(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】金属酸化物薄膜の製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20240918BHJP
C23C 16/48 20060101ALI20240918BHJP
C23C 16/452 20060101ALI20240918BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240918BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240918BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20240918BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/48
C23C16/452
H01L21/316 X
H01L21/31 C
B01J19/08 H
B01J19/12 C
(21)【出願番号】P 2021002350
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一樹
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124576(JP,A)
【文献】特開2013-175720(JP,A)
【文献】特開2001-220287(JP,A)
【文献】特開2020-178020(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093389(WO,A1)
【文献】特開2003-347042(JP,A)
【文献】特開2007-027723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
21/31-21/32
21/365
21/469-21/475
21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象を0℃より高く、150℃以下に保持し、前記成膜対象の成膜面上に、有機金属ガスを導入して、成膜面上に有機金属ガス分子を吸着させる第1の工程と、有機金属ガス分子が吸着した成膜面上にプラズマ励起加湿アルゴンを導入して、吸着した有機金属ガス分子を酸化、分解して金属酸化物とすると共にその表面にハイドロキシル基を形成する第2の工程と、その後、前記第1の工程及び前記第2の工程を繰り返すことにより、金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜の製造方法において、
前記第2の工程でプラズマ励起加湿アルゴンを導入する際に、前記成膜対象に波長が300~400nmの紫外線を照射する
ことを特徴とする金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
最初の前記第1の工程の前に、前記成膜対象の成膜面上に、プラズマ励起加湿アルゴンを導入して、前記成膜面にハイドロキシル基を形成する予備工程を実施する
ことを特徴とする請求項1記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項3】
各工程の間には、導入したガスを排気するか不活性ガスを導入する工程を実施する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
成膜対象を保持する機構を備えた反応容器と、
前記反応容器内に有機金属ガスを導入する原料ガス導入装置と、
前記反応容器にプラズマ励起加湿アルゴンを導入するプラズマ励起加湿アルゴン導入装置と、
前記反応容器内に保持された前記成膜対象に波長が300~400nmの紫外線を照射する紫外線照射装置と、
これらの装置を制御する制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記成膜対象の成膜面上に、有機金属ガスを導入して、成膜面上に有機金属ガス分子を吸着させる第1の工程と、有機金属ガス分子が吸着した成膜面上にプラズマ励起加湿アルゴンを導入すると共に前記成膜対象に前記紫外線照射装置を介して紫外線を照射して、吸着した有機金属ガス分子を酸化、分解して金属酸化物とすると共にその表面にハイドロキシル基を形成する第2の工程と、その後、前記第1の工程及び前記第2の工程を繰り返すように制御する
ことを特徴とする金属酸化物薄膜の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜対象に緻密な金属酸化物薄膜を低温で形成することができる金属酸化物薄膜の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL、フレキシブルエレクトロニクスにおいて、電子回路はより柔軟なフレキシブルフィルム上に形成される。
フレキシブルフィルムとしては、樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などの透明な樹脂が用いられる。そして、例えば、電子部品をフレキシブルフィルムに貼り付け、印刷法を活用して結線し、自由に貼り付け可能なセンサーや無線タグが製造される。また、フレキシブルフィルムの表面に太陽電池の材料となるアモルファスシリコンや有機半導体膜を形成し、電極をつけて曲面に柔軟に取り付けることができる太陽電池を製造することも可能である。
このようなフレキシブルな素材を用いた電子部品においては、酸素や水などの透過を抑えて表面の電子回路への侵入を抑える薄膜を形成する必要がある。それは、表面の半導体や電線の酸化による電気性能の劣化を抑えるためである。
【0003】
水分の透過率を表す指標として、水蒸気透過率WVTR(Water Vapor Transmission Rate)があり、通常未処理のPETフィルムやPENフィルムでは、10~100g・m-2day-1程度のWVTRであるが、電子回路の用途によっては、たとえば太陽電池や有機電子回路では10-3~10-4g・m-2day-1程度のWVTRが必要とされる。また有機エレクトロルミネッセンスの用途であれば10-6g・m-2day-1程度まで、WVTRを抑える必要がある。
【0004】
このような水蒸気透過率の抑制を行うには、樹脂フィルムに酸化アルミニウムや酸化シリコン、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物薄膜を形成する必要がある。これら酸化物薄膜は樹脂フィルムと比べ、原子密度が高く、水蒸気透過の抑制効果がある。これら酸化物膜を形成するには、低温で成膜が行われる原子層堆積法が用いられる。
特許文献1には、反応容器内に固体基板を設置し、固体基板の温度を、0℃より高く、150℃以下、好ましくは100℃以下に保持し、反応容器内にトリメチルアミノシラン、ビスジメチルアミノシラン、メチルエチルアミノハフニウムなどの有機金属ガスを充満させる工程と、それを排気するか反応容器内を窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムなどの不活性ガスで充満させる工程と、活性度が高められた酸化ガス、たとえばプラズマ化された水蒸気や酸素を導入する工程と、それを排気するか反応容器内を窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムなどの不活性ガスで充満させる工程とからなり、一連の工程を繰り返すことを特徴とする薄膜堆積方法が開示されている。
【0005】
また、水蒸気透過抑制に効果がある酸化アルミニウムの室温原子層堆積法については、非特許文献1において報告されている。非特許文献1には、この方法により、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム、酸化ガスとしてプラズマで励起された加湿アルゴンガスを用い、室温域で酸化アルミニウムの膜形成が可能であることが報告されている。
さらに、非特許文献2においては、酸化アルミニウムを用いた水蒸気透過抑制事例が示されており、100μmのPENフィルムに酸化アルミニウムが75nm積層された事例が掲載されており、そこでは水蒸気透過率WVTRとして2.6×10-3g・m-2day-1が報告されている。
【0006】
しかしながら、上述した室温原子層堆積法には、以下の課題があった。
まず、成膜プロセスに時間がかかるので、成膜プロセスの高速化が望まれていた。例えば、Al2O3の1サイクルの成膜量は0.15nm/cycle、トリス-ジメチル-シラン(TDMAS)を用いたSiO2では0.08nm/cycleであり、1サイクルに1~2分程度を要し、1サイクルの成長量が非常に小さく、サイクル数を多数行う必要があり、成膜量の向上を図りたいという課題である。
また、製膜される金属酸化物薄膜は親水性の材料であり、反応生成物の水分子が表面に吸着することで、膜の緻密性が高くなく、結果として、水蒸気透過率が比較的高いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】電子情報通信学会論文誌 VOL.J98-C No.1 P.1~P.7
【文献】応用物理 第86巻 9号,pp.796-800,2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、室温原子層堆積法において、金属酸化物薄膜の成膜量の向上と膜の緻密性を向上させた金属酸化物薄膜の製造方法および金属酸化物薄膜の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、成膜対象を0℃より高く、150℃以下に保持し、前記成膜対象の成膜面上に、有機金属ガスを導入して、成膜面上に有機金属ガス分子を吸着させる第1の工程と、有機金属ガス分子が吸着した成膜面上にプラズマ励起加湿アルゴンを導入して、吸着した有機金属ガス分子を酸化、分解して金属酸化物とすると共にその表面にハイドロキシル基を形成する第2の工程と、その後、前記第1の工程及び第2の工程を繰り返すことにより、金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜の製造方法において、前記第2の工程でプラズマ励起加湿アルゴンを導入する際に、前記成膜対象に波長が300~400nm、より好ましくは350~400nmの紫外線を照射することを特徴とする金属酸化物薄膜の製造方法にある。
本発明の第2の態様は、最初の前記第1の工程の前に、前記成膜対象の成膜面上に、プラズマ励起加湿アルゴンを導入して、前記成膜面にハイドロキシル基を形成する予備工程を実施することを特徴とする第1の態様の金属酸化物薄膜の製造方法にある。
本発明の第3の態様は、各工程の間には、導入したガスを排気するか不活性ガスを導入する工程を実施することを特徴とする第1又は第2の態様の金属酸化物薄膜の製造方法にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、成膜対象を保持する機構を備えた反応容器と、前記反応容器内に有機金属ガスを導入する原料ガス導入装置と、前記反応容器にプラズマ励起加湿アルゴンを導入するプラズマ励起加湿アルゴン導入装置と、前記反応容器内に保持された前記成膜対象に波長が300~400nm、より好ましくは350~400nmの紫外線を照射する紫外線照射装置と、これらの装置を制御する制御装置とを具備し、前記制御装置は、前記成膜対象の成膜面上に、有機金属ガスを導入して、成膜面上に有機金属ガス分子を吸着させる第1の工程と、有機金属ガス分子が吸着した成膜面上にプラズマ励起加湿アルゴンを導入すると共に前記成膜対象に前記紫外線照射装置を介して紫外線を照射して、吸着した有機金属ガス分子を酸化、分解して金属酸化物とすると共にその表面にハイドロキシル基を形成する第2の工程と、その後、前記第1の工程及び前記第2の工程を繰り返すように制御することを特徴とする金属酸化物薄膜の製造装置にある。
【0012】
室温原子層堆積法において、1サイクルあたりの成膜量は、有機金属ガスを充満させる過程で成膜対象の表面に吸着する有機金属ガス分子の密度によって決まる。この分子の吸着密度を高めるために、成膜対象の表面においては水などの不純物分子吸着がない清浄な表面とすることが重要である。また、その上で成膜対象の表面に分子吸着点となるハイドロキシル基を高密度で形成する必要がある。
【0013】
また、1サイクルの成長を増加させるためには、このハイドロキシル基表面に吸着している水分子を極力減らさなければならない。この水分子は、ハイドロキシル基が形成された表面に対して水素結合をなし、高い確率で付着する。金属酸化物膜の原料となる有機金属ガスが、成膜対象の表面に付着して、OHラジカルで酸化されるときに、反応生成物で水分子が発生し、それが表面に吸着されることが考えられる。また、反応容器の内面にも吸着水として水が吸着しており、それが脱離して成膜対象の表面に吸着し、有機金属ガス分子の吸着を妨げ、1サイクルの成膜量が抑えられている可能性もある。また、水の吸着があると、その後、膜を成長させる際に、膜の中に水が含有し、膜の緻密度が低下してしまう可能性もある。
【0014】
これを解決するために、本発明では、室温原子層堆積のプロセスの、プラズマ励起加湿アルゴンを導入する工程において、成膜対象の表面に、波長が300~400nmの紫外線、さらに望ましくは350~400nmの光を照射することにより、成膜対象の表面に吸着する水を光励起刺激脱離させる。上記の波長が望ましいのは、これより波長が短くなると、試料基板が樹脂などのフィルムの場合、化学的な変質をもたらす可能性があるからである。代表的なフィルムのポリエチレン、ポリプロピレンでは、紫外光の吸収が240nm以下の波長の光で起こり、このほかポリスチレンでは310nm以下、ポリエチレンテレフタレートでの350nm以下で起こり、そのときに紫外光吸収により分子の酸化や断裂がおこり、素材の劣化につながる可能性がある。具体的には、上記樹脂を成型品とする際に導入された微量の触媒金属、ヒドロペルオキシドやカルボニル基などが光化学反応を起こし、樹脂の高分子の劣化を促進することが知られている。一方、これより波長が長くなると、光の光子エネルギーが小さくなり、光刺激脱離の効果が弱まると考えられる。 上記波長の紫外光を照射する際に、GaNを主成分とする発光ダイオード(LED)を用いることが望ましい。GaNのLEDは、波長にして380nmの紫外線を発する。従前、紫外線を照射するには低圧水銀ランプや重水素ランプが用いられてきたが、この場合上記の波長の短い紫外線が、樹脂フィルムの劣化をもたらす可能性があるが、GaNLEDでは波長は380nmに限定され、上記副害を抑えることが可能である。また従前の紫外線ランプでは、光のビーム方向が等方であり、反応容器にランプを格納して室温原子層堆積を行った場合、成膜対象としない反応容器の壁面に紫外線があたり、そこでの加速成膜による壁面の汚れの助長などの問題がある。LEDでは光をビーム状にすることが容易であり、目的としない部分での照射を防止することが可能である。さらに、GaNのLEDは従前の紫外線ランプに対して、コストを抑えるメリットがある。
【0015】
紫外線の照射は、次の理由により、プラズマ励起加湿アルゴンガスを導入する工程のときに限定している。この工程に限定することなく実施しても、光励起刺激脱離の効果は得られるが、原料ガスである有機金属ガスの導入時に紫外線を照射すると、気相で有機金属ガス分子の分解反応や、光励起刺激脱離によって生じる水分子と有機金属ガスとの直接反応がおき、パーティクルの発生につながる可能性があり、膜の緻密度を低下させてしまい、水蒸気透過率が上昇する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属酸化物薄膜を低温で、例えば、室温で、高い成膜速度で緻密な膜を成膜することができ、成膜された金属酸化物薄膜の水蒸気透過率を低減させることができるという効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、室温原子層堆積法において、金属酸化物薄膜、特に、酸化アルミニウムの1サイクルあたりの成長量が増大し、また成膜された金属酸化物薄膜の原子緻密度を増進し、金属酸化物薄膜の水蒸気透過率の抑制が可能になる。これによりフレキシブル電子回路の水蒸気透過による劣化を抑制することが可能になり、同電子回路の耐久性の向上に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例に係る金属酸化物薄膜の製造装置の概略的な説明図である。
【
図2】本発明の一実施例の紫外線照射装置の概略構成を示す説明図である。
【
図3】本発明に係る装置で成膜された金属酸化物薄膜の緻密性を説明する説明図である。
【
図4】実施例3及び比較例3に係る水蒸気透過バリア膜のガスバリア性を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には、一実施例に係る金属酸化物薄膜の製造装置の概略的な説明図を示す。
図1に示すように、金属酸化物薄膜の製造装置1は、反応容器10と、原料ガス導入装置20と、プラズマ励起加湿アルゴン導入装置30と、排気装置40と、紫外線照射装置50と、制御装置60とを具備する。
原料ガス導入装置20は、原料ガスタンク21と、原料ガスタンク21と反応容器10とを連結する導入配管22と、導入配管22の途中に設けられた流量制御器である可変バルブ23とを有する。
プラズマ励起加湿アルゴン導入装置30は、アルゴンタンク31と、アルゴンタンク31からのアルゴンを加湿する水バブラー32と、流量制御器33と、水バブラー32からの加湿アルゴンガスが流量制御器33を介して導入されてプラズマ励起加湿アルゴンガスとして反応容器10に導入するプラズマガス発生装置34とを具備し、これらが配管35を介して反応容器10に接続されている。
【0019】
ここで、水バブラー32は、槽32aの内部に水32bを湛え、水32b内にアルゴンガスを導入して水をくぐらせることで、アルゴンガスを加湿させるものである。プラズマガス発生装置34は、ガラス管34aと、ガラス管34aの周囲に設けられた誘導コイル34bと、誘導コイル34bに接続された整合回路34cとを具備し、整合回路34cを介して誘導コイル34bに、例えば、13.56MHzの高周波電流を印加することにより、ガラス管34aの内部の領域にプラズマを生成するものである。排気装置40は、反応容器10内を排気するためのものであり、例えば、排気ポンプである。
紫外線照射装置50は、350~400nmの紫外線を照射する紫外線LED51を備える。紫外線LED51は、具体的には、波長365nmの紫外線を照射するGaN製の紫外線LEDであることが望ましい。また詳しくは後述するが、紫外線LED51は、基板Sと対向する領域に、基板Sと平行な面状に等間隔で配置された複数個のLEDを備えている。このような紫外線照射装置50で紫外線を照射することで大面積へ均一な照射が可能になる。
【0020】
このような製造装置1を用いて金属酸化物膜を堆積するには、反応容器10に、成膜対象となるフィルムなどの基板Sを挿入し、排気装置40を介して反応容器10内を真空に排気し、原料ガス導入装置20から原料ガスとなる有機金属ガスを導入する工程と、プラズマ励起加湿アルゴン導入装置30からプラズマ励起加湿アルゴンガスを導入する工程とを交互に繰り返す。
ここで、反応容器10内の成膜対象である基板Sは、特に加熱などをすることなく、室温で保持すればよいが、0℃以上の温度とする必要がある。上限は、基板Sの耐熱性によるが、150℃以下、好ましくは、100℃以下、より好ましくは、70℃以下とすればよい。
【0021】
原料ガスとしては、成膜する金属酸化物薄膜の前駆体となる有機金属ガスを用いる。
本発明で用いることができる有機金属ガスは、金属に直接炭素が結合した化合物、酸素を介して炭素が結合した化合物、窒素を介して炭素が結合した化合物など、ガス化する各種有機金属化合物を用いることができ、従来の原子層堆積法で用いることができる化合物は全て適用可能である。有機金属ガスとしては、例えば、トリメチルアミノシラン、ビスジメチルアミノシランなどの有機シリコン化合物;メチルエチルアミノハフニウムなどの有機ハフニウム化合物;トリメチルアミドジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物、トリメチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;チタンイソポプロポオキシド、チタンジメチルエチルアミノチタンなどの有機チタン化合物;トリメチルガリウムなどの有機ガリウム化合物;有機ストロンチウム;有機亜鉛化合物;有機銅化合物;有機オスミウム化合物;有機白金化合物;有機タンタル化合物;有機ニオブ化合物;有機スズ化合物;有機ランタン化合物;有機イットリウム化合物;有機セリウム化合物;有機バナジウム化合物;有機インジウム化合物;有機モリブデン化合物などを挙げることができる。
酸化アルミニウム(Al2O3)を形成するためには、例えば、トリメチルアルミニウムが使われ、酸化珪素(SiO2)を形成するのであれば、例えば、トリジメチルアミノシランが好適に用いられる。
【0022】
具体的な工程は、以下のとおりである。
(1)原料ガス導入装置20により、反応容器10内に原料ガスを導入する第1の工程と、
(2)プラズマ励起加湿アルゴン導入装置30により、反応容器10内にプラズマ励起加湿アルゴンガスを導入すると共に紫外線照射装置50により、反応容器10内の基板Sに紫外線を照射する第2の工程と、
を実行し、(1)~(2)の工程を繰り返すことで、基板Sの上に金属酸化物薄膜を形成することができる。
各工程の間には、導入したガスを真空排気するか不活性ガスを導入する工程を実施することが望ましい。
【0023】
この方法では、原料ガスを導入すると、基板Sの表面のハイドロキシル基に原料ガスが吸着し、次に、プラズマ励起加湿アルゴンを導入すると、基板Sの表面に吸着した原料ガス分子が酸化され、非常に薄い金属酸化物薄膜が形成され、表面にハイドロキシル基が生成される。また、このとき、プラズマ励起加湿アルゴンを導入すると同時に300~400nmの紫外線を照射することで、原料ガスが酸化される際に生成して金属酸化物薄膜の表面に吸着している水を光励起刺激脱離させることができる。
このような光励起刺激脱離を有効に起こさせるためには、波長が300から400nmの範囲の紫外線を照射するのが好ましい。これより波長が短くなると、基板Sが樹脂などのフィルムの場合、化学的な変質をもたらす可能性がある。また、これより波長が長くなると、光の光子エネルギーが小さくなり、光励起刺激脱離の効果が弱まることになる。
【0024】
図1の金属酸化物薄膜の製造装置1は、制御装置60により自動運転される。すなわち、制御装置60は、原料ガス導入装置20の可変バルブ23と、プラズマ励起加湿アルゴン導入装置30の流量制御器33および整合回路34cと、排気装置40と、紫外線照射装置50の制御部52とを総合的に制御するものであり、上述した各工程を所定サイクル数だけ繰り返すように制御する。
【0025】
ここで、成膜前の基板Sの表面にはハイドロキシル基が十分に存在しない可能性があるので、最初の第1の工程(上記(1)の工程)の前に、成膜対象である基板Sの成膜面上に、プラズマ励起加湿アルゴンを導入して、基板Sの成膜面にハイドロキシル基を形成する予備工程を実施することが好ましい。なお、この際、原料ガスの酸化反応はないので、紫外線照射装置50から紫外線を照射する必要は無いが、紫外線を照射しても不都合はない。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
図1の製造装置1を用いて実施した。
本実施例では、基板SとしてSiの(100)面基板を用い、この基板S上に、酸化アルミニウムの室温原子層堆積を試みた。ここでは、20Lの反応容器10に、大きさが10×20mm
2のサイズの基板Sを4枚配置して、実験を行った。
室温原子層堆積は、有機金属ガスであるトリメチルアルミニウムを反応容器10内に平均圧力0.3Paで50秒間、6sccmで導入し、その後、60秒間排気し、さらに120秒間、プラズマ励起加湿アルゴンを10sccmで導入し、同時に紫外線照射を行った。その後、60秒間排気を行った。このときの基板温度は25℃である。この一連工程を100サイクル繰り返した。また、プラズマ励起加湿アルゴンであるが、誘導コイルを用いて13.56MHzで200Wのエネルギーで放電させて、生成した。加湿アルゴンは、水バブラー32により乾燥アルゴンを60℃の水に通して生成した。
【0027】
UV照射用の紫外線照射装置50の紫外線LED51は、
図2に示すように、波長380nmで300mW出力のLED51aを4個、100×100mmのガラス板51b上に70mmの間隔で配置して構成し、各LED51aは制御部52により制御される。LED51aとしては、Intelligent LED Solutions社製のN3535を用いた。4枚の基板Sはこのガラス板51bから平行に対向させて距離55mmの位置に配置した。LED51aの点灯時の電流は220mAで、このとき、試料である基板S上でのUV光の照射エネルギー強度は1.56~1.58mW/cm
2であった。
【0028】
反応容器10中に、試料である4枚の基板Sを格納して、真空排気を行ったところ、反応容器10内の圧力は2×10-3Paの真空度であったが、紫外線LED51により基板SにUV光を照射したところ、180秒で真空度は8×10-3Paまで増加し、その圧力上昇は水分圧の上昇によるものであり、UV照射によって、基板S上に自然に吸着していた水分子が光励起刺激脱離によって脱離したことを示すものと考えられる。
100サイクルの室温原子層堆積(ALD)処理の後、4枚の基板Sに酸化アルミニウムの膜が形成され、その膜厚は平均で25.95nmであり、1サイクルあたりの酸化アルミニウムの成長膜厚は、0.26nm/cycleであった。
【0029】
(比較例1)
比較例として、紫外線LED51によるUV照射を行わない以外は実施例1と同様に室温ALD処理を行ったところ、平均16.46nmの膜厚の酸化アルミニウム膜が成膜された。このときの1サイクルあたりの酸化アルミニウムの成長膜厚は、0.16nm/cycleであった。
【0030】
(試験結果1)
実施例1と比較例1の成膜量を比較すると、紫外線LED51によるUV照射を室温ALD処理に付加することで、1.63倍の1サイクルあたりの成膜量の増加があることがわかった。つまり、実施例1の成膜量が比較例1の1.63倍であることがわかった。
また、実施例1および比較例1で成膜した酸化アルミニウムについては、膜の屈折率を測定したところ、実施例1では、波長633nmの光に対して1.53であるのに対し、比較例1では、波長633nmの光に対して1.48であった。
よって、酸化アルミニウムについては、紫外線LED51によるUV照射を室温ALD処理に付加することで、つまりUV照射がある場合、膜の屈折率が波長633nmの光に対して1.48から1.53に増加することがわかった。これは膜の誘電率が増加したことを表し、膜の誘電率は分子密度に相関するため、膜の緻密度がUV照射により増加したと考えられる。
【0031】
(実施例2)
本実施例では、Siの(100)面基板である基板S上に、酸化チタンの室温原子層堆積を行った。ここでは、20Lの反応容器10に、大きさが10×20mm2のサイズの基板Sを4枚配置して、成膜を行った。
室温原子層堆積は、有機金属ガスであるテトラキスジメチルアミノチタンを反応容器10内に圧力0.7Paで200秒間導入し、その後180秒間排気し、さらに120秒間、プラズマで励起された加湿アルゴンを10sccmで導入し、同時に紫外線照射を行った。その後、60秒間排気を行った。このときの基板温度は25℃である。この一連工程を100サイクル繰り返した。プラズマ励起加湿アルゴンは、誘導コイル34bを用いて13.56MHzで200Wのエネルギーで放電させて、生成した。加湿アルゴンは、水バブラー32により、乾燥アルゴンを60℃の水に通して生成した。
UV照射用の紫外線照射装置および照射は、実施例1と同様である。
100サイクルの室温ALD処理の後、4枚の基板Sに酸化チタンの膜が形成され、その膜厚の平均は12.79nmであり、1サイクルあたりの酸化チタンの成長膜厚は、0.13nm/cycleであった。
【0032】
(比較例2)
比較例として、UV照射を行わない以外は実施例2と同様に実施し、室温ALDを60サイクル行ったところ、膜厚の平均は5.51nmであり、そのときの1サイクルあたりの酸化チタンの成長膜厚は、0.09nm/cycleであった。
【0033】
(試験結果2)
実施例2と比較例2の成膜量を比較すると、UV照射を室温ALD処理に付加することで、1.44倍の1サイクルあたりの成膜量の増加があることがわかった。つまり、実施例2の成膜量が比較例2の1.44倍であることがわかった。
また、実施例2および比較例2で成膜した酸化チタンについては、膜の屈折率を測定したところ、実施例2では、波長633nmの光に対して1.95であるのに対し、比較例2では、波長633nmの光に対して1.78であった。
よって、酸化チタンについては、UV照射がある場合、膜の屈折率が波長633nmの光に対して1.78から1.95に増加することがわかった。これは膜の誘電率が増加したことを表し、膜の誘電率は分子密度に相関するため、膜の緻密度がUV光によって増加したと考えられる。
【0034】
(実施例3)
実施例1と同じ製造条件で、100μm厚のPENフィルムの両表面上に酸化アルミニウム膜と酸化亜鉛膜とを交互に二層ずつ積層させて、水蒸気透過バリア膜を形成した。その構造図は
図3に示す通りである。すなわち、PENフィルムからなる基板Sの両面に、酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜S11と、酸化亜鉛(ZnO)膜S12とを交互に二層ずつ積層させて、水蒸気透過バリア膜を形成した。
この実施例では、酸化アルミニウム膜S11の成膜サイクル数を一層あたり150サイクルとし、酸化亜鉛膜S12のサイクル数を一層あたり200サイクルとした。このときの成膜対象の基板Sの温度は25℃とした。酸化亜鉛膜S12は、次の表1の条件での室温原子層堆積により成膜した。原料ガスはジメチル亜鉛(DMZ)である。
この成膜においても、プラズマ励起加湿アルゴンの酸化の工程(第2の工程)だけ波長が360nmのUV光を照射した。照射時の表面エネルギー、すなわち基板S上でのUV光の照射エネルギー強度は1.56~1.58mW/cm
2であった。
【0035】
【0036】
(比較例3)
UV照射を行わない以外は、実施例3と同様に実施した。
【0037】
(試験結果3)
実施例3と比較例3とのそれぞれについて基板Sに形成された水蒸気透過バリア膜のガスバリア性を測定した。その結果を
図4に示す。
ガスバリア性は水蒸気透過率であるWVTRで計測される。UV光を照射した実施例3では、WVTRが、UV光を照射していない比較例3の6.6×10
-3g/m
2/dayから3.0×10
-3g/m
2/dayまで半減することがわかった。これはUV光を照射することで、酸化アルミ膜S11の膜厚が増加したこと、さらに酸化アルミ膜S11および酸化亜鉛膜S12の緻密度が向上したことが反映したものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
有機エレクトロニクスなどを用いた柔軟な電子回路の製造過程で用いられ、フレキシブルな基板上に形成される電子回路の水分透過による劣化防止のためのコーティング技術に利用される。
【符号の説明】
【0039】
1…製造装置
10…反応容器
20…原料ガス導入装置
30…プラズマ励起加湿アルゴン導入装置
40…排気装置
50…紫外線照射装置
60…制御装置