(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】GLUT1発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240918BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/355 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/35 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/38 20060101ALI20240918BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20240918BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P17/00
A61K36/355
A61K36/35
A61K36/185
A61K36/38
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2020109962
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019215966
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】笠原 薫
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏
(72)【発明者】
【氏名】諸隈 亜佑美
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0128333(US,A1)
【文献】特開2007-277149(JP,A)
【文献】特開2008-007412(JP,A)
【文献】特開2009-184955(JP,A)
【文献】特開2009-256244(JP,A)
【文献】特開2017-075117(JP,A)
【文献】特開2021-019532(JP,A)
【文献】特開2013-173730(JP,A)
【文献】特開2014-084304(JP,A)
【文献】Yueru Li et al.,Suppression of adipocyte differentiation and lipid accumulation by stearidonic acid (SDA) in 3T3-L1 cells,Lipids in Health and Disease,2017年,Vol. 16: 181,p. 1-10
【文献】Angela Bulotta et al.,The Role of GLP-1 in the Regulation of Islet Cell Mass,Cell Biochemistry and Biophysics,2004年,Vol. 40, Issue 3 supplement,p. 65-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 -90/00
A61K 35/00 -36/9068
A61P 17/00 -17/18
A23L 33/105-33/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A群から選ばれる少なくとも1種の生物由来抽出物、及び
、下記B群から選ばれ
る生物由来抽出物を含む、GLUT1発現促進剤。
[A群]
スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)、レンプクソウ科(Adoxaceae)ニワトコ属(Sambucus)セイヨウニワトコ(S.nigra)、ユキノシタ科(Saxifraga)ユキノシタ属(Saxifraga)ユキノシタ(S.stolonifera)、シソ科(Lamiaceae)イブキジャコウソウ属(Thymus)タチジャコウソウ(T.vulgaris)、オトギリソウ科(Guttiferae)オトギリソウ属(Hypericum)オトギリソウ(H.erectum)
[B群]
アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis
)
【請求項2】
前記A群から選ばれる生物由来抽出物が、スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)由来の抽出物を少なくとも含むことを特徴とする、請求項1に記載のGLUT1発現促進剤。
【請求項3】
インボルクリン発現促進のための、請求項1
又は2に記載のGLUT1発現促進剤。
【請求項4】
オクルーディン発現促進のための、請求項1~
3の何れか一項に記載のGLUT1発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLUT1発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコーストランスポーター(Glucose transporter :以下、GLUTと略すこともある)は、ヘキソースを主体とした様々な物質の細胞内への取り込みを担うことが知られており、これまでに14種のアイソフォームが見出されている。
例えばGLUT1は赤血球や脳などの多くの組織に普遍的に存在し、特に、胎盤や脳(特に脳血管関門画分)で最も強く発現されており、定常状態でのグルコースの取り込みに関わっている。(非特許文献1、非特許文献2)。また、正常皮膚の細胞膜においても、分布が認められている(非特許文献3)。
グルコースは、ほとんどの細胞の代謝に不可欠な基質であることから、体内におけるGLUT1の発現量を維持することが重要である。
【0003】
ところで、インボルクリンは、表皮のうち角層を形成する角質細胞に存在するタンパク質であり、コーニファイドエンベロープを形成するタンパク質の1つである。コーニファイドエンベロープは、角層の物理的あるいは化学的な強靭性に寄与していることから、体内(特に、皮膚組織)におけるインボルクリンの発現量を維持することが重要である(例えば、非特許文献4)。
【0004】
また、オクルーディンは、タイトジャンクションを形成するタンパク質の1つである。タイトジャンクションは、上皮細胞の結合に寄与し、分子の細胞間での移動を制御するものであるから、体内におけるオクルーディンの発現量を維持することが重要である(例えば、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】ポリフェノールによるグルコーストランスポーターの機能調節、山下陽子、山本憲朗、芦田均、ビタミン、86巻3号(3月)、2012
【文献】Molecular Biology of Mammalian Glucose Transporters, Ohta Tsunetaka、Trends in Glycoscience and Glycotechnology, Vol.4 No.15(January 1992), pp.99-105
【文献】Gherzi, R., Melioli, G., et al.: “HepG 2/erythroid/brain” type glucose transporter (GLUT 1 ) is highly expressed in human epidermis: keratinocyte differentiation affects GLUT 1 levels in reconstituted epidermis. J Cell Physiol 150: 463-474 1992
【文献】北島康雄 皮膚バリア機能とその制御 Drug Delivery System 22-4,p424-432,2007
【文献】山本明美、長津有祐 皮膚のタイトジャンクションとは COSMETIC STAGE Vol.11, No.1 p61-66,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、体内、特に皮膚組織中のGLUT1の発現量を増加させる組成物を提供することを、課題とする。
【0007】
また、本発明者らは、研究を進める中で、GLUT1の発現量が減少すると、インボルクリン及びオクルーディンの発現量も減少することを、明らかにした。
そこで本発明は、インボルクリン及びオクルーディンの発現量を増加させる組成物を提供することを、さらなる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する、本発明に係るGLUT1発現促進剤は、下記A群から選ばれる少なくとも1種の生物由来抽出物、及び/又は下記B群から選ばれる少なくとも1種の生物由来抽出物を含む、GLUT1発現促進剤。
[A群]
スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)、レンプクソウ科(Adoxaceae)ニワトコ属(Sambucus)セイヨウニワトコ(S.nigra)、ユキノシタ科(Saxifraga)ユキノシタ属(Saxifraga)ユキノシタ(S.stolonifera)、シソ科(Lamiaceae)イブキジャコウソウ属(Thymus)タチジャコウソウ(T.vulgaris)、オトギリソウ科(Guttiferae)オトギリソウ属(Hypericum)オトギリソウ(H.erectum)
[B群]
アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis)、ローヤルゼリー
【0009】
本発明によれば、皮膚組織において、GLUT1の発現を促進することができる。
【0010】
好ましくは、上記A群から選ばれる生物由来抽出物は、スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)由来の抽出物を少なくとも含む。
本発明によれば、特に表皮層において、高いGLUT1発現促進効果を得ることができる。
【0011】
好ましくは、上記B群から選ばれる生物由来抽出物は、アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis)由来の抽出物を少なくとも含む。
本発明によれば、特に真皮層において、高いGLUT1発現促進効果を得ることができる。
【0012】
好ましくは、上記GLUT1発現促進剤は、インボルクリン発現促進のためのものである。
また好ましくは、上記GLUT1発現促進剤は、オクルーディン発現促進のためのものである。
本発明によれば、インボルクリン及び/又はオクルーディンの発現量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮膚組織において、GLUT1の発現量を増加させる組成物を提供することができる。
また本発明によれば、皮膚組織において、インボルクリン及び/又はオクルーディンの発現量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1において、正常ヒト表皮層角化細胞におけるGLUT1の発現量を測定した結果を表すグラフである。(A)はスイカズラエキス、(B)はセイヨウニワトコエキス、(C)はユキノシタエキス、(D)はオトギリソウエキス、(E)はタイムエキスを用いたときの実験結果をそれぞれ示す。
【
図2】スイカズラエキスが正常ヒト表皮層角化細胞においてGLUT1の発現量を増加させることを示す、免疫染色の結果である。(A)はスイカズラエキス非添加、(B)はスイカズラエキス添加の実験結果をそれぞれ示す。
【
図3】試験例2において、正常ヒト真皮層線維芽細胞におけるGLUT1の発現量を測定した結果を表すグラフである。(A)はメマツヨイグサ抽出液、(B)はローヤルゼリーエキスを用いたときの実験結果をそれぞれ示す。
【
図4】メマツヨイグサエキスが正常ヒト真皮線維芽細胞においてGLUT1の発現量を増加させることを示す、免疫染色の結果である。(A)はメマツヨイグサエキス非添加、(B)はメマツヨイグサエキス添加の実験結果をそれぞれ示す。
【
図5】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるGLUT1のmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるGLUT1のmRNA発現量を比較したグラフである。(A)は正常ヒト表皮層角化細胞、(B)は正常ヒト真皮層線維芽細胞を用いたときの実験結果をそれぞれ示す。
【
図6】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるコラーゲンの発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるコラーゲンの発現量を比較したグラフである。
【
図7】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるインボルクリンのmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるインボルクリンのmRNA発現量を比較したグラフである。
【
図8】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるオクルーディンのmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるオクルーディンのmRNA発現量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本発明に係るGLUT1発現促進剤は、下記A群から選ばれる少なくとも1種の生物由来抽出物、及び/又は下記B群から選ばれる少なくとも1種の生物由来抽出物を含む、GLUT1発現促進剤。
[A群]
スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)、レンプクソウ科(Adoxaceae)ニワトコ属(Sambucus)セイヨウニワトコ(S.nigra)、ユキノシタ科(Saxifraga)ユキノシタ属(Saxifraga)ユキノシタ(S.stolonifera)、シソ科(Lamiaceae)イブキジャコウソウ属(Thymus)タチジャコウソウ(T.vulgaris)、オトギリソウ科(Guttiferae)オトギリソウ属(Hypericum)オトギリソウ(H.erectum)
[B群]
アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis)、ローヤルゼリー
【0017】
上記A群に属する生物由来抽出物は、特に表皮層において、高いGLUT1発現促進効果を発揮する。
また、上記B群に属する生物由来抽出物は、特に真皮層において、高いGLUT1発現促進効果を発揮する。
したがって、本発明は、表皮層及び/又は真皮層におけるGLUT1の発現を促進することができる。
【0018】
ここで、GLUT1の発現量が減少すると、細胞内に糖が取り込まれにくくなる(例えば、N Nakashima et al., Metabolism, (1995) 44(4) : 543-548)。例えば真皮層において、細胞内に糖が取り込まれにくくなると、真皮層におけるコラーゲンの産生能が低下することが予想される(例えば、M Cechowska-Pasko et al., Mol Cell Biochem, (2007) 305 : 79-85)。
特に上記B群に属する生物由来抽出物は、真皮層において高いGLUT1発現促進効果を発揮するので、コラーゲン産生促進剤としても使用することができる。
【0019】
好ましくは、上記GLUT1発現促進剤に含まれる、上記A群から選ばれる生物由来抽出物は、スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)由来の抽出物を少なくとも含む。
【0020】
また好ましくは、上記GLUT1発現促進剤に含まれる、上記B群から選ばれる生物由来抽出物は、アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis)由来の抽出物を少なくとも含む。
【0021】
また好ましくは、上記GLUT1発現促進剤は、スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera)スイカズラ(L.Japonica)由来の抽出物と、アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(O.biennis)由来の抽出物を少なくとも含む。
本形態とすれば、表皮層と真皮層の両方におけるGLUT1の発現を促進するので、より高いGLUT1発現促進効果を得ることができる。
【0022】
好ましくは、上記GLUT1発現促進剤は、インボルクリン発現促進のための剤である。
インボルクリンの発現量は、GLUT1の発現量と相関があることが、本発明者らによって明らかにされた。
よって、本発明によれば、GLUT1発現効果とともに、インボルクリン発現促進効果を得ることができる。
【0023】
好ましくは、上記GLUT1発現促進剤は、オクルーディン発現促進のための剤である。
オクルーディンの発現量は、GLUT1の発現量と相関があることが、本発明者らによって明らかにされた。
よって、本発明によれば、GLUT1発現効果とともに、オクルーディン発現促進効果を得ることができる。
【0024】
ここで、上記A群及び上記B群に属する生物由来抽出物は、上記生物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとし、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等が挙げられる。
抽出操作は、植物部位の全草を用いるほか、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位を使用することできるが、予めこれらを粉砕あるいは細切して抽出効率を向上させることが好ましい。抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3-ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される1種乃至は2種以上が好適なものとして例示することができる。具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却した後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0025】
本発明に係る、GLUT1発現促進剤は、製剤化に用いられる任意の成分と適宜組み合わせて、経口剤や皮膚外用剤の形態をとることができる。
GLUT1発現促進剤は、上記A群から選ばれる少なくとも1つの生物由来抽出物と、上記B群から選ばれる少なくとも1つの生物由来抽出物を組み合わせることが好ましい。
経口剤とする場合、上記A群及び/又はB群に属する生物由来抽出物を、有効成分として含む食品用組成物の形態とすることが好ましい。具体的には、一般食品、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態とすることが好ましい。
【0026】
経口剤における、上記A群及び/又はB群に属する生物由来抽出物の含有量は、剤形に応じて、1回あたりの摂取量が抽出物の乾燥質量として、通常、0.1mg以上、好ましくは1mg以上、より好ましくは10mg以上である。
また、通常、2000mg以下、好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。
【0027】
皮膚外用剤とする場合、例えば化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等の形態を例示することができる。また、それらの剤形は特に限定されない。
中でも、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を増加させるという用途との関係から、継続的に使用可能な化粧料の形態が好ましい。具体的には、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ジェル、サンケア品等の形態が好ましい。
上記範囲とすることで、効果的にGLUT1の発現量を増加させることができる。
【0028】
皮膚外用剤における、上記A群及び/又はB群に属する生物由来抽出物の含有量(乾燥重量)は、通常、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上である。
また、通常80質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
上記範囲とすることで、効果的にGLUT1の発現量を増加させることができる。
【0029】
上記A群及び/又はB群に属する生物由来抽出物を、化粧料に配合する場合、GLUT1発現促進効果を損ねない範囲で、美白成分、しわ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物、有効成分以外に通常化粧料で使用される成分を、任意成分として配合してもよい。
これらの任意成分は、市販されているものを入手して配合してもよく、公知の方法で合成したものを配合してもよい。
【0030】
美白成分としては、一般的に化粧料で用いられている成分を、特に制限なく使用することができる。ただし、GLUT1の発現促進以外のメカニズムで美白効果を有する成分を用いることが、各成分の作用効果を存分に生かす観点から好ましい。
例えば、4-n-ブチルレゾルシノール、アスコルビン酸グルコシド、3-О-エチルアスコルビン酸、トラネキサム酸、アルブチン、1-トリフェニルメチルピペリジン、1-トリフェニルメチルピロリジン、2-(トリフェニルメチルオキシ)エタノール、2-(トリフェニルメチルアミノ)エタノール、2-(トリフェニルメチルオキシ)エチルアミン、トリフェニルメチルアミン、トリフェニルメタノール、トリフェニルメタン及びアミノジフェニルメタン、N-(o-トルオイル)システイン酸、N-(m-トルオイル)システイン酸、N-(p-トルイル)システイン酸、N-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸、N-ベンゾイル-セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリン、N-(p-エチルベンゾイル)セリン、N-(p-メトキシベンゾイル)セリン、N-(p-フルオロベンゾイル)セリン、N-(p-トリフルオロメチルベンゾイル)セリン、N-(2-ナフトイル)セリン、N-(4-フェニルベンゾイル)セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリン メチルエステル、N-(p-メチルベンゾイル)セリン エチルエステル、N-(2-ナフトイル)セリン メチルエステル、N-ベンゾイル-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-アセチルセリン、N-(2-ナフトイル)-O-メチルセリン等が挙げられる。
【0031】
化粧料における美白成分の含有量は、通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0032】
しわ改善成分としては、一般的に化粧料で用いられている成分を、特に制限なく使用することができる。
例えば、ビタミンA又はその誘導体としてレチノール、レチナール、レチノイン酸、トレチノイン、イソトレチノイン、レチノイン酸トコフェロール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールが挙げられる。また、ウルソール酸ベンジルエステル、ウルソール酸リン酸エステル、ベツリン酸ベンジルエステル、ベンジル酸リン酸エステルが挙げられる。
【0033】
化粧料におけるしわ改善成分の含有量は、通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0034】
抗炎症成分としては、例えば、クラリノン、グラブリジン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、パントテニルアルコール等が挙げられ、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸アルキル及びその塩、並びに、グリチルレチン酸及びその塩が好ましく挙げられる。
化粧料中における抗炎症成分の含有量は、通常0.01~30質量%であり、0.1~10質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0035】
動植物由来の抽出物としては、例えば、アケビエキス、アスナロエキス、アスパラガスエキス、アボガドエキス、アマチャエキス、アーモンドエキス、アルニカエキス、アロニアエキス、アンズエキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウドエキス、エゾウコギエキス、エンメイソウエキス、オウバクエキス、オタネニンジンエキス、オドリコソウエキス、カキョクエキス、カッコンエキス、カモミラエキス、カロットエキス、カワラヨモギエキス、カンゾウエキス、キウイエキス、キューカンバーエキス、グアバエキス、クチナシエキス、クマザサエキス、クルミエキス、黒米エキス、クロレラエキス、クワエキス、ケイケットウエキス、ゲットウヨウエキス、ゲンチアナエキス、コメエキス、コメ発酵エキス、コメヌカ発酵エキス、コメ胚芽油、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンシャエキス、サンショウエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シソエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、ショウキョウエキス、ショウブ根エキス、スギナエキス、ステビアエキス、ステビア発酵物、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、セージエキス、ゼニアオイエキス、センキュウエキス、センブリエキス、ソウハクヒエキス、ダイオウエキス、ダイズエキス、タイソウエキス、タンポポエキス、チョウジエキス、トウガラシエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、トウニンエキス、トマトエキス、納豆エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、ハスエキス、パセリエキス、バーチエキス、ハマメリスエキス、ヒキオコシエキス、ヒノキエキス、ビワエキス、フキタンポポエキス、フキノトウエキス、ブクリョウエキス、ヘチマエキス、ペパーミントエキス、ボダイジュエキス、マツエキス、ミズバショウエキス、メリッサエキス、モズクエキス、モモエキス、ヤグルマギクエキス、ユーカリエキス、ユリエキス、ヨクイニンエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、リンゴエキス、ルイボス茶エキス、レイシエキス、レタスエキス、レンギョウエキス、レンゲソウエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ワレモコウエキス等のエキスが好ましいものとして挙げられる。
【0036】
化粧料中における前記任意の動植物由来抽出物の含有量(乾燥質量)は、通常0.01~30質量%であり、0.1~10質量%が好ましく、0.3~3質量%がより好ましい。
【0037】
有効成分以外に通常化粧料で使用される成分としては、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ヘキシレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等のポリオール、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類、イミダゾリン系両性界面活性剤(2-ココイル-2-イミダゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE-ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE-グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2-オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック(登録商標)型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、表面処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面処理されていても良い、酸化コバルト、群青、紺青、酸化亜鉛の無機顔料類、表面処理されていても良い、酸化鉄二酸化チタン焼結体等の複合顔料、表面処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩,ビタミンB6トリパルミテート,ビタミンB6ジオクタノエート,ビタミンB2又はその誘導体,ビタミンB12,ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α-トコフェロール,β-トコフェロール,γ-トコフェロール,ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されない。
【0039】
<試験例1>表皮層における、生物由来抽出物のGLUT1発現促進効果の測定
正常ヒト表皮角化細胞において、GLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングした。
(1)HuMedia-KG2培地(倉敷紡績株式会社製)を用い、正常ヒト表皮角化細胞を、24ウェルプレートに5.0×104個/ウェルになるように播種し、37℃、5%CO2環境下で24時間培養した。
(2)培養後、培地を除去し、被験対象の植物エキス又は溶媒対照を0.5%含むHuMedia-KB2培地(倉敷紡績株式会社製)を加え、37℃、5%CO2環境下で、24時間培養した。以下、被験対象の植物エキスを含む培地を加えた細胞を植物エキス添加群、溶媒対照を含む培地を加えた細胞を溶媒対照群とする。
(3)培養後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)のプロトコルに従って、培養した正常ヒト表皮角化細胞の回収、及び、mRNAの抽出を行った。
(4)GLUT1のmRNA発現量を、リアルタイムqPCR法で測定した。また、内在性コントロールであるβ-アクチンのmRNA発現量も、同時に測定した。
測定には、Fast SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher社製)を用いた。またプライマーは、Hs_SLC2A1_1_SG QuantiTect Primer Assay(QIAGEN社製)を用いた。
(5)植物エキス添加群及び溶媒対照群におけるGLUT1のmRNA発現量を、β-アクチンのmRNA発現量で補正した。溶媒対照群におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を1とした場合の、植物エキス添加群におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を算出した。結果を
図1に示す。
【0040】
図1(A)~(E)に示すように、スイカズラエキス、セイヨウニワトコエキス、ユキノシタエキス、タイムエキス、及びオトギリソウエキスは、正常ヒト表皮角化細胞において、GLUT1の発現量を増加させることがわかった。
以上より、スイカズラエキス、セイヨウニワトコエキス、ユキノシタエキス、タイムエキス、及びオトギリソウエキスは、本発明のGLUT1発現促進剤に適用することができることが示された。
【0041】
また、上記5種のエキスのうち、スイカズラエキスを添加した細胞について、細胞の免疫染色を行い、GLUT1の発現量について観察した。
【0042】
(I)細胞培養
(1)96ウェルプレート(PerkinElmer #6055300)に、1ウェルあたり1×104個/100μLとなるように正常ヒト表皮角化細胞を播種し、完全培地(Humedia-KG2)にて、37℃、5%CO2条件下で、一晩培養し、70-90%コンフルエントにした(N=3-4)。
(2)培地を除去し、0.5%FBS/専用培地(Humedia-KG2、グルコールは1/5.5量分を添加)を1ウェルあたり200μL加え、37℃、5%CO2条件下で、一晩培養した。
(3)スイカズラエキス入り専用培地又はスイカズラエキスが入っていない専用培地を、1ウェルあたり100μL加え、37℃、5%CO2条件下で、24時間又は48時間培養した。
【0043】
(II)免疫染色
(1)顕微鏡下で細胞毒性がないことを確認し、上記(I)(3)で培養していた培地を除去した。そこに、0.1% CellMask DeepRed Plasma membrane Stain(Thermo Fisher Scientific #C10046)/0.1% Cell stain Hoechst 33342(DOJINDO #346-07951)/PBS(37℃予温)を、1ウェルあたり120μL加え、37℃で15分間、遮光してインキュベートし、細胞膜染色及び核染色を行った。その後、1ウェルあたり200μLのPBSで3回洗浄した。
(2)4% パラホルムアルデヒド溶液(FUJIFILM Wako Pure Chemical #161-20141)を1ウェルあたり120μL加え、室温で20分間、遮光してインキュベートし、細胞固定を行った。その後、1ウェルあたり200μLのPBSで2回洗浄した。
(3)10% Normal Goat Serum(abcam #ab7481)/PBSを、1ウェルあたり100μL加え、37℃で30分間、遮光してインキュベートし、ブロッキングを行った。その後、1ウェルあたり200μLの0.05% Tween 20(BIO RAD #161-0781)/PBSで3回洗浄した。
(4)1.5ng/mL Anti-GLUT1抗体[EPR3915], rabbit(Abcam #ab115730)又は、Rabbit IgG Isotype Control(Thermo Fisher Scientific #105000C)/1% Normal Goat Serum/PBSを、1ウェルあたり100μL加え、37℃で60分間、遮光してインキュベートし、1次抗体反応を行った。その後、1ウェルあたり200μLの0.05% Tween 20/PBSで3回洗浄した。
(5)0.4% Goat anti-Rabbit IgG(H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific #A-11008)/1% Normal Goat Serum/PBSを、1ウェルあたり100μL加え、37℃で30分間、遮光してインキュベートし、2次抗体反応を行った。その後、1ウェルあたり200μLの0.05% Tweem20/PBSで3回洗浄し、1ウェルあたり100μLのPBSで2回洗浄した後、1ウェルあたり100μLのPBSを加えた。
(6)Operetta CLS(PerkinElmer #HH16000000)を用いて写真撮影(40倍)を行った。
結果を
図2に示す。
【0044】
図2に示す通り、スイカズラエキスを添加した培地で培養した細胞(
図2(B))において、GLUT1の発現量が増加していることが確認できた。
【0045】
<試験例2>真皮層における、生物由来抽出物のGLUT1発現促進効果の測定
正常ヒト真皮線維芽細胞において、GLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングした。
(1)10%FBSを含むDMEM培地(SIGMA社製)を用い、正常ヒト真皮線維芽細胞を、24ウェルプレートに7.0×104個/ウェルになるように播種し、37℃、5%CO2環境下で24時間培養した。
(2)培養後、培地を除去し、被験対象の植物エキス又は溶媒対照を0.5%と、FBSを1%含むDMEM培地を加え、37℃、5%CO2環境下で、24時間培養した。以下、被験対象の植物エキスを含む培地を加えた細胞を植物エキス添加群、溶媒対照を含む培地を加えた細胞を溶媒対照群とする。
以降は、上記<試験例1>の(3)以降と同様にして、正常ヒト真皮線維芽細胞におけるGLUT1の発現量を算出した。結果を
図3に示す。
【0046】
図3(A)及び(B)に示すように、メマツヨイグサエキス及びローヤルゼリーエキスは、正常ヒト真皮線維芽細胞において、GLUT1の発現量を増加させることがわかった。
以上より、メマツヨイグサエキス及びローヤルゼリーエキスは、本発明のGLUT1発現促進剤に適用することができることが示された。
【0047】
また、上記2種のうち、メマツヨイグサエキスを添加した細胞について、細胞の免疫染色を行い、GLUT1の発現量について観察した。
完全培地としてDMEM、1% Antibiotic-Antimycotic、10% FBSを、専用培地としてDMEM-low glucoseを用い、評価エキスをメマツヨイグサエキスとした以外は、試験例1と同様にして、細胞の免疫染色及び撮影を行った。
結果を
図4に示す。
【0048】
図4に示す通り、メマツヨイグサエキスを添加した培地で培養した細胞(
図4(B)においては、GLUT1の発現量が増加していることが確認できた。
【0049】
<試験例3>GLUT1の発現量と、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量の関係
GLUT1の発現量と、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量の関係を試験した。
【0050】
(I)細胞の培養
細胞はヒト線維芽細胞(NHDF)とヒト角化細胞(NHEK)を用いた。それぞれの細胞種において若齢ドナー由来(18才及び28才)及び高齢ドナー由来(54才)を試験に用いた。
細胞はそれぞれメーカー推奨方法にて培養を行った。
細胞培養用フラスコ250(住友ベークライト # MS-21250)に播種し、60-90%コンフルエントに達した細胞はトリプシン中和液(KURABO #HK-3220)を用い剥離し、継代した。
継代数は、ヒト線維芽細胞については、P+2-8、ヒト角化細胞については、P+2-5とした。
【0051】
(II)siRNAの導入によるCLUT1発現遺伝子のノックダウン
(1)プレートに細胞を播種し、37℃、5%CO2条件下で、一晩完全培地にて培養し、70-90%コンフルエントにした(N=3-4)。なお、24ウェルプレートにおいては、1ウェルあたり6.0-7.0×104個/500μLになるように細胞を播種し、48ウェルプレートにおいては、1ウェルあたり3.0-3.5×104個/250μLになるように細胞を播種した。表1に、使用細胞と、これを培養する際に使用した培地の組み合わせを示す。
【0052】
【0053】
(2)Lipofectamin Reagent(Invitrogen社)を、各細胞に対応する専用培地(表1に記載)に混和し、1~2:50の割合で希釈した。
(3)導入するsiRNAは、ON-TARGET plus siRNA(Dharmacon)試薬を用い、専用培地及びPBSにて希釈(細胞最終添加濃度25nM)し、希釈済みLipofectamin Reagentと1:1の割合で混和した。その後、室温で15分間インキュベートし、siRNA複合導入試薬を作成した。
なお、siRNAは、下記表2に記載のものを使用した。
【0054】
【0055】
(4)培養細胞の培地を除去し、培地と等量のPBSで1回洗浄した。
(5)1ウェルあたり200-400μLの専用培地を添加した後、上記(3)で調製したsiRNA複合導入試薬を50-100μL添加し、プレートを穏やかに揺すり、細胞毒性がないことを顕微鏡下で確認した後に、37℃、5%CO2環境下で、8-48時間培養した。
【0056】
(III)細胞からのRNA抽出、cDNA合成及びqPCR
(1)上記(II)(5)で培養した培養細胞について、培地を除去した後、除去した培地と等量のPBSで1回洗浄した。氷上にて、1ウェルあたり350μLのBuffer RLTで懸濁し、細胞懸濁液を回収した。
(2)上記(1)で得た細胞懸濁液はQIAcube(QIAGEN #9001293)にてRNAを抽出した。溶出量は、1サンプル当たり30μLとした。
(3)SuperScript cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズ #11754250)を用い、サーマルサイクラー(BIO RAD #T100)にて、メーカー推奨プロトコルにてcDNAを合成した。サンプルRNAは20-50ng/20μL、スタンダード用RNAは、50-100ng/20μL使用した。
(4)リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems, QuantStudio5)にて、スタンダード法によりqPCRを行い、コラーゲン、インボルクリン及びオクルーディンのmRNA発現量を測定した。各サンプルは、イオン交換水:2.5μL, プライマー:0.5μL, SYBR Green:5μL, 10-30倍希釈cDNAサンプル又は5-30倍希釈スタンダードcDNAサンプル:2μLで調製した。また、サイクル数は45-50とした。
上記測定は3回行い、3回の平均値を算出した。プライマーは、下記表3に示すQuantiTect Primer Assay(QIAGEN #249900)を用いた。
【0057】
【0058】
(5)コラーゲン、インボルクリン及びオクルーディンのmRNAの発現量を、β-アクチンのmRNAの発現量で除算した。
表皮角化細胞及び真皮線維芽細胞において、GLUT1発現遺伝子をノックダウンした場合の、GLUT1のmRNAの発現量の変化を、表4及び
図5に示す。
表皮角化細胞においてGLUT1発現遺伝子をノックダウンした場合の、GLUT1のmRNAの発現量の変化を、
図6に示す。
表皮角化細胞において、GLUT1発現遺伝子をノックダウンした場合の、インボルクリンのmRNAの発現量の変化を、表4及び
図7に示す。
表皮角化細胞において、GLUT1発現遺伝子をノックダウンした場合の、オクルーディンのmRNAの発現量の変化を、表4、及び
図8に示す。
【0059】
【0060】
表4及び
図5に示されるように、何れの遺伝子もノックダウンしてない群(siRNAとしてsi non-targetingを使用した群)と比較して、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした群(siRNAとしてsi GLUT1を使用した群)においては、GLUT1のmRNAの発現量が減少していた。
また、コラーゲンの産生遺伝子のmRNAの発現量も減少していた(
図6)。
【0061】
GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした群においては、インボルクリンのmRNAの発現量及びオクルーディンのmRNAの発現量が、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない群と比較して、減少していた(表4、
図7及び
図8)。
以上より、皮膚組織において、GLUT1の発現量が減少すると、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量が減少することが、明らかになった。
【0062】
この結果から、GLUT1の発現量を増加させることで、インボルクリン及びオクルーディンの発現量を増加させることができることがわかる。
したがって、上記試験例1及び2においてGLUT1発現促進効果を有することが明らかになった、スイカズラエキス、セイヨウニワトコエキス、ユキノシタエキス、タイムエキス、オトギリソウエキス、メマツヨイグサエキス及びローヤルゼリーエキスは、インボルクリン及び/又はオクルーディン発現促進のための、GLUT1発現促進剤に適用することができる。
【0063】
以下に、本発明に係るGLUT1発現促進剤の製造例を示す。各製造例は、本発明の属する分野において通常行われている方法によって、製造することができる。
<製造例1>化粧水
【0064】
【0065】
<製造例2>乳液
【0066】
【0067】
<製造例3>洗顔料
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のGLUT1発現促進剤は、経口剤や皮膚外用剤に利用することができる。