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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】妨害電波の測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20240918BHJP
   H04B 17/345 20150101ALI20240918BHJP
【FI】
G01R29/08 D
H04B17/345
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020192090
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080794
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】598119588
【氏名又は名称】株式会社コスモス・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】濱口 慶一
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-296322(JP,A)
【文献】特開平02-124475(JP,A)
【文献】特開平01-223362(JP,A)
【文献】特開平06-138158(JP,A)
【文献】特開2018-037733(JP,A)
【文献】特開2001-349915(JP,A)
【文献】特開2020-153690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 29/00-29/26、
H04B 1/60、
3/46-3/493、
17/00-17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物から放射される妨害電波をオープンサイトで測定する測定システムであって、
前記測定システムは、前記測定対象物から規格により規定された距離離れて配置された測定用アンテナと、前記測定用アンテナよりも前記測定対象物に対して近い位置に配置された近距離アンテナと、前記測定用アンテナよりも前記測定対象物に対して遠い位置に配置された遠距離アンテナと、前記測定対象物が稼動している状態で、前記各アンテナを作動させて電波を受信する作動制御部と、前記各アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される検出装置とを備え、
前記検出装置は、前記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および前記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に基づいて前記妨害電波を特定する特定部と、特定された前記妨害電波に基づいて、前記測定用アンテナが受信した電波の電波情報から前記妨害電波を分析する分析部とを有し、
前記測定システムは、前記測定対象物が稼動していない状態において、世界標準時間を基にした時刻毎に前記遠距離アンテナによって受信された電波の電波情報が蓄積されるデータベースを備えており、
前記特定部は、前記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および前記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に加えて、前記データベースに蓄積された電波情報に基づいて、前記妨害電波を特定することを特徴とする妨害電波の測定システム。
【請求項2】
前記作動制御部は、前記測定対象物が稼動している状態において、前記データベースに蓄積された各電波情報に紐付けられた時刻と同一時刻に前記各アンテナを作動させて電波を受信することを特徴とする請求項記載の妨害電波の測定システム。
【請求項3】
前記測定用アンテナが設置される前記規格により規定された距離が少なくとも3m以上の距離であり、前記近距離アンテナは、前記測定対象物から1m以内の位置に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の妨害電波の測定システム。
【請求項4】
測定対象物から放射される妨害電波をオープンサイトで測定する測定システムであって、
前記測定システムは、前記測定対象物から規格により規定された距離離れて配置された測定用アンテナと、前記測定用アンテナよりも前記測定対象物に対して近い位置に配置された近距離アンテナと、前記測定用アンテナよりも前記測定対象物に対して遠い位置に配置された遠距離アンテナと、前記測定対象物が稼動している状態で、前記各アンテナを作動させて電波を受信する作動制御部と、前記各アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される検出装置とを備え、
前記検出装置は、前記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および前記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に基づいて前記妨害電波を特定する特定部と、特定された前記妨害電波に基づいて、前記測定用アンテナが受信した電波の電波情報から前記妨害電波を分析する分析部とを有し、
前記遠距離アンテナは、前記測定対象物からそれぞれ等しい距離離れた複数のアンテナを有し、各アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報を平均化した平均電波情報が前記特定部で用いられることを特徴とする妨害電波の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害電波の測定システムおよび測定方法に関し、特に、測定対象物となる電気機器(EUT:Equipment Under Test)の妨害電波をオープンサイトで測定する測定システムおよび測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器や家庭用電気機器、工業用電気機器などの電気機器からは、不要なノイズとして電磁波(妨害電波)が放射される。この妨害電波は、他の電気機器やシステムに誤動作などの悪影響を及ぼすおそれがあるため、電気機器に対してEMC(Electromagnetic Compatibility)評価が行われている。EMC評価では、電気機器からどれぐらい妨害電波が放射されるかなどが測定される。近年、EMC評価では、高性能でないと測定規定を守れないとする風潮があり、評価の性能に関わる投資が増大しつつある。
【0003】
従来、妨害電波の測定方法として、電波暗室での測定とオープンサイトでの測定が知られている。電波暗室での測定は、電磁シールドが施された測定室を用いる方法であり、外来電波の影響を受けない環境下でEUTの妨害電波が測定される。そのため、妨害電波の検出精度に優れている。しかし、10m暗室などの電波暗室の建設には広大な敷地や、電波暗室を収納する建屋が必要になるなど多額の費用が掛かるといった問題がある。
【0004】
一方、オープンサイトでの測定では、自然空間でEUTの妨害電波を測定するため、大掛かりな設備は必要にならない。しかし、外来電波を防ぐ設備を用いない代わりに、外来電波と妨害電波とを切り分ける作業が必要になる。
【0005】
オープンサイトでの測定として、例えば、特許文献1の測定方法が知られている。図7には、特許文献1に記載されている妨害電波の測定システムの概略構成図を示す。図7に示す測定システム15は、EUT14から放射される妨害電波を測定するシステムである。測定システム15は、EUT14から所定の距離L離れて配置された測定用アンテナ11と、その測定用アンテナ11よりも遠方に配置された遠距離アンテナ12と、各アンテナ11、12がそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される検出装置13とを有する。遠距離アンテナ12は、EUT14から放射される妨害電波の影響をほとんど受けない距離Lに配置される。この測定システム15では、EUT14の電源をオンにした状態で、測定用アンテナ11および遠距離アンテナ12でそれぞれ受信した電波を測定し、検出装置13にて各測定結果を比較することでEUT14の妨害電波が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-296322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の測定システムによれば、オープンサイトにおいても妨害電波を測定することができる。しかし、外来電波は広帯域でパルス性の連続波として検出されることから、特許文献1の測定システムでも、妨害電波が外来電波に埋もれてしまい、検出が困難になることが考えられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、オープンサイトにおいても妨害電波を精度よく検出できる妨害電波の測定システムおよび測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の妨害電波の測定システムは、測定対象物から放射される妨害電波をオープンサイトで測定する測定システムであって、上記測定システムは、上記測定対象物から規格により規定された距離離れて配置された測定用アンテナと、上記測定用アンテナよりも上記測定対象物に対して近い位置に配置された近距離アンテナと、上記測定用アンテナよりも上記測定対象物に対して遠い位置に配置された遠距離アンテナと、上記測定対象物が稼動している状態で、上記各アンテナを作動させて電波を受信する作動制御部と、上記各アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される検出装置とを備え、上記検出装置は、上記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および上記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に基づいて上記妨害電波を特定する特定部と、特定された上記妨害電波に基づいて、上記測定用アンテナが受信した電波の電波情報から上記妨害電波を分析する分析部とを有することを特徴とする。
【0010】
上記測定システムは、上記測定対象物が稼動していない状態において、世界標準時間を基にした時刻毎に上記遠距離アンテナによって受信された電波の電波情報が蓄積されるデータベースを備えており、上記特定部は、上記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および上記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に加えて、上記データベースに蓄積された電波情報に基づいて、上記妨害電波を特定することを特徴とする。本明細書において、測定対象物が稼動している状態とは、その測定対象物の電源がオンになっている状態をいい、測定対象物が稼動していない状態とは、その測定対象物の電源がオフになっている状態をいう。
【0011】
上記作動制御部は、上記測定対象物が稼動している状態において、上記データベースに蓄積された各電波情報に紐付けられた時刻と同一時刻に上記各アンテナを作動させて電波を受信することを特徴とする。
【0012】
上記測定用アンテナが設置される上記規格により規定された距離が少なくとも3m以上の距離であり、上記近距離アンテナは、上記測定対象物から1m以内の位置に配置されることを特徴とする。
【0013】
上記遠距離アンテナは、上記測定対象物からそれぞれ等しい距離離れた複数のアンテナを有し、各アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報を平均化した平均電波情報が上記特定部で用いられることを特徴とする。
【0014】
本発明の妨害電波の測定方法は、測定対象物から放射される妨害電波を測定システムによってオープンサイトで測定する方法であって、上記測定システムは、上記測定対象物から規格により規定された距離離れて配置された測定用アンテナと、上記測定用アンテナよりも上記測定対象物に対して近い位置に配置された近距離アンテナと、上記測定用アンテナよりも上記測定対象物に対して遠い位置に配置された遠距離アンテナとを備え、上記測定方法は、上記測定対象物が稼動している状態で、上記各アンテナを作動させて電波を受信する測定工程と、上記近距離アンテナが受信した電波の電波情報および上記遠距離アンテナが受信した電波の電波情報に基づいて上記妨害電波を特定する特定工程と、特定された上記妨害電波に基づいて、上記測定用アンテナが受信した電波の電波情報から上記妨害電波を分析する分析工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の妨害電波の測定システムおよび測定方法は、測定対象物から規格により規定された距離離れて配置された測定用アンテナと、測定用アンテナよりも近い位置に配置された近距離アンテナと、測定用アンテナよりも遠い位置に配置された遠距離アンテナとを備えている。測定対象物から放射される妨害電波は、その測定対象物に近いほど強く、離れるほど弱くなることから、正規の測定用アンテナよりも近い位置に近距離アンテナを設けることで、測定対象物の妨害電波をある程度の強度で確実に受信することができる。また、この近距離アンテナには、妨害電波とともに外来電波も受信される。一方、遠距離アンテナには、主に外来電波が受信される。そのため、近距離アンテナと遠距離アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報を用いることで、妨害電波を確実に特定することができる。さらに、特定した妨害電波の特性(周波数や電界強度など)を把握した上で、測定用アンテナが受信した電波の電波情報から妨害電波を分析するので、妨害電波を精度よく検出できる。
【0016】
また、上記測定システムは、測定対象物が非稼働状態において、世界標準時間を基にした時刻毎に遠距離アンテナによって受信された電波の電波情報が蓄積されるデータベースを備え、特定部は、さらにデータベースに蓄積された電波情報を用いて妨害電波を特定するので、測定対象物の非稼働状態での外来電波の電波情報を加味でき、妨害電波をより精度よく検出できる。
【0017】
一般放送局から放射されるAM変調電波やFM変調電波などの外来電波は、各日において同一時刻に放射されている場合が多いと考えられる。これを考慮して、作動制御部は、データベースに蓄積された各電波情報に紐付けられた時刻と同一時刻に各アンテナを作動させて電波を受信することで、外来電波をより特定しやすく、ひいては妨害電波の検出精度の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の妨害電波の測定システムの一形態の概略構成図である。
図2図1の測定システムのブロック図である。
図3】アンテナで受信される電波の波形の一例を示す図である。
図4】各アンテナで受信される電波の周波数ごとのピーク強度を示す図である。
図5】本発明の妨害電波の測定方法の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の妨害電波の測定システムの他の形態の概略構成図である。
図7】従来の妨害電波の測定システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の妨害電波の測定システムについて、図1を用いて説明する。図1に示す測定システム10は、EUT5から放射される妨害電波をオープンサイトで測定するシステムである。一般に、自然空間には、ホワイトノイズ、一般放送局から放射されるAM変調電波やFM変調電波、軍事施設から放射されるSSB変調電波、デジタル変調電波などの様々な外来電波が飛び交っている。測定システム10は、これら外来電波に影響されずにEUT5から放射される妨害電波を識別して測定することができる。
【0020】
図1に示すように、測定システム10は、EUT5から距離L離れて配置された測定用アンテナ1と、測定用アンテナ1よりもEUT5に対して近い位置に配置された近距離アンテナ2と、測定用アンテナ1よりもEUT5に対して遠い位置に配置された遠距離アンテナ3と、各アンテナ1、2、3がそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される検出装置4とを備える。EUT5は、妨害電波の測定が行われる電気機器であり、回転自在のターンテーブル6上に載置される。ターンテーブル6は、EUT5から放射される妨害電波に方向性の有無の検出などに用いられる。なお、妨害電波に方向性がある場合には、測定用アンテナ1に対するEUT5の向きが、妨害電波が最も強くなる向きに合わせられる。
【0021】
測定用アンテナ1は、EUT5の妨害電波の測定に必要な一定の周波数帯の電波を受信可能な広帯域アンテナである。測定用アンテナ1には、例えばEMC規格などに規定されるログペリオディックアンテナなどを用いることができる。測定用アンテナ1は、EUT5から距離L離れて設置される。この距離Lは、EUT5の妨害電波の測定距離であり、EMC規格などによって規定される。一般に、距離Lは3m、10m、または30mのうち、いずれかの距離に設定される。また、測定用アンテナ1は支持機構によって上下動自在に配置される。測定用アンテナ1の高さは、例えば、受信される妨害電波の電界強度に応じて、1m~4mの間で調整される。
【0022】
近距離アンテナ2は、EUT5の妨害電波と外来電波を測定するためのアンテナであり、特に、EUT5の稼動状態の妨害電波の周波数を把握することを目的としている。近距離アンテナ2はEUT5の妨害電波を確実に検出できるように、できるだけEUT5の近傍に設置されることが好ましい。距離Lは、好ましくは1m以内の距離であり、より好ましくは0.5m以内の距離である。近距離アンテナ2が設置される位置は特に限定されないが、該システムの平面視において、EUT5と測定用アンテナ1とを結んだ線分に対して直交する位置に設置されることが好ましい。また、近距離アンテナ2の高さは、測定用アンテナ1の高さよりも低いことが好ましい。
【0023】
遠距離アンテナ3は、主に外来電波を測定するためのアンテナであり、EUT5から放射される妨害電波の影響をほとんど受けない位置に設置されることが好ましい。距離Lは、距離Lにもよるが、例えば10m以上であり、好ましくは30m以上であり、より好ましくは50m以上である。距離Lの具体的な範囲としては、例えば30m~200mである。遠距離アンテナ3が設置される位置は特に限定されないが、該システムの平面視において、EUT5と測定用アンテナ1とを結んだ線分の延長線上に設置されることが好ましい。また、遠距離アンテナ3の高さは、測定用アンテナ1の高さよりも高いことが好ましい。
【0024】
図1において、各アンテナ1~3は、一般放送局などの外来電波の発生源から同一視できる程度の距離(例えば、数km程度)離れていることが好ましい。これにより、各アンテナ1~3で受信される外来電波の電界強度は、理論上、同程度の強度とみなすことができる。なお、近距離アンテナ2や遠距離アンテナ3に使用できるアンテナは特に限定されず、ログペリオディックアンテナなどを用いることができる。
【0025】
検出装置4は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。検出装置4は、各アンテナ1~3に有線または無線で接続されており、各アンテナ1~3がそれぞれ受信した電波の電波情報が入力される。ここで、各アンテナ1~3と検出装置4との接続状態について、図2のブロック図を用いて説明する。
【0026】
図2に示すように、各アンテナ1~3には、受信器(レシーバ)と該受信器の作動を制御する制御装置がそれぞれ接続されている。近距離アンテナ2および遠距離アンテナ3には、受信器として周知のソフトウェア無線機(SDR:Software Defined Radio)が設けられている。各制御装置は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。各制御装置は、検出装置4と相互に通信可能に接続されている。
【0027】
受信器としてソフトウェア無線機を用いることで、複数の異なる無線通信方式の通信機能を無線機内部でソフトウェア的に切り替えることができる。また、高額なEMI(Electromagnetic Interference)受信機とほぼ同じ機能をソフトウェアの変更によって柔軟に対応でき、低コスト化を図ることができる。具体的には、ハードウェアとしての受信器を固定して、ソフトウェアで受信バンド幅、シグナルの切り分け用のフィルターなどの設計を行なうことで、新しい規格などにも対応することができる。
【0028】
図2において、測定システム10は、EUTが稼動していない状態において、オープンサイトで測定された電波の電波情報が蓄積されるデータベース7を備えている。データベース7には、世界標準時間(GMT:Greenwich Mean Time)を基にした時刻毎に、遠距離アンテナ3によって受信された所定の周波数帯(例えば30MHzから1000MHzまでの範囲)の電波の電波情報が随時蓄積される。世界標準時間を基にした時刻毎は、例えば、世界標準時間で統一された現在のパーソナルコンピューターのOSソフトの時計で一定の時間毎(00:00、00:10など)をいう。データベース7には、各時刻と、当該時刻に受信された電波情報が紐付けて保存される。なお、データベース7には、近距離アンテナ2によって受信された電波の電波情報も蓄積されてもよい。
【0029】
データベース7は、各制御装置や検出装置4とネットワークを介して接続される構成でもよく、各制御装置や検出装置4がデータベース7を有する構成でもよい。ネットワークとは、データの送受信可能な電子通信回線を示し、有線LAN、無線LAN、WAN、インターネットなどが該当する。なお、電波情報をサーバや記憶部に保存するとは、サーバや電子情報端末の半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶媒体内に所定形式で保存することをいう。
【0030】
EUTの非稼動状態においてオープンサイトで測定される電波は、当該EUTが稼動している状態で放射される妨害電波を含んでいないため、外来電波として特定できる。このように、外来電波の電波情報(強さ、変調の種別など)を随時蓄積していくことで外来電波のデータベースを構築できる。そして、蓄積された外来電波の電波情報を妨害電波の特定に用いることで、妨害電波の検出精度を向上できる。また、データベース7には、インターネットなどで一般公開されている外来電波の周波数や変調方式などの公開情報8が入力されてもよく、他のアンテナサイト9で受信された電波の電波情報がネットワークを介して入力されてもよい。
他のアンテナサイト9としては、例えば、オープンサイトで妨害電波が測定される他の試験場などが挙げられる。他のアンテナサイト9の場所は、特に限定されず、日本を含む世界各地に設置することができる。これにより、世界各地での妨害電波の電波情報を一元管理できる。例えば、世界各地での妨害電波の電波情報をデータベース化することにより、突発的または局地的に発生するスポラディックE層と呼ばれる電離層が発生したとしても、その電離層で反射される妨害電波の特定にも用いることができる。また、入力される電波情報は、世界標準時間を基にした時刻毎に、各アンテナサイト9のアンテナによって受信された所定の周波数帯の電波の電波情報であることが好ましい。なお、他のアンテナサイト9で受信された電波の電波情報は、検出装置4に直接入力されてもよい。
【0031】
データベース7によって、自然空間にある電波ノイズを幅広くカバーしたデータベースを構築することができる。保存される電波情報には、例えば、非公開の電波や外国の放送電波などの情報も含まれる。すなわち、データベース7によって、サーバ内にデータ暗室を作成することができる。データ暗室を用いることで、外来電波の判定を正確に行うことができ、ひいては、妨害電波の検出精度の向上に繋がる。また、最終的にはデータベース7の電波情報と測定用アンテナ1が受信した電波の電波情報を用いることで、妨害電波の検出も可能になることが期待される。なお、データベースに含まれる情報は、インターネットなどを介して一般に公開されてもよく、ユーザに提供されてもよい。
【0032】
妨害電波の測定では、EUTが稼動している状態で、各アンテナ1~3を作動させて電波を受信する。図2の構成では、各制御装置が本発明における「作動制御部」に相当する。なお、作動制御部の機能を検出装置に持たせてもよい。各アンテナ1~3の測定開始時間は世界標準時間に合わせて、同時に開始される。特に、データベース7に蓄積された各電波情報に紐付けられた時刻と同一時刻に、各アンテナ1~3を作動させて電波を受信することが好ましい。例えば、データベース7に任意の日における時刻00:00の電波情報が保存されている場合、別日(測定日)の同一時刻である時刻00:00に各アンテナ1~3で電波を受信する。各日の同日時刻には、同じ電波特性を持つ妨害電波が放射される場合が多いため、妨害電波の判定を行いやすくなる。
【0033】
各アンテナ1~3の測定範囲は同じ周波数帯(例えば30MHzから1000MHzまでの範囲)に設定され、各アンテナにおいて同時に同じ周波数の電波が測定される。この測定によって、測定用アンテナ1と近距離アンテナ2には、外来電波とEUTの妨害電波が受信される。外来電波は、遠距離アンテナ3にも、近距離アンテナ2などとほぼ同じ時間に受信される。遠距離アンテナ3には、主に外来電波が受信される。本発明では、各アンテナ1~3による測定を同時に行うことで、外来電波は同一となり、外来電波の判定を正確に行うことができる。
【0034】
図3には、アンテナで受信される電波の波形の一例を示している。図3において、横軸は周波数を表し、縦軸は周波数ごとの電界強度を表している。この測定を所定の時間毎に、または連続的に行なうことで、時間軸も含めた3次元グラフが得られる。各アンテナによる測定が終了したら検出装置4へ電波情報が転送される。
【0035】
図2に戻り、検出装置4は、記憶部4aと、特定部4bと、分析部4cとを有する。記憶部4aには、各アンテナ1~3が受信した電波の電波情報D1~D3が入力されて保存される。図2では、測定用アンテナ1が受信した電波の電波情報をD1、近距離アンテナ2が受信した電波の電波情報をD2、遠距離アンテナ3が受信した電波の電波情報をD3としている。これら電波情報には、各アンテナで受信した全ての電波に対する周波数、帯域幅、電界強度、変調種別(例えば、AM変調、FM変調、SSB変調、デジタル変調)などが含まれる。つまり、記憶部4aには各アンテナで測定範囲全体を1回または複数回走査して得られた電波情報が測定データとして保存される。なお、電波情報には、アナログデータとして一定の周波数幅の波形が含まれてもよい。
【0036】
特定部4bは、近距離アンテナ2が受信した電波の電波情報D2と遠距離アンテナ3が受信した電波の電波情報D3とデータベース7に蓄積された電波情報とに基づいてEUT5の妨害電波を特定する。具体的には、データベース7に蓄積された電波情報を参照しつつ、D2に含まれる周波数ごとの電界強度のデータと、D3に含まれる周波数ごとの電界強度のデータとの差分を求めることで、EUT5の妨害電波を特定する。この妨害電波の特定について、図4を用いて説明する。
【0037】
図4には、各アンテナで受信される電波の波形の一例を示している。なお、図4では便宜上、横軸が周波数、縦軸が周波数ごとの電界強度の2次元グラフを用いて説明する。また、電波の波形を用いて説明するが、実際には、周波数ごとの電界強度(ピーク強度)を用いて妨害電波の特定が行われる。各アンテナの測定は、測定開始時間をそろえて行われている。
【0038】
特定部では、まず、電波情報D2、D3およびデータベースの電波情報に基づいて、外来電波が判定される。近距離アンテナおよび遠距離アンテナは、EUTからの距離は大きく異なるものの、外来電波の発生源から見れば距離に大差がないことから、D2およびD3において外来電波の電界強度はほぼ等しくなる。そのため、同一の周波数位置に同程度の電界強度で存在するピークは外来電波であると判定できる。具体的には、同一の周波数において、D2のピーク強度からD3のピーク強度を差し引いた値が、所定の範囲内である場合に、そのピークは外来電波であると判定できる。さらに、差分より求めた外来電波を、データベース7に蓄積された外来電波の電波情報と照合などすることで、外来電波の判定をより正確にできる。妨害電波と同じか、良く似た電波形式の外来電波があった場合でも、データベース7の電波情報を用いることで排除電波を判定しやすくなる。そして、測定範囲内の全ての周波数に対して外来電波の判定を行い、D2から外来電波を除いた電波が妨害電波として特定される。
【0039】
例えば、図4で言えば、D2中、D3と同一の周波数位置に同程度の電界強度で存在するピーク群Q1、Q2が外来電波であると判定される。そして、D2中ピーク群Q1、Q2以外のピークであるピークPが妨害電波であると特定される。図4では、D2でのみ検出されるピークPが妨害電波であると特定される。
【0040】
なお、図4の例に限らず、外来電波のピークと妨害電波のピークが重なっている場合でも妨害電波を特定することができる。EUTから放射される妨害電波は、EUTの近くでは強く、距離が遠くなるほど弱くなることから、妨害電波が外来電波と同じ周波数で重なる場合であっても、D2では妨害電波のピーク強度が大きくなり、D3では妨害電波のピーク強度が小さいかほとんど検出されない。そのため、同一の周波数においてD2とD3のピーク強度の差分が所定の閾値以上である場合には、妨害電波が含まれているとして、妨害電波を特定できる。
【0041】
図2において、特定部4bにて妨害電波が特定された後、測定用アンテナ1が受信した電波の電波情報D1を用いて、分析部4cにより妨害電波が分析される。分析部4cでは、不要輻射である妨害電波の周波数、電界強度、変調種別などが分析される。これらを規格のように図示して、規制内かどうかを判断する。例えば、図4では、D1におけるピークPについて分析が行われる。なお、EUTから放射される妨害電波の変調種別は、主に、CPUなどの機器の動作時の負荷に一因する電圧変動でのAM変調、またはCPUの発振回路の電圧変動から影響を受けたFM変調であると考えられる。
【0042】
このように、図2に示す測定システム10によれば、近距離アンテナ2と遠距離アンテナ3で受信した電波の電波情報を用いることで、妨害電波の特定を正確に行うことができる。さらに、平常時において外来電波をSDRおよび制御装置で測定しておき、そのデータを用いることで、妨害電波とEUTからの妨害電波の判定(切り分け)をより確実に行うことができる。そして、特定した妨害電波の特性を十分に把握した上で、正規の測定用アンテナに基づく電波情報を分析することで、妨害電波と外来電波が含まれる電波の中から妨害電波の電波情報を正確に取り出すことができる。また、3種のアンテナによる測定は、同時に並行して行われるため、外来電波の強度が変動するよう場合でも外来電波の判定を正確に行うことができ、ひいては、妨害電波の測定の精度向上に繋がる。
【0043】
また、本発明の妨害電波の測定方法は、図5に示す(a)~(d)の4つの工程を少なくとも備える。すなわち、(a)EUTを設置する設置工程と、(b)各アンテナで電波を受信する測定工程と、(c)妨害電波を特定する特定工程と、(d)妨害電波を分析する分析工程とを有する。各工程について、図1を参照して説明する。
【0044】
まず、EUT5をターンテーブル6上に載置し、この状態でEUT5の電源をオンにする(工程(a))。これにより、EUT5が所定の動作を開始し、EUT5から妨害電波が放射される。そして、各アンテナ1~3を同時に稼働させ、同じ周波数帯で電波を受信する(工程(b))。測定後、近距離アンテナ2が受信した電波の電波情報と遠距離アンテナ3が受信した電波の電波情報とに基づいて、具体的にはこれらの差分から妨害電波を特定する(工程(c))。そして、特定された妨害電波に基づいて、測定用アンテナ1が受信した電波の電波情報から妨害電波を分析する(工程(d))。これにより、オープンサイトにおいても、外来電波と区別してEUT5の妨害電波を精度良く測定できる。なお、外来電波のデータベースを用いる構成では、工程(a)より前に、予め遠距離アンテナ3などによって外来電波の電波情報が取得される。
【0045】
また、本発明の測定システムは、図1の形態に限らず、例えば図6の形態を採用することができる。図6に示す測定システム10’では、遠距離アンテナの構成が図1の測定システム10と異なっている。具体的には、測定システム10’は、遠距離アンテナとして、複数の遠距離アンテナ3a、3b、3cを有している。各遠距離アンテナ3a~3cは、例えば、EUT5からそれぞれ等しい距離L離れて設置される。これら遠距離アンテナ3a~3cには、主に外来電波が受信される。そして、これら遠距離アンテナ3a~3cがそれぞれ受信した電波の電波情報を平均化した平均電波情報を用いて、妨害電波を特定することで、妨害電波の特定をより正確に行なうことができる。
【0046】
また、遠距離アンテナの数を、本測定システムを使用するユーザの数のアンテナ数とすることができる。この場合、遠距離アンテナの数は極めて大きな数になる。そのような構成では、一部の遠距離アンテナを妨害電波の測定に使用して、一部または全部の遠距離アンテナをデータベース用の外来電波の測定に使用することができる。これにより、妨害電波のより正確な測定に役立つと考えられる。
【0047】
また、図1の形態または図6の形態に対して、近距離アンテナを更に追加してもよい。例えば、近距離アンテナとして、EUT5からそれぞれ等しい距離L離れた第1近距離アンテナと第2近距離アンテナとが設けられる。第1近距離アンテナと第2近距離アンテナは、EUT5を間に挟んで対向するように設置されることが好ましい。これら近距離アンテナには、EUT5の妨害電波と外来電波が受信される。この場合も、第1近距離アンテナと第2近距離アンテナがそれぞれ受信した電波の電波情報を平均化した平均電波情報を用いて、妨害電波を特定することが好ましい。
【0048】
また、本発明の測定システムにおいて、検出装置などから特別な信号を出してEUTの電源をオン、オフできる治具を設けることができる。これは、現在、EUTから妨害電波が放射されているのか否かを明確に切り分ける測定作業に重要な役割を有することになる。また、将来、AI技術を生かしたSDR制御ソフトの開発および経験として蓄えられた種々のデータを生かしたEMC評価時にも大きな役割を果たすと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の測定システムは、オープンサイトにおいても妨害電波を精度よく検出できるので、電波暗室のような設備が必要とならず、EMC評価における妨害電波の測定に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 測定用アンテナ
2 近距離アンテナ
3、3a、3b、3c 遠距離アンテナ
4 検出装置
4a 記憶部
4b 特定部
4c 分析部
5 EUT
6 ターンテーブル
7 データベース
8 公開情報
9 他のアンテナサイト
10、10’ 測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7