(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240918BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20240918BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/3415
C08L7/00
(21)【出願番号】P 2020137784
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000195616
【氏名又は名称】精工化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】八巻 大輔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄輔
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-168642(JP,A)
【文献】特開平06-025308(JP,A)
【文献】特開平02-003438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、下記一般式(1)で表される化合物と、を含有する、ゴム組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Xは、下記一般式(a)で表される構造である。)
【化2】
(一般式(a)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、単結合、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素である。但し、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素の場合には、その構造中に窒素原子、硫黄原子を含んでもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、1~10質量部である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分が、天然ゴム及びイソプレンゴムの少なくとも一方を含むものである、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。更に詳しくは、最大トルク及びスコーチ性が維持され、耐熱老化性に優れたゴム製品の材料であるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム製品の物性向上や耐熱性(耐熱老化性)向上のために架橋剤を配合することの検討が広く行われている。
【0003】
加硫剤を用いた一般的な架橋方式としては、硫黄を使用した硫黄加硫が多く行われている。また、硫黄加硫以外には、得られるゴム製品の物性や耐熱性を向上させるために、過酸化物を使用した過酸化物架橋も行われている。
【0004】
これらの架橋方式においては、更なる物性の向上と耐熱性の向上を図るために、架橋剤としてビスマレイミド化合物を使用することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。そして、このビスマレイミド化合物は、加硫戻りに起因して、ゴム製品の成型時における物性の低下が生じることを抑制する目的でも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平6-18935号公報
【文献】特許第5420224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、耐熱性の向上に関しては、ビスマレイミド化合物を配合するだけでは十分ではなく、別途、老化防止剤を添加することで、所望の耐熱性を発現させるという対応が多くなされている。
【0007】
具体的には、特許文献1では、ビスマレイミド類と2価以上の芳香族カルボン酸の無水物とを含有するゴム組成物が提案され、これらの配合によって耐加硫戻り性、耐熱老化性に優れると記載されている。しかしながら、特許文献1では、実際には耐熱老化性に関してはその実施例の記載からも分かるように、別途、老化防止剤を配合した結果が示されている。即ち、ビスマレイミド類による効果だけでは十分でなく耐熱老化性について更なる向上の余地がある。
【0008】
また、特許文献2では、ビスマレイミド化合物と硫黄化合物とを含有するゴム組成物が提案され、防振ゴムとしての特性の向上と耐熱性が優れると記載されている。しかしながら、この特許文献2についても、老化防止剤を配合することが開示され、これによって耐熱性を確保している。即ち、特許文献2についても、十分な老化防止効果を得るには、別途、老化防止剤を配合することが必要となっており、耐熱性については未だ改善の余地がある。
【0009】
ここで、別途添加する老化防止剤としては、例えば、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどが知られているが、この老化防止剤は、ゴム製品内に分散された状態で使用される。
【0010】
このような老化防止剤は、耐熱性を向上させるものであるが、上記の通りゴム製品中で分散した状態で存在しているので、タイヤなどのゴム製品が高温や油中環境下に曝された場合に、その老化防止剤が揮発してしまったり、抽出されてしまったりするという問題が生じることがある。その結果、ゴム製品内において、老化防止剤による老化防止効果が十分に発揮されずに十分な耐熱性が得られ難いという問題が生じることがある。
【0011】
このようなことから、良好な物性と耐熱性を有するゴム製品を得ることができるゴム組成物の開発が切望されていた。
【0012】
そこで、本発明者らは、ビスマレイミド化合物に着目し、このビスマレイミド化合物に更なる老化防止効果を付与することによって、本発明を完成させたものである。
【0013】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明のゴム組成物は、一般式(1)で表される化合物を配合することによって、従来のゴム組成物と同程度に最大トルク及びスコーチ性が維持され、更に、耐熱老化性に優れたゴム製品を得ることができるというものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、以下に示すゴム組成物が提供される。
【0015】
[1] ゴム成分と、下記一般式(1)で表される化合物と、を含有する、ゴム組成物。
【0016】
【化1】
(一般式(1)中、Xは、下記一般式(a)で表される構造である。)
【0017】
【化2】
(一般式(a)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、単結合、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素である。但し、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素の場合には、その構造中に窒素原子、硫黄原子を含んでもよい。)
【0018】
[2] 前記一般式(1)で表される化合物の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して、1~10質量部である、前記[1]に記載のゴム組成物。
【0019】
[3] 前記ゴム成分が、天然ゴム及びイソプレンゴムの少なくとも一方を含むものである、前記[1]または[2]に記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明のゴム組成物は、従来のゴム組成物と同程度に最大トルク及びスコーチ性が維持され、耐熱老化性に優れたゴム製品を得ることができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0023】
(1)ゴム組成物:
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、下記一般式(1)で表される化合物と、を含有するものである。
【0024】
このようなゴム組成物は、従来のゴム組成物と同程度に最大トルク及びスコーチ性が維持され、耐熱老化性に優れたゴム製品を得ることができるものである。具体的には、一般式(1)で表される化合物である特定のビスマレイミド化合物を使用することで、ビスマレイミド化合物が有するゴム製品の物性の改善効果が発揮され、即ち、従来と同様に良好な最大トルク及びスコーチ性が維持される。そして、更には、老化防止効果が良好に発揮され、耐熱性に優れたゴム製品を得ることができる。
【0025】
【化3】
(一般式(1)中、Xは、下記一般式(a)で表される構造である。)
【0026】
【化4】
(一般式(a)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、単結合、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素である。但し、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素の場合には、その構造中に窒素原子、硫黄原子を含んでもよい。)
【0027】
(1-1)一般式(1)で表される化合物:
一般式(1)で表される化合物は、架橋剤としての機能を発揮しつつ、更には、優れた老化防止剤としての機能を発揮する。本発明のゴム組成物は、このような一般式(1)で表される化合物が配合されることによって、従来のゴム組成物と同程度に最大トルク及びスコーチ性が維持され、製造されるゴム製品は、耐熱老化性に優れるものとなる。一般式(1)で表される化合物は、例えばN-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンのような老化防止剤とは異なり、多くはゴム製品中に分散された状態で存在するものではない。そのため、ゴム製品からの揮発や抽出されることを回避することができ、揮発や抽出されることが生じることに起因して老化防止効果が低下してしまうことが防止される。
【0028】
一般式(1)で表される化合物を採用することで、加硫戻りの発生も良好に防止することができる。即ち、特に天然ゴム、イソプレンゴムなどのイソプレン系ゴムでは、加硫戻りという現象が起こり、この加硫戻りによってゴム製品の成型時における物性の低下が生じるが、一般式(1)で表される化合物は、この加硫戻りに起因する物性の低下を良好に抑制するという効果も発揮するものである。
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、以下の一般式(2)で表すこともできる。
【0030】
【化5】
(一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素である。但し、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素の場合には、その構造中に窒素原子、硫黄原子を含んでもよい。)
【0031】
一般式(1)で表される化合物中の一般式(a)で表される構造におけるR1、R2の芳香族炭化水素としては、特に制限はないが、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合を有してもよい炭素数1~12の芳香族炭化水素を挙げることができ、具体的には、4,4’-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ジフェニルアミン、1,1’-イミノビス{N-(4-フェノキシカルボニル)フェニルマレイミド}、4,4’-ビス(4-マレイミドベンズアミジル)ジフェニルアミンなどの化合物を挙げることができる。
【0032】
一般式(1)で表される化合物中の一般式(a)で表される構造におけるR1、R2の脂環式炭化水素としては、特に制限はないが、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合を有してもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状または環状の脂環式炭化水素を挙げることができ、具体的には、4,4’-ビス(4-マレイミドシクロヘキシル)ジフェニルアミン、4,4’-ビス(2-マレイミドエトキシ)ジフェニルアミン、4,4’-ビス{(4-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキサミド}ジフェニルアミンなどの化合物を挙げることができる。
【0033】
なお、一般式(1)で表される化合物中の一般式(a)で表される構造におけるR1、R2は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0034】
一般式(1)で示される化合物としては、具体的には、4,4’-ビス(4-マレイミドシクロヘキシル)ジフェニルアミン、4,4’-ビス{(4-マレイミドフェニル)メチル}ジフェニルアミン、4,4’-ビス{(4-マレイミドフェニル)アミノ}ジフェニルアミン、4,4’-ビス{(4-マレイミドフェニル)チオ}ジフェニルアミン、4,4’-ビス(2-マレイミドエチル)ジフェニルアミン、4,4’-ビス(6-マレイミドヘキシル)ジフェニルアミン、ビス(4-(2-マレイミドエトキシ)フェニル)アミン、4,4’-ビス{(4-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキサミド}ジフェニルアミン、4,4’-ビス(3-マレイミドプロパンアミド)ジフェニルアミン、1,1’-イミノビス{4-フェニル(3-マレイミドプロパノエート)}、4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンなどを挙げることができる。
【0035】
一般式(1)で示される化合物は、その配合量については特に制限はないが、例えば、ゴム100質量部に対して、1~10質量部とすることができ、1~4質量部とすることが好ましい。このような範囲とすることによって、最大トルク及びスコーチ性が良好に維持され、耐熱老化性に更に優れたゴム製品の材料とすることができる。一般式(1)で示される化合物の配合量がゴム100質量部に対して1質量部未満であると、一般式(1)で示される化合物による架橋剤及び老化防止剤としての効果が十分に得られないおそれがある。一般式(1)で示される化合物の配合量がゴム100質量部に対して10質量部超であると、得られるゴム製品の物性の低下が生じるおそれがあり、また、コストに対して十分な効果が得られないおそれがある。なお、1~4質量部であると、熱老化性に更に優れ(例えば、TB変化率、M100変化率が低くなり)、更に良好な柔軟性が発揮される。
【0036】
一般式(1)で示される化合物であるビスマレイミド化合物は、その製造方法について特に限定はないが、例えば、以下のように製造することができる。即ち、両末端に1級アミンを1つ以上有するジアミノジフェニルアミン誘導体と無水マレイン酸を、溶液中で反応させることで製造することができる。或いは、例えばアミノアルコールやアミノ酸など、末端に性質を異にする置換基を有する1級アミン化合物と無水マレイン酸とを反応させることにより、末端に反応性基を有するマレイミド化合物を製造し、これを、ジフェニルアミン骨格を有する化合物へ付加させる方法であってもよい。
【0037】
なお、上記ビスマレイミド化合物は、その作製後にGC-MSやLC-MSなどの質量分析装置を用いて確認することができる。
【0038】
(1-3)ゴム成分:
ゴム成分は、ゴム製品(即ち、加硫ゴム製品)の主たる原料となるものであり、従来公知のものを特に制限はなく適宜選択して使用することができる。
【0039】
即ち、ゴム成分は、例えば、タイヤ、ゴムマット等のゴム製品の主たる原料となるものである。
【0040】
このようなゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。なお、これらのゴム成分は、1種単独で用いても2種以上を配合して用いてもよい。
【0041】
これらの中でも、天然ゴム、イソプレンゴムなどのイソプレン系ゴムについては、加硫後に加硫戻りという問題があるが、本発明のゴム組成物は、この加硫戻りの発生を良好に防止することができる。
【0042】
(1-4)その他の成分:
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分、及び一般式(1)で表される化合物以外に、本発明の作用・効果を損なわない限りにおいて、その他の化合物を更に含有していても良い。
【0043】
その他の化合物としては、従来公知の配合剤を適宜採用することができる。従来公知の配合剤としては、例えば、カーボンブラック、白色充填剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、加工助剤などを挙げることができる。
【0044】
(2)本発明のゴム組成物の製造方法:
本発明のゴム組成物は、その製造方法について特に制限はない。例えば、まず、ゴム成分と、必要に応じてカーボンブラック等の配合剤とを混合して、ゴム材料を作製する。その後、このゴム材料に、一般式(1)で表される化合物を混合する。このようにして、未加硫ゴム組成物であるゴム組成物を作製することができる。
【0045】
(3)本発明のゴム組成物の用途:
本発明のゴム組成物は、例えばプレス加硫して加硫ゴム(ゴム製品)とすることができる。このゴム製品としては、例えば、タイヤ、ゴムマット等を挙げることができる。
【0046】
なお、本発明のゴム組成物は、プレス加硫に限らず他の加硫形式を採用してゴム製品を作製することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(合成例1)
撹拌機、温度計、ディーンスターク水分離管、及び冷却管を備えた300mL容の四つ口フラスコに、無水マレイン酸(関東化学株式会社製)22.6g、p-トルエンスルホン酸一水和物1.0g、トルエン60mL、N,N-ジメチルアセトアミド60mLを加え、反応容器を60℃に加熱しながら4,4’-ジアミノジフェニルアミン硫酸塩水和物(東京化成工業株式会社製)29.7gを添加し、反応液を得た。
【0049】
次いで、得られた反応液を120℃で4時間加熱還流させながら共沸する水を4mL抜き出した。その後、反応液の一部をサンプリングし、HPLC面積百分率法にて分析した。反応後の反応液には、ピーク面積比92.4%に相当する4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンが生成していた。そして、反応液を冷却後、減圧下トルエンを留去し、残渣に水120gを注いだ。析出した黄色沈殿を濾過することで4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミン27.2g(収率75.4%)を得た。
【0050】
(実施例1)
天然ゴム(ゴム成分)100質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸3質量部、FEFカーボンブラック50質量部、ナフテンオイル10質量部、を1.7Lのバンバリーミキサーで4分間混練を行った。これに加硫剤として粉末硫黄2質量部、促進剤CBS1.3質量部を直径約24cmの2本ロールを用いて添加し、更に混練を行ってゴム材料を作製した。
【0051】
作製したゴム材料に、合成例1で作製した4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンを1質量部添加し、上記2本ロールで混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。
【0052】
そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、下記の評価(加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性)を行った。加硫ゴム組成物は、未加硫ゴム組成物を160℃、15分でプレス加硫して得られた厚さ2.0mmのものとした。
【0053】
(1)加硫度:
JIS K 6300に準拠したローターレスレオメーター(東洋精機製作所製)を用いて160℃の加硫度(最大トルク値(MH)を)を測定した。
【0054】
なお、実施例1~6、比較例1~3については、最大トルク値(MH)を基準として、10分後のトルク値(MH+10)の変化率を算出し、耐加硫戻り性とした。評価結果を表1に示す。
【0055】
(2)スコーチ性:
JIS K 6300に準拠し、ムーニー粘度計(上島製作所社製)を用いて、140℃における、最低粘度から5M上昇する時間(t5)及び35M上昇する時間(t35)を測定した。t35-t5で求められる時間をtΔ30(分)とし、これにより粘度上昇の速さ(スコーチ性)を測定した。評価結果を表1に示す。
【0056】
(3)常態物性:
JIS K 6251に準拠し、加硫ゴム組成物を3号ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。この試験片についてオートグラフ(島津製作所製)を用いて、引張強さ(TB)、引張伸び(EB)、及び、100%モジュラス(M100)を測定した。更に、この試験片について、JIS K 6253に準拠し、デュロメータータイプA(テクロック製)で硬度(Hs)を測定した。評価結果を表1に示す。
【0057】
(4)熱老化性(耐熱性):
JIS K 6257に準拠し、テストチューブ老化試験機(東洋精機製作所製)を用いて、引張特性(引張強さ(TB)、100%モジュラス(M100)、及び、引張伸び(EB))及び硬度(HS)を測定し、引張特性の変化率、及び硬度の変化値を算出した。なお、実施例1~6及び比較例1~3については100℃×240時間の条件とし、実施例8及び比較例4~6については150℃×1000時間の条件とした。評価結果を表1に示す。なお、表1中、M100変化率の欄における「-」は、試験片が100%を超えて伸びなかったために応力が取得できていない状態を示す。
【0058】
【0059】
(実施例2)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンの配合量を2質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンの配合量を4質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例4)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンの配合量を5質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンの配合量を10質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例6)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンに代えて、2質量部の4,4’-ビス(4-マレイミドシクロヘキシル)ジフェニルアミンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例7)
4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンに代えて、2質量部の4,4’-ビス{(4-マレイミドフェニル)メチル}ジフェニルアミンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
ビスマレイミド類を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
一般式(1)で表される化合物に代えて、m-フェニレンビスマレイミドを2質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例3)
一般式(1)で表される化合物に代えて、4,4’-ジクミルジフェニルアミン(老化防止剤)を2質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例8)
エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(ゴム成分)100質量部、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、HAFカーボンブラック50質量部、ナフテンオイル10質量部、を1.7Lのバンバリーミキサーで4分間混練を行った。これに過酸化物として商品名「パークミルD-40」(日油社製)6.8質量部を直径約24cmの2本ロールを用いて添加し、更に混練を行ってゴム材料を作製した。
【0069】
作製したゴム材料に、合成例1で作製した4,4’-ビスマレイミドジフェニルアミンを3質量部添加し、上記2本ロールで混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。
【0070】
そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様の評価(加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性)を行った。評価結果を表2に示す。加硫ゴム組成物は、未加硫ゴム組成物を170℃、16分でプレス加硫して得られた厚さ2.0mmのものとした。
【0071】
【0072】
(比較例4)
一般式(1)で表される化合物に代えて、m-フェニレンビスマレイミドを3質量部用いたこと以外は、実施例8と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0073】
(比較例5)
一般式(1)で表される化合物に代えて、4,4’-ジクミルジフェニルアミン(老化防止剤)を1質量部用いたこと以外は、実施例8と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0074】
(比較例6)
一般式(1)で表される化合物に代えて、トリメチロールプロパントリメタクリレート(架橋剤)を3質量部用いたこと以外は、実施例8と同様にして未加硫ゴム組成物を得た。そして、得られた未加硫ゴム組成物、及び、この未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴム組成物について、実施例1と同様に、加硫度、スコーチ性、常態物性、及び熱老化性の各評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0075】
以上のように、表1、表2からも分かるように、実施例1~8のゴム組成物は、比較例1~6のゴム組成物に比べて、最大トルク及びスコーチ性が維持され、耐熱老化性に優れたゴム製品を得ることができることが分かる。
【0076】
具体的には、実施例1~7のゴム組成物は、比較例1のゴム組成物や従来の老化防止剤を配合した比較例3のゴム組成物と比べて、天然ゴムで起こる加硫戻りが、従来のビスマレイミド化合物が配合された比較例2のゴム組成物と同等以上に改善されていることが分かる。
【0077】
また、実施例1~7のゴム組成物は、従来のビスマレイミド化合物を配合した比較例2のゴム組成物と比べて、スコーチが遅れることなく、ゴム製品の生産性が高いことが分かる。
【0078】
更に、熱老化性は、比較例2のゴム組成物が、老化防止剤の無配合品である比較例1のゴム組成物と変わらない評価結果であったのに対して、実施例1~7のゴム組成物は、比較例1のゴム組成物や従来の老化防止剤を配合した比較例3のゴム組成物と同等以上に熱老化後の変化率が低い。このことからも、実施例1~7のゴム組成物は、老化防止剤としての効果を有していることが分かる。
【0079】
なお、一般式(1)で表される化合物の配合量を1質量部未満とした場合、老化防止効果が十分でなくなる傾向があった。また、一般式(1)で表される化合物の配合量を10質量部超とした場合、硬度が上昇することで得られたゴムの柔軟性が低下して脆くなる傾向があった。
【0080】
次に、架橋剤に過酸化物を使用した実施例8及び比較例4~6のゴム組成物においては、比較例5に示すように、従来の老化防止剤では架橋に影響が出た結果、最大トルクが実施例8のゴム組成物と比べて低下していた。更に、常態物性の結果でも同様の物性低下が確認された。このことから、実施例8のゴム組成物は、過酸化物の影響を受け難いことが分かる。
【0081】
また、スコーチ性の評価において、実施例8のゴム組成物は、従来のビスマレイミド化合物を配合した比較例4のゴム組成物と比べて、スコーチが遅れることがなく、ゴム製品の生産性が高いことが分かる。
【0082】
更に、実施例8のゴム組成物は、150℃×1000時間という過酷な条件下においても、比較例4~9のゴム組成物と比べて、熱老化後の変化率が低い結果であり、一般式(1)で表される化合物における老化防止剤としての効果が大きく発揮され、優れた耐熱老化性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のゴム組成物は、架橋に影響を及ぼさないものとしてタイヤなどの様々なゴム製品を作製する材料として採用することができる。