定する。
【0073】
次に、第一エポキシ樹脂の構成について説明する。第一エポキシ樹脂としては、例えば、芳香族系エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環系エポキシ樹脂が挙げられる。第一エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。変性エポキシ樹脂としては、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。また、他の具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリコール型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂が挙げられる。第一エポキシ樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0074】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格の繰り返し単位の数によって、常温で液体の状態、または常温で固体の状態で存在することができる。主鎖のビスフェノール骨格が、例えば2以上10以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、常温で固体である。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、耐熱性向上を図ることができる点で好ましい。
【0075】
特に、第一エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表されるビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0076】
【0077】
一般式(1)において、R1は、CmH2m(mは1以上3以下である)で表される基であり、R2およびR3は、それぞれ独立に、CpH2p+1(pは1以上3以下である)で表される基であり、nは、0以上10以下である。
【0078】
一般式(1)において、R1におけるmは1であること、すなわち、R1は-CH2-であることが好ましい。同様に、R2およびR3におけるpは1であること、すなわち、R2およびR3は-CH3であることが好ましい。また、一般式(1)のベンゼン環に結合する水素は、他の元素または他の基で置換されていてもよい。
【0079】
第一エポキシ樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上であり、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよく、15質量部以上であってもよく、25質量部以上であってもよい。第一エポキシ樹脂の含有量が少なすぎると、硬化後の接着性および耐ブロッキング性が低下する可能性がある。一方、第一エポキシ樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、90質量部以下であり、80質量部以下であってもよく、70質量部以下であってもよく、60質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよい。第一エポキシ樹脂の含有量が多すぎると、第二エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、基材に対する第一接着層の密着性、および硬化後の接着性をバランスさせることが困難になる可能性がある。
【0080】
(i-2)第二エポキシ樹脂
第二エポキシ樹脂は、軟化温度が第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である。第二エポキシ樹脂は、上述した第一エポキシ樹脂と比較して、軟化温度が相対的に高い(結晶性が相対的に低い)。第二エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に低く、分子量が高いことから、耐ブロッキング性を向上させやすい。さらに、第二エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に低く、分子量が高いことから、第一エポキシ樹脂による粘着性(タック性)の増加を抑制できる。また、第二エポキシ樹脂は、常温(23℃)で固体のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0081】
第二エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常、第一エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)よりも大きい。第二エポキシ樹脂のMwは、通常、20,000以上であり、30,000以上であってもよく、35,000以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂のMwは、例えば100,000以下である。
【0082】
第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、第一エポキシ樹脂のエポキシ当量に比べて、大きくてもよく、小さくてもよく、同じであってもよい。第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば4000g/eq以上であり、5000g/eq以上であってもよく、6000g/eq以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば20000g/eq以下である。
【0083】
第二エポキシ樹脂は、1官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能のエポキシ樹脂であってもよく、3官能のエポキシ樹脂であってもよく、4官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。
【0084】
第二エポキシ樹脂の軟化温度は、通常、第一エポキシ樹脂の軟化温度よりも高い。両者の差は、例えば10℃以上であり、20℃以上であってもよく、30℃以上であってもよい。第二エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば80℃以上であり、90℃以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば180℃以下である。
【0085】
第二エポキシ樹脂の構成については、上述した第一エポキシ樹脂の構成と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0086】
第二エポキシ樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、10質量部以上であり、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよく、25質量部以上であってもよく、30質量部以上であってもよく、35質量部以上であってもよく、40質量部以上であってもよく、45質量部以上であってもよい。第二エポキシ樹脂の含有量が少なすぎると、耐ブロッキング性が低下する可能性がある。一方、第二エポキシ樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、90質量部以下であり、85質量部以下であってもよく、80質量部以下であってもよく、75質量部以下であってもよい。第二エポキシ樹脂の含有量が多すぎると、第一エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、基材に対する第一接着層の密着性、および硬化後の接着性をバランスさせることが困難になる可能性がある。
【0087】
第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の合計に対する、第一エポキシ樹脂の割合は、例えば5質量%以上であり、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂の上記割合は、例えば80質量%以下であり、75質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0088】
また、第一接着層に含まれる全てのエポキシ樹脂に対する、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の合計の割合は、例えば50質量%以上であり、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0089】
(ii)アクリル樹脂
本実施態様におけるアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶した樹脂である。アクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶することから、第一接着層の靭性を向上させやすい。その結果、基材に対する第一接着層の密着性を向上できる。また、接着層の靭性が向上することで、硬化後の接着性の向上を図ることができる。さらに、アクリル樹脂が、発泡剤(例えば、シェル部がアクリロニトリルコポリマーの樹脂である発泡剤)の相溶化剤として働き、均一に分散、発泡することで、硬化後の接着性が向上すると考えられる。また、アクリル樹脂がエポキシ樹脂と相溶することで、第一接着層表面の硬度を高く保つことができる。一方、アクリル樹脂がエポキシ樹脂と非相溶であると、第一接着層表面に柔軟な部位が形成されるため、被着体との界面が滑りにくくなり、作業性が低下することがある。
【0090】
本実施態様におけるアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶している。ここで、アクリル樹脂がエポキシ樹脂と相溶していることは、接着シートの第一接着層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに、ミクロンサイズの島が発生していないことから確認する。より具体的には、島の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。中でも、島の平均粒径は、0.5μm以下であってもよく、0.3μm以下であってもよい。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。観察するエリア面積は、100μm×100μmの範囲、もしくは、第一接着層の平均厚さが100μm以下の場合は、平均厚さ×100μmの範囲で行う。
【0091】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば50,000以上であり、70,000以上であってもよく、100,000以上であってもよい。第一エポキシ樹脂は結晶性が相対的に高く、加熱時の溶融粘度(もしくは動的粘弾性)が低くなりすぎてしまい、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きてしまう可能性があるが、ある程度の分子量を有するアクリル樹脂を用いることで、溶融粘度を低くなりすぎることを抑制でき、発泡後の硬化時に収縮が起きにくくなる。一方、アクリル樹脂のMwは、例えば1,500,000以下である。アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPC(溶離液:THF、標準物質:PS、試料:20μL、流量:1mL/min、カラム温度:40℃)により測定する。
【0092】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば90℃以上であり、100℃以上であってもよい。一方、アクリル樹脂のTgは、例えば180℃以下である。Tgは、ISO 3146に対応するJIS K7121:2012に準拠し、示差走査熱量計(DSC)により測定する。
【0093】
アクリル樹脂は、発泡開始温度で貯蔵弾性率(E’)が1×106Pa以下であってもよい。発泡開始時におけるE’が低いことで、流動性が向上し、良好な発泡性を得ることができる。一方、発泡開始温度におけるE’は、例えば1×105Pa以上である。なお、発泡開始温度は、発泡剤の種類に応じて異なる温度である。また、発泡剤として、二種以上の発泡剤を用いる場合は、主たる発泡反応の開始温度を発泡開始温度とする。
【0094】
アクリル樹脂は、硬化開始温度で貯蔵弾性率(E’)が1×105Pa以上であってもよい。上述したように、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるが、硬化開始温度におけるE’が大きいことで、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる。なお、硬化開始温度は、硬化剤の種類に応じて異なる温度である。また、硬化剤として、二種以上の硬化剤を用いる場合は、主たる硬化反応の開始温度を硬化開始温度とする。
【0095】
また、アクリル樹脂は、0℃以上100℃以下における貯蔵弾性率(E’)の平均値が、1×106Pa以上であってもよい。発泡前におけるE’の平均値が高いことで、良好な耐ブロッキング性を得ることができる。一方、0℃以上100℃以下の貯蔵弾性率(E’)の平均値は、例えば1×108Pa以下である。
【0096】
アクリル樹脂の貯蔵弾性率(E’)は、JIS K7244-1:1998に準拠した動的粘弾性測定法により測定する。測定条件は、アタッチメントモード:圧縮モード、周波数:1Hz、温度:-30℃から200℃、昇温速度:10℃/分とする。装置は、ティー・エイ・インスツルメント社製の固体粘弾性アナライザー「RSA-III」を使用できる。
【0097】
アクリル樹脂は、極性基を有していてもよい。極性基としては、例えば、エポキシ基、水酸基、カルボキシ基、ニトリル基、アミド基が挙げられる。
【0098】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステル単量体の単独重合体であり、上記単独重合体を2種以上含む混合成分であってもよく、2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体であり、共重合体を1以上含む成分であってもよい。また、アクリル樹脂は、上記単独重合体と上記共重合体との混合成分であってもよい。アクリル酸エステル単量体の「アクリル酸」には、メタクリル酸の概念も含まれる。具体的には、アクリル樹脂は、メタクリレートの重合体とアクリレートの重合体との混合物であってもよく、アクリレート-アクリレート、メタクリレート-メタクリレート、メタクリレート-アクリレート等のアクリル酸エステル重合体であってもよい。中でも、アクリル樹脂は、2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体((メタ)アクリル酸エステル共重合体)を含むことが好ましい。
【0099】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する単量体成分としては、例えば、特開2014-065889号公報に記載の単量体成分が挙げられる。上記単量体成分は、上述した極性基を有していてもよい。上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチルアクリレート-ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、エチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体が挙げられる。なお、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等の「アクリル酸」には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の「メタクリル酸」も含まれる。
【0100】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、ブロック共重合体が好ましく、さらにメタクリレート-アクリレート共重合体等のアクリル系ブロック共重合体が好ましい。アクリル系ブロック共重合体を構成する(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジジルが挙げられる。これらの「アクリル酸」には、「メタクリル酸」も含まれる。
【0101】
メタクリレート-アクリレート共重合体の具体例としては、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート(MMA-BA-MMA)共重合体等のアクリル系共重合体が挙げられる。MMA-BA-MMA共重合体には、ポリメチルメタクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレート(PMMA-PBA-PMMA)のブロック共重合体も含まれる。
【0102】
アクリル系共重合体は、極性基を有していなくてもよく、また一部に上述した極性基を導入した変性物であってもよい。上記変性物は、エポキシ樹脂と相溶しやすいため、接着性がより向上する。
【0103】
中でも、アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が10℃以下である第一重合体部分と、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上である第二重合体部分とを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、柔らかいセグメントとなる第一重合体部分と、硬いセグメントとなる第二重合体部分とを有する。
【0104】
上記の効果の発現は、以下のように推定できる。上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体のような、柔らかいセグメントと、硬いセグメントとを併せ持つアクリル樹脂を用いることで、硬いセグメントが耐熱性に寄与し、柔らかいセグメントが靱性ないし柔軟性に寄与するため、耐熱性、靱性、柔軟性が良好な第一接着層が得られる。
【0105】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分および第二重合体部分の少なくとも一方は、エポキシ樹脂に対して相溶性を有する。第一重合体部分がエポキシ樹脂に対して相溶性を有する場合には、柔軟性を高めることができる。また、第二重合体部分がエポキシ樹脂に対して相溶性を有する場合には、凝集性や靱性を高めることができる。
【0106】
第一重合体部分または第二重合体部分の一方がエポキシ樹脂に対して相溶性を有しない場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エポキシ樹脂に対して相溶性を有する重合体部分である相溶部位と、エポキシ樹脂に対して相溶性を有しない重合体部分である非相溶部位とを有することになる。この場合、接着剤組成物に上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加すると、相溶部位がエポキシ樹脂と相溶し、非相溶部位がエポキシ樹脂と相溶しないため、微細な相分離が起こる。その結果、微細な海島構造が発現する。海島構造としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の種類、(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分および第二重合体部分の相溶性、極性基導入による変性の有無によって異なり、例えば、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、エポキシ樹脂の硬化物が島であるような海島構造が挙げられる。このような海島構造を有することで、応力を分散させやすくすることができるので、界面破壊を避けることができ、硬化後に優れた接着性が得られる。
【0107】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、中でもブロック共重合体であることが好ましく、特に、相溶部位を重合体ブロックA、非相溶部位を重合体ブロックBとするA-B-Aブロック共重合体であることが好ましい。さらには、第一重合体部分が非相溶部位、第二重合体部分が相溶部位であり、第一重合体部分を重合体ブロックB、第二重合体部分を重合体ブロックAとするA-B-Aブロック共重合体であることが好ましい。アクリル樹脂としてこのようなA-B-Aブロック共重合体を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造の場合には、島部分を小さくすることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造の場合や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、エポキシ樹脂の硬化物が島であるような海島構造の場合には、海部分を小さくすることができる。
【0108】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、第一重合体部分または第二重合体部分の一部に上述の極性基を導入した変性物であってもよい。
【0109】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分のTgは、10℃以下であり、-150℃以上、10℃以下の範囲内であってもよく、-130℃以上、0℃以下の範囲内であってもよく、-110℃以上、-10℃以下の範囲内であってもよい。
【0110】
なお、第一重合体部分のTgは、「POLYMERHANDBOOK第三版」(John Wiley & Sons,Ink.発行)に記載された各単独重合体のTg(K)を基にして、下記式で計算により求める。
1/Tg(K)=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・・+Wn/Tgn
Wn:各単量体の質量分率
Tgn:各単量体の単独重合体のTg(K)であり、ポリマーハンドブック(3rd Ed.,J.Brandrup and E.H.Immergut,WILEY INTERSCIENCE)中の値など、一般に公開されている掲載値を用いればよい。後述の第二重合体部分のTgも同様である。
【0111】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体であることが好ましい。第一重合体部分を構成する単量体成分および重合体成分は、Tgが所定の範囲である第一重合体部分を得ることができる単量体成分および重合体成分であればよく、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体、EVA等の共重合体が挙げられる。
【0112】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第二重合体部分のTgは、20℃以上であり、20℃以上、150℃以下の範囲内であってもよく、30℃以上、150℃以下の範囲内であってもよく、40℃以上、150℃以下の範囲内であってもよい。
【0113】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第二重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体であることが好ましい。第二重合体部分を構成する単量体成分は、Tgが所定の範囲である第二重合体部分を得ることができる単量体成分であればよく、例えばメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、ウレタン、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリル等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体が挙げられる。
【0114】
上記の第一重合体部分および第二重合体部分を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体の具体例としては、上記のMMA-BA-MMA共重合体が挙げられる。
【0115】
アクリル樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上であり、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよく、7質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよい。アクリル樹脂の含有量が少なすぎると、基材に対する第一接着層の密着性および硬化後の接着性が低下する可能性がある。一方、アクリル樹脂の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、60質量部以下であり、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、35質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。アクリル樹脂の含有量が多すぎると、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、基材に対する第一接着層の密着性、および硬化後の接着性をバランスさせることが困難になる可能性がある。
【0116】
(iii)硬化剤
本実施態様における硬化剤としては、第一硬化性接着剤の種類に応じて適宜選択される。第一硬化性接着剤が例えばエポキシ樹脂系接着剤である場合には、硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂系接着剤に使用される硬化剤を用いることができる。硬化剤は、23℃で固体であることが好ましい。23℃で固体である硬化剤は、23℃で液体である硬化剤と比較して、保存安定性(ポットライフ)を長くすることができる。また、硬化剤は、潜在性硬化剤であってもよい。また、硬化剤は、熱により硬化反応が生じる硬化剤であってもよく、光により硬化反応が生じる硬化剤であってもよい。また、硬化剤を単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0117】
硬化剤の反応開始温度は、例えば110℃以上であり、130℃以上であってもよい。反応開始温度が低すぎると、反応が早期に開始され、樹脂成分の柔軟性や流動性が低い状態で硬化が生じ、均一な硬化が生じにくい可能性がある。一方、硬化剤の反応開始温度は、例えば、200℃以下である。反応開始温度が高すぎると、樹脂成分が劣化する可能性がある。なお、エポキシ樹脂の他に、例えばフェノール樹脂等の耐熱性が高い樹脂を使用する場合には、樹脂成分の劣化が少ないため、硬化剤の反応開始温度は、例えば300℃以下であってもよい。硬化剤の反応開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により求める。
【0118】
硬化剤の具体例としては、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、チオール系硬化剤が挙げられる。
【0119】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、イミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールや、イミダゾール化合物のカルボン酸塩、エポキシ化合物との付加物が挙げられる。また、イミダゾール系硬化剤は、ヒドロキシル基を有することが好ましい。ヒドロキシ基同士の水素結合で結晶化するため、反応開始温度が高くなる傾向にある。
【0120】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂が挙げられる。さらに、フェノール樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。基材に対する第一接着層の密着性の観点から、Tgが110℃以下のフェノール型ノボラック樹脂が特に好ましい。また、フェノール系硬化剤およびイミダゾール系硬化剤を併用してもよい。その場合、イミダゾール系硬化剤を硬化触媒として用いることが好ましい。
【0121】
なお、第一接着層においては、フェノール樹脂を含有することで、耐熱性の向上が図れるが、その反面、靭性が低下することが懸念される。そのため、第一接着層がフェノール樹脂を含有する場合は、後述するように、基材と第一接着層との間に中間層が配置されていることが好ましい。
【0122】
フェノール樹脂は、耐熱性の点からビフェニル型が好ましい。また、フェノール樹脂は、フェノール核を変性した樹脂であってもよい。フェノール核を変性することで、例えば、耐熱性をより向上させることができる。
【0123】
アミン系硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン、ポリアミドアミンが挙げられる。脂肪族アミンとしては、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)等が挙げられる。芳香族アミンとしては、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等が挙げられる。また、アミン系硬化剤として、ジシアンジアミド(DICY)等のジシアンジアミド系硬化剤、有機酸ジヒドラジド系硬化剤、アミンアダクト系硬化剤、ケチミン系硬化剤を用いることができる。
【0124】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、脂環族酸無水物(液状酸無水物)、芳香族酸無水物が挙げられる。脂環族酸無水物(液状酸無水物)としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等が挙げられる。芳香族酸無水物としては、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等が挙げられる。
【0125】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ブロックイソシアネートが挙げられる。
【0126】
チオール系硬化剤としては、例えば、エステル結合型チオール化合物、脂肪族エーテル結合型チオール化合物、芳香族エーテル結合型チオール化合物が挙げられる。
【0127】
硬化剤の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上、40質量部以下である。例えば、硬化剤としてイミダゾール系硬化剤を主成分として用いる場合、硬化剤の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上、15質量部以下であることが好ましい。一方、硬化剤としてフェノール系硬化剤を主成分として用いる場合、硬化剤の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、5質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。なお、硬化剤としてイミダゾール系硬化剤またはフェノール系硬化剤を主成分として用いるとは、硬化剤において、イミダゾール系硬化剤またはフェノール系硬化剤の質量割合が最も多いことをいう。
【0128】
(b)発泡剤
本実施態様における第一接着層は、発泡剤を含有することが好ましい。2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートの第一接着層を発泡硬化させることで、2つの部材の間を充填かつ接着できる。
【0129】
本実施態様における発泡剤としては、一般に接着シートの接着層に使用される発泡剤を用いることができる。また、発泡剤は、熱により発泡反応が生じる発泡剤であってもよく、光により発泡反応が生じる発泡剤であってもよい。
【0130】
発泡剤の発泡開始温度は、エポキシ樹脂等の硬化性接着剤の主剤の軟化温度以上であり、かつ、エポキシ樹脂等の硬化性接着剤の主剤の硬化反応の活性化温度以下であることが好ましい。発泡剤の発泡開始温度は、例えば、70℃以上であり、100℃以上であってもよい。発泡開始温度が低すぎると、反応が早期に開始され、樹脂成分の柔軟性や流動性が低い状態で発泡が生じ、均一な発泡が生じにくい可能性がある。一方、発泡剤の発泡開始温度は、例えば、210℃以下である。発泡開始温度が高すぎると、樹脂成分が劣化する可能性がある。
【0131】
なお、エポキシ樹脂等の硬化性接着剤の主剤の軟化温度は、JIS K7234:1986に規定される環球法を用いて測定する。
【0132】
発泡剤としては、例えば、有機系発泡剤および無機系発泡剤が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ発泡剤、トリクロロモノフルオロメタン等のフッ化アルカン系発泡剤、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン系発泡剤、p-トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド系発泡剤、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系発泡剤、N,N-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ系発泡剤が挙げられる。一方、無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類が挙げられる。
【0133】
また、発泡剤として、マイクロカプセル型発泡剤を用いてもよい。マイクロカプセル型発泡剤は、炭化水素等の熱膨張剤をコアとし、アクリロニトリルコポリマー等の樹脂をシェルとすることが好ましい。
【0134】
発泡剤の平均粒径は、例えば、7μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、13μm以上であってもよく、17μm以上であってもよい。一方、発泡剤の平均粒径は、第一接着層の平均厚さ以下であることが好ましく、例えば、24μm以下であってもよい。
【0135】
なお、発泡剤の平均粒径は、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。また、発泡剤の平均粒径を測定するに際しては、第一接着層を溶剤に溶解させて発泡剤を分離する。溶剤としては、第一接着層に含まれる発泡剤以外の成分を溶解することが可能な溶剤であれば特に限定されず、第一接着層に含まれる硬化性接着剤の種類等に応じて適宜選択され、例えば、第一接着層の形成に用いられる接着剤組成物に使用される溶剤を用いることができる。具体的には、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン等を用いることができる。
【0136】
発泡剤の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、0.5質量部以上であり、2質量部以上であってもよく、3質量部以上であってもよく、4質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。一方、発泡剤の含有量は、第一接着層に含まれる樹脂成分100質量部に対して、例えば25質量部以下であり、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。発泡剤の含有量が少なすぎると、第一接着層の発泡倍率が小さくなり、接着性が低下する可能性がある。一方、発泡剤の含有量が多すぎると、硬化性接着剤の含有量が相対的に少なくなるため、凝集力が低下し、接着性が低下する可能性がある。
【0137】
(c)その他の成分
本実施態様における第一接着層は、例えば第一硬化性接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である場合、樹脂成分として、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂のみを含有していてもよく、他の樹脂をさらに含有していてもよい。他の樹脂としては、例えばウレタン樹脂が挙げられる。
【0138】
第一接着層に含まれる樹脂成分に対する、第一エポキシ樹脂、第二エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の合計の割合は、例えば70質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0139】
第一接着層に含まれる樹脂成分の含有量は、例えば60質量%以上であり、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0140】
第一接着層は、必要に応じて、例えばシランカップリング剤、充填剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、架橋剤、着色剤を含有していてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系シランカップリング剤が挙げられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、二酸化チタン等の無機充填剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。
【0141】
(3)第一接着層の構成
第一接着層の厚さは、特に限定されない。中でも、第一接着層が発泡剤を含有する場合、第一接着層の厚さは、発泡剤の平均粒径以上であることが好ましい。第一接着層の平均厚さは、例えば10μm以上であり、15μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。第一接着層が薄すぎると、基材との密着性および硬化後の接着性を十分に得ることができない可能性がある。一方、第一接着層の平均厚さは、例えば200μm以下であり、150μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。第一接着層が厚すぎると、面質が悪化する可能性がある。
【0142】
ここで、第一接着層の平均厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察される接着シートの厚さ方向の断面から測定した値であり、無作為に選んだ10箇所の厚さの平均値である。なお、接着シートが有する他の層の平均厚さの測定方法についても同様とする。
【0143】
第一接着層は、連続層であってもよく、不連続層であってもよい。不連続層としては、例えば、ストライプ、ドット等のパターンが挙げられる。また、第一接着層の表面が、エンボス等の凹凸形状を有していてもよい。
【0144】
第一接着層の形成方法は、後述の「B.接着シートの製造方法」に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0145】
2.基材
本実施態様における基材は、例えば、上記第一接着層を支持する部材である。
【0146】
本実施態様における基材は、絶縁性を有することが好ましい。また、基材は、シート状であることが好ましい。基材は、単層構造を有していてもよく、複層構造を有していてもよい。また、基材は、内部に多孔構造を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0147】
基材としては、例えば、樹脂基材、不織布が挙げられる。
【0148】
樹脂基材に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリフェニレンオキシド等が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリエステルが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテルアミドが挙げられる。ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。ポリスルホン酸樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンが挙げられる。ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。また、樹脂として、液晶ポリマー(LCP)を用いてもよい。
【0149】
樹脂のガラス転移温度は、例えば80℃以上であり、140℃以上であってもよく、200℃以上であってもよい。
【0150】
不織布としては、例えば、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、液晶ポリマー繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等の繊維を含む不織布が挙げられる。
【0151】
基材は、第一接着層との密着性を高めるため、第一接着層が配置される面に表面処理が施されていてもよい。
【0152】
基材の平均厚さは、特に限定されないが、例えば2μm以上であり、5μm以上であってもよく、9μm以上であってもよい。また、基材の平均厚さは、例えば200μm以下であり、100μm以下であってもよく、50μm以下であってもよい。
【0153】
3.第一中間層
本実施態様における接着シートは、基材および第一接着層の間に第一中間層を有していてもよい。第一中間層が配置されていることにより、第一接着層の基材に対する密着性を向上できる。さらには、第一中間層が配置されていることで、例えば、接着シートを折り曲げた際に屈曲部にかかる応力を緩和したり、接着シートを切断した際に切断部にかかる応力を緩和したりできる。その結果、接着シートの屈曲時および切断時における基材からの第一接着層の浮きや剥がれを抑制することができる。
【0154】
例えば、
図5に示す接着シート10Aにおいて、基材1と、第一中間層5と、第一接着層2とが、厚さ方向においてこの順に配置されている。
【0155】
第一中間層に含まれる材料は、基材および第一接着層の密着性を高めることができ、かつ、応力を緩和することができる材料であれば特に限定されず、基材および接着層の材料等に応じて適宜選択される。例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、それらの少なくとも2種以上を共重合させた重合体、それらの架橋体、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0156】
架橋体は、上記の樹脂を硬化剤により架橋した架橋体である。硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。また、例えば、反応基/NCO当量を1とした場合、樹脂に対してイソシアネート系硬化剤を、0.5質量%以上、20質量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0157】
中でも、第一中間層は、架橋された樹脂を含有することが好ましい。なお、架橋された樹脂とは、高温にしても溶融しないものをいう。これにより、高温下での接着力、つまり耐熱性を向上させることができる。また、架橋された樹脂が、例えばイソシアネート系硬化剤により架橋されている場合には、第一中間層の柔軟性が良好になり、接着シートの屈曲時における第一接着層の割れや基材からの接着層の浮きおよび剥がれを抑制することができる。
【0158】
第一中間層の平均厚さは、特に限定されず、例えば0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。第一中間層が薄すぎると、接着シートの屈曲時および切断時の基材からの第一接着層の剥がれを抑制する効果が十分に得られない可能性がある。一方、第一中間層の平均厚さは、例えば4μm以下であり、3.5μm以下であってもよい。第一中間層自体は、通常、耐熱性が高くないため、第一中間層が厚すぎると、耐熱性(高温下での接着力)が低下する可能性がある。
【0159】
第一中間層は、例えば、樹脂組成物を塗布し、溶剤を除去することで形成することができる。塗布方法としては、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ-ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートが挙げられる。
【0160】
4.接着シート
本実施態様の接着シートは、基材の他方の面側に他の接着層を有さない。本実施態様の接着シートにおいては、一方の最表面には第一接着層が配置され、他方の最表面には基材が配置されていることが好ましい。接着シートをロール状に巻き取った場合に、第一接着層と基材とが接触することにより生じるブロッキングを抑制できる。
【0161】
本実施態様における接着シートの平均厚さは、例えば10μm以上であり、20μm以上であってもよい。一方、接着シートの平均厚さは、例えば1000μm以下であり、200μm以下であってもよい。
【0162】
本実施態様における接着シートは、形状保持性が良好であることが好ましい。ISO 2493-2に対応するJIS P8125-2:2017に基づく曲げモーメントは、例えば3gf・cm以上であり、5gf・cm以上であってもよい。一方、上記曲げモーメントは、例えば40gf・cm未満であり、30gf・cm未満であってもよい。従来、接着シートでは、曲げモーメントを高くし、形状保持性および狭い隙間への挿入性を上げる手法が一般的である。これに対し、本開示の発明者らは、形状の工夫によって形状保持性は担保可能であること、および、曲げモーメントが高いことには別の不具合があることから、他の特性を鑑みて、曲げモーメントは上記範囲内であることが好ましいことを見出した。曲げモーメントが上記範囲よりも小さいと、折り返し等の工夫によったとしても形状保持が困難である可能性がある。また、曲げモーメントが上記範囲よりも大きいと、折り曲げ加工後に形状がもとに戻ってしまうため、折り曲げ加工時に加熱したり、折り目にスジを付けたりする必要がある。加熱するとシートライフが低下し、スジをつけるとその部分の絶縁性が低下する可能性がある。
【0163】
本実施態様における接着シートは、硬化後の接着性が高いことが好ましい。ISO 4587に対応するJIS K6850:1999に基づくせん断接着強度は、23℃において、例えば2.10MPa以上であってもよく、2.40MPa以上であってもよく、3.0MPa以上であってもよい。また、上記せん断接着強度は、200℃において、例えば0.27MPa以上であってもよく、0.55MPa以上であってもよく、0.58MPa以上であってもよい。例えば、加熱の必要のない高強度のアクリルフォーム粘着テープにおいては、せん断接着強度が常温で1MPa以上2MPa以下程度であり、200℃では耐熱性がない。そのため、上記せん断接着強度が23℃で上記範囲であれば、強度面での優位性がある。また、上記せん断接着強度が200℃で上記範囲であれば、自動車のエンジン回りやそれに近い耐熱性が必要とされる用途への適用が可能になる。
【0164】
本実施態様における接着シートにおいては、硬化後の電気絶縁性が高いことが好ましい。IEC 60454-2に対応するJIS C2107:2011に基づく絶縁破壊電圧は、例えば3kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましい。上記絶縁破壊電圧が上記範囲であることにより、防錆や銅線まわりへの適用が可能となる。また、硬化後の接着シートにおいては、熱伝導率が、例えば0.1W/mK以上であることが好ましく、0.15W/mK以上であることがより好ましい。上記熱伝導率が上記範囲であることにより、部品の小型化を図ることができ、また加熱時の硬化反応を促進することができる。
【0165】
本実施態様における接着シートの用途は、特に限定されない。本実施態様における接着シートは、例えば、2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートを硬化させることで、2つの部材を接着する場合に用いることができる。
【0166】
本実施態様における接着シートの製造方法は、特に限定されない。接着シートの製造方法については、後述の「B.接着シートの製造方法」の項に記載する。
【0167】
II.接着シートの第二実施態様
本開示における接着シートの第二実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、上記基材の他方の面に側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、を有し、上記第一接着層および上記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層および上記第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0168】
以下、本実施態様の接着シートの各構成について説明する。
【0169】
1.第一接着層および第二接着層
本実施態様における第一接着層の物性、材料、厚さ、形成方法は、上述の第1実施態様における第一接着層の物性、材料、厚さ、形成方法と同様である。また、本実施態様における第二接着層の物性、材料、厚さ、形成方法は、上述の第1実施態様における第一接着層の物性、材料、厚さ、形成方法と同様とする。
【0170】
なお、第一接着層のマルテンス硬さを測定する場合は、接着シートから第二接着層を除去した後に、第一接着層のマルテンス硬さを測定する。一方、第二接着層のマルテンス硬さを測定する場合は、接着シートから第一接着層を除去した後に、第二接着層のマルテンス硬さを測定する。第一接着層または第二接着層の除去方法としては、例えば、溶媒で拭き取る方法、削り取る方法が挙げられる。溶媒で拭き取る方法の場合、溶媒としては、第一接着層または第二接着層を溶解し、かつ、基材を溶解しない溶媒であれば特に限定されず、例えば、接着層の形成に用いられる接着剤組成物に含まれる溶媒を使用できる。
【0171】
本実施態様においては、第一接着層および第二接着層の少なくとも一方が、発泡剤を含有することが好ましい。2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートの第一接着層を発泡硬化させることで、2つの部材の間を充填かつ接着できる。この場合、第一接着層のみが発泡剤を含有してもよく、第二接着層のみが発泡剤を含有してもよく、第一接着層および第二接着層の両方が発泡剤を含有してもよい。中でも、第一接着層および第二接着層の両方が発泡剤を含有することが好ましい。発泡硬化後の接着性を高めることができる。
【0172】
2.基材
本実施態様における基材は、上記の第一接着層および第二接着層を支持する部材である。基材は、上述の第1実施態様における基材と同様である。
【0173】
3.第一中間層および第二中間層
本実施態様における接着シートは、基材および第一接着層の間に第一中間層を有していてもよい。また、本実施態様における接着シートは、基材および第二接着層の間に第二中間層を有していてもよい。
【0174】
例えば、
図6に示す接着シート10Bにおいては、基材1の一方の面側に第一接着層2が配置され、基材1の他方の面側に第二接着層3が配置されており、基材1および第一接着層2の間に第一中間層5が配置され、基材1および第二接着層3の間に第二中間層6が配置されている。なお、
図6においては、接着シート10Bは、第一中間層5および第二中間層6の両方を有するが、いずれか一方のみを有していてもよい。
【0175】
基材と少なくとも一方の接着層との間に中間層が配置されていればよく、例えば、基材と一方の接着層との間のみに中間層が配置されていてもよく、基材と両方の接着層との間に中間層が配置されていてもよい。中でも、基材と両方の接着層との間に中間層が配置されていることが好ましい。
【0176】
第一中間層および第二中間層の材料、厚さ、形成方法は、上述の第一実施態様における第一中間層の材料、厚さ、形成方法と同様とする。
【0177】
4.接着シート
本実施態様の接着シートにおいては、一方の最表面には第一接着層が配置され、他方の最表面には第二接着層が配置されていることが好ましい。接着シートをロール状に巻き取った場合に、第一接着層と第二接着層とが接触することにより生じるブロッキングを抑制できる。
【0178】
接着シートの厚さ、物性、用途、製造方法は、上述の第一実施態様の接着シートの厚さ、物性、用途、製造方法と同様とする。
【0179】
III.接着シートの第三実施態様
本開示における接着シートの第三実施態様は、基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、上記基材の他方の面に側に配置され、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、上記第二接着層の上記基材とは反対の面側に配置されたセパレータと、を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第二接着層のタックが、0.1N以上であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である。
【0180】
以下、本実施態様の接着シートの各構成について説明する。
【0181】
1.第一接着層
本実施態様における第一接着層の物性、材料、厚さ、形成方法は、上述の第1実施態様における第一接着層の物性、材料、厚さ、形成方法と同様である。
【0182】
なお、第一接着層のマルテンス硬さを測定する場合は、接着シートから第二接着層を除去した後に、第一接着層のマルテンス硬さを測定する。第二接着層の除去方法は、上述の第二実施態様の項に記載した内容と同様である。
【0183】
2.第二接着層
本実施態様における第二接着層は、基材の他方の面側に配置され、第二接着層のタックが所定の値以上である。
【0184】
(1)第二接着層の物性
本実施態様における第二接着層のタックは、0.1N以上であり、0.3N以上であってもよく、0.5N以上であってもよい。第二接着層のタックが上記範囲であることにより、部材に対する第二接着層の密着性を向上できる。また、第二接着層のタックは、例えば、10N以下であり、5N以下であってもよく、3N以下であってもよい。第二接着層のタックが高すぎると、リワーク性が低下し、一方の部材に接着シートの第二接着層の面を貼り付ける際に、接着シートの位置ずれの修正が困難になる可能性がある。
【0185】
ここで、第二接着層のタックの測定方法は、上記第一接着層のタックの測定方法と同様とする。
【0186】
本実施態様において、第二接着層のタックを制御する方法としては、例えば、第二接着層の組成を調整する方法が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第二接着層において、常温で液体のエポキシ樹脂を用いたり、常温で液体の硬化剤を用いたりすると、第二接着層のタックが高くなる傾向にある。また、エポキシ樹脂および硬化剤を含有する第二接着層において、軟化温度の低いエポキシ樹脂を含有させる、あるいは重量平均分子量の小さいエポキシ樹脂を含有させると、第二接着層のタックが高くなる傾向にある。また、第二接着層に粘着付与樹脂(タッキファイヤ)を添加することにより、第二接着層のタックが高くなる傾向にある。なお、常温で液体の硬化剤を用いると、タックが高くなる傾向にあるものの、保存安定性が低下する可能性がある。そのため、硬化剤以外の成分、例えばエポキシ樹脂等の特性や種類等を調整することで、第二接着層のタックを調整することが好ましい。
【0187】
(2)第二接着層の材料
本実施態様における第二接着層は、第二硬化性接着剤を含有する。
【0188】
(a)第二硬化性接着剤
本実施態様における第二接着層に含まれる第二硬化性接着剤は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられる第一硬化性接着剤と同様とする。中でも、第二硬化性接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤であることが好ましい。
【0189】
以下、第二硬化性接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である場合について例を挙げて説明する。
【0190】
(i)エポキシ樹脂
本実施態様におけるエポキシ樹脂は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられるエポキシ樹脂と同様とする。
【0191】
エポキシ樹脂としては、一般に接着シートの接着層に使用されるエポキシ樹脂を使用できる。
【0192】
エポキシ樹脂としては、例えば、芳香族系エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環系エポキシ樹脂が挙げられる。第エポキシ樹脂の具体例は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられる第一エポキシ樹脂の具体例と同様とする。
【0193】
エポキシ樹脂は、1官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能のエポキシ樹脂であってもよく、3官能のエポキシ樹脂であってもよく、4官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。
【0194】
中でも、エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂等の常温で液体エポキシ樹脂、および、軟化点の低いエポキシ樹脂を用いることが好ましい。これらのエポキシ樹脂を用いることで、第二接着層のタックを所定の範囲内に調整しやすいからである。
【0195】
(ii)アクリル樹脂
第二硬化性接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である場合、第二接着層は、エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂をさらに含有していてもよい。成膜性を高めることができる。
【0196】
アクリル樹脂は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられるアクリル樹脂と同様とする。
【0197】
(iii)硬化剤
硬化剤は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられる硬化剤と同様とする。また、硬化剤としては、常温で固体の硬化剤も、常温で液体の硬化剤も使用できる。中でも、保存安定性の観点から、常温で固体の硬化剤が好ましい。
【0198】
(b)発泡剤
本実施態様においては、第一接着層および第二接着層の少なくとも一方が、発泡剤を含有することが好ましい。2つの部材の間に接着シートを配置した後、接着シートの第一接着層を発泡硬化させることで、2つの部材の間を充填かつ接着できる。この場合、第一接着層のみが発泡剤を含有してもよく、第二接着層のみが発泡剤を含有してもよく、第一接着層および第二接着層の両方が発泡剤を含有してもよい。中でも、第一接着層および第二接着層の両方が発泡剤を含有することが好ましい。発泡硬化後の接着性を高めることができる。
【0199】
発泡剤は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられる発泡剤と同様とする。
【0200】
(c)その他の成分
本実施態様における第二接着層は、例えば第二硬化性接着剤がエポキシ樹脂系接着剤である場合、樹脂成分として、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂のみを含有していてもよく、他の樹脂をさらに含有していてもよい。他の樹脂としては、例えばウレタン樹脂が挙げられる。
【0201】
第二接着層に含まれる樹脂成分に対する、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の合計の割合は、例えば70質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0202】
第二接着層に含まれる樹脂成分の含有量は、例えば60質量%以上であり、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0203】
第二接着層は、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。添加剤は、上述の第一実施態様における第一接着層に用いられる添加剤と同様とする。
【0204】
(3)第二接着層の構成
第二接着層が発泡剤をさらに含有する場合、発泡倍率は、上述の第一実施態様における第一接着層の発泡倍率と同様とする。
【0205】
第二接着層の平均厚さは、上述の第一実施態様における第一接着層の平均厚さと同様とする。
【0206】
第二接着層は、連続層であってもよく、不連続層であってもよい。また、第二接着層の表面が、エンボス等の凹凸形状を有していてもよい。
【0207】
第二接着層の形成方法は、上述の第一実施態様における第一接着層の形成方法と同様とする。
【0208】
3.基材
本実施態様における基材は、上記の第一接着層および第二接着層を支持する部材である。基材は、上述の第1実施態様における基材と同様である。
【0209】
4.セパレータ
本実施態様におけるセパレータは、上記第二接着層の上記基材とは反対の面側に配置される。
【0210】
セパレータは、第二接着層から剥離可能であれば特に限定されず、第二接着層を保護することが可能な程度の強度を有することができる。このようなセパレータとしては、例えば、離型フィルム、剥離紙等を挙げることができる。また、セパレータは、単層構造を有していてもよく、複層構造を有していてもよい。
【0211】
単層構造のセパレータとしては、例えば、フッ素樹脂系フィルム等が挙げられる。
【0212】
また、複層構造のセパレータとしては、例えば、基材層の片面または両面に離型層を有する積層体が挙げられる。基材層としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムや、上質紙、コート紙、含浸紙等の紙が挙げられる。離型層の材料としては、離型性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、シリコーン化合物、有機化合物変性シリコーン化合物、フッ素化合物、アミノアルキド化合物、メラミン化合物、アクリル化合物、ポリエステル化合物、長鎖アルキル化合物等が挙げられる。これらの化合物は、エマルジョン型、溶剤型または無溶剤型のいずれもが使用できる。
【0213】
5.第一中間層および第二中間層
本実施態様における接着シートは、基材および第一接着層の間に第一中間層を有していてもよい。また、本実施態様における接着シートは、基材および第二接着層の間に第二中間層を有していてもよい。
【0214】
例えば、
図7に示す接着シート10Cにおいては、基材1および第一接着層2の間に第一中間層5が配置され、基材1および第二接着層3の間に第二中間層6が配置されている。なお、
図7においては、接着シート10Bは、第一中間層5および第二中間層6の両方を有するが、いずれか一方のみを有していてもよい。
【0215】
基材と少なくとも一方の接着層との間に中間層が配置されていればよく、例えば、基材と一方の接着層との間のみに中間層が配置されていてもよく、基材と両方の接着層との間に中間層が配置されていてもよい。中でも、基材と両方の接着層との間に中間層が配置されていることが好ましい。
【0216】
第一中間層および第二中間層の材料、厚さ、形成方法は、上述の第一実施態様における第一中間層の材料、厚さ、形成方法と同様とする。
【0217】
6.接着シート
本実施態様の接着シートにおいては、一方の最表面には第一接着層が配置され、他方の最表面にはセパレータが配置されていることが好ましい。接着シートをロール状に巻き取った場合に、第一接着層とセパレータとが接触することにより生じるブロッキングを抑制できる。
【0218】
接着シートの厚さ、物性、用途、製造方法は、上述の第一実施態様の接着シートの厚さ、物性、用途、製造方法と同様とする。
【0219】
B.接着シートの製造方法
本開示の発明者らは、基材の片面または両面に接着層を有する接着シートの製造方法について、鋭意検討を行った。まず、上述の「A.接着シート」の項に記載したように、接着層の滑り性および耐ブロッキング性を向上するには、例えば接着層を硬くするのが有効である。しかし、接着層が硬くなりすぎると、接着シートの巻き取り時および折り曲げ時に、接着層に割れ、浮き、剥がれが生じやすい傾向にある。次に、接着シートにおいては、例えば、基材上に接着剤組成物を塗布し、乾燥することによって、接着層を形成できる。この際、乾燥温度が低いと、接着層のブロッキングを抑制できないおそれがある。また、乾燥温度は、接着層の硬化温度よりも低くする必要がある。さらに、接着層が発泡剤を含有する場合、乾燥温度は、発泡剤の発泡開始温度または分解温度よりも低くする必要がある。そのため、乾燥温度を高くしすぎることはできない。よって、乾燥温度を最適化することが重要である。しかし、乾燥温度および乾燥時間を所定の温度および時間とした場合であっても、塗工乾燥装置が異なると、接着層のブロッキングが生じる場合と、ブロッキングが生じない場合とがあることが判明した。本開示の発明者らは、鋭意検討を重ね、接着層の硬さを指標として、乾燥条件を設定することにより、接着層のブロッキングを抑制できることを見出した。そして、接着層のタックを所定の範囲とし、かつ、接着層の形成時に、接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内となるように接着剤組成物を乾燥することにより、接着層の滑り性および耐ブロッキング性の向上と、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれの抑制とを、バランス良く実現できることを見出した。本開示はこのような知見に基づく。
【0220】
本開示における接着シートの製造方法は、基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第一接着層を形成する第一接着層形成工程を有し、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層形成工程では、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、上記第一接着剤組成物を乾燥する。
【0221】
図8(a)~(b)は、本開示における接着シートの製造方法を例示する工程図である。まず、
図8(a)に示すように、基材1の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物2aを塗布し、乾燥する。これにより、
図8(b)に示すように、第一接着層2が形成される。
【0222】
本開示においては、第一接着層のタックが所定の値未満であり、かつ、第一接着層形成工程にて、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内となるように、第一接着剤組成物を乾燥することにより、第一接着層の滑り性および耐ブロッキング性の向上と、巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れ、浮き、剥がれの抑制とを、バランス良く実現できる。
【0223】
このように、本開示においては、乾燥条件の指標として第一接着層のマルテンス硬さを用い、乾燥条件を最適化することにより、耐ブロッキング性の向上と、巻き取り時および折り曲げ時の第一接着層の割れ、浮き、剥がれの抑制とを、両立できる。よって、使用する塗工乾燥装置によらず、耐ブロッキング性を向上できる。
【0224】
また、本開示における接着シートの製造方法により製造される接着シートは、上述の接着シートと同様の効果を奏する。
【0225】
以下、本開示における接着シートの製造方法の各工程について説明する。
【0226】
1.第一接着層形成工程
本開示における第一接着層形成工程では、基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第一接着層を形成する。第一接着層形成工程では、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、上記第一接着剤組成物を乾燥する。
【0227】
第一接着剤組成物は、第一硬化性接着剤を含有する。また、第一接着剤組成物は、発泡剤を含有してもよい。第一接着剤組成物に含有される成分は、上述の接着シートにおける第一接着層に含有される成分と同様である。
【0228】
第一接着剤組成物は、溶媒を含有していてもよく、溶媒を含有していなくてもよい。なお、本明細書における溶媒は、厳密な溶媒(溶質を溶解させる溶媒)のみならず、分散媒も含む広義の意味である。また、第一接着剤組成物に含まれる溶媒は、第一接着剤組成物を乾燥する際に揮発して除去される。
【0229】
第一接着剤組成物は、各成分を混合し、必要に応じて混練、分散することにより、得ることができる。混合および分散方法としては、一般的な混練分散機、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ペブルミル、トロンミル、ツェグバリ(Szegvari)アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、デスパー、高速ミキサー、リボンブレンダー、コニーダー、インテンシブミキサー、タンブラー、ブレンダー、デスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機が適用できる。
【0230】
第一接着剤組成物の塗布方法としては、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ-ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコート等が挙げられる。
【0231】
塗布された第一接着剤組成物の乾燥方法としては、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内になるように、第一接着剤組成物を乾燥できる方法であれば特に限定されず、例えば、加熱乾燥が挙げられる。
【0232】
本工程では、第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、第一接着剤組成物を乾燥する。第一接着層のマルテンス硬さは、上述の接着シートにおける第一接着層のマルテンス硬さと同様とする。
【0233】
第一接着層のマルテンス硬さに影響を及ぼす乾燥条件としては、例えば、乾燥温度、熱履歴、風速が挙げられる。熱履歴としては、例えば、昇温速度、トータルの熱量が挙げられる。例えば、乾燥温度が高くなると、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、乾燥温度が低くなると、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、昇温速度が速くなると、乾燥時間が一定である場合、トータルの熱量が多くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、昇温速度が遅くなると、乾燥時間が一定である場合、トータルの熱量が少なくなるため、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、第一接着層が受けるトータルの熱量が多くなると、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、第一接着層が受けるトータルの熱量が少なくなると、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。また、例えば、風速が速くなると、乾燥速度が速くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが大きくなる傾向にある。一方、風速が遅くなると、乾燥速度が遅くなるため、第一接着層のマルテンス硬さが小さくなる傾向にある。
【0234】
乾燥条件は、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内になるように、適宜設定される。乾燥温度は、例えば、80℃以上であり、85℃以上であってもよく、90℃以上であってもよい。また、乾燥温度は、例えば、130℃以下であり、120℃以下であってもよく、110℃以下であってもよい。具体的には、乾燥温度は、80℃以上130℃以下であり、85℃以上120℃以下であってもよく、90℃以上110℃以下であってもよい。乾燥時間は、例えば、1分以上であり、1分30秒以上であってもよく、2分以上であってもよい。また、乾燥時間は、例えば、15分以下であり、10分以下であってもよく、8分以下であってもよい。具体的には、乾燥時間は、1分以上15分以下であり、1分30秒以上10分以下であってもよく、2分以上8分以下であってもよい。昇温速度は、例えば、0.2℃/秒以上であり、0.5℃/秒以上であってもよく、0.8℃/秒以上であってもよい。また、昇温速度は、例えば、5.0℃/秒以下であり、4.0℃/秒以下であってもよく、3.0℃/秒以下であってもよい。具体的には、昇温速度は、0.2℃/秒以上5.0℃/秒以下であり、0.5℃/秒以上4.0℃/秒以下であってもよく、0.8℃/秒以上3.0℃/秒以下であってもよい。風速は、例えば、1m/秒以上であり、3m/秒以上であってもよく、5m/秒以上であってもよい。また、風速は、例えば、20m/秒以下であり、18m/秒以下であってもよく、15m/秒以下であってもよい。具体的には、風速は、1m/秒以上20m/秒以下であり、3m/秒以上18m/秒以下であってもよく、5m/秒以上15m/秒以下であってもよい。
【0235】
また、第一接着層のタックは所定の値未満である。第一接着層のタックは、上述の接着シートにおける第一接着層のタックと同様である。
【0236】
2.第二接着層形成工程
本開示における接着シートの製造方法は、基材の他方の面側またはセパレータの一方の面側に、第二硬化性接着剤を含有する第二接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第二接着層を形成する第二接着層形成工程を有していてもよい。
【0237】
上述の第二実施態様の接着シートを製造する場合、第二接着層形成工程では、第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、第二接着剤組成物を乾燥する。この場合、第二接着層形成工程は、上述の第一接着層形成工程と同様とする。
【0238】
また、上記の場合、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。中でも、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程は、同時に行うことが好ましい。第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を順次行うと、第一接着層または第二接着層がより乾燥されることになり、乾燥条件が好適な条件から外れてしまう可能性がある。なお、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を順次行う場合には、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を行った後の、第一接着層および第二接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内になるように、乾燥条件を設定すればよい。
【0239】
一方、上述の第三実施態様の接着シートを製造する場合、第二接着層形成工程での乾燥条件は、特に限定されない。
【0240】
上記の場合、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。中でも、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を同時に行うことが好ましい。あるいは、基材の一方の面側に第一接着剤組成物を塗布し、セパレータの一方の面側に第二接着剤組成物を塗布し、セパレータ付き第二接着剤組成物の塗膜を、基材の他方の面側にラミネートし、第一接着剤組成物および第二接着剤組成物を乾燥することにより、第一接着層および第二接着層を形成することが好ましい。これらの手順の場合、1回の乾燥でよいため、第一接着剤組成物の乾燥条件を好適な条件に調整しやすい。また、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を順に行うと、第一接着層がより乾燥されることになり、乾燥条件が好適な条件から外れてしまう可能性がある。しかし、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を順に行う場合には、第一接着層形成工程および第二接着層形成工程を行った後の、第一接着層のマルテンス硬さが所定の範囲内になるように、乾燥条件を設定すればよい。
【0241】
3.中間層形成工程
本開示における接着シートの製造方法は、第一接着層形成工程前に、基材の一方の面側に第一中間層を形成する第一中間層形成工程を有していてもよい。また、本開示における接着シートの製造方法は、第二接着層形成工程前に、基材の他方の面側に第二中間層を形成する第二中間層形成工程を有していてもよい。第一中間層および第二中間層の材料および形成方法は、上述の「A.接着シート」の項に記載した内容と同様である。
【0242】
C.物品の製造方法
本開示における物品の製造方法は、第一部材および第二部材の間に、上述の接着シートを配置する配置工程と、上記接着シートを硬化させ、上記第一部材および上記第二部材を接着する接着工程と、を有する。
【0243】
図9(a)~(b)は、本開示における物品の製造方法の一例を示す工程図である。まず、
図9(a)に示すように、第一部材20aおよび第二部材20bの間に、接着シート10を配置する。次に、
図9(b)に示すように、例えば加熱により、接着シート10を硬化させる。硬化後の接着シート11により、第一部材20aおよび第二部材20bは接着(接合)される。これにより、第一部材20aおよび第二部材20bの間に接着シート11が配置された物品100が得られる。
【0244】
本開示における物品の製造方法においては、上述した接着シートを用いるため、2つの部材の間隙に接着シートを挿入する際、一方の部材の穴または溝に接着シートを配置した後の隙間に他方の部材を挿入する際、あるいは、一方の部材の穴または溝に、接着シートを貼り付けた他方の部材を挿入する際の、挿入性を向上できる。また、第一部材および第二部材の間に接着シートを配置するに際して、接着シートを予め折り曲げる場合であっても、接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できる。よって、第一部材および第二部材の接着性が良好な物品を得ることができる。
【0245】
以下、本開示における物品の製造方法について説明する。
【0246】
1.接着シート
本開示における物品の製造方法に用いられる接着シートは、上述の接着シートと同様である。
【0247】
2.配置工程
本開示における配置工程において、第一部材および第二部材の間に接着シートを配置する方法としては、特に限定されない。第一実施態様の接着シートおよび第二実施態様の接着シートを用いる場合、例えば、第一部材および第二部材の間の隙間に接着シートを挿入する方法、第一部材の穴または溝に接着シートを配置した後、第一部材の穴または溝に接着シートを配置した後の隙間に第二部材を挿入する方法、第一部材の穴または溝に、接着シートを配置した第二部材を挿入する方法が挙げられる。また、第三実施態様の接着シートを用いる場合、例えば、第一部材の穴または溝に、接着シートを貼り付けた第二部材を挿入する方法が挙げられる。
【0248】
第一部材および第二部材の材質および形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択される。
【0249】
3.接着工程
本開示における接着工程において、接着シートを硬化させる方法としては、例えば、加熱または光照射を挙げることができる。中でも、加熱により接着シートを硬化させることが好ましい。加熱による方法は、例えば金属製の部材のように第一部材および第二部材が透明性を有さない場合でも適用可能である。
【0250】
加熱条件としては、接着層に含有される硬化性接着剤や発泡剤の種類、基材の種類等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば、130℃以上、200℃以下である。また、加熱時間は、例えば、3分間以上、3時間以下である。
【0251】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0252】
まず、下記表1に示す組成(質量部)の接着剤組成物を準備した。また、表1に記載した各材料の詳細を表2に示す。基材として、絶縁性の高いポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、東洋紡社製、テオネックスQ5100-100、厚さ100μm)を準備した。この基材の一方の面に、上記接着剤組成物を、塗工後の厚さが所定厚さとなるように塗布装置を用いて塗布した。その後、塗工乾燥装置にて所定温度で所定時間乾燥させて第一接着層を形成した。
【0253】
[評価]
(1)タック
第一接着層のタックについては、RHESCA社製のタッキング試験機「TAC-II」を用いて、接着シートの第一接着層の面に、直径5mmの円柱形のステンレス製のプローブを、温度23±5℃、湿度50±30%RHの条件で、荷重0.1N、速度30mm/minで押し付け、1.0秒間保持した後、速度30mm/minで引き剥がし、引き剥がすときの荷重を測定した。この測定を5回行い、平均値をタックとした。
【0254】
(2)マルテンス硬さ
フィッシャー・インストルメンツ社製「ピコデンターHM500」を用いて、接着シートの第一接着層の面に、ダイヤモンド製で正四角錐形状の圧子を、温度23±5℃、湿度50±30%RHの条件で、押し込み荷重25mN、負荷時間20秒で押し付け、5秒間保持した後、負荷時間と同じ時間をかけて荷重を0mNにし、マルテンス硬さを測定した。この測定を8回行い、平均値を測定値とした。測定の際は、接着シートの第一接着層と反対側の面を、スライドガラスに接着剤で硬化させ、接地面の依存をなくして測定を行った。
【0255】
(3)耐ブロッキング性
接着シートを5cm×5cmに切り出し、2枚の接着シートを第一接着層同士が重なるように重ね合わせた。ブロッキングテスターにて、2kg/cm2、23℃、50%RHの条件にて10日間保管し、耐ブロッキング性を評価した。耐ブロッキング性は、以下の基準で評価した。
A:第一接着層の転移や剥離がなく、接着シート同士が自然と剥離する。
B:第一接着層の転移や剥離がなく、接着シート同士が自然には剥離しないが、ごく軽い力で剥離する。
C:第一接着層の転移や剥離がある、あるいは接着シート同士が自然に剥離せず、剥離音が出るほど密着している。
【0256】
(5)十字折り曲げ試験
接着シートを3cm×3cmに切り出し、この接着シートを、第一接着層側の面が内側になり、3cm×1.5cmの大きさになるように半分に180°折り曲げた。続いて、この状態の接着シートを1.5cm×1.5cmの大きさになるようにさらに半分に180°折り曲げた。そして、基材から第一接着層が浮いていないか否かを確認した。十字折り曲げ試験による密着性は、以下の基準で評価した。
A:折り曲げ部分に浮きがない。
B:折り曲げ部分に浮きがある。
【0257】
(6)カッター切断試験
接着シートの第一接着層側の面を、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッター(オルファ社製、カッターナイフ Aプラス)で切断した。そして、その切断面において基材から第一接着層が浮いているか否かを確認した。カッター切断試験による密着性は、以下の基準で評価した。
A:切断面に浮きが全くない。
B:切断面に多少の浮きがある。
C:切断面に完全な浮きがある。
【0258】
【0259】
【0260】
【0261】
【0262】
【0263】
【0264】
第一接着層のタックおよびマルテンス硬さが所定の範囲である場合は、耐ブロッキング性が良好であり、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できることが確認された。
【0265】
本開示は、以下の発明を提供する。
[1]基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有する接着シートであって、
上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である、接着シート。
[2]上記基材の上記第一接着層とは反対の面側に、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層を有し、
上記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、
上記第二接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下である、[1]に記載の接着シート。
[3]上記基材の上記第一接着層とは反対の面側に、第二硬化性接着剤を含有する第二接着層と、セパレータとをこの順に有し、
上記第二接着層のタックが、0.1N以上である、[1]に記載の接着シート。
[4]上記第一接着層が発泡剤を含有する、[1]に記載の接着シート。
[5]上記第一接着層および上記第二接着層の少なくとも一方が発泡剤を含有する、[2]または[3]に記載の接着シート。
[6]上記第一接着層がエポキシ樹脂を含有する、[1]に記載の接着シート。
[7]上記第一接着層および上記第二接着層がエポキシ樹脂を含有する、[2]または[3]に記載の接着シート。
[8]基材の一方の面側に、第一硬化性接着剤を含有する第一接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第一接着層を形成する第一接着層形成工程を有する接着シートの製造方法であって、
上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、
上記第一接着層形成工程では、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、上記第一接着剤組成物を乾燥する、接着シートの製造方法。
[9]上記基材の他方の面側に、第二硬化性接着剤を含有する第二接着剤組成物を塗布し、乾燥することにより、第二接着層を形成する第二接着層形成工程を有し、
上記第二接着層のタックが、0.1N未満であり、
上記第二接着層形成工程では、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm2以上130N/mm2以下となるように、上記第二接着剤組成物を乾燥する、[6]に記載の接着シートの製造方法。
[10]上記第一接着剤組成物が発泡剤を含有する、[8]に記載の接着シートの製造方法。
[11]上記第一接着剤組成物および上記第二接着剤組成物の少なくとも一方が発泡剤を含有する、[9]に記載の接着シートの製造方法。
[12]上記第一接着剤組成物がエポキシ樹脂を含有する、[8]に記載の接着シートの製造方法。
[13]上記第一接着剤組成物および上記第二接着剤組成物がエポキシ樹脂を含有する、[9]に記載の接着シートの製造方法。
[14]第一部材および第二部材の間に、[1]から[7]までのいずれかに記載の接着シートを配置する配置工程と、
上記接着シートを硬化し、上記第一部材および上記第二部材を接着する接着工程と、
を有する物品の製造方法。
【符号の説明】
【0266】
1 … 基材
2 … 第一接着層
3 … 第二接着層
4 … セパレータ
5 … 第一中間層
6 … 第二中間層
10、10A、10B、10C … 接着シート
11 … 硬化後の接着シート
20a … 第一部材
20b … 第二部材
100 … 物品
【要約】 (修正有)
【課題】接着層の滑り性および耐ブロッキング性が良好であり、巻き取り時および折り曲げ時の接着層の割れ、浮き、剥がれを抑制できる接着シートを提供する。
【解決手段】基材と、上記基材の一方の面側に配置され、第一硬化性接着剤を含有する第一接着層と、を有する接着シートであって、上記第一接着層のタックが、0.1N未満であり、上記第一接着層のマルテンス硬さが、20N/mm
2以上130N/mm
2以下である、接着シートとする。
【選択図】
図1