(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】木管楽器用演奏補助具
(51)【国際特許分類】
G10D 9/02 20200101AFI20240918BHJP
G10D 7/06 20200101ALI20240918BHJP
G10G 7/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G10D9/02 200
G10D7/06
G10G7/00
(21)【出願番号】P 2020164455
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519164688
【氏名又は名称】有限会社タック
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】府中 昭恵
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167269(JP,A)
【文献】特開2008-292930(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129063(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0337908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 7/00-9/11
G10G 1/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木管楽器用演奏補助具であって、
弾性を有する素材で形成され、装着時においてマウスピース及びリードを取り囲んでこれらに密着
し且つ装着時において口の奥から離れる側に位置する一端側開口部と、前記一端側開口部よりも大径
であって且つ装着時において口の奥に近づく側に位置する他端側開口部と、前記一端側開口部から前記他端側開口部に向かって拡径する本体部と、を備える木管楽器用演奏補助具。
【請求項2】
前記本体部の軸線方向長さは、装着時において前記他端側開口部が前記リードの先端部に揃う長さ、又は前記他端側開口部から当該先端部が露出する長さである、請求項1に記載の木管楽器用演奏補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木管楽器用演奏補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
サクソフォン、クラリネット等の木管楽器は、マウスピースとリードを口に咥え、息を吹き込むことによってリードを振動させ、それを木管楽器本体で増幅、共鳴させることによって発音する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-541052号公報
【文献】実用新案登録第3213451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木管楽器の演奏においては、リードを適切に振動させなければ意図した音色が出せないため、マウスピースとリードとの咥え方(アンブシュア)が重要である。一般的な咥え方は、上前歯はマウスピースに当てつつ上唇をマウスピースに添えるようにし、また下唇は下前歯の上側にくるように巻き込んだ状態でリードに押し付けられる(下前歯をリードに直接押し付けて下唇をリードに添えることもある)。しかし演奏経験が浅い初心者は、マウスピースやリードに歯や唇を適切な位置及び範囲に押し付けることが難しく、思ったような音色が出せない場合が多い。また綺麗な音色を出すには、マウスピースとリードとの間に適切な隙間があいていなければならないが、特に初心者は、マウスピースを強く噛むようにして咥えてしまい、隙間が狭くなりがちである。
【0005】
また、咥え方が適切でない場合は、吹き込んだ息が口とマウスピース等との隙間から漏れてしまう(特に口の左右の端から漏れてしまう)ため、漏れる息を補うために無理をして息を吹き込まなければならない。このため、適切な咥え方ができなければ、比較的長い時間演奏することが難しくなる。しかも、マウスピース等を適切に咥えるには口の周りの筋肉を鍛えなければならないため、初心者が木管楽器を手軽に演奏することは難しい。
【0006】
一方、特許文献2によれば、一端が開放されていて他端が塞がっているトンネル式溝をリードに設けることによって、初心者でも容易に所望の音を出すことができるとしている。しかしこの場合は、上記のような構造を持つ特殊なリードを使用しなければならない。またこのリードを使用する場合でも、息が漏れないように咥えなければならない点は一般的なリードと同様であって、初心者にとって演奏が手軽に行える状態には至っていない。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであって、初心者であっても木管楽器を容易に演奏することが可能な木管楽器用演奏補助具を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の木管楽器用演奏補助具は、弾性を有する素材で形成され、装着時においてマウスピース及びリードを取り囲んでこれらに密着し且つ装着時において口の奥から離れる側に位置する一端側開口部と、前記一端側開口部よりも大径であって且つ装着時において口の奥に近づく側に位置する他端側開口部と、前記一端側開口部から前記他端側開口部に向かって拡径する本体部と、を備える。
【0009】
ここで前記本体部の軸線方向長さは、装着時において前記他端側開口部が前記リードの先端部に揃う長さ、又は前記他端側開口部から当該先端部が露出する長さであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明における木管楽器用演奏補助具は、リードを取り付けたマウスピースに一端側開口部を挿入することによってこれを装着し、本体部を咥えて他端側開口部から息を吹き込めば、本体部に押し付ける歯や唇の位置が多少ばらついても、思ったような音色を出すことができる。また口の中に入れた本体部によって、口とマウスピース等との隙間から息が漏れるのを防ぐことができるため、比較的長い時間であっても楽に演奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る木管楽器用演奏補助具の一実施形態を示す図であって、(a)はA-Aに沿う断面図であり、(b)はB-Bに沿う断面図であり、(c)は矢印Cに沿う矢視図であり、(d)は矢印Dに沿う矢視図である。
【
図2】
図1の木管楽器用演奏補助具をマウスピース等に装着した状態を示す図であって、(a)は
図1(a)に示す向きでの断面図であり、(b)は
図1(b)に示す向きでの断面図である。
【
図3】
図1に示した木管楽器用演奏補助具の変形例を示す図であって、(a)は
図1(a)に対応する断面図であり、(b)は
図1(b)に対応する断面図であり、(c)は
図2(a)に対応する断面図であり、(d)は
図2(b)に対応する断面図である。
【
図4】
図1に示した木管楽器用演奏補助具の更なる変形例を示す図であって、(a)は
図1(a)に対応する断面図であり、(b)は
図1(b)に対応する断面図であり、(c)は
図2(a)に対応する断面図であり、(d)は
図2(b)に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る木管楽器用演奏補助具の一実施形態(以下、「補助具1」と称する)について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書では便宜上、木管楽器のマウスピースに補助具1を装着して口に咥える際の向きで説明することとする。すなわち、「上方」とは、補助具1を装着したマウスピースを口に咥えた際に上前歯に近い側であり、「下方」とは下前歯に近い側であり、「側方」とは口の左右の端に近い側である。また「前方」とは口の奥から離れる側であり、「後方」とは口の奥に近づく側である。なお
図1(c)は、前方から後方に向かって補助具1を見た際の矢視図(口の外側から口の奥に向かって見た際の矢視図)である。
【0013】
補助具1は、弾性を有する素材(例えば熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、特には合成ゴム、シリコーンゴム等)で形成されている。なお補助具1は、後述するように口に入れて使用するため、味や臭いを感じにくいシリコーンゴムを使用することが好ましい。
【0014】
補助具1は全体的に薄肉筒状となるものであって、その厚みは0.3~2mm程度、好ましくは0.5~1.5mm程度である。
【0015】
図1に示すように補助具1は、前方に向かって開口する一端側開口部2と、後方に向かって開口し、一端側開口部2よりも大径になる他端側開口部3と、一端側開口部2から他端側開口部3に向かって拡径する本体部4とを備えている。
【0016】
本実施形態の一端側開口部2と他端側開口部3は、大きさは異なるものの、何れも上方から下方に向かう長さよりも一方の側方から他方の側方に向かう長さの方が長くなる楕円形状になるものである。なお一端側開口部2と他端側開口部3は楕円形状に限られず、例えば円形状でもよい。また例えば一方が円形状で他方が楕円形状というように、一端側開口部2と他端側開口部3の形状は相互に相違していてもよい。
【0017】
また本体部4は、本実施形態では
図1(a)、(b)に示すように、一端側開口部2から他端側開口部3に向かって直線状に拡径しているが、これに限られず、例えば一端側開口部2から他端側開口部3に向かって本体部4の中心軸線Oに近づく向きに湾曲しながら拡径していてもよいし、一端側開口部2から他端側開口部3に向かって本体部4の中心軸線Oから離れる向きに湾曲しながら拡径していてもよい。
【0018】
図2は、不図示の木管楽器本体に装着されるマウスピース10を示している。マウスピース10には、リガチャー11によって、リード12が取り付けられている。
【0019】
補助具1をマウスピース10に装着するにあたっては、一端側開口部2を、リード12を取り付けたマウスピース10に挿入する。補助具1は弾性を有していて、一端側開口部2は周方向に伸縮可能であるため、これを挿入していくと、一端側開口部2をマウスピース10とリード12に密着させることができる。
【0020】
このようにして補助具1をマウスピース10に装着した後は、従来の咥え方のようにして補助具1ごとマウスピース10を咥え、
図2(a)に示すように、上前歯13と下前歯14(又は、下前歯14を上方から巻き込んだ下唇)を補助具1に押し付ける。すなわち上前歯13と下前歯14(下唇)を、補助具1を介してマウスピース10とリード12に押し付ける。ここで補助具1は弾性を有していて、演奏者が従来のように強く噛むようにして咥えると補助具1から反力が生じるため、上前歯13と下前歯14(下唇)がマウスピース10とリード12を押し付ける力はその分弱くなる。このため、特に演奏の初心者に起こりがちであった、マウスピース10とリード12との隙間が狭くなる不具合が生じにくくなり、綺麗な音色で演奏することができる。
【0021】
また吹き込んだ息は、他端側開口部3から本体部4の内側に導入されてマウスピース10とリード12との隙間を通過するため、従来のように吹き込んだ息が口の左右の端から漏れてしまう不具合が生じにくくなる。すなわち、漏れる息を補うための無理な息の吹き込みが不要になるため、比較的長い時間でも楽に演奏することができる。特に、他端側開口部3は一端側開口部2よりも大径であるため、吹き込んだ息を効率よく本体部の内側に導入することができる。
【0022】
なお本体部4の軸線方向長さ(中心軸線Oに沿う向きの長さ)は、
図2に示すように、装着時において他端側開口部3がリード12の先端部12aから露出する長さ、又は他端側開口部3が先端部12aに揃う長さに設定することが好ましい。演奏時においては、演奏者の舌でリード12に触れてタンギングを行う(音を止めたり、音の強弱を調整したり、音の出始めを明瞭にしたりする)ことがある。従って、本体部4の軸線方向長さが装着時においてリード12の先端部12aが本体部4で隠れる場合には、舌がリード12に触れにくくなるため、上記の長さに設定することが好ましい。
【0023】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0024】
例えば本体部4には、
図3に示すように、本体部4の内周面を径方向内側に向かって狭める狭窄部5を設けてもよい。本実施形態の狭窄部5は、マウスピースに装着した際に側方に位置するとともに一端側開口部2に近い側に設けられている。なお図示した狭窄部5は、本体部4の内周面とともに外周面も径方向内側に突出して厚みが略一定になる形状であるが、内周面のみが径方向内側に突出してこの部分が局所的に肉厚になるものでもよい。また狭窄部5は、本体部4の上方や下方に設けてもよいし、本体部4の全周に亘って設けてもよい。更に狭窄部5は、本体部4の中心軸線Oに沿って間隔をあけて複数設けてもよい。
【0025】
このような狭窄部5を設けることによって、補助具1をマウスピース10に装着した際は、
図3(d)に示すように、側方に位置する狭窄部5の内面をマウスピース10の側面に接触させることができる。これにより、補助具1がマウスピース10に接触する部位が増えるため、補助具1とマウスピース10との気密性がより高まり、また補助具1をマウスピース10により安定して保持させることができる。また、狭窄部5がマウスピース10の側面に当接して空気の漏れ出しを抑えているため、従来起こりがちであった、口の左右の端からの息の漏れ出しを効果的に抑制することができる。
【0026】
また本体部4には、
図4に示すように切除部6を設けてもよい。図示した切除部6は、一端側開口部2に重なるようにして本体部4の側方両側を斜めに切除したものである。切除部6を設けた補助具1は、マウスピース10に装着した状態において、
図4(d)に示すように上方から見た際には、本体部4の前方両側にテーパーが形成されたように視認され、側方から見た際は、本体部4に前方から後方に向かって幅が狭くなる略V字状の切れ込みが形成されたように視認される。切除部6を設けていない場合には、補助具1をマウスピース10に装着する際に、補助具1がリード12の先端部12aに引っ掛かってリード12に割れが生じたり、補助具1に亀裂が入ったりする不具合が生じることがあったが、切除部6を設けることによって、不具合発生を抑制することができる。
【0027】
また図示は省略するが、本体部4の外周面を径方向外側に膨出させた膨出部を設けて、この部分の厚みが他の部位よりも肉厚になるようにしてもよい。このような膨出部は、上述した狭窄部5のように、一端側開口部2に近い側に設けてもよいし、一端側開口部2に沿って設けてもよい。また本体部4の上方、下方、側方の何れかに設けてもよいし、全周に亘って設けてもよい。更に、本体部4の中心軸線Oに沿って間隔をあけて複数設けてもよい。このような膨出部を設ける場合は、膨出部での弾性力が大きくなるため、マウスピース10とリード12への密着性をより高めることができる。
【符号の説明】
【0028】
1:補助具(木管楽器用演奏補助具)
2:一端側開口部
3:他端側開口部
4:本体部
5:狭窄部
6:切除部
10:マウスピース
11:リガチャー
12:リード
13:上前歯
14:下前歯
O:中心軸線